(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】車両用制御装置およびそれを備えた不整地走行車両
(51)【国際特許分類】
F16D 48/02 20060101AFI20231013BHJP
F16D 48/06 20060101ALI20231013BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
F16D48/02 640K
F16D28/00 A
B60L15/20 J
(21)【出願番号】P 2019190343
(22)【出願日】2019-10-17
【審査請求日】2022-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉武 省太
(72)【発明者】
【氏名】南 賢吾
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-073914(JP,A)
【文献】特開2018-168892(JP,A)
【文献】特開2008-057620(JP,A)
【文献】特開2009-019659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 25/00-39/00,48/00-48/12
B60L 1/00-3/12,7/00-13/00,
15/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルク発生装置が発生するトルクを
、トルク伝達系を介して、駆動輪に伝達して走行する車両のための
車両用制御装置であって、
前記トルク発生装置は、エンジンと、エンジンの回転を前記トルク伝達系に伝達するクラッチとを含み、
前記車両用制御装置は、前
記トルク伝達系における弾性捩れ要素の捩れ速度に応じて
前記クラッチの伝達トルクを制御することにより前記トルク発生装置の発生トルクを修正する
クラッチコントローラを含み、
前記クラッチコントローラは、前記弾性捩れ要素の捩れ速度に応じて、前記クラッチを切断方向に作動させることにより、
前記クラッチの伝達トルクを減少させて前記弾性捩れ要素の捩れ振動を抑制する、車両用制御装置。
【請求項2】
前記弾性捩れ要素が、クラッチダンパを含む、請求項
1に記載の車両用制御装置。
【請求項3】
前記弾性捩れ要素の上流側における前記トルク伝達系の回転軸の回転速度である上流回転速度を用いて前記捩れ速度を演算する捩れ速度演算ユニットを含む、請求項1
または2に記載の車両用制御装置。
【請求項4】
前記上流回転速度を検出する上流回転速度センサをさらに含む、請求項
3に記載の車両用制御装置。
【請求項5】
前記捩れ速度演算ユニットが、前記弾性捩れ要素の下流側における前記トルク伝達系の回転軸の回転速度である下流回転速度をさらに用いて前記捩れ速度を演算する、請求項
3または
4に記載の車両用制御装置。
【請求項6】
前記上流回転速度に基づいて前記下流回転速度を推定する下流回転速度推定ユニットをさらに含む、請求項
5に記載の車両用制御装置。
【請求項7】
車両位置センサ、車両速度センサおよび車両加速度センサのうちの少なくとも一つの検出結果に基づいて前記下流回転速度を演算する下流回転速度演算ユニットをさらに含む、請求項
5に記載の車両用制御装置。
【請求項8】
トルク発生装置が発生するトルクを駆動輪に伝達して走行する車両のための制御装置であって、
前記トルク発生装置から前記駆動輪に至るトルク伝達系における弾性捩れ要素の上流側における前記トルク伝達系の回転軸の回転速度である上流回転速度と、前記弾性捩れ要素の下流側における前記トルク伝達系の回転軸の回転速度である下流回転速度とを用いて、前記弾性捩れ要素の捩れ速度を演算する捩れ速度演算ユニットと、
前記上流回転速度に基づいて前記下流回転速度を推定する下流回転速度推定ユニットとを含み、
前記捩れ速度演算ユニットによって演算される前記捩れ速度に応じて前記トルク発生装置の発生トルクを修正することにより、前記弾性捩れ要素の捩れ振動を抑制する、車両用制御装置。
【請求項9】
トルク発生装置が発生するトルクを駆動輪に伝達して走行する車両のための制御装置であって、
前記トルク発生装置から前記駆動輪に至るトルク伝達系における弾性捩れ要素の上流側における前記トルク伝達系の回転軸の回転速度である上流回転速度と、前記弾性捩れ要素の下流側における前記トルク伝達系の回転軸の回転速度である下流回転速度とを用いて、前記弾性捩れ要素の捩れ速度を演算する捩れ速度演算ユニットと、
車両位置センサ、車両速度センサおよび車両加速度センサのうちの少なくとも一つの検出結果に基づいて前記下流回転速度を演算する下流回転速度演算ユニットとを含み、
前記捩れ速度演算ユニットによって演算される前記捩れ速度に応じて前記トルク発生装置の発生トルクを修正することにより、前記弾性捩れ要素の捩れ振動を抑制する、車両用制御装置。
【請求項10】
前記トルク発生装置が、エンジンと、エンジンの回転を前記トルク伝達系に伝達するクラッチとを含み、
前記クラッチの伝達トルクを前記弾性捩れ要素の捩れ速度に応じて制御することにより前記トルク発生装置の発生トルクを修正するクラッチコントローラを含む、請求項8または9に記載の車両用制御装置。
【請求項11】
前記トルク発生装置が、電動モータを含み、
前記電動モータの発生トルクを前記弾性捩れ要素の捩れ速度に応じて制御することにより前記トルク発生装置の発生トルクを修正するモータコントローラを含む、請求項8または9に記載の車両用制御装置。
【請求項12】
前記トルク発生装置と、
前記駆動輪と、
請求項1~11のいずれか一項に記載の前記車両用制御装置と、を含む、不整地走行車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用制御装置およびそれを備えた不整地走行車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、パワーユニットと、前輪および後輪を有する多目的車両(マルチユーティリティビークル)を開示している。パワーユニットは、エンジンおよび電動チェンジ式有段変速機とを備えており、前輪および後輪の一方または両方に駆動力を供給する。変速機とエンジンとの間には、変速クラッチが設けられている。変速クラッチは、変速モータによって遮断/接続され、変速機は、その変速モータによって変速段が切り替えられる。変速モータは、使用者のシフトアップスイッチおよびシフトダウンスイッチの操作に応答して作動する。
【0003】
特許文献1は、変速機の下流側の駆動系におけるねじれ等に起因して変速機のカウンタ軸の回転数が突発的に変動するときには、滑らかなクラッチ接続が実現できない課題を指摘し、その課題の解決手段を開示している。具体的には、特許文献1のクラッチ接続制御装置は、カウンタ軸の突発的な回転数変動が収束するのを待って変速クラッチを接続する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
クラッチが接続されてエンジン等の駆動源と駆動輪とのトルク伝達経路が確立されると、クラッチ下流側のトルク伝達経路に存在する弾性捩れ要素が弾性的に捩られて、トルク伝達が始まる。
しかし、弾性捩れ要素の捩れは復元するので、捩れ量が振動的に変動する。そのため、駆動輪に伝達されるトルクに振動成分が現れるので、駆動力が振動的になって、車両のピッチングが生じる。
【0006】
したがって、クラッチ接続時、より具体的には発進時および変速時に、不快な車両挙動が現れる。
とくに、不整地走行車両のように、軽量かつ高トルク発生が求められる車両においては、駆動源が大きなトルクを発生するのに対して、軽量化の要求のためにクラッチ下流側のトルク伝達経路の剛性は比較的小さい。加えて、トルク伝達時のショック軽減のために、クラッチ下流側にクラッチダンパが介装される場合もある。そのため、クラッチ下流側の弾性捩れ要素を排除することは実質上不可能であるばかりか、むしろ大きな弾性捩れ要素はショックを軽減して快適な乗り心地を実現するために必要な要素である場合さえある。しかし、その反面、前述のとおり、弾性捩れ要素の振動に起因するピッチング挙動が現れやすいから、より快適な乗車フィーリングのために改善の余地がある。
【0007】
このような課題は、特許文献1では指摘がなく、かつ特許文献1に開示された構成によっても解決できない。
そこで、この発明の一実施形態は、トルク伝達系の弾性捩れ要素に起因する振動的な車両挙動を改善できる車両用制御装置およびそれを備えた不整地走行車両を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の一実施形態は、トルク発生装置が発生するトルクを駆動輪に伝達して走行する車両のための制御装置を提供する。この車両用制御装置は、前記トルク発生装置から前記駆動輪に至るトルク伝達系における弾性捩れ要素の捩れ速度に応じて前記トルク発生装置の発生トルクを修正することにより、前記弾性捩れ要素の捩れ振動を抑制する。
この構成によれば、トルク発生装置の発生トルクに対して、弾性捩れ要素の捩れ速度に応じた修正が加えられる。それにより、弾性捩れ要素の捩れ振動を抑制できるので、振動的な車両挙動を改善できる。
【0009】
この発明の一実施形態では、前記トルク発生装置が、エンジンと、エンジンの回転を前記トルク伝達系に伝達するクラッチとを含む。前記車両用制御装置は、前記クラッチの伝達トルクを前記弾性捩れ要素の捩れ速度に応じて制御することにより前記トルク発生装置の発生トルクを修正するクラッチコントローラを含む。
この構成によれば、クラッチの伝達トルクを制御することによって、エンジンが発生するトルクに対して修正を加えることができる。そして、クラッチの伝達トルクが弾性捩れ要素の捩れ速度に応じて制御されることにより、弾性捩れ要素の捩れ振動を抑制できるので、振動的な車両挙動を改善できる。
【0010】
この発明の一実施形態では、前記クラッチコントローラは、前記弾性捩れ要素の捩れ速度に応じて、前記クラッチの伝達トルクを減少させる。この構成により、弾性捩れ要素の捩れ振動を抑制でき、それに応じて振動的な車両挙動を改善できる。
この発明の一実施形態では、前記クラッチコントローラは、前記クラッチを切断方向に作動させることにより、前記クラッチの伝達トルクを減少させる。この構成により、弾性捩れ要素の捩れ速度に応じてクラッチを切断方向に作動させることにより、クラッチの伝達トルクが減少し、それにより、弾性捩れ要素の捩れ振動を抑制できる。
【0011】
この発明の一実施形態では、前記弾性捩れ要素が、クラッチダンパを含む。この構成によれば、クラッチダンパによって、クラッチ接続時のショックを軽減できる。その一方で、クラッチダンパは、弾性的な捩れ要素であり、大きな振幅の捩れ振動を生じやすい。そこで、クラッチダンパを含む弾性捩れ要素の捩れ速度に応じて、クラッチの伝達トルクを制御することにより、クラッチ接続時のショックを軽減しながら、捩れ振動に起因する振動的な車両挙動を抑制できる。それにより、車両の乗車フィーリングを向上できる。
【0012】
この発明の一実施形態では、前記トルク発生装置が、電動モータを含む。前記車両用制御装置は、前記電動モータの発生トルクを前記弾性捩れ要素の捩れ速度に応じて制御することにより前記トルク発生装置の発生トルクを修正するモータコントローラを含む。
この構成では、電動モータの発生トルクに対して、弾性捩れ要素の捩れ速度に応じた修正が加えられる。それにより、弾性捩れ要素の捩れ振動を抑制できるので、電動車両における振動的な車両挙動を改善できる。
【0013】
この発明の一実施形態では、前記車両用制御装置は、前記弾性捩れ要素の上流側における前記トルク伝達系の回転軸の回転速度である上流回転速度を用いて前記捩れ速度を演算する捩れ速度演算ユニットを含む。
この構成によれば、弾性捩れ要素の上流側におけるトルク伝達系の回転軸の回転速度(上流回転速度)を用いて弾性捩れ要素の捩れ速度が演算されるので、正確な捩れ速度を演算できる。それに応じて、トルク発生装置の発生トルクを適切に修正できるので、弾性捩れ要素の捩れ振動を効率的に抑制でき、したがって、優れた車両挙動を実現できる。
【0014】
この発明の一実施形態では、前記上流回転速度を検出する上流回転速度センサをさらに含む。この構成によれば、弾性捩れ要素の上流側におけるトルク伝達系の回転軸の実際の回転速度(上流回転速度)が上流回転速度センサによって検出されるので、より正確な捩れ速度を演算できる。それにより、トルク発生装置の発生トルクに対してさらに適切な修正を加えることができるから、一層優れた車両挙動を実現できる。
【0015】
前記上流回転速度センサは、前記トルク発生装置の出力回転軸から前記弾性捩れ要素の上流端に至る前記トルク伝達系のいずれか位置の回転軸の回転速度を検出すればよい。
この発明の一実施形態では、前記捩れ速度演算ユニットが、前記弾性捩れ要素の下流側における前記トルク伝達系の回転軸の回転速度である下流回転速度をさらに用いて前記捩れ速度を演算する。
【0016】
この構成によれば、上流回転速度および下流回転速度を用いることにより、正確な捩れ速度を演算できる。それに応じて、トルク発生装置の発生トルクに対して適切な修正を加えることができるから、優れた車両挙動を実現できる。
この発明の一実施形態では、前記車両用制御装置は、前記上流回転速度に基づいて前記下流回転速度を推定する下流回転速度推定ユニットをさらに含む。この構成によれば、上流回転速度に基づいて下流回転速度を推定する構成であるので、下流回転速度を検出するセンサを必要としない。それにより、簡単な構成でありながら、弾性捩れ要素の振動に起因する不快な車両挙動を抑制できる。
【0017】
この発明の一実施形態では、前記車両用制御装置は、車両位置センサ、車両速度センサおよび車両加速度センサのうちの少なくとも一つの検出結果に基づいて前記下流回転速度を演算する下流回転速度演算ユニットをさらに含む。
このように、センサの出力信号に基づいて下流回転速度を演算する構成により、弾性捩れ要素の捩れ速度を正確に求めることができる。それにより、弾性捩れ要素の捩れ振動を効率的に収束させることができるので、車両の振動的な挙動を一層効果的に抑制できる。
【0018】
この発明の一実施形態は、前記トルク発生装置と、前記駆動輪と、前記車両用制御装置と、を含む、不整地走行車両を提供する。この構成により、トルク伝達系の弾性捩れ要素に起因する振動的な車両挙動を改善した不整地走行車両を提供できる
【発明の効果】
【0019】
この発明により、トルク伝達系の弾性捩れ要素に起因する振動的な車両挙動を改善できる車両用制御装置およびそれを備えた不整地走行車両を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、この発明の第1の実施形態に係る車両用制御装置を備えた車両の要部の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、前記車両に備えられたエンジンおよびトランスミッションの具体的な構成例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、前記車両の制御ユニットによるクラッチの制御に関連する機能を説明するための制御ブロック図である。
【
図4】
図4は、前記第1の実施形態における車両発進時の動作例を説明するためのタイムチャートである。
【
図5】
図5は、比較例における車両発進時の動作例を説明するためのタイムチャートである。
【
図6】
図6は、この発明の第2の実施形態に係る車両の構成を説明するためのブロック図である。
【
図7】
図7は、前記第2の実施形態における制御ユニットによる電動モータの制御に関連する機能を説明するための制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
この発明の実施形態が適用される車両の形態および用途にとくに制限はない。この発明の実施形態がとくに有用な車両の一つのカテゴリは、ユーティリティビークル(Utility vehicle)である。とりわけ、レクレーショナル・オフハイウェイ・ビークル(Recreational Off-Highway Vehicle)と称されるオフロード型四輪車両において、この発明の実施形態が有用である。ユーティリティビークルは不整地での走行に使用されることがあるので、不整地走行車両の一例である。
【0022】
図1は、この発明の第1の実施形態に係る車両用制御装置を備えた車両1の要部の構成を示すブロック図である。車両1は、エンジン(内燃機関)2と、クラッチ3と、トランスミッション8と、駆動輪5とを含む。エンジン2が発生する駆動力が、動力伝達経路6を通って、駆動輪5に伝達される。クラッチ3およびトランスミッション8は、動力伝達経路6に配置されている。この実施形態では、エンジン2とトランスミッション8との間にクラッチ3が配置されている。
【0023】
この実施形態では、エンジン2およびクラッチ3がトルク発生装置を構成しており、クラッチ3の伝達トルクを制御することによって、エンジン2の発生トルクがクラッチ3によって修正される。クラッチ3が伝達するトルクは、動力伝達経路6の一部を構成するトルク伝達系6aを介して駆動輪5に伝達される。トルク伝達系6aには、弾性捩れ要素4が介在している。弾性捩れ要素4は、この実施形態では、トルク伝達系6aにおけるトルク伝達に関与する全ての剛体(弾性部材)の弾性捩れ成分を含む。
【0024】
エンジン2は、スロットルバルブ21、燃料噴射弁22および点火ユニット23を含む。運転者によって操作されるアクセル操作子20がスロットルバルブ21に結合されている。したがって、アクセル操作子20の操作量(アクセル開度)とスロットル開度との間には対応関係がある。アクセル操作子20は、アクセルペダルであってもよい。燃料噴射弁22は、アクセル開度等に応じて設定される噴射量の燃料をエンジン2内に噴射する。点火ユニット23は、エンジンサイクル内の所定の点火タイミングでエンジン2内で火花放電を生じさせ、燃料と空気との混合気に点火する。
【0025】
クラッチ3は、駆動側プレート31および被駆動側プレート32を含み、駆動側プレート31と被駆動側プレート32とが互いに接近および離間するように構成されている。エンジン2が発生するトルク(エンジントルク)は、駆動側プレート31に入力される。より具体的には、エンジン2のクランク軸24の回転が駆動側プレート31に伝達される。クランク軸24と駆動側プレート31との間には、減速ギヤが設けられていてもよい。被駆動側プレート32は、トランスミッション8のメイン軸83に結合されている。
【0026】
トランスミッション8は、メイン軸83と、ドライブ軸85と、複数の変速ギヤ80と、シフトカム84と、シフタ86とを含む。複数の変速ギヤ80は、複数のギヤ位置に配置可能である。複数のギヤ位置は、少なくとも一つの前進ギヤ位置と、少なくとも一つの後進ギヤ位置とを含む。メイン軸83の回転は、ギヤ位置に応じた変速比および方向の回転に変換されて、ドライブ軸85に伝達される。ドライブ軸85は、駆動輪5に機械的に結合されている。シフタ86は、シフトカム84を操作する操作部材である。シフトカム84を変位(たとえば回転変位)させることにより、変速ギヤ80の配置を変更でき、それによって、ギヤ位置を選択できる。
【0027】
車両1は、さらに、クラッチアクチュエータ11、シフトアクチュエータ13、および制御ユニット9を含む。制御ユニット9は、車両用制御装置の一例である。制御ユニット9は、クラッチアクチュエータ11およびシフトアクチュエータ13を制御するようにプログラムされている。アクチュエータ11,13は、電動アクチュエータであってもよいし、油圧アクチュエータであってもよい。
【0028】
クラッチアクチュエータ11は、クラッチ3の駆動側プレート31および被駆動側プレート32を互いに接近および離間させる。クラッチアクチュエータ11は、さらに、駆動側プレート31および被駆動側プレート32が接触している状態で、互いの押圧力を強めたり、弱めたりするように構成されている。これにより、駆動側プレート31と被駆動側プレート32とが摩擦接触し、それらの間で伝達されるトルク(伝達トルク)が増減する。
【0029】
クラッチ3の駆動側プレート31および被駆動側プレート32を接近させたり、それらの間の押圧力を強めたりすることを、クラッチ3を「接続方向」に作動させるなどという。クラッチ3の駆動側プレート31および被駆動側プレート32を離間させたり、それらの間の押圧力を弱めたりすることを、クラッチ3を「切断方向」に作動させるなどという。
【0030】
クラッチ3は、切断状態と、接続状態と、半クラッチ状態とをとることができる。切断状態では、駆動側プレート31および被駆動側プレート32の間が離間され、それらの間でトルクが伝達されない。接続状態では、駆動側プレート31および被駆動側プレート32が滑り無く結合してそれらの間でトルクが伝達される。半クラッチ状態は、接続状態と切断状態との間の中間状態である。半クラッチ状態では、駆動側プレート31と被駆動側プレート32とが互いに滑り接触(摺接)し、それらの間でトルクが部分的に伝達される。クラッチアクチュエータ11の制御によって、クラッチ3の状態を、切断状態、半クラッチ状態および接続状態の間で変化させ、かつ半クラッチ状態における駆動側プレート31と被駆動側プレート32との押圧力を変化させることができる。
【0031】
クラッチアクチュエータ11の作動子の位置を検出するために、クラッチアクチュエータセンサ12が設けられている。クラッチアクチュエータ11の作動子の位置は、クラッチの駆動側プレート31と被駆動側プレート32との間の距離に対応する。この距離は、駆動側プレート31と被駆動側プレート32とが接触している状態では、駆動側プレート31と被駆動側プレート32との押圧力に対応する。
【0032】
以下では、駆動側プレート31と被駆動側プレート32との間の距離およびそれらの間の押圧力を総称するパラメータとして、「クラッチ押圧量」を導入する。クラッチ押圧量は、駆動側プレート31と被駆動側プレート32との距離が大きいほど小さく、その距離が小さいほど大きい。駆動側プレート31と被駆動側プレート32とが接している状態では、互いの押圧力が大きいほど、クラッチ押圧量が大きい。すなわち、クラッチ3を接続方向に作動させることによりクラッチ押圧量が大きくなり、クラッチ3を接続方向に作動させることによりクラッチ押圧量が小さくなる。
【0033】
クラッチ押圧量は、具体的には、駆動側プレート31と被駆動側プレート32との間の距離に対応しており、より具体的には、クラッチアクチュエータ11の作動子の変位量に対応している。制御ユニット9は、クラッチアクチュエータセンサ12の出力信号に基づいて、クラッチアクチュエータ11を駆動し、それによって、クラッチ押圧量を制御する。
【0034】
シフトアクチュエータ13は、シフトカム84を操作するためのシフタ86を作動させ、それによって、ギヤ位置を変更するためのシフト動作を実行する。シフトアクチュエータ13の作動子の位置を検出するために、シフトアクチュエータセンサ14が設けられている。シフトアクチュエータ13の作動子の位置は、シフタ86の位置に対応する。制御ユニット9は、シフトアクチュエータセンサ14の出力信号に基づいて、シフトアクチュエータ13を制御する。
【0035】
トランスミッション8には、ギヤ位置を検出するギヤ位置センサ15と、メイン軸83の回転速度を検出するメイン軸センサ16とが備えられている。これらのセンサの出力信号は、制御ユニット9に入力されている。メイン軸センサ16は、上流回転速度センサの一例である。ギヤ位置センサ15は、トランスミッション8のギヤ位置を検出する。具体的には、ギヤ位置センサ15は、シフトカム84の位置(たとえば回転位置)を検出するセンサであってもよい。
【0036】
制御ユニット9には、メインキースイッチ35、バッテリ25、スロットル開度センサ26、クランクセンサ28、シフトアップスイッチ30U、シフトダウンスイッチ30Dなどが接続されている。
メインキースイッチ35は、車両1に電源を投入するためにメインキーを用いて導通/遮断操作されるキースイッチである。バッテリ25は、制御ユニット9等の電装品に電力を供給する。制御ユニット9は、バッテリ25の電圧をモニタしている。
【0037】
スロットル開度センサ26は、エンジン2のスロットル開度を検出する。エンジン2のスロットルバルブ21には、アクセル操作子20が結合されているので、アクセル操作子20の操作量(アクセル開度)とスロットル開度との間には対応関係がある。したがって、スロットル開度センサ26は、アクセル操作子20の操作量を検出するアクセル開度センサとしても機能している。
【0038】
クランクセンサ28は、エンジン2のクランク軸24の回転を検出するセンサである。クランクセンサ28は、たとえば、クランク軸24の回転に伴って、回転量に応じた回転パルスを生成する。制御ユニット9は、クランクセンサ28が生成する回転パルスに基づいて、エンジン回転速度を求める。エンジン回転速度は、クラッチ3の駆動側プレート31の回転速度に対応する値である。
【0039】
シフトアップスイッチ30Uは、トランスミッション8のギヤ位置(変速段)を高速側に一段変更するために運転者によって操作されるスイッチである。シフトダウンスイッチ30Dは、トランスミッション8のギヤ位置(変速段)を低速側に一段変更するために運転者によって操作されるスイッチである。これらのシフトスイッチ30U,30Dの出力信号は、制御ユニット9に入力される。制御ユニット9は、シフトスイッチ30U,30Dからの入力に応じて、クラッチアクチュエータ11およびシフトアクチュエータ13を駆動して変速動作を行い、複数の前進ギヤ位置の間でギヤ位置(変速段)を変更する。
【0040】
車両1を発進させるとき、運転者は、シフトスイッチ30U,30Dを操作して、ニュートラル以外のギヤ位置を選択する。これにより、制御ユニット9は、シフトアクチュエータ13を駆動して、トランスミッション8の変速ギヤ80の配置を、選択されたギヤ位置に変更する。運転者は、さらに、アクセル操作子20を操作して、アクセル開度を増加させる。それに応じて、スロットル開度が増加すると、エンジン回転速度が増加する。そのエンジン回転速度の増加に応じて、制御ユニット9はクラッチアクチュエータ11を制御してクラッチ押圧量を増加させ、駆動側プレート31および被駆動側プレート32を接近させる。
【0041】
制御ユニット9は、スロットル開度に応じた目標エンジン回転速度を設定し、エンジン回転速度がその目標エンジン回転速度に向かって増加するように、クラッチ押圧量を制御する。これにより、駆動側プレート31および被駆動側プレート32の互いの押圧力が徐々に増加し、クラッチ3は、切断状態から半クラッチ状態を経て接続状態に至る。
こうして、エンジン2が発生するトルクがクラッチ3を介してトランスミッション8に伝達される。さらに、トランスミッション8で変速された回転が駆動輪5に伝達されることにより、車両1が移動する。クラッチ3が接続状態に至った後は、制御ユニット9は、スロットル開度に応じたエンジン出力が得られるように、燃料噴射弁22の制御(燃料噴射制御)および点火ユニット23の制御(点火制御)を実行する。
【0042】
走行中に、運転者がシフトアップスイッチ30Uまたはシフトダウンスイッチ30Dを操作すると、変速指令が制御ユニット9に入力される。これに応答して、制御ユニット9は、変速動作を実行する。具体的には、制御ユニット9は、クラッチアクチュエータ11を制御してクラッチ3を切断する。さらに、制御ユニット9は、シフトアクチュエータ13を制御して、変速指令に対応する選択ギヤ位置に変速ギヤ80の配置を変更する。この後、制御ユニット9は、クラッチアクチュエータ11を制御して、半クラッチ状態を経て、クラッチ3を接続状態へと導く。クラッチ3が接続状態となって変速動作が完了すると、制御ユニット9は、スロットル開度に応じたエンジン出力が得られるように、燃料噴射制御および点火制御を実行する。
【0043】
クラッチ3が接続状態のとき、ギヤ位置毎に予め定められているシフトダウン閾値を車速が下回ると、制御ユニット9は、オートシフトダウン制御を実行する。より具体的には、変速段ごとに定められているクラッチ切断閾値を車速が下回ると、制御ユニット9は、クラッチアクチュエータ11を制御してクラッチ3を切断状態とする。そして、制御ユニット9は、車速がシフトダウン閾値を下回ると、シフトアクチュエータ13を制御して、変速段を1段下げるようにギヤ位置を変更する。車速がシフトダウン後の変速段に対応したシフトダウン閾値をさらに下回るならば、制御ユニット9は、変速段をさらに1段下げるようにギヤ位置を変更する。その後、制御ユニット9は、クラッチアクチュエータ11を制御し、半クラッチ状態を経て、クラッチ3を接続状態へと導く。クラッチ3が接続状態となって変速動作が完了すると、制御ユニット9は、スロットル開度に応じたエンジン出力が得られるように、燃料噴射制御および点火制御を実行する。
【0044】
変速段が最下段となり、その最下段に対応したクラッチ切断閾値を車速が下回ると、制御ユニット9は、クラッチ3を切断する。より具体的には複数の前進ギヤ位置のうちの最下段の前進ギヤ位置が選択されている状態で、車速がクラッチ切断閾値を下回ると、クラッチ3が切断される。
図2は、エンジン2およびトランスミッション8の具体的な構成例を示す断面図である。エンジン2は、クランクケース66と、シリンダボディ64と、シリンダヘッド63と、シリンダヘッドカバー62とを備えている。クランクケース66の下方には、エンジン2の内部を循環したオイルを回収するオイルパン68が配置されている。
【0045】
エンジン2は、車両前後方向に延びるクランク軸24を備えている。クランク軸24は、クランクケース66内に配置されている。クランク軸24の前端部には連結軸70が連結されている。
シリンダボディ64の内部には、シリンダ71A,71Bおよび71Cが形成されている。シリンダ71A,71Bおよび71Cのそれぞれには、ピストン72が収容されている。各ピストン72は、コンロッド73を介してクランク軸24に接続されている。エンジン2は、この例では、3つのシリンダ71A~71Cを備える3気筒のエンジンである。しかし、エンジン2は、1つのシリンダを備える単気筒のエンジンであってもよいし、2つのシリンダあるいは4つ以上のシリンダを備える多気筒のエンジンであってもよい。
【0046】
連結軸70は、入力軸108と連結されている。入力軸108は、車両前後方向に延びる。入力軸108は、連結軸70を介して、クランク軸24の駆動力を受けて回転する。連結軸70を設けずに、入力軸108がクランク軸24と直接連結されていてもよい。入力軸108には、ギヤ108Gが設けられている。ギヤ108Gを介して、入力軸108の回転がクラッチ3に伝達される。
【0047】
クラッチ3は、この実施形態では、湿式多板の摩擦クラッチである。クラッチ3には、クランク軸24で発生したトルクが入力軸108を介して伝達される。クラッチ3は、クランク軸24で発生したトルクを断続可能に伝達する。クラッチ3は、トランスミッション8のメイン軸83の一端部(この実施形態では後端部)に設けられている。クラッチ3は、クラッチハウジング101と、クラッチボス103と、複数の駆動側プレート31と、複数の被駆動側プレート32と、を備えている。駆動側プレート31は、クラッチハウジング101の内方に設けられている。駆動側プレート31は、クラッチハウジング101とともに回転する。駆動側プレート31には、クランク軸24のトルクが入力軸108を介して伝達される。被駆動側プレート32は、クラッチボス103の外方に設けられている。被駆動側プレート32は、クラッチボス103とともに回転する。駆動側プレート31と被駆動側プレート32は、車両前後方向において交互に配置されている。クラッチハウジング101には、ギヤ101Gが設けられている。ギヤ101Gは、入力軸108に設けられたギヤ108Gと噛み合っている。そのため、クラッチハウジング101は、入力軸108と連結している。クラッチ3は、単板の摩擦クラッチであってもよい。クラッチ3は、乾式の摩擦クラッチであってもよい。
【0048】
トランスミッション8は、トランスミッションケース82と、メイン軸83と、ドライブ軸85と、複数の変速ギヤ80とを含む。
メイン軸83は、トランスミッションケース82内に収容されている。メイン軸83は、入力軸108と平行に配置されている。メイン軸83は、クラッチボス103に固定されている。メイン軸83は、クラッチボス103とともに回転する。したがって、メイン軸83は、クランク軸24の駆動力を受けて回転する。複数の変速ギヤ80は、メイン軸83に設けられた複数のメイン軸ギヤ803を含む。
【0049】
ドライブ軸85は、トランスミッションケース82内に収容されている。ドライブ軸85は、メイン軸83と平行に配置されている。複数の変速ギヤ80は、ドライブ軸85に設けられた複数のドライブ軸ギヤ805を含む。ドライブ軸85の一端部(この実施形態では前端部)には、ギヤ85Gが設けられている。
トランスミッション8の下方には、車両前後方向に延びる出力軸110が配置されている。出力軸110には、ギヤ110Gが設けられている。ギヤ110Gは、ドライブ軸85に設けられたギヤ85Gと噛み合っている。そのため、出力軸110は、ドライブ軸85と連結している。出力軸110は、ドライブ軸85の駆動力を受けて回転する。出力軸110の前端部には、前プロペラシャフト112が連結されている。前プロペラシャフト112は、車両前後方向に延びる。前プロペラシャフト112は、出力軸110の駆動力を受けて回転する。前プロペラシャフト112は、フロントディファレンシャル(図示せず)を介して左右の前輪(前方の駆動輪5。
図1参照)に連結されている。出力軸110の後端部には、後プロペラシャフト114が連結されている。後プロペラシャフト114は、車両前後方向に延びる。後プロペラシャフト114は、出力軸110の駆動力を受けて回転する。後プロペラシャフト114は、ファイナルギヤ115を介して左右の後輪(後方の駆動輪5。
図1参照)に連結されている。本実施形態の車両1は、四輪駆動の車両であるがこれに限定されない。
【0050】
出力軸110には、トルク伝達時のショック軽減するために、クラッチダンパ40が設けられている。クラッチダンパ40は、ギヤ110Gと出力軸110との間に介装されており、これらの間でトルクを伝達する。具体的には、クラッチダンパ40は、ギヤ110Gとともに出力軸110まわりに回転する第1部材41と、出力軸110にスプライン結合して当該出力軸110とともに回転する第2部材42と、出力軸110に巻装された圧縮コイルばね43とを含む。第1部材41に形成された凹部41aに第2部材42に形成された凸部42aが係合しており、その係合状態を保持するように、コイルばね43が、第2部材42を第1部材41に向けて付勢している。ギヤ110Gにトルクが入力されて第1部材41が回転すると、凸部42aが凹部41aの斜面を登り、それらの間の摩擦力によって回転が伝達される。
【0051】
クラッチダンパ40は、クラッチ3から駆動輪5に至るトルク伝達系6aに介在された弾性捩れ要素4(
図1参照)の一部であり、かつその主要部である。ただし、弾性捩れ要素4は、この実施形態では、トルク伝達系6aにおけるトルク伝達に関与する全ての剛体(弾性部材)の弾性捩れ成分を含む。より具体的には、弾性捩れ要素4は、クラッチダンパ40だけでなく、ドライブ軸85、出力軸110、プロペラシャフト112,114などの捩れ成分も含み、駆動輪5の弾性要素(タイヤを含む)による捩れ成分も含む。
【0052】
図3は、制御ユニット9によるクラッチ3の制御に関連する機能を説明するための制御ブロック図である。制御ユニット9は、エンジン回転速度演算部91、クラッチ基本指令値演算部92、下流回転速度推定部93、捩れ速度演算部94、補正値演算部95、指令値補正部96などの機能を実現するようにプログラムされている。具体的には、制御ユニット9は、
図1に示すように、CPU98(プロセッサ)およびメモリ99を含み、CPU98がメモリ99に格納されたプログラムを実行することによって、前述の各部の機能を実現し、クラッチコントローラとして機能する。下流回転速度推定部93は、下流回転速度推定ユニットの一例である。捩れ速度演算部94は、捩れ速度演算ユニットの一例である。
【0053】
エンジン回転速度演算部91は、クランクセンサ28から入力されるパルス信号を用いて、エンジン回転速度を演算する。クラッチ基本指令値演算部92は、スロットル開度センサ26によって検出されるスロットル開度と、エンジン回転速度演算部91によって演算されるエンジン回転速度とに応じたクラッチ基本指令値を演算する。クラッチ基本指令値は、クラッチ3の押圧量の基本値であってもよく、クラッチ3によって伝達すべきトルクの基本値に相当する。
【0054】
下流回転速度推定部93は、メイン軸センサ16によって演算されるメイン軸回転速度に対して演算を行うことにより、下流回転速度を推定する。メイン軸回転速度は、弾性捩れ要素4の上流側の回転速度(上流回転速度)である。下流回転速度は、弾性捩れ要素4の下流側の回転速度であり、たとえば、車両1の速度(車両速度)をメイン軸83の回転に換算した回転速度であってもよい。下流回転速度推定部93は、メイン軸回転速度(上流回転速度)対してなまし演算(たとえば、ローパスフィルタ演算)を行うことによって、下流回転速度を推定してもよい。なまし演算のパラメータは、車両1の設計に適合するように定めればよい。
【0055】
捩れ速度演算部94は、メイン軸回転速度と下流回転速度とに基づいて、弾性捩れ要素4の捩れ速度を演算する。弾性捩れ要素4の捩れ速度は、弾性捩れ要素4の捩れ量の時間変化率である。捩れ量は、弾性捩れ要素4の上流側回転量x1(メイン軸83の回転量)と下流側回転量x2との差(x1-x2)である。ただし、下流側回転量x2は、ここでは、車両1の移動量をメイン軸83の回転に換算した量である。
【0056】
捩れ量の時間変化率である捩れ速度(x1-x2)′は、上流側回転量x1と下流側回転量x2との差を時間微分することによって得られるが、これは、上流側回転量の時間変化率x1′と下流側回転量の時間変化率x2′との差(x1′-x2′)に等しい。上流側回転量の時間変化率x1′は、上流回転速度、すなわちメイン軸回転速度である。下流側回転量の時間変化率x2′は、下流回転速度推定部93によって推定される下流回転速度である。したがって、捩れ速度演算部94は、上流回転速度と下流回転速度との差(x1′-x2′)を求めることによって、弾性捩れ要素4の捩れ速度(x1-x2)′を演算することができる。
【0057】
補正値演算部95は、捩れ速度演算部94によって演算される捩れ速度に基づいて、補正値を演算する。具体的には、捩れ速度(x1-x2)′に対して所定の係数c1(c1≠0)を乗じることによって、補正値c1(x1-x2)′が演算されてもよい。係数c1は、実際の車両1の設計に基づく適合によって、適切な値に定められればよい。より具体的には、弾性捩れ要素4のばね定数、ならびに弾性捩れ要素4の上流側および下流側のそれぞれの慣性質量(慣性モーメント)に基づいて、係数c1を定めることができる。
【0058】
指令値補正部96は、クラッチ基本指令値に対して、上記の補正値を用いた補正を行って、クラッチ3の制御のためのクラッチ指令値を求める。クラッチ指令値は、具体的にはクラッチ3の押圧量の指令値であり、クラッチ3の伝達トルクの指令値に相当する。このクラッチ指令値により、クラッチアクチュエータ11が制御され、それにより、クラッチ3は、クラッチ指令値に対応した押圧量に制御される。
【0059】
指令値補正部96は、捩れ速度(x1-x2)′が大きいほど大きな補正値が減じられるように、クラッチ基本指令値を補正する。このような補正は、係数c1を正の値として補正値c1(x1-x2)′を求め、クラッチ基本指令値から補正値を減じることによって達成される。むろん、係数c1を負値として補正値c1(x1-x2)′を求め、クラッチ基本指令値に対して補正値を加えることによっても同様の補正が達成される。このような補正は、弾性捩れ要素4の捩れ速度に応じてクラッチ3を切断方向に作動させるような補正であり、クラッチ3の伝達トルクを減少させる補正である。
【0060】
図4は、この実施形態における車両発進時の動作例を説明するためのタイムチャートである。
図4(a)には、スロットル開度を曲線401で示し、クラッチ指令値を曲線402で示す。
図4(b)には、車両1の加速度を曲線403で示し、車両1の躍度を曲線404で示す。躍度とは、加速度の時間微分値であり、加加速度ともいう。
図4(c)には、エンジン回転速度を曲線405で示し、メイン軸回転速度を曲線406で示し、下流回転速度(車両速度に相当)を曲線407で示す。
【0061】
運転者は、車両1を発進させるために、時刻t1からアクセル操作子20を操作し、スロットル開度(曲線401)を大きくする操作を行う。この操作以前には、クラッチ指令値は0%であり(曲線402)、クラッチ3は切断状態に保持されている。クラッチ指令値は、ここでは、クラッチ押圧量に対応しており、切断状態を0%、完全接続状態を100%とし、百分率で表してある。
【0062】
スロットル開度(曲線401)の増加に伴ってエンジン回転速度(曲線405)が増加し始めると、時刻t2に、クラッチ指令値(曲線402)が0%から或る値まで立ち上がり、その後は、所定の速度でクラッチ指令値が単調(たとえば線形的)に増加していく。そして、時刻t3に、クラッチ3の駆動側プレート31と被駆動側プレート32との接触が始まり、半クラッチ状態となって、それらの間のトルク伝達が始まる。それにより、メイン軸回転速度(曲線406)が立ち上がる。弾性捩れ要素4の存在のために、下流回転速度(曲線407)の立ち上がりはメイン軸回転速度(曲線406)の立ち上がりよりも遅れるので、メイン軸回転速度x1′と下流回転速度x2′とには有意な差(x1′-x2′≠0)が現れる。この差が、弾性捩れ要素4の捩れ速度(x1-x2)′である。この捩れ速度に応じてクラッチ基本指令値が補正されるので、クラッチ指令値(曲線402)は、メイン軸回転速度(曲線406)の立ち上がりとともに、参照符号410で示すように、減少方向(切断方向)に補正される。
【0063】
クラッチ3のトルク伝達が始まることにより、車両1の加速度(曲線403)が有意な値となって次第に増加する。そして、加速度の増加に応じて、躍度(曲線404)の変化が現れる。躍度は、典型的には、車両1のピッチングの原因となるので、躍度を可能な限り小さくすることが好ましく、それにより、車両1の乗車フィーリングを向上できる。
図5は、比較例における車両発進時の動作例を説明するためのタイムチャートであり、
図4と同様な図示がされている。すなわち、
図5(a)には、スロットル開度を曲線501で示し、クラッチ指令値を曲線502で示す。
図5(b)には、車両1の加速度を曲線503で示し、車両1の躍度を曲線504で示す。
図5(c)には、エンジン回転速度を曲線505で示し、メイン軸回転速度を曲線506で示し、下流回転速度(車両速度に相当)を曲線507で示す。
【0064】
この比較例においては、
図3に示した構成からクラッチ基本指令値の補正に関する構成が省かれ、クラッチ基本指令値がそのままクラッチ指令値として用いられる。
クラッチ3によるトルク伝達が始まると、弾性捩れ要素4の捩れ量が振動し、かつその振幅が大きく、振動の収束に時間がかかる。そのため、曲線506,507に表れているとおり、メイン軸回転速度および下流回転速度の変動が振動的になり、その収束に時間がかかる。それに応じて、車両1の加速度(曲線503)も振動的な変化となるので、大きな躍度(曲線504)が繰り返し表れる。したがって、車両1には、比較的長い時間に亘って大きなピッチングが表れ、車両1は不快な挙動を示す。前述の実施形態の構成を採用することによって、このような不快な車両挙動が改善される。
【0065】
このように、この実施形態の構成により、クラッチ3の伝達トルクが弾性捩れ要素4の捩れ速度に応じて制御されることにより、エンジン2が発生するトルクは、クラッチ3の制御による修正が加えられて、動力伝達経路6を介して駆動輪5に伝達される。それにより、弾性捩れ要素4の捩れ振動を抑制できるので、振動的な車両挙動を改善できる。とりわけ、トルク伝達初期の振動的な車両挙動を改善できる。
【0066】
具体的には、制御ユニット9は、クラッチ3を接続する過程で、弾性捩れ要素4の捩れ速度に応じて、クラッチ3を切断方向に作動させることにより、伝達トルクを減少させるようにクラッチ指令値を補正する。それにより、トルク伝達初期において、弾性捩れ要素4の捩れ振動を抑制できる。
この実施形態の車両1においては、トルク伝達系6aの弾性捩れ要素4がクラッチダンパ40を含む。それにより、クラッチ接続時のショックを軽減できる。その一方で、クラッチダンパ40は、大きな振幅の捩れ振動を生じやすい。そこで、この実施形態では、制御ユニット9は、クラッチダンパ40を含む弾性捩れ要素4の捩れ速度に応じて、クラッチ3の伝達トルクを制御する。それにより、クラッチ接続時のショックを軽減しながら、捩れ振動に起因する振動的な車両挙動を抑制できる。それにより、車両1の乗車フィーリングを一層向上できる。
【0067】
前述のとおり、車両1は、レクレーショナル・オフハイウェイ・ビークルのような不整地走行車両の一例である。このような車両1には、軽量であることが求められ、かつ高トルクの発生が求められる。したがって、エンジン2は大きなトルクを発生するのに対して、その大きなトルクを伝達するトルク伝達系6aには軽量化が求められる。このような軽量化要求のために、トルク伝達系6aの剛性増大には限界があり、弾性捩れ要素4を排除することはできない。そればかりか、クラッチダンパ40のようなショック軽減要素のために、弾性捩れ要素4は、車両1の運動特性に影響を及ぼし、弾性捩れ要素4の振動的な捩れに起因する不快なピッチングが生じるおそれがある。この実施形態は、このような問題に対する解決策を提供し、高トルク発生可能かつ軽量な構造でありながら、快適な乗り心地の車両1を提供できる。
【0068】
この実施形態では、弾性捩れ要素4の上流側におけるトルク伝達系6aの回転軸であるメイン軸83の回転速度がメイン軸センサ16によって検出される。したがって、メイン軸83の実際の回転速度(上流回転速度)を用いて弾性捩れ要素4の捩れ速度が演算されるので、正確な捩れ速度を演算でき、それに応じて、クラッチ指令値に対して適切な補正を施すことができる。それにより、弾性捩れ要素4の捩れ振動を効率的に抑制できるので、優れた車両挙動を実現できる。
【0069】
また、この実施形態では、弾性捩れ要素4の下流側におけるトルク伝達系6aの回転軸の回転速度も用いるので、捩れ速度を一層正確に演算することができる。それに応じて、クラッチ指令値に対して適切な補正を施すことができるので、優れた車両挙動を実現できる。
また、この実施形態では、上流回転速度に基づいて下流回転速度を推定する構成を採用しているので、下流回転速度を検出するセンサを必要としない。それにより、簡単な構成でありながら、弾性捩れ要素4の振動に起因する不快な車両挙動を抑制できる。
【0070】
図6は、この発明の第2の実施形態に係る車両200の構成を説明するためのブロック図である。車両200の形態は、前述の第1の実施形態と同様であり、レクレーショナル・オフハイウェイ・ビークルに代表されるオフロード型四輪車両である。ただし、前述の実施形態では、エンジン(内燃機関)が駆動源(トルク発生源)であるのに対して、この実施形態では、電動モータ201がトルク発生装置を構成している。すなわち、この実施形態の車両200は、電動車両である。
【0071】
車両200は、電動モータ201と、駆動輪202と、制御ユニット203とを含む。電動モータ201が発生する駆動力が、トルク伝達系205を通って、駆動輪202に伝達される。制御ユニット203は、車両用制御装置の一例であり、CPU211(プロセッサ)およびメモリ212を備えている。CPU211がメモリ212に格納されたプログラムを実行することにより、制御ユニット203は、電動モータ201を制御するモータコントローラとしての機能を発揮する。
【0072】
制御ユニット203には、バッテリ206、メインキースイッチ207、アクセル開度センサ208などが接続されている。
メインキースイッチ207は、車両200に電源を投入するためにメインキーを用いて導通/遮断操作されるキースイッチである。バッテリ206は、電動モータ201、制御ユニット203、およびその他の電装品に電力を供給する。制御ユニット203、バッテリ206の電圧をモニタしている。アクセル開度センサ208は、アクセル操作子209の操作量(アクセル開度)を検出する。
【0073】
車両200を発進させるとき、運転者は、アクセル操作子209を操作して、アクセル開度を増加させる。それに応じて、制御ユニット203は、電動モータ201からトルクを発生させ、かつそのトルクを増加させていく。すなわち、制御ユニット203は、アクセル開度に応じたトルク指令値を生成し、電動モータ201の発生トルクがそのトルク指令値に向かって増加するように電動モータ201への電力供給を制御する。こうして、電動モータ201が発生するトルクがトルク伝達系205を介して駆動輪202に伝達されることにより、車両200が発進する。
【0074】
図6に示すように、電動モータ201から駆動輪202に至るトルク伝達系205には、弾性捩れ要素204が介在している。弾性捩れ要素204は、電動モータ201の回転を駆動輪202に伝達するトルク伝達系205に存在する弾性的な捩れ成分である。駆動輪202の弾性要素(タイヤを含む)による捩れ要素も弾性捩れ要素204に含まれる。
電動モータ201の回転を検出するために、電動モータ201に内蔵または外付けされた回転センサ210が備えられている。回転センサ210は、この実施形態では、電動モータ201の出力回転軸215の回転を検出する。出力回転軸215は、トルク伝達系205において弾性捩れ要素204の上流に位置する回転軸の一例である。回転センサ210の出力信号は、制御ユニット203に入力される
図7は、制御ユニット203による電動モータ201の制御に関連する機能を説明するための制御ブロック図である。制御ユニット203は、モータ回転速度演算部221、基本トルク指令値演算部222、下流回転速度推定部223、捩れ速度演算部224、補正値演算部225、指令値補正部226などの機能を実現するようにプログラムされている。具体的には、制御ユニット203は、CPU211およびメモリ212(
図6参照)を含み、CPU211がメモリ212に格納されたプログラムを実行することによって、前述の各部の機能を実現する。
【0075】
モータ回転速度演算部221は、回転センサ210の出力信号に基づいて、電動モータ201の出力回転軸215の回転速度を演算する。この回転速度は、弾性捩れ要素204の上流側の回転軸の回転速度(上流回転速度)の一例である。基本トルク指令値演算部222は、アクセル開度センサ208によって検出されるアクセル開度と、モータ回転速度演算部221によって演算されるモータ回転速度とに応じた基本トルク指令値を演算する。基本トルク指令値は、電動モータ201が発生すべきトルクの基本目標値である。
【0076】
下流回転速度推定部223は、モータ回転速度演算部221によって演算される回転速度(上流回転速度)に対して演算を行うことにより、下流回転速度を推定する。下流回転速度は、たとえば、車両200の速度(車両速度)を電動モータ201の出力回転軸215の回転に換算した回転速度であってもよい。
捩れ速度演算部224は、出力回転軸215の回転速度(上流回転速度)と下流回転速度とに基づいて、弾性捩れ要素204の捩れ速度を演算する。前述の実施形態の場合と同様に、捩れ速度演算部224は、上流回転速度x1′と下流回転速度x2′との差(x1′-x2′)を求めることによって、弾性捩れ要素204の捩れ速度(x1-x2)′を演算する。
【0077】
補正値演算部225は、捩れ速度演算部224によって演算される捩れ速度に基づいて、補正値を演算する。具体的には、前述の実施形態の場合と同様に、捩れ速度(x1-x2)′に対して所定の係数c2(ただしc2≠0)を乗じることによって、補正値c2(x1-x2)′が演算されてもよい。係数c2は、実際の車両200の設計に基づく適合によって、適切な値に定められればよい。より具体的には、弾性捩れ要素204のばね定数、ならびに弾性捩れ要素204の上流側および下流側のそれぞれの慣性質量(慣性モーメント)に基づいて、係数c2を定めることができる。
【0078】
指令値補正部226は、基本トルク指令値に対して、上記の補正値を用いた補正を行って、電動モータ201の制御のためのトルク指令値を求める。このトルク指令値により、電動モータ201が制御され、それにより、電動モータ201は、トルク指令値に対応したトルクを発生するように制御される。
指令値補正部226は、捩れ速度(x1-x2)′が大きいほど大きな補正値が減じられるように、基本トルク指令値を補正する。このような補正は、係数c2を正の値として補正値c2(x1-x2)′を求め、基本トルク指令値から補正値c2(x1-x2)′を減じることによって達成される。むろん、係数c2を負値として補正値c2(x1-x2)′を求め、基本トルク指令値に対して補正値c2(x1-x2)′を加えることによっても同様の補正が達成される。このような補正は、弾性捩れ要素204の捩れ速度に応じて電動モータ201の発生トルクを減少させる補正である。
【0079】
この実施形態の構成によれば、電動車両の形態を有する車両200においても前述の実施形態の場合と同様に、弾性捩れ要素204に起因する躍度を速やかに収束させることができる。それにより、発進時等に車両200にピッチングが生じることを抑制できるので、振動的な車両挙動を抑制して、快適な乗車フィーリングの車両200を提供できる。
この構成では、電動モータ201の発生トルクに対して、弾性捩れ要素204の捩れ速度に応じた修正が加えられる。それにより、弾性捩れ要素204の捩れ振動を抑制できるので、車両200における振動的な車両挙動を改善できる。
【0080】
図8A、
図8Bおよび
図8Cは、下流回転速度を求めるための他の構成例を示す。これらは前述の第1および第2の実施形態のいずれにも適用可能である。第1および第2の実施形態では、上流回転速度(メイン軸回転速度またはモータ回転速度)に基づく推定演算によって下流回転速度が求められている。しかし、以下に説明するように、下流回転速度は、センサ出力を用いて演算することもできる。
【0081】
図8Aの例では、車両の位置を検出する車両位置センサ301の出力信号に基づいて、下流回転速度演算部302によって、下流回転速度が演算されている。具体的には、車両位置センサ301の出力を時間微分することによって車両速度が得られるから、その車両速度をメイン軸83(
図1参照)の回転速度または電動モータ201の出力回転軸215(
図6参照)の回転速度に換算することにより、下流回転速度が得られる。車両位置センサ301は、GNSS(Global Navigation Satellite System)センサであってもよい。下流回転速度演算部302は、下流回転速度演算ユニットの一例である。
【0082】
図8Bの例では、車両速度センサ311の出力信号に基づいて、下流回転速度演算部312によって、下流回転速度が演算されている。車両速度センサ311は、車両の移動速度を検出する。車両速度センサ311によって検出される車両速度をメイン軸83(
図1参照)の回転速度または電動モータ201の出力回転軸215(
図6参照)の回転速度に換算することにより、下流回転速度が得られる。下流回転速度演算部312は、下流回転速度演算ユニットの一例である。駆動輪5,202が弾性捩れ要素4,204の一部を構成し得るので、駆動輪5,202の車輪速度から車両速度を検出することは、あまり適切ではない。
【0083】
図8Cの例では、車両の加速度を検出する車両加速度センサ321の出力信号に基づいて、下流回転速度演算部322によって、下流回転速度が演算されている。車両加速度センサ321の出力を時間積分することによって、車両速度が得られる。その車両速度をメイン軸83(
図1参照)の回転速度または電動モータ201の出力回転軸215(
図6参照)の回転速度に換算することにより、下流回転速度が得られる。下流回転速度演算部322は、下流回転速度演算ユニットの一例である。
【0084】
このように、センサ301,311,321の出力信号に基づいて下流回転速度を演算する構成により、弾性捩れ要素4,204の捩れ速度を正確に求めることができる。それにより、弾性捩れ要素4,204の捩れ振動を効率的に収束させることができるので、車両の振動的な挙動を一層効果的に抑制できる。なお、
図8A、
図8Bおよび
図8Cに示した構成のうちの任意の2つまたは全部を組み合わせて、より精度の高い下流回転速度を演算してもよい。
【0085】
以上、この発明の実施形態について具体的に説明してきたが、この発明は、さらに他の形態で実施することもできる。
たとえば、前述の第1の実施形態では、クラッチ押圧量の制御、すなわち、クラッチ3の位置制御によって、クラッチ3の伝達トルクが制御されている。これに代えて、クラッチ3の駆動側プレート31と被駆動側プレート32の押圧力が制御されてもよい。また、クラッチ3の伝達トルクを求めて、その伝達トルクを制御してもよい。
【0086】
また、前述の第1の実施形態では、下流回転速度をメイン軸83の回転速度に換算して、メイン軸83を基準に弾性捩れ要素4の捩れ速度を求めているけれども、基準とする回転軸は、動力伝達経路6の他の回転軸であってもよい。たとえば、クランク軸24を基準とすることにして、メイン軸回転速度および下流回転速度をクランク軸24の回転速度に換算して、弾性捩れ要素4の捩れ速度を求めてもよい。第2の実施形態においても同様であり、電動モータ201の回転が伝達されるいずれかの回転軸を基準に捩れ速度を求めればよい。
【0087】
また、前述の第1の実施形態ではメイン軸83の回転速度が、第2の実施形態では電動モータ201の出力回転軸215の回転速度が、それぞれ上流回転速度として検出されている。しかし、上流回転速度を検出する上流回転速度センサは、トルク発生装置の出力回転軸から弾性捩れ要素の上流端に至るトルク伝達系のいずれか位置の回転軸の回転速度を検出すればよい。たとえば、第1の実施形態において、クラッチ3の被駆動側プレート32から弾性捩れ要素4の上流端に至るトルク伝達系のいずれかの位置の回転軸の回転速度が検出されればよい。
【0088】
前述の実施形態では、車両の発進時の制御内容について詳細に説明したけれども、たとえば第1の実施形態において、変速動作の際にも同様の内容の制御が行われてもよい。すなわち、変速に際しては、クラッチ3が切断された後、シフトアクチュエータ13が作動してシフトチェンジが行われ、その後にクラッチ3が接続される。このクラッチ3の接続時の制御に際して、弾性捩れ要素4の捩れ速度に応じて、基本クラッチ指令値に対する補正が行われてもよい。それにより、変速時においても、弾性捩れ要素4の捩れ振動に起因する振動的な車両挙動を回避または低減できる。
【0089】
さらに、発進時や変速時に限定せずに、弾性捩れ要素の捩れ速度に応じてトルク発生装置の発生トルクを修正する制御を行ってもよい。たとえば、前述の第1の実施形態において、アクセル操作子20(
図1参照)に対する減速操作が行われてスロットルが急閉されると、弾性捩れ要素4に振動的な捩れが生じるおそれがある。この場合に、クラッチ3を半クラッチ状態として、伝達トルクを弾性捩れ要素4の捩れ速度に応じて伝達トルクを制御することにより、弾性捩れ要素4の捩れ振動を速やかに収束させることができる。第2の実施形態においても同様に、アクセル操作子209(
図6参照)に対して急減速操作が行われると、電動モータ201の発生トルクが急減し、弾性捩れ要素204に振動的な捩れが生じるおそれがある。この場合に、電動モータ201のトルク指令値を弾性捩れ要素204の捩れ速度に応じて制御することにより、弾性捩れ要素204の捩れ振動を速やかに収束させることができる。
【0090】
弾性捩れ要素の捩れ速度に応じてトルク発生装置の発生トルクを修正する制御は、常時行ってもよいし、発進、変速および減速の少なくとも一つの走行状態の場合に限定して実行してもよい。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0091】
1 車両、2 エンジン、3 クラッチ、4 弾性捩れ要素、5 駆動輪、6a トルク伝達系、8 トランスミッション、9 制御ユニット、11 クラッチアクチュエータ、16 メイン軸センサ、20 アクセル操作子、31 駆動側プレート、32 被駆動側プレート、40 クラッチダンパ、70 連結軸、83 メイン軸、85 ドライブ軸、91 エンジン回転速度演算部、92 クラッチ基本指令値演算部、93 下流回転速度演算部、94 捩れ速度演算部、95 補正値演算部、96 指令値補正部、98 CPU、99 メモリ、112 前プロペラシャフト、114 後プロペラシャフト、200 車両(電動車両)、201 電動モータ、202 駆動輪、203 制御ユニット、204 弾性捩れ要素、205 トルク伝達系、206 バッテリ、208 アクセル開度センサ、209 アクセル操作子、210 回転センサ、211 CPU、212 メモリ、215 出力回転軸、221 モータ回転速度演算部、222 基本トルク指令値演算部、223 下流回転速度推定部、224 捩れ速度演算部、225 補正値演算部、226 指令値補正部、301 車両位置センサ、302 下流回転速度演算部、311 車両速度センサ、312 下流回転速度演算部、321 車両加速度センサ、322 下流回転速度演算部