(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】逐次的で均質な化学的機能化による多糖材料の加工方法
(51)【国際特許分類】
C08B 31/12 20060101AFI20231013BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20231013BHJP
C09J 201/02 20060101ALI20231013BHJP
C08L 3/04 20060101ALI20231013BHJP
C08K 3/32 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
C08B31/12
C09J11/08
C09J201/02
C08L3/04
C08K3/32
(21)【出願番号】P 2020534595
(86)(22)【出願日】2018-12-21
(86)【国際出願番号】 FR2018053523
(87)【国際公開番号】W WO2019122787
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-12-09
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】591169401
【氏名又は名称】ロケット フレール
【氏名又は名称原語表記】ROQUETTE FRERES
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】ソレーヌ ボック
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンサン ヴィアッツ
(72)【発明者】
【氏名】トマ ググリエルメッティ
(72)【発明者】
【氏名】ジョフリー アッタード
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】Carbohydrate Polymers,2015年,131,424-431
【文献】THOMAS HEINZE; ET AL,EFFECTIVE APPROACHES FOR ESTIMATING THE FUNCTIONALIZATION PATTERN OF CARBOXYMETHYL 以下備考,STARCH/STARKE,ドイツ,1999年,VOL:51, NR:1,,PAGE(S):11 - 16,http://dx.doi.org/10.1002/(SICI)1521-379X(199901)51:1<11::AID-STAR11>3.0.CO;2-2,STARCH OF DIFFERENT ORIGIN
【文献】Journal of Cereal Science,1997年,25,17-26
【文献】WERNER-MICHAEL KULICKE; ET AL,CHARACTERIZATION OF HYDROXYETHYL STARCH BY POLYMER ANALYSIS FOR USE AS A PLASMA VOLUME EXPANDER,STARCH/STARKE,ドイツ,1993年,VOL:45, NR:12,,PAGE(S):445 - 450,http://dx.doi.org/10.1002/star.19930451210
【文献】Polymer,1996年,Vol. 37 No. 13,2723-2731
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
完全に水溶性であ
る加工デンプン
であって、前記
加工デンプンの無水グルコース単位のヒドロキシル官能基が、少なくとも1つのヒドロキシアルキル化学基で置換され、前記ヒドロキシル官能基を置換する前記ヒドロキシアルキル基が、以下:
- 2位に最大68
%、
- 及び/又は3位に少なくと
も17.5%、
- 及び/又は6位に少なくとも15
%、
のように分布することを特徴とし、前記ヒドロキシル官能基を置換する前記ヒドロキシアルキル基のパーセンテージの合計は100%に等しく、これらのパーセンテージはプロトンNMRで測定され
、
前記加工デンプンの前記無水グルコース単位の前記ヒドロキシル官能基が、少なくとも1つのカルボキシアルキル化学基で置換され、前記ヒドロキシル官能基を置換する前記カルボキシアルキル基は、以下:
- 2位に少なくとも75.5
%、
- 及び/又は3位に最大20
%、
- 及び/又は6位に少なくとも4
%、
のように分布することを特徴とし、前記ヒドロキシル官能基を置換する前記カルボキシアルキル基のパーセンテージの合計は100%に等しく、これらのパーセンテージはプロトンNMRで測定される、
加工デンプン。
【請求項2】
前記ヒドロキシアルキル基がヒドロキシプロピル又はヒドロキシエチルから選択さ
れることを特徴とする、請求項
1に記載の加工
デンプン。
【請求項3】
前記ヒドロキシアルキル基がヒドロキシプロピル基であり、そのヒドロキシプロピル置換度が、0.05~
2であることを特徴とする、請求項1
又は2に記載の加工
デンプン。
【請求項4】
前記カルボキシアルキル基が、カルボキシメチルであることを特徴とする、請求項
3に記載の加工
デンプン。
【請求項5】
そのカルボキシメチル置換度が、0.03~
2であることを特徴とする、請求項
4に記載の加工
デンプン。
【請求項6】
長距離架橋剤又は短距離架橋剤か
ら選択される架橋剤
で架橋されることを特徴とする、請求項1~
5のいずれか一項に記載の加工
デンプン。
【請求項7】
乾式レーザー散乱によって測定された、10μm~1m
mの体積平均直径を有する粉末の形態であることを特徴とする、請求項1~
6のいずれか一項に記載の加工
デンプン。
【請求項8】
加熱なしで可溶性であり
、少なくとも95%非晶
質であることを特徴とする、請求項1~
7のいずれか一項に記載の加工
デンプン。
【請求項9】
乾式モルタル組成
物における有機補助剤としての、少なくとも1つの請求項1~
8のいずれか一項に記載の加
工デンプン
、の使用。
【請求項10】
石膏ベースのモルタ
ルにおける、少なくとも1つの請求項1~
8のいずれか一項に記載の加
工デンプン
、の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結合及び増粘特性を有する有機補助剤として、乾式モルタル、接着モルタル及び吹き付けプラスターに有用な新規の加工デンプンに関する。
【背景技術】
【0002】
物理的及び化学的に加工されたデンプンは、とりわけ、紙、プラスチック、水処理添加剤、建築材料用添加剤、医薬品、化粧品、及び人間又は動物の栄養などの多くの分野で非常に有用である。デンプンになされた加工は、物理的加工プロセスによって、及び化学的加工の化学的性質によって、調整できる作業特性をデンプンに与えることが知られている。
【0003】
「物理的機能化」という用語は、一般に、デンプンが機械的処理及び/又は熱処理によって作業特性を獲得する場合に適用され、「化学的機能化」という用語は、一般に、それらがデンプン上に天然には存在しない官能基を有する分子でデンプンのヒドロキシル基を置き換えることによって獲得される場合に適用される。
【0004】
デンプンの化学的機能化における開発は、本質的に、ますます増加する量の化学置換基をデンプンに付加すること、すなわち、高度の置換を達成し、その際、デンプンの化学的加工中にデンプンを溶解することから生じる高粘度のデンプン水溶液を回避又は管理することに焦点を当てている。例として、置換度が最小値(デンプンの植物起源と置換基の化学的性質に依存し、0.06~0.2超(カルボキシアルキル化の場合)又は0.5(ヒドロキシアルキル化の場合)までの範囲であってもよい)に達すると、デンプンは、デンプンの質量含有率に比例して、高粘度~非常に高粘度となり、これは、10,000mPa.s~100,000mPa.s超の範囲であってもよい。
【0005】
高粘度の問題を回避することは、主に、ナトリウム塩などのデンプン粒子の膨潤又は溶解を防止するための薬剤の存在下で粒状デンプンの水性懸濁液を使用することにある。次いで、化学的加工が粒状デンプンに対して実施され、これにより、加工全体にわたってその粒状構造が保存される。これは、粒状相化学的機能化と称される。デンプンが粒状である場合、デンプン粒子の表面又は外層のみが加工試薬にアクセスすることができる。したがって、化学的加工は本質的にデンプン質量の一部に集中している。したがって、加工のために導入されたデンプンの総質量に対して、導入された化学官能基の不均質な分布が明らかに存在する。これは、不均質な化学的機能化と称される。このように加工されたデンプンは、一般に、主にデンプンの結合特性を解放するために、使用前に水溶液に変換される。
【0006】
これを回避できない場合、高粘度のデンプン水溶液は、粒状デンプンの架橋を実施するか(US 3 014 901、US 3 438 913、US 2 853 484)、又はデンプン粒子の構造を破壊しない酸加水分解によってデンプンを流動化すること、及びデンプンの溶解が始まる前にそうすることによって管理される。デンプンのこれら2つの加工は、分子量及び/又はポリマー鎖の分岐の点で、デンプンの高分子構造に、及びデンプンを構成する高分子間の分子間ネットワークの構造に、変化をもたらす。架橋は分子間結合を生成することにより分子量を増加させ、流動化は糖結合を破壊することにより分子量を減少させる。
【0007】
どちらの場合も、これらの架橋又は流動化された粒状デンプンの化学的加工の間に、置換度が、デンプンが溶解する値に到達するまで、化学的加工の一部が粒状デンプン上で行
われ、その後、目標置換度に到達するまで継続される。そのような化学的加工の間に生じる溶解は、一般に、非常に多様な状態のデンプン又はデンプンペーストの水性分散物、すなわち、未変化のデンプン粒子、部分的に膨潤したデンプン粒子、完全に膨潤したデンプン粒子、膨潤した粒子の断片、膨潤したデンプン凝集体、溶解したデンプン高分子及び沈殿した老化デンプンをもたらす。これは混合相化学的機能化と称され、これは、デンプンの状態が粒状デンプンと溶解デンプンの中間であることを意味する。
【0008】
したがって、化学的加工の重要な割合、又は少なくとも無視できない割合は、デンプン粒子又はデンプン粒子断片の表面又は外層に位置し、これは、加工に利用可能なデンプンの理論質量の一部のみを表す。粒状相の化学的加工に関して、混合相の化学的加工は、デンプンの質量における化学官能基の不均質な分布をもたらす。
【0009】
さらに、両方の場合において、デンプンの高分子構造を加工する唯一の目的は、デンプン水溶液の粘度を低下させて操作可能にすることであり、所望の作業特性に寄与しないことに注意されたい。
【0010】
プラスターベース又はセメントベースのモルタルの分野では、加工デンプンが、これらのモルタルの貯蔵寿命、放置時間、可使時間、オープンタイム、湿潤力、滑り抵抗、調整性などの適用性;又は接着、変形性、横変形、破壊強度などの最終的な性能品質を改善するための有機補助剤として使用される。
【0011】
これらの特性又は性能品質を満たすために、デンプンは、一般に、0.2より大きく、最大0.8にもなる置換度による個々の値への改変に従って化学的に加工され、これは、1~1.5の合計置換度の値に対応する。これらの加工は、本質的にヒドロキシプロピル化などのヒドロキシアルキル化;カルボキシメチル化などのカルボキシアルキル化;そして最後に、トリメタリン酸ナトリウムで実施されるものなどの架橋である。
【0012】
これらの置換度を達成するため、及び60~80%のオーダーの中程度の反応収率のために、粒状相又は混合相プロセスは、過剰量の試薬を使用しなければならない。さらに、副反応は、加工試薬を望ましくない生成物に変換し、これは、最善でも生産コストの増加をもたらす材料の損失を、最悪の場合は、作業特性に悪影響を与える不純物を、そして言うまでもなく、処理されるべき廃棄物を表し、これは、環境汚染を表し得る。したがって、ヒドロキシプロピル化の場合、プロピレンオキシドのかなりの部分がエチレングリコール及びポリエチレングリコールとして失われ、カルボキシメチル化に関しては、主要な副生成物はプロパンジオールである。
【発明の概要】
【0013】
したがって、理想的な加工デンプンは、損失及び汚染生成物を低減し、同時に作業特性を維持するために、適切な量の化学置換基を有するデンプンであろう。この問題は、本発明の主題であるプロセスによって解決される。
【課題を解決するための手段】
【0014】
不均質相又は混合相の化学的加工とは対照的に、本発明の主題は、化学的加工を利用可能なデンプンの質量全体に均質に分散させるための、完全に又は実質的に完全に溶解したデンプンの化学的加工のプロセスである。本発明によるこの機能化は、均質な化学的機能化と呼ばれる。
【0015】
この均質な化学的機能化により、新規のデンプンが得られる。それらは、無水グルコース単位上の化学的置換基の位置を測定することにより特徴付けられ得る。そのような測定は、プロトン核磁気共鳴によって実施され得る。
【0016】
出願人は、驚くべきことに、そして予想外に、架橋からなるものでないエーテル化又はエステル化タイプの化学的加工による第1の均質な化学的機能化からなる一連に従って均質な化学的機能化を実施すること、及びそれに続く架橋からなる第2の均質な化学的機能化により、従来技術の粒状相又は混合相プロセスに従って調製された加工デンプンよりも低い置換度を有するにもかかわらず、液体又は固体の加工デンプンは、十分な又は改善された、増粘、結合又は凝集特性を有するように調製され得ることを観察した。
【0017】
さらに、多糖材料を完全に溶解して、完全に均質な水溶液を、制御された方法で形成することにより、さらなる改善が可能である。
【0018】
プロセス:
本発明の第1の主題は、順序付けられた一連の少なくとも2つの加工からなる、多糖材料を加工するプロセスである。第1の加工は、多糖材料の水への完全に均質な、好ましくは完全な溶解であり、第2の加工は、均質な化学的機能化であり、これは、少なくとも1つの非架橋の化学的加工、又は少なくとも1つの架橋の化学的加工、又はこれら2つの化学的加工の少なくとも1つの組み合わせからなる。
【0019】
「均質な化学的機能化」という用語は、利用可能なデンプンの質量全体にわたって化学的加工を均質に分散させるような、完全な、換言すれば完全に溶解したデンプンの化学的加工のプロセスを指す。
【0020】
本発明は、多糖材料、好ましくは無水グルコース単位を含む多糖材料を加工するプロセスに関し、プロセスは、この多糖材料の実質的に完全な、好ましくは完全な溶解、及び溶解した多糖材料の均質な化学的機能化を含み、
a. 化学的機能化の前に溶解が実施され、
b. 機能化は、非架橋の化学的加工から、又は架橋の化学的加工から選択される少なくとも1つの化学的加工、又は少なくとも1つの非架橋の化学的加工及び少なくとも1つの架橋の化学的加工の一連を含む
ことを特徴とする。
【0021】
本発明による多糖材料を加工するためのプロセスはまた、溶解が、塩基の存在下で、撹拌タンク内で加熱することによって実施されることを特徴とし得る。
【0022】
本発明による多糖材料を加工するプロセスはまた、均質な化学的機能化が少なくとも1つのエーテル化若しくは少なくとも1つのエステル化、又は少なくとも1つのエーテル化及び少なくとも1つのエステル化を含むことを特徴とし得る。
【0023】
本発明によるプロセスの1つの変形によれば、エーテル化はエステル化の前に実施される。本発明によるプロセスのエーテル化は、ヒドロキシアルキル化、カルボキシアルキル化又はカチオン化から選択され得る。
【0024】
本発明による多糖材料を加工するプロセスはまた、ヒドロキシアルキル化がヒドロキシプロピル化であること、及び0.05~2、好ましくは0.1~1、最も好ましくは0.15~0.6、より好ましくは0.15~0.5の範囲の置換度に達するまで実施されることを特徴とし得る。
【0025】
本発明による多糖材料を加工するプロセスはまた、機能化が、多糖材料が0.05~2、好ましくは0.1~1、最も好ましくは0.15~0.6、より好ましくは0.15~0.5の置換度に達するまで実施される、非架橋の化学的加工、ヒドロキシアルキル化、
好ましくはヒドロキシプロピル化を含むことを特徴とし得る。
【0026】
本発明による多糖材料を加工するプロセスはまた、機能化が、多糖材料が0.03~2、好ましくは0.03~1、最も好ましくは0.03~0.3、より好ましくは0.03~0.2の置換度に達するまで実施される、第2の非架橋の化学的加工、カルボキシアルキル化、好ましくはカルボキシメチル化を含むことを特徴とし得る。
【0027】
本発明による多糖材料を加工するプロセスはまた、カルボキシアルキル化がカルボキシメチル化であること、及び0.03~2、好ましくは0.03~1、最も好ましくは0.03~0.3、より好ましくは0.03~0.2の範囲の置換度に達するまで実施されることを特徴とし得る。
【0028】
本発明による多糖材料を加工するプロセスはまた、エステル化がカルボキシアルキル化から選択されることを特徴とし得る。
【0029】
本発明による多糖材料を加工するプロセスはまた、均質な化学的機能化が、短距離架橋剤(又は短鎖架橋剤)、又は長距離架橋剤(又は長鎖架橋剤)、又は長距離架橋システム、又はこれらの3つのタイプの架橋剤の少なくとも2つの組み合わせによる少なくとも1つの架橋の化学的加工を含むことを特徴とし得る。
【0030】
本発明による多糖材料を加工するプロセスはまた、長距離架橋システムが、少なくとも1つのポリヒドロキシル化ポリマー及び少なくとも1つの短距離架橋剤からなることを特徴とし得る。
【0031】
本発明による多糖材料を加工するプロセスはまた、短距離架橋剤(又は短鎖架橋剤)が、8~30個の原子を含む分子多官能性試薬であり、100ppm~10,000ppm、好ましくは500ppm~5000ppmの範囲の用量で使用されることを特徴とし得る。
【0032】
本発明による多糖材料を加工するプロセスはまた、短距離架橋剤がトリメタリン酸ナトリウムであることを特徴とし得る。
【0033】
本発明による多糖材料を加工するプロセスはまた、化学的機能化が、架橋の化学的加工から選択される第3の最終的な化学的加工を含むことを特徴とし得る。
【0034】
本発明による多糖材料を加工するプロセスはまた、均質な化学的機能化が、短距離架橋剤による少なくとも第3の、且つ最終的な架橋の化学的加工を含むこと、及び短距離架橋剤が、8~30個の原子を含む分子多官能性試薬であり、好ましくはトリメタリン酸ナトリウムであり、100ppm~10,000ppm、好ましくは500ppm~5000ppmの用量で使用されることを特徴とし得る。
【0035】
本発明による多糖材料を加工するプロセスはまた、第一に、好ましくは0.15~0.5の範囲の置換度までの、ヒドロキシプロピル化;第二に、好ましくは0.05~0.2の範囲の置換度までの、カルボキシメチル化;及び第三に、好ましくは500ppm~5000ppmの範囲の用量までの、トリメタリン酸ナトリウムによる短距離架橋からなることを特徴とし得る。
【0036】
本発明による多糖材料を加工するプロセスはまた、乾燥、粉砕、ふるい分けを含む、固形にする最終ステップを含むことを特徴とし得る。
【0037】
本発明による多糖材料を加工するプロセスはまた、多糖材料が、少なくとも1つの天然デンプン、又は異なる植物起源の少なくとも2つの天然デンプンの混合物からなることを特徴とし得る。
【0038】
製品:
本発明の第2の主題は、完全に水溶性である無水グルコース単位、好ましくは加工デンプンを含み、前記無水グルコース単位のヒドロキシル官能基が、少なくとも1つのヒドロキシアルキル化学基で置換され、ヒドロキシル官能基を置換するヒドロキシアルキル基が、以下:
- 2位に最大68%、好ましくは最大65%、非常に好ましくは最大64%、
- 及び/又は3位に少なくとも15%、好ましくは少なくとも17%、非常に好ましくは少なくとも17.5%、
- 及び/又は6位に少なくとも15%、好ましくは少なくとも17%、非常に好ましくは少なくとも18%、
のように分布することを特徴とし、
ヒドロキシル官能基を置換するヒドロキシアルキル基のパーセンテージの合計は100%に等しく、これらのパーセンテージはプロトンNMRで測定される、加工された多糖材料である。
【0039】
本発明による加工された多糖材料の1つの変形、好ましくは加工デンプンによれば、前記無水グルコース単位のヒドロキシル官能基は、少なくとも1つのカルボキシアルキル化学基で置換され、ヒドロキシル官能基を置換するカルボキシアルキル基は、以下:
- 2位に少なくとも75.5%、好ましくは少なくとも76.5%、
- 及び/又は3位に最大20%、好ましくは最大19%、
- 及び/又は6位に少なくとも4%、好ましくは少なくとも5%、
のように分布することを特徴とし、ヒドロキシル官能基を置換するカルボキシアルキル基のパーセンテージの合計は100%に等しく、これらのパーセンテージはプロトンNMRで測定される。
【0040】
本発明は、冷水に可溶性であり、好ましくは少なくとも95%非晶質、より好ましくは少なくとも98%非晶質、最も好ましくは完全に非晶質である粉末形態の加工デンプンに関するものであり、本発明によるプロセスを介して得られることを特徴とする。
【0041】
本発明は、本発明によるプロセスにより得られる加工デンプンに関し、乾式レーザー散乱によって測定された、10μm~1mmの範囲、好ましくは50μm~500μmの範囲の体積平均直径を有することを特徴とする。
【0042】
本発明はまた、建築材料、好ましくは石膏ベース又はセメントベースの材料のための添加剤としてのこれらの新規デンプンの使用に関する。
【0043】
本発明の1つの主題は、セメントモルタルにおける結合剤としての、本発明によるプロセスを介して得られる少なくとも1つのデンプンの使用である。
【0044】
本発明の1つの主題は、乾式モルタル組成物、好ましくはタイル接着剤用の乾式モルタル、最も好ましくはセラミックタイル接着剤用のモルタルにおける有機補助剤としての、本発明によるプロセスを介して得られる少なくとも1つのデンプンの使用である。
【0045】
本発明の1つの主題は、セメントモルタル接着剤における有機補助剤としての、本発明によるプロセスを介して得られる少なくとも1つのデンプンの使用であり、セメントの質量に対する水の質量の比が0.60より大きく、好ましくは0.70以上であることを特
徴とする。
【0046】
本発明の1つの主題は、以下の成分:
・ 1つ以上の水硬性結合剤、
・ 1つ以上のフィラー、
・ 1つ以上の増粘剤、
・ 1つ以上の再分散可能な粉末、
・ 1つ以上の加工デンプン、
を含み、
前記加工デンプンが、本発明によるプロセスによるものであることを特徴とする、乾式モルタルである。
【0047】
本発明の1つの主題は、乾燥重量によるパーセンテージで、
・ 20%~45%の水硬性結合剤、
・ 50%~70%のフィラー、
・ 0.2%~1%の増粘剤、
・ 0.5%~5%の再分散可能な粉末、
・ 0.01%~1%の加工デンプン、
を含み、
前記加工デンプンが、本発明によるプロセスによるものであり、パーセンテージの合計が100%に等しいことを特徴とする、乾式モルタルである。
【0048】
本発明の1つの主題は、本発明によるプロセスを介して得られる少なくとも1つのデンプンの、石膏ベースのモルタル、好ましくは吹き付けプラスター又はプラスターボードのプラスターにおける使用である。
【0049】
本発明の1つの主題は、石膏ベースのモルタルにおける増粘剤としての、本発明によるプロセスを介して得られる少なくとも1つのデンプンの使用である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図2】プラスターボードの5mm(N)での硬度の比較のグラフ
【発明を実施するための形態】
【0051】
本発明の1つの主題は、任意選択により粉末の形態(好ましくは非晶質)とされる、化学的に加工された多糖組成物を得る目的で、「逐次的で均質な機能化プロセス」として知られる多糖材料を加工するプロセスである。本発明の第2の主題は、こうして得られた加工多糖材料である。本発明の最後の主題は、石膏ベース又はセメントベースの乾式モルタルにおける有機補助剤としての、特にそのようなモルタルにおける結合剤及び増粘剤としての、この新規な加工された多糖材料の使用である。
【0052】
本発明の主題はまた、特定の置換基分布を有する多糖材料である。この多糖材料は、本特許出願の主題であるプロセスを介して得られ得る。
【0053】
接着相加工プロセスは、前記材料を水相に完全に又は実質的に完全に溶解させるための、「ベース」多糖材料の少なくとも1つの水熱加工からなる第1のステップを含む。「塩基」という用語により、出願人は、本発明による加工プロセスに供される多糖材料を意味する。この溶解は、完全に均質な水溶液が得られるように実施される。本発明の1つの変形によれば、ベース多糖材料は、1つ以上の天然デンプン及び/又は1つ以上のデンプンの物理的加工により得られる天然デンプン誘導体からなる。
【0054】
次に、第2のステップでは、溶解された多糖材料は、少なくとも1つの非架橋の化学的機能化、又は少なくとも1つの架橋の化学的機能化、又は少なくとも1つの非架橋の化学的機能化及び少なくとも1つの架橋の化学的機能化を含む、均質な化学的機能化によって化学的に加工される。架橋の化学的機能化は、少なくとも1つの短距離又は長距離架橋剤を用いて、又は短距離架橋剤及びポリヒドロキシル化ポリマーからなる少なくとも1つの架橋システムを用いて実施され得る。
【0055】
最後に、加工された多糖材料は、乾燥操作及び任意選択による粉砕操作を介して、実質的に非晶質の粉末に変換される。このようにして得られた粉末は、加熱なしで溶解する。
【0056】
デンプン、好ましくは天然デンプンから調製される場合、本発明のプロセスによる加工デンプン粉末は、セメントベース又は石膏ベースの乾式モルタル、及びプラスターに有用な優れた有機結合剤である。セメントベースの接着モルタルでは、入手可能な最高の市販製品と同等の優れた滑り抵抗が提供される。プラスターボード又は吹き付けプラスター用のプラスターモルタルでは、展延に対する優れた耐性が提供され、許容されるコアの補強が可能である。
【0057】
EmslandのAmitrolit(登録商標)8850又はAvebeの製品Casucol(登録商標)301又はCasucol(登録商標)Fix1などの市販製品と比較して、本発明のプロセスによる加工デンプンは、より低い置換度を有し、同時に、維持された、又は改善された作業特性を有する。これらのより低い置換度は、より少量の有毒な出発物質、特にプロピレンオキシドなどのより少ないアルキレンオキシドを消費し、より少量のエチレングリコール、ポリエチレングリコール又はプロパンジオールなどの望ましくない副産物を排出するプロセスを意味する。本発明による製品のカーボンフットプリントは、現在の市販製品のカーボンフットプリントと比較して著しく改善されている。
【0058】
先行技術は、一般的な用語で、同一のベースデンプンにつき異なる化学基のいくつかの置換を実施する可能性について言及しているが、これはどのような特定の組み合わせも明らかにするものではなく、なおさら、結合、増粘及び凝集機能を達成するためのどのような特定の組み合わせも明らかにするものではない。
【0059】
理論に制限されるものではないが、出願人は、優れた滑り抵抗特性は、先行技術の製品と比較して、糊化デンプン鎖上の置換化学基の均質な統計的分布に起因すると推定している。これはおそらく、化学的置換前の天然デンプンの完全且つ均質、又は実質的に完全且つ均質な溶解によって可能となっているであろう。
【0060】
ベース多糖材料
本発明によるプロセスは、一般に、多糖類に適用され得る。「ベース多糖材料」という用語は、本発明によるプロセスに関与し得る任意のタイプの多糖を表す。
【0061】
本発明のプロセスの1つの変形によれば、このベース多糖材料はデンプン質材料、すなわち天然デンプン及び/又は物理的加工により得られる天然デンプン誘導体からなる材料である。
【0062】
ベースデンプン質材料は、少なくとも1つの天然デンプンからなり得、これは、小麦、トウモロコシ、もちトウモロコシ、アミロペクチンに富むトウモロコシ又は米などの穀類からのデンプン、エンドウマメ若しくはダイズなどのマメ科植物からのデンプン、又はジャガイモなどの塊茎からのデンプンであってもよい。
【0063】
ベースデンプン質材料の1つの変形は、同じ植物品種の少なくとも2つのデンプンの混合物、又は穀類/マメ科植物、穀類/塊茎若しくは塊茎/マメ科植物などの異なる植物品種の少なくとも2つのデンプンの混合物であってもよい。
【0064】
これらのアミロペクチンに富むデンプン、すなわち、95%を超えるアミロペクチンを含有するデンプン、又はアミロースに富むデンプン、すなわち、95%を超えるアミロースを含有するデンプンの種類も、ベースデンプン質材料を構成し得る。
【0065】
ベースデンプン質材料の別の変形は、アミロペクチンに富む/アミロースに富むなどの、異なるアミロペクチン又はアミロース含有量を有する少なくとも2つのデンプンの混合物であってもよい。
【0066】
ベースデンプン質材料の別の変形は、少なくとも1つの天然デンプンと、少なくとも1つの化学的処理、酵素的処理又は熱処理によって脱重合された少なくとも1つの天然デンプンとからなる。熱処理された天然デンプンは、白色デキストリン、黄色デキストリン又は「ブリティッシュガム」デキストリンであってもよい。酵素処理された天然デンプンは、マルトデキストリンであってもよい。化学的に処理された天然デンプンは、酸処理によって流動化された天然デンプンであってもよい。天然デンプン及びデンプン誘導体は、異なる植物起源のものであってもよい。
【0067】
ベース多糖材料の他の変形は、個々に又は混合物として使用される、天然セルロース、グアーガム、キサンタンガム、カシアガム又はカラギーナンなどの多糖親水コロイドである。
【0068】
加工プロセスのステップ
水熱加工による均質溶解
本発明による加工プロセスの第1のステップは、粒状構造又は粒子残留物を有しない多糖材料の均質な水溶液を得るための、少なくとも1つの水熱加工によるベース多糖材料の均質な溶解からなる。
【0069】
この第1のステップは、多糖材料の全ての質量の同等のアクセス性を確保するために、後続の均質な化学的機能化の前、すなわち後続の全ての化学的加工の前に実施されなければならない。
【0070】
したがって、理論に拘束されるものではないが、出願人は、多糖材料が有する置換可能なヒドロキシル基の全て又は実質的に全てが利用可能であり、互いに同等の方法で化学試薬にアクセス可能であると推定している。したがって、試薬がヒドロキシル基へのアクセスを得られるような物質移動に対する耐性は、全ての利用可能な置換できるヒドロキシル基につき同等である。
【0071】
本発明の1つの変形によれば、プロセスの第1のステップは、ベースデンプン質材料の水熱加工であり、これにより、この材料の物理的状態の変換が可能になり、水性媒体中の温度の作用下で、任意選択により塩基性pHで、粒状構造から親水コロイド構造へと変化する。デンプンの粒状構造のこの破壊は、当業者に周知の技術(ノズルによる蒸気調理、撹拌タンク内の塩基性媒体中での熱処理、これをバッチ方式又は連続方式で行う)によってデンプン粒子を分割することにより得られる。
【0072】
水熱加工は、デンプン質材料を実質的に完全に溶解した状態に変換する。これは、この溶液のサンプルを偏光で、光学顕微鏡で観察すると、デンプン粒子の特徴的な複屈折クロ
スが完全に又は実質的に完全に存在しないこと、また、部分的に膨潤した又は分割された粒子の「痕跡」も完全に又は実質的に完全に存在しないことがわかることを意味する。
【0073】
乾燥多糖材料の質量含有率が、多糖物質の水溶液の総質量の典型的には1%~5%の値を超える場合、溶解はゲルの形成を導く。好ましい実施形態によれば、ベースデンプン質材料は、水性分散液の総質量の5%~60%の範囲、好ましくは20%~40%の範囲の乾燥ベースデンプン質材料の質量含有率まで水に溶解される。これらの質量含有率のベースデンプン質材料の場合、水熱加工によりデンプン質材料のゲルが得られる。これは、糊化である。
【0074】
別の好ましい実施形態によれば、溶解は、デンプン質材料の糊化温度+5℃以上、好ましくは+10℃以上の温度で、撹拌ジャケット付きタンクなどの撹拌熱交換器内で、ベースデンプン質材料の水性分散液を加熱することによって実施される。さらに、溶解は、乾燥デンプン質材料に対して0.5%以上(乾燥/乾燥として示される)の乾燥塩基の含有量まで塩基を添加することによって触媒され、好ましくは1%(乾燥/乾燥)以上である。塩基は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、又は水酸化物イオンを提供する任意の他の塩であってもよい。
【0075】
溶解の結果、得られた天然デンプン質材料のコロイド溶液は、一般に、20℃、20rpmで測定して、10,000mPa.s~100,000mPa.s、好ましくは50,000mPa.s~75,000mPa.sの範囲のブルックフィールド粘度を有する。
【0076】
ヒドロキシル基の置換による化学的機能化
次に、溶解した天然多糖材料は、均質に化学的加工された多糖材料に変換される。均質な化学的機能化と呼ばれるこのステップは、ヒドロキシル官能基の化学置換からなり、反応質量の完全混合又は実質的な完全混合を維持する。化学置換反応は、エーテル化、エステル化、及びラジカルグラフト化から選択され、化学的機能化からなり、とりわけ、多糖材料の構成多糖の主鎖の結合の架橋又は切断のいずれからもならない。
【0077】
均質な化学的機能化の目的は、非イオン性又はイオン性の官能基を、多糖材料の質量、さらには多糖材料の構成高分子鎖に、均一な分布で付着させることである。
【0078】
化学的置換基によって提供される官能基は、アルコール、酸、アミン又はアルキルアンモニウムである。それ自体公知の方法で、これらの官能基は、水素結合による、又は多糖材料と、セルロース若しくはその誘導体などの有機基質、若しくは石灰、シリカ若しくはアルミナ粒子など(石灰岩、粘土、セメント又は石膏粒子など)の鉱物基質との間の静電結合による、相互作用を可能にする。
【0079】
しかしながら、驚くべきことに、本発明による均質な化学的機能化は、多糖材料にこれらの基質と相互作用する、より良い能力を与える。置換基の量が少ないと、実質的により多くの量を含有する従来技術の製品と同等の結果を得ることが可能になる。
【0080】
多糖材料に導入された化学官能基の均質な分布は、反応質量の完全混合又は実質的な完全混合の状態によって可能になる。この混合状態により、多糖材料と反応することができる前に、試薬の大部分を反応質量中に分散させることができる。
【0081】
均質な化学的機能化に有用な試薬は、アルコール官能基とエーテル又はエステル結合を形成できる単官能試薬である。「単官能」という用語により、出願人は、試薬が、少なくとも1つの化学官能基を有する分子又は高分子であり、そのうちの1つのみが、触媒を伴
い又は伴わず、多糖材料のアルコール官能基と反応できることを意味する。均質な化学的機能化は、多糖材料の分子量の桁の変更を引き起こさない。
【0082】
一般に、これらの反応は任意の順序で実施される。本発明のプロセスの1つの変形によれば、エーテル化はエステル化の前に実施され得る。
【0083】
使用される試薬の含有量は、得られる多糖材料が本発明による各タイプの置換基について所望の置換度を有するように選択される。当業者は、これらの置換度が得られるように反応条件を調整する方法を知っているであろう。
【0084】
完全混合物又は実質的な完全混合物の撹拌条件
「実質的な完全混合物」という用語により、出願人は、主に良好なマクロ混合物、すなわち反応体積における反応材料の均質な分布、特にデッドゾーン又は滞留ゾーンがないことを特徴とする混合物の状態を意味する。このような混合物は、化合物の濃度が反応器内のいずれの点でも実質的に同じ値であることを特徴とする。
【0085】
さらに、完全混合物は、良好なマイクロ混合物、つまり、マクロ混合物によって生成された循環ゾーン内の良好な混合物を有する。
【0086】
化学反応工学の当業者は、粘性媒体に適した撹拌装置を用いてこの状態の混合物を得る方法を知っている。出願人は、どちらもH.Desplanches及びJ-L.Chevalierによって著された参照刊行物「Melange des milieux pateux de rheologie complexe.Theorie[Mixing of pasty media of complex rheology.Theory]」J 3 860及び「Melange des milieux pateux de rheologie complexe.Pratique[Mixing of pasty media of complex rheology.Practice]」J 3 861などの「Techniques de l’ingenieur[Engineering Techniques]」シリーズを参照する。
【0087】
一般的に言えば、完全混合物は、適切な撹拌装置と十分な混合時間によって生成することが可能である。しかしながら、そのような装置のコスト又は混合時間は、産業上の利用が実現可能であるには高すぎるか又は長すぎる可能性がある。これは、多くの場合、反応質量の大部分が完全に混合され、この反応質量の小部分は混合されない、実質的な完全混合を達成するのに十分であると証明される。
【0088】
非架橋の均質な化学的機能化
エーテル化
本発明のプロセスの1つの変形によれば、エーテル化は、含窒素試薬で始まるヒドロキシアルキル化、カルボキシアルキル化又はカチオン化から選択され、これらの反応は、デンプン質材料である多糖材料で実施される。
【0089】
本発明において有用なヒドロキシアルキル化は、2~10個の炭素原子、好ましくは3~5個の炭素原子の範囲の長さを有し、少なくとも1つのアルコール官能基、好ましくはヒドロキシプロピル化又はヒドロキシエチル化の中からのものを有する炭素ベース鎖を導入する機能を有するものである。
【0090】
一般に、ヒドロキシプロピルタイプのエーテル官能基は、任意選択により水酸化ナトリウムなどの塩基性触媒の存在下で、それをプロピレンオキシド又はエポキシプロパンと反応させることによってデンプンに導入される。本発明によれば、ヒドロキシプロピル化デ
ンプンは、0.05~2、好ましくは0.1~1、最も好ましくは0.15~0.6、より好ましくは0.15~0.5の範囲のヒドロキシプロピル官能基による置換度を有する。
【0091】
本発明において有用なカルボキシアルキル化は、2~10個の炭素原子、好ましくは3~5個の炭素原子の範囲の長さを有し、少なくとも1つのカルボン酸官能基、好ましくはカルボキシメチル化を有する炭素ベース鎖を導入することを可能にするものである。
【0092】
通常、カルボキシメチルタイプのエステル官能基は、任意選択により水酸化ナトリウムなどの塩基性触媒の存在下で、モノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムと反応させることによってデンプンに導入される。本発明によれば、このようにカルボキシメチル化されたデンプンは、0.05~2、好ましくは0.05~1、最も好ましくは0.05~0.3、より好ましくは0.05~0.2の範囲のカルボキシメチル官能基による置換度を有する。
【0093】
本発明において有用なカチオン化は、第三級アミン又は第四級アンモニウム塩に基づく窒素試薬で実施されるカチオン化である。これらの試薬のうち、好ましいものは、2-ジエチルアミノクロロエタン塩酸塩などの2-ジアルキルアミノクロロエタン塩酸塩、又は塩化N-(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)トリメチルアンモニウムなどのハロゲン化グリシジルトリメチルアンモニウム及びそのハロヒドリンであり、後者が好ましい。
【0094】
エステル化
本発明によるプロセスの1つの変形によれば、エステル化は、少なくとも2つのカルボン酸官能基を含む、エステル化剤として知られる試薬を用いて実施されるものから選択され、デンプン質材料である多糖材料で実施される。
【0095】
したがって、エステル化剤は、ポリカルボン酸、又はカルボン酸ハロゲン化物、若しくはポリ酸無水物、又はこれらの酸のスルホン化誘導体であってもよい。これらのエステル化剤のうち、2~16の範囲、最も好ましくは2~5の範囲の炭素原子数を有するものが好ましい。
【0096】
本発明において有用なポリカルボン酸は、2~10、好ましくは3~5の範囲の炭素数を有する線状ジカルボン酸であり、その中でエタン二酸、プロパン二酸又はブタン二酸が好ましい。本発明において有用なカルボン酸ハロゲン化物は、塩化アセチル及び塩化プロピオニルである。本発明において有用なポリ酸無水物は、無水フタル酸、無水コハク酸又は無水マレイン酸であり得る。
【0097】
架橋の均質な化学的機能化
多糖材料の均質な架橋の化学的機能化は、完全混合又は実質的な完全混合を確実にする撹拌条件下での少なくとも1つの架橋剤による架橋からなる。一実施形態によれば、架橋剤は、短距離架橋剤である。これは、短距離架橋とも称される。別の実施形態によれば、架橋剤は、長距離架橋剤、又は長距離架橋システムである。これは、長距離架橋とも称される。最後に、最終的な実施形態によれば、短距離及び長距離架橋の組み合わせは、少なくとも1つの短距離架橋剤及び少なくとも1つの長距離架橋剤を組み合わせることによって実施される。
【0098】
本発明に有用な架橋剤は、多官能性試薬、すなわち、少なくとも2つの化学官能基を有する分子又は高分子であり、その少なくとも2つは、触媒を伴い又は伴わず、多糖材料のヒドロキシルと反応して、エーテル又はエステル結合を形成することができる。
【0099】
一般に、架橋は、多糖材料の高分子鎖間に結合を形成することにより、多糖材料の分子量の桁の変更をもたらすエーテル化又はエステル化である。これは、一般に、多糖材料の粘度又は質感を改変するために実施される。
【0100】
本発明によれば、架橋は、多糖鎖上にランダムに又は均質に分布した分子間ブリッジを生成することにより、及び長距離架橋の変形によれば、距離を選択することにより、機能化された多糖鎖を分子間で強固に連結することを可能にする。
【0101】
本発明による架橋は、反応質量として知られる、反応器に導入される全ての物質の、完全混合又は実質的な完全混合を確実にする撹拌条件下で実施されることを特徴とする。混合の完全な状態又は実質的に完全な状態は、前に提示された均質な化学的機能化が実施される状態と同じである。
【0102】
1つの変形によれば、この完全混合又は実質的な完全混合は、反応開始の瞬間に達成される。別の変形によれば、これは反応開始前に達成される。
【0103】
理論的には、完全混合又は実質的な完全混合により、多糖材料の高分子鎖上の架橋ブリッジの均質な分布が保証される。いかなる理論にも拘束されるものではないが、この特定の方法で行われる架橋は、加工多糖材料に特定の空間構造を与える可能性が高いため、以前に付加された化学官能基が植物又は鉱物マトリックスと効率的に相互作用することができる。これにより、結合又は増粘特性を得るために必要な置換度が、先行技術の不均質又は混合相機能化によって得られた製品の置換度に比べて減少することも結果として生じる。これらの特性はまた、置換度が先行技術の製品の置換度と等しい値に維持される場合に改善され得る。
【0104】
これに関連して、本発明による架橋システムによる架橋はまた、加工された多糖材料の分子量を増加させる効果を有する。
【0105】
短距離架橋
本発明に有用な第1のタイプの架橋は、「短距離」架橋であり、これは短距離架橋剤を用いて実施される。
【0106】
「短距離架橋剤」という用語により、出願人は分子多官能性有機試薬を意味する。「分子」という用語により、出願人は、炭素ベースの鎖を有する有機分子であって、その炭素ベースの鎖が最大8個の炭素原子、好ましくは最大6個の炭素原子、最も好ましくは最大2個の炭素原子を含む分子;又は炭素ベースの鎖を有しない有機分子であって、8~30個の原子又はヘテロ原子からなり、好ましくは10~16個の原子又はヘテロ原子からなる分子のいずれかを意味する。
【0107】
本発明による短距離架橋剤として有用な有機分子の変形は、ポリカルボン酸、例えばクエン酸、又はポリリン酸、例えば三リン酸などの、多官能性酸;混合アジピン酸無水酢酸などの混合ポリ酸無水物を含む、混合酸無水物;又は多官能性の塩基性有機分子;及びナトリウム塩、マンガン塩、カルシウム塩、マンガン塩、鉄塩、銅塩又は亜鉛塩などの、その金属塩から選択されるものである。
【0108】
本発明に有用な短距離架橋剤の1つの特定の変形は、トリメタリン酸ナトリウム又はトリポリリン酸ナトリウムなどのポリ酸のナトリウム塩から選択されるものを含む。
【0109】
短距離架橋剤の他の変形は、グリオキサールなどの多官能アルデヒド;エピクロロヒドリンなどのハロゲン化エポキシド;ヘキサメチレンジイソシアネートなどの、アルキル鎖
が8個未満の炭素原子を含有する脂肪族又は芳香族ジイソシアネートである。
【0110】
短距離架橋剤として有用な分子の1つの変形は、オキシ塩化リンなどのオキソハライドである。
【0111】
その使用に関して、短距離架橋は、化学的に機能化された多糖材料に一定用量の近距離架橋剤を添加し、少なくとも20℃の温度、少なくとも60分の反応時間で、撹拌しながら、多糖材料の質量における架橋剤の迅速且つ均質な分散を確実にすることにより実施される。
【0112】
架橋中に使用される短距離架橋剤の用量は、本発明による加工プロセスに最初に関与する多糖材料の乾燥質量に対する、反応媒体に導入される架橋剤の乾燥質量として表される。この用量は、多糖材料の乾燥質量に対して100ppm~10,000ppmの短距離架橋剤の乾燥質量に及ぶ範囲内であり、好ましくは2500ppm~5000ppmに及ぶ範囲である。
【0113】
短鎖架橋剤は、0.5重量%~50重量%、好ましくは2重量%~20重量%の乾燥架橋剤を含有する水溶液の形態で導入されてもよい。この溶液は、反応媒体の温度に等しい温度に維持しなければならない。
【0114】
架橋剤の溶液が反応媒体中に導入されてすぐに、それが反応媒体中に迅速に分散されることが重要である。この迅速な分散は、多糖鎖全体にわたって架橋ブリッジを均質に分布させるために必要である。
【0115】
短距離架橋の1つの変形によれば、短距離架橋中の反応媒体の温度は、35℃以上、好ましくは50℃以上である。
【0116】
短距離架橋の別の変形によれば、反応時間は5時間以上、好ましくは10時間以上、最も好ましくは15時間以上である。
【0117】
長距離架橋
本発明に有用な第2のタイプの架橋は、「長距離」架橋であり、これは長距離架橋剤又は長距離架橋システムのいずれかを用いて実施される。
【0118】
「長距離架橋剤」という用語によって、出願人は、少なくとも9個の炭素原子、好ましくは少なくとも20個の炭素原子を含有する、炭素ベースの鎖を有する分子多官能性有機試薬;及びまた、天然又は合成由来の高分子多官能性有機試薬を意味し、これら2つのタイプの多官能性試薬は、カルボン酸、アミン又はシアネートタイプの官能基を有するものから選択される。
【0119】
本発明に有用な高分子多官能性試薬は、5以上、好ましくは10の重合度、及び少なくとも1000g/モル、好ましくは4000g/モルの数平均分子量、及び少なくとも10,000g/モル、好ましくは50,000g/モルの重量平均分子量を有する。
【0120】
本発明による架橋システムは、少なくとも1つの短距離架橋剤及び少なくとも1つのポリヒドロキシル化ポリマーから構成される。用語「ポリヒドロキシル化ポリマー」により、出願人は、少なくとも2つのアルコール官能基を有するポリマーを意味する。
【0121】
架橋システムは、分子の柔軟性を有する選択された長さのブリッジを介して多糖材料の高分子鎖を連結することを可能にする。
【0122】
短距離架橋剤分子は、その反応性機能の1つを介して多糖材料に付着するようになり得、その後、その別の反応性機能を介してポリヒドロキシル化ポリマーに付着するようになり得る。したがって、架橋剤分子は、多糖材料とヒドロキシル化ポリマーとの間に結合ブリッジを生成する。短距離架橋剤なしでは、アルコール官能基のヒドロキシルは、多糖材料が有するヒドロキシルと反応できないため、ヒドロキシル化ポリマーは多糖材料と結合できない。多糖材料の別の多糖鎖の1つのヒドロキシルとポリヒドロキシル化ポリマーの別のヒドロキシルとの間の結合操作を繰り返すことにより、2つの多糖鎖間の分子間結合を生成することができる。多糖鎖間の結合の生成の反復は、これらの鎖の相互への強い付着をもたらす。
【0123】
ポリヒドロキシル化ポリマーのサイズ及びこのポリマー上のアルコール官能基の分布は、多糖鎖の強い付着の効果を調節するために変化させることができるパラメーターである。
【0124】
長距離架橋システムによる架橋変形によれば、多糖材料及びポリヒドロキシル化ポリマーの均質混合は、短距離架橋剤を導入する前に実施される。この架橋の変形は2ステップで実施される。第一に、ポリヒドロキシル化ポリマーは、これらの2つの材料間の均質な混合を可能にする撹拌条件下で多糖材料に導入され、撹拌は、均質な質量の生成を確実にするのに十分な時間を維持され得る。第二に、短距離架橋剤は、撹拌しながら導入され、これは迅速な分散を確実にする。
【0125】
長距離架橋システムの第1の変形では、ポリヒドロキシル化ポリマーは、40g/モル以上の分子量を有するモノマーからなるポリマー又はコポリマーから選択される。この変形によれば、それらの重合度は、10以上、好ましくは50以上、最も好ましくは80以上である。また、この変形によれば、それらの重合度は、200以下、好ましくは150以下、最も好ましくは100以下であってもよい。
【0126】
ポリヒドロキシル化ポリマーとして本発明のこの変形に有用な合成ポリマーは、パラホルムアルデヒド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール又はポリテトラメチレングリコールなどの低モル質量の脂肪族ポリエーテル、又はポリオキシメチレン、ポリエチレンオキシド又はポリテトラヒドロフランなどの高モル質量の脂肪族ポリエーテル;ポリ(ビニルアルコール)などのポリビニルアルコール;ポリグリセロールなどの直鎖又は分岐ポリエーテルポリオール;乳酸又はグリコール酸などのカルボン酸のポリマーである。
【0127】
長距離架橋剤として本発明に有用な合成コポリマーは、エチレンとビニルアルコールのコポリマーである。
【0128】
架橋システムの第2の変形では、ポリヒドロキシル化ポリマーは、160g/モル以上の分子量を有するモノマーからなるポリマー又はコポリマーから選択される。この変形によれば、それらの重合度は、5以上、好ましくは25以上、最も好ましくは50以上である。さらにまた、この変形によれば、それらの重合度は、200以下、好ましくは150以下、最も好ましくは100以下であってもよい。
【0129】
ポリヒドロキシル化ポリマーとして本発明のこの変形において有用なポリマーは、本発明によるデンプン質材料の可能な植物起源から選択される植物起源のデンプンの酸又は酵素による加水分解から得られる、オリゴ糖、マルトデキストリン又は脱水グルコースシロップである。
【0130】
本発明において有用なオリゴ糖の中には、一般に、フルクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、グルコオリゴ糖、マンナンオリゴ糖及びマルトオリゴ糖がある。いくつかの変形によれば、本発明に有用なオリゴ糖は、少なくとも5つの単糖、及び最大で25個の単糖から構成されるものである。
【0131】
マルトデキストリンは、本発明において長距離架橋剤として有用なオリゴ糖の変形である。マルトデキストリンは、水相におけるデンプンの酸及び/又は酵素による加水分解によって得られる。一般に、マルトデキストリンは2~20の範囲の重合度を有する。
【0132】
本発明に有用な脱水グルコースシロップは、26以上、好ましくは50以上の重合度を有するグルコースポリマーから構成されるものである。本発明で有用な脱水グルコースシロップの例には、Roquette Freresが販売するGlucidex(登録商標)製品が含まれる。
【0133】
架橋ステップの1つの変形によれば、架橋の実行は、全ての架橋剤の多糖材料との同時反応、又は次々と続く架橋剤の連続反応からなり得る。別の変形によれば、長距離架橋は、長距離架橋剤又は長距離架橋システムを介して最初に実施され、短距離架橋は、短距離架橋剤を介して次に実施される。
【0134】
その実行に関して、長距離架橋は、化学的に機能化された多糖材料に一定用量の長距離架橋剤を添加し、少なくとも20℃の温度、少なくとも60分の反応時間で実施され、同時に、多糖材料の質量の均質な撹拌、及びこの加工された多糖材料の質量における架橋剤の迅速な分散を確実にする。
【0135】
架橋中に使用される長距離架橋剤の用量は、本発明による加工プロセスに最初に関与する多糖材料の乾燥質量に対する、反応媒体に導入される架橋剤の乾燥質量として表される。この用量は、多糖材料の乾燥質量に対して1%~15%の長距離架橋剤の乾燥質量に及ぶ範囲内であり、好ましくは2.5%~10%に及ぶ範囲である。
【0136】
長距離架橋の1つの変形によれば、長距離架橋中の反応媒体の温度は、35℃以上、好ましくは50℃以上である。
【0137】
長距離架橋の別の変形によれば、反応時間は5時間以上、好ましくは10時間以上、最も好ましくは15時間以上である。
【0138】
長距離架橋システムによる架橋の1つの変形によれば、ポリヒドロキシル化ポリマーの用量は、多糖材料の乾燥質量に対して、ポリヒドロキシル化ポリマーの乾燥質量で1%~15%の範囲、好ましくは2.5%~10%の範囲である。短距離架橋剤の用量は、多糖材料の乾燥質量に対して100ppm~10,000ppmの短距離架橋剤の乾燥質量の範囲、好ましくは2500ppm~5000ppmに及ぶ範囲であってもよい。この架橋の変形は、少なくとも20℃、好ましくは35℃以上、最も好ましくは50℃以上の温度で、少なくとも60分、好ましくは5時間以上、最も好ましくは10時間以上、さらにより好ましくは15時間以上の反応時間にわたり実施される。
【0139】
最終的な固形への配置
化学的加工反応の結果得られた、機能化され、架橋された糊化多糖材料のコロイド溶液は、当業者に公知の任意の乾燥技術によって粉末に変換される。
【0140】
多糖材料がデンプン質材料である変形によれば、それは、乾燥ドラム上又は再循環フラッシュエバポレーター内での乾燥の問題であり得る。乾燥の結果、得られた加工デンプン
質材料粉末は、乾式レーザー散乱によって測定された、10μm~1mm、好ましくは10μm~500μm、最も好ましくは20μm~50μmの範囲の体積平均直径を特徴とする粒子サイズを有する。必要に応じて、所望の粒子サイズを達成するために、乾燥操作を終了する粉末に粉砕操作を適用してもよい。
【0141】
得られた粉末は実質的に完全に非晶質であり、したがって、冷水、すなわち5℃~30℃の温度の水に溶解する。
【0142】
ベースデンプン質材料を使用する本発明によるプロセスの4つの変形を以下に示す。
【0143】
本発明によるプロセスの第1の変形によれば、調製される加工デンプン質材料は、0.10~0.50の範囲、好ましくは0.15~0.30の範囲の置換度を有するヒドロキシプロピル化ジャガイモデンプンである。
【0144】
この加工デンプンの変形は、ベースのデンプンとして、天然のジャガイモデンプンを使用して調製される。次いで、この天然デンプンは、水酸化ナトリウムの存在下で、1%~5%の範囲の乾燥水酸化ナトリウム/乾燥デンプン、好ましくは1.5%~2%の範囲の含有量で、80℃に加熱することにより、撹拌しながら完全に溶解する。デンプン水溶液の粘度は、100~1,000,000mPa.sの範囲であり、好ましくは500~200,000mPa.sの範囲であり、最も好ましくは1,000~50,000mPa.sの範囲である。次いで、溶解したデンプンを、0.10~0.50の範囲、好ましくは0.15~0.30の範囲の置換度が達成されるまで、水プロピレンオキシドを添加することによりヒドロキシプロピル化する。このようにして得られたヒドロキシプロピル化デンプンの水溶液は、20℃、20rpmで、4000~30,000mPa.s、好ましくは5000~24,000mPa.sの範囲のブルックフィールド粘度を有する。
【0145】
本発明によるプロセスの第2の変形によれば、調製される加工デンプン質材料は、0.10~0.50の範囲、好ましくは0.15~0.30の範囲の置換度までヒドロキシプロピル化され、100ppm~2000ppmの範囲の用量で使用されるトリメタリン酸ナトリウムである短距離架橋剤で架橋された、ジャガイモデンプンである。
【0146】
この第2のプロセス変形は、先の第1の変形と同じプロセスで、溶解及びヒドロキシプロピル化を実施すること、その後、トリメタリン酸ナトリウムの存在下で、25℃~50℃の温度で、15時間~30時間の反応時間にわたり、100ppm~2000ppmの範囲の用量で架橋を実施することから構成される。
【0147】
得られたヒドロキシプロピル化架橋デンプンの水溶液は、20℃、20rpmで、4000~30,000mPa.s、好ましくは5000~24,000mPa.sの範囲のブルックフィールド粘度を有する。
【0148】
本発明によるプロセスの第3の変形によれば、調製される加工デンプン質材料は、0.10~0.50の範囲、好ましくは0.15~0.30の範囲の置換度までヒドロキシプロピル化され、0.05~1の範囲、好ましくは0.05~0.15の範囲の置換度までカルボキシメチル化されたジャガイモデンプンである。
【0149】
この第3の変形の実行は、前に提供された第1の変形による溶解及びヒドロキシプロピル化と、その後の、0.01~0.5、好ましくは0.05~0.15の範囲の置換度に達するまでの、水酸化ナトリウム触媒下でのモノクロロ酢酸ナトリウムによるカルボキシメチル化から構成される。カルボキシメチル化は、50℃~100℃、好ましくは70℃~90℃の温度で、1時間~10時間、好ましくは4時間~7時間の反応時間で実施され
る。
【0150】
得られたヒドロキシプロピル化及びカルボキシメチル化デンプンの水溶液は、20℃、20rpmで、5000~300,000mPa.s、好ましくは15,000~85,000mPa.sの範囲のブルックフィールド粘度を有する。
【0151】
本発明によるプロセスの第4の変形によれば、加工デンプンは、トリメタリン酸ナトリウムで架橋された、ヒドロキシプロピル化及びカルボキシメチル化されたジャガイモデンプンである。ヒドロキシプロピル置換度は、0.10~0.50、好ましくは0.15~0.30の範囲である。カルボキシメチル置換度は、0.01~0.5、好ましくは0.05~0.15の範囲である。架橋度は、100ppm~2000ppm、好ましくは500ppm~1500ppmの範囲である。
【0152】
この加工デンプンの変形は、ベースのデンプンとして、天然のジャガイモデンプンを使用して調製される。この天然デンプンは、水酸化ナトリウムの存在下で、1%~5%の範囲の乾燥水酸化ナトリウム/乾燥デンプン、好ましくは1.5%~2%の範囲の含有量で、80℃に加熱することにより、撹拌しながら完全に溶解する。デンプン水溶液の粘度は、100~1,000,000mPa.sの範囲であり、好ましくは500~200,000mPa.sの範囲であり、最も好ましくは1,000~50,000mPa.sの範囲である。次いで、溶解したデンプンを、0.10~0.50の範囲、好ましくは0.15~0.30の範囲の置換度が達成されるまで、水プロピレンオキシドを添加することによりヒドロキシプロピル化する。次いで、デンプンは、水酸化ナトリウム触媒下でのモノクロロ酢酸ナトリウムとの反応により、0.01~0.5、好ましくは0.05~0.15の範囲の置換度が達成されるまでカルボキシメチル化される。デンプンは、最後に、トリメタリン酸ナトリウムの存在下で、25℃~50℃の温度で、15時間~30時間の反応時間にわたり、100ppm~2000ppmの範囲の用量で架橋される。
【0153】
得られたヒドロキシプロピル化及びカルボキシメチル化架橋デンプンの水溶液は、20℃、20rpmで、4000~30,000mPa.s、好ましくは5000~24,000mPa.s、最も好ましくは8000~15,000mPa.sの範囲のブルックフィールド粘度を有する。
【0154】
プロセスを実施するための装置
本発明によるプロセスを実施するのに有用な装置は、粘性媒体の均質な混合を、好ましくは中程度の剪断下でポンピングすることにより、最も好ましくは低剪断下でポンピングすることにより実施することができる撹拌反応器である。一般に、一軸式、共回転又は逆回転の二軸式又はプラウシェアタイプの少なくとも1つの撹拌ローターを、単独で、又は軸方向/半径方向の混合ポンプ撹拌ローターと組み合わせて含む、撹拌装置を備えた任意の反応器は、粘性混合物の撹拌に適している。
【0155】
溶解ステップは「ジェットクッカー」で実施してもよく、次いで、溶解したデンプンを撹拌反応器に移し、そこで均質な化学的機能化を実施する。1つの変形によれば、溶解及び均質な化学的機能化は、同じ撹拌反応器内で実施される。
【0156】
プロセスは、バッチ、半連続又は連続機能、又はこれらのモードの組み合わせに従って実施され得る。プロセスの各ステップ又は各化学的加工は、反応器のこれらの機能モードの1つに従って実施され得る。したがって、本発明によるプロセスを実施するために、いくつかのタイプの撹拌反応器(従来の撹拌タンクタイプのバッチ反応器;LoedigeのDruvatherm(登録商標)DVT反応器などの、水平円筒ドラムを備えたバッチ反応器;SulzerのSMV(商標)又はSMX(商標)Plus装置などの、スタ
ティックミキサーを備えた管状連続反応器;押出機)が代替的に使用され得る。
【0157】
本発明によるプロセスの効果
出願人は、化学置換反応が溶解したデンプンで実施されるという事実により、導入された化学基がデンプン鎖上に均一に分布すると推定している。これらの接着相の加工により、化学基はおそらくより均質にデンプン鎖に分布するであろう。化学基のこの新規の分布は、おそらく本発明によるデンプンの適用性に寄与するであろう。
【0158】
プロセスによって得られ、2、3、及び6位における置換基の分布を特徴とする多糖材料
本発明によるプロセスによって得られる多糖材料は、導入された化学官能基の全く驚くべき分布を特徴とする。プロトン核磁気共鳴などの分析方法によって、出願人は実際に、本発明によるプロセスが、置換されたヒドロキシル基の位置について先行技術プロセスとは異なる化学的機能化を有する多糖材料を得ることが可能であることを見出した。
【0159】
多糖材料の構成単位は、次式のように、無水グルコース環又は無水フルクトース環、好ましくは無水グルコース環(AGUと表示)である。
【化1】
【0160】
この単位では、
図1に示すように、環を構成する原子に、「アノマー」炭素原子の1から、環の外側に位置する炭素原子の6までの番号が従来法により付されている。多糖材料は、炭素1が有するヒドロキシルと、4位又は6位の別の単位の炭素との間のエーテル結合の形成によって一緒に連結されたこれらの一連の単位からなる。全ての構成グループは、化学反応により置換されるのに利用可能な3つのヒドロキシル官能基を、1つは2位に、1つは3位に、1つは6位に有する。
【0161】
本発明によるプロセスによって、加工された多糖材料のヒドロキシル官能基に結合した置換化学基は、従来技術のプロセスによって加工された多糖材料の場合とは異なって分布する。
【0162】
それが多糖材料に対して実施される第1の化学的加工である場合、好ましくはそれがヒドロキシアルキル化、非常に好ましくはヒドロキシプロピル化である場合、出願人は、実際に、プロトンNMR測定により、ヒドロキシアルキル化学基が、粒状プロセスによる化学的加工と比較して、2位ではより少なく、3位及び6位ではより多く分布していることを観察した。
【0163】
それが多糖材料に対して実施される第2の化学的加工である場合、好ましくはそれがカルボキシアルキル化、非常に好ましくはカルボキシメチル化である場合、出願人は、実際に、プロトンNMR測定により、カルボキシアルキル化学基が、混合(すなわち、粒状-接着)プロセスによる化学的加工と比較して、2位ではより多く、3位ではより少なく、6位ではより多く分布していることを観察した。
【0164】
したがって、第1の主要な実施形態によれば、本特許出願の1つの主題は、完全に水溶
性であり、少なくとも1つのヒドロキシアルキル化学基で置換されたヒドロキシル官能基を含み、多糖材料の構成単位上に前記ヒドロキシアルキル基の分布を有し、プロトンNMRで測定される、無水グルコース単位を含む加工された多糖材料であって、ここで、
a. 2位に結合したヒドロキシアルキル基のパーセンテージは、68%以下、好ましくは65%以下、非常に好ましくは64%以下、
b. 及び/又は3位に結合したヒドロキシアルキル基のパーセンテージは、15%以上、好ましくは17%以上、非常に好ましくは17.5%以上、
c. 及び/又は6位に結合したヒドロキシアルキル基のパーセンテージは、15%以上、好ましくは17%以上、非常に好ましくは18%以上である。
【0165】
好ましくは、加工された多糖材料は加工デンプンであり、ヒドロキシアルキル基の分布は、前述のように無水グルコース単位上である。
【0166】
第2の主要な実施形態によれば、本特許出願の1つの主題は、完全に水溶性であり、少なくとも1つのカルボキシアルキル化学基で置換されたヒドロキシル官能基を含み、多糖材料の構成単位上に前記カルボキシアルキル基の分布を有し、プロトンNMRで測定される、第1の主要な実施形態による加工された多糖材料であって、ここで、
a. 2位に結合したカルボキシアルキル基のパーセンテージは75.5%以上、好ましくは76.5%以上、
b. 及び/又は3位に結合したカルボキシアルキル基のパーセンテージは、20%以下、好ましくは19%以下、
c. 及び/又は6位に結合したカルボキシアルキル基のパーセンテージは、4%以上、好ましくは5%以上である。
【0167】
好ましくは、加工された多糖材料は加工デンプンであり、ヒドロキシアルキル基の分布は、前述のように無水グルコース単位上である。
【0168】
本発明の主題である加工された多糖材料の2つの主要な実施形態の好ましい変形によれば、加工された多糖材料は、ヒドロキシプロピル又はヒドロキシエチルから選択されるヒドロキシアルキル基、好ましくはヒドロキシプロピルを含む。非常に好ましくは、ヒドロキシアルキル基はヒドロキシプロピル基であり、ヒドロキシプロピル置換度は、0.05~2、好ましくは0.1~1、最も好ましくは0.15~0.6、より好ましくは0.15~0.5である。
【0169】
第2の主要な実施形態の好ましい変形、カルボキシアルキル基を有する変形によれば、加工された多糖材料は、カルボキシアルキル基としてカルボキシメチル基を含む。非常に好ましくは、カルボキシメチル置換度は、0.03~2、好ましくは0.03~1、最も好ましくは0.03~0.3、より好ましくは0.03~0.2である。
【0170】
主要な実施形態の好ましい変形及び先の好ましい変形によれば、本発明による加工された多糖材料は、長距離架橋剤又は短距離架橋剤から、好ましくは短距離架橋剤から、最も好ましくはトリメタリン酸ナトリウムから選択される架橋剤で架橋される。
【0171】
主要な実施形態の好ましい変形及び前述の好ましい変形によれば、加工された多糖材料は、乾式レーザー散乱によって測定された、10μm~1mm、好ましくは50μm~500μmの体積平均直径を有する粉末の形態である。非常に好ましくは、加工された多糖材料は加熱なしで可溶性であり、最も好ましくは、実質的に完全に非晶質である。
【0172】
2、3及び6位における、すなわち加工された多糖材料の構成単位の2、3及び6位の水酸基における、好ましくは加工デンプンの無水グルコース単位における、ヒドロキシア
ルキル及びカルボキシアルキル置換基の分布を測定する方法は、それ自体は公知である、25℃でのプロトン核磁気共鳴測定である。
【0173】
分析は、直径5mmのNMR管を使用し、400MHzで動作するBrueker Spectrospin Avance III分光計上で、純度99.8%以上の酸化重水素溶媒、D2O、及び塩化重水素、DCI中で行われても良い。
【0174】
例えば、そのような方法は、アルファ限界デキストリンの製造のための酵素アタックを実施しないNMRスペクトルのシグナルの識別に関して、A.Xu及びP.A.Seibによる1997年のJournal of Cereal Science、vol.25の17~26ページ「Determination of the level and position of substitution in hydroxypropylated starch by high-resolution 1H-NMR
spectroscopy of alpha-limit dextrins」で刊行された方法から適合され得る。
【0175】
多糖材料が1つの化学基のみで加工されている場合、例えば、ヒドロキシプロピル基について実施例7に示されているように、NMR法が適用される。
【0176】
多糖材料が少なくとも2つの化学基で加工されている場合、先の加工のプロトンシグナルから、研究中の加工のプロトンシグナルを差し引くことができるよう、NMR法を各加工後に単離されたサンプルに適用しなければならない。この場合の適切な例は、最初にヒドロキシプロピル化され、次にカルボキシメチル化された、デンプンに関する実施例7に示されている。
【0177】
ヒドロキシアルキル又はカルボキシアルキル基による置換度の決定は、プロトン核磁気共鳴により可能である。例えば、ヒドロキシプロピル置換基については、参照方法EN ISO 11543:2002 Fが使用され得る。
【0178】
産業上の利用:乾式モルタル用の有機補助剤
本発明のプロセスに従って加工されたデンプンは、加工デンプンの分野で建築材料の添加剤として典型的に使用される少なくとも3つのタイプの化学置換基:ヒドロキシプロピル置換基、カルボキシメチル置換基及びトリメタホスフェートとの架橋を有し得、これらの置換基は、低い、例えば、0.3以下の置換度で存在し得る。従来技術の知識とは対照的に、これらの置換基の含有量が低いことは、それにもかかわらず、乾式モルタルに優れた特性を与える乾燥生成物を得ることを可能にする。本発明による加工デンプンを乾式モルタル製剤に組み込むことにより、優れた滑り抵抗及び耐火性を有し、同時に許容可能なオープンタイム及び硬化時間を有する接着剤が得られる。
【0179】
本発明による加工デンプン粉末は、セメントベース又は石膏ベースのいずれかである乾式モルタルにおける有機補助剤として使用され得る。特に、それらは、タイル張り用の接着モルタルで、並びに吹き付けプラスター及びプラスターボードのプラスターでも使用され得る。本発明による加工デンプンは、鉱物結合剤の性質に関して良好な適合性を示す。
【0180】
乾式モルタルは、水と混合されて混合物を形成し、これは、乾式モルタルの成分の水性懸濁液である。この混合物は、それ自体が接着モルタルを構成し、これは、レンガ、床スラブ、タイルなどの建築要素を結合するために使用される。
【0181】
一般に、乾式モルタルは、鉱物結合剤、骨材、及び有機補助剤からなる乾燥粉末の混合物である。
【0182】
鉱物結合剤は、主成分である。それらは接着剤に基本的な機械的強度及び安定性の特性を与える。それらは天然又は人工セメントなどの水硬性結合剤、又は水硬性石灰であってもよい。それらはまた、気中富石灰又は気中貧石灰などの、気中結合剤であってもよい。水硬性結合剤又は気中結合剤の混合物も可能である。
【0183】
骨材は、そのサイズに応じて、フィラー、砂、砕石又は砂利として知られる鉱物粒子である。
【0184】
有機補助剤は、天然又は合成起源の有機材料であり、新鮮な状態のモルタルと硬化状態のモルタルの特性を改善するために、少量で、一般に、乾式モルタルの重量の5%未満で、乾式モルタルに添加される。接着モルタルに関して、補助剤は、レオロジー、作業性、結合力、硬化(setting)、硬化(hardening)、又は適合性の特性を変更し得るか、又は乾燥から保護し得る。硬化状態のモルタルに関して、補助剤は、その機械的強度、耐凍性又は耐水性を改変することができる。
【0185】
石膏ベース又はセメントベースの乾式モルタル用の有機補助剤として、出願人は、本発明によるプロセスによって得られた加工デンプンは、特に、新鮮なモルタル、及びある程度まで硬化したモルタルの結合力を増加させることを可能にすること、及びそれらは良好な増粘力を有し、これは全て、先行技術の加工デンプンの値よりも置換度が低いことを見出した。
【0186】
タイル張り用のセメントベースの接着モルタルの場合、本発明による加工デンプンは、適用される化学的機能化に従って様々な改良を可能にする。従来技術に従って製造されたデンプンと本発明のプロセスによるデンプンとの違いを実証することを可能にする適用試験は、滑り抵抗の測定である。
【0187】
滑り抵抗は一般に、垂直支持体に接着されたタイル張り用タイルの垂直方向のミリメートル単位で表される下向き移動の後にカバーされる距離を、タイルを接着面の上部に置いた後20分間測定することによって評価される。これは、垂直支持体に沿った滑りの問題である。距離が短いほど、滑り抵抗が大きくなる。タイル張り用乾式モルタル組成物において、先行技術のデンプンを本発明による加工デンプンで置き換えることにより、滑りによってカバーされる距離は、少なくとも30%、好ましくは78%減少する。
【0188】
ヒドロキシプロピル化のみからなる化学的機能化の場合、本発明によるプロセスは、62mmを超える滑りを与える従来技術のプロセスによるヒドロキシプロピル化デンプンの半分の置換度で、許容できる滑り抵抗、特に2mm未満の滑りを達成することを可能にする。さらに、ベース多糖材料がジャガイモデンプンとエンドウマメデンプンの混合物である場合、本発明によるプロセスは、エンドウマメデンプンを化学的機能化することに成功し、その結果、この加工デンプンの混合物で調製された新鮮なモルタルは、ジャガイモのみをベースとした加工デンプンと同等の滑り抵抗を与える。
【0189】
化学的機能化がヒドロキシプロピル化とそれに続くカルボキシメチル化からなる場合、本発明のプロセスは、先行技術のプロセスに従って調製されたデンプンと同等の滑り抵抗を得るのに必要とされる置換度を、50%を超えて減少させることを可能にする。
【0190】
最後に、化学的機能化がヒドロキシプロピル化と、それに続くカルボキシメチル化及びトリメタリン酸ナトリウムによる架橋からなる場合、本発明によるプロセスは、驚くべきことに、且つ全く予想外に、許容できる滑り抵抗を与える加工デンプンを得ることを可能にし、一方、従来技術のプロセスに従って加工されたデンプンは、いかなる滑り抵抗も与
えない。
【0191】
高い、一般的には0.5又は1を超える置換度まで置換されている従来技術の加工デンプンと比較すると、本発明のプロセスに従って加工されたデンプンは、より低い、0.3以下、好ましくは0.2以下の置換度を有するという利点を有する。これらの低い置換度は、特にデンプンを加工するために必要な試薬の量を減少させることにより、製造プロセスの環境への影響を低減することを可能にする。
【0192】
それらの結合力のこの改善に加えて、本発明によるデンプンを用いて調製された接着モルタルは、特に作業性、オープンタイム及び硬化時間に関して、従来技術の製品と同等の適用性を有する。
【0193】
糖は硬化時間を遅らせることが知られている。この理由から、モルタル中の有機補助剤としての加工デンプンの使用は、デンプンを含まないモルタルと比較した場合、硬化時間の増加をもたらすが、硬化時間は、許容可能であるためには、24時間未満にとどまらなければならない。本発明のプロセスに従って加工されたデンプンで調製されたモルタルは、効果的に、24時間未満の硬化開始時間を有する。
【0194】
本発明のプロセスに従って加工されたデンプンにより、24時間未満の許容できる硬化時間を保ちながら、0.65~0.75、好ましくは0.68~0.72の混合含水量に対して効率的な接着モルタルを得ることも可能である。
【0195】
プラスターボード用の石膏ベースの乾式モルタルの場合、本発明によるプロセスによって加工されたデンプンは、石膏、加工デンプン及び水からなるプラスターの展延試験によって示されるように、許容できる増粘特性を有する。
【実施例】
【0196】
実施例1:先行技術のプロセスに従った加工デンプンの調製
以下の実施例は、先行技術に従い加工デンプンを調製するためのプロセスを説明する。
【0197】
加工プロセス:
先行技術に従ったプロセス実施のこの実施例は、製造業者Lodige Process Technology社製のDruvatherm DVT10反応器で行われる。これは、ジャケット付きで、水平に配置された円筒型反応器であり、その撹拌装置は、最大1,000,000mPa.sであり得る粘度を持つ流体に適している。撹拌装置は、中央の水平軸に沿って配置されたプラウシェアパドルを備えた主ミキサーと、反応器の内壁近くに配置された回転ナイフを備えた補助ミキサーで構成されている。各ミキサーは、各自調節可能な速度で回転することができる。
【0198】
この実施例で実行される全ての操作では、この撹拌機は、主ミキサーは100rpmに、補助ミキサーは1000rpmに設定されている。
【0199】
第1のステップはデンプンミルクの調製である。これを行うために、2500gの乾燥ジャガイモデンプンを39℃で3750gの水に分散し、725gの硫酸ナトリウム粉末をこのデンプンミルクに溶解し、5%ナトリウム水溶液でミルクをpH8に調製する。
【0200】
第2のステップは、水酸化ナトリウムを触媒とする粒状相ヒドロキシプロピル化であり、置換度は、0.25に達する。800gの5%水酸化ナトリウム水溶液、つまり40gの乾燥水酸化ナトリウムをミルクに導入する。この量の水酸化ナトリウムは、ヒドロキシプロピル化反応の触媒である。反応器内で3バール以下の圧力を維持しながら、260g
の液体プロピレンオキシドを導入する。次に、圧力を調節せずにプロピレンオキシドが完全に消費されるまで、反応媒体を39℃で16時間維持する。このヒドロキシプロピル化の間、デンプンは、硫酸ナトリウムの存在によって、ジャガイモデンプンの糊化温度(約65℃)未満でその粒状構造を保つ。
【0201】
第3のステップは、ヒドロキシプロピル化デンプンの調理、つまり糊化であり、デンプン接着剤を得る。反応器の温度を80℃まで昇温し、60分間維持して、安定した粘度の均質な接着剤を得る。
【0202】
デンプン加工の第4のステップは、水酸化ナトリウムを触媒とするカルボキシメチル化である。803gの50%水酸化ナトリウム水溶液、つまり401.5gの乾燥水酸化ナトリウムをデンプン接着剤に導入する。この量の水酸化ナトリウムは、カルボキシメチル化の触媒である。900gの乾燥モノクロロ酢酸ナトリウムを一度にデンプン接着剤に導入する。反応器を80℃で5時間撹拌して、反応終了に達する。
【0203】
糊化及びカルボキシメチル化ヒドロキシプロピル化デンプンの加工の次のステップ、つまりこのプロセスの第5ステップは、前述の反応中に導入された過剰の水酸化ナトリウムを触媒とする架橋である。架橋剤はトリメタリン酸ナトリウムである。この塩2.5gを乾燥状体で反応媒体に導入する。反応器は、80℃で3時間撹拌する。
【0204】
乾燥プロトコル:
次に、3つの化学置換の完了時に得られた加工デンプンゲルを7.5rpmの回転速度で、シリンダーを10バールの蒸気で90~100℃に加熱し、製造業者Andritz
Gouda社製の乾燥ドラムに通過させることにより固体に変換する。このようにして、固形デンプンの薄片が得られる。これらの薄片は、製造業者Retsch社製の2μmの格子を装備したハンマーミルで、1500rpmで連続的に粉砕され、次に、50Hzに設定されたSeptuブランドの超微細ミルで、3000rpmの回転速度で粉砕される。この結果、白色微粉末になる。この粉末の体積平均直径は37μmである。
【0205】
デンプンの置換度は、0.25のヒドロキシプロピル官能基、及び0.36のカルボキシメチル官能基、並びに1000ppmのトリメタリン酸塩である。このデンプンはEDT4と呼ばれる。
【0206】
先行技術に従う他の3つのデンプンは、部分的に先行技術のプロセスに従い調製される。
【0207】
2つのデンプンは、ヒドロキシプロピル化、糊化、及びカルボキシメチル化を実施することによって調製されるが、架橋は行われない。EDT3は、260gのプロピレンオキシド及び300gのモノクロロ酢酸ナトリウムを使用して、ヒドロキシプロピル置換度0.2及びカルボキシメチル置換度0.1で調製される。EDT2は、910gのプロピレンオキシド及び600gのモノクロロ酢酸ナトリウムを使用して、ヒドロキシプロピル置換度0.7、カルボキシメチル置換度0.2で調製される。
【0208】
デンプンは、EDT1と表示され、置換度0.5を達成するように650gのプロピレンオキシドでヒドロキシプロピル化のみを実施して調製される。
【0209】
【0210】
実施例2:本発明のプロセスに従った加工デンプンの調製
以下の実施例は、本発明に従い加工デンプンを調製するためのプロセスを説明する。
【0211】
加工プロセス:
本発明に従ったプロセス実施のこの実施例は、先行技術に従いプロセスの実施例1につき使用される反応器と同一の製造業者Lodige Process Technology社製のDruvatherm DVT10反応器で行われる。
【0212】
第1に、デンプンゲルは、水酸化ナトリウムの存在下で熱の影響下で天然デンプンの糊化を実施することによって調製される。これを行うには、主ミキサーでは100rpm、補助ミキサーでは1000rpmで撹拌しながら、2500gの乾燥ジャガイモデンプンを20℃で5833gの水に分散し、反応媒体の温度を約10℃/時間で約80℃まで徐々に上げる。この加熱中、温度が65℃に達した際には、主ミキサーの撹拌速度を200rpm、補助ミキサーの撹拌速度を2000rpmに上げ、その後、デンプン粒子の分割を容易にするために、80gの50%水酸化ナトリウム水溶液を5分間かけて、デンプン懸濁液、つまり40gの乾燥水酸化ナトリウムに加える。80℃の温度に達した後、デンプンゲルは、均質なゲルを得るために、この温度で1時間撹拌を続ける。得られたデンプンゲルは、全体又は分割された粒子を含まない:デンプンは、親水コロイドの形でその全体に分散されている。
【0213】
第2に、以前に使用された撹拌パラメーターが維持され、化学的加工が実施される。つまり、主ミキサーの速度は200rpm、補助ミキサーの速度は2000rpmである。
【0214】
糊化されたデンプンの最初の化学的加工は、水酸化ナトリウムを触媒とするヒドロキシプロピル化である。水酸化ナトリウムの追加量は添加されない。反応器内で3バールの圧力を維持しながら、294gの液体プロピレンオキシドを導入する。次に、プロピレンオキシドが完全に消費されるまで、反応媒体を80℃で4時間維持する。このヒドロキシプロピル化の完了時に、ROQ1と呼ばれるデンプンは、以下の乾燥プロトコルに従って固形で分離し得る。
【0215】
第2の加工は、水酸化ナトリウムを触媒とするカルボキシメチル化である。214gの50%水酸化ナトリウム水溶液、つまり107gの乾燥水酸化ナトリウムをデンプン接着剤に導入する。この量の水酸化ナトリウムは、カルボキシメチル化の触媒である。240
gの乾燥モノクロロ酢酸ナトリウムを一度にデンプン接着剤に導入する。反応器を80℃で5時間撹拌して、反応終了に達する。このカルボキシメチル化の完了時に、ROQ2と呼ばれるデンプンは、以下の乾燥プロトコルに従って固形で調製される。
【0216】
第3の加工ステップは、前述の反応中に導入された過剰の水酸化ナトリウムを触媒とする架橋である。架橋剤はトリメタリン酸ナトリウムである。この塩2.5gを乾燥状体で反応媒体に導入する。反応器は、80℃で3時間撹拌する。加工デンプンROQ3は、以下の乾燥プロトコルに従って固形で調製される。
【0217】
加工デンプンROQ4は、今回は50/50の比率のジャガイモデンプン/エンドウマメデンプン混合物を使用して、上記のROQ1と同様の加工プロトコルに従い調製される。1250gのジャガイモデンプンを1250gのエンドウマメデンプンと混合して、合計2500gのデンプンを作る。
【0218】
加工デンプンROQ5は、今回は50/50の比率のジャガイモデンプン/エンドウマメデンプン混合物を使用して、上記のROQ3と同様の加工プロトコルに従い調製される。1250gのジャガイモデンプンを1250gのエンドウマメデンプンと混合して、合計2500gのデンプンを作る。
【0219】
乾燥プロトコル:
実施例1の加工デンプンに関して、3つの化学置換の完了時に得られた加工デンプンゲルは、次に、乾燥ドラムでの乾燥及び連続粉砕の実施例1で実行されたものと同じ操作により固体に変換され、結果として、白色微粉末となる。この粉末の体積平均直径は、35μmである。
【0220】
デンプンの置換度は、0.2のヒドロキシプロピル官能基、及び0.1のカルボキシメチル官能基、並びに1000ppmのトリメタリン酸塩である。
【0221】
【0222】
実施例3:接着モルタルの滑り抵抗及び硬化時間
規格NF EN 12004-2:2017-04によれば、タイル接着剤は、モルタルを区別するために出願人が選択した組成物の乾式モルタルから始めて、第6項(paragraph 6)の指示に従い調製される。これらの接着剤は、セラミックタイルを10cm×10cmの大きさで接着するために使用され、同規格の8.2項の指示に従い、その滑り抵抗を比較する。
【0223】
乾式モルタルの調製:
乾式モルタルの組成物は、先行技術又は本発明に従い、Equiomから供給されたCEM I Portland 52.5N CP2セメント40部、Societe Nouvelle du Littoralから供給された0.1~0.4μmの大きさの砂59部、Wackerから供給された再分散可能な粉末Vinnapas 5010N、0.50部、Dowから供給されたセルロースエーテルWalocel MKX 6000、0.50部、及び加工デンプン、0.05部である。この組成物を満たす乾式モルタル847.9gの調製を可能にする産物の質量を表3に示す。全ての成分は乾燥粉末の形態である。
【0224】
これらの粉末の必要な質量を、製造業者Euromatest Sintco社製のL01.M03遊星ミキサーで、ローター速度が140rpm及び遊星運動が62rpmの撹拌速度で、15分間混合する。
【0225】
【0226】
0.1~0.4μmの砂は、直径が0.1μm~0.4μmの範囲の粒子で構成され、その粒子サイズがD10は171μm、D50は270μm、D90は418μm及びD4.3は284μmであると特徴付けられる。
【0227】
モルタル接着剤の調製(混合作業):
タイルの接着剤は、乾式モルタルから調製され、セメントの質量に対する水の質量の比が0.7になるように接着される。このようにして、表3の組成物に従い調製された237.3gの水及び847.9gの乾式モルタルは、規格NF EN 120004-2の6項の手順に従い混合され、唯一の違いは、その規格で想定されている2回でなく、1回の混合操作のみが実施されることである。
【0228】
このようにして、規格EN 196-1:2016に従い、製造業者Euromate
st Sintco社製のL01.M03自動モルタルミキサーのタンクにその質量の水が注がれる。次に、その質量の乾式モルタルを水に分散させ、次に、285±10rpmの回転速度及び125±10rpmの遊星運動で1分間混合する。この単回の混合操作の完了時に、接着剤はすぐに滑り抵抗試験に使用される。
【0229】
滑り抵抗の測定方法
材料及び装置は、規格NF EN 12004-2:2017-04のものである。この接着モルタルは実施例3に従い調製される。手順は、上記規格の第8.2.3項の手順である。
【0230】
この手順を実施すると、接着剤の単位面積あたりの使用量は、コンクリート1m2あたり2.5~3.5kgの接着剤となる。
【0231】
硬化時間の測定方法
硬化時間の測定方法は、規格NF EN 480-2:2006-11に記載されている方法で、直径1.13mm、長さ50mmのビカット針、及び底辺直径が80mm、天面直径が70mm及び高さが40mmのビカット円錐台型(Vicat frustoconical mold)を備えた製造業者Acmel社製のPA8自動セッティングメーターを使用した。その規格とは異なり、硬化時間試験の調製と実施に必要な全てのステップは、23℃±2℃の大気雰囲気及び50%±5%の相対湿度の大気雰囲気で実行される。
【0232】
結果:
存在するデンプンの性質が異なる乾式モルタルから調製された様々な接着剤について測定された滑り値及び硬化開始時間を表4に示す。
【0233】
【0234】
ヒドロキシプロピル化のみを実施した場合(G1、G5、及びG8の試験)、滑り抵抗の改善は同様に大きい。加工デンプンEDT 1は62.7mmの滑り値を与えるのに対し、加工デンプンROQ1及びROQ4は、1.7mmの滑り値を与える。このような低い滑り値は6.4mmの滑り値を有する市場参考製品であるCasucol 301の値よりもさらに小さい。
【0235】
3つの化学置換が実施される場合(G4、G7及びG9の試験)、先行技術のプロセスに相対する本発明に従ったプロセスの効果は明白である:加工デンプンEDT4は150mmの最大滑り値をもたらし、これは許容できないが、加工デンプンROQ3及びROQ5はどちらも4.5mm及び4.2mmの滑り値をもたらし、これらは完全に許容できる。
【0236】
実施例4:石膏ベースの吹き付けモルタル
本発明に従い加工デンプンは、表5による石膏ベースの吹き付けモルタル製剤中の結合有機補助剤として使用し得る。
【0237】
【0238】
Dislab(登録商標)が販売するParisのベータプラスターは、ベータ硫酸カルシウム半水和物60%、無水石膏II20%、及び硫酸カルシウム二水和物10%で構成される。マルバーンマスターサイザー粒子サイズ分析装置上で乾式レーザー散乱粒子サイズ分析によって測定されるように、粒子サイズは、D10は2.9μm、D50は24.5μm及びD90は99μmであると特徴付けられる微粉末である。
【0239】
事前に23℃±2℃、及び相対湿度50%±5%の大気雰囲気下で安定化させた製剤の全成分を、再密閉可能な1リットルのガラス瓶に入れて秤量する。
【0240】
この粉末混合物は、製造業者Euromatest Sintco社製のL01.M03遊星ミキサーで、ローター速度が140rpm及び遊星運動が62rpmの撹拌速度で15分間均質化する。このようにして、乾式吹き付けモルタルが得られる。
【0241】
23℃±2℃の飲料水400gを、規格NF EN 196-1に従い、Euromatest Sintcoの別のL01.M03自動モルタルミキサーに入れる。682.85gの全乾式吹き付けモルタルを撹拌せずに水に注ぐ。この添加直後に、ミキサーの撹拌を低速で10秒間、その後、高速で50秒間開始する。この混合に続いて、モルタルをすぐにコンクリートの壁に吹き付ける。モルタル層はコンクリートの支持体に正しく接着し、崩壊しない。
【0242】
実施例5:プラスターボード用プラスターの増粘剤
本発明のプロセスに従い加工されたデンプンは、プラスターボード用プラスターに対して増粘特性を有する。本発明による様々な加工デンプンの増粘特性は、“Liants-platres et enduits a base de platre pour
le batiment-Partie 2:methodes d’essais[Binding plasters and plaster-based rende
rings for construction-Part 2:test methods]”と題された規格NF EN 13279-2(2014年2月改訂)の「Dispersion method」と題された第4.3.2項に従い、ビカット散布測定に従い比較される。
【0243】
湿式プラスターの調製:
本発明による加工デンプンは、プラスターボード用の湿式プラスターを形成するための結合有機補助剤として使用し得る。表6の製剤に従って、本発明のプロセスに従い加工されたいくつかのデンプンが試験される。
【0244】
【0245】
湿式プラスターは、製造業者Euromatest Sintco社製のL01.M03遊星ミキサーで、事前に均質化された成分の乾燥混合物の全量を、ローター速度が140rpm、及び遊星運動が62rpmの撹拌速度で15分間、大量の水に注ぎ、塊のない均質なペーストを得るために、8の字運動で45秒間泡立て器を使用して混合することにより調製される。混合の完了時には、湿式プラスターは展延測定に携わる。
【0246】
展延測定:
底辺直径75mmのビカット円錐台形リングに、表6の製剤に従い湿式プラスターの調製物を充填し、少しの気泡も混入しないようにプラスターをゆっくりとリングに注ぎ、ブレードで、自由表面を平らにする。この充填操作には、通常約15秒かかる。充填が完了するとすぐに、ビカットリングが急速に垂直に持ち上げられて、プラスターが放出され、その後、それが支持ガラスプレート上に展延され、湿式プラスターのたまりを形成する。リングを外してから15秒後、展延は通常安定し、湿式プラスターの水たまりの平均最大直径を測定する。
【0247】
【0248】
デンプンがない場合、又はRoquette Freres社製の天然コーンスターチAmidon M-B-065-Rを使用した場合、達成された展延は170mmを超え、これは、湿式プラスターの増粘が全くないことを示す。
【0249】
ジャガイモデンプンを使用して加工されたデンプンに関しては、デンプンROQ1は展延値78mm、すなわち、ビカットリングベースの直径よりわずか3mm大きい値を与える。これは、本発明によるプロセスの手段により加工されたデンプンであり、唯一の化学的加工は、DSが0.2のヒドロキシプロピル化であり、湿式プラスターの強力な増粘を可能にすることを示している。DSが0.1のカルボキシメチル化(デンプンROQ2)を追加すると、展延値は138mmを与え、増粘効果の低下を示す。これは、試験Aによるデンプンの粘度が1300mPa.sに低下したことによる可能性がある。驚くべきことに、0.1のDSでカルボキシメチル化を追加し、1000ppmで、トリメタリン酸ナトリウムで架橋すると(デンプンROQ3)、ヒドロキシプロピル化のみのデンプンROQ1の増粘力を取り戻すことができる。しかし、ROQ3デンプン自体の試験Aに従った粘度がROQ2と比較して500mPa.sにさらに低下したことから、これはなおさら驚くことである。このようにして、増粘力の回復は、加工デンプンの粘度によるもので
はなく、架橋によって設けられた空間構造のおかげで、再び可能になった相互作用によるものである。
【0250】
エンドウマメデンプンを使用して加工されたデンプンに関して、0.2のDSでヒドロキシプロピル化によってのみ置換されたデンプンROQ8は、試験Aに従い23,300mPa.sの高粘度にもかかわらず、157mmの高い展延値をもたらす。この展延値は、DSが0.1のカルボキシメチル化(デンプンROQ9)を追加することにより、134mmに減少する。ただし、これらの2つのデンプンの場合、明らかに湿式プラスターに増粘効果は存在しない。驚くべきことに、1000ppmのトリメタホスフェートでさらに架橋されたデンプンROQ10の場合、展延値は実質的にビカットリングの直径に等しく、湿式プラスターが実質的に広がっておらず、デンプンROQ10の増粘力は高いことを示す。試験Aに従いデンプンROQ10の粘度はデンプンROQ8及びROQ9の粘度よりも低いことから、これはなおさら驚くことである。エンドウマメデンプンの場合、このようにして短距離架橋により、3倍加工デンプンの増粘力を明らかにすることができた。短距離架橋により、ヒドロキシプロピル基の水素相互作用を効率的にする空間構造を与えられた。
【0251】
実施例6:プラスターボードのコア補強
この実施例は、実施例5の石膏ベースのプラスター製剤から調製されたプラスターボードについての本発明に従ったデンプンによる「コア」機械的強度の増加を示す(表6)。
【0252】
プラスターボードのコアの機械的強度を特徴付ける1つの方法は、Instron(登録商標)9566リファレンスレオメーターなどで、特定の深さまで点を貫通させてニュートン(N)で表される必要な力を測定することである。この作業方法によれば、出願人は、「底部が円形の錐体」タイプの幾何学点が20℃の温度で10mm/分の速度で5mmのプラスターボードを貫通するのに必要な力を測定した。点の寸法は:底辺が円形の直径は4mm、高さは2.5cm、頂点の厚さは1mmである。
【0253】
本発明によるデンプン、すなわちデンプンROQ1及びROQ3で調製されたプラスターボードの硬度は、デンプンなし、天然デンプン(コーンスターチ、エンドウマメデンプン)又はアルファ化デンプン(Roquetteの市販デンプンM-ST310)で調製されたプラスターボードの硬度とこのようにして比較される。
【0254】
プラスターボードの調製:
長さ×幅×厚さの寸法が15cm×7.5cm×1cmに等しいプラスターボードをそれぞれ以下のプロトコルに従い準備する。デンプンを添加する場合、1種類のデンプンのみを添加する。デンプンの混合物はなし。
【0255】
湿式プラスターペーストを、実施例5と同等のプロトコルに従って、加工を加えて調製する:0.33gの促進剤を石膏及びデンプンの乾燥混合物に添加する。促進剤は、プラスターからなる粉末であり、ボード用原紙表面がない市販のプラスターボードから得られ、手作業でモルタルを粉砕し、110℃で1時間、オーブンで乾燥される。
【0256】
調製が完了したらすぐに、約510.67gのペーストを全て長方形のスチール金型に配置した長方形の「プラスターボード」ボード用原紙に余分に注ぎ、金型の表面全体(15×7.5cm)を覆い、プラスチック板の上で組立体を静置する。この「余分」という用語は、プラスターペーストの質量が、金型が受け入れることができる質量より大きいことを意味し、これにより利用可能な体積全てをプラスターペーストで満たすことを確実にする。金型の底にある長方形のボード用原紙がプラスターボードの下面を構成する。プラスターの金型への流し込みが完了したら、長方形のボード用原紙(15×7.5cm)を
ペーストの上に置き、長方形のボード用原紙の凹部をペーストに接触させる。この2番目のボード用原紙はプラスターボードの上面を構成する。次に、この長方形のボード用原紙の上に2番目のプラスチック板を配置して、金型表面全体を覆う。
【0257】
次に、上部のプラスチック板に10kgの塊を載せ、上部のボード用原紙表面を5分間均一に覆うようにする。この塊の塗布中に、過剰質量のプラスターペーストが側面から溢れ出す。次に、塊を取り除き、その組立体をそのままにして、水平位置に4分間静置し、その後、プラスターボードを金型から剥がし、長い方の端を垂直位置にして10分間静置する。次に、その板を、端を立て、水で飽和したオーブンで、180℃で20分間乾燥させ、次に水で飽和していない別のオーブンで110℃で20分間乾燥させ、最後に水で飽和していないオーブンで45℃12時間乾燥させる。このようにして得られたプラスターボードは、23℃±2℃、湿度50%±5%の室内条件下で少なくとも2日間安定化される。
【0258】
プラスターボードの高度測定のプロトコル:
各プラスターボードの硬度は、Instron(登録商標)9566機を使用して、10mm/分の速度で深さ5mmまでのパンチの貫通抵抗法によって測定される。この「5mm」の硬度は、ニュートン(N)で表される。各プレートについて、プラスターボードの不均質性を考慮に入れるために、
図1に従いプラスターボードの表面全体にわたり5回の貫通測定が行われる。5mmの硬度はこれらの5回の測定の平均値であり、標準偏差は情報のために与えられる(単位はニュートン)。
【0259】
硬度5mmの結果:
デンプンを含まないプラスターペーストで調製されたプラスターボードと比較して、結果(表8及び
図2)は、プラスターペーストへの天然デンプンの添加により約7%、及びRoquette M-ST310アルファ化デンプンの添加により約10%の硬度の増加を示す。硬度の増加は、本発明に従いデンプンROQ1及びROQ3で約26%に達する。したがって、本発明によるデンプンROQ1及びROQ3は、プラスターボードの硬度を増加させるのに効率的であり、すなわち、それらは、プラスターボードのコア機械的強度を増加させることを可能にする。
【0260】
【0261】
実施例7:本発明に従いプロトンNMRによるデンプンの特徴付け
この実施例では、2つの連続した化学的加工を受けたデンプンのプロトンNMR測定を活用する方法について説明する。第1段階は、ヒドロキシプロピル化であり、そのサンプルは、「Ech_HP」と表示され分析される。次に、第2段階は、カルボキシメチル化であり、そのサンプルは「Ech_HP+CM」と表示され、ヒドロキシプロピル化されたサンプル「Ech_HP」の前述の分析法、特に、ヒドロキシプロピル化のためにH1プロトンのシグナルを取り去ることにより分析される。
【0262】
本方法は、1997年に発行されたJournal of Cereal Science vol.25の17~26ページに掲載されたA.Xu及びP.A.Seibによる「Determination of the level and position of substitution in hydroxypropylated starch by high-resolution 1H-NMR spectroscopy of alpha-limit dextrins」の文献に開示された方法に適合する。
【0263】
サンプルEch_HPのヒドロキシプロピル基の位置の同定及び定量化のためのプロトンNMR法:
この方法は、ヒドロキシプロピルのみで加工されたデンプンに有効である。
【0264】
分析は、直径5mmのNMR管を使用し、400MHzで動作するBrueker Spectrospin Avance III分光計上で、25℃、純度99.8%以上の酸化重水素溶媒、D2O、及び塩化重水素、DCI、を用いて、プロトン核磁気共鳴(NMR)により実施される。
【0265】
分析するサンプルの溶液は、NMR管内で、750マイクロリットルのD2O+100マイクロリットルの2N DClに、約15mgを1mg以内に希釈することにより調整する。2N DClは、酸化重水素中の2倍規定濃度の塩化重水素の溶液である。このサンプルを溶解が完了し透明になるまで沸騰水浴中で加熱し、液体溶液を得る。NMR管を
室温に戻す。
【0266】
次に、プロトン核磁気共鳴スペクトルを25℃、400MHzで得る。
【0267】
Xu及びSeibによる文献を参照すると、無水グルコース(AGUと表示)H1プロトンは次のように識別される:
- 5.61ppm及び4.64ppmの場合:アルファ還元及びベータ還元末端AGUのH1プロトン、
- 4.95ppmの場合:アルファ(1,6)結合AGUのH1プロトン、
- 5.67ppmの場合:2位のヒドロキシルがエーテル化されるAGUのH1プロトン;表面積はS_OR2_HPとして表示される、
- 5.52ppmの場合:3位のヒドロキシルがエーテル化されるAGUのH1プロトン;表面積はS_OR3_HPとして表示される、
- 5.40ppmの場合:アルファ(1,4)結合したAGUのH1プロトン及び6位のヒドロキシルがエーテル化されるAGUのH1プロトン
- 1.15ppmの場合:この二重線は、ヒドロキシプロピル基に結合した全てのメチルプロトンを表す;表面積はS_CH3_HPとして表示される、
【0268】
Xu及びSeibで規定されるように、1つのヒドロキシプロピル基と別のヒドロキシプロピル基とのエーテル化は無視できると考えられる。100AGUあたりの結合したヒドロキシプロピルの数は、表面積S_CH3_HPを3で割った値と同等である。
【0269】
6位のヒドロキシルがエーテル化されるAGUのH1プロトンの数を表す表面積S_OR6は、次のように計算される:S_OR6_HP=(S_CH3_HP)/3-S_OR2_HP-S_OR6_HP。
【0270】
S_OR_HP_totとして表示される、ヒドロキシルがエーテル化されるプロトンH1のシグナルの表面積の合計が計算される:S_OR_HP_tot=S_OR2_HP+S_OR3_HP+S_OR6_HP。
【0271】
次に、AGUのパーセンテージとしての3つの異なるヒドロキシプロピルエーテル(HPと表示)の比率が計算される:
- 2位でHP置換されたAGUの%=100xS_OR2_HP/S_OR_HP_tot
- 3位でHP置換されたAGUの%=100xS_OR3_HP/S_OR_HP_tot
- 6位でHP置換のされたAGUの%=100xS_OR6_HP/S_OR_HP_tot
【0272】
サンプルEch_HP+CMのカルボキシ基の位置の同定及び定量化のためのプロトンNMR法:
この方法は、最初にヒドロキシプロピルで加工され、次にカルボキシメチルで加工されたデンプンに有効である。ヒドロキシプロピル化の後、カルボキシメチル化の前のそのNMRスペクトルは、前述の方法(Ech_HPの方法)に従い分析された。
【0273】
分析は、直径5mmのNMR管を使用し、400MHzで動作するBruekerSpectrospin Avance III分光計上で、25℃、純度99.8%以上の酸化重水素溶媒、D2O、及び塩化重水素、DCI、を用いて、プロトン核磁気共鳴(NMR)により実施される。
【0274】
分析するサンプルの溶液は、NMR管内で、750マイクロリットルのD2O+100マイクロリットルの2N DClに、約15mgを1mg以内に希釈することにより調整する。2N DClは、酸化重水素中の2倍規定濃度の塩化重水素の溶液である。このサンプルを溶解が完了し透明になるまで沸騰水浴中で加熱し、液体溶液を得る。NMR管は室温に戻る。
【0275】
次に、プロトン核磁気共鳴スペクトルを25℃、400MHzで得る。
【0276】
Xu及びSeibによる文献を参照すると、無水グルコース(AGUと表示)H1プロトンは次のように識別される:
Xu及びSeibによる文献を参照すると、無水グルコース(AGUと表示)H1プロトンは次のように識別される:
- 5.61ppm及び4.64ppmの場合:アルファ還元及びベータ還元末端AGUのH1プロトン、
- 4.95ppmの場合:アルファ(1,6)結合AGUのH1プロトン、
- 5.67ppmの場合:2位のヒドロキシルがエーテル化されるAGUのH1プロトン;表面積はS_OR2_HP+CMとして表示される、
- 5.52ppmの場合:3位のヒドロキシルがエーテル化されるAGUのH1プロトン;表面積はS_OR3_HP+CMとして表示される、
- 5.40ppmの場合:アルファ(1,4)結合したAGUのH1プロトン及び、6位のヒドロキシルがエーテル化されるAGUのH1プロトン
- 1.15ppmの場合:この二重線は、ヒドロキシプロピル基に結合した全てのメチルプロトンを表す;表面積はS_CH3_HPとして表示される、
- 4.22ppmの場合:この二重線は、カルボキシメチル基に結合した全てのプロトンを表す;表面積はS_CH2_CMとして表示される、
【0277】
100AGUあたりの結合したヒドロキシプロピルの数は、表面積S_CH3_HPを3で割った値と同等である。100AGUあたりの結合したカルボキシメチルの数は、表面積S_CH2_CMを2で割った値と同等である。
【0278】
ヒドロキシプロピル又はカルボキシメチルに関係なく、2位、3位及び6位の全てのエーテルを表すシグナルOR2及びOR3は統合される。各位置につきカルボキシメチル化エーテルの量を確定するために、ヒドロキシプロピル化Ech_HPのみであるサンプルの分析について得られた結果が考慮される。このようにして、ヒドロキシルがカルボキシメチル化されるAGUのH1プロトンに対応する表面積は、次のように計算される。
- 2位の場合:S_OR2_CM=S_OR2_HP+CM-S_OR2_HP
- 3位の場合:S_OR3_CM=S_OR3_HP+CM-S_OR3_HP
- 6位の場合:S_OR6_CM=(S_CH3_HP)/3+(S_CH2_CM)/2-S_OR2_CM-S_OR3_CM-S_OR6_HP
【0279】
S_OR_CM_totとして表示される、ヒドロキシルがエーテル化されるプロトンH1のシグナルの表面積の合計が計算される:S_OR_CM_tot=S_OR2_CM+S_OR3_CM+S_OR6_CM。
【0280】
次に、AGUのパーセンテージとしての3つの異なるカルボキシメチルエーテル(CMと表示)の比率が計算される。
- 2位でCM置換されたAGUの%=100xS_OR2_CM/S_OR_CM_tot
- 3位でCM置換されたAGUの%=100xS_OR3_CM/S_OR_CM_tot
- 6位でCM置換されたAGUの%=100xS_OR6_CM/S_OR_CM_tot
【0281】
比較結果:
先行技術のプロセスによって(実施例1など)ヒドロキシプロピル化によりDS0.26(EDT5と表示)に加工されたデンプンを、本発明に従ったプロセス(実施例2など)でヒドロキシプロピル化によりDS0.20(ROQ1と表示)又はDS0.57(ROQ11と表示)に調製したデンプンと比較する。HPサンプル上の置換基の位置を決定するために、プロトンNMR法を用いて、3つの加工デンプンを分析した。2位、3位及び6位に結合したヒドロキシプロピル基のパーセンテージがこのようにして定量化された(表9)。
【0282】
本発明によるプロセスにより加工されたデンプンは、先行技術のプロセスに従い加工されたデンプンの分布とは全く異なるヒドロキシプロピル置換基の分布を有することが見出される。すなわち、
- 2位の置換率は、少なくとも6%低く、
- 3位及び6位の置換率は、少なくとも3%高い。
【0283】
【0284】
先行技術のプロセスにより(実施例1のように)ヒドロキシプロピル化によりDS0.26(前述のEDT5)に加工されたデンプンを、次にカルボキシメチル化によりDS0.15(EDT6と表示)に加工した。
【0285】
本発明に従ったプロセスにより(実施例2のように)ヒドロキシプロピル化によりDS0.20(前述のROQ1)に調製されたデンプンを、次にカルボキシメチル化によりDS0.27(ROQ12と表示)に加工した。
【0286】
HP+CMサンプル上の置換基の位置を決定するために、プロトンNMR法を用いて、2つの加工デンプンを分析した。2位、3位及び6位に結合したヒドロキシプロピル基のパーセンテージがこのようにして定量化された(表10)。
【0287】
本発明によるプロセスにより加工されたデンプンは、先行技術のプロセスに従い加工されたデンプンの分布とは全く異なるカルボキシメチル置換基の分布を有することが見出される。すなわち、
- 2位の置換率は、少なくとも1.5%高く、
- 3位の置換率は、少なくとも2%低く、
- 6位の置換率は、少なくとも4%高い。
【0288】