(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】コールドスタート時のNOX除去のための酸化鉄触媒のマイクロ波合成
(51)【国際特許分類】
B01J 37/34 20060101AFI20231013BHJP
B01J 37/10 20060101ALI20231013BHJP
B01J 23/78 20060101ALI20231013BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20231013BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20231013BHJP
F01N 3/20 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
B01J37/34 ZAB
B01J37/10
B01J23/78 A
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
F01N3/10 A
F01N3/20 D
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020121495
(22)【出願日】2020-07-15
【審査請求日】2022-12-09
(32)【優先日】2019-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507342261
【氏名又は名称】トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クリシュナ・グヌグヌリ
(72)【発明者】
【氏名】チャールズ・アレクサンダー・ロバーツ
(72)【発明者】
【氏名】トリン・シィ・ペック
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-039301(JP,A)
【文献】特開2002-186849(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105413688(CN,A)
【文献】ALZAHRANI, Eman et al.,Microwave-Hydrothermal Synthesis of Ferric Oxide Doped with Cobalt,Advances in nanoparticles,米国,Scientific Research Publishing Inc.,2015年05月,Vol. 4, No. 2,pp. 53-60,DOI: 10.4236/anp.2015.42007
【文献】AIVAZOGLOU, E. et al.,Microwave-assisted synthesis of iron oxide nanoparticles in biocompatible organic environment,AIP Adv. ,米国,American Institute of Physics,2017年10月13日,Vol. 8, No. 4,pp. 048201-1-048201-13,DOI: 10.1063/1.4994057
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C01G 25/00-99/00
F01N 3/00
3/02
3/04-3/38
9/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波水熱合成を使用する、鉄系触媒の作製方法であって、
硝酸鉄(III)(Fe(NO
3)
3)を有機溶媒中に溶解して、溶液を得る工程と、
水酸化ナトリウムを含むアルカリ性無機化剤を用いて前記溶液を中和することにより、沈殿を得る工程と、
前記溶液を前記沈殿と共にマイクロ波放射に供することにより、温度勾配および水熱結晶化プロセスを引き起こして、合成産物を得る工程と、
前記無機化剤から前記合成産物を分離する工程と、
前記合成産物を洗浄および乾燥することにより、酸化鉄ナトリウム(NaFeO
2)触媒の粒子を得る工程とを含
み、
前記有機溶媒はエタノールを含む、方法。
【請求項2】
前記無機化剤は、炭酸ナトリウム、水酸化アンモニウム、および炭酸アンモニウムのうち少なくとも1種をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有機溶媒は
、プロパノール、ブタノール、およびエチレングリコールのうち少なくとも1種を
さらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記水熱結晶化プロセスを約160℃の温度において約10分間行なうことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記有機溶媒は、硝酸鉄(III)と、硝酸コバルト、硝酸ニッケル、硝酸銅、および硝酸亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の金属硝酸塩とを含む混合金属硝酸塩溶質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記有機溶媒中に前記硝酸鉄(III)と共に硝酸コバルトを溶解することを含み、コバルトが、鉄に対するモル比として約1:2~約1:3の範囲内にて存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記有機溶媒中に前記硝酸鉄(III)と共に硝酸ニッケルを溶解することを含み、ニッケルが、鉄に対するモル比として約1:2~約1:3の範囲内にて存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記有機溶媒中に前記硝酸鉄(III)と共に硝酸銅を溶解することを含み、銅が、鉄に対するモル比として約1:2~約1:3の範囲内にて存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記有機溶媒中に前記硝酸鉄(III)と共に硝酸亜鉛を溶解することを含み、亜鉛が、鉄に対するモル比として約1:2~約1:3の範囲内にて存在する、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、排気ガス流を処理するための触媒に関し、より具体的には、コールドスタート時に排気ガス流中の窒素酸化物を吸蔵し、その後に放出する酸化鉄触媒の、マイクロ波合成に関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
背景
本明細書中に記載される背景説明は、本開示の背景にある状況の概括的な提示を目的とするものである。本明細書中において名前が挙げられている発明者らの研究成果が当該背景説明部分に記載されていた場合にはその記載内容と、その記載内容に記載されいていて出願時に先行技術として認定され得ない態様とは、いずれも、明示または黙示を問わず、本開示に係る技術に対する先行技術とは認められない。
【0003】
環境保護のため、かつ、同目的に関連する規制を満たすために、排出排気からのNOx除去に有効な触媒が望まれている。好ましくは、こうした触媒は、NOxを不活性な窒素ガスに変換するものであり、NOxを他の窒素含有化合物に変換するものではない。代表的なNOx削減技術は、典型的には、ライトオフ(light-off)温度が約200℃よりも高い。新世代の内燃機関における高燃料効率の燃焼様式では、作動温度が比較的低い場合があり、しかしながら、排気温度が大幅に低下する場合がある。触媒コンバータを例にとると、排気温度の低下によって、一般的に、反応を生じさせるための触媒コンバータの暖機に要する時間が長くなる。この点において、受動NOx吸着剤(passive NOx adsorbers:PNA’s)と共に使用するための改善された吸着材料および触媒、ならびにそれらの作製方法が、さらなる有用性を有する。
【0004】
したがって、低温において排気ガス中のNOxを有効に吸蔵でき、続いて好適な高温においてNOxを放出できる、改善されたPNA触媒が望ましいと考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
概要
この節では、本開示の概括的な概要が示されるが、これは、本開示の全範囲または全特徴を総括的に開示するものではない。
【0006】
多様な態様において、本開示の教示によって、マイクロ波水熱合成を使用する、鉄系触媒の作製方法が提供される。当該方法は、硝酸鉄(III)(Fe(NO3)3)を有機溶媒中に溶解して溶液を得る工程を含む。当該方法は、溶解後、アルカリ性無機化剤を用いてこの溶液を中和することにより沈殿を得る工程を含む。次いで、この溶液を沈殿と共にマイクロ波放射に供することにより、温度勾配および水熱結晶化プロセスを引き起こして、合成産物を得る。続いて、無機化剤から合成産物を分離する。当該方法は、合成産物を洗浄および乾燥することにより、受動NOx吸着剤(PNA)のための組成物として使用できる酸化鉄ナトリウム(NaFeO2)触媒の粒子を得る工程を含む。
【0007】
他の態様において、本開示の教示によって、上述される方法に従って作製される酸化鉄ナトリウム触媒を含むPNA組成物または材料が提供される。
【0008】
さらなる態様において、本開示の教示によって、内燃機関のコールドスタート運転中に排気ガス流からNOxを除去するための2段階式NOx削減デバイスが提供される。削減デバイスは、排気ガス流の意図される流動方向に対して相対的に定められた上流部分および下流部分を有する筐体を含む。デバイスは、第1の温度域においてNOx吸蔵機能性を呈し、より高温の第2の温度域においてNOx脱着挙動を呈する、低温受動NOx吸着剤(PNA)を含む。PNAは、マイクロ波水熱合成技術と有機溶媒とを使用して調製された酸化鉄ナトリウム(NaFeO2)酸化物のナノ粒子を含む。PNAの下流に位置していて、NOxの変換を触媒するよう構成されるNOx変換触媒が提供される。コールドスタート運転中、排気ガス流および削減デバイスが、NOx変換触媒の活性化に十分な温度に温まるまで、NOxはPNA中に保持される。
【0009】
上述される結合技術のさらなる利用可能範囲、および上述される結合技術を拡充する多様な方法が、本明細書中の記載から明らかとなるであろう。本概要の記載内容および本概要において示される具体例は、例示のみを意図するものであって、本開示の範囲を限定するものではない。
【0010】
本開示の教示内容に対する理解は、詳細な説明と添付の図面とにより、さらに完全となるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示に係る酸化鉄触媒と共に使用できる2段階式NO
x削減デバイスの一例の概略平面図である。
【
図2】溶媒として水およびエタノールを使用してマイクロ波水熱法により合成した鉄系触媒のNO
x吸蔵能力値を比較するグラフ図である。
【
図3】溶媒として水およびエタノールを使用してマイクロ波水熱法により合成した鉄系触媒の脱着挙動を比較するグラフ図である。
【
図4】溶媒として水およびエタノールを使用して水熱法により合成した鉄系触媒のX線回折パターンを比較するグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書中において上述される図面は、具体的な態様について説明するという目的のもとで、本開示に係る技術の全般的な特徴のうち本開示に係る方法、アルゴリズム、およびデバイスの全般的な特徴の例を示すことを意図するものである。これらの図面は、任意の態様の特徴を正確に反映したものではない場合があり、必ずしも、具体的な実施形態を本技術の範囲内に定義または限定することを意図するものではない。さらには、図面を組み合わせたものに由来する特徴を組み込んだ態様もあり得る。
【0013】
詳細な説明
本開示の教示によって、内燃機関の排気ガス流中の窒素酸化物(NOx)を短期間吸蔵し、続いて脱着するための(最終的には還元/除去するための)、向上させた、鉄系触媒、およびその作製方法が提供される。
【0014】
酸化窒素(NO)および二酸化窒素(NO2)は、燃焼排気流の有害成分である。NOおよびNO2(NOx)の削減を目的とする多くの触媒は、亜酸化窒素(N2O)またはアンモニアなどの望ましくない生成物を生じる。NOxがN2およびO2に直接変換される直接分解反応が知られているが、直接分解に用いる触媒は、多くの場合、約200℃よりも低温におけるN2に対する活性および/または選択性が低い。大抵の変換触媒は活性をほとんどまたは全く有さないため、車両が「コールドスタート」条件下にある間、すなわち排気および触媒コンバータの温度が低い時には、NOxが変換されない。
【0015】
作用温度を低くしたおよび/または吸蔵/脱着特性を向上させた、改善された触媒が、新世代の内燃機関において使用されつつある高燃料効率の燃焼様式と共に使用するために、特に有用であると考えられる、というのは、当該燃焼様式では、排気温度が大幅に低くなる場合があるためである。より具体的には、このように排気温度が低くなると、現行のリーンNOx(NO+NO2)制御技術では、コールドスタート時のNOx排出の大幅な低減を義務付ける厳しいNOx排出基準を満たすことが非常に難しい。
【0016】
たとえば、様々な代表的なNOx削減技術、すなわち、三元触媒作用(「TWC」)、リーンNOxトラップ(「LNT」)、および選択触媒還元(「SCR」)は、いずれも、ライトオフ温度が典型的には200℃よりも高い。排気温度が低くなると、入ってきた排気によって触媒コンバータを暖機して適切な反応を生じさせるために要する時間が長くなる。その結果、テールパイプの排出NOxの大部分が、車両のコールドスタート中に排出され得る。SCR技術の場合、この技術は、車載型NH3生成機構によって約180℃よりも高温において尿素を分解することに依拠している。したがって、コールドスタート中に、たとえば尿素の析出および詰まりなどの、触媒とは無関係の支障が生じ得る。
【0017】
低温ではNOxを保持し温度が上昇すると放出する受動NOx吸着剤(PNA’s)は、コールドスタート時のNOx排出に関連する問題を最小限に抑えるために有用である可能性がある。たとえば、望ましいPNA材料は、高容量のNOxを、たとえばTWCまたはSCRなどの触媒コンバータよりも上流の位置において迅速に吸着でき、システムの温度が作動温度まで上昇するのに要する短い時間、通常は約2~3分間の間、吸着したNOx種を保持できるものである。その後、PNA材料は、吸蔵していたNOxを、下流の還元触媒で還元できるように、放出または脱着するべきである。
【0018】
この点において、吸蔵されたNOxは、TWC/SCRシステムが作動すると直ちに放出されるべきであり、リッチ再生(rich regeneration)は行なわれない。一方、LNT触媒は、単に、NO2を吸着し、かつ、吸蔵したNOxの放出のために、リッチパージ(rich purging)を経る周期的な化学的還元を必要とする。PNAは、連続的なリーン条件下において、温度が上昇し、たとえば、約200℃~約350℃、または約400℃になって、触媒コンバータが効率よく機能できるようになると、NOxを熱的に放出する。リッチパージを不要とすることによって、燃費およびエンジン耐久性が大幅に向上し、電子制御が単純になる。
【0019】
セリア/アルミナに担持されたPd/Pt、およびゼオライトに担持されたPdは、2つの典型的なPNA形式である。前者の形式では、LNTに使用されるアルカリ土類酸化物(たとえば、BaO)の代わりにセリア/アルミナを使用しているため、低温でNOxを亜硝酸塩として吸蔵でき、NOをNO2に酸化する必要がない。亜硝酸塩は、200℃よりも高温において容易に分解する。しかしながら、特にセリアに基づく材料は、硫黄被毒に弱いために、実際の用途が限定されている。とりわけ、ゼオライトに担持されたPd触媒も、熱安定性が低いため、高温に弱い。
【0020】
本開示に係る酸化鉄触媒は、PNA用途と共に使用するのに有用であり、さらに、以下においてより詳細に記載するように、マイクロ波水熱合成法を用い、エタノールなどの有機溶媒を使用することによって、合成される。得られる酸化鉄触媒は、比較的低温において、または温度が約50℃~約100℃であるコールドスタート条件下において、優れたNOx吸蔵性を呈する。酸化鉄触媒は、さらに、その後に続く、望ましいエンジン作動範囲温度(約200℃~約400℃などの温度)として典型的な高温下において、優れたNOx脱着挙動を呈する。以下に記載されるような多様な態様において、酸化鉄触媒からのNOxの脱着は、200℃よりも高温において98%のレベルに達し、このことは、実際の用途において非常に有益である。脱着後、NOxは、下流にある三元触媒、NH3-SCR触媒、および/またはNO分解触媒において還元され得る。
【0021】
多様な態様において、本開示に係る技術は、マイクロ波水熱合成法とエタノールなどの有機溶媒とを使用する、鉄系触媒であって、第1の低温域(100℃~200℃)においてNOxを吸着し第2の高温域(200℃~400℃)においてNOxを放出する酸化鉄ナトリウム(NaFeO2)粒子を生じる触媒を提供する。
【0022】
マイクロ波水熱合成において使用されるマイクロ波照射は、異なる形態の熱であるというだけでなく、反応の反応性を向上させる。無機処理プロセスおよびセラミックスの焼結において、反応物にマイクロ波を照射することによって多種多様な化学反応を加速できる。また、マイクロ波照射は、試薬の化学反応性を増大させることもできる。他の加熱方法と比較して、マイクロ波照射下における反応では、反応速度が高くなり、より短い時間で生成物が生成され得る。水熱技術は、複数の技術目的に使用するための均質な組成および適切な形態を有する超微細材料を合成するのに好適である。マイクロ波水熱法は、マイクロ波照射(microware-irradiation)と水熱技術の両方の利点(短い反応時間、サイズ分布の狭い小粒子の生成、および高い純度を含む)を組み合わせたものである。
【0023】
研究により、初期のマイクロ波処理段階において、マイクロ波放射が、溶液中における局所的な過熱を促進し、かつ固体粒子を加速して高速化できることが示されている。これによって、粒子間の衝突が増加し、衝突した点において有効な融合が誘発される。原則的に、この種の電磁エネルギーは、核形成段階後に形成される一次粒子の内部において均一な加熱を誘発し得る。理論に拘束されるものではないが、マイクロ波放射によって引き起こされるこうした作用のすべてが、不規則な形状を有する凝集粒子の形成にとって有利であり得る、かつ、より有益な形態を生じ得る、かつ、その結果、PNAにおける吸着および脱着のプロセスのメカニズムに影響を及ぼすと考えられる。
【0024】
本開示に係る技術は、マイクロ波水熱合成を用いた、酸化鉄触媒などのNOx削減組成物の合成方法を提供する。当該方法は、概して、硝酸鉄(III)(Fe(NO3)3)を有機溶媒中に混合および溶解して溶液を得る工程から開始する。多様な態様において、有機溶媒は、エタノール、プロパノール、ブタノール、およびエチレングリコールのうち少なくとも1種を含む。当該方法は、溶解後、アルカリ性無機化剤を用いてこの溶液を中和することにより沈殿を得る工程を含む。本明細書中において使用される場合、中和した溶液のpHは約9~約11の範囲であってよく、その結果、沈殿が形成される。この工程は、代替的に、アルカリ沈殿工程とも称され得る。アルカリは、NaOH、他の水酸化物、または任意の他の好適なアルカリ性材料を含んでよい。たとえば、無機化剤は、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化アンモニウム、および炭酸アンモニウムのうち少なくとも1種を含む。好ましい一態様において、たとえば、望ましい形態の酸化鉄触媒を得るために、溶媒はエタノールを含み、無機化剤は水酸化ナトリウムを含む。次いで、この溶液を沈殿と共にマイクロ波放射に供することにより、温度勾配および水熱結晶化プロセスを引き起こして、合成産物を得る。多様な例において、水熱結晶化プロセスを、約140℃~約170℃または約160℃の温度において約10分間行なう。続いて、無機化剤から合成産物を分離する。当該方法は、合成産物を洗浄および乾燥することにより、受動NOx吸着剤(PNA)のための組成物として使用できる酸化鉄ナトリウム(NaFeO2)触媒の粒子を得る工程を含んでよい。
【0025】
特定の態様において、望ましくは、硝酸鉄(III)の一部を、遷移金属を含み得る他の金属硝酸塩で置き換えてよい。非限定的な一例において、Fe(NO3)3と、Co(NO3)2、Zn(NO3)2、Cu(NO3)2、およびNi(NO3)2から選択される少なくとも1種のさらなる金属硝酸塩とを含有する混合金属硝酸塩溶液が提供されてよい。多様な態様において、鉄と他の遷移金属とのモル比は、2より大きく3未満であってよい。たとえば、多様な遷移金属が、鉄に対するモル比約1:2~約1:3の範囲内にて存在してよい。当該合成方法は、さらに、得られる酸化鉄触媒を粉砕して所望の粒子径を有するNOx削減組成物(ナノ粒子)を得る工程、および/またはこのNOx削減組成物をか焼して揮発性不純物を除去する工程を含んでよい。
【0026】
本開示に係る技術は、さらに、排気ガス流からNOxを除去するための2段階式方法を提供する。当該排気ガス流からNOxを除去する方法は、排気ガス流を2段階システムに通して流す工程を含む。当該方法に関して使用される用語「2段階」は、2種の別個の触媒、すなわち、NOxを吸着、吸蔵し、その後に温度が上がると脱着するためのPNA材料として提供される第1の酸化鉄系触媒と、NOxを変換するために下流に提供される第2の触媒とに、排気ガス流が曝露されることを示す。多様な態様において、PNAは、削減デバイスの独立したPNA材料/部材として提供される。他の態様において、PNAは、たとえばハニカム形状の部材上に、ウォッシュコート層として提供されてよい。多層コーティングとして提供されてもよいし、または、区画分けされた領域内に提供されてもよい。
【0027】
さらに、本開示に係る技術は、排気ガス流からNO
xを除去するための装置をも提供する。このような装置は、一般的に、筐体と、筐体内に排気ガス流を入れるように構成される入口と、排気が筐体の外に出られるよう構成される出口とを含む。
図1は、2段階式デバイス100の一例の概略平面図を示す。デバイス100は、入口および出口を有する筐体140を含んでよい。筐体140は、PNAなどの低温NO
x吸蔵部材110と、吸蔵部材の下流に位置する高温NO
x変換触媒120とが入るよう構成されていてよい。NO
x吸蔵部材110は、低温ではNO
xを吸着し、温度が上がるとNO
xを脱着するよう構成される。NO
x吸蔵部材110は、一般的に、上述されるマイクロ波水熱法を用いて調製される、本開示の教示に係る式NaFeO
2のNO
x削減触媒組成物を含んでよい。
【0028】
NOx変換触媒120は、一般的に、当技術分野において周知される典型的な変換反応のうち任意のものによってNOxの変換を触媒するよう構成される。特定の実装形態において、変換触媒120は、本開示の教示に係るNOx削減触媒組成物を特に除外してよい。特定の実装形態において、変換触媒120は、以下の反応Iおよび/またはIIに従って、NOx分解を直接触媒できる触媒を含んでよい。
【0029】
2NO→N2+O2 (I)、および
2NO2→N2+2O2 (II)
直接分解反応は、一般的に、拮抗する生成物生成による反応とは区別され得る。たとえば、具体例として反応IIIおよびIVなどの不完全な分解反応では、窒素ガスではなく、望ましくない亜酸化窒素が生成する。
【0030】
4NO→2N2O+O2 (III)、および
4NO2→2N2O+3O2 (IV)
同様に、多様な選択触媒還元(SCR)反応が、アンモニアまたはアルカンなどのガス状の還元剤の存在下において生じ得て、反応V~VIIIに例示されるように、酸素ガスではなく、水、または水および二酸化炭素が生成し得る。
【0031】
4NO+4NH3+O2→4N2+6H2O (V)、
2NO2+4NH3+O2→3N2+6H2O (VI)、
NO+CH4+O2→N2+CO2+2H2O (VII)、および
2NO2+2CH4+2O2→N2+2CO2+2H2O (VIII)
酸素が存在すると、NOxは、たとえば反応IX中に示されるように、酸化もされ得る。
【0032】
2NO+O2→2NO2 (IX)
酸化窒素を含有するガス流に触媒が曝露されているような制御された反応条件下においては、主に反応IおよびIVのいずれか、または両方が生じ得るが、反応IおよびIVによってO2が生成されると、これに続いて反応IXも生じ得る。反応を組み合わせたものが、反応Xに示される。
【0033】
(4a+4c-2b)NO→aN2+bO2+cN2O+(2a-2b+c)NO2 (X)
いくつかの実装形態において、吸蔵部材110と変換触媒120とは、互いから空間的に分離されていてよい。このような実装形態においては、吸蔵部材110と変換触媒120とは、分離空間130によって分離されていてよい。このような分離空間が存在する場合、この分離空間の中は実質的に空であってよい、または多孔質の、ガス透過性の、もしくは他の好適な材料が入っていてもよい。
【0034】
当技術分野において通常の知識を有する者に広く周知されるように、本開示に係る技術と共に使用するのに有用なデバイスは、入口から排気ガス流が入り、出口から排気ガス流が出て、排気ガス流が特定のまたは定められた流動方向を有するように構成されていてよい。用語「上流」および「下流」は、本明細書中において、排気ガス流がデバイス100を通って流れるよう意図される方向(
図1中に矢印Fで表される)に対して相対的に使用される。たとえば、吸蔵部材110は、排気ガス流の上流部分、すなわちガス入口部分に近い領域に位置していてよく、変換触媒120は、排気ガス流の下流部分、すなわちガス出口部分に近い領域に位置していてよい。
【0035】
吸蔵部材110が排気ガス流の上流部分に位置し変換触媒120が排気ガス流の下流部分に位置する実装形態において、排気ガス流が変換触媒120に遭遇する前に排気ガス流が吸蔵部材110に遭遇してよいことが理解される。
【0036】
その結果、車両が「コールドスタート」にある間、すなわち、排気ガスの温度が比較的低い時、この低温の排気ガスはまず吸蔵部材110に遭遇し、ここで吸着および吸蔵されてよい。エンジンが継続して作動するうちに排気ガスが温まってくると、吸蔵部材110も温まってよく、その結果として、一時的に吸蔵されていたNOxが脱着して、NOxが下流の変換触媒へと流れてよい。ほとんどのNOx変換触媒は、コールドスタート時の低温における触媒活性が低いかごくわずかであり得ることが理解される。したがって、本開示に係るデバイス100のひとつの利点は、排気およびデバイス100が十分に温まって下流の変換触媒120が活性化されるまで、冷たいNOxが吸蔵部材中に保持され得る点である。したがって、望ましくは、変換触媒120の温度は、吸蔵部材110の温度と同じであってよい。たとえば、望ましくは、変換触媒120は、吸蔵部材110からのNOxの脱着が始まった時に活性が十分であるように、300℃または400℃の温度において最大触媒活性の少なくとも50%を達成してよい。
【実施例】
【0037】
本開示の多様な態様が、さらに、以下の実施例に関連して説明される。これらの実施例が本開示の具体的な実施形態を説明するために提供されること、および、これらの実施例が本開示の範囲を任意の具体的な態様に限定すると解釈されるべきではないことが理解される。
【0038】
比較例
酸化鉄ナノ粒子触媒の形成
2種の酸化鉄触媒を調製する、すなわち、1つは溶媒として水を用いてFe3O4粒子を得て、もう1つは溶媒としてエタノールを用いてNaFeO2粒子を得る。
【0039】
ビーカーの中で、脱イオン水またはエタノール中にFe(NO3)3を溶解し、撹拌して、各試料溶液を得る。次いで、無機化剤を添加することによって、各溶液を中和する。たとえば、水酸化ナトリウムを水またはエタノール(上述)のいずれかに溶解したものを、各溶液に添加する。次いで、黒い沈殿が得られる。こうして得られた各材料を、テフロン製スペクトルフィルム(Teflon spectrum film)を使用して、30mlのマイクロ波反応バイアル中に密閉する。各マイクロ波反応バイアルを、マイクロ波反応器(Anton Paar、Monowave 300)中に配置し、約160℃の温度において約10分間かけて結晶化させる。得られた黒い生成物を、それぞれ、脱イオン水またはエタノール(上述)のいずれかで何回か洗浄して、無機化剤を除去する。次いで、ろ過技術によって沈殿を分離する。得られた沈殿を、それぞれ、従来の炉の中で、約120℃の温度にて約12時間かけて乾燥させて、Fe3O4およびNaFeO2触媒を得る。
【0040】
NOx吸蔵実験
水およびエタノールを使用して調製した2種の酸化鉄触媒(Fe3O4およびNaFeO2)について、それぞれ、質量分析器が接続されたNetzsch熱重量分析装置において、NOx吸蔵実験を行なう。吸蔵させる前に、各酸化鉄触媒材料を、Arの存在下において約600℃の温度に加熱することによって、不純物の吸着があればこれを除去する、という前処理を行なう。前処理後、温度を約100℃に下げる。1.5%NO平衡Heを使用し、約100℃において約30分間かけて、NOx吸蔵を行なう。NOx吸蔵段階の終了後、Heの存在下において温度を100℃から600℃に上げて、NOを脱着させる。
【0041】
図2は、溶媒として水およびエタノールを使用してマイクロ波水熱法により合成した鉄系触媒のNO
x吸蔵能力値を比較するグラフ図である。グラフ図に示されるように、約100℃の温度において、能力はほぼ同じである。
【0042】
図3は、溶媒として水およびエタノールを使用してマイクロ波水熱法により合成した鉄系触媒の脱着挙動を比較するグラフ図である。グラフ図に示されるように、水を使用して合成した触媒については、200℃よりも高温においてNO
xの49%のみが脱着されており、一方、エタノールなどの有機溶媒を使用して合成した触媒については、200℃よりも高温においてNO
xの98%が脱着されていることが分かる。
【0043】
約50℃~約200℃までの低温における吸着後、重要なのは、吸着したNO
xを触媒が高温(>200℃)において脱着することであり、これによって、NO
xをさらにN
2およびO
2に変換できるほど十分に床下触媒(under floor catalyst)が温まっているということである。200℃に達する前に触媒がNO
xを脱着した場合には、三元触媒によって変換されず、NO
xが排気管から外に排出される可能性がある。
図3中に示される、鉄系触媒のNO
x脱着プロファイルは、溶媒として水を使用して合成した触媒は実際の用途のほとんどまたはいずれにも望ましくないことを示す。一方、溶媒としてエタノールを使用して合成した触媒は、200℃に達した後、NO
xの98%を脱着するため、実際の用途において非常に良好である。
【0044】
図4は、溶媒として水およびエタノールを使用して水熱法により合成した鉄系触媒のX線回折パターンを比較するグラフ図である。Rigaku SmartLab X線回折計およびCu Ka放射(1 1/4 1.5405A)を使用して、2種の触媒について、X線粉末回折(XRD)パターンを得る。ガラスホルダーを使用して、各試料を支える。スキャン範囲は10~80(2θ)、ステップサイズ(step size)は0.02、およびステップタイム(step time)は1秒であった。試料中に存在するXRD相を、ICDD-JCPDSデータファイルを用いて特定する。
【0045】
図4中に示されるように、2種の触媒は全く異なる特徴を呈する。溶媒として水を使用して合成した触媒は、Fe
3O
4スピネルによる反射を呈する。一方、エタノールを用いて合成した触媒においては、NaFe
2O
4相が観察される。こうした測定から、溶媒としてエタノールを使用してマイクロ波水熱合成法によって作製した触媒は、水を用いて合成した触媒の場合とは全く異なる相を生じ、これが最終的に、約200℃~約400℃の高温域において良好な脱着挙動をもたらすことが分かる。
【0046】
上述される説明は本質的に単なる例示であり、本開示または本開示の用途もしくは使用の限定を意図するものではない。本明細書中で用いられる、A、B、およびCの少なくとも1種(1つ)という表現は、非排他的な論理「または」を使用した「AまたはBまたはC」という論理を意味すると解釈されるべきである。ある方法に含まれる多様な工程が異なる順序で行なわれても本開示の原理は変更されないことが理解される。範囲の開示は、範囲全体に含まれる個々の範囲と個々の細分された範囲とのすべてが開示されていることを含む。
【0047】
本明細書中において用いられる見出し(たとえば「背景」および「概要」など)および小見出しは、本開示の範囲に含まれるトピックを概括的に整理することのみを意図するものであって、本技術またはその任意の態様の開示内容を限定することを意図するものではない。説明された特徴を有する複数の実施形態についての記載は、さらなる特徴を有する他の実施形態、または説明された特徴の別の組み合わせを組み込んだ他の実施形態の除外を意図するものではない。
【0048】
本明細書で用いられる「備える」および「含む」という用語ならびにそれらの変形は非限定を意図しており、項目の連続的な記載または列記は、本技術のデバイスおよび方法において有用であってもよい他の類似の項目を除外するものではない。同様に、「できる(し得る)」「して(も)よい」という用語ならびにそれらの変形は非限定を意図しており、ある実施形態が特定の要素または特徴を含み得るまたは含んでよいという記載は、こうした要素または特徴を含んでいない、本開示に係る技術の他の実施形態を除外しない。
【0049】
本開示の広範な教示内容は、多様な形態において実施することができる。したがって、本開示は具体例を含むが、当業者が明細書および下記の請求項を研究することにより他の改変が明らかとなるため、本開示の真の範囲は、本開示に含まれる具体例に限定されるべきではない。本明細書中において一態様または多様な態様に対する言及は、ある実施形態または特定のシステムに関連して記載される具体的な特徴、構造、または特性が、少なくとも1つの実施形態または態様に含まれることを意味する。「一態様において」という表現(またはその変形)が記載される場合、これは必ずしも同一の態様または実施形態を指すものではない。また、本明細書中に記載される多様な方法ステップは、記載される順序と同じ順序での実施が必須というわけではないこと、および、方法ステップの各々が各態様または実施形態において必要だというわけではないことが理解されるべきである。
【0050】
上述される実施形態の説明は、例示および説明の目的で提供される。網羅的であることも、本開示を限定することも意図していない。具体的な一実施形態の個々の要素または特徴は、一般的にはその具体的な実施形態に限定されず、適切な場合には、具体的な表記または記載がなくても、交換可能であり、かつ選択された実施形態において使用できる。また、具体的な一実施形態の個々の要素または特徴は、様々に変更されてもよい。このような変更は、本開示の範囲からの逸脱であるとみなされるべきではなく、このような改変はすべて、本開示の範囲内に含まれることが意図される。