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特許73660692次元赤外分光を用いて水性流体を分析する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】2次元赤外分光を用いて水性流体を分析する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3577 20140101AFI20231013BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20231013BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20231013BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20231013BHJP
   C07K 14/76 20060101ALI20231013BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
G01N21/3577
G01N21/27 A
G01N33/483 C
G01N33/68
C07K14/76
C07K16/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020567779
(86)(22)【出願日】2019-06-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-27
(86)【国際出願番号】 GB2019051585
(87)【国際公開番号】W WO2019234443
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】1809403.7
(32)【優先日】2018-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】502289237
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ オブ ヨーク
【住所又は居所原語表記】The University of York, Heslington, York, Yorkshire YO10 5DD, Great Britain
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100170597
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】マシュー ベイカー
(72)【発明者】
【氏名】ネイル ティー ハント
(72)【発明者】
【氏名】サマンサ ヒューム
(72)【発明者】
【氏名】ゴードン ヒッテル
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第11598718(US,B2)
【文献】米国特許出願公開第2010/0012844(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0314702(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0301017(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0016818(US,A1)
【文献】Jianjun LIU et al.,Prognostic value of pretreatment albumin-globulin ratio in predicting long-term mortality in gastric cancer patients who underwent D2 resection,OncoTargets and Therapy,2017年,Vol. 10,PP.2155-2162
【文献】Angela I. LOPEZ-LORENTE et al.,Mid-infrared spectroscopy for protein analysis: potential and challenges,Analytical and Bioanalytical Chemistry,2016年,Vol. 408,PP.2875-2889
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/01
G01N 21/17-G01N 21/61
G01J 3/00-G01J 4/04
G01J 7/00-G01J 9/04
G01N 33/48-G01N 33/98
A61B 5/06-A61B 5/22
C07K 1/00-C07K 19/00
C12Q 1/00-C12Q 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IRパルスシーケンスを水性流体の試料へ印加するように構成される2D-IR分光器を用いて前記試料の2D-IRスペクトルを得る段階を有する前記水性流体を分析する方法であって、
前記シーケンスは、後にプローブパルスが続くポンプ過程を含み、
前記ポンプ過程は、単一ポンプパルス又は第1ポンプパルスと第2ポンプパルスのシーケンスで、
前記単一ポンプパルス又は第2ポンプパルスの印加と前記プローブパルスの印加との間の待ち時間Twは150から350fsで、
1つ以上のたんぱく質が前記水性流体中に存在するのか否かを前記1つ以上のたんぱく質のアミドI帯を観測することによって判断する段階を含む、
方法。
【請求項2】
前記ポンプ過程は第1ポンプパルスと第2ポンプパルスのシーケンスで、
前記Twは前記第2ポンプパルスの印加と前記プローブパルスの印加との間の時間である、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記Twは200~300fsである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の方法であって、
前記2D-IRスペクトルと1つ以上の参照用2D-IRスペクトルとを比較することによって少なくとも1つのピークを特定する段階を含む、方法。
【請求項5】
前記2D-IRスペクトルが1つ以上のピークを含む請求項1~4のいずれか一項に記載の方法であって、前記スペクトルが1656cm-1でピークを有するか否かを判断することによってアルブミンが前記水性流体中に存在するか否かを判断する段階、及び/又は、前記スペクトルが1639cm-1でピークを有するか否かを判断することによってγ―グロブリンが前記水性流体中に存在するか否かを判断する段階を含む、方法。
【請求項6】
前記2D-IRスペクトルが1つ以上のピークを含む請求項1~5のいずれか一項に記載の方法であって、少なくとも1つのピークを特定する段階と、1つ以上の参照用2D-IRスペクトルに基づく校正を用いることによって前記少なくとも1つのピークを定量化する段階を含む、方法。
【請求項7】
前記2D-IRスペクトルが1つ以上のピークを含む請求項1~6のいずれか一項に記載の方法であって、前記試料中に存在するグロブリンに対するアルブミンの比を決定する段階を含む、方法。
【請求項8】
前記2D-IRスペクトルがアルブミンに起因するピークとγ―グロブリンに起因するピークを含む請求項1~7のいずれか一項に記載の方法であって、前記アルブミンのピークのピーク高さと前記γ―グロブリンのピークのピーク高さを測定することによって前記γ―グロブリンに対する前記アルブミンの比を決定する段階と、前記アルブミンのピークのピーク高さを前記γ―グロブリンのピークのピーク高さに1.8を乗じたもので除する段階を含む、方法。
【請求項9】
前記水性流体はたとえば血液又は血清のような生体流体である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
記2D-IRスペクトルは、データベース中に格納された複数の相関前のスペクトルと比較される
請求項のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2次元赤外(2D-IR)分光を用いて水性流体を分析する方法に関する。本発明は、対象物における異常な状態を診断又は予測する方法における当該方法の利用に及ぶ。
【背景技術】
【0002】
赤外(IR)分光は、固体、液体、及び気体の化学分析において広く用いられている。単純に述べると、IR分光は、試料にIR放射線を照射して、前記試料中での分子に固有な振動情報を供する吸収スペクトルを生成する段階を含む。水性液体のIRスペクトルを取得する際に直面する問題の1つは、水に起因する吸収ピークの存在である。これらはスペクトルを支配するため、液体中の他の成分によってピークを隠す恐れがある。そのため、水性物質にこの分析方法を利用することには制約がある。
【0003】
病気の処置の成功は通常、早期の正確な診断の取得に決定的に依存する。ラベリングをせず、最終侵襲サンプリング法に基づき、迅速かつ経済的に結果を供給する検査計画が望ましい。
【0004】
生体流体の分析に基づく診断―たとえば血清―は特に魅力的である。血清試料は、患者への不快感を最小にしながら容易に取得可能で、かつ、身体の全部分と主要臓器に仮想的にアクセスする循環器系からのデータを供することができる。その結果、血清は、循環器系プロテオーム、低分子重量のペプチド、並びに、たとえば脂質、糖、及び核酸のような種を含む範囲の診断化学マーカーを含む(1~3)。
【0005】
血清が化学的に豊富であるとしても、血清中の分子の濃度範囲は10桁の範囲(g/L~ng/L)に及ぶ。このことは、分子の多様性とともに、血清中のすべての成分の正確な定量化は現実的に不可能であることを意味する。現行の分析法は、抗体パネル又は質量分析測定を特徴とするアッセイ法に焦点を当てている。いずれの方法も実験室系の試験を必要とし、アッセイ法は、関心対象のたんぱく質の特定の抗体の利用可能性に依拠し、かつ、相当な試料調製を必要とする。
【0006】
しかし病気が複数の異種成分で構成される性質のため、生体流体が提供可能な代謝情報の広い生体分子のフィンガープリントに関する情報はますます、患者の健康を悪化させる早期警告として単一の代謝検出になりがちである(1,2)。たとえば生体流体の化学フィンガープリントの変化は、多数の種類のがんの存在を示唆してきた(2,4)。血清のたんぱく質の中身は、診断上の関連を有することも示してきた(5,6)。ヒトの血清は典型的には、アルブミン(~75%)及びグロブリンたんぱく質からなる~70mg/mlを含む。グロブリンという用語は、γ-グロブリン(IgG,IgA,IgM)が濃度にして支配的となる多数のたんぱく質を含む。グロブリンに対するアルブミンの比(AGR)に関する知識は、一般的な健康に関する重要な知見を提供し、炎症反応の存在、さらには、がん治療に対する患者の能力さえも示唆するのに十分である(5,7)。AGR以外には、グロブリン組成物の詳細な破壊によって、特定の健康問題―たとえば(IgG,IgA及びa-リボ蛋白の含有量の変化によって示唆される)肝疾患又は慢性感染(IgM)―へのより深い知見が可能となる(8)。しかしAGRの重要性にもかかわらず、AGRは依然として単一の直接測定によってではなく実験室でのアルブミンの濃度と血清の合計たんぱく質含有量との間での差異から間接的に得られている。
【0007】
たとえばIR吸収分光又はラマン散乱を血清分析に適用することが増えている(3)。IR分光法は、固体、液体、及び気体の化学分析に広く用いられている。これらの方法は、高速かつラベル不要で、広範な化学分野を網羅している。しかし水はIRスペクトルにわたって強く吸収し、水性液体について得られるIR吸収スペクトルは、水に起因する吸収ピークの存在によって支配されると考えられる。その結果、液体中での他の成分に起因するピークが隠される。特に生体流体は水性で、水の吸収は従来の透過測定を妨げる。たとえば生体流体のたんぱく質含有量の従来の吸収測定は、有益なたんぱく質アミドIの吸収を不明確にしてしまう1650cm-1付近でのHOの強い吸収によって妨げられる。この問題は、試料の乾燥又はH-D交換によって回避されてきたが、これによって、試料調製時間が増え、データ解析が難しくなる恐れがある。水のスペクトルは、血清スペクトルとともに得られ、差し引かれ得る。しかし線の形状は広くて大抵は特徴のない急峻であるため不正確かつ不確実となり、この方法は、たんぱく質と水との間での相互作用の効果を無視している。試料の乾燥及び濾過は時間を要し、かつ、試料の処理によって生じる測定の不確実性に関連してきた(11)。他方代替検出配置―たとえば半透過(transfection)―は、アーティファクトを導入する恐れがある。高輝度量子カスケードレーザーは、水溶液中での透過測定を可能にするが、一回の測定で狭い波長範囲に制限されるので、生化学フィンガープリントの適用可能範囲が困難になる(12)。ラマン分光は強力だが、最適性能のためにラベリング又は信号増強計画を必要とする(13)。よって上述の問題を緩和する水性液体のIR吸収スペクトルを得る方法が望ましい。さらに、たとえばカギとなるたんぱく質を明確に差異化する能力と共に血清の前処理を必要とせずにAGRの測定が可能な単純で高速の分光法は、ヘルスケア技術における大きな前進をもたらすと思われる。
【0008】
2D-IRはたんぱく質の構造及び動特性を調査するのに広く用いられてきた。2D-IR信号は、たんぱく質の2次構造変化(14,15)、巨視的分子構造における振動結合(16)、及び小さな分子結合(17)に対して敏感であることを示してきた。それに加えて第2周波数次元にわたって分子のIR応答を広げる2D-IR分光の能力によって、複雑な混合物のスペクトルを分解する可能性がある(18,19)。最近の2D-IR技術の進歩によって、ベンチトップ型IR吸収分光計に匹敵する数十秒(20,23)でのスペクトルの測定が可能となり、2D-IRが高スループット用途において利用可能であることが示された(24)。たんぱく質の2D-IR分光は、(主としてペプチド結合のC=O伸張運動に起因する)たんぱく質の構造的に敏感なアミドIの振動モードと重なる水のH-O-H曲げ振動(δH-O-H)から生じる強力な吸収を回避するため、重水素化した溶媒内において普遍的に用いられている。そのような同位体交換法は、あまりに高価で時間がかかるので、生体流体の診療分析との相性が良くない。
【0009】
本発明の目的は、IR分光法を用いて水性液体―たとえば生体流体―を分析する方法、及び/又は、上述の問題の少なくとも1つを解決若しくは緩和する診断又は予測方法を提供することである。特に本発明の目的は、生体流体―たとえば血清―中のタンパク質の相対濃度を決定する改良された方法を提供することである。より具体的には本発明の目的は、生体流体―血清―中のグロブリンに対するアルブミンの比(AGR)を決定する方法を提供することである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1態様によると、本発明は、IRパルスシーケンスを試料へ印加するように構成される2D-IR分光器を用いて前記水性流体の試料の2D-IRスペクトルを得る段階を有する水性流体を分析する方法を供する。前記シーケンスは、後にプローブパルスが続くポンプ過程を含む。前記ポンプ過程は、単一ポンプパルス又は第1ポンプパルスと第2ポンプパルスのシーケンスである。前記ポンプパルス又は第2ポンプパルスの印加と前記プローブパルスの印加との間の待ち時間Twは150から350fsである。よって、前記IRパルスシーケンスはプローブパルスが後に続く単一ポンプパルスを含んでよく、Tは前記単一ポンプパルスの印加と前記プローブパルスの印加との間の時間である。あるいはその代わりに、前記IRパルスシーケンスは第1ポンプパルスと、該第1ポンプパルスに続く第2ポンプパルスと、該第2ポンプパルスに続くプローブパルスを含んでよく、Tは前記第2ポンプパルスの印加と前記プローブパルスの印加との間の時間である。
【0011】
このようにして2D-IR分光の非線形光学手法を適用することによって、試料中の水に起因する信号が抑制されることがわかった。この結果、たとえばたんぱく質が水性流体中に存在するときに、ピークの分解能が良好で、かつ、狭いスペクトルの特徴が改善されたスペクトルが得られる。この理由は、2D-IR分光によって、たとえば多いが吸収の弱い水分子からの広い特徴部よりもたんぱく質から生じる強い遷移双極子モーメントによって狭いスペクトルの特徴部が改善されるからである。これにより、水中のタンパク質を「見ること」が可能となる。水中でのたんぱく質のアミドI帯を観測するのはこれまで不可能と考えられていた(これまでのすべての仕事はDOで行われた)。その結果、本発明の方法によって、水性流体中の成分の分析はより定量的になる。さらに本発明の方法は、試料の前処理又は複雑な実験後のデータ解析を行うことなく透過モードで直接的に水性の生体流体―たとえば水性血清試料―の分光分析を可能にする。特に興味深いのは、本発明の方法が生体流体の定量分析―特に生体流体―たとえば血清―中のタンパク質の分析に適用されることである。
【0012】
第2態様によると、本発明は、対象物中の異常を診断及び/又は予測する方法を供する。当該方法は、前記対象物中の水性生体流体を分析する方法を有する。前記対象物中の水性生体流体を分析する方法は、IRパルスシーケンスを試料へ印加するように構成される2D-IR分光器を用いて前記水性生体流体の試料の2D-IRスペクトルを得る段階を含む。前記シーケンスは、後にプローブパルスが続くポンプ過程を含む。前記ポンプ過程は、単一ポンプパルス又は第1ポンプパルスと第2ポンプパルスのシーケンスである。前記ポンプパルス又は第2ポンプパルスの印加と前記プローブパルスの印加との間の待ち時間Twは150から350fsである。
【0013】
よって本発明の第2態様によると、本発明の第1態様による方法による前記生体流体の試料を分析する段階を有する対象物中の異常を診断及び/又は予測する方法が供される。当該診断及び/又は予測する方法は、前記成分又は存在する成分のレベルから、異常が存在するのか否か、及び/又は、前記対象物のさらなる検査が必要であるか否かを判断する段階をさらに有してよい。本発明の第1態様による方法は、単純な単一の分光測定に基づく診断―たとえば血液又は血清のAGRに基づく診断―を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(a)は、γ―グロブリンによってスパイクされる馬の血清試料のIR吸収スペクトルである。きれいなHOスペクトルが黒色の実線で示されている。拡大図は、1650cm-1での水のH-O-H曲げモードとたんぱく質アミドI帯に起因するピークの先端を拡大している。(b)は、a)からHOスペクトルが引かれた後のγ―グロブリンによってスパイクされた血清の吸収スペクトルである。
図2】(a)は、きれいな血清のアミドI領域のIR吸収スペクトルで、(b)はきれいな血清のアミドI領域の2D-IRスペクトルである。矢印は、明細書中で論じられているv=0-1の遷移の2つの成分を特定している。(c)は、300fsのポンプ―プローブ時間の遅延でのHOのIRポンプ―プローブスペクトルである。(d)は、HOの2D-IRスペクトルを50倍に拡大したものである。(b)と(d)の2D-IRスペクトルは同一スケールでプロットされ、負の等高線は破線で示されている。(e)は、1650cm-1の周波数に位置するHO(三角)及び馬の血清(丸)のIRポンプ―プローブスペクトルで観測されるブリーチング信号の時間変化である。実線は、それぞれ220fs(HO)と1.1ps(血清)の崩壊時定数で単一の指数関数を用いたデータフィッティングを示している。
図3】(a)きれいな馬の血清、(b)牛血清アルブミンたんぱく質、(c)γ-グロブリンのIR吸収スペクトル、及び、(d)きれいな馬の血清、(e)牛の血清アルブミン、(f)γ―グロブリン(牛)の2D-IRスペクトルである。灰色破線の水平線は、明細書で論じられているアルブミンとγ―グロブリンたんぱく質のピーク位置を特定している。すべての2D-IRスペクトルは同一スケールでプロットされ、負の等高線は実線で示され、かつ、正の等高線は破線で示される。
図4】50mg/mlの牛の血清アルブミン(実線)と30mg/mlのy-グロブリン(牛)(破線)の2D-IRスペクトルの対角にとった切断面である。明るい灰色破線は、50mg/mlの濃度を反映するようにスケールされた、y-グロブリンに起因する断面を示している。
図5】2D-IR分光からのy-グロブリンによってスパイクされる馬の血清試料を決定した結果である。a)2D-IR対角法(明細書参照)を用いて得られるAGR値である。当該方法のスペクトルの基礎はb)に示されている。b)はγ―グロブリンスパイクによる2D-IR対角の変化を示す。c)はポンプ切断面法(明細書参照)を用いて得られたAGRの値である。当該方法のスペクトルの基礎はd)に示されている。d)では、有色トレースは、様々なレベルでのγ―グロブリンスパイクでのγ―グロブリン信号(1639cm-1)のポンプ切断面を示す。黒色トレースは、1639cm-1でのアルブミンのピークの対応切断面を示す。e)は2D-IR SVD法(明細書参照)を用いて得られるAGR値である。典型的なSVD分析の結果がf)に示されている。g)は、パネルa),c),e)で示された結果の平均化から得られるAGR値である。パネルa),c),e),g)では、黒色の実線は、試料の実際のAGRを示唆している。
図6】(a)100mg/mlのグリシンでスパイクされる血清のIR吸収スペクトルである。(b)は、同一の試料の2D-IRスペクトルを示している。黒色の実線の矢印は、たんぱく質に起因する対角ピークを特定している。灰色破線の矢印は、グリシンの固有の2Dピークパターンを特定している。c)~h)は、グリシンによってスパイクされたある範囲の血清試料で主成分分析を実行した結果が、血清とグリシンのスペクトル応答をPC1とPC2にそれぞれ分離していることを示している。c)はグリシン濃度に対するPC1スコアである。d)はグリシン濃度に対するPC2スコアである。e)はPC1ローディングプロットで、実験によって得られた血清スペクトル(f)と一緒に示されている。g)はPC2ローディングプロットで、実験によって得られた血清スペクトル(h)と一緒に示されている。すべての2D-IRスペクトルは同一スケールでプロットされている。負の等高線は実線で示され、正の等高線は破線で示されている。
図7】濃度a)0,b)0.5,c)0.9,d)1.9,e)3.8,f)7.5,g)15,h)30(mg/ml)でy-グロブリンによってスパイクされた馬の血清試料の2D-IRスペクトルである。灰色破線の水平線は、明細書で論じられているアルブミンとy-グロブリンのピーク位置を示している。すべての2D-IRスペクトルは同一スケールでプロットされている。負の等高線は実線で示され、正の等高線は破線で示されている。
図8】一個抜き交差検証の結果である。(3つの測定の平均で3つの分析法の平均で構成される)すべてのデータ点は順次省略され、線形フィッティングが再計算される。続いて実際のAGRと線形モデルを用いることによって各データ点でのAGRが予測される。黒色の実線は、試料の実際のAGRを示している。エラーバーは2σのばらつきを示している。破線は、y-グロブリンによってスパイクされる馬の血清試料のAGRの実験値への線形フィッティングを示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は2D-IR分光の利用を含む。2D-IR分光とは、当技術分野において周知の技術で、分子の振動モードと相互作用する超短赤外レーザーパルスシーケンスを用いる段階を含む。この方法の詳細はたとえば、Adamczyk K et al,“Measuring protein dynamics with ultrafast two-dimensional infrared spectroscopy”, Meas. Sci. Technol. 23 (2012) 062001で与えられている。
【0016】
2D-IRは3次の非線形分光法である。広義には、得られたスペクトルは、検出(プローブ)周波数と励起(ポンプ)周波数との相関マップで、スペクトル内のピークは、レーザーパルスと研究対象の系の振動エネルギー準位との間の相互作用経路に関する情報を供する。
【0017】
中赤外パルスは典型的には、中心波長が~800nmでパルスエネルギーが~1mJのパルスを生成する再生増幅チタンサファイアレーザーシステムによって生成される。これらのシステムのパルス反復率は通常1kHzだが、2D-IR用により高い反復率のシステムが用いられてもよい(以下参照:Kania R, Stewart A I, Clark I P, Greetham G M, Parker A W, Towrie M and Hunt N T 2010 Investigating the vibrational dynamics of a 17e- metallocarbonyl intermediate using ultrafast two dimensional infrared spectroscopy Phys.Chem. Chem. Phys. 12 1051-63; Stewart A I, Wright J A, Greetham G M, Kaziannis S, Santabarbara S, Towrie M, Parker A W, Pickett C J and Hunt N T 2010 Determination of the photolysis products of [FeFe] hydrogenase enzyme model systems using ultrafast multidimensional infrared spectroscopy Inorg. Chem. 49 9563-73)。増幅パルスは、中赤外を評価するため、信号と不稼働ビームの差分周波数混合を備える白色シード光パラメトリック増幅器をポンピングするのに用いられる。このスペクトル領域での出力波長は概して、最大10μJのパルスエネルギーで3~15μm(3333~667cm-1)の範囲で調節されてよい。パルス期間は典型的に、最大400cm-1のスペクトル帯域にアクセスする50~100fsの領域である。パルス期間は2D-IR法にとって特に重要である。なぜならパルス期間は、単一の2Dスペクトル内の中赤外のアクセス可能領域の周波数次元を決定するからである。
【0018】
2D-IRスペクトルは、二重共鳴2D-IR分光として知られる周波数ドメイン測定法を用いて得ることができる(以下参照:[Hamm P, Lim M and Hochstrasser R M 1998 Structure of the amide I band of peptides measured by femtosecond nonlinear- infrared spectroscopy J. Phys. Chem. B 102 6123; Hamm P, Lim M, De Grado W F and Hochstrasser R M 1999 The two-dimensional IR nonlinear spectroscopy of a cyclic penta-peptide in relation to its three-dimensional structure Proc. Natl Acad. Sci. 96 2036)。これは、標準的な2パルスのポンプープローブ型実験とビーム配置に基づくが、ポンプパルスの帯域を10cm-1未満に減少させるフィルタリング装置が含まれる。2D-IRスペクトルは、ポンプ周波数を走査し、かつ、所与のポンプ―プローブ時間遅延について狭帯域ポンプで広帯域プローブのスペクトルを積層させることによって得ることができる。よってこの測定法では、ポンプ過程は単一のIRポンプパルスで、待ち時間Tは、単一のポンプパルスの印加とプローブパルスの印加との間の時間である。
【0019】
あるいその代わりに、広帯域パルスのみを利用することで時空間分解能の増大を容易にするフォトンエコーの生成に基づいて2D-IRスペクトルを取得する時間ドメイン干渉法が用いられてもよい(以下参照:Asplund M C, Zanni M T and Hochstrasser R M 2000 Two-dimensional infrared spectroscopy of peptides by phase- controlled femtosecond vibrational photon echoes Proc. Natl Acad. Sci. 97 8219-24)。フォトンエコー実験では、間の時間遅延を制御可能な3つのレーザーパルスが、信号を生成するのに用いられる。最初の2つのパルス間での遅延時間はTで表され、パルス2とパルス3との間の遅延時間-待ち時間として知られている―はTで表される。典型的な2D-IR実験では、Tは固定されるがTは走査される。試料への3つのパルスの効果は以下の通りである。第1パルスが、標的振動の基底状態と第1励起振動状態とのコヒーレントな重ね合わせを生成する。これにより遷移周波数での振動が起こり、最初はすべての励起された分子は互いに同位相となる。時間が経過すると、分子の集合にわたって振動周波数が小さくばらつく。その結果、初期のコヒーレンスの位相ずれが起こり、第1パルスによって生成される巨視的な分極の迅速な(ps)自由誘起崩壊が起こる。時間Tの経過後、パルス2は、本来の重なり状態を、基底状態又は第1励起状態であり得る分布状態に変化させ、待ち周期が始まる。この期間中、振動励起状態からの振動の動力学-たとえば分布の緩和及び分布の移行-が起こり、スペクトル拡散又は化学交換過程が観測され得る。待ち時間は二重共鳴実験のポンプ―プローブ遅延時間と等しくされてよい。これらの動力学的過程を観測するため、2D-IRスペクトルは、待ち時間の範囲にわたって記録されるのが一般的である。最終的に時間Tの後、第3パルスが試料に入射される。これにより、系は2つの振動状態の重なりに戻される。重なりと成分の状態の厳密な性質は、分布状態が基底状態であるか励起状態であるのかに依存する。3つのパルスの相互作用の経路におけるこのようなばらつきの結果、多数のピークが2D-IRスペクトル内で観測される(以下参照:Khalil M, Demirdoven N and Tokmakoff A 2003 Coherent 2D-IR spectroscopy: molecular structure and dynamics in solution J. Phys. Chem. A 107 5258-79; Hamm P and Zanni M T 2011 Concepts and Method of 2D Infrared Spectroscopy (Cambridge: Cambridge University Press))。第3パルスに続き、リフェージング過程が起こり、第1パルスと第2パルスとの間の遅延に匹敵する時間(つまりt~T)後、コヒーレンスが回復し、巨視的な分極によってエコーパルスが生成される。成分の状態に依存して、このコヒーレンスは初期励起周波数(対角ピーク)と同一周波数であってよいし、あるいは異なる周波数(対角を外したピーク)であってもよい。2Dプロットは、励起(初期コヒーレンス)周波数と検出(第2コヒーレンス)周波数とを相関させることによって全経路のマップを示す(以下参照:Khalil M, Demirdoven N and Tokmakoff A 2003 Coherent 2D-IR spectroscopy: molecular structure and dynamics in solution J. Phys. Chem. A 107 5258-79; Asplund M C, Zanni M T and Hochstrasser R M 2000 Two-dimensional infrared spectroscopy of peptides by phase-controlled femtosecond vibrational photon echoes Proc. Natl Acad. Sci. 97 8219-24; Finkelstein I J, Zheng J R, Ishikawa H, Kim S, Kwak K and Fayer M D 2007 Probing dynamics of complex molecular systems with ultrafast 2D-IR vibrational echo spectroscopy Phys. Chem. Chem. Phys. 9 1533-49)。エコー信号の取得又は測定は、2つのビーム配置のうちの一を用いてヘテロダイン検出法によって実現される。ヘテロダイン検出の適用は、厳密に必要ではないものの、2つの理由によって有利である。信号の増幅に加えて、ヘテロダインは、信号場に関す位相や信号情報が得られることを意味する。第1ビーム配置-ボックスカー法―は典型的には、正方形配置の3つの角に入力パルスを設ける(以下参照:Khalil M, Demirdoven N and Tokmakoff A 2003 Coherent 2D-IR spectroscopy: molecular structure and dynamics in solution J. Phys. Chem. A 107 5258-79; Asplund M C, Zanni M T and Hochstrasser R M 2000 Two-dimensional infrared spectroscopy of peptides by phase-controlled femtosecond vibrational photon echoes Proc. Natl Acad. Sci. 97 8219-24)。これらは試料内で集束されて重ねられる。その結果、エコーが位相整合する方向に第4の角へ向けて放出される。これは、バックグラウンドを0にして測定しながらヘテロダイン検出を実現するという利点を有する。周波数分解検出のため、2つのビームが分光計と検出器との組み合わせへ導かれる前に、信号場と第4の局所振動パルスとを共線状に重ねることが必要である。後者の分散過程は、スペクトルの検出周波数軸を与える。完全な2D-IRスペクトルは、Tが一定の条件でのtに対するエコー/局所振動子の組み合わせの干渉図をこのように記録することによって得られる。この時間ドメイン信号のフーリエ変換は、スペクトルの第2の励起周波数軸を得る(以下参照:Khalil M, Demirdoven N and Tokmakoff A 2003 Coherent 2D-IR spectroscopy: molecular structure and dynamics in solution J. Phys. Chem. A 107 5258-79)。非常に有効である一方で、ボックスカー法は、複雑な実験後データの処理を必要とする。このようにして得られた信号は、エコー信号が放出されないレーザー―物質の経路―所謂非リフェージング経路―からの寄与を含む。これらのさらなる寄与を説明し、かつ、所望の吸収2D-IRの線形状を生成するため、パルス1と2の到着時間を反転させて、リフェージングしない経路信号が打ち消されるように2つのスペクトルが合計された実験も行われなければならない(以下参照:Khalil M, Demirdoven N and Tokmakoff A 2003 Coherent 2D-IR spectroscopy: molecular structure and dynamics in solution J. Phys. Chem. A 107 5258-79; Finkelstein I J, Zheng J R, Ishikawa H, Kim S, Kwak K and Fayer M D 2007 Probing dynamics of complex molecular systems with ultrafast 2D-IR vibrational echo spectroscopy Phys. Chem. Chem. Phys. 9 1533-49)。最後にパルスの絶対的な位相は知りえないので、スペクトルの位相を設定する方法が適用されなければならない。これは、投影切断面定理を用いて実現される。投影切断面定理は、検出軸上の2D-IRスペクトルの投影と広帯域ポンプ―プローブ信号とを比較する。これは以下の文献により詳細に説明されている(Khalil M, Demirdoven N and Tokmakoff A 2003 Coherent 2D-IR spectroscopy: molecular structure and dynamics in solution J. Phys. Chem. A 107 5258-79, Finkelstein I J, Zheng J R, Ishikawa H, Kim S, Kwak K and Fayer M D 2007 Probing dynamics of complex molecular systems with ultrafast 2D-IR vibrational echo spectroscopy Phys. Chem. Chem. Phys. 9 1533-49)。この測定法―つまりフォトンエコー生成に基づいて2D-IRスペクトルを取得する時間領域干渉法―では、ポンプ過程は第1IRポンプパルスと第2IRポンプパルスのシーケンスで、かつ、待ち時間Tは第2パルスの印加とプローブパルスの印加との間の時間である。第4パルスが用いられる。これはヘテロダイン検出用の外部振動子である。
【0020】
2D-IRスペクトロメータは擬ポンプ―プローブビーム配置を用いてよい。擬ポンプ―プローブビーム配置では、ポンプパルスが、第1パルスと第2パルスとして機能する2つの等しい強度のパルスに分裂する。これらは、試料へ共線状に導かれ、試料中で第3「プローブ」パルスに重ね合わせられる(以下参照:Deflores L P, Nicodemus R A and Tokmakoff A 2007 Photon Echo 2DIR in pump probe geometry Opt. Lett. 32 2966)。この場合、第4局所振動子パルスは必要ない。なぜなら信号はプローブパルスと共線状に放出され、かつ、残りのプローブ光は局所振動子として機能するからである。さらなる利点は、一旦検出されてフーリエ変換されると、生成される2D信号は自動的にリフェージングしない経路を補償することによって、より分かりやすい方法で位相が補正された吸収スペクトルを供する。この方法に対する代替方法は、適応されたマイケルソン型干渉計(以下参照:Deflores L P, Nicodemus R A and Tokmakoff A 2007 Photon Echo 2DIR in pump probe geometry Opt. Lett. 32 2966)の代わりに中赤外パルス整形装置を組み込んで2つのポンプパルスを生成する(以下参照:Shim S H, Strasfeld D B, Ling Y L and Zanni M T 2007 Automated 2D-IR spectroscopy using a mid-IR pulse shaperand application of this technology to the human islet amyloid polypeptide Proc. Natl Acad. Sci. 104 14197-202; Shim S H and Zanni M T 2009 How to turn your pump-probe instrument into a multidimensional spectrometer: 2D-IR and Vis spectroscopies via pulse shaping Phys. Chem. Chem. Phys. 11 748-61)。パルス整形器の実装から生じる2つのパルスの時間分解と相対位相を正確に知ることで、2D-IRスペクトルの生成はさらに単純化される。他方ポンプパルスの相対位相を制御する機能は、位相サイクリングのような用途をもたらす。これは、光学的に異なる複数の試料―たとえばたんぱく質又は他の生物系―からのスペクトルを得るときに散乱光に起因する問題を緩和するのに用いられ得る。パルス整形器の設置と利用については、Shim S H and Zanni M T 2009 How to turn your pump- probe instrument into a multidimensional spectrometer: 2D-IR and Vis spectroscopies via pulse shaping Phys. Chem.Chem. Phys. 11 748-61で詳細に説明されてきた。よってこの測定法では、ポンプ過程は第1IRポンプパルスと第2IRポンプパルスのシーケンスで、かつ、待ち時間Tは第2パルスの印加とプローブパルスの印加との間の時間である。
【0021】
第1態様では、本発明は、IRパルスシーケンスを試料へ印加するように構成される2D-IR分光器を用いて前記水性流体の試料の2D-IRスペクトルを得る段階を有する水性流体を分析する方法を供する。前記シーケンスは、後にプローブパルスが続くポンプ過程を含む。前記ポンプ過程は、単一ポンプパルス又は第1ポンプパルスと第2ポンプパルスのシーケンスである。前記ポンプパルス又は第2ポンプパルスの印加と前記プローブパルスの印加との間の待ち時間Twは150から350fsである。よって、前記IRパルスシーケンスは後にプローブパルスが続く単一ポンプパルスを含んでよく、Tは前記単一ポンプパルスの印加と前記プローブパルスの印加との間の時間である。あるいはその代わりに、前記IRパルスシーケンスは後にプローブパルスが続く第1ポンプパルスと第2ポンプパルスを含んでよく、Tは前記第2ポンプパルスの印加と前記プローブパルスの印加との間の時間である。
【0022】
本発明は、水の振動モードδH-O-Hの緩和時間スケールは、2D-IRスペクトル信号が遷移双極子モーメントの4乗に比例するという事実と共に、複雑なスペクトルの後処理を行うことなく、たとえば水性流体の単一の2D-IRスペクトル内での水の信号からたんぱく質の信号を取り出すのに用いられてよい。1650cm-1での水のδH-O-Hモードのブリーチングの振動緩和は、1650cm-1にて~220fsの時間スケールで起こる。よって2D-IRスペクトルが本発明の方法で得られる150~350fsの待ち時間(T)は水の信号の最小値に対応する。よって待ち時間によって、バックグラウンドの水の信号の2D-IR信号から2D-IR信号を制御して分離することがさらに可能となる。パルスは、非常に短い期間で、典型的には時間プロファイルではガウシアンである。実際には、Tは一のパルスのピーク強度/電場から次のピークまでで測定される。Tは150~350fsで、200~300fs、230~270fs、又は240~260fsであってよい。好適にはTは250fsである。
【0023】
水性流体は、任意の水性流体であってよく、かつ、水性生体流体―たとえば血液、血清、尿素、脳脊髄流体、糞便、母乳、精液、粘液、唾液、ガラス体液、涙、汗、リンパ液、羊水、膣分泌物等―を含んでよい。水性とは、流体が水(HO)を含むことを意味する。生体流体は体液で、これらの元は哺乳類、ヒト、及び/又は動物であってよい。水性流体は、水と、1つ以上の成分―たとえば薬学的に活性な化合物、たんぱく質、アミノ酸、ペプチド―を含んでよい。好適には水性流体はDOを含まない。
【0024】
2D-IR分光計は、IRパルスのシーケンスを試料へ印加するように構成される。前記シーケンスは、後にプローブパルスが続くポンプ過程を含む。
【0025】
IRパルスのシーケンスはプローブパルスが後に続く単一ポンプパルスを含んでよく、Tは単一ポンプパルスの印加とプローブパルスの印加との間の時間である。あるいはその代わりに、IRパルスシーケンスはプローブパルスが後に続く第1ポンプパルスと第2ポンプパルスを含んでよく、Tは第2ポンプパルスの印加とプローブパルスの印加との間の時間である。
【0026】
IRパルスのシーケンスは2,3、又は4のIRパルスであってよく、いずれの場合でも、IRパルスのシーケンスは後にプローブパルスが続くポンプ過程を含み、Tはプローブパルスに先立つポンプパルスの印加とプローブパルスの印加との間の時間である。
【0027】
2D-IR分光計は、3つのIRパルスのシーケンスを試料へ印加するように構成されてよい。ここで第1パルスと第2パルスはポンプ過程で、第3パルスはプローブパルスで、Tは第2パルスの印加と第3パルスの印加との間の時間である。この構成では、第2パルスは、後にプローブパルス(第3パルス)が続く第2ポンプパルスである。
【0028】
2D-IR分光計は、2つ―つまり第1と第2―のIRパルスのシーケンスを試料へ印加するように構成されてよい。ここで第1パルスはポンプ過程で、第2パルスはプローブパルスで、Tは第1パルスの印加と第2パルスの印加との間の時間である。この構成では、第1パルスは、後にプローブパルス(第2パルス)が続く単一ポンプパルスである。
【0029】
2D-IR分光計は、4つの(つまり第1、第2、第3、及び第4)IRパルスのシーケンスを試料へ印加するように構成されてよい。ここで第1パルスと第2パルスはポンプ過程で、第3パルスはプローブパルスで、Tは第2パルスの印加と第3パルスの印加との間の時間である。第4パルスは、ヘテロダイン検出用の外部振動子である。この構成では、第2パルスは、プローブパルス(第3パルス)が後に続く第2ポンプパルスである。
【0030】
パルスの期間は50~300fsで、好適にはパルスの期間は50fsである。
【0031】
分光計は、ポンプ過程を試料へ印加するように構成される。ポンプ過程は励起事象としても知られている。
【0032】
典型的には、(複数の)ポンプパルスの周波数は1650cm-1に中心をとり、帯域は100~450cm-1である。
【0033】
典型的にはプローブパルスの周波数と帯域はポンプパルスと同一である。同一のレーザー源が、(複数の)ポンプパルスとプローブパルスに用いられてよい。
【0034】
ポンプビームとプローブビームの偏光は平行偏光又は垂直偏光であってよい。垂直偏光は信号強度を減少させがちなので、変更偏光が好ましい。
【0035】
試料を通過する放射線の経路長は、スペクトル中のピークの飽和を回避するため、相対的に短くて―たとえば2.5~6μm、2.5~3.5μm、又は3μm―よい。
【0036】
2D-IRスペクトルは、励起(ポンプ)周波数と検出(プローブ)周波数との相関マップである。マップすなわちプロットは、分子の振動モードが特定のポンプ周波数で励起される場合、Tによって決定される時間の経過後、スペクトル中のピークは、この励起によって何等かの方法で影響を受ける分子の他のモードを特定することを示す。ポンプ周波数は、初期励起事象の周波数であり、ポンプパルスの周波数に関する。ポンプ切断面は、固定されたポンプ周波数での2D-IRスペクトルの断面である。スペクトル中のピークは、研究対象である系のレーザーパルスと振動エネルギー準位との間での相互作用経路についての情報を与える。
【0037】
水性流体を分析する方法は、水性流体中の1つ以上の成分を特定する方法を含む。2D-IRスペクトル中のピークの存在は、水性流体が水以外の成分を含むことを示唆している。
【0038】
本発明の第1態様の方法は、2D-IRスペクトルと参照用2D-IRスペクトルとを比較することによって2D-IRスペクトル中のピークを特定する段階をさらに含んでよい。参考2D-IRスペクトルは、既知の分子又は化合物―たとえばアルブミンのようなたんぱく質―であってよいし、あるいは、複数のたんぱく質―たとえばγ―グロブリン―のような構造的に関連する分子又は化合物群であってもよい。アルブミンと複数のアルブミンは本願では同義的に用いられる。
【0039】
グロブリンと複数のグロブリンは本願では同義的に用いられる。参照用試料の2D-IRスペクトルは、試料と可能な限り同一に近い条件下で取られなければならない。
【0040】
本発明の第1態様による方法は、水性流体中のたんぱく質―たとえばアルブミン、グロブリン、及び、ミオグロビン―、ペプチド、DNA、RNA、及び/又はアミノ酸―たとえばグリシン―のうちの1つ以上の存在(又は不存在)を判断する段階をさらに含んでよい。よって当該方法は、たんぱく質―たとえばアルブミン、グロブリン、及び、ミオグロビン―、ペプチド、DNA、RNA、及び/又はアミノ酸―たとえばグリシン―のが水性流体中に存在するのか否かを判断する段階をさらに含んでよい。当該方法は、たんぱく質の検出にとって特に有効である。なぜならたんぱく質は固有の2Dスペクトル信号を有するからである。
【0041】
γ―グロブリンのポンプ周波数での2D-IRピークは1639cm-1で、アルブミンのポンプ周波数での2D-IRピークは1656cm-1である。よって一の実施形態では、本発明の第1態様による方法は、スペクトルが1656cm-1でピークを有するか否かを判断することによってアルブミンが水性流体中に存在するか否かを判断する段階、及び/又は、スペクトルが1639cm-1でピークを有するか否かを判断することによってγ―グロブリンが水性流体中に存在するか否かを判断する段階を含む。
【0042】
他の実施形態では、2D-IRスペクトルがピークを含むとき、本発明の第1態様による方法は、少なくとも1つのピークを特定する段階と、1つ以上の参照用2D-IRスペクトルに基づく校正を用いることによって少なくとも1つのピークを定量化する段階を含む。1つ以上の参照用2D-IRスペクトルは、少なくとも1つのピークを生じさせる原因として特定される既知の濃度の物質を含む水性流体のスペクトルである。1つ以上の参照用2D-IRスペクトルは、同一又は類似の2D-IRスペクトルを用いることによって取られてよい。
【0043】
本発明の第1態様による方法の他の実施形態では、当該方法は、試料中に存在するグロブリンに対するアルブミンの比を決定する段階を含む。2D-IRスペクトルがアルブミン及びγ―グロブリンに起因するピークを含む場合、当該方法は、試料中に存在するγ―グロブリンに対するアルブミンを決定する段階を含む。水性試料が血清であるか血清を含むとき、γ-グロブリン(IgG,IgA,IgM)の量は、血清中のグロブリンの量を表すものとして用いられ得る。γ-グロブリンは、血清中のグロブリンの濃度で見れば支配的である。
【0044】
本発明の第1態様の他の実施形態では、2D-IRスペクトルがアルブミンに起因するピーク(アルブミンピーク)とγ―グロブリンに起因するピーク(γ―グロブリンピーク)を含む場合、当該方法は、アルブミンピークのピーク高さとγ―グロブリンピークのピーク高さを測定することによってγ―グロブリンに対するアルブミンの比を決定する段階と、アルブミンピークのピーク高さをγ―グロブリンピークのピーク高さに1.8を乗じたもので除する段階を含む。換言すると、γ―グロブリンに対するアルブミンの比は、γ―グロブリンピークのピーク高さに1.8を乗じて修正γ―グロブリンピークのピーク高さを得る段階と、アルブミンピークを縮尺変更されたγ―グロブリンのピーク高さで除することによって得られる。
【0045】
第2態様では、本発明は、対象物中の異常を診断及び/又は予測する方法を供する。当該方法は、上述した実施形態を含む本発明の第1態様の方法を用いて前記対象物から得られた水性生体流体の試料を分析する方法を有する。前記水性生体流体は体の水性流体である。
【0046】
よって本発明は、対象物中の異常を診断及び/又は予測する方法を供する。当該方法は、前記対象物中の水性生体流体を分析する方法を有する。前記対象物中の水性生体流体を分析する方法は、IRパルスシーケンスを試料へ印加するように構成される2D-IR分光器を用いて前記水性生体流体の試料の2D-IRスペクトルを得る段階を含む。前記シーケンスは、後にプローブパルスが続くポンプ過程を含む。前記ポンプ過程は、単一ポンプパルス又は第1ポンプパルスと第2ポンプパルスのシーケンスである。前記ポンプパルス又は第2ポンプパルスの印加と前記プローブパルスの印加との間の待ち時間Twは150から350fsである。
【0047】
当該診断及び/又は予測する方法は生体外である。
【0048】
前記対象物は哺乳類、ヒト、又は動物であってよい。
【0049】
本発明の第2態様による方法は、前記対象物からの水性生体流体の試料を得る段階を含んでよい。前記試料は過去に前記対象物から得られたものであってよい。
【0050】
一の実施形態では、本発明の第2態様による方法は、ヒト又は動物の身体で実行される外科手術の方法を含まない。
【0051】
本発明の第2態様による方法は、前記対象物の処置又はさらなる検査が必要であるか否かを前記2D-IRスペクトルから判断する段階をさらに含んでよい。
【0052】
本発明の第2態様による方法の一の実施形態では、前記異常は不十分な全般的健康又は炎症反応の存在であり、かつ、当該方法は前記水性生体流体中のグロブリン又はγ―グロブリンに対するアルブミンの比を決定する段階を含む。
【0053】
本発明の第2態様による方法の一の実施形態では、好適な診断又は好適ではない診断との相関を導くため、前記2D-IRスペクトルは、データベース中に格納された複数の相関前のスペクトルと比較されてよく、あるいは、前記スペクトルは、相関前の分析のデータベースを「訓練」することによって進化した予測モデルに基づいて好適な診断又は好適ではない診断に相関づけられる。前記相関前のスペクトルは、既知の異常を持つ対象物から得た試料から過去に取得した2D-IRスペクトルである。そのような比較は、当技術分野において知られたパターン認識ソフトウエア及び/又は機械学習技術を用いて実行されてよい。
【0054】
本発明の方法は、以降の比限定的例に関連して述べる。
[例]
[材料及び方法]
[試料の調製]
【0055】
プールされた馬の血清、血清アルブミン(牛)、γ―グロブリン(牛)、及びグリシンが、シグマ・アルドリッチ社から得られ、さらなる精製をすることなく用いられた。アルブミンとグロブリンの個々の測定は、プールされた血清試料のpHを擬態するようにTRISバッファ(pH=7.5)を用いて実行された。AGR値の範囲で血清試料の分光を調査するため、γ―グロブリンは、30,15,7.5,3.8,1.9,0.9、及び0.5mg/mlの濃度でプールされた馬の血清にスパイクされた。これにより、合計8つの試料(7つのスパイクされた血清試料と1つの純粋な血清試料)が得られる。グリシンは、0.25~100mg/mlの濃度で純粋な馬の血清にスパイクされた。純粋な水を含む参照用試料も調製された。
【0056】
透過モードを用いてIRスペクトルを測定するため、試料の厚さは、1650cm-1での水のδH-O-Hモードの飽和を避けるために慎重に制御された。試料は2つのCaF窓の間に収容された。スペーサは用いられなかった。しかし試料ホルダの緊密さは、2130cm-1に位置する水のδOH+Vlibrの結合モードで略一貫した~0.1OD(光学密度)の吸光度を得るように調節された。測定された水のモル吸光係数に基づくと、これは、~2.75pmの厚さの試料に相当する。2D-IR測定は30分以内の細胞の調製で取得された。細胞の調製はCaF窓間での試料の設置である。
[IR分光]
【0057】
IR吸収スペクトルは、サーモサイエンティフィックニコレットiS10フーリエ変換分光計(Thermo Scientific Nicolet iS10 Fourier Transform spectrometer)を用いて取得された。スペクトルは、400~4000cm-1のスペクトル範囲内において1cm-1の分解能で20を一緒に追加走査された結果であった。バックグラウンドスペクトルは、各試料の前に取得されてから差し引かれ、その後いずれもδOH+Vlibrモードの振幅の縮尺に合わせられる。
[フーリエ変換2D-IR分光]
【0058】
2次元赤外スペクトルが、他の文献(44)で説明された擬ポンプ―プローブ配置でフーリエ変換法を用いることによって測定された。簡単に述べると、増幅されたTiサファイアレーザーシステムで構成されるULTRAレーザーシステム(45)は、白色シード光パラメトリック増幅器(OPA)をポンピングするのに用いられた超短パルス(800nm、<50fs、10kHz)を生成した。OPAからの信号とアイドル信号の差周波混合によって、1650cm-1付近を中心とする400cm-1の帯域を有する2mJのエネルギーの中赤外パルスが得られた。このIRビームが楔形のZnSe窓を用いて分裂されることで、プローブビームと参照用ビーム(~8%)として用いられた2つの低強度ビームが生成された。残りの赤外光はマイケルソン型干渉計へ導光されることで2つの「ポンプ」パルスが生成された。これらが共線状に再結合されて試料へ集束されることでプローブビームと重なる前に、これらの間の時間遅延は可変である。パルス間タイミング(tで表される2つのポンプパルス間と第2パルスとプローブパルスとの間の待ち時間T)は光学遅延ラインを用いて制御された。すべてのビームは互いに平行になるように偏光された。3つのパルスによって、残りのプローブビームの方向に信号が放出される。最後のパルスはヘテロダイン検出用の局所振動子として機能した。信号は、2D-IRスペクトルのプローブ周波数軸を供する分光計と128チャンネルのテルル化水銀カドミウム(MCT)検出器アレイの組み合わせを用いて、Twを250fsに固定してtの関数として記録された。規格化目的で、参照用ビームは、スペクトル上で分散し、かつ、64チャンネルのMCT検出器アレイ上で結像された。一のポンプ―プローブ信号の寄与を除去するため、干渉計の静止アームが5kHzでチョッピング(断続)され、連続するパルスが差し引かれた。得られたスペクトル分解能は2cm-1であった。他のポンプ―プローブ信号は、tに沿った2D-IRスペクトルポンプ周波数軸を得るようにフーリエ変換によって除去された。ポンプ・パルス対の間の時間をゼロにするため、電場の自己相関が、単一チャネルMCT検出器上の干渉計からの残りのパルス対を用いて測定された。
[2D-IRデータ解析]
【0059】
すべての2D-IRスペクトル処理と解析は、統計解析ソフトウエアプログラムR(46)上で独自に作られたスクリプトを用いて実行された。本願で説明した解析でAGR値を得る前に、2次の多項式ベースライン減算が実行された。
【0060】
2DスペクトルからAGRを得るのにi)2D-IRスペクトル対角線、ii)ポンプ―周波数切断面、及びiii)特異値分解の3つの方法が用いられた。i)2D-IRスペクトル対角線:各2Dスペクトルの対角線が抽出された。1656cm-1と1639cm-1に2つの別個のピークが示された。これらのピークはそれぞれ、アルブミン部分とグロブリン部分に割り当てられた。これらの特徴部のピークの大きさの絶対値の比は、その後に1.8をグロブリンの大きさに乗じることでAGRを決定するのに用いられた。ii)ポンプ―周波数切断面は、アルブミン部分のピークとグロブリン部分のピークにそれぞれ割り当てられた1656cm-1と1639cm-1での2D-IRスペクトルの切断面を利用した。プローブ周波数1639cm-1でのグロブリンとプローブ周波数1656cm-1でのアルブミンのポンプ切断面の最大値(高さ)の絶対値の比は、後でグロブリン信号にスケール因子(1.8)を乗じることでAGRを決定するのに用いられた。iii)SVD:すべての2D-IRスペクトルは、1656cm-1でのアルブミンピークに規格化された。SVDは、血清の2D-IRスペクトルをアルブミンとグロブリンの独立した2D-IRスペクトルの線形和にフィッティングした。続いて2つのタンパク質のスペクトルの相対的寄与の係数は、後でグロブリン部分を1.8倍にしてAGRを与えるのに用いられた。
【0061】
主成分分析(PCA)が、統計解析プログラムR(46)上で独自に作られたスクリプトを用いて実行された。2D-IRスペクトルは、試料の厚さとレーザーの揺らぎからのPCAの誤差を最小化する前にベクトル規格化された(2乗和が1に等しくなるように各スペクトルの縮尺を再設定する)。
[結果]
[IR吸収分光]
【0062】
きれい(純粋)な馬の血清及び様々なγ―グロブリンの濃度でスパイクされた馬の血清の試料の透過モード赤外吸収スペクトルは、1650cm-1に位置する広い吸収によって1250~2250cm-1領域内で支配的となる(図1(a))。きれいなHOのスペクトル(図1(a)、黒)との比較は、この特徴部が水のδモードと血清試料のタンパク質成分のアミドIモードの両方から生じる重なり寄与に割り当てられ得ることを示している。このピークの飽和に起因する効果を回避するため、試料に非常に短い経路(~3pm)を用いることで、1650cm-1での吸収を0.6未満に制限された。血清試料と水の吸収スペクトルを、2130cm-1に位置する水のδH-O-Hモードとひょう動モードの結合帯域(δH-O-H+Vlibr)の大きさに縮尺変更することによって、血清スペクトルから水のバックグラウンドの減算が実行されたことで、血清試料のたんぱく質含有量のスペクトルが明らかにされた(図1(b))。血清試料から得られたアミドI帯の大半は特徴がないが、γ―グロブリンの追加量が増加することで大きさが得られた(図1(b))。
【0063】
これらの実験では、γ-グロブリン(IgG,IgA,IgM)が血清のグロブリン部分の大半を構成していると推定される。これは、典型的には低感度のIR分光が混合物の少数成分に与えられたとすると合理的な第1近似と考えられる。水が差し引かれた血清試料のIR吸収スペクトルと血清アルブミンとγ―グロブリンの成分の水のIR吸収スペクトル(図1(b)の破線)との比較は、1650cm-1未満でのアミドI吸収線形状ではγ―グロブリンのタンパク質からの寄与が大きい一方で、1650cm-1超での線形状ではアルブミンからの寄与が大きいが、アミドIが強く重なることでAGRを定量的に決定できないことを示唆している。
[2D-IR分光]
【0064】
待ち時間250fsで得られるきれいな馬の血清試料の2D-IRスペクトル(図2(b))は、IR吸収スペクトル(図2(a))よりも顕著なスペクトル構造を示した。1650cm-1付近のスペクトルの対角線上に位置する負のピーク(実線の等高線)は、IR吸収スペクトル内で観測されるv=0-1モード遷移に割り当てられ、ポンプ周波数がそれぞれ1639cm-1と1656cm-1である明確に2つの分離した寄与(矢印)を含む。付随するv=1-2遷移に起因する正のピーク(破線の等高線)は低いプローブ周波数にシフトする。
【0065】
血清の2D-IRスペクトルと同一条件下で得られたきれいな水の2D-IRスペクトルとの比較(図2(d))は、水の2D-IR信号が血清の2D-IRスペクトルよりも顕著に弱いことを示している。弱いものの、水の2D-IR応答は、対応するIRポンプ―プローブスペクトルとよく一致することがわかった(図2(c))。ここで1650cm-1でのδH-O-Hモードのv=0-1遷移の固有ブリーチングが、振動励起と試料の加熱の弱い立ち上がりの両方に起因する正の特徴部と共に視認される。これは過去の観測と一致する(30)。水のδH-O-Hモードの大きな光吸収がIR吸収スペクトル内の1650cm-1で視認されているものの、血清と水から得られる信号の大きさが顕著に不一致であるということは、たんぱく質の2D-IR応答が血清スペクトルでは支配的であることを示唆している。2D-IRによる水のバックグラウンドの抑制は、2D-スペクトルが振動双極子モーメントの4乗に依存することに大きく起因する。その結果、より豊富だが吸収の弱い水分子よりも生体巨視的分子の強いアミドIモードが改善される(16)。図2(bとd)でのたんぱく質の含有量に起因する信号の支配は、水とたんぱく質からの2D-IR信号の大きさの待ち時間依存性を異ならせることによっても改善される。IRポンプ・プローブ測定の結果(図2(e))は、1650cm-1での水のδH-O-Hモードのブリーチングの振動緩和が、これまでの測定と一致する~220fsで起こる一方で、たんぱく質アミドIモードのブリーチングの振動緩和はより穏やか(~1100fs)に緩和することを示している。2D-IRスペクトル(図2(bとd))が得られた250fsの待ち時間は、水の加熱に起因する立ち上がり信号(図2(e))の開始前での水の信号の最小値に相当する。このことは、2D-IR信号の待ち時間によって、バックグラウンドの水信号の2D-IR信号からたんぱく質の応答をさらに制御して分離することができることを意味する。
【0066】
きれいな馬の血清の2D-IRスペクトル内で視認される1639cm-1と1656cm-1での2つのピークは、牛の血清アルブミンとγ―グロブリン(牛)のそれぞれの2D-IRスペクトル(図3)を参照して割り当てられてよい。ここで、ポンプ周波数1639cm-1でのピークはγ―グロブリン成分による一方で、ポンプ周波数1639cm-1でのピークはアルブミン部分に割り当てられることが見て取れる。2つのタンパク質信号の周波数での差異は、血清アルブミンの2次構造の大半がαヘリックスである一方で、グロブリンはβシートの比率が高い。この差異は、アミドIの質量中心帯を低周波数へシフトさせる。
【0067】
これらのピークが2D-IRスペクトル内で分離可能である一方でIR吸収スペクトル内では十分に分解されないのはここでも、2D-IR信号の非線形的性質に起因する。IR吸収スペクトル内に現れる各モードが2D-IRプロットの対角線上で視認される一方で、2D-IR信号が高次の遷移双極子モーメントに依存するということは、2D-IRスペクトルの対角線上に現れる線形状がIR吸収スペクトル内で見いだされる線形状と厳密に一致しないことを意味する(31)。吸収スペクトル内の狭い特徴部は、広い特徴部に対して2D-IRスペクトル内では強調されている(16)。血清蛋白質のスペクトルへのこの効果は、IR吸収スペクトルでは1つの広い信号しか観測されなかったところで、2D-IRプロットの対角線に沿って2つの十分に分解されたピークが出現することである。
【0068】
2D-IRスペクトル対角線上での2つのピークのアルブミンとγ―グロブリンへの割り当てに基づいて、アルブミンとγ―グロブリンの相対濃度が定量化された。しかし定量化を実現するためには、アルブミンとγ―グロブリンの相対的な2D-IR信号強度の表示が必要である。これは、血清アルブミンが~66kDaのMWを有する一方でγ―グロブリンは~150kDaの平均MWを有すること、及び、2次構造要素が異なることでアミドIの振動子の振動結合が変化することで遷移双極子モーメントを介して2D-IRアミドI帯の振幅に影響を及ぼすことによる(16)。血清アルブミンの2D-IR信号とγ―グロブリンの2D-IR信号の定量比は、可能な限り同一条件に近い条件下で2つのモデルたんぱく質の既知の濃度の測定によって得られた(図4)。血清アルブミンとγ―グロブリンの2D-IRスペクトルの相対最大強度から、単位濃度(mg/ml)あたり、アルブミン信号はγ―グロブリン信号の1.8倍の大きさになることが立証された。あるいはその代わりに、アルブミンとγ―グロブリンの相対濃度を測定するのにより洗練された方法―たとえばスペクトル積分又は線形状フィッティングを用いる―が用いられ得ることに留意して欲しい。しかし目的は、不必要なデータ解析を回避するAGRを決定する高速で分かりやすいプロトコルを供することである。
【0069】
この強度比を与えることで、γ―グロブリンによってスパイクされる馬の血清試料の各々のAGRが2D-IRスペクトルから決定された。個々の2D-IRスペクトルが図7に示されている。AGR解析の結果が図5に示されている。各測定は3回行われた。AGRは3つの異なる方法を用いて抽出された(詳細については[材料]と[方法]参照)。第1の方法は、2D-IRスペクトル対角線上でアルブミンとグロブリンに割り当てられたピークの相対強度を用いた(図5(a,b))。第2の方法は、1639cm-1と1656cm-1での血清試料の2D-IRスペクトルのポンプ―周波数切断面からそれぞれ取られたアルブミンとグロブリンに起因するv=0-1ピークの強度を用いた(図5(c、d))。第3の方法は、基底としてアルブミンとγ―グロブリンモデルたんぱく質の線形結合を用いることによって特異点分解(SVD)を用いた(図5(e,f))。AGR値はこれらの方法を用いてスパイクされた血清試料の2D-IRスペクトルから測定された一方で、3回の繰り返し測定でのばらつきは、各方法の再現性を反映するのに用いられた(図5(a,c,e))。これらは、追加されたγ―グロブリンスパイクに沿ってきれいな血清試料の従来分析によって決定されるように、AGRの実際の値と比較される(図5(a,c,e)実線の黒線)。きれいな血清の非分光学的AGR測定が、再現性を保証するために3つの血清バッチで繰り返された。
【0070】
その結果は、2D-IRスペクトルからAGRを決定する3つの方法すべてがAGRの決定値と追加されたグロブリンスパイクとの間の線形関係を供することを示している(図5(a,c,e))。その結果、各方法は、AGRの信頼できる値を生成しなかった直接IR吸収分光よりも優れている。そのため2D-IR測定は、血清のAGR値を決定する校正曲線として用いられ得る。使用されている3つの2D-IR方法のうち、ポンプ切断面から得られたAGR値(図5(c、d))は高いAGR値では最も正確であった。これら、予想されるヒトの臨床範囲である1~2に最も近く対応する(馬の血清試験試料は、ヒトにとって典型的なアルブミン濃度よりもある程度低い値を示した)。低いAGR値では、ポンプ・スライス法で得られた一致は有効ではない。恐らくは非常に多くのγ―グロブリンスパイクがアルブミン応答を歪曲し始めるからと考えられる。2D-IR対角線から得られた結果は、調査された試料の全範囲にわたって良好であった(図5(a,b))。ほとんどの2D-IRから得られた値は実際のAGR値の測定誤差の範囲内であるが、実際のAGRからのオフセットは一定であったことに留意して欲しい。これは、各2D-IRピークの中心を厳密に通らない対角線を生じさせるたんぱく質の様々な非調和によって引き起こされていると考えられる。これはAGR校正プロットでは容易に補正できなかった。最後にSVD法は、スパイクされた試料の中間範囲(AGR=0.5~0.7)にわたって非常によい一致を得たが、端の値では有効ではなかった。
【0071】
3つの分析法の平均(図5(g))を取ると、実験の不確実性の範囲内で、試料の全範囲にわたって実際のAGR値と一致した。しかしデータ解析を最小限にするという関心では、ポンプ・スライス法はAGRの現実的な値では非常に正確であることに留意して欲しい。当該方法の正確さを検査するため、我々は、未知の濃度の試料を用いた試験と分析プロトコルの交差検証試験の2つのブラインドテストを実行した。すべての場合において、結果は、測定の予想誤差の範囲内での正確さを示した(図8)。全体的に、我々の馬の血清モデル中に存在するAGR値はヒトで見いだされるものよりも多少低いものの、ここで試された2D-IR測定は、臨床上有意な範囲にわたる正確さを示したことは明らかである。
【0072】
試料の実際のAGR値との比較に基づき、2D-IRから得られたAGRの測定の推定精度は±0.03%(~4%)である。現在の湿式アッセイ試験との直接比較は難しい。なぜならこれらの試験は、全体のたんぱく質及びアルブミン濃度の差異からAGR値を得るが、典型的な引用されている精度はpg/ml範囲だからである。
【0073】
2D-IR分光はまた、血清試料における低分子重量生体マーカーの検出においても有用であり得る。典型例は脂質、ペプチド(32~34)、糖、又は核酸である(35~43)。その方法を示すため、血清試料はグリシンによってスパイクされた。図6(b)は、100mg/mlのグリシンによってスパイクされた血清の2D-IRスペクトルをIR吸収スペクトル(図6(a))と共に示している。示された例は、明確な特徴部を示している高濃度のグリシンを含むが、0.25mg/ml程度の追加しか調査されていない。グリシンに起因するピークはIR吸収スペクトル内で視認され(図6(a))、たんぱく質のアミドI帯とアミドII帯よりも概して低い周波数で起こる。しかしスペクトルの重なりの一部の要素は1550cm-1付近では起こらず、たんぱく質のアミドIのピーク(1650cm-1)付近で起こる。この重なりによって生じるいかなる不確実性も2D-IRスペクトル内では除去される(図6(b))。ここでは、タンパク質(黒い矢印)とグリシン(点線の矢印)による帯が十分に分離されているが、グリシンの結合振動モードと関連する非対角ピークは、グリシンの寄与を明確に識別するために使用できる固有の2Dパターンを作成する。これらの特徴部は、水性の血清中で明確に分解可能なので、スペクトルの対角線上に存在する混合物の他の態様からのスペクトル上の寄与の重なりに起因するいかなる効果も妨げる。2D-IR分光がたんぱく質と低重量部分を分離できることを示すため、主成分分析(PCA)が、様々なグリシン濃度でスパイクされた血清試料の組の2D-IRスペクトルに適用された(図3(c-h))。その結果は、PC1の値は試料の組にわたって大半で変化せず(図6(c))、関連するPC1のスペクトル(図6(e))はきれいな血清と素晴らしい一致を示した(図6(f))。グリシン濃度に対するPC1の不変性はグリシン濃度が非常に高くなるとわずかに失われた。1650cm-1付近で発生する弱いグリシン帯の存在に起因すると考えられる。PC1の不変性とは対照的に、PC2の値はグリシン濃度(図6(d))に対して線形相関を示し、関連するPC2スペクトル密度(図6(g))はグリシン自身のスペクトル(図6(h))との素晴らしい一致を示した。よって2D-IRは、スペクトル上で低分子重量部分を分離及び定量化できる。この例は、いかにして2D-IRが小さな分子又は種―たとえば生体流体中の糖、核酸、又は脂質―の存在を定量化するのに用いられ得るのかを示唆している。
【0074】
全体として、これらの実験は、2D-IRを用いる本発明の方法が、時間のかかる試料又はデータ解析を必要とせずに単一の分光測定を用いることによって結成のAGRを決定する単純でしっかりとした方法を提供することを示している。水のバックグラウンド信号を抑制する2D-IR実験利用するは、単純な透過モードでのデータ収集を可能にするので、代替検出法からのスペクトル上の起こりえるアーティファクトの影響を防止できる。これは、ラベルを用いない最初のAGRの光学測定であると考えられる。
【0075】
本明細書で使用される場合、包括的または自由形式であり、追加の引用されていない要素または方法ステップを除外しない「含む」という用語は、代替の実施形態として、「本質的にからなる」および「からなる」という句を包含することを意図している。 「からなる」は、指定されていない要素またはステップを除外し、「本質的にからなる」は、検討中の組成物または方法の本質的または基本的かつ新規な特性に実質的に影響を及ぼさない追加の引用されていない要素またはステップを含めることを許可する。
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