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特許7365876ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20231013BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20231013BHJP
   C08F 265/06 20060101ALI20231013BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20231013BHJP
   C08L 51/00 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
C08L9/00
B60C1/00 A
C08F265/06
C08L33/06
C08L51/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019218180
(22)【出願日】2019-12-02
(65)【公開番号】P2021088624
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 拓也
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-099765(JP,A)
【文献】特開2012-158710(JP,A)
【文献】特開2012-140545(JP,A)
【文献】国際公開第2017/104135(WO,A1)
【文献】特開2015-045000(JP,A)
【文献】国際公開第01/081465(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/093631(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0005029(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C
C08F
C08K
C08L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100質量部に対して、
少なくとも1種の単官能モノマーを構成単位とする重合体であって、
式(1)で表されるアルキル(メタ)アクリレート単位を構成単位として有する重合体(A)を1~100質量部含有し、
前記重合体(A)は、式(1)で表されるアルキル(メタ)アクリレート単位を構成単位として有し、ガラス転移点が-70℃~0℃であり、少なくとも1種の多官能モノマーによって架橋された架橋構造を有する重合体からなる微粒子構造(S)と、式(1)で表されるアルキル(メタ)アクリレート単位を構成単位として有する架橋されていない直鎖状のポリマー構造(P)とを有し、前記微粒子構造(S)と前記ポリマー構造(P)とは共有結合によって結合している、ゴム組成物。
【化1】
式中、Rは水素原子又はメチル基であり、同一分子中のRは同一でも異なっていてもよく、Rは炭素数4~18のアルキル基であり、同一分子中のRは同一でも異なっていてもよい。
【請求項2】
前記重合体(A)は、前記微粒子構造(S)と前記ポリマー構造(P)との体積比(Vp/Vs)が0.3~3.0である、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のゴム組成物を用いて作製された、空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤに用いられるゴム組成物においては、湿潤路面におけるグリップ性能(ウエットグリップ性能)と低燃費性に寄与する転がり抵抗性能を高次元でバランスさせることが求められている。しかし、これらは背反特性であるため、同時に改良することは容易ではない。
【0003】
このような問題に対して、特許文献1には、常温での硬度低下と低温での弾性率上昇と転がり抵抗性能の悪化を抑えながら、ウエットグリップ性能を向上するものとして、ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対し、式(1)で表される構成単位を有しかつ反応性シリル基を持たない(メタ)アクリレート系重合体からなる、ガラス転移点が-70~0℃かつ平均粒径が10nm以上100nm未満の微粒子を、1~100質量部含有するゴム組成物が記載されている。しかしながら、このようなゴム組成物では、破断特性が悪化することがあった。
【0004】
これに対して、特許文献2には、破断特性及び転がり抵抗性能(低燃費性)の悪化を抑制しつつ、ウエットグリップ性能が向上したタイヤ用ゴム組成物として、ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対して、式(1)で表されるアルキル(メタ)アクリレート単位を構成単位として有する架橋されたポリマー粒子を1~100質量部含有し、上記ポリマー粒子のトルエン膨潤時粒径(MS)とラテックス粒径(ML)との比(MS/ML)が1.20~10.0であるタイヤ用ゴム組成物が記載されている。
【0005】
しかしながら、特許文献2では、ポリマー粒子とゴム成分の界面との相互作用について着目した検討はなされておらず、破断特性について改善の余地があった。
【0006】
また、特許文献3には、ジエン系ゴム(A)と微粒子(B)とを含有し、ジエン系ゴム(A)が天然ゴムを60~100質量%含み、微粒子(B)がジエン系ゴム(A)と相溶しない非ジエン系ポリマーとジエン系ゴム(A)と相溶するジエン系ポリマーとを含み、非ジエン系ポリマーを所定量含有するコア部分とジエン系ポリマーを所定量含有するシェル部分とから構成されたコアシェル構造であり、コア部分の非ジエン系ポリマーとシェル部分のジエン系ポリマーが化学結合で結合しており、微粒子(B)の平均粒子径が0.001~100μmであり、微粒子(B)の含有量がジエン系ゴム(A)100質量部に対して1~30質量部であるタイヤ用ゴム組成物が開示されているが、ウエットグリップ性能についての改善は認められない。
【0007】
さらに、特許文献4には、ジエン系ゴム(A)100質量部と、有機微粒子(B)1~60質量部と、を含有し、上記有機微粒子(B)の平均粒子径が、0.001~100μmであり、上記有機微粒子(B)が、上記ジエン系ゴム(A)と相溶する相溶成分と、上記ジエン系ゴム(A)と相溶しない非相溶成分とで構成された複合構造であり、上記複合構造が、上記相溶成分よりも上記非相溶成分が多く存在する内側部分と、上記内側部分の少なくとも一部を覆い、かつ、上記非相溶成分よりも上記相溶成分が多く存在する外側部分とを有する、タイヤ用ゴム組成物が開示されているが、転がり抵抗性能及びウエットグリップ性能についての改善は認められない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2017-110069号公報
【文献】特開2019-112560号公報
【文献】特開2017-105868号公報
【文献】特開2017-43695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上の点に鑑み、破断特性、転がり抵抗性能(低燃費性)、及びウエットグリップ性能のバランスに優れた空気入りタイヤが得られる、ゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対して、少なくとも1種の単官能モノマーを構成単位とする重合体であって、式(1)で表されるアルキル(メタ)アクリレート単位を構成単位として有する重合体(A)を1~100質量部含有し、重合体(A)は、ガラス転移点が-70℃~0℃であり、少なくとも1種の多官能モノマーによって架橋された架橋構造を有する重合体からなる微粒子構造(S)と、架橋されていない直鎖状のポリマー構造(P)とを有し、微粒子構造(S)とポリマー構造(P)とは共有結合によって結合しているものとする。
【0011】
【化1】
【0012】
式中、Rは水素原子又はメチル基であり、同一分子中のRは同一でも異なっていてもよく、Rは炭素数4~18のアルキル基であり、同一分子中のRは同一でも異なっていてもよい。
【0013】
上記重合体(A)は、微粒子構造(S)とポリマー構造(P)との体積比(Vp/Vs)が0.3~3.0であるものとすることができる。
【0014】
本発明に係る空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて作製されたものとする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のゴム組成物によれば、破断特性、転がり抵抗性能(低燃費性)、及びウエットグリップ性能のバランスに優れた空気入りタイヤが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0017】
本実施形態に係るゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対して、少なくとも1種の単官能モノマーを構成単位とする重合体であって、式(1)で表されるアルキル(メタ)アクリレート単位を構成単位として有する重合体(A)を1~100質量部含有し、重合体(A)は、ガラス転移点が-70℃~0℃であり、少なくとも1種の多官能モノマーによって架橋された架橋構造を有する重合体からなる微粒子構造(S)と、架橋されていない直鎖状のポリマー構造(P)とを有し、微粒子構造(S)とポリマー構造(P)とは共有結合によって結合しているものとする。
【0018】
【化2】
【0019】
式中、Rは水素原子又はメチル基であり、同一分子中のRは同一でも異なっていてもよく、Rは炭素数4~18のアルキル基であり、同一分子中のRは同一でも異なっていてもよい。Rのアルキル基は直鎖でも分岐していてもよい。Rは、炭素数6~16のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数8~15のアルキル基である。
【0020】
ジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム等が挙げられ、これらはいずれか1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、NR、BR及びSBRからなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。
【0021】
上記で列挙した各ジエン系ゴムの具体例には、その分子末端又は分子鎖中において、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルコキシシリル基、及びエポキシ基からなる群から選択された少なくとも1種の官能基が導入されることで、当該官能基により変性された変性ジエン系ゴムも含まれる。変性ジエン系ゴムとしては、変性SBR及び/又は変性BRが好ましい。一実施形態において、ジエン系ゴムは、変性ジエン系ゴム単独でもよく、変性ジエン系ゴムと未変性のジエン系ゴムとのブレンドでもよい。一実施形態において、ジエン系ゴム100質量部中、変性SBRを30質量部以上含んでもよく、変性SBRを50~90質量部と未変性ジエン系ゴム(例えば、BR及び/又はNR)を50~10質量部含むものでもよい。
【0022】
本実施形態に係る重合体(A)は、少なくとも1種の単官能モノマーを構成単位とする重合体であって、式(1)で表されるアルキル(メタ)アクリレート単位を構成単位として有する(メタ)アクリレート系重合体であるものとする。
【0023】
【化3】
【0024】
ここで、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートのうちの一方又は両方を意味する。また、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及びメタクリル酸のうちの一方又は両方を意味する。
【0025】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸n-ペンチル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸n-ヘプチル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸n-ノニル、アクリル酸n-デシル、アクリル酸n-ウンデシル、アクリル酸n-ドデシル、アクリル酸n-トリデシル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸n-ペンチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸n-ヘプチル、メタクリル酸n-オクチル、メタクリル酸n-ノニル、メタクリル酸n-デシル、メタクリル酸n-ウンデシル、及びメタクリル酸n-ドデシル等の(メタ)アクリル酸n-アルキル;アクリル酸イソブチル、アクリル酸イソペンチル、アクリル酸イソヘキシル、アクリル酸イソヘプチル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸イソノニル、アクリル酸イソデシル、アクリル酸イソウンデシル、アクリル酸イソドデシル、アクリル酸イソトリデシル、アクリル酸イソテトラデシル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸イソペンチル、メタクリル酸イソヘキシル、メタクリル酸イソヘプチル、メタクリル酸イソオクチル、メタクリル酸イソノニル、メタクリル酸イソデシル、メタクリル酸イソウンデシル、メタクリル酸イソドデシル、メタクリル酸イソトリデシル、及びメタクリル酸イソテトラデシル等の(メタ)アクリル酸イソアルキル;アクリル酸2-メチルブチル、アクリル酸2-エチルペンチル、アクリル酸2-メチルヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸2-エチルヘプチル、メタクリル酸2-メチルペンチル、メタクリル酸2-メチルヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、及びメタクリル酸2-エチルヘプチルなどが挙げられる。これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0026】
ここで、イソアルキルとは、アルキル鎖端から2番目の炭素原子にメチル側鎖を有するアルキル基をいう。例えば、イソデシルとは、鎖端から2番目の炭素原子にメチル側鎖を持つ炭素数10のアルキル基をいい、8-メチルノニル基だけでなく、2,4,6-トリメチルヘプチル基も含まれる概念である。
【0027】
(メタ)アクリレート系重合体は、特に限定するものではないが、(メタ)アクリレート系重合体を構成する全構成単位(全繰り返し単位)に対する式(1)の構成単位のモル比が50モル%以上であることが好ましく、より好ましくは80モル%以上であり、更に好ましくは90モル%以上である。式(1)の構成単位のモル比の上限は、特に限定しないが、99.5モル%以下でもよく、99モル%以下でもよい。多官能モノマーに基づく構成単位のモル比は、0.5~20モル%でもよく、1~10モル%でもよく、1~5モル%でもよい。
【0028】
本実施形態に係る微粒子構造(S)のガラス転移点(Tg)は、-70℃~0℃の範囲内であれば特に限定されないが、-50℃~-10℃であることが好ましく、より好ましくは-40℃~-20℃である。ガラス転移点の設定は、(メタ)アクリレート系重合体を構成するモノマー組成等により行うことができる。ガラス転移点が0℃以下である場合、低温性能の悪化をより効果的に抑えやすい。また、ガラス転移点が-70℃以上である場合、ウエットグリップ性能の改善効果を高めやすい。ここで、ガラス転移点とは、JIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)法により、昇温速度:20℃/分(測定温度範囲:-150℃~150℃)にて測定される値である。
【0029】
本実施形態に係る微粒子構造(S)及びポリマー構造(P)は、いずれも、式(1)で表されるアルキル(メタ)アクリレート単位を構成単位として有する(メタ)アクリレート系重合体であることが好ましい。
【0030】
【化4】
【0031】
本実施形態に係る微粒子構造(S)は架橋されたものであり、その架橋点となる多官能モノマーは特に限定されないが、多官能ビニルモノマーを架橋点とする架橋構造の重合体であることが好ましい。すなわち、好ましい実施形態において、(メタ)アクリレート系重合体は、式(1)で表される構成単位とともに、多官能ビニルモノマーに由来する構成単位を含み、該多官能ビニルモノマーに由来する構成単位を架橋点とする架橋構造を有する。
【0032】
多官能ビニルモノマーとしては、フリーラジカル重合によって重合可能な少なくとも2個のビニル基を有する化合物が挙げられ、例えば、ジオールまたはトリオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、トリメチロールプロパンなど)のジ(メタ)アクリレートまたはトリ(メタ)アクリレート;メチレンビス-アクリルアミドなどのアルキレンジ(メタ)アクリルアミド;ジイソプロペニルベンゼン、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼンなどの少なくとも2個のビニル基を持つビニル芳香族化合物などが挙げられ、これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0033】
本実施形態に係るゴム組成物は、微粒子構造(S)及びポリマー構造(P)を有する重合体(A)を含有することにより、優れたウエットグリップ性能及び破断特性が得られる。このメカニズムは定かではないが、微粒子構造(S)の粘弾性挙動がウエットグリップ性能の向上効果に寄与し、ポリマー構造(P)がゴムマトリクスと絡み合うことで破壊特性の向上効果に寄与していると推測される。
【0034】
微粒子構造(S)とポリマー構造(P)との体積比は、特に限定されないが、前者に対する後者の体積比(V/V)として、0.3~3.0であることが好ましく、0.5~2.0であることが好ましい。体積比が0.3以上である場合、ポリマー構造(P)とゴムマトリクスとの十分な絡み合いにより、破壊特性の向上効果が得られやすく、3.0以下である場合、微粒子構造(S)によるウエットグリップ特性の向上効果が得られやすい。
【0035】
ここで、微粒子構造(S)の体積は、微粒子構造(S)の平均粒子径から求めることができ、ポリマー構造(P)の体積は、平均粒子径から求めた重合体(A)の体積と、微粒子構造(S)の体積とから、その増加率により求めることができる。具体的には、微粒子構造(S)及び重合体(A)を球体であると仮定し、それぞれの平均粒子径からそれぞれの粒子半径r、rを求め、次の式に代入することで、微粒子構造(S)、重合体(A)、及びポリマー構造(P)の体積を求めることができる。
微粒子構造(S)の体積:V=4/3πr
重合体(A)の体積:V=4/3πr
ポリマー構造(P)の体積:V=V-V
【0036】
一実施形態に係る重合体(A)は、式(1)で表される構成単位として下記一般式(2)で表される構成単位を有する重合体であることが好ましい。
【0037】
【化5】
【0038】
式(2)中、Rは、水素原子又はメチル基であり(好ましくはメチル基)、同一分子中のRは同一でも異なってもよい。Zは、炭素数1~15のアルキレン基であり、同一分子中のZは同一でも異なってもよい。Zは直鎖でも分岐していてもよい。
【0039】
式(2)の構成単位は、式(1)中のRが下記一般式(2A)で表される場合である。
【0040】
【化6】
【0041】
式(2A)中のZは、式(2)のZと同じである。
【0042】
このような構成単位を生じる(メタ)アクリレートとしては、上記の(メタ)アクリル酸イソアルキルが挙げられる。かかるイソアルキル基を有する(メタ)アクリレート(好ましくは、メタクリレート)を用いる場合、本実施形態による効果を高めやすい。式(2)及び(2A)中のZは、炭素数5~12のアルキレン基であることが好ましく、より好ましくは炭素数6~10のアルキレン基である。特に好ましくは、炭素数7のアルキレン基であり、一例として、(メタ)アクリレート系重合体は、メタクリル酸イソデシルを含むモノマーの重合体であることが好ましい。
【0043】
他の一実施形態に係る重合体(A)は、式(1)で表される構成単位として、下記一般式(3)で表される構成単位を有する重合体でもよく、あるいはまた、式(2)で表される構成単位と式(3)で表される構成単位を有する重合体でもよい。後者の場合、両構成単位の付加形態は、ランダム付加でもブロック付加でもよく、好ましくはランダム付加である。
【0044】
【化7】
【0045】
式(3)中、Rは、水素原子又はメチル基であり(好ましくはメチル基)、同一分子中のRは同一でも異なってもよい。Qは、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルキレン基であり、直鎖でも分岐でもよく(好ましくは直鎖)、同一分子中のQは同一でも異なってもよい。Qは、メチル基又はエチル基であり(好ましくはエチル基)、同一分子中のQは同一でも異なっていてもよい。
【0046】
式(3)の構成単位は、式(1)中のRが下記一般式(3A)で表される場合である。
【0047】
【化8】
【0048】
式(3A)中、Q及びQは、それぞれ式(3)のQ及びQと同じである。
【0049】
本実施形態に係る重合体(A)の平均粒子径は、特に限定されないが、10nm~300nmであることが好ましく、20nm~200nmであることがより好ましい。ここで、本明細書において、重合体(A)の平均粒子径とは、ラテックス中に分散するポリマー粒子の平均粒子径(ラテックス粒径(M))のことであり、キュムラント法により求めた値とする。具体的には、動的光散乱法(DLS)により測定される粒度分布における積算値50%での粒径(50%径:D50)であり、光子相関法(JIS Z8826準拠)により測定し(入射光と検出器との角度90°)、得られた自己相関関数からキュムラント法により求めた値である。微粒子構造(S)の平均粒子径についても、重合体(A)と同様に求めることができる。
【0050】
本実施形態に係る重合体(A)の製造方法は、特に限定されず、例えば、公知の乳化重合を利用して合成することができる。好ましい一例を挙げれば次の通りである。すなわち、アルキル(メタ)アクリレートを、架橋剤としての多官能モノマーとともに、乳化剤を溶解した水等の水性媒体に分散させ、得られたエマルションに水溶性のラジカル重合開始剤(例えば、過硫酸カリウムなどの過酸化物)を添加してラジカル重合させる。これにより、水性媒体中にアルキル(メタ)アクリレート系重合体からなるポリマー粒子(微粒子構造(S))が生成される。この水性媒体中に、さらにアルキル(メタ)アクリレートを分散させ、ラジカル重合させることにより、水性媒体中に、微粒子構造(S)と、これに共有結合したアルキル(メタ)アクリレート系重合体からなる直鎖状のポリマー構造(P)とを有する重合体が生成され、該水性媒体と分離することで重合体(A)が得られる。その他のポリマー粒子の製造方法として、公知の懸濁重合や分散重合、沈殿重合、ミニエマルション重合、ソープフリー乳化重合(無乳化剤乳化重合)およびマイクロエマルション重合などの重合方法を利用することができる。
【0051】
本実施形態に係るゴム組成物において、重合体(A)の配合量は、ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対して1~100質量部であり、好ましくは2~50質量部であり、より好ましくは3~30質量部である。
【0052】
本実施形態に係るゴム組成物には、重合体(A)の他に、補強性充填剤、シランカップリング剤、オイル、亜鉛華、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、加硫剤、加硫促進剤など、ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。
【0053】
補強性充填剤としては、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸)等のシリカやカーボンブラックが用いられる。好ましくは、転がり抵抗性能とウエットグリップ性能のバランスを向上するために、シリカ単独使用又はシリカとカーボンブラックの併用が好ましい。補強性充填剤の配合量は、特に限定されず、例えば、ゴム成分100質量部に対して20~150質量部でもよく、30~100質量部でもよい。シリカの配合量も特に限定されず、例えば、ゴム成分100質量部に対して20~150質量部でもよく、30~100質量部でもよい。
【0054】
シリカを配合する場合、シランカップリング剤を併用することが好ましく、その場合、シランカップリング剤の配合量は、シリカ質量の2~20質量%であることが好ましく、より好ましくは4~15質量%である。
【0055】
上記加硫剤としては、硫黄が好ましく用いられる。加硫剤の配合量は、特に限定するものではないが、ゴム成分100質量部に対して0.1~10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~5質量部である。また、上記加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チウラム系、チアゾール系、及びグアニジン系などの各種加硫促進剤が挙げられ、いずれか1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。加硫促進剤の配合量は、特に限定するものではないが、ゴム成分100質量部に対して0.1~7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~5質量部である。
【0056】
本実施形態に係るゴム組成物は、通常用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練し作製することができる。すなわち、例えば、第一混合段階で、ジエン系ゴムに対し、重合体(A)とともに、加硫剤及び加硫促進剤を除く他の添加剤を添加混合し、次いで、得られた混合物に、最終混合段階で加硫剤及び加硫促進剤を添加混合してゴム組成物を調製することができる。
【0057】
このようにして得られたゴム組成物は、乗用車用タイヤ、トラックやバスの大型タイヤなど、各種用途・各種サイズの空気入りタイヤのトレッド部、サイドウォール部などタイヤの各部位に適用することができる。すなわち、該ゴム組成物は、常法に従い、例えば、押出加工によって所定の形状に成形され、他の部品と組み合わせてグリーンタイヤを作製した後、例えば140~180℃でグリーンタイヤを加硫成形することにより、空気入りタイヤを製造することができる。これらの中でも、タイヤのトレッド用配合として用いることが特に好ましい。
【実施例
【0058】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
[平均粒子径の測定方法]
微粒子構造(S)及び重合体(A)の平均粒子径は、動的光散乱法(DLS)により測定される粒度分布における積算値50%での粒径(50%径:D50)であり、下記合成例における凝固前のラテックス溶液を測定試料として用いて、大塚電子株式会社製のダイナミック光散乱光度計「DLS-8000」を用いた光子相関法(JIS Z8826準拠)により測定した(入射光と検出器との角度90°)。また、微粒子構造(S)作製時のラテックス状態の粒子径と、ポリマー構造(P)作製時のラテックス状態の粒子径の増加分から微粒子構造(s)に対するポリマー構造(P)の体積比V/Vを算出した。
【0060】
[Tgの測定方法]
JIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)法により、昇温速度:20℃/分にて測定した(測定温度範囲:-150℃~150℃)。
【0061】
〈合成例1:重合体1〉
45.0gのメタクリル酸2,4,6-トリメチルヘプチル(メタクリル酸イソデシル)、1.18gのエチレングリコールジメタクリレート、5.73gのドデシル硫酸ナトリウム、90.0gの水および10.0gのエタノールを混合し、1時間撹拌させることによりモノマーを乳化させ、0.54gの過硫酸カリウムを添加した。添加後、20分間の窒素バブリングを実施し、溶液を70℃で1時間撹拌し、ラテックス溶液を得た。該ラテックス溶液を撹拌しているメタノール中に投入することにより、重合体を沈殿させた。その後、ろ過により液体を除去し、真空乾燥器で70℃、1.0×10Paの条件下で乾燥することにより固形成分としての重合体1を得た。重合体1の平均粒子径は51nm、Tgは-40℃であった。
【0062】
〈合成例2:重合体2〉
22.5gのメタクリル酸2,4,6-トリメチルヘプチル(メタクリル酸イソデシル)、0.59gのエチレングリコールジメタクリレート、2.87gのドデシル硫酸ナトリウム、90.0gの水および10.0gのエタノールを混合し、1時間撹拌させることによりモノマーを乳化させ、0.27gの過硫酸カリウムを添加した。添加後、20分間の窒素バブリングを実施し、溶液を70℃で1時間撹拌した。この時点での平均粒子径は63nmであった。次いで、22.5gのメタクリル酸2,4,6-トリメチルヘプチルを先の溶液に添加し、3時間撹拌し、ラテックス溶液を得た。該ラテックス溶液を撹拌しているメタノール中に投入することにより、重合体を沈殿させた。その後、ろ過により液体を除去し、真空乾燥器で70℃、1.0×10Paの条件下で乾燥することにより固形成分としての重合体2を得た。重合体2の平均粒子径は72nmであった。
【0063】
〈合成例3:重合体3〉
11.3gのメタクリル酸2,4,6-トリメチルヘプチル(メタクリル酸イソデシル)、0.30gのエチレングリコールジメタクリレート、1.43gのドデシル硫酸ナトリウム、90.0gの水および10.0gのエタノールを混合し、1時間撹拌させることによりモノマーを乳化させ、0.13gの過硫酸カリウムを添加した。添加後、20分間の窒素バブリングを実施し、溶液を70℃で1時間撹拌した。この時点での平均粒子径は68nmであった。次いで、33.8gのメタクリル酸2,4,6-トリメチルヘプチルを先の溶液に添加し、3時間撹拌し、ラテックス溶液を得た。該ラテックス溶液を撹拌しているメタノール中に投入することにより、重合体を沈殿させた。その後、ろ過により液体を除去し、真空乾燥器で70℃、1.0×10Paの条件下で乾燥することにより固形成分としての重合体3を得た。重合体3の平均粒子径は102nmであった。
【0064】
〈合成例4:重合体4〉
22.5gのメタクリル酸2,4,6-トリメチルヘプチル(メタクリル酸イソデシル)、0.59gのエチレングリコールジメタクリレート、2.87gのドデシル硫酸ナトリウム、90.0gの水および10.0gのエタノールを混合し、1時間撹拌させることによりモノマーを乳化させ、0.27gの過硫酸カリウムを添加した。添加後、20分間の窒素バブリングを実施し、溶液を70℃で1時間撹拌した。この時点での平均粒子径は54nmであった。次いで、12.7gのアクリル酸ブチル(ブチルアクリレート)を先の溶液に添加し、3時間撹拌し、ラテックス溶液を得た。該ラテックス溶液を撹拌しているメタノール中に投入することにより、重合体を沈殿させた。その後、ろ過により液体を除去し、真空乾燥器で70℃、1.0×10Paの条件下で乾燥することにより固形成分としての重合体4を得た。重合体4の平均粒子径は60nmであった。
【0065】
〈合成例5:重合体5〉
11.3gのメタクリル酸2,4,6-トリメチルヘプチル(メタクリル酸イソデシル)、0.30gのエチレングリコールジメタクリレート、1.43gのドデシル硫酸ナトリウム、90.0gの水および10.0gのエタノールを混合し、1時間撹拌させることによりモノマーを乳化させ、0.13gの過硫酸カリウムを添加した。添加後、20分間の窒素バブリングを実施し、溶液を70℃で1時間撹拌した。この時点での平均粒子径は67nmであった。次いで、19.1gのアクリル酸ブチル(ブチルアクリレート)を先の溶液に添加し、3時間撹拌し、ラテックス溶液を得た。該ラテックス溶液を撹拌しているメタノール中に投入することにより、重合体を沈殿させた。その後、ろ過により液体を除去し、真空乾燥器で70℃、1.0×10Paの条件下で乾燥することにより固形成分としての重合体5を得た。重合体5の平均粒子径は86nmであった。
【0066】
ラボミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従って、まず、第一混合段階で、ジエン系ゴム成分に対し硫黄及び加硫促進剤を除く他の配合剤を添加し混練した(排出温度=160℃)。次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練して(排出温度=90℃)、ゴム組成物を調製した。表1中の各成分の詳細は、以下の通りである。
【0067】
・変性SBR:JSR(株)製「HPR350」
・BR:宇部興産(株)製「BR150B」
・シリカ:東ソー・シリカ(株)製「ニップシールAQ」
・シランカップリング剤:ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、エボニックジャパン(株)製「Si69」
・重合体1~5:上記合成例1~5でそれぞれ得られた重合体
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1種」
・老化防止剤:大内新興化学工業(株)製「ノクラック6C」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS-20」
・硫黄:細井化学工業(株)製「ゴム用粉末硫黄150メッシュ」
・加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーCZ」
・2次加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーD」
【0068】
得られた各ゴム組成物について、160℃×20分で加硫して所定形状の試験片を作製し、得られた試験片を用いて、動的粘弾性試験を行って0℃及び60℃でのtanδを測定し、また引張試験を行って、引張り強度及び破断時伸びを測定した。測定方法は次の通りである。
【0069】
・引張り強度、破断時伸び:JIS K6251に準拠した引張試験(ダンベル状3号形)を行い、引張り強度及び破断時伸びを測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。いずれも指数が大きいほど、破断特性に優れることを示す。
【0070】
・0℃tanδ:UBM社製レオスペクトロメーターE4000を用いて、周波数10Hz、静歪み10%、動歪み2%、温度0℃の条件で損失係数tanδを測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、tanδが大きく、ウエットグリップ性能に優れることを示す。
【0071】
・60℃tanδ:温度を60℃に変え、その他は0℃tanδと同様にしてtanδを測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が小さいほど、発熱しにくく、タイヤでの転がり抵抗が小さくて転がり抵抗性能(即ち、低燃費性)に優れることを示す。
【0072】
【表1】
【0073】
結果は、表1に示す通りであり、比較例1と実施例1~4との対比から分かるように、微粒子構造(S)とポリマー構造(P)とを有する重合体(A)を配合した場合、破断特性、転がり抵抗性能(低燃費性)、及びウエットグリップ性能のバランスに優れていた。
【0074】
比較例1と比較例2との対比から分かるように、微粒子構造(S)のみからなる重合体を配合した場合、引張強度、破断時伸びが悪化した。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明のゴム組成物は、乗用車、ライトトラック・バス等の各種タイヤ用ゴム組成物に用いることができる。