(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】信頼度推定による音響減衰係数の超音波撮像
(51)【国際特許分類】
A61B 8/14 20060101AFI20231013BHJP
【FI】
A61B8/14
(21)【出願番号】P 2021537102
(86)(22)【出願日】2020-01-20
(86)【国際出願番号】 EP2020051208
(87)【国際公開番号】W WO2020152066
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2022-11-10
(32)【優先日】2019-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100122769
【氏名又は名称】笛田 秀仙
(74)【代理人】
【識別番号】100163809
【氏名又は名称】五十嵐 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】フアン シェン-ウェン
(72)【発明者】
【氏名】シエ フア
(72)【発明者】
【氏名】ニューイェン マン エム
(72)【発明者】
【氏名】アマドール カラスカル キャロリーナ
(72)【発明者】
【氏名】ロバート ジャン-リュック フランソワ-マリー
(72)【発明者】
【氏名】シャム-ダサーニ ヴィジェイ タクール
【審査官】下村 一石
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/237244(WO,A1)
【文献】特開昭62-000331(JP,A)
【文献】特開平01-268544(JP,A)
【文献】国際公開第2017/068892(WO,A1)
【文献】特開平07-051270(JP,A)
【文献】JENDERKA, Klaus V.,Resolution improved Ultrasound Attenuation Estimation based on RF-data of Spatial Compound Scans,2004 IEEE Ultrasonics Symposium,IEEE,2005年04月18日,Vol.3,pp.2078-2081
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00-8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像フィールドの減衰係数マップを生成する超音波撮像システムであって、
画像フィールドから超音波エコー信号を取得するように構成される超音波プローブと、
前記超音波エコー信号を処理して前記画像フィールドの超音波画像のためのコヒーレントエコー信号を生成するように構成されるビームフォーマと、
前記ビームフォーマに結合され、前記画像フィールドの減衰係数のマップに対する減衰係数値を推定するように構成される、減衰係数推定器であって、前記減衰係数推定器は、スペクトル差分法、スペクトル対数差分法、及び最尤法の二つ又はそれより多くの方法によって複数の減衰係数マップを生成するようにさらに構成される、減衰係数推定器と、
減衰係数マップ合成器であって、前記減衰係数推定器と結合され、前記二つ又はそれより多くの異なる減衰係数推定方法によって生成される前記複数の減衰係数マップを合成するように構成される、減衰係数マップ合成器と、
前記減衰係数マップ合成器によって生成される減衰係数マップを表示するように構成されるディスプレイと
を有する、超音波撮像システム。
【請求項2】
前記
減衰係数マップは色分けされる、請求項1に記載の超音波撮像システム。
【請求項3】
前記スペクトル差分法は、前記画像フィールド
の深度にわたって均一な散乱分布を仮定するように構成される、請求項1に記載の超音波撮像システム。
【請求項4】
前記最尤法は、前記画像フィールド
の深度にわたって不均一な散乱分布を処理するように構成される、請求項1に記載の超音波撮像システム。
【請求項5】
前記減衰係数マップ合成器は、画素毎に、前記減衰係数推定器によって生成される前記減衰係数マップの二つ又はそれより多くを合成するようにさらに構成される、請求項1に記載の超音波撮像システム。
【請求項6】
前記減衰係数マップ合成器は、重み付け平均化によって前記減衰係数推定器によって生成される前記減衰係数マップの二つ又はそれより多くを合成するようにさらに構成される、請求項5に記載の超音波撮像システム。
【請求項7】
前記減衰係数マップ合成器は、信頼度推定によって決定される重み付けを使用して、前記減衰係数マップの二つ又はそれより多くを合成するようにさらに構成される、請求項6に記載の超音波撮像システム。
【請求項8】
前記減衰係数マップ合成器は、合成される前記マップの減衰係数一貫性によって決定される重み付けを使用して、前記減衰係数マップの二つ又はそれより多くを合成するようにさらに構成される、請求項6に記載の超音波撮像システム。
【請求項9】
前記減衰係数推定器に結合され、減衰係数マップに対応する信頼度推定のマップを生成するように構成される信頼度測定推定器をさらに有する、請求項1に記載の超音波撮像システム。
【請求項10】
前記減衰係数マップ合成器は、前記信頼度推定のマップを考慮して決定される重み付けを使用して、前記減衰係数マップの二つ又はそれより多くを合成するようにさらに構成される、請求項9に記載の超音波撮像システム。
【請求項11】
前記ディスプレイは、前記信頼度推定のマップを表示するようにさらに構成される、請求項9に記載の超音波撮像システム。
【請求項12】
基準値のマップを記憶するように構成されるメモリをさらに有し、前記減衰係数推定器は、前記基準値のマップとともに、RFエコー信号データ値又はI/Qエコー信号データについて動作するように構成され、
前記基準値は、組織ファントムのパワースペクトル測定値を有する、
請求項1に記載の超音波撮像システム。
【請求項13】
基準値のマップを記憶するように構成されるメモリをさらに有し、前記減衰係数推定器は、前記基準値のマップとともに、RFエコー信号データ値又はI/Qエコー信号データについて動作するように構成され、
前記基準値は、パワースペクトルの理論モデル、又はパワースペクトルの数値シミュレーションを有する、請求項1に記載の超音波撮像システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波撮像システムに関し、特に、信頼度推定による音響減衰係数マップの撮像に関する。
【背景技術】
【0002】
パルスエコー超音波撮像システムは、音響エネルギーのビームを画像フィールドにわたって送信する。各送信ビームが音響反射器及び組織境界に遭遇すると、送信されるエネルギーの一部は反射して送信トランスデューサに戻り、エコーとして受信される。このようにして、超音波ビームエネルギーが体内により深く移動することにつれて、エコーのシーケンスが、漸進的により深い組織から受信される。エコーの振幅は、それらが受信される深さに対応する、それらの受信時間に対応して検出され、表示される。これにより、ディスプレイは、体内の組織の構造の特性を明らかにする。しかし、ビームエネルギーはそれが組織を通って移動し、ビームの経路に沿って音響散乱体に遭遇することにつれて、連続的に減衰される。この減衰は、近接場における組織からの一般的により強いエコー、及びより深い組織からの一般的により弱いエコーの受信をもたらす。この効果を補正しないと、結果として生じる画像は、(より高い振幅のエコーからの)近接場ではより明るく、より低いエコー振幅の受信からの遠方場ではより暗く見える。この効果に対する共通の補償は時間利得制御(TGC)であり、これにより、受信機は、次第により大きな深度から受信されるにつれて、エコー信号の増幅を増加させる。超音波システムはユーザが異なる深さで適用される利得を選択することを可能にするTGC設定を備えており、このTGC設定から、超音波システムは、エコー受信中の連続的な利得変動のためのTGC曲線を計算する。超音波システムはまた、一般に、経験的に示される所定のTGC曲線が、異なる組織タイプに対して公称であることを備えている。したがって、ユーザは、腹部検査のための肝臓の公称TGC曲線、又は乳房を撮像するときの異なる公称TGC曲線を呼び出すことができる。
【0003】
公称曲線は特定組織タイプの平均特性を提供し得るが、それらは各特定組織タイプ(例えば、組織密度、組成、位置の差異、及び他の特性の理由による、ある人間から別の人間への減衰の差異)をさらすことができない。したがって、公称又は平均特性に依存するのではなく、診断される特定の組織の減衰特性を知ることが望ましい。従って、超音波画像フィールドにおける各点に対する減衰の程度を推定して表示することによって、インビボでの被験者に対する減衰特性を測定することに向けられている。例えば、Walach ら, IEEE Transによる「Local Tissue Attenuation Images Based on PulsedEcho Ultrasonic Scans」( Biomedical Engineering, vol. BME33, 1986年7月、第7号、637乃至43頁)が参照される。Walachらは、画像フィールドにおけるローカル減衰のそのようなマップが健康な組織の減衰特性とは異なる減衰特性のために、組織病理を特定するために使用され得ることを提案する。
【0004】
しかしながら、そのような減衰マップを生成するために使用される推定は一般に、画像フィールド全体にわたる場合ではない可能性がある、組織のローカル均一性など、組織に関して行われる特定の仮定に依存する。誤差の他の原因には、収差、スペックル、アパーチャ障害、クラッタ、又は他の不利な条件による周波数依存音響回折の影響が含まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、このような誤差源の影響を受けにくい音響減衰のマップを画像フィールド内に生成することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の原理によれば、超音波画像フィールドにわたって音響減衰係数をより正確に推定するための超音波撮像システム及び信号処理技術が記載される。本発明のシステム及び技術は、異なる技術を利用して、画像フィールドについて異なる減衰係数マップを生成する。次に、異なるマップが合成されて、最終的な減衰係数マップが生成される。より高い精度のために個々のマップを組み合わせるとき、各マップの推定される信頼性の信頼性尺度及びそのローカル減衰係数を使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の原理に従って構成される超音波システムをブロック図形式で示す。
【
図2a】それぞれスペクトル差分法及び最尤法を用いて得られた減衰係数マップを示す。
【
図2b】それぞれスペクトル差分法及び最尤法を用いて得られた減衰係数マップを示す。
【
図3a】異なる音響散乱体特性を有する画像フィールドの減衰係数マップに関する信頼度マップを示す図である。
【
図3b】異なる音響散乱体特性を有する画像フィールドの減衰係数マップに関する信頼度マップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ここで
図1を参照すると、本発明の原理に従って構成される超音波診断撮像システムがブロック図形式で示される。超音波を送信し、エコー情報を受信するために、超音波プローブ10内にトランスデューサアレイ12が設けられている。トランスデューサアレイ12は、例えば仰角(3D)及び方位角の両方において2寸法又は3寸法でスキャンすることができるトランスデューサ素子の1寸法又は2寸法アレイとすることができる。トランスデューサアレイ12はプローブ内の任意のマイクロビーム伝送14に結合され、該マイクロビーム伝送はアレイ素子による信号の送受信を制御する。マイクロビーム成形器は米国特許に記載されるように、トランスデューサ素子のグループ又は「パッチ」によって受信される信号の少なくとも部分的なビーム成形が可能である。5,997,479(Savordら)、6,013,032(Savord)、及び6,623,432(Powersら)マイクロビームフォーマは、プローブケーブルによって、伝送と受信を切り替え、高エネルギー伝送信号から主ビームフォーマ20を保護する伝送/受信(T/R)スイッチ16に結合される。マイクロビームフォーマ14の制御の下でトランスデューサアレイ12からの超音波ビームの送信はT/Rスイッチ及びメインビームフォーマ20に結合されるビームフォーマコントローラ18によって導かれ、このコントローラはユーザインターフェース又は制御パネル38のユーザの操作からの入力を受け取る。送信制御器によって制御される送信特性の中には、送信波形の数、間隔、振幅、位相、周波数、極性、及びダイバーシチがある。パルス伝送の方向に形成されるビームはトランスデューサアレイから真っ直ぐ前方に、又はより広いセクタ視野のためのティーなしビームの両側で異なる角度でステアリングされてもよい。いくつかのアプリケーションでは、非集束平面波を伝送に使用することができる。比較的小さいアレイ長、例えば、128素子アレイの大部分の1Dアレイプローブはマイクロビームフォーマを使用しないが、駆動され、主ビームフォーマに直接応答する。
【0009】
トランスデューサ素子の連続したグループによって受信されるエコーは、それらを適切に遅延させ、次いでそれらを組み合わせることによってビーム形成される。各パッチからマイクロビームフォーマ14によって生成される部分的にビーム形成される信号は、主ビームフォーマ20に結合され、ここで、トランスデューサ素子の個々のパッチからの部分的にビーム形成される信号が完全にビーム形成されるコヒーレントエコー信号に結合されるか、又はマイクロビームフォーマのない一次元アレイの素子からのエコー信号が結合される。例えば、主ビームフォーマ20は、128のチャネルを有してもよく、その各チャネルは12のトランスデューサ素子のパッチから、又は個々の素子から部分的にビーム形成される信号を受信する。このようにして、2次元アレイトランスデューサの1500以上のトランスデューサ素子によって受信される信号は単一のビーム形成される信号に効率的に寄与することができ、画像平面から受信される信号が結合される。
【0010】
マイクロビームフォーマ14又はビームフォーマ20はまた、トランスデューサアレイ12の各要素又はパッチから受け取った信号を増幅する増幅器を含む。これらの増幅器は制御可能な利得特性を有し、超音波システムに記憶されるTCG曲線、ユーザインターフェース38上のTGC制御、又は両方の組み合わせによって制御される。例えば、米国特許第5,482,045号(Rustら)を参照すると、個々のトランスデューサ素子又はパッチからの信号を遅延及び加算することによるビーム形成は、時間利得制御補償を受けたエコー信号を用いて実行される。
【0011】
コヒーレントエコー信号は、信号プロセッサ26によって信号処理を受ける。この工程は、合成及び/又はフィルタリングを含むことができる。特定の実施形態では、フィルタリングがデジタルフィルタを含む1つ以上のフィルタの適用を含む。フィルタリングされるエコー信号は、直交帯域フィルタ(QBP)28に結合することができる。QBPは、RFエコー信号データの帯域制限、エコー信号データの同相及び直交一対(I及びQ)の生成、及びデジタルサンプルレートのデシメーションの3つの機能を実行する。QBPは2つの別々のフィルタを含み、1つは同相サンプルを生成し、もう1つは直交サンプルを生成し、各フィルタはFIRフィルタを実装する複数の乗算器‐累算器(MAC)によって形成される。また、信号プロセッサはQBPと同様に、周波数帯域をより低い又はベースバンド周波数範囲にシフトすることができる。信号プロセッサ26のデジタルフィルタは例えば、米国特許第5,833,613号(Averkiou ら)に開示されるタイプのフィルタとすることができる。
【0012】
合成は、当技術分野で知られている1つ又は複数の技法を使用して達成することができる。合成は、対数圧縮の有無にかかわらず、包絡線/大きさを平均化することを含むことができる。典型的には、配合はQBP後に起こる。
【0013】
ビーム形成され処理されるコヒーレントエコー信号は、組織のような身体構造のBモード画像のための信号を生成するBモードプロセッサ30に結合される。Bモードプロセッサは、(I
2+Q
2)
1/2の形式でエコー信号振幅を計算することによって、直交復調されるI及びQ信号成分の振幅(包絡線)検波を実行する。直交エコー信号成分もドップラープロセッサ34に結合される。ドップラープロセッサ34は画像フィールド内の離散点からのエコー信号のアンサンブルを記憶し、これらのアンサンブルは、高速フーリエ変換(FFT)プロセッサを用いて画像内の点におけるドップラーシフトを推定するために使用される。アンサンブルが取得されるレートによって、システムが画像内で正確に測定して描写できる動きのレート範囲が決まる。ドップラーシフトは画像フィールド内の点における動き、例えば、血流及び組織の動きに比例する。カラードップラー画像の場合、血管壁内の各点における推定ドップラー流量値は、ルックアップテーブルを使用してフィルタリングされ、カラー値に変換される。ウォールフィルタは、流動する血液を撮像するときに血管の壁の低周波運動などの運動がそれより上又は下で拒絶される調整可能なカットオフ周波数を有する。Bモード画像信号及びドップラー流量値は所望の表示形式、例えば直線表示形式又は扇形表示形式で表示するために、それらの取得Rθ座標からのBモード及びドップラーサンプルをデカルト座標(x,y)座標に変換するスキャン変換器32に結合される。Bモード画像又はドップラー画像のいずれかが単独で表示されてもよいし、
図3a乃至3bに示されるように、カラードップラーオーバーレイが画像内の組織及び血管内の血流を示す解剖学的登録で一緒に示されてもよい。別の表示可能性は、異なるように処理される同じ解剖学的構造の並列画像を表示することである。この表示形式は、画像を比較する場合に便利である。
【0014】
スキャン変換される画像は、画像データメモリ36に結合され、そこで、画像値が取得される空間位置に従ってアドレス指定可能なメモリ位置に格納される。3Dスキャンからの画像データはボリュームレンダラ42によってアクセスすることができ、これは、米国特許に記載されるように、3Dデータセットのエコー信号を所与の基準点から見て投影される3D画像に変換する。6,530,885(Entrekinら)ボリュームレンダラ42によって生成される3D画像及びスキャンコンバータ32によって生成される2D画像は画像ディスプレイ40上に表示するために、さらなるエンハンスメント、バッファリング、及び一時記憶のために、ディスプレイプロセッサ48に結合される。
【0015】
本発明の原理によれば、
図1の超音波システムは、音響減衰係数推定値の画像マップを生成するサブシステムを含む。サブシステムは、減衰係数推定器50を含む。減衰係数推定器は、ビーム形成されるデータ(20の出力)、QBDフィルタリングされるデータ(28の出力)、又はスキャン変換される画像データ(32の出力)から係数マップを生成することができる。典型的には、入力はRF又はIQデータのいずれかである。減衰係数推定器は、係数推定の異なる方法を用いて異なる減衰係数マップを生成することができる。係数推定プロセッサは、均質組織ファントムからのRFデータ、パワースペクトルの理論モデル、又はパワースペクトルの数値シミュレーションなどの基準値のマップと共にRF(又はI/Q)値に対して動作する。基準値マップは、減衰係数推定器又は減衰係数推定器によってアクセス可能なメモリに記憶される。
【0016】
減衰係数推定器によって生成される異なる減衰係数マップは信頼性測度推定器52に結合され、信頼性測度推定器は1つの減衰係数マップ又は別の減衰係数マップのいずれかの、推定信頼性の空間的に対応するマップを生成する。いくつかの例では減衰係数推定器50及び信頼度測度推定器52が同一又は異なるプロセスであってもよいことが理解されるが、信頼レベルは減衰係数効率推定プロセスの副産物である。減衰係数マップ及び信頼度推定の結果は減衰係数マップ合成器54に結合され、それは重み付け平均化などによってピクセルごとに係数マップ値を合成(結合)し、ここで、重み付けは信頼度推定によって決定される。その結果、単一の推定手法ではなく、複数の推定手法を組み合わせて作成した最終的な減衰係数マップが得られ、信頼度推定によって示されるように、異なる手法の信頼性を考慮したものとなる。最終的な減衰係数マップは、拡大縮小されるカラー値の範囲に関連してマップの係数値を色分けすることによって、表示のためにマップをフォーマットするグラフィックプロセッサ44に結合される。減衰係数マップは、画像ディスプレイ40上に表示するためにディスプレイプロセッサ48に結合される。任意選択的に、信頼度推定マップはユーザが画像フィールドの特定の関心領域(ROI)で行われた減衰推定の信頼度を評価することができるように、同じ方法で表示することもできる。
【0017】
減衰係数推定器50のプロセッサは画像フィールドにわたって音響減衰係数値を推定するための多数の技術のいずれかを使用することができ、そのうちの3つについては後述する。それらは、Y. Labyed及びT. A. Bigelowの「後方散乱超音波エコーからの減衰測定技術の理論的比較」( J. Acoust. Soc. Am., vol. 129, no. 4, pp. 2316乃至2324, 2011)に記載されるようなスペクトル差分法、スペクトルログ差分法、最尤法であり、参照により本明細書に組み込まれる。パルスエコー信号からの音響減衰係数(dB/cm又はその等価の単位)又は音響減衰係数傾き(dB/cm/MHz又はその等価の単位)の推定は、式
及び
に基づくことができる。添え字s及びrはそれぞれ、組織サンプル及び参照を示し、fは周波数であり、S(f、z)は、深さzを中心とする関心領域(ROI)から測定パワースペクトルであり、 P(f)は、送信パルスのスペクトルと組み合わされるトランスデューサーの応答であり、 D(f、z)は回折効果であり、 z
0はROIの開始深度であり、A(f、z
0)は、トランスデューサーの表面から深さz
0までの累積減衰効果であり、 B(f、z)は音響散乱の影響であり、 α(f)はROIの減衰係数である。 同種の参照ファントムからのS
r(f、z)を使用し、組織サンプルと参照に対して同じ音速を仮定することにより、P(f)とD
s(f、z)が抑制され、式
が含む。これらの開始関係から、画像フィールドにわたる減衰係数を推定するための3つの方法は、以下のように計算することができる。
【0018】
A. スペクトル差分法
【0019】
スペクトル差分法は、上記[3]式の項
がzから独立であると仮定している。
したがって、
であり、ここで
であり、所与の周波数fでのα
s(f)は、zに対する
の傾きを推定することで得られる。なお、基準の減衰係数α
r(f)は既知である。軟組織では、αは、
α(f)=βf
n [5]
としてモデル化することができる。n=1であると仮定すると、α
r(f)=β
rf及びα
s(f)=β
sfとなり、
となる。それから、減衰係数の傾きβ
sは、
ように推定されることができる。ここで、w(f)は重み付け関数である。散乱効果B
sが深さzから独立であると仮定すると、その効果は、zに関する微分の後に消失することは留意される。散乱の深さ独立性の仮定が妥当な場合、スペクトル差分法は通常、後述の最尤(ML)法のような他の方法より優れている。この仮定が成り立つ場合のスペクトル差分法によって生成される減衰係数傾斜マップを
図2aに示す。
【0020】
B. スペクトル対数差分法
【0021】
この方法の実施は、組織のある深さでの音響散乱の影響が、定数によって別の深さでの影響に関連しているという仮定から始まる。 つまり、B
s(f、z
2)=cB
s(f、z
1)である。ここで、cは定数である。それから、
になる。ここでも、基準の減衰係数α
r(f)は既知である。[5]の組織モデルを再び考慮することにより、これは、
になり、これは周波数fの関数である。三つの未知数、すなわち減衰係数傾斜β
s、n、及びln[c]は、次いで、曲線フィッティングによって推定することができる。この技術の例は、Y. Labyed及びT. A. Bigelowの, 「A theoretical comparison of attenuation measurement techniques from backscattered ultrasound echoes」( J. Acoust. Soc. Am., vol. 129, no. 4, pp. 2316乃至2324, 2011)に記載される。
【0022】
C. 最尤法
【0023】
この方法は、式[9]においてn=1であると仮定することから始まる。そして、α
r(f)=β
rf及びα
s(f)=β
sfとなり、式[9]は
となる。
【0024】
減衰係数の傾きβ
sの最尤(ML)推定は、
になる。h
MLは、
に対する解であり、周波数は、f
0=(f
1+f
2)/2になる。項h
MLは、ニュートンの逐次近似法を用いて反復的に見つけることができる。n番目の推定値h
nが与えられた場合、
になる。
図2bは、最尤法によって生成される減衰係数傾斜マップを示す。
【0025】
前述の減衰係数マッピング技術は、異なる方法が異なる仮定を含むことを示す。異なる仮定の相対的妥当性は、1つの方法が分析中の所与の組織についての別の方法よりも、減衰係数推定についてより正確であることを引き起こす。例えば、前述のように、画像照射野深さにわたる均一散乱分布の仮定が妥当である場合、スペクトル差分法は通常、最尤(ML)法よりも精度が優れている。異なる推定技術からのマップの合成をしばしば減衰係数マッピングのより正確な実現にするのは、これらの精度の差である。本発明のさらなる態様によれば、仮定及び精度におけるこれらの差は、その信頼性又は信頼性に関して減衰係数マップを特徴付ける能力をもたらす。異なる減衰係数マップに対する信頼係数のマップは、信頼度測度推定器52によって計算され、画像フィールドにわたる減衰係数における信頼度を表示するために使用されるか、又はそれらの信頼度に従って異なる減衰係数マップを合成するために使用される。例えば、減衰係数傾き推定のスペクトル差分法が正確であるためには、fから独立するの式
が必要である。これは、
になる。この妥当性は、
を計算することによって決定することができる。減衰係数傾き推定値の信頼度はuが小さいほど大きく、uが大きいほど低い。したがって、スペクトル差分法によって計算される減衰係数傾斜マップの各画素についてこのようにして計算されるu値のマップは、減衰係数傾斜マップの信頼性、及び減衰係数傾斜マップ全体を通してのROIに対する係数傾斜推定の精度をユーザに知らせることになる。生の減衰係数傾きマップとその平滑化バージョン(例えば、メジアンフィルタリングを受けたもの)との間の差を使用して、より低い差を有するピクセルに割り当てられたより高い信頼値と共に、信頼性を示すこともできる。信頼性尺度を導出するための他の方法又はメトリックには、テクスチャ分析、フロー測定、音響放射力に対する組織応答、及びビーム前加算チャネルデータにおけるコヒーレンスが含まれる。均一散乱体を有する画像フィールドに対するスペクトル差分法によって計算される減衰係数傾斜マップに対するu値の信頼マップの一例が
図3aに示されており、また、深度とともに増加する散乱体密度を有する画像フィールドに対するスペクトル差分法によって計算される減衰係数傾斜マップに対する信頼マップが
図3bに示される。合成信頼度マップは、異なる減衰係数マップにわたる一貫性を考慮して、適切な重み付けを伴う個々の信頼度マップ又は測定から導出することができる。例えば、画素についての異なる方法からの減衰係数推定値が互いに著しく異なる場合、一貫性は低いと考えられ、そのような情報は、最終減衰係数マップについて、その画素についての異なる方法の信頼レベル又は重み付けを調整するために使用されるのであろう。
【0026】
減衰係数マップ合成器54は、異なる方法によって生成される減衰係数マップを合成することによって、最終的な減衰係数マップを生成する。合成中、より高い信頼値及び/又は他のマップとのより高い一貫性を有する減衰係数(勾配)マップには、合成プロセスにおいてより大きな重み付けが与えられる。例えば、所与のピクセルについての1つのマップからの減衰係数が他のマップからの係数よりも高い信頼値を有する場合、その係数値は、結合プロセスにおいて他のマップよりも大きい重み付けを与えられる。マップのうちの2つからの減衰係数が第3のマップからの減衰係数よりも高い一貫性を有する場合、例えば、互いの5%以内であり、一方、第3のマップからの値が他のマップから20%異なる場合、最初の2つのマップからの係数には、結合プロセスにおいてより大きな重み付けが与えられる。異なるマップの合成は、最終減衰マップがユーザに表示するために生成されるまで、ピクセル毎にこの方法で進行する。前述のように、最終マップは、単独で、又は信頼度マップの1つもしくはすべてと併せて、又は好ましくは統合信頼度マップと併せて表示することができる。
【0027】
図1の要素特徴、例えば、ビームフォーマ、信号プロセッサ、QEP、ビームフォームコントローラ、グラフィックスプロセッサ、減衰係数マップ合成器、信頼度測定推定器、減衰係数推定器、bモードプロセッサ、ドップラープロセッサ、スキャン変換器、画像メモリ、ボリュームレンダリング、及びディスプレイプロセッサは、プロセッサに関連する1つ又は複数のメモリ上に含まれる命令を実行しているプロセッサの1つ又は複数の組合せから形成され得ることは理解される。本発明の実施において使用するのに適した超音波システム、特に
図1の超音波システムの構成要素構造は、ハードウェア、ソフトウェア、又はそれらの組合せで実施することができることに留意される。超音波システム及びそのコントローラの様々な実施形態及び/又は構成要素、又はその中の構成要素及びコントローラは、1つ又は複数のコンピュータ又はマイクロプロセッサの一部として実装されてもよい。コンピュータ又はプロセッサは例えばインターネットにアクセスするために、計算装置、入力装置、表示ユニット及びインターフェースを含むことができる。コンピュータ又はプロセッサは、マイクロプロセッサを含むことができる。マイクロプロセッサは例えば、トレーニング画像をインポートするためのPACSシステム又はデータネットワークにアクセスするために、通信バスに接続されてもよい。コンピュータ又はプロセッサはまた、メモリを含んでもよい。減衰係数推定器50のための基準値マップのためのメモリなどのメモリデバイスは、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び読出し専用メモリ(ROM)を含むことができる。コンピュータ又はプロセッサはさらに、記憶装置を含み、これは、ハードディスクドライブ、又はフロッピーディスクドライブ、光ディスクドライブ、ソリッドステートサムドライブなどのリムーバブル記憶ドライブであってもよい。記憶装置は、コンピュータプログラム又は他の命令をコンピュータ又はプロセッサにロードするための他の同様の手段であってもよい。本明細書中で使用される用語「コンピュータ」又は「モジュール」又は「処理装置」又は「ワークステーション」には、マイクロプロセッサ制御装置を使用するシステム、減数指令セットコンピュータ(RISC)、ASIC、論理回路、及び本明細書に記載される機能を実行することができる任意の他の回路又は処理装置を含む、いずれかのマイクロプロセッサ処理装置ベース又はマイクロプロセッサ処理装置ベースのシステムが含まれ得る。上記の例は、例示的なものにすぎず、したがって、これらの用語の定義及び/又は意味を方法限定することを意図するものではない。
【0028】
コンピュータ又はプロセッサは入力データを処理するために、1つ以上の記憶素子に記憶される命令のセットを実行する。記憶素子はまた、所望又は必要に応じて、データ又は他の情報を記憶してもよい。記憶素子は、処理マシン内の情報源又は物理的メモリ素子の形成であってもよい。上述のような超音波画像の取得、処理、及び表示を制御するものを含む超音波システムの命令のセットは、本発明の様々な実施形態の方法及びプロセスなどの特定の動作を実行するように処理機械としてコンピュータ又はプロセッサに命令する様々なコマンドを含むことができる。命令のセットは、ソフトウェアプログラムの形成であってもよい。ソフトウェアは、システムソフトウェア又はアプリケーションソフトウェアのようなさまざまな形態であってもよく、有形及び一時的でないコンピュータ可読媒体として具体化されてもよい。減衰係数推定及びマッピングのための異なる方法について上記で与えられた式、ならびに上記で説明される信頼度マップを生成するために使用される計算は、典型的にはソフトウェアルーチンによって、又はソフトウェアルーチンの指示の下で計算される。さらに、ソフトウェアは、減衰係数計算モジュール、又はより大きなプログラム又はプログラムモジュールの部分内の減衰係数マッピングプログラムモジュールなどの別個のプログラム又はモジュールの集合の形成であってもよい。また、このソフトウェアは、オブジェクト指向プログラミングの形態でのモジュール式プログラミングを含んでもよい。処理装置による入力データの処理は、オペレータコマンドに応じて、又は前の処理の結果に応じて、又は他の処理装置による要求に応じて行われてもよい。さらに、以下のクレームの限定は手段プラス関数形式では記載されておらず、35 U.S.C.第112条第6段落に基づいて解釈されることを意図されていない。ただし、当該クレーム限定が明示的に「手段」という語句を使用し、その後にさらなる構造を欠く機能記述が続く場合はこの限りでない。