(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】不織布及び貼付薬用基材
(51)【国際特許分類】
D04H 1/50 20120101AFI20231013BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20231013BHJP
D04H 1/49 20120101ALI20231013BHJP
D04H 1/492 20120101ALI20231013BHJP
【FI】
D04H1/50
A61K9/70 401
D04H1/49
D04H1/492
(21)【出願番号】P 2019197926
(22)【出願日】2019-10-30
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】井上 翔太
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-162840(JP,A)
【文献】特開2013-094513(JP,A)
【文献】特開2013-163879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00 - 9/72
A61K 47/00 - 47/69
D04H 1/00 - 18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潜在捲縮性繊維の捲縮が発現した高捲縮繊維を主体とする不織布
の製造方法であり、
前記不織布の単位目付あたりの縦方向及び横方向の50%モジュラス強度がともに0.020N/5cm/(g/m
2)以上であり、
前記不織布の横方向の引張り強度(CDS)に対する縦方向の引張り強度(MDS)の比である引張り強度の縦横比(MDS/CDS)が2.0以上であり、
前記不織布を縦方向に50%伸長させた際の、横方向の収縮率が20%以下であ
り、
潜在捲縮性繊維を主体とする繊維ウエブを形成し、前記繊維ウエブに含まれる前記潜在捲縮性繊維の捲縮を発現させて前記不織布を製造する際に、熱を作用させて前記繊維ウエブの縦方向を50.0~70%収縮させ、繊維ウエブの横方向を34.4~70%収縮させる、不織布
の製造方法。
【請求項2】
潜在捲縮性繊維の捲縮が発現した高捲縮繊維の繊度が2.0dtex以下である、請求項1に記載の不織布
の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の不織布
の製造方法から
製造されている、貼付薬用基材
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布及び不織布から構成された貼付薬用基材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、貼付薬用基材として、捲縮が発現した捲縮繊維を含む不織布が用いられており、このような不織布として、例えば、特開平9-87950号公報(特許文献1)には、立体捲縮が発現した潜在捲縮性繊維を80重量%以上含み、50%伸長回復率が高いことで身体へのフィット感が優れ、かつ50%モジュラス強度が低いことで着用感が優れる、伸縮性不織布が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の不織布は、確かに身体へのフィット感が優れるものであったが、例えば貼付薬用基材として用いた際に、衣服などとの摩擦によって不織布が破壊されたり、粘着力が強く硬い膏体を塗布した際に塗布した膏体によって不織布が破壊されたりすることがあった。そのため、不織布の厚さ方向の強度を強くすることを目的として、繊維密度を高めることを検討したものの、不織布の繊維密度を高めると、不織布が硬くなり、貼付薬用基材として用いた際に肌への追従性が悪く、貼付感が悪いものであった。
【0005】
本発明はこのような状況下においてなされたものであり、不織布の厚さ方向の強度が優れ、かつ貼付感に優れる不織布及び貼付薬用基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1にかかる発明は、「潜在捲縮性繊維の捲縮が発現した高捲縮繊維を主体とする不織布であり、前記不織布の単位目付あたりの縦方向及び横方向の50%モジュラス強度がともに0.020N/5cm/(g/m2)以上であり、前記不織布の横方向の引張り強度(CDS)に対する縦方向の引張り強度(MDS)の比である引張り強度の縦横比(MDS/CDS)が2.0以上であり、前記不織布を縦方向に50%伸長させた際の、横方向の収縮率が20%以下である、不織布。」である。
【0007】
本発明の請求項2にかかる発明は、「潜在捲縮性繊維の捲縮が発現した高捲縮繊維の繊度が2.0dtex以下である、請求項1に記載の不織布。」である。
【0008】
本発明の請求項3にかかる発明は、「請求項1又は2に記載の不織布から構成されている、貼付薬用基材。」である。
【発明の効果】
【0009】
本願出願人は、潜在捲縮性繊維の捲縮が発現した高捲縮繊維を主体とする不織布において、前記不織布の単位目付あたりの縦方向及び横方向の50%モジュラス強度がともに0.020N/5cm/(g/m2)以上であり、前記不織布の横方向の引張り強度(CDS)に対する縦方向の引張り強度(MDS)の比である引張り強度の縦横比(MDS/CDS)が2.0以上であり、前記不織布を縦方向に50%伸長させた際の、横方向の収縮率が20%以下であることで、不織布の厚さ方向の強度と貼付感の両方が優れる不織布が実現できることを見出した。
【0010】
更に、潜在捲縮性繊維の捲縮が発現した高捲縮繊維の繊度が2.0dtex以下であることで、不織布の構成繊維同士が強く絡合し、不織布の厚さ方向の強度が優れ、また縦方向に伸長させた際の横方向の収縮率が小さい、貼付感に優れる不織布が実現できる。
【0011】
更に、本発明の不織布は、貼付時に引きつり等の違和感が発生しにくいことから、貼付薬用基材などの肌に貼付する用途に適している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の不織布は、潜在捲縮性繊維の捲縮が発現した高捲縮繊維を主体としている。この高捲縮繊維は捲縮数が多く、外力が作用した際には、その捲縮が伸びることができるため、高捲縮繊維を主体とする不織布は伸長性に優れているばかりでなく、外力を取り除いた場合には、捲縮を元の状態に戻そうとする力が働くため、伸縮性に優れている。例えば、貼付薬用基材として使用した場合には、皮膚に貼りつけた際に使用者の動きに追従することができる。また、高捲縮繊維は捲縮により繊維同士が平面的のみだけでなく立体的にも良く絡合するため、高捲縮繊維を主体とする不織布は繊維間の結合強度が強く、厚さ方向の強度にも優れる。
【0013】
この潜在捲縮性繊維としては、例えば、熱収縮率の異なる複数の樹脂が複合された複合繊維、繊維の一部に特定の熱履歴を施した繊維を挙げることができる。より具体的には、複合繊維として、偏芯型芯鞘構造のもの、又はサイドバイサイド型構造のものを好適に用いることができる。
【0014】
熱収縮率の異なる樹脂の組み合わせとしては、例えば、ポリエステル-低融点ポリエステル、ポリアミド-低融点ポリアミド、ポリエステル-ポリアミド、ポリエステル-ポリプロピレン、ポリプロピレン-低融点ポリプロピレン、ポリプロピレン-ポリエチレンなど種々の合成樹脂を組み合わせたものが使用できる。特に、ポリエステル-低融点ポリエステル若しくはポリプロピレン-低融点ポリプロピレンの組み合わせからなる潜在捲縮性繊維は、化学的な耐性、伸長性及び伸縮性の点で優れているため好ましい。また、繊維の一部に特定の熱履歴を施した潜在捲縮性繊維としては、例えば、ポリエステル、ポリアミドなどの熱可塑性樹脂からなる繊維の一側面を熱刃などにあてながら通過させたものを使用できる。
【0015】
この潜在捲縮性繊維の繊度は特に限定するものではないが、繊維同士が絡合しやすく、また、繊維同士の密着性が高くなりやすく、地合いの優れる不織布であるように、5.5dtex以下であるのが好ましく、4.4dtex以下であるのがより好ましく、3.3dtex以下であるのが更に好ましく、2.0dtex以下であるのが更に好ましい。一方で、繊度が小さ過ぎると、繊維同士の絡合が高くなり過ぎてしまい、伸長性が悪くなる傾向があるため、0.5dtex以上であるのが好ましく、0.8dtex以上であるのがより好ましく、1.1dtex以上であるのが更に好ましい。
【0016】
なお、繊度の異なる潜在捲縮性繊維を2種類以上含むこともできる。このように繊度の異なる潜在捲縮性繊維を2種類以上含んでいる場合、次の式により算出される平均繊度が前記繊度範囲内にあるのが好ましい。繊度の異なる潜在捲縮性繊維を3種類以上含んでいる場合も同様にして算出した値が前記繊度範囲内にあるのが好ましい。
Fav=1/{(Pa/100)/Fa+(Pb/100)/Fb}
ここで、Favは平均繊度(単位:dtex)、Paは不織布に占める一方の繊維(繊維A)の質量割合(単位:mass%)、Faは繊維Aの繊度(単位:dtex)、Pbは不織布に占める他方の繊維(繊維B)の質量割合(単位:mass%)、Fbは繊維Bの繊度(単位:dtex)をそれぞれ意味する。
【0017】
また、潜在捲縮性繊維の繊維長は特に限定するものではないが、繊維同士が絡合しやすいように、110mm以下であるのが好ましく、64mm以下であるのがより好ましく、51mm以下であるのが更に好ましい。繊維長の下限は特に限定するものではないが、繊維同士が絡合しやすく、また、均一な地合いの不織布であるように、25mm以上であるのが好ましく、30mm以上であるのがより好ましい。
【0018】
本発明の不織布は上述のような高捲縮繊維を主体としているのが好ましいが、この「主体」とは、潜在捲縮性繊維の捲縮が発現した高捲縮繊維を50mass%以上含むことを意味し、この高捲縮繊維が多ければ多いほど、伸長性及び伸縮性に優れているため、70mass%以上含むのがより好ましく、90mass%以上含むのが更に好ましく、100mass%高捲縮繊維からなるのが最も好ましい。
【0019】
本発明の不織布は、単位目付あたりの縦方向及び横方向の50%モジュラス強度がともに0.020N/5cm/(g/m2)以上であることから、繊維同士がよく絡合しており、厚さ方向の強度が優れ、本発明の不織布を貼付薬用基材に用いた際に、粘着力の高い膏体を用いた場合でも、膏体によって不織布が破壊されにくく、また、使用時に剥がす際に不織布の層間で剥離が生じにくくなる。
【0020】
なお、本発明における「縦方向」とは、不織布生産時における生産方向をいい、これに対して本発明における「横方向」とは、不織布生産時における生産方向(縦方向)に直交する方向をいう。
【0021】
また、本発明における、「単位目付あたりの50%モジュラス強度」とは、50%モジュラス強度を目付で除した商であり、目付で除しているのは、目付は一定面積あたりの質量を意味するため、目付が大きいと質量が大きく、繊維量が多いことを意味し、目付が小さいと質量が小さく、繊維量が少ないことを意味し、繊維量によって、引張り強度は影響を受けることから、その影響を排除するためである。なお、「目付」は不織布の最も広い面における1m2あたりの質量である。
【0022】
さらに、「50%モジュラス強度」は、不織布から幅が50mm、長さが300mmの試料片を採取し、テンシロン万能材料試験機(エー・アンド・デイ社製)を用い、試料片をつかみ間隔200mmで固定した後、100mm(=50%)伸長(つかみ間隔:300mm)するまでの最大荷重を測定する。この最大荷重の測定を3枚の試料片について行い、これら最大荷重を算術平均し、50%モジュラス強度とする。なお、測定は引張速度500mm/分の条件で行う。
【0023】
単位目付あたりの縦方向の50%モジュラス強度が高ければ高いほど、繊維同士がより絡合して不織布の厚さ方向の強度が優れることから、0.021N/5cm/(g/m2)以上がより好ましく、0.025N/5cm/(g/m2)以上が更に好ましい。一方で、不織布の伸長性が悪化する恐れがあることから、上限は0.200N/5cm/(g/m2)以下が現実的である。同様に、単位目付あたりの横方向の50%モジュラス強度は、高ければ高いほど、不織布の厚さ方向の強度が優れることから、0.021N/5cm/(g/m2)以上がより好ましく、0.025N/5cm/(g/m2)以上が更に好ましい。一方で、不織布の伸長性が悪化する恐れがあることから、上限は0.100N/5cm/(g/m2)以下が現実的である。
【0024】
本発明の不織布は、横方向の引張り強度(CDS:Cross Direction Strength)に対する縦方向の引張り強度(MDS:Machine Direction Strength)の比である引張り強度の縦横比(MDS/CDS)が2.0以上であると、不織布の厚さ方向の強度が優れることを見出した。この理由については完全に明らかになっていないが、縦方向と横方向の引張り強度に差があるということは、不織布内で縦方向への繊維配向性がある程度あることが推定され、ある程度の繊維配向性があった方が、繊維同士がよく絡合するためと推定される。
【0025】
この引張り強度の縦横比(MDS/CDS)が高いほど、不織布の厚さ方向の強度が優れる傾向があることから2.1以上がより好ましく、2.2以上が更に好ましい一方、高すぎると繊維が一方向に配向し、後述する縦方向に50%伸長させた際の、横方向の収縮率が高くなる傾向があることから、上限は2.5以下が現実的である。
【0026】
引張り強度は、JIS L 1913:2010 6.3(ISO法) 6.3.1(標準時)に準じて、次の条件で測定した値である。
試験片の幅:5cm
チャック間距離:200mm
引張速度:500mm/分
【0027】
また、縦方向の引張り強度については、特に限定するものではないが、30~150N/5cmが好ましく、45~135N/5cmがより好ましく、60~120N/5cmが更に好ましい。横方向の引張り強度についても、特に限定するものではないが、10~70N/5cmが好ましく、20~60N/5cmがより好ましく、30~50N/5cmが更に好ましい。
【0028】
本発明の不織布は、縦方向に50%伸長させた際の、横方向の収縮率が20%以下であることで、不織布を引っ張った際に縮みにくく、例えば不織布を貼付薬用基材に用いた際に、貼付感に優れる。
なお、不織布を縦方向に50%伸長させた際の、横方向の収縮率で評価している理由は、不織布を貼付薬用基材に用いる際に引張り強度が相対的に強い縦方向に不織布を伸長して貼付することから、前記用途における物性で比較するためである。
【0029】
この不織布を縦方向に50%伸長させた際の、横方向の収縮率は、不織布から横方向が50mm、縦方向が300mmの試料片を採取し、テンシロン万能材料試験機(エー・アンド・デイ社製)を用い、試料片をつかみ間隔200mmで固定した後、100mm(=50%)伸長(つかみ間隔:300mm)し、このときの横方向の長さL(単位:mm)を測定する。この横方向の長さLの測定を3枚の試験片について行い、これら横方向の長さLを算術平均して以下の式に代入し、横方向の収縮率を求める。
横方向の収縮率(%)={(50-L)/50}×100
なお、測定は引張速度500mm/分の条件で行う。
【0030】
本発明の不織布は伸長しやすいものであるが、伸び率が縦方向、横方向ともに100%以上であるのが好ましく、125%以上であるのがより好ましく、150%以上であるのが更に好ましい。
【0031】
この伸び率(Sr、単位:%)は、前述の引張り強度の測定を行った時の、最大荷重時の試料片の伸び(Smax、単位:mm)[=(最大荷重時の長さ、単位:mm)-(つかみ間隔=200mm)]のつかみ間隔(200mm)に対する百分率をいう。つまり、次の式から得られる値である。この測定を3回行い、前記百分率の算術平均値を伸び率とする。
Sr=(Smax/200)×100
【0032】
不織布を構成する潜在捲縮性繊維の捲縮が発現した高捲縮繊維以外の繊維は特に限定するものではないが、不織布の伸長性及び伸縮性を損なわないように、潜在捲縮性繊維の捲縮を発現させる際の熱の作用によって融着しない繊維であるのが好ましく、例えば、ポリエステル系繊維(ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維など)、ポリオレフィン系繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維など)、ポリアミド系繊維(6ナイロン繊維、66ナイロン繊維など)、ポリビニルアルコール繊維、アクリル繊維等の合成繊維、又はコットンやレーヨン等のセルロース系繊維であることができる。
【0033】
本発明の不織布の構成繊維(高捲縮繊維)は白色であることができるが、白色以外に顔料で着色した繊維、及び/又は染料で染色した繊維を含んでいても良い。例えば、貼付薬用基材として使用する場合、肌色に着色していると、皮膚に貼付した場合に目立たないため好適である。
【0034】
本発明の不織布は圧着部を有していても良い。この圧着部が出所、薬効成分、デザイン等の情報であれば、その情報を認識することができる不織布である。この「圧着部」は繊維の密着度が他の領域よりも高くなっているものの、繊維が融着していない部分である。このように、繊維が融着していないため、不織布の伸長性や伸縮性に優れている。なお、圧着部を有する場合、伸長性や伸縮性に優れているように、不織布の圧着部の総面積は不織布の面積の40%以下であるのが好ましく、20%以下であるのがより好ましく、10%以下であるのが更に好ましい。一方で、圧着部が情報源としての作用を奏する場合には、情報を認識しやすいように、ある程度の大きさであるのが好ましいため、不織布の圧着部の総面積は不織布の面積の5%以上であるのが好ましい。
【0035】
本発明の不織布の目付は特に限定するものではないが、地合いの優れる不織布であるように、30g/m2以上であるのが好ましく、40g/m2以上であるのがより好ましい。一方で、目付が高すぎると、伸長性が悪くなる傾向があるため、150g/m2以下であるのが好ましく、130g/m2以下であるのがより好ましく、110g/m2以下であるのが更に好ましい。
【0036】
また、不織布の厚さは特に限定するものではないが、厚さが薄すぎると、繊維同士が密着し過ぎており、伸縮性が悪くなる傾向があるため、0.30mm以上であるのが好ましく、0.40mm以上であるのがより好ましい。一方で、厚さが厚すぎると、繊維同士が十分に絡合しておらず、引張り強度及び耐摩耗性が弱くなる傾向があるため、1.50mm以下であるのが好ましく、1.00mm以下であるのがより好ましく、0.90mm以下であるのが更に好ましい。なお、「厚さ」は圧縮弾性試験機を用い、接触面積5cm2、荷重0.98N{100gf}の条件で測定した値をいう。
【0037】
本発明の不織布の製造方法は、特に限定するものではないが、例えば、(1)潜在捲縮性繊維を主体とする繊維ウエブを形成する工程、(2)前記繊維ウエブ構成繊維同士を結合した後に、前記潜在捲縮性繊維の捲縮を発現させる工程、又は(2’)前記潜在捲縮性繊維の捲縮を発現させた後に、前記繊維ウエブ構成繊維同士を結合する工程、により製造することができる。
【0038】
より具体的には、(1)潜在捲縮性繊維を主体(50mass%以上)とする繊維ウエブを形成する工程は、例えば、カード法、エアレイ法などの乾式法、湿式法、又はスパンボンド法などの直接法により形成できる。パップ剤やプラスター剤などの貼付薬用基材のように、膏体が塗布面とは反対面へ染み出すのを防止することが必要な場合には、ある程度の厚さがあった方が好ましいため、比較的嵩高な繊維ウエブを形成しやすい、乾式法により繊維ウエブを形成するのが好ましい。なお、これら繊維ウエブを積層することもできる。なお、潜在捲縮性繊維としては、前述の潜在捲縮性繊維を使用できる。
【0039】
なお、繊維ウエブ構成繊維の配向方向は、例えば、縦方向に配向したパラレルウエブやユニダイレクションウエブ、パラレルウエブをクロスレイヤー等で横方向に配向させたクロスレイウエブ、パラレルウエブとクロスレイウエブとを積層したクリスクロスウエブ、又はランダムウエブであることができる。これらの中でも、ランダムウエブであると、本発明の構成を満たし、不織布の厚さ方向の強度及び貼付感が優れる不織布を製造しやすく好ましい。
【0040】
そして、(2)前記繊維ウエブ構成繊維同士を結合した後に、前記潜在捲縮性繊維の捲縮を発現させる工程、又は(2’)前記潜在捲縮性繊維の捲縮を発現させた後に、前記繊維ウエブ構成繊維同士を結合する工程、を実施することにより、本発明の不織布を製造することができる。
【0041】
繊維ウエブ構成繊維同士を結合する方法は、特に限定するものではないが、伸長性に優れる不織布を製造するには、水流絡合、ニードルパンチにより絡合し、繊維ウエブ構成繊維同士を結合するのが好ましい。特に、水流絡合であると、繊維同士が十分に絡合しているため、不織布の厚さ方向の強度が高く層間剥離しにくい上、耐摩耗性に優れる不織布を製造しやすく好ましい。
【0042】
好適である水流絡合の場合、単位目付あたりの50%モジュラス強度が0.020N/5cm/(g/m2)以上であるような50%モジュラス強度が強い、つまり、繊維同士が十分に絡合しており、不織布の厚さ方向の強度が高く層間剥離しにくいように、水流が1.5MPa以上の水流を1度は作用させるのが好ましい。水圧が高い程、前記作用に優れるため、水圧が2.0MPa以上の水流を作用させるのがより好ましい。なお、水圧が強すぎると伸長性が悪くなる傾向があるため、12MPa以下であるのが好ましい。また、繊維同士が十分に絡合するように、水流の作用は2回以上であるのが好ましい。更に、水流は、繊維ウエブの両面に対して作用させるのが好ましい。更に、水流絡合の際に使用する、繊維ウエブを支持する支持体は、不織布の地合いを乱さないように、50~100メッシュのプラスチック製又は金属製の、平織りネット、綾織りネット、又はメッシュスクリーンを使用するのが好ましい。
【0043】
潜在捲縮性繊維の捲縮の発現は、例えば、繊維ウエブ(繊維同士を結合した繊維ウエブを含む、以下同様)に対して、熱を作用させることにより実施できる。この捲縮の発現によって、耐摩耗性に優れ、不織布を縦方向に50%伸長させた際の、横方向の収縮率が20%以下であるような、外力で収縮しにくい不織布とすることができるように、繊維ウエブの縦方向、横方向のいずれの方向においても、20~70%収縮させるのが好ましく、25~65%収縮させるのがより好ましく、30~60%収縮させるのが更に好ましい。
【0044】
この収縮の百分率(Sr)は、収縮前の縦方向又は横方向における、繊維ウエブの長さをLb、収縮後の縦方向又は横方向における、繊維ウエブの長さをLaとした時に、次の式から算出される値である。例えば、縦方向における長さが100cmの繊維ウエブを、縦方向における長さを90cmの長さにまで縮めた場合、収縮の百分率は10%である。
Sr=[(Lb-La)/Lb]×100
【0045】
このように、縦方向と横方向の両方向に収縮させるためには、例えば、縦方向に関してはオーバーフィードし、横方向に関しては収縮を阻害しないように、熱を作用させることによって実施できる。なお、繊維ウエブに対する熱は、コンベア等で搬送しながら作用させることができる。
【0046】
この繊維ウエブに対して作用させる熱は潜在捲縮性繊維が捲縮を発現できる熱であれば良く、潜在捲縮性繊維によってその温度は異なるため、特に限定するものではない。この温度は潜在捲縮性繊維に応じて、実験的に適宜設定できる。
【0047】
なお、加熱手段は特に限定するものではないが、例えば、熱風ドライヤー、赤外線ランプ、加熱ロールなどを挙げることができるが、捲縮を発現させて、縦方向及び横方向に収縮させるのが好ましいため、潜在捲縮性繊維の収縮を阻害しない加熱手段であるのが好ましい。
【0048】
本発明においては、(2)前記繊維ウエブ構成繊維同士を結合した後に、前記潜在捲縮性繊維の捲縮を発現させても良いし、(2’)前記潜在捲縮性繊維の捲縮を発現させた後に、前記繊維ウエブ構成繊維同士を結合しても良いが、前者(2)のように、繊維ウエブ構成繊維同士を結合した後に、前記潜在捲縮性繊維の捲縮を発現させると、より優れた伸縮性を有する不織布を製造することができるため、より好ましい。
【0049】
更に、本発明においては、不織布に更なる付加価値を付与するため、着色処理、エンボス処理、及び/又は印刷処理などの後工程を実施することができる。
【0050】
着色処理は不織布に対して顔料で着色する処理、又は染色処理であることができる。なお、顔料で着色した繊維又は染色した繊維を使用して、不織布を製造することもできる。
エンボス処理は不織布構成繊維を融着させず、圧着して実施するのが好ましい。繊維が融着してしまうと、高捲縮繊維等が融着して、十分な伸長性、伸縮性を発揮できなくなる傾向があるためである。繊維を融着させないために、エンボス処理装置における温度を、不織布構成繊維の中で最も低い融点をもつ樹脂成分の融点よりも低い温度、好ましくは該融点よりも30℃以上低い温度、より好ましく該融点よりも50℃以上低い温度とする。一方、圧着により不織布に情報を付与する場合、情報を鮮明に認識できるように、不織布構成繊維の中で最も高いガラス転移温度をもつ樹脂成分のガラス転移温度よりも高い温度で、エンボス処理を実施するのが好ましい。
【0051】
印刷処理は、例えば、グラビア印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷等、一般的な印刷方法により、不織布表面に文字や図形を印刷することができる。印刷するインクとしては、例えば、無機顔料、有機顔料、有機染料を単一で、もしくは混合して使用することができる。このように印刷することによって、エンボス処理した場合と同様に、不織布に情報を付与したり、意匠性を向上したりすることができる。
【実施例】
【0052】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は次の実施例に限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
ポリエステル(融点:250℃)/低融点ポリエステル(230℃)の組み合わせでサイドバイサイド型に構成された潜在捲縮性繊維(繊度:1.3dtex、繊維長:44mm)を100mass%用いて、カード機により開繊し、ランダムウエブを形成した。
このランダムウエブを水流により絡合して、水流絡合繊維ウエブを形成した。なお、水流絡合条件は次の通りとした。
1.シャワー:1.0MPa[一方の面(A面)]
2.ノズル径0.12mm、ノズルピッチ0.6mmのノズルプレートから1.5MPa(A面)
3.ノズル径0.12mm、ノズルピッチ0.6mmのノズルプレートから2.0MPa(A面)
4.ノズル径0.12mm、ノズルピッチ0.6mmのノズルプレートから2.0MPa[もう一方の面(B面)]
5.ノズル径0.12mm、ノズルピッチ0.6mmのノズルプレートから2.5MPa(A面)
次いで、水流絡合繊維ウエブを乾燥した後、水流絡合繊維ウエブに対して、熱風ドライヤーによる熱処理を行うことによって、潜在捲縮性繊維の捲縮を発現させて高捲縮繊維を形成する際に、水流絡合ウエブの縦方向に50.0%、横方向に34.4%収縮させて、不織布を製造した。この不織布の物性は表1に示す通りであった。
【0054】
(実施例2)
目付及び厚さが異なることを除いては、実施例1と同様にして、不織布を製造した。この不織布の物性は表1に示す通りであった。
【0055】
(比較例1)
実施例1と同様の潜在捲縮性繊維を100mass%用いて、カード機により開繊し、ランダムウエブを形成した。
このランダムウエブを水流により絡合して、水流絡合繊維ウエブを形成した。なお、水流絡合条件は次の通りとした。
1.シャワー:1.0MPa[一方の面(A面)]
2.ノズル径0.12mm、ノズルピッチ0.6mmのノズルプレートから1.5MPa(A面)
3.ノズル径0.12mm、ノズルピッチ0.6mmのノズルプレートから2.0MPa(A面)
4.ノズル径0.12mm、ノズルピッチ0.6mmのノズルプレートから2.0MPa[もう一方の面(B面)]
5.ノズル径0.12mm、ノズルピッチ0.6mmのノズルプレートから2.5MPa(A面)
次いで、水流絡合繊維ウエブを乾燥した後、水流絡合繊維ウエブに対して、熱風ドライヤーによる熱処理を行うことによって、潜在捲縮性繊維の捲縮を発現させて高捲縮繊維を形成する際に、水流絡合ウエブの縦方向に43.2%、横方向に34.0%収縮させて、不織布を製造した。この不織布の物性は表1に示す通りであった。
【0056】
(比較例2)
実施例1と同様の潜在捲縮性繊維を100mass%用いて、カード機により開繊し、クロスレイウエブを形成した。
このクロスレイウエブを水流により絡合して、水流絡合繊維ウエブを形成した。なお、水流絡合条件は次の通りとした。
1.シャワー:1.0MPa[一方の面(A面)]
2.ノズル径0.12mm、ノズルピッチ0.6mmのノズルプレートから1.5MPa(A面)
3.ノズル径0.12mm、ノズルピッチ0.6mmのノズルプレートから2.0MPa(A面)
4.ノズル径0.12mm、ノズルピッチ0.6mmのノズルプレートから2.5MPa[もう一方の面(B面)]
次いで、水流絡合繊維ウエブを乾燥した後、水流絡合繊維ウエブに対して、熱風ドライヤーによる熱処理を行うことによって、潜在捲縮性繊維の捲縮を発現させて高捲縮繊維を形成する際に、水流絡合ウエブの縦方向に44.4%、横方向に45.1%収縮させて、不織布を製造した。この不織布の物性は表1に示す通りであった。
【0057】
(比較例3)
ポリエステル(融点:250℃)/低融点ポリエステル(230℃)の組み合わせでサイドバイサイド型に構成された潜在捲縮性繊維(繊度:2.2dtex、繊維長:51mm)を100mass%用いて、カード機により開繊し、ランダムウエブを形成した。
このランダムウエブを水流により絡合して、水流絡合ウエブを形成した。なお、水流絡合条件は次の通りとした。
1.シャワー:1.5MPa[一方の面(A面)]
2.ノズル径0.13mm、ノズルピッチ0.6mmのノズルプレートから4.0MPa(A面)
3.ノズル径0.13mm、ノズルピッチ0.6mmのノズルプレートから4.5MPa(A面)
4.ノズル径0.13mm、ノズルピッチ0.6mmのノズルプレートから6.5MPa[もう一方の面(B面)]
5.ノズル径0.13mm、ノズルピッチ0.6mmのノズルプレートから4.0MPa(A面)
次いで、水流絡合繊維ウエブを乾燥した後、水流絡合繊維ウエブに対して、熱風ドライヤーによる熱処理を行うことによって、潜在捲縮性繊維の捲縮を発現させて高捲縮繊維を形成する際に、水流絡合ウエブの縦方向に35.4%、横方向に18.4%収縮させて、不織布を製造した。この不織布の物性は表1に示す通りであった。
【0058】
(比較例4)
比較例3と同様の潜在捲縮性繊維を100mass%用いて、カード機により開繊し、ユニダイレクションウエブを形成した。
このユニダイレクションウエブを水流により絡合して、水流絡合ウエブを形成した。なお、水流絡合条件は次の通りとした。
1.ノズル径0.13mm、ノズルピッチ0.6mmのノズルプレートから3.0MPa[一方の面(A面)]
次いで、水流絡合繊維ウエブを乾燥した後、水流絡合繊維ウエブに対して、熱風ドライヤーによる熱処理を行うことによって、潜在捲縮性繊維の捲縮を発現させて高捲縮繊維を形成する際に、水流絡合ウエブの縦方向に45.8%、横方向に28.6%収縮させて、不織布を製造した。この不織布の物性は表1に示す通りであった。
【0059】
また、実施例及び比較例の不織布を、以下の方法により評価した。
【0060】
(不織布の厚さ方向の強度試験)
(1)実施例及び比較例の不織布と、5cm×15cmのクラフトテープ(アスクル株式会社製、現場のチカラ ラミネート加工 クラフトテープ)の粘着面を貼り合わせ、荷重500gのローラーで往復することでクラフトテープの全面を押し付けた。
(2)分速100mmの速さでクラフトテープをはがし、クラフトテープの粘着面の繊維付着状態を観察した結果から、次の基準に従って評価を行った。
(不織布の厚さ方向の強度の評価基準)
1:クラフトテープの粘着面に繊維の付着が全くない
2:クラフトテープの粘着面に繊維の付着があるものの、クラフトテープの粘着面において繊維が付着している面積が全体の20%以下
3:クラフトテープの粘着面において繊維が付着している面積が全体の20%を超え50%以下
4:クラフトテープの粘着面において繊維が付着している面積が全体の50%を超える
【0061】
(貼付感官能試験)
(1)粘着剤(コスメディ製薬株式会社製、MAS-811B)をシリコーンコーティングしたPETフィルムに乾燥後100μmとなるように展延させ、乾燥させた。
(2)実施例及び比較例の不織布と、(1)で粘着剤を展延させたPETフィルムの粘着剤を有する面を貼り合わせ、温度100℃、荷重0.1MPa、処理温度10秒間に設定した低温接着機(アサヒ繊維機械工業株式会社製、JP-1000LTS)を通過させることで粘着剤を不織布に転写させた積層体を製造した。
(3)(2)の積層体を縦方向10cm、横方向7cmの長方形に打ち抜き、評価サンプルとした。
(4)20~40代の5名の肘部に、貼付サンプルのPETフィルムをはがして粘着剤と肌が接着するように貼付し、次の基準に従って評価を行い、評価の算術平均値(小数点第一位まで)を求めた。
(貼付感官能試験の評価基準)
1:評価サンプルの貼付時に違和感がない
2:評価サンプルの貼付時に多少の突っ張り感を感じる
3:評価サンプルの貼付時に突っ張り感を感じる
【0062】
実施例及び比較例の不織布の物性である目付、厚さ、50%モジュラス強度、単位目付あたりの50%モジュラス強度、引張り強度、引張り強度の縦横比、縦方向に50%伸長させた際の横方向の収縮率(=縦方向50%伸長時横方向収縮率)、伸び率、及び、不織布の評価結果(不織布の厚さ方向の強度試験結果、貼付感官能試験結果の算術平均値)を、以下の表1に示す。
【0063】
【0064】
実施例の不織布と、比較例1及び3の不織布との比較から、縦方向に50%伸長させた際の横方向の収縮率が20%以下であることで、不織布が縦方向に伸びた際に横方向に収縮しにくく、貼付感に優れる不織布となることがわかった。
【0065】
また、実施例の不織布と、比較例2及び4の不織布との比較から、引張り強度の縦横比(MDS/CDS)が2.0以上であり、かつ、単位目付あたりの50%モジュラス強度が0.020N/5cm/(g/m2)以上であることで、不織布の厚さ方向の強度に優れる不織布となることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の不織布は、不織布の厚さ方向の強度及び貼付感に優れることから、例えば、薬効成分を含む膏体を塗布して外用貼付薬(パップ剤、プラスター剤等)を構成するための貼付薬用基材、化粧用ゲルを塗布して顔面パック剤を構成するための貼付薬用基材として好適に使用できる。