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  • 特許-人工血管 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】人工血管
(51)【国際特許分類】
   G09B 23/28 20060101AFI20231013BHJP
   A61F 2/06 20130101ALI20231013BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20231013BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20231013BHJP
   A61L 27/44 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
G09B23/28
A61F2/06
A61L27/16
A61L27/50 300
A61L27/44
A61L27/50
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020555954
(86)(22)【出願日】2019-10-25
(86)【国際出願番号】 JP2019041851
(87)【国際公開番号】W WO2020095713
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2018210480
(32)【優先日】2018-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】見山 彰
(72)【発明者】
【氏名】松本 睦
【審査官】赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/151320(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/117212(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/104068(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/150714(WO,A1)
【文献】特開平08-332218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 23/28-23/34
A61F 2/06- 2/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A)水添ブロック共重合体及び成分(B)オイルを含む層を2以上有し、少なくとも1層がさらに成分(C)潤滑剤を含み、成分(C)潤滑剤は、非イオン性界面活性剤を含み、
前記少なくとも1層が、成分(A)水添ブロック共重合体を100質量部、成分(B)オイルを300質量部以上1000質量部以下、及び成分(C)潤滑剤を0.1質量部以上150質量部以下含有する樹脂組成物Iを用いてなる、人工血管。
【請求項2】
管形状である、請求項1に記載の人工血管。
【請求項3】
万能試験機を用いて、23℃±1℃の条件下で1000mm/minの速度で穿刺して針が貫通したときの第一ピーク荷重値が0.01N以上1.2N以下である、請求項1又は2に記載の人工血管。
【請求項4】
穿刺針及び医療用糸を備えた万能試験機用いて、1000mm/minの速度で穿刺した際に、穿刺針に掛かる荷重値が0.1N以上1N以下である、及び/又は、医療用糸に掛かる荷重値が、0.01N以上0.1N以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の人工血管。
【請求項5】
注射針を50回穿刺した後に60mmHgの圧力を掛け60秒間に漏れる液量が、10mL以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載の人工血管。
【請求項6】
樹脂組成物Iを用いてなる層の外側に樹脂組成物Iと組成が異なる樹脂組成物IIを用いてなる層を有し、
樹脂組成物IIが、成分(A)水添ブロック共重合体を100質量部、及び成分(B)オイルを50質量部以上1000質量部以下含有し、成分(C)潤滑剤の含有量が、0.1質量部未満である、請求項1からのいずれか一項に記載の人工血管。
【請求項7】
樹脂組成物Iを用いてなる層の内側に樹脂組成物Iと組成が異なる樹脂組成物IIIを用いてなる層をさらに有し、
樹脂組成物IIIが、成分(A)水添ブロック共重合体を100質量部、及び成分(B)オイルを50質量部以上1000質量部以下含有し、成分(C)潤滑剤の含有量が、0.1質量部未満である、請求項1からのいずれか一項に記載の人工血管。
【請求項8】
成分(C)潤滑剤が、イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤を含む、請求項1からのいずれか一項に記載の人工血管。
【請求項9】
成分(A)水添ブロック共重合体のMFR(温度230℃、荷重2.16kg)が1g/10min.以下である、請求項1からのいずれか一項に記載の人工血管。
【請求項10】
成分(B)オイルの37.8℃又は40℃における動粘度が0.1~100mm/sである、請求項1からのいずれか一項に記載の人工血管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工血管に関する。
【背景技術】
【0002】
人工血管は、生体内への移植の他、外科的治療等における穿刺技術習得用の医療シミュレータ等の種々の分野で用いられている。特許文献1には、スチレンを主体とする重合体ブロックと共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックからなるブロック共重合体等を繊維強化樹脂として含む人工血管が提案されている。この技術によれば、強度の強い人工血管を提供することができるとされている。特許文献2では、所定のMFRを有する水添ブロック共重合体、オイル、及び所定の比表面積を有するポリオレフィン系樹脂を所定量で含有する樹脂組成物を提案している。この技術によれば、オイルを高充填することができかつブリードアウトを抑制することができる、より軟質な樹脂組成物にすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-186281号公報
【文献】国際公開第2018/151320号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
人工血管には、穿刺した際の針の挿入感、及び針や糸の通り易さ(以下、「針糸通り性」ともいう。)がヒトを含む動物の血管に類似していることが求められる。また、穿刺技術習得用の医療シミュレータとして用いられる場合において、穿刺訓練を繰り返し行う過程で数回の穿刺で液漏れ量が増加してしまうと訓練を中断して人工血管を交換する必要が生じる。そのため、人工血管は、訓練時の交換の頻度を下げるために、高い液漏れ防止性を有する必要がある。
【0005】
本発明は、ヒトを含む動物の血管に類似した穿刺した際の針の挿入感及び針糸通り性を有し、かつ高い液漏れ防止性を有する人工血管を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、研究を進める過程で、穿刺した際の針の挿入感及び針糸通り性をヒトを含む動物の血管に近づけると、液漏れ防止性が低下してしまい、反対に、液漏れ防止性を高めると、針の挿入感及び針糸通り性が低下してしまうとの知見を得た。本発明者は、さらに研究を進め、水添ブロック共重合体及びオイルを含む層を複数有し、そのうちの少なくとも1層がさらに潤滑剤を含むように構成することで、トレードオフの関係にある針の挿入感及び針糸通り性と高い液漏れ防止性とを両立できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明は、以下に関するものである。
[1]成分(A)水添ブロック共重合体及び成分(B)オイルを含む層を2以上有し、少なくとも1層がさらに成分(C)潤滑剤を含む、人工血管。
[2]管形状である、[1]に記載の人工血管。
[3]万能試験機を用いて、23℃±1℃の条件下で1000mm/minの速度で穿刺して針が貫通したときの第一ピーク荷重値が0.01N以上1.2N以下である、[1]又は[2]に記載の人工血管。
[4]穿刺針及び医療用糸を備えた万能試験機を用いて、1000mm/minの速度で穿刺した際に、穿刺針に掛かる荷重値が0.1N以上1N以下である、及び/又は、医療用糸に掛かる荷重値が、0.01N以上0.1N以下である、[1]から[3]のいずれかに記載の人工血管。
[5]注射針を50回穿刺した後に60mmHgの圧力を掛け60秒間に漏れる液量が、10mL以下である、[1]から[4]のいずれかに記載の人工血管。
[6]成分(A)水添ブロック共重合体を100質量部、成分(B)オイルを300質量部以上1000質量部以下、及び成分(C)潤滑剤を0.1質量部以上150質量部以下含有する樹脂組成物Iを用いてなる層を1以上有する、[1]から[5]のいずれかに記載の人工血管。
[7]樹脂組成物Iを用いてなる層の外側に樹脂組成物Iと組成が異なる樹脂組成物IIを用いてなる層を有し、樹脂組成物IIが、成分(A)水添ブロック共重合体を100質量部、及び成分(B)オイルを50質量部以上1000質量部以下含有し、成分(C)潤滑剤の含有量が、0.1質量部未満である、[1]から[6]のいずれかに記載の人工血管。
[8]樹脂組成物Iを用いてなる層の内側に樹脂組成物Iと組成が異なる樹脂組成物IIIを用いてなる層をさらに有し、樹脂組成物IIIが、成分(A)水添ブロック共重合体を100質量部、及び成分(B)オイルを50質量部以上1000質量部以下含有し、成分(C)潤滑剤の含有量が、0.1質量部未満である、[1]から[7]のいずれかに記載の人工血管。
[9]成分(C)潤滑剤が、イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤からなる群から選択される1以上の潤滑剤を含む、[1]から[8]のいずれかに記載の人工血管。
[10]成分(A)水添ブロック共重合体のMFR(温度230℃、荷重2.16kg)が1g/10min.以下である、[1]から[9]のいずれかに記載の人工血管。
[11]成分(B)オイルの37.8℃又は40℃における動粘度が0.1~100mm/sである、[1]から[10]のいずれかに記載の人工血管。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ヒトを含む動物の血管に類似した穿刺した際の針の挿入感及び針糸通り性を有し、かつ高い液漏れ防止性を有する人工血管を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】人工血管の一構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。なお本発明において、A~Bとは、A以上B以下であることを意味している。
【0011】
[人工血管]
本実施形態に係る人工血管は、成分(A)水添ブロック共重合体及び成分(B)オイルを含む層を2以上有し、少なくとも1層がさらに成分(C)潤滑剤を含有する。これにより、ヒトを含む動物の血管に類似した、穿刺した際の針の挿入感及び針糸通り性と高い液漏れ防止性とを両立することが可能である。
【0012】
(針刺し挿入感)
人工血管は、万能試験機を用いて、23℃±1℃の条件下で1000mm/minの速度で穿刺して針が貫通したときの第一ピーク荷重値が0.01N以上1.2N以下であることが好ましく、より好ましくは0.01N以上1N以下であり、さらに好ましくは0.01N以上0.5N以下である。これにより、穿刺された際にヒトを含む動物の血管に類似の針刺し挿入感(手ごたえ)を与える人工血管にすることができる。その結果、人工血管を、例えば注射練習用の医療用シミュレータに好ましく用いることができる。また、人工血管は、万能試験機を用いて、23℃±1℃の条件下で1000mm/minの速度で穿刺して針が貫通したときの変位量が、1mm以上50mm以下であることが好ましく、1mm以上20mm以下であることがより好ましい。
【0013】
針刺し挿入感の評価は、具体的には、試験片(厚さ2~3mm、長さ360mm×内径6~7mm、外径11~12mm)に対して、万能試験機(例えば、島津製作所製オートグラフAG-Xpuls試験機)を用いて、23℃±1℃の条件下で1000mm/minの速度で穿刺した際の針が貫通した際の第一ピークの荷重値(N)及び/又は変位量(mm)を測定して行うことができる。針のサイズは、注射練習用とするか、縫合練習用とするかによって決定するが、例えば、外径0.1~2.7mm、針ゲージの規格:極細0.1~12Gの注射針とすることができる。
針刺し挿入感の調整は、例えば、各層を構成する材料の処方や、各層及び/又は全体の厚みを変更することにより行うことができる。例えば、最外層の成分(A)水添ブロック共重合体及び成分(B)オイルの含有量を調整する、又は最外層の厚みを調整する等により液漏れ防止性を高めることができる。
【0014】
(針糸通り性)
人工血管は、穿刺針及び医療用糸を備えた万能試験機を用いて、1000mm/minの速度で穿刺した際に、穿刺針に掛かる荷重値(針の通り易さ)が、0.1N以上1N以下であることが好ましく、0.1N以上0.5N以下であることがより好ましい。
人工血管は、穿刺針及び医療用糸を備えた万能試験機を用いて、1000mm/minの速度で穿刺した際に、医療用糸に掛かる荷重値(糸の通り易さ)が、0.01N以上0.1N以下であることが好ましく、より好ましくは0.01N以上0.05N以下である。これにより、穿刺された際及び/又は縫合された際にヒトの血管に類似の針糸通り性を実現することができる。その結果、人工血管を、例えば穿刺及び/又は縫合の練習用の医療用シミュレータに好ましく用いることができる。
【0015】
針刺し抵抗値及び糸通り抵抗値の測定方法は、具体的には、短冊状試験片に対して、島津製作所製オートグラフAG-Xpulsを用い、1000mm/minの速度で穿刺し、穿刺針及び医療用糸に掛かる荷重値(N)を測定する。なお、試験片の厚み及びサイズは、対象とする医療シミュレータの部位により決定するが、例えば、30mm×25mm×厚さ2~3mmの短冊状試験片とすることができる。短冊状試験片は、例えば、人工血管を切り開いて作製することができる。針のサイズは、注射練習用とするか、縫合練習用とするかによって決定するが、例えば、上記と同じものを用いることができる。糸のサイズは、医療シミュレータの部位により決定するが、例えば、サイズが医療用絹製縫合糸、非吸収性プラスチック製縫合糸、サイズ12-0号~10号のものを用いることができる。
針刺し抵抗値及び糸通り抵抗値の調整は、例えば、各層を構成する材料の処方や、各層及び/又は全体の厚みを変更することにより行うことができる。例えば、中間層中の成分(C)潤滑剤の含有量を調整する、又は中間層の厚みを調整する等により針刺し抵抗値及び糸通り抵抗値を調整することができる。
【0016】
(液漏れ防止性)
人工血管は、注射針を50回穿刺した後に60mmHgの圧力を掛け60秒間に漏れる液量が、10mL以下であることが好ましく、より好ましくは5mL以下である。これにより、穿刺された際にヒトを含む動物の血管に近い液漏れ防止性(血液が漏れだすのを防ぐ性質)を有する人工血管にすることができる。
【0017】
液漏れ防止性の評価は、具体的には、管状試験片(厚さ2mm、長さ360mm、内径4mm)に対して、貫通しない角度(20°~30°)で注射針を30mmの深さまで50回穿刺した後に60mmHgの圧力を掛け60秒間に漏れる液量を電子天秤で計測することにより行うことができる。なお、注射針の針サイズは、穿刺を行なう医療シミュレータの部位により決定することができるが、例えば、外径0.1~2.7mm、針ゲージの規格:極細0.1~12Gの注射針とすることができる。
液漏れ防止性の調整は、例えば、各層を構成する材料の処方や、各層及び/又は全体の厚みを変えることにより行うことができる。例えば、最内層の成分(A)水添ブロック共重合体及び成分(B)オイルの含有量を調整する、又は最内層の厚みを調整する等により液漏れ防止性を高めることができる。
【0018】
(樹脂組成物I)
人工血管は、成分(A)水添ブロック共重合体、成分(B)オイル、及び成分(C)潤滑剤を所定量で含有する樹脂組成物Iを用いてなる層を1以上有する。樹脂組成物Iは、成分(A)水添ブロック共重合体及び成分(B)オイルに加えて、さらに成分(C)潤滑剤を含有するので、ヒトを含む動物に類似した針の挿入感及び針糸通り性を有する成形品を与えることができる。
【0019】
<成分(A)水添ブロック共重合体>
成分(A)水添ブロック共重合体は、芳香族ビニルから導かれるブロック重合単位(X)と共役ジエンから導かれるブロック重合単位(Y)とからなる芳香族ビニル-共役ジエンブロック共重合体の水添物(水素添加物または水素化物)を1種以上含有することが好ましい。
【0020】
このような構成の芳香族ビニル-共役ジエンブロック共重合体の形態は、たとえばX(YX)又は(XY)〔nは1以上の整数〕で示される。これらの中では、X(YX)の形態のもの、特にX-Y-Xの形態のものが好ましい。X-Y-Xの形態のものとしては、ポリスチレン-ポリブタジエン-ポリスチレンブロック共重合体、ポリスチレン-ポリイソプレン-ポリスチレンブロック共重合体、ポリスチレン-ポリイソプレン・ブタジエン-ポリスチレンブロック共重合体からなる群から選択される1種以上の共重合体が好ましい。
【0021】
このような芳香族ビニル-共役ジエンブロック共重合体では、ハードセグメントである芳香族ビニルブロック単位(X)が、共役ジエンゴムブロック単位(Y)の橋かけ点として存在して擬似架橋(ドメイン)を形成している。この芳香族ビニルブロック単位(X)間に存在する共役ジエンゴムブロック単位(Y)は、ソフトセグメントであってゴム弾性を有している。
【0022】
ブロック重合単位(X)を形成する芳香族ビニルとしては、スチレン、α-メチルスチレン、3-メチルスチレン、p-メチルスチレン、4-プロピルスチレン、4-ドデシルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレン、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン等が挙げられる。これらの中では、スチレンが好ましい。
【0023】
ブロック重合単位(Y)を形成する共役ジエンとしては、ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエン及びこれらの組合せ等が挙げられる。これらの中では、ブタジエン、イソプレン、ブタジエンとイソプレンとの組み合わせ(ブタジエン-イソプレンの共重合単位)からなる群から選択される1種以上の共役ジエンが好ましい。これらのうち1種以上の共役ジエンを組み合わせて用いることもできる。ブタジエン-イソプレン共重合単位からなる共役ジエンブロック重合単位(Y)は、ブタジエンとイソプレンとのランダム共重合単位、ブロック共重合単位、テーパード共重合単位の何れであってもよい。
【0024】
上記のような芳香族ビニル-共役ジエンブロック共重合体では、芳香族ビニルブロック重合単位(X)の含有量が5質量%以上50質量%以下であることが好ましく、20質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。この芳香族ビニル単位の含有量は赤外線分光、NMR分光法等の常法によって測定することができる。
【0025】
上記のような芳香族ビニル-共役ジエンブロック共重合体は、種々の方法により製造することができる。製造方法としては、(1)n-ブチルリチウム等のアルキルリチウム化合物を開始剤として、芳香族ビニル、次いで共役ジエンを逐次重合させる方法、(2)芳香族ビニル、次いで共役ジエンを重合させ、これをカップリング剤によりカップリングさせる方法、(3)リチウム化合物を開始剤として、共役ジエン、次いで芳香族ビニルを逐次重合させる方法等を挙げることができる。
【0026】
水添ブロック共重合体は、上記のような芳香族ビニル-共役ジエンブロック共重合体を公知の方法により水添した物(水素添加物または水素化物)であり、好ましい水添率は90モル%以上である。この水添率は、共役ジエンブロック重合単位(Y)中の炭素-炭素二重結合の全体量を100モル%としたときの値である。「水添率が90モル%以上」とは、炭素―炭素二重結合の90モル%以上が水素添加されていることを示す。このような水添ブロック共重合体としては、ポリスチレン-ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック(SEP)、ポリスチレン-ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック-ポリスチレン(SEPS)、ポリスチレン-ポリ(エチレン/ブチレン)ブロック-ポリスチレン(SEBS)、ポリスチレン-ポリ(エチレン-エチレン/プロピレン)ブロック-ポリスチレン(SEEPS)等が挙げられる。より具体的には、SEPTON(クラレ(株)社製)、クレイトン(Kraton;シェル化学(株)社製)、クレイトンG(シェル化学(株)社製)、タフテック(旭化成(株)社製)(以上商品名)等が挙げられる。これらは、単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。中でも、成分(A)としてSEEPSが含まれることが好ましい。
【0027】
成分(A)水添ブロック共重合体のメルトフローレート(MFR(温度230℃、荷重2.16kg))は、1g/10分以下であることが好ましく、より好ましくは0.1g/10分未満である。MFR(温度230℃、荷重2.16kg)とは、JIS K7210に従って、温度230℃、荷重2.16kgの条件下で測定するMFRをいう。MFRを上記範囲内にすることで、オイルを添加した際にブリードアウト(オイルのしみ出し)が発生することを防ぐことができるとともに、力学的強度が低下することを防ぐことができる。水添率は、核磁気共鳴スペクトル解析(NMR)等の公知の方法により測定する。
成分(A)水添ブロック共重合体の形状は、混練前のオイル吸収作業の観点から、粉末又は無定形(クラム)状が好ましい。
【0028】
<成分(B)オイル>
成分(B)オイルとしては、最も好ましくは、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイルや流動パラフィン等の鉱物油系オイル、シリコンオイル、ヒマシ油、アマニ油、オレフィン系ワックス、鉱物系ワックス等が挙げられる。これらの中では、パラフィン系及び/又はナフテン系のプロセスオイルが好ましい。プロセスオイルとしては、ダイアナプロセスオイルシリーズ(出光興産社製)、JOMOプロセスP(ジャパンエナジー社製)等が挙げられる。また、フタル酸系、トリメリット酸系、ピロメリット酸系、アジピン酸系、またはクエン酸系の各種エステル系可塑剤も用いることができる。これらは、単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
成分(B)オイルは、事前に成分(A)水添ブロック共重合体にあらかじめ吸収させておくのが作業性の点で好ましい。そのためには、成分(A)水添ブロック共重合体の形状は、オイルを吸収しやすい、前記粉末又は無定形(クラム)状が好ましい。
【0030】
成分(B)オイルは、37.8℃又は40℃における動粘度が0.1~100mm/sであることが好ましく、0.1~50mm/sであることがより好ましく、0.1~15mm/sであることがさらに好ましい。上記範囲内にすることで、ヒトの血管及び/又は皮膚に類似した軟質性や物性を有する生体モデルを与える樹脂組成物にすることができる。動粘度の測定は、JIS K 2283:2000の「5.動粘度試験方法」に従って、キャノンフェンスケ粘度計を用いて37.8℃又は40℃の試験温度で測定することにより行うことができる。
【0031】
<成分(C)潤滑剤>
成分(C)である潤滑剤としては、イオン性界面活性剤、ノニオン系(非イオン性)界面活性剤、炭化水素系滑剤、脂肪酸系滑剤、脂肪族アミド系滑剤、金属石鹸系滑剤、エステル系滑剤等を挙げることができる。
【0032】
イオン性界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤を用いることができる。アニオン系界面活性剤としては、脂肪酸ナトリウム、モノアルキル硫酸塩、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、モノアルキルリン酸塩等を挙げることができる。市販品としては花王株式会社製の商品名「エレクトロストリッパーPC」等を挙げることができる。
カチオン系界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩等を挙げることができる。
両性界面活性剤としては、アルキルジメチルアミンオキシド、アルキルカルボキシベタイン等を挙げることができる。
ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸ソルビタンエステル、アルキルポリグルコシド、脂肪酸ジエタノールアミド、アルキルモノグリセリルエーテル等を挙げることができる。市販品としては、花王株式会社製の商品名「エレクトロストリッパーEA」等を挙げることができる。
【0033】
炭化水素系滑剤としては、パラフィンワックス、合成ポリエチレンワックス、オクチルアルコール等を挙げることができる。脂肪酸系滑剤としては、ステアリン酸やステアリルアルコール等を挙げることができる。
脂肪族アミド系滑剤としては、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の脂肪酸アミド;メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド等のアルキレン脂肪酸アミド等を挙げることができる。金属石鹸系滑剤としては、ステアリン酸金属塩等を挙げることができる。
エステル系滑剤としては、アルコールの脂肪酸エステル、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリルステアレート、硬化油等を挙げることができる。
【0034】
成分(C)潤滑剤は、上記した潤滑剤から選択される1以上を用いることができる。中でも、ヒトの血管及び/又は皮膚により類似した軟質性や物性を有するにする点で、イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤からなる群から選択される1以上の潤滑剤を含むことが好ましく、ノニオン系界面活性剤から選択される1以上を含むことがより好ましい。
【0035】
(含有量)
樹脂組成物Iの好ましい組成としては、成分(A)水添ブロック共重合体を100質量部、成分(B)オイルを300質量部以上1000質量部以下、より好ましくは300質量部以上600質量部以下、及び成分(C)潤滑剤を0.1質量部以上150質量部以下、より好ましくは0.1質量部以上100質量部以下、さらに好ましくは0.1質量部以上50質量部以下含有することが好ましい。上記組成とすることで、ヒトの血管に類似した針刺し挿入感及び針糸通り性をより容易に実現することができる。
【0036】
<添加剤等>
樹脂組成物Iは、必要に応じて、ゴム、可塑剤、フィラーや安定剤、老化防止剤、耐光性向上剤、紫外線吸収剤、軟化剤、滑剤、加工助剤、着色剤、帯電防止剤、防曇剤、ブロッキング防止剤、結晶核剤、発泡剤等を含有していてもよい。
【0037】
樹脂組成物Iは、必要に応じて、その他の樹脂又はエラストマーを含有してもよい。その他の樹脂又はエラストマーとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、スチレン-ブタジエン-イソプレン共重合体、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体(SEPS)等のスチレン系熱可塑性エラストマー、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリルニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、繊維状フィラー等を挙げることができる。その他の樹脂又はエラストマーを含有する場合、その含有量は、樹脂組成物中0.01質量部以上500質量部以下であることが好ましい。
樹脂組成物Iは、製造コスト、物性バランスの点で、熱可塑性であることが好ましい。
【0038】
(製造方法)
樹脂組成物Iの製造方法は、特に限定されず、公知の適当なブレンド法を用いることができる。例えば、単軸、二軸のスクリュー押出機、バンバリー型ミキサー、プラストミル、コニーダー、加熱ロールなどで溶融混練を行うことができる。溶融混練を行う前に、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、スーパーミキサー、タンブラーなどで各原料を均一に混合しておくこともよい。溶融混練温度はとくに制限はないが、50~300℃、好ましくは70~250℃が一般的である。
【0039】
(層構成)
人工血管は、上記した樹脂組成物Iを用いてなる層を2層以上有していてもよい。人工血管は、針刺し挿入感及び針糸通り性と液漏れ防止性とを容易に両立可能な点で、樹脂組成物Iを用いてなる第1層の外側に、樹脂組成物Iと異なる組成を有する樹脂組成物IIを用いてなる第2層を有することが好ましい。さらに、人工血管は、樹脂組成物Iを用いてなる第1層の内側に、樹脂組成物Iと異なる組成を有する樹脂組成物IIIを用いてなる第3層を有することが好ましい。「組成が異なる」とは、ここでは、成分(A)水添ブロック共重合体、成分(B)オイル及び必要に応じて含有してもよい成分(C)潤滑剤、並びに必要に応じて含有してもよい添加剤を構成する化合物の種類及び/又は含有量が異なることを意味している。
【0040】
(樹脂組成物II)
樹脂組成物IIは、成分(A)水添ブロック共重合体、及び成分(B)オイルを含有し、必要に応じて成分(C)潤滑剤を含有することができる。樹脂組成物IIは、樹脂組成物Iと異なる組成を有し、好ましくは、成分(A)水添ブロック共重合体を100質量部、及び成分(B)オイルを50質量部以上1000質量部以下、より好ましくは150質量部以上500質量部以下含有し、成分(C)潤滑剤の含有量が、0.1質量部未満であり、好ましくは0.05質量部未満であり、成分(C)潤滑剤を含有しなくともよい。
このような組成を有する樹脂組成物IIを用いてなる第2層を、第1層の外側の層(例えば、人工血管の最外層)として有することで、ヒトを含む動物に類似の針刺し挿入感をより容易に実現することができる。
【0041】
樹脂組成物II中の成分(A)水添ブロック共重合体、成分(B)オイル及び必要に応じて含有してもよい成分(C)潤滑剤、並びに必要に応じて含有してもよい添加剤は、上記した樹脂組成物Iで例示したものから選択して用いることができる。成分(A)水添ブロック共重合体、成分(B)オイル及び必要に応じて含有してもよい成分(C)潤滑剤の物性及び形状等についても、上記した樹脂組成物Iと同様にすることができる。また、樹脂組成物IIの製造方法についても、上記樹脂組成物Iと同様の方法で行うことができる。
【0042】
(樹脂組成物III)
樹脂組成物IIIは、成分(A)水添ブロック共重合体、及び成分(B)オイルを含有し、必要に応じて成分(C)潤滑剤を含有することができる。樹脂組成物IIIは、樹脂組成物Iと異なる組成を有し、好ましくは、成分(A)水添ブロック共重合体を100質量部、及び成分(B)オイルを50質量部以上1000質量部以下、より好ましくは150質量部以上500質量部以下含有し、成分(C)潤滑剤の含有量が、0.1質量部未満であり、好ましくは0.05質量部未満であり、成分(C)潤滑剤を含有しなくともよい。
このような組成を有する樹脂組成物IIIを用いてなる第3層を、第1層の内側の層(例えば人工血管の最内層)として有することで、ヒトの血管に近い針刺し挿入感及び針糸通り性を維持しつつ、高い液漏れ性を容易に実現することができる。
【0043】
樹脂組成物IIと樹脂組成物IIIとは、組成が同じであってもよく異なっていてもよいが、作業性の点で、樹脂組成物IIと樹脂組成物IIIとは、同じ組成を有することが好ましい。
【0044】
樹脂組成物III中の成分(A)水添ブロック共重合体、成分(B)オイル及び必要に応じて含有してもよい成分(C)潤滑剤の種類、並びに必要に応じて含有してもよい添加剤は、上記した樹脂組成物Iで例示したものから選択して用いることができる。成分(A)水添ブロック共重合体、成分(B)オイル及び必要に応じて含有してもよい成分(C)の物性及び形状等についても、上記した樹脂組成物Iと同様にすることができる。また、樹脂組成物IIIの製造方法についても、上記樹脂組成物Iと同様の方法で行うことができる。
【0045】
人工血管が有する層の数は、2以上であり、2以上5以下とすることができ、例えば3層で構成することができる。3層構成の場合は、樹脂組成物Iを用いてなる第1層の外側に樹脂組成物IIを用いてなる第2層を有し、樹脂組成物Iを用いてなる第1層の内側に樹脂組成物IIIを用いてなる第3層をさらに有するように構成することができる。この場合、樹脂組成物IIと樹脂組成物IIIとは同じ組成にすることができる。すなわち、第2層及び第3層を、樹脂組成物II(又は樹脂組成物III)で構成することができる。この構成によって、3層構造の人工血管の場合に、ヒトの血管により類似した針刺し挿入感及び針糸通り性と、高い液漏れ防止性とをより容易に両立することができる。
【0046】
図1に、3層で構成された人工血管の一構成例の断面図を示す。図1に示す人工血管は、内側から順に、内層、中層、及び外層が積層された3層で構成されている。図1の例において、内層、中層及び外層を樹脂組成物Iを用いてなる第1層で形成してもよいが、ヒトの血管により類似した針刺し挿入感及び針糸通り性と、高い液漏れ防止性とを容易に両立可能な点で、中層を樹脂組成物Iを用いてなる第1層で形成し、外層及び内層を、それぞれ、樹脂組成物IIを用いてなる第2層又は樹脂組成物IIIを用いてなる第3層で形成することが好ましい。例えば、内層及び外層を、それぞれ、樹脂組成物IIを用いてなる層で構成し、中層を樹脂組成物I(成分(C)潤滑剤を含有する)を用いてなる層で構成することができる。
【0047】
人工血管を構成する各層の厚さは、対象とする血管と同等の厚みとすることができる。例えば、樹脂組成物Iを用いてなる第1層(例えば図1の中層)の厚みは0.5mm~1.5mmとすることができ、樹脂組成物IIを用いてなる第2層(例えば図1の外層)の厚みを0.1mm~1mmとすることができ、樹脂組成物IIIを用いてなる第3層(例えば図1の内層)の厚みを0.4mm~1.5mmとすることがでる。この範囲にすることで、ヒトの血管により類似した針刺し挿入感及び針糸通り性と液漏れ防止性とを容易に両立することができる。
【0048】
人工血管の形状は、管形状であることが好ましい。人工血管の製造方法は、特に限定されず、公知の成形方法により製造できる。例えば押出し成形、注型成形、射出成形、真空成形、ブロー成形等、目的の臓器モデルに合わせ様々な成形方法を用いることができる。
【0049】
本実施形態に係る人工血管は、ヒトを含む動物の血管に類似した穿刺した際の針の挿入感及び針や糸の通り易さと、高い液漏れ防止性とを有するので医療シミュレータ用の部材として好ましく用いることができる。
【実施例
【0050】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0051】
樹脂組成物の製造に用いた材料を以下に示す。なお、以下において、MFRは、温度230℃、荷重2.16kgの値である。
[材料]
<成分(A)水添ブロック共重合体>
A-1:SEEPS、株式会社クラレ製「SEPTON4033」、MFR1g/10分、スチレン含有量30質量%
A-2:SEEPS、株式会社クラレ製「SEPTON-4055」、MFR1g/10分、スチレン含有量30質量%
A-3:SEEPS、株式会社クラレ製「SEPTON-J」、MFR1g/10分、スチレン含有量40質量%
【0052】
<成分(B)オイル>
B-1:パラフィン系オイル、出光興産株式会社製「PW-90」、40℃における動粘度90.5mm/s
B-2:パラフィン系オイル、日油株式会社性「パールリームEX」、37.8℃における動粘度10.6mm/s
【0053】
<成分(C)潤滑剤>
C-1:花王株式会社製、「エレクトロストリッパーEA」
【0054】
[樹脂組成物の製造例1:処方1]
水添ブロック共重合体(A-1)100質量部と、オイル(B-1)300質量部とを、ブラベンダープラスチコーダー(ブラベンダー社製PL2000型)を使用し、150℃、回転速度50回/分、6分間混練して樹脂組成物を得た。なお、水添ブロック共重合体(A-1)は、無定形の粉末でメーカーより供給された。混練数日前に、水添ブロック共重合体(A-1)に対し、所定量のオイル(B-1)を滴下し十分に染みこませておいた。なお、ここで染み込ませたオイル(B-1)の量は、上記配合量に含まれる。
【0055】
[樹脂組成物の製造例2:処方2]
水添ブロック共重合体(A-1)100質量部に対して、オイル(B-1)を200質量部とした以外は、製造例1と同様にして、樹脂組成物を得た。
【0056】
[樹脂組成物の製造例3:処方3]
水添ブロック共重合体(A-2)100質量部とオイル(B-2)500質量部と滑剤(C-1)36質量部とを、ブラベンダープラスチコーダー(ブラベンダー社製PL2000型)を使用し150℃、回転速度50回/分、6分間混練して樹脂組成物を得た。なお、水添ブロック共重合体(A-2)は無定形の粉末でメーカーより供給された。混練数日前に、水添ブロック共重合体(A-2)に対し、滑剤(C-1)を滴下し十分に染みこませた後に、オイル(B-2)を滴下し染みませた。ここで染みこませたオイル(B-2)及び滑剤(C-1)の量は、上記配合量に含まれる。
【0057】
[樹脂組成物の製造例4:処方4]
水添ブロック共重合体(A-2)に替えて水添ブロック共重合体(A-3)を用いた以外は、製造例3と同様にして、樹脂組成物を得た。
【0058】
[実施例1]
製造例2(処方2)で得られた樹脂組成物が内層(厚み0.79mm)、及び外層(0.66mm)を構成し、製造例3(処方3)で得られた樹脂組成物が中層(厚み0.88mm)を構成するように、3層ヘッドを備えた押出し機を用いて、外径11.54mm、内径6.90mm、肉厚2.32mmの人工血管を作製した。なお、外径、内径、及び厚みは、OLYMPUS社製オプトデジタルマイクロスコープDSX500を用いて測定した。
【0059】
[実施例2~10、比較例1~8]
表1に示す樹脂組成を用い表2に示す構成及び寸法等とした以外は、実施例1と同様にして、人工血管を作製した。比較例1~3は、潤滑剤を含有しない樹脂組成物を用いて3層又は単層で成形した場合の例であり、比較例4,5は潤滑剤を含有する樹脂組成物を用いて単層で成形した場合の例であり、比較例6,7は、シリコーン、又はポリウレタンを用いて単層で成形した場合の例であり、比較例8は天然ゴムを用いて3層で形成した場合の例である。
【0060】
[測定及び評価]
実施例及び比較例で得られた人工血管について、以下のようにして物性の測定及び評価を行った。また、参考例1~3として、ブタの大動脈、大静脈及び頸動脈(20mm×20mm、厚さは表1に記載のとおり)のサンプルを準備した。
【0061】
(針刺し挿入感)
実施例及び比較例の人工血管を切り開いて短冊状の試験片とした。島津製作所製オートグラフAG-Xpuls試験機を23℃±1℃の条件下で1000mm/minの速度で穿刺した際の針が貫通した際の第一ピークの荷重値(強度)及び変位量を測定し、針刺し挿入感の評価を行なった。以下に基準に基づいて針刺し挿入感を評価した。
4:針が貫通した際の第一ピークの荷重値が0.01N以上0.3N以下である。
3:針が貫通した際の第一ピークの荷重値が0.3Nを超え0.6N以下である。
2:針が貫通した際の第一ピークの荷重値が0.6Nを超え1.2N以下である。
1:針が貫通した際の第一ピークの荷重値が1.2Nを超える。
【0062】
(液漏れ防止性)
人工血管内に流量ポンプを用い水80mL/minを循環させ、圧力計60mmHgになるように調整し、注射針(サイズ:17G)を50回穿刺した後に60秒間後に漏れた液量を電子天秤で計測した。以下の基準に基づいて液漏れ防止性を評価した。
4:1mL以下
3:1mLを超え5mL以下
2:5mLを超え10mL以下
1:10mLを超える
【0063】
(穿刺針・医療用糸の通り性:針糸通り性)
実施例及び比較例の人工血管を切り開いて短冊状の試験片とした。島津製作所製オートグラフAG-Xpulsを用い、1000mm/minの速度で穿刺針(サイズ:17G)、及び医療用糸(サイズ:ポリプロピレン製4-0)に掛かる荷重値をそれぞれ測定した。以下の基準に基づいて針の通り性及び糸の通り性を評価した。
針の通り性
4:0.1N以上0.3N未満
3:0.3N以上0.6N未満
2:0.6N以上1N以下
1:1Nを超える
糸の通り性
4:0.01N以上0.03N未満
3:0.03N以上0.06N未満
2:0.06N以上0.1N以下
1:0.1Nを超える
【表1】

【表2】
【0064】
表1に示すように、実施例の人工血管は、ヒトを含む動物の血管に類似した、穿刺した際の針の挿入感及び針糸通り性を有するとともに、高い液漏れ防止性を有している。これに対して、比較例の人工血管は、穿刺した際の針の挿入感及び針糸通り性と、高い液漏れ防止性とを両立することができない結果となった。
図1