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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】非鉄金属製造の際に生じる改質スラグ
(51)【国際特許分類】
   C21C 7/04 20060101AFI20231013BHJP
   C22B 7/04 20060101ALI20231013BHJP
   C04B 5/00 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
C21C7/04 A
C22B7/04 A
C04B5/00 Z
【請求項の数】 12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021157524
(22)【出願日】2021-09-28
(62)【分割の表示】P 2018502327の分割
【原出願日】2016-03-30
(65)【公開番号】P2022008582
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2021-10-26
(31)【優先権主張番号】15248015.8
(32)【優先日】2015-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517344099
【氏名又は名称】アウルビス ベーアセ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シンティンネ、マシアス
(72)【発明者】
【氏名】ジーネン、シャルル
(72)【発明者】
【氏名】ゴリス、ダーク
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-270288(JP,A)
【文献】特開2002-321988(JP,A)
【文献】特開平02-006365(JP,A)
【文献】特許第7137467(JP,B2)
【文献】特開昭59-111968(JP,A)
【文献】特開平05-032443(JP,A)
【文献】特開2004-269318(JP,A)
【文献】特開2007-203154(JP,A)
【文献】特開平02-009741(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0027533(US,A1)
【文献】河原正泰,非鉄スラグの有効利用,資源と素材,一般社団法人 資源・素材学会,1997年,113巻、12号,p.995-998,https://www.jstage.jst.go.jp/article/shigentosozai1989/113/12/113_12_995/_pdf/-char/ja
【文献】仁木孟伯、長滝重義、友沢史紀、梶原敏孝,銅スラグ砂を使用したコンクリートの基礎的性状,コンクリート工学年次論文報告集,社団法人 日本コンクリート工学協会,1995年,17巻、1号,p.399-404,https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_10644875_po_ART0010233881.pdf?contentNo=1&alternativeNo=
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
C21C 7/04
C22B 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラグの建設産業での使用であって、該スラグは、成分を乾燥基準であり、金属の存在を、金属元素として存在する金属および酸化状態で存在する金属の総量として表わすとき、
a)少なくとも7重量%、最大49重量%の鉄と、
b)最大1.3重量%の銅と、
c)少なくとも24重量%、最大44重量%の二酸化ケイ素SiO2と、
d)少なくとも1.0重量%、最大20重量%の酸化カルシウムCaOと、
e)少なくとも0.10重量%、最大1.50重量%の亜鉛Znと、
f)少なくとも0.10重量%、最大2.5重量%の酸化マグネシウムMgOと、
g)最大0.050重量%の鉛Pbと
を含み、前記使用は、
コンクリート及びセメントから選択される組成物の要素であって、該要素は、フィラー、バインダー、及びこれらの組み合わせである、前記要素、
外装石材として使用される黒色の硬い塊材であって、該黒色の硬い塊材中のスラグの少なくとも30%が結晶化しており、50~200mmの範囲の平均粒径を有する、前記黒色の硬い塊材、および
2900~4000kg/mの範囲の密度を有する高密度の砂利
のうちの少なくとも1つから選択される、スラグの使用。
【請求項2】
屋根瓦及び屋根板のうちの少なくとも1つの被覆及び/又はコーティングを提供するための、請求項1に記載のスラグの使用。
【請求項3】
前記スラグが発泡タイルとして使用される、前記組成物の要素としての請求項1又は請求項2に記載のスラグの使用。
【請求項4】
前記スラグが黒色顔料として使用される、前記組成物の要素としての請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のスラグの使用。
【請求項5】
前記組成物の硬化速度の低下を避けるための、コンクリート及びセメントから選択される組成物の要素としての請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のスラグの使用。
【請求項6】
前記スラグが、骨材のバインダーとして使用される、前記組成物の要素としての請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載のスラグの使用。
【請求項7】
前記スラグが、ポルトランドセメントの代用品として使用される、前記組成物の要素としての請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載のスラグの使用。
【請求項8】
無機高分子組成物中のバインダーとしての、請求項6または請求項7に記載のスラグの使用。
【請求項9】
前記無機高分子組成物を発泡させる工程を含む、請求項8に記載のスラグの使用。
【請求項10】
断熱性及び/又は遮音性を向上させるための、請求項9に記載のスラグの使用。
【請求項11】
前記スラグが、れんが又は耐火れんがの焼成温度の低下、断熱性および/又は遮音性の向上、X線の遮蔽、及びこれらの組み合わせから選択される効果の向上のために使用される、前記組成物の要素としての請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載のスラグの使用。
【請求項12】
前記スラグが、酸化カルシウムCaO、酸化アルミニウムAl23、水酸化カルシウムCa(OH)2、炭酸カルシウムCaCO3、硫酸カルシウムCaSO4から選択される少なくとも1つの別の酸化物又はその前駆物質と組み合わされて採用される、前記組成物の要素としての請求項1から請求項11までのいずれか一項に記載のスラグの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一次原料、すなわち鉱石から、再生可能な材料としても周知の二次原料から、又はこれらの組み合わせから、銅などの非鉄金属を製造することに関するものである。再生可能な材料としては、例えば、副産物、廃棄物、及び耐用命数に達した素材を挙げることができる。より詳細には、本発明は、この非鉄金属製造の際に生じる副産物としての改質スラグに係るものである。
【0002】
銅(Cu)製造の際に生じるスラグ副産物は、とりわけ組成の観点から特殊である。
銅溶解炉の操業温度は、通常、特定のその他溶解炉の操業温度よりもはるかに低い。そのような低温でスラグに十分な流動性を持たせるためには、特定の成分が必要とされるか又は望まれる。なぜなら、それら成分は、時に特定の濃度範囲においてスラグ溶融温度を抑える傾向を有し、そのため必要以上の高温をかけることなく溶融方法を実施できるからである。そのことは、エネルギー消費の観点から、したがって操業コストの観点から非常に望ましい。
【背景技術】
【0003】
非鉄金属の製造原料として利用可能な材料は、通常、複数の金属を含有している。非鉄金属は、量産用途のほとんどの場合で高純度が求められるため、製造方法において異なる金属を分離する必要がある。非鉄金属の製造方法では、一般に、金属と金属酸化物の両方が溶融状態で生じる、少なくとも1つ、通常は複数の高温冶金工程を含み、金属酸化物を独立した液体スラグ相として、溶融金属相から比重により分離することができる。このスラグ相は、通常、独立した流体として引き抜かれるが、この分離により、金属製造の副産物としてスラグが生成できる。
【0004】
非鉄金属は、出発物質である鉱石(また一次原料とも呼ばれる)から、再生材料(二次原料としても周知)から、又はこれらを組み合わせて製造することができる。
【0005】
二次原料から非鉄金属を回収することは、長年にわたり最も重要な取り組みである。使用済みの非鉄金属を再利用することは、このような金属への強い需要が引き続き存在するものの高品質な金属鉱石の利用が抑制されているため、産業界において重要な要素となっている。また、二次原料の処理には通常、溶解炉などの高温冶金工程の使用が含まれるので、それにより副産物であるスラグが生成される。
【0006】
スラグは主に、高温で液体となる金属酸化物を含有している。非鉄金属溶融物中、例えば、銅、鉛又は亜鉛の溶湯には、液体状態の金属酸化物が存在しており、この金属酸化物の密度は、液体の溶融金属の密度よりも小さい。そのため、金属酸化物を比重により金属から分離することができる。スラグは通常、冷却後に破砕、分粒し、岩石及び砂利の代用品、また道路建設用骨材として、コンクリート製造に用いることができる。スラグを粉砕すると、その特有の硬さにより、ブラスト用サンド又はブラスト用グリットとして使用する際に有利となる。
【0007】
スラグ製品中に存在する可能性のある技術分野で周知の物質のなかには、場合により環境に悪影響を及ぼすと考えられている物質もある。主として鉛(亜鉛の場合もある)が、上述した好ましくない物質の代表例である。亜鉛と鉛の両方は通常、スラグから溶出できる形態で存在する金属であり、それら金属がかなりの濃度で存在すると、スラグ製品の多くの用途(とりわけ、より経済的に魅力のある用途)を排除することとなり、また埋立地へのスラグの廃棄がより複雑かつ困難となる場合がある。一般的には、それら金属を「有害廃棄物」とみなすべきである。多くの場合、特定用途における使用の承認は、スラグの溶出挙動試験を行うことにより決定される。通常、Pb及びZnなどの元素には溶出傾向があり、特定のスラグが承認試験を通過しない原因となり得る。
【0008】
更に、鉛が生殖毒性となる虞があったため、製品又は組成物中のPb成分により、その使用に制限が課される場合がある。一部の管区では、対応するCLP(分類、表示、包装)規則の分類による限界値に関し現在調査中であり、Pb及びPb含有化合物に関する特定分類限界(SCL)の設置を目指している。Pbの設定限界値としては、0.03重量%ほどの低い値となる可能性がある。非鉄金属製造由来の市販のスラグは、通常0.3重量%濃度よりも更に著しく高い濃度のPb成分を含有している。このCLP規則が施行されると、非鉄金属製造由来の上記現行スラグは、更なる表示要求を受けることとなり、現行の多くの用途における上記スラグの商品化及び承認がより困難なものとなるだろう。また、たとえ商品化及び承認が不可能ではないとしても、埋立地などの廃棄手段を選定するための負担も高まる虞がある。このような状況では、特定の最終利用(ブラスト用サンドとしてのスラグの利用)において、ブラスト作業により生じた、スラグを含有する廃棄副産物は通常、埋立地処分を意味することが指摘されている。そのため、いくつかのサンドブラスト方式など、現行の有用な最終利用用途の一部において、スラグ中の鉛成分が、スラグの利用性を著しく低下させる虞がある。
【0009】
第3回CANMET/ACI セメント及びコンクリートの持続可能な開発に関する国際シンポジウム(the 3rd CANMET/ACI International Symposium on Sustainable Development of Cement and Concrete)(2001年)において発表された、S.モノーシ(S.Monosi)等の「コンクリート用セメント材料および細骨材としての非鉄スラグ(Non Ferrous Slag as Cementitious Material and Fine Aggregate for Concrete)」は、ポルトランドセメント及び/又は天然砂の代わりにコンクリート原料として試験した、4.77重量%のZn及び2.03%のPbを含有するスラグについて報告している。上記のスラグはまた、14.65重量%のSiO2を含有している。溶出試験により亜鉛及び鉛の溶出が示されたが、数値としては、依然として1998年のイタリア法定基準未満であった。
【0010】
しかしながら本発明者らは、スラグ中にモノーシの研究で使用された濃度の亜鉛が存在することで、コンクリート、及びセメントなどのその他建設用組成物の硬化が著しく遅くなることを見出した。硬化速度へのこの影響は、セメント質原料として、及び/又は、コンクリート又はセメントの骨材として、相当量のZnを含有するスラグを使用することに差し障りがあることを示している。
【0011】
そのため、金属溶出リスクの低い、非鉄金属製造の際に生じるスラグ、とりわけ、経済的に魅力のある最終利用用途においてその使用が認可されかつ改良できるような、鉛含有量及び/又は亜鉛含有量が十分に低く溶出懸念が一切生じないスラグに対する要望は依然として存在する。
【0012】
さらに、Pb含有量が0.03重量%未満の、非鉄金属製造の際に生じるスラグに対する要望は依然として存在しており、当該Pb含有量は結果として、ある特定の管区で場合により施行されようとしているCLP規則に基づく更なる表示要求を免除されるという利点をもたらすであろう。
【0013】
更に、このスラグをセメント質原料又は骨材として含有するコンクリート又はセメントに、硬化速度低下という欠点をもたらすことのない、非鉄金属製造の際に生じるスラグに対する要望は依然として存在している。
【0014】
米国特許第5749962号明細書は、ニッケル鉱石からニッケルを製造する際に生じるスラグ副産物について記載している。このスラグは「本質的にFeO.SiO2」であり、その使用において、粉砕後、3型超早強ポルトランドセメントと混合し、例えばコンクリートを製造するための混合セメント(バインダー)を生成すると記載している。上記スラグはZn及びPbを含まない。なぜなら、ニッケル製造に用いる鉱石もそれらの物質を含まないためである。
【0015】
米国特許第4571260号は、カルド転炉内で、出発原料を還元剤としてのコークス、並びに、フラックス材料としての大量の石灰石及び酸化鉄と共に加熱及び溶融すること(これを、酸化工程から始まる連続的なバッチプロセス順で行う)によって、スズ及び/又は亜鉛を含有する原料中の金属有価物、とりわけ、鉛を含有する原料由来の金属有価物を回収するプロセスについて開示している。続く少なくとも1つの還元工程において、亜鉛及びスズ(存在する場合)を蒸発させ、溶解炉排ガスから回収することが可能である。とりわけ還元段階の後半において、強烈な混合又は攪拌を行いつつ、設定した還元温度で、コークスがスラグ中に懸濁状態で保持可能となるようにスラグに流動性の鈍い粘性を付与するためには、大量のフラックス材料が必要となる。米国特許第4571260号明細書中の唯一の実施例において、残った8トンの残スラグは、1.5%のPb及び1.0%のZnを含有していた。このスラグは、金属溶出について懸念され得る量の亜鉛及び鉛を依然として含有している。米国特許第4571260号において、最終スラグは廃棄されている。
【0016】
第7回 溶融スラグ、フラックス及び塩類に関する国際会議(VII International Conference on Molten Slags Fluxes and Salts)(2004年)の「南アフリカ鉱業・冶金協会(The South African Institute of Mining and Metallurgy)」377~384頁、E.ヘッカー(E.Hecker)、B.フリードリヒ(B.Friedrich)、及びJ.ブルカ(J.Bohlke)の「相平衡および熱力学計算を考慮した中空電極DC-EAFでの鉛および亜鉛(Treatement of lead and zinc slabs in hollow electrode DC-EAF in consideration of calculated phase equilibria and thermodynamics)」は、鉛又は亜鉛産業で生じるスラグの処理、より詳細には、鉛精錬のQSL法により生じるスラグ、及び亜鉛精錬のインペリアルスメルティング(IS)法により生じるスラグについて開示している。鉛及び亜鉛精錬の乾式冶金法は、銅精錬のプロセスに要するよりも高い操業温度を必要とすることが知られている。この論文では、オースメルト(Ausmelt)法又はアイザスメルト(Isasmelt)法として知られる従来のスラグフューミング法又はその変法と比較して、改良されたスラグ処理について提案している。著者は、スラグへと亜炭コークスを装入するために、気密性のある中空グラファイトカソード機構を用いたパイロット規模のDC電気アーク炉(DC-EAF)を稼働させた。わずかな流量の窒素ガスを用いて、スラグと電極表面の内側との間に働く毛細管力の影響を弱めた。その結果、排ガスはCO2リッチとなる(排ガスは、装入した炭素が酸化されることと引き替えに金属酸化物の還元反応により生じる)。十分な酸素を浴上層へと供給するために一定量の三次空気を導入し、揮発したZnを排ガス中で酸化させてZnOとし、また、いくらか残存するCOを再燃焼させてCO2をより多くさせる。DC-EAFにおける外部からの入熱は、2つの電極間にあるスラグ浴へと差し込んだ電気アークによる直接加熱によるものである。論文中の表I及び表IIにおいて、処理前後のスラグ組成物についての情報が提供されている。処理後の情報のうち欠落部分については、Fe総濃度の濃縮係数から数値を計算することができる。全てのスラグは、少しも銅有価物を含んでいない。更に、処理後のQSLスラグは0.11重量%のPbを含有しているため、容認できないPb溶出の懸念を依然として示す虞がある。処理後のISスラグは、5.0重量%のMgOを含有している。この論文に関して上記で説明したように、高濃度のMgOが、スラグ融点をより高くするという欠点をもたらすため、処理温度の観点から余計な負担が生じ、追加的な投資及び入熱が必要となる。
【0017】
米国特許第8088192号は、AC電気アーク炉内での冷間装入のCu-Fe-Niスラグの処理について開示している。開始時のスラグはまだ8重量%もの銅を豊富に含んでおり、5重量%のMgOも含有していた。処理を行う前に、高濃度(97.7重量%)の銅も溶解炉に装入した。1450℃まで加熱し、N2攪拌し、更にスラグ、及び遊離石灰であるCaOを加えてから、均質なスラグを作製した。続いて、微粒子状の無煙炭を投入することにより還元を行った。各相が安定すると、3%のMgOを含有するスラグ相が分離された。米国特許第8088192号記載のスラグにはアルカリ金属酸化物が存在しないことが記録されている。
【0018】
K.コッホ(K.Koch)及びD.ヤンケ(D.Janke)著、「冶金におけるスラグ(Schlacken in der Metallurgie)」 (ISBN 3-514-00254-1)の157頁では、「脱亜鉛化」スラグについて開示している。このスラグは、銅含有スラグを還元条件下で溶融させた結果のものであって、その間、鉛及び亜鉛は還元されて揮発され、一度反応炉の外で酸化されて、粉塵状に析出する。この文献は、スラグ中の酸化マグネシウムの存在については何ら言及していない。
【0019】
特開2001-040431号公報は、銅製造の際に生じるスラグ副産物の流動性が、CaO、SiO2、及びFeをスラグへと添加することによって、どのように改善できるかについて開示している。表1に開示される多種多様なスラグを出発物質として検討しているが、全てのスラグは、ZnO(少なくとも2.4重量%で、1.9重量%のZnに相当)及びCu2O(少なくとも6.8重量%で、少なくとも6.04%の銅に相当)を豊富に含有している。スラグ中のCu2O成分を還元し、より多くの銅を回収するため、表1で選択したスラグについて、鉄、及び所望により空気を加えることにより、更なる還元工程を実施した。この工程の結果、表2に開示するスラグ組成物を得たが、この組成物は有意に多くのFeOを含有しており、そのSiO2含有量は、最大20.8重量%のSiO2にまで低下していた。日本国特許第2001 040431A号明細書中の1つの実施例では、鉄を用いた還元工程中に、続いて、空気を吹き込みつつ表1のスラグ15中へと一定量のSiO2を添加することで得た、3種の中間スラグ組成物について開示している(うち1種は、0.7重量%のCu2O、0.9重量%のZnO、及びわずか21.5重量%のSiO2を含有している)。
【0020】
国際公開特許第2014/046593号は、吹き込んだ高エネルギーの高温プラズマガスジェットを用いて、溶融スラグ中から蒸発性金属及び/又は金属化合物を回収する方法について開示している。この特許の利点は、従来求められていた平均的なスラグ温度を大幅に下回る温度で、速い蒸発速度を実現可能としたことである。これにより、必要エネルギーの減少、必要なスラグ形成剤又はフラックス材料の減少という利点がもたらされ、また更にその結果として、最終スラグ量の減少、及び装置の摩耗の減少という利点ももたらされる。実施例において、電気アーク炉(EAF)ダスト1000kg、コークス100kg、及び砂100kgからなる混合物を処理し、わずか1.3重量%のZnO(1.04重量%のZnに相当)、及び、最大26.0重量%のSiO2を含有するスラグを生成する。国際公開特許第2014/046593号において生成したスラグは依然として、金属溶出について懸念される十分な量の亜鉛を含有している。国際公開特許第2014/046593号明細書にはまた、スラグについて、特定の最終利用用途において使用する場合の、まだ知られていない潜在的に有利な効果が存在する。
【0021】
国際鉛・亜鉛研究グループ会議(The International Lead and Zinc Study Group Conference)(1991年6月11~13日、ローマ)に提出された、A.F.S.シャルケンス(A.F.S.Schoukens)、L.R.ネルソン(L.R.Nelson)及びN.A.バルツァ(N.A.Barcza)著、「鉄鋼設備ダストおよび亜鉛含有スラグのプラズマ-アーク処理-理論的および実践的考察(Plasma-Arc treatment of steel-plant dust and zinc-containing slag - Theoretical and Practical Considerations)」(Mintek 論文番号8128)は、製鋼ダスト及び鉛精錬スラグを処理するための「Mintek」プラズマ-アーク処理について開示している。鉛精錬スラグは、14重量%のZnO、及び2.8重量%のPbOを含有していた。還元剤としての木炭を使用し、投入して、スラグ中に酸化物としての鉄を残しつつ、酸化鉛及び酸化亜鉛を選択的に還元した。鉛精錬スラグの処理後に排出したスラグは1500℃の温度であり、この温度は、ダスト中の酸化亜鉛及び酸化鉛を還元するのに必須であると記載されている(第4章、第2段落)。鉛精錬スラグから製造したスラグは、わずか20%のFeOしか含有していないが、26重量%もの多量のCaO、及び8重量%のMgOも含有していた。このスラグの溶融温度は比較的高いため、その液状化処理に高エネルギーが必要となるという欠点をもたらす。
【0022】
国際公開特許第2013/156676号は、非鉄冶金スラグを廃棄するのではなく、その他の用途に適した粉砕原料へと変換するための、非鉄冶金スラグの処理方法について開示している。方法は還元工程を含み、金属相が十分な量の鉄を含有し金属相に磁性を付与する程度まで、スラグ中の鉄を還元する必要がある。方法は、金属滴を溶融スラグ中に保ち、この金属滴を溶解炉底部に析出させないことを目的とした、十分な混合を含む。方法は更に、混合液中からの、亜鉛、鉛、ヒ素及びカドミウムの蒸発を含む。還元炉内で生成され残ったスラグ-金属混合液は、排出されて冷却される。冷却された混合物は、20μm~15μmの粒径になるまで破砕され粉砕される。金属及び発生し得る硫化物は、例えば、磁気分離によってスラグから分離される。実施例では、4%のZn又は2.4%のZnのいずれか一方を含有するスラグの処理について示している。開始時のスラグを、還元剤である、炭化ケイ素(実施例1及び実施例2)又は炭素(実施例3)で処理する。実施例3では、還元後の混合液に対して窒素バブリングを行った。得られた合金とスラグの混合液は、高濃度のFe、1.00重量%未満のZn、最大わずか0.08重量%のPb、及び、少なくとも45重量%のSiO2又は最大1.3重量%のCaOのいずれか一方を含有していた。スラグは、銅と鉄の両方を含有する金属介在物を含むと記載されている。実施例1及び実施例3のスラグ-金属混合物を粉砕してから、磁気分離にかけ金属を選り分けた。うち実施例3のみにおいて、非磁性の最終残留スラグの組成が記載されおり、この組成は驚くべきことに、金属相を分離する前の、合金及びスラグの混合液の組成として記録された組成と類似していた。最終スラグは、SiO2が豊富であり、また1.4%以下のCaOを含有していた。国際公開特許第2013/156676号は、残留スラグを、道路建設、埋め立て用途、又はコンクリート及びセメントの構成成分として利用することを提案している。国際公開特許第2013/156676号には、建設産業で用いるそのスラグ、及び/又は無機高分子について、知られていない何かしらの潜在的に有効な機能が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【文献】米国特許第5749962号明細書
【文献】米国特許第4571260号明細書
【文献】米国特許第8088192号明細書
【文献】特開2001-040431号公報
【文献】国際公開第2014/046593号
【文献】国際公開第2013/156676号
【非特許文献】
【0024】
【文献】S.モノーシら、「Non Ferrous Slag as Cementitious Material and Fine Aggregate for Concrete」、2001年、第3回CANMET/ACI セメント及びコンクリートの持続可能な開発に関する国際シンポジウム
【文献】E.ヘッカー、B.フリードリヒ及びJ.ブルカ、「Treatement of lead and zinc slabs in hollow electrode DC-EAF in consideration of calculated phase equilibria and thermodynamics」、2004年、The South African Institute of Mining and Metallurgy、第377頁~384頁
【文献】K.コッホ及びD.ヤンケ、「Schlacken in der Metallurgie」、ISBN、 3-514-00254-1
【文献】A.F.S.シャルケンス、L.R.ネルソン及びN.A.バルツァ、「Plasma-Arc treatment of steel-plant dust and zinc-containing slag - Theoretical and Practical Considerations」、Mintek、論文番号8128
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
容易かつ簡便な方法を用いて一次及び/又は二次原料を処理する際に副産物として生成される、非鉄金属製造の際に生じるスラグ副産物を改質し、潜在的な金属溶出の点において許容可能であり、かつ、更に有効に、積極的、に技術的、そして経済的に貢献可能な品質、並びに、上記で説明した欠点の生じない下工程でのスラグの使用に対する要望は依然として存在している。本発明は一般に、上記で説明した問題を取り除くか、若しくは少なくとも軽減するか、及び/又は、問題に対する改善点を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明によれば、添付の請求項のいずれかにおいて定義するスラグ、スラグを製造する方法、及びスラグの使用が提供される。
【0027】
一実施形態では、本発明により、非鉄金属製造の際に生じるスラグ副産物が提供される。このスラグ副産物は、
a)少なくとも7重量%、最大49重量%の鉄(Fe)、
b)最大1.3重量%の銅(Cu)、
c)少なくとも24重量%、最大44重量%の二酸化ケイ素(SiO2)、及び、
d)少なくとも2.0重量%。最大20重量%の酸化カルシウム(CaO)を含み、ここで、この成分は、乾燥基準であり、金属の存在は、存在する金属元素の総量で表され、酸化状態の金属の存在は、好ましくは、その金属自体及び/又はその他の金属との組み合わせでの、金属の酸化物の形態で表され、このスラグは、同一基準で、
e)少なくとも0.10重量%、最大1.00重量%の亜鉛(Zn)、
f)少なくとも0.10重量%、最大2.5重量%の酸化マグネシウム(MgO)、及び、
g)最大0.100重量%の鉛(Pb)、
を含む。
【0028】
一実施形態では、本発明は、本発明によるスラグをバインダー及び/又は骨材として含む物品を提供する。このスラグは、最大1.50重量%の亜鉛Znを含む。
【0029】
本発明者らは、本発明によるスラグが、ジオポリマー系中のバインダーとして機能できることを見出した。本発明者らは更に、本発明によるスラグが、ジオポリマー系に用いるための非常に好適な骨材になり、骨材としてのこのスラグの使用が更に、かかるジオポリマー系を用いて製造される製品に極めて良好な性質を付与することを見出した。
【0030】
米国特許第5749962号明細書と比較して、本発明は、亜鉛含有供給原料も溶解炉内で処理可能であるという利点を有する。本発明によるスラグを製造する方法では、供給原料中に存在するZnを除去することが可能であり、スラグ中のZnは、最終的に許容可能な濃度まで下がり、健康、産業、衛生及び環境に関する懸念をほとんど引き起こさず、少なくとも0.10重量%のような、適正な分析技術により十分に示される。
【0031】
本発明によるスラグは、規定の最小MgO量、並びに、規定の最大MgO量を含有する。プロセスの供給原料中にマグネシウムが存在するという理由で、マグネシウムがスラグの一部になり得るが、マグネシウムはまた、溶出する虞もある。本出願人らは、スラグ中の最小量のMgOの存在が、スラグの溶融温度を有意に低下可能であることを見出した。しかしながら、本出願人らはまた、より多量のMgOが一方でスラグの粘性を再度有意に増加させ得るため、認められた効果が減少又は損なわれるということ、より多量のMgOが更に、MgOを一切含まないスラグの粘性よりも高い粘性を持つスラグを最終的にもたらし得るということを見出した。理論に束縛されるものではないが、本出願人らは、この作用が、溶液から溶出して場合に、よりスピネル形状を形成するMgOによるものであり、スラグに濃厚で鈍い様相を与えていると考えている。溶液から溶出するMgOの存在量が比較的少ないことにより、スラグの粘性が速やかかつ有意に増加し、液体の処理を非常に困難なものにすると考えている。したがって、本発明によるスラグは、最大で上限値のMgOも含有すると規定される。MgOが規定の範囲で存在するために、スラグは、プラズマ処理実施前にスラグが生成される溶解炉中において、比較的低温でより流動的となる。このことにより、より高濃度の金属相及びより高濃度のスラグ相(2相それぞれにおいて望ましい構成成分を基準とする)を同時に得られるように、スラグ中の構成成分及び液体金属相中の構成成分間における、優れた分離が達成可能であるという利点がもたらされる。このことにより、一方では、金属相における所望金属のより高い回収、金属相における所望金属の更なる高濃度化がもたらされ、また他方では、スラグ相における貴重な金属有価物の更なる低濃度化がもたらされる。規定のMgOの存在は、下流プロセス(本発明の場合、最終スラグを製造するためのスラグのプラズマ処理プロセス工程)に必要な条件が緩和されるという利点をももたらす。プラズマ処理工程は、低温で行ってもよく、またなお、スラグの優れた流動性(例えば、粘性が低い)により、少なくとも所望のフューミング操作、及び、より重要なことだが、別々の相間(液体-液体間に加え、蒸気-液体間)の優れた分離を有していてもよい。それゆえ、スラグから亜鉛及び/又は鉛を蒸発させて本発明によるスラグを得るという観点から、少なくとも所望のプロセス速度を達成することができる。したがって、本発明によるスラグ中のMgO含有量は、本発明の重要な要素である。
【0032】
本発明によるスラグは、規定の最小量のMgOを含有する。K.コッホ及びD.ヤンケの「冶金におけるスラグ」(ISBN 3-514-00254-1)の157頁での開示(本明細書にてすでに説明)と比較した際の、本発明の効果及び利点は、本明細書の他の箇所で既に説明してきた。
【0033】
本明細書にて上記した、E.ヘッカー、B.フリードリヒ及びJ.ブルカらによる論文中の処理後のQSLスラグと比較して、本発明によるスラグは、その用途におけるPb溶出の懸念が低いという利点をもたらすため、健康、産業、衛生及び環境に関する懸念をほとんど引き起こさない。
【0034】
本明細書にて上記した、E.ヘッカー、B.フリードリヒ及びJ.ブルカらによる論文中の処理後のISスラグと比較して、本発明によるスラグは、MgOの量が少ないという利点をもたらす。このことにより、スラグの融点が下がり、その結果として、同一温度でのスラグの流動性が向上するという利点がもたらされる。このことにより、操業温度の低下による必要エネルギーの減少、及び/又は、スラグ及び金属を比重により互いに分離する工程における、液体スラグ相及び液体金属相間の優れた分離、好ましくは双方の利点の組み合わせが可能となる。MgOの存在量が少ないために、スラグは、プラズマ処理実施前にスラグが生成される溶解炉中において、比較的低温でより流動的となる。このことにより、より高濃度の金属相及びより高濃度のスラグ相(2相それぞれにおいて望ましい構成成分を基準とする)を同時に得られるように、スラグ中の構成成分及び液体金属相中の構成成分間における、優れた分離が達成可能であるという利点がもたらされる。このことにより、一方では、金属相における所望金属のより高い回収、金属相における所望金属の更なる高濃度化がもたらされ、また他方では、スラグ相における貴重な金属有価物の更なる低濃度化がもたらされる。MgOの存在量が少ないことはまた、下流プロセス(本発明の場合、最終スラグを製造するためのスラグのプラズマ処理プロセス工程)に必要な条件が緩和されるという利点をもたらす。プラズマ処理工程は、低温で行ってもよく、またなお、スラグの優れた流動性(例えば、粘性が低い)により、少なくとも所望のフューミング操作を有していてもよい。それゆえ、スラグから亜鉛及び/又は鉛を蒸発させて本発明によるスラグを得るという観点から、少なくとも所望のプロセス速度を達成することができる。したがって、本発明によるスラグ中の低いMgO含有量もまた、本発明の重要な要素である。
【0035】
本発明者らは更に、かなり高濃度の鉄(通常はその酸化物の状態)を含有するスラグは、それら鉄による優れた流動性を示すため、スラグ相及び金属相間における同一の所望の分離性能、並びに、スラグ中のPb及び/又はZnの所望の低い含有量を達成するために、カルシウムをほとんど必要とせず、スラグ中のその他の有価金属(Cu及び/又はSnなど)の含有量もまた低くなるということを見出した。そのため、本発明者らは、Feを、少なくとも8重量%、好ましくは少なくとも10重量%、より好ましくは少なくとも15重量%、更により好ましくは少なくとも20重量%、その上より好ましくは少なくとも25重量%、好ましくは少なくとも30重量%、より好ましくは少なくとも35重量%、更により好ましくは少なくとも37重量%、含有するスラグを製造することを選択する。それゆえ、本発明者らは、少なくとも9重量%の酸化鉄(FeOとして表される)を含有するスラグを製造することを選択する(本明細書の他の箇所で説明したとおりに計算しFeOへと変換する)。好ましくは、スラグは、FeOを、少なくとも10重量%含み、好ましくは少なくとも12重量%の、より好ましくは少なくとも15重量%の、更により好ましくは少なくとも20重量%の、その上より好ましくは少なくとも30重量%の、好ましくは少なくとも40重量%の、より好ましくは少なくとも45重量%の、更により好ましくは少なくとも50重量%の酸化鉄(FeOとして表される)を含む。本出願人らは、この構成により、CaOが豊富ではなく、それゆえ、所望の良好な流動性、低い融点、並びに、より低温での良好な操作性及び分離性を得るために、添加する必要のあるCaCO3の量がより少なくてすむスラグが製造可能となることを見出した。それゆえ、本発明者らは、CaOを、最大18重量%、好ましくは最大15重量%、より好ましくは最大12重量%、更により好ましくは最大10重量%、その上より好ましくは最大8.0重量%、含有するスラグを選択する。
【0036】
別の実施形態では、本発明は、本発明による第2のスラグを製造するためのプロセスを提供し、このスラグは、最大1.50重量%の亜鉛、すなわちZn及び少なくとも1.0重量%のCaOを含み、このプロセスは、
亜鉛、鉛、及びこれらの組み合わせから選択される少なくとも1種の金属を含む、第1のスラグを供給する工程と、
第1のスラグをフューミング炉に投入する工程と、
少なくとも1つのプラズマトーチを用いて、亜鉛、鉛、及びこれらの組み合わせから選択される少なくとも1種の金属を第1のスラグから蒸発させ、第2のスラグを得る工程と、
フューミング炉から第2のスラグを取り出す工程と、
を含む。
【0037】
本発明者らは、本発明によるスラグが、本発明によるプロセスにより容易に製造可能であること、とりわけ、プロセスが、単一のプロセス工程及び比較的簡便なプロセス工程で、所望の低濃度のPb及びZnを容易に達成可能であることを見出した。本発明者らは、このプロセスが、この技術分野において公知のプロセス、例えば、国際公開特許第2013/156676号のプロセス(最初に電気炉内で還元工程を行い、続いて原料の細かな粉砕に加え、金属粒子を残存スラグから磁気分離することを含む)と比較し、有意な利点をもたらすと考えている。本発明者らは更に、本発明によるプロセスが、この技術分野において公知のその他の方法が必要とする多量のフラックス材料を必要としないことを見出した。この材料は、スラグが別の場合建設産業で用いるバインダーとして使用可能となるような技術的貢献を弱め、あるいは更に抑制するであろう。
【0038】
本発明者らは更に、スラグが金属溶出の懸念を示さないという理由から、経済的により魅力的な最終利用用途において認可され得るとみなすことができるなど、本発明によるスラグは、亜鉛及び/又は鉛の含有量が十分低いということを見出した。
【0039】
本発明者らは更に、本発明によるプロセスを用いて、Pb含有量が非常に少ないスラグを製造可能であること、またそれにより、ある特定の管区で準備中のCLP規則により、場合により課されることとなる、更なる表示要求を回避可能であることを見出した。したがって本スラグはまた、従来のスラグでは不適格又は望ましくないとされるリスクのあるほとんどの現行用途において、直ちに使用が認可され得る状態にある。更に、スラグの有効な余剰分が商業需要を上回る場合には、本発明によるスラグのかかる余剰分を埋め立てる負荷及びコストには依然として制限がある。
【0040】
本発明者らは更に、本発明によるスラグが、とりわけ本発明によるプロセスを用いる場合において、特に低い亜鉛含有量を有することを見出した。本発明者らは、本発明によるスラグをコンクリート及び/又はセメントに用いる場合において、組成物の硬化速度が、高濃度のZnを含有するスラグと同様に有意に低下することは、もはやないということを見出した。
【0041】
更に別の実施形態では、本発明は、使用に関する多数の請求項で規定するように、本発明によるスラグについての様々な使用を提供する。
【0042】
本発明者らは、本発明によるスラグ(最大1.50重量%の亜鉛、すなわちZn及び少なくとも1.0重量%のCaOを含むスラグ)が、建設産業で用いる活性バインダーとして使用可能であることを見出した。本スラグは、ポルトランドセメントの一部代用品として使用可能である。かかる活性のことを「ポゾラン活性」と呼ぶこともあり、時間の経過による反応の度合い、又は水の存在下での、ポゾラン及びCa2+又はCa(OH)2間の反応速度の度合いを示す指数として定義されている。ポゾラン反応の速度は、比表面積、化学組成、及び活性相の含有量などの、ポゾラン固有の特性に依存する。プロセスにおいて分子結合が不可逆的に形成されないため、物理的な表面吸着は、ポゾラン活性の一部とはみなさない。本発明者らは、例えば、約30%のポルトランドセメントを置き換える量で本発明によるスラグを加えることにより、100%セメントを用いて製造した同一製品の圧縮強度を6%だけ下回る圧縮強度を示すコンクリート製品を、本混合物を用いて製造可能としつつ、30%少ないポルトランドセメントを使用可能であることを見出した。理論に束縛されるものではないが、本発明者らは、スラグの活性を妨げる有害物質又は汚染物質として機能し得る濃度未満である、低い亜鉛の存在量により、この性能が可能となると考えている。本発明者らは、約8重量%の亜鉛を含有する同様のスラグでは、この活性を示すことができないことを見出した。
【0043】
それゆえ更に別の実施形態では、本発明は、建設産業で用いるフィラー、バインダー、及びこれらの組み合わせからなる一覧から選択される成分として、本発明によるスラグの使用を提供する。
【0044】
本発明者らは、本発明によるスラグが、とりわけ粉砕後に、この第2のスラグを組成物中のバインダーとしてポルトランドセメントの一部代用品に用いる場合、本発明によるプロセスを適用することにより本発明によるスラグから得られ、約8重量%の亜鉛、すなわちZn及び0.3~0.5重量%の範囲の鉛、すなわちPbを含有する第1のスラグに由来する同等物よりも、有意に優れた性能を発揮したことを見出した。本発明者らは、この性能の違いが、亜鉛が従来のセメントの活性を鈍化させるという実測結果に基づいて、低い亜鉛含有量によるものであり得ると考えている。本発明者らは、この性能の違いは、最大1.50重量%の亜鉛、すなわちZn及び少なくとも1.0重量%のCaOを含むスラグにおいて、すでに大きいことを見出した。
【0045】
本発明者らは、本発明によるスラグもまた、多数のその他技術的効果をもたらすために使用可能であることを見出した。
【0046】
一実施形態では、本発明によるスラグ(最大1.50重量%の亜鉛、すなわちZn及び少なくとも1.0重量%のCaOを含むスラグ)は、ブラスト用サンド材若しくはブラスト用グリット材として、又は黒色顔料として発泡タイル材としての屋根瓦又は屋根板用の被覆及び/又はコーティングから選択される最終用途に、好ましくは装飾用途に用いる黒色の硬い塊材として、または高密度の砂利として好ましくは建設用製品に、より好ましくは黒色タイルに、好ましくは水中用途に、より好ましくは水力工学に、及びこれらの組み合わせに使用することができる。
【0047】
更に別の実施形態では、スラグは最大1.50重量%の亜鉛Zn及び少なくとも1.0重量%のCaOを含み、本発明は、れんが又は耐火れんがの焼成温度の低下、遮音性、X線の遮蔽、及びこれらの組み合わせから選択される効果を提供する。
【0048】
本発明者らは、スラグが、2.9~4.0トン/m3の範囲の高い材料密度を有していることを見出した。更に、スラグには穴が少ないことが判明した。それゆえ、スラグは良好な遮音効果をもたらし得る。本発明者らは更に、特に材料密度が高いということにより、スラグが好適なものとなり、またX線の遮蔽にとって優れた利点がもたらされることを見出した。
【0049】
本発明者らは、スラグが極めて濃い黒色を有していることを見出した。鉄かんらん石のスラグにとって、黒色はかなり一般的ではあるが、本発明者らは、本発明によるスラグ中のこの色が、とりわけほとんどの代替顔料と比較して極めて安定していることを見出した。亜鉛含有量及び鉛含有量が低いため、その結果、本発明によるスラグは、黒色の床タイルなどの黒色の建設用製品を製造するのに好適な顔料として使用することができる。この黒色の床タイルは現在非常に人気があり、現時点では酸化鉄、すなわちFeOが使用されているが、より不足しており、またどちらかと言えば高価な原料である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明を以下に記載する特定の実施形態に沿って説明するが、本発明は、この実施形態に制限されるものではなく、特許請求の範囲においてのみ制限されるものである。
【0051】
更に、明細書及び特許請求の範囲における、「第1の」、「第2の」、「第3の」などの用語は、類似の要素を区別するために使用されるものであって、必ずしも、連続的な順番、又は時間的な順番について記載するものではない。用語は適切な状況下において互換性があり、本発明の実施形態では、本明細書に記載された又は図示された順番以外の、その他の順番で実施することが可能である。
【0052】
更に、明細書及び特許請求の範囲における、「上部」、「底部」、「上」、「下」などの用語は、記述的な目的に使用されるものであって、必ずしも相対位置について記載するものではない。そのように用いられる用語は適切な状況下において互換性があり、また本明細書に記載する本発明の実施形態は、本明細書に記載された又は図示された配置以外の、その他の配置で実施することが可能である。
【0053】
特許請求の範囲において使用する用語「含む」は、その後に列挙する手段に制限されると解釈されるべきではなく、その他の要素又は工程を排除するものではないことを意味する。言及し明示した構成、整数、工程又は構成要素の存在を特定するものと解釈される必要があるが、その他の構成、整数、工程若しくは構成要素、又はそれらの群の1つ以上の存在又は追加を排除するものではない。したがって、表現の範囲「手段A及びBを含むデバイス」においては、構成要素A及びBのみからなるデバイス(これは、本発明に関して、このデバイスに関連する構成要素がA及びBのみであるということを意味する)であると制限されるべきではない。したがって、用語「含む」及び「有する」は、より限定的な用語「から本質的になる」及び「からなる」を包含する。
【0054】
本明細書において、また別途明記しない限りにおいて、金属及び酸化物の量は標準的な慣習に従い乾式で表される。それぞれの金属の存在量は通常、その総存在量で表され、金属がその元素の状態(酸化数=0)で存在するか、又はあらゆる化学結合状態で、通常は酸化状態(酸化数>0)で存在するかは問わない。比較的容易にその元素の状態へと還元され、乾式冶金プロセスで溶融金属として生じ得る金属において、スラグの組成が与えられている場合であっても、この金属の存在量をその元素状態の金属の状態を基準として表すことは、かなり一般的である。また、この金属の大部分は、実際には、酸化状態で存在する。そのため、本発明に記載するスラグのようなスラグの組成は、元素状態の金属である、Fe、Zn、Pb、Cu、Sb、Biの含有量を用いて表される。より少ない貴金属については、非鉄乾式条件下で還元することはより難しく、ほとんどの場合、酸化状態で生じる。これら金属は通常、その最も一般的な酸化物の状態を基準として表される。したがって、スラグ組成物は通常、Si、Ca、Al、Naの含有量を、それぞれSiO2、CaO、Al23、Na2Oとして表現する。
【0055】
米国特許第4571260号、及び国際公開第2013/156676号で採用されたカルド法は、上吹転炉(TBRC-カルド炉又はカルド転炉)を採用した通常の乾式冶金プロセスであり、より重い相の溶融金属、及びより軽い相の溶融スラグ相を共存させることができる。このプロセスの熱は、酸素と燃料の炎を用いて供給され、後から、コークス又は若干のその他好適な還元剤を既に溶融した液状物(1種又は複数種)に投入することにより供給する。本発明によるプラズマプロセスは、スラグ中から一定の金属を蒸発させるのに、プラズマトーチを利用している。本発明によるプロセスは、非常に高温のプラズマフロー(温度が1500℃を大幅に超え、少なくとも3000℃、更に5000℃まで速やかに上昇する)が、溶融物の平均温度よりも遥かに高い局所温度の発生を可能とするため、より効果的である。このプロセスでは、生成した熱量とは事実上独立した状態で、酸素分圧の制御が可能となるため、通常のバーナーシステムと比較した場合、より融通がきく。
【0056】
一実施形態では、本発明によるスラグは、Feを、少なくとも8重量%、好ましくは少なくとも10重量%、より好ましくは少なくとも15重量%、更により好ましくは少なくとも20重量%、その上より好ましくは少なくとも25重量%、好ましくは少なくとも30重量%、より好ましくは少なくとも35重量%、更により好ましくは少なくとも37重量%を含む。別の実施形態では、本発明によるスラグは、Feを、最大48重量%、好ましくは最大47重量%、より好ましくは最大45重量%、更により好ましくは最大43重量%、その上より好ましくは最大41重量%を含む。非鉄金属製造により生じるスラグ中のFeの含有量は、好ましくは、DIN EN ISO 11885に記載される方法に従って測定される。
【0057】
一実施形態では、本発明によるスラグは、SiO2を、少なくとも22重量%、好ましくは少なくとも24重量%、より好ましくは少なくとも25重量%、更により好ましくは少なくとも26重量%、その上より好ましくは少なくとも27重量%、好ましくは少なくとも28重量%、より好ましくは少なくとも29重量%、更により好ましくは少なくとも30.0重量%を含む。別の実施形態では、本発明によるスラグは、SiO2を、最大42重量%、好ましくは最大40重量%、より好ましくは最大37重量%、更により好ましくは最大33重量%、その上より好ましくは最大32重量%を含む。非鉄金属製造により生じるスラグ中のSiO2の含有量は、好ましくは、DIN EN ISO 12677に記載される方法に従って測定される。また、最初にDIN EN ISO 11885に従った方法を用いてシリコン、すなわちSiの含有量を測定し、その後、この結果をその酸化物、すなわちSiO2へと変換することで、SiO2含有量を間接的に測定してもよい。
【0058】
本発明者らは、特許請求の範囲に明記した、本発明によるスラグ中の相当量のSiO2の存在が、容器から溶融スラグを注ぐと同時にスラグを水で急冷する際の爆発を避けるための有力な要素であることを見出した。スラグは、不可避に鉄(FeO)リッチとなる。十分な高温において、FeOは、水をO2ガス及びH2ガスに分解反応させるための触媒として機能することができる。水素ガスは、空気(明確には酸素)と混合した際の爆発範囲が非常に広いため、着火源がある状態で空気又は酸素と混合されると容易に爆発する。本出願人らは、スラグ中に十分なSiO2が存在することにより、スラグ中に存在する鉄の触媒活性(急冷工程で用いる水を爆発性の混合気へと分解する)を低下させることができることを見出した。より多くのSiO2が存在することの更なる利点は、溶融スラグ相及び溶融金属相間の、同程度の分離かつ容易な分離を達成するのにより低温でも十分となるように、スラグの流動性を向上させることである。そのため、2相それぞれにおいて望ましい金属成分を基準とした所望の良好な分離が達成される。
【0059】
一方では、スラグ中のSiO2含有量を規定の上限よりも低く保つことにより、スラグ溶融温度をより低く保つという利点がもたらされる。本発明者らは、SiO2含有量がより高い場合、スラグ溶融温度が上昇することを見出した。スラグ溶融温度は多くの場合、スラグ「液相線温度」と呼ばれている。理論に束縛されるものではないが、本出願人らは、SiO2濃度が高い場合、SiO2の一部が分離相として析出し高粘性を示し得ると考えている。この粘性の高い分離相が、高いSiO2含有量におけるプロセス上の問題の原因となる可能性がある。スラグ中のSiO2含有量を規定の上限よりも低く保つことにより、同量の一次金属に対するスラグ副産物の生成量が減少するという、更なる利点がもたらされる。これにより(本発明によるプロセスなどを用いることにより)、このスラグの品質を向上させるための処理上の負担が軽減する。
【0060】
一実施形態では、本発明によるスラグは、CaOを、少なくとも1.0重量%、好ましくは少なくとも1.2重量%、より好ましくは少なくとも1.4重量%、更により好ましくは少なくとも1.75重量%、その上より好ましくは少なくとも2.0重量%、好ましくは少なくとも2.25重量%、より好ましくは少なくとも2.50重量%、更により好ましくは少なくとも3.00重量%を含む。別の実施形態では、本発明によるスラグは、CaOを、最大18重量%、好ましくは最大15重量%、より好ましくは最大12重量%、更により好ましくは最大10重量%、その上より好ましくは最大8.0重量%を含む。非鉄金属製造により生じるスラグ中のCaOの含有量は、好ましくは、DIN EN ISO 11885に記載される方法に従って測定される。
【0061】
本出願人らは、規定したCaO濃度(低濃度に関して)は一方で、スラグの流動性を向上させ、スラグの融点(又は、「液相線温度」)を下げるという利点をもたらすことを見出した。このことは、溶融状態におけるスラグ処理の操作性という点において利点をもたらし、また、低温状態での溶融金属相からの優れた分離を可能とする。スラグ中のCaO濃度は、主に、CaCO3などのフラックス材料を添加することによる結果である。本出願人らは、CaCO3を添加後CaOへと変換するなどの、プロセスへのCaO添加により、上流の金属回収プロセス工程におけるスラグからの金属回収率が向上し、低濃度Pbの達成が容易となり、またスラグの流動性が向上することを見出した。本出願人らはまた、スラグ製品をジオポリマーに利用する際、CaOが更なる利点をもたらすことを見出した。したがって、規定した濃度(とりわけ上限値)により、過剰量の上記添加フラックス材料を入手及び投入する必要がないという利点ももたらされる。更に、これらの濃度により、生成されるスラグ副産物量が減少し、スラグ処理上の負担(関連する廃棄流体の廃棄負荷を含む)が軽減する。
【0062】
更に本出願人らは、賢明かつ部分的な承認を可能とする、上流の金属回収プロセス工程におけるスラグ中のCaO濃度、及び、様々な目的金属を含有するが妨げとなるCa化合物も豊富に含む供給原料濃度が、特定の濃度に達することが望ましいことを見出した。これら供給原料は通常、その他のプロセス由来の廃棄流体であり、典型的には、業者の廃棄負荷が高いことを意味する。このような原料の例としては、石膏(CaSO4)を含有する排水処理スラッジが挙げられる。
【0063】
CaO含有量の上限を守ることにより、溶液中にCaOを保つために必要なSiO2の量をより少なくでき、またスラグ量をより少なく保つことができるという利点がもたらされる。スラグ中に必要なCaOの量がより少なくなることによって、投入が必要なCaCO3及び/又はCaSO4の量がより少なくなるという、更なる利点がもたらされる。これらカルシウム供給源を溶融し分解するには非常に多くのエネルギーを消費するため、この利点により、プロセスに必要なエネルギーが有意に低くなる。
【0064】
一実施形態では、本発明によるスラグは、Znを、最大1.50重量%、好ましくは最大1.40重量%、より好ましくは最大1.30重量%、更により好ましくは最大1.20重量%、その上より好ましくは最大1.10重量%、好ましくは最大1.00重量%、より好ましくは最大0.90重量%、更により好ましくは最大0.80重量%、その上より好ましくは最大0.70重量%を含む。非鉄金属製造により生じるスラグ中のZnの含有量は、好ましくは、DIN EN ISO 11885に記載される方法に従って測定される。別の実施形態では、スラグは、Znを、少なくとも0.10重量%、好ましくは少なくとも0.15重量%、より好ましくは少なくとも0.20重量%、更により好ましくは少なくとも0.25重量%、その上より好ましくは少なくとも0.30重量%、好ましくは少なくとも0.35重量%、より好ましくは少なくとも0.40重量%、更により好ましくは少なくとも0.50重量%を含む。本出願人らは一方で、溶出リスクが低く、スラグが有害分類の適用を受けるリスクを冒さないという利点があるため、亜鉛成分濃度を規定の上限よりも低くすることを選択するが、本出願人らはまた他方で、スラグから亜鉛を除去するための負荷及びコストが、依然として許容可能であるという理由から、亜鉛成分濃度を規定の下限よりも大きく保つことを選択する。
【0065】
一実施形態では、本発明によるスラグは、Pbを、最大0.30重量%、好ましくは最大0.25重量%、より好ましくは最大0.20重量%、更により好ましくは最大0.15重量%、その上より好ましくは最大0.100重量%、好ましくは最大0.050重量%、より好ましくは最大0.040重量%、更により好ましくは最大0.030重量%、その上より好ましくは最大0.026重量%を含む。非鉄金属製造により生じるスラグ中のPbの含有量は、好ましくは、DIN EN ISO 11885に記載される方法に従って測定される。別の実施形態では、スラグは、Pbを、少なくとも0.005重量%、好ましくは少なくとも0.010重量%、より好ましくは少なくとも0.015重量%、更により好ましくは少なくとも0.020重量%、その上より好ましくは少なくとも0.025重量%、好ましくは少なくとも0.030重量%、より好ましくは少なくとも0.035重量%、更により好ましくは少なくとも0.040重量%を含む。本出願人らは一方で、溶出リスクが低く、スラグが有害分類の適用を受けるリスクを冒さないという利点があるため、鉛成分濃度を規定の上限よりも低くすることを選択するが、本出願人らはまた他方で、スラグから鉛を除去するための負荷及びコストが、依然として許容可能であるという理由から、鉛成分濃度を規定の下限よりも高く保つことを選択する。
【0066】
一実施形態では、本発明によるスラグは、銅、すなわちCuを、最大1.30重量%、好ましくは最大1.10重量%、より好ましくは最大1.00重量%、更により好ましくは最大0.90重量%、その上より好ましくは最大0.80重量%、好ましくは最大0.75重量%、より好ましくは最大0.70重量%、更により好ましくは最大0.60重量%、その上より好ましくは最大0.40重量%を含む。非鉄金属製造により生じるスラグ中のCuの含有量は、好ましくは、DIN EN ISO 11885に記載される方法に従って測定される。別の実施形態では、スラグは、Cuを、少なくとも100ppm重量、好ましくは少なくとも0.05重量%、より好ましくは少なくとも0.10重量%、更により好ましくは少なくとも0.15重量%、更により好ましくは少なくとも0.20重量%のCuを含む。スラットは、Cuを、好ましくは少なくとも0.30重量%、より好ましくは少なくとも0.35重量%、更により好ましくは少なくとも0.40重量%、含む。
【0067】
特許請求の範囲で規定したような、少量だが測定可能な量の銅が存在していても、本発明によるスラグの製造における銅含有原料を処理することは可能である。本出願人らは、原料中の銅を、より価値のある金属形態にて、できるだけ多く回収するために、スラグ中の銅含有量を上限よりも低く保つことを選択する。更に銅は、多くの場合、スラグから溶出し得る形態で生じる金属である。銅は、水環境中の藻類の生存に悪影響を及ぼす。したがって、銅の溶出は、本発明によるスラグの潜在的な用途の一部において、環境毒性(envirotoxic)の懸念を高める虞がある。また一方では、本出願人らは、スラグから更なる量の銅を除去するための労力及び関連コストが、一層高まってきているという理由から、スラグ中の銅含有量を下限よりも高く保つことを選択する。銅の濃度を、規定の下限よりも高く保つことにより、結果として、供給原料の処理に対する負荷及びその関連操業コストが簡略化される。
【0068】
一実施形態では、本発明によるスラグは、酸化マグネシウム、すなわちMgOを、最大2.5重量%、好ましくは最大2.00重量%、より好ましくは最大1.50重量%、更により好ましくは最大1.3重量%、その上より好ましくは最大1.20重量%、好ましくは最大1.10重量%、より好ましくは最大1.00重量%を含む。非鉄金属製造により生じるスラグ中のMgOの含有量は、マグネシウム、すなわちMgの分析結果をMgOへと変換することにより測定してもよい。このスラグ中のマグネシウムの含有量は、好ましくは、DIN EN ISO 11885に記載される方法に従って測定される。別の実施形態では、スラグは、MgOを、少なくとも0.10重量%、好ましくは少なくとも0.20重量%、より好ましくは少なくとも0.30重量%のMgOを含む。スラグは、MgOを、好ましくは少なくとも0.40重量%、好ましくは少なくとも0.50重量%、より好ましくは少なくとも0.60重量%、更により好ましくは少なくとも0.70重量%、その上より好ましくは少なくとも0.75重量%、含む。
【0069】
本発明によるスラグ中の規定のMgO濃度の利点を、本明細書の他の箇所で詳細に説明してきた。
【0070】
DIN EN ISO 11885に記載される方法は、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)を利用しており、また誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES)とも呼ばれている。
【0071】
一実施形態では、本発明によるスラグは、硫黄、すなわちSを、最大2.0重量%、好ましくは最大2.00重量%、より好ましくは最大1.50重量%、更により好ましくは最大1.25重量%、その上より好ましくは最大1.00重量%、好ましくは最大0.50重量%、より好ましくは最大0.40重量%、更により好ましくは最大0.30重量%、その上より好ましくは最大0.20重量%、含む。非鉄金属製造により生じるスラグ中のSの含有量は、好ましくは、主にISO 15350に記載される方法の範囲に従って測定される。別の実施形態では、スラグは、Sを、少なくとも0.05重量%含む。
【0072】
一実施形態では、本発明によるスラグは更に、酸化鉄(FeOとして表される)を、少なくとも9重量%、かつ最大63重量%含む。この含有量を再度、請求項1の同一基準、すなわち、乾燥基準で表す。FeO含有量は、元素状態のFeの含有量をFeOへと変換することにより容易に得ることができる。この場合、Feの含有量は、元素状態で存在する金属及び酸化状態で存在する金属の総量で表される。一実施形態では、本発明によるスラグは、FeOを、少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも12重量%、より好ましくは少なくとも15重量%、更により好ましくは少なくとも20重量%、その上より好ましくは少なくとも30重量%、好ましくは少なくとも40重量%、より好ましくは少なくとも45重量%、更により好ましくは少なくとも50重量%、含む。別の実施形態では、本発明によるスラグは、FeOを、最大60重量%、好ましくは最大58重量%、より好ましくは最大56重量%、更により好ましくは最大54重量%、その上より好ましくは最大53重量%、含む。
【0073】
一実施形態では、本発明によるスラグは、酸化ナトリウム、すなわちNa2Oを、最大5.0重量%、好ましくは最大4.50重量%、より好ましくは最大4.00重量%、更により好ましくは最大3.75重量%、その上より好ましくは最大3.50重量%、好ましくは最大3.25重量%、より好ましくは最大3.10重量%、更により好ましくは最大3.00重量%、その上より好ましくは最大2.90重量%、含む。非鉄金属製造により生じるスラグ中のNa2Oの含有量は、ナトリウム、すなわちNaの分析結果をNa2Oへと変換することにより測定してもよい。このスラグ中のナトリウムの含有量は、好ましくは、DIN EN ISO 11885に記載される方法に従って測定される。別の実施形態では、スラグは、Na2Oを、少なくとも1.00重量%含む。
【0074】
本出願人らは、スラグ製造プロセスにおける供給原料中のナトリウムの存在が、本発明によるスラグ中のNa2O含有量に少なくとも部分的に影響を与えることを見出した。
本出願人らは更に、Na2Oの存在が、スラグの溶融温度を有意に低下可能であることを見出した。Na2Oが存在するために、スラグは、プラズマ処理実施前にスラグが生成される溶解炉中において、比較的低温でより流動的となる。このことにより、より高濃度の金属相及びより高濃度のスラグ相(2相それぞれにおいて望ましい構成成分を基準とする)を同時に得られるように、スラグ中の構成成分及び液体金属相中の構成成分間における、優れた分離が達成可能であるという利点がもたらされる。このことにより、一方では、金属相における所望金属のより高い回収、金属相における所望金属の更なる高濃度化がもたらされ、また他方では、スラグ相における貴重な金属有価物の更なる低濃度化がもたらされる。Na2Oの存在は、下流プロセス(本発明の場合、最終スラグを製造するためのスラグのプラズマ処理プロセス工程)に必要な条件が緩和されるという利点をもたらす。プラズマ処理工程は、低温で行ってもよく、スラグの優れた流動性(例えば、粘性が低い)により、少なくとも所望のフューミング操作及び相分離速度を有していてもよい。そのため、スラグから亜鉛及び/又は鉛を蒸発させて本発明によるスラグを得るという観点から、少なくとも所望のプロセス速度を達成することができる。したがって、本発明によるスラグ中のNa2O成分は、本発明における更なる関連要素である。
【0075】
一実施形態では、本発明によるスラグは更に、同一基準で、酸化アルミニウム、すなわちAl23を、少なくとも3重量%、かつ最大12重量%含む。スラグは、Al23を、好ましくは少なくとも3.0重量%、より好ましくは少なくとも4.0重量%、更により好ましくは少なくとも5.0重量%、その上より好ましくは少なくとも6.0重量%、好ましくは少なくとも7.0重量%、より好ましくは少なくとも7.5重量%、更により好ましくは少なくとも8.0重量%、含む。別の実施形態では、本発明によるスラグは、Al23を、最大11.5重量%、好ましくは最大11.0重量%、より好ましくは最大11.0重量%、更により好ましくは最大10.5重量%、その上より好ましくは最大10.0重量%、含む。非鉄金属製造により生じるスラグ中のAl23の含有量は、好ましくは、DIN EN ISO 11885に記載される方法に従って測定され、この方法では、アルミニウムの含有量を測定し、その結果を酸化アルミニウム、すなわちAl23へと変換する。
【0076】
本出願人らは、本発明によるプロセスに用いる原料に、Alを投入可能(例えば、プロセスに青銅を投入することにより)であることを見出した。Alはまた目的に応じた金属として、例えば還元剤として投入することができる。すなわち、アルミニウムを酸化させてAl23を生成することにより、例えば、より多くの貴金属酸化物を、その元素状態の金属へと還元することを助けることができる。本出願人らは、還元剤としてのアルミニウム金属は、比較的大量のエネルギーをプロセスへともたらすことが可能であることを見出した。本出願人らは、本明細書の他の箇所で既に説明した全ての付随効果と同様に、規定量のアルミニウムの存在が、スラグの溶融温度を低下させるという利点をもたらすことが可能であることを見出した。本出願人らは更に、規定量のAl23の存在が、ジオポリマーとしてのスラグの機能に良い影響を与えると考えている。
【0077】
本出願人らは一方で、過剰なAl23濃度がスラグの粘性を増加させることによりプロセス障害を引き起こし得ることを見出したため、Al23の規定の上限値を守ることを選択する。
【0078】
一実施形態では、本発明によるスラグは、酸化亜鉛、すなわちZnOを、最大1.50重量%、好ましくは最大1.40重量%、より好ましくは最大1.30重量%、更により好ましくは最大1.20重量%、その上より好ましくは最大1.10重量%、好ましくは最大1.05重量%、より好ましくは最大1.00重量%、更により好ましくは最大0.95重量%、その上より好ましくは最大0.90重量%、含む。非鉄金属製造により生じるスラグ中のZnOの含有量は、亜鉛、すなわちZnの分析結果をZnOへと変換することにより測定してもよい。このスラグ中の亜鉛の含有量は、好ましくは、DIN EN ISO 11885に記載される方法に従って測定される。別の実施形態では、スラグは、ZnOを、少なくとも0.25重量%含む。
【0079】
一実施形態では、本発明によるスラグは、酸化鉛、すなわちPbOを、最大0.323重量%、好ましくは最大0.300重量%、より好ましくは最大0.250重量%、更により好ましくは最大0.200重量%、その上より好ましくは最大0.100重量%、好ましくは最大0.050重量%、より好ましくは最大0.030重量%、更により好ましくは最大0.028重量%、その上より好ましくは最大0.020重量%、含む。非鉄金属製造により生じるスラグ中のPbOの含有量は、鉛、すなわちPbの分析結果をPbOへと変換することにより測定してもよい。このスラグ中の鉛の含有量は、好ましくは、DIN EN ISO 11885に記載される方法に従って測定される。別の実施形態では、スラグは、PbOを、少なくとも0.005重量%含む。
【0080】
本発明によるスラグの一実施形態では、スラグ中に存在する鉄は、主として鉄かんらん石構造、すなわちFe2SiO4(鉄クリソライトとも呼ばれる)で存在する。
【0081】
本発明によるスラグの一実施形態では、Topas Academic Software V5を使用し内部標準物質としてAl23を用いた、定量X線回折(XRD)分析で測定した際、スラグは、非晶質成分を、少なくとも30重量%、好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも70重量%、更により好ましくは少なくとも80重量%、その上より好ましくは少なくとも85重量%有している。スラグ中の非晶質含有量がより高いと、スラグが優れた粉砕性を有するように、スラグに利点がもたらされる。この性質は、小粒子が望まれる際、例えば、スラグをバインダーとして用いる際、特に有利となる。別の実施形態では、スラグは、少なくとも明らかに結晶質であり、結晶質は例えば、少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも70%である。高い結晶化度は、高硬度及び高強度という利点をもたらし、また特に、その他の最終用途、例えば、外装石材及びその他の装飾用途として用いる際に有利となる、濃黒色という利点ももたらす。
【0082】
一実施形態では、本発明によるスラグは、平均粒径(d50、重量基準により計算され、ふるいに通すことで得られる)が、少なくとも0.5mmかつ最大5.0mm、好ましくは少なくとも0.7mm、より好ましくは少なくとも0.9mm、及び所望により最大3.0mm、好ましくは最大2.0mmの粒形状を有している。粉砕スラグの粉末度はまた、その「ブレーン値」で表すことができ、このブレーン値は、セメント粉砕物の粉末度(比表面積)を示すために一般的に用いられる値である。粉砕物の粉末度は、DIN 1164 part 4に従い、空気透過度[cm2/g]を測定することにより求められる。本発明による一実施形態のスラグのブレーン値は、1800~6000の範囲でなければならず、好ましくは少なくとも2000、より好ましくは少なくとも2200、更により好ましくは少なくとも2500、その上より好ましくは少なくとも3000である。一実施形態では、スラグのブレーン値は、最大5500、好ましくは最大5000、より好ましくは最大4500、及び更により好ましくは最大4000である。これらブレーン値は、スラグをバインダーとして用いる際、特に有利である。
【0083】
一実施形態では、本発明によるスラグは、湿式ふるいを用いて測定し、その後重量基準により平均値を算出する平均粒径(d50)が、少なくとも10μmかつ最大500μm、好ましくは少なくとも20μm、より好ましくは少なくとも30μm、及び所望により最大200μm、好ましくは最大100μm、より好ましくは最大50μmの粉末形状を有している。このことにより、特にスラグをバインダーとして用いる場合の利点がもたらされる。
【0084】
本発明によるスラグの一実施形態では、少なくとも90重量%の粒子(d90)は、湿式ふるいを用いて測定する際、最大200μmの、好ましくは最大150μmの、より好ましくは最大100μmの、直径を有する。このことにより、スラグの取り扱い性が高まるよう、より大きな粒子の量が極めて限定的となるという利点がもたらされ、スラグをバインダーとして用いる際、滑らかなペーストとなることにつながる。
【0085】
一実施形態では、本発明によるスラグは、平均粒径(d50、重量基準により計算される)が、少なくとも4mmかつ最大200mmの塊形状を有している。特定の実施形態では、スラグは、4~20mmの範囲の平均粒径を有している。この形状のスラグは、骨材などのその他の用途に非常に適している。別の特定の実施形態では、スラグは、50~200mmの範囲の平均粒径を有している。この形状のスラグは、例えば、外装石材などの装飾部材として好適であってもよい。
【0086】
本発明による物品の一実施形態では、物品は更に骨材を含み、骨材は、好ましくは、砂及び/又は本発明によるスラグを含み、このスラグは、亜鉛、すなわちZnを最大1.50重量%含む。本出願人らは、スラグはまた、建設産業で用いる骨材(単独で、又は砂などのその他の骨材と組み合わせて)として、非常に好適であることを見出した。スラグは、強度の改善をもたらすことができ、また最終製品の審美性を改善することができる。
【0087】
本発明による物品の一実施形態では、スラグは、少なくとも1.0%のCaOを含み、スラグはバインダーとして存在し、この物品は更に活性剤を含む。本出願人らは、好適な活性剤と反応可能であり、それにより骨材への強い結合特性を示す活性バインダーとして、本発明によるスラグが機能し得ることを見出した。そのため、スラグを、ポルトランドセメントの代用品として、又は、物品中の唯一のバインダー(その場合、「ジオポリマー」とみなす)として使用することができる。このジオポリマーは、例えば、コーティング剤、接着剤、複合材料などに、耐火性及び耐熱性を付与する。
【0088】
ジオポリマーは通常、反復単位を持つ骨格構造を有する非晶質物質であり、この場合、共有酸素原子により連結されたFe原子及びSi原子を含む。ジオポリマーへの応用は幅広く見出されており、それらの多くは、この材料の耐火性及び耐熱性に示唆を受けたものである。
【0089】
活性剤を含む一実施形態では、活性剤は、水酸化ナトリウム、すなわちNaOH、水酸化カリウム、すなわちKOH、ケイ酸ナトリウム、すなわちNa2SiO3、ケイ酸カリウム、すなわちK2SiO3、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくは、活性剤はNaOHである。
【0090】
一実施形態では、本発明による物品は、建設用部材であり、好ましくは、タイル、舗装材、ブロック材、コンクリートブロック、及びこれらの組み合わせからなる一覧から選択される部材である。
【0091】
本発明による物品は、場合により焼成させてもよく、それにより、赤みがかった色となるなど、色彩変化という利点をもたらすこともできる。同様に、焼成よりも低温だが例えば、120~250℃の範囲の温度にて硬化工程を適用してもよく、それにより、物品に、審美的外観と同様、機械的特性を容易に付与することもできる。
【0092】
一実施形態では、本発明による物品は、発泡構造を有している。このことにより、物品が断熱性及び/又は遮音性を示し得るなど、熱及び音の伝導性が低下するという利点がもたらされ、また、これらの特性が求められる又は必要とされる用途において、より受け入れられるようになる。
【0093】
本発明によるプロセスは、プラズマトーチを利用している。プラズマトーチにおいては、空気又は不活性ガスなどのガス流がその間を通る2つの電極間に、電気アークが生じる。電気アークを用いてガス流を非常に高温になるまで加熱し、また任意選択的に、天然ガスなどの還元剤を用いながら混合した後、溶融スラグ浴中に高温のガス流を吹き込む。
高温のガス流は、スラグ浴中を通り抜けスラグ浴を加熱する。表面へと上がる途中に、ガス流は、Zn及び/又はPbなどの蒸発性金属を捕捉する。あるいは、スラグ浴に、固体炭素又は炭素含有材などの形態の還元剤、好ましくは石油コークスを添加してもよい。この場合、プラズマトーチはエネルギーを生じさせるが、還元を起こすのは浴中の還元剤である。
【0094】
本明細書で上述したDC-EAFプロセスと比較した際の、プラズマトーチを用いたフューミングプロセスにおける1つの重要な利点は、処理装置にかかる投資コスト及び維持コストが遥かに低いということである。とりわけ、電気機器及びアーク生成機器が遥かに単純なものとなり、スラブ浴を収容する溶解炉は、電気アークを発生させるための電気回路の一部ではなくなる。更なる利点としてはプラズマトーチプロセスが挙げられ、このプロセスは、本質的にスラグ浴中に相当量のガスを通すことを含み、強烈な浴攪拌をもたらすため、フューミングに遥かにより好適である。DC-EAFプロセスでは、溶融スラグの下の溶融金属相付近にアノードが形成される。このプロセスでは、2つの液相がはっきりと分離し、かつ連続的に保たれることを必要とするため、液体浴中に、プラズマトーチプロセスにおけるぐらいの同程度の攪拌を起こすことはできない。したがって、プラズマトーチプロセスは、亜鉛及び/又は鉛をスラグ中から蒸発させる上で、DC-EAFプロセスよりも遥かに効率的である。
【0095】
本明細書にて上記した、E.ヘッカー、B.フリードリヒ及びJ.ブルカによる論文中に記載されているDC-EAFプロセス、並びに、A.F.S.シャルケンス、L.R.ネルソン及びN.A.バルツァの「Plasma-Arc treatment of steel-plant dust and zinc-containing slag - Theoretical and Practical Considerations」が開示するプラズマ-アーク処理プロセスは、結果として、本発明による亜鉛及び/又は鉛のフューミングと比べ、遥かに適していない。
【0096】
本発明の好適なプロセスは、Metallurgical and Materials Transactions B)、(2007年2月、38B巻、21~33頁)、K.フェルシューレ(K.Verschuere)ら「亜鉛含有残渣の連続フュ-ミング、第2部、サブマージプラズマによる亜鉛フュ-ミング処理(Continuous Fuming of Zinc-Bearing Residues: Part II,The Submerged-Plasma Zinc-Fuming Process)」において議論されている。著者らは、浴温度、熱損失、スラグ中のZn濃度及びZn成分、Cu濃度、並びに、マット中の成分に関する多くの操作パラメータについて、起こり得る影響を研究するモデルを使用した。基本ケースで生成したスラグは、3.25重量%のZnOに加えて、0.78重量%のZnSを含み、共にスラグ中における3.13重量%のZn成分を表す。全てのシミュレーションにおいて、残存スラグ中のZn濃度は、少なくとも1.3重量%のZnである。供給物中のMgO量に関し、この論文は、図12において、スラグ中のZn成分を減少させるために、少なくとも3%のMgO/供給物投入量(重量%)で操作することについて教示している。
【0097】
本発明によるプロセスの一実施形態では、第1のスラグは、液体状態でフューミング炉に投入される。このことにより、フューミング炉への入熱量が制限されたままであるなど、フューミング炉内部で供給物質を溶融させる必要がないという利点がもたらされる。同一箇所において、本発明によるプロセスとその他の乾式冶金プロセスを組み合わせることは非常に有利である。それにより、液体状の第1のスラグを生成することができ、またそれ自体を、本発明によるフューミング炉内に容易に供給することもできる。
【0098】
本発明によるプロセスの一実施形態では、第1のスラグは、フューミング炉内で加熱されるが、好ましくはプラズマトーチを用いて加熱される。
【0099】
本発明によるプロセスの一実施形態では、第1のスラグの少なくとも一部は、フューミング炉内のプラズマトーチを用いて溶融される。このことにより、固体状の第1のスラグも、本発明によるプロセスで処理可能であるという利点がもたらされる。
【0100】
本発明によるプロセスの一実施形態では、フューミング中、プラズマトーチは、フューミング炉内に存在する溶融スラグに浸漬している。このことにより、高温プラズマ流体の流れによる溶融スラグの強い攪拌、スラグと高温プラズマ流体との強烈な接触、及び、亜鉛及び鉛のような、蒸発傾向を有する金属の非常に効果的なフューミングを起こさせるという利点がもたらされる。
【0101】
本発明によるプロセスの一実施形態では、CaO、Al23、及びこれらの組み合わせから選択される酸化物を、好ましくは少なくとも1000℃の、好ましくは少なくとも1050℃の、より好ましくは約1150℃の温度で、フューミング炉内のスラグに添加する。このことにより、フューミング後の第2のスラグの最終組成物を更に最適化し安定化することができ、また場合により鉱物に作用することで、スラグを特定の最終用途により好適なものとするという利点がもたらされる。本出願人らは、規定したような高温で、かつ溶融状態で、添加することにより、所望の結果を得る上でより効果的であることを見出した。
【0102】
本発明によるプロセスの一実施形態では、第2のスラグは、固体になるまで冷却されるが、好ましくは第2のスラグは、液体状態でフューミング炉から取り出される。第2のスラグを冷却している間、更なるスラグ処理のために、フューミング炉を開放することができるという利点がある。スラグを、空気あるいは環境空気のような冷却媒体と接触させることで、スラグの冷却及び/又は凝固が可能となる。
【0103】
本発明によるプロセスの一実施形態では、スラグの冷却は、液体状の第2のスラグを水と接触させることにより行われる。本出願人らは、水を用いた冷却が非常に効果的であり、また様々な方法で適用可能であるため、冷却速度を比較的うまく制御できることを見出した。
【0104】
本発明によるプロセスの一実施形態では、第2のスラグは、少なくとも毎秒40℃の、好ましくは少なくとも毎秒50℃の、より好ましくは少なくとも毎秒60℃の速度で冷却される。本出願人らは、規定した冷却速度が高いほど、スラグ中の非晶質成分をより多く得ることができ、例えばスラグをバインダーとして用いる場合など、特定の最終用途において有利であることを見出した。
【0105】
本発明によるプロセスの一実施形態では、プロセスは更に、固体状の第2のスラグを粉砕する工程を含み、好ましくは、スラグを粉末状になるまで粉砕する。
【0106】
本発明によるプロセスの一実施形態では、第2のスラグは、最大毎秒30℃の、好ましくは毎秒30℃未満の、より好ましくは最大毎秒20℃の速度で冷却される。本出願人らは、規定した冷却速度が低いほど、スラグ中の非晶質成分がより少なくなり、そのためより高い結晶化度で得ることができ、例えばスラグを骨材として又は装飾用途に用いる場合など、特定の最終用途において有利であることを見出した。
【0107】
本発明の一実施形態では、スラグは、最大1.50重量%の亜鉛、すなわちZn及び少なくとも1.0重量%のCaOを含み、またスラグは、骨材用バインダーとして、好ましくは活性バインダーとして、好ましくはポゾラン活性を有するバインダーとして使用される。本出願人らは、ポルトランドセメントなどのセメントを一部置き換える場合などに、セメントの代用品中のバインダーとして、またジオポリマー組成物を生成するためのバインダーとして、スラグが機能し得ることを見出した。
【0108】
スラグが骨材用バインダーとして使用される本発明の一実施形態では、スラグは、ポルトランドセメントの代用品として、好ましくはポルトランドセメントの一部代用品として使用される。
【0109】
スラグが骨材用バインダーとして使用される本発明の一実施形態では、スラグは、最大1.50重量%の亜鉛、すなわちZn及び少なくとも1.0重量%のCaOを含み、またスラグは、無機高分子組成物中のバインダーとして、好ましくは塩基と組み合わせて、より好ましくは無機高分子組成物中の主要バインダーとして、更により好ましくは無機高分子組成物中の唯一のバインダーとして使用される。
【0110】
本発明の一実施形態では、使用は、無機高分子組成物を発泡させる工程を更に含む。それにより、熱及び/又は音に対する遮断性が望まれ得る、発泡組成物が得られる。
【0111】
発泡に関わる一実施形態では、スラグは、断熱性及び/又は遮音性を向上させるために使用することができる。
【0112】
本発明による使用のいずれか1つの実施形態では、スラグは、最大1.50重量%の亜鉛、すなわちZn及び少なくとも1.0重量%のCaOを含み、スラグは、酸化カルシウム、すなわちCaO、酸化アルミニウム、すなわちAl23、水酸化カルシウム、すなわちCa(OH)2、炭酸カルシウム、すなわちCaCO3、硫酸カルシウム、すなわちCaSO4から選択される別の酸化物又はその前駆物質と組み合わせて使用され、スラグ及び別の酸化物又は前駆物質は、好ましくは使用前に共に混合される。
【0113】
本出願人らは、別の酸化物又はその前駆物質を、高炉スラグとして、好適な非鉄スラグとして、石膏含有残渣(gypsum-containing resides)(そのため、CaSO4・2H2Oを含有する)として、好適なフィルターダスト、消石灰(Ca(OH)2)、又は石灰石(CaCO3)などの石灰石含有組成物として、投入可能であることを見出した。本出願人らは更に、スラグが凝固する前に、別の酸化物又はその前駆物質を液体溶融スラグ中へと投入可能であることを見出した。液体中へのこの投入の利点は、別の酸化物又はその前駆物質を、本発明によるスラグと均質に混合可能であるという点である。
【0114】
材料のプラズマ処理技術は、この技術分野において公知である。国際公開第2011/136727号は、液体及びスラリー、とりわけ原子力発電所由来の蒸発濃縮物などの、室温で流動性を有する廃棄物のプラズマ処理法について開示している。処理の目的は、そのように処理した廃棄物の容積を最小化することである。酸化ガスをプラズマ発生装置へと供給してから、強く加熱した高エンタルピープラズマガスを、混合ゾーン中で廃棄物と混合する。出発物質は、約15%の有機物及び無機物、及び約25%の塩を含む。処理においては、水を蒸発させて、有機成分を完全に分解及び部分的に燃焼させ、また無機物を溶融及び酸化させる。混合ゾーンの後、液体無機物をガス流から分離させるセパレータへと供給する。得られたガラスマトリックス/スラグ生成物は、金属及び酸化物を含み、好ましくは、この生成物を溶出しないシリケートスラグ中に固定し、また、溶出しないガラスマトリックス/スラグの形成が向上するように、粉砕ガラス、砂/石英などの好適なスラグ形成材を混合ゾーン又は流動性廃棄物へと添加してもよい。その後、ガラス/スラグを、場合により何ら更なる処理をせずに、最終保管部へと移動させてもよい。
【0115】
また既に上述したように、国際公開第2014/046593号は、3000℃超の、あるいは4000℃超の温度を有する、スラグ処理用の高温ガスを生成するプラズマトーチの使用について記載している。英国特許第2448556号、及び英国特許第2445420号は、放射性廃棄物のガラス固化に用いるプラズマプロセスについて開示している。
【実施例1】
【0116】
プラズマフューミングによるスラグ製造
3メートルトン規模のパイロット試験を実施して、浸漬させたプラズマシステムを用いて第1のスラグから第2のスラグを製造可能であることを実証した。
【0117】
Scanarc Plasma Technologies社の施設において、試験を実施した。液体スラグの液面下に浸漬させた1MWのプラズマトーチを用いて、反応炉に熱源を供給した。トーチを介した天然ガスの吹き込み、又は反応炉上部の供給口を介した石油コークスの投入、あるいはその両方を行うことにより、スラグのフューミングを行った。サンプリング口を介したサンプリングを行うことにより、規則的な間隔でスラグ組成を測定した。表1に示すように、スラグ組成は時間の経過とともに変化した。データは、総スラグ組成に対する重量%で表される。
【0118】
【表1】
【0119】
最終スラグをより総合的に分析し、表2に示すとおり、更に濃度を示した。
【表2】
【0120】
最終スラグを、冷水中の水砕により急冷した。XRDで測定した結果、非晶質成分は72重量%であった。同一スラグの一部は、金属プレート上に注ぐことにより徐冷した。XRDで測定した結果、非晶質成分は44重量%であった。採用したXRD法は、Topas Academic Software V5を使用し内部標準物質としてAl23を用いた、定量X線回折分析であった。
【0121】
スラグ中のZn含有量は、プラズマ処理中に明らかに低下した。同様に、Pb含有量も処理中に更に低下した。約200分後、Zn含有量は1%未満に、Pb含有量は0.03重量%未満に到達した。
【実施例2】
【0122】
スラグを用いたタイルの製造
実施例1の急冷スラグをバインダーとして、また実施例1の徐冷スラグを骨材として用い、無機高分子プレス試料を作製した。バインダー用にスラグの一部を細かく粉砕した。得られたスラグ粉末は、90重量%の粒子が50~70μmの範囲の粒径である粒度分布を有していた。80μmのふるい目を用いた遠心ミル(Retsch(登録商標) ZM100)で、スラグを粉砕した。湿式のレーザー散乱解析(Malvern(登録商標) Mastersizer S)を使用して粒度分布(PSD)を測定し、d90≦70μmを有することを見出した。骨材用にスラグの別の一部を粉砕した。ふるい分け及び混練により作製し得られた混合物は、工業規格EN 196-1による標準砂(Normsand又はNorm Sand)の粒度分布に密接に対応する粒度分布を有していた。CEN標準砂(EN 196-1)に相当する粒径のスラグ骨材を得るために、ディスクミル(Retsch(登録商標) DM 200)を用いて徐冷スラグを徐々に粉砕した。その後、粉砕した粒子を、0.08mm~0.16mm、0.16mm~0.5mm、0.5mm~1mm、1mm~1.6mm、1.6mm~2mmの各部に分級した。分級は、振動式ふるい振とう機(Retsch AS 200 basic)を使い上述したメッシュサイズのふるいカラム(Retsch Type)を用いて行った。所望量の個々の分級部分を有するスラグ骨材のバッチは、EN 196-1で規定された割合で、得られた分級部を混合することにより作製した。ドイツ、カールスルーエのabcr GmbH社から入手した市販の水ガラス(Na2SiO3)を、50/50(重量/重量)比で混合することにより作製した活性溶剤を更に使用した(ケイ酸ナトリウムとしての水ガラスは、ケイ酸塩(39~40%)水溶液に、6N(6モル/リットル)のNaOH水溶液を加えて作製される)。以下の混合比を適用した。
活性溶剤/バインダー 0.48/1.0
骨材/バインダー 4.7/1.0
【0123】
無機高分子試料を作製するために、先ず、バインダーを活性溶剤中に攪拌しながらゆっくりと添加し、得られた溶剤を更に30秒間混合した。次に、混合を続けながら、約1分間に亘り骨材をゆっくりと添加した。その後、総持続時間3分間に亘り、更に混合を続けた。600rpmの一定の混合速度で、自動混合機(Dispermat(登録商標) AE)を使用した。
【0124】
ラボ用油圧プレス(MIGNON SSN/EA)を用いて、得られた乾燥混合物をプレスした(50 x 50 x 27mm3(長さ × 幅 × 高さ)のモールド内で、75MPaまでのプレス力で約15秒間)。最終作製物の寸法は、50 x 50 x 22mm3(長さ × 幅 × 高さ)であった。先ず、このようにプレスしたタイルを、約10バールのゲージ圧の高圧オートクレーブ内にて、180℃の温度で24時間に亘り硬化させ、続いて、20℃の温度、90%相対湿度に調整した空気環境下で27日間に亘り放置した。
【実施例3】
【0125】
タイルの性能試験
実施例2のタイルに対する性能試験では、以下の結果となった。

圧縮試験機Schenck(登録商標)-RM100(プレス速度 1mm/分)を用い、試料寸法が最も大きい方向に対する圧縮強度を測定した。4つの試料について試験を行った。28日目の圧縮強度は、102.4±4.4MPaであることが分かった。この圧縮強度は、初日の硬化後に、すでに達成されていたことが判明した。圧縮強度は、硬化期間から更に27日間経過後も同一のまま維持された。
【0126】
比較のため、ドイツ、Normensand GmbHから入手した標準砂を骨材として用い、同様のタイルを作製した。同一寸法を保つため、等容積ベースの標準砂によるスラグ骨材の置き換えを行った。標準砂ベースのタイルは、わずか35±1MPaの圧縮強度を達成した。
【0127】
ISO 10545-3:1995に従いスラグベースのタイルの吸水率を測定した。吸水率は、約4.8重量%であることが分かった。硬化からちょうど28日後において、目視検査によるタイルの白華は観察されなかった。
【0128】
ここまで本発明を十分に説明してきたが、特許請求の範囲が定義する本発明の範囲を逸脱することなく、特許請求の範囲における広範囲のパラメータ内で本発明が実施可能であることを、当業者は理解されよう。