(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】物体追跡装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G06T 7/00 20170101AFI20231013BHJP
【FI】
G06T7/00 300D
(21)【出願番号】P 2019203196
(22)【出願日】2019-11-08
【審査請求日】2021-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092772
【氏名又は名称】阪本 清孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119688
【氏名又は名称】田邉 壽二
(72)【発明者】
【氏名】鶴崎 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 良亮
【審査官】小池 正彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-116716(JP,A)
【文献】特開2011-193496(JP,A)
【文献】特開2003-150942(JP,A)
【文献】特開2011-090450(JP,A)
【文献】牧野武志 他2名,片目の部分テンプレートと周辺領域特徴を用いたリアルタイム目追跡システムとその文字入力システムへの応用,電子情報通信学会技術研究報告,社団法人電子情報通信学会,2002年03月18日,Vol.101 No.733,p73~78
【文献】川戸慎二郎 他1名,アイカメラへの目位置出力を目的とした目の検出と追跡,電子情報通信学会技術研究報告,社団法人電子情報通信学会,2001年12月20日,Vol.101 No.524,p1~6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
映像のフレーム間で物体を
当該物体のテンプレート画像を用いたテンプレートマッチングにより追跡する物体追跡装置において、
追跡する物体を撮影した映像に基づいて当該物体のテンプレート画像を作成する手段と、
前記テンプレート画像を作成した映像の当該テンプレート画像の周辺画素情報を第1周辺画素情報の初期値として登録する手段と、
テンプレートマッチングの探索位置ごとに類似度を計算する手段と、
前記探索位置の周辺画素情報を第2周辺画素情報として取得する手段と、
前記類似度ならびに第1および第2周辺画素情報の差分に基づいて当該探索位置が追跡結果か否かを判定する追跡手段と、
追跡結果に基づいて前記第1周辺画素情報を更新
登録する手段とを具備し、
前記追跡手段は、フレームごとに前記類似度ならびに前記更新登録した第1周辺画素情報および取得した第2周辺画素情報の差分に基づく追跡を繰り返すことを特徴とする物体追跡装置。
【請求項2】
前記更新
登録する手段は、追跡結果とされた探索位置の第2周辺画素情報を前記第1周辺画素情報として更新登録することを特徴とする請求項1に記載の物体追跡装置。
【請求項3】
前記追跡手段は、前記類似度の高い探索位置から順に、当該探索位置の第2周辺画素情報と前記第1周辺画素情報との差分を求め、当該差分が所定の第1閾値を最初に下回った探索位置を追跡結果とすることを特徴とする請求項1または2に記載の物体追跡装置。
【請求項4】
前記追跡手段は、前記類似度の高い探索位置から順に、当該探索位置の第2周辺画素情報と前記第1周辺画素情報との差分を求め、当該差分と前記類似度との重み付け和が所定の第2閾値を最初に下回った探索位置を追跡結果とすることを特徴とする請求項1または2に記載の物体追跡装置。
【請求項5】
前フレームの追跡結果に基づいて現フレームにおけるテンプレートマッチングの探索範囲を限定する手段を具備し、
前記追跡手段は、前記限定された探索範囲内でテンプレートマッチングを実施することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の物体追跡装置。
【請求項6】
コンピュータが映像のフレーム間で物体を
当該物体のテンプレート画像を用いたテンプレートマッチングにより追跡する物体追跡方法において、
追跡する物体を撮影した映像に基づいて当該物体のテンプレート画像を作成し、
前記テンプレート画像を作成した映像の当該テンプレート画像の周辺画素情報を第1周辺画素情報の初期値として登録し、
テンプレートマッチングの探索位置ごとに類似度を計算し、
前記探索位置の周辺画素情報を第2周辺画素情報として取得し、
前記類似度ならびに第1および第2周辺画素情報の差分に基づいて当該探索位置が追跡結果か否かを判定する追跡を行い、
追跡結果に基づいて前記第1周辺画素情報を更新
登録し、
前記追跡では、フレームごとに前記類似度ならびに前記更新登録した第1周辺画素情報および取得した第2周辺画素情報の差分に基づく追跡を繰り返すことを特徴とする物体追跡方法。
【請求項7】
追跡結果とされた探索位置の第2周辺画素情報を前記第1周辺画素情報として更新登録することを特徴とする請求項6に記載の物体追跡方法。
【請求項8】
前記物体を追跡する際に、前記類似度の高い探索位置から順に、当該探索位置の第2周辺画素情報と前記第1周辺画素情報との差分を求め、当該差分が所定の第1閾値を最初に下回った探索位置を追跡結果とすることを特徴とする請求項6または7に記載の物体追跡方法。
【請求項9】
前記物体を追跡する際に、前記類似度の高い探索位置から順に、当該探索位置の第2周辺画素情報と前記第1周辺画素情報との差分を求め、当該差分と前記類似度との重み付け和が所定の第2閾値を最初に下回った探索位置を追跡結果とすることを特徴とする請求項6または7に記載の物体追跡方法。
【請求項10】
前フレームの追跡結果に基づいて現フレームにおけるテンプレートマッチングの探索範囲を限定し、前記限定された探索範囲内でテンプレートマッチングを実施することを特徴とする請求項6ないし9のいずれかに記載の物体追跡方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、映像のフレーム間で物体を追跡する装置及び方法に係り、特に、小さな物体の追跡に好適な物体追跡装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、撮像画像から輪郭を抽出した2値の輪郭画像を作成し、テンプレートの輪郭画像と相関値が最大となる位置を求めることで物体を追跡している。また、これまでに相関値が最大となって追跡された物体の領域に対して、画素ごとに画素値を累積して多値のテンプレートを作成/更新している。テンプレートを作成/更新することで、追跡物体の形状変化によって発生する輪郭部分の位置ずれの影響を低減できるようになり、物体を精度良く追跡することができる。
【0003】
特許文献2では、テンプレートを登録する際に周辺の類似度分布も作成し、テンプレートと周辺類似度分布とを用いることで、テンプレートの登録時に使用した画像から位置がずれた撮像画像の相対的な位置を求め、位置ずれを修正することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-269258号公報
【文献】特開2008-065458号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】M. Takahashi, K. Ikeya, M. Kano, H. Ookubo and T. Mishina "Robust Volleyball Tracking System using Multi-View Cameras", in Proc. 2016 IEEE International Conference on Pattern Recognition, pp. 2740-2745.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、輪郭画像を用いて追跡精度を高めている。追跡物体が画像上で大きく映し出されている場合は、追跡に必要な十分な量の輪郭情報が得られる。また、輪郭画像の画素値を累積、すなわちフレームを跨いで画素値の情報を扱うことで追跡精度の向上を図っている。
【0007】
しかしながら、追跡物体が画面上で非常に小さく映し出されてしまうと、追跡に必要な十分な量の輪郭情報が得られない。例えば、会場が広いスポーツにおけるボール追跡などが例に挙げられる。この問題は、輪郭情報の抽出は多くの場合、輪郭周辺の画素値の差異によって抽出されるため、追跡物体が非常に小さい場合、輪郭周辺の差異を得ることが困難となるためである。
【0008】
特許文献2では、テンプレート作成時に周辺の類似度分布を作成し、用いることで、テンプレート作成時に使用した画像から位置がずれた画像においても適切に類似位置を検出することができるが、物体を追跡することはできない。
【0009】
本発明の目的は、上記の技術課題を解決し、追跡する物体が小さく、十分な輪郭情報を得られない場合も高精度の追跡を可能にする物体追跡装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、映像のフレーム間で物体をそのテンプレート画像を用いたテンプレートマッチングにより追跡する物体追跡装置において、以下の構成を具備した点に特徴がある。
【0011】
(1) テンプレート画像(T)の周辺画素情報を第1周辺画素情報(pAi)の初期値として登録する手段と、テンプレートマッチングの探索位置ごとに類似度を計算する手段と、前記探索位置の周辺画素情報を第2周辺画素情報(Ai)として取得する手段と、前記類似度ならびに第1および第2周辺画素情報の差分に基づいて当該探索位置が追跡結果か否かを判定する追跡手段と、追跡結果に基づいて前記第1周辺画素情報を更新する手段とを具備し、前記追跡手段は、フレームごとに前記類似度ならびに前記更新登録した第1周辺画素情報および取得した第2周辺画素情報の差分に基づく追跡を繰り返すようにした。
【0012】
(2) 前記更新する手段は、追跡結果とされた探索位置の第2周辺画素情報を前記第1周辺画素情報として更新登録するようにした。
【0013】
(3) 前記追跡手段は、前記類似度の高い探索位置から順に、当該探索位置の第2周辺画素情報と前記第1周辺画素情報との差分Dを求め、当該差分Dが所定の第1閾値を最初に下回った探索位置を追跡結果とするようにした。
【0014】
(4) 前記追跡手段は、前記類似度の高い探索位置から順に、当該探索位置の第2周辺画素情報と前記第1周辺画素情報との差分Dを求め、当該差分Dと前記類似度との重み付け和が所定の第2閾値を最初に下回った探索位置を追跡結果とするようにした。
【0015】
(5) 前フレームの追跡結果に基づいて現フレームにおけるテンプレートマッチングの探索範囲を限定する手段を具備し、前記追跡手段は、前記限定された探索範囲内でテンプレートマッチングを実施するようにした。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、以下のような効果が達成される。
【0017】
(1) 映像のフレーム間で物体をテンプレートマッチングにより追跡する際、物体のテンプレート画像のみならず周辺画素情報も参照して類似度を計算するので、物体に固有の輪郭情報をより多く取得できるようになる。したがって、物体が球技映像におけるボールのように小さい場合でも十分な量の輪郭情報を取得できるようになり、その追跡精度を向上させることが可能になる。
【0018】
(2) 追跡結果の第2周辺画素情報に基づいて、初期登録またはその後に更新された第1周辺画素情報がフレームごとに更新されるので、連続するフレーム間での追跡精度を向上させることが可能になる。
【0019】
(3) 追跡手段は、類似度の高い探索位置から順に、当該探索位置の第2周辺画素情報と第1周辺画素情報との差分Dを求め、当該差分Dが所定の第1閾値を最初に下回った探索位置を追跡結果とするので、類似度の低い探索位置に対する追跡計算を省略することができ、物体追跡を高速化できる。
【0020】
(4) 追跡手段は、類似度の高い探索位置から順に、当該探索位置の第2周辺画素情報と第1周辺画素情報との差分Dを求め、当該差分Dと前記類似度との重み付け和が所定の第2閾値を最初に下回った探索位置を追跡結果とするので、重み係数の選択により映像や物体の特徴に適した追跡が可能になる。
【0021】
(5) 前フレームの追跡結果に基づいて現フレームにおけるテンプレートマッチングの探索範囲を限定するようにしたので、テンプレートマッチングの範囲を追跡結果が探索され易い範囲に限定できるようになり、テンプレートマッチングの処理時間を短縮できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係る物体追跡装置の主要部の構成を示した機能ブロック図である。
【
図2】テンプレート画像Tの周辺画素の例を示した図である。
【
図4】本発明の追跡手順を示したフローチャートである。
【
図5】本発明の他の実施形態に係る物体追跡装置の主要部の構成を示した機能ブロック図である。
【
図6】範囲限定部の機能を説明するための図である。
【
図7】本発明の他の追跡手順を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る物体追跡装置1の主要部の構成を示した機能ブロック図であり、カメラ2やHDD3からフレーム単位で取得した画像上で物体を追跡する。
【0024】
このような物体追跡装置1は、汎用のコンピュータやサーバに各機能を実現するアプリケーション(プログラム)を実装することで構成できる。あるいは、アプリケーションの一部をハードウェア化またはソフトウェア化した専用機や単能機としても構成できる。
【0025】
映像取得部101は、カメラ2やHDD3から追跡対象の物体を撮影した映像をフレーム単位で取得する。テンプレート作成部102は、追跡対象の物体ごとにテンプレート画像Tを作成する。本実施形態では、追跡対象に外接する矩形状のテンプレート画像Tが作成される。このようなテンプレート画像Tは、オペレータが手作業で作成しても良いし、あるいは周知のテンプレート作成アプリケーションを用いて自動で生成しても良い。生成されたテンプレート画像Tはテンプレート記憶部103に登録されてテンプレートマッチングに用いられる。
【0026】
周辺画素情報取得部104は、前記テンプレート画像Tの周辺画素の各画素値および座標値を周辺画素情報pAiの初期値として周辺画素情報記憶部105に登録する。本実施形態では、
図2に示したように、テンプレート画像Tの輪郭から全周囲1画素の範囲が周辺画素とされるが、本発明はこれのみに限定されるものではなく、テンプレート画像Tのサイズや形状に応じて、周囲2画素またはそれ以上としても良い。また、周辺画素はテンプレート画像Tの全周にわたって設定する必要はなく、上下左右の少なくとも一辺の輪郭から所定の画素範囲のみを周辺画素としても良い。なお、周辺画素がフレーム画像外を参照した際の画素値は0とする。前記周辺画素情報記憶部105に登録された周辺画素情報pAiは、後に詳述するように、フレームごとに追跡結果の周辺画素情報Aiに基づいて更新される。
【0027】
テンプレートマッチング部106は、入力されたフレーム画像I上で前記テンプレート画像Tをスライドさせ、探索位置ごとにテンプレート画像Tと重なったフレーム画像I上の領域(探索位置画像Ti)との間でテンプレートマッチングを実施する。本実施形態では、探索位置(x, y)ごとに次式(1)で求められたマッチング結果Rx,yが出力される。
【0028】
【0029】
ここで、xは探索位置画像Tiの左上画素のx座標、yは探索位置画像Tiの左上画素のy座標、x'はテンプレート画像Tの左上画素を基準とした水平方向の相対座標、y'はテンプレート画像Tの左上画素を基準とした垂直方法の相対座標である。Rx,yは、テンプレート画像Tと探索位置画像Tiとの画素ごとの二乗誤差の和を0~1の範囲に正規化した値である。
【0030】
追跡部107は周辺画素情報取得部107aを具備し、
図3に示したように、マッチング結果Rx,yが最小となる探索位置画像Tiの左上の座標(x
min, y
min)を今回の探索位置として、当該探索位置画像Tiの周辺画素情報Aiを取得する。
【0031】
追跡部107は更に、前記周辺画素情報記憶部105に登録されている周辺画素情報pAiと前記探索位置(xmin, ymin)に対応した探索位置画像Tiの周辺画素情報Aiとの差分Dを次式(2)で求め、当該差分Dが所定の第1閾値TH未満であれば今回の探索位置(xmin, ymin)を追跡結果と判定して出力する。
【0032】
【0033】
本実施形態では、前記初期登録またはその後に更新された前フレームにおける追跡結果の周辺画素情報pAiおよび現フレームにおける探索位置画像Tiの周辺画素情報Aiの対応画素ごとに差分diを求め、その総和が前記差分Dとされる。
【0034】
更新部108は、差分Dが所定の第1閾値THを下回る追跡結果(xmin, ymin)が求まると、現フレームの追跡結果(xmin, ymin)に対応した探索位置画像Tiの周辺画素情報Aiを前記記憶部105に周辺画素情報pAiとして更新登録する。
【0035】
追跡結果出力部109は、前記追跡結果(xmin, ymin)を出力する。追跡結果の出力方法としては、追跡した物体を矩形枠で囲み、映像上に表示させるだけでも良い。あるいは追跡結果(xmin, ymin)が探索位置画像Tiの左上座標を示すことから、追跡結果(xmin, ymin)から探索位置画像Tiの横幅および縦幅の各1/2の値を水平方向および垂直方向へそれぞれ加算することで物体の中心座標を求め、当該中心座標を用いて物体の軌跡を表示させるようにしても良い。
【0036】
図4は、本実施形態における物体の追跡手順を示したフローチャートであり、ステップS1では、カメラ映像またはHDD3に記憶された映像ファイルからフレーム画像Iが取得される。ステップS2では、物体のテンプレート画像Tが最初のフレーム画像Iに基づいて前記テンプレート作成部102により生成されて前記テンプレート記憶部103に登録される。
【0037】
ステップS3では、最初のフレーム画像Iに基づいて前記テンプレート画像Tの周辺画素情報が前記周辺画素情報取得部104により取得されて前記周辺画素情報記憶部105に周辺画素情報pAiの初期値として登録される。前記ステップS2,3の処理は最初のフレーム画像Iに対してのみ実施され、次フレーム以降はステップS1からステップS4へジャンプする。
【0038】
ステップS4では、前記記憶部103からテンプレート画像Tが取り込まれる。ステップS5では、今回のフレーム画像Iを非検索画像として前記テンプレート画像Tによるテンプレートマッチングが実施され、マッチング結果Rx,yがフレーム画像Iの探索位置ごとに出力される。本実施形態では、フレーム画像I上でテンプレート画像Tをスライドさせながら探索位置画像Tiとの類似度が計算され、計算結果が探索位置画像Tiの左上の画素の座標(x,y)を探索位置として登録される。
【0039】
ステップS6では、マッチング結果Rx,yが最小値を示した探索位置画像Tiの左上座標(xmin, ymin)が取得される。ステップS7では、前記探索位置画像Tiの周辺画素情報Aiが取得される。ステップS8では、前記記憶部105から周辺画素情報pAiが取り込まれる。
【0040】
ステップS9では、前記取り込まれた周辺画素情報pAiと探索位置画像Tiの周辺画素情報Aiとの差分Dが上式(2)に基づいて計算され、第1閾値THと比較される。差分D<閾値THでなければ、今回の探索位置(xmin, ymin)を追跡結果以外と判断し、マッチング結果Rが次に小さい探索位置画像Tiの周辺画素情報Aiを対象に同様の比較が行われる。
【0041】
本実施形態では、差分D≧値THであるとステップS14へ進み、再試行回数nがインクリメントされる。ステップS15では、再試行回数nが上限値nmaxに達したか否かが判定される。達していなければステップS16へ進み、今回のマッチング結果Rxmin, yminに十分に大きな値(本実施形態では、上式(1)より0≦Rx,y<1なので、1以上の値が望ましい)を加算して今回のマッチング結果が再び最小値と判断されないようにする処理を施した後、ステップS6へ戻って上記の処理が繰り返される。
【0042】
これに対して、再試行回数nが上限値nmaxに達していると、追跡対象の物体が、遮蔽物に隠れるなどしてフレーム画像上に映っていない状態にあると考えられるので、現フレームの追跡を断念してステップS13へ進む。
【0043】
一方、前記ステップS9において差分D<THと判定されると、ステップS10へ進んで前記再試行回数nがリセットされる。ステップS11では、前記マッチング結果Rx,yが最小値を示した探索位置(xmin, ymin)が追跡結果として出力される。
【0044】
ステップS12では、現フレームの追跡結果(xmin, ymin)に対応した探索位置画像Tiの周辺画素情報Aiが前記周辺画素情報pAiとして前記記憶部105に更新登録される。ステップS13では、物体の追跡が終了したか否かが判断される。終了していなければ、ステップS1へ戻って次のフレーム画像を取得し、上記の追跡が繰り返される。
【0045】
本実施形態によれば、映像のフレーム間で物体をテンプレートマッチングにより追跡する際、物体のテンプレート画像のみならず周辺画素情報も参照して類似度を計算するので、物体に固有の輪郭情報をより多く取得できるようになる。したがって、物体が球技映像におけるボールのように小さい場合でも十分な量の輪郭情報を取得できるようになり、その追跡精度を向上させることが可能になる。
【0046】
また、本実施形態によれば、現フレームにおける追跡結果の周辺画素情報Aiに基づいて、初期登録またはその後に更新された周辺画素情報pAiがフレームごとに更新されるので、連続するフレーム間での追跡精度を向上させることが可能になる。
【0047】
さらに、本実施形態によれば、追跡部107は類似度の高い探索位置から順に、当該探索位置の周辺画素情報Aiと周辺画素情報pAiとの差分Dを求め、当該差分Dが所定の閾値を最初に下回った探索位置を現フレームの追跡結果とするので、類似度の低い探索位置に対する追跡計算を省略することができ、物体追跡を高速化できる。
【0048】
図5は、本発明の第2実施形態に係る物体追跡装置1の主要部の構成を示した機能ブロック図であり、前記と同一の符号は同一または同等部分を表しているので、その説明は省略する。
【0049】
本実施形態では、テンプレートマッチング部106がフレーム画像Iを非検索画像としてテンプレート画像Tを用いたテンプレートマッチングを行う際に、前フレームの追跡結果に基づいて現フレームにおけるテンプレートマッチングの探索範囲を限定する範囲限定部110を具備した点に特徴がある。
【0050】
前記範囲限定部110は、
図6に示したように、前記記憶部103に登録されたテンプレート画像Tの左上の座標位置または前記追跡部107が追跡結果と判定した探索位置画像Tiの左上の座標位置を中心としたN×M画素の範囲を、現フレームのパターンマッチングにおけるテンプレート画像Tのスライド範囲に限定する。
【0051】
前記追跡部107は、前記N×M画素の範囲に限定してテンプレートマッチングを実施する。テンプレートマッチングの範囲を予め限定して物体追跡を高速化する技術は、例えば非特許文献1に開示されている。
【0052】
本実施形態によれば、テンプレートマッチングの範囲を追跡結果が探索され易い範囲に限定できるので、テンプレートマッチングの処理時間を短縮できるようになる。
【0053】
なお、上記の各実施形態では、テンプレートマッチングによりマッチング結果Rx,yが最小値を示した探索位置を抽出し、探索位置画像Tiをその周辺画素情報に基づいて更に判定するものとして説明したが、本発明はこれのみに限定されるものではなく、次式(3)に示したように、テンプレートマッチングによるマッチング結果Rxmin, yminおよび前記周辺画素情報pAi,Aiの差分Dの重み付け和を求め、重み付け和Jが所定の第2閾値THjを最初に下回る探索位置を追跡結果と判定するようにしても良い。ここで、αはマッチング結果Rの重み値、βは差分Dの重み値である。
【0054】
【0055】
図7は、前記重み付け和Jに基づいて追跡を行う手順を示したフローチャートであり、
図4と同一のステップ番号を付したステップでは同一または同等の手順が実施されるので、その説明は省略する。
【0056】
ステップS6において、マッチング結果Rx,yが最小値を示した探索位置画像Tiの左上座標(xmin, ymin)が取得され、ステップS7において、前記探索位置画像Tiの周辺画素情報Aiが取得され、ステップS8において、前記記憶部105から初期登録またはその後に更新された前フレームにおける追跡結果の周辺画素情報pAiが取り込まれるとステップS9aへ進む。
【0057】
ステップS9aでは、上式(3)に基づいて前記重み付け和Jを計算されて所定の閾値THjと比較される。重み付け和J<閾値THjでなければ、今回の探索位置(xmin, ymin)を追跡結果以外と判断してステップS14へ進み、マッチング結果Rが次に小さい探索位置の周辺画素情報Aiを対象に同様の比較が行われる。
【0058】
一方、前記ステップS9aにおいて重み付け和J<THjと判定されると、ステップS10へ進んで前記再試行回数nがリセットされる。ステップS11では、今回の探索位置(xmin, ymin)が追跡結果として出力される。
【0059】
本実施形態によれば、現フレームにおける探索位置の周辺画素情報Apと前フレームにおける追跡結果の周辺画素情報pAiとの差分Dを求め、当該差分Dとパターンマッチングの類似度との重み付け和が所定の第2閾値THjを下回る探索位置を現フレームの追跡結果とするので、重み係数の選択により映像や物体の特徴に適した追跡が可能になる。
【符号の説明】
【0060】
1…物体追跡装置,2…カメラ,3…HDD,101…映像取得部,102…テンプレート画像取得部,103…テンプレート記憶部,104…周辺画素情報取得部,105…周辺画素情報記憶部,106…テンプレートマッチング部,107…追跡部,107a…周辺画素情報取得部,108…更新部,109…追跡結果出力部