(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】末端変性ジエン系ポリマー、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08C 19/24 20060101AFI20231013BHJP
【FI】
C08C19/24
(21)【出願番号】P 2019193649
(22)【出願日】2019-10-24
【審査請求日】2022-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩地 大輝
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-077772(JP,A)
【文献】特開2016-084407(JP,A)
【文献】特開2017-031370(JP,A)
【文献】特開2017-031363(JP,A)
【文献】特開2015-034224(JP,A)
【文献】国際公開第2013/118496(WO,A1)
【文献】特表2014-513180(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C19/00-19/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)~(4)で表される構造のうち少なくとも1種を末端に有する、末端変性ジエン系ポリマー。
【化1】
ただし、式(1)~(4)中、Rは水素原子又は炭素数1~12の炭化水素基を示し、それぞれ同じでも異なっていてもよい。m及びlは、2以上の整数であ
り、それぞれ同じでも異なっていてもよい。
【請求項2】
重量平均分子量が400,000~4,000,000である、請求項1に記載の末端変性ジエン系ポリマー。
【請求項3】
ジエン系ポリマーに酸化剤を添加し、炭素-炭素二重結合を酸化開裂させて酸化分解ジエン系ポリマーを得る酸化分解工程と、
得られた酸化分解ジエン系ゴムポリマーに、一般式(5)で表される亜リン酸類を添加して反応させる末端変性工程とを有する、末端変性ジエン系ポリマーの製造方法。
【化2】
ただし、式(
5)中、Rは水素原子又は炭素数1~12の炭化水素基を示し、2個のRはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。
【請求項4】
前記亜リン酸類の添加量が、前記ジエン系ポリマー1kg当り、0.05~1.0molである、請求項3に記載の末端変性ジエン系ポリマーの製造方法。
【請求項5】
前記ジエン系ポリマーとしてゴムラテックスを用いる、請求項3又は4に記載の末端変性ジエン系ポリマーの製造方法。
【請求項6】
前記酸化分解工程と、前記末端変性工程とをワンポットで行う、請求項3~5のいずれか1項に記載の末端変性ジエン系ポリマーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、末端変性ジエン系ポリマー、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴムポリマーの物性を高める手段が、従来から種々検討されている。例えば、特許文献1には、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有するポリマーに、式(M)で表される化合物を反応させることで、変性ポリマーを製造する、変性ポリマーの製造方法であって、上記ポリマーに上記化合物を反応させる際に、アセチルアセトナート配位子を有するマンガン触媒を用いる、変性ポリマーの製造方法が記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、実質的なモノマーの非存在下で有機ホスフィン化合物をメタル化してメタル化有機ホスフィンを生成すること、及び共役ジエンを含むモノマーに該メタル化有機ホスフィンを導入して反応性ポリマーを生成することを含む、ポリマーの調製方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献3には、(A)共役ジエン化合物、又は共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物を重合して得られる、活性水素を有する基及びシリカと化学結合し得る基を有する共役ジエン系ゴム、(B)シリカ、(C)上記共役ジエン系ゴムが有する、当該共役ジエンの炭素-炭素二重結合と反応し得るシランカップリング剤(I)、及び、(D)上記活性水素を有する基と反応し得るシランカップリング剤(II)を含むゴム組成物、該組成物を混合するゴム組成物の製造方法が記載されている。
【0005】
また、特許文献4には、天然ゴムラテックスをpH10.0以上且つ50℃で1時間以上保管する保管工程と、上記保管された天然ゴムラテックスに化学的処理を施す化学的処理工程と、上記化学的処理が施された天然ゴムラテックスを凝固、乾燥する凝固乾燥工程とを含む、変性天然ゴムの製造方法が記載されている。
【0006】
しかしながら、ジエン系ポリマーの機械物性の向上についてさらなる改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-31370号公報
【文献】特表2015-512461号公報
【文献】WO2012/032895号公報
【文献】特開2013-147555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の点に鑑み、機械物性に優れた末端変性ジエン系ポリマー、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る末端変性ジエン系ポリマーは、上記課題を解決するために、一般式(1)~(4)で表される構造のうち少なくとも1種を末端に有するものとする。
【0010】
【0011】
ただし、式(1)~(4)中、Rは水素原子又は炭素数1~12の炭化水素基を示し、それぞれ同じでも異なっていてもよい。m及びlは、2以上の整数であり、それぞれ同じでも異なっていてもよい。
【0012】
上記末端変性ジエン系ポリマーの分子量は、400,000~4,000,000であるものとすることができる。
【0013】
本発明に係る末端変性ジエン系ポリマーの製造方法は、ジエン系ポリマーに酸化剤を添加し、炭素-炭素二重結合を酸化開裂させて酸化分解ジエン系ポリマーを得る酸化分解工程と、得られた酸化分解ジエン系ゴムポリマーに、一般式(5)で表される亜リン酸類を添加して反応させる末端変性工程とを有するものとする。
【0014】
【0015】
ただし、式(5)中、Rは水素原子又は炭素数1~12の炭化水素基を示し、2個のRはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。
【0016】
上記亜リン酸類の添加量は、上記ジエン系ポリマー1kg当り、0.05~1.0molであるものとすることができる。
【0017】
上記ジエン系ポリマーとしてゴムラテックスを用いることができる。
【0018】
上記酸化分解工程と、上記末端変性工程とはワンポットで行うものとすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、機械物性に優れた末端変性ジエン系ポリマー及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0021】
本実施形態に係る末端変性ジエン系ポリマーは、一般式(1)~(4)で表される構造のうち少なくとも1種を末端に有するものとする。
【0022】
【0023】
ただし、式(1)~(4)中、Rは水素原子又は炭素数1~12の炭化水素基を示し、それぞれ同じでも異なっていてもよい。m及びlは、2以上の整数である。
【0024】
本実施形態に係る末端変性ジエン系ポリマーの製造方法は、特に限定するものではないが、ジエン系ポリマーに酸化剤を添加し、炭素-炭素二重結合を酸化開裂させて酸化分解ジエン系ポリマーを得る酸化分解工程と、得られた酸化分解ジエン系ポリマーに、一般式(5)で表される亜リン酸類を添加して反応させる末端変性工程とを有するものとすることができる。酸化分解工程と、末端変性工程とは、ワンポットで行ってもよい。ここで、「ワンポット」とは、ひとつの容器で連続的に合成するという意味である。
【0025】
【0026】
ただし、式(5)中、Rは水素原子又は炭素数1~12の炭化水素基を示し、2個のRはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。
【0027】
すなわち、本実施形態に係る末端変性ジエン系ポリマーは、ジエン系ポリマーを、その主鎖中に存在する炭素-炭素二重結合において酸化開裂させることで分解して、該分解したポリマーを含む系を亜リン酸類と反応させて末端を変性させることにより得られる。
【0028】
変性対象となるジエン系ポリマーとしては、共役ジエンモノマーからなる構成単位を含む重合体であり、1種類の共役ジエンモノマーの単独重合体でもよく、2種以上の共役ジエンモノマーの共重合体でもよく、1種又は2種以上の共役ジエンモノマーとビニルモノマーとの共重合体でもよい。例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴムなどが挙げられる。これらジエン系ゴムは、いずれか1種単独で、又は2種以上ブレンドして用いることができる。
【0029】
変性対象となるジエン系ポリマーは、常温(23℃)で液状であってもよく、固形状であってもよい。ジエン系ポリマーの重量平均分子量は、特に限定されず、10,000~4,000,000でもよく、50,000~1,000,000でもよく、100,000~300,000でもよい。ここで、本明細書において、重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)での測定により、ポリスチレン換算の重量平均分子量を測定した値とする。
【0030】
またジエン系ポリマーは、溶媒に溶解又は分散媒に分散させたものであれば良く、プロトン性分散媒である水中にミセル状になった水系エマルション、すなわちゴムラテックスを用いることが好ましい。水系エマルションを用いることにより、ポリマーを分解させた後に、その状態のまま、亜リン酸類を配合することで末端変性反応を生じさせることができる。すなわち、ひとつの容器で連続的に合成することができる。水系エマルションの濃度(ポリマーの固形分濃度)は、特に限定されないが、5~70質量%であることが好ましく、より好ましくは10~50質量%である。固形分濃度が高くなりすぎるとエマルジョン安定性が低下してしまい、固形分濃度が小さすぎる場合は反応速度が遅くなり、実用性に欠ける。
【0031】
上記酸化開裂によりジエン系ポリマーが分解し、末端にカルボニル基(>C=O)やホルミル基(-CHO)を持つポリマーが得られる。詳細には、下記式(A)で表される構造を末端に持つポリマーが生成される。
【0032】
【0033】
式(A)中、Xは、水素原子又はメチル基であり、イソプレンユニットが開裂した場合、一方の開裂末端ではXがメチル基、他方の開裂末端ではXが水素原子となる。式(A)において、Pは酸化開裂後のポリマー鎖を示す。
【0034】
ジエン系ポリマーの炭素-炭素二重結合を酸化開裂させるためには、酸化剤を用いることができ、例えば、ジエン系ポリマーの水系エマルションに酸化剤を添加し攪拌することにより酸化開裂させることができる。酸化剤としては、例えば、過マンガン酸カリウム、酸化マンガンなどのマンガン化合物、クロム酸、三酸化クロムなどのクロム化合物、過酸化水素などの過酸化物、過ヨウ素酸などの過ハロゲン酸、オゾン、酸素などの酸素類などが挙げられる。これらの中でも、過ヨウ素酸を用いることが好ましい。酸化開裂に際しては、コバルト、銅、鉄などの金属の塩化物や有機化合物との塩や錯体などの金属系酸化触媒を併用してもよく、例えば、該金属系酸化触媒の存在下で空気酸化してもよい。
【0035】
上記酸化開裂によりポリマーを分解することで、分子量が低下する。分解後のポリマーの重量平均分子量は、特に限定されないが、5,000~3,000,000であることが好ましく、より好ましくは300,000~2,000,000である。
【0036】
以上のようにしてポリマーを分解させた後、分解したポリマーを含む反応系を上記亜リン酸類と反応させる。反応させた後、水系エマルションを凝固乾燥させることにより、常温(23℃)で固形状の末端変性ジエン系ポリマーが得られる。得られた末端変性ジエン系ポリマーは、上記式(1)~(4)のいずれかの末端構造を有している。
【0037】
具体的には、一般式(A)で表される構造のカルボニル基又はホルミル基に対して、上記亜リン酸類が求核付加反応することにより、一般式(1)又は(2)で表される末端構造となり、さらに脱水反応が起こると一般式(3)又は(4)で表される末端構造となる。
【0038】
上記変性ジエン系ポリマーの重量平均分子量は、特に限定されないが、400,000~4,000,000であることが好ましく、600,000~3,000,000であることがより好ましい。
【0039】
また、本実施形態によれば、二重結合を解離させる薬剤である酸化剤の種類や量、反応時間などを調整することにより酸化開裂させる反応を制御できる。この制御によって末端変性ジエン系ポリマーの分子量を制御することができる。
【0040】
酸化剤の配合量は特に限定されないが、ジエン系ポリマー(固形分量)100質量部に対して、0.1~2.0質量部であることが好ましく、0.2~0.6質量部であることがより好ましい。
【0041】
上記亜リン酸類の配合量は特に限定されないが、ジエン系ポリマー(固形分量)1kgに対して、0.05~1.0molであることが好ましく、0.1~0.5molであることがより好ましい。
【0042】
本実施形態のように、ポリマー主鎖を分解し亜リン酸類を反応させて、末端にリン酸基を導入することで、疑似架橋が形成される。すなわち、末端に導入されたリン酸基同士、あるいは、リン酸基と、ポリマーの酸化開裂で生じたカルボニル基又はホルミル基との相互作用(ファンデルワールス結合や水素結合など)により物理的に結合することで、末端のリン酸基が疑似的な架橋点として働く。疑似架橋が形成されることにより、伸長結晶化が促進し、機械物性の向上効果が得られる。
【0043】
本実施形態に係るゴム組成物は、ゴム成分として、上記末端変性ジエン系ポリマー以外のジエン系ゴムを含有していてもよく、その種類は特に限定されないが、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴムなどが挙げられる。これらジエン系ゴムは、いずれか1種単独で、又は2種以上ブレンドして用いることができる。
【0044】
本実施形態に係るゴム組成物において、ゴム成分100質量部中の末端変性ジエン系ポリマーの含有量は、特に限定されないが、10~100質量部であることが好ましく、30~100質量部であることが好ましく、50~100質量部であることがさらに好ましい。
【0045】
本実施形態に係るゴム組成物には、無機充填剤として、カーボンブラック、シリカ等の補強性充填剤を用いることができる。すなわち、無機充填剤は、カーボンブラック単独でも、シリカ単独でも、カーボンブラックとシリカの併用でもよい。好ましくは、カーボンブラックとシリカの併用である。無機充填剤の含有量は、特に限定されず、例えばゴム成分100質量部に対して、1~150質量部であることが好ましく、より好ましくは1~100質量部であり、さらに好ましくは1~80質量部である。
【0046】
カーボンブラックとしては、特に限定されず、公知の種々の品種を用いることができる。カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、1~70質量部であることが好ましく、より好ましくは1~30質量部である。
【0047】
シリカとしては、特に限定されないが、湿式沈降法シリカや湿式ゲル法シリカなどの湿式シリカが好ましく用いられる。シリカの含有量は、ゴムのtanδのバランスや補強性などの観点からゴム成分100質量部に対して、1~150質量部であることが好ましく、より好ましくは1~100質量部であり、さらに好ましくは1~80質量部である。
【0048】
シリカを含有する場合、スルフィドシラン、メルカプトシランなどのシランカップリング剤をさらに含有してもよい。シランカップリング剤を含有する場合、その含有量はシリカ100質量部に対して2~20質量部であることが好ましい。
【0049】
本実施形態に係るゴム組成物では、上記した各成分に加え、通常のゴム工業で使用されているプロセスオイル、亜鉛華、ステアリン酸、軟化剤、可塑剤、ワックス、老化防止剤などの添加剤や、加硫剤、加硫促進剤などの加硫系配合剤を通常の範囲内で適宜配合することができる。
【0050】
加硫剤としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などの硫黄成分が挙げられる。また、加硫剤の含有量はゴム成分100質量部に対して0.1~10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~5質量部である。また、加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して0.1~7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~5質量部である。
【0051】
本実施形態に係るゴム組成物は、通常用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて作製することができる。
【0052】
得られるゴム組成物は、タイヤ用として用いることができ、乗用車用、トラックやバスの大型タイヤなど、各種用途・サイズの空気入りタイヤのトレッド部やサイドウォール部などタイヤの各部位に適用することができる。ゴム組成物は、常法に従い、例えば、押出加工によって所定の形状に成形され、他の部品と組み合わせた後、例えば140~180℃で加硫成形することにより、空気入りタイヤを製造することができる。
【0053】
本実施形態に係る空気入りタイヤの種類としては、特に限定されず、上述の通り、乗用車用タイヤ、トラックやバスなどに用いられる重荷重用タイヤなどの各種のタイヤが挙げられる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
[比較例1:酸化分解ジエン系ポリマーの合成]
(酸化分解工程)
固形分濃度(DRC:Dry Rubber Content)を30質量%に調整したIRラテックスを200g調製し、ドデシル硫酸ナトリウム(2.0g)を加え、窒素雰囲気下で1時間撹拌した。その後、tert-ブチルヒドロペルオキシド(1.08mL)、テトラエチレンペンタミン(1.3mL)を加え60℃で3時間撹拌した。得られた反応溶液をアセトンに滴下しゴム分を凝集させた。得られたゴム分を水で洗浄し、50℃で減圧乾燥することにより酸化分解ジエン系ポリマーを得た。酸化分解ジエン系ポリマーの重量平均分子量は、6.20×105であった。この分子量から、分子鎖切断反応が進行していることを確認した。
【0056】
[実施例1~5:末端変性ジエン系ポリマー1~5の合成]
(末端変性工程)
比較例1と同様に調製した酸化分解ジエン系ポリマーに、表1に示す配合量(g)の亜リン酸ジエチルと、亜リン酸ジエチルの1.1当量のジアザビシクロウンデセンを滴下し、表1に示す時間だけ撹拌した。得られた反応溶液をアセトンに滴下しゴム分を凝集させた。得られたゴム分を水で洗浄し、50℃で減圧乾燥することにより末端変性ジエン系ポリマー1~5を得た。末端変性ジエン系ポリマーのNMRスペクトル(31P-NMR(CDCl3),δ=5.4ppm(br),4.4ppm(br))から亜リン酸基がポリマーに導入されたことを確認した。
【0057】
[実施例6~8:末端変性ジエン系ポリマー6~8の合成]
(末端変性工程)
比較例1と同様に調製した酸化分解ジエン系ポリマーに、表1に示す配合量(g)の亜リン酸ジフェニルと、亜リン酸ジフェニルの1.1当量のジアザビシクロウンデセンを滴下し、表1に示す時間だけ撹拌した。得られた反応溶液をアセトンに滴下しゴム分を凝集させた。得られたゴム分を水で洗浄し、50℃で減圧乾燥することにより末端変性ジエン系ポリマー6~8を得た。末端変性ジエン系ポリマーのNMRスペクトル(31P-NMR(CDCl3),δ=2.3ppm(br))から亜リン酸基がポリマーに導入されたことを確認した。
【0058】
上記実施例に記載の各成分の詳細は以下の通りである。
・IRラテックス:KRATONポリマージャパン(株)製の「Califlex IR0401 SU Latex」、重量平均分子量=2,530,000
・ドデシル硫酸ナトリウム:富士フィルム和光純薬(株)製
・tert-ブチルヒドロペルオキシド:東京化成工業(株)製
・テトラエチレンペンタミン:東京化成工業(株)製
・亜リン酸ジエチル:東京化成工業(株)製
・亜リン酸ジフェニル:東京化成工業(株)製
・ジアザビシクロウンデセン:東京化成工業(株)製
・アセトン:ナカライテスク(株)製
【0059】
【0060】
比較例1及び実施例1~8で得られたポリマーのNMR測定結果と重量平均分子量を表2に示した。各測定方法は、以下の通りである。
【0061】
[NMR測定方法]
BLUKER社製「400ULTRASHIELDTM PLUS」により測定した。測定試料を重水素化クロロホルムに溶解させたものを用いた。ピーク強度は31P-NMR定量スペクトルより算出した。一般式(5)で表される亜リン酸類のRがエチルの系では5.4ppm,4.4ppmのピークの合計値を使用し、Rがフェニルの系では2.3ppmのピーク値を使用した。
【0062】
[重量平均分子量(Mw)]
ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)での測定により、ポリスチレン換算のMn,Mw及びMw/Mnを求めた。詳細には、測定試料はTHF1mLに溶解させたものを用いた。(株)島津製作所製「LC-20DA」を使用し、試料をフィルター透過後、温度40℃、流量1.0mL/分でカラム(Shodex KL-806)を通し、示差屈曲検出器(RI)で検出した。
【0063】
【0064】
実施例1~3のピーク強度の対比から、亜リン酸試薬の添加量を増加させるとこで、リン酸基の導入量が増加することがわかる。
【0065】
実施例2と実施例4との対比、及び実施例7と実施例8との対比より反応時間を増加させることで、リン酸基の導入量が増加することがわかる。
【0066】
なお、実施例3と実施例5との対比では、反応時間を増加させてもリン酸基の導入量は増加しないが、これは実施例3と実施例5の反応条件において、ピーク強度(INDEX)の300付近がリン酸導入量の限界点であるためと推測できる。
【0067】
また比較例1と実施例1~8との対比より、実施例1~8の分子量は増加していることから、末端に導入されたリン酸基同士や、リン酸基とポリマーの酸化開裂で生じたカルボニル基やホルミル基とが相互作用(ファンデルワールス結合や水素結合)していることが示唆される。
【0068】
比較例1、実施例1,2,4,6~8のポリマーを用い、以下に示す配合処方のゴム組成物を調製し、150℃で25分間加硫し、以下に示す方法で加硫後のゴム組成物の引張応力の評価を行った。
【0069】
<配合>
ゴム:100質量部
カーボンブラック:3質量部
亜鉛華:5質量部
ステアリン酸:2質量部
硫黄:2.25質量部
加硫促進剤:1.1質量部
【0070】
上記配合に記載の各成分の詳細は以下の通りである。
・ゴム:比較例1、実施例1,2,4,6~8で得られたポリマー
・カーボンブラック:東海カーボン(株)製「N339 シーストKH」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1種」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS-20」
・硫黄:細井化学工業(株)製「ゴム用粉末硫黄150メッシュ」
・加硫促進剤:大内新興化学興業(株)製「ノクセラーCZ」
【0071】
比較例1、及び実施例1,2,4,6,7,8で得られたポリマーを用いて作製したゴム組成物について、200%伸張時の引張応力(MPa)を評価した。評価方法は次の通りである。
【0072】
[200%伸張時の引張応力(MPa)]
JIS K6251に準拠した引張試験(ダンベル状3号形)を行い、25℃における200%伸長時の引張応力(Mpa)を測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど引張強度が高く、良好であることを示す。
【0073】
【0074】
結果は、表3に示す通りであり、表3に記載の全ての実施例において、比較例1よりも優れた引張強度が得られた。この結果からもリン酸基の導入により、末端に導入されたリン酸基同士や、リン酸基とポリマーの酸化開裂で生じたカルボニル基やホルミル基とが相互作用(ファンデルワールス結合や水素結合)していることが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の末端変性ジエン系ポリマーを用いたゴム組成物は、乗用車、ライトトラック・バス等の各種タイヤに用いることができる。