(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】繊維シートおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D04H 1/4318 20120101AFI20231013BHJP
D04H 1/728 20120101ALI20231013BHJP
D01F 6/46 20060101ALI20231013BHJP
D01D 5/04 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
D04H1/4318
D04H1/728
D01F6/46 C
D01D5/04
(21)【出願番号】P 2019225527
(22)【出願日】2019-12-13
【審査請求日】2022-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】倉持 政宏
(72)【発明者】
【氏名】角前 洋介
(72)【発明者】
【氏名】道畑 典子
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-233355(JP,A)
【文献】特開2019-183295(JP,A)
【文献】国際公開第2009/075357(WO,A1)
【文献】特開2012-149174(JP,A)
【文献】特表2014-504424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/4318
D04H 1/728
D01F 6/46
D01D 5/04
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホ基を有するフッ素系樹脂と無水マレイン酸コポリマーおよび/またはマレイン酸コポリマーとを含有した繊維を含んでいる、繊維シート。
【請求項2】
(1)スルホ基を有するフッ素系樹脂と無水マレイン酸コポリマーおよび/またはマレイン酸コポリマーとを含有した、紡糸液を用意する工程、
(2)前記紡糸液を細径化して繊維を調製する工程、
(3)前記繊維を捕集して繊維シートを調製する工程、
を備える、繊維シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維シートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナフィオンなどのイオン交換能を有する、スルホ基を有するフッ素系樹脂を含有した繊維を含んでいる繊維シートは、イオン交換膜、燃料電池の電解質膜、触媒担持材、金属回収材、脱塩材、脱色材、脱水材など様々な産業資材用途に活用されている。
しかし、スルホ基を有するフッ素系樹脂は単体では紡糸性に劣る傾向があり、例えば、静電紡糸して繊維シートを製造することが困難である。そのため、特開2006-233355号公報(特許文献1)にも例示されているように、スルホ基を有するフッ素系樹脂と繊維形成性の有機高分子を混合した紡糸液を用いた紡糸方法が検討されている。
なお、特許文献1には、繊維形成性の有機高分子の具体例として、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリビニルエステル、ポリビニルエーテル、ポリビニルピリジン、ポリアクリルアミド、エーテルセルロース、ペクチンなどが挙げられており、実施例にはナフィオンとポリエチレンオキシドを混合した紡糸液を静電紡糸して、繊維構造体を製造したことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-233355号公報(特許請求の範囲、0020、0023、0025、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願出願人は、更に産業資材用途に広く活用可能な繊維シートを提供するため、上述した従来技術にかかるような、繊維(例えば、ナフィオンとポリエチレンオキシドとを含有した繊維)を含んでいる繊維シートの製造を試みた。しかし、従来技術を参照するのみでは、繊維径の細さとイオン交換能を両立可能な繊維シートを実現することが困難であると考えられた。
【0005】
例えば、繊維径の細い繊維シートを実現するため紡糸液中に含有されている繊維形成性の有機高分子の比率を高くした場合、当該紡糸液を用いて調製された繊維シートの構成繊維に占めるスルホ基を有するフッ素系樹脂の含有比率が低くなり、繊維シートのイオン交換能が大きく低下するものである。
一方、繊維シートのイオン交換能が大きく低下するのを防止するため紡糸液中に含有されている繊維形成性の有機高分子の比率を低くした場合、当該紡糸液を用いて調製された繊維シートの構成繊維に占めるスルホ基を有するフッ素系樹脂の含有比率が高くなり、紡糸性が低下して繊維径の細い繊維シートを実現するのが困難なものである。
【0006】
そのため、従来技術を参照するだけでは、産業資材用途に広く活用可能な繊維シートを提供するのには限界があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
「(請求項1)スルホ基を有するフッ素系樹脂と無水マレイン酸コポリマーおよび/またはマレイン酸コポリマーとを含有した繊維を含んでいる、繊維シート。
(請求項2)(1)スルホ基を有するフッ素系樹脂と無水マレイン酸コポリマーおよび/またはマレイン酸コポリマーとを含有した、紡糸液を用意する工程、
(2)前記紡糸液を細径化して繊維を調製する工程、
(3)前記繊維を捕集して繊維シートを調製する工程、
を備える、繊維シートの製造方法。」
である。
【発明の効果】
【0008】
本願出願人は検討の結果、本発明の構成を満足することによって、繊維径の細さとイオン交換能を両立可能な繊維シートを実現できることを見出した。
この理由は完全には明らかとなっていないが、本願出願人は以下の効果が発揮されているためだと考えた。
【0009】
・無水マレイン酸コポリマーはその繰り返し単位中に、2価のカルボン酸が脱水縮合した化学構造部分を有する酸性の有機高分子であること、また、マレイン酸コポリマーはその繰り返し単位中に、2価のカルボン酸を有する酸性の有機高分子であることから、共に優れたイオン交換能を有している(特に、繰り返し単位中に1価のカルボン酸を有する有機高分子よりも優れたイオン交換能を示し得る)。繊維径を細くすることを目的として、スルホ基を有するフッ素系樹脂の含有比率に対する無水マレイン酸コポリマーおよび/またはマレイン酸コポリマーの含有比率を高くした場合であっても、前述したコポリマーは共にイオン交換能を有していることから、イオン交換能が大きく低下するのが防止されたイオン交換能が高い繊維シートを実現できる。
【0010】
・無水マレイン酸コポリマーとマレイン酸コポリマーは酸性を示す(特に、繰り返し単位中に1価のカルボン酸を有する酸性の有機高分子よりも強い酸性を示し得る)有機高分子であり、同じく酸性を示すスルホ基を有するフッ素系樹脂と混和し易い。イオン交換能が高い繊維シートを実現することを目的として、スルホ基を有するフッ素系樹脂の含有比率に対する無水マレイン酸コポリマーおよび/またはマレイン酸コポリマーの含有比率を低くした場合であっても、前述した両コポリマーはスルホ基を有するフッ素系樹脂と良く混ざり合い易いことから、紡糸性が低下し難いものであって繊維径の細い繊維シートを実現できる。
【0011】
以上の効果が発揮されることで、スルホ基を有するフッ素系樹脂の含有比率に対する無水マレイン酸コポリマーおよび/またはマレイン酸コポリマーの含有比率が、低い場合であっても高い場合であっても、繊維径の細さとイオン交換能を両立可能な、産業資材用途に広く活用可能な繊維シートを提供できる。
【0012】
そして、本発明にかかる繊維シートの製造方法を採用することで、スルホ基を有するフッ素系樹脂の含有比率に対する無水マレイン酸コポリマーおよび/またはマレイン酸コポリマーの含有比率が、低い場合であっても高い場合であっても、繊維径の細さとイオン交換能を両立可能な、産業資材用途に広く活用可能な繊維シートを製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明では、例えば以下の構成など、各種構成を適宜選択できる。
なお、本発明で説明する各種測定は特に記載や規定のない限り、常圧のもと25℃温度条件下で測定を行った。そして、本発明で説明する各種測定結果は特に記載や規定のない限り、求める値よりも一桁小さな値まで測定で求め、当該値を四捨五入することで求める値を算出した。具体例として、少数第一位までが求める値である場合、測定によって少数第二位まで値を求め、得られた少数第二位の値を四捨五入することで少数第一位までの値を算出し、この値を求める値とした。
また、本発明で例示する各上限値および各下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0014】
本発明にかかる繊維シートは、スルホ基を有するフッ素系樹脂と無水マレイン酸コポリマーおよび/またはマレイン酸コポリマーとを含有した繊維を含んでいる。
【0015】
本発明でいうフッ素系樹脂は、下記化学構造式を骨格内に有する有機樹脂であり、その末端部分および/または側鎖部分にスルホ基を有している。
【0016】
【0017】
なお、本化学構造式中のxとmは0以上の整数、yとnは1以上の整数である。
【0018】
このようなスルホ基を有するフッ素系樹脂の種類は本発明にかかる繊維シートを提供できるよう、適宜選択できるものであるが、例えば、デュポン社のNafion(登録商標)、AGC社のFlemion(登録商標)、ソルベー社のAquivion(登録商標)、旭化成株式会社のAciplex(登録商標)などを採用できる。
【0019】
スルホ基を有するフッ素系樹脂の分子量は上述した課題を解決できるのであれば、適宜選択することができるものである。なお分子量はゲルパーミネーションクロマトグラフ測定やNMR測定により算出可能であるが、カタログに当該分子量が記載されている場合には記載値を分子量とみなす。または、前述した方法で分子量を得ることができない場合には、繰り返し単位の分子量と繰り返し単位の数の積を分子量とみなすことができる。
【0020】
繊維シートの構成繊維に含有されている有機樹脂質量に占めるスルホ基を有するフッ素系樹脂の質量の百分率は、産業資材の用途や要求物性などによって適宜調整できるが、その質量百分率が多いほどイオン交換能に優れる繊維シートを提供し易くなる。そのため、当該質量百分率は0質量%より多く、1質量%以上であるのが好ましく、10質量%以上であるのが好ましく、30質量%以上であるのが好ましく、50質量%以上であるのが好ましく、70質量%以上であるのが好ましく、80質量%以上であるのが好ましい。上限値も適宜調整するものであるが、100質量%未満であり、95質量%以下であることができ、90質量%以下であることができる。
また、繊維シートの構成繊維に含有されている、スルホ基を有するフッ素系樹脂の種類は、一種類であっても複数種類であってもよい。
【0021】
本発明でいう無水マレイン酸コポリマーは、下記化学構造式で表される繰り返し単位を骨格内に有する有機樹脂である。
【0022】
【0023】
なお、本化学構造式中のR1~R4は、H、(CH2)xCH3(x≧0)、O(CH2)xCH3(x≧0)、C6H5のいずれかであることができる。また、nは1以上の整数である。
【0024】
無水マレイン酸コポリマーの種類は本発明にかかる繊維シートを提供できるよう、適宜選択できるものであるが、例えば、ISP社のGANTREZ(登録商標、品番:AN-119、AN-139、AN-149、AN-169、AN-903など)、クラレ社のイソバン(登録商標、品番:イソバン-600、04、06、10、18など)、Cray Valley HSC Asia Limited社のSMA(登録商標、品番:SMA1000、2000、3000など)などを採用できる。
【0025】
また、本発明でいうマレイン酸コポリマーは、下記化学構造式で表される繰り返し単位を骨格内に有する有機樹脂である。
【0026】
【0027】
なお、本化学構造式中のR1~R4は、H、(CH2)xCH3(x≧0)、O(CH2)xCH3(x≧0)、C6H5のいずれかであることができる。また、nは1以上の整数である。
【0028】
マレイン酸コポリマーの種類は本発明にかかる繊維シートを提供できるよう、適宜選択できるものであるが、例えば、上記の無水マレイン酸コポリマーの無水マレイン酸部分の加水分解物、ISP社のGANTREZ(登録商標、品番:S-97BFなど)などを採用できる。
【0029】
無水マレイン酸コポリマーやマレイン酸コポリマーの分子量は上述した課題を解決できるのであれば、適宜選択することができるものである。分子量はゲルパーミネーションクロマトグラフ測定やNMR測定により算出可能であるが、カタログに当該分子量が記載されている場合には記載値を分子量とみなす。または、前述した方法で分子量を得ることができない場合には、繰り返し単位の分子量と繰り返し単位の数の積を分子量とみなすことができる。
【0030】
繊維シートの構成繊維に含有されている有機樹脂質量に占める無水マレイン酸コポリマーおよび/またはマレイン酸コポリマーの質量の百分率は、産業資材の用途や要求物性などによって適宜調整できるが、その質量百分率が多いほど、紡糸性が向上し、繊維径が細い繊維シートを提供できる。そのため、当該質量百分率は0質量%より多く、1質量%以上であるのが好ましく、10質量%以上であるのが好ましく、30質量%以上であるのが好ましく、50質量%以上であるのが好ましく、70質量%以上であるのが好ましく、80質量%以上であるのが好ましい。上限値も適宜調整するものであるが、100質量%未満であり、95質量%以下であることができ、90質量%以下であることができる。
また、繊維シートの構成繊維に含有されている、無水マレイン酸コポリマーおよび/またはマレイン酸コポリマーの種類は、一種類であっても複数種類であってもよい。
【0031】
繊維シートの構成繊維に占めるスルホ基を有するフッ素系樹脂と、無水マレイン酸コポリマーおよび/またはマレイン酸コポリマーの比率は、産業資材の用途や要求物性などに合わせ、繊維径の細さとイオン交換能を両立可能な繊維シートを提供できるよう適宜調整する。
【0032】
当該有機樹脂の質量比率は、例えば、スルホ基を有するフッ素系樹脂質量:無水マレイン酸コポリマーおよび/またはマレイン酸コポリマー質量=1:99~99:1の範囲となるよう調整できるものであり、5:95~95:5の範囲となるよう調整できるものであり、10:90~90:10の範囲となるよう調整できるものであり、20:80~80:20の範囲となるよう調整できるものであり、30:70~70:30の範囲となるよう調整できるものであり、40:60~60:40の範囲となるよう調整できるものである。
【0033】
同様に当該有機樹脂のモル当量比率は、例えば、スルホ基を有するフッ素系樹脂のモル当量:無水マレイン酸コポリマーおよび/またはマレイン酸コポリマーのモル当量=95:5~0.1:99.9の範囲となるよう調整できるものであり、63:37~1:99の範囲となるよう調整できるものであり、31:69~5:95の範囲となるよう調整できるものである。
【0034】
なお、ここでいうスルホ基を有するフッ素系樹脂のモル当量とは、スルホ基を有するフッ素系樹脂における繰り返し単位の数をいい、無水マレイン酸コポリマーおよび/またはマレイン酸コポリマーのモル当量とは、無水マレイン酸コポリマーおよび/またはマレイン酸コポリマーにおける繰り返し単位の数をいう。そして、モル当量比率とは、スルホ基を有するフッ素系樹脂のモル当量と、無水マレイン酸コポリマーおよび/またはマレイン酸コポリマーのモル当量の比率を指す。
【0035】
なお、繊維シートの構成繊維中に含有されている、スルホ基を有するフッ素系樹脂の質量と無水マレイン酸コポリマーおよび/またはマレイン酸コポリマーの質量との質量比、そして、各有機樹脂における繰り返し単位の化学構造式が判明している場合には、質量比と各繰り返し単位の分子量から、モル当量比率を算出できる。
具体例として、繊維シートの構成繊維中に含有されている、スルホ基を有するフッ素系樹脂と無水マレイン酸コポリマーの質量比が90質量部:10質量部であり、スルホ基を有するフッ素系樹脂における繰り返し単位の分子量が仮に100(M.W.)、無水マレイン酸コポリマーにおける繰り返し単位の分子量が仮に50(M.W.)である場合、スルホ基を有するフッ素系樹脂:無水マレイン酸コポリマーのモル当量比は、(90/100):(10/50)つまり9:2であると算出できる。
【0036】
本発明にかかる繊維シートの構成繊維は、スルホ基を有するフッ素系樹脂と、無水マレイン酸コポリマーおよび/またはマレイン酸コポリマーを含有するものであるが、他の樹脂や添加剤を含有してもよい。
【0037】
他の樹脂として、例えば、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をシアノ基またはフッ素或いは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂(例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、二トリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース繊維、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)など、公知の有機ポリマーを用いて構成できる。
【0038】
なお、他の樹脂の種類は複数種類であっても良く、これらの樹脂は、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、また樹脂がブロック共重合体やランダム共重合体でもよい。また、樹脂の立体構造や結晶性の有無がいかなるものでもよい。
【0039】
本発明にかかる繊維シートの構成繊維に含有されている樹脂(スルホ基を有するフッ素系樹脂、無水マレイン酸コポリマーおよび/またはマレイン酸コポリマー、その他の樹脂)の種類とその含有比率は、繊維シートを構成する繊維をIR測定、NMR測定、熱重量測定、示差走査熱量測定、元素分析などの各種分析装置へ供することにより、定性的および/または定量的に分析して判断可能である。
【0040】
なお、後述する繊維シートの製造工程において、繊維シートの構成繊維を成す材料(例えば、紡糸液中に含有するスルホ基を有するフッ素系樹脂、無水マレイン酸コポリマーおよび/またはマレイン酸コポリマー、その他の樹脂)の種類、それらの純度や固形分濃度、紡糸液中における各混合比率が判明している場合には、当該紡糸液中に含有されている各樹脂の種類とその混合比率が、繊維シートの構成繊維に含まれている樹脂の種類とその混合比率であると判断できる。
【0041】
なお、無水マレイン酸コポリマーが含有されている紡糸液を用いて繊維シートを調製した場合、紡糸工程中や乾燥工程中に、無水マレイン酸コポリマーにおける2価のカルボン酸が脱水縮合している化学構造部分が開裂して、無水マレイン酸コポリマーが2価のカルボン酸を有する化学構造部分を備えるコポリマー(例えば、マレイン酸コポリマー)に変化する場合がある。この場合であっても、紡糸液中に含まれているスルホ基を有するフッ素系樹脂のモル当量と、無水マレイン酸コポリマーおよび/またはマレイン酸コポリマーのモル当量との比率(モル当量での混合比率)が、繊維シートの構成繊維に含まれているスルホ基を有するフッ素系樹脂のモル当量と、無水マレイン酸コポリマーおよび/またはマレイン酸コポリマーならびに無水マレイン酸コポリマーにおける2価のカルボン酸が脱水縮合している化学構造部分が開裂してなるコポリマーのモル当量との比率(構成繊維に含まれているモル当量比率)であると判断できる。
【0042】
繊維シートの構成繊維は、産業資材の用途や要求物性などにより、必要に応じて添加剤を含有していても良い。添加剤の種類として、例えば、難燃剤、香料、顔料(無機顔料および/または有機系顔料)、抗菌剤、抗黴材、光触媒粒子、導電性粒子、乳化剤、分散剤、増粘剤、消泡剤、架橋剤、硬化促進剤などを挙げることができる。
【0043】
また、繊維シートは上述した他の樹脂からなる繊維を含んでいてもよい。繊維シートの構成繊維に占める、スルホ基を有するフッ素系樹脂と無水マレイン酸コポリマーおよび/またはマレイン酸コポリマーとを含有した繊維と、それ以外の繊維の質量比率は、産業資材の用途や要求物性などによって適宜調整できるものであるが、産業資材用途に広く活用可能な繊維シートを提供できるよう、スルホ基を有するフッ素系樹脂と無水マレイン酸コポリマーおよび/またはマレイン酸コポリマーとを含有した繊維のみで構成された繊維シートであるのが好ましい。
【0044】
繊維シートに含まれている繊維の平均繊維径や、繊維シートに含まれている繊維の平均繊維長は、産業資材の用途や要求物性などによって適宜調整できる。
【0045】
その平均繊維径が細いほど、表面積が大きいことに伴うイオン交換能の向上効果が発揮されると共に、分離性能、液体保持性能、払拭性能、隠蔽性能、絶縁性能、或いは柔軟性など、様々な性能に優れる繊維シートを提供できる。そのため、平均繊維径は3μm以下であるのが好ましく、2μm以下であるのが好ましく、1μm以下であるのが好ましく、800nm以下であるのが好ましい。なお、平均繊維径の下限値は適宜調整するものであるが、1nm以上であるのが現実的であり、100nm以上であるのが好ましい。ここでいう「平均繊維径」は、繊維を含む測定対象部分を撮影した5000倍の電子顕微鏡写真をもとに測定した、50点の繊維における各繊維径の算術平均値をいう。繊維の断面形状が非円形である場合には、断面積と同じ面積の円の直径を繊維径とみなす。
【0046】
繊維長は適宜調整でき、具体的に、短繊維や長繊維あるいは連続長を有する繊維であることができる。特に、繊維シートにおける繊維端部の数が少なくなることで、表面が平滑となり広く産業資材の用途に採用できることから、繊維シートを構成する繊維は連続長を有する繊維を含んでいるのが好ましく、繊維シートを構成する繊維は連続長を有する繊維のみであるのが好ましい。
【0047】
本発明でいう繊維シートとは、上述した繊維を構成繊維として含んでいるシート状の繊維構造体を指し、例えば、繊維ウェブや不織布、あるいは、織物や編物などであることができる。特に、表面積や空隙率が大きく柔軟性に優れるなどの諸特性に優れ、繊維がランダムに含有してなる構造であることによって、剛性や補強性などが効率良く発揮されることから、繊維シートは繊維ウェブや不織布であるのが最も好ましい。
【0048】
繊維シートの目付や厚さなどは産業資材の用途や要求物性などによって適宜調整できる。その目付は0.1~20g/m2であることができ、0.5~15g/m2であることができ、1~10g/m2であることができる。そして、その厚みは100μm以下であるのが好ましく、75μm以下であるのが好ましく、50μm以下であるのが好ましい。一方、厚みは1μm以上であるのが現実的である。なお、本発明において、目付とは測定対象物の主面における1m2あたりに換算した質量をいい、厚みとは、シックネスゲージ((株)ミツトヨ製、コードNo.:547-401、測定力3.5N以下)を用いて測定した値を意味する。
【0049】
また、本発明の繊維シートに対し必要であれば、繊維交点を接着するためや添加剤を担持するため、バインダを付与してもよい。なお、バインダの組成やバインダの付与方法については、適宜調整できる。
【0050】
次いで、本発明にかかる繊維シートの製造方法について、例示し説明する。なお、すでに説明した項目と構成を同じくする点については説明を省略する。
【0051】
繊維シートの調製方法は適宜選択できるが、例えば、静電紡糸法、特開2009-287138号公報に開示されているようなガスの作用により紡糸する方法、特開2011-32593号公報に開示されているような電界の作用に加えてガスの剪断力を作用させて紡糸する方法、遠心紡糸法などを用いることができる。そして、これらの調製方法を用いて紡糸液を細径化させるとともに繊維化して、例えばネットあるいはドラムやベルトコンベアなどの捕集体上に捕集することで、捕集体上に繊維ウェブを形成できる。
【0052】
これらの中でも静電紡糸法や、特開2009-287138号公報に開示されているようなガスの剪断作用により紡糸する方法を用いることで、平均繊維径が3μm以下の極細繊維を紡糸しやすく、繊維径が揃っており、しかも連続長の極細繊維のみからなる繊維シートを調製しやすいため好適である。
【0053】
本発明にかかる繊維シートの好適な製造方法として、スルホ基を有するフッ素系樹脂と、無水マレイン酸コポリマーおよび/またはマレイン酸コポリマーを含有した紡糸液(溶液や分散液、あるいは、樹脂が融解してなる液)を用意する。そして、静電紡糸法へ供するなどして紡糸液を細径化して繊維を調製すると共に、当該繊維を捕集して繊維ウェブなどの繊維シートを調製できる。
【0054】
溶液や分散液を含有する紡糸液を用いて繊維シートを調製した場合、調製した繊維シートから残留している溶媒や分散液を除去するため、繊維シートを加熱処理へ供してもよい。加熱処理の種類は適宜選択でき、例えば、ロールにより加熱または加熱加圧する装置、オーブンドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機、熱風乾燥機、赤外線を照射し加熱できる装置などを用いた処理を採用できる。加熱装置による加熱温度は適宜選択するが、溶液や分散液を揮発あるいは分解し揮発させ除去可能であると共に、構成繊維などの構成成分が意図せず分解や変性しない温度であるように適宜調整する。具体例として、80~300℃の範囲であることができる。
【0055】
また、上述のようにして調製した繊維シートを、水などに浸漬することで、構成繊維中に残留している溶液や分散液を溶出させることで除去してもよい。
【0056】
なお、上述の加熱処理によって、あるいは、架橋剤などの添加剤と反応させることで、繊維の構成成分の耐熱性を向上させる、および/または、不溶化させるなどして、繊維の物性を向上させてもよい。
更に、上述のようにして調製した繊維シートを、表面を平滑とするためカレンダー処理など加圧処理する工程へ供してもよい。
また、プラズマ処理やスルホン化処理あるいはフッ素化処理などの表面改質処理、帯電処理を施した繊維シートを調製してもよい。
【0057】
調製した繊維シートは、そのまま様々な産業資材用途に使用してもよいが、膜構成樹脂中に繊維シートを含んでいる複合膜を調製する工程、あるいは、別の多孔体、フィルム、発泡体などの構成部材を積層して積層体を調製する工程、用途や使用態様に合わせて成形処理や形状を打ち抜くなど加工する工程などの各種二次工程を経て、様々な産業資材用途に使用してもよい。
【実施例】
【0058】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0059】
(紡糸液の調製方法)
スルホ基を有するフッ素系樹脂のアルコール分散液(富士フイルムワコーケミカル(株)、品番:20%ナフィオン分散溶液DE2020CS、固形分濃度:20質量%)を用意した。
次いで、無水マレイン酸コポリマー(ISP社製、GANTREZ(登録商標)、品番:AN139、分子量:Mw=1,080,000)をイオン交換水に溶解して、無水マレイン酸コポリマー水溶液(固形分濃度:20質量%)を用意した。
最終的に調製される不織布の構成繊維に含有されている、スルホ基を有するフッ素系樹脂と、無水マレイン酸コポリマーおよび/またはマレイン酸コポリマーの固形分の含有比率が、表1の「質量比率」欄および「モル当量比率」欄に記載されている含有比率となるように、上述のようにして調製した無水マレイン酸コポリマー水溶液とナフィオン分散溶液を各々混合することで、混合比率が異なる各種紡糸液を調製した。
【0060】
(静電紡糸条件および不織布の製造方法)
内径が0.33mmの金属製のノズルに、アース処理されたパワーサプライを接続した。ノズル先端部の開口と対面するように、アース処理された捕集体(金属板)を設けた。この時、ノズル先端部と捕集体との最短距離が、3~10cmとなるように調整した。ノズルをパワーサプライにより15~27.5kVとなるように印加して、ノズルと捕集体の間に電界を形成した。
ノズルの開口から吐出される紡糸液の量が1cc/時間となるように調整し、紡糸液を電界に導いて、紡糸液をノズル先端部の開口から捕集体へと飛翔させると共に細径化させ、繊維化して捕集体上に捕集し繊維ウェブを調製することを試みた。なお、本工程における紡糸環境は、温度25℃、湿度40%RHに調整した。
その後、調製された繊維ウェブを捕集体から剥がし、180℃で30分間加熱処理することで構成繊維中に残留している溶媒および分散媒を揮発させて除去し、不織布(目付:5g/m2、厚さ:20μm)を調製した。
【0061】
以上のようにして調製した実施例および比較例について、紡糸液に含有されているスルホ基を有するフッ素系樹脂の固形分質量(A)と、無水マレイン酸コポリマーおよび/またはマレイン酸コポリマーの固形分質量(B)の質量比率を、表中の「混合質量比率」欄に記載した。また、繊維シートの構成繊維に占めるスルホ基を有するフッ素系樹脂のモル当量(a)と、無水マレイン酸コポリマーおよび/またはマレイン酸コポリマーのモル当量(b)の比率を、表中の「モル当量比率」欄に記載した。
【0062】
そして、以上のようにして調製した実施例および比較例について、不織布の平均繊維径を測定し表中に記載した。なお、比較例1では、スルホ基を有するフッ素系樹脂のアルコール分散液のみを紡糸液として用いて、繊維シートを製造することを試みたが、紡糸液を細径化して繊維を調製する(紡糸する)ことができず、不織布を製造できなかった。紡糸できなかったために測定できなかった項目については、表中に「×」印を記載した。
【0063】
【0064】
各実施例のうち、実施例1の不織布は構成繊維に含有されているスルホ基を有するフッ素系樹脂の含有比率が高いことから、他の実施例よりもイオン交換能に優れると共に、無水マレイン酸コポリマーおよび/またはマレイン酸コポリマーを含有しており、平均繊維径が細い不織布であった。
また、各実施例のうち、実施例4の不織布は構成繊維に含有されているスルホ基を有するフッ素系樹脂の含有比率が低いことから、他の実施例よりはイオン交換能が低いと考えられるものの、イオン交換能に優れる無水マレイン酸コポリマーおよび/またはマレイン酸コポリマーを含有しているため、従来技術にかかる繊維シートよりも、イオン交換能が大きく低下するのが防止されたイオン交換能に優れる不織布であると考えられた。そして、平均繊維径が細い不織布であった。
【0065】
以上の結果から本発明によって、スルホ基を有するフッ素系樹脂の含有比率に対する無水マレイン酸コポリマーおよび/またはマレイン酸コポリマーの含有比率が、低い場合であっても高い場合であっても、繊維径の細さとイオン交換能を両立可能な、産業資材用途に広く活用可能な繊維シートを提供できることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の繊維シートは、様々な産業資材用途(例えば、水処理膜などの液体分離膜や気体分離膜、医療用材料、イオン交換膜や透析膜、燃料電池の高分子電解質膜などといった様々な産業用途に使用可能な複合膜の支持体として、あるいは、キャパシタや一次/二次電池などの電気化学素子用セパレータ、プリプレグ、気体フィルタや液体フィルタ、触媒担持材、金属回収材、脱塩材、脱色材、脱水材など)に使用できる。