(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】2層市場の発電・消費電力バランスに適用する繋がり方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20231013BHJP
G06Q 50/06 20120101ALI20231013BHJP
【FI】
H02J3/00 130
G06Q50/06
H02J3/00 170
H02J3/00 180
(21)【出願番号】P 2021510726
(86)(22)【出願日】2020-12-18
(86)【国際出願番号】 CN2020137554
(87)【国際公開番号】W WO2022120922
(87)【国際公開日】2022-06-16
【審査請求日】2021-04-08
(31)【優先権主張番号】202011448562.4
(32)【優先日】2020-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521077392
【氏名又は名称】国网能源研究院有限公司
【氏名又は名称原語表記】STATE GRID ENERGY RESEARCH INSTITUTE CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Floor3 & 4, Building A, No.18 Binhe Ave., Future Science Park, Changping District Beijing 102209, China
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼ 珂▲寧▼
(72)【発明者】
【氏名】▲趙▼ ▲錚▼
(72)【発明者】
【氏名】唐 程▲輝▼
(72)【発明者】
【氏名】▲楊▼ 素
(72)【発明者】
【氏名】武 ▲沢▼辰
(72)【発明者】
【氏名】范 孟▲華▼
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 凡
(72)【発明者】
【氏名】曲 昊源
(72)【発明者】
【氏名】▲馬▼ 秋▲陽▼
(72)【発明者】
【氏名】胡 源
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ ▲暁▼萱
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 高
(72)【発明者】
【氏名】田 士君
(72)【発明者】
【氏名】李 景
(72)【発明者】
【氏名】薛 松
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 寒
【審査官】下林 義明
(56)【参考文献】
【文献】特許第6782479(JP,B1)
【文献】特開2017-224208(JP,A)
【文献】特開2007-065954(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00 - 5/00
G06Q 50/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下層市場の運営主体における複数の取引主体の長期スケールでの発電電力量と消費電力量に基づいて、下層市場のアンバランス正味電力量の予測値を決定することと、
前記予測値に基づいて、それぞれ上層市場と下層市場で集中取引の需給均衡をさせ、前記上層市場と前記下層市場がそれぞれ対応する中長期取引契約を形成することと、
前記中長期取引契約を分解して短時間スケールでの実行可能な発電・消費電力量を得ることと、
短時間スケールでの前記実行可能な発電・消費電力量に基づいて前記上層市場の短時間スケールでの集中取引に関与し、前記上層市場と前記下層市場の発電・消費電力バランスの短期取引契約を形成することとを含む、
2層市場の発電・消費電力バランスに適用する繋がり方法。
【請求項2】
前記予測値に基づいて、それぞれ上層市場と前記下層市場で集中取引の需給均衡をさせ、前記上層市場と前記下層市場がそれぞれ対応する中長期取引契約を形成することは、
前記予測値を前記上層市場の申告とし且つ集中取引に関与して前記上層市場の中長期取引契約を形成した後、前記上層市場の中長期取引契約に基づいて、前記下層市場で集中取引を行って前記下層市場の中長期取引契約を形成すること、または、
前記予測値を前記下層市場の申告とし且つ集中取引を行って前記下層市場の中長期取引契約を形成した後、前記下層市場の中長期取引契約に基づいて、前記上層市場で集中取引に関与して前記上層市場の中長期取引契約を形成することを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記予測値を前記上層市場の申告とし且つ集中取引に関与して前記上層市場の中長期取引契約を形成した後、前記上層市場の中長期取引契約に基づいて、前記下層市場で集中取引を行って前記下層市場の中長期取引契約を形成することは、
前記予測値を前記上層市場の申告とすることと、
前記上層市場の集中取引に関与することによって前記上層市場の中長期取引契約を形成することと、
前記上層市場の中長期取引の需給均衡の結果を前記下層市場の需給均衡の境界条件とすることと、
前記境界条件に基づいて、前記下層市場で集中取引を行って前記下層市場の中長期取引契約を形成することとを含む、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記予測値を前記下層市場の申告とし且つ集中取引を行って前記下層市場の中長期取引契約を形成した後、前記下層市場の中長期取引契約に基づいて、前記上層市場で集中取引に関与して前記上層市場の中長期取引契約形成することは、
前記予測値を前記下層市場で申告することと、
前記下層市場で集中取引を行って前記下層市場の中長期取引契約を形成することと、
前記下層市場の中長期取引の需給均衡の結果における差額を前記上層市場の申告とすることと、
前記上層市場の申告に応じて、前記上層市場で集中取引に関与して前記上層市場の中長期取引契約を形成することとを含む、
請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記中長期取引契約を分解して短時間スケールでの実行可能な発電・消費電力量を得ることは、
前記上層市場の中長期取引契約を分解し、短時間スケールでの前記下層市場が前記上層市場から購入または売却した電力量の分解値を得ることと、
前記下層市場の中長期取引契約を分解し、前記下層市場における短時間スケールでの消費電力主体の消費電力量と発電主体の発電電力量のうちの少なくとも一方の分解値を得ることと、
短時間スケールでの前記下層市場が前記上層市場から購入または売却した電力量、及び前記消費電力主体の消費電力量と発電主体の発電電力量のうちの少なくとも一方の分解値を短時間スケールでの前記実行可能な発電・消費電力量とすることとを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
短時間スケールでの前記実行可能な発電・消費電力量に基づいて前記上層市場の短時間スケールでの集中取引に関与し、前記上層市場と前記下層市場の発電・消費電力バランスの短期取引契約を形成することは、
短時間スケールでの前記下層市場が前記上層市場から購入または売却した電力量の分解値と、前記消費電力主体の消費電力量と発電主体の発電電力量のうちの少なくとも一方の分解値との間の差分値を第1の偏差として算出することと、
短時間スケールでの前記消費電力主体の消費電力量と発電主体の発電電力量のうちの少なくとも一方の予測値と、前記消費電力主体の消費電力量と発電主体の発電電力量のうちの少なくとも一方の分解値との間の差分値を第2の偏差として算出することと、
前記第1の偏差と前記第2の偏差を前記上層市場の申告とし、前記上層市場の短時間スケールでの集中取引に関与して前記上層市場と前記下層市場の発電・消費電力バランスの短期取引契約を形成することとを含む、
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の偏差の計算式は、
【数8】
であり、
この式で、Δ
t
Cは期間tにおける前記第1の偏差を示し、Q
tは前記期間tにおける短時間スケールでの前記下層市場が前記上層市場から購入または売却した電力量の分解値を示し、g
t
iは発電主体iの前記期間tでの発電電力量の分解値を示し、l
t
jは消費電力主体jの前記期間tでの消費電力量の分解値を示す、
請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
正味電力量モジュール、中長期取引モジュール、契約分解モジュール及び短期取引モジュールを含み、
前記正味電力量モジュールは、下層市場の運営主体における複数の取引主体の長期スケールでの発電電力量と消費電力量に基づいて、下層市場のアンバランス正味電力量の予測値を決定するように構成され、
前記中長期取引モジュールは、前記予測値に基づいて、それぞれ上層市場と前記下層市場で集中取引の需給均衡をさせ、前記上層市場と前記下層市場がそれぞれ対応する中長期取引契約を形成するように構成され、
前記契約分解モジュールは、前記中長期取引契約を分解して短時間スケールでの実行可能な発電・消費電力量を得るように構成され、
前記短期取引モジュールは、短時間スケールでの前記実行可能な発電・消費電力量に基づいて、前記上層市場の短時間スケールでの集中取引に関与し、前記上層市場と前記下層市場の発電・消費電力バランスの短期取引契約を形成するように構成される、
2層市場の発電・消費電力バランスに適用する繋がりシステム。
【請求項9】
前記中長期取引モジュールは、第1のモードユニットと第2のモードユニットとを含み、
前記第1のモードユニットは、前記予測値を前記上層市場の申告とし且つ集中取引に関与して前記上層市場の中長期取引契約を形成した後、前記上層市場の中長期取引契約に基づいて前記下層市場で集中取引を行って前記下層市場の中長期取引契約を形成するように構成され、
前記第2のモードユニットは、前記予測値を前記下層市場の申告とし且つ集中取引を行って前記下層市場の中長期取引契約形成した後、前記下層市場の中長期取引契約に基づいて前記上層市場で集中取引に関与して前記上層市場の中長期取引契約を形成するように構成される、
請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記契約分解モジュールは、上層市場分解ユニット、下層市場分解ユニット及び実行可能な発電・消費電力量ユニットを含み、
前記上層市場分解ユニットは、前記上層市場の中長期取引契約を分解して、短時間スケールでの前記下層市場が前記上層市場から購入または売却した電力量の分解値を得るように構成され、
前記下層市場分解ユニットは、前記下層市場の中長期取引契約を分解し、前記下層市場における短時間スケールでの消費電力主体の消費電力量と発電主体の発電電力量のうちの少なくとも一方の分解値を得るように構成され、
前記実行可能な発電・消費電力量ユニットは、短時間スケールでの前記下層市場が前記上層市場から購入または売却した電力量、及び前記消費電力主体の消費電力量と発電主体の発電電力量のうちの少なくとも一方の分解値を短時間スケールでの前記実行可能な発電・消費電力量とするように構成される、
請求項8に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2020年12月09日に中国特許局へ出願された中国特許出願番号が202011448562.4である中国特許出願に基づいて優先権を主張するものであり、この出願の全ての内容は引用により本出願に組み込まれる。
【0002】
本願は、電力バランスの技術分野に関し、例えば、2層市場の発電・消費電力バランスに適用する繋がり方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
2層電力市場の繋がりにおいて、研究成果と実践経験は主に送電網の2層市場の繋がりに集中する。例えば、欧州の2層市場に対する研究は主に欧州多国電力市場と欧州統一電力市場との間の結合モードに集中し、米国の2層市場に対する研究は主に複数の独立システム事業者/地域送電事業者(Independent System Operator/Regional Transmission Operator,ISO/RTO)である機関間の電気エネルギー取引市場又はエネルギーバランス市場(EBM,Energy Balance Market)を指し、中国の2層市場は主に省間市場と省内市場を指す。例えば、馬莉、範孟華らは2015~2020年に出版した書籍「国内外の電力市場化改革の分析報告(2015~2020)」において、米国、欧州及び中国の電力市場モードと改革プロセスに対して整理、総括及び分析を行った。そのため、2層市場の研究はやはり送電網層面の電力市場に着目しており、低圧配電側の分散市場には関与していない。
【0004】
分散電力市場及び分散型電源の取引においては、分散市場における分散型電源の特性分析、分散市場の取引仕組み及び市場主体競合ポリシーの研究などを含む分散市場の取引の仕組み及びポリシー自体に着目していることが多い。例えば、肖謙、陳政らが2020年1月に定期刊行物「電力系統自動化」で提出した「分散型発電取引に適応する分散型電力市場検討」(Discussion on Decentralized Electricity Market for Distributed Generation Transactions)という文献がある。しかし、これらの文献は低圧配電網又はマイクログリッドを主とする分散市場が送電網の電力市場とどのように繋がるかについては研究されていなく、実際に分散市場で発電電力は消費電力の需要と完全にマッチングすることが困難であり、分散市場はまた送電網市場から買電したり売電したりすることが必要であり、その2層市場がどのように取引の繋がりを行うかについては仕組みの設計が欠如しているため、分散市場での発電・消費電力の需要がバランスを保てないという問題を解決することが難しい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は、2層市場の発電・消費電力バランスに適用する繋がり方法及びシステムを提案する。
【0006】
下層市場の運営主体における複数の取引主体の長期スケールでの発電電力量と消費電力量に基づいて、下層市場のアンバランス正味電力量の予測値を決定することと、前記予測値に基づいて、それぞれ上層市場と下層市場で集中取引の需給均衡(clearing)をさせ、前記上層市場と前記下層市場がそれぞれ対応する中長期取引契約を形成することと、前記中長期取引契約を分解して短時間スケールでの実行可能な発電・消費電力量を得ることと、短時間スケールでの前記実行可能な発電・消費電力量に基づいて、前記上層市場の短時間スケールでの集中取引に関与し、前記上層市場と前記下層市場の発電・消費電力バランスの短期取引契約を形成することとを含む、2層市場の発電・消費電力バランスに適用する繋がり方法を提供する。
【0007】
正味電力量モジュール、中長期取引モジュール、契約分解モジュール及び短期取引モジュールを含み、前記正味電力量モジュールは、下層市場の運営主体における複数の取引主体の長期スケールでの発電電力量と消費電力量に基づいて、下層市場のアンバランス正味電力量の予測値を決定するように構成され、前記中長期取引モジュールは、前記予測値に基づいて、それぞれ上層市場と下層市場で集中取引の需給均衡をさせ、前記上層市場と前記下層市場がそれぞれに対応する中長期取引契約を形成するように構成され、前記契約分解モジュールは、前記中長期取引契約を分解して短時間スケールでの実行可能な発電・消費電力量を得るように構成され、前記短期取引モジュールは、短時間スケールでの前記実行可能な発電・消費電力量に基づいて、前記上層市場の短時間スケールでの集中取引に関与し、前記上層市場と前記下層市場の発電・消費電力バランスの短期取引契約を形成するように構成される、2層市場の発電・消費電力バランスに適用する繋がりシステムを更に提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本願の実施例に係る2層市場の発電・消費電力バランスに適用する繋がり方法のフロー模式図である。
【
図2】本願の実施例に係る上下2層市場の集中取引の繋がりの全体的なフロー模式図である。
【
図3】本願の実施例に係る一部の分散主体の成約電力量の曲線分解の模式図である。
【
図4】本願の実施例に係る市場主体と取引組織機関との曲線分解の対比模式図である。
【
図5】本願の実施例に係る中長期スケールでの2層市場の繋がりモードAのフロー模式図である。
【
図6】本願の実施例に係る中長期スケールでの2層市場の繋がりモードBのフロー模式図である。
【
図7】本願の実施例に係る2層市場の発電・消費電力バランスに適用する繋がりシステムの構成模式図である。
【
図8】本願の実施例に係る2層市場の発電・消費電力バランスに適用する別の繋がりシステムの構成模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本願の具体的な実施形態について説明する。
【0010】
分散市場においては、中長期的にも短期的にも、発電・消費電力の自己バランスがとれず、分散市場の発電・消費電力の需要を実現するために大電力網市場から電力を売買する必要がある。本願は、このような需要を解決するために市場化の方法を提供し、上下2層市場の集中取引の繋がりを行う。本願において、上層市場は大電力網市場における集中取引市場であり、単に大電力網市場とも呼ばれ、下層市場は分散市場における集中取引市場であり、単に分散市場とも呼ばれる。
【0011】
実施例1
図1は本願の実施例に係る2層市場の発電・消費電力バランスに適用する繋がり方法のフロー模式図であり、該方法は以下のS1~S4を含む。
S1:下層市場の運営主体における複数の取引主体の長期スケールでの発電電力量及び消費電力量に基づいて、下層市場のアンバランス正味電力量の予測値を決定する。
S2:予測値に基づいて、それぞれ上層市場と下層市場で集中取引の需給均衡をさせ、対応する中長期取引契約を形成する。
S3:中長期取引契約を分解して短時間スケールでの実行可能な発電・消費電力量を得る。
S4:短時間スケールでの実行可能な発電・消費電力量に基づいて、上層市場の短時間スケールでの集中取引に関与し、上層市場と下層市場の発電・消費電力バランスの短期取引契約を形成する。
【0012】
本願の実施例は、上下2層市場を繋ぐことで、分散市場における発電・消費電力の需求バランスを実現する。
【0013】
本実施例において、2層市場の発電・消費電力バランスに適用する繋がり方法は単に上下2層市場の繋がり方法と呼ばれ、
図2は本願の実施例に係る上下2層市場の集中取引の繋がりの全体的なフロー模式図であり、以下の2つのステップにまとめることができる。
ステップ1:中長期スケールにおいて、上層市場と下層市場は同期して集中取引を順次行い、かつそれぞれ取引契約を形成し、そのうち、下層市場運営機関は下層市場の発電・消費電力の差額を需要電力量とする。ステップ1は前記S1とS2を含む。
ステップ1において、中長期スケールで上下2層市場の集中取引の繋がり方式には、2種類の選択可能なモードがある。
【0014】
モードA:まず、下層市場運営機関は、その市場範囲内の分散主体の発電・消費電力の状況によって、電力量の不足量または余剰量である正味電力量を推定し、それを申告量として上層市場の集中取引において入札する。予測する電力量に不足量があれば(下層市場において、予測発電電力量<予測消費電力量)、不足電力量を買電の需要として上層市場で申告して需給均衡をさせ、予測する電力量に余剰量があれば(下層市場において、予測発電電力量>予測消費電力量)、余剰電力量を売電の需要として上層市場で申告して需給均衡をさせる。上層市場で需給均衡をさせた後成約結果を得、下層市場の運営機関により該成約結果を下層市場の集中取引の境界条件として、下層市場の集中取引の需給均衡を行う。
図5を参照する。
【0015】
モードB:まず、下層市場運営機関は、その市場範囲内の分散主体の発電・消費電力の状況によって、電力量の不足量または余剰量を推定し、それを申告量として下層市場の集中取引において入札する。予測する電力量に不足量があれば(分散市場において、予測発電電力量<予測消費電力量)、不足電力量を買電の需要として下層市場で申告して需給均衡をさせ、予測する電力量に余剰量があれば(分散市場において、予測発電電力量>予測消費電力量)、余剰電力量を売電の需要として下層市場で申告し需給均衡をさせる。下層市場で需給均衡をさせた後成約結果を得、上層市場の集中取引の申告として、上層市場の集中取引の需給均衡を行う。
図6を参照する。
【0016】
モードAとモードBの区別は以下の通りである。モードAでは、下層市場の運営機関は、下層市場で予測された発電・消費電力の正味需要を上層市場の申告とし、実際の成約結果を得た後、それを下層市場の需給均衡の境界とするため、上層市場は下層市場より先に集中取引を行う。モードBでは、下層市場の運営機関は、下層市場で予測される発電・消費電力の正味需要を下層市場の申告とし、実際の成約結果を得た後、それを上層市場の申告とするため、下層市場は上層市場より先に集中取引を行う。ステップ1では、下層市場運営機関は、上層市場の中長期取引に関与することにより、下層市場の中長期的な発電・消費電力のアンバランスをバランスする。
【0017】
ステップ2:下層市場運営機関及び分散市場主体は、それぞれの取引契約についてそれぞれ曲線分解を行い、短時間スケールでの実行可能な発電・消費電力量を形成する。短時間スケールにおいて、下層市場の運営機関は、下層市場における短時間スケールでの発電・消費電力の需要を申告量とし、上層市場における短時間スケールでの集中取引に関与することによって、下層市場における短時間スケールでの発電・消費電力のアンバランスをバランスする。ステップ2は前記S3とS4を含む。
【0018】
短時間スケールでの2層市場の集中取引の繋がり方法は以下の通りである。
上下層市場における中長期スケールの集中取引をそれぞれ需給均衡させた後、下層市場は上層市場から購入または売却した電力量をQとし、同時に分散市場の集中取引の需給均衡を形成する結果が以下の通りである。
【数1】
【0019】
式(1)では、G、Lはそれぞれ、下層市場における全ての発電主体、全ての消費電力主体が集中市場において形成された取引契約の集合を示し、そのうち、giはi番目の発電主体が成約した契約であり、liはi番目の消費電力主体が成約した契約であり、発電と消費電力主体の個数はそれぞれmとnである。
【0020】
中長期取引契約をより短い時間スケールで分解する必要がある。下層市場が上層市場から購入・売却した電力量Q、及び下層市場の主体の取引契約であるg
iとl
iはいずれも分解される必要がある。
【数2】
【0021】
式(2)では、C_Q、C_G、C_L、C_gi、C_ljはそれぞれ、Qの曲線分解、下層市場の発電主体の取引契約の分解の集合、下層市場の消費電力主体である電力需要家の取引契約の分解の集合、i番目の発電主体の取引契約の分解、j番目の消費電力主体の取引契約の分解を示す。
【0022】
月度の中長期取引契約が日ごとに分解されたとして、取引契約の曲線分解は以下の形式で示されることができる。
【数3】
【0023】
式(3)では、Qt、gt、ltはそれぞれ、下層市場と上層市場の取引電力量Q、ある発電主体が下層市場での成約電力量g、ある電力需要家が下層市場での成約電力量lの曲線分解後の月度のt日目の電力量値を指す。
【0024】
月内の任意の日tに対して、毎種類の取引とその曲線分解には、次のような関係がある。
【数4】
【0025】
式(4)では、Δt
Cは期間tにおける第1の偏差を示し、Qtは期間tにおける短時間スケールでの下層市場が上層市場から購入または売却した電力量の分解値を示し、gt
iは発電主体iの期間tにおける取引電力量を示し、lt
jは電力需要家である消費電力の主体jの期間tでの取引電力量を示し、算式(4)は、下層市場が上層市場で集中取引して形成された取引結果のt日目での分解値と、下層市場で月度に集中取引して形成された複数の主体の取引結果がt日目に分解された総電力量値との間に存在する偏差はΔt
Cと表されることを意味する。
【0026】
2層市場の集中取引で形成された取引電力量の分解値に偏差Δt
Cが存在することに加えて、分散主体ごとに短期的に予測された日電力量の需要と、該主体の月度の取引結果の分解値にも偏差が存在し,この偏差はΔt
Fと表される。
【0027】
分散市場の組織機関は、分散市場での毎日の実際の発電・消費電力の需要の差額を満足するために、より短い時間スケール(例えば、毎日)で、上層の大電力網市場において集中取引(現物市場)を行う必要があり、即ち以下のとおりである。
【数5】
【0028】
式(5)では、Qt
dは月内のt日目に、下層市場の運営者が上層市場での集中取引(現物市場)において達成する必要がある成約量を指す。
【0029】
分散市場での毎日の実際の実行電力量は、複数の分散主体が短期的に予測した日電力量の需要との間に偏差が発生することがあるが、偏差の部分は一定の規則に応じて決済し、本願の範囲に属しない。
【0030】
これにより、下層市場の運営者は、毎日の下層市場での発電・消費電力の実際の需要の偏差Qt
d(すなわちΔt
C+Δt
F)を上層市場での現物取引の申告量とし、上層市場で集中取引を行い、上層市場と下層市場の発電・消費電力バランスの短期取引契約を形成し、これにより2層市場間の間接的な繋がり関係を形成し、下層市場の短時間スケールでの発電・消費電力のアンバランスをバランスする。
【0031】
実施例2
以下に、2層市場の発電・消費電力バランスに適用する繋がり方法の計算例を示す。
【0032】
1.パラメータ設定
ある低圧配電・消費電力エリアには、合計5つの分散市場主体が1つの分散市場を形成し、1つの分散市場の運営機関により取引の組織を担当しかつ上層市場と繋がりを行う。5つの分散市場主体には、電力需要家、分散型電源、エネルギー貯蔵などが含まれる。
【0033】
該分散市場の運営機関は、5つの市場主体とコミュニケーションをとることにより、月度の発電・消費電力の総需要が+100MWh(消費電力をプラスとし、発電をマイナスとする)であると予測し、そのうち、該分散市場の運営機関は、主体1の月度の発電・消費電力の需要が-30MWhであり、主体2の月度の発電・消費電力の需要が-40MWhであり、主体3の月度の発電・消費電力の需要が120MWhであり、主体4の月度の発電・消費電力の需要が25MWhであり、主体5の月度の発電・消費電力の需要が25MWhであると予測する。
【0034】
市場運営機関は(本例では、モードAを採用するようにする)上下2層市場での長期集中取引を組織して参与する。
【0035】
2.2層市場での集中取引の繋がり結果
(1)上層市場での月度の集中取引の結果は以下の通りである。分散市場運営機関は+100MWhを買電の需要とし、上層市場での月度の集中取引において入札し、最終的な需給均衡の結果は成約買電量としての+100MWhである(注:市場運営機関は、低価格発電または高価格買電を申告することにより、予測した発電・消費電力の需要を保証することができ、実際の成約買電量≠予測した電力量+100MWhにしても、この例が後続+100MWhの成約量に従って説明することに影響を与えない)。すなわち、上層市場にとって、該分散市場は100MWh月度の買電契約を締結した大口需要家に相当し、下層市場にとって、上層市場から買電することにより、上層市場は月内に100MWhの電力量を提供する発電主体に相当する。
【0036】
(2)下層市場での月度の集中取引の結果は以下の通りである。分散市場の運営機関は、上層市場から形成された100MWhの電力量の成約結果を下層市場(分散市場)の月度の集中取引の境界条件とし(すなわち最適化した需給均衡モードでの制約条件とし、または低価格の申告で市場に関与する)、分散市場の月度の集中取引を組織して次のような多方面での取引結果を形成する。主体1の月度の発電・消費電力の需要の成約結果は-30MWhであり、主体2の月度の発電・消費電力の需要の成約結果は-40MWhであり、主体3の月度の発電・消費電力の需要の成約結果は120MWhであり、主体4の月度の発電・消費電力の需要の成約結果は5MWhであり、主体5の月度の発電・消費電力の需要の成約結果は25MWhである(注:ここで、各分散主体の成約結果は予測と一致しているが、実際の状況では一致しない可能性が高く、しかし、この例の後続の説明に影響を与えない)。
【0037】
(3)下層市場の主体の成約結果の曲線分解は以下の通りである。複数の分散主体は、それぞれ下層市場での月度の集中取引の成約結果に応じて実行曲線を決定し、主体ごとの毎日の実行電力量の計画は表1に示すとおりである。主体3と主体4を例とし、それらの分散市場の月度の取引契約の曲線分解が
図3に示すとおりであり、そのうち、主体3は分散型の電力需要家(例えば、工業団地、一般住民の負荷アグリゲータなど)であり、それは消費電力の需要のみのため、その成約結果の曲線の日分解値はいずれも0より大きい。主体4は分散型発電施設を有する電力利用者の集合体であり、消費電力の需要も発電能力もあるため、その成約結果の曲線の日分解値には0より大きい部分も0より小さい部分もある。
【表1】
【0038】
(4)上層市場の取引結果の曲線分解は以下の通りである。(1)により、上層集中市場において得た結果に対して、下層市場の取引運営機関はエリア内の発電・消費電力の履歴経験によって月度の分解曲線を形成することができる。
図4に示すように、上図では、下層市場の取引運営機関が分解した上層市場の月度の成約電力量の曲線(点線で示す)と、複数の分散主体の下層市場での成約電力量の分解曲線の和(実線で示す)を比較した。
【0039】
(5)2層集中市場での成約結果の曲線分解の関係は以下の通りである。
図4に示すように、2つの曲線の間に偏差があり、例えば23日目に、実線が表される分解値は7MWhであり、点線が表される分解値は1MWhであり、それらの曲線分解の差分値は6MWhであり、以下に相当する。
【数6】
【0040】
以上の式によれば、分散市場組織機関の毎日の上層集中市場と成約する必要がある電力量はΔ
t
Cだけではなく、複数の分散主体の毎日の実際の予測/実行値とその分解値との偏差Δ
t
Fをさらに含み、
(外1)
であれば、23日目の全体の偏差は次のようになる。
【数7】
【0041】
すなわち、23日目に、分散市場組織機関は現在の市場を通して、上層大電力網での現在の取引において4MWhの消費電力量を成約して、該エリアの実際の需要に供する必要がある。
【0042】
実施例3
本願の実施例は、2層市場の発電・消費電力バランスに適用する繋がりシステムをさらに提供する。
【0043】
図7は本願の実施例に係る2層市場の発電・消費電力バランスに適用する繋がりシステムの基本構成模式図であり、該システムは、正味電力量モジュール、中長期取引モジュール、契約分解モジュール及び短期取引モジュールを含み、正味電力量モジュールは、下層市場の運営主体における複数の取引主体の長期スケールでの発電電力量と消費電力量に基づいて、下層市場のアンバランス正味電力量の予測値を決定するように構成され、中長期取引モジュールは、予測値に基づいて、それぞれ上層市場と下層市場で集中取引の需給均衡をさせ、対応する中長期取引契約を形成するように構成され、契約分解モジュールは、中長期取引契約を分解して短時間スケールでの実行可能な発電・消費電力量を得るように構成され、短期取引モジュールは、短時間スケールでの実行可能な発電・消費電力量が上層市場の短時間スケールでの集中取引に関与することに基づいて、上層市場と下層市場発電・消費電力バランスの短期取引契約を形成するように構成される。
【0044】
図8は本願の実施例に係る2層市場の発電・消費電力バランスに適用する別の繋がりシステムの詳細な構成模式図である。
【0045】
中長期取引モジュールは、第1のモードユニットと第2のモードユニットとを含み、第1のモードユニットは、予測値を上層市場の申告とし且つ集中取引に関与して上層市場の中長期取引契約を形成した後、上層市場の中長期取引契約に基づいて下層市場で集中取引を行って下層市場の中長期取引契約を形成するように構成され、第2のモードユニットは、予測値を下層市場の申告とし且つ集中取引を行って下層市場の中長期取引契約を形成した後、下層市場の中長期取引契約に基づいて上層市場で集中取引に関与して上層市場の中長期取引契約を形成するように構成される。
【0046】
第1のモードユニットは、第1の申告サブユニット、第1の上層取引サブユニット、境界条件サブユニット及び第1の下層取引サブユニットを含み、第1の申告サブユニットは、予測値を上層市場の申告とするように構成され、第1の上層取引サブユニットは、上層市場の集中取引に関与することにより、上層市場の中長期取引の契約を形成するように構成され、境界条件サブユニットは、上層市場の中長期取引の需給均衡の結果を下層市場での需給均衡の境界条件とするように構成され、第1の下層取引サブユニットは、境界条件に基づいて、下層市場で集中取引を行って下層市場の中長期取引契約を形成するように構成される。
【0047】
第2のモードユニットは、第2の申告サブユニット、第2の下層取引サブユニット、差額算出サブユニット及び第2の上層取引サブユニットを含み、第2の申告サブユニットは、予測値を下層市場で申告するように構成され、第2の下層取引サブユニットは、下層市場で集中取引を行って下層市場の中長期取引契約を形成するように構成され、差額計算サブユニットは、下層市場の中長期取引の需給均衡の結果における差額を上層市場の申告とするように構成され、第2の上層取引サブユニットは、上層市場の申告に応じて、上層市場で集中取引に関与して上層市場の中長期取引契約を形成するように構成される。
【0048】
契約分解モジュールは、上層市場分解ユニット、下層市場分解ユニット及び実行可能な発電・消費電力量ユニットを含み、上層市場分解ユニットは、上層市場の中長期取引の契約を分解して、短時間スケールでの下層市場が上層市場から購入または売却した電力量の分解値を得るように構成され、下層市場分解ユニットは、下層市場の中長期取引契約を分解して、下層市場における短時間スケールでの消費電力主体の消費電力量及び/又は発電主体の発電電力量の分解値を得るように構成され、実行可能な発電・消費電力量ユニットは、短時間スケールでの下層市場が上層市場から購入または売却した電力量及び消費電力主体の消費電力量及び/又は発電主体の発電電力量の分解値を短時間スケールでの実行可能な発電・消費電力量とするように構成される。
【0049】
本願の実施例は、方法、システム、またはコンピュータプログラム製品として提供することができる。従って、本願は、完全なハードウェア実施例、完全なソフトウェア実施例、またはソフトウェアとハードウェアを組み合わせる実施例という形態を採用することができる。さらに、本願は、コンピュータ使用可能なプログラムコードを含む1つ又は複数のコンピュータ使用可能な記憶媒体(磁気ディスクメモリ、光ディスクリードオンリーメモリ(Compact Disk-Read Only Memory,CD-ROM)、光学メモリ等を含むがこれらに限定されない)で実施されたコンピュータプログラム製品という形式を採用することができる。
本願は本願の実施例に係る方法、デバイス(システム)、コンピュータプログラム製品のフローチャート及び/又はブロック図を参照して説明される。コンピュータプログラム指令によりフローチャート及び/又はロック図における各フロー及び/又はブロックと、フローチャート及び/又はロック図におけるフロー及び/又はブロックの組み合わせを実現可能であることを理解すべきである。これらのコンピュータプログラム指令を汎用コンピュータ、専用コンピュータ、組み込みプロセッサ、または他のプログラマブルデータ処理デバイスのプロセッサに提供して機器を生成することができ、これにより、コンピュータまたは他のプログラマブルデータ処理デバイスのプロセッサによって実行される指令に、フローチャートにおける1つのフロー又は複数のフロー及び/又はブロック図における1つのブロックまたは複数のブロックにおいて指定された機能を実現するように構成される装置を生成させる。
【0050】
これらのコンピュータプログラム指令は、コンピュータまたは他のプログラマブルデータ処理デバイスが特定の方式で動作するようにガイドすることができるコンピュータ読み取り可能なメモリに記憶されてもよく、これにより、該コンピュータ読み取り可能なメモリに記憶された指令に、フローチャートにおける1つのフロー又は複数のフロー及び/又はブロック図における1つのブロックまたは複数のブロックにおいて指定された機能を実現する指令装置を含む製造品を生成させる。
【0051】
これらのコンピュータプログラム指令は、コンピュータまたは他のプログラマブルデータ処理デバイスにロードされてもよく、これにより、コンピュータまたは他のプログラマブルデータ処理デバイスで一連の操作ステップを実行させてコンピュータによる処理を生成することで、コンピュータまたは他のプログラマブルデータ処理デバイスで実行される指令は、フローチャートにおける1つのフロー又は複数のフロー及び/又はブロック図における1つのブロックまたは複数のブロックにおいて指定された機能を実現するためのステップを提供する。