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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】軸流回転機械の静翼環及び軸流回転機械
(51)【国際特許分類】
   F01D 9/04 20060101AFI20231013BHJP
【FI】
F01D9/04
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020041124
(22)【出願日】2020-03-10
(65)【公開番号】P2021143607
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】514275772
【氏名又は名称】三菱重工航空エンジン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】富井 正幸
【審査官】高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-072688(JP,A)
【文献】特開2010-151045(JP,A)
【文献】特開2012-112383(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0360354(US,A1)
【文献】特開2003-214399(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 9/02
F01D 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の静翼と、
前記複数の静翼の先端部に設けられる外周側シュラウドと、
前記複数の静翼の根元部に設けられる内周側シュラウドと、
前記外周側シュラウド、及び、前記内周側シュラウドの内の一方に設けられる一以上の支持部材と、
前記支持部材に対向して設けられる固定部材と、
前記固定部材に対する前記支持部材の拘束状態を変更可能に拘束する一以上の拘束部と、
前記拘束部の拘束状態を変更可能に制御する制御部と、
を備え
前記拘束部は、一以上の圧電素子を備え、
前記制御部は、軸流回転機械の所定の次数の励振周波数が、静翼環の前記所定の次数の固有振動数に対して所定の範囲の値に達した場合に、
電源装置に接続された、前記圧電素子に対して、前記所定の次数の励振周波数が前記所定の次数の固有振動数に一致しないように設定された、
所定の値の電圧を印加することで、
電圧が印加された前記圧電素子の寸法が変化し、前記拘束部の支持剛性が変化することで前記拘束状態を変更する、
軸流回転機械の静翼環。
【請求項2】
前記拘束部は、前記支持部材と前記固定部材との間に設けられ、
前記支持部材に対して前記固定部材を押圧することで固定する付勢部材と、
前記付勢部材に作用する荷重を付加する荷重負荷部材と、
を備える請求項1に記載の軸流回転機械の静翼環。
【請求項3】
前記付勢部材は、屈曲部の外側が前記固定部材に当接した板バネを備え、かつ、
前記荷重負荷部材は、前記固定部材の前記板バネが当接する箇所の反対側に圧電素子を備える
請求項2に記載の軸流回転機械の静翼環。
【請求項4】
前記制御部が印加する所定の値の電圧により、電圧が印加された前記圧電素子の寸法が変化し、前記板バネの付勢力に対抗する荷重が変化し、前記拘束部の支持剛性が変化する
請求項3に記載の軸流回転機械の静翼環。
【請求項5】
前記付勢部材は、屈曲部の外側が前記固定部材に当接した板バネを備え、かつ、
前記荷重負荷部材は、前記板バネの屈曲部の内側に圧電素子を備える
請求項2に記載の軸流回転機械の静翼環。
【請求項6】
前記制御部が印加する所定の値の電圧により、電圧が印加された前記圧電素子の寸法が変化し、前記板バネの付勢力が変化し、前記拘束部の支持剛性が変化する
請求項5に記載の軸流回転機械の静翼環。
【請求項7】
前記拘束部は、一以上の孔が形成された前記固定部材と、
前記一以上の孔に対応する数の圧電素子と、を備え、
前記圧電素子は、前記固定部材に形成された一以上の孔に挿入された上で、両端部が前記支持部材に対して固定された
請求項1に記載の軸流回転機械の静翼環。
【請求項8】
前記制御部が印加する所定の値の電圧により、電圧が印加された前記圧電素子の寸法が変化し、前記拘束部の支持剛性が変化する
請求項7に記載の軸流回転機械の静翼環。
【請求項9】
前記支持部材は、前記内周側シュラウドに設けられ、
前記固定部材は、シール保持板を備える、
請求項2から請求項8のいずれか一項に記載の軸流回転機械の静翼環。
【請求項10】
前記支持部材は、前記外周側シュラウドに設けられ、
前記固定部材は、ケーシングを備える、
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の軸流回転機械の静翼環。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の軸流回転機械の静翼環を備える、軸流回転機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、軸流回転機械の静翼環の固有振動数を変化させる静翼環及び軸流回転機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軸流回転機械の圧縮機の静翼環は、上流側及び下流側の動翼の翼枚数と回転数で決まる周期的な流体力の作用を受ける。周期的な流体力は、圧縮機の静翼環に対する励振力として作用し、静翼環が振動する。これまでは、圧縮機について述べたが、タービンについても同様である。
【0003】
軸流回転機械の設計においては、固有振動数と励振周波数が一致することにより発生する共振を回避するように設計が行われている。静翼環の固有振動数は構成要素の材質、形状、支持方法等の要因によって変化する。従って、軸流回転機械の構成要素の固有振動数と、軸流回転機械の通常使用状態における励振周波数が一致しないように設計することで、共振を回避することが一般的に行われている。
【0004】
ところで、軸流回転機械の内、航空機用エンジンに用いられるガスタービンエンジンは、使用中に急加速が必要になる場合がある。また、高度・機速で表現したフライトエンベロープが広範囲の場合は、高度・機速の変化に伴って、エンジン入口の空気の圧力・温度が変化することから、回転数が変化する。従って、発電用ガスタービンエンジンとは異なり、広範囲の回転数で運転される。飛行安全を考慮すると、広範囲の回転数において、共振の発生を防ぐ必要がある。
【0005】
一方、固有振動数と励振周波数とが、一致することにより発生する共振によって生じる動的応力に静翼が耐えることが出来るように、静翼の構造強度を上げる手法によって対処することが出来る。翼の構造強度を上げる方法としては、静翼の翼厚さの厚肉化が挙げられる。しかし、静翼の翼厚さの厚肉化を採用した場合の弊害として、静翼部の圧力損失の増加が挙げられる。何故ならば、静翼の翼厚さの厚肉化により、流体の流路を塞ぐブロッケージが大きくなり、静翼部の圧力損失が増加するからである。静翼部での圧力損失が増加すると、圧縮機の静翼の場合は、動翼で圧縮した空気の圧力が、静翼を通過する際に減少する。また、タービンの静翼の場合は、静翼を通過する際に圧力が減少し、動翼で回収する圧力を下げてしまう。その結果、全体としての軸流回転機械の性能が低下する。従って、静翼の翼厚さを薄く保った状態で、固有振動数と励振周波数の一致による共振を避ける必要がある。
【0006】
従来技術として、特許文献1に記載のように、動翼シュラウドの隣接する動翼シュラウドとの接触部に圧電素子を設け、動翼シュラウドの間に働く接触反力を調整可能とすることで、動翼に適切な減衰力を作用させ、振動を減衰させる発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-138904号公報
【0008】
しかし、上述の開示は、動翼に作用する励振力に対して、減衰力を作用させて対処するものであるから、固有振動数と励振周波数の一致を回避することは出来ないという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本開示は上記問題点に鑑みてなされたものであって、静翼環の支持剛性を変えることによって、静翼環の固有振動数を変化させ、静翼環の固有振動数と励振周波数の一致による共振を回避することを可能とする軸流回転機械の静翼環及び軸流回転機械を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成する為に、本開示に係る軸流回転機械の静翼環は、複数の静翼と、複数の静翼の先端部に設けられる外周側シュラウドと、複数の静翼の根元部に設けられる内周側シュラウドと、外周側シュラウド、及び、内周側シュラウドの内の一方に設けられる一以上の支持部材と、支持部材に対向して設けられる固定部材と、固定部材に対する支持部材の拘束状態を変更可能に拘束する一以上の拘束部と、拘束部の拘束状態を変更可能に制御する制御部と、を備える。
【0011】
本開示に係る軸流回転機械は、上記の軸流回転機械の静翼環を備える。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、静翼環の支持剛性を変えることによって、運転範囲内での回転数では静翼環の固有振動数と励振周波数が一致しないように、静翼環の固有振動数を変えることが出来ることから、静翼環の固有振動数と励振周波数の一致による共振を回避することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本開示が適用される軸流回転機械の全体構成を示す概略図である。
図2図2は、本開示の課題に係る運転範囲内での共振を説明する説明図である。
図3図3は、本開示の軸流回転機械の静翼環を示す概略図である。
図4図4は、本開示の静翼環の拘束部の第一実施例を示す概略図である。
図5図5は、本開示の静翼環の拘束部の第二実施例を示す概略図である。
図6図6は、本開示の静翼環の拘束部の第三実施例を示す概略図である。
図7図7は、本開示の静翼環の制御部を用いた静翼環の固有振動数の変化の第一実施例を示す説明図である。
図8図8は、本開示の静翼環の制御部を用いた静翼環の固有振動数の変化の第二実施例を示す説明図である。
図9図9は、本開示の静翼環の制御部を用いた静翼環の固有振動数の変化の第三実施例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本開示に係る軸流回転機械の静翼環の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例により、この開示が限定されるものではない。
【0015】
図1は、本開示が適用される軸流回転機械の全体構成を示す概略図である。本開示に係る軸流回転機械としては、例えば、航空機用のターボファンエンジン、ターボジェットエンジン、ターボプロップエンジン、ターボシャフトエンジン、ギアードターボファンエンジン、ターボラムジェットエンジン、発電用のガスタービンエンジン、船舶用のガスタービンエンジン等が挙げられるがこれに限定するものではない。以下の説明では航空機用のターボファンエンジンを例に挙げて説明する。
【0016】
図1に示すように、ターボファンエンジン1は、ファン2と、圧縮機3と、燃焼室4と、タービン5とを備える。ターボファンエンジン1の基本的な動作は、ファン2が回転軸6に沿って、回転することによって、吸入した流体(本実施例では空気)を、圧縮機3によりさらに高温・高圧に圧縮する。燃焼室4は圧縮機3によって、高温・高圧に圧縮された流体に燃料を混合し、着火させることで、熱エネルギーを流体に付与する。タービン5は、膨張する燃焼ガスの熱エネルギーを、運動エネルギーに変換して、タービン5と同一の軸に取り付けられたファン2、及び、圧縮機3を駆動する。そして、タービン5を通過した燃焼ガスは、排気ダクトから排出される。なお、圧縮機3は、複数の圧縮機で構成され、それぞれが別々の軸に組み付けられる多軸式のものを採用しても良い。これは、タービン5についても同様である。
【0017】
圧縮機3は、動翼と、静翼と、動翼が組み付けられるディスクと、静翼の両端に形成される外周側シュラウド、及び、内周側シュラウドと、静翼の内周側シュラウドの内周側に組み付けられるシール保持板と、シール保持板が取り付けられたシールと、を備える。
【0018】
タービン5は、動翼と、静翼と、動翼が組み付けられるディスクと、静翼の両端に形成される外周側シュラウド、及び、内周側シュラウドと、静翼の内周側シュラウドの内周側に組み付けられるシール保持板と、シール保持板が取り付けられたシールと、を備える。
【0019】
図2は、本開示の課題に係る共振を説明する説明図である。図2に示すように、軸流回転機械の所定の次数の励振周波数が、静翼環の所定の次数の固有振動数と一致した場合、共振が発生する。所定の次数の励振周波数が、所定の次数の固有振動数に一致しない場合であっても、励振周波数が、固有振動数に近付くと、共振による振幅が大きくなる。
【0020】
(静翼環の構成)
図3は、本開示に係る軸流回転機械の静翼環の概略図である。本開示に係る軸流回転機械の静翼環は、例えば、上記の圧縮機3の静翼部を構成するものとなっている。静翼環は、周方向に並べて設けられることで、円環形状となる静翼段を構成する。本開示に係る軸流回転機械の静翼環は、複数の静翼75と、複数の静翼75の先端部に設けられる外周側シュラウド76と、複数の静翼75の根元部に設けられる内周側シュラウド74と、外周側シュラウド76、及び、内周側シュラウド74の内の一方に設けられる一以上の支持部材73(73A、73B、73C)と、支持部材73に対向して設けられる固定部材72と、固定部材72に対する支持部材73の拘束状態を変更可能に拘束する一以上の拘束部と、拘束部の拘束状態を変更可能に制御する制御部8と、を備える。
【0021】
外周側シュラウド76は、翼の先端部分の圧縮空気のシール作用を得る目的などの為、複数の翼に対して翼の先端部分を、共通の一体構造とすることで、ケーシング部への圧縮空気の流入を防ぐ構造に形成される。
【0022】
内周側シュラウド74は、翼の付け根部分の圧縮空気のシール作用を得る目的などの為、複数の翼に対して翼の付け根部分を、共通の一体構造とすることで、内部側への圧縮空気の流入を防ぐ構造に形成される。
【0023】
支持部材73は、静翼環を支持する機能を備える部材である。支持部材73は、静翼環を支持可能な強度を備える部材によって形成されることが好ましい。支持部材73は、静翼環を支持する機能を備える形状に形成されることが好ましい。支持部材73は、内周側シュラウド74の内周面に設けられる。支持部材73は、内周側の端部が、固定部材72を挟み込む形状、例えば、凹形状となっている。
【0024】
固定部材72は、支持部材73を介して、静翼環を固定する対象となる部材である。固定部材72は、支持部材73を介して、静翼環を固定可能な強度を備える部材によって形成される。固定部材72は、支持部材73を介して、静翼環を支持する機能を備える形状に形成される。固定部材72は、例えば、シール保持板である。シール保持板は、シール71を保持する機能を有する部材である。シール保持板は、内周側シュラウド74の内周側に設けられ、支持部材73に対向して設けられる。具体的に、シール保持板は、凹形状となる支持部材73に挟み込まれるように配置される。シール保持板はシール71を備える。シール保持板に備えられるシールとしては、一例としてラビリンスシールが挙げられる。ラビリンスシールは、ハニカム形状のシール受け面と、鋸歯形状のシール歯面によって構成される。
【0025】
拘束部は、固定部材72に対する支持部材73の拘束状態を変更可能に拘束する機能を備える。拘束部において、上述したように、支持部材73は、内周側シュラウド74に設けられ、固定部材72は、シール保持板が適用される。
【0026】
制御部8は、拘束部の拘束状態を変更可能に制御する機能を備える。静翼環に備えられた制御部8は、軸流回転機械の制御部の一部を構成するものであって良いし、軸流回転機械の外部に備えられた制御部と、無線又は電気通信回線を介して接続される制御部であっても良い。制御部8は、一例として、CPU(Central Processing Unit)等の集積回路を含んでいる。
【0027】
本開示に係る軸流回転機械の静翼環は、上述の構成を備えることによって、静翼環に備えられた支持部材73の拘束状態を、制御部8の制御によって変化させ、静翼環の支持剛性を変化させることが出来る。従って、静翼環の支持剛性を変化させることで、静翼環の固有振動数を変化させることが出来る。
【0028】
(静翼環の拘束部の構成)
本開示の一態様に係る拘束部は、支持部材と固定部材との間に設けられ、支持部材に対して固定部材を押圧することで固定する付勢部材と、付勢部材に作用する荷重を付加する荷重負荷部材と、を備えることが好ましい。
【0029】
付勢部材は、エネルギーを蓄えることによって、付勢力を発生させる機能を有する部材である。付勢部材としては、板バネ、コイルばね等のバネを用いることが出来るが、これに限定されるものではない。
【0030】
荷重負荷部材は、荷重を負荷する機能を有する部材である。荷重負荷部材としては、圧電素子、油圧アクチュエータ、電動アクチュエータ等を用いることが出来るが、これに限定されるものではない。
【0031】
本開示の一態様に係る拘束部を備える軸流回転機械の静翼環は、上述の構成を備えることによって、荷重負荷部材の荷重を発生させることで、付勢部材の付勢力に対抗する荷重が生じ、付勢部材による固定部材の支持状態が変化する。その結果、静翼環の支持剛性が変化し、静翼環の固有振動数を変化させることが出来る。
【0032】
(静翼環の拘束部の第一実施例)
図4は、本開示の静翼環の拘束部の第一実施例を示す概略図である。本開示の第一実施例の静翼環の拘束部は、屈曲部の外側が固定部材72に当接した板バネ77を付勢部材として備え、固定部材72の板バネ77が当接する箇所の反対側に圧電素子78を荷重負荷部材として備える。
【0033】
板バネ77は、平板形状の部材を、板金加工することによって形成される。板バネの形状は、平板の中央部が屈曲した形状に形成されることが好ましい。板バネの材質は特に限定しないが、ステンレスを用いても良い。
【0034】
圧電素子78は、電圧を印加すると形状が変化する性質を有する圧電材料と、電源装置からの電圧が印加される電極と、絶縁物と、を含んで構成される。圧電素子は、電圧に対する高速応答性、形状の微細な制御が可能である等の特性を有している。圧電効果、逆圧電効果を持つ圧電材料には、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)セラミックス、圧電単結晶、圧電高分子ポリマ、圧電コンポジット、圧電積層体などがある。
【0035】
本開示の静翼環の第一実施例に係る拘束部を備える軸流回転機械の静翼環は、上述の構成を備えることによって、図4に示すように、圧電素子78への電圧の印加前(非印加時)において、圧電素子78が収縮状態となるため、固定部材72は、板バネ77により付勢されることで、支持部材73に面接触する。一方で、圧電素子78に電圧を印加することで、圧電素子78が膨張し、板バネ77の付勢力に対抗する荷重が発生する。その結果、板バネ77と圧電素子78との間に把持された固定部材72の支持状態が、図4に示すように面接触から点接触に変化し、静翼環の支持剛性が変化することで、静翼環の固有振動数を変化させることが出来る。
【0036】
(第一実施例の制御部の作用)
本開示の第一実施例の拘束部を備える静翼環の制御部は、軸流回転機械の所定の次数の励振周波数が、静翼環の前記所定の次数の固有振動数に対して所定の範囲の値に達した場合に、電源装置に接続された、圧電素子に対して、所定の次数の励振周波数が所定の次数の固有振動数に一致しないように設定された、所定の値の電圧を印加することで、電圧が印加された圧電素子の寸法を変化させ、板バネの付勢力に対抗する荷重が変化し、拘束部の支持剛性が変化するように圧電素子を制御する。
【0037】
所定の次数の励振周波数とは、軸流回転機械の基本周波数の整数倍の値を意味する。その為、所定の次数の励振周波数は基本周波数、すなわち基本周波数の1倍を含む。所定の次数の励振周波数が、それと次数が一致する所定の次数の固有振動数と一致した場合に、共振が発生し、静翼に動的応力が作用する。
【0038】
静翼環の所定の次数の固有振動数に対して、それと次数が一致する所定の次数の励振周波数が、所定の範囲の値に達した場合であっても、共振によって静翼の振幅が増加し、静翼に動的応力が作用する。従って、「軸流回転機械の所定の次数の励振周波数が、静翼環の所定の次数の固有振動数に対して所定の範囲の値に達した場合」とは、所定の次数の励振周波数が、所定の次数の固有振動数に近付くと発生する共振によって、引き起こされる静翼に作用する動的応力が、静翼の材料の耐力に対して、十分な安全マージンを確保した範囲の境界の値に達した場合を意味する。
【0039】
圧電素子は印加された電圧に比例して、圧電材料部分の寸法が膨張する。圧電材料の寸法の変化と電圧の関係に従って、静翼環の支持剛性が変化する程度の電圧値を決定することが出来る。すなわち、静翼環の支持剛性と静翼環の固有振動数との関係を、数値シミュレーション、もしくは、実験によって、調査することによって、共振回避が可能な電圧値を決定することが出来る。従って、「所定の次数の励振周波数が所定の次数の固有振動数に一致しないように設定された、所定の値の電圧」とは、所定の次数の励振周波数が、静翼環の所定の次数の固有振動数に対して、所定の範囲の値に達した場合に、静翼環の固有振動数を、所定の次数の励振周波数に対して、静翼の材料の耐力を考慮して十分な安全マージンを確保した離れた値に、変更可能な電圧値を意味する。
【0040】
図7は、上述の制御部によって静翼環の固有振動数を変更した結果の一例を示す説明図である。軸流回転機械の所定の次数の励振周波数が、それと一致する所定の次数の固有振動数に対して、所定の範囲の値に達した場合に、圧電素子に固有振動数に一致しないよう設定された所定の電圧を印加し、固有振動数が減少する方向に圧電素子の寸法を変化させ、静翼環の支持剛性を変化させることで、固有振動数を減少させる方向に変化させる。本例では、固有振動数が励振周波数を跨いで、励振周波数以下の値であり、かつ、励振周波数に対して十分に離れた値となるように、固有振動数を変化させ、共振の発生を回避する。
【0041】
図8は、上述の制御部によって静翼環の固有振動数を変更した結果の他の例を示す説明図である。本例では、静翼環の固有振動数を増加させる方向に、静翼環の支持剛性を変化させる。その後、励振周波数の増加に伴い、再度、励振周波数が固有振動数に対して所定の範囲に達した場合には、再び同様の制御を行うことで、固有振動数を増加させ、共振を回避する。この際に固有振動数は、低次励振周波数を超えた値であり、かつ、高次励振周波数未満の値となるように、低次励振周波数が固有振動数に近付く度に段階的に制御される。なお、上述の制御部による固有振動数の具体的な制御結果は、図7、及び、図8に示す態様に限定されるものではない。
【0042】
上述の構成を備えることによって、本開示の第一実施例の拘束部を備える静翼環の制御部は、軸流回転機械の所定の次数の励振周波数が、静翼環の所定の次数の固有振動数に対して所定の範囲の値に達した場合に、圧電素子に対して、所定の次数の励振周波数が所定の次数の固有振動数に一致しないように設定された、所定の値の電圧を印加することで、電圧が印加された圧電素子の寸法が変化し、板バネの付勢力に対抗する荷重が変化し、静翼環の支持剛性が変化し、静翼環の固有振動数が変化することで、共振を回避することが可能となる。共振回避が可能となることから、共振発生時に静翼に作用する動的応力に耐えられるように、静翼の翼厚さを厚肉化する必要がなくなり、軸流回転機械の性能向上に寄与することが出来る。
【0043】
(静翼環の拘束部の第二実施例)
図5は、本開示の静翼環の拘束部の第二実施例を示す概略図である。本開示の第二実施例の静翼環の拘束部は、屈曲部の外側が固定部材72に当接した板バネ77を付勢部材として備え、板バネ77の屈曲部の内側に圧電素子78を備える。
【0044】
板バネ77は、静翼環の拘束部の第一実施例に係るものと、同様のものを用いて良い。
【0045】
圧電素子78は、折り曲げ可能な圧電素子を用いる。圧電セラミック粉と、圧電ゾルゲル溶液を混合し、攪拌、塗布、焼結して作製される圧電膜を用いることで、折り曲げ可能な圧電素子を得ることが出来る。圧電素子78は、板バネ77の屈曲部の内側に施工される。
【0046】
本開示の第二実施例に係る拘束部を備える軸流回転機械の静翼環は、上述の構成を備えることによって、圧電素子78に電圧を印加することで、圧電素子78が膨張し、板バネ77の屈曲部を内側から広げる作用が生じる。その結果、板バネ77に把持された固定部材72の支持状態が、図5に示すように面接触から接触無し状態に変化し、静翼環の支持剛性が変化することで、静翼環の固有振動数を変化させることが出来る。
【0047】
(第二実施例の制御部の作用)
本開示の第二実施例の拘束部を備える静翼環の制御部は、軸流回転機械の所定の次数の励振周波数が、静翼環の所定の次数の固有振動数に対して所定の範囲の値に達した場合に、電源装置に接続された、圧電素子に対して、所定の次数の励振周波数が所定の次数の固有振動数に一致しないように設定された、所定の値の電圧を印加することで、電圧が印加された圧電素子の寸法が変化し、板バネの付勢力が変化し、拘束部の支持剛性が変化するように、圧電素子を制御する。
【0048】
「軸流回転機械の所定の次数の励振周波数が、静翼環の所定の次数の固有振動数に対して所定の値に達した場合」の意味は、本開示の第一実施例の拘束部を備える静翼環の制御部において用いた用語の意味と同一である。
【0049】
同様に、「所定の次数の励振周波数が所定の次数の固有振動数に一致しないように設定された、所定の値の電圧」の意味は、本開示の第一実施例の拘束部を備える静翼環の制御部において用いた用語の意味と同一である。
【0050】
図9は、上述の制御部によって静翼環の固有振動数を変更した結果の一例を示す説明図である。軸流回転機械の所定の次数の励振周波数が、それと次数が一致する固有振動数に対して、所定の範囲の値に達した場合に、固有振動数に一致しないよう設定された所定の電圧を圧電素子に印加し、圧電素子の寸法を変化させ、静翼環の支持剛性を変化させることで、固有振動数を変化させ、共振の発生を回避する。図9に示す例では、静翼環の固有振動数を増加させる方向に、静翼環の支持剛性を変化させる。具体的には、励振周波数の増加に伴って、固有振動数が、低次励振周波数を超えた値であり、かつ、高次励振周波数未満の値となるように、連続的に固有振動数を変化させ、共振を回避する。なお、上述の制御部による固有振動数の具体的な制御結果は、図9に示す態様に限定されるものではない。
【0051】
上述の構成を備えることによって、本開示の第二実施例の拘束部を備える静翼環の制御部は、軸流回転機械の所定の次数の励振周波数が、静翼環の所定の次数の固有振動数に対して所定の範囲の値に達した場合に、電源装置に接続された、圧電素子に対して、所定の次数の励振周波数が所定の次数の固有振動数に一致しないように設定された、所定の値の電圧を印加することで、電圧が印加された圧電素子の寸法が変化し、板バネの付勢力が変化し、静翼環の支持剛性が変化し、静翼環の固有振動数が変化することで、共振を回避することが可能となる。共振回避が可能となることから、共振発生時に静翼に作用する動的応力に耐えられるように、静翼の翼厚さを厚肉化する必要がなくなり、軸流回転機械の性能向上に寄与することが出来る。
【0052】
(静翼環の拘束部の第三実施例)
図6は、本開示の静翼環の拘束部の第三実施例を示す概略図である。本開示の第三実施例の静翼環の拘束部は、一以上の孔が形成された固定部材72と、一以上の孔の数と同一の数の圧電素子78と、を備え、圧電素子78は、固定部材72に形成された一以上の孔に挿入された上で、その両端部が支持部材73に対して固定される。
【0053】
固定部材72に形成される孔は、圧電素子を挿入可能な直径の円形の形状に形成される。
【0054】
本開示の第三実施例に係る拘束部を備える軸流回転機械の静翼環は、上述の構成を備えることによって、圧電素子78に電圧を印加することで、圧電素子78が膨張し、図6に示すように、固定部材に形成された孔と圧電素子の接触範囲が狭い支持状態から、接触範囲が広い支持状態に変化する。その結果、固定部材72の支持状態が変化し、静翼環の支持剛性が変化することで、静翼環の固有振動数を変化させることが出来る。
【0055】
(第三実施例の制御部の作用)
本開示の第三実施例の拘束部を備える静翼環の制御部は、軸流回転機械の所定の次数の励振周波数が、静翼環の所定の次数の固有振動数に対して所定の範囲の値に達した場合に、電源装置に接続された、圧電素子に対して、所定の次数の励振周波数が所定の次数の固有振動数に一致しないように設定された、所定の値の電圧を印加することで、所定の値の電圧が印加された圧電素子の寸法が変化し、拘束部の支持剛性が変化するように、圧電素子を制御する。
【0056】
「軸流回転機械の所定の次数の励振周波数が、静翼環の所定の次数の固有振動数に対して所定の値に達した場合」の意味は、本開示の第一実施例の拘束部を備える静翼環の制御部において用いた用語の意味と同一である。
【0057】
同様に、「所定の次数の励振周波数が所定の次数の固有振動数に一致しないように設定された、所定の値の電圧」の意味は、本開示の第一実施例の拘束部を備える静翼環の制御部において用いた用語の意味と同一である。
【0058】
上述の構成を備えることによって、本開示の第三実施例の拘束部を備える静翼環の制御部は、軸流回転機械の所定の次数の励振周波数が、静翼環の所定の次数の固有振動数に対して所定の範囲の値に達した場合に、電源装置に接続された、圧電素子に対して、所定の次数の励振周波数が所定の次数の固有振動数に一致しないように設定された、所定の値の電圧を印加することで、電圧が印加された圧電素子の寸法が変化し、拘束部の支持剛性が変化し、静翼環の固有振動数が変化することで、共振を回避することが可能となる。共振回避が可能となることから、共振発生時に静翼に作用する動的応力に耐えられるように、静翼の翼厚さを厚肉化する必要がなくなり、軸流回転機械の性能向上に寄与することが出来る。
【0059】
なお、上述の本開示に係る軸流回転機械の静翼環では、支持部材73を内周側シュラウド74に設け、固定部材72をシール保持板としたが、この構成に限定されない。支持部材73を、外周側シュラウド76に設け、固定部材72を、外周側シュラウドの外周側に設けられるケーシングに適用しても良い。
【0060】
また、上述の本開示に係る軸流回転機械の静翼環を、ターボファンエンジン1に適用したが、他の軸流回転機械に適用しても良い。
【0061】
本開示の軸流回転機械の静翼環は、複数の静翼75と、前記複数の静翼75の先端部に設けられる外周側シュラウド76と、前記複数の静翼75の根元部に設けられる内周側シュラウド74と、前記外周側シュラウド76、及び、前記内周側シュラウド74の内の一方に設けられる一以上の支持部材73と、前記支持部材73に対向して設けられる固定部材72と、前記固定部材72に対する前記支持部材73の拘束状態を変更可能に拘束する一以上の拘束部と、前記拘束部の拘束状態を変更可能に制御する制御部8と、を備える。
【0062】
この構成によれば、静翼環の支持剛性を変えることによって、静翼環の固有振動数と励振周波数が一致しないように、静翼環の固有振動数を変えることが出来ることから、静翼環の固有振動数と励振周波数の一致による共振を回避することが可能となる。
【0063】
前記拘束部は、前記支持部材73と前記固定部材72との間に設けられ、前記支持部材73に対して前記固定部材72を押圧することで固定する付勢部材と、前記付勢部材に作用する荷重を付加する荷重負荷部材と、を備える。
【0064】
この構成によれば、付勢部材と荷重負荷部材とを用いた簡易な構成により、支持部材73と固定部材72との拘束状態を変更することができる。
【0065】
前記付勢部材は、屈曲部の外側が前記固定部材72に当接した板バネ77を備え、かつ、前記荷重負荷部材は、前記固定部材72の前記板バネ77が当接する箇所の反対側に圧電素子78を備える。
【0066】
この構成によれば、板バネ77及び圧電素子78を用いて、固定部材72の接触状態を、面接触と点接触との間で変更することができるため、支持部材73と固定部材72との拘束状態を適切に変更することができる。
【0067】
前記制御部8は、軸流回転機械の所定の次数の励振周波数が、静翼環の前記所定の次数の固有振動数に対して所定の範囲の値に達した場合に、電源装置に接続された、前記圧電素子78に対して、前記所定の次数の励振周波数が前記所定の次数の固有振動数に一致しないように設定された、所定の値の電圧を印加することで、電圧が印加された前記圧電素子78の寸法が変化し、前記板バネ77の付勢力に対抗する荷重が変化し、前記拘束部の支持剛性が変化するように制御する。
【0068】
この構成によれば、圧電素子78への電圧の印加を制御することで、固有振動数と励振周波数とが一致しないように、拘束部の支持剛性を変化させることができる。
【0069】
前記付勢部材は、屈曲部の外側が前記固定部材に当接した板バネ77を備え、かつ、前記荷重負荷部材は、前記板バネ77の屈曲部の内側に圧電素子78を備える。
【0070】
この構成によれば、板バネ77及び圧電素子78を用いて、固定部材72の接触圧を連続的に変更することができるため、支持部材73と固定部材72との拘束状態をより詳細に変更することができる。
【0071】
前記制御部は、軸流回転機械の所定の次数の励振周波数が、静翼環の前記所定の次数の固有振動数に対して所定の範囲の値に達した場合に、電源装置に接続された、前記圧電素子78に対して、前記所定の次数の励振周波数が前記所定の次数の固有振動数に一致しないように設定された、所定の値の電圧を印加することで、電圧が印加された前記圧電素子78の寸法が変化し、前記板バネ77の付勢力が変化し、前記拘束部の支持剛性が変化するように制御する。
【0072】
この構成によれば、圧電素子78への電圧の印加を制御することで、固有振動数と励振周波数とが一致しないように、拘束部の支持剛性を変化させることができる。
【0073】
前記拘束部は、一以上の孔が形成された前記固定部材と、前記一以上の孔に対応する数の圧電素子と、を備え、前記圧電素子は、前記固定部材に形成された一以上の孔に挿入された上で、両端部が前記支持部材に対して固定される。
【0074】
この構成によれば、付勢部材を省いた構成とすることができるため、拘束部をより簡素化した構成とすることができる。
【0075】
前記制御部は、軸流回転機械の所定の次数の励振周波数が、静翼環の前記所定の次数の固有振動数に対して所定の範囲の値に達した場合に、電源装置に接続された、前記圧電素子に対して、前記所定の次数の励振周波数が前記所定の次数の固有振動数に一致しないように設定された、所定の値の電圧を印加することで、電圧が印加された前記圧電素子の寸法が変化し、前記拘束部の支持剛性が変化するように制御する。
【0076】
この構成によれば、圧電素子78への電圧の印加を制御することで、固有振動数と励振周波数とが一致しないように、拘束部の支持剛性を変化させることができる。
【0077】
前記支持部材は、前記内周側シュラウドに設けられ、前記固定部材は、シール保持板を備える。
【0078】
この構成によれば、拘束部を内周側シュラウドに設けることができるため、圧電素子78を用いた支持剛性の変更を行うことができる。
【0079】
前記支持部材は、前記外周側シュラウドに設けられ、前記固定部材は、ケーシングを備えてもよい。
【0080】
軸流回転機械は、上述の軸流回転機械の静翼環を備える。
【0081】
この構成によれば、静翼環の共振を抑制した軸流回転機械を提供することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 ターボファンエンジン
2 ファン
3 圧縮機
4 燃焼室
5 タービン
6 回転軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9