(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】除去性のよい歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 6/30 20200101AFI20231013BHJP
A61K 6/836 20200101ALI20231013BHJP
A61K 6/882 20200101ALI20231013BHJP
A61K 6/887 20200101ALI20231013BHJP
A61K 6/889 20200101ALI20231013BHJP
【FI】
A61K6/30
A61K6/836
A61K6/882
A61K6/887
A61K6/889
(21)【出願番号】P 2019048085
(22)【出願日】2019-03-15
【審査請求日】2021-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2018052051
(32)【優先日】2018-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(74)【代理人】
【識別番号】100173657
【氏名又は名称】瀬沼 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】下曽山 俊
(72)【発明者】
【氏名】木本 勝也
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-275017(JP,A)
【文献】特開2017-145196(JP,A)
【文献】特開2014-181190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/30
A61K 6/836
A61K 6/882
A61K 6/887
A61K 6/889
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(a)平均粒子径が4.5~7.0μmである酸反応性ガラス粉末を含
む粉材と、
成分(b)重量平均分子量が30000~100000である酸性基含有重合性単量体の重合体、
成分(c)キレート剤、及び
成分(d)水
を含む液材と、
を少なくとも含む歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物であって、
液材1に対する粉材の割合が重量で2以上であり、硬化前の練和物の塑性流動距離が2mm以下であり、且つ、余剰セメントの除去可能時間が2分00秒以内であることを特徴とする歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物。
【請求項2】
硬化前の練和物の塑性流動距離が1mm以下であり、且つ、余剰セメント除去可能時間が1分30秒以内であることを特徴とする請求項1に記載の歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物。
【請求項3】
成分(a)平均粒子径が4.5~7.0μmである酸反応性ガラス粉末 30.0~75.0wt%、
成分(b)重量平均分子量が30000~100000である酸性基含有重合性単量体の重合体 5.0~30.0wt%、
成分(c)キレート剤 1.0~10.0wt%、及び
成分(d)水 10.0~35.0wt%
を含むことを特徴とする請求項1、又は2に記載の歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物。
【請求項4】
成分(a)酸反応性ガラス粉末の平均粒子径が5.0~6.5μmであることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物。
【請求項5】
成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体が、α-β不飽和カルボン酸の重合体であることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載の歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物。
【請求項6】
成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体の重量平均分子量が50000~80000であることを特徴とする請求項1~5の何れかに記載の歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物。
【請求項7】
成分(c)キレート剤が酒石酸であることを特徴とする請求項1~6の何れかに記載の歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物。
【請求項8】
成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体がアクリル酸と1-ブテン-1,2,4-トリカルボン酸の重合体、及び/又はアクリル酸と3-ブテン-1,2,3-トリカルボン酸の重合体であることを特徴とする請求項1~7の何れかに記載の歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯科補綴装置を歯牙に接着、又は合着させるための歯科合着用グラスアイオノマーセメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯科臨床において、う蝕や破折等により部分的に形態が損なわれた歯牙に対してクラウンやインレー、ブリッジ等の歯科補綴装置を歯牙に接着、又は合着させる材料として歯科接着用レジンセメントや歯科合着用グラスアイオノマーセメント等のセメント材料が用いられている。
【0003】
歯科接着用レジンセメントは、一般的に数種類の重合性単量体からなるマトリックスレジン、ガラスフィラー等の各種充填材、及び重合触媒を主成分としており、高い機械的強度や高い接着強度を有しているため、近年広く用いられる歯科材料の一つである。しかしながら、歯科接着用レジンセメントは歯質に対する自己接着性がないものが多く存在し、それらの材料を用いる場合には歯質用プライマーを併用する必要があり、操作が煩雑である。また、歯質用プライマーを適用する際には防湿が重要であるため、防湿しにくい症例においては、水分の影響によって接着不良を引き起こすリスクが懸念される。更に、フッ化物イオンの徐放による二次う蝕の予防効果についても、一部の市販品において認められるのみである。
【0004】
これに対して、歯科合着用グラスアイオノマーセメントは、一般的にポリカルボン酸、水、及びフルオロアルミノシリケートガラスに代表される酸反応性ガラス粉末を主成分としており、成分中のポリカルボン酸の作用によって、歯質に対して自己接着性を発現するため、歯質用プライマーを併用する必要がないことを利点としている。また、成分中に水を含むために防湿しにくい症例においても使用可能である。更に、硬化物からフッ化物イオンが持続的に徐放されるため、二次う蝕の予防効果が期待できる。
【0005】
歯科補綴装置を歯牙に接着、又は合着させた際に歯科補綴装置が浮き上がり、適合が悪くなることを避けるため、これらセメント材料は一般的に被膜厚さが薄くなるよう、練和物が低粘度に設計されている。しかしながら、練和物の粘度が低いと歯科補綴装置の装着時に、歯牙との隙間から溢れ出した余分なセメント、即ち、余剰セメントが自重で垂れ流れるため、臨床において様々な問題を引き起こしていた。具体的には、余剰セメントが軟組織上に垂れ流れることや、舌と接触することは患者に不快感を与えるだけでなく、余剰セメントが広範囲に広がるために硬化後の除去作業も煩雑となる。余剰セメントが歯肉縁下に流れ込むと、細部の除去はより一層煩雑になり、歯科医師、患者ともにストレスの原因となる。また、歯科合着用グラスアイオノマーセメントにおいては、練和物が酸味を有するため、垂れ流れた余剰セメントが患者の舌と接触すると唾液の分泌が促進され、セメントを感水させることに繋がる。このような傾向は、唾液の分泌が活発な小児において特に著しい。尚、「感水」とはグラスアイオノマーセメントが初期硬化中に水分と接触した場合に、その接触面において硬化不良を引き起こす現象のことである。
【0006】
また、歯科合着用グラスアイオノマーセメントが有する別の課題として、歯科補綴装置を口腔内に装着してから余剰セメントを除去できるまでの時間が長いことが挙げられる。患者は練和したセメントがある程度初期硬化するまで、装着した歯科補綴装置を軽く噛んだ状態で待ち続けなければならず、歯科医師も余剰セメントの除去ができないため、次の作業に進めない。この点も歯科医師、患者ともにストレスの原因となる。
【0007】
このような背景から、合着時に薄い被膜厚さを発現するにも関わらず、練和物が自重で垂れ流れない形態維持性を有すると共に、口腔内に適用後、早いタイミングで容易に余剰セメントの除去が可能である等、合着時の操作性に優れ、且つ、感水のリスクが少ない歯科合着用グラスアイオノマーセメントが求められてきた。
【0008】
これまで、歯科合着用グラスアイオノマーセメントの操作性を向上させることを目的として、以下に示す技術が提案されてきた。
【0009】
特開平4-173713号公報にはガラス粉末、水溶性ポリマー及び水を含有する歯科用グラスアイオノマーセメント用ペースト、並びに該ペースト及びポリカルボン酸水溶液から成る歯科用グラスアイオノマーセメント調製用キットが提案されている。この歯科用グラスアイオノマーセメント調製用キットは、従来粉末状で供給されていたガラス成分がペースト状で供給されるため、定量吐出装置が利用でき、正確に計量できることや、ポリカルボン酸水溶液との練和が非常に簡単で、且つ短時間で練和が終了するため、充分な操作時間が得られること、吸湿による粉末の凝集といった不均一化がないこと、及び作業中にガラスが飛散することが無く、診療室を常に清潔に保つことができることが開示されている。
【0010】
特公平6-27049号公報にはカルボン酸基を含む重合体、カルボン酸基を含むグラフト共重合体、及び多塩基酸を特定の割合で配合した水性分散液を歯科用セメント硬化液として用いることで、優れた接着性と口腔内での低い崩壊率を歯科用セメントに付与でき、且つ練和性を著しく改善できることが開示されている。
【0011】
特公平7-53645号公報にはカルボン酸基を有し、且つ部分的に架橋された水可溶性の星型重合体を含有することを特徴とする歯科用セメント硬化液が、優れた練和性と、優れた破砕抗力等の耐久性とを同時に歯科用セメント硬化物に付与できることが開示されている。
【0012】
特開平9-48702号公報には平均粒子径が0.01~20μmで、眞球度(Fx)が0.50~0.95の歯科用セメント粉末を含む粉剤、及び該粉剤と有機酸水溶液からなる歯科用セメント組成物が提案されている。該歯科用セメント粉末を含む粉剤を用いると、該有機酸水溶液との練和時に微粒子間の空気が速やかに除去され、均一なペースト状セメント組成物が容易に得られるので、作業時間が短縮され、更に得られたペースト状セメント組成物は、水に溶け難く、歯の修復又は接合作業が容易であるとともに、圧縮強度が高く、かつ崩壊率が低いことが開示されている。
【0013】
特許第2813906号公報には歯科用セメント粉末を分散させた水系媒体中で、不飽和カルボン酸モノマー、若しくは該モノマーと他の共重合性不飽和モノマーとの混合モノマーを重合せさて得られる重合体-セメント複合体からなる歯科用セメント硬化剤が提案されている。この歯科用セメント硬化剤は従来の硬化剤に比較し、乾燥セメント粉末成分と混合する際に、その操作性、練和性に優れ、それ故熟練を左程必要としないで短時間で十分練和でき、また、破砕抗力等の物理的強度に優れ、且つ最終性能にバラつきの無いセメント硬化物が得られることが開示されている。
【0014】
特許第3452379号公報には一次粒子の平均粒子径が0.1~30μmであり、SrO、La2O3を特定の割合で含有するフルオロアルミノシリケートを含む歯科セメント用組成物を、平均粒子径約100~1000μmの顆粒状に調製し、これを直径1.0~4.0mmの排出口を有する容器に充填し、その排出口から前記顆粒状歯科セメント用組成物を排出することによって定量することを特徴とする歯科用セメントの調製方法が提案されている。該顆粒状歯科セメント用組成物を用いると、硬化剤水溶液との練和性や取り扱い易さに優れているだけでなく、X線造影剤を添加しなくとも良好なX線造影性が得られ、且つ最終性能にバラつきのないセメント硬化物が得られ、更に、容易に必要量の歯科用セメント組成物を定量できることが開示されている。
【0015】
しかしながら、これらの開示された特許文献は、何れも余剰セメントの垂れや硬化後の除去性、感水リスク、口腔内適用後から除去できるまでの時間等の改善に関して言及したものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開平4-173713号公報
【文献】特公平6-27049号公報
【文献】特公平7-53645号公報
【文献】特開平9-48702号公報
【文献】特許第2813906号公報
【文献】特許第3452379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従来の歯科合着用グラスアイオノマーセメントは薄い被膜厚さを示すものの、練和物の粘度が低いために歯科補綴装置の装着時に余剰セメントが自重で垂れ流れ、患者にとって不快であるだけでなく、余剰セメントが広範囲に広がるために硬化後の除去作業も煩雑となっていた。余剰セメントが歯肉縁下に流れ込む場合は、細部の除去はより一層煩雑になり、歯科医師、患者ともにストレスの原因となっていた。加えて、練和物が酸味を有するため、垂れ流れた余剰セメントが患者の舌と接触すると唾液の分泌が促進され、セメントを感水させることに繋がるという欠点を有していた。また、別の課題として歯科補綴装置を口腔内に装着してから余剰セメントを除去できるまでの時間が長いため、患者は練和したセメントがある程度初期硬化するまで、装着した歯科補綴装置を軽く噛んだ状態で待ち続けなければならず、また歯科医師も余剰セメントの除去ができないため、次の作業に進めないという欠点もあった。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために本発明者らは鋭意検討の結果、酸反応性ガラス粉末の平均粒子径、及び酸性基含有重合性単量体の重合体の重量平均分子量を特定の範囲内に調整した組成物が特定の塑性流動距離を有する場合に、合着時に薄い被膜厚さを発現するにも関わらず、余剰セメントの垂れを抑制できることを見出した。更に、余剰セメントはその量が多ければ多いほど垂れ流れ易くなるが、前記の特徴に加えて歯科補綴装置を口腔内に装着後、早期に余剰セメントの除去が可能となるような硬化性を付与することで、余剰セメントの量が多い場合においてもより効果的に垂れを抑制できることを見出した。このような知見に基づいて、前記の特徴を有する歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物が、余剰セメントの垂れやそれに伴う硬化後の除去の煩雑さ、感水のリスク、更には歯科補綴装置を口腔内に装着してから余剰セメントを除去できるまでに長い時間待たなくてはならないという問題を同時に解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
即ち、本発明は
成分(a)平均粒子径が4.5~7.0μmである酸反応性ガラス粉末、
成分(b)重量平均分子量が30000~100000である酸性基含有重合性単量体の重合体、
成分(c)キレート剤、及び
成分(d)水
を少なくとも含む歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物であって、硬化前の練和物の塑性流動距離が2mm以下であり、且つ、余剰セメントの除去可能時間が2分00秒以内であることを特徴とする歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物である。
【0020】
また、前記歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物において、硬化前の練和物の塑性流動距離が1mm以下であり、且つ、余剰セメント除去可能時間が1分30秒以内であることが好ましい。
【0021】
また、前記歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物において、
成分(a)平均粒子径が4.5~7.0μmである酸反応性ガラス粉末 30.0~75.0wt%、
成分(b)重量平均分子量が30000~100000である酸性基含有重合性単量体の重合体 5.0~30.0wt%、
成分(c)キレート剤 1.0~10.0wt%、及び
成分(d)水 10.0~35.0wt%
を含むことが好ましい。
【0022】
また、成分(a)酸反応性ガラス粉末の平均粒子径が5.0~6.5μmの範囲内であることが好ましい。
【0023】
また、成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体が、α-β不飽和カルボン酸の重合体であることが好ましく、その重量平均分子量が50000~80000であることがより好ましい。
また、成分(c)キレート剤が酒石酸であることが好ましい。
【0024】
また、成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体がアクリル酸と1-ブテン-1,2,4-トリカルボン酸の重合体、及び/又はアクリル酸と3-ブテン-1,2,3-トリカルボン酸の重合体であることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明の歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物は合着時に薄い被膜厚さを発現するにも関わらず、練和物が自重で垂れ流れない形態維持性を有し、且つ、歯科補綴装置を口腔内に装着後、早いタイミングで余剰セメントの除去が可能であるため、余剰セメント量の多少に寄らず、垂れを効果的に抑制できる。これにより感水のリスクが低減できると共に、余剰セメントが軟組織上に垂れ流れることによる患者の不快感を取り除くことができ、更に硬化後の余剰セメントの除去作業が容易になる等、合着時の操作性が改善される。そのうえ、歯科補綴装置を口腔内に装着してから余剰セメントを除去できるまでに長い時間待つ必要が無くなり、歯科医師、患者の双方にとって治療時のストレスを軽減できる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物における各成分について詳細に説明する。
本発明の成分(a)酸反応性ガラス粉末は、周期律表の第1族、第2族、第3族に属する金属元素等の酸反応性元素、及びフッ素元素を含んでいる必要がある。成分(a)酸反応性ガラス粉末は、酸反応性元素を含むことにより水の存在下で、後述する成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体が有する酸性基との酸-塩基反応が進行する。酸反応性元素を具体的に例示するとナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ランタン、アルミニウム、亜鉛等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの酸反応性元素は1種類又は2種類以上を含むことができ、またこれらの含有量は特に限定されない。更に、本発明の歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物にX線造影性を付与するために、成分(a)酸反応性ガラス粉末にはX線不透過性の元素を含ませることが望ましい。X不透過性の元素を具体的に例示すると、ストロンチウム、ランタン、ジルコニウム、チタン、イットリウム、イッテルビウム、タンタル、錫、テルル、タングステン及びビスマス等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、成分(a)酸反応性ガラス粉末に含まれるその他の元素については特に制限はなく、本発明における成分(a)酸反応性ガラス粉末は様々な元素を含むことができる。
【0027】
成分(a)酸反応性ガラス粉末は以上に示した酸反応性元素、フッ素、及びX線不透過性の元素を含んだアルミノシリケートガラス、ボロシリケートガラス、アルミノボレートガラス、ボロアルミノシリケートガラス、リン酸ガラス、ホウ酸ガラス、及びシリカガラス等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
更に、成分(a)酸反応性ガラス粉末の粒子形状も特に限定されずに球状、針状、板状、破砕状、鱗片上等の任意の粒子形状のものを何ら制限無く用いることができる。これらの成分(a)酸反応性ガラス粉末は単独、又は数種を組み合わせて用いることができる。
これらの成分(a)酸反応性ガラス粉末の製造方法は特に限定されず、溶融法、気相法、及びゾル-ゲル法等の何れの製造方法で製造されたものでも問題なく使用することができる。その中でも、酸反応性ガラス粉末中に含まれる元素の種類やその含有量を制御しやすい溶融法、又はゾル-ゲル法により製造された酸反応性ガラス粉末を用いることが好ましい。
【0028】
成分(a)酸反応性ガラス粉末は所望の粒子径とするために粉砕して用いることができる。粉砕方法は特に限定されず、湿式法、又は乾式法の何れの粉砕方法を用いて粉砕したものでも使用することができる。具体的にはハンマーミルやターボミル等の高速回転ミル、ボールミルや振動ミル等の容器駆動媒体ミル、サンドグラインダーやアトライター等の媒体撹拌ミル、ジェットミル等を用いて粉砕することができる。
【0029】
成分(a)酸反応性ガラス粉末は平均粒子径が4.5~7.0μmの範囲内でなければならず、5.0~6.5μmの範囲内であることが好ましい。ここで、平均粒子径とはレーザー回折式粒度分布測定装置等によって測定された体積基準の粒度分布に基づいて算出された平均粒子径である。成分(a)酸反応性ガラス粉末の平均粒子径が4.5μm未満になると混合練和が困難になる、練和物の粘度が高くなるなど、操作性が低下することがある。加えて、表面積の増大によって組成物中に多量に含ませることが難しくなるため、機械的強度の低下を引き起こす恐れがある。また、操作時間が短くなる場合がある。成分(a)酸反応性ガラス粉末の平均粒子径が7.0μmを超えると、被膜厚さが厚くなるために合着する歯科補綴装置が浮き上がり、適合が悪くなることがある。また、練和物の流動性が高くなり、余剰セメントが自重で垂れ流れる場合や、硬化が緩慢になって余剰セメントを除去するまでに長時間待たなければならなくなる場合がある。
【0030】
成分(a)酸反応性ガラス粉末は、本発明の歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物の操作性や硬化特性、機械的特性等を調整するために、後述する成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体との酸-塩基反応に悪影響を及ぼさない範囲で種々の表面処理や加熱処理、液相中、又は気相中等での凝集処理、粒子を有機物で包含するマイクロカプセル化処理、又は表面を有機物で機能化するグラフト化等の処理を施すことができる。また、これらの処理は単独で、又は数種を組み合わせて施しても何ら問題はない。これらの中でも各種特性を制御しやすく、且つ生産性にも優れることから、表面処理、又は加熱処理が好適である。
【0031】
成分(a)酸反応性ガラス粉末の表面処理方法を具体的に例示すると、リン酸、又は酢酸等の酸による洗浄、酒石酸、又はポリカルボン酸等の酸性化合物による表面処理、フッ化アルミニウム等のフッ化物による表面処理、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、又はテトラメトキシシラン等のシラン化合物による表面処理等が挙げられる。本発明において用いることができる表面処理方法は上記したものに限定されず、また、これらの表面処理方法はそれぞれ単独で、又は複合的に組み合わせて用いることができる。
【0032】
成分(a)酸反応性ガラス粉末の加熱処理方法を具体的に例示すると、電気炉等を用いて100℃~800℃の範囲で1時間~72時間加熱する処理方法が挙げられる。本発明において用いることができる加熱処理方法は上記したものに限定されず、処理工程においても単一処理、又は多段階処理などが可能である。
【0033】
成分(a)酸反応性ガラス粉末は歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物全体に対して30.0~75.0wt%含まれることが好ましく、45.0~75.0wt%含まれることがより好ましく、45.0~70.0wt%含まれることが更に好ましい。成分(a)酸反応性ガラス粉末の含有量が30.0wt%未満になると練和物の流動性が高くなり、且つ、硬化が緩慢になって、余剰セメントが自重で垂れ流れる場合や、余剰セメントを除去するまでに長時間待たなければならなくなる場合がある。加えて、硬化体の機械的強度の低下を引き起こすことがある。また、成分(a)酸反応性ガラス粉末の含有量が75.0wt%を超えると混合練和が困難になる、練和物の粘度が高くなるなど、操作性が低下することがある。更に、操作時間が短くなる場合や、被膜厚さが厚くなるために合着する歯科補綴装置が浮き上がり、適合が悪くなる場合がある。
【0034】
成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体は少なくとも分子内に1つ以上の酸性基を有した酸性基含有重合性単量体を重合させた重合体であれば何ら制限なく用いることができる。
【0035】
成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体を得るために用いる酸性基含有重合性単量体は、その酸性基の種類を特に限定することなく、何れの酸性基を有する酸性基含有重合性単量体であっても用いることができる。また、この酸性基含有重合性単量体が有するラジカル重合可能な不飽和基の数(単官能性、又は多官能性)やその種類においても何ら制限なく用いることができる。酸性基含有重合性単量体が有する酸性基を具体的に例示すると、リン酸基、ピロリン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、チオリン酸基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
酸性基含有重合性単量体が有する不飽和基を具体的に例示すると、(メタ)アクリロイル基、スチリル基、ビニル基、アリル基等が挙げられるが、これらの不飽和基の中でも(メタ)アクリロイル基を有している酸性基含有重合性単量体であることが好ましい。
更にこれらの酸性基含有重合性単量体は分子内にアルキル基、ハロゲン、アミノ基、グリシジル基、及び/又は水酸基等のその他の官能基を併せて有することもできる。
【0036】
以下に成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体を得るために用いることができ、不飽和基として(メタ)アクリロイル基を有する酸性基含有重合性単量体を具体的に例示する。
リン酸基を有する酸性基含有重合性単量体としては、(メタ)アクリロイルオキシメチルジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシエイコシルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9-(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピル-2-ジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2’-ブロモエチルハイドロジェンホスフェート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
また、ピロリン酸基を有する酸性基含有重合性単量体としては、ピロリン酸ビス[2-(メタ)アクリロイルオキシエチル]、ピロリン酸ビス[3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル]、ピロリンビス[4-(メタ)アクリロイルオキシブチル]、ピロリン酸ビス[5-(メタ)アクリロイルオキシペンチル]、ピロリン酸ビス[6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル]、ピロリン酸ビス[7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチル]、ピロリン酸ビス[8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル]、ピロリン酸ビス[9-(メタ)アクリロイルオキシノニル]、ピロリン酸ビス[10-(メタ)アクリロイルオキシデシル]、ピロリン酸ビス[12-(メタ)アクリロイルオキシドデシル]、ピロリン酸トリス[2-(メタ)アクリロイルオキシエチル] 等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
また、ホスホン酸基を有する酸性基含有重合性単量体としては、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチル-3-ホスホノプロピオネ-ト、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスホノプロピオネート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシル-3-ホスホノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスホノアセテート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシル-3-ホスホノアセテート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、カルボキシル基を有する酸性基含有重合性単量体としては、(メタ)アクリル酸、2-クロロアクリル酸、3-クロロ(メタ)アクリル酸、2-シアノアクリル酸、アコニット酸、メサコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、グルタコン酸、シトラコン酸、ウトラコン酸、1,4-ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルピロメリット酸、6-(メタ)アクリロイルオキシナフタレン-1,2,6-トリカルボン酸、1-ブテン-1,2,4-トリカルボン酸、3-ブテン-1,2,3-トリカルボン酸、N-(メタ)アクリロイル-p-アミノ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-5-アミノサリチル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸及びその無水物、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリット酸及びその無水物、2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネ-ト、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレエ-ト、11-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸、p-ビニル安息香酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルオキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルオキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシオクチルオキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシデシルオキシカルボニルフタル酸及びこれらの酸無水物、5-(メタ)アクリロイルアミノペンチルカルボン酸、6-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ヘキサンジカルボン酸、8-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-オクタンジカルボン酸、10-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-デカンジカルボン酸、11-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
また、スルホン酸基を有する酸性基含有重合性単量体としては、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、2-スルホエチル(メタ) アクリレ-ト、4-(メタ)アクリロイルオキシベンゼンスルホン酸、3-(メタ)アクリロイルオキシプロパンスルホン酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、チオリン酸基を有する酸性基含有重合性単量体としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンチオホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンチオホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンチオホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンチオホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンチオホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンチオホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンチオホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンチオホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
以上に示した酸性基含有重合性単量体は、単独で又は数種を組み合わせて成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体を合成するために用いても何ら問題はない。さらに、少なくとも分子内に一つ以上の酸性基を有した酸性基含有重合性単量体と酸性基を有していない重合性単量体とを共重合させて成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体を合成しても何ら問題はない。
これらの酸性基含有重合性単量体の中でも、α-β不飽和カルボン酸系の酸性基含有重合性単量体を用いることが好ましい。このときに用いるα-β不飽和カルボン酸系の酸性基含有重合性単量体は特に限定されず、また分子内に有するカルボキシル基の数やカルボン酸無水物又は他の置換基等の有無に何ら関係なく用いることができる。
これらのα-β不飽和カルボン酸系の酸性基含有重合性単量体を具体的に例示すると、(メタ)アクリル酸、2-クロロアクリル酸、3-クロロ(メタ)アクリル酸、2-シアノアクリル酸、アコニット酸、メサコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、グルタコン酸、シトラコン酸、ウトラコン酸、1-ブテン-1,2,4-トリカルボン酸、3-ブテン-1,2,3-トリカルボン酸等が挙げられる。これらの中でも、アクリル酸のみを出発原料として合成した成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体、或いはアクリル酸とマレイン酸、アクリル酸と無水マレイン酸、アクリル酸とイタコン酸、アクリル酸と1-ブテン-1,2,4-トリカルボン酸、アクリル酸と3-ブテン-1,2,3-トリカルボン酸等、2種類以上を出発原料として合成した成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体を用いることがより好ましく、高い形態維持性を発現させる観点からアクリル酸とマレイン酸、アクリル酸と無水マレイン酸、アクリル酸とイタコン酸、アクリル酸と1-ブテン-1,2,4-トリカルボン酸、アクリル酸と3-ブテン-1,2,3-トリカルボン酸等、アクリル酸とモノマー単位当たりのカルボキシル基の数が多いα-β不飽和カルボン酸系の酸性基含有重合性単量体を出発原料として合成した成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体を用いることが更に好ましく、アクリル酸と1-ブテン-1,2,4-トリカルボン酸の重合体、及び/又はアクリル酸と3-ブテン-1,2,3-トリカルボン酸の重合体であることが特に好ましい。
各種重合性単量体を重合させる方法は特に限定されず、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等のいずれの方法で重合させたものでも何ら制限なく用いることができる。また、重合体の合成時に用いる重合開始剤や連鎖移動剤は、所望の重合体を得るために適宜選択すればよい。このようにして得られた成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体は単独で、又は数種を組み合わせて用いることができる。
【0041】
成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体は重量平均分子量が30000~100000の範囲内でなければならず、50000~80000の範囲内であることが好ましい。ここで、重量平均分子量とはゲル浸透クロマトグラフィーによって測定された分子量分布に基づいて算出された平均分子量である。成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体の重量平均分子量が30000未満になると、練和物の流動性が高くなり、且つ、硬化が緩慢になって、余剰セメントが自重で垂れ流れる場合や、余剰セメントを除去するまでに長時間待たなければならなくなる場合がある。加えて、機械的強度の低下を引き起こす恐れがある。成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体の重量平均分子量が100000を超えると混合練和が困難になる、練和物の粘度が高くなるなど、操作性が低下することがある。更に、操作時間が短くなる場合や、被膜厚さが厚くなるために合着する歯科補綴装置が浮き上がって、適合が悪くなる場合がある。
【0042】
成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体の多分散度は特に制限されないが、1.7以上であることが好ましく、2.5以上であることがより好ましい。成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体の多分散度を1.7以上とすることで本発明の歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物は形態維持性がより高くなり、自重で垂れ流れにくくなる。また、歯科補綴装置を口腔内に装着してから余剰セメントを除去できるようになるまでの時間がより早くなる。
成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体は歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物全体に対して5.0~30.0wt%含まれることが好ましく、10.0~25.0wt%含まれることが更に好ましい。成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体の含有量が5.0wt%未満になると練和物の流動性が高くなり、且つ、硬化が緩慢になって、余剰セメントが自重で垂れ流れる場合や、余剰セメントを除去するまでに長時間待たなければならなくなる場合がある。加えて、機械的強度の低下を引き起こす恐れがある。成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体の含有量が30.0wt%を超えると混合練和が困難になる、練和物の粘度が高くなるなど、操作性が低下することがある。更に、操作時間が短くなる場合や、被膜厚さが厚くなるために合着する歯科補綴装置が浮き上がって、適合が悪くなることがある。
【0043】
成分(c)キレート剤は金属イオンに配位結合し、キレート錯体を形成するものであれば何ら制限なく用いることができる。
成分(c)キレート剤を具体的に例示すると、酒石酸、クエン酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、アコニット酸、トリカルバリール酸、イタコン酸、サリチル酸、1-ブテン-1,2,4-トリカルボン酸、3-ブテン-1,2,3-トリカルボン酸、エチレンジアミンテトラ酢酸、ニトリロトリ酢酸、メリット酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ジヒドロキシ安息香酸等のカルボン酸化合物、リン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸等のリン酸化合物、又は、これらの塩基酸の金属塩等が挙げられる。また、これらの塩基酸、及びその金属塩は単独で、又は数種類を組み合わせて用いることができる。中でも成分(c)キレート剤として酒石酸を用いることが好ましい。
【0044】
成分(c)キレート剤は歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物全体に対して1.0~10.0wt%含まれることが好ましく、2.0~8.0wt%含まれることが更に好ましい。成分(c)キレート剤の含有量が1.0wt%未満になると操作時間が短くなる場合がある。また、成分(c)キレート剤の含有量が10.0wt%を超えると機械的強度の低下を引き起こす恐れがある。
【0045】
成分(d)水は成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体を溶解するための溶媒として機能すると共に、成分(a)酸反応性ガラス粉末から溶出した金属イオンを拡散させ、成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体との架橋反応を誘起するための必須の成分である。
成分(d)水は歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物の硬化性や機械的強度に悪影響を及ぼすような不純物を含有していないものであれば何ら制限なく用いることができる。具体的には蒸留水、又はイオン交換水を用いることが好ましい。
【0046】
成分(d)水は歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物全体に対して10.0~35.0wt%含まれることが好ましく、10.0~25.0wt%含まれることがより好ましく、15.0~25.0wt%含まれることが更に好ましい。成分(d)水の含有量が10.0wt%未満になると相対的に成分(a)酸反応性ガラス粉末や成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体の含有量が増加し、混合練和が困難になる、練和物の粘度が高くなるなど、操作性が低下することがある。加えて、操作時間が短くなる場合や、被膜厚さが厚くなるために合着する歯科補綴装置が浮き上がって、適合が悪くなることがある。成分(d)水の含有量が35.0wt%を超えると組成物の流動性が高くなり、且つ、硬化が緩慢になって、余剰セメントが自重で垂れ流れる場合や、余剰セメントを除去するまでに長時間待たなければならなくなる場合がある。更に、機械的強度の低下を引き起こす恐れがある。
【0047】
本発明の歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物は、硬化前の練和物の塑性流動距離が2mm以下でなければならず、1mm以下であることが好ましく、0mmであることが最も好ましい。塑性流動距離が2mmを超えると、余剰セメントが自重で垂れ流れてしまい、軟組織や舌と接触することで患者に不快感を与えるだけでなく、硬化後の除去作業が煩雑になってしまい、操作性にも悪影響を与える。加えて、感水リスクの増大にも繋がる。
尚、本明細書における塑性流動距離とは、室温23±1℃の環境にて水平で平滑なガラス平面に練和物0.3gを、その直径が10mm以内となるように載せた後、ガラス平面を鉛直にして練和物が硬化するまで静置したときに、練和物が自重で垂れ流れた距離(塑性流動前における練和物の最下端の位置から硬化後の練和物の最下端の位置までの距離)を意味する。
【0048】
本発明の歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物は、余剰セメントの除去可能時間が2分00秒以内でなければならず、1分30秒以内であることが好ましい。余剰セメントの除去可能時間が2分00秒を超えると、塑性流動距離が2mm以下であっても余剰セメントの量が多い場合などに、垂れを効果的に抑制ができない場合がある。加えて、患者は装着した歯科補綴装置を軽く噛んだ状態で待ち続けなければならず、歯科医師も余剰セメントが除去できないため、次のステップに進めない状態が長くなる。
尚、本明細書における余剰セメントの除去可能時間とは、室温23±1℃の環境にて、2つの直方体の樹脂製ブロック(縦12×横16×高さ10mm)の底面で練和物0.3gを挟み、樹脂性ブロック同士を強く押し付けることで練和物を隙間からはみ出させた後、それを練和開始から1分30秒後に37℃-70%の恒温槽に投入した際に、樹脂製ブロックの隙間からはみ出した練和物が一塊で除去できるようになるまでの、恒温槽に投入してからの時間を意味する。
【0049】
本発明の歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物において、前述の特徴を発現させる好ましい各成分の含有量は、組成物全体に対して、
成分(a)平均粒子径が4.5~7.0μmである酸反応性ガラス粉末 30.0~75.0wt%、
成分(b)重量平均分子量が30000~100000である酸性基含有重合性単量体の重合体 5.0~30.0wt%、
成分(c)キレート剤 1.0~10.0wt%、及び
成分(d)水 10.0~35.0wt%
の範囲である。このような含有量範囲で構成した歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物において、硬化前の練和物の塑性流動距離が2mm以下であり、且つ、余剰セメントの除去可能時間が2分00秒以内である場合に、合着時に薄い被膜厚さを発現するにも関わらず、練和物が自重で垂れ流れない形態維持性を有するため、硬化後の余剰セメントの除去性に優れると共に、感水のリスクが少なく、且つ、口腔内に適用後、早いタイミングで余剰セメントの除去が可能である等、合着時の操作性に優れたものとすることができる。
【0050】
より好ましい各成分の含有量は、歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物全体に対して、
成分(a)平均粒子径が4.5~7.0μmである酸反応性ガラス粉末 45.0~75.0wt%、
成分(b)重量平均分子量が30000~100000である酸性基含有重合性単量体の重合体 10.0~25.0wt%、
成分(c)キレート剤 1.0~10.0wt%、及び
成分(d)水 10.0~25.0wt%
の範囲である。このような含有量範囲で構成した歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物において、硬化前の練和物の塑性流動距離が2mm以下であり、且つ、余剰セメントの除去可能時間が2分00秒以内である場合に、上記の効果をより顕著に発現すると共に、物理的特性も優れたものとすることができる。
更に好ましい各成分の含有量は、歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物全体に対して、
成分(a)平均粒子径が4.5~7.0μmである酸反応性ガラス粉末 45.0~70.0wt%、
成分(b)重量平均分子量が30000~100000である酸性基含有重合性単量体の重合体 10.0~25.0wt%、
成分(c)キレート剤 2.0~8.0wt%、及び
成分(d)水 15.0~25.0wt%
の範囲である。このような含有量範囲で構成した歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物において、硬化前の練和物の塑性流動距離が2mm以下であり、且つ、余剰セメントの除去可能時間が2分00秒以内である場合に、上記の効果をより顕著に発現すると共に、操作性や物理的特性に極めて優れ、歯科合着用グラスアイオノマーセメントとして非常に好適なものとすることができる。
【0051】
更に本発明の歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物には諸特性に影響を与えない範囲であれば、練和性を向上させる目的で界面活性剤を含ませることができる。
本発明の歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物に用いることができる界面活性剤は、イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤の何れでもよい。
イオン性界面活性剤を具体的に例示すると、アニオン性界面活性剤としては、ステアリン酸ナトリウム等の脂肪族カルボン酸金属塩類、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等の硫酸化脂肪族カルボン酸金属塩類、ステアリル硫酸エステルナトリウム等の高級アルコール硫酸エステルの金属塩類等が挙げられる。また、カチオン性界面活性剤としては、高級アルキルアミンとエチレンオキサイドの付加物、低級アミンから作られるアミン類、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド等のアルキルトリメチルアンモニウム塩類等が挙げられる。更に両性界面活性剤としては、ステアリルアミノプロピオン酸ナトリウム等の高級アルキルアミノプロピオン酸の金属塩類、ラウリルジメチルベタイン等のベタイン類等が挙げられる。
また、非イオン性界面活性剤としては、高級アルコール類、アルキルフェノール類、脂肪酸類、高級脂肪族アミン類、脂肪族アミド類等にエチレンオキシドやプロピレンオキシドを付加させたポリエチレングリコール型あるいはポリプロピレングリコール型、又は多価アルコール類、ジエタノールアミン類、糖類と脂肪酸がエステル結合した多価アルコール型等を挙げることができる。
以上に記載した界面活性剤はこれらに限定されるものではなく、何ら制限なく用いることができる。また、これらの界面活性剤は単独で、又は数種を組み合わせて用いることができる。
界面活性剤は歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物全体に対して0.001~5.0重量%の範囲で含まれることが好ましい。
【0052】
更に本発明の歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物がペースト状の形態を含む場合、そのペースト性状を調整する目的で、諸特性に悪影響を与えない範囲で増粘剤を含ませることができる。
本発明の歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物には無機増粘剤、有機増粘剤の何れも用いることができる。
無機増粘剤としてはヒュームドシリカ、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、更にサポナイト、モンモリロナイト、バイデライト、バーミキュライト、ソーコナイト、スチブンサイト、ヘクトライト、スメクタイト、ネクタイト、及びセピオライト等の粘度鉱物等が挙げられる。
有機増粘剤としてはメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシポリメチレン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ポリアクリル酸ナトリウム、デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステル、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カーヤガム、アラビアガム、カラヤガム、グアガム等が挙げられる。これらは単独であるいは二種類以上を混合して用いることができる。
増粘剤はペースト中に0.001~10.0wt%の範囲で含まれることが好ましい。
【0053】
本発明の歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物には諸特性に悪影響を与えない範囲であれば操作性、機械的特性、又は硬化特性を調整する目的で非酸反応性粉末を含ませることができる。
本発明の歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物に用いる非酸反応性粉末は、酸性基含有重合性単量体の重合体が有する酸性基がキレート結合する元素を含有しないものであれば特に限定されることなく用いることができる。非酸反応性粉末としては歯科用充填材として公知なもの、例えば無機充填材、有機充填材、及び有機-無機複合充填材等が挙げられ、これらは単独で、又は数種を組み合わせて用いることができる。それらの中でも無機充填材を用いることが特に好ましい。また、これら非酸反応性粉末の形状は特に限定されず、球状、針状、板状、破砕状、鱗片状等の任意の粒子形状のものやそれらの凝集体であってもよく、これらの限定されるものではない。これらの非酸反応性粉末の平均粒子径は特に制限はないが、0.001~30μmの範囲にあることが好ましい。
【0054】
無機充填材を具体的に例示すると石英、無定形シリカ、超微粒子シリカ、酸性基、又は酸性基のアルカリ金属塩がキレート結合する元素を含まない種々のガラス(溶融法によるガラス、ゾル-ゲル法による合成ガラス、気相反応により生成したガラス等を含む)、窒化ケイ素、炭化ケイ素、炭化ホウ素等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
非酸反応性粉末は歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物全体に対して0.001~40wt%の範囲で含まれることが好ましい。
本発明の歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物は粉材/液材、ペースト/液材、ペースト/ペースト等の様々な形態で提供される。尚、保存安定性の観点から成分(a)酸反応性ガラス粉末と成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体、または、成分(a)酸反応性ガラス粉末と成分(c)キレート剤は成分(d)水の存在下で共存しないことが好ましい。
【0055】
粉材/液材の形態としては、
成分(a)酸反応性ガラス粉末を含む粉材と、成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体、成分(c)キレート剤、及び成分(d)水を含む液材との組み合わせ、
成分(a)酸反応性ガラス粉末、及び成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体を含む粉材と、成分(c)キレート剤、及び成分(d)水を含む液材との組み合わせ、
成分(a)酸反応性ガラス粉末、及び(b)酸性基含有重合性単量体の重合体を含む粉材と、成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体、成分(c)キレート剤、及び成分(d)水を含む液材との組み合わせ、
成分(a)酸反応性ガラス粉末、及び成分(c)キレート剤を含む粉材と、成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体、及び成分(d)水を含む液材との組み合わせ、
成分(a)酸反応性ガラス粉末、及び成分(c)キレート剤を含む粉材と、成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体、成分(c)キレート剤、及び成分(d)水を含む液材との組み合わせ、
成分(a)酸反応性ガラス粉末、成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体、及び成分(c)キレート剤を含む粉材と、成分(d)水を含む液材との組み合わせ、
成分(a)酸反応性ガラス粉末、成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体、及び成分(c)キレート剤を含む粉材と、成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体、及び成分(d)水を含む液材との組み合わせ、
成分(a)酸反応性ガラス粉末、成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体、及び成分(c)キレート剤を含む粉材と、成分(c)キレート剤、及び成分(d)水を含む液材との組み合わせ、
成分(a)酸反応性ガラス粉末、成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体、及び成分(c)キレート剤を含む粉材と、成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体、成分(c)キレート剤、及び成分(d)水を含む液材との組み合わせ、
等が提供されるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
ペースト/液材の形態としては成分(a)酸反応性ガラス粉末、及び成分(d)水を含むペーストと、成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体、成分(c)キレート剤、及び成分(d)水を含む液材との組み合わせ等が提供されるが、これに限定されるものではない。
ペースト/ペーストの形態としては(a)酸反応性ガラス粉末、及び成分(d)水を含む第一ペーストと、成分(b)酸性基含有重合性単量体の重合体、成分(c)キレート剤、及び成分(d)水を含む第二ペーストとの組み合わせ等が提供されるが、これに限定されるものではない。
【0057】
また、本発明の歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物は防腐剤、抗菌剤、着色顔料、その他従来公知の添加剤等の成分を必要に応じて任意に含むことができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物の調製に用いた成分の詳細)
実施例、及び比較例の歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物の調製に用いた成分(a)~(d)を表1に示した。
【0059】
【0060】
フルオロアルミノシリケートガラスの製造方法は以下の通りである。
(フルオロアルミノシリケートガラス1の製造方法)
二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、フッ化ナトリウム、炭酸ストロンチウムの各種原料(ガラス組成:SiO2 23.8重量%、Al2O3 16.2重量%、SrO 35.6重量%、Na2O 2.3重量%、F 11.6重量%)を混合した後、これを溶融炉中で1400℃にて溶融した。融液を溶融炉から取り出し、それを水中で急冷することによってガラスを作製した。得られたガラスを粉砕し、酸反応性ガラス粉末を得た。この酸反応性ガラス粉末の平均粒子径をレーザー回折式粒度測定機(マイクロトラックMT3300EXII:日機装社製)により測定した結果、3.4μmであった。
(フルオロアルミノシリケートガラス2~7の製造方法)
フルオロアルミノシリケートガラス2~7は、粉砕によってそれぞれの平均粒子径を表1に示す通りに調整したこと以外は、全てフルオロアルミノシリケートガラス1と同様の方法にて作製した。
【0061】
(アクリル酸-トリカルボン酸共重合体1の製造方法)
アクリル酸70部、3-ブテン-1,2,3-トリカルボン酸30部を水150mL、及びメタノール150部に加え、触媒として過硫酸アンモニウムをモノマー重量に対し2%の割合で添加し、60~70℃に加温し、撹拌しながら4時間重合反応を進行させた。反応終了後、得られた溶液を乾燥させて酸性基含有重合性単量体の重合体(アクリル酸-トリカルボン酸共重合体1)を得た。この酸性基含有単量体の重合体の重量平均分子量、及び多分散度をゲル浸透クロマトグラフィー(GCP-900:日本分光社製)により測定した結果、重量平均分子量23000、多分散度1.64であった。
(アクリル酸-トリカルボン酸共重合体2~7の製造方法)
アクリル酸-トリカルボン酸共重合体2~7は、反応条件を適宜変更することで重量平均分子量、及び多分散度を表1に示す通りに調整したこと以外、全てアクリル酸-トリカルボン酸共重合体1と同様の方法にて作製した。
(ポリアクリル酸1、及び2の製造方法)
ポリアクリル酸1、及び2はモノマーとしてアクリル酸のみを用い、反応条件を適宜変更することで重量平均分子量、及び多分散度を表1に示す通りに調整したこと以外は、全てアクリル酸-トリカルボン酸共重合体1と同様の方法にて作製した。
(粉材、及び液材の調製)
表2に示す通り粉材P1~7を調製した。また、表3に示す割合で各成分を混合し、液材L1~18を調製した。
【0062】
【0063】
【0064】
これらの粉材、及び液材を表4~10に示す組み合わせ、及び粉/液比にて練和した歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物(実施例1~20、比較例1~6)について評価した。評価方法は以下の通りである。尚、評価は全て室温23±1℃、湿度50±10%の環境下にて実施した。
【0065】
(塑性流動距離)
水平で平滑なガラス平面に練和物0.3gを、その直径が10mm以内となるように載せた後、ガラス平面を鉛直にして練和物が硬化するまで静置した。硬化後、練和物が自重で垂れ流れた距離(塑性流動前における練和物の最下端の位置から硬化後の練和物の最下端の位置までの距離)を0.25mm単位で測定した。
(余剰セメントの除去可能時間)
2つの直方体の樹脂製ブロック(縦12×横16×高さ10mm)の底面同士で練和物0.3gを挟み、樹脂性ブロックをお互いに強く押し付けることで練和物を隙間からはみ出させた。それを練和開始から1分30秒後に37℃-70%の恒温槽に投入し、金属製のインスツルメントを用いて15秒毎にはみ出した練和物に触れ、これが一塊で除去できるようになるまでの、恒温槽に投入してからの時間を測定した。
(余剰セメントの垂れ(少量))
実施例、及び比較例に示す歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物の練和物0.3gを樹脂製のクラウン(下顎第一大臼歯)内面に塗布後、直ちに支台歯模型に圧接し、クラウンと支台歯模型の隙間から溢れ出した余剰セメントの様子を観察した。このとき、余剰セメントが全く垂れ流れなかったものをA、余剰セメントが僅かに垂れ流れたものの、硬化後の除去性に悪影響を与えない程度に留まったものをB、硬化後の除去がやや煩雑になる程度に余剰セメントが垂れ流れたものをC、余剰セメントが支台歯模型底面まで垂れ流れたものをDとして評価した。
【0066】
(余剰セメントの垂れ(大量))
実施例、及び比較例に示す歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物の練和物0.6gを樹脂製のクラウン(下顎第一大臼歯)内面に塗布後、直ちに支台歯模型に圧接し、クラウンと支台歯模型の隙間から溢れ出した余剰セメントの様子を観察した。このとき、余剰セメントが全く垂れ流れなかったものをA、余剰セメントが僅かに垂れ流れたものの、硬化後の除去性に悪影響を与えない程度に留まったものをB、硬化後の除去がやや煩雑になる程度に余剰セメントが垂れ流れたものをC、余剰セメントが支台歯模型底面まで垂れ流れたものをDとして評価した。
(練和性)
実施例、及び比較例に示す歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物の粉材と液材を練和したとき、抵抗感が少なく、容易に練和できたものをA、やや抵抗感があるものの、問題なく練和できたものをB、抵抗感が大きく、練和しにくかったものをC、非常に抵抗感が大きく、実質的に練和が困難であったものをDとして評価した。
(練和物の粘度)
実施例、及び比較例に示す歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物の練和物0.3gを樹脂製のクラウン(下顎第一大臼歯)内面に塗布後、直ちに支台歯模型上に置き、練和開始から1分後に550gの荷重を加え、クラウンを支台歯模型に圧接した。このとき、練和物の粘度が十分に低く、クラウンの浮き上がりが全く認められなかったものをA、練和物の粘度がやや低く、目視ではクラウンの浮き上がりが認められないものの、過重負荷後に指で圧接すると僅かに押し込める余地のあったものをB、粘度がやや高く、目視で僅かに浮き上がりが認められたものをC、粘度が著しく高く、目視で明らかな浮き上がりが認められたものをDとして評価した。
【0067】
(被膜厚さ)
ISO 9917-1:2007 被膜厚さ を参考に、以下の手順により被膜厚さを測定した。実施例、及び比較例に示す歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物の練和物を、直径15mmの2枚のガラス板(円形)で挟み、練和開始から1分経過後に150±2Nの垂直応力を加えた。練和物が硬化するまで維持した後、押し広げられた練和物の厚みを測定し、これを被膜厚さとした。尚、歯科合着用グラスアイオノマーセメントにおいては、ISO 9917-1:2007 の要求事項により、25μm以下の被膜厚さを有していなければならない。
(操作時間)
前記被膜厚さ試験の評価方法において、垂直応力を加えるタイミングを練和開始1分後から30秒ずつ変化させることで、練和開始からの経過時間に伴う被膜厚さの変化を調べた。このとき、被膜厚さ25μm以下を維持できる練和開始からの時間を操作時間とした。尚、歯科合着用グラスアイオノマーセメントにおいては、練和開始から少なくとも1分以上の操作時間を有することが望ましい。
(圧縮強さ)
ISO 9917-1:2007 に従って、以下の手順により圧縮強さを測定した。実施例、及び比較例に示す歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物の練和物を、ステンレス製金型(直径4mm×高さ6mm:円柱状)に充填し、37℃湿度100%の恒温恒湿槽中に1時間静置した。1時間後、金型から試験体を取り外し、37℃のイオン交換水に浸漬した。練和終了から24時間後、試験体を取り出し、万能試験機(インストロン5567A:インストロンジャパン社製)を用い、クロスヘッドスピード1mm/min.にて圧縮強さを測定した。尚、歯科合着用グラスアイオノマーセメントにおいては、ISO 9917-1:2007 の要求事項により、50MPa以上の圧縮強さを有していなければならない。
【0068】
(実施例1、比較例1~6)
実施例1、及び比較例1~6に示す歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物の評価結果を表4に示した。
実施例1では余剰セメントが全く垂れ流れず、練和性や練和物の粘度、操作時間、被膜厚さ、圧縮強さに関しても歯科合着用グラスアイオノマーセメントとして望ましい特性を有していた。
比較例1は実施例1における粉材P4(平均粒子径5.3μmのフルオロアルミノシリケートガラス4からなる)の代わりに粉材P1(平均粒子径3.4μmのフルオロアルミノシリケートガラス1からなる)を用いて練和した組成物である。
比較例1では余剰セメントは全く垂れ流れず、良好な圧縮強さを示したものの、練和時の抵抗感が大きく、練和物の粘度が著しく高いことに加え、操作時間が短く、被膜厚さも厚いことが認められた。
比較例2は実施例1における粉材P4(平均粒子径5.3μmのフルオロアルミノシリケートガラス4からなる)の代わりに粉材P7(平均粒子径8.4μmのフルオロアルミノシリケートガラス7からなる)を用いて練和した組成物であり、余剰セメントの除去可能時間が2分00秒を超えるものである。
比較例2では余剰セメントが垂れ流れることが認められた。また、練和性や練和物の粘度、圧縮強さは良好であったものの、操作時間が短く、被膜厚さが厚いことが認められた。
比較例3は実施例1における液材L4(重量平均分子量70000のアクリル酸-トリカルボン酸共重合体4を含む)の代わりに液材L1(重量平均分子量23000のアクリル酸-トリカルボン酸共重合体1を含む)を用いて練和した組成物であり、余剰セメントの除去可能時間が2分00秒を超えるものである。
比較例3では余剰セメントが垂れ流れることが認められた。その他の特性に関しては歯科合着用グラスアイオノマーセメントとして望ましい特性を有していた。
比較例4は実施例1における液材L4(重量平均分子量70000のアクリル酸-トリカルボン酸共重合体4を含む)の代わりに液材L7(重量平均分子量118000のアクリル酸-トリカルボン酸共重合体7を含む)を用いて練和した組成物である。
比較例4では余剰セメントは全く垂れ流れず、良好な圧縮強さを示したものの、練和時の抵抗感が大きく、練和物の粘度が著しく高いことに加え、操作時間が短く、被膜厚さも厚いことが認められた。
比較例5は実施例1における粉液比を1.0/1.0として練和した組成物であり、余剰セメントの除去可能時間が2分00秒を超えるものである。
比較例5では余剰セメントの量が多い場合に垂れ流れることが認められた。その他の特性に関しては歯科合着用グラスアイオノマーセメントとして望ましい特性を有していた。
比較例6は実施例1における粉液比を0.5/1.0として練和した組成物であり、塑性流動距離が2mmを超え、且つ、余剰セメントの除去可能時間が2分00秒を超えるものである。
比較例6では余剰セメントが著しく垂れ流れてしまい、圧縮強さも低いことが認められた。その他の特性に関しては歯科合着用グラスアイオノマーセメントとして望ましい特性を有していた。
【0069】
【0070】
(実施例2~5)
実施例2~5に示す歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物の評価結果を表5に示した。
実施例2は実施例1における粉材P4(平均粒子径5.3μmのフルオロアルミノシリケートガラス4からなる)の代わりに粉材P2(平均粒子径4.5μmのフルオロアルミノシリケートガラス2からなる)を用いて練和した組成物である。
実施例3は実施例1における粉材P4(平均粒子径5.3μmのフルオロアルミノシリケートガラス4からなる)の代わりに粉材P3(平均粒子径5.0μmのフルオロアルミノシリケートガラス3からなる)を用いて練和した組成物である。
実施例4は実施例1における粉材P4(平均粒子径5.3μmのフルオロアルミノシリケートガラス4からなる)の代わりに粉材P5(平均粒子径6.5μmのフルオロアルミノシリケートガラス5からなる)を用いて練和した組成物である。
実施例5は実施例1における粉材P4(平均粒子径5.3μmのフルオロアルミノシリケートガラス4からなる)の代わりに粉材P6(平均粒子径7.0μmのフルオロアルミノシリケートガラス6からなる)を用いて練和した組成物である。
実施例2~5では余剰セメントがほとんど垂れ流れず、その他の特性に関しても歯科合着用グラスアイオノマーセメントとして望ましい特性を有していた。
【0071】
【0072】
(実施例6~9)
実施例6~9に示す歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物の評価結果を表6に示した。
実施例6は実施例1における液材L4(重量平均分子量70000のアクリル酸-トリカルボン酸共重合体4を含む)の代わりに液材L2(重量平均分子量30000のアクリル酸-トリカルボン酸共重合体2を含む)を用いて練和した組成物である。
実施例7は実施例1における液材L4(重量平均分子量70000のアクリル酸-トリカルボン酸共重合体4を含む)の代わりに液材L3(重量平均分子量51000のアクリル酸-トリカルボン酸共重合体3を含む)を用いて練和した組成物である。
実施例8は実施例1における液材L4(重量平均分子量70000のアクリル酸-トリカルボン酸共重合体4を含む)の代わりに液材L5(重量平均分子量79000のアクリル酸-トリカルボン酸共重合体5を含む)を用いて練和した組成物である。
実施例9は実施例1における液材L4(重量平均分子量70000のアクリル酸-トリカルボン酸共重合体4を含む)の代わりに液材L6(重量平均分子量100000のアクリル酸-トリカルボン酸共重合体6を含む)を用いて練和した組成物である。
実施例6~9では余剰セメントがほとんど垂れ流れず、その他の特性に関しても歯科合着用グラスアイオノマーセメントとして望ましい特性を有していた。
【0073】
【0074】
(実施例10)
実施例10に示す歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物の評価結果を表7に示した。
実施例10は実施例1における液材L4(酒石酸を含む)の代わりに液材L10(マレイン酸を含む)を用いて練和した組成物である。
実施例10では余剰セメントが全く垂れ流れず、その他の特性に関しても歯科合着用グラスアイオノマーセメントとして望ましい特性を有していた。
【0075】
【0076】
(実施例11~14)
実施例11~14に示す歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物の評価結果を表8に示した。
実施例11は実施例2における液材L4(アクリル酸-トリカルボン酸共重合体4を40.0wt%、酒石酸を10.0wt%、水を残余量含む)の代わりに液材L12(アクリル酸-トリカルボン酸共重合体6を45.0wt%、酒石酸を3.0wt%、水を残余量含む)を用いて、粉液比を0.5/1.0として練和した組成物である。
実施例12は実施例11における粉液比を1.0/1.0として練和した組成物である。
実施例13は実施例5における液材L4(アクリル酸-トリカルボン酸共重合体4を40.0wt%、酒石酸を10.0wt%、水を残余量含む)の代わりに液材L17(アクリル酸-トリカルボン酸共重合体2を40.0wt%、酒石酸を20.0wt%、水を残余量含む)を用いて、粉液比を3.0/1.0として練和した組成物である。
実施例14は実施例5における液材L4(アクリル酸-トリカルボン酸共重合体4を40.0wt%、酒石酸を10.0wt%、水を残余量含む)の代わりに液材L16(アクリル酸-トリカルボン酸共重合体2を20.0wt%、酒石酸を20.0wt%、水を残余量含む)を用いて、粉液比を3.0/1.0として練和した組成物である。
実施例11~14では余剰セメントがほとんど垂れ流れず、その他の特性に関しても歯科合着用グラスアイオノマーセメントとして望ましい特性を有していた。
【0077】
【0078】
(実施例15、16)
実施例15、16に示す歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物の評価結果を表9に示した。
実施例15は実施例1における液材L4(多分散度が3.16のアクリル酸-トリカルボン酸共重合体4を含む)の代わりに液材L8(多分散度が1.77のポリアクリル酸1を含む)を用いて練和した組成物である。
実施例16は実施例1における液材L4(多分散度が3.16のアクリル酸-トリカルボン酸共重合体4を含む)の代わりに液材L9(多分散度が2.56のポリアクリル酸2を含む)を用いて練和した組成物である。
実施例15、16では余剰セメントがほとんど垂れ流れず、その他の特性に関しても歯科合着用グラスアイオノマーセメントとして望ましい特性を有していた。
【0079】
【0080】
(実施例17~20)
実施例17~20に示す歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物の評価結果を表10に示した。
実施例17は実施例1における液材L4(アクリル酸-トリカルボン酸共重合体4を40.0wt%、酒石酸を10.0wt%、水を残余量含む)の代わりに液材L11(アクリル酸-トリカルボン酸共重合体4を40.0wt%、酒石酸を3.0wt%、水を残余量含む)を用いて練和した組成物である。
実施例18は実施例1における液材L4(アクリル酸-トリカルボン酸共重合体4を40.0wt%、酒石酸を10.0wt%、水を残余量含む)の代わりに液材L13(アクリル酸-トリカルボン酸共重合体4を40.0wt%、酒石酸を6.0wt%、水を残余量含む)を用いて練和した組成物である。
実施例19は実施例1における液材L4(アクリル酸-トリカルボン酸共重合体4を40.0wt%、酒石酸を10.0wt%、水を残余量含む)の代わりに液材L14(アクリル酸-トリカルボン酸共重合体4を30.0wt%、酒石酸を24.0wt%、水を残余量含む)を用いて練和した組成物である。
実施例20は実施例1における液材L4(アクリル酸-トリカルボン酸共重合体4を40.0wt%、酒石酸を10.0wt%、水を残余量含む)の代わりに液材L15(アクリル酸-トリカルボン酸共重合体4を30.0wt%、酒石酸を30.0wt%、水を残余量含む)を用いて練和した組成物である。
実施例17~20では余剰セメントがほとんど垂れ流れず、その他の特性に関しても歯科合着用グラスアイオノマーセメントとして望ましい特性を有していた。
【0081】
【0082】
(実施例21~22)
実施例21~22に示す歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物の評価結果を表11に示した。
実施例21は、実施例14の粉液比を4.0/1.0として練和した組成物である。
実施例22は、実施例2における液材L4(アクリル酸-トリカルボン酸共重合体4を40.0wt%、酒石酸を10.0wt%、水を残余量含む)の代わりに液材L18(アクリル酸-トリカルボン酸共重合体6を51.0wt%、酒石酸を1.0wt%、水を残余量含む)を用いて、粉液比を1.0/3.0として練和した組成物である。
実施例21~22では余剰セメントがほとんど垂れ流れず、その他の特性に関しても歯科合着用グラスアイオノマーセメントとして望ましい特性を有していた。
【0083】
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、合着時に薄い被膜厚さを発現するにも関わらず、練和物が自重で垂れ流れない形態維持性を有するため、硬化後の余剰セメントの除去性に優れると共に、感水のリスクが少なく、且つ、口腔内に適用後、早いタイミングで余剰セメントの除去が可能である等、合着時の操作性に優れた歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物を提供することができる。