(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】車両用吸音パネル材
(51)【国際特許分類】
B29C 45/14 20060101AFI20231013BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20231013BHJP
B29C 33/12 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
B29C45/14
B29C45/26
B29C33/12
(21)【出願番号】P 2022110123
(22)【出願日】2022-07-08
(62)【分割の表示】P 2018158926の分割
【原出願日】2018-08-28
【審査請求日】2022-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】手島 孝哉
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-006620(JP,A)
【文献】特開2009-154428(JP,A)
【文献】特開平08-118413(JP,A)
【文献】特開平09-314598(JP,A)
【文献】特開昭61-134212(JP,A)
【文献】特開2008-024173(JP,A)
【文献】特開平08-323804(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C
B29D
B60R
G10K 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通孔を開設した多孔質シートが多孔質構造を維持して賦形された吸音パネル部と、
該吸音パネル部と一体成形され、前記吸音パネル部の周囲を囲む枠部と該枠部の内側において該枠部に繋がる桟とを含む合成樹脂製成形部と、を具備し、
前記通孔は、前記合成樹脂
製成形部により塞がれている車両用吸音パネル材。
【請求項2】
前記合成樹脂
製成形部により塞がれた通孔の周囲における前記吸音パネル部には、溝が形成されている請求項1記載の車両用吸音パネル材。
【請求項3】
前記桟は格子状に形成され、前記通孔
の位置が前記桟の交差部に対応している請求項1又は2に記載の車両用吸音パネル材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸音効果がある車両用吸音パネル材及びその製造方法に関し、インストルメントパネルのアンダーカバーやエンジンアンダーカバー等に好適な車両用吸音パネル材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両にはエンジンのアンダーカバーやインストルメントパネルのアンダーカバー等のパネル材があり、これに吸音材が装着されるものが存在する。吸音材の装着によって、吸音性を付与させることが可能であり、改良発明もいくつか提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、特許文献1の発明は、走行する車両の振動によって吸音材同士が接触し摩耗する問題を解消すべく第一保護部材と第二保護部材とを接触させる発明であり、依然として、アンダーカバー等のパネル材に別部材の吸音材を追加する発明であった。アンダーカバーと吸音材という二つの別部品を寄せ集めた吸音材付きパネル材の発明にとどまっていた。 さらに、従来品は、
図13(イ)に示すインストルメントパネルに係るアンダーカバーの吸音材付きパネル材9で説明すれば、該パネル材91の裏面91bに吸音材92が止具929によって取付けられている。車室内に入り込もうとする車外側騒音に対して吸音できるが、隙間から車室内へ漏れ込んできた音は吸音できなかった。車室内へ漏れ込んできた音は跳ね返って、
図13(ロ)に示す車室側のパネル材表面91aに当たるが、パネル材表面91aは合成樹脂製等の板体からなる表面であり、吸音できない問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するもので、別部材からなる吸音材の装着をなしにして、パネル材そのものに吸音機能を付与して軽量化,低コスト化を実現し、さらに車外からの騒音だけでなく車室内へ入り込んだ騒音も吸音可能にした車両用吸音パネル材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく、第1の発明の要旨は、一方の型に所望大きさのシートをセットするキャビティ面にピンが突設し、他方の型との型締めで、該シートが配置されるキャビティ部分を囲む合成樹脂製枠部のキャビティ部分と共にその骨組み用桟のキャビティ部分が形成され、且つ前記ピンの位置が前記枠部又は前記桟に係るキャビティ部分の領域に配され、さらに他方の型に前記ピンを被う凹所が設けられた一対の型からなる金型を備えた射出成形機を用い、前記シートを多孔質シートにして、該多孔質シートを前記ピンに差し込ませてセットし、次に、型締めして、多孔質構造を保った吸音パネル部へと賦形し、且つこれを保形し一体化する前記枠部及び前記桟の成形と一緒に、前記凹所により形成されたキャビティ部分にて、前記ピンが抜けた抜け穴を有する有底筒状のボス部の成形をすることを特徴とする車両用吸音パネル材の製造方法にある。第2の発明たる車両用吸音パネル材の製造方法は、第1の発明で、一方の型で、前記シートをセットするキャビティ面に、複数の前記ピンが離間して突設し、且つ該ピンの各位置が前記枠部又は前記桟に係るキャビティ部分の領域に配され、さらに他方の型に前記各ピンを被う凹所が設けられたことを特徴とする。第3の発明たる車両用吸音パネル材の製造方法は、第1又は第2発明で、多孔質シートが不織布であることを特徴とする。第4の発明たる車両用吸音パネル材の製造方法は、第1~3の発明で、枠部の骨組み用桟が格子状に形成され、且つ前記型締めで、複数設けられた前記各ピンの位置が格子状に形成された桟と桟との交差部位に係るキャビティ部分の領域に配されたことを特徴とする。第5の発明たる車両用吸音パネル材の製造方法は、第1~4の発明で、多孔質シートが低融点素材と高融点素材とが混ざり合った不織布からなり、該多孔質シートを加熱後、前記ピンに差し込ませて一方の型にセットすることを特徴とする。第6の発明たる車両用吸音パネル材の製造方法は、第1~5の発明で、ピンを差し込む前記多孔質シートの地点に、該ピンの根元の断面径よりも孔径が小さい通孔を設けて、該通孔に前記ピンを挿入して前記多孔質シートをセットすることを特徴とする。第7の発明の要旨は、複数の通孔を開設した多孔質シートが多孔質構造を維持して賦形され、該通孔が通孔該当部となって立体化されている吸音パネル部と、該吸音パネル部の周囲を囲むと共に骨組みして、該吸音パネル部を保形しこれと一体成形されている枠部と桟とを備える合成樹脂製成形部と、該合成樹脂製成形部の一部分であって、前記吸音パネル部の裏面へ一体化した前記枠部又は前記桟のうち、前記通孔該当部が在る領域で、この通孔該当部に穴口を合わせて、前記抜け穴を有する有底筒状に設けられたボス部と、を具備することを特徴とする車両用吸音パネル材にある。
【0007】
第1の発明のごとく、型締めして、多孔質構造を保った吸音パネル部へと賦形し、且つこれを保形し一体化する前記枠部及び前記桟を成形すると、吸音パネル部に必要な吸音性能をもたせて、その場合に不足する剛性を、枠部及び桟に担わせることができる。ピンを用いると、製品にピン跡として残ってしまう孔の不具合が発生するが、凹所により有底筒状のボス部を成形するので、成形段階で閉じることができる。ピン跡孔を塞ぐ後工程を要しない。 第2の発明のごとく、複数の前記ピンが離間して突設すると、多孔質シートの通孔に各ピンを挿入することにより、キャビティ面上での多孔質シートの二次元的動きを止めることができるので、多孔質シートを型に難なく位置決めセットできる。また、予め吸音パネル部の大きさにカットすると、脱型後の立体化した製品からの吸音パネル部のトリミングカットをなしにできる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の車両用吸音パネル材及びその製造方法は、本体の吸音パネル部を多孔質構造にして吸音性能を保持させ、これに伴う吸音パネル部に必要な剛性,機械的強度を枠部,桟に補完させることによって、別体の吸音材の取付けを要しなくなり、軽量化,低コスト化を実現する。また、吸音パネル部の表面側も多孔質構造が現れるので、車外からの騒音だけでなく車室内に入り込んだ騒音も吸音可能になる。さらに有底筒状のボス部の成形で、ピンが差し込まれる孔を塞ぐので、後加工をなしにして所望の吸音性能を確保できるなど優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の吸音パネル材及びその製造方法の一形態で、裏面側から見た吸音パネル材の斜視図である。
【
図2】
図1の吸音パネル材を表面側から見た斜視図である。
【
図3】
図1,
図2の吸音パネル材を成形する射出成形機の要部断面図である。
【
図4】
図3の金型を型開状態にした説明断面図である。
【
図5】
図4の固定型に多孔質シートをセットした説明断面図である。
【
図6】
図1のVI-VI線断面図に相当する型閉じ断面図である。
【
図7】
図1のVII-VII線断面図に相当する型閉じ断面図である。
【
図8】
図7の型閉じ後に射出成形用の合成樹脂原料を注入し、射出成形を終えた説明断面図である。
【
図10】(イ)が通孔周りの平面図、(ロ)が射出成形時における(イ)の通孔周りの説明断面図で、(ハ),(ニ)が(イ),(ロ)に代わる別態様図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る車両用吸音パネル材(以下、単に「吸音パネル材」ともいう。)及びその製造方法について詳述する。
図1~
図12は本発明の吸音パネル材及びその製造方法の一形態で、
図1は吸音パネル材の裏面側斜視図、
図2は吸音パネル材の表面側斜視図、
図3は
図1の吸音パネル材を成形する射出成形機の断面図、
図4は金型を型開状態にした説明断面図、
図5は固定型に多孔質シートをセットした断面図、
図6,
図7は型閉じした断面図、
図8は型閉じ後に合成樹脂原料を注入し、射出成形を終えた断面図、
図9は
図8のピン周りの拡大図、
図10は(イ)が通孔周りの平面図、(ロ)が射出成形時における(イ)の通孔周りの断面図で、(ハ),(ニ)が別態様図である。
図11,
図12は
図1~
図10に代わる他態様図を示す。尚、各図は判り易くするため、簡略化し且つ発明要部を強調図示する。
【0011】
(1)車両用吸音パネル材の製造方法 車両用吸音パネル材6は、多孔質シート5を立体賦形した吸音パネル部8を合成樹脂製成形部7からなる枠部75と桟77とで保形している自動車等の車両用製品である。 本実施形態の吸音パネル材6は、
図1,
図2に示すインストルメントパネルのアンダーカバーに適用する。その製造方法は、
図3のような金型2を有する射出成形機1を用いる。予め加熱した多孔質シート5を一方の型(本実施形態では固定型)3にセットした後、型締めして、この多孔質シート5を吸音パネル部8に賦形し、且つ該吸音パネル部8を保形し一体化する枠部75及び桟77を射出成形して吸音パネル材6を造る。
【0012】
吸音パネル材の製造方法に先立ち、吸音パネル材用金型2を備えた射出成形機1を準備する(
図3)。 射出成形機1の金型2には、吸音パネル部8として必要な大きさ(所望大きさ)のシートをセットする固定型3のキャビティ面33に、先端に向け先細りのピン31が突設する。他方の型(本実施形態では可動型)4との型締めで、吸音パネル材6のキャビティCができ、シートが配置されるキャビティ部分C3を取り囲む合成樹脂製枠部75のキャビティ部分C5と共にその骨組み用桟77のキャビティ部分C7が形成される。キャビティ部分C7は、その両端でキャビティ部分C5に導通する。シートが配置されるキャビティ部分C3の可動型側キャビティ面に対し、骨組み用帯板状の桟77のキャビティ部分C7が帯幅方向を起立させた溝状に堀り込まれるが、該溝状ラインはキャビティ部分C3の可動型側キャビティ面上で格子状に交差するように形成される。シートが配置されるキャビティ部分C3は、型にセット前のシート厚みよりも小さく且つ立体化しており、吸音パネル部8の空洞形状になる。 本実施形態は、ピン31の位置が枠部75又は桟77に係るキャビティ部分C5,C7の領域に配され、且つ可動型4に、ピン31を被う
図3のような逆カップ状の凹所41が設けられた金型2とする。前記シートをセットするキャビティ面33に、シートを固定型3に位置決めセット可能なように、複数のピン31が互いに離間して突設する。ピン31の各位置が枠部75又は桟77に係るキャビティ部分C5,C7の領域に配され、さらに可動型4に各ピン31を被う凹所41が設けられる。
図3中、符号11は金型2に接続する射出成形機1のノズル、符号21はゲート、符号22はランナ、符号23はスプルーを示す。 本発明には前記シートとして多孔質シート5が用いられる。
【0013】
多孔質シート5は、不織布や発泡体等の吸音用多孔質構造を有するシート状体である。多孔質シート5の「シート」には板状のものも含む。本発明に係る多孔質シート5は、当初厚みt1からそのキャビティ部分C3の隙間幅εへと圧縮変化しても、吸音用多孔質構造を保つようにする(
図3,
図4)。多孔質シート5には例えば低融点素材と高融点素材とが混ざり合った二成分複合型の不織布が用いられる。一本一本の繊維が高融点素材の芯と低融点素材の鞘との鞘芯構造の不織布があり、本実施形態はこれを採用する。該不織布からなる多孔質シート5を加熱し鞘部を軟化させた後、金型2にセットし、型締めすれば、該加熱温度の鞘部で熱接着し、芯部で所定形状に賦形できる。
【0014】
吸音パネル材6は、前
記射出成形機1及び多孔質シート5を用いて、例えば次のように製造される。 まず、金型2の型開状態下(
図4)、多孔質シート5を所定温度に加熱して軟らかくし、これをピン31に差し込ませて、固定型3に在る多孔質シート5の表面側キャビティ面33にセットする(
図5)。 多孔質シート5は、予め吸音パネル部8に対応する大きさにカットする。固定型3のキャビティ面33への多孔質シート5のセットで、各ピン31にあたるシート地点の多孔質シート5には通孔50が前もって設けられている。該通孔50にピン31を挿入して、多孔質シート5を固定型3にセットする。ここでは二つ(複数)のピン31が離間し、且つそれらの位置が桟77のキャビティ部分C7であって且つ格子状に形成された桟77の交差部位77CRに係るキャビティ部分の領域に各ピン31が配される。多孔質シート5の通孔50に各ピン31を挿入して固定型3に当接させると、該多孔質シート5が自律的に位置決め保持され、固定型3に位置決めセットされる。
【0015】
次いで、型締めして、前記多孔質シート5を吸音パネル部8に賦形すると共に、これを保形し一体化する枠部75及び桟77の成形と一緒に、凹所41により形成されたキャビティ部分C1にて、ピン31が抜けた抜け穴731を有する有底筒状のボス部73の成形をする(
図6~
図8)。 型締めに伴って、ピン31以外の領域では
図6のごとく、可動型4に係る多孔質シートの裏面側キャビティ面43が、固定型3に係る多孔質シートの表面側キャビティ面33との間に多孔質シート5を挟んでこれを圧縮する。当初厚みt1の多孔質シート5が吸音用の多孔質構造を残しながら厚み方向に圧縮され、全体が略厚みt2に変化して立体化した吸音パネル部8へと賦形される。ここでの多孔質シート5は、目付が700g/m
2~1,600g/m
2の範囲の不織布とする。芯鞘構造繊維の不織布として、その芯の部分にPETを採用すると、へたり感が少なく、吸音パネル部8の保形維持に優れる。平板状の不織布は、加熱により鞘の部分が熱融着性を有して、全体が厚みt2へと変化しつつ、芯の部分がキャビティC3の立体形状に変形し、吸音用多孔質構造を保った吸音パネル部8へと賦形される。高融点PETの芯に、さらに低融点PETの鞘を配した芯鞘構造の繊維を用いた不織布を用いると、一層へたり感の少ない吸音パネル部8になりより好ましく、本実施形態もこれを採用する。
【0016】
本発明は、吸音機能を有する多孔質シート5を用い、該多孔質シートを圧縮させて、例えば
図2のような斜面87を挟んで上段面88と下段面89を有する立体形状に賦形するだけでなく、吸音機能を依然と保持させたままの吸音パネル部8にする。しかるに、厚みt1から厚みt2に圧縮して強度アップさせた吸音パネル部8にしても(
図4~
図7)、吸音用多孔質構造を維持した立体形状では、頑強とは言い難い。へたり感が少ない三次元網目構造のPET不織布を用いても、吸音パネル材6に要求される剛性,機械的強度が不足する。
【0017】
斯かる強度不足を解消すべく、本製法は、吸音パネル部8に賦形するのに併せて、型締め状態下で、射出成形機1のノズル11からランナ22,ゲート21を通ってキャビティCへ合成樹脂原料g(以下、単に「樹脂原料」ともいう。)を注入し、該吸音パネル部8を保形する枠部75及び桟77を、吸音パネル部8と一体成形する(
図8)。 キャビティCに樹脂原料gを注入し合成樹脂製成形部7を形成するが、吸音パネル部8を囲むキャビティ部分C5で枠部75を成形し、また吸音パネル部8の裏面8b上を縦横に走るキャビティC7で桟77を成形する。吸音パネル部8に足りない剛性,機械的強度を、合成樹脂成形部7の枠部75,桟77が担う。樹脂原料gにはポリプロピレン樹脂等の原料が用いられる。
【0018】
吸音パネル部8の周囲を囲んで補強一体化する枠部75と共に、枠部75内に配され、両端が枠部に連結する桟77が吸音パネル部8に結合一体化して補強する。吸音パネル部8の外周を囲む枠部75は、
図8で、吸音パネル部8に対し起立する枠部本体75aから断面L字形に内鍔部分75bが吸音パネル部8側へ張り出すが、この内鍔部分75bの成形過程で樹脂原料gが吸音パネル部8へ含浸,硬化して両者が結合する。また吸音パネル部裏面8bに対し、帯板状にして帯幅方向を起立させて当接する桟77は、その成形過程で、桟77の付け根から樹脂原料gが吸音パネル部8へ含浸,硬化して両者が結合する。吸音パネル部8に接する枠部75,桟77の部位は、このように成形時に、樹脂原料gが多孔質構造の吸音パネル部8内へ入り込んで硬化し、枠部75,桟77と吸音パネル部8とが強固に一体化する。 枠部75に係る表面751,外側面752,裏面側厚み面753,裏面側内面754をキャビティ面351,352,453,454が形成する。横桟77A,縦桟77Bはキャビティ面47A,47Bが形成する。尚、骨組み用の桟77は、簡略化して
図1のような格子状に図示するが、実際の桟77はもっと格子の数を増やして、吸音パネル部8に必要な強度を補完し頑強にしている。
【0019】
また、枠部75,桟77への樹脂原料gの注入と同時進行して、桟用キャビティC7を通り、凹所41により形成されたキャビティ部分C1へ樹脂原料gが流れて、ボス部73を形成する。ボス部73は、ピン31が抜けることでできる抜け穴731を有する有底筒状のボス部73となっている。ボス部73を設けるのは、製品化された時に、ピン31によって必然的に作られる通孔該当部80からの騒音漏れを防ぐためである。
【0020】
本実施形態で、吸音パネル材6を見栄え良く成形するために、多孔質シート5に設ける前記通孔50は、その孔径をピン31の根元の断面径よりも小さく設定する。多孔質シート5に係る通孔50の周縁全てをピン31の根元に密着できる。
図10(イ),(ロ)のごとく、ピン31の根元の断面径Dよりも通孔50の孔径dが小さい。
図10(ハ)のようにピン31の根元断面径Dよりも通孔50の孔径dが大きいと、ピン31と通孔形成縁51との間に隙間ができてしまう。凹所41への樹脂原料gの注入で、樹脂原料gが吸音パネル部8の表面側へ、
図10(ニ)の矢印のごとく染み出し、硬化部分BRが出来易くなるが、これを抑制できる。見栄えの問題だけでなく、吸音パネル部8の吸音性能低下も発生しない。
【0021】
また、型締め後のキャビティCへの樹脂原料gの注入で、枠部75及びボス部73のキャビティ部分C5,C1から吸音パネル部8の本体へ、樹脂原料gが不必要に浸透するのを防ぐ食い込み用突起45f,41fを設ける。可動型4のキャビティ面には、型締め下、枠部用キャビティ部分C5とボス部用キャビティ部分C1に係る可動型4のキャビティ面で、吸音パネル部8と接する各周縁に沿ってそれらの外側に、吸音パネル部8側へ向けて堤状に突出する突起45f,41fがそれぞれ設けられる(
図3)。型締めで、突起45f,41fが、その周りのキャビティ面よりも吸音パネル部8側へ突出する分だけ吸音パネル部8に食い込み、多孔質構造の吸音パネル部8の部分を一段と圧縮し高密度にして、樹脂原料gの浸透を困難にする(
図7)。突起を越えて吸音パネル部8の本体範囲に、吸音性能を低下させる樹脂原料gの染み出しを防止する。尚、
図10では突起41fの図示を省く。また図示を省略するが、桟のキャビティ部分C7の外側近傍からも、樹脂原料gが不必要に吸音パネル部8の本体へ浸透するのを防ぐ食い込み用突起が設けられる。
【0022】
かくして、吸音パネル部8となる多孔質シート5をインサート品にして、これを保形する枠部75及び桟77を有する合成樹脂成形部7が一体成形される。一体成形後に脱型すれば、吸音パネル部8の周囲を枠部75が囲むと共に桟77が骨組みして、該吸音パネル部8を保形する所望の吸音パネル材6を得る(
図1,
図2)。 符号79は相手部材への取付け部で、枠部75等と一緒に成形される。
図8の符号75e,73eは食い込み用突起45f,41fが残したシール跡を示す(
図1では図示せず。)。突起45f,41fは、固定型3ではなく可動型4に設けることで、シール跡75e,73eを表面8a(意匠面)側に残さず良好になる。
【0023】
図11,
図12は、
図1,
図2に代わる他態様の吸音パネル材6を示す。本実施形態は、型締めで、格子状に形成された縦桟77Bと横桟77Aとの交差部位77CRに係るキャビティ部分の領域に、各ピン31を配したが、ピン31の一つを枠部用キャビティ部分C5の領域に配し、且つそのピン31を囲う凹所41を可動型4に設けている。型締め下で、凹所41に樹脂原料gを注入し、
図11のように枠部75に筒壁が結合して成形された変形ボス部73も、本発明でいう有底筒状のボス部とみなす。
図3~
図9にしたがって述べた本製法と同様の製法で、
図11,
図12に示す所望の吸音パネル材6が得られる。
【0024】
(2)車両用吸音パネル材
図3~
図9の上記製造方法等で得られる車両用吸音パネル材6(ここでは「インストルメントパネルのアンダーカバー」)は、吸音パネル部8と、枠部75と桟77とを備えた合成樹脂製成形部7と、該合成樹脂成形部7の一部分であって、有底筒状に設けられたボス部73と、を具備する(
図1,
図2)。 吸音パネル部8は、二つ(複数)の通孔50を開設した多孔質シート5が多孔質構造を維持して賦形され、該通孔50が通孔該当部80となって立体化されたシート状パネル体である。多孔質シート5を予め吸音パネル部8の大きさにカットして、既述製法等によって造られる。本実施形態は、多孔質シート5を不織布とし、多孔質構造を保って、該不織布の当初厚みt1よりも小の厚みt2にして、
図1,
図2ごとくの立体形状に賦形された吸音パネル部8とする。吸音パネル部8への形状に変化するので、多孔質シート5に設けた通孔50を通孔該当部80とする。
【0025】
合成樹脂成形部7は、吸音パネル部8を囲むと共に骨組みして、該吸音パネル部8を保形しこれと一体成形されている枠部75と共に桟77とを備える合成樹脂製の成形加工部である。枠部75が吸音パネル部8の周囲を取囲んで一体となり、また桟77が枠部75内を横桟77Aと縦桟77Bがクロスして骨組みし、その付け根部分で吸音パネル部8に結合一体化している。合成樹脂成形部7を構成する枠部75と桟77は、射出成形時に、吸音パネル部8との接触面から該吸音パネル部8側へ樹脂原料gの一部が浸入して硬化することで、吸音パネル部8と結合する。既述の製法を用いれば、型締めして、多孔質シート5が賦形されて吸音パネル部8になっても、多孔質構造を残しているので、型締め後のキャビティCへの樹脂原料gの注入時に、その多孔質構造隙間に樹脂原料gが含浸し、枠部75,桟77と吸音パネル部8とを強力結合でき、該吸音パネル部8の剛性,必要強度を枠部75と桟77で補完する。
【0026】
ボス部73は、合成樹脂製成形部7の一部分であって、吸音パネル部8の裏面8bへ一体化した枠部75又は桟77のうち、通孔該当部80が在る領域で、この通孔該当部80に穴口730を合わせて、抜け穴731を有した有底筒状の突起状厚肉部である。ボス部73は前記通孔該当部80の貫通孔を塞ぐ役目を果たす。通孔該当部80の貫通孔を塞ぐので、騒音が該貫通孔を通ってしまうのを阻止し、本発明の吸音パネル材6としての吸音機能をいかんなく発揮できる。
図1,
図2は二つ(複数)のボス部73が桟77と桟77との交差部位77CRに形成されているが、
図11,
図12のように枠部75に設けたボス部73であってもよい。 他の構成は、(1)車両用吸音パネル材の製造方法で述べた構成と同様で、その説明を省く。
【0027】
(3)効果 このように構成した車両用吸音パネル材及びその製造方法は、パネル本体部に当たる吸音パネル部8に多孔質構造を残して吸音性を保つので、特許文献1等のごとくパネル材91に別部材の吸音材92を取付ける必要がなく、低コスト化が図れる。また別体の吸音材92及びその取付具、さらに特許文献1における吸音材92の摩耗回避用保護部材等も要しないので、軽量化が図れる。 加えて、吸音パネル部8は車
室側の表面8a(意匠面)にも吸音多孔質構造が現れるので、特許文献1等の従来品と違い、車外から車室内へ入り込んだ騒音が反射して該吸音パネル表面8aに当たった際にも吸音できる優れものになっている。
【0028】
本製法のように、金型2に多孔質シート5をセットし、次に、型締めして、多孔質構造を保って厚みt2のある吸音パネル部8へと賦形し、且つこれを保形し一体化する枠部75及び桟77を成形すると、枠部75,桟77で吸音パネル部8の剛性,機械的強度を補完できる。吸音パネル部8は、枠部75,桟77の助けがあるので、多孔質シート5を強力に圧縮して吸音パネル材6に本来必要な強度をもたせることまで要しない。吸音パネル部8の周囲を囲んで補強一体化する枠部75と共に、枠部75内に配される桟77が吸音パネル部8に結合一体化して、吸音パネル材6の剛性,強度不足を補完する。よって、吸音パネル部8は、自身に必要な剛性,機械的強度の厳しい制限を受けることなく、多孔質シート5から形を整え、必要とする吸音用多孔質構造を保って、目指そうとする吸音性能を存分に発揮させる吸音パネル部8、すなわち吸音パネル材6にできる。 そして、
図3のような射出成形機1を用い、多孔質シート5を加熱後、これを金型2にセットし、続いて、型締めしてからキャビティCへ樹脂原料gを注入し、吸音パネル部8をインサート成形する形で、枠部75,桟77等の合成樹脂成形部7を成形するので、吸音パネル材6の製造時間を短縮できる。
【0029】
また、一方の型3に多孔質シート5をセットするキャビティ面33に複数のピン31が離間して突設し、該多孔質シート5を各ピン31に差し込ませてセットすると、金型2への多孔質シート5の位置決めセットが自動的に可能になる。吸音パネル部8の大きさに、予め多孔質シート5をカットしておけば、これを加熱して
図6のように型締めして、バリのない所望の吸音パネル部8に保形し、枠部75,桟77が一体化した吸音パネル材6を成形できる。吸音パネル部8に関し、トリミングカット等の後加工をなしにできる。生産性向上に貢献する。
【0030】
さらに、ピン31の位置が枠部75又は桟77に係るキャビティ部分C5,C7の領域に配され、さらに他方の型4にピン31を被う凹所41を設けて、枠部75,桟77の成形と一緒に、凹所41により形成されたキャビティ部分C1で、ピン31が抜けた抜け穴731を有するボス部73が成形されると、吸音パネル部8にピン31を設けたことによってできる通孔該当部80の貫通孔をボス部73で塞ぐことができる。吸音パネル部用多孔質シート5の位置決めセットにピン31を用いても、ピン31がつくる通孔該当部80で吸音効果を低下させることがない。また通孔該当部80の貫通孔を後加工で塞ぐ手間も不要になる。ボス部73は、枠部75,桟77等と同時に、吸音パネル部8と一体成形できるので、追加作業工程も発生させない。 さらにいえば、枠部75の骨組み用桟77が格子状に形成され、型締めで、他方の型4にピン31を被う凹所41が設けられ、且つ該ピンの位置が格子状に形成された桟7の交差部位77CRに係るキャビティ部分の領域に配されると、型締め後のキャビティCへの樹脂原料g注入で、桟77のキャビティ部分C7を通って、凹所41へ樹脂原料gを楽に注入できる。凹所41を樹脂原料gで充満し、ピン31を被った有底筒状のボス部73を成形するので、通孔該当部80を塞ぐだけでなく、交差部位77CRでのボス部73による補強が可能になる。
【0031】
加えて、多孔質シート5が低融点素材と高融点素材とが混ざり合った不織布からなると、該不織布を加熱した後、型締めし、高融点の繊維素材で吸音パネル部8の形に変えて、その形を低融点繊維素材の接着性で簡単に保形維持できる。芯鞘構造繊維の不織布が用いられると、鞘部分を低融点繊維にして熱融着を担わせて、多孔質構造の吸音パネル部8へと円滑に賦形加工できる。
【0032】
尚、本発明は前記実施形態に示すものに限られず、目的,用途に応じて本発明の範囲で種々変更できる。射出成形機1,金型2,多孔質シート5,ボス部73,枠部75,桟77,吸音パネル部8等の形状,大きさ,個数,材質等は用途に合わせて適宜選択できる。また、本実施形態では、多孔質シート5を加熱してから金型2で賦形をしたが、多孔質シート5の賦形に問題がなければ、加熱を省いてもよい。さらに、本実施形態では、一方の型3を固定型、他方の型4を可動型としたが、一方の型3は可動型、他方の型4が固定型であってもよい。本実施形態の吸音パネル材6は、インストルメントパネルのアンダーカバーとしたが、エンジンアンダーカバー等にも勿論適用できる。
【符号の説明】
【0033】
1 射出成形機 3 一方の型(固定型) 31 ピン 4 他方の型(可動型) 41 凹所 5 多孔質シート 50 通孔 6 車両用吸音パネル材(吸音パネル材) 7 合成樹脂成形部 73 ボス部 730 穴口 731 ピンの抜け穴 75 枠部 77 桟 8 吸音パネル部 C キャビティ C1 凹所により形成されたキャビティ部分 C3 多孔質シートのキャビティ部分 C5 枠部のキャビティ部分 C7 桟のキャビティ部分