(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】多機一軸船推進システムの運転方法及び多機一軸船推進システム
(51)【国際特許分類】
B63H 23/10 20060101AFI20231013BHJP
B63H 23/30 20060101ALI20231013BHJP
B63H 23/18 20060101ALI20231013BHJP
B63H 23/12 20060101ALI20231013BHJP
F16D 25/0638 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
B63H23/10
B63H23/30
B63H23/18
B63H23/12
F16D25/0638
(21)【出願番号】P 2020055801
(22)【出願日】2020-03-26
【審査請求日】2022-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】503116899
【氏名又は名称】株式会社IHI原動機
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 恒徳
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-143097(JP,A)
【文献】実公平06-015830(JP,Y2)
【文献】実開昭58-195037(JP,U)
【文献】特開昭58-185955(JP,A)
【文献】米国特許第06960107(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 23/10
B63H 23/30
B63H 23/18
B63H 23/12
F16D 25/0638
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶推進用のプロペラと、
前記プロペラを第1クラッチを介して駆動する第1機関と、
前記プロペラを第2クラッチを介して駆動する第2機関と、
を備え
、前記第1クラッチ及び前記第2クラッチは、スプライン機構によりクラッチ構成要素間の動力伝達を行うクラッチである多機一軸船推進システムの運転方法であって、
前記第1クラッチを嵌合し前記第1機関を第1回転速度で調速制御して前記プロペラを駆動するステップと、
前記第2機関の回転速度を前記第1回転速度よりも高速の第2回転速度で調速制御するステップと、
前記第2機関の調速制御に制限を加えつつ前記第2クラッチを嵌合し多機一軸推進に移行するステップと、
を有する多機一軸船推進システムの運転方法
【請求項2】
前記第2機関の調速制御の回転速度を第2回転速度から第1回転速度に下げるとともに調速制御の前記制限を解除するステップと、
前記第1機関の出力と前記第2機関の出力のバランスを取るステップと、
をさらに有する請求項1に記載の多機一軸船推進システムの運転方法。
【請求項3】
前記第2機関の調速制御の前記制限は、第2機関の出力の増加量の一時的な制限である請求項1又は2に記載の多機一軸船推進システムの運転方法。
【請求項4】
前記第2機関の調速制御の前記制限は、第2機関の出力の変化速度の一時的な制限である請求項1又は2に記載の多機一軸船推進システムの運転方法。
【請求項5】
船舶推進用のプロペラと、
前記プロペラを第1クラッチを介して駆動する第1機関と、
前記プロペラを第2クラッチを介して駆動する第2機関と、
前記第1クラッチを嵌合し前記第1機関を第1回転速度で調速制御して前記プロペラを駆動した状態において、前記第2機関の回転速度を前記第1機関の回転速度よりも高速の第2回転速度で調速制御し、次いで前記第2機関の調速制御に制限を加えつつ前記第2クラッチを嵌合し多機一軸推進に移行する制御を行う制御手段と、
を具備
し、
前記第1クラッチ及び前記第2クラッチは、スプライン機構によりクラッチ構成要素間の動力伝達を行うクラッチである多機一軸船推進システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の機関によって船舶推進用のプロペラを駆動する多機一軸船推進システム及びその運転方法に係り、特に、一つのプロペラを駆動する機関の数を船舶の速力を低下させることなく増大させることができる多機一軸船推進システム及びその運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、2機1軸船のエンジン回転数、クラッチ制御装置の発明が開示されている。この発明によれば、2機1軸運転から1機1軸運転に運転状態を切り替えるにあたり、2機運転中の出力を1台のエンジン出力でまかなえないと判断された場合には、2機運転のまま1機運転範囲内まで共にエンジン回転数を下げた後、2機1軸運転から1機1軸運転に切り替えている。この発明によれば、エンジンに過負荷、過回転を生じさせない運転状態の切替ができるものとされている。
【0003】
下記特許文献2には、多機一軸推進機関の連結機離脱操作方法の発明が開示されている。この発明によれば、推進系より離脱しようとする主機関の調速機の設定回転数を、離脱操作開始直後瞬時に一時的回転数偏差だけ減少させ、離脱しない主機関の調速機の設定回転数を、離脱操作開始直後瞬時に一時的回転数偏差だけ増加させ、離脱操作完了とともに元の設定回転数に戻すように制御を行う。この発明によれば、多機一軸推進機関から主機関を離脱する際に、回転数の制御を上述のように行うことにより離脱主機関の負荷が急激に減少して過速度トリップにより停止する不具合を防止できるものとされている。
【0004】
下記特許文献3には、油圧クラッチ装置の発明が開示されている。この発明のクラッチは、下記特許文献1及び2に記載されたような多機一軸船推進機関において、各機関とプロペラの軸を嵌合又は離脱させるために使用できる。この油圧クラッチ装置は、第一軸60と、第一軸と同軸状に配置される第二軸70と、第一軸と第二軸の間に配置され、摩擦力又は油の粘性抵抗によって回転動力を伝達する摩擦伝達機構80と、ピストン20とシリンダ30を備えて摩擦伝達機構80の動力伝達トルクを変化させる油圧押圧機構10を備えている。この発明によれば、油圧押圧機構10の作用により、摩擦伝達機構を押圧するピストンの押圧面積を変えることなく弱い押圧力が実現でき、トルクを細かく高精度に制御することができるものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3124084号公報
【文献】特公昭60-545号公報
【文献】特開2018-123913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば2機1軸の駆動ユニットを2基搭載した4機2軸の船舶のような、多機一軸船推進システムの船舶が知られている。このような船舶では、さほど速力を要しない巡航状態では2機2軸で運転するが、高速を必要とする場合には4機2軸に切り替えて運転する。このように、既に駆動されている主機関(以後、先行機と称する。)が一定の負荷を負って2機2軸で運転している際に、後からクラッチを嵌合する主機関(以後、後追機と称する。)のクラッチを嵌入して運転状態を4機2軸に移行しようとすると、その後追機の回転速度が先行機の回転速度と同一又はこれより低い場合には、クラッチに異音や衝撃が発生し、この状態が続けばクラッチが損傷したり、クラッチの寿命が短縮する可能性があると考えられていた。そこで、実際の運用では、高速運転のために2機2軸から4機2軸に移行する際には、一旦先行機の回転速度を低下させるか、又はCPP翼角を低下させて安全な出力とした上で前記運転状態の切り替えを行っていた。このため、急に高速が必要とされる場合であるのに、一旦速力を低下させねばならず、高速が必要な状況に対応する機動性に欠けるという問題があり、ユーザーにおいては、速力を低下させることなく2機2軸から4機2軸へ移行可能な多機一軸船推進システムを求める強い要望があった。
【0007】
しかしながら、前記特許文献1の発明は、2機1軸運転中の多機一軸船推進システムにおいて、1機の先行機のクラッチを脱にする方法に関するものであり、1機1軸から2機1軸に運転状態を切り替える方法は開示しておらず、前記要望に応えるものではなかった。なお、クラッチを脱にする先行機の負荷を残存の先行機に移行する前記特許文献1の方法は、ドループ制御による間接的な手法であるため、1機のクラッチを脱にする制御も、実際には必ずしも良好に実施できるとはいえなかった。
【0008】
また、前記特許文献2の発明も、2機1軸運転中の多機一軸船推進システムにおいて、1機の先行機のクラッチを脱にする方法に関するものであり、1機1軸から2機1軸に運転状態を切り替える方法は開示しておらず、前記要望に応えるものではなかった。なお、クラッチを脱にする先行機の負荷を残存の先行機に移行する前記特許文献1の方法は、ガバナの速度指令で行なう間接制御によって一時的回転偏差を制御するものであるため、制御のタイミング等が微妙であり、発明の目的である1機の先行機のクラッチを脱にする制御も、実際には必ずしも良好に実施できるとはいえなかった。
【0009】
さて、前述した4機2軸船のような多機一軸船推進システムにおいて、主機関を増加する運転状態の切り替え時に発生する前記不具合について、本願発明者は次のような知見を有している。
図4は、前記特許文献3の油圧クラッチ装置の説明図であり、一般的なクラッチの例として同文献の
図1を引用したものである。この油圧クラッチ装置では、主機関の駆動軸である第一軸60と、第一軸と同軸状に配置されるプロペラの軸である第二軸70との間には、摩擦伝達機構80が設けられている。ここでクラッチ装置の摩擦伝達機構としては、例えば
図5に示すようなスプラインの溝とスプラインの凸部の噛み合い機構によるものが知られている。すなわち、
図5に示すクラッチは、主機関の出力軸側(1次側、駆動側)に位置する外歯スプラインを有する複数枚のクラッチプレートAと、プロペラの推進軸側(2次側、被動側)に位置する内歯スプラインを有するクラッチリングBを有している。
【0010】
図5に示したクラッチにおいて、2次側(被動側)のクラッチリングBの回転速度が、1次側(駆動側)のクラッチプレートAの回転速度よりも高い場合には、問題が生じる。この場合、1次側(駆動側)が2次側(被動側)に回される状態でクラッチを嵌入する。クラッチを嵌入する前の段階では、クラッチプレートAの外歯スプラインの反作用面が揃った状態でクラッチリングBの内歯スプラインに接触している。クラッチを嵌入した後に動力伝達が始まるとクラッチプレートAの動力伝達歯面が作用面に移り、クラッチプレートAの作用面が不揃いのままで動力伝達が始まる。これは後述の、クラッチ嵌入後に回転方向を正転から逆転した場合と類似の状態であり、クラッチには大きな負荷がかかり、スプラインの摩耗や歯の折損等の可能性が生じるのである。前述した4機2軸船において、主機関を増加する運転状態の切り替え時に、後追機の回転速度を先行機の回転速度よりも低くしたために生ずる不具合の原因は、以上の通りであると本願発明者は考えた。
【0011】
一方、本願発明者の知見によれば、
図5に示したクラッチにおいて、1次側(駆動側)のクラッチプレートAの回転速度が、2次側(被動側)のクラッチリングBの回転速度よりも高い場合には、問題は生じない。
図5に示すように、停止時、クラッチプレートAの歯先とクラッチリングBの歯底の間には、鉛直方向の隙間Cを生じているが、回転時には、停止時に鉛直方向にずれていた複数枚のクラッチプレートAは回転力による調芯作用でクラッチリングBと軸芯が一致し、
図5中に符合Dで示すように、複数枚のクラッチプレートAの作用面がクラッチリングBの作用面と一様に接触しながらクラッチリングBを回転させて動力を伝達する。このように、1次側(駆動側)の回転速度を、2次側(被動側)の回転速度よりも高くしてクラッチを嵌入すれば、複数枚のクラッチプレートAの作用面によってトルクが被動側のクラッチリングBに適切に伝達される。
【0012】
なお、
図5に示したクラッチにおいて、クラッチ嵌入後に回転方向を正転から逆転した場合には、逆転時の作用面は歯形誤差により複数枚のクラッチプレートA毎に片当たりが生じてクラッチプレートAの全数の作用面で動力伝達できないため、この場合もクラッチには大きな負荷がかかり、スプラインの摩耗や歯の折損等の可能性がある。
【0013】
さらに、
図5に示したクラッチにおいて、1次側(駆動側)と2次側(被動側)の軸が停止している状態でクラッチを嵌入しようとした場合には、複数のクラッチプレートAの全数が自重によりその歯先とクラッチリングBの歯底の間に隙間Cだけのずれが生じているため、スプラインの歯面が偏芯したままクラッチが嵌入される状態となり、負荷投入時には複数枚のクラッチプレートAの作用面がクラッチリングBに一様に当たらないままの動力伝達となる。この場合もクラッチには大きな負荷がかかり、スプラインの摩耗や歯の折損等の可能性がある。
【0014】
以上説明した本願発明者の知見によれば、4機2軸船のような多機一軸船推進システムにおいて、運転中に主機関を増加する際に発生する前記不具合、すなわちクラッチに異音や衝撃が発生して損傷等が生じる点は、2次側(被動側)の回転速度が1次側(駆動側)の回転速度よりも高い場合に生じるので、1次側(駆動側)の回転速度を2次側(被動側)の回転速度よりも高くすれば生じなくなるはずである。
【0015】
ところが、本願発明者は、多機一軸船推進システムにおいて、主機関を増加する際に、単に1次側(駆動側)の回転速度を2次側(被動側)の回転速度よりも高くしただけでは、新たな他の問題が生じると考えた。例えば、後追機の回転速度を、先行機の回転速度に適当な増加分だけ加えた回転速度とした場合、クラッチ嵌入と同時に負荷が先行機から後追機に移動し、先行機は燃料を供給されているのに負荷が減少するため、負荷遮断時と同様の暴走状態となり、また後追機は急激な負荷増大により瞬時負荷投入時と同様に停止する危険性が生じ、このような点において両機関及びクラッチ等に無理が生ずると考えられる。このような問題を回避するために、先行機の負荷を充分低い状態で行うことも考えられるが、それでは、前述した従来の多機一軸船推進システムにおける実際の運用と同様となってしまい、機関台数の増加に伴う速力の低下は解消されない。
【0016】
本発明は、上述した従来の問題点を解決するためになされたものであり、多機一軸船推進システムにおいて、推進器を駆動する機関の数を増大させる運転状態の切り替えを船舶の速力を低下させることなく円滑に行なえる運転方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1に記載された多機一軸船推進システムの運転方法は、
船舶推進用のプロペラと、
前記プロペラを第1クラッチを介して駆動する第1機関と、
前記プロペラを第2クラッチを介して駆動する第2機関と、
を備え、前記第1クラッチ及び前記第2クラッチは、スプライン機構によりクラッチ構成要素間の動力伝達を行うクラッチである多機一軸船推進システムの運転方法であって、
前記第1クラッチを嵌合し前記第1機関を第1回転速度で調速制御して前記プロペラを駆動するステップと、
前記第2機関の回転速度を前記第1回転速度よりも高速の第2回転速度で調速制御するステップと、
前記第2機関の調速制御に制限を加えつつ前記第2クラッチを嵌合し多機一軸推進に移行するステップと、
を有している。
【0018】
請求項2に記載された多機一軸船推進システムの運転方法は、請求項1に記載の多機一軸船推進システムの運転方法において、
前記第2機関の調速制御の回転速度を第2回転速度から第1回転速度に下げるとともに調速制御の前記制限を解除するステップと、
前記第1機関の出力と前記第2機関の出力のバランスを取るステップと、
をさらに有することを特徴としている。
【0019】
請求項3に記載された多機一軸船推進システムの運転方法は、請求項1又は2に記載の多機一軸船推進システムの運転方法において、
前記第2機関の調速制御の前記制限は、第2機関の出力の増加量の一時的な制限であることを特徴としている。
【0020】
請求項4に記載された多機一軸船推進システムの運転方法は、請求項1又は2に記載の多機一軸船推進システムの運転方法において、
前記第2機関の調速制御の前記制限は、第2機関の出力の変化速度の一時的な制限であることを特徴としている。
【0022】
請求項5に記載された多機一軸船推進システムは、
船舶推進用のプロペラと、
前記プロペラを第1クラッチを介して駆動する第1機関と、
前記プロペラを第2クラッチを介して駆動する第2機関と、
前記第1クラッチを嵌合し前記第1機関を第1回転速度で調速制御して前記プロペラを駆動した状態において、前記第2機関の回転速度を前記第1機関の回転速度よりも高速の第2回転速度で調速制御し、次いで前記第2機関の調速制御に制限を加えつつ前記第2クラッチを嵌合し多機一軸推進に移行する制御を行う制御手段と、
を具備し、
前記第1クラッチ及び前記第2クラッチは、スプライン機構によりクラッチ構成要素間の動力伝達を行うクラッチであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
請求項1に記載された多機一軸船推進システムの運転方法及び請求項5に記載された多機一軸船推進システムによれば、一つの推進器を複数のクラッチを介して複数の機関で駆動する多機一軸船推進システムにおいて、先行機である第1機関を負荷遮断の状態とすることもなく、かつ後追機である第2機関を瞬時負荷投入の状態とすることもなく、機関の現状の負荷状態を維持しながら、急激な負荷変動を生ぜずに、駆動する機関台数を安全に増加させることが可能となり、また、機関台数の増加に伴う速力の低下も解消される。これにより、必要とする速力(出力・負荷)に応じた機関台数の選択が容易となり、効率的な運転が可能になると共に、省エネにも貢献できる。また、第1クラッチと第2クラッチをスプライン機構によるクラッチとしたので、クラッチ構成要素間の動力伝達及び離脱・嵌合の作用が安定しており、クラッチの作動に関する本発明の各効果を確実に達成することができる。
【0024】
請求項2に記載された多機一軸船推進システムの運転方法によれば、第1機関を第1回転速度で調速制御してプロペラを駆動し、第1回転速度よりも高速の第2回転速度で第2機関を調速制御した後に、第1機関の出力と第2機関の出力のバランスを取った状態で両機関の出力を上昇させていくことができる。
【0025】
請求項3に記載された多機一軸船推進システムの運転方法によれば、第2機関の出力の増加量を一時的に制限するため、第2機関に過剰な負荷が加わって機関が停止する等の不具合の発生が防止される。
【0026】
請求項4に記載された多機一軸船推進システムの運転方法によれば、第2機関の出力の変化速度を一時的に制限することにより、第2機関に過剰な負荷が加わって機関停止等の不具合の発生が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】第1実施形態の多機一軸船推進システムの機能ブロック図である。
【
図2】第1実施形態の多機一軸船推進システムにおいて1機1軸運転から2機1軸運転へ移行する際の構成各部の動作手順を示すフロー図である。
【
図3】第1実施形態の多機一軸船推進システムにおいて2機1軸運転から1機1軸運転へ移行する際の構成各部の動作手順を示すフロー図である。
【
図4】特許文献3の
図1に示された油圧クラッチ装置の説明図である。
【
図5】
図4に示した従来の油圧クラッチ装置におけるクラッチ摩擦伝達機構の一構成例を示す図であって、クラッチプレートとクラッチリングの噛み合いを示す図と、その部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施形態を
図1~
図3を参照して説明する。
まず、
図1を参照して実施形態の多機一軸船推進システム1の構成を説明する。
実施形態の多機一軸船推進システム1は、第1機関である1号主機E1と、第2機関である2号主機E2を駆動源としている。1号主機E1と2号主機E2の各駆動軸は、減速機2内に設けられた油圧クラッチである第1クラッチCL1と第2クラッチCL2にそれぞれ連結され、詳細は図示しない減速機2の減速機構を介して、船舶推進用の推進機であるプロペラ3の推進軸4に連結されている。
【0030】
図1に示すように、1号主機E1及び2号主機E2には、それぞれ、各号主機Eに供給される燃料量を制御するガバナアクチュエータ5と、ガバナアクチュエータ5に設けられて燃料噴射量を規定するラック目盛りの値を発信するラック目盛発信器6と、各号主機Eの回転速度を計測する回転速度発信器7が設けられている。
【0031】
図1に示すように、多機一軸船推進システム1は、各号主機Eに共用の制御手段である遠隔制御装置RCを有している。遠隔制御装置RCは、図示しない制御機器及び制御回路と、図示しない制御ハンドルと、表示灯を備えた制御盤8を有している。制御ハンドルは各号主機Eごとに設けられ、各号主機Eの回転速度を制御するが、何れか一つの制御ハンドルをマスター制御ハンドルとして指定すれば、このマスター制御ハンドルのみで各号機全てを制御することもできる。制御盤8の表示灯は、各号主機Eの運転状況を消灯(停止)、点灯(駆動中)及び点滅(準備中)で表示するとともに、運転すべき各号主機Eを選択する選択ボタンを兼ねている。
【0032】
図1に示すように、多機一軸船推進システム1は調速機GV(ガバナコントローラ)を有している。調速機GVは、遠隔制御装置RCからの速度設定指令信号により、対応する主機Eのガバナアクチュエータ5にラック増減指令信号を出力し、遠隔制御装置RCから指令された回転速度に達するために必要な量の燃料を各号主機Eに供給させる。なお、
図1では1機の調速機GVしか示していないが、実際には各号主機E1,E2ごとに調速機GV(GV1,GV2)が設けられており、図示しない調速機GV1も、図示している2号主機E2の調速機GV2と同様の構成及び他構成部分との関係を有している。また、各号主機Eごとに設けられた複数の調速機GVは、信号線によって互いに直列に接続されており、後述するラック目盛り等の共用信号を各調速機GV間で共有することができるようになっている。
【0033】
図1に示すように、遠隔制御装置RCと、各号主機Eに対応した各調速機GVは、給電線9によって電源に接続されている。
【0034】
以上説明した各号主機E及び減速機2と、遠隔制御装置RCと、各号主機Eごとに設けられた調速機GVの間では、次に説明するような指令信号、指令に応答する応答信号、運転に必要な情報を伝える各種信号が送受されている。
【0035】
図1に示すように、遠隔制御装置RCの制御ハンドル(図示せず)が操作され、特定の主機Eの回転速度が指定されると、遠隔制御装置RCは当該主機Eに対応する調速機GVに速度設定指令信号を出力する。速度設定指令信号を受けた当該調速機GVは、遠隔制御装置RCに応答信号を送るとともに、対応する主機Eのガバナアクチュエータ5にラック増減指令信号を送り、他の調速機GVにも速度設定指令信号を送る。遠隔制御装置RCが、速度設定指令信号以外の指令信号を調速機GVに送信すると、調速機GVは応答信号を遠隔制御装置RCに送る。
【0036】
図1に示すように、ラック目盛発信器6は、調速機GVにラック目盛信号を送信する。回転速度発信器7は、調速機GVと遠隔制御装置RCに回転速度信号を送信する。また、遠隔制御装置RCは、第1クラッチCL1と第2クラッチCL2に、それぞれクラッチ嵌脱指令を送って各クラッチCL1,CL2の嵌脱を操作することができ、このクラッチ嵌脱指令を受け取った各クラッチCL1,CL2は、それぞれ遠隔制御装置RCに応答信号を送信する。
【0037】
次に、
図2を参照して、実施形態の多機一軸船推進システム1において1機1軸運転から2機1軸運転へ移行する際の動作手順について説明する。
図2のフロー図では、図を左部、中央部及び右部の3つの縦長の領域に分け、多機一軸船推進システム1の調速機GVと、遠隔制御装置RCと、主機E及び減速機2に取り付けられた装置の3つの部分を、それぞれ左部、中央部及び右部の各領域に割り振り、それぞれの部分の作用を示す図形をそれぞれの領域中に示した。
【0038】
1機1軸運転から2機1軸運転へ移行する手順を開始する(S101)。この段階における先行機の機関回転速度は、アイドル回転速度から定格回転速度の間の何れの回転速度でもよい。
【0039】
遠隔制御装置RCの制御ハンドルで後追機の回転速度を先行機と一致させる(S102)。
【0040】
遠隔制御装置RCの制御盤8の「全機運転」の選択押ボタン(表示灯)を押す(S103)。「全機運転」の表示灯が消灯から点滅となり、先行機の表示灯が消灯する。
【0041】
後追機の調速機GVに、後追機のクラッチ嵌入準備」が指令される(S104)。
【0042】
この指令により、後追機の調速機GVは、後追機の回転速度を先行機の回転速度+20 min-1に制御するよう指令すると共に、調速機GVの応答性を高感度のレベル2から低感度のレベル1に変更する(S105)。これは、クラッチを入れる前は燃料噴射量が少ないので高感度とした方が運転は安定するが、クラッチを入れた後は燃料噴射量が多くなるので低感度とした方がよいからである。
【0043】
更に後追機の調速機GVは、後追機の出力(負荷)を、0%~10%の範囲内に保持すべく、アクチュエータ出力(燃料ラック目盛)を制限する(S106)。これは、後追機の回転速度が先行機の回転速度+20 min-1に制御されていることにより、後追機に急激に負荷が加わるのを避けるためである。後追機の調速機GVの応答性をレベル1とし(S105)、後追機の燃料ラック目盛を制限し(S106)、後追機の回転速度が指令通りになると(S107、YES)、後追機の調速機GVは、遠隔制御装置RCに「クラッチ嵌入準備完了」を返信する。
【0044】
遠隔制御装置RCは、「クラッチ嵌入準備完了」の返信を受けると、減速機2に後追機の「クラッチ嵌入」を指令する(S110)。
【0045】
減速機2は、遠隔制御装置RCによる「クラッチ嵌入」の指令により、後追機のクラッチ嵌入動作を開始し、クラッチ制御油圧を上昇させ(S111)、遠隔制御装置RCに「クラッチ嵌入完了」を返信する(S112)。
【0046】
遠隔制御装置RCは、減速機2から「クラッチ嵌入完了」の返信を受け取ると、先行機と後追機の分担する負荷を先行機から後追機へ移行して両者の平衡をとる「負荷移行(平衡)開始指令」を後追機の調速機GVに出力する(S113)。
【0047】
遠隔制御装置RCから「負荷移行(平衡)開始指令」が送られると、後追機の調速機GVは、後追機の回転速度の指令値を20 min-1だけ減少させて先行機と同一の回転速度とする(S114)。さらに先行機と後追機の各調速機GVは、所定の好ましい負荷変化率(具体的にはラック目盛りの時間変化率)で負荷移行(平衡)を開始する(S115)とともに、S6で後追機の出力(負荷)に加えられた制限(燃料ラック目盛で0%~10%の範囲内に制限)を解除する(S116)。その結果、後追機は燃料ラック目盛りが増大し、先行機は燃料ラック目盛りが減少する。
【0048】
各調速機GVは、各号主機Eのラック目盛発信器6からのラック目盛信号によって各号主機Eの負荷を把握しており、両主機E1,E2の負荷の偏差が所定の設定値以内になると(S117、YES)、「負荷分担(平衡)完了」の信号を遠隔制御装置RCに送信する(S119)。
【0049】
「負荷分担(平衡)完了」の信号を受信した遠隔制御装置RCは、制御盤8の表示灯の「全機運転」を点滅から連続点灯とする(S119)。これで遠隔制御装置RCは、マスター制御ハンドルの操作のみで、1号主機E1と2号主機E2の2機一括の回転速度制御が可能となる(S120)。ここで、例えば先行機が定格負荷の状態で後追機を追加した場合、負荷分担(平衡)完了後は先行機、後追機がそれぞれ約50%の負荷を分担しており、引き続きマスター制御ハンドルの操作により速やかに先行機、後追機の出力を定格負荷まで上げることが可能である。
【0050】
2機の調速機GVは、通信回線で互いの燃料ラック目盛を共有しており、運転中に回転速度や負荷の変化が生じても燃料ラック目盛を一定の偏差内に保持するように、負荷分担(平衡)制御を継続する(S118)。
【0051】
以上説明したように、本実施形態の多機一軸船推進システム1によれば、多機一軸船において、後追機の回転速度を先行機の回転速度よりも大きくするとともに、後追機が負担する負荷に一時的な制限を加えつつ、後追機のクラッチを接続する制御を行なったので、現状の負荷状態を維持しながら急激な負荷変動を生じることなく、先行機の回転速度を落とさずに後追機の追加が可能となった。これにより船舶の速度を低下させることなく、速やかに1機1軸運転から2機1軸運転(又は2機2軸運転から4機2軸運転)への移行が可能となり、効率的な運転が可能になるとともに、省エネにも貢献できる。
【0052】
次に、
図3を参照して、実施形態の多機一軸船推進システム1において2機1軸運転から1機1軸運転へ移行する際の動作手順について説明する。
図3のフロー図の体裁は
図2と同様である。なお、以下の説明では、現在駆動されている主機Eのうち、これからクラッチを離脱してプロペラ3の駆動から外れる主機Eを離脱機と称し、そのまま駆動し続ける主機Eを残存機と称する。
【0053】
2機1軸運転から1機1軸運転へ移行する手順を開始する(S201)。この段階における各号主機E1,E2の機関回転速度は、アイドル回転速度から定格回転速度の間の何れの回転速度でもよい。
【0054】
2機1軸運転中に、2機の合計出力(負荷)が1機の定格出力以下であることを確認した上で、1機1軸運転への移行を実施する(S202)。
【0055】
遠隔制御装置RCの制御盤8において、残存機を指定するために「1号機運転」又は「2号機運転」の選択押ボタン(表示灯)を押す(S203)。残存機として指定した「1号機運転」又は「2号機運転」の表示灯が点滅を開始する。
【0056】
遠隔制御装置RCは、離脱機及び残存機の各調速機GVに「離脱機のクラッチ脱準備」を指令する(S204)。
【0057】
離脱機及び残存機の各調速機GVは、遠隔制御装置RCから「離脱機のクラッチ脱準備」を受けると、
図2のS118で開始された負荷分担(平衡)制御、すなわち2機の調速機GVが燃料ラック目盛を一定の偏差内に保持するように行なう制御を解除し、所定の好ましい負荷変化率で離脱機から残存機へ負荷移行を開始する(S205)。
【0058】
離脱機及び残存機の各調速機GVが負荷分担(平衡)制御を解除することにより、残存機のガバナアクチュエータ5は燃料ラック目盛りが増となり、離脱機のガバナアクチュエータ5は燃料ラック目盛りが減となる(S206)。
【0059】
離脱機の調速機GVは、ラック目盛り信号によって離脱機の負荷を把握し、これが設定された所定の値以下になると、「クラッチ脱準備完了(負荷移行完了)信号」を遠隔制御装置RCに返信する(S207、YES)。
【0060】
遠隔制御装置RCは、「クラッチ脱準備完了信号」を受けると、離脱機の調速機GVに対し、離脱機の調速機GVの応答性を低感度のレベル1から高感度のレベル2に変更する指令を送るとともに、減速機2に離脱機側のクラッチの「クラッチ脱」を指令する(S208)。
【0061】
離脱機の調速機GVは、遠隔制御装置RCからの指令により、応答性を低感度のレベル1から高感度のレベル2に変更する(S209)。
【0062】
減速機2は、遠隔制御装置RCからの指令により、離脱機側のクラッチの脱動作を開始してクラッチの制御油圧を低下させ(S210)、クラッチの脱動作が完了すると(S211)、遠隔制御装置RCに「クラッチ脱完了」を返信する。この離脱機側のクラッチの脱動作は、離脱機の負荷が実質的に0になっているため支障なく実行できる。
【0063】
遠隔制御装置RCは、「クラッチ脱完了」の信号を受けると、制御盤8において残存機の表示灯を点滅から連続点灯とする(S212)。
【0064】
これで遠隔制御装置RCは、1機1軸運転への移行が完了し、各号主機E1,E2ごとの制御ハンドルで個別に回転速度制御をすることが可能な状態となる(S213)。
【0065】
離脱機は、専用の制御ハンドルの操作によりアイドル回転とし、運転継続の必要が無ければ、遠隔制御装置RCが離脱機の調速機GVに機関停止指令を送信し、離脱機を機関停止とする(S214)。
【0066】
一般に、実施形態のような2機1軸船の運転状態を2機1軸から1機1軸へ移行する際には、同一のプロペラを駆動する2機の主機のうち、離脱機のクラッチを脱にするため、離脱機は負荷遮断の状態となり、残存機はそれまでの2倍の負荷に瞬増するため、瞬時負荷投入と同様の状態となる。このため、瞬時負荷移動があっても実害が生じない範囲まで駆動中の主機の負荷を減じてから、離脱機のクラッチを脱とする必要があった。
【0067】
そこで、本実施形態では、遠隔制御装置RCが離脱機のクラッチ脱準備を指令すると(S204)、離脱機及び残存機の各調速機GVは、負荷分担を中止して離脱機の負荷を残存機に移行する操作を行い(S205)、離脱機の負荷が実質的に0になってから(S207、YES)離脱機のクラッチを脱としている(S208,S210,S211)。このため、現状の負荷状態を維持しながら急激な負荷変動を生じることなく、離脱の動作を円滑に行なって安全に駆動する主機Eの台数を減じることができる。
【0068】
なお、本実施形態の多機一軸船推進システム1において、
図2及び
図3を参照して説明した一連の動作は、予め定められたプログラムに従って自動的に実行され、手順の実行途中では、手動危急停止(非常停止)以外の遠隔制御動作指令は受付けない。万一、燃料ラック目盛が設定された偏差を超過した場合は、遠隔制御装置RCの制御盤8において警報を発令する。
【0069】
以上説明した実施形態では、多機一軸船として2機1軸船を例示したが、主機Eの数、プロペラ3及び推進軸4の数を限定するものではない。3機1軸、4機1軸、4機2軸、8機2軸等、要するに複数の主機Eが各々クラッチで1本の推進軸4に嵌脱自在とされた構成であれば、本発明に係る多機一軸船推進システム1の適用範囲に入る。
【符号の説明】
【0070】
1…多機一軸船推進システム
2…減速機
3…推進器としてのプロペラ
4…推進軸
5…ガバナアクチュエータ
6…ラック目盛発信器
7…回転速度発信器
8…制御盤
E…機関としての主機
E1…第1機関としての1号主機
E2…第2機関としての2号主機
CL…クラッチ(油圧クラッチ)
CL1…第1クラッチ
CL2…第2クラッチ
RC…遠隔制御装置
GV…調速機(ガバナコントローラ)