(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】回転機械のシール構造及び回転機械
(51)【国際特許分類】
F16J 15/3204 20160101AFI20231013BHJP
F16C 19/16 20060101ALI20231013BHJP
F16C 33/64 20060101ALI20231013BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
F16J15/3204 201
F16C19/16
F16C33/64
F16C33/78 E
(21)【出願番号】P 2018005063
(22)【出願日】2018-01-16
【審査請求日】2020-12-23
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2017009689
(32)【優先日】2017-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100164688
【氏名又は名称】金川 良樹
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 隆秀
(72)【発明者】
【氏名】牧添 義昭
【合議体】
【審判長】小川 恭司
【審判官】吉田 昌弘
【審判官】尾崎 和寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-48895(JP,A)
【文献】実開昭57-73463(JP,U)
【文献】特開2003-49853(JP,A)
【文献】特開2016-148386(JP,A)
【文献】特開2015-72033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J15/32
F16C33/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースと、前記ケースに対して相対回転可能に前記ケース内に配置される軸部材と、を備える回転機械において、前記ケースと前記軸部材との間に位置する潤滑油収容空間から潤滑油の漏れを防止するためのシール構造であって、
前記ケースと前記軸部材との間に形成される隙間をシールするシール部材を備え、
前記ケース及び前記軸部材のうちの一方に接続し、前記ケース及び前記軸部材の間に位置するシール形成部が設けられ、
前記シール部材は、前記ケース及び前記軸部材のうちの他方に設けられ、前記シール形成部よりも軸方向において前記潤滑油収容空間から離間する外側に配置され、
前記シール部材が、前記シール形成部に前記軸方向の前記外側から対面する環状の支持部と、前記支持部に接続し且つ前記シール形成部との間でシールを形成するリップと、前記ケース及び前記軸部材のうちの前記一方の側の前記支持部の端部から径方向に延びて前記ケース及び前記軸部材のうちの前記一方に接触する第2リップと、を有し、
前記リップは、前記支持部に接続される、前記軸方向における前記外側の端部から、前記軸方向において前記シール形成部に向けて延びるに従い、前記ケース及び前記軸部材のうちの前記他方に向けて延びるように、前記軸方向及び前記径方向に対して傾斜し、且つ、前記リップは、前記シール部材が前記ケースに設けられる場合に前記軸方向における前記外側とは反対側の端部から前記軸方向における前記外側の端部に向けて先細りの筒状であるか又は前記シール部材が前記軸部材に設けられる場合に前記軸方向における前記外側の端部からその反対側の端部に向けて先細りの筒状であり、
前記第2リップは、前記支持部の前記端部から、前記径方向に対して前記軸方向の前記外側に傾くように延びる、回転機械のシール構造。
【請求項2】
前記リップは、前記ケース及び前記軸部材のうちの前記一方の側の前記支持部の前記端部に接続している、請求項1に記載の回転機械のシール構造。
【請求項3】
前記径方向における前記リップの外側の端から内側の端を通る直線であって前記軸方向に延びる前記軸部材の中心軸線と交差する直線と、前記中心軸線とがなす鋭角のほうの角度が、44.5度以上45.5度以下である、請求項1又は2に記載の回転機械のシール構造。
【請求項4】
前記シール部材は、前記ケースに設けられる場合に前記ケースの内周面に嵌め込まれるか又は前記軸部材に設けられる場合に前記軸部材の外周面に嵌め込まれる筒状部を有し、
前記支持部は、前記筒状部の前記軸方向における前記外側の端部に接続し、
前記筒状部の軸方向寸法は、前記支持部の径方向寸法よりも小さい、請求項1乃至3のいずれかに記載の回転機械のシール構造。
【請求項5】
前記リップは、自身の弾性変形によって前記シール形成部と前記シールを形成するガータースプリングレス構造を有する、請求項1乃至4のいずれかに記載の回転機械のシール構造。
【請求項6】
前記シール形成部は、前記ケース及び前記軸部材のうちの前記一方と別体である、請求項1乃至5のいずれかに記載の回転機械のシール構造。
【請求項7】
前記シール形成部は、前記ケース及び前記軸部材のうちの前記一方と一体である、請求項1乃至5のいずれかに記載の回転機械のシール構造。
【請求項8】
前記シール形成部は、前記ケース及び前記軸部材の間に設けられ、前記シール部材が前記軸部材に設けられる場合に前記ケースの内周面に嵌め込まれて接続し前記ケースの内周面から径方向に張り出すか、又は、前記シール部材が前記ケースに設けられる場合に前記軸部材の外周面に嵌め込まれて接続し前記軸部材の外周面から径方向に張り出す軸受のアウターレース又はインナーレースである、請求項1乃至5のいずれかに記載の回転機械のシール構造。
【請求項9】
前記シール形成部は、前記軸部材に設けられ、前記シール部材は、前記ケースに設けられる、請求項1乃至8のいずれかに記載の回転機械のシール構造。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の回転機械のシール構造を有する、回転機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケースと、ケースに対して相対回転可能にケース内に配置される軸部材とを備える回転機械のシール構造、当該シール構造を有する回転機械、及び当該シール構造に用いられるシール部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ケースとケース内に配置される軸部材とを備える減速機等の回転機械では、例えば内部の潤滑油の漏れを防止する目的で、ケースと軸部材との間の隙間をシール部材によってシールする場合がある。このようなケースと軸部材との間に構成されるシール構造は、一般に、環状のシール部材に設けられたリップをケース又は軸部材に接触させることにより、ケースと軸部材との間の隙間をシールする。この種のシール構造の分野においては、種々の技術が従来から数多く提案されており、例えば特許文献1~4には、リップ形状等に関連する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-138654号公報
【文献】特開2002-228009号公報
【文献】特開2004-239377号公報
【文献】特許第4953848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のようなシール構造では、適切なシール性を確保しつつ、シール部材の小型化、簡素化、及び組立性の向上を実現することが望まれる。また、シール部材によってケースと軸部材との間の摩擦抵抗が増加して回転機械の機械効率が低下するため、適切なシール性を確保しつつも機械効率の低下を抑制することが可能であれば有用である。
【0005】
本発明は、上記実情を考慮してなされたものであって、適切なシール性を確保しつつ、シール部材の小型化、簡素化、及び組立性の向上を実現できるとともに、回転機械の機械効率の向上も図ることができる回転機械のシール構造、回転機械及びシール部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ケースと、前記ケースに対して相対回転可能に前記ケース内に配置される軸部材と、を備える回転機械において、前記ケースと前記軸部材との間に位置する潤滑油収容空間からの潤滑油の漏れを防止するためのシール構造であって、前記ケースと前記軸部材との間に形成される隙間をシールするシール部材を備え、前記ケース及び前記軸部材のうちの一方に接続し、前記ケース及び前記軸部材の間に位置するシール形成部(延出部)が設けられ、前記シール部材は、前記ケース及び前記軸部材のうちの他方に設けられ、前記シール形成部よりも前記軸方向において前記潤滑油収容空間から離間する外側に配置され、前記シール部材が、前記シール形成部に前記軸方向の前記外側から対面する環状の支持部と、前記支持部に接続し且つ前記シール形成部との間で前記シールを形成するリップ(メインリップ)と、を有する、回転機械のシール構造、である。
【0007】
本発明に係る回転機械のシール構造では、リップがシール形成部(延出部)の軸方向の外側に位置する環状の支持部からシール形成部側に向けて延びてシール形成部に軸方向で(直接的または間接的に)接触し、これによりシールがなされることで、支持部が及ぼすリップの径方向における寸法自由度の制約が緩和されるため、リップの径方向における寸法を大きく確保し易くなる。これによりリップのみを大型化することで、リップをシール形成部に強く押し付けなくても強固なシール性を確保することが可能となり、シール部材全体の小型化及び簡素化が可能となる。また強固なシール性を確保しつつもリップのシール形成部に対する押し付け力を抑制できることで、摩擦抵抗の抑制による回転機械の機械効率の向上を図れる。またシール部材は、軸方向でシール形成部の外側に位置するように設けられるため、組み付け時のシール部材とシール形成部等との不所望な干渉を避け易くなり、シール部材に損傷が生じることを抑制することも可能となる。したがって、適切なシール性を確保しつつ、シール部材の小型化、簡素化、及び組立性の向上を実現できるとともに、回転機械の機械効率の向上も図ることができる。
【0008】
また本発明のシール構造において、前記リップは、前記軸方向及び径方向に対して傾斜し、前記軸方向における前記外側で、前記径方向における前記ケース及び前記軸部材のうちの前記一方の側に位置し、且つ、前記軸方向における前記外側とは反対側で、前記径方向における前記ケース及び前記軸部材のうちの前記他方の側に位置していてもよい。
【0009】
この場合、シール形成部側からシール部材側へ潤滑油等の流体が流れた場合に、リップがシール形成部に押し付けられ、リップのシール形成部に対する密着性が高まる。これにより、シールが必要なタイミングにおいて効果的にシール性を高めることができる。
【0010】
また本発明のシール構造において、前記リップは、前記ケース及び前記軸部材のうちの前記一方の側となる前記支持部の端部に接続していてもよい。
【0011】
この場合、リップの径方向の寸法を大きく確保し易くなり、且つシール形成部の径方向における寸法を抑制しつつ、リップとシール形成部とを接触させることが可能となる。これにより、シール部材の小型化及び簡素化をより図り易くなるとともに、シール形成部の小型化及び簡素化も図れるようになる。
【0012】
また本発明のシール構造においては、前記リップが前記軸方向となす角度が、44.5度以上45.5度以下であってもよい。
【0013】
この場合、リップが概ね軸方向に対して45度で傾斜する。これにより、リップをシール形成部に接触させた際に、リップが軸方向に過剰に変形することが抑制され、且つシール形成部側からシール部材側へ潤滑油等の流体が流れた場合に適度にリップがシール形成部に密着される。そのため、摩擦抵抗を効果的に抑制しつつ、良好なシール性を確保することができるようになる。
【0014】
また本発明のシール構造において、前記シール部材は、前記ケースの内周面又は前記軸部材の外周面に嵌め込まれる筒状部を有し、前記支持部は、前記筒状部の前記軸方向における前記外側の端部に接続し、前記筒状部の軸方向寸法は、前記支持部の径方向寸法よりも小さくてもよい。
【0015】
上述のように、本発明のシール構造では、リップの大型化による強固なシール性の確保によって、シール部材全体の小型化及び簡素化が可能となるが、具体的には、リップの大型化により強固なシール性を確保する一方で、上記の構成のように、リップのシール性の確保のために過剰に大きくする必要の無い筒状部の軸方向における寸法(軸方向寸法)を、支持部の径方向(径方向寸法)における寸法よりも小さくすることで、適切なシール性を確保しつつ、シール部材の軸方向における寸法を抑制することができる。
【0016】
また本発明のシール構造において、前記リップは、自身の弾性変形によって前記シール形成部と前記シールを形成するガータースプリングレス構造を有していてもよい。
【0017】
上述と同様に、本発明のシール構造では、リップの大型化による強固なシール性の確保によって、シール部材全体の小型化及び簡素化が可能となるが、具体的には、リップの大型化により強固なシール性を確保する一方で、上記の構成のように、一般的なシール部材で用いられるリップ押し付け用のワイヤ(ガータースプリング)を利用しないことで、適切なシール性を確保しつつ、シール部材を極めて簡素にすることができる。また本構成では、摩擦抵抗を大幅に抑制可能となることで、回転機械の機械効率を大きく向上させることもできる。
【0018】
また本発明のシール構造において、前記シール形成部は、前記ケース及び前記軸部材のうちの前記一方と別体であってもよい。
【0019】
この場合、シール構造を簡素に構成できる。
【0020】
また本発明のシール構造において、前記シール形成部は、前記ケース及び前記軸部材のうちの前記一方と一体であってもよい。
【0021】
この場合、部品点数の増加を抑制できる。
【0022】
また本発明のシール構造において、前記シール形成部は、前記ケース及び前記軸部材の間に設けられ、前記ケースの内周面又は前記軸部材の外周面から前記径方向に張り出した軸受のアウターレース又はインナーレースであってもよい。
【0023】
この場合、軸受がシール形成部を兼用することで、部品点数の増加を抑制できる。しかも、一般に軸受のアウターレース又はインナーレースは、表面が滑らかに仕上げられているため、リップとアウターレース又はインナーレースとが接触した際の高いシール性を、加工コストを抑制して得ることができる。
【0024】
また本発明のシール構造において、前記シール形成部は、前記軸部材に設けられ、前記シール部材は、前記ケースに設けられていてもよい。
【0025】
また、本発明は、前記の回転機械のシール構造を有する、回転機械、である。
【0026】
また、本発明は、ケースと、前記ケースに対して相対回転可能に前記ケース内に配置される軸部材と、を備える回転機械に設けられ、前記ケースと前記軸部材との間に形成される隙間(潤滑油収容空間)をシールするシール部材であって、前記ケース及び前記軸部材のうちのいずれかに設けられ、前記ケースと前記軸部材との間に位置する環状の支持部と、前記支持部に接続したリップと、を有し、前記リップは、軸方向及び径方向に対して傾斜し、前記軸方向における前記支持部に近接する側で、前記径方向における前記シール部材が設けられる前記ケース及び前記軸部材のうちのいずれかとは反対の側に位置し、且つ、前記軸方向における前記支持部から離間する側で、前記シール部材が設けられる前記ケース及び前記軸部材のうちのいずれかの側に位置している、シール部材、である。
【0027】
本発明に係るシール部材は、支持部が設けられないケース又は軸部材に設けられてケースと軸部材との間の隙間に位置する他の部材に、リップを回転機械における軸方向の外側(軸方向で、隙間から離間する側)から接触させることで、ケースと軸部材との間の隙間をシールすることができる。このシール状態は、リップが上述の他の部材の軸方向の外側に位置する環状の支持部から同他の部材の側に向けて延びてこれに軸方向で接触することにより形成され、この場合、支持部が及ぼすリップの径方向における寸法自由度の制約が緩和されるため、リップの径方向における寸法を大きく確保し易くなる。これによりリップのみを大型化することで、リップを他の部材に強く押し付けなくても強固なシール性を確保することが可能となり、シール部材全体の小型化及び簡素化が可能となる。また強固なシール性を確保しつつもリップの他の部材に対する押し付け力を抑制できることで、摩擦抵抗の抑制による回転機械の機械効率の向上を図れる。またシール部材は、軸方向で他の部材の外側に位置するように設けられ得るため、組み付け時のシール部材と他の部材等との不所望な干渉を避け易くなり、シール部材に損傷が生じることを抑制することも可能となる。したがって、適切なシール性を確保しつつ、シール部材の小型化、簡素化、及び組立性の向上を実現できるとともに、回転機械の機械効率の向上も図ることができる。
さらに、リップは、支持部から離れるに従い、支持部(シール部材)が設けられるケース及び軸部材のうちのいずれかの側に向けて延びるように、軸方向及び径方向に対して傾斜している。この構成により、上述の他の部材の側からシール部材側へ潤滑油等の流体が流れた場合に、リップが他の部材に押し付けられ、リップの他の部材に対する密着性が高まる。これにより、シールが必要なタイミングにおいて効果的にシール性を高めることができる。
【0028】
また、前記リップは、前記支持部(シール部材)が設けられる前記ケース及び前記軸部材のうちのいずれかの側とは反対の側の前記支持部の端部に接続していてもよい。
【0029】
この場合、リップの径方向の寸法を大きく確保し易くなり、且つ上述の他の部材の径方向における寸法を抑制しつつ、リップと同他の部材とを接触させることが可能となる。これにより、シール部材の小型化及び簡素化をより図り易くなるとともに、他の部材の小型化及び簡素化が図れるようになる。
【0030】
また本発明のシール部材においては、前記リップが前記軸方向となす角度が、44.5度以上45.5度以下であってもよい。
【0031】
この場合、リップが概ね軸方向に対して45度で傾斜する。これにより、リップを上述の他の部材に接触させた際に、リップが軸方向に過剰に変形することが抑制され、且つ他の部材の側からシール部材側へ潤滑油等の流体が流れた場合に適度にリップが他の部材に密着される。そのため、摩擦抵抗を効果的に抑制しつつ、良好なシール性を確保することができるようになる。
【0032】
また本発明のシール部材は、前記ケースの内周面又は前記軸部材の外周面に嵌め込まれる筒状部をさらに有し、前記支持部は、前記リップが接続する側とは反対側となる端部において前記筒状部に接続し、前記筒状部の軸方向寸法は、前記支持部の径方向寸法よりも小さくてもよい。
【0033】
上述のように、本発明のシール部材では、リップの大型化による強固なシール性の確保によって、シール部材全体の小型化及び簡素化が可能となるが、具体的には、リップの大型化により強固なシール性を確保する一方で、上記の構成のように、リップのシール性の確保のために過剰に大きくする必要の無い筒状部の軸方向における寸法を、支持部の径方向における寸法よりも小さくすることで、適切なシール性を確保しつつ、シール部材の軸方向における寸法を抑制することができる。
【0034】
また本発明のシール部材において、前記リップは、自身の弾性変形によって他の部材とシールを形成するガータースプリングレス構造を有していてもよい。
【0035】
上述と同様に、本発明のシール部材では、リップの大型化による強固なシール性の確保によって、シール部材全体の小型化及び簡素化が可能となるが、具体的には、リップの大型化により強固なシール性を確保する一方で、上記の構成のように、弾性体であるワイヤ(ガータースプリング)を利用しないことで、適切なシール性を確保しつつ、シール部材を極めて簡素にすることができる。また本構成では、摩擦抵抗を大幅に抑制可能となることで、回転機械の機械効率を大きく向上させることもできる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、適切なシール性を確保しつつ、シール部材の小型化、簡素化、及び組立性の向上を実現できるとともに、回転機械の機械効率の向上も図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係るシール構造が適用された回転機械の断面図である。
【
図3】本発明の第2の実施の形態に係るシール構造が適用された回転機械の要部の断面図である。
【
図4】本発明の第3の実施の形態に係るシール構造が適用された回転機械の要部の断面図である。
【
図5】本発明の第4の実施の形態に係るシール構造が適用された回転機械の要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図面を参照しながら本発明の各実施の形態について説明する。
【0039】
<第1の実施の形態>
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るシール構造が適用された回転機械1の断面図である。
図1に示す回転機械1は、ケース2と、ケース2に対して相対回転可能にケース2内に配置された軸部材3と、を備えている。ケース2の内周面と軸部材3の外周面との間には、周方向に間隔を空けて並ぶ複数の転動体4が軸方向の一方側と他方側とに介装されている。これにより、軸部材3がケース2に対して相対回転可能となっている。
【0040】
図示の例では、転動体4が転動する内輪軌道面4Aが軸部材3の外周面によって形成され、外輪軌道面4Bがケース2の内周面に嵌め込まれたアウターレース41Bによって形成されている。このような回転機械1は、例えば減速機、より具体的には偏心揺動型減速機であってもよく、この場合、軸部材3はキャリアに対応し、ケース2はキャリアの外周を覆う筒状のケースに対応する。なお、図中の符号L1は、軸部材3の中心軸線を示し、図示された例においては軸部材3の回転軸線にも一致する。軸方向とは、中心軸線L1に沿う方向を意味する。また以下の説明において、径方向とは、中心軸線L1に直交する方向を意味する。
【0041】
図1に示すように、本実施の形態では、軸部材3にケース2に向けて径方向に延びる環状のシール形成部(延出部)10が設けられ、本例では、シール形成部10が軸部材3と同一の材料から形成されて軸部材3と一体となっている。シール形成部10の径方向外側の端部とケース2の内周面との間には、隙間が形成されている。一方で、ケース2にはシール部材20が着脱可能に設けられており、シール部材20は、軸方向でシール形成部10の外側に位置するように組み付けられている。これらシール形成部10及びシール部材20は互いに接触して、ケース2と軸部材3との間の隙間をシールしている。これにより本実施の形態に係るシール構造が構成されることになる。シール構造によるシールによって、潤滑油が収容される潤滑油収容空間Sが区画される。潤滑油収容空間Sは、ケース2と軸部材3との間に形成される。なお、軸方向における「外側」とは、軸方向において潤滑油収容空間Sから離間する側のことである。
【0042】
図2におけるシール部材20の拡大断面図に示されるように、シール部材20は、シール形成部10に軸方向の外側から対面する環状の支持部22を備えたベース部21と、支持部22からシール形成部10側に向けて延びてシール形成部10に軸方向で接触するメインリップ(リップ)24と、を有している。メインリップ24は、主に回転機械1の内部の潤滑油が潤滑油収容空間S外に漏れ出すことを防止する目的で設けられ、シール形成部10に軸方向で接触することによってケース2と軸部材3との間の隙間をシールしている。
【0043】
ベース部21は、径方向に沿う断面でL字状をなす環状の芯金21Aと、芯金21Aの表面を全体的に覆うゴム等からなる被覆体21Bと、で構成されている。ベース部21には、上述の支持部22と、ケース2の内周面に嵌め込まれる筒状部23と、が含まれ、支持部22は、筒状部23の軸方向における外側の端部から径方向に延びている。支持部22は、芯金21A及び被覆体21Bの径方向に延びる部分によって形成され、筒状部23は、芯金21A及び被覆体21Bの軸方向に延びる部分によって形成されている。
図2から明らかなように、本実施の形態では、筒状部23の軸方向における寸法(軸方向寸法)が、支持部22の径方向における寸法(径方向寸法)よりも小さくなっている。
【0044】
シール部材20は、ベース部21における筒状部23を径方向内側に変形させてケース2の内周面に嵌め込むことにより、ケース2に保持されている。筒状部23を径方向内側に変形させた際には、筒状部23内の芯金21Aが径方向外側に弾性的に復帰しようとすることで、筒状部23がケース2の内周面に押し付けられる。これにより、シール部材20がケース2の内周面に圧入された状態で保持されることになる。ここで、本実施の形態では、筒状部23の軸方向における内側の端部が、シール形成部10の先端(径方向外側端)と径方向で対向している。これにより、筒状部23とシール形成部10とがケース2と軸部材3との間の隙間を小さくすることで、シール性の向上が図られるとともに、シール構造の占有領域の抑制が図られている。
【0045】
一方で、本例のメインリップ24は、軸方向においてシール形成部10側に向けて延びるに従い、径方向においてケース2の側に向けて延びるように、軸方向及び径方向に対して傾斜している。より詳しくは、本実施の形態におけるメインリップ24は、軸部材3側の支持部22の端部から径方向外側に向けて傾斜して延びている。更に言い換えると、メインリップ24は、軸方向における外側で、径方向における軸部材の側に位置し、且つ、軸方向における内側で、径方向におけるケース2の側に位置している。このようなメインリップ24は、テーパー筒状に形成されることになる。メインリップ24をなすテーパー筒状は、軸方向外側に先細りする。また本実施の形態では、メインリップ24が、上述した被覆体21Bの一部として形成されており、芯金21Aに被覆体21Bを設けるタイミングで形成されるようになっている。
【0046】
メインリップ24が軸方向となす角度αは、特に限定されるものではないが、30度以上60度以下であることが好ましい。これは、角度αが小さすぎると、例えばメインリップ24をシール形成部10に接触させた際に、メインリップ24が軸方向に過剰に変形する虞があったり、潤滑油の流動によって径方向外側から力を受けた際にメインリップ24が反転し易くなったりするからである。また角度αが大きすぎると、メインリップ24のシール形成部10に対する押し付け力が弱くなる傾向となるためである。本件発明者の知見では、メインリップ24が軸方向となす角度αは、特に45度であることが好適であることが見出されており、そのため角度αは、組み付け誤差等を考慮すると、44.5度以上45.5度以下とすることが良い。
【0047】
また本実施の形態では、
図2から明らかなように、メインリップ24が、シール形成部10との接触による自身の弾性変形によってシール形成部10に密着されるガータースプリングレス構造を有している。すなわち、一般的なシール部材におけるメインリップは、環状のばね部材(ガータースプリング)によって径方向内側に締め付けられて軸部材の内周面に押し付けられる構成を有するが、本実施の形態におけるメインリップ24は、上述のようなばね部材を用いずにシール性を確保する構成を有している。
【0048】
また本実施の形態では、シール部材20における支持部22の径方向の内側(軸部材3側)の端部に、径方向の内側に向けて先細りに延びて軸部材3の外周面に接触するダストリップ25がさらに設けられている。ダストリップ25は、径方向に対して軸方向の外側に傾くように延びている。このようなダストリップ25は、主に回転機械1の外部から内部への、すなわち潤滑油収容空間Sに向けた塵埃の浸入を防止する目的で設けられている。なお、本実施の形態における支持部22は、ベース部21のうちのダストリップ25を除く径方向に延びる部分を指し、それ自身では軸部材3に接触しない部分のことを意味する。
【0049】
次に本実施の形態の作用について説明する。
【0050】
ケース2と軸部材3との間の隙間をシールする際、本実施の形態では、シール部材20が、ケース2と軸部材3との間の隙間にあるシール形成部10にメインリップ24を回転機械1における軸方向の外側から接触させることで、ケース2と軸部材3との間の隙間をシールすることができる。シールを形成することで、潤滑油収容空間Sからの潤滑油の漏れを効果的に防止することができる。このシール状態は、メインリップ24がシール形成部10の軸方向の外側に位置する環状の支持部22からシール形成部10側に向けて延びてシール形成部10に軸方向で直接的に又は粉塵等の異物を介して間接的に接触することにより形成され、このような構成では、支持部22が及ぼすメインリップ24の径方向における寸法自由度の制約が緩和されるため、メインリップ24の径方向における寸法を大きく確保し易くなる。これによりメインリップ24のみを大型化することで、メインリップ24をシール形成部10に強く押し付けなくても強固なシール性を確保することが可能となり、シール部材20全体の小型化及び簡素化が可能となる。
【0051】
具体的に本実施の形態では、メインリップ24を軸方向及び径方向に対して傾斜させることでメインリップ24の径方向における寸法を大型化している。そして、このようなメインリップ24の大型化による強固なシール性を確保する一方で、メインリップ24のシール性の確保のために過剰に大きくする必要の無いシール部材20における筒状部23の軸方向における寸法を、支持部22の径方向における寸法よりも小さくすることで、適切なシール性を確保しつつ、シール部材20の軸方向における寸法が抑制されている。また、メインリップ24において、一般的なシール部材で用いられるリップ押し付け用のワイヤ(ガータースプリング)を利用しない、つまりガータースプリングレス構造を採用することで、適切なシール性を確保しつつ、シール部材20が極めて簡素に構成されている。
【0052】
またメインリップ24をシール形成部10に強く押し付けなくても強固なシール性を確保することが可能となることによれば、強固なシール性を確保しつつもメインリップ24のシール形成部10に対する押し付け力を抑制できることで、摩擦抵抗の抑制による回転機械1の機械効率の向上を図れる。またシール部材20は、軸方向でシール形成部10の外側に位置するように設けられるため、組み付け時のシール部材20とシール形成部10等との不所望な干渉を避け易くなり、シール部材20に損傷が生じることを抑制することも可能となる。
【0053】
したがって、以上に説明した本実施の形態によれば、適切なシール性を確保しつつ、シール部材20の小型化、簡素化、及び組立性の向上を実現できるとともに、回転機械1の機械効率の向上も図ることができる。また本実施の形態では、メインリップ24が、シール形成部10側に向けて延びるに従い、ケース2の側(径方向における外側)に向けて延びるように、軸方向及び径方向に対して傾斜している。これにより、シール形成部10側からシール部材20側へ潤滑油等の流体が流れた場合に、すなわち、軸方向における外側に潤滑油等の流体が漏れた場合、メインリップ24がシール形成部10に押し付けられ、メインリップ24のシール形成部10に対する密着性が高まる。これにより、シールが必要なタイミングにおいて効果的にシール性を高めることができる。
【0054】
またメインリップ24は、軸部材3の側の支持部22の端部から延びている。これにより、メインリップ24の径方向の寸法を大きく確保し易くなり、且つシール形成部10の径方向における寸法を抑制しつつ、メインリップ24とシール形成部10とを接触させることが可能となる。これにより、シール部材20の小型化及び簡素化をより図り易くなるとともに、シール形成部10の小型化及び簡素化も図れる。具体的に本実施の形態では、シール形成部10の径方向における寸法を比較的抑制しつつ、シール形成部10とメインリップ24とを接触させることが可能となっている。
【0055】
またメインリップ24が軸方向となす角度αは、44.5度以上45.5度以下であることが好ましいと説明したが、角度αを概ね45度とした場合には、メインリップ24をシール形成部10に接触させた際に、メインリップ24が軸方向に過剰に変形することが抑制され、且つシール形成部10側からシール部材20側へ潤滑油等の流体が流れた場合に適度にメインリップ24がシール形成部に密着される。そのため、摩擦抵抗を効果的に抑制しつつ、良好なシール性を確保することができるようになる。さらに本実施の形態では、シール形成部10が、軸部材3と一体であることで、部品点数の増加を抑制できる。
【0056】
<第2の実施の形態>
次に本発明の第2の実施の形態について
図3を参照しつつ説明する。
図3は、第2の実施の形態に係るシール構造が適用された回転機械の要部の断面図である。本実施の形態における第1の実施の形態の構成部分と同様の構成部分については、同一の符号を示し、説明を省略する。
【0057】
図3に示すように、本実施の形態は、シール部材20にサブリップ26がさらに設けられる点で第1の実施の形態と異なっている。サブリップ26は、メインリップ24に沿って支持部22から延びるように支持部22に設けられ、その先端がシール形成部10に軸方向で接触している。サブリップ26も、メインリップ24と同様に、被覆体21Bの一部として形成されており、芯金21Aに被覆体21Bを設けるタイミングで形成されるようになっている。このような第2の実施の形態に係る構成によれば、シール部材20によるシール性を高めることができる。
【0058】
<第3の実施の形態>
次に本発明の第3の実施の形態について
図4を参照しつつ説明する。
図4は、第3の実施の形態に係るシール構造が適用された回転機械の要部の断面図である。本実施の形態における第1及び第2の実施の形態の構成部分と同様の構成部分については、同一の符号を示し、説明を省略する。
【0059】
図4に示すように、本実施の形態では、シール形成部10が、ケース2と軸部材3との間に設けられた軸受50のインナーレース41Aによって構成されている。詳しくは、本実施の形態では、第1の実施の形態とは異なり、ケース2と軸部材3との間に、転動体4を保持する軸受50が設けられ、転動体4の内輪軌道面4Aがインナーレース41Aの内面によって形成されている。そしてインナーレース41Aが、軸部材3の外周面から径方向に張り出しており、このように張り出したインナーレース41Aの一部がシール形成部10を構成している。
【0060】
このような第3の実施の形態の構成によれば、軸受50がシール形成部10を兼用することで、部品点数の増加を抑制できる。しかも、一般に軸受のアウターレース又はインナーレースは、表面が滑らかに仕上げられているため、メインリップ24とインナーレース41Aとが接触した際の高いシール性を、加工コストを抑制して得ることができるという効果も得られる。
【0061】
<第4の実施の形態>
次に本発明の第4の実施の形態について
図5を参照しつつ説明する。
図5は、第4の実施の形態に係るシール構造が適用された回転機械の要部の断面図である。本実施の形態における第1乃至第3の実施の形態の構成部分と同様の構成部分については、同一の符号を示し、説明を省略する。
【0062】
図5に示すように、本実施の形態は、シール形成部10が軸部材3と別体となっている。詳しくは、軸部材3に着脱可能に設けられたシール面形成部材40の一部がシール形成部10を構成している。シール面形成部材40は、軸部材3の外周面に嵌め込まれる取付筒状部41と、取付筒状部41から径方向に張り出したシール形成部10とを一体に有している。このような第4の実施の形態の構成によれば、シール構造を簡素に構成できる。
【0063】
以上、本発明の一実施の形態を説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではない。例えば、上述の各実施の形態では、シール形成部10が軸部材3に設けられ、シール部材20がケース2に設けられているが、シール形成部10がケース2に設けられ、シール部材20が軸部材3に設けられてもよい。シール形成部10がケース2に設けられる構成である場合には、シール形成部10が軸受のアウターレースによって構成されてもよい。また、シール部材20が軸部材3に設けられ且つシール形成部10がケース2に設けられる構成である場合、メインリップ24は、軸方向及び径方向に対して傾斜し、軸方向における外側で、径方向におけるケースの側に位置し、且つ、軸方向における外側とは反対側で、径方向における軸部材の側に位置するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0064】
1…回転機械、2…ケース、3…軸部材、4…転動体、4A…内輪軌道面、4B…外輪軌道面、41A…インナーレース、41B…アウターレース、50…軸受、10…シール形成部、20…シール部材、21…ベース部、21A…芯金、21B…被覆体、22…支持部、23…筒状部、24…メインリップ、25…ダストリップ、40…シール面形成部材、41…取付筒状部、L1…中心軸線。