(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】幹細胞由来ミエロイド細胞、その生成および使用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/078 20100101AFI20231013BHJP
C12P 21/00 20060101ALI20231013BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20231013BHJP
【FI】
C12N5/078
C12P21/00 C
C12P21/00 H
C12N15/09 Z
(21)【出願番号】P 2019560351
(86)(22)【出願日】2018-05-04
(86)【国際出願番号】 EP2018061574
(87)【国際公開番号】W WO2018202881
(87)【国際公開日】2018-11-08
【審査請求日】2021-04-23
(32)【優先日】2017-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515195668
【氏名又は名称】メディツィーニシェ・ホーホシューレ・ハノーファー
【氏名又は名称原語表記】Medizinische Hochschule Hannover
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】ニコ・ラハマン
(72)【発明者】
【氏名】マニア・アッカーマン
(72)【発明者】
【氏名】ヘニング・ケンプフ
(72)【発明者】
【氏名】ロベルト・ツヴァイゲルト
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・モリッツ
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102329769(CN,A)
【文献】Stem Cell Reports,2015年02月10日,Vol.4, No.2,pp.282-296
【文献】Stem Cell Res. Ther. ,2013年06月18日,Vol.4, No.3, 71,pp.1-11
【文献】Cytotechnology,2016年08月,Vol.68, No.4,pp.969-978
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00- 7/08
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミエロイド細胞を産生する方法であって、方法が、
a)IL-3の存在下で、ミエロイド細胞形成複合体を産生するのに十分な期間にわたり、胚様体を懸濁培養下で培養する工程と、
b)IL-3の存在下で、ミエロイド細胞を産生するのに十分な期間にわたり、前記ミエロイド細胞形成複合体を懸濁培養下で培養する工程と、
c)前記ミエロイド細胞を単離する工程と
を含み、懸濁培養が、細胞の接着または沈降を防止するために動かされる、方法。
【請求項2】
工程a)の培養が、少なくとも1種の更なるサイトカインの存在下で実行され、および/または
工程b)の培養が、少なくとも1種の更なるサイトカインの存在下で実行される、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記胚様体が、多能性幹細胞から誘導される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記多能性幹細胞が、誘導多能性幹細胞である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記胚様体が、胚様体を産生するのに十分な期間にわたり、多能性幹細胞を懸濁培養下で培養することを含む方法によって取得される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記懸濁培養が、撹拌タンクバイオリアクター、エルレンマイヤーフラスコ、スピナーフラスコ、ウェーブバイオリアクター、および回転壁バイオリアクターを含む群から選択される、懸濁培養を可能にするバイオリアクターにおいて実行される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記懸濁培養を可能にするバイオリアクターが、撹拌タンクバイオリアクターである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞がヒト細胞である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
a)前記更なるサイトカインが、M-CSFであり、前記産生されるミエロイド細胞が、マクロファージであるか、または
b)前記更なるサイトカインが、G-CSFであり、前記産生されるミエロイド細胞が、顆粒球であるか、または
c)前記更なるサイトカインが、GM-CSFであり、前記産生されるミエロイド細胞が、マクロファージおよび顆粒球であるか、または
d)前記更なるサイトカインが、SCFおよびEPOであり、前記産生されるミエロイド細胞が、赤血球細胞であるか、または
e)前記更なるサイトカインが、SCFおよびTPOであり、前記産生されるミエロイド細胞が、巨核球および/もしくは血小板であるか、または
f)前記更なるサイトカインが、GM-CSFおよびIL-4であり、前記産生されるミエロイド細胞が、樹状細胞であるか、または
g)IL-3に対する更なるサイトカインがなく、前記産生されるミエロイド細胞が、更なる分化ができる未熟細胞である、
請求項2から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
g)において、前記方法が、
i)マクロファージが取得されるまで、M-CSFの存在下で前記未熟細胞を培養すること、または
ii)顆粒球が取得されるまで、G-CSFの存在下で前記未熟細胞を培養すること、
iii)顆粒球およびマクロファージが取得されるまで、GM-CSFの存在下で前記未熟細胞を培養すること、
iv)赤血球細胞が取得されるまで、SCFおよびEPOの存在下で前記未熟細胞を培養すること、
v)巨核球および/または血小板が取得されるまで、SCFおよびTPOの存在下で前記未熟細胞を培養すること
を更に含み、前記更なるサイトカインが、M-CSFであり、前記産生されるミエロイド細胞が、マクロファージである、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記方法が、前記ミエロイド細胞の連続産生を可能にする、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
単離が、前記産生されるミエロイド細胞を、少なくとも50%の純度まで精製することを含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記方法が、工程cの後に、
・前記ミエロイド細胞を高張液と接触させること、および凍結乾燥を含む群から選択される方法により、前記細胞のサイズを低減させること、ならびに/または
・前記ミエロイド細胞に、抗生剤、免疫調整剤、および色素を含む群から選択される治療剤または診断剤を負荷すること
を更に含む、
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
タンパク質を調製する方法であって、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法を実行することと、前記胚様体、前記ミエロイド細胞形成複合体、および/または前記ミエロイド細胞によって産生されたタンパク質を単離することとを含む、方法。
【請求項15】
前記タンパク質が、サイトカイン、ケモカイン、成長因子、S100タンパク質、および組換えタンパク質を含む群から選択される、細胞培養培地中に分泌されるタンパク質である、請求項1
4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞由来造血細胞、特にミエロイド細胞、好ましくはマクロファージ、それらの生成および使用に関する。特に、本発明は、造血細胞、好ましくはミエロイド細胞を産生する方法であって、例えば、誘導多能性幹細胞(iPSC)などの多能性幹細胞から誘導可能である胚様体を、懸濁培養(suspension culture)下で培養して、ミエロイド細胞形成複合体(myeloid cell forming complex)を産生し、これを懸濁培養下で更に培養して、マクロファージなどのミエロイド細胞を、好ましくは連続的様式において産生することを含む、方法に関する。これにより、例えば、産業適合性のある撹拌タンクバイオリアクターにおける、スケーラブルかつ連続的な産生が可能になる。マクロファージ、例えば、本方法を用いて産生された独特の特徴を有するマクロファージは、患者の処置のための、例えば、細菌感染などの感染の処置のための医薬組成物において使用され得る。本発明は、感染、例えば細菌感染、または創傷治癒のための患者の処置において使用するための、マクロファージなどのミエロイド細胞を含む、噴霧に好適な適用システムを更に提供する。例えば、細胞を高張液と接触させることによって取得可能な、低減されたサイズ、例えば低減された容量を有する収縮した細胞を含む医薬組成物も提供され、これは、例えばマクロファージの、噴霧適用に特に有用であり、低減された容量を有する細胞は、肺内に投与される。
【背景技術】
【0002】
多剤耐性病原体への重度感染の数の世界的な増加は、代替治療の選択肢に対する必要性を強調している。それぞれの病原体が、多くの場合、標準的な抗生物質療法に対して不応性であるだけでなく、最終手段の薬物に対しても耐性があるという事実は、深刻な臨床的問題をもたらす。よって、細菌感染を標的とする代替的な戦略が至急必要とされている(Freire-Moran et al., 2011、Ventola, 2015、Willyard, 2017)。
【0003】
抗生物質療法に対する1つの有望な代替物は、幹細胞由来免疫細胞、特に貪食細胞を自然免疫系の重要な構成要素として適用する、細胞に基づく処置アプローチであり得る。しかしながら、これまでのところ、治療的に必要とされる量の貪食細胞を末梢血または他の供給源から生成することは困難である。体細胞源およびより特定化された成体造血幹細胞とは対照的に、増殖および分化に関する無限の可能性をもつヒト多能性幹細胞(hPSC)は、この治療的シナリオを原理上は可能にし得る。この道筋に沿って、ヒトPSCの血球分化は実現可能であることが証明されており(Ackermann et al., 2015)、将来の細胞に基づく処置アプローチのための有望な戦略として提唱されている。しかしながら、hPSC由来の造血の臨床応用は、インビボ(in vivo)の機能性に関する知識の不足および治療的に意義のある量のエフェクター細胞の欠如により、未だ阻まれている。
【0004】
本発明者らは近年、無制限の増殖および標的を定めた分化に関するヒトの胚性幹細胞(hESC)および誘導多能性幹細胞(hiPSC)の可能性が理論的特色であるだけでなく、完全に制御された撹拌タンクバイオリアクターにおけるスケーラブルかつ潜在的にGMPに準拠する細胞産生プロセスを開発することによって応用され得る(Kempf et al., 2015、Kropp et al., 2016a、Zweigerdt et al., 2011)ことを示している。このアプローチの実現可能性は、hPSC拡大(Kropp et al., 2016b、Olmer et al., 2012)および撹拌懸濁液における心筋形成分化(Kempf et al., 2016、Kempf et al., 2015、Kempf et al., 2014)については実証されたものの、複能性または多能性の幹細胞源から造血細胞を生成するためのバイオリアクターシステムの首尾よい使用は、未だ実現困難である。PSC由来造血細胞のインビボでの適用性についても、同様の観察がなされている。貪食細胞を含む成熟免疫細胞のヒトPSCからの生成は証明されているが(Buchrieser et al., 2017、Lachmann et al., 2015、van Wilgenburg et al., 2013、Zhang et al., 2015)、それらの実際のインビボ機能性に関するデータは、これまでのところ、未だ不足している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術の現状に鑑み、本発明者らは、造血細胞、特にミエロイド細胞を大量に産生する、好ましくは連続産生を可能にする方法を提供するという問題に対処した。この問題は、本発明によって、特に特許請求の範囲の主題によって解決される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
したがって、本発明は、造血細胞、特にミエロイド細胞を産生する方法であって、
a)IL-3と、適宜、少なくとも1種の更なるサイトカインとの存在下で、ミエロイド細胞形成複合体を産生するのに十分な期間にわたり、胚様体を懸濁培養下で培養するステップと、
b)IL-3と、適宜、少なくとも1種の更なるサイトカインとの存在下で、ミエロイド細胞を産生するのに十分な期間にわたり、ミエロイド細胞形成複合体を懸濁培養下で培養するステップと、
c)ミエロイド細胞を単離するステップと
を含む、方法を提供する。
【0007】
当該方法は、連続産生を可能にし、好ましくは、ミエロイド細胞の連続産生のために使用される。
【0008】
胚様体(EB)は、典型的に丸みを帯びており、3つすべての胚葉の細胞型を含む、多能性幹細胞(PSC)から誘導される立体的な凝集物である。PSCは、特殊化細胞に分化することができる未分化細胞であり、特に、好適な条件下で3つすべての胚葉の細胞に分化することができる。胚様体の誘導源となり得る多能性細胞型としては、例えば、マウス(mESC)、霊長類動物、およびヒト(hESC)源に由来する、胚盤胞期の胚から誘導される胚性幹細胞(ESC)が挙げられる。
【0009】
更に、EBは、体細胞核移植または誘導多能性幹細胞(iPSC)をもたらす体細胞の初期化を含む代替的技術によって誘導されるPSCから形成され得る。EBを生成するための方法は、当技術分野において周知である。
【0010】
本発明との関連において、EBは、好ましくは、生成のためにヒト胚の破壊が必要とされた幹細胞から誘導されない。好ましくは、EBは、iPSCから誘導される。
【0011】
単層形式で分化した幹細胞と同様に、胚様体内の幹細胞は、すべての体細胞型を含む3つの生殖系列(内胚葉、外胚葉、および中胚葉)に沿った分化および細胞特定化を経る。
【0012】
しかしながら、単層分化培養とは対照的に、PSCが凝集するときに形成される球状体の構造は、懸濁下におけるEBの非接着性培養を可能にする。これにより、EB培養が本質的にスケーラブルになり、これは、潜在的な臨床適用のために高い収量の細胞が産生され得るバイオプロセスアプローチのために有用である。更に、EBは主に分化細胞型の不均一なパターンを呈するが、胚発生を指示するものと同様の合図に応答することができる。
【0013】
幹細胞は単細胞として培養するとアポトーシスを受ける場合があるため、EB形成は、rho関連キナーゼ(ROCK)経路の阻害剤、例えば、Y-27632、HA-100、H-1152、および/または2,4二置換チアゾール(チアゾビビン/Tzv)、好ましくはY-27632の、例えば、約10μMでの使用を必要とすることが多い。代替的に、単細胞への解離を回避するために、接着性コロニー(またはコロニーの領域)の手作業による分離により、または好ましくは、コラゲナーゼIVを用いた酵素処理により、hiPSCなどのPSCからEBを形成し、その後、懸濁培養してもよい。懸濁下におけるEBの形成は、大量のEBの形成を可能にするが、結果として得られる凝集物のサイズはほとんど制御できず、多くの場合、大きく不規則な形状のEBがもたらされる。ESCがバルク懸濁液中に播種される場合、混合[または動的(moved)、例えば、撹拌または振盪]培養プラットフォームは、EBサイズの均一性を増加させる。
【0014】
好ましくは、本発明の胚様体は、胚様体を産生するのに十分な期間にわたり、iPSCなどの多能性幹細胞を懸濁培養下で培養することを含む方法によって取得される。治療的使用、特に、ヒトにおける使用では、フィーダー細胞の使用は避けるべきである。これは、サイトカイン、例えばSCF、BMP4、VEGF、またはCHIR99021[(6-[[2-[[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(5-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)-2-ピリミジニル]アミノ]エチル]アミノ]-3-ピリジンカルボニトリル(TOCRIS)]およびBIO[(2’Z,3’E)-6-ブロモインジルビン-3’-オキシム)(TOCRIS)]などのWNT経路調整剤を含む小分子を添加することによって補償され得る。好ましくは、培養条件は、ROCK阻害剤の使用を含むが、bFGFの添加は必要とされない。
【0015】
本発明の方法において使用するための好適な胚様体は、手作業で選択され得るが、好ましくは、それらの沈降特性に従って選択される。例えば、10分以内、好ましくは5分以内に沈降する(遠心分離なし)EBが使用され得る(WO2010/025776A1)。
【0016】
EBの誘導源となり、結果的に産生されるミエロイド細胞が属する多能性幹細胞は、任意の種、例えば、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ネコ、ウマ、イヌ、ウシ、ラクダ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、サル、または霊長類動物、例えば、ヒトに由来し得る。ヒト細胞が好ましい。細胞がヒトの処置を目的とする場合、ヒトミエロイド細胞、例えばマクロファージが好ましくは産生される。本発明の方法において、好ましくは、関連する種に由来するサイトカインが使用される。これらは、組換えサイトカインであってよく、関与する分化プロセスにおけるそれらの機能性を減少させない突然変異を含んでいてもよい。
【0017】
本発明の懸濁培養物は、表面への、特に容器の表面への接着を防止する。懸濁培養物は、担体への接着を可能にすることもない。好ましくは、懸濁培養物は、細胞の接着または沈降を防止するために動かされる、例えば、振盪、回転、または撹拌される。培養は、懸濁プレートにおいて、例えば、オービタルシェーカー上で、または接着を防止するためにコーティングされたローラーボトルにおいて行なわれ得る。
【0018】
好ましい一実施形態において、懸濁培養は、懸濁培養を可能にするバイオリアクター、例えばエルレンマイヤーフラスコ、スピナーフラスコ、撹拌タンクバイオリアクター、ウェーブバイオリアクター、および回転壁バイオリアクターなどにおいて、優先的には撹拌タンクバイオリアクターにおいて、最も好ましくは計装型(instrumented)撹拌タンクバイオリアクター、すなわち、pH、pO2、温度、および撹拌速度などのプロセスパラメータをモニタリングし制御するための技術を備えたバイオリアクターにおいて実行される。そのようなシステムは、スケーラブルである。すなわち、培養条件を著しく変更することなく、培養物の容量を変更することができる。例えば、以下に記載するように、DASbox Miniバイオリアクターシステム(Eppendorf)が使用され得る。
【0019】
産業的プロセスとの適合性については、相対的線形アップスケーリングがおそらく最も重要な判断基準である。好ましいシステムは、他の目的のために当業界において既に利用されている場合があり、業界標準を満たし得る。例えばそれらは、プロセスのモニタリングおよび制御、ならびに確立された滅菌法および計器検証手順のための標準的なプローブの組込みを可能にする標準的なポートを備えていてよい。バイオリアクターは、GMPに適合するものであり得る。
【0020】
本発明において使用されるバイオリアクター、例えば、撹拌タンクバイオリアクターは、細胞、特に単球およびマクロファージの連続的なサンプリング、モニタリング、および採取を可能にするポートを備えていてよい。それらはまた、灌流に基づく細胞供給、ならびに代謝物、例えばグルコース、乳酸、およびアンモニウムなどの培養培地成分のオンラインモニタリングを可能にする、好適な細胞保持システムを備えていてもよい。バイオリアクターは、ガラス、プラスチック、またはステンレス鋼の容器を利用した、単回使用(使い捨て)または再使用可能なバイオリアクターであり得る。
【0021】
好ましくは、撹拌タンクバイオリアクターにおける培養は、約21%のO2、約5%のCO2を用いた約3L/時におけるヘッドスペースガス供給、および多翼(例えば、4~12翼)式の傾斜羽根車を使用した約50回転毎分での撹拌を用いて、約37℃で実行される。本発明との関連において、「約」は、+/-10%、好ましくは、+/-5%または+/-2%を意味する。
【0022】
培養は、21%のO2、5%のCO2を用いた3L/時におけるヘッドスペースガス供給、および8翼式の傾斜した60℃羽根車を使用した50回転毎分での撹拌を用いて、37℃で行なってもよく、溶存酸素、pH、温度、およびインピーダンスに基づくバイオマス評価のリアルタイムモニタリングを行なってもよい。
【0023】
好ましくは、本発明の方法は、反復バッチ法を含む、ミエロイド細胞の連続産生を可能にする。厳密な意味での(strictu sensu)連続産生も可能であり、より効果的な細胞産生を可能にし得る。例えば、灌流を可能にする細胞保持システムを連続的な培地交換と組み合わせて使用して、培養条件を最適化することができる。
【0024】
例えば撹拌タンクバイオリアクターにおける、懸濁培養の容量は、スケーラブルであり、例えば、50mL~1000L、100mL~500L、200mL~100L、500mL~50L、または1L~20Lである。好ましくは、特に、産生された細胞の治療的適用に関して、培養に使用される培地は、ヒトにおける適用に適合する化学的に定義された培地、例えば、X-VIVO 15(Lonza)またはAPEL(Stem Cell Technologies)、好ましくは、X-VIVO 15である。好ましくはROCK阻害剤が補充された、E850またはE6培地(Stem Cell Technologies)を、ステップaの懸濁培養のために使用してもよい。ミエロイド細胞形成複合体(MCFC)は、当技術分野において公知である(Lachmann et al., 2015)。それらは、CD34+クローン原性前駆細胞を含有する。それらは、ミエロイド細胞を連続的に産生することができる。IL-3の存在下で、ミエロイド細胞は、培養培地中に送達される。注目すべきことに、本発明の方法は、MCFCの精製をまったく必要とせず、ステップa)においてMCFCが形成され、これらがステップb)においてミエロイド細胞を産生することを必要とするのみである。ステップa)およびb)[更には、適宜c)]は重複してもよい。すなわち、更なるEBがMCFCに分化し、他のMCFCは既にミエロイド細胞(これらは既に単離されている場合がある)を産生することが可能である。
【0025】
EBからのMCFCの生成には、典型的に、約4~8日かかる。MCFCからの第1のミエロイド細胞の生成は、MCFCの形成後に開始し、その後、連続生成が観察される。典型的には、MCFCの生成から約3~16日後に採取が開始する。EBからのMCFCの産生およびミエロイド細胞の産生にかかる好適な合計時間[すなわち、ステップa)およびステップb)の合計時間]は、少なくとも約7日間、例えば、7~20日間である。本発明者らは、7~14日目以降、経時的に増加する収量を示す、撹拌バイオリアクターシステムからのマクロファージの少なくとも週1回の採取が可能であることを示すことができた。250mLのバイオリアクター(120mLの培養容量)において、約2~3×107マクロファージ/週の安定な産生が、早ければ3週目には可能であり、これは、少なくとも5週間にわたって経時的に維持され得る。当然ながら、培養の時間および条件は、所望の細胞の表現型に応じて異なってよい。例えば、連続的または短い間隔での採取は、成熟度の低い細胞の産生をもたらし得る。採取された細胞は、次いで、後述するように、適宜更なる成熟に供され得る。
【0026】
IL-3などのサイトカインの存在下での培養は、当該サイトカインの持続的な存在を必要としない。例えば、一定期間にわたってIL-3の非存在下で細胞を培養することが可能であるが、MCFCによるミエロイド細胞の分化、特に産生は、IL-3の存在を必要とする。IL-3の好適な量は、例えば、10~100ng/mL、好ましくは20~30ng/mL(最も好ましくは、約25ng/ml)のIL-3である。
【0027】
MCFCの形成のためには、分化培地I、例えば、塩基性培地、好ましくは、X-VIVO 15(Lonza)またはAPEL(Stem Cell Technologies)(いずれも例えばヒト細胞に好適である)などの化学的に定義された培地を使用してもよく、マクロファージが産生される場合、好適な量、例えば、10~100ng/mL、好ましくは20~30ng/mL(最も好ましくは約25ng/ml)のIL-3(例えば、PeproTechから取得可能)と、適宜、少なくとも1種の他のサイトカイン、例えば、40~60ng/ml(好ましくは約50ng/ml)のM-CSF(例えば、PeproTechから取得可能)とを更に含む、X-VIVO 15が好ましい。培地は、適宜、好適な量の抗生物質、例えば、1%のペニシリン-ストレプトマイシンを含んでもよい。
【0028】
産生される細胞がヒトにおいて使用するためのものでない場合、他の塩基性培地、例えば、マウス細胞の場合、10%のFCS、2mMのL-グルタミン、適宜、1%のペニシリン-ストレプトマイシン、および少なくとも1種のサイトカインが補充されたRPMI1640を使用してもよい。
【0029】
成熟した表現型を有するミエロイド細胞の産生のためには、本発明の方法の少なくともステップb)において、適宜、ステップa)においても、更なるサイトカインを添加してもよい。
【0030】
好ましい本発明の方法において、更なるサイトカインは、M-CSF(好適な濃度、例えば、40~60ng/mL、好ましくは約50ng/mLのM-CSF)であり、産生されるミエロイド細胞は、マクロファージである。
【0031】
代替的に、更なるサイトカインは、G-CSF(好適な濃度、例えば、40~60ng/mL、好ましくは約50ng/mLのG-CSF)であり、産生されるミエロイド細胞は、顆粒球前駆体であり、これは、G-CSFのみ(好適な濃度、例えば、50~200ng/mL、好ましくは約100ng/mLのG-CSF)において培養して、顆粒球に更に分化させることができる。
【0032】
代替的に、更なるサイトカインは、GM-CSF(好適な濃度、例えば、40~60ng/mL、好ましくは約50ng/mLのGM-CSF)であり、産生されるミエロイド細胞は、マクロファージおよび顆粒球前駆体であり、これは、GM-CSFのみ(好適な濃度、例えば、50~200ng/mL、好ましくは約100ng/mLのGM-CSF)において培養して、顆粒球に更に分化させることができる。
【0033】
更なるサイトカインがSCFおよびEPO[好適な濃度、例えば、80~120ng/mL、好ましくは約100ng/mLのSCF、および2~4単位(U)、好ましくは約3UのEPO]である場合、産生されるミエロイド細胞は、赤血球細胞を含み、これは、SCFおよびEPOのみ[好適な濃度、例えば、50~200ng/mLのSCF、好ましくは約100ng/mLのSCF、および2~4単位(U)のEPO、好ましくは約3UのEPO]において培養して、更に分化させることができる。
【0034】
生成される細胞型のスペクトルを樹状細胞または血小板に更に広げるため、他の系列指示性サイトカイン(lineage-instructive cytokine)を適用してもよい(Ackermann et al., 2015、Choi et al., 2009、Lachmann et al., 2015、Ma et al., 2008)。
【0035】
代替的に、更なるサイトカインは、IL-4およびGM-CSF(好適な濃度、例えば、40~60ng/mL、好ましくは約50ng/mLのGM-CSFおよびIL-4)であり、産生されるミエロイド細胞は、樹状細胞を含み、これは、GM-CSF/IL4のみ(好適な濃度、例えば、50~200ng/mL、好ましくは約100ng/mLのGM-CSF/IL4)において培養して、更に分化させることができる。
【0036】
更なるサイトカインは、SCFおよびTPO(好適な濃度、例えば、80~120ng/mL、好ましくは約100ng/mLのSCF、および2~4U、好ましくは約3UのTPO)であり、産生されるミエロイド細胞は、巨核球および/または血小板を含んでもよく、これは、SCF/TPOのみ[好適な濃度、例えば、50~200ng/mLのSCF、好ましくは約100ng/mLのSCF、および2~4単位(U)のTPO、好ましくは約3UのTPO]において培養して、更に分化させることができる。IL-3は、巨核球の成熟に対して負の効果を及ぼす可能性があるため、ステップa)後に低減させるか、または除いてもよい。
【0037】
本発明の方法の一実施形態において、IL-3に対する更なるサイトカインは、ステップa)またはステップb)のいずれにおいても添加されず、産生されるミエロイド細胞は、更なる分化ができる未熟ミエロイド細胞である。当該事例において、当該方法は、
i)マクロファージが取得されるまで、M-CSF(好適な濃度、例えば、40~100ng/mL、好ましくは約50ng/mLのM-CSF)の存在下で当該未熟細胞を培養すること、または
ii)顆粒球が取得されるまで、G-CSF(好適な濃度、例えば、40~120ng/mL、好ましくは約100ng/mLのG-CSF)の存在下で当該未熟細胞を培養すること、
iii)顆粒球およびマクロファージが取得されるまで、GM-CSF(好適な濃度、例えば、40~120ng/mL、好ましくは約100ng/mLのGM-CSF)の存在下で当該未熟細胞を培養すること、
iv)赤血球細胞が取得されるまで、SCFおよびEPO[好適な濃度、例えば、50~200ng/mLのSCF、好ましくは約100ng/mLのSCF、および2~4単位(U)のEPO、好ましくは約3UのEPO]の存在下で当該未熟細胞を培養すること、
v)巨核球および/または血小板が取得されるまで、SCFおよびTPO[好適な濃度、例えば、50~200ng/mLのSCF、好ましくは約100ng/mLのSCF、および2~4単位(U)のTPO、好ましくは約3UのTPO]の存在下で当該未熟細胞を培養すること、または
vi)樹状細胞が取得されるまで、GM-CSFおよびIL-4(好適な濃度、例えば、40~120ng/mL、好ましくは約100ng/mLのGM-CSF、および40~120ng/mLのIL-4、好ましくは約100ng/mLのIL-4)
を更に含んでもよい。
【0038】
GMPに準拠する培地では、懸濁培養に先行する単一iPSCの単層としての培養のための、5~200ng/mL、好ましくは50ng/mlのbFGFを含有する、ROCK阻害剤が補充されたE8培地(Stem Cell Technologies)、懸濁培養のための、ROCK阻害剤が補充されたE850またはE6培地(Stem Cell Technologies)、および、血球分化のための、適切なサイトカイン、例えば、50ng/mlのhVEGF、50ng/mlのhBMP4、および20ng/mlのhSCFが補充された[この後には(例えば、中胚葉のプライミングの4日目において)、25ng/mlのIL-3の添加が続き得る]X-VIVO15培地を使用し、良好な結果が見られている。プライミングされた凝集物の、例えばマクロファージ産生のための後続の血球分化は、25ng/mlのIL-3および50ng/mlのM-CSFが補充された3mlのX-VIVO15に培地を変えることによって遂行され得る。
【0039】
本発明の方法において、産生されたミエロイド細胞を単離することは、産生されたミエロイド細胞、好ましくはマクロファージを、少なくとも50%、または好ましくは、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の純度まで精製することを含む。本発明の方法が、マクロファージを産生するために、特に、IL-3およびM-CSFの存在下での培養を用いて実行される場合、CD45+CD11b+CD34-TRA-1-60-の発現プロファイルによって特徴付けられるミエロイド前駆体細胞の純度は、好ましくは、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%であり得る。産生される細胞のうち少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、または70~90%は、CD45+CD11b+CD34-TRA-1-60-CD14+/CD163+マクロファージである。一実施形態において、産生される細胞のうち少なくとも95%は、CD45+CD11b+CD34-TRA-1-60-であり、産生される細胞のうち70~90%は、CD45+CD11b+CD34-TRA-1-60-CD14+/CD163+である。他の細胞のほとんどは、マクロファージのミエロイド前駆体である。単離が連続的である場合、または採取がより短い間隔において実施される場合、前駆体の割合はより高くてもよい。
【0040】
本発明の方法において、産生されたミエロイド細胞(例えば、マクロファージ)を単離することは、例えば、バッチ連続法において、
ci)例えば、懸濁培養物の約5~12分間、好ましくは10分間にわたる沈降により[例えば、動き(例えば、撹拌)を一時的に停止させることにより]、懸濁培養物におけるMCFCの大多数の沈降を可能にすることと、
cii)上清を除去することと、
ciii)除去された上清を、メッシュが約70~100μmのフィルタによって濾過することと、
civ)適宜、残余分(主にMCFCを含む)を懸濁培養物に戻し、懸濁培養物の沈降した細胞に新しい培養培地を添加することと
を含んでもよく、
cv)産生されたミエロイド細胞は、濾液中に含まれる。産生されたミエロイド細胞は、沈降または遠心分離によって濾液から単離されてもよい。それらは次いで、患者への投与のために製剤化され、例えば、薬学的に許容される担体、例えば、PBSなどの緩衝液中に取り込まれてよい。それらは代替的に、例えば、懸濁培養下で、例えば、サイトカインまたは活性剤、例えば、IL-3、M-CSF、GM-CSF、TNF-アルファ、IFN-ガンマ、またはLPSを含む群から選択される活性化剤および/または成熟化剤の存在下で、更に培養され、後の投与のために製剤化されてよい。
【0041】
代替的に、単離のためには、約70~100μmのメッシュを有するフィルタを通して懸濁培養物から培地が除去されてもよく、ここで、産生されたマクロファージは、例えば遠心分離によって濾液から単離することができ、更なる成熟ありまたはなしで、投与のために製剤化してもよい。この単離手順は、産生される細胞のバッチ連続産生を可能にするように、時折、または連続的に実施されてよい。
【0042】
産生されたミエロイド細胞の単離のための更なる代替的方法は、分画遠心分離、または例えばスクロース勾配を用いる勾配遠心分離を含む。
【0043】
本発明の方法は、ステップcの後に、
・細胞を高張液と接触させること、および凍結乾燥を含む群から選択される方法により、ミエロイド細胞のサイズを低減させること、ならびに/または
・ミエロイド細胞に、抗生剤、免疫調整剤、および色素を含む群から選択される治療剤または診断剤を負荷すること
を更に含んでもよい。
【0044】
これらのステップのそれぞれ、または両方は、典型的に、マクロファージ、顆粒球、巨核球、血小板、または樹状細胞などのミエロイド細胞の単離および/または精製の後に実行される。好ましくは、ミエロイド細胞はマクロファージである。
【0045】
本発明との関連において、細胞、例えばミエロイド細胞を、高張液と接触させることを含む方法により、細胞のサイズを低減させることは、細胞の容量が低減されるように、緩衝液および/または細胞培養培地から典型的に実質的に単離された細胞を、300mosm超、例えば310~1000mosm、好ましくは350~800mosm、または400~600mosmの、例えば高張糖液(好ましくはスクロースを含むもの)を含む溶液と接触させることを意味する。ミエロイド細胞では、平均サイズ(例えば、平均容量)は典型的に、少なくとも10%、好ましくは、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、または少なくとも75%低減される。細胞のサイズ、例えば容量は、好ましくは、FACSにより、細胞の前方散乱[平均蛍光強度(MFI)]に基づいて判定される。代替的に、平均直径の低減は、顕微鏡観察および例えばImageJを用いたコンピュータ分析によって判定されてもよい。好ましくは、本発明によるサイズが低減されたマクロファージは、15μm未満、13μm未満、12μm未満、10μm未満、好ましくは、8μm未満、6μm未満、または4μm未満の平均直径を有する(例えば、ヒトマクロファージの場合)。比較のため、本発明の方法によって処置されていないヒト肺胞マクロファージは、約21μmの平均サイズを有することが見出されている(Krombach et al., 1997. Environ Health Perspect. 105:1261-1263)。好ましくは、本発明によるサイズが低減されたマウス初代マクロファージは、13μm未満、12μm未満、10μm未満、好ましくは8μm未満、6μm未満、または4μm未満の平均直径を有する。
【0046】
接触は、所望のサイズ低減を得るのに十分な時間にわたって、例えば、30秒間~24時間、1分間~12時間、好ましくは2分間~1時間、5~30分間、10~20分間、または約15分間にわたって実行される。必要とされる時間は、細胞型、および使用される溶液のオスモル濃度に応じる。温度は、典型的には4℃~37℃、例えば、室温(20~25℃)、好ましくは37℃に維持される。細胞の大多数、または好ましくは少なくとも80%の細胞の生存率が維持される。高張液との接触は、本発明の接触における細胞のサイズを低減させる好ましい方法である。代替的に、細胞のサイズは、例えば、凍結乾燥または細胞骨格(cytossceleton)の操作によって低減させることもできる。例えば凍結乾燥により、細胞の大多数の生存率を維持しながら細胞のサイズを低減させるための方法は、当技術分野において公知である。本発明者らは、驚くべきことに、一時的にサイズが低減された細胞、例えば、マクロファージなどのミエロイド細胞が機能的であり、医薬組成物において使用され得ることを見出した。
【0047】
そのような医薬組成物は、新しく調製されてもよいし、または、細胞の大多数、好ましくは少なくとも80%の細胞が生存可能である限り、保管されてもよい。高張液と接触している細胞の保管は、例えば、最長48時間、最長24時間、または一晩にわたってもよい。代替的に、細胞は、4℃における等張液中で最長12時間、最長24時間、または最長48時間にわたって保管され、適用前に高張液と共にインキュベートされてもよい。
【0048】
細胞、例えばミエロイド細胞、特に本発明のマクロファージを保管し、それらのサイズを低減させるためのキット、例えば、1つのチャンバに等張液中の細胞を含み、1つのチャンバに高張液を含み、2つの溶液の混合により、細胞が本明細書に定義される高張液と接触し、結果として細胞のサイズが低減されるような2チャンバシステムも、本明細書において提供される。キット内の細胞の無菌性は容易に保たれ得る。好ましくは、本キットは、細胞を噴霧するのに好適なデバイスに連結することができるか、または細胞を噴霧するためのデバイスの一部である。
【0049】
凍結乾燥によりサイズが低減された細胞は、適切に低い温度において、高張液中の細胞よりも長い期間にわたって保管され得る。凍結乾燥された細胞は、直接、またはそれらを高張液中に取り込んだ後に投与され得る。例えば、サイズが低減されたマクロファージは、粒子または細菌、例えばS.アウレウス(S.aureus)の食作用において活性であることが見出された。低減されたサイズは、気道内へのより深い浸透、および下気道内の細胞のより良好な分布をもたらす。本発明者らは、ラットから外植された組織を用いた実験において、本発明の収縮したマクロファージが噴霧によって肺胞腔に投与され得ることを示すことができた。よって、サイズが低減された細胞は、例えば気道内への噴霧、または、低減されたサイズがより良好な浸透または分布をもたらし得る他の用途、例えば、インビトロ(in vitro)の消毒用途、もしくは移植のためのデバイスのコーティングに特に好適である。
【0050】
好ましくは、高張液と接触させるのと同時に、細胞、例えばマクロファージに、治療剤または診断剤、好ましくは治療剤であり得る薬剤を負荷してもよい。当然ながら、2つ以上の薬剤の組み合わせを使用してもよい。薬剤は、外来性因子(exogenous agent)であり得る。外来性因子は、通常、本発明で使用される細胞において有意な量で見出されず、典型的に、ヒト細胞から誘導されず、ヒト細胞から誘導可能でなくてもよい。例示的な薬剤は、抗生剤または免疫調整剤である。
【0051】
細菌感染の処置との関連において、抗生剤の負荷が特に有用である。抗生剤の例は、マクロライド系抗生物質、例えばアジスロマイシン、クラリスロマイシン、エリスロマイシン、ベータ-ラクタム系抗生物質、例えばセファロスポリン、アモキシシリン、メチシリン、ペニシリン、もしくはフルクロキサシリン、クリンダマイシン、またはフルオロキノロン、例えばレボフロキサシン、モキシフロキサシン、ドキシサイクリン、もしくはテリスロマイシン、クラブラン酸、リファンピシン、またはゲンタマイシン、またはグリコペプチド系抗生物質、例えばバンコマイシンまたはテイコプラニン、好ましい親油性抗生物質である。その選択は、適応症、特に、処置され得る感染の原因である細菌に応じる。免疫調整剤、例えば、サイトカイン、ケモカイン、またはコルチコステロイドなどの免疫系の細胞を活性化もしくは阻害することができる薬剤を、例えば、炎症の場合に使用してもよい。細胞内に負荷された気管支痙攣解消剤(Bronchospasmolytics)は、気道を拡張する助けとなることができ、これにより、第1の用量が効力を生じるときに投与される第2の用量の細胞のより深い浸透が可能になり得る。分泌物溶解剤(Secretolytics)を細胞内に負荷してもよく、これは例えば、嚢胞性線維症の処置において使用するのに特に有用であり得る。
【0052】
細胞に対して、特にサイズが低減された細胞に対して負荷された色素は、細胞の浸透を確認するために、トレーサーとして、または診断用途のために好都合であり得る。例示的な色素は、蛍光色素、例えば、Dilである。
【0053】
細胞への負荷は、細胞を高張液と接触させる前に実施しても、または接触させることなく実施してもよい。低減されたサイズが大きな役割を果たさない細胞の適用、例えば、主に平面的な領域への、例えば創傷への適用については、典型的に、細胞のサイズは改変されない。
【0054】
当然ながら、細胞に薬剤を負荷することは、マクロファージ自体が既に効果的であり得るような用途には必要とされない。
【0055】
本発明は、造血細胞を連続的に産生するミエロイド細胞形成複合体と、適宜、ミエロイド細胞とを含む、懸濁培養物を提供する。当該懸濁培養物は、例えば、上記の本発明の方法から取得可能であり、ここで、産生されたミエロイド細胞の単離は可能だが、必須ではない。当該懸濁培養物は、好ましくは、例えば上述のような、撹拌タンクバイオリアクター内に含まれる。換言すると、本発明は、ミエロイド細胞を連続的に産生するミエロイド細胞形成複合体と、適宜、ミエロイド細胞とを含む、懸濁培養物を含む、撹拌タンクバイオリアクターを提供する。好ましくは、当該ミエロイド細胞は、マクロファージであり、培養培地は、IL-3およびM-CSFを含む。
【0056】
本発明は、本発明の方法によって取得可能な、造血細胞、好ましくはミエロイド細胞の集団も提供する。
【0057】
任意選択の実施形態において、当該ミエロイド細胞、例えばマクロファージのサイズは、細胞を高張液と接触させること、および凍結乾燥を含む群から選択される方法によって低減されている。細胞に、上述の治療剤または診断剤、例えば、抗生剤、免疫調整剤、および色素が更に負荷されていてもよい。よって、本発明は、生理学的条件下で培養された対応する細胞(特に、等張液に接触させていない細胞)と比較して細胞のサイズが低減されている、ミエロイド細胞の集団を提供する。ミエロイド細胞では、平均容量は典型的に、少なくとも10%、好ましくは、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、または少なくとも60%低減される。細胞のサイズまたは容量は、好ましくは、FACSにより、細胞の前方散乱に基づいて判定される。好ましくは、本発明によるサイズが低減されたマクロファージは、10μm未満、好ましくは8μm未満、6μm未満、または4μm未満の平均直径を有する。これらの細胞は、治療剤または診断剤、好ましくは治療剤を更に含み得る。細胞集団は、例えば、1×106個超のマクロファージ、少なくとも2×107個のマクロファージ、少なくとも5×107個のマクロファージ、少なくとも1×108個のマクロファージ、少なくとも1×109個のマクロファージ、または少なくとも1×1010個のマクロファージを含み得る。低減されたサイズを有する細胞は、後述するマーカープロファイルのうちのいずれを有してもよい。
【0058】
本発明の方法によって取得可能な細胞は、例えば、高張液に接触していない場合、未改変のサイズを有する場合もある。
【0059】
本発明は、例えば、CD45+CD11b+CD14+CD163+CD34-TRA1-60-マクロファージを含む細胞集団を提供し、好ましくは、当該細胞の少なくとも50%、少なくとも60%、または少なくとも70%が、例えば、本発明の方法によって取得可能である。多能性および自然免疫応答の活性化に関連する遺伝子の発現の分析により、iPSCのマクロファージ様細胞への効率的な分化が確認された。重要なことに、マクロファージ機能に関連する遺伝子、例えばtoll様受容体(TLR)1および4、CD14、またはNF-κBシグナル伝達経路の構成要素[遺伝子オントロジー(GO)自然免疫の活性化:0002218]は、iPSCと対比して、iPSC-MACおよびPBMC-MACにおいて有意に上方調節された。接着および機能の分析(例えば、ラテックスビーズおよび細菌の食作用性取り込み)の後の形態学的分析により、産生された細胞がマクロファージであることが確認される。本発明の方法は、1×106個超のマクロファージ、少なくとも2×107個のマクロファージ、少なくとも5×107個のマクロファージ、少なくとも1×108個のマクロファージ、少なくとも1×109個のマクロファージ、または少なくとも1×1010個のマクロファージを含む細胞集団を産生することを、初めて可能にする。
【0060】
本発明の方法から取得可能なマクロファージは、典型的に、PBMCから取得されるマクロファージよりも有意に高いCD14およびC163の表面発現量(FACSにより判定される)、ならびに有意に低いHLAの表面発現量を有する。実施例において産生されたマクロファージは、IL-6、IL-8、またはTNF-アルファなどの炎症促進性サイトカインを産生することが示された。したがって、それらは、抗炎症性マクロファージよりも炎症促進性マクロファージであると考えることができる。好適なサイトカイン、例えばIL-13、IL-10、IL-4の添加により、表現型を抗炎症性マクロファージに再指向することができる。加えて、他の物質、例えばコルチコステロイドを使用して、抗炎症性表現型を誘導してもよい。
【0061】
本発明者らは、例えば、本発明の方法から取得可能な、本発明のCD45+CD11b+CD14+CD163+CD34-TRA1-60-マクロファージが、従来技術の方法に従って単離されたマクロファージと比較して独特の発現プロファイルを有することを見出した。好ましくは、本発明のマクロファージにおいて、DKK1、SEPP1、PITX2、COL3A1、KRT19、A_33_P3221980、CALD1、CYR61、H19、DDIT4L、FRZB、TMEM98、NNMT、NPNT、LUM、DCN、LYVE1、MGP、IGFBP3、およびNUAK1からなる群から選択される少なくとも10種の遺伝子の発現が、当該マクロファージにおいて、PBMCから誘導されるマクロファージと比較して少なくとも20倍、好ましくは、少なくとも50倍、少なくとも200倍、少なくとも400倍、または少なくとも1000倍上方調節されている。DKK1、SEPP1、PITX2、COL3A1、KRT19、A_33_P3221980、CALD1、CYR61、H19、DDIT4L、FRZB、TMEM98、NNMT、NPNT、LUM、DCN、LYVE1、MGP、IGFBP3、およびNUAK1からなる群から選択される少なくとも12種の遺伝子、好ましくは少なくとも15種の遺伝子、またはすべての遺伝子の発現が、当該マクロファージにおいて、PBMCから誘導されるマクロファージと比較して少なくとも100倍、好ましくは、少なくとも200倍、少なくとも400倍、または少なくとも500倍上方調節されていてもよい。CYR61、DDIT4L、KRT19、DCN、LUM、COL3A1の発現は、当該マクロファージにおいて、PBMCから誘導されるマクロファージと比較して、少なくとも200倍、少なくとも500倍、または少なくとも1000倍上方調節されていてもよい。
【0062】
更に、本発明のマクロファージにおいて、ANPEP、CDA、CRTAM、ENST00000390237、FBP1、GBP1、GNLY、HLA_DQA1、HLA_DQA2、HLA_DQB1、HLA_DQB2、HLA_DRA、HLA_DRB1、HLA_DRB3、HLA_DRB4、HLA_DRB5、IL15、LY75、S1PR4、TNFAIP6からなる群から選択される少なくとも10種の遺伝子の発現が、当該マクロファージにおいて、PBMCから誘導されるマクロファージと比較して少なくとも20倍、好ましくは、少なくとも200倍、少なくとも400倍、少なくとも500倍、または少なくとも1000倍下方調節されていてもよい。当該群から選択される少なくとも10種、少なくとも12種、またはすべての遺伝子の発現が、当該マクロファージにおいて、PBMCから誘導されるマクロファージと比較して少なくとも100倍、好ましくは、少なくとも200倍、少なくとも400倍、少なくとも500倍、または少なくとも1000倍下方調節されていてもよい。
【0063】
典型的な発現プロファイルは、本明細書において、例えば、表1において開示される。この比較は、比較される細胞型のうちの1つにおいて事実上発現されない遺伝子に関して、特に高い差をもたらすことが認められる。その場合、遺伝子の発現における非常に小さな差ですら、比較発現率における高い差をもたらし得る。理論に束縛されることを意図するものではないが、懸濁培養におけるせん断応力が、産生されるミエロイド細胞における遺伝子の異なる発現をもたらすと考えられる。
【0064】
本発明は、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、または少なくとも70%の未熟CD45+CD11b+/CD14-/CD163-ミエロイド細胞を含む細胞集団も提供し、適宜、当該細胞集団は、本発明の方法によって取得可能である。当該未熟細胞は、そのCD45+CD11b+CD14-/CD163-/CD66b-/CD34dim/-の発現プロファイルのために独特である。
【0065】
本発明は、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、または少なくとも70%の顆粒球を含む細胞集団も提供し、適宜、当該細胞集団は、本発明の方法によって取得可能である。当該顆粒球は、その発現プロファイルのため、例えば、PBMCから単離された顆粒球よりも有意に少ないCD66bをその表面上で発現するため、独特である。当該顆粒球細胞は、そのCD45+CD11b+CD66bdim、CD16dimの発現プロファイルのために独特である。
【0066】
本発明は、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、または少なくとも70%の赤血球細胞を含む細胞集団も提供し、当該細胞集団は、本発明の方法によって取得可能である。当該細胞は、赤血球前駆体であると思われる。
【0067】
本発明は、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、または少なくとも30%の巨核球を含む細胞集団も提供し、当該細胞集団は、本発明の方法によって取得可能である。
【0068】
本発明は、少なくとも10%、好ましくは少なくとも15%、または少なくとも20%の樹状細胞を含む細胞集団も提供し、当該細胞集団は、本発明の方法によって取得可能である。
【0069】
そのような細胞集団は、例えば、当技術分野において公知の方法に従って、凍結され得る。それらは典型的に使用前に解凍される。例えば、1つまたは複数の培養物の異なるバッチから、1つまたは複数の時点において単離された集団は、より高い細胞数が必要な場合に組み合わせることができる。特に重要なのは、最適な治療用細胞型に向けた、要求に応じた後続の分化と組み合わせて、凍結され得るミエロイド前駆細胞集団を生成するためにIL3のみを用いる分化であり得る。
【0070】
本発明は、薬学的に許容される担体中に、本発明の細胞集団、好ましくは、本発明のマクロファージまたは未熟ミエロイド細胞を含む細胞集団、最も好ましくは、本明細書において特徴付けられるマクロファージを含む、医薬組成物も提供する。細胞集団は、本明細書に記載される本発明の方法から取得可能であり得る。
【0071】
好ましくは、細胞は、ヒト患者の処置を目的とするヒト細胞、最も好ましくは本発明のヒトマクロファージまたは未熟ミエロイド細胞、最も好ましくは、本明細書において特徴付けられるマクロファージである。
【0072】
薬学的に許容される担体は、典型的に緩衝液、例えば、PBS(約20%のヒト血清アルブミンが補充されたPBS/EDTA)、またはクエン酸血漿、またはPlasmalyte-A pH7.4(Baxter、約2%のヒトアルブミンが補充されたもの)である。これは、細胞の生存に適合する。生理学的レベルのNaClを含んでもよい。
【0073】
更なる実施形態において、本発明は、薬学的に許容される担体中に細胞集団を含む医薬組成物であって、集団における細胞の平均サイズが、生理食塩水溶液中の当該細胞の集団と比較して、例えば、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、または少なくとも60%低減されている、医薬組成物を提供する。当該細胞集団は、本明細書に記載されるミエロイド細胞、例えば、本明細書において特徴付けられる本発明の未熟ミエロイド細胞、マクロファージ、樹状細胞、好中球などの顆粒球、血小板、巨核球(megacaryocytes)または赤血球細胞、好ましくは、マクロファージまたは未熟ミエロイド細胞の集団であり得る。
【0074】
集団における細胞の平均サイズが低減されている細胞集団を含む医薬組成物との関連における薬学的に許容される担体は、例えば、糖および/または塩を含む高張液である。一実施形態において、未改変のサイズを有するマクロファージを含む本発明の医薬組成物は、医薬組成物を例えばアトマイザによって噴霧するのに好適な容器に含まれていてよい。
【0075】
別の実施形態では、本発明の医薬組成物は、本明細書に記載されるようにサイズが低減されたマクロファージを含み、かつ、医薬組成物を例えばアトマイザによって噴霧するのに好適な容器に含まれている。
【0076】
よって、本発明はまた、
a)薬学的に許容される担体中にマクロファージなどのミエロイド細胞を含む医薬組成物と、
b)医薬組成物を例えばアトマイザによって噴霧するのに好適な容器と
を備える、適用システムを(例えば、キットの形態で)提供する。
【0077】
好ましくは、当該マクロファージは、例えば、本明細書に記載される特徴を有する、本発明の方法によって取得可能なマクロファージである。しかしながら、他の方法によって生成されたミエロイド細胞、特にマクロファージを、例えば、本明細書に記載される処置のために、本発明の適用システムにおいて用いることもできる。
【0078】
一実施形態において、適用システムのミエロイド細胞は、改変されたサイズを有せず、本明細書に記載されるマーカーを発現し得るミエロイド細胞、例えばマクロファージである。それらは、本発明の方法によって取得され得る。
【0079】
第2の実施形態において、適用システムのミエロイド細胞は、低減されたサイズを有するミエロイド細胞、例えばマクロファージである。例えば、ミエロイド細胞のサイズは、細胞を高張液と接触させること、および凍結乾燥を含む群から選択される方法によって低減されていてよい。当該細胞は、好ましくは、本明細書に記載されるマーカーを発現する。それらは、本発明の方法によって取得され得る。第3の実施形態において、適用システムのミエロイド細胞は、抗生剤、免疫調整剤、および色素を含む群から選択される治療剤または診断剤を含むミエロイド細胞、例えばマクロファージであり、この薬剤は、細胞に対して外来性であってよい。これは、本明細書に記載されるように、細胞内に負荷されてよい。細胞は、本明細書に記載されるように、低減されたサイズを有してもよく、更に好ましくは、本発明の方法によって取得される細胞に典型的なマーカーを発現する。
【0080】
好適な容器は、当技術分野において、例えばEP2743343A1から公知である。例えば、RenovaCareのSkin Gunを使用してよく(RenovaCare)、これは、細胞の液体懸濁液を、例えば創傷上に噴霧することができる。細胞懸濁液を噴霧するためには、穏やかな陽圧気流を使用してよい。そのような適用システムは、例えばマクロファージを含む、本発明の細胞集団を、表面上、例えば熱傷および/または感染創などの創傷上に噴霧するのに特に有用である。それらは、肺における処置にも有用である。それらは、インビトロでの表面の処置のため、例えば、消毒のため、または病原体の数を低減させるため、特に、当該表面上の細菌の数を低減させるために使用されてもよい。
【0081】
本発明の方法から取得可能な細胞は、代替的に、気管支鏡を用いて投与されてもよいし、または挿管患者に投与されてもよい。
【0082】
本発明は、患者、例えばヒト患者における感染を処置または防止するのに使用するための、好ましくは、本発明の方法によって取得可能なマクロファージなどのマクロファージを含む、本発明の医薬組成物または適用システムも提供する。
【0083】
本発明者らは、本発明の細胞が、様々な組織または臓器、例えば、脳、肺、皮膚、腸、腹膜、肝臓、脾臓、または膵臓の処置のための、特に、脳、肺、皮膚、腸、腹膜、または肝臓におけるマクロファージの機能不全の処置のための細胞治療薬として、好都合に使用され得ることを見出した。タンパク質を発現するように遺伝子操作されたマクロファージを、他の疾患の療法のために使用することもできる。例えば、インスリンを発現するマクロファージは、糖尿病の処置のために使用され得る。タンパク質の欠如または機能不全が関与する遺伝性疾患の処置も、当該タンパク質を発現するマクロファージの投与によって処置され得る。マクロファージの比較的低い回転率および組織適応のため、単回投与が、少なくとも1、2、もしくは3か月、または数年、最適には生涯にわたって効果的であり得る。反復処置が仮に必要であれば、その間隔はそれに従って長く、例えば、1、2、3、6か月毎、または1、2、3、4、5、10、もしくは20年毎になり得る。
【0084】
本発明者らは、医薬組成物が、細菌感染の処置または防止のために、最も好ましくは、細菌感染の処置のために、好都合に使用され得ることを示した。細菌感染は、例えば、P.エルギノーサ(P.aeruginosa)、S.ニューモニエ(S.pneumoniae)、S.アウレウス、およびM.ツベルクローシス(M.tuberculosis)の感染であり得る。これは肺感染であってもよい。例えばこれらの細菌の、肺感染のための処置は、例えば、挿管を介した局所細胞投与によって、肺に行なわれてよい。代替的に、エアロゾルに基づくスプレーなどの吸入に基づくシステム、または静脈内(i.v.)注射による全身投与を適用してもよい。局所投与を使用してもよい。吸入システムでは、気道内への深い浸透が所望される場合、本明細書に記載されるように、低減されたサイズを有する細胞の使用が好都合であり得る。
【0085】
細菌の、例えばP.エルギノーサの肺感染は、嚢胞性線維症患者などの患者において特に関連性がある。特に処置または防止の関連性があり得る患者は、免疫抑制患者、例えば、移植患者、集中治療を受けている患者(例えば、人工呼吸関連肺炎患者)、新生児、高齢患者、慢性肺疾患、例えば嚢胞性線維症、CGD(または免疫不全をもたらす他の遺伝性疾患)、慢性閉塞性肺疾患、またはhPAPを患う患者などの免疫低下患者である。
【0086】
細菌感染の処置は、敗血症の処置でもあり得る。この関連において、マクロファージは、細菌負荷を低減させるのに役立ち得るだけでなく、炎症促進性サイトカイン、細胞および細菌の残骸、ならびに/または毒素の負荷を低減させるためのシンク(マクロファージスポンジ)として機能することもできる。
【0087】
感染の処置または防止は、感染創の処置または創傷の感染の防止であってもよい。その場合、例えば、本発明の投与デバイスを用いて創傷に噴霧することによる局所投与が有用である。創傷は、処置前にアクセスを容易にするために、例えば、凝固した血液を除去して清浄化され得る。感染の処置または防止は、例えば、手術中、または手術部位を閉じた後に、手術部位に本発明の組成物を噴霧することによる、本発明の組成物による手術前後または手術後の処置であってもよい。
【0088】
本発明は、患者における創傷治癒を促進するのに使用するための、好ましくはマクロファージを含む、本発明の医薬組成物または適用システムも提供する。創傷は、例えば、熱傷、特にII度またはIII度の熱傷であり得る。創傷治癒の促進は、感染に関連していても関連していなくてもよい。マクロファージは、病原体の排除に寄与するだけでなく、組織のリモデリングの補助もする。これらの特徴は、本発明の医薬組成物を、例えば潰瘍の処置のため、または壊死組織の除去のために有用にする。更なる使用は、例えば、移植成功の促進、または歯周炎の処置におけるものであり得る。本組成物は、瘢痕形成を防止するかまたは最小限に抑えるために使用されてもよい。
【0089】
本発明との関連において、処置とは、疾患の少なくとも1つの症状が寛解することを意味する。好ましくは、細菌感染との関連において、細菌負荷も低減され、最も好ましくは、すべての細菌が排除される。
【0090】
防止とは、処置される患者が未だ病気ではなく、すなわち、疾患の症状を示さず、感染していない(未感染)場合があることを意味する。防止は、疾患(特に感染)の発生の可能性を低減させ、かつ/または、疾患の症状の重症度を低減させる。
【0091】
典型的に、本発明は、処置との関連において使用されるが、例えば、多耐性細菌の激増との関連において、かつ/または、患者、例えば、そのような細菌と接触する可能性が高い、例えば集中治療を受けている免疫低下患者において、または実質臓器移植もしくは血液/骨髄輸注との関連において、防止が目的となる場合もある。
【0092】
本発明の1つの特定の利点は、少なくとも1つの抗生剤に対する耐性がある細菌、または多耐性細菌の細菌感染を処置または防止するために使用され得るということである。
【0093】
代替的に、本発明の細胞集団を含む(好ましくはマクロファージを含む)医薬組成物を用いた、ウイルス感染、例えばインフルエンザ(Cardani et al. 2017)の処置および/または防止、好ましくは処置が想定される。インフルエンザの処置のためには、例えば、肺内適用、例えば、本明細書に記載されるもの、または噴霧適用が実行され得る。ウイルス病原体が既知である場合、そのウイルスの表面抗原を対象とする抗体(組成物中のマクロファージによって認識され得る好適な種のもの)が、医薬組成物中に更に含まれてもよい。細菌の処置を目的とする組成物には、細菌の表面抗原を対象とする抗体を添加してもよい。
【0094】
典型的に、医薬組成物の投与は、感染の部位において、または潜在的な感染の部位において行なわれる。例えば、肺感染に対しては、肺(肺内)投与が最適である。しかしながら、細胞が感染の部位に到達しない可能性が高く、かつ/または挿管が患者にとって高リスクとなるほど、肺疾患が重症である場合、すなわち、例えば、重度COPDまたは重度肺感染の場合は、他の適用形態も想定される。他の好適な投与形態としては、i.v.投与、吸入に基づくシステム(スプレー、例えば、喘息スプレーと同様)、局所投与、例えば、感染創もしくは感染する危険性がある創傷などの創傷に対するもの、眼投与(例えば、眼感染時)、経鼻投与、移植による臓器に対する投与、または感染側付近(例えば、移植片に関連する感染部付近)への投与が挙げられる。
【0095】
概して、患者(例えば、ヒト患者)由来のiPSCは、ミエロイド細胞と、したがって本発明の自己ミエロイド細胞(好ましくはマクロファージ)との生成のために使用され得る。しかしながら、患者に投与された同種異系マクロファージによる細菌の排除がマクロファージの拒絶反応よりも速い場合があることから、これは必須ではない。移植されたマクロファージの長期生存が必要とされない場合、または更に言えば望ましくない場合、例えば、遺伝性疾患バックグラウンドのない急性細菌感染においては、工業規模のバイオリアクターシステムによって対費用効果の高い方法で既製の製品として産生可能な同種異系マクロファージが適用されてもよい。特に、肺投与との関連において、投与されるマクロファージの投与後の生存および機能性が示されている。
【0096】
注目すべきことに、同種異系細胞は初めの2週間以内に免疫学的に拒絶されることが予想され得るため、本発明の同種異系ミエロイド細胞の使用は、少なくとも免疫適格性のレシピエントにおいては、腫瘍形成のリスクを最小限に抑える。とはいえ、異なるHLAハプロタイプが適用される場合、即納の調製物の反復適用が可能である。免疫適格性またはHLA分子の発現の欠如のいずれかに関して選択(または操作)された、多能性幹細胞(例えば、iPSC)から生成されたミエロイド細胞(例えば、マクロファージ)を使用することも可能である。
【0097】
本発明者らによって行なわれた実験に基づくと、約4×106個のマクロファージ(本発明の細胞集団における総細胞数に関して計算された)は、約25gのマウスにおいて肺感染の処置に成功した。より低い細胞数、例えば、マウス1匹当たり約4×105~約4×106個、またはマウス1匹当たり約1×106~約2×106個が、処置に十分であると予想される。これは、約1,6×107/kg~約1,6×108/kg、または約5×107/kg~1×108/kgに相当する。結果として、例えば、60kgのヒト患者は、約1×109~1×1010個のマクロファージによって処置され得る。処置の成功に必要とされる細胞の数は、当然ながら、臨床医によって評価され得るいくつかの要因、例えば、患者の全体的健康、特に免疫状態、疾患の重症度、および細菌負荷に応じる。防止には、処置よりも著しく少ない細胞が必要であると考えられる。創傷治癒または創傷感染の場合、治療的な細胞数を解明するために、臨床医による同様の評価が実施され得る。例えば、4×105~約8×106個のマクロファージ/cm2が処置に十分であり得る。
【0098】
iPSC由来マクロファージの、例えば、感染性疾患の処置のための適用に加えて、様々な疾患を標的とするように、他のiPSC誘導体を代替的にまたは更に適用してもよい。懸濁に基づく分化培養は、他のiPSC由来ミエロイド細胞の生成も可能にし、撹拌タンクバイオリアクター技術も、例えば、iPSC由来顆粒球の生成に好適である。そのような顆粒球は、例えば上記に列挙したような、細菌感染の改善された処置のために、または真菌感染の処置のために、例えば、マクロファージと組み合わせて、かつ/または単独で使用され得る。
【0099】
本発明の方法に従って取得可能な血小板は、例えば、血小板減少症の処置において、特に、抗がん化学療法および/または造血幹細胞移植の後に、出血エピソードにおいて予防的に(特に、頭蓋内出血を防止するため)、先制的(例えば、大手術が予期される場合)、または治療的に使用するために好適であり得る。同様に、そのような血小板は、機能的血小板欠損、例えば薬物誘導性およびここでは特にアスピリン誘導性のもの、またはグランツマン血小板無力症(thrombasthenie)もしくはベルナール・スーリエ症候群などの先天性のものにおいて使用され得る。
【0100】
本発明の方法に従って取得可能な樹状細胞は、例えば、(i)腫瘍および他の悪性病変、または(ii)EBVもしくはCMVなどのウイルスを含む病原体に対するワクチン投与戦略において使用するのに好適であり得る。
【0101】
代替的に、IL3のみを用いる大規模分化を用いて、凍結保存および最適な治療用細胞型に向けた、要求に応じた後続の分化に好適な、ミエロイド前駆細胞集団を生成してもよい。
【0102】
好ましくはマクロファージを含む、本発明の細胞集団は、例えば、インビトロの、
a)薬物スクリーニングおよび薬物開発、
b)疾患モデリング、
c)組織操作(例えば、外傷療法のための血液産生)、
d)バイオ人工生物の調製、
e)消毒および/または病原体の排除(例えば、水の精製または表面の消毒のため)、
f)移植のための材料、例えばステントのコーティング、
g)例えば、血液細胞、好ましくはマクロファージの造血分化、発達、および成熟において、当該細胞の生理機能および病態生理をモニタリングするための、バイオマーカーの開発[ここで、例えば、患者および健康な個人に由来する細胞(または比較のための標準的細胞)の発現プロファイルがスクリーニングされ得る]、または
h)抗体、ホルモン、サイトカイン、薬物、培養培地、および血清を含む群から選択される生物由来物質(biological product)の品質管理
などの用途にも有用である。
【0103】
これらのインビトロでの用途のうちのいくつか、例えば、消毒、または移植のための材料のコーティングに関しては、細胞の噴霧が有効であり得る。よって、本発明の細胞集団は、例えば、アトマイザに連結していてよい噴霧に好適な容器内に細胞がある、細胞を噴霧するのに好適な投与システムまたはキットの形態であってもよい。
【0104】
本発明は、ミエロイド細胞、例えばマクロファージを調製し、胚様体、ミエロイド細胞形成複合体、および/またはミエロイド細胞によって、好ましくはミエロイド細胞によって産生されたタンパク質を単離する本発明の方法を実行することを含む、タンパク質を調製する方法も提供する。タンパク質は、細胞内タンパク質または膜タンパク質であり得る。好ましくは、タンパク質は、細胞培養培地中に分泌されるタンパク質である。好都合なことに、これは、細胞培養培地から、例えば、本発明の懸濁培養の最後に、例えば、細胞採取のために培地から細胞を単離するときに調製され得る。タンパク質は例えば、サイトカイン、ケモカイン、成長因子、S100タンパク質、および組換えタンパク質であり得る。組換えタンパク質の発現のために、ミエロイド細胞は、例えば、安定なトランスフェクションまたは一過性トランスフェクションによって、タンパク質を発現するように遺伝子操作される。本発明者らは、例えば、本発明の方法に従って培養されたマクロファージが、例えば、新生児における敗血症の処置において、免疫調整薬として、または心臓病学的障害の処置のための医学的用途を有する、S100アラーミンとも呼ばれるS100タンパク質を高い量で産生したことを見出した。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【
図1】
図1。懸濁培養におけるヒトiPSCの血球分化。(A)未分化ヒトiPSC(CD34iPSC16)の代表的な明視野画像。スケールバー、500μm。(B)iPSC由来マクロファージ(iPSC-MAC)を産生するミエロイド細胞形成複合体(MCFC)に向かって分化したCD34iPSC16の代表的な明視野画像。スケールバー、500μm。(C)iPSC-MACの明視野顕微鏡観察(左)およびサイトスピン染色(右)。スケールバー、100μm。(D)フローサイトメトリーによって分析されたIPSC-MAC(破線:それぞれのアイソタイプ対照、黒線:表面マーカー)。(E)4℃(陰性対照)または37℃(n=2、平均±s.e.m.)におけるiPSC-MACによるpHrodo標識E.Coli粒子の食作用。
図S1も参照されたい。
【
図2】
図2。撹拌タンクバイオリアクターにおけるヒトiPSC-MACの連続生成。(A)撹拌タンクバイオリアクター(DASboxシステム)におけるヒトiPSCの血球分化のスキーム。(B)浮遊MCFCを充填したDASboxバイオリアクターの代表的な写真。(C)バイオリアクターにおいて産生された生存可能なマクロファージの個々の細胞計数(n=2の独立したバイオリアクターの運転、平均±s.e.m.)。(D)42日間のバイオリアクターの運転のうち培養期全体にわたる、代表的なマクロファージ採取計数(上のグラフ)、および連続的プロセスモニタリングから得た対応するデータ(バイオマス、温度、pH、および溶存酸素(DO)レベル)。(E)バイオリアクターにおける培地中のヒトサイトカインの分析[技術的2回反復測定(technical duplicates)]。(F)採取1~5において分析されたマクロファージ生成に関する代表的な光学顕微鏡観察。第1の横列は、バイオリアクターからの未濾過の培地試料の明視野画像を示す。第2の横列は、沈降によってMCFCから分離された、新鮮に採取されたマクロファージの明視野画像を示す。第3および第4の横列は、iPSC-MACのサイトスピンおよびフローサイトメトリー分析を示す(破線:それぞれのアイソタイプ対照、黒線:CD45、点線CD14)。スケールバー、それぞれ50、100、および500μm。
図S2も参照されたい。
【
図3】
図3。撹拌タンクバイオリアクターから誘導されたiPSC-MACの特性評価。(A)バイオリアクター分化から誘導されたiPSC-MACの代表的なフローサイトメトリー分析(破線:それぞれのアイソタイプ対照、黒線:細胞表面マーカー)。(B)バイオリアクターから誘導された最終分化型iPSC-MACの明視野(左の画像)またはサイトスピン調製物(右の画像)のいずれかの代表的な写真。スケールバー、200および100μm。(C~E)iPSC、バイオリアクターから誘導されたiPSC由来マクロファージ(iPSC-MAC)、およびPBMC由来マクロファージ(PBMC-MAC)のトランスクリプトーム分析[n=2、生物学的反復測定(biological replicates)]。(C)不偏性階層的ヒートマップクラスタリング。(D)多能性関連遺伝子のヒートマップ。(E)自然免疫応答の活性化に関連する(GO:0002253)差次的に調節された遺伝子(p<0.001)のヒートマップ。(F)iPSC-MACおよびPBMC-MACにおいて上方調節された遺伝子(上位100種;未分化iPSCと比較)のベン図、ならびに、一般的に共通した遺伝子セットと、ヒト遺伝子アトラス(EnrichR)に従ってそれぞれiPSC-MACおよびPBMBC-Macについて取得された遺伝子セットとに関する、上方調節された遺伝子に基づく細胞型の割り当て。(G)iPSC-MACのみにおいて上方調節された遺伝子の細胞株の割り当て(EnrichR)においてマッチした遺伝子を示すクラスタグラム(clustergram)。
【
図4】
図4。撹拌タンクバイオリアクターにおいて生成されたiPSC-MACの抗菌活性。(A)異なる時点におけるiPSC-MACによるラテックスビーズの食作用を示すラスター走査型電子顕微鏡観察。(B)GFP標識P.エルギノーサ(PAO1)と共に4または37℃で2時間インキュベーションした後の最終分化型iPSC-MACおよびPBMC-MACによる食作用率(n=3の生物学的反復測定、Sidakの多重比較検定を用いた二元配置ANOVA、nsは有意差なしを意味する)。(C)炎症応答(GO:0006954、10倍超の上方調節)、自然免疫応答(GO:0045087、5倍超の調節)、および自然免疫応答の活性化(GO:0002253、2倍超の調節)に関連する差次的に調節された遺伝子のヒートマップ。(D)5倍を超えて上方調節された遺伝子の疾患および機能に関するIPA分析。
【
図5】
図5。huPAPマウスにおける肺感染およびマクロファージの同時移植。(A)huPAPまたはNSGマウスに、P.エルギノーサ(PAO1)の肺輸送、およびiPSC-MAC(PiMT)の同時移植を行なうスキーム。(B)huPAPマウスに、PAO1の感染(感染)、または感染および移植(感染+PiMT)を行なった後の、24時間にわたる直腸温度および疾患スコアの時間経過(n=6動物/群、平均±s.e.m)。(C)24時間後の体重における変化。値は、感染前のそれぞれの体重に対して正規化されている(n=6動物/群、平均±s.e.m)。(D)頭部突出型体幹プレチスモグラフィー(head-out bodyplethysmography)によって測定された肺機能(n=6動物/群、平均±s.e.m)。(E)24時間後の肺1つ当たりのPAO1の細菌コロニー形成単位(CFU)(n=6動物/群、平均±s.e.m)。(F)ヘモグロビンの存在に関する尺度としての、650nmにおける気管支肺胞洗浄液(BALF)試料の吸光度(n=3動物/群、平均±s.e.m)。(G)BALFおよび肺のフローサイトメトリー分析。BALFおよび肺におけるマウス顆粒球(GR1
+細胞として判定)の割合(n=3動物/群、平均±s.e.m)。(H)右肺の組織学的スコアリング(n=3動物/群、平均±s.e.m)。(I)hCD45で染色した1群当たり1匹の動物のBALFおよび肺の代表的な図。
【
図6】
図6。huPAPマウスにおける肺感染およびiPSC-MACの治療的移植。(A)huPAPマウスに、P.エルギノーサ(PAO1)の肺感染、およびバイオリアクターから誘導されたiPSC-MAC(PiMT)の治療的移植を行なうスキーム。(B)PAO1に感染したhuPAPマウス(感染)、感染および移植を行なったhuPAPマウス(感染+PiMT)、ならびにPBSを2回受けた対照マウス(対照)に関する疾患スコアの時間経過(n=3動物/群、平均±s.e.m)。(C)ビデオ記録および手作業による追跡によって分析されたマウスの動きによって評価された感染24時間後の活性(n=1動物/群)。(D)感染後24時間にわたって分析された直腸温度の時間経過(n=3動物/群、平均±s.e.m)。(E)24時間後の体重における変化。値は、感染前のそれぞれの体重に対して正規化されている(n=3動物/群、平均±s.e.m)。(F)24時間後の肺1つ当たりのPAO1の細菌コロニー形成単位(CFU)(n=3動物/群、平均±s.e.m)。(G)BALF試料の画像。(H)感染+PiMTマウス(n=2マウス)のBALFにおけるヒトサイトカインのレベル。(j)感染マウス、感染+PiMTマウス、および対照マウスの肺組織診断画像。
【
図7】
図7。懸濁下における血球分化からのミエロイド細胞の誘導。(A)IL3およびG-CSFの補充により生成され、G-CSFのみの存在下で最終的に分化した細胞の、懸濁に基づく血球分化培養物のフローサイトメトリー分析(破線:それぞれの未染色対照、黒線:細胞表面マーカー)。(B)IL3/G-CSF培養物から生成され、G-CSFのみによって最終分化した細胞のサイトスピン。スケールバー:50μmおよび20μm。(C)IL3およびSCF/EPOの補充によって生成され、SCFおよびEPOの存在下で最終的に分化した細胞の、懸濁に基づく血球分化培養物のフローサイトメトリー分析(破線:それぞれのアイソタイプ対照、黒線:細胞表面マーカー)。(D)IL3のみを使用して懸濁培養物から誘導され、M-CSF中で7日間より長くにわたって分化した細胞のフローサイトメトリー分析。データは、ヒストグラムのオーバーレイとして示されている(破線:それぞれの未染色対照、黒線:細胞表面マーカー)。(E)M-CSFによって最終分化したIL3由来培養物に関するそれぞれのサイトスピン。スケールバー:50μmおよび20μm。(F)IL3のみを使用して懸濁培養物から誘導され、G-CSF中で7日間より長くにわたって分化した細胞のフローサイトメトリー分析。データは、ヒストグラムのオーバーレイとして示されている(破線:それぞれの未染色対照、黒線:細胞表面マーカー)。(G)G-CSFによって最終分化したIL3由来培養物に関するそれぞれのサイトスピン。スケールバー:50μmおよび20μm。
【
図8】
図8。移植マウスの肺組織診断。感染+PiMT動物のみにおけるマクロファージを示す右肺組織診断(代表的な画像、n=3)。スケールバー、50μm。
【
図9】
図9。NSGマウスモデルにおける肺感染およびマクロファージの同時移植。(A)PAO1に感染したNSGマウス(感染)、または感染および移植を行なったNSGマウス(感染+PiMT)の、感染6時間後および24時間後の直腸温度および(B)疾患スコア。実験前に測定した疾患スコアおよび温度を対照値とした(n=4~5動物/群、平均±s.e.m)。(C)感染NSGマウスおよび感染+PiMT NSGマウスにおける24時間後の肺1つ当たりのPAO1のコロニー形成単位(CFU)(n=4~5動物/群、平均±s.e.m)。
【
図10】
図10。噴霧適用および細胞サイズの低減。(A)6×10
6細胞/mlの濃度にて噴霧した後のヒトマクロファージ細胞株(U937)の生存細胞および死細胞の数。(B)パフ(噴霧)1回当たりの細胞の数は、ネブライザ(褐色ガラス、容量20ml、噴霧容量およそ50μl、Rixius AG社、Mannheim Germany)を使用して細胞約2
*10
5個である。
【
図11】
図11。異なるオスモル濃度の溶液中での細胞のサイズ低減(収縮)。ヒトマクロファージ細胞株U937を、300、600、800、または1000mosmのスクロース溶液において、室温で15分間インキュベートした。対照は300mosmである。それぞれのデータは、フローサイトメトリー分析から受けた。プロットは、より高いオスモル濃度の溶液中でインキュベーションした時のFSC(前方散乱、容量の指標)における減少を示す。プロットは、300mosmの対照と比較して、600mosmではおよそ40%、800mosmでは32%、1000osmの高張液では21%へのFSCの減少を示す。
【
図12】
図12。初代マウスマクロファージの噴霧は、生存細胞の数を著しく低減させない。確立された周知の技術を使用し、マウス骨髄試料からマウス初代マクロファージを単離した。簡潔に述べると、大腿骨および脛骨を単離し、フラッシュして骨髄を受けた。総骨髄を、それぞれの培地において、最低7日間にわたり、M-CSFと共にインキュベートした。接着性のマクロファージをトリプシン処置によって採取した。それらを洗浄し、噴霧のためにPBS溶液培地(RPMI)に取り、噴霧後、それらを遠心分離し、フローサイトメトリー分析のためにPBSに取った。分析の直前に、氷上で細胞にヨウ化プロピジウム(PI)を与え、死細胞を染色した。プロットは、噴霧なしの細胞の数、および噴霧後の細胞の数を示し、白の四角は生細胞を示し、黒の四角は死細胞を示す。死細胞の割合は約5~10%である。
【
図13】
図13。異なるオスモル濃度の溶液中での細胞のサイズ低減(収縮)。
図12について説明したように調製されたマウス初代マクロファージを、300、600、800、または1000mosmのスクロース溶液において、4℃で1時間にわたってインキュベートした。対照は300mosmである。それぞれのデータは、フローサイトメトリー分析から受けた。プロットは、より高いオスモル濃度の溶液中でインキュベーションした時のFSC(前方散乱、容量の指標)における減少を示す。プロットは、300mosmの対照と比較して、600mosmではおよそ44%、800mosmでは36%、1000osmの高張液では24%へのFSCの減少を示す。
【0106】
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0107】
実施例1
方法
細胞の培養および分化
iPSCの培養
動員末梢血CD34+細胞(Lachmann et al., 2014)からヒトiPSC(hCD34iPSC16)を前もって生成し、iPSC培地(ノックアウトDMEM、20%のノックアウト血清代替物、1mMのL-グルタミン、1%のNEAA、1%のペニシリン/ストレプトマイシン、すべてInvitrogen、Karlsruhe、Germany)、0.1mMのβ-メルカプトエタノール(Sigma-Aldrich、St.Louis、MO、United States)、および10ng/mlのbFGF(PeproTech)中の照射マウス胎仔線維芽細胞(MEF)上で培養した。EB形成前の最後の4~5日間にわたり、塩基性FGFを維持培地から除いた。
【0108】
接着性培養における血球分化
過去に説明されているように(Lachmann et al., 2015)、従来型の接着に基づくヒトiPSCの血球分化を実施した。簡潔に述べると、コラゲナーゼ-IVを使用し、PSCコロニー(6ウェルプレートのうちの3ウェル、およそ3×106細胞)を破壊して断片にし、オービタルシェーカー上の6ウェル懸濁プレートにおいて、10μMのRock阻害剤(Y-27632;Tocris)が補充されたiPSC培地中で5日間にわたる培養により、EB形成を誘導した。その後、双眼鏡を使用してEBを手作業で選択し、組織培養6ウェルプレートに移し、1%のペニシリン-ストレプトマイシン(Life Technologies)、25ng/mlのヒトIL3、および50ng/mlのヒトM-CSF(いずれもPeproTech)が補充された分化培地I(X-VIVO 15、Lonza)において培養した。10~15日目以降、iPSC-MACを上清から週に1回採取した。
【0109】
懸濁培養における血球分化
懸濁下で血球分化を達成するために、最も大きいEBを沈降特性(沈降10分未満)により選択し、85回転毎分(rpm)におけるオービタルシェーカー(Celltron、Infors HT)上の6ウェル懸濁プレート内の分化培地Iに移した。10~15日目以降、iPSC-MACを培地から週に1回採取した。他のミエロイド細胞型への分化のためには、過去に説明されているように(Ng et al., 2008)、APEL培地を使用した。顆粒球細胞および赤血球細胞への分化のためには、25ng/mlのhIL3を、それぞれ、50ng/mlのhG-CSF、または100ng/mlのhSCFと3UのhEPOと合わせて適用した。
【0110】
撹拌タンクバイオリアクターにおける血球分化
過去に説明されているように(Kempf et al., 2015)、バイオリアクター(DASbox Miniバイオリアクターシステム、Eppendorf)を設定し、較正した。簡潔に述べると、250mlのガラス容器に、8翼式羽根車(60°傾斜)、ならびにバイオマス(Aber Instruments)、pH、DOのオンラインモニタリング、および温度制御のためのプローブを備え付けた。較正は、120mlの化学的に定義されたX-VIVO 15(Lonza)において実施した。
【0111】
バイオリアクターにおける血球分化については、iPSCを20個の6ウェルプレートまで拡大し、bFGFの存在下で3日間にわたって培養した。接着性培養と同様にEBの形成を実施した。5日後、EBを沈降特性(沈降10分未満)によって選択し、平衡化したバイオリアクターに移した。IL3およびM-CSFが補充されたX-VIVO 15(分化培地I)中で、3L/時における一定のヘッドスペースガス供給(21%のO2;5%のCO2)、および50rpmでの撹拌を用い、37℃において細胞を培養した。MCFCの完全性およびマクロファージの形成をモニタリングするため、培養プロセスを中断することなく、試料採取ポートを介して、1mlの試料を週に1~2回収集した。分化培地Iを、6~7日毎に手作業で交換し、3~4日後に20mlを適宜供給した。マクロファージを、沈降(4~5分)、および後続の100μmの濾過器を通した培地の濾過を介したMCFCからの分離により、週1回採取した。保持されたMCFCをバイオリアクターに戻した。4分間の300×gにおける遠心分離によって、濾過された培地からマクロファージを収集した。
【0112】
Microsoft Excel 2016およびGraphPad Prism 6を使用し、オンラインモニタリングからのデータを処理した。グルコースおよび乳酸の濃度についてはYSI 2700 select biochemistry analyserを使用し、オスモル濃度についてはOsmomat 300(Gonotec)を使用し、乳酸デヒドロゲナーゼの濃度については製造元の説明(MAK066、Sigma)に従ってマイクロプレートリーダー(Paradigm、Beckman Coulter)を使用して、上清を分析した。
【0113】
最終分化
更なる成熟のために、MCFCから新鮮に採取された細胞を、マクロファージについては50ng/mlのhM-CSF、顆粒球については50ng/mlのhG-CSF、赤血球分化については100ng/mlのSCFおよび3U/mlのEPOを含有する、分化培地II[10%のウシ胎仔血清(FCS)、2mMのL-グルタミン、1%のペニシリン-ストレプトマイシンが補充されたRPMI1640培地]において、少なくとも7日間にわたって培養した。
【0114】
末梢血単核球細胞(PBMC)の単離およびマクロファージへの分化
すべての健康なドナーは、Hannover Medical Schoolにおける現地の倫理委員会に従って、書面によるインフォームドコンセントを提供した。Biocoll Separating Solutionを使用した勾配遠心分離(40分、400×g;Biochrome、Billerica、MA)により、健康なボランティアの末梢血から末梢血単核球細胞(PBMC)を単離した。その後、10%のウシ胎仔血清、2mMのL-グルタミン、1%のペニシリン-ストレプトマイシン(すべてInvitrogen)、ならびにhIL3およびhM-CSF(それぞれ50ng/ml、PeproTech)が補充されたRPMI1640培地において、1週間にわたって細胞を培養した。この後、50ng/mlのM-CSFのみを含有する分化培地において、PBMC-MACを更に3~4日間培養した。
【0115】
表現型および機能の特性評価
フローサイトメトリー
説明されているように(Lachmann et al., 2015、Lachmann et al., 2014)、ミエロイド細胞のフローサイトメトリー分析を実施した。マクロファージについては、非特異的結合を防止するために、10%のFCSが補充されたPBSを使用した。FACScaliburサイトメーター(Beckton&Dickinson、Heidelberg、Germany)を用いて細胞を分析し、FlowJoソフトウェア(TreeStar、Ashland、OR)を用いて分析した。次の抗体:hTRA-1-60-PE(カタログ番号:12-8863-80)、hCD11b-APC(カタログ番号:17-0118-41)、hCD14-PE(カタログ番号:12-0149-42)、hCD163-APC(カタログ番号:17-1639-41、hCD16-FITC(カタログ番号:11-0168-41)、hCD34-FITC(カタログ番号:11-0349-41)、ならびにアイソタイプ対照:マウスIgG1a-PE(カタログ番号:12-4714-41)、FITC(カタログ番号:11-4714-41)またはAPC(カタログ番号:17-4714-41)、およびラットIgG2a-PE(カタログ番号:12-4321-81)は、eBioscienceから購入した。Biolegend San Diego、CA、United Statesから得た抗体:hCD86-APC(カタログ番号:305411)、hCD66b-FITC(カタログ番号:305104)、またはhCD45-PE(カタログ番号:304007)。
【0116】
マウスの肺およびBALFのフローサイトメトリー分析のために、4%PFAを使用して試料を固定した。この後、非特異的結合を防止するために、試料をfc受容体遮断抗体(CD16/CD32、eBioscience、カタログ番号:14-0161-81)と共に20分間インキュベートした。使用した抗体は、Biolegend San Diego、CA、United Statesから(hCD45-PeCy7)、eBioscienceから(mGR1-eFluor450)購入した。
【0117】
サイトスピン調製物
20,000~50,000個の細胞をガラススライド上で600×gにおいて7分間スピンし、0.25%のMay-Gruenwald中で5分間、および0,4%のGiemsa染色改変溶液(Sigma)中で20分間にわたって染色した。
【0118】
食作用アッセイ
懸濁培養または接着性培養から誘導され、組織培養プレート上で最終分化したiPSC-MACの食作用活性を、フローサイトメトリーによって評価した。したがって、1×105個の細胞を、pHrodo(商標)Red E.coli BioParticles(登録商標)Conjugate(MolecularProbes/Thermo Fisher Scientific、Schwerte、Germany)または培地と共に2時間にわたり、37℃または陰性対照として4℃でインキュベートした。インキュベーション後、細胞を氷上に10分間置いた。Beckman Coulter FC500フローサイトメーターを使用して分析を実施した。
【0119】
GFP-PAO1[Tn7の形質転換(Bjarnsholt et al., 2005)により緑色蛍光タンパク質(GFP)でタグ付けされた野生型P.エルギノーサPAO1(Thomas Bjarnsholt、University of Copenhagenにより親切にも提供された)]を使用して、iPSC-MACおよびPBMC-MACが生きたP.エルギノーサを貪食する機能的能力を評価し、PBMC由来マクロファージ(PBMC-MAC)と比較した。この食作用アッセイでは、1×105個のiPSC-MACを、2時間にわたり、6×105CFUのGFP-PAO1と共に、37℃または陰性対照として4℃でインキュベートした。培地対照は同様に処置した。インキュベーション後、細胞を氷上に10分間置き、その後、2%のパラホルムアルデヒド(PFA)溶液で30分間にわたって固定した。Beckman Coulter FC500フローサイトメーターを使用して分析を実施した。
【0120】
電子顕微鏡観察
マクロファージを直径1cmの円形カバースリップ上で成長させた。4℃においてラテックスビーズ(直径1μm)を細胞に添加し、5分間にわたってラテックスビーズをマクロファージの表面に接着させた。その後、試料を冷PBSで洗浄し、新鮮な培養培地と共に37℃まで温めた。最長1時間にわたって食作用を行なわせ、150mMのHepes(pH7.35)において1.5%のパラホルムアルデヒド、1.5%のグルタルアルデヒドを使用し、異なる時点で試料を固定した。次いで、漸増するメタノール系を使用して試料を脱水した。製造元の説明に従ってCPD030臨界点乾燥機(Balzers、Lichtenstein)を使用し、臨界点乾燥を実施した。次いで、カバースリップに金(Sem Coating System、Polarion)をスパッタリングし、Philips SEM 505(Eindhoven、The Netherlands)を使用してSEMを実行した。
【0121】
細菌培養
実験のために、-80℃に保たれた保存培養物からP.エルギノーサ実験室株PAO1(Klockgether et al., 2010)を取り、Luria Broth(LB)中で一晩成長させた。滅菌PBSで洗浄した後、標準的な成長曲線から所望の感染性用量を推定した。実際の投与量の決定のためには、播種物(inoculates)をLB寒天プレート上にドロッププレート法(Herigstad et al., 2001)によって連続播種し、37℃における16~18時間のインキュベーションの後にCFUを判定した。
【0122】
マイクロアレイ試料の収集
最終分化型ヒトiPSC-MACまたはヒトPBMC-MACを24ウェルプレートに播種し(500.000細胞/ウェル)、一晩培養した。翌日、細胞をPBSで3回洗浄した。その後、抗生物質を含まないRPMI培地中のP.エルギノーサ実験室株PAO1(MOI10)を細胞上に遠心分離し(600×g)、37℃においてインキュベートした。培地のみの細胞を非感染対照とした。1時間後、細胞を脱離させ(de-attached)、洗浄し、RNA溶解緩衝液中に再懸濁した。RNAeasy micro Kit(Quiagen)を製造元の説明に従って用いて、RNA単離を実施した。フィーダー細胞からiPSCを分離させるために、TRA-1-60+についてiPSCを分取した後、ヒトiPSC試料を取得した。
【0123】
マイクロアレイ実験(単色モード)
この研究において利用したマイクロアレイは、Hannover Medical SchoolのResearch Core Unit Transcriptomics(RCUT)において開発された、「054261On1M」(デザインID 066335)と呼ばれる、Whole Human Genome Oligo Microarray 4x44K v2(デザインID 026652、Agilent Technologies)の洗練されたバージョンに相当する。マイクロアレイのデザインは、mRNA発現に関してテンプレートとして1x1Mデザイン形式を使用し、AgilentのeArrayポータルにおいて作成した。デザインID 026652の非対照プローブはすべて、合計181560フィーチャ(170行×1068列)を含む領域内で5回プリントされている。そのような領域のうちの4つを1つの1M領域内に配置し、スライド1枚当たり4つのマイクロアレイフィールドが個々にハイブリダイズされるようにした(顧客指定フィーチャレイアウト)。適切なFeature Extractionソフトウェア操作に必要な対照プローブは、eArrayにより、推奨されるデフォルト設定を使用して決定され、自動的に配置された。
【0124】
企業によって指示されるように(1ラウンドの増幅を適用し)、30ngの全RNAを使用して、アミノアリル-UTP-修飾(aaUTP)cRNAを調製した[Amino Allyl MessageAmp(商標)II Kit、#AM1753、Life Technologies]。Alexa Fluor 555 Reactive Dye(#A32756;LifeTechnologies)の使用により、aaUTP-cRNAの標識を実施した。
【0125】
500ngの各蛍光標識cRNA集団をハイブリダイゼーションのために使用したことを除いては、「One-Color Microarray-Based Gene Expression Analysis Protocol V5.7」において推奨されているように、cRNAの断片化、ハイブリダイゼーション、および洗浄ステップを実行した。
【0126】
Agilent Micro Array Scanner G2565CA(ピクセル解像度3μm、ビット深度20)においてスライドをスキャンした。「Multiplicative detrending」アルゴリズムを無効にしたことを除いては、抽出プロトコールファイル「GE1_107_Sep09.xml」を使用し、「Feature Extraction Software V10.7.3.1」を用いて、データ抽出を実施した。
【0127】
緑チャネルの処理された強度値である「gProcessedSignal」(gPS)の幾何平均を使用し、オンチップ反復測定(on-chip replicates)(5回反復)の測定値を平均して、結果として得られる、独特の非対照プローブ1つ当たり1つの値を導出した。単一のフィーチャは、i)手作業でフラグを付けられた場合、ii)Feature Extraction Softwareによってアウトライナとして識別された場合、iii)各オンチップ反復測定集団の正規化されたgPS分布に関する「1.42×四分位範囲」の間隔の外にある場合、またはiv)0.5を超えるフィーチャ毎のピクセル強度の変動係数を示した場合に、平均化から除外した。
【0128】
平均したgPS値を、分位正規化アプローチにより、まず正規化した。その後、値を大域的な線形スケーリングによって更に処理した。1つの試料のgPS値すべてに、アレイ固有のスケーリング因子を乗じた。この因子は、「基準75パーセンタイル値(reference 75th Percentile value)」(シリーズ全体で1500に設定した)を、正規化しようとする特定のマイクロアレイ(以下に示す式中「アレイI」)の75パーセンタイル値によって除すことによって計算した。したがって、全試料(マイクロアレイデータセット)について正規化されたgPS値は、次式によって計算した:
正規化されたgPSアレイi=gPSアレイi×(1500/75パーセンタイルアレイi)
【0129】
最後に、陰性対照フィーチャの強度分布に基づいて、下位強度閾値(lower intensity threshold)(代理値)を定義した。この値は、15の正規化gPS単位に固定した。この強度カットオフを下回った測定値はすべて、15の各代理値によって置換した。
【0130】
Agilent One Color mRNA Microarraysに対して、あらゆる正規化オプションを非選択状態にしたことを除いてはデフォルトのインポート設定において、すべての非対照フィーチャの正規化されたマイクロアレイデータを、Omics Explorerソフトウェアv3.2(Qlucore)にインポートした。したがって、インポート中のデータ処理ステップは、1)ログベース2変換、2)中央値へのベースライン変換であった。
【0131】
ヒートマップクラスタリング分析およびGOに基づくヒートマップの生成を、Omics Explorerにおいて実施した。RCUTASツール(V1.7;Hannover Medical School)を使用して、上位100種の上方調節された遺伝子を計算し、Venny 2.1(http://bioinfogp.cnb.csic.es/tools/venny)を使用して処理した。Enrichr(https://amp.pharm.mssm.edu/Enrichr)を使用し、ヒト遺伝子アトラスに基づく細胞型分類に関する遺伝子セットのエンリッチメント分析、ならびに生物学的プロセスおよび分子機能の遺伝子オントロジー分析を行なった。Ingenuity経路分析(Qiagen)を使用し、疾患および機能に関する遺伝子分析を実施した。
【0132】
マイクロアレイデータは、受託番号E-MTAB-5436のもと、ArrayExpressデータベース(www.ebi.ac.uk/arrayexpress)に寄託された。
【0133】
サイトカイン分泌アッセイ(Luminex)
バイオリアクター試料またはBALF試料におけるヒトサイトカインの分泌を分析するために、以前に説明されているように(Lachmann et al., 2015)、Cytokine Human 14-Plex Panel(Millipore、Schwalbach、Germany)を用いたLuminex(登録商標)分析を実施した。Luminex-200 Systemにおいてデータを獲得し、Xponentソフトウェアv.3.0(Life Technologies)を用いて分析した。
【0134】
インビボ実験
動物の維持および感染
HuPAP[129S4-Rag2tm1.1FlvCsf2/Il3tm1.1(CSF2,IL3)FlvIl2rgtm1.1Flv/J]マウス(Willinger et al., 2011)は、Jackson Laboratoryから取得し、Hannover Medical Schoolの中央動物施設(central animal facility)に収容した。NSGマウス(NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Wjl/SzJZtm)は、Hannover Medical Schoolの中央動物施設から取得した。両方の免疫不全マウス系統を、個別換気ケージ(IVC)において病原体フリー条件下で維持し、食物および水に自由にアクセスできるようにした。すべての動物実験は、Lower Saxony Stateの動物福祉委員会によって承認され、そのガイドラインに従って実施した。
【0135】
P.エルギノーサの感染またはiPSC-MACの肺移植のためには、麻酔した(ケタミン/ミダゾラム)マウスに、経口挿管した後に気管を介して点滴した。同時感染実験では、iPSC-MAC(4×106/動物)およびPAO1(NSG:5×105およびhuPAP 0.2×105CFU)をPBS中に再懸濁し、60μlの総容量で混合した。感染単独のマウスについては、60μlのPBSにおいて同じCFUを適用した。点滴前には、食作用を回避するため、細胞/細菌ミックスを常時氷上に保った。治療用PiMT実験においては、ケタミン/ミダゾラムを用いた麻酔の後、huPAP動物を0.3×105CFUのPAO1(30μl容量のPBS中)に感染させた。対照マウスは、同じ容量のPBSを受けた。4時間後、マウスをイソフルラン吸入によって麻酔し、50μlのPBS、または4×106個のiPSC-MACを含むPBSを用いた第2の点滴を実施した。対照マウスは再び、同じ容量のPBSを受けた。動物の疾患スコアを判定するため、我々は、過去に説明されているスコアリング行列(Munder et al., 2005)を使用した。24時間後、動物を屠殺し、最終分析を実施した。
【0136】
マウスの肺機能
過去に説明されているように(Wolbeling et al., 2010)、14種の肺機能パラメータを調査する非侵襲性頭部突出型スパイロメトリーを、意識のある拘束されたマウスに対して実施した。マウスをガラスインサート内に位置付けた。マウスの呼吸により、空気がニューモタコグラフを通って流れる。圧力トランスデューサーが電気的シグナルをもたらし、これがNOTOCORD HEMソフトウェア(バージョン4.2.0.241、Notocord Systems SAS、Croissy Sur Seine、France)を使用して分析される。感染中のマウスの肺機能の特性評価を行なうため、一回換気量(ml単位で測定される)、呼気時間、吸気時間、吸気+呼気の時間、弛緩時間、および呼気一回換気量の50%における流量(EF50)のパラメータを選択した。
【0137】
気管支肺胞(aleveolar)洗浄(BAL)およびヘモグロビンレベルの測定
死後のマウスの気管をカニューレ処置することにより、気管支肺胞洗浄を実施した。1mlのPBSを用いて右肺を3回すすいだ。新鮮なBALFをヘモグロビンの測光分析のために使用した。この後、BALF試料を遠心分離し、上清をLuminex分析のために-80℃で保管した。ペレットを固定し、フローサイトメトリーのために染色した。
【0138】
肺細菌数(CFU)
安楽死させたマウスの右肺を結紮し、摘除し、組織ホモジナイザー(Polytron PT 1200、Germany)を用いてホモジナイズした。ドロッププレート法(Herigstad et al., 2001)を使用してLuria-Bertaniプレート上で培養したホモジネートの段階希釈から、総細菌数を評価した。
【0139】
組織診断
専用の時点において動物を屠殺した。右肺をOCT緩衝液で充填し、4℃で3日間にわたり、4%中性緩衝PFA中で固定した。対照動物に関しては、左肺を使用した。RITA-Guidelines(Ruehl-Fehlert et al., 2003)に従って組織をトリミングし、脱水し(Shandon Hypercenter、XP)、その後、パラフィン(TES、Medite)に包埋した。キシレン中で切片(2~3μm厚、ミクロトームReichert-Jung 2030)の脱パラフィンを行ない、標準的なプロトコールに従ってH&E染色した。以前に説明されているように(Dutow et al., 2013)、訓練を受けた病理学者により、切片の盲検評価(Axioskop 40、Zeiss顕微鏡)および組織学的スコアリングを実施した。
【0140】
統計
GraphPad Prism 6および7を適用して、独立スチューデントT検定または分散分析(ANOVA)を実施した。特記なき限り、平均±s.e.m.がプロットされている。アステリスクは、*P<0.05;**P<0.01;***P<0.001;****P<0.0001を意味する。
【0141】
結果
動的懸濁培養における複数のヒトiPSC由来ミエロイド系列の誘導
PSCからの異なる成熟造血細胞型の生成は、従来型の二次元(2D)分化培養を使用して成功することが証明されているが(Ackermann et al., 2015、Choi et al., 2009、Dias et al., 2011、Feng et al., 2014、Sturgeon et al., 2014)、これらのシステムは、臨床的に意義のある量におけるiPSC由来細胞の生成を可能にしない。よって、本発明者らは、産業適合性のある撹拌タンクバイオリアクターにおけるプロセスアップスケーリングに好適な、懸濁に基づく(3D)血球分化プロトコールを開発した(Kropp et al., 2016b、Zweigerdt, 2009)。従来型の明視野形態(
図1A)を有する十分に特性評価されたhiPSC株(hCD34iPSC16)(Lachmann et al., 2014)を、本発明者らはまず、オービタルシェーカー上での小規模懸濁培養において胚様体(EB)の形成を誘導した。5日後、本発明者らは、IL3およびM-CSFを含有する分化培地にEBを移して、血球特定化およびミエロイド細胞形成複合体(MCFC)の形成を誘導した(
図1B)。10~15日間の継続的な懸濁培養の後、MCFCは、最長3か月にわたって週1回採取することができたiPSC由来マクロファージ(iPSC-MAC)を連続的に産生した(4D分化)。生成されたiPSC-MACは、典型的なマクロファージ様形態を示し、CD45
+CD11b
+CD14
+CD163
+CD34
-TRA1-60
-の高度に純粋な表面マーカープロファイルを呈し、蛍光標識されたE.coli粒子を効率的に貪食した(
図1C~1E)。
【0142】
注目すべきことに、同じ懸濁に基づくプロトコールに従ったが、単純にサイトカイン組成を変えることで、異なるミエロイドのサブセットが生成された。よって、IL3およびG-CSFは、CD16
+CD66b
+iPSC-顆粒球の連続生成を可能にしたが(
図7Aおよび7B)、一方でCD34
-CD71
+CD235a
+CD36
+赤血球細胞は、IL3/SCF/EPOの使用によって誘導された(
図7C)。系列指示性サイトカインと組み合わせたIL3によって生成された細胞とは対照的に、IL3のみを用いると、より未熟なCD45
+/CD11b
+/CD14
-/CD163
-マーカープロファイルの提示がもたらされた(データは示さない)。注目すべきことに、M-CSFまたはG-CSFのいずれかの存在下におけるこれらの未熟細胞の更なる分化は、CD45
+CD11b
+CD14
+CD66b
-CD34
-マクロファージ様細胞(
図7Dおよび7E)またはCD16
+CD66b
+顆粒球様細胞(以下ではマクロファージおよび顆粒球とも表記する)の生成をもたらした(
図7Fおよび7G)。
【0143】
撹拌タンクバイオリアクターにおいてhiPSC-MACの連続産生のアップスケーリングが可能になる
本発明者らは、次いで、過去にヒトiPSCの効率的な培養およびそれらの心筋細胞への分化のために適用された(Kempf et al., 2014)、産業適合性のあるシステム(DASbox Miniバイオリアクターシステム)(Olmer et al., 2012)を使用した撹拌タンクバイオリアクターに、懸濁に基づく分化を応用した(
図2A、2B)。バイオリアクターに、溶存酸素(DO)、pH、温度、およびインピーダンスに基づくバイオマス評価のリアルタイムモニタリングのためのプローブを備え付けた。プロセスパラメータは、37℃、3L/時におけるヘッドスペースガス供給(21%のO
2;5%のCO
2)、および8翼式の傾斜した(60°)羽根車を使用した50回転毎分(rpm)での撹拌に設定した(Kempf et al., 2015)。将来の臨床的スケールアップに関して、臨床治験においても適用される化学的に定義された培養培地(X-Vivo15)を使用したことは特筆すべきである。7~10日目以降、中断のないバイオリアクタープロセスからのiPSC-MACの週1回の採取は、細胞収量の経時的な増加を示し、早ければ3週目にはおよそ2~3×10
7個のiPSC-MAC/週の安定な産生量に達し、これは、2回の独立したプロセス運転において5週間より長くにわたって維持された(
図2C)。両方のバイオリアクター実験におけるiPSC-MACの効率的な生成は、特に全培地交換後の初めの数日間における、週1回のバイオマス増加に反映された。DOおよびpHのモニタリングは、反復バッチ培養に典型的な予想されたジグザグ様パターンを明らかにした。pHは、細胞の代謝活性による、特に乳酸の放出による(Kropp et al.)典型的な培地の酸性化に起因して、7.25(新鮮培地)から6.5に及んだ。特筆すべきことに、すべてのプロセスパラメータは、15~20日目辺りでマクロファージ産生の定常状態に達した後、反復性パターンの維持を示し、プロセスの全体的な安定性が確認された(
図2D)。この所見は、マクロファージ採取と並行して週1回判定された、グルコース、乳酸、乳酸デヒドロゲナーゼ、および浸透圧の安定した値によって更に裏付けられる。同様に、マクロファージの活性化に関連する、IL2、IL6、IL8、MCP1、TNFα、およびIFNα2などのサイトカイン/ケモカインの分泌が、第1の採取(第2週)以降から検出され(
図2E)、CD45
+iPSC-MACの出現に対応した。特筆すべきことに、バイオリアクターにおいて培養されたMCFCは、プロセス全体にわたってそれらの形態を持続し、典型的な形態とCD45
+CD14
+表面マーカープロファイルとをもつiPSC-MACを連続的に生成し、その純度は経時的に増加した(
図2F)。更に、オービタルシェーカー上の6ウェル懸濁プレートにおけるバイオリアクターから誘導されたMCFCの長期培養は、更に8週間にわたるiPSC-MACの継続的産生をもたらした(データは示さない)。
【0144】
バイオリアクター由来のiPSC-MACは、PBMC-MACの表現型および転写の特性評価を再現する
バイオリアクター由来のiPSC-MACの詳細な特性評価は、CD45
+CD11b
+CD163
+CD14
+CD34
-TRA1-60
-表現型、および組織培養プレートへの接着後の典型的な形態を明らかにした(
図3Aおよび3B)。全トランスクリプトームの教師なし階層的ヒートマップクラスタリングによる、未分化hiPSCおよび末梢血単核球細胞(PBMC)由来マクロファージ(PBMC-MAC)に対するiPSC-MACの比較は、iPSCと比較した場合のiPSC-MACおよびPBMC-MACの近接性を明らかにした(
図3C)。多能性および自然免疫応答の活性化に関連する遺伝子の分析により、iPSCのマクロファージ様細胞への効率的な分化が確認された(
図3Dおよび3E)。重要なことに、マクロファージ機能に関連する遺伝子、例えばtoll様受容体(TLR)1および4、CD14、またはNF-κBシグナル伝達経路の構成要素[遺伝子オントロジー(GO)自然免疫の活性化:0002218]は、iPSCと対比して、iPSC-MACおよびPBMC-MACにおいて有意に上方調節された(
図3E)。
【0145】
多能性hiPSCと対比したiPSC-MAC、および多能性hiPSCと対比したPBMC-MACにおける、上位100種の上方調節された遺伝子の比較は、54種の上方調節された遺伝子の共通する遺伝子セットを明らかにした。CD14、CD68、CSFR1、CCR1、およびCYBBを含むこれらの転写物は、CD14
+単球、全血、およびCD33
+ミエロイド細胞に割り当てられる(
図3F)。注目すべきことに、もっぱらiPSC-MACにおいて上方調節されたこのセットの遺伝子(46遺伝子)は、CD14
+単球およびCD33+ミエロイド細胞にも割り当てられ、CD163、白血球免疫グロブリン様受容体A6(LILRA6)、スタビリン1(STAB1)、またはホルミルペプチド受容体1(FPR1)などの遺伝子を含んだ(
図3G)。対照的に、PBMC-MACのみにおいて上方調節されたこのセットの46遺伝子は、CD56
+ナチュラルキラー(NK)細胞、全血、および樹状細胞に関連する遺伝子セット[例えばヒト白血球抗原(HLA)、CCL5/RANTES、またはグランザイム(GZM)AおよびB]において最も高いスコアを明らかにした。この観察は、CD56
+/CD3
-NK細胞の汚染により説明され得る(データは示さない)。表1は、PBMCから誘導されたマクロファージと直接比較した、本発明のマクロファージにおいて差次的に調節される(上方調節あるいは下方調節される)上位100種の遺伝子を示す。
【0146】
バイオリアクター由来iPSC-MACのインビトロ抗菌活性
次に、バイオリアクター由来iPSC-MACを、それらのインビトロ抗菌活性について評価した。蛍光標識されたラテックスビーズと共にiPSC-MACをインキュベーションした後の異なる時点における走査型電子顕微鏡観察(SEM)は、刺激後早期の全体的な細胞形態における典型的な変化、および経時的なビーズの効率的な食作用性取り込みを明らかにした(
図4A)。更により重要なことに、iPSC-MACはまた、4℃では食作用が観察されなかったが、37℃において、PBMC-MACと比較可能な効率でGFP標識P.エルギノーサを貪食し、活発な食作用が確認された(
図4B)。iPSC-MACが活性化マクロファージの特性に向かってそれらのトランスクリプトームをリモデリングする能力に関する見識を得るために、P.エルギノーサ(PAO1)との接触の前および後にiPSC-MACの全トランスクリプトーム分析を実施した。
【0147】
【0148】
炎症応答または自然免疫応答(の活性化)に関連する遺伝子オントロジー(GO)の階層的クラスター分析は、サイトカイン(例えばIL23A、TNFα、IL1A、IL6、INFG1)、ケモカイン(例えばCCL5、CCL20、CCL4、CXCL3)、および病原体接触に応答したNFκBシグナル伝達に関与する分子の著しい上方調節を示した(
図4C)。同様に、病原体接触後に5倍を超えて上方調節された遺伝子の遺伝子オントロジーエンリッチメント分析は、炎症応答、リポ多糖(LPS)に対する応答、および細菌起源の分子、ならびに創傷に対する応答を含め、生物学的プロセスに関連するGOについて高いスコアを明らかにした。更に、分子機能に関連するGOは、サイトカイン/ケモカイン活性、および受容体結合またはGタンパク質共役型受容体結合などのGO項目のエンリッチメントを明らかにした。これらの上方調節された遺伝子の疾患および機能に関するエンリッチメント分析は、炎症性疾患および応答、免疫細胞輸送、抗菌応答、ならびにフリーラジカル捕捉を含むオントロジーを明らかにした(
図4D)。
【0149】
iPSC-MACは、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)による呼吸器感染を防止する
iPSC-MACのインビボの治療有効性を評価するため、肺胞マクロファージ発達障害をもつ免疫不全系統である(Willinger et al., 2011)、ヒト化マウスモデルC;129S4-Rag2tm1.1FlvCsf2/Il3tm1.1(CSF2,IL3)FlvIl2rgtm1.1Flv/J(huPAPマウス)を利用した。HuPAPマウスは、肺感染に対する感受性を含め、ヒト疾患である肺胞タンパク症(PAP)の特質を再現する。加えて、リンパ球新生障害を有するが正常な肺胞マクロファージ発達を示す、第2の免疫不全マウスモデル:NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Wjl/SzJZtm(NSG)において、iPSC-MACを利用した。
【0150】
まず、huPAPマウスをP.エルギノーサ実験室株PAO1に感染させ、同じ点滴プロセスにおいて4×10
6個のiPSC-MACを共投与した(PAO1感染単独のマウスを対照とした)。感染の経過を注意深くモニタリングし、マウスを感染の24時間後に最終分析のために屠殺した(
図5A)。感染huPAPマウスは、3.5±0.9の上昇した疾患スコアによって示されるように、感染後4時間で既に臨床症状を示し、疾患スコアは、24時間後には最大6.1±0.4まで経時的に徐々に増加した。加えて、直腸温度の35.0±0.3℃への低下、および2.6±0.5gの体重減少が、感染24時間後の感染動物において観察された(すべて平均±s.e.m.、n=6)(
図5Bおよび5C)。対照的に、iPSC-MACの肺移植(PiMT)を同時に受けた動物は、軽度の感染症状しか示さなかった(
図5B)。これは、感染24時間後のPiMT処置動物における37.1±0.2℃の正常な直腸温度、0.6±0.2の非常に低い疾患スコア、およびほんのわずかな-0.89±0.2gの体重減少と一致していた(すべて平均±s.e.m.、n=6)(
図5Bおよび5C)。同様のPiMTの有益な効果は、肺機能を測定するための頭部突出型体幹プレチスモグラフィー(Wolbeling et al., 2010)によって実証された。感染動物は、一回換気量ならびに呼気および吸気時間の減少、ならびに呼吸速度の増加を示したが、感染+PiMT群の動物は、分析されたすべてのパラメータについて正常な値を示した(
図5D)。PiMTの結果として、移植マウスは、感染24時間後の肺において、それらの非移植対照と比較して有意に低減された細菌数を示した(
図5E)。更に、赤血球は、PiMTを受けなかった感染マウスの気管支肺胞洗浄液(BALF)のみに存在した(
図5F)。更に、感染+PiMTマウスまたは対照マウスにはなく、感染動物のBALFおよび肺において見られたマウスGR1
+顆粒球の増加により、肺炎症が示された(
図5G)。加えて、組織学的評価は、感染マウスにおける広範な顆粒球の浸潤、重度の出血、および肺胞浮腫を明らかにしたが(スコア:13.7±0.3)、感染+PiMT動物の肺は、わずかな変化しか示さなかった(スコア:2.0±1.2、いずれも平均±s.e.m.、n=3)(
図5H)。感染+PiMT動物における低減された炎症は、肺およびBALFにおけるhCD45
+細胞、ならびに右肺の組織切片におけるマクロファージの存在の検出と関連していた(
図5Iおよび8)。
【0151】
肺胞マクロファージ発達が正常な第2の免疫不全マウス系統であるNSGマウスにおいて、同様の結果が取得された。感染NSG動物は、感染6時間後および24時間後において、高い疾患スコアおよび直腸温度の顕著な低下といった感染の顕著な症状を現した。明らかに対照的に、iPSC-MACを同時に受けた動物は、感染6時間後および24時間後に、それぞれ、正常な体温およびごくわずかにのみ増加した疾患スコアを示した(
図9Aおよび9B)。更に、感染24時間後の細菌数の分析は、感染+PiMTマウスの肺において有意に低減された細菌負荷を明らかにした(
図9C)。
【0152】
治療用PiMTは、重度呼吸器感染からマウスをレスキューする
同時感染実験においてiPSC-MACの有効性を実証した後、本発明者らは、より臨床的に意義のある治療用PiMT処置アプローチを評価した。これらの実験では、huPAPマウス肺内にP.エルギノーサを感染させ、第1の疾患症状が現れるまで(疾患スコア≧5により判定した)、3~4時間にわたって注意深くモニタリングした。その後、このモデルにおけるマウスは、感染関連症状が直ちに顕在化した後にのみ、4×10
6個のiPSC-MACを受けた(感染+PiMT)。注目すべきことに、感染対照マウスは、PiMTの代わりにPBSのみを受けた(感染)(
図6A)。
【0153】
この感染および処置スケジュールにおいて、治療用PiMT処置マウスは、疾患スコアの減少、ならびに非感染動物と比較可能な程度までの直腸温度および体重の正規化を、処置後4~8時間以内に既に示した。対照的に、PBSを受けた感染マウスは、経時的に明白な疾患進行を示した(
図6B、6D、および6E)。注目すべきことに、感染の24時間後、感染マウスは著しい疾患症状を示したが、治療用PiMTを受けた動物は、有意に低減された疾患スコアを示した(感染動物では8.1±0.2に対して感染+PiMTでは1.8±0.2、平均±s.e.m.、n=3)。加えて、感染マウスにおける上昇した疾患スコアは、対照動物および治療用PiMTを受けたマウスと比較すると、明らかに制限された活性と関連していた(
図6C)。治療用PiMTの効率は、感染+PiMTマウスにおける感染24時間後の正規化された直腸温度および体重値、ならびに肺細菌数の顕著な低減(
図6B、6D、6F)によって更に立証された。同時移植モデルにおける我々の所見を再現して、感染+PiMT群における動物のBALFは、感染した非移植対照と比較して低下した赤血球レベルを示した。この観察は、hIL6、hIL8、hINFa2、hMCP-1、およびTNFαなどの重要な炎症促進性ヒトサイトカイン/ケモカインの検出を伴った(
図6Gおよび6H)。肺組織切片により、炎症を更に評価した。ここで、感染マウスは、いくつかの領域で広範な顆粒球の浸潤、重度の出血、および肺胞浮腫を示したが、これらは、バイオリアクターから得たiPSC-MACで処置したマウスにおいてはほとんど検出不可能であった(
図6I)。
【0154】
考察
本研究において、本発明者らは、細菌感染のための細胞治療薬としてマクロファージを利用する処置の概念を評価してきた。臨床的に意義のある数の自家またはドナー由来マクロファージが体細胞源からはほとんど産生され得ないため、本発明者らは、相当量の機能的なマクロファージを生成するためにhPSCを利用する可能性を調査した。
【0155】
感染を標的とするための細胞アプローチとしてのiPSC誘導体の使用は、これまで真剣に考えられてこなかった。これは、治療的に意義のある数における特定の子孫の産生に関するhPSCの推定される可能性が未だ実践に応用されていないという事実によって説明され得る。培養培地処方における近年の進歩を活用し、本発明者らは、ヒトPSCを浮遊凝集物として培養および分化させようと試み、撹拌タンクバイオリアクター技術を幹細胞の要件に適合させて、iPSCおよびそれらの誘導体の臨床的なスケールアップを可能にした。細菌感染に対する細胞治療薬としてのiPSC-マクロファージの適用を発展させるために、またより具体的にはP.エルギノーサによって誘発された肺感染を排除するために、本発明者らはまず、設備の整ったバイオリアクターにおけるヒトiPSCのスケーラブルかつ連続的な血球分化プロセスを確立した。
【0156】
インビボ研究では、肺胞マクロファージが欠如している免疫不全系統であるhuPAPマウスを用いた。このマウスモデルは、PAP患者において典型的に観察される肺感染に対する感受性(Trapnell et al., 2003)を含め、肺胞タンパク症(PAP)の重要な特質を再現するため(Willinger et al., 2011)、これは臨床的に意義がある。このマウスモデルにおいて、同時のPiMT、または更により重要なことには治療用PiMTによる、急性P.エルギノーサ感染の防止が、短い時間枠内で極めて効果的であった。これらの概念実証実験は、高い細胞用量を用いて実施した。より低い細胞数を用いても同様の治療効果が達成可能であり得る。しかしながら、この最大の細胞用量を用いても、いずれの処置シナリオにおいても明らかな有害事象は観察されず、これは、骨髄由来マクロファージ(BMDM)を用いたマクロファージ肺移植療法研究における観察(Happle et al., 2014、Suzuki et al., 2014)と一致する。
【0157】
マウス1匹当たり25gの体重を考えると、呼吸器感染の処置のためのiPSC-MACの臨床応用は、60kgの患者に対しておよそ1×1010個のiPSC-MACを必要とすることになる。更なるプロセス最適化を用いずとも、これは40~60Lの産生規模に相当し、原理上は現在のバイオリアクター技術を用いて実現可能である(Kropp et al., 2016b)。注目すべきことに、本発明のバイオリアクターに基づく分化の連続的プロセスモニタリングは、とりわけ反復バッチ培養の初めの2~3日間における、バイオマスの実質的増加を明らかにした。これには、培地交換前の最後の数日間における溶存酸素レベルの部分的回復およびpHの顕著な低下が続いた。これらの観察は、プロセス限定因子の存在を示唆し、更なるプロセス最適化の可能性を強調する。これは、hPSCおよびそれらの子孫の細胞収量の増加を倍増させることができる(Kropp et al., 2016a)、灌流システムならびに酸素、pH、および他のプロセスパラメータのフィードバック制御の適用と組み合わせた、より高い細胞密度における培養によって達成され得る。
【0158】
急性感染モデルにおけるiPSC-MACの優れたインビボ機能性を考えると、慢性閉塞性肺疾患(COPD)(Rakhimova et al., 2009)または嚢胞性線維症(CF)(Oliver et al., 2000)を患う患者において頻繁に観察される、P.エルギノーサの慢性感染におけるPiMTの治療有効性が予想される。とりわけCFは、PiMTの適用に関して興味深い疾患シナリオを表すが、それは、嚢胞性線維症コンダクタンス調節因子(CFTR)遺伝子における病原性突然変異はまた、プロフェッショナル貪食細胞の機能性と、したがって感染に対する宿主の防御とを妨害するためである(Bonfield et al., 2012、Bruscia et al., 2009)。単一のPiMTは急性感染に対する治療有効性を示したが、慢性疾患において確立された感染を排除するためには、反復性の治療介入または遺伝的に増強された細胞の適用(Pasula et al., 2016)が必要とされる場合がある。
【0159】
移植されたiPSC-MACSの長期生着および持続的機能性が予想される。試験した移植シナリオにおいて、iPSC-MACは24時間時点で依然として検出されたが、それより後の時点は本研究において調査されなかった。先行研究は、1年間より長くにわたるBMDMの生着を実証した(Suzuki et al., 2014)。更に、異なる複能性前駆細胞から誘導されたマウスマクロファージの肺移植は、クロマチンリモデリング、局所組織環境への適応、および長期組込みの能力を示した(Happle et al., 2014、Lavin et al., 2014、Suzuki et al., 2014、van de Laar et al., 2016)。これに従い、本発明のiPSC-MACは、インビトロでの病原体接触後における炎症促進性遺伝子発現の急速な上方調節、およびインビボでの効率的な抗菌活性を実証し、移植後の肺における炎症性環境に対するそれらの応答能力を示唆している。
【0160】
本発明者らによって観察された強力かつ急速な抗菌効果および治療効果は、細菌感染を標的とするためのiPSC-MACの広い適用可能性および迅速な臨床実施に関して特に重要である。P.エルギノーサに対するiPSC-MACの抗菌活性を評価したが、貪食細胞に基づく細胞療法は、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)もしくはスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)などの他のグラム陰性または陽性細菌、または甚大な健康問題および経済的問題を同時にもたらす移植片感染に関連する病原体によって引き起こされる、いくつかの異なる感染シナリオにおける広範囲の用途を可能にし得る。とはいえ、標準的療法またはリザーブ抗生物質療法に対する耐性がある病原体の数の増加を考えると(Aloush et al., 2006、Falgenhauer et al., 2016、Gould, 2013、Hirsch and Tam, 2010、Liu et al., 2016、Schroeder and Stephens, 2016)、新たな形態の処置には、特定の臨床的意義がある。
【0161】
まとめると、本発明者らは、細菌感染の処置のためのPSC由来貪食細胞の治療的適用を提供する。本発明者らは、臨床的および産業的なスケールアップを可能にする規定の条件下における貪食細胞産生の実現可能性を実証し、例えば重度呼吸器感染を標的とする新たな処置アプローチとしてのiPSC-MAC移植の有効性および安全性の証拠を提供する。この技術は、プロセスアップスケーリングおよび更なる造血細胞型の生成、ならびに他の前臨床モデルにおける評価を含め、多種多様な疾患に対する革新的な細胞に基づく処置戦略を可能にする。
【0162】
実施例2
GMPに準拠する懸濁iPSC培養および血球分化
単一iPSCの生成:
マウスフィーダー細胞上で培養したiPSCから直接、単一iPSCを誘導した。マウスフィーダー細胞上で培養したiPSCを、37℃における細胞培養インキュベーターにおいて最大5分間にわたり、Accutase[細胞解離試薬、StemPro(商標)Thermo Scientific]と共にインキュベートした。Accutase反応を、PBSまたはDMEM/F12培地(Thermofisher Scientific)のいずれかで希釈することによって停止させた。再懸濁した細胞のピペットによる吸引および吐出により、凝集塊の解離を促し、単一iPSCを得た(3回以下および非常に低速)。細胞を計数し、規定の基質(次のステップを参照されたい)における単層培養に供した。代替的に、単一iPSCは、以前に説明されているように細胞を処置し、基質をコーティングしたディッシュ[例えばGelTrex(Thermofisher Scientific)、Matrigel(Corning Fisher Scientific)、またはラミニン(例えばCellAdhere Laminin-521、Stem Cell Technologies)]において培養したiPSCから誘導してもよい。
【0163】
単層の細胞の分割:
6ウェル組織培養プレート[例えばNUNCプレート(Thermofisher Scientific)]を、少なくとも1時間にわたり、基質[例えば、GelTrex(Thermofisher Scientific)、Matrigel(Corning Fisher Scientific)、またはラミニン(例えばCellAdhere Laminin-521、Stem Cell Technologies)]でコーティングした。単一iPSCを、更に拡大するため、予めコーティングされたプレートにおいて、ROCK阻害剤(10μM)が補充されたE8100またはE850培地(Stem Cell Technologies)中に播種した。生成された最大2×105個の単一iPSCを、6ウェルプレートの各ウェルにおいて単層として培養した。培地を2日目に変え、3日目または4日目に継代培養した。播種の翌日は培地を交換しなかった。これらの培養物を少なくとも10継代にわたって維持した。
【0164】
凝集物の形成:
基質上で単一細胞として2継代より多く培養した5×105個の単一iPSCを、凝集物の形成のために、懸濁培養にて、オービタルシェーカー(70rpm)上のGreiner CELLSTARマルチウェル培養プレート(Sigma Aldrich)において、3mlのROCK阻害剤(10μM)が補充されたE850またはE6培地(Stem Cell Technologies)に播種した。凝集物の形成が24時間以内に開始した。培地を2日目に交換し、2~2,5mlの培地に変えた。3日目の凝集物を分化のために移したか、あるいは懸濁下で単一細胞として継代培養した。
【0165】
血球分化:
中胚葉のプライミングにより、血球分化の誘導を開始させた。
【0166】
中胚葉のプライミングは、50ng/mlのhVEGF、50ng/mlのhBMP4、および20ng/mlのhSCFが補充された3mlのX-VIVO15に、3日間にわたって約100個の凝集物を移すことによって開始させ、これには、後に(中胚葉のプライミングの4日目において)25ng/mlのIL3の添加を続けた。プライミングされた凝集物の後続の血球分化を、25ng/mlのIL-3および50ng/mlのM-CSFが補充された3mlのX-VIVO15に培地を変えることによって遂行した。中胚葉のプライミング、およびその後の血球分化を、85rpmのオービタルシェーカーにおいて行なった。
【0167】
結果として得られた細胞は、ヒトにおける臨床適用のために好適であった。
【0168】
実施例3
低減されたサイズを有する細胞の調製
当技術分野において公知の方法に従って、例えばマウスから、マクロファージを産生または単離した。代替的に、マクロファージ細胞株U937を使用した。
【0169】
細胞を洗浄し、高張液(例えば、スクロース溶液などの糖溶液)と共に15分間~1時間にわたり、典型的には約15分間にわたり、4℃~37℃において、好ましくは37℃においてインキュベートした。高張液は、300mosm超、好ましくは350mosm超のオスモル濃度を有した。300mosm(対照)、600mosm、800mosm、および1000mosmとのインキュベーションに関するフローサイトメトリーにおける前方散乱によって測定された、低減されたサイズが
図11および13に示されている。
【0170】
マウス初代マクロファージについては、規定のオスモル濃度におけるインキュベーションの後、顕微鏡観察、および例えばImageJを用いたコンピュータ分析により、次の平均直径が判定された:
300mosm→平均面積155.7μm2、14.08μmの平均直径に相当、
600mosm→平均面積131.6μm2、12.94μmの平均直径に相当、
800mosm→平均面積113.9μm2、12.04μmの平均直径に相当、
1000mosm→平均面積115.2μm2、12.11μmの平均直径に相当。
【0171】
U937細胞については、規定のオスモル濃度におけるインキュベーションの後、顕微鏡観察、および例えばImageJを用いたコンピュータ分析により、次の平均直径が判定された:
300mosm→平均面積113.8μm2、12.04μmの平均直径に相当、
600mosm→94.34μm2、10.96μmの平均直径に相当、
800mosm→82.63μm2、10.26μmの平均直径に相当、
1000mosm→74.26μm2、9.72μmの平均直径に相当。
【0172】
実施例4
細胞培養上清からのタンパク質の調製
実施例1に記載したように、本発明の方法に従ってマクロファージを産生した。本発明者らは、質量分析およびウェスタンブロッティングにより、細胞が、S100A7、S100A8、およびS100S9変異体を含むがこれらに限定されない、高レベルのS100タンパク質を懸濁培養物の培養上清中に放出することを見出した。S100A8およびS100A9の遺伝子発現は、hPSCと比較して500倍超の増加、およびPBMC由来マクロファージと比較可能な発現を示した。S100タンパク質は、例えば、アフィニティークロマトグラフィーによって、または当技術分野において公知の他のクロマトグラフィー法、またはそれらの組み合わせによって、細胞培養上清から単離される。