(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】飲食品用組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12C 5/02 20060101AFI20231013BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20231013BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20231013BHJP
C12G 3/04 20190101ALI20231013BHJP
【FI】
C12C5/02
A23L2/00 B
A23L2/52
C12G3/04
(21)【出願番号】P 2021537254
(86)(22)【出願日】2020-07-29
(86)【国際出願番号】 JP2020029016
(87)【国際公開番号】W WO2021024874
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2022-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2019143376
(32)【優先日】2019-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】澤田 美穂
(72)【発明者】
【氏名】滝井 慎也
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-033706(JP,A)
【文献】特開2019-088212(JP,A)
【文献】特開2016-093182(JP,A)
【文献】特開2013-169158(JP,A)
【文献】老川典夫,食品中のD-アミノ酸 ―おいしさとの関連と食品産業への応用―,BIO INDUSTRY,2010年,Vol. 27, No. 1,pp. 44-48
【文献】INOUE, Y. et al.,Mechanisms of D-Amino Acid Formation During Maturation of Sweet Rice Wine (mirin),Food Science and Technology Research,2016年,Vol. 22, No. 5,pp. 679-686
【文献】老川典夫,日本酒の新たな呈味性成分「D-アミノ酸」,日本醸造協会誌,2015年,Vol. 110, No. 4,pp. 189-197
【文献】BRUCKNER, H. and HAUSCH, M.,Detection of Free D-Amino Acids in Food by Chiral Phase Capillary Gas Chromatography,J. High Res. Chromatogr.,1989年,Vol. 12, No. 10,pp. 680-684
【文献】MUTAGUCHI, Y. et al.,Distribution of D-amino acids in vinegars and involvement of lactic acid bacteria in the production,SpringerPlus,2013年,Vol. 2, No. 691,pp. 1-9,doi:10.1186/2193-1801-2-691
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
C12G
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
D-アラニンの含有量に対するD-イソロイシン、D-ロイシン、及びD-バリンの合計含有量の質量比(D-イソロイシン、D-ロイシン、及びD-バリン/D-アラニン)が
1.0以上である、ビールテイスト飲料用組成物。
【請求項2】
D-アラニンの含有量が14.0mg/L以下であり、D-イソロイシンの含有量が1.0mg/L以上である、請求項1に記載のビールテイスト飲料用組成物。
【請求項3】
D-アラニンの含有量が14.0mg/L以下であり、D-ロイシンの含有量が1.0mg/L以上である、請求項1又は2に記載のビールテイスト飲料用組成物。
【請求項4】
D-アラニンの含有量が14.0mg/L以下であり、D-バリンの含有量が1.0mg/L以上である、請求項1~3いずれかに記載のビールテイスト飲料用組成物。
【請求項5】
D-アラニンの含有量が14.0mg/L以下であり、D-イソロイシン、D-ロイシン、及びD-バリンの合計含有量が、1.0mg/L以上である、請求項1~4いずれかに記載のビールテイスト飲料用組成物。
【請求項6】
モルトエキスを乳酸菌で発酵させる工程を含む方法により得られた乳酸発酵エキス又はその加工品を含み、D-アラニンの含有量に対するD-イソロイシン、D-ロイシン、及びD-バリンの合計含有量の質量比(D-イソロイシン、D-ロイシン、及びD-バリン/D-アラニン)が
1.0以上である、飲料用組成物。
【請求項7】
乳酸発酵エキスがモルトエキスをLb.fermentumで発酵させる工程を含む方法により得られたものである、請求項6に記載の飲料用組成物。
【請求項8】
ビールテイスト飲料用である、請求項6又は7に記載の飲料用組成物。
【請求項9】
請求項1~5いずれかに記載のビールテイスト飲料用組成物の製造方法であって、モルトエキスをLb.fermentumで発酵させる工程を含む、ビールテイスト飲料用組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品用組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の消費者の嗜好の多様化にともなって、様々な香味特徴をもつビールテイスト飲料の開発が望まれている。例えば、特許文献1には、コク感、キレ感及び嗜好性に優れ、プリン体の含有量が低い非発酵ビール風味ノンアルコール飲料を提供するために、発酵米エキスを用いることが開示されている。
【0003】
また、飲食品の味質を改良する目的で種々の調味料が提案されている。例えば、特許文献2には、飲食品の濃厚さの向上、持続性の向上、および煮込み感の向上のために、D-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、およびD-プロリンの混合物を用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6042490号公報
【文献】特許第6449418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の発酵米エキスや、特許文献2のD-アミノ酸の混合物をビールテイスト飲料に用いると、キレが悪くなってしまう場合があることが分かった。
【0006】
本発明は、ビールテイスト飲料に対してキレを付与することができる飲食品用組成物及びその製造方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記[1]~[2]に関する。
[1]D-アラニンの含有量に対するD-イソロイシン、D-ロイシン、及びD-バリンの合計含有量の質量比(D-イソロイシン、D-ロイシン、及びD-バリン/D-アラニン)が0.1以上である、飲食品用組成物。
[2][1]に記載の飲食品用組成物の製造方法であって、モルトエキスをLb.fermentumで発酵させる工程を含む、飲食品用組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ビールテイスト飲料に対してキレを付与することができる飲食品用組成物及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
一般的に、ビールテイスト飲料ではキレが高いとお客様嗜好度が向上する。本発明者らは、D-イソロイシン、D-ロイシン、D-バリンなどの特定のD-アミノ酸がビールテイスト飲料のキレに寄与することを新たに見出した。また、ビールテイスト飲料中のD-アラニンの含有量が多くなると、キレが悪くなる傾向にあることについても新たに見出した。本明細書における「キレ」とは、甘味や甘い香りが少なく後に残らず、のどの奥に軽さを感じる爽快感、刺激感があることを指す。また、「ビールテイスト飲料」とは、ビール様の風味をもつ炭酸飲料をいう。つまり、本明細書のビールテイスト飲料は、特に断わりがない場合、ビール風味の炭酸飲料を全て包含する。本発明の飲食品組成物は、ビールテイスト飲料全般に使用することができ、麦芽比率や麦由来成分、原麦汁エキス、真正エキス、プリン体含有量、アルコール度数などの低いビールテイストアルコール飲料や、同様に麦芽比率や麦由来成分、原麦汁エキス、真正エキス、プリン体含有量などの低いノンアルコールビールテイスト飲料など、味わいが軽めの飲料においても好適に用いられる。このうち、ノンアルコールビールテイスト飲料は、特に断りがない場合、酵母による発酵工程の有無に拘わらず、ビール風味を有するいずれのノンアルコールの炭酸飲料をも包含する。また、「麦芽比率」とは、麦芽、米、トウモロコシ、コウリャン、バレイショ、デンプン、麦芽以外の麦、及び糖類など、水とホップ以外の原料中に占める麦芽の質量の比率をいう。ただし、酸味料、甘味料、苦味料、調味料、香料など、微量に添加され得る成分については上記比率の計算に含めない。本明細書において、麦芽比率は、平成30年4月1日が施工日の酒税法および酒類行政関係法令等解釈通達に従って計算された値を意味する。一般に原麦汁エキスは、アルコールとエキスという2つのパラメーターから計算されるビールの濃醇さを表す概念である(醸造物の成分、184ページ、編集・発行(財)日本醸造協会)。原麦汁エキスは、そのビール製造時に用いられる麦汁濃度(糖質を添加する場合は糖質濃度を含む)の推定値と言える。原麦汁エキスは、国際法として公定されているSCABA(Servo Chem Automatic Beer Analyzer)法にしたがって測定することができる。本発明において「真正エキス(°P)」は、飲料中に含まれる不揮発性の固形物の質量濃度を意味し、BCOJビール分析法8.4.3のアルコライザー法に基づいて測定することができる。
【0010】
本発明の飲食品用組成物は、D-アラニン、D-イソロイシン、D-ロイシン、及びD-バリンを含む。
【0011】
本発明の飲食品用組成物におけるD-アラニンの含有量に対するD-イソロイシン、D-ロイシン、及びD-バリンの合計含有量の質量比(D-イソロイシン、D-ロイシン、及びD-バリン/D-アラニン)は、キレを良くする観点から、0.1以上であり、好ましくは0.5以上であり、より好ましくは1.0以上であり、さらに好ましくは2.0以上であり、さらに好ましくは3.0以上であり、さらに好ましくは4.0以上であり、上限値としては、100以下、50以下、10以下とすることができ、これらいずれの組み合わせによる範囲としてもよい。本明細書において、飲食品用組成物中のアミノ酸の定量は、5倍希釈実試料にIS溶液とアセトニトリルを加えて混和した後、遠心分離した上清を回収し(除タンパク処理)、除タンパク処理した試料について、アミノ酸誘導体化試薬(R)-BiACを用いて塩基性条件下で誘導体化反応を行った後、0.1%ぎ酸を加えたものをLC-MS/MS解析(島津LCMS8060)に供する。
【0012】
本発明の飲食品用組成物は、任意に、炭素源原料(糖)、窒素源原料(ペプチド、アミノ酸)、ビタミン、香料成分などの成分を含有することができる。
【0013】
本発明の飲食品用組成物は、ビールテイスト飲料、清涼飲料、アルコール飲料、緑茶飲料、スポーツ飲料など各種飲食品に用いることができるが、なかでもビールテイスト飲料にキレを付与する用途として好適に用いることができる。以下に、これらの飲料における使用態様について例示する。
【0014】
麦芽を原料として使用して製造されるビールテイストアルコール飲料は、まず、麦芽等の麦の他、必要に応じて他の穀物、でんぷん、糖類、苦味料、又は着色料などの原料及び水を含む混合物に、必要に応じてアミラーゼなどの酵素を添加し、糊化、糖化を行なわせ、ろ過し、糖化液とする。必要に応じてホップや苦味料などを糖化液に加えて煮沸し、清澄タンクにて凝固タンパク質などの固形分を取り除く。この糖化液の代替として、麦芽エキスに温水を加えたものにホップを加えて煮沸してもよい。ホップは煮沸開始から煮沸終了前のどの段階で混合してもよい。糖化工程、煮沸工程、固形分除去工程などにおける条件は、知られている条件を用いればよい。醗酵・貯酒工程などにおける条件は、知られている条件を用いればよい。得られた醗酵液を濾過し、得られた濾過液に炭酸ガスを加える。その後、容器に充填し殺菌工程を経て目的のビールテイストアルコール飲料を得る。なお、アルコール成分として、さらに、穀物に由来するスピリッツを添加してもよい。スピリッツとは、麦、米、そば、とうもろこし等の穀物を原料として、酵母を用いて発酵させた後、更に蒸留して得られる酒類を意味する。スピリッツの原材料である穀物としては麦が好ましい。前記各工程において本発明の飲食品用組成物の添加は、充填までのどの工程で行ってもよいが、微生物保証の観点から、煮沸工程において混合することが好ましい。
【0015】
麦芽を原料として使用せずに製造されるビールテイストアルコール飲料は、炭素源を含有する液糖、麦又は麦芽以外のアミノ酸含有材料としての窒素源、ホップ、色素等を、温水と共に混合し、液糖溶液とする。該液糖溶液は、煮沸する。原料としてホップを用いる場合、ホップは煮沸開始前ではなく、煮沸中に、該液糖溶液に混合してもよい。この糖化液の代替として、麦芽以外の原料を用いたエキスに温水を加えたものにホップを加えて煮沸してもよい。ホップは煮沸開始から煮沸終了前のどの段階で混合してもよい。醗酵・貯酒工程などにおける条件は、知られている条件を用いればよい。得られた醗酵液を濾過し、得られた濾過液に炭酸ガスを加える。その後、容器に充填し殺菌工程を経て目的のビールテイストアルコール飲料を得る。なお、アルコール成分として、さらに、穀物に由来するスピリッツを添加してもよい。スピリッツとは、麦、米、そば、とうもろこし等の穀物を原料として、酵母を用いて発酵させた後、更に蒸留して得られる酒類を意味する。スピリッツの原材料である穀物としては麦が好ましい。前記各工程において飲食品用組成物の添加は、充填までのどの工程で行ってもよいが、微生物保証の観点から、煮沸工程において混合することが好ましい。
【0016】
ビールテイストアルコール飲料の製造工程における本発明の飲食品用組成物の添加量としては、ビールテイストアルコール飲料の種類により異なるが、味わいが軽めのビールテイストアルコール飲料においては、D-アラニンが好ましくは3.0mg/L以下、より好ましくは2.0mg/L以下、更に好ましくは1.5mg/L以下となる量であり、且つD-イソロイシン、D-ロイシン、及びD-バリンの合計含有量が好ましくは0.14~1.55mg/L、より好ましくは0.21~0.90mg/L、更に好ましくは0.28~0.45mg/Lとなる量を目安として添加することができる。
【0017】
麦芽を原料として使用して製造されるノンアルコールビールテイスト飲料は、まず、麦芽等の麦の他、必要に応じて他の穀物、でんぷん、糖類、苦味料、又は着色料などの原料及び水を含む混合物に、必要に応じてアミラーゼなどの酵素を添加し、糊化、糖化を行なわせ、ろ過し、糖化液とする。必要に応じてホップや苦味料などを糖化液に加えて煮沸し、清澄タンクにて凝固タンパク質などの固形分を取り除く。この糖化液の代替として、麦芽エキスに温水を加えたものにホップを加えて煮沸してもよい。ホップは煮沸開始から煮沸終了前のどの段階で混合してもよい。糖化工程、煮沸工程、固形分除去工程などにおける条件は、知られている条件を用いればよい。煮沸後、得られた麦汁を濾過し、得られた濾過液に炭酸ガスを加える。その後、容器に充填し殺菌工程を経て目的のノンアルコールビールテイスト飲料を得る。前記各工程において本発明の飲食品用組成物の添加は、充填までのどの工程で行ってもよいが、微生物保証の観点から、煮沸工程において混合することが好ましい。
【0018】
麦芽を原料として使用しないノンアルコールビールテイスト飲料を製造する場合には、まず、炭素源を含有する液糖、麦又は麦芽以外のアミノ酸含有材料としての窒素源、ホップ、色素等を、温水と共に混合し、液糖溶液とする。該液糖溶液は、煮沸する。原料としてホップを用いる場合、ホップは煮沸開始前ではなく、煮沸中に、該液糖溶液に混合してもよい。煮沸後の液糖溶液に対して、炭酸ガスを加える。その後、容器に充填し殺菌工程を経て目的のノンアルコールビールテイスト飲料を得る。前記各工程において本発明の飲食品用組成物の添加は、充填までのどの工程で行ってもよいが、微生物保証の観点から、煮沸工程において混合することが好ましい。
【0019】
ノンアルコールビールテイスト飲料の製造工程における本発明の飲食品用組成物の添加量としては、ノンアルコールビールテイスト飲料中のD-アラニンが好ましくは2.5mg/L以下、より好ましくは2.0mg/L以下、更に好ましくは1.0mg/L以下となる量であり、且つD-イソロイシン、D-ロイシン、及びD-バリンの合計含有量が好ましくは0.05~0.90mg/L、より好ましくは0.08~0.40mg/L、更に好ましくは0.14~0.25mg/Lとなる量を目安として添加することができる。
【0020】
本発明の飲食品用組成物としては、乳酸発酵エキス又はその加工品を好適に例示できる。以下にこれらの態様について説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
【0021】
乳酸発酵エキスとしては、モルトエキス、米エキス、大麦エキス、コーンスターチなどを乳酸発酵させた乳酸発酵エキスが挙げられ、発酵性や風味の観点から、モルトエキスを乳酸発酵させた乳酸発酵エキスの態様が好ましい。本態様において、モルトエキスは麦芽に対して粉砕、糖化、ろ過、煮沸、ろ過という一連の工程を経ることにより調製することができ、モルトエース20(オリエンタル酵母工業(株)製)などの市販品を用いることもできる。乳酸発酵エキスの調製に用いられる乳酸菌としては、Lb.fermentum、Lb.reuteriなどが挙げられ、D-アスパラギン酸とD-グルタミン酸の産生能の観点から、Lb.fermentumを用いる態様が好ましい。培養条件としては一般的な乳酸菌培養の条件を当てはめることが好ましい。培養温度は、乳酸菌が生育しうる範囲、即ち、30~45℃で行われる。培養の際はpH3.0~8.0、好ましくはpH3.5~7.0で行う。培養時間は、使用する培地の種類および基質により異なるが、通常、10~24時間程度であり、好ましくは一晩以上培養する。培養後、得られた培養液は、殺菌工程の有無にかかわらず、当該分野において通常使用される周知の手段、例えば膜濾過、遠心分離などの操作により不溶性固形分を除去することにより乳酸発酵エキスが得られる。
【0022】
乳酸発酵エキス中のD-アラニンの含有量は、キレを良くする観点から、好ましくは14.0mg/L以下であり、より好ましくは13.0mg/L以下であり、更に好ましくは12.0mg/L以下であり、下限値は特に限定されないが、例えば、0.01mg/L以上とすることができ、これらいずれの組み合わせによる範囲としてもよい。
【0023】
乳酸発酵エキス中のD-イソロイシンの含有量は、キレを良くする観点から、好ましくは1.0mg/L以上であり、より好ましくは2.0mg/L以上であり、更に好ましくは5.0mg/L以上であり、また、D-イソロイシンそのものにより生じる苦みの増加を抑制する観点から、好ましくは40mg/L以下であり、より好ましくは15mg/L以下であり、更に好ましくは10mg/L以下であり、これらいずれの組み合わせによる範囲としてもよい。
【0024】
乳酸発酵エキス中のD-ロイシンの含有量は、キレを良くする観点から、好ましくは2.0mg/L以上であり、より好ましくは3.0mg/L以上であり、更に好ましくは4.0mg/L以上であり、また、D-ロイシンそのものにより生じる苦みの増加を抑制する観点から、好ましくは20mg/L以下であり、より好ましくは15mg/L以下であり、更に好ましくは10mg/L以下であり、これらいずれの組み合わせによる範囲としてもよい。
【0025】
乳酸発酵エキス中のD-バリンの含有量は、キレを良くする観点から、好ましくは1.0mg/L以上であり、より好ましくは2.0mg/L以上であり、更に好ましくは5.0mg/L以上であり、また、D-バリンそのものにより生じる苦みの増加を抑制する観点から、好ましくは40mg/L以下であり、より好ましくは15mg/L以下であり、更に好ましくは10mg/L以下であり、これらいずれの組み合わせによる範囲としてもよい。
【0026】
乳酸発酵エキス中のD-イソロイシン、D-ロイシン、及びD-バリンの合計含有量は、キレを良くする観点から、好ましくは4.0mg/L以上であり、より好ましくは7.0mg/L以上であり、更に好ましくは14mg/L以上であり、また、苦味の発生を抑制する観点から、好ましくは100mg/L以下であり、より好ましくは45mg/L以下であり、更に好ましくは30mg/L以下であり、これらいずれの組み合わせによる範囲としてもよい。
【0027】
乳酸発酵エキスの加工品としては、乳酸発酵エキスの濃縮品、希釈品、凍結乾燥品、濃縮乾燥品、分画若しくは精製処理した精製品などが挙げられる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0029】
実施例1
モルトエキスを特定の乳酸菌で発酵させることにより、乳酸発酵エキスを得た。具体的には、モルトエキス(オリエンタル酵母工業(株)社製、「モルトエース20」)2.5g、L-アスパラギン酸0.1g、L-グルタミン酸0.1g、水96.3gを混合し、湯煎にて90℃で1分間殺菌し、その後、乳酸菌培養温度まで冷却した、冷却した原料混合物に、市販の乳酸菌Lb.fermentumの懸濁液1×108(cfu/g)1gを接種し、一般的な乳酸菌培養条件にてインキュベートし、乳酸発酵を行った。乳酸発酵後の混合液を遠心分離に供して不溶固形分を除去し、実施例1の飲食品用組成物(乳酸発酵エキス1)を得た。
【0030】
比較例1
モルトエキスに代えて米エキス(大洋香料社製、「発酵米エキス」)を使用し、乳酸菌としてペディオコッカス・アシドラクティシ(Ped.acidilactici)を使用し、培養条件を37℃で22時間とした以外は実施例1と同様にして比較例1の飲食品用組成物(乳酸発酵エキス2)を得た。得られた飲食品用組成物の詳細を表1に示す。
【0031】
【0032】
各実施例、比較例の乳酸発酵エキスを、麦芽比率10~35%の市販のビールテイストアルコール飲料100質量部に対し、表2に記載した量を添加し、乳酸発酵エキスを添加する前の飲料の評価を「1点」として以下の基準で相対的なスコア化を実施した。スコア化は0.25刻みで実施し、専門パネリスト6名のスコアの平均点を算出した。この平均点に基づき、キレの増強効果の程度を以下の基準により「×」~「◎」の記号で示した。判定が「△」以上であれば、キレが増強されていると認められる。乳酸発酵エキスを添加する前の飲料の評価は参考例1とした。結果を表2に示す。
(キレのスコア)
1:全く感じない
2:やや感じる
3:明確に感じる
4:非常に強く感じる
(キレの評価基準)
×:キレのスコアが1.0以上、1.5未満
△:キレのスコアが1.5以上、2.5未満
○:キレのスコアが2.5以上、3.5未満
◎:キレのスコアが3.5以上
【0033】
【0034】
各実施例、比較例の乳酸発酵エキスを、市販のノンアルコールビールテイスト飲料100質量部に対し、表3に記載した量を添加し、乳酸発酵エキスを添加する前の飲料の評価を「1点」として以下の基準で相対的なスコア化を実施した。スコア化は0.25刻みで実施し、専門パネリスト6名のスコアの平均点を算出した。この平均点に基づき、キレの増強効果の程度を以下の基準により「×」~「◎」の記号で示した。判定が「△」以上であれば、キレが増強されていると認められる。乳酸発酵エキスを添加する前の飲料の評価は参考例2とした。結果を表3に示す。
(キレのスコア)
1:全く感じない
2:やや感じる
3:明確に感じる
4:非常に強く感じる
(キレの評価基準)
×:キレのスコアが1.0以上、1.5未満
△:キレのスコアが1.5以上、2.5未満
○:キレのスコアが2.5以上、3.5未満
◎:キレのスコアが3.5以上
【0035】
【0036】
表2、3より、実施例1の乳酸発酵エキスを添加した水準1、2のビールテイストアルコール飲料及び水準4、5のノンアルコールビールテイスト飲料は、キレに優れるものであったことが分かる。
【0037】
麦芽比率10~35%の市販のビールテイストアルコール飲料(参考例1)及び市販のノンアルコールビールテイスト飲料(参考例2)に、D-アラニン(ナカライテスク社製)、D-イソロイシン(ナカライテスク社製)、D-ロイシン(ナカライテスク社製)、D-バリン(ナカライテスク社製)を表4、5に記載した含有量となるように添加し、表2、3と同様にしてキレを評価した。
【0038】
【0039】
【0040】
表4、5より、D-イソロイシン、D-ロイシン、D-バリンを添加すると、無添加時に比べてキレが増強されていることが分かる。また、D-アラニンの含有量が多くなるとキレが悪くなる傾向にあることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の組成物は、飲食品などの分野において有用である。