(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 19/18 20060101AFI20231013BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20231013BHJP
F16J 15/447 20060101ALI20231013BHJP
B60B 35/14 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
F16C19/18
F16C33/78 E
F16C33/78 D
F16J15/447
B60B35/14 V
(21)【出願番号】P 2019011471
(22)【出願日】2019-01-25
【審査請求日】2021-12-27
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】畑 雄介
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-240003(JP,A)
【文献】特開2009-202830(JP,A)
【文献】特開2006-137297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56,33/30-33/66
F16J 15/447
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複列の外側軌道面を有する外方部材と、
ハブ輪及び内輪からなり、複列の内側軌道面を有する内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材のそれぞれの軌道面間に介装される複列の転動部材と、
前記外方部材と前記内方部材によって形成された環状空間のアウター側開口端を塞ぐアウター側シール部材と、を備えた車輪用軸受装置において、
前記ハブ輪における車輪取付フランジのインナー側基端部分に当該ハブ輪の回転軸を中心とする円環状の凹部が設けられており、
前記凹部は、前記車輪取付フランジのインナー側端面からアウター側へ向けて窪んだ部位であり、
前記外方部材のアウター側端部が前記凹部に挿入され、かつ前記アウター側シール部材の少なくとも一部が前記凹部に収まっており、
前記車輪取付フランジのアウター側基端部分には、当該車輪取付フランジのアウター側端面からアウター側へ向けて突出する補強部が設けられて
おり、
前記車輪取付フランジの径方向外側部には、前記ハブ輪の回転軸を中心に複数のボルト穴が設けられており、
前記外方部材のアウター側端部は、前記ボルト穴のインナー側端部の位置よりアウター側に位置している、
ことを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記凹部の内周面と前記外方部材のアウター側端部における外周面が互いに近接してラビリンス部を構成している、
ことを特徴とする請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記ラビリンス部がインナー側に向かうにつれて径方向外側へ傾斜している、
ことを特徴とする請求項2に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置が知られている(特許文献1参照)。車輪用軸受装置では、外方部材の内側に内方部材が配置され、外方部材と内方部材のそれぞれの軌道面間に転動部材が介装されている。こうして、車輪用軸受装置は、転がり軸受構造を構成し、内方部材に取り付けられた車輪を回転自在としている。
【0003】
ところで、車輪用軸受装置の外方部材と内方部材の間には、環状空間が形成され、当該環状空間のアウター側開口端を塞ぐシール部材が設けられている(
図6参照)。このような車輪用軸受装置においては、外方部材の内側にシール部材を収容するためのスペースを確保する必要があり、結果としてインナー側の転動部材とアウター側の転動部材の相対距離が短くなってしまうという問題があった。従って、曲げモーメントに対する剛性が低下し、ひいては軸受寿命が短くなってしまうという問題があった。
【0004】
加えて、内方部材を構成するハブ輪には、車輪取付フランジが形成されている(
図6参照)。そして、この車輪取付フランジが外方部材のアウター側端部から隙間をあけて配置されている。このような車輪用軸受装置においては、車輪取付フランジを伝って流れる泥水や外方部材を伝って流れる泥水が隙間を通ってシール部材に到達し、シール部材が泥水に含まれる異物を噛み込んで破損したり摩耗したりしてしまうという問題があった。従って、シール部材の密封性が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
曲げモーメントに対する剛性を高めると共にアウター側シール部材の密封性の低下を抑えることで軸受寿命の向上を実現できる車輪用軸受装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第一の発明は、
複列の外側軌道面を有する外方部材と、
ハブ輪及び内輪からなり、複列の内側軌道面を有する内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材のそれぞれの軌道面間に介装される複列の転動部材と、
前記外方部材と前記内方部材によって形成された環状空間のアウター側開口端を塞ぐアウター側シール部材と、を備えた車輪用軸受装置において、
前記ハブ輪における車輪取付フランジのインナー側基端部分に当該ハブ輪の回転軸を中心とする円環状の凹部が設けられており、
前記外方部材のアウター側端部が前記凹部に挿入され、かつ前記アウター側シール部材の少なくとも一部が前記凹部に収まっている、ものである。
【0008】
第二の発明は、第一の発明に係る車輪用軸受装置において、
前記凹部の内周面と前記外方部材のアウター側端部における外周面が互いに近接してラビリンス部を構成している、ものである。
【0009】
第三の発明は、第二の発明に係る車輪用軸受装置において、
前記ラビリンス部がインナー側に向かうにつれて径方向外側へ傾斜している、ものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0011】
第一の発明に係る車輪用軸受装置は、ハブ輪における車輪取付フランジのインナー側基端部分にハブ輪の回転軸を中心とする円環状の凹部が設けられている。そして、外方部材のアウター側端部が凹部に挿入され、かつアウター側シール部材の少なくとも一部が凹部に収まっている。かかる車輪用軸受装置によれば、外方部材を軸方向に拡張させ、かつ外方部材の内側にアウター側シール部材を収容するためのスペースを確保できるので、インナー側の転動部材とアウター側の転動部材の相対距離を長くすることができる。従って、曲げモーメントに対する剛性が高まるので、軸受寿命の向上を実現できる。また、かかる車輪用軸受装置によれば、車輪取付フランジのインナー側基端部分と外方部材のアウター側端部によって形成される隙間が複雑になるので、車輪取付フランジを伝って流れる泥水や外方部材を伝って流れる泥水がアウター側シール部材に到達するのを抑えることができる。従って、アウター側シール部材の密封性の低下を抑えられるので、軸受寿命の向上を実現できる。
【0012】
第二の発明に係る車輪用軸受装置は、凹部の内周面と外方部材のアウター側端部における外周面が互いに近接してラビリンス部を構成している。かかる車輪用軸受装置によれば、ラビリンス部に泥水が浸入しても、泥水の通り抜けを防いでアウター側シール部材に到達するのを抑えることができる。従って、アウター側シール部材の密封性の低下を抑えられるので、軸受寿命の向上を実現できる。
【0013】
第三の発明に係る車輪用軸受装置は、ラビリンス部がインナー側に向かうにつれて径方向外側へ傾斜している。かかる車輪用軸受装置によれば、ラビリンス部に泥水が浸入しても、ハブ輪の回転による遠心力を利用して排出することができる。従って、アウター側シール部材の密封性の低下を更に抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】車輪用軸受装置を車体に取り付けた状態を示す図。
【
図3】第一実施形態に係る車輪用軸受装置の一部構造を示す図。
【
図4】第一実施形態に係る車輪用軸受装置の特徴点を示す図。
【
図5】第二実施形態に係る車輪用軸受装置の一部構造を示す図。
【
図6】従来品である車輪用軸受装置の構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、
図1を用いて、車輪用軸受装置1の構造について説明する。
【0016】
車輪用軸受装置1は、車輪を回転自在に支持するものである。車輪用軸受装置1は、外方部材2と、内方部材3と、転動部材4・5と、を備えている。なお、本明細書において、「インナー側」とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表し、「アウター側」とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表す。また、「径方向外側」とは、内方部材3の回転軸Aから遠ざかる方向を表し、「径方向内側」とは、内方部材3の回転軸Aに近づく方向を表す。更に、「軸方向」とは、回転軸Aに沿う方向を表す。
【0017】
外方部材2は、転がり軸受構造の外輪部分を構成するものである。外方部材2のインナー側端部における内周には、嵌合面2aが形成されている。また、外方部材2のアウター側端部における内周には、嵌合面2bが形成されている。更に、外方部材2の軸方向中央部における内周には、二つの外側軌道面2c・2dが形成されている。加えて、外方部材2には、その外周面から径方向外側へ延びる車体取付フランジ2eが形成されている。車体取付フランジ2eには、複数のボルト穴2fが設けられている。
【0018】
内方部材3は、転がり軸受構造の内輪部分を構成するものである。内方部材3は、ハブ輪31と内輪32で構成されている。
【0019】
ハブ輪31は、外方部材2の径方向内側に配置される。ハブ輪31のインナー側端部における外周には、軸方向中央部まで小径段部3aが形成されている。小径段部3aは、ハブ輪31の外径が小さくなった部分を指し、その外周面が回転軸Aを中心とする円筒形状となっている。また、ハブ輪31には、そのインナー側端部からアウター側端部まで貫かれたスプライン穴3bが形成されている。更に、ハブ輪31の軸方向中央部における外周には、内側軌道面3dが形成されている。加えて、ハブ輪31には、その外周面から径方向外側へ延びる車輪取付フランジ3eが形成されている。車輪取付フランジ3eには、回転軸Aを中心に複数のボルト穴3fが設けられており、それぞれのボルト穴3fにハブボルト33が圧入されている。
【0020】
内輪32は、ハブ輪31の小径段部3aに外嵌される。内輪32のインナー側端部における外周には、嵌合面3gが形成されている。また、嵌合面3gに隣接する外周には、内側軌道面3cが形成されている。これにより、内輪32の外周に内側軌道面3cを構成している。
【0021】
転動部材4・5は、転がり軸受構造の転動部分を構成するものである。転動部材4・5は、いわゆる鋼球であって、それぞれが保持器によって円周上に等間隔にならべられている。インナー側の転動部材4は、外方部材2の外側軌道面2cと内輪32の内側軌道面3cの間に介装されている。また、アウター側の転動部材5は、外方部材2の外側軌道面2dとハブ輪31の内側軌道面3dの間に介装されている。なお、本車輪用軸受装置1において、転動部材4・5は、両方とも球形状であるが、いずれか一方又は両方が円筒形状又は円錐形状であってもよい。
【0022】
次に、
図2を用いて、車輪用軸受装置1を車体に取り付けるための構造について説明する。
【0023】
車輪用軸受装置1は、円筒形状であるパイロット部2gをナックル9の嵌合穴9aに嵌め込むと共に車体取付フランジ2eの端面をナックル9の端面に当接させた状態で、ナックルボルト91を介して取り付けられる。このとき、ナックルボルト91は、ナックル9のボルト穴9bにインナー側から挿通され、車体取付フランジ2eのボルト穴2fに螺合される。或いは、車体取付フランジ2eのボルト穴2fにアウター側から挿通され、ナックル9のボルト穴9bに螺合される。なお、車体旋回時や車輪の凹凸乗越時などで、内方部材3に曲げモーメントMがはたらくこととなる。
【0024】
次に、
図3及び
図4を用いて、第一実施形態に係る車輪用軸受装置1の特徴点とその効果について説明する。
図4には、比較対象として従来品である車輪用軸受装置を示している。ここでは、従来品である車輪用軸受装置についても、同じ部材については同じ符号を付すものとする。
【0025】
まず、車輪用軸受装置1を構成するシール部材6について説明しておく。車輪用軸受装置1は、外方部材2と内方部材3(ハブ輪31及び内輪32)の間に形成される環状空間Sの両側開口端を塞ぐべく、一対のシール部材6・7を備えている。以下では、環状空間Sのアウター側開口端を塞ぐシール部材(以降「アウター側シール部材」という)6に着目して説明する。
【0026】
アウター側シール部材6は、芯金61に弾性部材62を加硫接着したものである。芯金61は、外方部材2の嵌合面2bに内嵌される嵌合部61aと、嵌合部61aのアウター側端部から径方向内側へ延びる側板部61bと、を有している。弾性部材62には、サイドリップ62aが形成されており、サイドリップ62aの先端縁が平端面3hに接触している。また、サイドリップ62aの径方向内側には、中間リップ62bが形成されており、中間リップ62bの先端縁が円弧面3iに接触している。更に、弾性部材62には、グリースリップ62cが形成されており、グリースリップ62cの先端縁が軸周面3jに接触している。
【0027】
第一実施形態に係る車輪用軸受装置1においては、ハブ輪31における車輪取付フランジ3eのインナー側基端部分にハブ輪31の回転軸Aを中心とする円環状の凹部3mが設けられている。凹部3mは、車輪取付フランジ3eのインナー側端面3nからアウター側へ向けて窪んだ部位であり、その底面である平端面3hが回転軸Aに対して垂直となっている。また、凹部3mの径方向内側の内周面である円弧面3iが平端面3h及び軸周面3jに対して連続するようにつながっている。更に、軸周面3jは、凹部3mの外側で回転軸Aに対して平行となっている。そして、少なくとも平端面3h、円弧面3i及び軸周面3jには研磨加工仕上げが施される。なお、車輪取付フランジ3eのアウター側基端部分には、アウター側端面3oからアウター側へ向けて突出する補強部3pが設けられている。これは、凹部3mを設けたことによる強度の低下を防ぐためである。
【0028】
同時に、第一実施形態に係る車輪用軸受装置1においては、外方部材2のアウター側端部2iが凹部3mに挿入されている(図中の二点鎖線を越えて凹部3mに挿入されている)。そして、外方部材2のアウター側端部2iに内嵌されているアウター側シール部材6の少なくとも一部が凹部3mの内側に収まっている(図中の二点鎖線を越えて凹部3mの内側に収まっている)。具体的に説明すると、アウター側シール部材6のサイドリップ62aと中間リップ62bを含む一部が凹部3mに収まっている。但し、サイドリップ62aと中間リップ62bに加えてグリースリップ62cを含む一部が凹部3mの内側に収まっているとしてもよい。この点、「アウター側シール部材6の少なくとも一部」について限定するものではない。
【0029】
このように、本車輪用軸受装置1は、従来品である車輪用軸受装置に比べて外方部材2を軸方向に拡張している。また、外方部材2の内側にアウター側シール部材6を収容するためのスペースを確保している。このため、本車輪用軸受装置1は、インナー側の転動部材4とアウター側の転動部材5の相対距離Lを従来品である車輪用軸受装置の相対距離Lpよりも大きくできるのである。
図4において、相対距離Lと相対距離Lpの差異は値Dで表されている。
【0030】
更に、本車輪用軸受装置1においては、車輪取付フランジ3eのインナー側基端部分と外方部材2のアウター側端部2iによって形成される隙間3qが凹部3mの内周面に沿って形成される。このため、本車輪用軸受装置1は、従来品である車輪用軸受装置の隙間103qに比べて複雑に入り組んだ形状となっている。このようにすることで、車輪取付フランジ3eを伝って流れる泥水や外方部材2を伝って流れる泥水が隙間3qに入りにくくなる。また、泥水がアウター側シール部材6まで到達しにくくなる。
図3において、凹部3mの径方向外側の内周面である傾斜面3kから外方部材2のアウター側端部2iにおける外周面2kまでの寸法は値d1で表されている。値d1は、車体旋回時においても0.1mm以上とされる。更に、凹部3mの底面である平端面3hから外方部材2のアウター側端面2hまでの寸法は値d2で表されている。値d2は、車体旋回時においても0.5mm以上とされる。
【0031】
以上のように、第一実施形態に係る車輪用軸受装置1は、ハブ輪31における車輪取付フランジ3eのインナー側基端部分にハブ輪31の回転軸Aを中心とする円環状の凹部3mが設けられている。そして、外方部材2のアウター側端部2iが凹部3mに挿入され、かつアウター側シール部材6の少なくとも一部が凹部3mに収まっている。かかる車輪用軸受装置1によれば、外方部材2を軸方向に拡張させ、かつ外方部材2の内側にアウター側シール部材6を収容するためのスペースを確保できるので、インナー側の転動部材4とアウター側の転動部材5の相対距離Lを長くすることができる。従って、曲げモーメントMに対する剛性が高まるので、軸受寿命の向上を実現できる。また、かかる車輪用軸受装置1によれば、車輪取付フランジ3eのインナー側基端部分と外方部材2のアウター側端部2iによって形成される隙間3qが複雑になるので、車輪取付フランジ3eを伝って流れる泥水や外方部材2を伝って流れる泥水がアウター側シール部材6に到達するのを抑えることができる。従って、アウター側シール部材6の密封性の低下を抑えられるので、軸受寿命の向上を実現できる。
【0032】
加えて、本車輪用軸受装置1では、インナー側の転動部材4とアウター側の転動部材5の相対距離Lを長くすることができる。従って、曲げモーメントMに対する剛性が高まるので、軸受寿命の向上を実現できる。
【0033】
次に、
図5を用いて、第二実施形態に係る車輪用軸受装置1の特徴点とその効果について説明する。なお、第一実施形態に係る車輪用軸受装置1と比較して異なる部分に着目して説明する。
【0034】
第二実施形態に係る車輪用軸受装置1においては、スリンガ7を具備している。スリンガ7は、鋼板を湾曲させて形成したものであり、凹部3mの内周面に沿うように嵌め込まれている。そして、弾性部材62のサイドリップ62aは、その先端縁が平端面7hに接触している。また、弾性部材62の中間リップ62bは、その先端縁が円弧面7iに接触している。更に、弾性部材62のグリースリップ62cは、その先端縁が軸周面7jに接触している。
【0035】
第二実施形態に係る車輪用軸受装置1においても、第一実施形態に係る車輪用軸受装置1と同様の作用効果を奏する。
【0036】
次に、
図3から
図6を用いて、各実施形態に係る車輪用軸受装置1の他の特徴点とその効果について説明する。
【0037】
各実施形態に係る車輪用軸受装置1には、凹部3mの径方向外側の内周面である傾斜面3kと外方部材2のアウター側端部2iにおける外周面2kによって細い隙間3qが形成されている。これにより、泥水が細い隙間3qによって捕集されるため、泥水がアウター側シール部材6まで到達しにくくなる。つまり、隙間3qに泥水が浸入しても、泥水の通り抜けを防いでアウター側シール部材6に到達するのを抑えることができるのである。本明細書においては、かかる隙間3qを「ラビリンス部R」と定義する。
【0038】
ところで、ラビリンス部Rは、浸入した泥水を排出する機能を有している。即ち、凹部3mの径方向外側の内周面である傾斜面3kは、インナー側に向かうにつれて径方向外側へ傾斜している。また、外方部材2のアウター側端部2iにおける外周面2kも、インナー側に向かうにつれて径方向外側へ傾斜している。従って、傾斜面3kと外周面2kでなるラビリンス部Rは、インナー側に向かうにつれて径方向外側へ傾斜している。これにより、ラビリンス部Rにとどまった泥水は、ハブ輪31の回転につられて共に回転するようになる。すると、かかる泥水には、径方向外側へ向かう遠心力がかかることとなる。こうして、泥水は、このラビリンス部Rから外部へ排出される(矢印F参照)。
【0039】
以上のように、本車輪用軸受装置1は、凹部3mの内周面と外方部材2のアウター側端部2iにおける外周面2kが互いに近接してラビリンス部Rを構成している。かかる車輪用軸受装置1によれば、ラビリンス部Rに泥水が浸入しても、泥水の通り抜けを防いでアウター側シール部材6に到達するのを抑えることができる。従って、アウター側シール部材6の密封性の低下を抑えられるので、軸受寿命の向上を実現できる。
【0040】
加えて、本車輪用軸受装置1は、ラビリンス部Rがインナー側に向かうにつれて径方向外側へ傾斜している。かかる車輪用軸受装置1によれば、ラビリンス部Rに泥水が浸入しても、ハブ輪31の回転による遠心力を利用して排出することができる。従って、アウター側シール部材6の密封性の低下を更に抑えられる。
【0041】
最後に、本明細書に開示した車輪用軸受装置1は、外方部材2に車体取付フランジ2eを有し、内方部材3が車輪取付フランジ3eを有するハブ輪31と内輪32で構成された第3世代構造であるが、これに限定するものではない。例えば、外方部材に車体取付フランジを有し、内方部材である内輪に対して車輪取付フランジを有するハブ輪を挿通できる第2世代構造であってもよい。更に、外方部材に車体取付フランジを有し、内方部材が車輪取付フランジを有するハブ輪と自在継手の嵌合体である第4世代構造であってもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 車輪用軸受装置
2 外方部材、 2c 外側軌道面、 2d 外側軌道面、 2i アウター側端部
3 内方部材、 3c 内側軌道面、 3d 内側軌道面、 3e 車輪取付フランジ、 3m 凹部、 3q 隙間
31 ハブ輪
32 内輪
4 転動部材
5 転動部材
6 アウター側シール部材
A 回転軸
R ラビリンス部
S 環状空間