(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】医療器具および医療器具の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61L 29/04 20060101AFI20231013BHJP
A61L 29/06 20060101ALI20231013BHJP
A61L 29/08 20060101ALI20231013BHJP
A61L 29/12 20060101ALI20231013BHJP
A61L 29/14 20060101ALI20231013BHJP
A61L 33/06 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
A61L29/04 100
A61L29/04 200
A61L29/06
A61L29/08 100
A61L29/12 100
A61L29/14
A61L33/06 200
(21)【出願番号】P 2019168676
(22)【出願日】2019-09-17
【審査請求日】2022-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】竹村 直人
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-121430(JP,A)
【文献】特開2011-067232(JP,A)
【文献】特開平07-178159(JP,A)
【文献】特開平04-152952(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にシリコーンオイルと下記式(I)で示される構成単位を含む化合物との混合物を含むコーティングを有
し、
前記混合物において、前記シリコーンオイルと前記式(I)で示される構成単位を含む化合物との質量比が、1:0.01~0.1である、カテーテル:
【化1】
式(I)中、R
1は、炭素数1~4のアルキレン基であり、R
2は、炭素数1~4のアルキル基であり、R
3は、水素原子またはメチル基である。
【請求項2】
前記式(I)で示される構成単位を含む化合物がポリメトキシエチルアクリレートである、請求項1に記載の
カテーテル。
【請求項3】
前記混合物により、前記表面の一部のみが被覆されている、請求項1または2に記載のカテーテル。
【請求項4】
前記混合物が架橋型シリコーンをさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の
カテーテル。
【請求項5】
シリコーンオイルと下記式(I)で示される構成単位を含む化合物とを含む混合溶液を基材にコートすることを有
し、
前記混合溶液において、前記シリコーンオイルと前記式(I)で示される構成単位を含む化合物との質量比が、1:0.01~0.1である、カテーテルの製造方法:
【化2】
式(I)中、R
1は、炭素数1~4のアルキレン基であり、R
2は、炭素数1~4のアルキル基であり、R
3は、水素原子またはメチル基である。
【請求項6】
前記混合溶液が架橋型シリコーンをさらに含む、請求項5に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療器具および医療器具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カテーテル、留置針等生体内に挿入される医療器具は、輸液や輸血等を目的として使用されている。このような医療器具として、潤滑性を付与し、穿刺時の摩擦を低減するために、表面をシリコーンで処理したものが知られている。例えば、特許文献1には、アミノ基含有シランとエポキシ基含有シランの反応生成物と、シラノール基を含有するポリジオルガノシロキサンとの反応生成物を主成分とする組成物で表面処理された注射針が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の注射針は、確かに表面をシリコーンでコーティングすることにより、優れた刺通特性を有している。
【0005】
しかし、特許文献1に記載の組成物で血管内に留置される医療器具(例えば、留置カテーテル)の表面をコーティングした場合、優れた刺通特性を示すが、留置時間(例えば、24時間以上)によっては、抗血栓性が十分でないという問題があった。
【0006】
したがって、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、優れた滑り性(特に、刺通特性)を有し、かつ優れた抗血栓性を発揮する医療器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、表面にシリコーンオイルと下記式(I)で示される構成単位を含む化合物との混合物を含むコーティングを有する医療器具により上記課題が解決することを見出した。
【0008】
【0009】
式(I)中、R1は、炭素数1~4のアルキレン基であり、R2は、炭素数1~4のアルキル基であり、R3は、水素原子またはメチル基である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた滑り性(特に、刺通特性)を有し、かつ優れた抗血栓性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例および比較例で使用した血液循環実験の概略図である。
【
図2】
図2は、実施例および比較例で作製したカテーテルの表面を示すレーザー顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一形態に係る実施の形態を説明する。本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0013】
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(25±1℃)/相対湿度40~50%RHの条件で行う。
【0014】
<医療器具>
本発明の一形態は、表面にシリコーンオイルと下記式(I)で示される構成単位を含む化合物との混合物を含むコーティングを有する医療器具である。
【0015】
【0016】
式(I)中、R1は、炭素数1~4のアルキレン基であり、R2は、炭素数1~4のアルキル基であり、R3は、水素原子またはメチル基である。
【0017】
医療器具が、その表面にシリコーンオイルと上記式(I)で示される構成単位を含む化合物との混合物を含むコーティングを有することにより、優れた刺通特性を有し、かつ優れた抗血栓性を発揮することができる。このような効果が達成しうる理由は不明であるが、以下のように推測される。
【0018】
医療器具が、その表面において滑り性を有するシリコーンオイルと、抗血栓性を有する上記化合物との混合物が適度なサイズの分散(相分離)状態を形成することにより、両者の性質を備えることができる。さらに抗血栓性においてはシリコーンオイル(疎水性)と上記化合物(親水性)との混合物が分散していることで、性能をより高めると考えられる。
【0019】
なお、上記メカニズムは推定であり、本発明は上記推定によって限定されない。
【0020】
本明細書において、医療器具の「表面」とは、医療器具が使用される際に血液などが接触する医療器具を構成する材料の表面および材料内の孔の表面部分をいう。例えば、医療器具が留置カテーテルである場合、表面は、外表面および/または内表面を意味する。
【0021】
[コーティング]
本形態の医療器具は、表面にシリコーンオイルと上記式(I)で示される構成単位を含む化合物との混合物を含むコーティングを有する。本明細書において、コーティングとは、医療器具の表面の少なくとも一部がシリコーンオイルと上記式(I)で示される構成単位を含む化合物との混合物により被覆されていることを意味する。すなわち、本形態の医療器具の表面は、シリコーンオイルと式(I)で示される構成単位を含む化合物との混合物により、表面の一部のみが被覆されていてもよく、表面全体が被覆されていてもよい。好ましい実施形態では、医療器具の表面は、本発明の効果をより発揮するとの観点から、前記混合物により、表面の一部のみが被覆されていることが好ましい。
【0022】
本明細書において、「表面が被覆される」とは、医療器具の表面にシリコーンオイルと式(I)で示される構成単位を含む化合物との混合物を含む構造が形成されている状態を含む。当該構造としては、網目構造、海島構造などが例示できる。医療器具の表面に形成された構造は、レーザー顕微鏡(例えば、対物レンズ150倍)で観察することにより確認できる。
【0023】
(シリコーンオイル)
本形態に係る混合物は、シリコーンオイルを含む。
【0024】
シリコーンオイルとしては、例えばジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、カルボキシ変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイルなどが挙げられる。シリコーンオイルは、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイルおよびメチルハイドロジェンシリコーンオイルの少なくとも1種であることが好ましく、ジメチルシリコーンオイルがより好ましい。
【0025】
また、シリコーンオイルとして、市販品を使用することができる。使用可能な市販品としては、SH-200、SH510、SH550、SH710(東レ・ダウコーニング株式会社製)、KF-96、KF-96H、KF-965、KF-968、KF-50、KF-53、KF-54(信越化学工業株式会社製)、TSF451、TSF431、TSF433、TSF4300(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)、WACKER(登録商標) SILICONE FLUID AK、AKF、AKC、AR(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製)などが使用できる。
【0026】
シリコーンオイルは、1種単独でも、2種以上組み合わせても使用することができる。
【0027】
(式(I)で示される構成単位を含む化合物)
本形態に係る混合物は、下記式(I)で示される構成単位を含む化合物を含む。
【0028】
【0029】
上記式(I)中、R1は、炭素数1~4のアルキレン基であり、R2は、炭素数1~4のアルキル基であり、R3は、水素原子またはメチル基である。
【0030】
上記式(I)において、R1は、炭素数1~4の環状、直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、炭素数1~4の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であることが好ましい。具体的には、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、シクロプロピレン基、テトラメチレン基、シクロブチレン基などが挙げられる。これらのうち、抗血栓性の向上効果を考慮すると、炭素数1~3の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であることが好ましく、メチレン基またはエチレン基であることが特に好ましい。
【0031】
上記式(I)において、R2は、炭素数1~4の環状、直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、炭素数1~4の直鎖または分岐鎖のアルキル基であることが好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基などが挙げられる。これらのうち、抗血栓性の向上効果を考慮すると、炭素数1~3の直鎖または分岐鎖のアルキル基であることが好ましく、メチル基またはエチル基であることがより好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
【0032】
上記式(I)において、R3は、水素原子またはメチル基であり、水素原子であることが好ましい。
【0033】
式(I)で示される構成単位を含む化合物は、さらに他の構成単位を有していてもよい。すなわち、式(I)で示される構成単位を含む化合物は、上記式(I)で示される構成単位と、他の構成単位とを含む共重合体であってもよい。当該「他の構成単位」の構造は、本発明の所期の効果が得られる限りにおいて特に制限されないが、例えば、以下で詳説する「他の単量体」に由来する構造であると好ましい。式(I)で示される構成単位を含む化合物が共重合体の場合、その構造も特に制限されず、ランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよい。
【0034】
式(I)で示される構成単位を含む化合物は、優れた抗血栓性および生体適合性を得るという観点から、上記式(I)で示される構成単位のみからなる重合体であると好ましく、さらには、1種の単量体に由来する単独重合体(ホモポリマー)であるとより好ましい。かような重合体の具体例としては、好適に、ポリ2-メトキシエチル(メタ)アクリレート(ポリメトキシエチル(メタ)アクリレート)、ポリメトキシメチル(メタ)アクリレート、ポリエトキシメチル(メタ)アクリレート、ポリエトキシエチル(メタ)アクリレート、ポリブトキシメチル(メタ)アクリレート、ポリブトキシエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、水およびアルコールの混合溶媒への溶解性の観点から、ポリメトキシエチルアクリレート(「ポリ2-メトキシエチルアクリレート」または「PMEA」とも称する。)がより好ましい。本明細書中、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレートおよび/またはメタアクリレート」を意味する。
【0035】
式(I)で示される構成単位を含む化合物は、1種単独でも、2種以上組み合わせても使用することができる。
【0036】
式(I)で示される構成単位を含む化合物の重量平均分子量は、例えば1万~200万であり、好ましくは5万~100万である。重量平均分子量は、標準物質としてポリスチレン、移動相としてテトラヒドロフラン(THF)を用いたゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography、GPC)により測定した値を採用する。
【0037】
式(I)で示される構成単位を含む化合物の製造方法は特に制限されないが、例えば、下記式(II)で示される単量体を重合させることによって製造することができる。
【0038】
【0039】
式(II)において、置換基R1’、R2’およびR3’はそれぞれ、式(I)中のR1、R2およびR3の定義と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0040】
式(II)で示される単量体としては、具体的には、メトキシメチルアクリレート、メトキシエチルアクリレート(MEA)、メトキシプロピルアクリレート、メトキシブチルアクリレート、エトキシメチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、エトキシプロピルアクリレート、エトキシブチルアクリレート、プロポキシメチルアクリレート、プロポキシエチルアクリレート、プロポキシプロピルアクリレート、プロポキシブチルアクリレート、ブトキシメチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、ブトキシプロピルアクリレート、ブトキシブチルアクリレート、メトキシメチルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、メトキシプロピルメタクリレート、メトキシブチルメタクリレート、エトキシメチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレート、エトキシプロピルメタクリレート、エトキシブチルメタクリレート、プロポキシメチルメタクリレート、プロポキシエチルメタクリレート、プロポキシプロピルメタクリレート、プロポキシブチルメタクリレート、ブトキシメチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート、ブトキシプロピルメタクリレート、ブトキシブチルメタクリレートが挙げられる。これらの中で、メトキシメチルアクリレート、メトキシエチルアクリレート(MEA)、エトキシメチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、メトキシメチルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、エトキシメチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレートが好ましく、また、入手が容易であるという観点から、メトキシエチルアクリレートがより好ましい。また、これらの単量体を1種単独で、または2種以上を混合して用いることもできる。
【0041】
また、式(II)で示される単量体に加え、さらに、式(II)で示される単量体と共重合可能な他の単量体(以下、単に「他の単量体」とも称する。)を用いてもよい。式(II)で示される単量体と共重合可能な他の単量体としては、例えば、アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、アミノメチルアクリレート、アミノエチルアクリレート、アミノイソプロピルアクリレート、ジアミノメチルアクリレート、ジアミノエチルアクリレート、ジアミノブチルアクリレート、メタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N,N-ジエチルメタクリルアミド、アミノメチルメタクリレート、アミノエチルメタクリレート、ジアミノメチルメタクリレート、ジアミノエチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、エチレン、プロピレン等がある。
【0042】
式(I)で示される構成単位を含む化合物を製造する方法としては特に制限されないが、例えば、式(II)で示される単量体を重合溶媒に溶解させ、得られた溶液を、別途調製した重合開始剤溶液と混合して重合反応液を調製し、重合反応を行うと好ましい。
【0043】
ここで、重合溶媒としては、式(II)で示される単量体を溶解できるものであれば、特に限定されないが、メタノールを主成分として含むものが好ましい。なお、「主成分として」とは、メタノール溶液に用いられる溶媒全体のうち、95質量%以上、好ましくは99質量%以上(上限100質量%)がメタノールであることをいう。「メタノール溶液」に含まれるメタノール以外の重合溶媒としては、例えば、水;エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等のアルコール類;クロロホルム、テトラヒドロフラン、アセトン、ジオキサン、ベンゼン等の有機溶媒等から選択される1種または2種以上が挙げられるが、これらに限定されない。また、重合溶媒に含まれる式(II)で示される単量体の濃度は、特に制限されないが、濃度を比較的高く設定することによって、得られる式(I)で示される構成単位を含む化合物の重量平均分子量を大きくすることができる。このため、式(I)で示される構成単位を含む化合物の重量平均分子量を調整する観点から、重合溶媒中の式(II)で示される単量体濃度は、25質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。また、単量体濃度の上限は特に制限されないが、例えば飽和濃度以下であり、例えば90質量%以下であり、好ましくは70質量%以下である。
【0044】
また、式(II)で示される単量体を添加した重合溶媒を、重合開始剤の添加前に、30~70℃程度の温度下で、脱気処理を行ってもよい。脱気処理は、例えば、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスで0.5~5時間程度バブリングすればよい。
【0045】
また、式(I)で示される構成単位を含む化合物を製造する際に用いられる重合開始剤としては、特に制限されず、公知のものを使用できる。好ましくは、重合安定性に優れる点で、ラジカル重合開始剤が用いられ、具体的には、過硫酸カリウム(KPS)、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;過酸化水素、t-ブチルパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジスルフェートジハイドレート、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン)]ハイドレート、3-ヒドロキシ-1,1-ジメチルブチルパーオキシネオデカノエート、α-クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3-テトラブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t-ブチルパーオキシピバレート、t-アミルパーオキシネオデカノエート、t-アミルパーオキシピバレート、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(s-ブチル)パーオキシジカーボネート、アゾビスシアノ吉草酸等のアゾ化合物が挙げられる。また、例えば、上記ラジカル重合開始剤に、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸等の還元剤を組み合わせてレドックス系開始剤として用いてもよい。重合開始剤の配合量は、100質量部の式(II)で示される単量体(複数種の単量体を用いる場合は、その全体)に対して、好ましくは0.005~2質量部であり、より好ましくは0.01~2質量部である。かような重合開始剤の配合量であれば、所望の重量平均分子量を有する式(I)で示される構成単位を含む化合物がより効率よく製造できる。
【0046】
また、上記重合開始剤は、式(II)で示される単量体および重合溶媒とそのまま混合されてもよいが、予め他の溶媒に溶解した溶液(開始剤溶液)の形態で、式(II)で示される単量体および重合溶媒とそのまま混合されてもよい。後者の場合、他の溶媒としては、重合開始剤を溶解できるものであれば特に制限されないが、上記重合溶媒と同様の溶媒が例示できる。また、いずれの場合も、重合開始剤と、式(II)で示される単量体と、溶媒(重合溶媒および必要に応じて使用される他の溶媒(開始剤溶液の溶媒)を合わせた溶媒)とを合わせて、上記の「重合反応液」となる。式(II)で示される単量体の当該重合反応液における濃度は、特に制限されないが、式(I)で示される構成単位を含む化合物の重量平均分子量を調整する観点から、重合反応液中の式(II)で示される単量体濃度は、25質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。また、上限は特に制限されないが、例えば飽和濃度以下であり、例えば90質量%以下であり、好ましくは70質量%以下である。また、他の溶媒は、上記重合溶媒と同じであってもまたは異なってもよいが、重合の制御のしやすさなどを考慮すると、上記重合溶媒と同じ溶媒であることが好ましい。
【0047】
本発明において、式(II)で示される単量体を含む重合反応液を加熱することにより、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートまたはアルコキシアルキル(メタ)アクリレートおよび他の単量体を(共)重合することができる。ここで、重合方法は、例えば、上記のラジカル重合の他、アニオン重合、カチオン重合などの公知の重合方法が採用でき、好ましくは製造が容易なラジカル重合を使用する。
【0048】
重合条件は、式(II)で示される単量体が重合できる条件であれば特に制限されない。具体的には、重合温度は、好ましくは30~60℃であり、より好ましくは40~55℃である。また、重合時間は、好ましくは1~24時間であり、好ましくは3~12時間である。かような条件であれば、上記したような高分子量の重合体がより効率的に製造できる。また、重合工程におけるゲル化を有効に抑制・防止すると共に、高い製造効率を達成できる。
【0049】
また、必要に応じて、連鎖移動剤、重合速度調整剤、界面活性剤、およびその他の添加剤を、重合の際に適宜使用してもよい。
【0050】
重合反応を行う雰囲気は特に制限されるものではなく、大気雰囲気下、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下等で行うこともできる。また、重合反応中は、反応液を攪拌してもよい。
【0051】
重合後の重合体は、再沈殿法、透析法、限外濾過法、抽出法など一般的な精製法により精製することができる。コロイド溶液の調製に適した(共)重合体が得られるという理由から、上記の中でも、再沈殿法による精製を行うと好ましい。このとき、再沈殿を行うために用いる貧溶媒としては、エタノールを用いると好ましい。
【0052】
精製後の重合体(すなわち、式(I)で示される構成単位を含む化合物)は、凍結乾燥、減圧乾燥、噴霧乾燥、または加熱乾燥等、任意の方法によって乾燥することもできるが、重合体の物性に与える影響が小さいという観点から、凍結乾燥または減圧乾燥が好ましい。
【0053】
上述の製造方法によって、上記式(I)で示される構成単位を含む化合物を得ることができる。
【0054】
本形態に係る混合物において、シリコーンオイル(2種以上使用する場合は、その合計量)と式(I)で示される構成単位を含む化合物(2種以上使用する場合は、その合計量)との質量比は、本発明の効果をより発揮するとの観点から、好ましくは1:0.0001~1であり、より好ましくは1:0.005~0.5であり、さらに好ましくは1:0.01~0.1である。
【0055】
(架橋型シリコーン)
本形態に係る混合物は、形態の安定性の観点から、架橋型シリコーンをさらに含むことが好ましい。
【0056】
架橋型シリコーンは、三次元の結合を含むシリコーン類である。架橋型シリコーンの具体例としては、特公昭61-35870号公報または特公昭62-52796号公報に記載のアミノ基含有シランとエポキシ基含有シランとの反応生成物と、シラノール基を含有するポリジオルガノシロキサンとの反応生成物、特公昭46-3627号公報に記載のアミノアルキルシロキサンとジメチルシロキサンとの共重合体などが挙げられる。
【0057】
アミノ基含有シランとしては、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-(β-アミノエチル)アミノメチルトリメトキシシラン、γ-(β-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(N-(β-アミノエチル)アミノ)プロピルメチルジメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)アミノメチルトリブトキシシラン、γ-(N-(β-(N-(β-アミノエチル)アミノ)エチル)アミノ)プロピルトリメトキシシランなどが例示される。
【0058】
エポキシ基含有シランとしては、γ-グリシドキシプロルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロメチルジメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジエトキシシランなどが例示される。
【0059】
シラノール基を含有するポリジオルガノシロキサンは、1分子中に少なくとも1個のシラノール基を有する。シラノール基を含有するポリジオルガノシロキサンの粘度は、25℃において、0.00002~1m2/sであり、好ましくは0.0001~0.1m2/sである。粘度が0.00002m2/s以上であると、十分な刺通性を得ることができる。粘度が1m2/s以下であると、硬化前の取り扱いが容易となる。シラノール基のケイ素原子に結合する有機基としては、メチル基等のアルキル基、フェニル基、ビニル基などが挙げられる。前記有機基は、ポリジオルガノシロキサンの合成の容易さの観点から、好ましくはメチル基またはフェニル基であり、より好ましくはメチル基である。シラノール基を含有するポリジオルガノシロキサンの具体例としては、片末端がシラノール基で閉塞され、他端がトリメチルシリル基で閉塞されたポリジメチルシロキサン、両末端がシラノール基で閉塞されたポリジメチルシロキサン、両末端がシラノール基で閉塞されたポリメチルフエニルシロキサンなどが挙げられる。
【0060】
アミノ基含有シランとエポキシ基含有シランとの反応生成物は、アミノ基含有シランとエポキシ基含有シランとを撹拌しながら加熱して反応させることで得ることができる。
【0061】
アミノ基含有シランとエポキシ基含有シランとの反応比は、アミノ基含有シラン1モルに対し、エポキシ基含有シラン0.5~3.0モル、好ましくは0.75~1.5モルである。
【0062】
アミノ基含有シランとエポキシ基含有シランとの反応生成物(A成分)と、シラノール基を含有するポリジオルガノシロキサン(B成分)との反応生成物は、A成分とB成分とを、必要に応じて溶媒を使用して、加熱しながら反応させることで得ることができる。A成分とB成分との配合比は、A成分とB成分との合計に対して、A成分が0.1~10質量%であり、B成分が90~99.9質量%である。前記配合比は、好ましくはA成分が1~5質量%であり、B成分が95~99質量%である。
【0063】
また、架橋型シリコーンとして、市販品を使用することができる。使用可能な市販品としては、MDX4-4159(ダウケミカル社製)などが挙げられる。
【0064】
架橋型シリコーンは、1種単独でも、2種以上組み合わせても使用することができる。
【0065】
本形態に係る混合物が架橋型シリコーンをさらに含む場合、本発明の効果をより発揮するとの観点から、架橋型シリコーン(2種以上使用する場合は、その合計量)およびシリコーンオイル(2種以上使用する場合は、その合計量)の合計量と式(I)で示される構成単位を含む化合物(2種以上使用する場合は、その合計量)との質量比は、好ましくは1:0.0001~1であり、より好ましくは1:0.005~0.5であり、さらに好ましくは1:0.01~0.1である。また、シリコーンオイル(2種以上使用する場合は、その合計量)と架橋型シリコーン(2種以上使用する場合は、その合計量)との質量比は、好ましくは1:10~10:1、より好ましくは1:5~5:1であり、さらに好ましくは1:2~2:1である。
【0066】
(その他の成分)
本形態に係るコーティングは、上記以外の成分(その他の成分)をさらに含むことができる。その他の成分としては、薬理作用のある薬剤で徐放性のあるもの、例えば、抗菌剤、抗血栓性剤などが挙げられる。
【0067】
[医療器具]
本形態の医療器具としては、体液や血液などと接触して用いる器具が挙げられる。上述のとおり、医療器具の表面がシリコーンオイルと上記式(I)で示される構成単位を含む化合物との混合物を含むコーティングを有することにより、優れた滑り性を有し、かつ優れた抗血栓性を発揮することができる。そのため、本形態の医療器具は、滑り性および/または抗血栓性を要求されるものであれば、いずれの用途で使用されてもよい。例えば、カテーテル、シース、カニューレ、針、三方活栓、ガイドワイヤなどが挙げられる。また、他の例としては、血液回路、人工透析器、人工(補助)心臓、人工肺、留置針、人工腎臓、ステントなどが挙げられる。血管などの体腔に挿入や留置をする医療器具の場合は、体腔と接触する際に滑り性を向上させるために当該器具の少なくとも一部の外表面に上記構造を有することができる。カテーテル、シースなど、内部空間に他の器具を挿入する医療器具の場合は、他の器具を挿入する際の滑り性を向上させるために、内部空間の少なくとも一部の表面に上記構造を有することができる。特に、本形態の医療器具は、滑り性、特に刺通特性と抗血栓性とを両立できるため、留置カテーテルとして好適に使用される。
【0068】
<医療器具の製造方法>
本発明の別の形態は、シリコーンオイルと下記式(I)で示される構成単位を含む化合物とを含む混合溶液を基材にコートすることを有する、医療器具の製造方法である。
【0069】
【0070】
式(I)中、R1は、炭素数1~4のアルキレン基であり、R2は、炭素数1~4のアルキル基であり、R3は、水素原子またはメチル基である。
【0071】
(混合溶液)
本形態に係る混合溶液は、シリコーンオイルと、下記式(I)で示される構成単位を含む化合物と、必要に応じて架橋型シリコーンとを含む。
【0072】
シリコーンオイル、上記式(I)で示される構成単位を含む化合物および架橋型シリコーンについては、上記医療器具の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0073】
混合溶液の調製方法は、特に制限されず、例えば溶媒にシリコーンオイルおよび式(I)で示される構成単位を含む化合物、ならびに必要に応じて架橋型シリコーンを溶解して作製することができる。溶媒としては、シリコーンオイルおよび式(I)で示される構成単位を含む化合物を溶解できるものであれば特に制限されない。例えば、シリコーンオイルとしてジメチルシリコーンオイル、式(I)で示される構成単位を含む化合物としてポリメトキシエチルアクリレートおよび必要に応じて架橋型シリコーンとしてアミノ基含有シランとエポキシ基含有シランとの反応生成物と、シラノール基を含有するポリジオルガノシロキサンとの反応生成物を用いる場合、溶媒としては、ジクロロペンタフルオロプロパン、塩化メチレン、ハイドロクロロフルオロオレフィン、トランス-1,2-ジクロロエチレン、クロロホルムなどを使用できる。
【0074】
好ましい実施形態では、混合溶液は、本発明の効果をより発揮するとの観点から、シリコーンオイルおよび式(I)で示される構成単位を含む化合物に加えて、架橋型シリコーンをさらに含む。
【0075】
混合溶液中のシリコーンオイルの濃度は、特に制限されないが、例えば0.1~20w/v%であり、好ましくは1~10w/v%である。2種類以上のシリコーンオイルを使用した場合、前記シリコーンオイルの濃度は、それらの合計濃度である。
【0076】
混合溶液中の式(I)で示される構成単位を含む化合物の濃度は、上記シリコーンオイルと式(I)で示される構成単位を含む化合物との質量比を満たすように、適宜調製することができる。
【0077】
混合溶液が架橋型シリコーンをさらに含む場合、架橋型シリコーンの濃度は、上記架橋型シリコーンおよび上記シリコーンオイルの合計量と式(I)で示される構成単位を含む化合物との質量比、および上記シリコーンオイルと架橋型シリコーンとの質量比を満たすように、適宜調製することができる。
【0078】
(基材)
医療器具の基材の材質としては、特に制限されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-α-オレフィン共重合体等のポリオレフィンや変性ポリオレフィン;ポリアミド;ポリイミド;ポリウレタン;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキサンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート等のポリエステル;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン(PVDC);ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素樹脂等の各種高分子材料、金属、セラミック、カーボン、およびこれらの複合材料等が例示できる。上記の高分子材料は延伸処理がなされたもの(例えば、ePTFE)であっても良い。
【0079】
基材の形状は医療器具の用途等に応じて適宜選択され、例えば、チューブ状、シート状、ロッド状等の形状をとりうる。基材の形態は、上記のような材料を単独で用いた成形体に限定されず、ブレンド成形物、アロイ化成形物、多層化成形物などでも使用可能である。基材は単層であっても、積層されていてもよい。この際、基材が積層されている場合には、各層の基材は同じものであっても、異なるものであってもよい。
【0080】
(コート)
混合溶液を基材にコートする方法は、特に制限されず、塗布・印刷法、浸漬法(ディッピング法、ディップコート法)、噴霧法(スプレー法)、スピンコート法、混合溶液含浸スポンジコート法など、従来公知の方法を使用できる。
【0081】
本形態の好ましい実施形態では、混合溶液を基材にコートする方法は、浸漬法(ディッピング法)である。浸漬温度は、特に制限されず、例えば10~50℃であり、好ましくは、15~40℃である。浸漬時間は、特に制限されず、例えば10秒~30分である。
【0082】
なお、カテーテル、ガイドワイヤ、注射針等の細く狭い内面にコーティングを形成させる場合、混合溶液中に基材を浸漬して、系内を減圧にして脱泡させてもよい。減圧にして脱泡させることにより、細く狭い内面に素早く溶液を浸透させ、コーティングの形成を促進できる。
【0083】
混合溶液中に基材を浸漬した後は、基材を取り出して、乾燥処理を行う。基材を引き上げる際の速度は、特に制限されず、例えば1~50mm/secである。乾燥条件(温度、時間など)は、基材の表面にコーティングを形成できる条件であれば、特に制限されない。具体的には、乾燥温度は、好ましくは20~150℃である。乾燥時間は、好ましくは20分~2時間、より好ましくは30分~1時間である。
【0084】
乾燥時の圧力条件も何ら制限されるものではなく、常圧(大気圧)下で行うことができるほか、加圧ないし減圧下で行ってもよい。
【0085】
乾燥手段(装置)としては、例えば、オーブン、減圧乾燥機などを利用することができるが、自然乾燥の場合には、特に乾燥手段(装置)は不要である。
【0086】
上記方法により、表面にシリコーンと式(I)で示される構成単位を含む化合物との混合物を含むコーティングを有する医療器具を製造できる。
【実施例】
【0087】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。特記しない限り、操作は室温(25℃)で行った。また、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0088】
(カテーテル基材の作製)
ポリウレタン樹脂(日本ミラクトン社製)を用いて押出成型を行い、その後100℃で1時間アニール処理を行い、カテーテル基材を作製した。
【0089】
(ポリメトキシエチルアクリレート(PMEA)の作製)
メトキシエチルアクリレート(MEA)100g(0.77mol)を95gのメタノールに溶解し、四ツ口フラスコに入れ、50℃でN2バブリングを1時間行い、メタノール溶液を調製した(メタノール溶液調製工程)。その後、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(V-70、富士フイルム和光純薬株式会社製、10時間半減期温度:30℃)0.1gを5gのメタノールに溶解した開始剤溶液を、MEAを溶解したメタノール溶液に加えて重合反応液(重合反応液の単量体含量:50質量%)を調製した。重合反応液を攪拌しつつ、窒素ガス雰囲気下にて50℃で5時間重合させた。重合後の液をエタノールに滴下し、析出した重合体を回収した。なお、回収した重合体(PMEA)の重量平均分子量は、40万であった。
【0090】
重量平均分子量は、ポリスチレンを標準物質とするゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography、GPC)により測定した。具体的には、製造した重合体をTHF(テトラヒドロフラン)に溶解し、濃度:1mg/mlの溶液を調製し、株式会社島津製作所製GPCシステムLC-20にShodex(登録商標) GPCカラムLF-804(昭和電工株式会社製)を取り付け、移動相としてTHFを流し、標準ポリスチレンおよび重合体(PMEA)のGPCを測定した。標準ポリスチレンで較正曲線を作成した後、当該重合体の重量平均分子量を算出した。
【0091】
(実施例1)
上記で作製したPMEA(重量平均分子量40万)とシリコーンオイル(メディカルフルイド360、ダウコーニング株式会社製)と特公昭61-35870号公報に記載のコーティング剤調製例1に基づいて作られた架橋型シリコーンとをそれぞれ濃度が0.1w/v%と3w/v%と3w/v%とになるようアサヒクリンAK225(ジクロロペンタフルオロプロパン;旭硝子株式会社製)に溶解して、混合溶液を作製した。この混合溶液に、株式会社アイエイアイ製ロボシリンダーを用いて、上記で作製したカテーテル基材を10秒間浸漬し、速度5mm/secで引き上げ、60℃で30分乾燥して、カテーテルを作製した。作製したカテーテルをレーザー顕微鏡(対物レンズ150倍)を用いて確認したところ、PMEAとシリコーンオイルと架橋型シリコーンとの混合物が分散している状態を形成していた(
図2)。
【0092】
(実施例2)
上記で作製したPMEA(重量平均分子量40万)とシリコーンオイル(メディカルフルイド360、ダウコーニング株式会社製)とをそれぞれ濃度が0.1w/v%と3w/v%とになるようアサヒクリンAK225(旭硝子株式会社製)に溶解して、混合溶液を作製した。この混合溶液に、株式会社アイエイアイ製ロボシリンダーを用いて、上記で作製したカテーテル基材を10秒間浸漬し、速度5mm/secで引き上げ、60℃で30分乾燥して、カテーテルを作製した。作製したカテーテルをレーザー顕微鏡(対物レンズ150倍)を用いて確認したところ、PMEAとシリコーンオイルとの混合物が分散している状態を形成していた(
図2)。
【0093】
(比較例1)
上記で作製したPMEA(重量平均分子量40万)を濃度が0.1w/v%になるようアサヒクリンAK225(旭硝子株式会社製)に溶解して、溶液を作製した。この溶液に、株式会社アイエイアイ製ロボシリンダーを用いて、上記で作製したカテーテル基材を10秒間浸漬し、速度5mm/secで引き上げ、60℃で30分乾燥して、比較カテーテルを作製した。作製したカテーテルをレーザー顕微鏡(対物レンズ150倍)を用いて確認したところ、ほぼ均一な表面状態であった(
図2)。
【0094】
(比較例2)
シリコーンオイル(メディカルフルイド360、ダウコーニング株式会社製)と特公昭61-35870号公報に記載のコーティング剤調製例1に基づいて作られた架橋型シリコーンとをそれぞれ濃度が3w/v%と3w/v%とになるようアサヒクリンAK225(旭硝子株式会社製)に溶解して、混合溶液を作製した。この混合溶液に、株式会社アイエイアイ製ロボシリンダーを用いて、上記で作製したカテーテル基材を10秒間浸漬し、速度5mm/secで引き上げ、60℃で30分乾燥して、比較カテーテルを作製した。作製したカテーテルをレーザー顕微鏡(対物レンズ150倍)を用いて確認したところ、ほぼ均一な表面状態であった(
図2)。
【0095】
(比較例3)
シリコーンオイル(メディカルフルイド360、ダウコーニング株式会社製)を濃度が3w/v%になるようアサヒクリンAK225(旭硝子株式会社製)に溶解して、溶液を作製した。この溶液に、株式会社アイエイアイ製ロボシリンダーを用いて、上記で作製したカテーテル基材を10秒間浸漬し、速度5mm/secで引き上げ、60℃で30分乾燥して、比較カテーテルを作製した。作製したカテーテルをレーザー顕微鏡(対物レンズ150倍)を用いて確認したところ、ほぼ均一な表面状態であった。
【0096】
<評価>
[刺通抵抗評価]
実施例1~2のカテーテルおよび比較例1~3の比較カテーテルについて、刺通抵抗(胴部抵抗)を測定した。具体的には、外径0.8mm、内径1.1mmのカテーテルに内針を組み込み、株式会社島津製作所製小型卓上試験機EZ-1を用いて、厚さ50μmのポリエチレンフィルムに角度90度、速度30mm/minで穿刺し、針先から10mm通過後の最大抵抗値を測定し、胴部抵抗とした。結果を表1に示す。
【0097】
[抗血栓性評価]
実施例1~2のカテーテルおよび比較例1~3の比較カテーテルについて、ヘキサンに浸漬することにより洗浄した後、
図1に示す系にて3時間の血液循環実験を行った。循環後、カテーテルの表面に付着した血栓量を測定した(蛋白定量)。結果を表1に示す。
【0098】
【0099】
表1に示すように、実施例のカテーテルは、比較例の比較カテーテルに比べて、優れた滑り性、具体的には刺通特性を有し、かつ優れた抗血栓性を発揮することが分かる。