(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】フラックスフリーのろう付け用のアルミニウム多層ブレージングシート
(51)【国際特許分類】
B23K 35/40 20060101AFI20231013BHJP
B23K 35/22 20060101ALI20231013BHJP
B23K 35/28 20060101ALI20231013BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
B23K35/40 340J
B23K35/22 310E
B23K35/28 310B
C22C21/00 D
C22C21/00 E
C22C21/00 J
(21)【出願番号】P 2020532000
(86)(22)【出願日】2018-12-10
(86)【国際出願番号】 EP2018084091
(87)【国際公開番号】W WO2019115422
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2021-10-19
(32)【優先日】2017-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】517422951
【氏名又は名称】コンステリウム ヌフ-ブリザック
【氏名又は名称原語表記】CONSTELLIUM NEUF-BRISACH
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】シェアブ,べシル
(72)【発明者】
【氏名】ロアブル,キャロル
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-214610(JP,A)
【文献】特開2017-119292(JP,A)
【文献】特開2015-030861(JP,A)
【文献】国際公開第2016/093017(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/060236(WO,A1)
【文献】特表2005-523164(JP,A)
【文献】特開平09-296243(JP,A)
【文献】米国特許第05820015(US,A)
【文献】中国特許出願公開第105880866(CN,A)
【文献】特開昭59-100251(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/40
B23K 35/22
B23K 35/28
C22C 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1~0.25重量%のMgを含む3xxx合金でできたコア層と、コア層の片側または両側の4xxx合金でできたろう付け層と、任意にはコア層の片側または両側のコア層とろう付け層の間の中間層とを含み、ろう付け層の4xxx合金が、重量%単位で、7~13%のSi、最大0.7%のFe、最大0.5%のCu、0.1~0.3%のBi、最大500ppmのSr、各々0.05%未満で合計0.15%未満の他の元素を含み、残分がアルミニウムである、アルミニウム多層ブレージングシートの生産方法において、
- 組立てるべき層を提供するかまたは層を同時に鋳造してサンドイッチ構造を得るステップ、
- 結果として得たサンドイッチ構造を圧延してシートを得るステップ、および
- 3~80秒間20~100℃で、NaOHおよび/またはKOHのうちの少なくとも1つを0.5~20重量%含むアルカリ性エッチング液またはH
2SO
4、H
3PO
4、HCl、HF、および/またはHNO
3といった無機酸のうちの少なくとも1つを0.5~20重量%含む酸性エッチング液でシートの表面を処理するステップ、
という連続ステップを含む、方法。
【請求項2】
コア層の3xxx合金が、重量%単位で、最大0.7%のSi、最大0.7%のFe、0.3~1.1%のCu、0.5~1.8%のMn、最大0.3%のTi、0.1~0.25%のMg、最大0.1%のZn、各々最大0.3%のZrおよび/またはCrおよび/またはV、各々0.05%未満で合計0.15%未満の他の元素を含み、残分がアルミニウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
コア層が0.1~0.18重量%のMgを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
中間層が、重量%単位で、最大0.5%のSi、最大0.7%のFe、最大0.3%のCu、最大1.5%のMn、最大1%のMg、最大0.3%のTi、各々0.05%未満で合計0.15%未満の他の元素を含み、残分がアルミニウムである、請求項1から3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
ろう付けの性能を安定化することを目的とする、フラックスフリー制御雰囲気ろう付け(CAB)における請求項1から4のいずれか一つに記載の方法にしたがって得られたアルミニウム多層ブレージングシートの使用。
【請求項6】
ろう付け部品の生産方法において、
- 0.1~0.25重量%のMgを含む3xxx合金でできたコア層と、コア層の片側または両側の4xxx合金でできたろう付け層であって、ろう付け層の4xxx合金が、重量%単位で、7~13%のSi、最大0.7%のFe、最大0.5%のCu、0.1~0.3%のBi、最大500ppmのSr、各々0.05%未満で合計0.15%未満の他の元素を含み、残分がアルミニウムである、ろう付け層と、任意には、コア層の片側または両側の、コア層とろう付け層の間の中間層と、を含む少なくとも1つのアルミニウム多層ブレージングシートを提供するステップ、
- アルミニウム多層ブレージングシートの表面を、3~80秒間20~100℃で、
NaOHおよび/またはKOHのうちの少なくとも1つを0.5~20重量%含むアルカリ性のエッチング液またはH
2SO
4、H
3PO
4、HCl、HF、および/またはHNO
3といった無機酸のうちの少なくとも1つを0.5~20重量%含む酸性のエッチング液で処理するステップ、および
- フラックスフリー制御雰囲気ろう付け(CAB)においてろう付けするステップ、
という連続ステップを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前処理された多層ブレージングシート、フラックスフリー制御雰囲気ろう付け(CAB)プロセスにおけるその使用、前記シートの生産方法およびろう付け部品の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムおよびアルミニウム合金で作られた熱交換器の工業的規模の製造のために使用されているさまざまなろう付けプロセスが存在する。
【0003】
約1×10-4mbar以下程度の比較的低い気圧で実施される真空ろう付けがある。これは、不連続プロセスであり、材料に高い清浄度が求められる。接合を発生させるための最適条件を得る目的で、真空ろう付け用に一般的に使用されるアルミニウム合金は、1%以上のMgの意図的な添加を含有する。Mgは、ろう付け中にそれがブレージングシートから蒸発するときにフィラー合金の硬質酸化物膜を粉砕し、そのとき、蒸発したMgは、真空ろう付け炉内に残存する酸素および水分を除去する。しかしながら、炉内にはつねに必要以上のマグネシウムが存在する。余剰のマグネシウムは、真空ろう付け炉内のコールドスポット上で凝縮し、頻繁に除去されなければならない。好適な設備のための資本投資は、比較的高いものである。別の公知のろう付けプロセスは、通常フラックスと共に使用される制御雰囲気ろう付け(CAB)である。アルミニウム熱交換器の工業的な制御雰囲気ろう付け(CAB)においては、Nocolok(登録商標)フラックス(フッ化アルミン酸カリウムフラックス)が広く使用されている。溶融フラックスは、表面上の酸化物層を破断することによってろう付けを容易にし、溶融層のさらなる酸化も防止する。
【0004】
近年、いくつかの熱交換器(特に冷媒循環を伴うもの)が、残留フラックス(ろう付け後に残存するフラックス)と冷却液の間に発生する化学反応に関連する目詰まりの問題を提示している。この相互反応は、冷却液の粘度の増加、そしてその結果として熱交換器の目詰まりを導く。より具体的には、ろう付け後の過剰なフラックス残留物は、冷却液が熱交換器内を循環するときの稼働時「摩耗」を増強する可能性がある。
【0005】
その上、ウォータチャージエアクーラ(WCAC)またはラジエータという特定の事例において、冷却液に面するろう付けされた表面上のフラックス粒子は解放されて管を目詰まりさせる可能性があり、一部の冷却液の分解を加速してゲルを形成させることも報告されている。この目詰まりの問題に加えて、Nocolok(登録商標)フラックスは、いくつかの健康面および環境面の問題もある。
【0006】
その上、複雑な形状の構造内では、ろう付けに先立ちろう付けフラックスを構造の内部に適用することは多くの場合、非常に困難で問題があり、時にはフラックスの量を増大させひいてはフラックス残留物の量を増大させることにつながるとみなされている。
【0007】
その結果として、以下で例示するように、フラックス無しの制御雰囲気ろう付け(CAB)におけるろう付けのための解決法が開発されてきた。
【0008】
Furukawaの欧州特許出願公開第1430988号明細書は、いかなるろう付けフラックスも使用しないこのようなCABプロセスのために、ブレージングシートが、片側または両側にAl-Si系合金で構成されたフィラー合金層を伴うアルミニウムまたはアルミニウム合金のコアクラッドを有し、少なくともフィラー合金層以外のブレージングシートを構成する一層の中にMgを含有するということを開示している。
【0009】
Hydro Aluminium Rolled Product GmbHの欧州特許出願公開第2660043号明細書および欧州特許第2844466号明細書は、Al-Siフィラー層がエッチングされてフラックスフリーのろう付けを容易にしている、アルミニウムブレージングシート製品を開示している。Al-Siフィラー層のエッチングは、アルカリ性または酸性のエッチング液を含む。
【0010】
Hydro Aluminium Rolled Product GmbHの欧州特許出願公開第2883650号明細書は、アルミニウムフィラー層の表面が、少なくとも1つの無機酸および少なくとも1つの錯化剤または錯化無機酸を含む酸性の酸洗水溶液で処理される、フラックスフリーろう付けのためのアルミニウムブレージングシートの前処理を開示している。好ましいAl-Siフィラー材料は、AA4343、AA4045およびAA4047の群から選択される。
【0011】
Alerisの国際公開第2017/080771号は、酸洗溶液でエッチングされた、AA4045ろう付け層で両側がクラッドされたAA3003/AA3005/AA3105/AA3103コア層を伴う多層熱交換器を開示している。
【0012】
しかしながら、炉内にフラックス残留物が残存し得るかまたはいくつかの特定の部域に局所的にフラックスが付着している可能性があることから、フラックスフリーの解決法は時としてフラックスを許容するものである必要がある、ということを指摘しておかなければならない。この点は、フラックスを許容する解決法が既存のろう付け設備の使用、さらには時としてフラックスを使用する設備の使用さえも許容することから、工業的生産にとって特に関連性の強いものである。その上、いくつかの特定の使用については、部品のいくつかの部分にはフラックスが付着している一方で、同じ部品の他の部分にはフラックスが付着していない。
【0013】
したがって、特にろう付け性能を安定化しフラックスフリーであるもののフラックスを許容する解決法を提案するために、改良型のフラックスフリー制御雰囲気ろう付け(CAB)の方法に対する需要がなおも存在する。
【0014】
以下で認識されるように、別段の指示のないかぎり、アルミニウム合金の呼称および質別記号は、アルミニウム協会が公表し当業者にとっては周知であるAluminium Standards and DataおよびRegistration Records中のアルミニウム協会呼称を参照している。
【0015】
合金組成または好ましい合金組成のあらゆる説明について、別段の指示のないかぎり、百分率に対する言及は全て、重量%である。
【0016】
そして、本発明に関しては、以下に使用される「制御雰囲気ろう付け」または「CAB」なる用語は、さまざまな合金物品のろう付けにおいて例えば窒素、アルゴンまたはヘリウムなどの不活性雰囲気を利用し、かつ特にCABではろう付け作業中の炉内のろう付け雰囲気はおよそ通常の大気圧にあるものの、ろう付け炉の雰囲気の制御を容易にするために、わずかな過小圧力(例えば0.1bar以上の圧力での作業)またはわずかな過大圧力を使用することが可能であるという点において、真空ろう付けとは明確に異なるものであるろう付けプロセスに関係している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】欧州特許出願公開第1430988号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2660043号明細書
【文献】欧州特許第2844466号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2883650号明細書
【文献】国際公開第2017/080771号
【文献】国際公開第2004/112992号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、フラックスフリー制御雰囲気ろう付け(CAB)における特定の組成を有する前処理されたアルミニウムブレージングシートの使用を提供することにある。本発明に係る解決法は、ろう付け性能の安定化を可能にする。本発明に係る解決法はフラックスを許容するものであることも指摘しておかなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0019】
このおよび他の目的ならびにさらなる利点は、以下のものを提供する本発明によって達成または凌駕されるものである:
- 0.1~0.25重量%のMgを含む3xxx合金でできたコア層と、コア層の片側または両側の4xxx合金でできたろう付け層と、任意にはコア層の片側または両側のコア層とろう付け層の間の中間層とを含むアルミニウム多層ブレージングシートの生産方法において、
- 組立てるべき層を提供するかまたは層を同時に鋳造してサンドイッチ構造を得るステップ、
- 結果として得たサンドイッチ構造を圧延してシートを得るステップ、
および
- アルカリ性または酸性エッチング液でシートの表面を処理するステップ、
という連続ステップを含む方法。
- 以下を含むアルミニウム多層ブレージングシートにおいて、
- 0.1~0.25重量%のMgを含む3xxx合金でできたコア層と、
- コア層の片側または両側の、Biを含む4xxx合金でできたろう付け層と、
- 任意には、コア層の片側または両側の、コア層とろう付け層の間の中間層と、
ろう付けステップの前に、アルカリ性または酸性のエッチング液で表面処理されているアルミニウム多層ブレージングシート。
- ろう付けの性能を安定化することを目的とする、フラックスフリー制御雰囲気ろう付け(CAB)における以下で説明する通りの方法にしたがって得られたアルミニウム多層ブレージングシートの使用。
- ろう付け部品の生産方法において、
- 0.1~0.25重量%のMgを含む3xxx合金でできたコア層と、コア層の片側または両側の、4xxx合金でできたろう付け層と、任意には、コア層の片側または両側の、コア層とろう付け層の間の中間層と、を含む少なくとも1つのアルミニウム多層ブレージングシートを提供するステップであって、アルミニウム多層ブレージングシートがアルカリ性または酸性のエッチング液で表面処理されている、ステップ、および
- フラックスフリー制御雰囲気ろう付け(CAB)においてろう付けするステップ、
という連続ステップを含む方法。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例中で論述されるV字形構成のろう付け試料を示す。
【
図2】実施例中で論述されるV字形構成のろう付け試料を示し、矢印Aに沿った
図1の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[コア層]
本発明にしたがって使用されるアルミニウム多層ブレージングシートは、0.1~0.25重量%のMgを含む3xxx合金でできたコア層を含む。
【0022】
好ましくは、コア層内のMgの上限含有量は厳密に0.20重量%未満、より好ましくは0.18重量%以下である。
【0023】
本発明に係るコア層内のMgの量は、本発明をフラックスフリーの解決法にすると同時にフラックスを許容する解決法にもすることを指摘しておかなければならない。
【0024】
好ましくは、本発明にしたがって使用されるコア層は、重量%単位で以下のものを含み、より好ましくは本質的に以下のもので構成されている:
Si:最大0.7%、好ましくは0.3%未満、より好ましくは0.1~0.3%、
Fe:最大0.7%、好ましくは0.3%未満、より好ましくは最大0.2%、
Cu:0.3~1.1%、好ましくは0.6~0.95%、より好ましくは0.6~0.9%、
Mn:0.5~1.8%、好ましくは0.7~1.8%、より好ましくは1.0~1.7%、特に1.1~1.7%、
Ti:最大0.3%、好ましくは最大0.25%、より好ましくは0.06~0.1%、
Mg:0.1~0.25%、
Zn:最大0.1%、
Zrおよび/またはCrおよび/またはV:各々最大0.3%、
他の元素:各々0.05%未満で合計0.15%未満、残分はアルミニウム。
【0025】
[ろう付け層]
本発明にしたがって使用されるアルミニウム多層ブレージングシートは、4xxx合金でできたろう付け層で片側または両側がクラッドされている。
【0026】
好ましくは、本発明にしたがって使用されるろう付け合金は、Biを含む。ろう付け層中のBiの含有量は、好ましくは最大0.3重量%、より好ましくは0.1~0.3重量%、特に0.11~0.17重量%である。
【0027】
好ましくは、本発明にしたがって使用されるろう付け層は、重量%単位で以下のものを含み、より好ましくは本質的に以下のもので構成されている:
Si:7~13%、好ましくは9~11%、
Fe:最大0.7%、好ましくは最大0.6%、
Cu:最大0.5%、好ましくは最大0.3%、より好ましく最大は0.1%、
Bi:最大0.3%、好ましくは0.1~0.3%、より好ましくは0.11~0.17%、
Sr:最大500ppm、好ましくは最大200ppm、
他の元素:各々0.05%未満で合計0.15%未満、残分はアルミニウム。
【0028】
[中間層]
任意には、本発明にしたがって使用されるアルミニウム多層ブレージングシートはさらに、コア層の片側または両側で、コア層とろう付け層の間に存在する中間層を含む。一実施形態によると、4層または5層を伴い1層だけがろう付け層である構成において、中間層は、コアのろう付け層が存在しない側に単独で存在し得る。
【0029】
一実施形態によると、本発明にしたがって使用される中間層は、重量%単位で以下のものを含むことができ、好ましくは本質的に以下のもので構成され得る:
最大0.5%のSi、
最大0.7%のFe、
最大0.3%のCu、
最大1.5%のMn、
最大1%のMg、
最大0.3%のTi、
各々0.05%未満で合計0.15%未満の他の元素、残分のアルミニウム。
【0030】
好ましくは、中間層内のMgの上限は0.3重量%、好ましくは0.25重量%である。この実施形態において、本発明に係る解決法は、フラックスを許容するものである。
【0031】
例えば、コア層とろう付け層の間の合金元素の拡散を制限し、かつ/またはブレージングシート材料のろう付け後の腐食性能をさらに改善するために、中間層を使用することができる。
【0032】
好ましい実施形態において、本発明にしたがって使用されるアルミニウム多層ブレージングシートは、コア層とろう付け層の間にいかなる中間層も含まない。この実施形態は、コア層内のMgの特定の含有量と本発明に係る表面処理との、ろう付けの品質に対する組合せ効果を最大限にするために使用され得る。
【0033】
[シート]
本発明に係るアルミニウムブレージングシートは、2つ、3つ、4つまたは5つの層を有し得る。2層を伴う構成は、前述した通りのコア層とろう付け層で構成されたシートである。
【0034】
3層を伴う構成は、コア層と以下の層のいずれかで構成されたシートである:
- 同じまたは異なる組成を有する、各々コア層の一方の側の2つのろう付け層、または
- 両方共コア層の同じ側にある、ろう付け層および中間層、または、
- コア層の一方の側上のろう付け層および他方の側上の中間層、または、
- コア層の一方の側上のろう付け層および他方の側上の犠牲層であって、ここで犠牲層は、例えば低含有量のZnを有するAA1xxxまたはAA7xxx(例えばおよそ1~4重量%のZnを有する合金、またはAA7072)でできている。
【0035】
4層を伴う構成は、コア層、両方共コア層の一方の側にあるろう付け層および中間層、そして以下の層のいずれかで構成されたシートである:
- 同じまたは異なる組成を有し、コア層の他方の側にあるろう付け層、または
- コア層の他方の側の中間層、または
- コア層の他方の側の犠牲層。
【0036】
5層を伴う構成は、コア層、両方共コア層の一方の側にあるろう付け層および中間層、そして以下の層のいずれかで構成されたシートである:
- それぞれに同じまたは異なる組成を有し、両方共コア層の他方の側にある中間層およびろう付け層、または
- ろう付け層が同じまたは異なる組成を有しかつシートの外部層である、両方共コア層の他方の側にある犠牲層とろう付け層、または
- 中間層が同じまたは異なる組成を有しかつ犠牲層がシートの外部層である、両方共コア層の他方の側にある中間層と犠牲層。
【0037】
アルミニウム多層ブレージングシートの厚みは、0.1~3mm、好ましくは0.15~2mm、より好ましくは0.2~1.5mmの範囲内であり得る。
【0038】
ろう付け層の比率は、アルミニウム多層ブレージングシートの合計厚みの5~15%であり得る。
【0039】
一例として、アルミニウム多層ブレージングシートの質別は、H24、H116またはO-質別であり得る。質別は、当業者にとって公知であり、1993年10月のNF EN515規格中に記載されている。
【0040】
[プロセス]
本発明にしたがって使用されるアルミニウム多層ブレージングシートは、さまざまな技術を介して製造され得る。例えば、組立てるべき層を圧延することによる方法は、当該技術分野において周知である。代替的には、ろう付け層および任意の中間層は、溶射技術を用いてコア層上に適用され得る。あるいは代替的に、コア層、ろう付け層および任意の中間層は、例えば国際公開第2004/112992号に開示されている鋳造技術とそれに続く圧延を用いて製造可能である。
【0041】
本発明の目的は、0.1~0.25重量%のMgを含む3xxx合金でできたコア層と、コア層の片側または両側の4xxx合金でできたろう付け層と、任意にはコア層の片側または両側のコア層とろう付け層の間の中間層とを含むアルミニウム多層ブレージングシートの生産方法において、
- 組立てるべき層を提供するかまたは層を同時に鋳造してサンドイッチ構造を得るステップ、
- 結果として得たサンドイッチ構造を圧延してシートを得るステップ、および
- アルカリ性または酸性エッチング液でシートの表面を処理するステップ、
という連続ステップを含む方法にある。
【0042】
当業者にとっては公知であるように、圧延は、当業者にとっては公知の条件の下での熱間および/または冷間圧延であり得る。圧延の持続時間および条件は主としてシートの所望される厚みによって左右される。
【0043】
シートは任意には、均質化されたコアおよび/または均質化された中間層を用いて生産されていてよい。
【0044】
シートは任意には、圧延ステップの前に予熱され、部分的または完全に焼きなましされ、かつ/または引っ張られ得る。
【0045】
好ましくは、少なくとも1つのろう付け層は、Biを含み、より好ましくは最大0.3重量%のBiを含む。
【0046】
2つのろう付け層が存在する場合、これらのろう付け層は同じまたは異なる組成を有し得る。
【0047】
2つの中間層が存在する場合、これらの中間層は同じまたは異なる組成を有し得る。
【0048】
コア層、ろう付け層、中間層およびシートは、本明細書中で前述したものと同じである。
【0049】
こうして得られたアルミニウム多層ブレージングシートの表面は、ろう付けプロセスの前に、アルカリ性または酸性のエッチング液で処理される。
【0050】
好ましくは、アルミニウム多層ブレージングシートの表面は、酸性エッチング液で処理される。酸性エッチング液は好ましくは10~20g/L、より好ましくは12~16g/L、例えば14g/LのH2SO4、および0.5~5g/L、より好ましくは1~3g/L、例えば2g/LのHF(5%)を含む。
【0051】
酸性エッチング液は、H2SO4、H3PO4、HCl、HF、および/またはHNO3といった無機酸のうちの少なくとも1つを含み得る。好ましくは、酸性エッチング液は、H2SO4とHFの混合物である。酸性エッチング液は概して溶液の形をしており、無機酸含有量は概して0.5~20重量%である。
【0052】
別の実施形態によると、エッチング液はアルカリ性であり得る。アルカリ性エッチング液は、NaOHおよび/またはKOHのうちの少なくとも1つを含み得る。アルカリ性エッチング液は概して溶液の形をしており、アルカリ含有量は概して0.5~20重量%である。
【0053】
アルカリ性エッチング液はさらに、界面活性剤(例えば、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩などのアニオン界面活性剤、モノアルキル四成分系またはエステルクワットなどのカチオン界面活性剤、エステル、エーテルまたはアミド結合を伴うもの(例えばグリコールエステル)などの非イオン界面活性剤、またはイミダゾリン誘導体またはポリペプチドなどの両性界面活性剤)または、錯化剤(例えばグルコン酸ナトリウム、ソルビトール、粘液酸またはアラビアゴムなど)を含み得る。
【0054】
アルカリ性エッチング液は概して、例えば硝酸または硫酸などの酸で洗う必要がある。
【0055】
エッチング液での表面処理は概して1秒~5分、好ましくは3~80秒、より好ましくは5~50秒間持続する。
【0056】
この表面処理中の温度は、概して、20~100℃、好ましくは30~80℃、より好ましくは50~80℃である。
【0057】
表面処理中、ろう付け層側の除去されるアルミニウム量は、一つの側あたり1~1000mg/m2、好ましくは5~500mg/m2、より好ましくは5~300mg/m2である。
【0058】
本発明の別の目的は、
- 0.1~0.25重量%のMgを含む3xxx合金でできたコア層と、
- コア層の片側または両側の、Biを含む4xxx合金でできたろう付け層と、
- 任意には、コア層の片側または両側の、コア層とろう付け層の間の中間層と、
を含むアルミニウム多層ブレージングシートにおいて、ろう付けステップの前、好ましくはフラックスフリー制御雰囲気ろう付けステップの前に、アルカリ性または酸性のエッチング液で表面処理されているアルミニウム多層ブレージングシートにある。
【0059】
2つのろう付け層が存在する場合、これらのろう付け層は同じまたは異なる組成を有し得る。
【0060】
2つの中間層が存在する場合、これらの中間層は同じまたは異なる組成を有し得る。
【0061】
コア層、ろう付け層、中間層およびシートは、本明細書中で前述したものと同じである。
【0062】
本発明にしたがって得たシートは、次にそれ自体に対しておよび/または他のアルミニウム合金製品に対して制御雰囲気ろう付けによってろう付けされ、ろう付け部品が得られる。ろう付け温度は典型的に、約560℃~640℃、好ましくは590℃~610℃の範囲内、例えば約590℃、約600℃または約610℃であり得る。
【0063】
ろう付け用不活性ガス雰囲気は乾燥していなければならず、これはすなわち露点が-35℃未満、好ましくは-40℃未満、そしてより好ましくは-45℃以下であることを意味する。
【0064】
ろう付け雰囲気は、例えば最大60ppmのO2を含み得る。
【0065】
コア層、ろう付け層、中間層およびシートは、本明細書中で前述したものと同じである。
【0066】
本発明の別の目的は、ろう付けの性能を安定化することを目的とする、フラックスフリー制御雰囲気ろう付け(CAB)における前述した方法にしたがって得られたアルミニウム多層ブレージングシートの使用にある。
【0067】
本発明の別の目的は、ろう付け部品の生産方法において、
- 0.1~0.25重量%のMgを含む3xxx合金でできたコア層と、コア層の片側または両側の、4xxx合金でできたろう付け層と、任意には、コア層の片側または両側の、コア層とろう付け層の間の中間層と、を含む少なくとも1つのアルミニウム多層ブレージングシートを提供するステップであって、アルミニウム多層ブレージングシートがアルカリ性または酸性のエッチング液で表面処理されている、ステップ、および
- フラックスフリー制御雰囲気ろう付け(CAB)においてろう付けするステップ、
という連続ステップを含む方法にある。
【0068】
本発明に係る方法、使用およびシートは、内側清浄度についての要件が非常に高い熱交換器装置、詳細には油冷却器および給気冷却器の生産において極めて有利であることが判明している。これらの熱交換器は、主として経済的理由から、真空ろう付けによる生産には好適ではない。
【0069】
本発明は、以上の説明または以下の実施例に記載の実施形態に限定されず、添付の特許請求の範囲によって定義されている本発明の範囲内で大幅に変動し得るものである。
【実施例】
【0070】
1)材料の調製
試験された試料は全て、両側がろう付け層(各々合計厚みの10%)でクラッドされたコア層(合計厚みの80%)を伴うアルミニウム多層ブレージングシートであった。これらの試料はO-質別であり、0.42mmの最終合計厚みを有していた。
【0071】
サンドイッチ構造の調製は、以下の通りに行なった:
- 異なる合金を実験室鋳造(直接チル鋳造機)して厚み70mmのブロックを得る、
- 得られたブロックを、55mmの厚みまで両側でスカルピングする、
- クラッド合金ブロックを500℃で予熱し、厚み7mmまで熱間圧延する、
- コア合金ブロックを620℃で8時間均質化する、
- サンドイッチ構造を組立てる、
- 組立てたサンドイッチ構造を500℃で予熱し、3.5mmの厚みまで熱間圧延する、
- 0.42mmの厚みまで冷間圧延する、
- N2雰囲気下において350℃で1時間焼きなましして、O-質別を得る。
【0072】
その後、試料を、50℃で0~70秒の異なる持続時間にわたり、14g/LのH2SO4および2g/LのHF(5%)を含む酸性溶液で表面処理した。
【0073】
下表2は、試験した試料についての詳細を示す。
【0074】
表1は、重量%で表わした、実施例中で使用されているコア層およびろう付け層についての具体的合金組成を示す。
【0075】
【0076】
2)ろう付け
以下の試験条件で、実験室バッチろう付け炉でのV字形オンクーポン(V-on-coupon)ろう付け試験を用いて、試験を実施した:
・ ろう付け前の試料のフラックス塗布無し、
・ N2雰囲気、
・ 15ppm未満のO2、
・ 3分間600℃、
・ 9℃/分での加熱。
【0077】
V字形の各辺の長さが30mmで高さが1cmであるV字形形状を、
図1および2によって例示されているようにV字形の隅の下に挿入された直径1.2mmのステンレス鋼ロッドと共にクーポン上に位置付けした。クーポンはV字形と同じ組成(すなわちクラッドを伴う)を有していた。
図1および2において、クーポンは、1という参照番号、V字形は2という参照番号、ステンレス鋼ロッドは3という参照番号を有し、ろう付けゾーンは4という参照番号の付いた矢印によって表わされている。
図2は矢印Aに沿った
図1の側面図である。
【0078】
V字形試験の結果は、ろう付けゾーン4に沿って測定した平均ろう付け長(mm単位)(V字形の左辺および右辺のろう付け長の平均)に対応していた。各試料について、数回試験を行なって、結果の再現性をチェックした。下表2中、NRは「再現不能」を意味し、時としてろう付けが全く得られず、時として少なくとも部分的ろう付けが発生した試料に関係する。
【0079】
3)結果
下表2は、試験した試料と得られた結果を示す。
【0080】
【0081】
上表2に示した通り、試料C2~C6およびD2~D4は本発明に係るものであった。試料A1、B1、C1およびD1は、少なくとも表面処理の欠如を理由とする比較例であった。試料A2およびA3は、少なくともコア層コア-2が充分なMgを含んでいなかったことを理由とする比較例であった。試料B2は、少なくともコア層コア-3が過剰のMgを含んでいたことを理由とする比較例であった。
【0082】
表2によると、表面処理はろう付け性能を安定化するために必要である。実際、ろう付け品質は、試料C1については不安定(すなわち再現不能)であり、試料A1、B1およびD1については良好でなかった。したがって、表面処理無しでは、優れたろう付け品質は保証されない。
【0083】
次に、ろう付け性能を安定化するためには、特許請求されているMgの量が必要である。実際、Mgが充分でない場合(試料A2およびA3を参照)またはMgが過剰である場合(試料B2を参照)、ろう付け品質は良好でなかった。
【0084】
したがって、本発明に係るコア合金のMg含有量および表面処理が組合わさって、ろう付け性能を安定化することによって優れたろう付け品質を可能にする。
【0085】
本明細書中で言及されている文献は全て、その全体が参照により本明細書に具体的に組込まれている。
【0086】
本明細書中および以下の特許請求の範囲中で使用されている「the」、「a」および「an」などの冠詞は、単数または複数を内包し得る。
【0087】
本明細書中および以下の特許請求の範囲中、数値が列挙されている限りにおいて、このような値は、正確な値と、リストになった値からの実質的でない変更になると考えられる値に近い値とを意味するように意図されたものである。
【符号の説明】
【0088】
1 クーポン
2 V字形
3 ステンレス鋼ロッド
4 ろう付けゾーン