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特許7366043炭化水素油の水素化処理触媒、その製造方法、および炭化水素油の水素化処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】炭化水素油の水素化処理触媒、その製造方法、および炭化水素油の水素化処理方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/19 20060101AFI20231013BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20231013BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20231013BHJP
   C10G 45/08 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
B01J27/19 M
B01J37/08
B01J37/04 102
C10G45/08 Z
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020548337
(86)(22)【出願日】2019-09-06
(86)【国際出願番号】 JP2019035227
(87)【国際公開番号】W WO2020066555
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-04-08
(31)【優先権主張番号】P 2018184889
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松元 雄介
(72)【発明者】
【氏名】小林 みどり
(72)【発明者】
【氏名】石原 久也
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-196550(JP,A)
【文献】特開2016-203074(JP,A)
【文献】特開2015-157248(JP,A)
【文献】特開2007-308563(JP,A)
【文献】特開2005-254141(JP,A)
【文献】国際公開第2017/187187(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C10G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナを主成分とする無機複合酸化物担体、および前記担体上に担持された活性金属成分を含み、
前記活性金属成分が、活性金属種として、モリブデン及びタングステンのうちの少なくとも一方である第1の金属、ならびにコバルト及びニッケルのうちの少なくとも一方である第2の金属を含み、
250℃におけるピリジン脱着およびBET一点法により測定される単位表面積あたりのルイス酸量およびブレンステッド酸量が、それぞれ0.80μmol/m2以上および0.03μmol/m2以下である
炭化水素油の水素化処理触媒。
【請求項2】
前記第1の金属の含有量が、酸化物換算で15~22質量%であり、第2の金属の含有量が、酸化物換算で2~7質量%である請求項1に記載の炭化水素油の水素化処理触媒。
【請求項3】
炭素を2.0質量%未満の量で含む請求項1または2に記載の炭化水素油の水素化処理触媒。
【請求項4】
比表面積が200~350m2/gである請求項1~3のいずれか一項に記載の炭化水素油の水素化処理触媒。
【請求項5】
水銀圧入法で測定される平均細孔径が50~100Åである請求項1~4のいずれか一項に記載の炭化水素油の水素化処理触媒。
【請求項6】
空気雰囲気中で570℃で2時間熱処理した際に減少する質量が5.0質量%以下である請求項1~5のいずれか一項に記載の炭化水素油の水素化処理触媒。
【請求項7】
硫化処理後の一酸化窒素吸着量が8.5ml/g以上である請求項1~6のいずれか一項に記載の炭化水素油の水素化処理触媒。
【請求項8】
前記無機複合酸化物担体が、前記担体の量を100質量%とすると、ケイ素およびリンを、酸化物換算でそれぞれ0.5~8.0質量%および1.0~5.0質量%含む請求項1~7のいずれか一項に記載の炭化水素油の水素化処理触媒。
【請求項9】
前記活性金属成分がリンを含む請求項8に記載の炭化水素油の水素化処理触媒。
【請求項10】
前記触媒中に含まれるリンのうちの、前記担体に含まれるリンの割合Psに対する、前記活性金属成分に含まれるリンの割合Paの比率であるPa/Psが、0.2~3.0の範囲にある請求項9に記載の炭化水素油の水素化処理触媒。
【請求項11】
前記活性金属成分中に含まれるリンの前記第1の金属に対する割合が、酸化物の質量に換算して0.02~0.15の範囲にある請求項9または10に記載の炭化水素油の水素化処理触媒。
【請求項12】
前記無機複合酸化物担体が、前記担体の量を100質量%とすると、チタンを酸化物換算で5.0質量%以下、マグネシウムを酸化物換算で5.0質量%以下、またはホウ素を酸化物換算で5.0質量%以下の量で含む請求項1~11のいずれか一項に記載の炭化水素油の水素化処理触媒。
【請求項13】
前記第2の金属の前記第1の金属に対する割合が、酸化物の質量に換算して0.15~0.40の範囲にある請求項1~12のいずれか一項に記載の炭化水素油の水素化処理触媒。
【請求項14】
アルミナを主成分とし、ケイ素およびリンを、酸化物換算でそれぞれ0.5~8.0質量%および1.0~5.0質量%含有する無機複合酸化物担体を準備する工程(1)と、
モリブデン及びタングステンのうちの少なくとも一方である第1の金属の原料と、コバルト及びニッケルのうちの少なくとも一方である第2の金属の原料と、溶媒と、リン成分と、有機酸とを含む含浸液を調製し、前記含浸液を前記無機複合酸化物担体に含浸させる工程(2)と、
前記工程(2)により得られた、前記含浸液が含浸された無機複合酸化物担体を乾燥させ、次いで焼成することにより、前記無機複合酸化物担体および前記担体上に担持された活性金属成分を含む水素化処理触媒を得る工程(3)と
を有し、
前記工程(2)で、前記触媒中に含まれるリンのうちの、前記担体に含まれるリンの割合Psに対する、前記活性金属成分に含まれるリンの割合Paの比率であるPa/Psが、0.2~1.73の範囲となるように、前記含浸液を調製し前記担体に含浸させる、
炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
【請求項15】
前記無機複合酸化物担体を準備する工程(1)が、
アルミニウム塩の塩基性水溶液にシリカ源およびリン成分を添加して塩基性アルミニウム塩を含む塩基性混合水溶液を調製し、前記混合水溶液にアルミニウム塩の酸性水溶液を添加する工程(a)と、
工程(a)で得られた無機複合酸化物水和物スラリーを熟成する第1の熟成工程(b)と、
工程(b)で得られた熟成された無機複合酸化物水和物スラリーを洗浄する工程(c)と、
工程(c)で得られた洗浄された無機複合酸化物水和物スラリーを熟成する第2の熟成工程(d)と、
工程(d)で得られた熟成された無機複合酸化物水和物スラリーを捏和、濃縮し、得られた捏和物を成型する工程(e)と、
工程(e)で得られた成型体を乾燥、焼成する工程(f)と
を有する請求項14に記載の水素化処理触媒の製造方法。
【請求項16】
前記第2の熟成工程(d)において、工程(c)で得られた洗浄された無機複合酸化物水和物スラリーを、アンモニア水を加えて熟成する請求項15に記載の水素化処理触媒の製造方法。
【請求項17】
請求項1~13のいずれか一項に記載の水素化処理触媒の存在下において、炭化水素油の水素化処理を行う炭化水素油の水素化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素存在下で炭化水素油中の硫黄分を除去するための水素化処理触媒、その製造方法および炭化水素油の水素化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化水素油の水素化処理は、触媒を用いて高温高圧下にて反応を進行させるが、反応条件を低温、低圧下することによりプロセスの経済性が高まるため、円滑に生産可能で高活性な水素化処理触媒が望まれている。
【0003】
従来、アルミナ担体上に活性金属として周期表6A族および周期表第8族から選ばれた成分を含んだ触媒が広く利用されている。触媒活性向上のための提案として、担体-活性金属相互作用を調節することで、活性の向上をはかる方法が知られている。例えば、担体からのアプローチとして、担体表面特性を改質する手法が報告されている。具体的には、担体の表面OH基の特性を変化させることで担体-活性金属の相互作用を調節する方法、あるいはアルミナ以外の成分、例えばチタニアを複合化することにより、担体と金属の電子的相互作用を変化させる方法が広く知られている。ただし、このような方法においても触媒活性は未だ十分とは言えず、さらなる触媒活性の向上が必要とされている。
【0004】
特許文献1および特許文献2には、ゼオライト由来の固体酸を持つ触媒について開示されている。担体に含まれる5-50質量%または10-60質量%のゼオライトが固体酸成分であるが、固体酸がブレンステッド酸であること、活性金属成分が貴金属であることに特徴を持つ。
【0005】
特許文献3には、シリカ含有アルミナ担体を適用した固体酸触媒について開示されている。この固体酸触媒において、活性金属成分はモリブデン、ニッケル、コバルトと遷移金属であり、シリカ含有量は30質量%以上と多量であり、固体酸成分はブレンステッド酸である。
【0006】
特許文献4ならびに特許文献5には、10-70質量%のシリカを含み、さらにY型ゼオライトを少なくとも1種以上含んでもよい担体について開示されている。固体酸成分は1-40μmol/gのブレンステッド酸を有しており、10質量%以上のシリカを含有、また場合によってゼオライトをも含む。
【0007】
特許文献6には、アルミナ表面上にシリカ層を形成した構造を有し、シリカを担体全重量基準で2-40質量%含有するシリカアルミナ担体で、また細孔容積分布に大きな特徴がある触媒について開示されている。固体酸性についての言及はあるものの固体酸性の調整はシリカの含有量で行われており、その効果は活性成分の分散性向上と比較的強い酸点による分解活性増大効果とされている。
【0008】
特許文献7には、γ-アルミナに異元素金属を混合した無機複合酸化物担体上に、活性金属としてモリブデン及びタングステンから選ばれる第1の金属成分とコバルト及びニッケルから選ばれる第2の金属成分とが担持され、所定の特性を有する炭化水素油の水素化処理触媒が開示されており、この触媒が、工業的に高い生産性を維持しつつ脱硫活性に優れ、高性能で再生可能であると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特表2003-531002号公報
【文献】特開2014-147931号公報
【文献】特開2000-465号公報
【文献】特開2018-9175号公報
【文献】特開2016-28134号公報
【文献】特開2004-73912号公報
【文献】特開2017-196550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように従来、炭化水素油の水素化処理触媒活性金属と相互作用し得る担体表面特性として、表面OH基や異種元素の分散性が注目されてきた。しかしながら、炭化水素油の水素化処理触媒には、さらなる触媒活性の向上の余地があった。一方、触媒には固体酸が存在し、特にルイス酸点は電子の授受に関与する性質がある。
【0011】
本発明の目的は、高い脱硫活性で炭化水素油を水素化処理することのできる触媒およびその製造方法を提供することにある。また、高い脱硫活性で炭化水素油を水素化処理できる炭化水素油の水素化処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究したところ、水素化処理触媒のルイス酸量を適切な範囲とすることにより、炭化水素油を水素化脱硫する能力を向上させられることを見い出し、本発明を完成させた。一方、従来技術においては、担体のルイス酸点における担体-活性金属相互作用、反応活性との関係は着目されていない。
【0013】
本発明の要旨は以下のとおりである。
【0014】
[1]
アルミナを主成分とする無機複合酸化物担体、および前記担体上に担持された活性金属成分を含み、
前記活性金属成分が、活性金属種として、モリブデン及びタングステンのうちの少なくとも一方である第1の金属、ならびにコバルト及びニッケルのうちの少なくとも一方である第2の金属を含み、
250℃におけるピリジン脱着およびBET一点法により測定される単位表面積あたりのルイス酸量およびブレンステッド酸量が、それぞれ0.80μmol/m2以上および0.03μmol/m2以下である
炭化水素油の水素化処理触媒。
【0015】
[2]
前記第1の金属の含有量が、酸化物換算で15~22質量%であり、第2の金属の含有量が、酸化物換算で2~7質量%である前記[1]の炭化水素油の水素化処理触媒。
【0016】
[3]
炭素を2.0質量%未満の量で含む前記[1]または[2]の炭化水素油の水素化処理触媒。
【0017】
[4]
比表面積が200~350m2/gである前記[1]~[3]のいずれかの炭化水素油の水素化処理触媒。
【0018】
[5]
水銀圧入法で測定される平均細孔径が50~100Åである前記[1]~[4]のいずれかの炭化水素油の水素化処理触媒。
【0019】
[6]
空気雰囲気中で570℃で2時間熱処理した際に減少する質量が5.0質量%以下である前記[1]~[5]のいずれかの炭化水素油の水素化処理触媒。
【0020】
[7]
硫化処理後の一酸化窒素吸着量が8.5ml/g以上である前記[1]~[6]のいずれかの炭化水素油の水素化処理触媒。
【0021】
[8]
前記無機複合酸化物担体が、前記担体の量を100質量%とすると、ケイ素およびリンを、酸化物換算でそれぞれ0.5~8.0質量%および1.0~5.0質量%含む前記[1]~[7]のいずれかの炭化水素油の水素化処理触媒。
【0022】
[9]
前記活性金属成分がリンを含む前記[8]の炭化水素油の水素化処理触媒。
【0023】
[10]
前記触媒中に含まれるリンのうちの、前記担体に含まれるリンの割合Psに対する、前記活性金属成分に含まれるリンの割合Paの比率であるPa/Psが、0.2~3.0の範囲にある前記[9]の炭化水素油の水素化処理触媒。
【0024】
[11]
前記活性金属成分中に含まれるリンの前記第1の金属に対する割合が、酸化物の質量に換算して0.02~0.15の範囲にある前記[9]または[10]の炭化水素油の水素化処理触媒。
【0025】
[12]
前記無機複合酸化物担体が、前記担体の量を100質量%とすると、チタンを酸化物換算で5.0質量%以下、マグネシウムを酸化物換算で5.0質量%以下、またはホウ素を酸化物換算で5.0質量%以下の量で含む前記[1]~[11]のいずれかの炭化水素油の水素化処理触媒。
【0026】
[13]
前記第2の金属の前記第1の金属に対する割合が、酸化物の質量に換算して0.15~0.40の範囲にある前記[1]~[12]のいずれかの炭化水素油の水素化処理触媒。
【0027】
[14]
アルミナを主成分とする無機複合酸化物担体であって、ケイ素およびリンを、前記担体の量を100質量%とすると、酸化物換算でそれぞれ0.5~8.0質量%および1.0~5.0質量%含有する無機複合酸化物担体を準備する工程(1)と、
モリブデン及びタングステンのうちの少なくとも一方である第1の金属の原料と、コバルト及びニッケルのうちの少なくとも一方である第2の金属の原料と、溶媒と、リン成分と、有機酸とを含む含浸液を調製し、前記含浸液を前記無機複合酸化物担体に含浸させる工程(2)と、
前記工程(2)により得られた、前記含浸液が含浸された無機複合酸化物担体を乾燥させ、次いで焼成して水素化処理触媒を得る工程(3)と
を有する炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
【0028】
[15]
前記無機複合酸化物担体を準備する工程(1)が、
アルミニウム塩の塩基性水溶液にシリカ源およびリン成分を添加して塩基性アルミニウム塩を含む塩基性混合水溶液を調製し、前記混合水溶液にアルミニウム塩の酸性水溶液を添加する工程(a)と、
工程(a)で得られた無機複合酸化物水和物スラリーを熟成する第1の熟成工程(b)と、
工程(b)で得られた熟成された無機複合酸化物水和物スラリーを洗浄する工程(c)と、
工程(c)で得られた洗浄された無機複合酸化物水和物スラリーを熟成する第2の熟成工程(d)と、
工程(d)で得られた熟成された無機複合酸化物水和物スラリーを捏和、濃縮し、得られた捏和物を成型する工程(e)と、
工程(e)で得られた成型体を乾燥、焼成する工程(f)と
を有する前記[14]の水素化処理触媒の製造方法。
【0029】
[16]
前記第2の熟成工程(d)において、工程(c)で得られた洗浄された無機複合酸化物水和物スラリーを、アンモニア水を加えて熟成する前記[15]の水素化処理触媒の製造方法。
【0030】
[17]
前記[1]~[13]のいずれかの水素化処理触媒の存在下において、炭化水素油の水素化処理を行う炭化水素油の水素化処理方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明の水素化処理触媒は、高い脱硫活性で炭化水素油を水素化処理することができる。
【0032】
また、本発明の水素化処理触媒の製造方法によれば、高い脱硫活性で炭化水素油を水素化処理できる水素化処理触媒を製造することができる。
【0033】
さらに、本発明の炭化水素油の水素化処理方法によれば、高い脱硫活性で炭化水素油を水素化処理することができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0035】
[炭化水素油の水素化処理触媒]
本発明の炭化水素油の水素化処理触媒(以下、単に「水素化処理触媒」または「触媒」とも記載する。)は、
アルミナを主成分とする無機複合酸化物担体(以下、単に「担体」とも記載する。)、および前記担体上に担持された活性金属成分を含み、
前記活性金属成分が、モリブデン及びタングステンのうちの少なくとも一方である第1の金属、ならびにコバルト及びニッケルのうちの少なくとも一方である第2の金属を含み、
250℃におけるピリジン脱着およびBET一点法により測定される単位表面積あたりのルイス酸量およびブレンステッド酸量が、それぞれ0.80μmol/m2以上および0.03μmol/m2以下であることを特徴としている。
【0036】
以下に無機複合酸化物担体、活性金属成分及び触媒の性状について詳述する。
【0037】
<無機複合酸化物担体>
前記無機複合酸化物担体は、アルミナを主成分とする、アルミニウムと他の元素との複合酸化物である。アルミナを主成分とするとは、担体中にアルミニウムを酸化物(Al23)換算で、通常、87.0質量%以上含むことを意味する。
【0038】
前記無機複合酸化物担体は、前記他の元素として、通常、ケイ素およびリンを含む。
【0039】
担体中のケイ素の含有量は、酸化物(シリカ(SiO2))換算で、通常、0.5~8.0質量%、好ましくは1.0~5.0質量%であり、担体中のリンの含有量は、酸化物(P25)換算で、通常、1.0~5.0質量%、好ましくは1.5~4.0質量%である。担体中に上記の量のケイ素およびリンが含まれるように担体を製造すると、担体の表面状態が調整され、本発明に係る水素化処理触媒のルイス酸量が適切に(すなわち、0.80μmol/m2以上に)保たれることが期待される。
【0040】
ルイス酸量の増加を図るためには、ケイ素の含有量が0.5質量%以上となるように担体を製造することが好ましい。また、シリカを凝集させずに担体を製造する観点からは、ケイ素の含有量が8.0質量%以下となるように担体を製造することが好ましい。
【0041】
担体の酸特性を維持する観点からは、リンの含有量は1.0質量%以上であることが好ましい。また、活性金属成分を担持するための担体の細孔構造を維持する観点からは、リンの含有量は、5.0質量%以下であることが好ましい。
【0042】
担体の機械的強度や耐熱性等の物性を制御するために、担体の形成に際して、その原料に適当なバインダー成分や添加物等を含有させてもよい。
【0043】
前記他の元素としては、ケイ素およびリンの他に、例えばチタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)が挙げられる。これらの成分は、本発明に係る触媒のルイス酸量を調整するために、添加されることがある。
【0044】
担体中のチタンの含有量は、酸化物(TiO2)換算で、例えば0.5~5.0質量%である。
【0045】
担体中のマグネシウムの含有量は、酸化物(MgO)換算で、例えば0.5~5.0質量%である。
【0046】
担体中のホウ素の含有量は、酸化物(B23)換算で、例えば0.5~5.0質量%である。
【0047】
前記担体の、窒素吸脱着測定のBET一点法により求められる担体表面積(「比表面積N2」と記載する)は、好ましくは280~380m2/gである。比表面積N2が280m2/g以上であることは、前記担体に担持される活性金属が凝集することを防ぐ観点から好ましい。一方、比表面積N2が380m2/g以下であることは、本発明の触媒の平均細孔径または細孔容積が小さくなり脱硫性能が低下するということを防ぐ観点から好ましい。
【0048】
また前記担体の、後述の測定法により求められる担体の平均細孔径は、好ましくは60~100Åの範囲にある。平均細孔径が60Å以上であると、触媒の脱硫性能が良好であり、平均細孔径が100Å以下であると、触媒の比表面積が大きい。
【0049】
前記担体の水銀圧入法により測定される細孔容積は、好ましくは0.65~0.85ml/gである。細孔容積が0.65ml/g以上であることは、前記担体上での活性金属成分の凝集を防ぐ観点から好ましい。細孔容積が0.85ml/g以下であることは、嵩密度(ABD)が小さくなり、平均細孔径が大きくなることにより、本発明の触媒の強度が低下することを防ぐ観点から好ましい。
【0050】
<活性金属成分等>
無機複合酸化物担体上には、活性金属成分が担持されている。前記活性金属成分は、活性金属種として、モリブデン及びタングステンのうちの少なくとも一方である第1の金属、ならびにコバルト及びニッケルのうちの少なくとも一方である第2の金属を含む。したがって、前記担体上には、例えば第1の金属であるモリブデンと、第2の金属であるコバルトとを含む活性金属成分が担持される。活性金属成分としては、第1の金属および第2の金属を含む酸化物が挙げられる。
【0051】
第1の金属は、モリブデンであってもよく、タングステンであってもよく、モリブデン及びタングステンの両方であってもよい。本発明の触媒中の第1の金属の含有量(担持量)は、酸化物(すなわちMoO3、WO3)換算で10~30質量%であることが好ましく、15~22質量%であることがより好ましい。
【0052】
第1の金属の含有量が前記下限値以上であると、本発明の触媒は、良好な脱硫活性を発揮する。第1の金属の含有量が前記上限値以下であることは、第1の金属の凝集を防ぎ、良好な分散性を得る観点から好ましい。
【0053】
第2の金属は、コバルトであってもよく、ニッケルであってもよく、コバルト及びニッケルの両方であってもよい。本発明の触媒中の第2の金属の含有量(担持量)は、酸化物(すなわち、CoO、NiO)換算で、通常2.0~10.0質量%であり、2.0~8.0質量%であることがより好ましい。
【0054】
第2の金属は、第1の金属に対して助触媒として働く。第2の金属の含有量が前記下限値以上であると、活性金属種である第1の金属及び第2の金属が適切な構造を保つことができる。前記含有量が前記上限値以下であると、活性金属成分の凝集が抑えられ、本発明の触媒の性能が良好である。そのため、第2の金属の含有量は、最も好ましくは、第2の金属の質量(酸化物換算)/第1の金属の質量(酸化物換算)の比率で0.15~0.40の範囲にある。
【0055】
さらに、前記活性金属成分は、好ましくはリンを含む。前記活性金属成分にリンが含まれると、本発明の触媒のルイス酸量を所定の範囲に調整することができる。
【0056】
前記活性金属成分中のリンの含有量は、酸化物(P25)換算で、好ましくは0.5~5.0質量%である。
【0057】
さらには、前記活性金属成分中のリンの含有量は、リンの質量(酸化物(P25)換算)/第1の金属の質量(酸化物換算)の比で0.02~0.15の範囲にあることが好ましい。
【0058】
前記活性金属成分中のリンの含有量が前記上限値以下であることは、本発明の触媒の表面積の著しい低下および担体上での活性金属成分の分散性の低下による、脱硫性能の低下を防ぐ観点から好ましい。
【0059】
本発明の水素化処理触媒は、後述するように、前記無機複合酸化物担体に、前記第1の金属の原料と第2の金属の原料と溶媒とリンと有機酸とを含む含浸液を接触させることにより調製することができる。本発明の触媒中には、好ましくは活性金属成分および担体成分の双方にリンが含まれるが、その比率には、本発明の触媒のルイス酸量を所定の範囲にする上での最適値が存在する。また、BET一点法で規定される当該触媒単位表面積あたりのルイス酸量を0.80μmol/m2以上に保つためには、活性金属成分と担体成分の双方にリンを含有することが好ましい。
【0060】
本発明の触媒中に含まれるリンのうち、担体に含まれるリンの含有割合Psに対する活性金属成分に含まれるリンの含有割合Paの比率(Pa/Ps)は、好ましくは0.2~3.0の範囲にある。前記比率がこの範囲にあると、本発明の触媒のルイス酸量を後述する所定の範囲内に保つことができる。
【0061】
本発明の水素化処理触媒は、炭素を含有していてもよく、その量は好ましくは2.0質量%未満である。活性金属成分の原料を含む含浸液を無機複合酸化物担体に含浸させる工程を経て本発明の触媒を製造する場合には、通常、含浸液中に有機酸が含まれ、この有機酸の炭素が触媒中に残存する。炭素の含有量を2.0質量%未満とすることにより、有機酸由来の炭素により担体-金属相互作用を弱くなるように調節でき、担持した金属種の構造維持性が良化することにより本発明の触媒の存在下での水素化脱硫反応の安定性が保たれる。一方、その下限値はたとえば0質量%(検出限界値以下)である。
【0062】
<ルイス酸量等>
本発明に係る水素化処理触媒の、後述する実施例で採用した条件またはこれと同等の条件の下で、250℃におけるピリジン脱着およびBET一点法により測定されるルイス酸量は、0.80μmol/m2以上、好ましくは0.85μmol/m2以上、より好ましくは0.90μmol/m2以上である。本発明の水素化処理触媒は、ルイス酸量がこの範囲にあるため、活性点が良質であり、担体-活性金属との相互作用が調節されており、水素化脱硫触媒能に優れる。
【0063】
一方、使用上の汎用性を考慮し過度の水素化脱硫反応の抑制の観点からは、ルイス酸量の上限値は、たとえば2.00μmol/m2であってもよく、製造容易性の観点からは好ましくは1.50μmol/m2である。ルイス酸量は、前記無機複合酸化物担体中のケイ素の含有量を調節する、前記無機複合酸化物担体に含まれるリンの量と前記第1の金属成分および前記第2の金属成分に含まれるリンの量との割合を調節する、などの方法により、前記範囲とすることができる。
【0064】
また、本発明に係る水素化処理触媒の、後述する実施例で採用した条件またはこれと同等の条件の下で、250℃におけるピリジン脱着およびBET一点法により測定されるブレンステッド酸量は、0.03μmol/m2以下、好ましくは0.02μmol/m2以下である。ブレンステッド酸量がこの範囲にあると、本発明の水素化処理触媒は、過剰な分解活性の付与またはコーク生成を主体とした活性劣化の促進を抑制することができる。一方、過度の触媒反応抑制の観点からは、ブレンステッド酸量の下限値は、たとえば0.00μmol/m2であってもよい。ブレンステッド酸量は、前記無機複合酸化物担体のシリカ含有量を低減する、または前記無機複合酸化物担体にゼオライト等の分子篩物質を含めない、などの手段により、前記範囲とすることができる。
【0065】
本発明の触媒は、後述する実施例で採用された方法で測定される比表面積が、好ましくは200~350m2/g、より好ましくは220~320m2/gである。比表面積がこの範囲にあることは、触媒上の活性点との原料油との反応が効率的に進み触媒反応が高まるので好ましい。
【0066】
本発明の触媒は、後述する実施例で採用された条件で水銀圧入法で測定される平均細孔径が、好ましくは50~100Å、より好ましくは60~90Åである。平均細孔径がこの範囲にあると原料油が細孔内で十分拡散されるため水素化処理反応に有用である。
【0067】
本発明の触媒は、強熱減量(Ig Loss)、すなわち空気雰囲気中で570℃、2時間熱処理した際に減少する質量が、好ましくは5.0質量%以下である。本発明の触媒を製造する際に、例えば無機複合酸化物担体に対して活性金属成分の原料を含む含浸液を噴霧含浸させた後、これらを300℃以上の温度で焼成すると、本発明の触媒の強熱減量を5.0質量%以下とすることができる。
【0068】
本発明の触媒は、後述する実施例で採用された条件で測定される、硫化処理後の一酸化窒素吸着量が好ましくは、8.5ml/g以上、より好ましくは9.0~12.0ml/gである。硫化処理後の一酸化窒素吸着量がこの範囲にあると、水素化処理反応に対する活性点が充分に備わっているため好ましい。
【0069】
[炭化水素油の水素化処理方法]
本発明の水素化処理触媒により脱硫化を図る対象となる炭化水素油は、例えば、原油の常圧蒸留装置から得られる直留灯油または直留軽油、常圧蒸留装置から得られる直留重質油や残査油を減圧蒸留装置で処理して得られる減圧軽油または減圧重質軽油、脱硫重油を接触分解して得られる接触分解灯油または接触分解軽油、減圧重質軽油あるいは脱硫重油を水素化分解して得られる水素化分解灯油または水素化分解軽油、コーカー等の熱分解装置から得られる熱分解灯油または熱分解軽油であり、沸点が180~390℃の留分を80容量%以上含む留分である。本発明の水素化処理触媒を使用した水素化処理は、固定床反応装置に触媒を充填して水素雰囲気下、高温高圧条件で行なわれる。
【0070】
[炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法]
次に、本発明の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法について説明する。
【0071】
本発明の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法は、
アルミナを主成分とする無機複合酸化物担体であって、ケイ素およびリンを、前記担体の量を100質量%とすると、酸化物換算でそれぞれ0.5~8.0質量%(好ましくは1.0~5.0質量%)および1.0~5.0質量%(好ましくは1.5~4.0質量%)含有する無機複合酸化物担体を準備する工程(1)と、
モリブデン及びタングステンのうちの少なくとも一方である第1の金属の原料と、コバルト及びニッケルのうちの少なくとも一方である第2の金属の原料と、溶媒と、リン成分と、有機酸とを含む含浸液を調製し、前記含浸液を前記無機複合酸化物担体に含浸させる工程(2)と、
前記工程(2)により得られた、前記含浸液が含浸された前記無機複合酸化物担体を乾燥させ、次いで焼成する工程(3)と
を有する。
【0072】
以下、各工程について説明する。
【0073】
<無機複合酸化物担体を準備する工程(1)>
工程(1)では、前記無機複合酸化物担体を製造する。
【0074】
工程(1)は、好ましくは以下の工程(a)~(f)を含む。
【0075】
工程(a):
工程(1)では、先ず金属塩の塩基性水溶液と金属塩の酸性水溶液(少なくとも一方の水溶液にはアルミニウム塩が含まれる。)とを、pHが6.5~9.5、好ましくは6.5~8.5、より好ましくは6.8~8.0になるように混合して無機複合酸化物の水和物のスラリーを得る。前記混合は、好ましくは、金属塩の塩基性水溶液に金属塩の酸性水溶液を徐々に添加することにより行われる。
【0076】
前記塩基性水溶液には、カルボン酸塩が含まれていてもよい。
【0077】
前記無機複合酸化物の水和物として、アルミニウム以外の元素を含む無機複合酸化物の水和物を得ようとする場合は、用いる金属塩(前記アルミニウム以外の元素の塩。なお、ここでは便宜的に、珪酸塩およびリン酸塩も金属塩に分類する。)の水溶液のpHにより、金属塩の水溶液をアルミニウム塩の酸性または塩基性の水溶液に予め混合した後(すなわち、金属塩の酸性水溶液であればアルミニウム塩の酸性水溶液に予め混合した後、あるいは金属塩の塩基性水溶液であればアルミニウム塩の塩基性水溶液に予め混合した後)、この混合された水溶液を、それぞれアルミニウム塩の塩基性水溶液またはアルミニウム塩の酸性水溶液と、pHが前記範囲になるように混合して、無機複合酸化物の水和物を得る。
【0078】
アルミニウム塩の塩基性水溶液に用いられるアルミニウム塩としては、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウムなどが好適に使用される。また、アルミニウム塩の酸性水溶液に用いられるアルミニウム塩としては、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムなどが好適に使用される。シリカ源としては珪酸塩が用いられ、具体的には珪酸ナトリウム水溶液(水ガラス)や珪酸ナトリウムのヒドロゲルが、リン酸塩源としては亜リン酸イオンを包含し、リン酸アンモニウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸、亜リン酸などの水中でリン酸イオンを生じるリン酸化合物が使用可能である。また、チタン鉱酸塩としては、四塩化チタン、三塩化チタン、硫酸チタン、硫酸チタニル、硝酸チタンなどが例示され、特に硫酸チタン、硫酸チタニルは安価であるので好適に使用される。さらに、マグネシア源としては、硫酸マグネシウムなどのマグネシウム塩が挙げられる。
【0079】
前記2種の金属塩水溶液を混合する際、たとえば、金属塩の塩基性水溶液を通常40~90℃、好ましくは50~70℃に加温して保持し、この溶液の温度の±5℃、好ましくは±2℃、より好ましくは±1℃に加温した金属塩の酸性水溶液を、pHが6.5~9.5、好ましくは6.5~8.5、より好ましくは6.5~8.0になるように、金属塩の塩基性水溶液に通常5~20分、好ましくは7~15分かけて連続添加して沈殿を生成させ、水和物のスラリー(以下「無機複合酸化物水和物スラリー」とも記載する。)を得る。
【0080】
ここで、金属塩の塩基性水溶液への金属塩の酸性水溶液の添加に要する時間は、長くなると擬ベーマイトの他にバイヤライトやギブサイト等の好ましくない結晶物が生成することがあるので、15分以下が望ましく、13分以下が更に望ましい。バイヤライトやギブサイトは、加熱処理した時に比表面積が低下するので、好ましくない。
【0081】
工程(a)の好ましい態様としては、アルミニウム塩の塩基性水溶液にシリカ源およびリン成分を添加して塩基性アルミニウム塩を含む塩基性混合水溶液を調製し、前記混合水溶液にアルミニウム塩の酸性水溶液を添加する工程が挙げられる。
【0082】
工程(b):
次いで、工程(a)で得られた無機複合酸化物水和物スラリーを熟成させる第1の熟成工程を行う。第1の熟成工程は、例えば無機複合酸化物水和物スラリーを撹拌しながら50~70℃に30分間以上保持することにより行われる。
【0083】
工程(c):
その後、工程(b)で得られた熟成された無機複合酸化物水和物スラリーの脱水処理を行った後、温水、例えばアンモニア含有水溶液でスラリーを洗浄する。
【0084】
工程(d):
洗浄されたケーキ状の無機複合酸化物水和物スラリーに対してイオン交換水を加えてスラリー化し、熟成させる、第2の熟成工程を行う。第2の熟成工程は、例えばイオン交換水を加えて得られたスラリーにアンモニア水を添加して、例えばpH9.5~10.5に調製し、還流器付の熟成タンク内において、撹拌しながら30℃以上、好ましくは80~100℃で、例えば1~20時間、好ましくは2~10時間加熱することにより行われる。
【0085】
工程(e):
前記工程で(d)で得られた熟成物を、スチームジャケット付双腕式ニーダーに入れて加熱捏和し、かつ濃縮して成型可能な捏和物とした後、押し出し成型などにより所望の形状に成型する。捏和物には、任意に、ホウ酸などのボリア源を添加してもよい。
【0086】
工程(f):
工程(e)で得られた成型体を、例えば70~150℃、好ましくは90~130℃で加熱乾燥し、次いで大気雰囲気中で例えば400~800℃、好ましくは400~600℃で、例えば0.5~10時間、好ましくは2~5時間焼成してアルミナを主成分とした無機複合酸化物担体を得る。
【0087】
無機複合酸化物担体のルイス酸は、本発明の水素化処理触媒において、担持金属の分散性や触媒活性を左右する重要な因子である。このルイス酸の量の制御は、無機複合酸化物担体の組成の制御、工程(a)で得られる無機複合酸化物水和物の結晶性とともに、担体調製工程の随所で行うことが可能である。ただし、担体の物理的性状を維持しながらルイス酸量を調整することは非常に難しい。これを満たすためには、無機複合酸化物担体の組成を適切に設定すること、具体的には、無機複合酸化物担体の組成を上述した組成とすることが好ましい。
【0088】
<金属成分の原料を含む含浸液を無機複合酸化物担体に含浸させる工程(2)>
工程(2)では、無機複合酸化物担体に、第1の金属の原料と第2の金属の原料と溶媒とリン成分と有機酸とを含む含浸液を含浸させる。
【0089】
第1の金属の原料としては、例えば、三酸化モリブデン、モリブデン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウム、三酸化タングステン好ましい。また第2の金属の原料としては、例えば、硝酸ニッケル、炭酸ニッケル、硝酸コバルト、炭酸コバルトが好ましい。
【0090】
溶媒としては、水が使用される。
【0091】
前記リン成分としては、オルトリン酸(以下、単に「リン酸」ともいう)、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、トリメタリン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸などが好ましい。
【0092】
含浸液中のリンの濃度は、酸化物(P25)換算で、好ましくは0.5~5.0質量%である。リンの濃度が0.5質量%以上であると、得られる触媒の表面の酸特性を維持することができる。得られる触媒の表面積の低下、または活性金属の分散性の指標となる一酸化炭素吸着量の低下を防ぐ観点からは、リンの濃度は5.0質量%以下であることが好ましい。
【0093】
含浸液には、有機酸を添加してそのpHを4以下にして、金属成分を溶解させることが好ましい。有機酸としては、例えば、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)が使用でき、特に、クエン酸、リンゴ酸が好適に用いられる。
【0094】
また有機酸に加えて有機添加剤を用いてもよく、有機添加剤としては、糖類(単糖類、二糖類、多糖類等)が挙げられる。具体的には、例えば、ブドウ糖(グルコース;C6126)、果糖(フルクトース;C6126)、麦芽糖(マルトース;C122211)、乳糖(ラクトース;C122211)、ショ糖(スクロース;C122211)等を加えてもよい。
【0095】
前記含浸液は、前記各成分を常法により混合することにより調製できる。
【0096】
調製された前記含浸液は、無機複合酸化物担体と接触させることにより、無機複合酸化物担体に含浸される。
【0097】
前記含浸液に含まれる各成分の量は、上述した組成の水素化処理触媒が得られるように、適宜設定すればよい。
【0098】
<含浸液が含浸された無機複合酸化物担体を乾燥・焼成する工程(3)>
工程(3)では、含浸液が含浸された無機複合酸化物担体を、通常100~350℃、好ましくは110~320℃、さらに好ましくは150~300℃で、通常0.5~24時間、好ましくは0.5~4.0時間加熱処理することにより乾燥させ、次いで通常350~600℃、好ましくは400~600℃、さらに好ましくは420~600℃で、通常0.5~5.0時間、好ましくは0.5~2.0時間加熱処理することにより焼成し、無機複合酸化物担体に活性金属成分が担持されてなる本発明の水素化処理触媒が得られる。
【0099】
前記乾燥の際の温度が100℃以上であると、残存水分による操作性の悪化を防ぎ、かつ金属担持状態を均一にすることができる。また前記焼成の際の温度が600℃以下であると、第1の金属および第2の金属の凝集を防ぎ、これらを担体上で良好に分散させることができる。
【実施例
【0100】
以下に実施例を示し具体的に本発明を説明するが、これらのものに本発明が限定されるものではない。
【0101】
〔測定方法〕
各種測定は以下のように行った。
【0102】
<炭素の含有量の測定方法>
触媒中の炭素の含有量は、炭素分析装置(HORIBA(株)社製、EMIA-320V)の高周波炉で燃焼することにより測定した。
【0103】
<窒素吸脱着測定のBET一点法により求められる担体表面積(比表面積N2)の測定方法>
測定試料を磁製ルツボ(B-2型)に約30mL採取し、300℃の温度で2時間加熱処理後、デシケータに入れて室温まで冷却し、測定用サンプルを得た。次に、このサンプルを1g取り、全自動表面積測定装置(湯浅アイオニクス社製、マルチソーブ12型)を用いて、試料の比表面積(m2/g)をBET法にて測定した。
【0104】
<ルイス酸量およびブレンステッド酸量の測定方法>
測定試料33mgを、内径20mmのディスクに充填し、測定装置(日本分光社製、FT-IR4600)内に設置した。測定雰囲気を500℃で1時間真空排気し、その後30℃まで冷却した。その後、再び150℃まで昇温し、ピリジンを試料に吸着させてピリジン吸着スペクトルを取得した。更に250℃で測定雰囲気を真空排気した後、ピリジン脱離後のスペクトルを取得した。そしてピリジン吸着前後の差スペクトルをとり、その1450cm-1付近の吸収バンドのピーク値からルイス酸量を求めた。
【0105】
また、同様にして1550cm-1付近の吸収バンドのピーク値からブレンステッド酸量を求めた。
【0106】
各測定を3回行い、その平均値を、各触媒のルイス酸量およびブレンステッド酸量として採用した。
【0107】
<平均細孔径および細孔容積の測定方法>
水銀圧入法(水銀の接触角:150度、表面張力:480dyn/cm)によって測定した。細孔容積は細孔直径40Å 以上の細孔の容積とし、平均細孔径は細孔容積の50 %に相当する細孔直径とした。
【0108】
<強熱減量の測定方法>
測定試料である触媒を大気雰囲気下で570℃で2時間焼成し、焼成による質量減少量から算出した。
【0109】
<一酸化窒素吸着量の測定方法>
一酸化窒素吸着量の測定は、全自動触媒ガス吸着量測定装置(大倉理研製)を用い、硫化処理した水素化処理触媒に、ヘリウムガスと一酸化窒素ガスの混合ガス(一酸化窒素濃度10容量%)をパルスで導入し、水素化処理触媒1gあたりの一酸化窒素分子吸着量を測定した。具体的には、60メッシュ以下に粉砕した触媒を約0.02g秤取り、これを石英製のセルに充填し、当該触媒を360℃に加熱して、硫化水素5容量%/水素95容量%のガスを0.2リットル/分の流量で通流させて1時間硫化処理を行い、その後340℃で1時間保持し、物理吸着している硫化水素を系外に排出した。その後にヘリウムガスと一酸化窒素ガスの混合ガスにて一酸化窒素分子を50℃にて吸着させ、一酸化窒素分子吸着量を測定した。
【0110】
〔水素化処理触媒等の製造〕
無機複合酸化物担体の調製例と、含浸液の調製例と、各無機複合酸化物担体及び含浸液を用いた本発明の実施例である水素化処理触媒の調製例と、各無機複合酸化物担体及び含浸液を用いた比較例である水素化処理触媒の調製例について以下に記載する。
【0111】
まず無機複合酸化物担体の調製例について記載する。
【0112】
<無機複合酸化物担体Aの調製>
工程a)容量が100L(リットル)のスチームジャケット付のタンクに、アルミニウム濃度がAl23濃度換算で22.0質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液8.64kgを入れ、イオン交換水34.6kgで希釈後、ケイ素濃度がSiO2濃度換算で5.0質量%の珪酸ナトリウム溶液1.5kgと、リン濃度がP25濃度換算で2.5質量%のリン酸ナトリウム溶液3.0kgとを撹拌しながら添加し、これらを撹拌しながら60℃に加温して、アルミニウム塩の塩基性混合水溶液を作製した。また、アルミニウム濃度がAl23濃度換算で7.0質量%の硫酸アルミニウム水溶液13.57kgを、イオン交換水24.43kgで希釈し、60℃に加温して硫酸アルミニウム水溶液を調製した。
【0113】
次に、前記塩基性混合水溶液をタンク内で撹拌しながら、ここに加温された前記硫酸アルミニウム水溶液を一定速度で10分間かけて添加し、混合後のpHが7.2となるシリカ、リン成分及びアルミナを含有する水和物スラリーAを調製した。
【0114】
工程b)水和物スラリーAを、60℃で60分間撹拌することにより熟成させた。
【0115】
工程c)工程b)によって得られたスラリーを、脱水した後、濃度0.3質量%のアンモニア水溶液120Lで洗浄した。
【0116】
工程d)工程c)で得られた洗浄されたスラリーを、アルミニウム濃度がAl23換算で10.0質量%になるようにイオン交換水で希釈してスラリー化した後、濃度15.0質量%のアンモニア水を添加してpH10.3に調整し、95℃で10時間撹拌することにより熟成させた。
【0117】
工程e)工程d)によって得られた熟成終了後のスラリーを脱水し、スチームジャケット付双腕式ニーダーにて練りながら加温し所定の水分量となるまで濃縮捏和し、捏和物Aを得た。捏和物Aをスクリュー式押し出し機で直径が1.6mmの円柱状に成型した。
【0118】
工程f)次いで、得られた成型物を110℃で12時間乾燥した後、550℃で3時間焼成して担体Aを得た。担体Aの物性を表1に示す。
【0119】
<無機複合酸化物担体Bの調製>
工程a)容量が100L(リットル)のスチームジャケット付のタンクに、アルミニウム濃度がAl23濃度換算で22.0質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液8.41kgを入れ、イオン交換水32.8kgで希釈後、ケイ素濃度がSiO2濃度換算で5.0質量%の珪酸ナトリウム溶液1.5kgと、リン濃度がP25濃度換算で2.5質量%のリン酸ナトリウム溶液6.0kgとを撹拌しながら添加し、これらを撹拌しながら60℃に加温して、アルミニウム塩の塩基性混合水溶液を作製した。また、アルミニウム濃度がAl23濃度換算で7.0質量%の硫酸アルミニウム水溶液13.21kgを、イオン交換水23.79kgで希釈し、60℃に加温して硫酸アルミニウム水溶液を調製した。
【0120】
次に、前記塩基性混合水溶液をタンク内で撹拌しながら、ここに加温された前記硫酸アルミニウム水溶液を一定速度で10分間かけて添加し、混合後のpHが7.3となるシリカ、リン成分及びアルミナを含有する水和物スラリーBを調製した。水和物スラリーAを水和物スラリーBに変更したこと以外は担体Aの調製の工程b)~f)と同様にして、担体Bを得た。担体Bの物性を表1に示す。
【0121】
<無機複合酸化物担体Cの調製>
工程a)容量が100L(リットル)のスチームジャケット付のタンクに、アルミニウム濃度がAl23濃度換算で22.0質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液8.75kgを入れ、イオン交換水35.5kgで希釈後、ケイ素濃度がSiO2濃度換算で5.0質量%の珪酸ナトリウム溶液1.5kgと、リン濃度がP25濃度換算で2.5質量%のリン酸ナトリウム溶液1.4kgとを撹拌しながら添加し、これらを撹拌しながら60℃に加温して、アルミニウム塩の塩基性混合水溶液を作製した。また、アルミニウム濃度がAl23濃度換算で7.0質量%の硫酸アルミニウム水溶液13.76kgを、イオン交換水24.76kgで希釈し、60℃に加温して硫酸アルミニウム水溶液を調製した。
【0122】
次に、前記塩基性混合水溶液をタンク内で撹拌しながら、ここに加温された前記硫酸アルミニウム水溶液を一定速度で10分間かけて添加し、混合後のpHが7.0となるシリカ、リン成分及びアルミナを含有する水和物スラリーCを調製した。水和物スラリーAを水和物スラリーCに変更したこと以外は担体Aの調製の工程b)~f)と同様にして、担体Cを得た。担体Cの物性を表1に示す。
【0123】
<無機複合酸化物担体Dの調製>
工程a)容量が100L(リットル)のスチームジャケット付のタンクに、アルミニウム濃度がAl23濃度換算で22.0質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液7.98kgを入れ、イオン交換水31.8kgで希釈後、ケイ素濃度がSiO2濃度換算で5.0質量%の珪酸ナトリウム溶液3.9kgと、リン濃度がP25濃度換算で2.5質量%のリン酸ナトリウム溶液3.0kgとを撹拌しながら添加し、これらを撹拌しながら60℃に加温して、アルミニウム塩の塩基性混合水溶液を作製した。また、アルミニウム濃度がAl23濃度換算で7.0質量%の硫酸アルミニウム水溶液13.93kgを、イオン交換水25.07kgで希釈し、60℃に加温して硫酸アルミニウム水溶液を調製した。
【0124】
次に、前記塩基性混合水溶液をタンク内で撹拌しながら、ここに加温された前記硫酸アルミニウム水溶液を一定速度で10分間かけて添加し、混合後のpHが7.3となるシリカ、リン成分及びアルミナを含有する水和物スラリーDを調製した。水和物スラリーAを水和物スラリーDに変更したこと以外は担体Aの調製の工程b)~f)と同様にして、担体Dを得た。担体Dの物性を表1に示す。
【0125】
<無機複合酸化物担体Eの調製>
工程a)容量が100L(リットル)のスチームジャケット付のタンクに、アルミニウム濃度がAl23濃度換算で22.0質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液8.77kgを入れ、イオン交換水34.4kgで希釈後、ケイ素濃度がSiO2濃度換算で5.0質量%の珪酸ナトリウム溶液0.3kgと、リン濃度がP25濃度換算で2.5質量%のリン酸ナトリウム溶液3.6kgとを撹拌しながら添加し、これらを撹拌しながら60℃に加温して、アルミニウム塩の塩基性混合水溶液を作製した。また、アルミニウム濃度がAl23濃度換算で7.0質量%の硫酸アルミニウム水溶液13.79kgを、イオン交換水24.81kgで希釈し、60℃に加温して硫酸アルミニウム水溶液を調製した。
【0126】
次に、前記塩基性混合水溶液をタンク内で撹拌しながら、ここに加温された前記硫酸アルミニウム水溶液を一定速度で10分間かけて添加し、混合後のpHが7.0となるシリカ、リン成分及びアルミナを含有する水和物スラリーEを調製した。水和物スラリーAを水和物スラリーEに変更したこと以外は担体Aの調製の工程b)~f)と同様にして、担体Eを得た。担体Eの物性を表1に示す。
【0127】
<無機複合酸化物担体Fの調製>
工程a)容量が100L(リットル)のスチームジャケット付のタンクに、アルミニウム濃度がAl23濃度換算で22.0質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液8.37kgを入れ、イオン交換水37.0kgで希釈後、ケイ素濃度がSiO2濃度換算で5.0質量%の珪酸ナトリウム溶液1.2kgと、リン濃度がP25濃度換算で2.5質量%のリン酸ナトリウム溶液3.6kgを撹拌しながら添加し、これらを撹拌しながら60℃に加温して、アルミニウム塩の塩基性混合水溶液を作製した。また、Al23濃度換算で7.0質量%の硫酸アルミニウム水溶液11.82kgをイオン交換水21.29kgで希釈した硫酸アルミニウム水溶液と、TiO2濃度換算で33質量%の硫酸チタン0.46kgをイオン交換水で3.00kgに希釈した硫酸チタン水溶液とを混合し、混合物を60℃に加温して、酸性混合水溶液を調製した。
【0128】
次に、前記塩基性混合水溶液をタンク内で撹拌しながら、ここに加温された前記酸性混合水溶液を一定速度で10分間かけて添加し、混合後のpHが7.1となるシリカ、リン成分、チタニア及びアルミナを含有する水和物スラリーFを調製した。水和物スラリーAを水和物スラリーFに変更したこと以外は担体Aの調製の工程b)~f)と同様にして、担体Fを得た。担体Fの物性を表1に示す。
【0129】
<無機複合酸化物担体Gの調製>
工程a)容量が100L(リットル)のスチームジャケット付のタンクに、アルミニウム濃度がAl23濃度換算で22.0質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液7.69kgを入れ、イオン交換水32.4kgで希釈後、ケイ素濃度がSiO2濃度換算で5.0質量%の珪酸ナトリウム溶液1.6kgと、リン濃度がP25濃度換算で2.5質量%のリン酸ナトリウム溶液1.6kgを撹拌しながら添加し、これらを撹拌しながら60℃に加温して、アルミニウム塩の塩基性混合水溶液を作製した。また、Al23濃度換算で7.0質量%の硫酸アルミニウム水溶液12.09kgを、イオン交換水21.75kgで希釈し、60℃に加温して硫酸アルミニウム水溶液を調製した。
【0130】
次に、前記塩基性混合水溶液をタンク内で撹拌しながら、ここに加温された前記硫酸アルミニウム水溶液を一定速度で10分間かけて添加し、混合後のpHが7.2となるシリカ、リン成分及びアルミナを含有する水和物スラリーGを調製した。その後、水和物スラリーAを水和物スラリーGに変更したこと以外は担体Aの調製の工程b)~d)と同様の操作を行った。
【0131】
工程e)工程d)によって得られた熟成終了後のスラリーを脱水し、スチームジャケット付双腕式ニーダーにて練りながら加温し所定の水分量となるまで濃縮捏和し、さらにホウ酸0.08kgを混合し、次いで10分間捏和しつつ水を添加して所定の水分量に調整し、捏和物Gを得た。
【0132】
その後、捏和物Aを捏和物Gに変更したこと以外は担体Aの調製の工程f)と同様にして担体Gを得た。担体Gの物性を表1に示す。
【0133】
<無機複合酸化物担体Hの調製>
a)容量が100L(リットル)のスチームジャケット付のタンクに、アルミニウム濃度がAl23濃度換算で22.0質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液8.77kgを入れ、イオン交換水38.6kgで希釈後、ケイ素濃度がSiO2濃度換算で5.0質量%の珪酸ナトリウム溶液1.2kgと、リン濃度がP25濃度換算で2.5質量%のリン酸ナトリウム溶液4.2kgを撹拌しながら添加し、撹拌しながら60℃に加温して、アルミニウム塩の塩基性混合水溶液を作製した。また、Al23濃度換算で7.0質量%の硫酸アルミニウム水溶液12.52kgをイオン交換水22.54kgで希釈した硫酸アルミニウム水溶液と、MgO濃度換算で16.0質量%の硫酸マグネシウム0.18kgをイオン交換水で0.60kgに希釈した硫酸マグネシウム水溶液とを混合し、混合物を60℃に加温して、酸性混合水溶液を調製した。
【0134】
次に、前記塩基性混合水溶液をタンク内で撹拌しながら、ここに加温された前記酸性混合水溶液を一定速度で10分間かけて添加し、混合後のpHが8.0となるシリカ、リン成分、マグネシア及びアルミナを含有する水和物スラリーHを調製した。水和物スラリーAを水和物スラリーHに変更したこと以外は担体Aの調製の工程b)~f)と同様にして、担体Hを得た。担体Hの物性を表1に示す。
【0135】
<無機複合酸化物担体Iの調製>
工程f)における焼成条件を650℃で3時間に変更したこと以外は担体Aの調製と同様にして、水素化処理触媒用担体Iを得た。担体Iの物性を表1に示す。
【0136】
以下に無機複合酸化物担体J、K、L、Mの調製について記述するが、これらの担体J、K、L、Mは比較例のみで用いた担体である。
【0137】
<無機複合酸化物担体Jの調製>
工程a)容量が100L(リットル)のスチームジャケット付のタンクに、アルミニウム濃度がAl23濃度換算で22.0質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液8.86kgを入れ、イオン交換水36.4kgで希釈した。ついで、この溶液に濃度26.0質量%のグルコン酸ナトリウム水溶液117.0gと、ケイ素濃度がSiO2濃度換算で5.0質量%の珪酸ナトリウム溶液1.5kgを撹拌しながら添加し、撹拌しながら60℃に加温して、アルミニウム塩の塩基性混合水溶液を作製した。また、Al23濃度換算で7.0質量%の硫酸アルミニウム水溶液13.93kgを、イオン交換水25.07kgで希釈し、60℃に加温して硫酸アルミニウム水溶液を調製した。
【0138】
次に、前記塩基性混合水溶液をタンク内で撹拌しながら、ここに加温された前記硫酸アルミニウム水溶液を一定速度で10分間かけて添加し、シリカ及びアルミナを含有する水和物スラリーJを調製した。水和物スラリーAを水和物スラリーJに変更したこと以外は担体Aの調製の工程b)~f)と同様にして、担体Jを得た。担体Jの物性を表1に示す。
【0139】
<無機複合酸化物担体Kの調製>
工程a)容量が100L(リットル)のスチームジャケット付のタンクに、アルミニウム濃度がAl23濃度換算で22.0質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液8.86kgを入れ、イオン交換水34.9kgで希釈後、リン濃度がP25濃度換算で2.5質量%のリン酸ナトリウム溶液3.0kgを撹拌しながら添加し、撹拌しながら60℃に加温して、アルミニウム塩の塩基性混合水溶液を作製した。また、Al23濃度換算で7.0質量%の硫酸アルミニウム水溶液13.93kgを、イオン交換水25.07kgで希釈し、60℃に加温して硫酸アルミニウム水溶液を調製した。
【0140】
次に、前記塩基性混合水溶液をタンク内で撹拌しながら、ここに加温された前記硫酸アルミニウム水溶液を一定速度で10分間かけて添加し、リン成分及びアルミナを含有する水和物スラリーKを調製した。水和物スラリーAを水和物スラリーKに変更したこと以外は担体Aの調製の工程b)~f)と同様にして、担体Kを得た。担体Kの物性を表1に示す。
【0141】
<無機複合酸化物担体Lの調製>
工程a)容量が100L(リットル)のスチームジャケット付のタンクに、アルミニウム濃度がAl23濃度換算で22質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液9.38kgを入れ、イオン交換水38.8kgで希釈後、この溶液に濃度26.0質量%のグルコン酸ナトリウム水溶液120.0gを添加し、攪拌しながら60℃に加温して、アルミニウム塩の塩基性混合水溶液を作製した。また、Al23濃度換算で7質量%の硫酸アルミニウム水溶液13.39kgを、イオン交換水24.11kgで希釈し、60℃に加温して硫酸アルミニウム水溶液を調製した。
【0142】
次に、前記塩基性混合水溶液をタンク内で攪拌しながら、ここに加温された前記硫酸アルミニウム水溶液を一定速度で10分間かけて添加し、アルミナを含有する水和物スラリーLを調製した。水和物スラリーAを水和物スラリーLに変更したこと以外は担体Aの調製の工程b)~d)と同様の操作を行った。
【0143】
工程e)工程d)によって得られた熟成終了後のスラリーを脱水し、スチームジャケット付双腕式ニーダーにて練りながら加温し所定の水分量となるまで濃縮捏和し、さらにSiO2/Al23(モル比)が5.7、結晶格子定数2.457nmのゼオライト0.33kgを混合し、次いで10分間捏和しつつ水を添加して所定の水分量に調整し、捏和物Lを得た。
【0144】
その後、捏和物Aを捏和物Lに変更したこと以外は担体Aの調製の工程f)と同様にして担体Lを得た。担体Lの物性を表1に示す。
【0145】
<無機複合酸化物担体Mの調製>
工程a)容量が100L(リットル)のスチームジャケット付のタンクに、アルミニウム濃度がAl23濃度換算で22.0質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液8.77kgを入れ、イオン交換水35.6kgで希釈後、ケイ素濃度がSiO2濃度換算で5.0質量%の珪酸ナトリウム溶液1.5kgと、リン濃度がP25濃度換算で2.5質量%のリン酸ナトリウム溶液1.2kgを撹拌しながら添加し、撹拌しながら60℃に加温して、アルミニウム塩の塩基性混合水溶液を作製した。また、Al23濃度換算で7.0質量%の硫酸アルミニウム水溶液13.79kgをイオン交換水24.81kgで希釈した硫酸アルミニウム水溶液を、60℃に加温して、酸性混合水溶液を調製した。
【0146】
次に、前記塩基性混合水溶液をタンク内で撹拌しながら、ここに加温された前記酸性混合水溶液を一定速度で10分間かけて添加し、混合後のpHが7.3となるシリカ、リン成分及びアルミナを含有する水和物スラリーMを調製した。水和物スラリーAを水和物スラリーMに変更したこと以外は担体Aの調製の工程b)~f)と同様にして、担体Mを得た。担体Mの物性を表1に示す。
【0147】
【表1】
次に含浸液の調製例について記載する。
【0148】
<含浸液aの調製>
三酸化モリブデン(モリブデンをMoO3濃度に換算して99.9質量%含む。以下も同様である。)237gと炭酸コバルト(コバルトをCoO濃度に換算して61.5質量%含む。以下も同様である。)96gと炭酸ニッケル(ニッケルをNiO濃度に換算して55.0質量%含む。以下も同様である。)12gを、イオン交換水700mlに懸濁させ、この懸濁液を90℃に5時間、液容量が減少しないように適当な還流装置を施して加熱した後、リン酸(リンをP25濃度に換算して61.1質量%含む。以下も同様である。)22gとクエン酸99gを加えて溶解させ、含浸液aを作製した。含浸液aの組成等を表2に示す。
【0149】
<含浸液bの調製>
三酸化モリブデン242gと炭酸コバルト116gと炭酸ニッケル29gを、イオン交換水700mlに懸濁させ、この懸濁液を90℃に5時間、液容量が減少しないように適当な還流装置を施して加熱した後、リン酸22gとクエン酸131gを加えて溶解させ、含浸液bを作製した。含浸液bの組成等を表2に示す。
【0150】
<含浸液cの調製>
三酸化モリブデン232gと炭酸コバルト63gと炭酸ニッケル7gを、イオン交換水700mlに懸濁させ、この懸濁液を90℃に5時間、液容量が減少しないように適当な還流装置を施して加熱した後、リン酸21gとクエン酸64gを加えて溶解させ、含浸液cを作製した。含浸液cの組成等を表2に示す。
【0151】
<含浸液dの調製>
三酸化モリブデン244gと炭酸コバルト99gと炭酸ニッケル12gを、イオン交換水700mlに懸濁させ、この懸濁液を90℃に5時間、液容量が減少しないように適当な還流装置を施して加熱した後、リン酸71gとクエン酸102gを加えて溶解させ、含浸液dを作製した。含浸液dの組成等を表2に示す。
【0152】
<含浸液eの調製>
三酸化モリブデン236gと炭酸コバルト96gと炭酸ニッケル12gを、イオン交換水700mlに懸濁させ、この懸濁液を90℃に5時間、液容量が減少しないように適当な還流装置を施して加熱した後、リン酸11gとクエン酸98gを加えて溶解させ、含浸液eを作製した。含浸液eの組成等を表2に示す。
【0153】
<含浸液fの調製>
三酸化モリブデン237gと炭酸コバルト96gと炭酸ニッケル12gを、イオン交換水700mlに懸濁させ、この懸濁液を990℃に5時間、液容量が減少しないように適当な還流装置を施して加熱した後、リン酸22gとクエン酸165gを加えて溶解させ、含浸液fを作製した。含浸液fの組成等を表2に示す。
【0154】
<含浸液gの調製>
三酸化モリブデン237gと炭酸コバルト96gと炭酸ニッケル12gを、イオン交換水700mlに懸濁させ、この懸濁液を90℃に5時間、液容量が減少しないように適当な還流装置を施して加熱した後、リン酸22gとクエン酸53gを加えて溶解させ、含浸液gを作製した。含浸液gの組成等を表2に示す。
【0155】
<含浸液hの調製>
三酸化モリブデン237gと炭酸コバルト96gと炭酸ニッケル12gを、イオン交換水700mlに懸濁させ、この懸濁液を90℃に5時間、液容量が減少しないように適当な還流装置を施して加熱した後、リン酸22gとリンゴ酸165gを加えて溶解させ、含浸液hを作製した。含浸液hの組成等を表2に示す。
【0156】
<含浸液iの調製>
三酸化モリブデン196gと炭酸コバルト80gと炭酸ニッケル9gを、イオン交換水700mlに懸濁させ、この懸濁液を90℃に5時間、液容量が減少しないように適当な還流装置を施して加熱した後、リン酸19gとクエン酸81gを加えて溶解させ、含浸液iを作製した。含浸液iの組成等を表2に示す。
【0157】
以下に含浸液j、k、l、m、n、oの調製について記述するが、これらの含浸液j、k、l、mは比較例のみで用いた含浸液である。
【0158】
<含浸液jの調製>
三酸化モリブデン234gと炭酸コバルト95gと炭酸ニッケル12gを、イオン交換水700mlに懸濁させ、この懸濁液を90℃に5時間、液容量が減少しないように適当な還流装置を施して加熱した後、クエン酸162gを加えて溶解させ、含浸液jを作製した。含浸液jの組成等を表2に示す。
【0159】
<含浸液kの調製>
三酸化モリブデン237gと炭酸コバルト75gと炭酸ニッケル12gを、イオン交換水700mlに懸濁させ、この懸濁液を90℃に5時間、液容量が減少しないように適当な還流装置を施して加熱した後、リン酸43gを加えて溶解させ、含浸液kを作製した。含浸液kの組成等を表2に示す。
【0160】
<含浸液lの調製>
三酸化モリブデン249gと炭酸コバルト149gと炭酸ニッケル50gを、イオン交換水700mlに懸濁させ、この懸濁液を90℃に5時間、液容量が減少しないように適当な還流装置を施して加熱した後、リン酸23gとクエン酸176gを加えて溶解させ、含浸液lを作製した。含浸液lの組成等を表2に示す。
【0161】
<含浸液mの調製>
三酸化モリブデン244gと炭酸コバルト99gと炭酸ニッケル12gを、イオン交換水700mlに懸濁させ、この懸濁液を90℃に5時間、液容量が減少しないように適当な還流装置を施して加熱した後、リン酸66gとクエン酸101gを加えて溶解させ、含浸液mを作製した。含浸液mの組成等を表2に示す。
【0162】
<含浸液nの調製>
三酸化モリブデン237gと炭酸コバルト96gを、イオン交換水700mlに懸濁させ、この懸濁液を90℃に5時間、液容量が減少しないように適当な還流装置を施して加熱した後、リン酸32gとクエン酸89gを加えて溶解させ、含浸液nを作製した。含浸液nの物性を表2に示す。
【0163】
<含浸液oの調製>
三酸化モリブデン237gと炭酸ニッケル108gを、イオン交換水700mlに懸濁させ、この懸濁液を90℃に5時間、液容量が減少しないように適当な還流装置を施して加熱した後、リン酸32gとクエン酸89gを加えて溶解させ、含浸液oを作製した。含浸液oの物性を表2に示す。
【0164】
【表2】
なお、表2において、各元素の量(酸化物換算、質量%)は触媒基準の値である。金属の量(酸化物換算)は、酸化物を表示している列の右隣りの列に示している。
【0165】
<実施例1:水素化処理触媒の調製>
担体A 1000gに含浸液aを全量噴霧含浸させた後、200℃で乾燥し、更に電気炉にて550℃で1時間焼成して水素化処理触媒(以下、単に「触媒」ともいう。以下の実施例についても同様である。)を得た。
【0166】
<実施例2~実施例19:水素化処理触媒の調製>
既述のようにした調製した担体の種類と含浸液の種類とを後述の表3のように組み合わせ、その他は実施例1と同様にして、実施例2~実施例19の触媒を調製した。
【0167】
次に比較例について説明する。
【0168】
<比較例1~6、8:水素化処理触媒の調製>
既述のようにした調製した担体の種類と含浸液の種類とを後述の表3のように組み合わせ、その他は実施例1と同様にして、比較例1~6、8の触媒を調製した。
【0169】
<比較例7:水素化処理触媒の調製>
含浸液として含浸液aを用い、全量を無機複合酸化物担体A 1000gに噴霧含浸させた後、120℃で乾燥しその後に焼成せずに水素化処理触媒を得た。
【0170】
以上のようにして得られた実施例1~実施例19及び比較例1~8における各触媒の性状及び触媒性能についても表3に示す。
【0171】
<触媒の評価>
実施例1~19及び比較例1~8の各触媒について、触媒性能を評価した。
【0172】
(触媒性能の評価のための確認試験)
各触媒を固定床反応装置に充填し、触媒に含まれている酸素原子を脱離させて活性化するために、予備硫化処理した。この処理は、硫黄化合物を含む液体または気体を200℃~400℃の温度、常圧~100MPaの水素圧雰囲気下の管理された反応容器中で流通させることによって行われる。
【0173】
次いで、固定床流通式反応装置内に、減圧軽油(15℃における密度0.922g/cm3、硫黄分2.58質量%、窒素分0.080質量%)を150ml/時間の速度で供給して水素化脱硫処理を行い、水素化精製を行なった。その際の反応条件は、水素分圧が4.5MPa、液空間速度が1.5h-1、水素油比が250Nm3/klである。そして反応温度を350~400℃の範囲で変化させ、各温度における精製油中の硫黄分析を行い、精製油中の硫黄分が0.1%になる温度をそれぞれ求めた。この温度が370℃以下であれば合格、それを超えれば不合格と判断した。
【0174】
以上の確認試験の結果を、各触媒の性状及び触媒性能と共に表3に示す。
【0175】
(触媒の性状及び確認試験の評価結果)
実施例1~19の触媒単位表面積あたりのルイス酸量が0.80μmol/m2以上、ブレンステッド酸量が0.05μmol/m2未満であることから、触媒性能の指標である、精製油中の硫黄分が0.1%になる温度が370℃以下である。
【0176】
これに対して比較例1~5、7、8は、触媒単位表面積あたりのルイス酸量が少なく、活性が低下している(精製油中の硫黄分が0.1%になる温度が高い。)。
【0177】
比較例6は、担体中のゼオライト成分に起因して、ブレンステッド酸量が0.05μmol/m2であり、活性が低い。
【0178】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0179】
本発明の水素化処理触媒は、高い脱硫活性で炭化水素油を水素化処理することができるため、産業上極めて有用である。