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特許7366006極性ナノ領域エンジニアードリラクサー-PbTiO3強誘電性結晶
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】極性ナノ領域エンジニアードリラクサー-PbTiO3強誘電性結晶
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/32 20060101AFI20231013BHJP
   C01G 23/00 20060101ALI20231013BHJP
   C30B 11/00 20060101ALI20231013BHJP
   H10N 30/097 20230101ALI20231013BHJP
   H10N 30/853 20230101ALI20231013BHJP
【FI】
C30B29/32 D
C01G23/00 C
C30B11/00 Z
H10N30/097
H10N30/853
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2020512402
(86)(22)【出願日】2018-08-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-12
(86)【国際出願番号】 US2018049194
(87)【国際公開番号】W WO2019046777
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-06-23
(31)【優先権主張番号】62/553,511
(32)【優先日】2017-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510181862
【氏名又は名称】ティーアールエス・テクノロジーズ・インコーポレーテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】500273296
【氏名又は名称】ザ・ペン・ステート・リサーチ・ファンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 豊治
(72)【発明者】
【氏名】ルオ,ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ハッケンバーガー,ウェスリー・エス
(72)【発明者】
【氏名】リー,フェイ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,シュジュン
(72)【発明者】
【氏名】シュロート,トーマス・アール
【審査官】西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-044336(JP,A)
【文献】特開平07-105732(JP,A)
【文献】特開平07-107596(JP,A)
【文献】特表2014-500614(JP,A)
【文献】特表2011-510898(JP,A)
【文献】Ni Zhong et al.,Effect of rare earth additives on the microstructure and dielectric properties of 0.67Pb(Mg1/3Nb2/3)O3-0.33PbTiO3 ceramics,Materials Science and Engineering B,2005年
【文献】Fei Li et al.,Giant piezoelectricity of Sm-doped Pb(Mg1/3Nb2/3)O3-PbTiO3 single crystals,Science,Vol 364, Issue 6437,pp. 264-268
【文献】Qian Li et al.,Enhanced Piezoelectric Properties and Improved Property Uniformity in Nd-Doped PMN-PT Relaxor Ferroelectric Single Crystals,Advanced Functional Materials,Volume 32, Issue 25
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/32
C30B 11/00
C01G 23/00
H10N 30/853
H10N 30/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(Pb1-1.5x){[(M,MII1-z(MI’,MII’1-yTi}O
(式中、
Mは、Nd 3+ 、Sm 3+ 、Eu 3+ 、Gd 3+ 及びそれらの組み合わせからなる群から選択される希土類カチオンであり;
は、Mg2+、Zn2+、Yb3+、Sc3+、及びIn3+からなる群から選択され;
IIはNb5+であり;
I’は、Mg2+、Zn2+、Yb3+、Sc3+、In3+、及びZr4+からなる群から選択され;
II’は、Nb5+又はZr4+であり;
0<x≦0.05;
0.02<y<0.7;及び
0≦z<1であり;
但し、MI’又はMII’のいずれかがZr4+である場合は、MI’及びMII’の両方がZr4+である)
の一般式を有し、単結晶であるリラクサー-PT系圧電性結晶。
【請求項2】
zが0であり、前記結晶が二元系結晶である、請求項1に記載の結晶。
【請求項3】
が、Mg2+、Zn2+、Yb3+、Sc3+、及びIn3+からなる群から選択され、MIIがNb5+である、請求項2に記載の結晶。
【請求項4】
0<z<1であり、前記結晶が三元系結晶である、請求項1に記載の結晶。
【請求項5】
が、Mg2+、Zn2+、Yb3+、Sc3+、及びIn3+からなる群から選択され、MIIがNb5+であり、MI’及びMII’がそれぞれZr4+である、請求項4に記載の結晶。
【請求項6】
及びMI’が、それぞれ独立して、Mg2+、Zn2+、Yb3+、Sc3+、及びIn3+からなる群から選択され、MII及びMII’がそれぞれNb5+である、請求項4に記載の結晶。
【請求項7】
MがSm3+である、請求項に記載の結晶。
【請求項8】
前記結晶が、M修飾Pb(Mg1/3Nb2/3)O-PbTiO(PMNT)である、請求項1に記載の結晶。
【請求項9】
前記結晶が、M修飾Pb(In1/2Nb1/2)O-Pb(Mg1/3Nb2/3)O-PbTiO(PIN-PMN-PT)である、請求項1に記載の結晶。
【請求項10】
前記結晶が1モル%Sm:26PIN-PMN-28PTである、請求項に記載の結晶。
【請求項11】
前記結晶が1モル%Sm:26PIN-PMN-30PTである、請求項に記載の結晶。
【請求項12】
前記結晶が0.5モル%Sm:26PIN-PMN-30PTである、請求項に記載の結晶。
【請求項13】
前記結晶が、菱面体晶、斜方晶、正方晶、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される相を含む、請求項1に記載の結晶。
【請求項14】
0.0015≦x≦0.025である、請求項1に記載の結晶。
【請求項15】
0.25≦y≦0.35である、請求項1に記載の結晶。
【請求項16】
0≦z≦0.40である、請求項1に記載の結晶。
【請求項17】
リラクサー-PT系圧電性結晶を形成する方法であって、
第1の焼成温度で混合酸化物を焼成することによって前駆体材料を予備合成すること;
前記前駆体材料を単一の酸化物と混合し、前記第1の焼成温度よりも低い第2の焼成温度で焼成して、(Pb1-1.5x){[(M,MII1-z(MI’,MII’1-yTi}Oの一般式を有する供給材料を形成すること;及び
ブリッジマン法によって、前記供給材料から(Pb1-1.5x){[(M,MII1-z(MI’,MII’1-yTi}Oの一般式を有し、単結晶であるリラクサー-PT系圧電性結晶を成長させること:
を含み;
上式中、
Mは、Nd 3+ 、Sm 3+ 、Eu 3+ 、Gd 3+ 及びそれらの組み合わせからなる群から選択される希土類カチオンであり;
は、Mg2+、Zn2+、Yb3+、Sc3+、及びIn3+からなる群から選択され;
IIはNb5+であり;
I’は、Mg2+、Zn2+、Yb3+、Sc3+、In3+、及びZr4+からなる群から選択され;
II’は、Nb5+又はZr4+であり;
0<x≦0.05;
0.02<y<0.7;及び
0≦z<1であり;
但し、MI’又はMII’のいずれかがZr4+である場合は、MI’及びMII’の両方がZr4+である、上記方法。
【請求項18】
前記供給材料が少なくとも98%のペロブスカイト相である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記供給材料が純粋なペロブスカイト相である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記前駆体材料が、ウルフラマイト:InNbO、及びコロンバイト:MgNbからなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記単一の酸化物が、PbO/Pb、TiO、及び希土類酸化物からなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記第1の焼成温度が1,000~1,300℃の範囲である、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記第2の焼成温度が700~950℃の範囲である、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
前記ブリッジマン法が、前記供給材料の融点より20~150℃高い上部加熱ゾーン、及び前記供給材料の融点より50~300℃低い下部加熱ゾーンを有する2加熱ゾーンのブリッジマン炉を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項25】
前記ブリッジマン炉が、前記上部加熱ゾーンと前記下部加熱ゾーンとの間に<50℃/cmの軸方向温度勾配を有する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
請求項1~16のいずれかに記載の結晶を含む医療用超音波デバイス。
【請求項27】
医療用超音波デバイスにおける請求項1~16のいずれかに記載の結晶の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
[0001]本出願は、2017年9月1日に出願された米国仮出願第62/553,511号「極性ナノ領域エンジニアードリラクサー-PbTiO強誘電性結晶」(その全体が引用により本明細書に組み込まれる)の利益及びそれに対する優先権を主張する。
【0002】
[0002]本出願は、圧電性結晶及び圧電性結晶を形成する方法の分野、より詳しくは2元/3元系リラクサー-PT系圧電性結晶及び2元/3元系リラクサー-PT系圧電性結晶を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
[0003]過去60年間の間、ペロブスカイトのPb(ZrTi1-x)O(PZT)強誘電性セラミックは、それらの高い誘電係数、圧電係数、及び電気機械結合係数のために、圧電センサ、アクチュエータ、医用超音波トランスデューサのような電子デバイスの商業マーケットに関する主力の圧電材料であった。具体的には、菱面体晶及び正方晶の強誘電相と共存するPb(ZrTi1-x)O(x=0.52)におけるモルフォトロピック相境界(MPB)の近傍における組成は、2つの等価エネルギー状態、すなわち正方晶相と菱面体晶相の間の結合から生じる増大した分極率の結果として非常に高い誘電特性及び圧電特性を示し、これによりポーリング中の最適なドメイン再配向が可能になる。多くの用途におけるそれらの使用を最終的に向上させる特定の特徴を示すように加工された多くのPZT配合物が存在する。表1は、代表的な商業的に入手できる軟質PZTセラミックの特性を列挙する。
【0004】
【表1】
【0005】
[0005]1950年代後半に、Pb(M,MII)O(Mは低原子価カチオンであり、MIIは高原子価カチオンである)の化学式を有する複合ペロブスカイト(一般にリラクサーと呼ばれる)において、通常ではない誘電挙動が報告された。この化学構造を有する材料は周波数分散誘電率を示し、これは極性ナノ領域(PNR)の存在に関連する。発見された多くの興味深いリラクサー材料の中で、マグネシウムニオブ酸鉛(PMN)は室温で高い誘電率及び強い非ヒステリシス電歪効果を示した。1970年代後半に、通常の強誘電性ペロブスカイトのPbTiO(PT)を加えてPMNの固溶体を作成することによって、キュリー点及び非ヒステリシス二次歪みが増加したことが発見された。この発見に続いて直ちに、PTの組成レベルが増加することにつれて、PMN-PTの電歪挙動がより「古典的である」強誘電挙動に置き換わり、菱面体晶相と正方晶相を分離するMPBを示すPMN-PT二相図のマッピングがもたらされたことが発見された。PZTと同様に、PMN-PTセラミックの圧電特性はMPBにおいてピーク値に達し、700pC/Nのオ-ダ-である。特に重要なことは、リラクサー-PT材料の幾つかは単結晶に容易に成長させて、強い異方性及びエンジニアードドメイン構造によって圧電特性及び誘電特性を大幅に向上させることができることである。
【0006】
[0006]Pb(Mg1/3Nb2/3)O-PbTiO(PMN-PT)及びPb(In1/2Nb1/2)O-Pb(Mg1/3Nb2/3)O-PbTiO(PIN-PMN-PT)のようなリラクサー-PT単結晶の優れた圧電特性は、過去20年間に相当な研究的興味を引いてきた。具体的には、[001]分極反転エンジニアードドメイン構造を有するモルホトロピック相境界(MPB)付近の単結晶組成は、1500pC/Nより大きい縦圧電係数(d33)、及び0.90より高い電気機械結合係数を示す(S.Zhang及びF. Li, High Performance Ferroelectric Relaxor-PT Single Crystals: Status and Perspective, J. Appln. Phys. 111 (2012) 031301を参照)。例えば、2つの組成の通常の結晶特性を表2の上部に列挙する。全てのこれらの優れた特性により、リラクサー-PT単結晶は、広帯域及び高感度の超音波トランスデューサ、センサ、及び他の電気機械装置のための有望な候補になる(S.Zhang, F. Li, X. Jiang, J. Kim, J. Luo, X. Geng, Advantages and Challenges of Relaxor-PT Ferroelectric crystals for Electroacoustic Transducers - A Review, Prog. Mater. Sci., 68 (2015) 1-66; S. Zhang, F. Li, J. Luo, R. Sahul, T. Shrout, Relaxor-PT Single Crystals for Various Applications, IEEE Trans. Ultrason., Ferro., Freq. Control, 60 (2013) 1572を参照)。
【0007】
[0007]圧電デバイスにおける革新は、強誘電体材料の新たな開発の原動力であった。新しく開発された電気機械デバイスに適合させるために、従来のPZT及びPMNT系の材料と比較してより高い誘電特性及び圧電特性を有する材料が望まれている。例えば、圧電センサ及びアクチュエータは、>3,000pC/Nのより高い圧電係数d33を必要とし、一方で医療撮像用トランスデューサは、高い電気機械結合係数k33(≧0.9)を必要としているが、それはトランスデューサの帯域幅及び感度が結合係数の二乗に密接に関連しているからである。特に重要なことは、アレイトランスデューサが高い誘電率を必要とする一方で、誘電率が電気抵抗に反比例するという事実のために、非常に高い電気機械結合を維持することである。電力損を低減し、ノイズ/クロスト-クを低減するために、トランスデューサデバイスは、電気インピ-ダンス整合のために圧電材料の高い誘電率を必要とし、これは一般に標準として50Ωである。リラクサー-PT結晶でも>5,000の非常に高い自由誘電率を有することが報告されたが、束縛誘電率は高い電気機械結合係数のために1,000より低い(S. Zhang, F. Li, X. Jiang, J. Kim, J. Luo, X. Geng, Advantages and Challenges of Relaxor-PT Ferroelectric Crystals for Electroacoustic Transducers-A Review, Prog. Mater. Sci., 68 (2015) 1-66を参照)。これまでの努力は、圧電特性及び束縛誘電特性を向上させるために、菱面体晶-正方晶の組成相、及び/又は菱面体晶-斜方晶/単斜晶-正方晶の相境界を確立するモルフォトロピック相境界の設計に焦点を当ててきたが、成功は限られていた。
【0008】
[0008]最近、リラクサー系の強誘電体における極性ナノ領域(PNR)の寄与は、リラクサー系のペロブスカイト強誘電体の超高誘電及び圧電活性の起源であり、それらのそれぞれの室温値の50~80%を占めていると理論的にモデル化された(F. Liら、The Origin of Ultrahigh Piezoelectricity in Relaxor-Ferroelectric Solid Solution Crystals, Nature Communications, 7, 13807 (2016))。PZTに類似して、リラクサー-PT固溶体は、MPB組成を有するPZTに匹敵する良好な誘電特性及び圧電特性を有すると報告されたが、リラクサー成分におけるPNRはまた高誘電率にも寄与し、これは強誘電体マトリックスを有するPNRの「共線」状態によって説明することができる。したがって、PNRの寸法及び体積を制御すること、すなわち、直近の格子への局所構造の影響を制御して、向上した誘電特性を有する新規な材料系を設計することが望ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】S.Zhang及びF. Li, High Performance Ferroelectric Relaxor-PT Single Crystals: Status and Perspective, J. Appln. Phys. 111 (2012) 031301
【文献】S.Zhang, F. Li, X. Jiang, J. Kim, J. Luo, X. Geng, Advantages and Challenges of Relaxor-PT Ferroelectric crystals for Electroacoustic Transducers - A Review, Prog. Mater. Sci., 68 (2015) 1-66
【文献】S. Zhang, F. Li, J. Luo, R. Sahul, T. Shrout, Relaxor-PT Single Crystals for Various Applications, IEEE Trans. Ultrason., Ferro., Freq. Control, 60 (2013) 1572
【文献】S. Zhang, F. Li, X. Jiang, J. Kim, J. Luo, X. Geng, Advantages and Challenges of Relaxor-PT Ferroelectric Crystals for Electroacoustic Transducers-A Review, Prog. Mater. Sci., 68 (2015) 1-66
【文献】F. Liら, The Origin of Ultrahigh Piezoelectricity in Relaxor-Ferroelectric Solid Solution Crystals, Nature Communications, 7, 13807 (2016)
【発明の概要】
【0010】
[0009]代表的な実施形態は、リラクサー-PTベ-スの圧電性結晶及びその形成方法に関する。
[0010]1つの代表的な実施形態では、リラクサー-PT系圧電性結晶は、(Pb1-1.5x){[(M,MII1-z(MI’,MII’1-z1-yTi}O(式中、Mは希土類カチオンであり;Mは、Mg2+、Zn2+、Yb3+、Sc3+、及びIn3+からなる群から選択され;MIIはNb5+であり;MI’は、Mg2+、Zn2+、Yb3+、Sc3+、In3+、及びZr4+からなる群から選択され;MII’は、Nb5+又はZr4+であり;0<x≦0.05;0.02<y<0.7;及び0≦z≦1であり;但し、MI’又はMII’のいずれかがZr4+である場合は、MI’及びMII’の両方がZr4+である)の一般式を有する。
【0011】
[0011]別の代表的な実施形態では、リラクサー-PT系圧電性結晶を形成する方法は、混合酸化物を第1の焼成温度で焼成することによって前駆体材料を予備合成すること;前駆体材料を単一の酸化物と混合すること;及び、第1の焼成温度よりも低い第2の焼成温度で焼成して(Pb1-1.5x){[(M,MII1-z(MI’,MII’1-yTi}Oの一般式を有する供給材料を形成すること;並びに、ブリッジマン法によって、供給材料から(Pb1-1.5x){[(M,MII1-z(MI’,MII’1-yTi}Oの一般式を有するリラクサー-PT系圧電性結晶を成長させることを含み、ここで、Mは希土類カチオンであり、Mは、Mg2+、Zn2+、Yb3+、Sc3+、及びIn3+からなる群から選択され;MIIはN 5+であり;MI’は、Mg2+、Zn2+、Yb3+、Sc3+、In3+,及びZr4+からなる群から選択され;0<x≦0.05;0.02<y<0.7;0≦z≦1であり;但し、MI’又はMII’のいずれかがZr4+である場合は、MI’及びMII’の両方がZr4+である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】[0012]図1は、本発明の一実施形態による、垂直ブリッジマン法によって成長させたSm修飾PMN-PT及びPIN-PMN-PT単結晶を示す。
図2】[0013]図2は、本発明の一実施形態による、非修飾及びSm修飾のPMN-PT(a)及びPIN-PMN-PT(b)結晶(菱面体晶相部分のみ、[001]に沿ってポーリング)の長さに沿った誘電率の変化を示す。
図3】[0014]図3は、本発明の一実施形態による、非修飾及びSm修飾のPMN-PT(a)及びPIN-PMN-PT(b)結晶(菱面体晶相部分のみ、[001]に沿ってポーリング)の長さに沿った圧電係数の変化を示す。
図4】[0015]図4は、本発明の一実施形態による、PMN-32PTと2モル%のSmの混合物からの成長したままの状態の単結晶を示す。
図5】[0016]図5は、本発明の一実施形態による、26PIN-42PMN-32PTと2モル%のSmの混合物からの成長したままの状態の単結晶を示す。
図6】[0017]図6は、本発明の一実施形態による、2モル%Sm:PMN-32PT混合物からの結晶成長から切り出した試料における、(a)保磁力(E)及び飽和分極(P)を示す双極電界下の分極及び歪ヒステリシスル-プ(試料1)、及び(b)キュリー温度(T)を示す昇温温度に伴う誘電率の変動(試料2)を示す。
図7】[0018]図7は、本発明の一実施形態による、1モル%Sm:26PIN-PMN-30PT混合物からの結晶成長から切り出した試料における、(a)双極電界下の分極ル-プ、並びに(b)昇温温度による誘電率及び誘電損の変動を示す。
図8】[0019]図8は、本発明の一実施形態による、試料1(a)及び試料2(b)の単極電界下で測定された歪みを示す。
【0013】
[0020]可能な限り、同じ部品を表すために、図面全体を通して同じ参照番号が使用される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[0021]圧電性結晶及び圧電性結晶の形成方法を提供する。本発明の実施形態は、本明細書に開示される特徴の1以上を含まない方法と比較して、菱面体晶相部分に沿った誘電率及び圧電係数の減少した変動、増加した圧電係数、増加した自由誘電率、増加した束縛誘電率、電気機械結合の維持、又はそれらの組み合わせを含む。
【0015】
[0022]本発明は、アクチュエータ、圧電センサ、及び医療用超音波トランスデューサのような高性能電気機械用途のために好適な圧電性結晶に関する。約0.9の程度の高い電気機械結合を維持しながら大きな圧電係数及び誘電率を得ることができる強誘電体結晶として、例えば、チタン酸鉛(PbTiO;PT)と、Pb(M,MII)O(Mは、Mg2+、Zn2+、Yb3+、Sc3+、又はIn3+であってよく、一方でMIIはNb5+であってよい)のようなリラクサー端部材から構成される二元系又は三元系がこれまで知られている。リラクサー-PT単結晶は、過去20年間において、高性能医療用撮像トランスデューサにおける用途に関して広範な注目を集めてきた。しかしながら、低い束縛誘電率のために、かかる結晶は、電気インピ-ダンス整合のためにより複雑な設計を必要としていた。
【0016】
[0023]本発明は、PNRの体積比を修正することによって異なる用途のために採用することができる高い誘電特性(自由誘電率及び束縛誘電率の両方)及び電気機械特性を有することを特徴とする、リラクサー-PT組成物系の強誘電性結晶に関する。Pb[(M,MII1-z(MI’,MII’]O-PT系をベースとする圧電性結晶は、高いレベルの誘電/圧電活性を得るために修飾される。本発明は、ペロブスカイト型ABO結晶構造を有し、更に異原子価のカチオンで置換されたリラクサー-PTベースのドメインエンジニアード圧電性結晶を提供する。
【0017】
[0024]本発明においては、リラクサー-PT強誘電性結晶系におけるPNRをAサイト修飾によって制御して、大きく改善された誘電特性及び圧電特性に対するPNR及び/又は局所構造の影響を実証した。Aサイト修飾Pb[(M,MII1-z(MI’,MII’]O-PT二元/三元系結晶は、局所構造歪み及び/又は制御されたPNRの存在、及び/又は近傍のマトリクスからの異なる相を有する局所構造に起因して、非修飾の対応物のものと比較して高い誘電特性及び圧電特性を有していて、高い電気機械結合係数を維持しながら自由/束縛誘電率及び圧電係数が大幅に増加することが見出された。
【0018】
[0025]Pb[(M,MII1-z(MI’,MII’]O-PT二元/三元系単結晶は、高温相図によって示されるように完全固溶体系であるので、かかる結晶は、ブリッジマン法によって成長させた結晶ブールに沿って不均一な組成分布を示し(Luo H, Xu G, Wang P, Yin Z, Growth and Characterization of Relaxor Ferroelectric PMNT Single Crystals, Ferroelectrics, 1999 231 685-690)、これにより、成長方向に沿って誘電特性及び圧電特性の変動がもたらされる。しかしながら、現在開示されているように、特定のタイプの希土類カチオンによるAサイト置換によって、結晶成長方向に沿った特性変動を大きく低減することができる。
【0019】
[0026]一実施形態では、リラクサー-PT系の圧電性結晶は、(Pb1-1.5x){[(M,MII1-z(MI’,MII’1-yTi}O(式中、Mは希土類カチオンであり;Mは、Mg2+、Zn2+、Yb3+、Sc3+、In3+、又は任意の他の好適なカチオンであり;MIIは、Nb5+又は任意の他の好適なカチオンであり;MI’は、Mg2+、Zn2+、Yb3+、Sc3+、In3+、Zr4+、又は任意の他の好適なカチオンであり;MII’は、Nb5+、Zr4+、又は任意の他の好適なカチオンであり;0<x≦0.05;0.02<y<0.7;及び0≦z≦1であり;但し、MI’又はMII’のいずれかがZr4+である場合は、MI’及びMII’の両方がZr4+である)の一般式を有する。
【0020】
[0027]一実施形態では、zは0であり、結晶は二元系結晶である。二元系結晶は、Mg2+、Zn2+、Yb3+、Sc3+、In3+、又は任意の他の好適なカチオンであるM、及びNb5+又は任意の他の好適なカチオンであるMIIを含み得る。
【0021】
[0028]zが0より大きい別の実施形態では、結晶は三元系結晶である。三元系結晶は、Mg2+、Zn2+、Yb3+、Sc3+、In3+、又は任意の他の好適なカチオンであるM、Nb5+又は任意の他の好適なカチオンであるMII、並びにそれぞれZr4+又は任意の他の好適なカチオンであるMI’及びMII’を含み得る。或いは、三元系結晶は、それぞれ独立してMg2+、Zn2+、Yb3+、Sc3+、In3+、又は任意の他の好適なカチオンであるM及びMI’、並びにそれぞれNb5+又は任意の他の好適なカチオンであるMII及びMII’を含み得る。
【0022】
[0029]Mは、La3+、Ce3+、Pr3+、Nd3+、Pm3+、Sm3+、Eu3+、Gd3+、Tb3+、Dy3+、Ho3+、Er3+、Tm3+、Yb3+、Lu3+、又はそれらの組み合わせなど(しかしながらこれらに限定されない)の任意の好適な希土類カチオンであってよい。一実施形態では、MはSm3+である。
【0023】
[0030]一実施形態では、結晶は、M修飾Pb(Mg1/3Nb2/3)O-PbTiO(PMNT)である。別の実施形態では、結晶は、M修飾Pb(In1/2Nb1/2)O-Pb(Mg1/3Nb2/3)O-PbTiO(PIN-PMN-PT)である。結晶に関して好適な組成としては、1モル%Sm:26PIN-PMN-28PT、1モル%Sm:26PIN-PMN-30PT、及び0.5モル%Sm:26PIN-PMN-30PTが挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
[0031]結晶は、菱面体晶、斜方晶、正方晶、及びこれらの組み合わせなど(しかしながらこれらに限定されない)の任意の好適な相を含んでいてよい。
[0032]一実施形態では、結晶は、ポーリング後に、y、z、M、MII、MI’、及びMII’に関して同じ選択肢及び値、並びに同じ結晶対称性を有するPb{[(M,MII1-z(MI’,MII’1-yTi}Oの比較式を有する比較結晶と比べて、菱面体晶相部分に沿った誘電率及び圧電係数のより少ない変動を示す。更なる実施形態では、結晶は、誘電率及び圧電係数の少なくとも25%少ない変動、或いは少なくとも30%少ない変動、或いは少なくとも35%少ない変動、或いは少なくとも40%少ない変動を示す。
【0025】
[0033]一実施形態では、結晶は、ポーリング後に、y、z、M、MII、MI’、及びMII’に関して同じ選択肢及び値、並びに同じ結晶対称性を有するPb{[(M,MII1-z(MI’,MII’1-yTi}Oの比較式を有する比較結晶と比べてより高い圧電係数を示す。更なる実施形態では、結晶は、少なくとも20%高い圧電係数、或いは少なくとも25%高い圧電係数、或いは少なくとも30%高い圧電係数、或いは少なくとも35%高い圧電係数を示す。
【0026】
[0034]一実施形態では、結晶は、ポーリング後に、y、z、M、MII、MI’、及びMII’に関して同じ選択肢及び値、並びに同じ結晶対称性を有するPb{[(M,MII1-z(MI’,MII’1-yTi}Oの比較式を有する比較結晶と比べてより高い自由誘電率を示す。更なる実施形態では、結晶は、少なくとも20%高い自由誘電率、或いは少なくとも25%高い自由誘電率、或いは少なくとも30%高い自由誘電率、或いは少なくとも35%高い自由誘電率を示す。
【0027】
[0035]一実施形態では、結晶は、ポーリング後に、y、z、M、MII、MI’、及びMII’に関して同じ選択肢及び値、並びに同じ結晶対称性を有するPb{[(M,MII1-z(MI’,MII’1-yTi}Oの比較式を有する比較結晶と比べてより高い束縛誘電率を示す。更なる実施形態では、結晶は、少なくとも20%高い束縛誘電率、或いは少なくとも25%高い束縛誘電率、或いは少なくとも30%高い束縛誘電率、或いは少なくとも35%高い束縛誘電率を示す。
【0028】
[0036]一般式(Pb1-1.5x){[(M,MII1-z(MI’,MII’1-yTi}Oを有する結晶は、0<x≦0.05、或いは0.001≦x≦0.03、或いは0.0015≦x≦0.025など(しかしながらこれらに限定されない)のxに関する任意の好適な値を有していてよい。
【0029】
[0037]一般式(Pb1-1.5x){[(M,MII1-z(MI’,MII’1-yTi}Oを有する結晶は、0.02<y<0.7、或いは0.20≦y≦0.40、或いは0.25≦y≦0.35など(しかしながらこれらに限定されない)のyに関する任意の好適な値を有していてよい。
【0030】
[0038](Pb1-1.5x){[(M,MII1-z(MI’,MII’1-yTi}Oを有する結晶は、0≦z≦1、或いは0≦z≦0.40など(しかしながらこれらに限定されない)のzに関する任意の好適な値を有していてよい。
【0031】
[0039]Aサイト修飾リラクサー-PT系圧電性結晶は、垂直ブリッジマン法又は任意の他の好適な方法を用いてそれらの溶融物から成長させることができる。結晶は、<001>、<110>、又は<111>配向、又は任意の好適な配向に沿って成長させることができる。結晶は、任意の好適なエンジニアードドメイン構造でポーリングすることができる。菱面体晶については、4Rエンジニアードドメイン構造を有する[001]分極反転結晶、及び2Rエンジニアードドメイン構造を有する[011]分極反転結晶を挙げることができ;斜方晶については、4Oエンジニアードドメイン構造を有する[001]分極反転結晶、3Oエンジニアードドメイン構造を有する[111]分極反転結晶を挙げることができ;正方晶については、2Tエンジニアードドメイン構造を有する[011]分極反転結晶、3Tエンジニアードドメイン構造を有する[111]分極反転結晶を挙げることができる。
【0032】
[0040]一実施形態では、垂直ブリッジマン法を適用して結晶を成長させる。結晶成長プロセスにおいて結晶成長界面を安定に保つためには、原材料のバッチング(batching)中のパイロクロア相の形成、及び結晶成長中の自発核形成/多結晶粒成長を阻止するために、少なくとも98%、或いは純粋なペロブスカイト相原材料を予備合成することができる。本明細書で使用される「純粋」とは、少なくとも99.5%を示す。パイロクロア相の形成を阻止するために、バッチング法に前駆体法を採用することができる。調製のために、まず混合酸化物を1,000~1,300℃で焼成することによって、ウルフラマイト:InNbO、及びコロンバイト:MgNbなど(しかしながらこれらに限定されない)の異なる前駆体材料をそれぞれ合成することができる。PbO/Pb、TiO、希土類酸化物など(しかしながらこれらに限定されない)の単一酸化物を前駆体材料と混合した後、より低い温度(700~950℃)での別の焼成プロセスによって、(Pb1-1.5x){[(M,MII1-z(MI’,MII’1-yTi}Oの一般式を有する供給材料を合成することができ、粉末x線回析(XRD)を用いて、この前駆体法によって十分に純粋なペロブスカイト相が得られることを検証することができる。
【0033】
[0041]次に、(Pb1-1.5x){[(M,MII1-z(MI’,MII’1-yTi}Oの一般式を有する供給原料から、結晶種を用いずに、又は同種の結晶の結晶種を用いて、ブリッジマン法によって結晶を成長させることができる。結晶成長のためには、2加熱ゾーン式のブリッジマン炉を用いることができる。それぞれ、上部ゾーンの温度は供給材料の融点よりも高くすることができ、下部ゾーンの温度は供給材料の融点よりも低くすることができる。ブリッジマン成長プロセスでは、底部に単結晶の種晶(適用される場合)、及び種晶の上方に粉末又はセラミックのいずれかの形態の供給材料を充填した円筒状Ptるつぼを、2ゾーン式の炉内に配置することができる。小さな結晶の成長のためには、複数のるつぼを単結晶成長運転において一緒に炉中に装填することができる。上部ゾーンの温度を融点より20~150℃高く、下部ゾーンの温度を融点より50~300℃低く設定することにより、2つのゾーンの間に<50℃/cmの軸方向の温度勾配を形成することができる。装填物及び種結晶の一部(適用される場合)を上部ゾーンにおいて溶融した後、るつぼを、温度勾配を通してゆっくりと低下させて、一方向結晶化を生じさせることができる。この方法により、異なる径及び長さを有する(Pb1-1.5x){[(M,MII1-z(MI’,MII’1-yTi}Oの一般式を有する結晶を成長させることができる。
【0034】
例:
[0042]図1は、本明細書に記載する方法によって成長させたSm-修飾PMN-PT及びPIN-PMN-PT単結晶を示す。結晶を、リアルタイムラウエX線又はX線回折ユニットを用いて配向させ、次にIEEE圧電標準規格(圧電性に関するIEEE標準規格、ANSI/IEEE標準規格、 NY, 1987-176)にしたがうアスペクト比を有する試料が得られるように切り出した。すべての試料は、<001>、<110>、又は<111>方向に沿って配向させ、金を電極として表面上にスパッタした。結晶試料を、室温において5~16kV/cmでポーリングした。ロックインアンプによって駆動される修正ソ-ヤ-タワ-回路及び線形可変差動トランスデューサー(LVDT)を用いて、室温において低周波数で高電場分極及び歪み測定を行った。IEEE規格に従って、HP4194Aインピ-ダンス-位相利得アナライザーを用いることによって、室温の誘電特性、圧電特性、電気機械特性を求めた。コンピュ-タ制御温度チャンバーに接続された多周波数LCRメータ(HP4284A)を用いて、0.1kHz~10kHzの周波数範囲で、誘電性の温度依存性を測定した。<001>分極反転Sm修飾PMN-PT及びPIN-PMN-PT結晶の試験結果を、非修飾結晶と比較して表2に要約する。1モル%Sm:PMN-28PT、1モル%Sm:PMN-30PT、1モル%Sm:26PIN-PMN-28PT、1モル%Sm:26PIN-PMN-30PT、及び0.5モル%Sm:26PIN-PMN-30PTのようなAサイト修飾PMN-PT及びPIN-PMN-PT結晶の幾つかは、非修飾の対応物よりも、菱面体晶から正方晶への相転移温度(Trt)及び誘電損(tanδ)に関する妥協を伴って、非常に高い自由及び束縛誘電率(ε及びε-束縛)、圧電係数(d33)、及び結合係数を有する。Aサイト置換の影響を生かすためために、二元/三元系の基本組成及び置換レベルを最適化することができる。PMN-32PT及び26PIN-PMN-32PTにおけるSmによる2モル%のAサイト置換が、成長したままの結晶ブールの大部分を菱面体晶相から正方晶相にシフトさせ、より低い誘電率及び圧電係数をもたらしたことが分かる。また、Aサイト上に0.25モル%のSm置換を有する26PIN-PMN-28PTから成長した結晶は、低い置換レベルと低いPT含有量との組み合わせのために、中程度の誘電特性及び圧電特性しか有しないことが分かる。表2はそれぞれの結晶の供給材料組成のみを列挙しているが、それぞれの成長したままの結晶は、組成偏析効果のために、はるかに広い範囲の組成をカバーすることに留意されたい(これについては以下で更に詳細に説明する)。
【0035】
[0043]
【0036】
【表2】
【0037】
[0044]各結晶の長さに沿った異なる位置から採取した<001>分極反転試料を測定することによって、非修飾及びAサイト修飾PMN-PT/PIN-PMN-PT結晶の間で、各結晶における縦方向の特性の変動を特性分析した。図2及び3は、非修飾及びSm修飾PMN-PT及びPIN-PMN-PT結晶(成長したままの結晶のそれぞれにおける菱面体晶相部分のみ)の長さに沿った誘電率及び圧電係数の変化を示す。Smは、PMN-PT及びPIN-PMN-PT結晶の菱面体晶相の縦方向の特性の変動を大幅に抑制することが明らかに分かる。例えば、図2は(a)及び(b)において、誘電率は、PMN-PT結晶及びPIN-PMN-PT結晶の菱面体晶部分において全体的に45%を超えて変化したが、同じタイプのSm修飾結晶においては約19%しか変化しなかったことを示している。同様に、図3の(a)及び(b)において示すように、圧電係数は、PMN-PT結晶及びPIN-PMN-PT結晶の菱面体晶部分では全体的に75%を超えて変化したが、同じタイプのSm修飾結晶ではわずか約22%であった。Smは、結晶における他の特性の変動を減少させることができることが予測される。同じように、他のAサイト置換物の幾つかは、結晶特性変動に対してSmと同じ影響を及ぼし得る。
【0038】
[0045]成長したままの結晶の幾つかの組成を、電子プロ-ブ微量分析(EPMA)によって分析した。これらの固溶体系における組成偏析のために、各結晶ブールの底部及び頂部は、主要元素の大部分について異なる濃度を示す。表3に示すように、Pbを除いて、Sm:PMN-PT及びSm:PIN-PMN-PT結晶中の他の全ての元素は、ブリッジマン成長中に組成偏析を示し、1より大きい(Nb、Mg、In、及びSm)か、又は1より小さい(Ti)有効偏析係数を示す。Inについては、その濃度が結晶ブールの底部から頂部まで比較的安定しているので、組成偏析は1に非常に近い。
【0039】
[0046]
【0040】
【表3】
【実施例
【0041】
実施例1:
[0047]Sm:PMN-PT結晶成長:Sm修飾PMN-PT(68モル%PMN-32モル%PT中の2モル%Sm)結晶成長のための典型的なブリッジマン法を、以下に記載する。PMN-PT化合物の化学量論に従って、PbO、MgNb、及びTiOを2モル%のSmと混合した。混合物を、ボールミル中で16時間ジルコニア粉砕媒体により粉砕し、次に約50℃のオ-ブン中で乾燥させた。乾燥した粉末を80メッシュのナイロンスクリ-ンを通して篩別し、次に850℃で焼成した。ペロブスカイト相の純度をXRDによって確認した。合成された粉末をプレスして小さなペレットにし、1250℃で焼成した。次に、セラミックペレットをテーパー形状の白金(Pt)るつぼ中に装填した。Ptるつぼは、直径15mm、長さ100mmで、直径10mm、長さ50mmのシードウェルを有する(シードウェル中には単結晶種晶を装填しなかった)。
【0042】
[0048]結晶成長のために、2加熱ゾーンの垂直ブリッジマン炉を用いた。上部及び下部加熱ゾーンに関する最高温度は、それぞれ1390℃及び1100℃であった。Ptるつぼに沿った垂直方向の温度勾配は>5℃/cmであった。全装填物を溶融した後、それを10時間浸漬し、次にるつぼを0.6mm/時の速度で降下させて、Ptるつぼの底部で結晶化プロセスを開始した。るつぼを約150mm下方に移動させた後に、垂直温度勾配によって駆動される結晶化プロセスを完了した。次に、炉を78時間で室温に冷却した。10~15mmの直径及び約90mmの長さを有する単結晶(ブールの最初の部分を除く)が得られ、これをほぼ<111>配向に沿って成長させた。図4はこの結晶ブールの写真である。
【0043】
実施例2:
[0049]Sm:PIN-PMN-PT結晶成長:Sm修飾PIN-PMN-PT(26モル%PIN-42モル%PMN-32モル%PT中の2モル%Sm)結晶成長に関する典型的なブリッジマン法を、以下に記載する。PIN-PMN-PT化合物の化学量論に従って、PbO、MgNb、InNbO、及びTiOを、2モル%のSmと混合した。混合物をボールミル中で16時間、ジルコニア粉砕媒体により粉砕し、次に約50℃のオ-ブン中で乾燥させた。乾燥した粉末を、80メッシュのナイロンスクリ-ンを通して篩別し、次に850℃で焼成した。ペロブスカイト相の純度をXRDによって確認した。合成した粉末をプレスして小さなペレットし、1250℃で焼成した。次に、セラミックペレットをテーパー付き白金(Pt)るつぼ中に装填した。Ptるつぼは、直径15mm、長さ100mmで、直径10mm、長さ50mmのシードウェルを有する(シードウェルには単結晶種晶を装填しなかった)。
【0044】
[0050]結晶成長のために、2加熱ゾーンの垂直ブリッジマン炉を用いた。上部及び下部加熱ゾーンに関する最高温度は、それぞれ1390℃及び1100℃であった。Ptるつぼに沿った垂直方向の温度勾配は>5℃/cmであった。全装填物を溶融した後、それを10時間浸漬し、次にるつぼを0.6mm/時の速度で降下させて、Ptるつぼの底部で結晶化プロセスを開始した。るつぼを約150mm下方に移動させた後に、垂直温度勾配によって駆動される結晶化プロセスを完了した。次に、炉を78時間で室温に冷却した。10~15mmの直径及び約110mmの長さを有する単結晶(ブールの最初の部分を除く)が得られ、これをほぼ<111>配向に沿って成長させた。図5はこの結晶ブールの写真である。
【0045】
実施例3:
[0051]Sm:PMN-PT結晶試験:実験1で成長させたSm修飾PMN-PT(68モル%PMN-32モル%PT中の2モル%Sm)結晶の圧電特性及び誘電特性を測定した。まず、単結晶ブールを、リアルタイムラウエX線写真撮影システムによって配向させた。次に、約10:1の幅/厚さ比を有する薄いプレート試料を、{001}族のプレートの大きな面の対を有するブールから切り出した。大きな面の対の上にAu電極をスパッタした後、10kV/cm、0.1~10Hzの交流場下でソーヤータワー分極及びLVDT歪計測システムを用いることによって分極と歪のヒステリシスサイクルを測定し、それから試料の残留分極(P)、保磁場(E)、圧電係数(d33)を得た。一方で、試料を<001>に沿って(厚さ方向に)にポーリングした。温度チャンバーに接続したHP4174A-LCRメータにより、温度に対する誘電率及び誘電損を、温度範囲25~150℃内で測定した。次に、キュリー温度(T)及び菱面体晶-正方晶相転移温度(Trt)を誘電率の最高ピークにより求めた。測定された誘電特性及び圧電特性を図6に示す。
【0046】
実施例4:
[0052]Sm:PIN-PMN-PT結晶試験:26モル%PIN-PMN-30モル%PT(1モル%Sm置換を有する)から成長させたSm修飾結晶の圧電特性及び誘電特性を測定した。まず、単結晶ブールをリアルタイムラウエX線写真撮影システムによって配向させた。次に、約10:1の幅/厚さ比を有する薄いプレート試料を、{001}族のプレートの大きな面の対を有するブールから切り出した。大きな面の対の上にCr/Au電極をスパッタした後、10kV/cm、0.1~10Hzの交流場下でソーヤータワー分極及びLVDT歪計測システムを用いることによって分極のヒステリシスサイクルを測定し、それから試料の保磁場(E)及び圧電係数(d33)を得た。一方で、試料を<001>に沿って(厚さ方向に)にポーリングした。温度チャンバーに接続したHP4174A-LCRメータにより、温度に対する誘電率及び誘電損を、温度範囲25~200℃内で測定した。次に、キュリー温度(T)及び菱面体晶-正方晶相転移温度(Trt)を誘電率の最高ピークにより求めた。測定された誘電特性及び圧電特性を表4及び図7に示す。
【0047】
【表4】
【0048】
実施例5:
[0054]<111>ポーリングされたSm修飾結晶試験:PMN-32モル%PT及び26モル%PIN-PMN-32モル%PT(両方とも2モル%Sm置換を伴う)から成長させたSm修飾結晶の圧電特性及び誘電特性を測定した。まず、単結晶ブールを、リアルタイムラウエX線写真撮影システムによって配向させた。次に、約10:1の幅/厚さ比を有する薄いプレート試料を、{111}族のプレートの大きな面の対を有するブールから切り出した。大きな面の対の上にCr/Au電極をスパッタした後、10kV/cm、0.1~10Hzの交流場及び直流場下でソーヤータワー分極及びLVDT歪計測システムを用いることによって分極及び歪を測定し、それから試料の保磁場(E)及び圧電係数(d33)を得た。一方で、試料を<111>に沿って(厚さ方向に)ポーリングした。温度チャンバーに接続したHP4174A-LCRメータにより、温度に対する誘電率及び誘電損を、温度範囲25~200℃内で測定した。次に、キュリー温度(T)及び菱面体晶-正方晶相転移温度(Trt)を誘電率の最高ピークにより求めた。室温で測定された誘電特性及び圧電特性(Trt/Tを除く)を表5及び図8に示す。室温では、試料1及び2はそれぞれ斜方晶相及び正方晶相であり得る。
【0049】
【表5】
【0050】
[0056]本発明を好ましい実施形態を参照して説明したが、発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更を行うことができ、その構成要素に代えて均等物を用いることができることが当業者に理解されよう。加えて、その本質的な範囲から逸脱することなく、特定の状況又は材料を本発明の教示に適合させるために多くの修正を行うことができる。したがって、本発明は、本発明を実施するために企図されるベストモードとして開示される特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明は添付の特許請求の範囲内にあるすべての実施形態を含むと意図される。
本発明は以下の態様を含む。
[1]
(Pb 1-1.5x ){[(M ,M II 1-z (M I’ ,M II’ 1-y Ti }O
(式中、
Mは希土類カチオンであり;
は、Mg 2+ 、Zn 2+ 、Yb 3+ 、Sc 3+ 、及びIn 3+ からなる群から選択され;
II はNb 5+ であり;
I’ は、Mg 2+ 、Zn 2+ 、Yb 3+ 、Sc 3+ 、In 3+ 、及びZr 4+ からなる群から選択され;
II’ は、Nb 5+ 又はZr 4+ であり;
0<x≦0.05;
0.02<y<0.7;及び
0≦z≦1であり;
但し、M I’ 又はM II’ のいずれかがZr 4+ である場合は、M I’ 及びM II’ の両方がZr 4+ である)
の一般式を有するリラクサー-PT系圧電性結晶。
[2]
zが0であり、前記結晶が二元系結晶である、[1]に記載の結晶。
[3]
が、Mg 2+ 、Zn 2+ 、Yb 3+ 、Sc 3+ 、及びIn 3+ からなる群から選択され、M II がNb 5+ である、[2]に記載の結晶。
[4]
zが0より大きく、前記結晶が三元系結晶である、[1]に記載の結晶。
[5]
が、Mg 2+ 、Zn 2+ 、Yb 3+ 、Sc 3+ 、及びIn 3+ からなる群から選択され、M II がNb 5+ であり、M I’ 及びM II’ がそれぞれZr 4+ である、[4]に記載の結晶。
[6]
及びM I’ が、それぞれ独立して、Mg 2+ 、Zn 2+ 、Yb 3+ 、Sc 3+ 、及びIn 3+ からなる群から選択され、M II 及びM II’ がそれぞれNb 5+ である、[4]に記載の結晶。
[7]
Mが、La 3+ 、Ce 3+ 、Pr 3+ 、Nd 3+ 、Pm 3+ 、Sm 3+ 、Eu 3+ 、Gd 3+ 、Tb 3+ 、Dy 3+ 、Ho 3+ 、Er 3+ 、Tm 3+ 、Yb 3+ 、Lu 3+ 、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、[1]に記載の結晶。
[8]
MがSm 3+ である、[7]に記載の結晶。
[9]
前記結晶が、M修飾Pb(Mg 1/3 Nb 2/3 )O -PbTiO (PMNT)である、[1]に記載の結晶。
[10]
前記結晶が、M修飾Pb(In 1/2 Nb 1/2 )O -Pb(Mg 1/3 Nb 2/3 )O -PbTiO (PIN-PMN-PT)である、[1]に記載の結晶。
[11]
前記結晶が1モル%Sm:26PIN-PMN-28PTである、[10]に記載の結晶。
[12]
前記結晶が1モル%Sm:26PIN-PMN-30PTである、[10]に記載の結晶。
[13]
前記結晶が0.5モル%Sm:26PIN-PMN-30PTである、[10]に記載の結晶。
[14]
前記結晶が、菱面体晶、斜方晶、正方晶、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される相を含む、[1]に記載の結晶。
[15]
前記結晶が、ポーリング後に、y、z、M 、M II 、M I’ 、及びM II’ に関して同じ選択肢及び値、並びに同じ結晶対称性を有するPb{[(M ,M II 1-z (M I’ ,M II’ 1-y Ti }O の比較式を有する比較結晶と比べて、菱面体晶相部分に沿った誘電率及び圧電係数の少なくとも25%少ない変動を示す、[1]に記載の結晶。
[16]
前記結晶が、ポーリング後に、y、z、M 、M II 、M I’ 、及びM II’ に関して同じ選択肢及び値、並びに同じ結晶対称性を有するPb{[(M ,M II 1-z (M I’ ,M II’ 1-y Ti }O の比較式を有する比較結晶と比べて、少なくとも20%高い圧電係数を示す、[1]に記載の結晶。
[17]
前記結晶が、ポーリング後に、y、z、M 、M II 、M I’ 、及びM II’ に関して同じ選択肢及び値、並びに同じ結晶対称性を有するPb{[(M ,M II 1-z (M I’ ,M II’ 1-y Ti }O の比較式を有する比較結晶と比べて、少なくとも20%高い自由誘電率を示す、[1]に記載の結晶。
[18]
前記結晶が、ポーリング後に、y、z、M 、M II 、M I’ 、及びM II’ に関して同じ選択肢及び値、並びに同じ結晶対称性を有するPb{[(M ,M II 1-z (M I’ ,M II’ 1-y Ti }O の比較式を有する比較結晶と比べて、少なくとも20%高い束縛誘電率を示す、[1]に記載の結晶。
[19]
0.0015≦x≦0.025である、[1]に記載の結晶。
[20]
0.25≦y≦0.35である、[1]に記載の結晶。
[21]
0≦z≦0.40である、[1]に記載の結晶。
[22]
リラクサー-PT系圧電性結晶を形成する方法であって、
第1の焼成温度で混合酸化物を焼成することによって前駆体材料を予備合成すること;
前記前駆体材料を単一の酸化物と混合し、前記第1の焼成温度よりも低い第2の焼成温度で焼成して、(Pb 1-1.5x ){[(M ,M II 1-z (M I’ ,M II’ 1-y Ti }O の一般式を有する供給材料を形成すること;及び
ブリッジマン法によって、前記供給材料から(Pb 1-1.5x ){[(M ,M II 1-z (M I’ ,M II’ 1-y Ti }O の一般式を有するリラクサー-PT系圧電性結晶を成長させること:
を含み;
上式中、
Mは、希土類カチオンであり;
は、Mg 2+ 、Zn 2+ 、Yb 3+ 、Sc 3+ 、及びIn 3+ からなる群から選択され;
II はNb 5+ であり;
I’ は、Mg 2+ 、Zn 2+ 、Yb 3+ 、Sc 3+ 、In 3+ 、及びZr 4+ からなる群から選択され;
II’ は、Nb 5+ 又はZr 4+ であり;
0<x≦0.05;
0.02<y<0.7;及び
0≦z≦1であり;
但し、M I’ 又はM II’ のいずれかがZr 4+ である場合は、M I’ 及びM II’ の両方がZr 4+ である、上記方法。
[23]
前記供給材料が少なくとも98%のペロブスカイト相である、[22]に記載の方法。
[24]
前記供給材料が純粋なペロブスカイト相である、[22]に記載の方法。
[25]
前記前駆体材料が、ウルフラマイト:InNbO 、及びコロンバイト:MgNb からなる群から選択される、[22]に記載の方法。
[26]
前記単一の酸化物が、PbO/Pb 、TiO 、及び希土類酸化物からなる群から選択される、[22]に記載の方法。
[27]
前記第1の焼成温度が1,000~1,300℃の範囲である、[22]に記載の方法。
[28]
前記第2の焼成温度が700~950℃の範囲である、[22]に記載の方法。
[29]
前記ブリッジマン法が、前記供給材料の融点より20~150℃高い上部加熱ゾーン、及び前記供給材料の融点より50~300℃低い下部加熱ゾーンを有する2加熱ゾーンのブリッジマン炉を含む、[22]に記載の方法。
[30]
前記ブリッジマン炉が、前記上部加熱ゾーンと前記下部加熱ゾーンとの間に<50℃/cmの軸方向温度勾配を有する、[28]に記載の方法。
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8