(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20231013BHJP
C08L 67/03 20060101ALI20231013BHJP
C08K 5/29 20060101ALI20231013BHJP
C08L 79/00 20060101ALI20231013BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
C08L67/02
C08L67/03
C08K5/29
C08L79/00 Z
C08J5/00 CFD
(21)【出願番号】P 2019215507
(22)【出願日】2019-11-28
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000189659
【氏名又は名称】上野製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】石津 忍
【審査官】越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-053230(JP,A)
【文献】特開2018-188547(JP,A)
【文献】特開平05-039413(JP,A)
【文献】特開平04-081426(JP,A)
【文献】特開2013-028780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 5/29
C08J 5/00-5/02、5/12-5/22
C08G 63/00-64/42
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレート樹脂100質量部、液晶ポリマー1~50質量部および
脂肪族ポリカルボジイミド化合物0.01~20質量部を含有するポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
ポリエチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、
1.05~1.3である、請求項1に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
ポリエチレンテレフタレート樹脂は、共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂である、請求項1または2に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
液晶ポリマーは、式(I)および式(II)
【化1】
で表される繰返し単位を含む液晶ポリエステル樹脂である、請求項1~3のいずれかに記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項5】
液晶ポリマーは、式(I)~式(IV)
【化2】
[式中、Ar
1およびAr
2はそれぞれ2価の芳香族基を表す]
で表される繰返し単位から構成される全芳香族液晶ポリエステル樹脂である、請求項1~4のいずれかに記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項6】
Ar
1およびAr
2は、それぞれ互いに独立して、式(1)~(4)
【化3】
で表される芳香族基から選択される1種以上である、請求項5に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項7】
Ar
1は式(1)で表される芳香族基であり、Ar
2は式(1)および/または(3)で表される芳香族基である、請求項5または6に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれかに記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物から構成される成形品。
【請求項9】
ブロー成形品である、請求項
8に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性および耐テープ剥離性が著しく改善され、且つブロー成形に適するポリエチレンテレフタレート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート樹脂は、優れた物理的性質や化学的性質から、繊維、フィルム、シート、ボトル等の容器などの用途に広く用いられている。これらの用途のうち、ボトル等の容器については近年、飲料、調味料、洗剤、化粧品等の充填用容器として特にその使用が広がっており、容器の小型化の要求や、炭酸飲料への適応のためにより高いガスバリア性能を有する材料が求められている。
【0003】
従来知られているポリエステル樹脂およびその成形品のガスバリア性を高める方法としては、他のガスバリア性の高い材料を積層する方法や、ポリエステル樹脂に酸化ケイ素、酸化アルミニウム、ダイヤモンドライクカーボンなどの無機材料をCVD法により蒸着する方法などが挙げられる。しかし、これらの方法は何れも複雑かつ高価な装置を必要とするため、簡易で特別な装置を必要としないガスバリア性の改善方法が求められている。
【0004】
また、近年、樹脂に多様な物性を付与するために、ポリマーのブレンドあるいはアロイ樹脂組成物が開発され、それぞれの特性を生かして、幅広い分野で使用されている。
【0005】
例えば、液晶ポリマーと他の熱可塑性樹脂とブレンドさせることにより、液晶ポリマーの優れた特性(耐熱性、耐候性、ガスバリア性、耐薬品性、寸法精度等)が付与された樹脂組成物が提案されている。
【0006】
しかしながら、液晶ポリマーは一般的に熱可塑性樹脂との相溶性に劣るため、得られる樹脂組成物は性能ムラや、成形時の層状剥離、あるいは強度低下等が避けられないものであった。
【0007】
このような背景から、液晶ポリマーと熱可塑性樹脂の界面を安定化させ、樹脂を微分散化させる相溶化剤を含有させた樹脂組成物が開発されている。例えば、グリシジル基がポリオレフィン鎖に組み込まれた相溶化剤を含有した、液晶ポリマーとポリオレフィンの樹脂組成物(特許文献1)が提案されている。しかし、相溶化剤の主鎖がポリオレフィンであるため、ポリオレフィンと相溶性の悪い樹脂に対しては、相溶化効果が弱くなってしまうといった欠点を有していた。
【0008】
また、液晶ポリマーと熱可塑性樹脂との相溶化剤として、液晶ポリマーを共重合させた液晶性ブロック共重合体(特許文献2)が提案されている。しかし、相溶させる樹脂の種類によってポリマーブロック部を変更しなければならず、汎用性の低いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特表平7-508050号公報
【文献】特開平10-95821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、単独のポリエチレンテレフタレート樹脂と比較して、ガスバリア性が改良され、かつ向上した耐テープ剥離性を示すポリエチレンテレフタレート樹脂組成物を提供することにある。本発明の他の目的は、ポリエチレンテレフタレート樹脂中に液晶ポリマーが良好に分散され、ブロー成形に適したポリエチレンテレフタレート樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、ポリエチレンテレフタレート樹脂に、液晶ポリマーおよびカルボジイミド基含有化合物を配合することにより、ガスバリア性および耐テープ剥離性が著しく改善され、且つブロー成形可能な樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
〔1〕ポリエチレンテレフタレート樹脂100質量部、液晶ポリマー1~50質量部およびカルボジイミド基含有化合物0.01~20質量部を含有するポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
〔2〕ポリエチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、0.6以上である、〔1〕に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
〔3〕ポリエチレンテレフタレート樹脂は、共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂である、〔1〕または〔2〕に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
〔4〕液晶ポリマーは、式(I)および式(II)
【化1】
で表される繰返し単位を含む液晶ポリエステル樹脂である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
〔5〕液晶ポリマーは、式(I)~式(IV)
【化2】
[式中、Ar
1およびAr
2はそれぞれ2価の芳香族基を表す]
で表される繰返し単位から構成される全芳香族液晶ポリエステル樹脂である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
〔6〕Ar
1およびAr
2は、それぞれ互いに独立して、式(1)~(4)
【化3】
で表される芳香族基から選択される1種以上である、〔5〕に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
〔7〕Ar
1は式(1)で表される芳香族基であり、Ar
2は式(1)および/または(3)で表される芳香族基である、〔5〕または〔6〕に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
〔8〕カルボジイミド基含有化合物がポリカルボジイミド化合物である、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
〔9〕〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物から構成される成形品。
〔10〕ブロー成形品である、〔9〕に記載の成形品。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物は、ポリエチレンテレフタレート樹脂中に液晶ポリマーが良好に分散しているため、改良されたガスバリア性および耐テープ剥離性が得られ、フィルム、シート、ボトル、その他の包装材料に好適に用いられる。また、本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物は、ペットボトルなどの中空製品の成形に好適なブロー成形によって所望の成形品に加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1で得られたポリエチレンテレフタレート樹脂組成物から得た試験片の電子顕微鏡(倍率5000倍)による観察結果を示す図である。
【
図2】比較例1で得られたポリエチレンテレフタレート樹脂組成物から得た試験片の電子顕微鏡(倍率5000倍)による観察結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に用いられるポリエチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体と1,2-エタンジオールまたはそのエステル形成性誘導体との縮合反応またはエステル交換反応により得られる。機械強度に優れる点で共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂が好ましい。
【0016】
本発明に用いられるポリエチレンテレフタレート樹脂が共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂である場合、共重合成分としては、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、コハク酸、4-(2-ヒドロキシエトキシ)安息香酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ポリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール等が挙げられる。これら共重合成分は、二種以上を併用してもよい。
【0017】
本発明に用いられるポリエチレンテレフタレート樹脂の結晶融解温度は特に制限されないが、耐熱性に優れる点で、180℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましく、220℃以上であることが特に好ましい。本発明に用いられるポリエチレンテレフタレート樹脂の結晶融解温度は、通常は300℃以下である。
【0018】
本発明に用いられるポリエチレンテレフタレート樹脂の固有粘度(IV値)は特に制限されないが、成形性に優れる点で、0.6以上であることが好ましく、0.7~1.5であることがより好ましく、1.05~1.3であることが特に好ましい。
【0019】
本発明において「単独のポリエチレンテレフタレート樹脂」とは、樹脂成分として上記のポリエチレンテレフタレート樹脂のみを含むものをいう。
【0020】
本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物に使用する液晶ポリマー(以下、LCPとも称する)は、異方性溶融相を形成するポリエステルまたはポリエステルアミドであり、当該技術分野においてサーモトロピック液晶ポリエステルまたはサーモトロピック液晶ポリエステルアミドと呼ばれるものであれば特に限定されない。
【0021】
異方性溶融相の性質は直交偏向子を利用した通常の偏向検査法、すなわちホットステージにのせた試料を窒素雰囲気下で観察することにより確認できる。
【0022】
本発明において用いる液晶ポリマーとしては、示差走査熱量計により測定される結晶融解温度が160~350℃であるものが好ましく、180~330℃であるものがより好ましく、200~310℃であるものがさらに好ましく、210~300℃であるものが特に好ましい。
【0023】
尚、本明細書および特許請求の範囲において、「結晶融解温度」とは、示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimeter、以下DSCと略す)によって、昇温速度20℃/分で測定した際の結晶融解温度ピーク温度から求めたものである。より具体的には、液晶ポリマーの試料を、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1より20~50℃高い温度で10分間保持し、次いで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却した後に、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を液晶ポリマーの結晶融解温度とする。測定機器としては、例えば、セイコーインスツルメンツ(株)製Exstar6000等を用いることができる。
【0024】
本発明における液晶ポリマーの構成単位を構成する重合性単量体としては、例えば芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族アミノカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、脂肪族ジオールおよび脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。このような重合性単量体は、1種のみを用いてもよく、2種以上の重合性単量体を組み合わせてもよい。好適には、少なくとも1種のヒドロキシ基およびカルボキシル基を有する重合性単量体が用いられる。
【0025】
液晶ポリマーを構成する重合性単量体は、前記化合物の1種以上が結合してなるオリゴマー、つまり1種以上の前記化合物から構成されるオリゴマーであってもよい。
【0026】
芳香族ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、2-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、5-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、7―ヒドロキシ―2―ナフトエ酸、3―ヒドロキシ―2―ナフトエ酸、4’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、3’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、4’-ヒドロキシフェニル-3-安息香酸およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中でも、得られる液晶ポリマーの耐熱性および機械強度ならびに融点を調節し易いという観点から、4-ヒドロキシ安息香酸および6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸からなる群から選択される1種以上の化合物が好ましい。
【0027】
芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシビフェニル、3,4’-ジカルボキシビフェニルおよび4,4”-ジカルボキシターフェニル、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体ならびにそれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中でも、得られる液晶ポリマーの耐熱性を効果的に高められる観点から、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸からなる群から選択される1種以上の化合物が好ましく、テレフタル酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸がより好ましい。
【0028】
芳香族ジオールの具体例としては、ハイドロキノン、レゾルシン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、3,3’-ジヒドロキシビフェニル、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニルエーテルおよび2,2’-ジヒドロキシビナフチル、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体ならびにそれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中でも、重合時の反応性に優れる観点から、ハイドロキノン、レゾルシン、4,4’-ジヒドロキシビフェニルおよび2,6-ジヒドロキシナフタレンからなる群から選択される1種以上の化合物が好ましく、ハイドロキノン、4,4’-ジヒドロキシビフェニルおよび2,6-ジヒドロキシナフタレンからなる群から選択される1種以上の化合物がより好ましい。
【0029】
芳香族アミノカルボン酸の具体例としては、4-アミノ安息香酸、3-アミノ安息香酸、6-アミノ-2-ナフトエ酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0030】
芳香族ヒドロキシアミンの具体例としては、4-アミノフェノール、N-メチル-4-アミノフェノール、3-アミノフェノール、3-メチル-4-アミノフェノール、4-アミノ-1-ナフトール、4-アミノ-4’-ヒドロキシビフェニル、4-アミノ-4’-ヒドロキシビフェニルエーテル、4-アミノ-4’-ヒドロキシビフェニルメタン、4-アミノ-4’-ヒドロキシビフェニルスルフィドおよび2,2’-ジアミノビナフチル、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中でも、得られる液晶ポリマーの耐熱性および機械強度のバランスをとりやすい観点から、4-アミノフェノールが好ましい。
【0031】
芳香族ジアミンの具体例としては、1,4-フェニレンジアミン、1,3-フェニレンジアミン、1,5-ジアミノナフタレン、1,8-ジアミノナフタレン、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのアミド形成性誘導体が挙げられる。
【0032】
脂肪族ジオールの具体例としては、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ならびにそれらのアシル化物が挙げられる。
【0033】
脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、フマル酸、マレイン酸およびヘキサヒドロテレフタル酸が挙げられる。これらの中でも、重合時の反応性に優れる観点から、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸およびドデカン二酸が好ましい。
【0034】
本発明における液晶ポリマーは、本発明の目的を損なわない範囲で、他の共重合成分として、ジヒドロキシテレフタル酸、4-ヒドロキシイソフタル酸、5-ヒドロキシイソフタル酸、トリメリット酸、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、ピロメリット酸またはこれらのアルキル、アルコキシもしくはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体を含んでいてよい。これらの重合性単量体の使用量は、液晶ポリマーを構成する全構成単位に対して10モル%以下であるのが好ましい。
【0035】
本発明における液晶ポリマーは、本発明の目的を損なわない範囲で、チオエステル結合を含むものであってもよい。このような結合を与える重合性単量体としては、メルカプト芳香族カルボン酸、および芳香族ジチオールおよびヒドロキシ芳香族チオールなどが挙げられる。これらの重合性単量体の含有量は、液晶ポリマーを構成する全構成単位に対して10モル%以下であるのが好ましい。
【0036】
これらの繰返し単位を組み合わせたポリマーは、単量体の構成や組成比、ポリマー中での各繰返し単位のシークエンス分布によって異方性溶融相を形成するものと異方性溶融相を形成しないものとが存在するが、本発明に用いる液晶ポリマーは異方性溶融相を形成するものに限られる。
【0037】
本発明に使用される液晶ポリマーとしては、流動性および機械特性に優れる点で、式(I)および式(II)で表される繰返し単位を含む液晶ポリエステル樹脂が好適に使用される。
【化4】
【0038】
また、本発明に使用される液晶ポリマーとしては、流動性および機械特性に優れる点で、式(I)~(IV)で表される繰返し単位から構成される全芳香族液晶ポリエステル樹脂が好適に使用される。
【化5】
[式中、Ar
1およびAr
2はそれぞれ2価の芳香族基を表す。]
【0039】
ここで、式(III)および式(IV)はそれぞれ、複数種のAr1およびAr2を含み得る。また、「芳香族基」は、6員の単環または環数2の縮合環である芳香族基を示す。
【0040】
流動性および機械特性に優れる点で、Ar
1およびAr
2は、それぞれ互いに独立して、下記の式(1)~(4)で表される芳香族基から選択される1種以上であることがより好ましい。Ar
1が式(1)および/または式(4)で表される芳香族基であり、かつAr
2が式(1)および/または式(3)で表される芳香族基であることが特に好ましい。
【化6】
【0041】
また、本発明に使用される液晶ポリマーは、式(I)および式(II)で表される繰返し単位から構成される全芳香族液晶ポリエステル樹脂と、式(I)~(IV)で表される繰返し単位から構成される全芳香族液晶ポリエステル樹脂との混合物であってもよい。
【0042】
本発明に使用される液晶ポリマーの構成単位を形成する重合性単量体の組み合わせの具体例としては、例えば下記のものが挙げられる。
1)4-ヒドロキシ安息香酸/6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、
2)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル、
3)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/イソフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル、
4)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/イソフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン、
5)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/ハイドロキノン、
6)6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン、
7)4-ヒドロキシ安息香酸/6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル、
8)6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル、
9)4-ヒドロキシ安息香酸/6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン、
10)4-ヒドロキシ安息香酸/6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン/4,4’-ジヒドロキシビフェニル、
11)4-ヒドロキシ安息香酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル、
12)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン、
13)4-ヒドロキシ安息香酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン、
14)4-ヒドロキシ安息香酸/6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン、
15)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン/4,4’-ジヒドロキシビフェニル、
16)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4-アミノフェノール、
17)6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/4-アミノフェノール、
18)4-ヒドロキシ安息香酸/6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/4-アミノフェノール、
19)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル /4-アミノフェノール、
20)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/エチレングリコール、
21)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/エチレングリコール、
22)4-ヒドロキシ安息香酸/6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/エチレングリコール、
23)4-ヒドロキシ安息香酸/6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/エチレングリコール、
24)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル。
【0043】
これらの中でも、1)、9)、10)または14)の重合性単量体の構成単位からなる液晶ポリマーが好ましく、1)または9)の重合性単量体の構成単位からなる液晶ポリマーがより好ましい。
【0044】
上記の液晶ポリマーは単独で用いてもよく、2種以上の液晶ポリマーの混合物として用いてもよい。
【0045】
本発明で用いられる液晶ポリマーの好ましい態様の一つとしては、下記式(A)および(B)で表される繰返し単位から構成される全芳香族液晶ポリエステル樹脂が挙げられる。
【0046】
【化7】
[式中、pおよびqは、各繰返し単位の液晶ポリエステル樹脂中での組成比(モル%)を示し、以下の条件を満たす:
0.2≦q/p≦0.4;
p+q=100。]
【0047】
本発明で用いられる液晶ポリマーの好ましい別の態様としては、下記式(A)~(D)で表される繰返し単位から構成される全芳香族液晶ポリエステル樹脂が挙げられる。
【0048】
【化8】
[式中、p、q、rおよびsは、各繰返し単位の液晶ポリエステル樹脂中での組成比(モル%)を示し、以下の条件を満たす:
0.4≦q/p≦2.0;
2≦r≦15;
2≦s≦15;
p+q+r+s=100。]
【0049】
以下、本発明に用いる液晶ポリマーの製造方法について説明する。
【0050】
本発明に用いる液晶ポリマーの製造方法に特に制限はなく、重合性単量体を、エステル結合またはアミド結合を形成させる公知の重縮合方法、たとえば溶融アシドリシス法、スラリー重合法などに供することにより液晶ポリマーを得ることができる。
【0051】
溶融アシドリシス法は、本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物に用いる液晶ポリマーを製造するのに好ましい方法である。この方法では、最初に重合性単量体を加熱して反応物質の溶融溶液を形成し、次いで重縮合反応を続けて溶融ポリマーを得るものである。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(たとえば酢酸、水など)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0052】
スラリー重合法とは、熱交換流体の存在下で重合性単量体を反応させる方法であって、固体生成物は熱交換媒質中に懸濁した状態で得られる。
【0053】
溶融アシドリシス法およびスラリー重合法のいずれの場合においても、液晶ポリマーを製造する際に使用される重合性単量体は、常温において、ヒドロキシル基および/またはアミノ基をアシル化した変性形態(低級アシル基)、すなわち低級アシル化物として反応に供することもできる。
【0054】
低級アシル基は炭素原子数2~5のものが好ましく、炭素原子数2または3のものがより好ましい。本発明の好ましい実施態様において、前記重合性単量体のアセチル化物を反応に供する。
【0055】
重合性単量体の低級アシル化物は、別途アシル化して予め合成したものを用いてもよいし、液晶ポリマーの製造時に重合性単量体に無水酢酸等のアシル化剤を加えて反応系内で生成せしめることもできる。
【0056】
溶融アシドリシス法またはスラリー重合法のいずれの場合においても、重縮合反応は、通常150~400℃、好ましくは250~370℃の温度で、常圧および/または減圧下で行うのがよく、必要に応じて触媒を用いてもよい。
【0057】
触媒の具体例としては、例えば、有機スズ化合物(ジブチルスズオキシドなどのジアルキルスズオキシド、ジアリールスズオキシドなど)、二酸化チタン、三酸化アンチモン、有機チタン化合物(アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなど)、カルボン酸のアルカリおよびアルカリ土類金属塩(酢酸カリウム、酢酸ナトリウムなど)、ルイス酸(BF3など)、ハロゲン化水素などの気体状酸触媒(HClなど)などが挙げられる。
【0058】
触媒を使用する場合、該触媒の量は重合性単量体全量に対し、好ましくは1~1000ppm、より好ましくは2~100ppmである。
【0059】
このような重縮合反応によって得られた液晶ポリマーは、通常、溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工され、他の成分と溶融混練に供される。
【0060】
ペレット状、フレーク状、または粉末状の液晶ポリマーは、分子量を高めて耐熱性を向上させる目的で、減圧下、真空下または不活性ガスである窒素やヘリウムなどの雰囲気下において、実質的に固相状態で熱処理を行ってもよい。
【0061】
本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物において、液晶ポリマーの割合は、ポリエチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、1~50質量部であり、相溶化効果を発揮しやすい観点から3~40質量部が好ましく、5~30質量部がより好ましい。
【0062】
本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、他の樹脂成分を含有させてもよい。他の樹脂成分としては、例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテルおよびその変性物、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどの熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0063】
他の樹脂成分は、単独でまたは2種以上を組み合わせて含有することができる。他の樹脂成分の含有量は特に限定されず、ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の用途や目的に応じて適宜定めればよい。典型的には、ポリエチレンテレフタレート樹脂100質量部に対する他の樹脂の合計含有量が、好ましくは0.1~100質量部、より好ましくは0.2~80質量部となる範囲で添加される。
【0064】
本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物は上記ポリエチレンテレフタレート樹脂および液晶ポリマーの他に、カルボジイミド基含有化合物を含有する。
【0065】
本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物に用いられるカルボジイミド基含有化合物とは、カルボジイミド基(-N=C=N-)を有する化合物であり、カルボジイミド基を少なくとも1個有する化合物であれば、特に制限されるものではない。
【0066】
カルボジイミド基含有化合物としては、分子内に2個以上のカルボジイミド基を有するポリカルボジイミド化合物や分子内に1個のカルボジイミド基を有するモノカルボジイミド化合物が挙げられる。
【0067】
ポリカルボジイミド化合物としては、具体的には、ポリ(4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(p-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニルカルボジイミド)等の芳香族ポリカルボジイミド;ポリ(ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)等の脂環族ポリカルボジイミドが挙げられる。
【0068】
モノカルボジイミド化合物としては、ジフェニルカルボジイミド、ジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、ジ-2,6-ジエチルフェニルカルボジイミド、ジ-2,6-ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、ジ-2,6-ジtert-ブチルフェニルカルボジイミド、ジ-o-トリルカルボジイミド、ジ-p-トリルカルボジイミド、ジ-2,4,6-トリメチルフェニルカルボジイミド、ジ-2,4,6-トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、ジ-2,4,6-トリイソブチルフェニルカルボジイミド等の芳香族モノカルボジイミド化合物;ジ-シクロヘキシルカルボジイミド、ジ-シクロヘキシルメタンカルボジイミド等の脂環族モノカルボジイミド化合物;ジ-イソプロピルカルボジイミド、ジ-オクタデシルカルボジイミド等の脂肪族モノカルボジイミド化合物等が挙げられる。
【0069】
前記カルボジイミド基含有化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、好ましい具体的な化合物は、脂肪族ポリカルボジイミド化合物であり、その市販品としては、例えば、日清紡ケミカル(株)製のカルボジライト(登録商標)HMV-8CAやカルボジライト(登録商標)LA-1が挙げられる。
【0070】
本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物におけるカルボジイミド基含有化合物の含有量は、ポリエチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、0.01~20質量部であり、好ましくは0.1~10質量部であり、より好ましくは0.3~5質量部であり、さらに好ましくは0.5~1.5質量部である。カルボジイミド基含有化合物の含有量が上記範囲内であることにより、ポリエチレンテレフタレート樹脂と液晶ポリマーの相溶性が改善されると共に、溶融粘度の低下による成形性の悪化(バリや割れの発生)が抑制される。また、ポリエチレンテレフタレート樹脂と液晶ポリマーの相溶性が改善されるため、成形物表面のテープ剥離性も改善される。
【0071】
また、本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の添加剤を含有することができる。
【0072】
他の添加剤としては、例えば、滑剤である高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩(ここで高級脂肪酸とは、例えば炭素原子数10~25のものをいう)、フルオロカーボン系界面活性剤など、離型改良剤であるポリシロキサン、フッ素樹脂など、着色剤である染料、顔料、カーボンブラックなど、難燃剤、帯電防止剤、界面活性剤、酸化防止剤であるリン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤など、耐候剤、熱安定剤、中和剤などが挙げられる。高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤などの外部滑剤効果を有する添加剤については、ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物を成形するに際して、予め、ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットの表面に付着させてもよい。これらの添加剤は、単独で使用してもよく、または2種以上を併用してもよい。
【0073】
これらの他の添加剤の含有量は、ポリエチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~5質量部、より好ましくは0.1~3質量部である。
【0074】
本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物は、上記のポリエチレンテレフタレート樹脂、液晶ポリマーおよびカルボジイミド基含有化合物と、所望により他の無機充填材および/または有機充填材、他の添加剤や他の樹脂成分などを所定の組成で配合し、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出し機などを用いて溶融混練することによって、本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物とすることができる。
【0075】
本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物は、メルトボリュームフローレート(MVR)が、3~18cm3/10分であるものが好ましく、4~17cm3/10分であるものがより好ましく、5~15cm3/10分であるものがさらに好ましい。
【0076】
本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物は、荷重たわみ温度が、50~220℃であるものが好ましく、70~100℃であるものがより好ましく、75~86℃であるものがさらに好ましい。
【0077】
本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物は、引張強度が、40~150MPaであるものが好ましく、45~100MPaであるものがより好ましく、51~95MPaであるものがさらに好ましい。
【0078】
本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物は、引張降伏ひずみが、1~5%であるものが好ましく、2~4%であるものがより好ましく、3.2~3.8%であるものがさらに好ましい。
【0079】
本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物は、曲げ強度が、70~140MPaであるものが好ましく、72~120MPaであるものがより好ましく、75~115MPaであるものがさらに好ましい。
【0080】
本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物は、水蒸気透過度が、0.8g/m2・24時間以下であるものが好ましく、0.75g/m2・24時間以下であるものがより好ましく、0.4~0.7g/m2・24時間であるものがさらに好ましい。水蒸気透過度が0.8g/m2・24時間を超える場合、ガスバリア性が不十分となる傾向がある。
【0081】
本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物は、該組成物中に分散する液晶ポリマー粒子の平均粒子径が、0.1~2.5μmであるものが好ましく、0.3~2μmであるものがより好ましく、0.5~1.5μmであるものがさらに好ましい。平均粒子径が、0.1μm未満である場合、ガスバリア性が低下する傾向があり、2.5μmを超える場合、耐テープ剥離性が低下する傾向がある。
【0082】
本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、一軸延伸、二軸延伸、インフレーションなどの公知の成形方法によって、フィルム、シート、ボトル、容器、その他の包装材料などに加工される。
【0083】
本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物から構成される成形品は、ガスバリア性に優れることから、ペットボトルなどの中空製品の成形に好適なブロー成形によって所望の成形品に加工される。具体的なブロー成形法とは、ダイレクトブロー成形、インジェクションブロー成形、フリーブロー成形等が挙げられる。
【実施例】
【0084】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例中のメルトボリュームフローレート(MVR)、荷重たわみ温度、引張強度、引張降伏ひずみ、曲げ強度、水蒸気透過度、平均粒子径の測定、剥離面積率の評価は以下に記載の方法で行った。
【0085】
〈メルトボリュームフローレート(MVR)〉
ISO 1133に準拠して、(株)東洋精機製作所製メルトインデックサG-02を用い、LCPの結晶融解温度+10℃、荷重2160gの条件で測定した。
【0086】
〈荷重たわみ温度〉
射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000-110)を用いて、短冊状試験片(長さ80mm×幅10mm×厚さ4.0mm)を成形し、これを用いてISO75に準拠し、荷重0.45MPa、昇温速度2℃/分で所定たわみ量(0.34mm)になる温度を測定した。
【0087】
〈引張強度〉
射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000-110)を用いて結晶融解温度+20~70℃のシリンダー温度、金型温度40℃で射出成形し、厚さ4mmのISO1号ダンベル試験片を作製した。INSTRON5567(インストロンジャパンカンパニイリミテッド社製万能試験機)を用いて、ISO527に準拠して測定した。
【0088】
〈引張降伏ひずみ〉
射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000-110)を用いて結晶融解温度+20~70℃のシリンダー温度、金型温度40℃で射出成形し、ISO1号ダンベル試験片を作製した。INSTRON5567(インストロンジャパンカンパニイリミテッド社製万能試験機)を用いて、ISO527に準拠して測定した。
【0089】
〈曲げ強度〉
荷重たわみ温度の測定に用いた試験片と同じ試験片を用いてISO178に準拠して測定した。
【0090】
〈水蒸気透過度〉
150mm角1.5mm厚みの試験片で、水蒸気透過試験機(MOCON製PERMATRAN W3/33を用いて、JIS K7129に準拠する下記の条件下で水蒸気透過量を測定し、水蒸気透過度を算出した。
試験気体:水蒸気
試験条件:40℃、90%RH
透過面積:50cm2
【0091】
〈平均粒子径〉
厚さ4mmのISOダンベル試験片を液体窒素にて凍結した後、破断し、破断面を電子顕微鏡((株)日立製作所製Hitachi S-300N)を用いて適切な倍率(例えば倍率5000倍)で観察し、110μm2内に観察された液晶ポリマー粒子の長径を測定し、その平均値を平均粒子径とした。
【0092】
〈剥離面積率〉
荷重たわみ温度の測定に用いたものと同じ短冊状試験片に、セロハンテープ(ニチバン(株)製セロテープ(登録商標)CT-24)を貼付面積が500mm2(50mm×10mm)となるように指で押し付けて密着させた後に、長手方向で、180°の方向に100mm/秒の速度で引き剥がした。試験片表面の剥離した部分をスキャナーで読み取り、キーエンス製VHX-900F通信ソフトにて解析し剥離面積を算出した。上記剥離面積を上記貼付面積で除した値を剥離面積率(%)とした。 剥離面積率(%)が小さいほど、耐テープ剥離性に優れる。
【0093】
実施例および比較例において下記の略号は以下の化合物を表す。
POB:パラヒドロキシ安息香酸
BON6:6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸
HQ:ハイドロキノン
TPA:テレフタル酸
【0094】
[合成例1(LCP1)]
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、POBおよびBON6を表1に示す組成比にて、総量6.5モルとなるように仕込み、さらに全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0095】
窒素ガス雰囲気下で室温~145℃まで1時間で昇温し、同温度にて30分間保持した。次いで、副生する酢酸を留去させつつ345℃まで7時間かけ昇温した後、80分間かけて10mmHgにまで減圧した。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器内容物を取り出し、粉砕機により液晶ポリエステル樹脂(LCP1)のペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。
【0096】
【0097】
[合成例2(LCP2)]
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、POB、BON6、HQおよびTPAを表2に示す組成比にて、総量6.5モルとなるように仕込み、さらに全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0098】
窒素ガス雰囲気下で室温~145℃まで1時間で昇温し、同温度にて30分間保持した。次いで、副生する酢酸を留去させつつ350℃まで7時間かけ昇温した後、80分間かけて10mmHgにまで減圧した。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器内容物を取り出し、粉砕機により液晶ポリエステル樹脂(LCP2)のペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。
【0099】
【0100】
上記合成例にて合成したLCPの他、実施例および比較例で使用した材料を以下に示す。
共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂1(PET1):ユニチカ(株)製、SA-8339P(固有粘度:1.13)
ポリエチレンテレフタレート樹脂2(PET2):ユニチカ(株)製、SA-1206(固有粘度:1.07)
カルボジイミド基含有化合物(CI):日清紡ケミカル(株)製、ポリジシクロヘキシルメタンカルボジイミド「カルボジライト(登録商標)LA-1」
エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体(E-GMA):住友化学(株)製、「ボンドファースト(登録商標)2C」
【0101】
実施例1~2および比較例1~2
合成例1にて合成したLCPおよび上記材料を表3に記載の含有量となるように配合し、二軸押出機(日本製鋼(株)製TEX-30)を用いて、300℃にて溶融混練を行い、ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを得た。上記の方法により、メルトボリュームフローレート(MVR)、荷重たわみ温度、引張強度、引張降伏ひずみ、曲げ強度、水蒸気透過度、平均粒子径および剥離面積率を測定した。結果を表3に示す。また、電子顕微鏡画像を
図1および2に示す。
【0102】
表3に示すように、実施例1~2のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物はいずれも、液晶ポリマー粒子の平均粒子径が小さく、相溶性が改善されており、ガスバリア性、耐テープ剥離性にも優れたものであった。
【0103】
これに対して、比較例1のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物は、液晶ポリマー粒子の平均粒子径が大きく、相溶性が悪く、ガスバリア性の低下が確認され、成形材料として好ましくないものであった。
【0104】
【0105】
実施例3および比較例3~4
合成例2にて合成したLCPおよび上記材料を表4に記載の含有量となるように配合し、二軸押出機(日本製鋼(株)製TEX-30)を用いて、300℃にて溶融混練を行い、ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを得た。上記の方法により、メルトボリュームフローレート(MVR)、荷重たわみ温度、引張強度、引張降伏ひずみ、曲げ強度、水蒸気透過度、平均粒子径および剥離面積率を測定した。結果を表4に示す。
【0106】
表4に示すように、実施例3のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物は、液晶ポリマー粒子の平均粒子径が小さく、相溶性が改善されており、ガスバリア性、耐テープ剥離性にも優れたものであった。
【0107】
これに対して、比較例3~4のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物は、液晶ポリマー粒子の平均粒子径が大きく、相溶性が悪く、ガスバリア性の低下が確認され、成形材料として好ましくないものであった。
【0108】