(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池のためのポリアミドイミドバインダー
(51)【国際特許分類】
C08G 73/14 20060101AFI20231013BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20231013BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20231013BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20231013BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20231013BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20231013BHJP
C08K 3/105 20180101ALI20231013BHJP
【FI】
C08G73/14
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/13
C08L79/08 C
C08K3/04
C08K3/105
(21)【出願番号】P 2020550786
(86)(22)【出願日】2019-03-19
(86)【国際出願番号】 EP2019056759
(87)【国際公開番号】W WO2019179971
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2022-02-21
(32)【優先日】2018-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512323929
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ ユーエスエー, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ベンソン, ブライアン
(72)【発明者】
【氏名】ティルフォード, アール ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】ビーソ, マウリツィオ
(72)【発明者】
【氏名】ハモン, クリスティーヌ
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0155151(US,A1)
【文献】特開2017-076600(JP,A)
【文献】特開2013-089437(JP,A)
【文献】特開昭47-027296(JP,A)
【文献】特開2015-145483(JP,A)
【文献】特開2017-076468(JP,A)
【文献】特開2010-113870(JP,A)
【文献】特開昭48-102856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G73/00 - 73/26
C08L 1/00 -101/14
C08K 3/00 - 13/08
H01M 4/62
H01M 4/139
H01M 4/13
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0~50モル%の、式:
の繰り返し単位R
イミドと、
0~70モル%の、式:
の繰り返し単位R
アミド酸と、
30~100モル%の、式
の繰り返し単位R
Li塩とを含むリチウム化ポリアミドイミド(LiPAI)であって、但し、繰り返し単位R
イミド、R
アミド酸、及びR
Li塩が全体として、リチウム化ポリアミドイミド(LiPAI)中の50モル%超の繰り返し単位に相当することを条件とし、
式中、
Arは、
及び相当する任意選択的に置換された構造からなる群から選択される三価の芳香族基であり;
Xは、-O-、-C(O)-、-CH
2-、-C(CF
3)
2-、及び-(CF
2)
p-からなる群から選択され;
pは、1~5の整数であり;
Rは、
及び相当する任意選択的に置換された構造からなる群から選択される二価の芳香族基であり、並びに
Yは、-O-、-S-、-SO
2-、-CH
2-、-C(O)-、-C(CF
3)
2-、-(CF
2)
q-からなる群から選択され、qは、0~5の整数である、リチウム化ポリアミドイミド(LiPAI)。
【請求項2】
前記繰り返し単位R
イミド、R
アミド酸、及びR
Li塩がそれぞれ、式:
の単位である、請求項1に記載のリチウム化ポリアミドイミド(LiPAI)。
【請求項3】
前記繰り返し単位R
イミド、R
アミド酸、及びR
Li塩がそれぞれ、式:
の単位である、請求項1に記載のリチウム化ポリアミドイミド(LiPAI)。
【請求項4】
前記繰り返し単位R
イミド、R
アミド酸、及びR
Li塩がそれぞれ、式:
の単位である、請求項1に記載のリチウム化ポリアミドイミド(LiPAI)。
【請求項5】
繰り返し単位R
アミド酸の量が0~50モル%の範囲であり、及び繰り返し単位R
Li塩の量が50~100モル%の範囲である、請求項1~4のいずれか一項に記載のリチウム化ポリアミドイミド(LiPAI)。
【請求項6】
前記リチウム化ポリアミドイミド(LiPAI)が、30モル%未満の繰り返し単位R
イミドを含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のリチウム化ポリアミドイミド(LiPAI)。
【請求項7】
1,000g/モル~10,000g/モルの範囲の分子量を有する、
請求項1~6のいずれか一項に記載のリチウム化ポリアミドイミド(LiPAI)。
【請求項8】
ポリアミドイミド(PAI)をリチウム塩と溶媒中
で接触させて、リチウム化ポリアミドイミド(LiPAI)を形成する工程を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のリチウム化ポリアミドイミド(LiPAI)を製造する方法。
【請求項9】
前記リチウム塩が、炭酸リチウム、水酸化リチウム、炭酸水素リチウムのうちの少なくとも1つ、及びそれらの組合せからなる
群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
a)請求項1~7のいずれか一項に記載のリチウム化ポリアミドイミド(LiPAI)と、
b)電極活物質と、
c)任意選択的に少なくとも1つの電気導電性添加剤と、
d)水と
を含む、電極形成組成物。
【請求項11】
(i)金属基材の少なくとも1つの表面を請求項10に記載の電極形成組成物と接触させる工程と、
(ii)前記電極形成組成物を150℃以下の温度で乾燥させる工程と、
(iv)乾燥された電極形成組成物を前記金属基材上で圧縮して負極を形成する工程とを含む、負極を製造する方法。
【請求項12】
電極の総重量に基づいて:
- 0.5~15重量
%の、請求項1~7のいずれか一項に記載のリチウム化ポリアミドイミド(LiPAI)を含むLiPAIバインダーと、
- 75~95重量
%の炭素系材料と、
- 3~50重量
%のケイ素系材料と、
- 0~5重量
%の電気導電性添加剤とを含む負極。
【請求項13】
前記炭素系材料がグラファイト及びグラフェンのうちの少なくとも1
つから選択され、前記ケイ素系材料がケイ素、アルコキシシラン、アミノシラン、炭化ケイ素及び酸化ケイ素のうちの少なくとも1
つから選択され、及び前記電気導電性添加剤がカーボンブラックである、請求項12に記載の負極。
【請求項14】
前記LiPAIが未硬化LiPAIである、請求項12又は13に記載の負極。
【請求項15】
請求項12~14のいずれか一項に記載の負極を含むリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年3月22日に出願された米国仮特許出願第62/646694号に対する優先権を主張するものであり、この出願の全内容はあらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は一般的に、リチウム化ポリアミドイミド(LiPAI)ポリマー及びリチウムイオン電池の負極におけるバインダーとしてのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
現在のリチウムイオン電池は、負極の容量によって電荷のそれらの蓄積において限られている。次世代のエネルギー蓄積システムを作る最も直接的な経路はケイ素をグラファイト負極に導入することによってリチウムイオン電池の貯蔵容量を著しく増加させることであるという全体図がある。ケイ素はグラファイトよりもはるかに多くのリチウムを可逆的に蓄えることができ、そのため、少量が負極にブレンドされて顕著な容量の増加をもたらすが、現在のバインダーは、充電サイクルの安定性の低下のために電池寿命が著しく低下しないうちに限られたケイ素配合量(<20重量%)を可能にするにすぎない。多量のリチウムが充電及び放電の間に貯蔵及び排出される結果としてケイ素粒子が著しく膨張及び収縮するので、更なる容量の改良は限られている。これは、クラッキング及び粒子の摩損をもたらす機械的応力を生じ、セル内のイオンの行程を妨げ、そして次にそれは電池のサイクル経過によって電池性能を減少させる。
【0004】
1つの方法は、負極内のバインダーの性能を改良することに焦点を合わせている。バインダーは、集電体と、負極と正極とを分けるセパレーター膜との両方と接触している連続した層においてグラファイトとケイ素粒子とを一緒に保持する。従来より、全てのグラファイト負極は、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)に依拠している。PVDFはグラファイト粒子と良好に相互作用するが、ケイ素粒子によく付着せず、それによってバインダーは、充電サイクルの間にケイ素の膨張及び収縮によって引き起こされる機械的応力により不良の影響を受けやすくなる。
【0005】
ポリアクリル酸(PAA)、及びカルボキシメチルセルロース並びにスチレンブタジエン(CMC-SBR)に基づいた新規なバインダーが研究されてきたが、しかしながらそれらは脆く、バインダー母材それ自体の中に破壊点をつくることが見出されている。
【0006】
ポリアミドイミド(PAI)はケイ素へのより良い接着性を示すが、依然としてそれらの広範囲にわたる商業使用は、一つにはそれらの独特の加工要件のために妨げられている。大抵のPAIは、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの有機溶媒に可溶性であるにすぎず、バインダーとしてのそれらの最大の可能性を利用するために、それらを徐々に高温(例えば>150~300℃)に硬化させなければならない。この加工要件は費用がかかり、電池の製造プロセス全体について問題の多いことがある。
【0007】
酸塩化物プロセスによってPAIを製造することにより、副生成物として塩化水素を生成する。PAIが電池の電極において使用される場合、除去されないままにされると、塩化水素は腐蝕を引き起こし得る。特開2015145483A2号公報(ユニチカ)は、ジアミン1モル当たり水酸化リチウム又は炭酸リチウムなどのリチウム塩1~1.02モルを、PAIを製造するために使用される反応混合物に添加し、それによって塩化水素副生成物を塩化リチウムに変換することによってこの問題に対処する。この文献によって記載される方法において、リチウム塩からのリチウムイオンの全て又は大部分は、塩化物に結合しており、したがって、PAI中に任意のアミド酸基を有する塩を形成するために利用可能でない。さらに、この文献は、PAIの水溶液を使用して負極を製造することを開示していない。
【0008】
米国特許出願公開第2012/0088150号明細書(SAMSUNG)は一般的に、リチウムイオン二次電池のためのPAI系バインダーを含有する電極を目的としており、そこでポリアミドイミド(PAI)系バインダーを溶解することができる溶媒によって電極から抽出される成分を含有する組成物が熱分解-ガスクロマトグラフィーによって分析されるとき、1,3-ベンゼンジアミンのピークは観察されない。この文献は、とりわけ、リチウム化PAIを開示していない。
【0009】
米国特許出願公開第2015/0044578号明細書(EI DU PONT DE NEMOURS AND CO.)は、リチウムイオン電池のカソードにおいて使用するための特定のPAIを含有するバインダー前駆体組成物を目的としている。この文献は一般的に、イミド化されていないか又は部分的にイミド化されたバインダー前駆体組成物の酸部位は好ましくはリチウム塩の非水溶液を使用して、接触によってリチウムなどのカチオンと任意選択的に交換され得ることを開示するが、具体的な量は提供されていない。可能性がある二無水物及びジアミンの長いリストが記載されている。しかしながらトリメリット酸無水物一酸塩化物(TMAC)は記載されておらず、非リチウム化ピロメリット酸二無水物(PMDA)-オキシジアニリン(ODA)コポリマーだけが実際に記載及び例示される。また、この文献は、とりわけ、PAIが、それらの非常に異なった化学的性質を有する、負極内のバインダーとして使用され得ることを提案していない。
【0010】
特開2013-089437号公報(東レ株式会社)には、いくつかの実施形態においてPAIとリチウム塩とを含有し得るリチウムイオン電池のアノードのためのバインダー材料が開示されている。特に、この文献は、PAI、負極活物質、及びリチウム塩を含有する溶液の例を提供する。しかしながら、PAIは高度にイミド化され、バインダー溶液は非水性である。
【0011】
米国特許第8,734,989号明細書(SAMSUNG SDI)は一般的に、電極の膨張率を低減すると共にサイクル寿命を改良するために負極活物質層と明確に異なっている高強度バインダー層を含有する再充電可能リチウム電池のための負極を目的としている。いくつかの実施形態において、高強度バインダーは、多様なポリマーの長いリストから選択されるポリマーの他にリチウム塩を含有することができる。ポリマーの1つは、一般的に「アミドイミド系ポリマー」として記載されている。しかしながら、この文献は、高強度バインダーが少なくとも10%の結晶度及び100℃以下のガラス転移温度(Tg)を有さなければならないことを示し、PAIは例示されていない。
【0012】
米国特許出願公開第2017/0155151号明細書には、初期効率の減少を防ぐためにリチウムイオン電池用のバインダーにおいて使用するための水溶性のリチウム化ポリアミド酸が開示されている。この文献は、異なった化学構造及び性質を有する、PAIを開示しない。さらに、説明されるリチウム化ポリアミド酸は高度にイミド化され、300g/当量未満の酸当量を有し、10,000g/モル超の分子量を有し、具体的には水酸化リチウムを使用して調製される。
【0013】
したがって、水などの低コストで環境にやさしい溶媒に可溶性であり、且つ高温硬化の要件なしに高いサイクル安定性を好ましくは達成する負極のためのPAIバインダーが必要とされている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例E11及びE12並びに比較例C13~C17の完成コインセル電池の容量維持率を示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
リチウムイオン電池の容量維持率は電極のバインダーとしてリチウム化ポリアミドイミド(LiPAI)ポリマーを使用することによって著しく改良され得ることが驚くべきことにここに見出された。さらに、本発明の電極は、環境にやさしい水溶液を使用して製造され得、いくつかの実施形態においては、LiPAIの高温硬化を必要とせずに予想外に良い容量維持率を達成する。
【0016】
以下に詳細に説明されるように、例示的な実施形態は、LiPAI;LiPAIを製造する方法;LiPAIと、電極活物質と、任意選択的に少なくとも1つの電気導電性添加剤と、水とを含む電極形成組成物;電極形成組成物を用いて負極を製造する方法;及び負極を含むリチウムイオン電池を目的としている。
【0017】
リチウム化ポリ(アミドイミド)(LiPAI)
本明細書中で用いられるとき、用語「リチウム化ポリアミドイミド(LiPAI)」は、
0~50モル%の、式:
の少なくとも1つの繰り返し単位R
イミドと、
0~70モル%の、式:
の少なくとも1つの繰り返し単位R
アミド酸と、
30~100モル%の、式:
の少なくとも1つの繰り返し単位R
Li塩とを含む任意のポリマーを意味するが、但し、繰り返し単位Rイミド、R
アミド酸、及びR
Li塩が全体として、LiPAIの繰り返し単位の、50モル%超、好ましくは少なくとも60モル%、75モル%、90モル%、95モル%、99モル%に相当することを条件とする。
【0018】
上記のR
イミド、R
アミド酸,及びR
Li塩の式を参照して:
Arは、
及び相当する任意選択的に置換された構造からなる群から選択される三価の芳香族基である。好ましくは、Arは、
である。
Xは、-O-、-C(O)-、-CH
2-、-C(CF
3)
2-、及び-(CF
2)
p-からなる群から選択され、pは1~5の整数である。
Rは、
及び相当する任意選択的に置換された構造からなる群から選択される二価の芳香族基である。好ましくは、Rは、
Yは、-O-、-S-、-SO
2-、-CH
2-、-C(O)-、
-C(CF
3)
2-、-(CF
2)
q-からなる群から選択され、qは、0~5の整数である。好ましくはYは-O-又は
-CH
2-であり、及び最も好ましくは、Yは-O-である。
【0019】
以下の式において、浮遊アミド結合は、アミドが環上の浮遊アミド結合に対して最も近い炭素のいずれかに結合していることができることを示す。言い換えれば、各式において
は両方
を表す。
【0020】
いくつかの実施形態において、LiPAI中の繰り返し単位R
イミドは、式:
の少なくとも1つの繰り返し単位から選択される。
【0021】
いくつかの実施形態において、LiPAI中の繰り返し単位R
アミド酸は、式:
の少なくとも1つの繰り返し単位から選択される。
【0022】
いくつかの実施形態において、LiPAI中の繰り返し単位R
Li塩は、式:
の少なくとも1つの繰り返し単位から選択される。
【0023】
いくつかの実施形態において、LiPAI中の繰り返し単位R
イミド、R
アミド酸、及びR
Li塩はそれぞれ、式:
の単位である。
【0024】
好ましくは、LiPAI中の繰り返し単位R
Li塩は、式:
の単位である。
【0025】
いくつかの実施形態において、LiPAI中の繰り返し単位R
イミド、R
アミド酸、及びR
Li塩はそれぞれ、式:
の単位である。
【0026】
いくつかの実施形態において、LiPAI中の繰り返し単位R
イミド、R
アミド酸、及びR
Li塩はそれぞれ、式:
の単位である。
【0027】
いくつかの実施形態において、LiPAIは、繰り返し単位R
イミド、R
アミド酸、及びR
Li塩のそれぞれの1つ超、例えば2つを含む。したがって、いくつかの態様においてLiPAIは、
a)式:
の繰り返し単位R
イミドと、
b)式:
の繰り返し単位R
アミド酸と、
c)式:
の繰り返し単位R
Li塩とを含む。
【0028】
いくつかの実施形態において、LiPAIは、50モル%未満、好ましくは49モル%未満、45モル%、40モル%、30モル%、20モル%、10モル%、5モル%、2モル%、1モル%のRイミド繰り返し単位を含有する。いくつかの実施形態において、LiPAIは、繰り返し単位Rイミドを含有しない。
【0029】
いくつかの実施形態において、LiPAIは、70モル%未満、好ましくは60モル%未満、50モル%、40モル%、30モル%、20モル%、10モル%、5モル%、2モル%、1モル%の繰り返し単位Rアミド酸を含有する。
【0030】
好ましくは、LiPAIは、少なくとも30モル%、35モル%、40モル%、45モル%、50モル%、60モル%、70モル%、80モル%、90モル%、95モル%、99モル%の繰り返し単位RLi塩を含有する。最も好ましくは、LiPAIの繰り返し単位のすべてが繰り返し単位RLi塩である。
【0031】
いくつかの実施形態において、モル比、Rイミド/(Rアミド酸+RLi塩)は1.0以下、好ましくは0.9、0.8.0.7、0.6、0.5、0.4.0.3、0.2、0.1以下である。
【0032】
いくつかの実施形態において、モル比、RLi塩/(Rイミド+Rアミド酸)は0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0以上である。例えば、モル比、RLi塩/(Rイミド+Rアミド酸)は好ましくは2超、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、99である。
【0033】
好ましい実施形態において、繰り返し単位Rアミド酸の量は0~50モル%の範囲であり、繰り返し単位RLi塩の量は50~100モル%の範囲である。
【0034】
LiPAI中の繰り返し単位Rアミド酸、及びRLi塩の相対量の定量は、任意の適した方法によって実施することができる。例えば繰り返し単位Rイミドの量(イミド化度)はNMRによって評価され得、繰り返し単位Rアミド酸、及びRLi塩の量はNMR、元素分析、又は滴定によって評価され得る。
【0035】
LiPAIは、酸1当量(g/eq)当たり300グラム超の酸当量を有する。好ましくは、LiPAIは、325g/eq超、より好ましくは350g/eq超、及び最も好ましくは少なくとも375g/eq以上の酸当量を有する。
【0036】
LiPAI好ましくは水可溶性である。本明細書中で用いられるとき「水可溶性」又は「水に可溶性」は、LiPAIの総重量に基づいてLiPAIの少なくとも99重量%が脱イオン水中に溶解して、穏やかに攪拌しながら23℃の均質な溶液を形成することを意味する。
【0037】
いくつかの実施形態において、LiPAIは、少なくとも1,000g/モル、好ましくは少なくとも2,000g/モル、より好ましくは少なくとも4,000g/モルの数平均分子量を有する。いくつかの実施形態において、LiPAIは、多くとも10,000g/モル、好ましくは少なくとも8,000g/モル、より好ましくは少なくとも6,000g/モルの数平均分子量を有する。
【0038】
上に詳述したLiPAIは、以下に説明されるようなリチウムイオン電池において負極のためのバインダーの調製において使用され得る。
【0039】
リチウム化ポリ(アミドイミド)(LiPAI)を製造する方法
例示的な実施形態はまた、上述のLiPAIを製造する方法を目的としている。
【0040】
本明細書中で用いられるとき、「ポリアミドイミド(PAI)」は、
0~50モル%の、式:
の少なくとも1つの繰り返し単位R
イミドと、
50~100モル%の、式:
の少なくとも1つの繰り返し単位R
アミド酸とを含む任意のポリマーを意味し、但し、繰り返し単位R
イミド及びR
アミド酸が全体として、PAI中の50モル%超、好ましくは少なくとも60モル%、75モル%、90モル%、95モル%、99モル%の繰り返し単位に相当することを条件とし、Ar及びRは上で定義した通りである。
【0041】
いくつかの実施形態において、PAI中の繰り返し単位R
イミドは、式:
の少なくとも1つの繰り返し単位から選択される。
【0042】
いくつかの実施形態において、PAI中の繰り返し単位R
アミド酸は、式:
の少なくとも1つの繰り返し単位から選択される。
【0043】
いくつかの実施形態において、PAI中の繰り返し単位R
イミド及びR
アミド酸はそれぞれ、式:
の単位である。
【0044】
いくつかの実施形態において、PAI中の繰り返し単位R
イミド、及びR
アミド酸はそれぞれ、式:
の単位である。いくつかの実施形態において、PAI中の繰り返し単位R
イミド、及びR
アミド酸はそれぞれ、式:
の単位である。
【0045】
ポリアミドイミドポリマーは、商標、TORLON(登録商標)PAIとしてSolvay Specialty Polymers USA,L.L.C.から入手可能である。
【0046】
いくつかの実施形態において、PAIは、50モル%未満、好ましくは49モル%未満、45モル%、40モル%、30モル%、20モル%、10モル%、5モル%、2モル%、1モル%のRイミド繰り返し単位を含有する。最も好ましくはPAIは繰り返し単位Rイミドを含有しない。
【0047】
いくつかの実施形態において、PAIは、少なくとも50モル%、好ましくは少なくとも60モル%、70モル%、80モル%、90モル%、95モル%、99モル%、及び最も好ましくは100モル%の繰り返し単位Rアミド酸を含有する。
【0048】
上に詳述したPAIは、上述したようなLiPAIの調製におけるように使用され得る。
【0049】
PAIコポリマーは、当該技術分野で公知の方法に従って製造することができる。例えば、PAIポリマーを調製するための方法は、英国特許第1,056,564号明細書、米国特許第3,661,832号明細書及び米国特許第3,669,937号明細書に詳細に開示されている。
【0050】
PAIコポリマーは、特に、トリメリット酸無水物及びトリメリット酸無水物一酸ハロゲン化物から選択される少なくとも1種の酸性モノマーと、ジアミン及びジイソシアネートから選択される少なくとも1種のコモノマーとの重縮合反応を含む方法によって製造することができる。いくつかの実施形態において、少なくとも1つの酸性モノマーの、コモノマーに対するモル比は1:1である。
【0051】
トリメリット酸無水物一酸ハロゲン化物の中でも、トリメリット酸無水物一酸塩化物(TMAC)が好ましい。
【0052】
重合したとき、酸性モノマーはイミド形態又はアミド酸形態のどちらかで存在し得る。
【0053】
コモノマーは、1つ又は2つの芳香環を含むことができる。好ましくは、コモノマーは、ジアミンである。より好ましくは、ジアミンは、4,4’-ジアミノジフェニルメタン(MDA)、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、m-フェニレンジアミン(MPDA)、及びそれらの組合せからなる群から選択される:
【0054】
TMAC-ODAコポリマーを製造する例が実施例1において以下に説明される。
【0055】
LiPAIは、アミド酸基をリチウム塩で中和することによってPAIコポリマーから調製され得る。したがって、いくつかの態様において、本発明には、PAIをリチウム塩と溶媒中で接触させる工程を含むPAIをリチウム化する方法が含まれる。
【0056】
リチウム塩は、アミド酸基を中和することができるリチウムの任意の塩であり得る。いくつかの実施形態において、リチウム塩は、炭酸リチウム、水酸化リチウム、炭酸水素リチウム、及びそれらの組合せからなる群、好ましくは炭酸リチウムから選択される。いくつかの実施形態において、リチウム塩は水酸化リチウムを含有しない。
【0057】
溶媒は、リチウム塩及び得られたLiPAIを溶解することができる任意の溶媒であり得る。好ましくは溶媒は、水、NMP、及びアルコール、例えば、メタノール、イソプロパノール、及びエタノールなどのうちの少なくとも1つから選択される。好ましくは、溶媒は、5重量%未満、好ましくは2重量%未満、好ましくは1重量%未満のNMPを含有する。より好ましくは、溶媒はNMPを含有しない。最も好ましくは、溶媒は水である。
【0058】
好ましくは溶媒中のリチウム塩の濃度は、溶媒及びリチウム塩の総重量に基づいて3~30重量%、好ましくは5~30重量%、より好ましくは10~30重量%の範囲である。
【0059】
いくつかの実施形態において、溶媒中のリチウム塩の濃度は、少なくとも1.5当量、2当量、2.5当量、3当量、4当量のリチウムを酸基に対して提供する。いくつかの実施形態において、溶媒中のリチウム塩の濃度は、最大で5当量、好ましくは最大で4当量のリチウムを酸基に対して提供する。
【0060】
いくつかの実施形態において、方法は、リチウム塩及びPAI(又はLiPAI)の溶液を50℃~90℃、好ましくは60℃~80℃、最も好ましくは65℃~75℃の温度に、好ましくは15分~6時間、好ましくは1~2時間の範囲の時間にわたって加熱する工程をさらに含む。
【0061】
いくつかの実施形態において、方法は、リチオ化後に反応混合物に酸の少なくとも1つの供給源を、例えば、鉱酸として又は酢酸、蟻酸、蓚酸、安息香酸などの有機酸として、又は酸部位を有するポリマーなどの酸生成種として添加することによって上に詳述されたように得られたLiPAIのpHを低下させる工程をさらに含む。
【0062】
リチオ化後、溶液中のLiPAIの濃度は好ましくは、LiPAI及び溶媒の総重量に基づいて1~20重量%、好ましくは5~15重量%、最も好ましくは5~10重量%の範囲である。
【0063】
LiPAIは、リチウム化溶液から固体として単離され得、後で使用するために任意選択的に貯蔵され得る。また、固体LiPAIを水に溶解(又は再溶解)させて、以下に説明される水性電極形成組成物を調製することができる。しかしながら、好ましくは、LiPAIを含有する溶液は、以下に説明されるような電極形成組成物を調製する際に、任意選択的に水でさらに希釈して、直接に使用され得る水溶液である。
【0064】
LiPAIを含有する電極形成組成物
望ましくはLiPAIをリチウムイオン二次電池の負極のための水性電極形成組成物中に混入することができる。
【0065】
電極形成組成物は、上述したようなLiPAIと、電極活物質と、任意選択的に少なくとも1つの電気導電性添加剤と、水とを含む。電極形成組成物は好ましくは、水性分散体、好ましくは均質に分散された水性分散体の形態である。
【0066】
電極活物質は、炭素系材料及びケイ素系材料を含む。
【0067】
いくつかの実施形態において、炭素系材料は、例えば、天然又は人造のグラファイトなどのグラファイト、グラフェン、又はカーボンブラックであってもよい。これらの材料は、単独で使用されてもよく、これらの2種以上の混合物として使用されてもよい。炭素系材料は好ましくはグラファイトである。
【0068】
ケイ素系材料は、ケイ素、アルコキシシラン、アミノシラン、炭化ケイ素及び酸化ケイ素からなる群から選択される1つ以上であり得る。好ましくは、ケイ素系材料はケイ素である。
【0069】
任意選択の電気導電性添加剤は、カーボンブラック、グラファイト微粉、カーボンナノチューブ、グラフェンなどの炭質材料、又はニッケル若しくはアルミニウムなどの金属の繊維、又は微粉若しくは微細繊維から選択され得る。任意選択の電気導電性添加剤は好ましくはカーボンブラックである。カーボンブラックは、例えば、商標名、Super P(登録商標)又はKetjenblack(登録商標)として入手可能である。存在するとき、電気導電性添加剤は上述の炭素系材料とは異なっている。
【0070】
いくつかの実施形態において、電極形成組成物(及び/又は以下に説明される電極)は、酸基に対して1.5~5当量、好ましくは2当量~5当量、2.5当量~5当量、3当量~4当量の範囲の過剰量のリチウム塩を含有する。
【0071】
さらに、本発明の電極形成組成物は、少なくとも1つの増粘剤を含有することができ;存在するとき、増粘剤(レオロジー調整剤とも称される)の量は、特に限定されず、一般に、組成物の総重量に対して、0.1~10重量%、好ましくは0.5~5重量%の範囲である。増粘剤は、キャスティング法のための組成物の適切な粘度を提供しながら、本発明の水性組成物からの粉末状電極材料の沈降を防ぐか又は遅くするために一般に添加される。好適な増粘剤の非限定的な例としては、とりわけ、部分中和されたポリ(アクリル酸)又はポリ(メタクリル酸)、カルボキシル化メチルセルロースのようなカルボキシル化アルキルセルロースなどの有機増粘剤並びにモンモリロナイト及びベントナイトのような天然粘土、ラポナイトのような人造粘土及びシリカ及びタルクのような他のものなどの無機増粘剤が挙げられる。
【0072】
負極を製造する方法
負極を製造するための方法において電極形成組成物を使用することができる。この方法は、
(i)金属基材の少なくとも1つの表面を電極形成組成物と接触させる工程と、
(ii)電極形成組成物を150℃以下の温度で乾燥させる工程と、
(iii)乾燥された電極形成組成物を金属基材上で圧縮して負極を形成する工程とを含む。
【0073】
いくつかの実施形態において、金属基材の少なくとも1つの表面を電極形成組成物と接触させる工程には、金属基材の少なくとも1つの表面上に電極形成組成物をキャスティング、印刷、又はロール・コーティングする工程が含まれる。
金属基材は、一般に、銅、アルミニウム、鉄、ステンレス鋼、ニッケル、チタン又は銀などの金属でできた箔、メッシュ又はネットである。
【0074】
圧縮工程(iii)には、負極のための目標多孔度及び密度を達成するためにカレンダリングが含まれ得る。いくつかの実施形態において金属基材上の乾燥された電極形成材料は、25℃~130℃の範囲、好ましくは約60℃の温度でホットプレスされる。
【0075】
負極のための好ましい目標多孔度は、15%~40%、好ましくは25%~30%の範囲である。負極の空隙率は、電極の測定された密度と理論密度との間の比率の1の補数として計算され、
- 測定される密度は、質量を24mmに等しい直径と測定された厚さとを持つ負極の円形部分の体積で割った値で与えられ;
- 負極の理論密度は、電極の構成要素の密度に電極配合物のそれらの質量比を掛けた積の合計として計算される。
【0076】
LiPAIを含有する負極
いくつかの実施形態は、上述したような方法によって得られる負極を目的としている。
【0077】
負極は好ましくは、電極の総重量に基づいて:
- 0.5~15重量%、好ましくは0.5~10重量%のLiPAIバインダーと、
- 75~95重量%、好ましくは85~90重量%の炭素系材料と、
- 3~50重量%、好ましくは10~50重量%のケイ素系材料と、
- 0~5重量%、好ましくは0.5~2.5重量%、より好ましくは約1重量%の電気導電性添加剤と、を含む。
【0078】
いくつかの実施形態において、負極は、電極の総重量に基づいて0.5~5重量%、好ましくは0.5~3重量%のLiPAIを含有する。
【0079】
いくつかの態様において、負極は、20~50重量%、好ましくは30~50重量%のケイ素系材料を含有する。
【0080】
いくつかの実施形態において、本発明の負極は未硬化である。本明細書中で用いられるとき「未硬化」は、LiPAI(例えば、電極又は電極形成組成物において)が150℃超の硬化温度に暴露されていないことを意味する。未硬化電極中のLiPAIは、最大で10,000g/モル、好ましくは最大で9,000g/モル、8,000g/モル、7,000g/モルの数平均分子量を有することができる。
【0081】
代替実施形態において、本発明の負極は硬化される。本明細書中で用いられるとき「硬化した」は、LiPAI(例えば、電極又は電極形成組成物において)が150℃超の硬化温度、好ましくは150℃~300℃に暴露されていることを意味する。硬化した電極中のLiPAIは、8,000g/モル超、好ましくは10,000g/モル超の数平均分子量を有することができる。
【0082】
上述の分子量を有するLiPAIは、より高い分子量のポリマーよりも容易に加工される。
【0083】
本発明の負極、特に未硬化負極は、比較用の負極バインダーを使用する負極よりもかなり大きい容量維持率を示すことを本出願人は驚くべきことに見出した。
【0084】
負極を含む電池
本発明の負極は、当業者に公知の標準的方法によって調製され得る、二次電池のリチウムイオンにおいて使用するために特に適している。
【0085】
したがって、本発明の実施形態は、正極、及び電解質、及びセパレーターと一緒に本発明の負極を含むリチウムイオン二次電池を目的としている。
【0086】
いくつかの実施形態において、本発明の電池は、1.5Vの正のカットオフ及び0.05Vの負のカットオフで50回の充電/放電10h/10hサイクル後に少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%の電池の初期容量に基づいた容量維持率のパーセントを示す。
【0087】
いくつかの実施形態において、本発明の電池は、25回の充電/放電サイクル後の場合と比較したとき、上述の充電/放電サイクルの50回後に(電池の初期容量に基づいた)容量維持率のパーセントの2%以下の変化を示す。
【0088】
以下の非限定的な実施例において例示的な実施形態をこれから説明する。
【実施例】
【0089】
原材料
以下の原材料を以下の実施例において使用した:
Solvay Specialty Polymers USA,LLCから入手可能なTorlon(登録商標)PAI4000T及びAI-50;
Aldrichから入手可能なトリメリット酸クロリド(TMAC),オキシジアニリン(ODA)及びm-フェニレンジアミン(MPDA);
VWR International又はSigma Aldrichから入手可能なN-メチルピロリドン(NMP);
Sigma-Aldrichから入手可能な炭酸リチウム;
BTRからBTR450-Bとして市販されているケイ素/炭素(7.25%のケイ素含有量を有する、Siとグラファイトとの混合物)。理論容量は450mAh/gである;
Imerys S.AからSC45として入手可能なカーボンブラック;
Nippon PaperからMAC 500LCとして市販のカルボキシメチルセルロース(CMC);
ZEON CorporationからZeon(登録商標)BM-480Bとして入手可能なスチレンブタジエンゴム(SBR)懸濁液(40重量%水溶液);
Sigma Aldrichから入手可能なポリ(アミド酸)水溶液(35%w/w);
BASFからSelectilyte(商標)LP30として入手可能な、エチレンカーボネート:ジメチルカーボネート=1:1重量パーセント比;
Sigma Aldrichから入手可能なフルオロエチレンカーボネート(F1EC);及び
Sigma Aldrichから入手可能なビニレンカーボネート。
【0090】
実施例1a:TMAC-ODA(50-50)PAIコポリマーの調製
ODAモノマー(60.0g、0.3モル)を、オーバーヘッド機械的攪拌機を備えた4首ジャケット付き丸底フラスコに入れた。NMP(250mL)をフラスコに入れ、混合物を窒素雰囲気下で弱く攪拌しながら10o℃に冷却した。フラスコに加熱添加漏斗を取り付け、それにTMAC(64.0g、0.3モル)を入れ、最低100℃に加熱した。溶融TMACをNMP中のジアミンの溶液に、激しく撹拌しながら40℃を超えないように十分な速度で添加した。添加が終了すると、外部加熱を適用して35~40℃に2時間の間維持した。追加のNMP(50mL)を添加し、反応混合物を500mLビーカー内に排出した。ポリマー溶液をステンレス鋼高剪断ミキサー内の水(4000mL)にゆっくりと添加した。沈殿したポリマーを濾過し、水で複数回洗浄して、残留溶媒及び酸副生成物を除去した。酸価滴定によって測定されるイミド化度は50モル%以下であった。
【0091】
実施例1b:(TMAC-ODA)90(TMAC-MPDA)10PAIコポリマーの調製
ODA(55.7g、0.28モル)及びMPDAモノマー(3.3g、0.031モル)を、オーバーヘッド機械的攪拌機を備えた4首ジャケット付き丸底フラスコに入れた。NMP(290mL)をフラスコに入れ、混合物を窒素雰囲気下で弱く攪拌しながら10℃に冷却した。フラスコに加熱添加漏斗を取り付け、それにTMAC(65.4g、0.31モル)を入れ、最低100o℃に加熱した。溶融TMACをNMP中のジアミンの溶液に、激しく撹拌しながら40oCを超えないように十分な速度で添加した。添加が終了すると、外部加熱を適用して35~40℃に2時間の間維持した。追加のNMP(50mL)を添加し、反応混合物を500mLビーカー内に排出した。ポリマー溶液をステンレス鋼高剪断ミキサー内の水(4000mL)にゆっくりと添加した。沈殿したポリマーを濾過し、水で複数回洗浄して、残留溶媒及び酸副生成物を除去した。酸価滴定によって測定されるイミド化度は50モル%以下であった。
【0092】
LiPAIの水溶液の調製のための一般的な手順
脱イオン水(175~250mL)をオーバーヘッド機械的攪拌機を備えた4首ジャケット付き丸底フラスコに入れた。炭酸リチウムの必要とされる量を添加し、溶液を70℃に加熱した。激しく攪拌しながら、実施例1a又は1bのPAI樹脂(固形分20.7%で60.5g)を徐々に添加し、さらに添加する前に各部分を溶解させた。全ポリマーを反応器に入れた後、加熱を1~2時間続け、その時に均質な溶液を排出した。電極スラリーを調製する間に溶液をさらに希釈して、電極中の所望のバインダー配合量を達成した。
【0093】
実施例2:TMAC-ODA(50-50)コポリマー-5重量%のポリマー及び3当量のリチウム
上に詳述されたようなLiPAIの水溶液の調製のための一般的な手順に従い、水(186mL)に溶解された実施例1aのTMAC-ODA(50-50)PAI(固形分20.7%で60.5g)及び炭酸リチウム(3.70g、0.050モル)を使用した。
【0094】
実施例3:TMAC-ODA(50-50)コポリマー-5重量%のポリマー及び1.5当量のリチウム
上に詳述されたようなLiPAIの水溶液の調製のための一般的な手順に従い、水(188mL)に溶解された実施例1aのTMAC-ODA(50-50)PAI(固形分20.7%で60.5g)及び炭酸リチウム(1.85g、0.025モル)を使用した。
【0095】
実施例4:TMAC-ODA(50-50)コポリマー-5重量%のポリマー及び4当量のリチウム
上に詳述されたようなLiPAIの水溶液の調製のための一般的な手順に従い、水(188mL)に溶解された実施例1aのTMAC-ODA(50-50)PAI(固形分20.7%で60.5g)及び炭酸リチウム(4.69g、0.067モル)を使用した。
【0096】
実施例5:TMAC-ODA(50-50)コポリマー-5重量%のポリマー及び5当量のリチウム
上に詳述されたようなLiPAIの水溶液の調製のための一般的な手順に従い、水(188mL)に溶解された実施例1aのTMAC-ODA(50-50)PAI(固形分20.7%で60.5g)及び炭酸リチウム(6.14g、0.083モル)を使用した。
【0097】
実施例6:(TMAC-ODA)90(TMAC-MPDA)10PAIコポリマー-5重量%のポリマー及び3当量のリチウム
上に詳述されたようなLiPAIの水溶液の調製のための一般的な手順に従い、水(194mL)に溶解された実施例1bの(TMAC-ODA)90(TMAC-MPDA)10PAIコポリマー(固形分23.9%で52.4g)及び炭酸リチウム(3.79g、0.051モル)を使用した。
【0098】
実施例7:Torlon(登録商標)PAIAI50-5重量%のポリマー及び3当量のリチウム
上に詳述されたようなLiPAIの水溶液の調製のための一般的な手順に従い、Torlon(登録商標)PAIAI50(固形分23.8%で94.7g)及び炭酸リチウム(7.15g、0.10モル)を水(348mL)に溶解した。
【0099】
実施例8:部分中和TMAC-ODA(50-50)コポリマー-5重量%のポリマー及び3当量のリチウム(pH=8)
上に詳述されたようなLiPAIの水溶液の調製のための一般的な手順に従い、水(188mL)に溶解された実施例1aのTMAC-ODA(50-50)PAI(固形分20.7%で60.5g)及び炭酸リチウム(3.70g、0.050モル)を使用したが、ただし、1~2時間加熱した後、氷酢酸(3mL)を混合物に滴下した。高速度での混合を更に15分間続けて、凝集ポリマーが再分散されることを確実にした。電極スラリーを調製する間に溶液をさらに希釈して、電極中の所望のバインダー配合量を達成した。
【0100】
電極形成組成物及び負極の調製
以下の装置を使用して電極形成組成物及び負極を以下に詳述したように調製した:
機械的ミキサー:平らなPTFE軽量分散羽根車を有するDispermat(登録商標)シリーズのプラネタリーミキサー(スピードミキサー)及び機械的ミキサー;
フィルムコーター/ドクターブレード:Elcometer(登録商標)4340モーター駆動/自動フィルムアプリケーター;
真空炉:真空を有するバインダーAPTラインVD53;及び
ロールプレス:精密4インチホット・ローリング・プレス/100℃までカレンダー処理
【0101】
リチウム化PAI樹脂を含有する負極の作製のための一般的な手順
実施例2~8のうちの1つで得られたLiPAIの6.2重量%水溶液20.16g、脱イオン水6.09g、ケイ素/グラファイト23.5g、及びカーボンブラック0.25gを混合することにより水性組成物を調製した。混合物をプラネタリーミキサーで10分間穏やかに撹拌することにより均質化し、次いで2時間穏やかに撹拌することにより再度混合した。
【0102】
このようにして得たバインダー組成物をドクターブレードを用いて厚さ20μmの銅箔上にキャストし、コーティング層を、60℃の温度で約60分間オーブン中で乾燥させることにより、負極を得た。乾燥されたコーティング層の厚さは約90μmであった。次いで、電極をロールプレスで60℃でホットプレスすることで、目標の空隙率(30%)を得た。得られた負極は、以下の組成を有した:94重量%のケイ素/炭素、5重量%のLiPAI及び1重量%のカーボンブラック。電極E1、E2、E3、E4、E5、E6、E7はそれに応じて作製された。
【0103】
実施例9:硬化された負極
実施例2のLiPAIの溶液を使用して、上に詳述したのと同じ手順に従って負極を作製し、次いで真空下で約210℃で30分間及び約260℃でさらに30分間硬化して、硬化された負極を得た。
【0104】
電極8はこのように得られた。
【0105】
比較例1:Torlon(登録商標)PAIAI50を含有する負極
最初に、Torlon(登録商標)PAIAI50は、そのアミド酸基をブチルジエタノールアミンで中和することによって水溶性にされた。脱イオン水17.31g中のTorlon(登録商標)PAIAI50の9重量%溶液19.44g、ケイ素/炭素32.9g、及びカーボンブラック0.35gを混合することにより水性組成物を調製した。
【0106】
混合物をプラネタリーミキサーで10分間穏やかに撹拌することにより均質化し、次いで2時間穏やかに撹拌することにより再度混合することでバインダー組成物を得た。
【0107】
バインダー組成物をドクターブレードを用いて厚さ20μmの銅箔上にキャストし、コーティング層を、60℃の温度で約60分間オーブン中で乾燥させることにより、負極を得た。乾燥されたコーティング層の厚さは約90μmであった。次いで、電極をロールプレスで60℃でホットプレスすることで、目標の空隙率(30%)を得た。
【0108】
負極は以下の組成を有した:94重量%のケイ素/炭素、5重量%のPAI及び1重量%のカーボンブラック。
【0109】
電極E9はこのように得られた。
【0110】
比較例2:Torlon(登録商標)PAI4000Tを含有する負極
NMP組成物は、NMP中のTorlon(登録商標)PAI4000Tの5重量%溶液25.00g、NMP1.25g、ケイ素/炭素23.5g及びカーボンブラック0.25gを混合することによって調製された。混合物をプラネタリーミキサーで10分間穏やかに撹拌することにより均質化し、次いで2時間穏やかに撹拌することにより再度混合することでバインダー組成物を得た。
【0111】
バインダー組成物をドクターブレードを用いて厚さ20μmの銅箔上にキャストし、コーティング層を、約60分で80℃から130℃までの昇温でオーブン中で乾燥させることにより、負極を得た。
【0112】
乾燥されたコーティング層の厚さは約90μmであった。次いで、電極をロールプレスで90℃でホットプレスすることで、目標の空隙率(30%)を得た。
【0113】
負極は以下の組成を有した:94重量%のケイ素/炭素、5重量%のPAI及び1重量%のカーボンブラック。
【0114】
電極E10はこのように得られた。
【0115】
比較例3:スチレンブタジエンゴム(SBR)及びカルボキシメチルセルロース(CMC)を含有する負極
脱イオン水5.25g中の、CMCの2重量%溶液29.17g、ケイ素/炭素32.9g及びカーボンブラック0.35gを混合することにより水性組成物を調製した。混合物を穏やかに撹拌することにより均質化した。約1時間混合した後、2.33gのSBR懸濁液を組成物に添加し、1時間ゆっくりと撹拌しながら再混合し、バインダー組成物を生じた。
【0116】
バインダー組成物をドクターブレードを用いて厚さ20μmの銅箔上にキャストし、コーティング層を、60℃の温度で約60分間オーブン中で乾燥させることにより、負極を得た。乾燥されたコーティング層の厚さは約90μmであった。次いで、電極をロールプレスで60℃でホットプレスすることで、目標の空隙率(30%)を得た。
【0117】
負極は以下の組成を有した:94重量%のケイ素/炭素、1.66重量%のCMC、3.33重量%のSBR、及び1重量%のカーボンブラック。
【0118】
電極E11はこのように得られた。
【0119】
比較例4:ポリ(アミド酸)を含有する負極
PAA水溶液(35%w/w)5.2g、脱イオン水30.2g、ケイ素/グラファイト34.2g、及びカーボンブラック0.36gを混合することにより、水性組成物を調製した。混合物をプラネタリーミキサーで10分間穏やかに撹拌することにより均質化し、次いで2時間穏やかに撹拌することにより再度混合することでバインダー組成物を得た。
【0120】
バインダー組成物をドクターブレードを用いて厚さ20μmの銅箔上にキャストし、コーティング層を、60℃の温度で約60分間オーブン中で乾燥させることにより、負極を得た。乾燥されたコーティング層の厚さは約90μmであった。次いで、電極をロールプレスで60℃でホットプレスすることで、目標の空隙率(30%)を得た。
【0121】
負極は以下の組成を有した:94重量%のケイ素/炭素、5重量%のPAA、及び1重量%のカーボンブラック。
【0122】
電極E12はこのように得られた。
【0123】
電池の製造
実施例8~10並びに比較例11~14に従って製造された電極の小さいディスクを、対電極及び対照電極としてのリチウム金属と一緒に打ち抜くことによってリチウムコインセル(CR2032型、直径20mm)をArガス雰囲気下にグローブボックス中で製造した。コインセルの作製において使用される電解質は、2重量%のVC及び10重量%のF1EC添加剤を有する、Selectilyte(商標)LP 30中の標準1M LiPF6溶液であった;ポリエチレンセパレーター(Tonen Chemical Corporationから市販されている)を受入れたままで使用した。
【0124】
容量維持率の試験
低電流率での初充電及び放電サイクル後に、1.5Vの正のカットオフ及び0.05Vの負のカットオフを用いてC/10-D/10の定電流率で2つのセルのそれぞれを定電流でサイクル経過させた。
【0125】
容量は3回測定され、
図1及び相当する以下の表1に示される。
【0126】
【0127】
左から右に列によって表1は、試験される電池の実施例(又は比較例)番号、相当する負極、LiPAI(又はPAI)を調製する間に使用されるリチウム当量の量、電極形成組成物において使用された溶媒、並びに生容量及び初期容量の容量パーセントとして示される25回及び50回の両方の充電/放電サイクルの容量維持率の結果を示す。
【0128】
本発明の電極1及び7はそれぞれ驚くべきことに、25サイクル後及び50サイクル後の両方ですぐれた容量維持率を示すことが見出された。そしてさらにより驚くべきことに、未硬化LiPAIに相当する、電極1は、比較例よりもかなり高い容量維持率を示し、50サイクル後でもほとんど変化しなかった。
【0129】
電極3は、水性組成物によって製造される電極が電池において使用される比較例よりもはるかに良い、十分な容量維持率を示すことが見出された。
【0130】
SBR/CMCバインダーを使用する比較例3に対して、25サイクル後に初期容量の85%が観察された。しかしながら、
図1に示されるように50サイクル後に容量が劇的に低下した。
【0131】
参照により本明細書中に組み込まれている任意の特許、特許出願、及び公開資料の開示が、これがある用語を不明確とし得る程度まで本出願の記載と対立する場合、本記載が優先する。