IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 京セラ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-セル 図1A
  • 特許-セル 図1B
  • 特許-セル 図2
  • 特許-セル 図3
  • 特許-セル 図4
  • 特許-セル 図5A
  • 特許-セル 図5B
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】セル
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/2428 20160101AFI20231013BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20231013BHJP
   H01M 8/1226 20160101ALI20231013BHJP
   H01M 8/0247 20160101ALI20231013BHJP
【FI】
H01M8/2428
H01M8/12 102C
H01M8/1226
H01M8/0247
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022000277
(22)【出願日】2022-01-04
(62)【分割の表示】P 2020516187の分割
【原出願日】2019-04-08
(65)【公開番号】P2022033266
(43)【公開日】2022-02-28
【審査請求日】2022-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2018085377
(32)【優先日】2018-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥本 健太郎
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2004/088783(WO,A1)
【文献】特開2011-181291(JP,A)
【文献】特開2018-098201(JP,A)
【文献】特開2018-098081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/24
H01M 8/12
H01M 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一端および該第一端と反対側の第二端を有する支持基板と、
該支持基板の面上に位置する、
第1素子部、
該第1素子部の前記第一端側に位置する第2素子部、および
前記第1素子部と前記第2素子部との間に位置する電気的接続部
を備え、
前記第1素子部および前記第2素子部は、少なくとも第1電極、固体電解質、第2電極および第2電極集電部をそれぞれ有し、
前記電気的接続部は、前記第1素子部の前記第1電極と前記第2素子部の前記第2電極とを電気的に接続し、
前記第2素子部上の前記第2電極集電部は、さらに前記電気的接続部上に延びているとともに、
前記第2素子部上の前記第一端側に位置する第1部位、
前記第2素子部上の前記第1部位以外である第2部位、
前記電気的接続部上の前記第二端側に位置する第3部位、および
該第3部位と前記第2部位との間に位置し、前記支持基板の面に沿った平坦面
を有し、
該平坦面は、前記第2部位の外表面よりも前記支持基板の近くに位置し、
前記第1部位は、前記第3部位より外側に突出する、セル。
【請求項2】
前記第1素子部上の前記第2電極集電部が、
前記第1素子部上の前記第一端側に位置する第1部位、および
前記第1素子部上の前記第1部位以外である第2部位
を有し、
前記第1素子部上における前記第1部位の外表面が、前記第3部位の外表面よりも前記支持基板から離れた方向に位置する
請求項1に記載のセル。
【請求項3】
前記第1素子部上の前記第2電極集電部が、
前記第1素子部上の前記第一端側に位置する第1部位、および
前記第1素子部上の前記第1部位以外である第2部位
を有し、
前記第1素子部、前記第2素子部及び前記電気的接続部を含む断面視において、前記第1素子部上の前記第1部位の角部の曲率が、前記第3部位の角部の曲率より大きい、請求項1に記載のセル。
【請求項4】
前記第2素子部上の前記第1部位の気孔率は、前記第2素子部上および前記電気的接続部上に位置する前記第2電極集電部の前記第1部位以外の部位の気孔率より高い、請求項1~3のいずれか1つに記載のセル。
【請求項5】
第一端および該第一端と反対側の第二端を有する支持基板と、
該支持基板の面上に位置する、
第1素子部、
該第1素子部の前記第一端側に位置する第2素子部、および
前記第1素子部と前記第2素子部との間に位置する電気的接続部と
を備え、
前記第1素子部および前記第2素子部は、少なくとも第1電極、固体電解質、第2電極および第2電極集電部をそれぞれ有し、
前記電気的接続部は、前記第1素子部の前記第1電極と前記第2素子部の前記第2電極とを電気的に接続し、
前記第2素子部上の前記第2電極集電部は、さらに前記電気的接続部上に延びているとともに、
前記第2素子部上の前記第一端側に位置する第1部位、
前記第2素子部上の前記第1部位以外である第2部位、
前記電気的接続部上の前記第二端側に位置する第3部位、および
該第3部位と前記第2部位との間に位置し、前記支持基板の面に沿った平坦面
を有し、
該平坦面は、前記第2部位の外表面よりも前記支持基板の近くに位置し、
前記第2素子部上の前記第1部位の外表面の算術平均粗さの値は、前記第2素子部上および前記電気的接続部上に位置する前記第2電極集電部の前記第1部位以外の部位の算術平均粗さの値より大きい、セル。
【請求項6】
前記第2素子部上における前記第1部位および前記第2部位の外表面は、前記第3部位の外表面より、前記支持基板から離れた方向に位置する、請求項1~5のいずれか1つに記載のセル。
【請求項7】
前記第端から前記第端へガスが流れる、請求項1~6のいずれか1つに記載のセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、「ガス流路が内部に設けられた電子伝導性を有さない多孔質の支持基板」と、「支持基板の表面における互いに離れた複数の箇所にそれぞれ設けられ、燃料極、固体電解質、及び空気極が積層されてなる複数の発電素子部」と、「1組又は複数組の隣り合う発電素子部の間にそれぞれ設けられ、隣り合う発電素子部の一方の燃料極と他方の空気極とを電気的に接続する1つ又は複数の電気的接続部」とを備えた固体酸化物形燃料電池セル(以下、セルという場合がある。)が知られている(例えば、特許文献1を参照)。このような構成は、「横縞型」とも呼ばれる。当該セル内部のガス流路の一端より燃料ガスを導入し、当該セル外部の一端から酸素を含むガスを流すことにより発電を行うことが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-38718号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示のセルは、第一端および該第一端と反対側の第二端を有する支持基板と、該支持基板の面上に位置する、第1素子部、第2素子部、および電気的接続部を備える。第2素子部は、第1素子部の前記第一端側に位置する。電気的接続部は、前記第1素子部と前記第2素子部との間に位置する。前記第1素子部および前記第2素子部は、少なくとも第1電極、固体電解質、第2電極および第2電極集電部をそれぞれ有する。前記電気的接続部は、前記第1素子部の前記第1電極と前記第2素子部の前記第2電極とを電気的に接続する。前記第2素子部上の前記第2電極集電部は、さらに前記電気的接続部上に延びているとともに、第1部位、第2部位、第3部位、および平坦面を有する。第1部位は、前記第2素子部上の前記第一端側に位置する。第2部位は、前記第2素子部上の前記第1部位以外である。第3部位は、前記電気的接続部上の前記第二端側に位置する。平坦面は、第3部位と前記第2部位との間に位置し、前記支持基板の面に沿っている。平坦面は、前記第2部位の外表面よりも前記支持基板の近くに位置する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1A】本実施形態における固体酸化物形燃料電池セルを示す斜視図である。
図1B】凹部内に燃料極、インターコネクタが埋設された状態を示す平面図である。
図2図1Aに示す固体酸化物形燃料電池セルの断面図である。
図3図1Aに示す固体酸化物形燃料電池セルの作動状態を説明するための図である。
図4図1Aの支持基板を示す斜視図である。
図5A図4の断面図である。
図5B】第1凹部内に各層を形成した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
図1Aは、本実施形態における固体酸化物形燃料電池セルを示す。セルは、長手方向(x軸方向)を有する柱状かつ平板状の支持基板10の上下面(互いに平行な両側の主面(平面))のそれぞれに、電気的に直列に接続された複数(本実施形態では、4つ)の同形の発電素子部Aが長手方向において所定の間隔をおいて配列されている。このセルは、所謂「横縞型」である。
【0007】
このセルを上方からみた形状は、例えば、長手方向の辺の長さが5~50cmで、長手方向に直交する幅方向(y軸方向)の長さが1~10cmの長方形である。このセルの厚さは、1~5mmである。このセルは、厚さ方向の中心を通り且つ支持基板10の主面に平行な面に対して上下対称の形状である。以下、図1Aに加えて、このセルの図1Aに示すセルの長手方向における断面図である図2を参照しながら、このセルの詳細について説明する。
【0008】
図2は、図1Aに示す固体酸化物形燃料電池セルの長手方向における断面図の一部である。言い換えれば、ガス流路11、発電素子部A及び電気的接続部Bを含む断面図の一部である。
【0009】
支持基板10は、電子伝導性を有さない(絶縁性)多孔質の材料からなる柱状かつ平板状の焼成体である。支持基板10の内部には、長手方向に延びる複数(本実施形態では、6本)のガス流路11(貫通孔)が幅方向において所定の間隔をおいて位置している。
【0010】
本実施形態では、支持基板10の主面における複数の箇所に、それぞれ第1凹部12がある。各第1凹部12は、支持基板10の材料からなる底壁と、全周に亘って支持基板10の材料からなる周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みである。
【0011】
支持基板10は、「遷移金属酸化物又は遷移金属」と、絶縁性セラミックスとを含む。「遷移金属酸化物又は遷移金属」としては、NiO(酸化ニッケル)又はNi(ニッケル)であってもよい。遷移金属は、燃料ガスの改質反応を促す触媒(炭化水素系のガスの改質触媒)として機能し得る。
【0012】
絶縁性セラミックスは、MgO(酸化マグネシウム)、又は、「MgAl(マグネシアアルミナスピネル)とMgO(酸化マグネシウム)の混合物」であってもよい。また、絶縁性セラミックスとして、CSZ(カルシア安定化ジルコニア)、YSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)、Y(イットリア)が使用されてもよい。
【0013】
支持基板10が「遷移金属酸化物又は遷移金属」を含むことによって、改質前の残存ガス成分を含んだガスが上記触媒作用によって改質前の残存ガス成分の改質を促すことができる。加えて、支持基板10が絶縁性セラミックスを含むことによって、支持基板10の絶縁性を確保することができる。この結果、隣り合う燃料極間における絶縁性が確保され得る。
【0014】
支持基板10の厚さは、1~5mmである。以下、この構造体の形状が上下対称となっていることを考慮し、説明の簡便化のため、支持基板10の上面側の構成についてのみ説明していく。支持基板10の下面側の構成についても同様である。
【0015】
図2に示すように、支持基板10の上面(上側の主面)に位置する各第1凹部12内には、燃料極集電部21の全体が埋設(充填)されている。従って、各燃料極集電部21は直方体状である。各燃料極集電部21の上面(外側面)には、第2凹部21aがある。各第2凹部21aは、図1Bに示すように、燃料極集電部21の材料からなる底壁と、周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みである。周方向に閉じた側壁のうち、長手方向(x軸方向)に沿う2つの側壁は支持基板10の一部であり、幅方向(y軸方向)に沿う2つの側壁は燃料極集電部21の一部である。
【0016】
各第2凹部21aには、燃料極活性部22が埋設(充填)されている。各燃料極活性部22は直方体状である。燃料極20は燃料極集電部21と燃料極活性部22とを含む。燃料極20(燃料極集電部21および燃料極活性部22)は、電子伝導性を有する多孔質の焼成体である。各燃料極活性部22の幅方向(y軸方向)に沿う2つの側面と底面とは、第2凹部21a内で燃料極集電部21と接触している。
【0017】
各燃料極集電部21の上面(外側面)における第2凹部21aを除いた部分には、第3凹部21bがある。各第3凹部21bは、燃料極集電部21である底壁と、周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みである。周方向に閉じた側壁のうち、長手方向(x軸方向)に沿う2つの側壁は支持基板10の一部であり、幅方向(y軸方向)に沿う2つの側壁は燃料極集電部21の一部である。
【0018】
各第3凹部21bには、インターコネクタ(導電性緻密質体)30が埋設(充填)されている。各インターコネクタ30は直方体状である。インターコネクタ30は、電子伝導性を有する緻密な焼成体である。各インターコネクタ30の幅方向に沿う2つの側面と底面とは、第3凹部21b内で燃料極集電部21と接触している。
【0019】
燃料極20(燃料極集電部21および燃料極活性部22)の上面(外側面)と、インターコネクタ30の上面(外側面)と、支持基板10の主面とにより、1つの平面(凹部12が形成されていない場合の支持基板10の主面と同じ平面)が構成されている。
【0020】
燃料極活性部22は、例えば、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(イットリア安定化ジルコニア)とを含んでいてもよい。または、NiO(酸化ニッケル)とGDC(ガドリニウムドープセリア)とを含んでもよい。燃料極集電部21は、例えば、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(イットリア安定化ジルコニア)を含んでいてもよい。または、NiO(酸化ニッケル)とY(イットリア)とから構成されてもよいし、NiO(酸化ニッケル)とCSZ(カルシア安定化ジルコニア)とを含んでいてもよい。燃料極活性部22の厚さは、5~30μmである。燃料極集電部21の厚さ(即ち、第1凹部12の深さ)は、50~500μmである。
【0021】
燃料極集電部21は、電子伝導性である。燃料極活性部22は、電子伝導性と酸化性イオン(酸素イオン)伝導性とを有する。燃料極活性部22における「気孔部分を除いた全体積に対する酸化性イオン伝導性を有する物質の体積割合」は、燃料極集電部21における「気孔部分を除いた全体積に対する酸化性イオン伝導性を有する物質の体積割合」よりも多い。
【0022】
インターコネクタ30は、例えば、LaCrO(ランタンクロマイト)を含んでいてもよい。または、(Sr,La)TiO(ストロンチウムチタネート)を含んでいてもよい。インターコネクタ30の厚さは、10~100μmである。気孔率は10%以下である。
【0023】
支持基板10における長手方向(発電素子部Aの配列方向)に延びる外周面において、複数のインターコネクタ30の中央部を除いた全面は、固体電解質膜40により覆われている。固体電解質膜40は、イオン伝導性を有し且つ電子伝導性を有さない緻密な焼成体である。固体電解質膜40は、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)を含んでいてもよい。または、LSGM(ランタンガレート)を含んでいてもよい。固体電解質膜40の厚さは、3~50μmである。
【0024】
支持基板10における長手方向に延びる外周面の全面は、インターコネクタ30と固体電解質膜40とからなる緻密層により覆われている。この緻密層は、緻密層の内側の空間を流れる燃料ガスと緻密層の外側の空間を流れる空気との混合を抑制するガスシール機能を発揮する。
【0025】
図2に示すように、本実施形態では、固体電解質膜40が、燃料極20(燃料極集電部21+燃料極活性部22)の上面、インターコネクタ30の上面における長手方向の両側端部、および支持基板10の主面を覆っている。
【0026】
固体電解質膜40における各燃料極活性部22と接している箇所の上面には、反応防止膜50を介して空気極60が位置する。反応防止膜50は、緻密な焼成体である。空気極60は、電子伝導性を有する多孔質の焼成体である。反応防止膜50および空気極60を上方からみた形状は、燃料極活性部22と略同一の長方形である。
【0027】
反応防止膜50は、例えば、GDC=(Ce,Gd)O(ガドリニウムドープセリア)を含んでいてもよい。反応防止膜50の厚さは、3~50μmである。空気極60は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)を含んでいてもよい。または、LSF=(La,Sr)FeO(ランタンストロンチウムフェライト)、LNF=La(Ni,Fe)O(ランタンニッケルフェライト)、LSC=(La,Sr)CoO(ランタンストロンチウムコバルタイト)等を含んでいてもよい。空気極60は、LSCFからなる第1層(内側層)とLSCからなる第2層(外側層)との2層であってもよい。空気極60の厚さは、10~100μmである。
【0028】
反応防止膜50が介装されるのは、セル作製時又は作動中のセル内において固体電解質膜40内のYSZと空気極60内のSrとが反応して固体電解質膜40と空気極60との界面に電気抵抗が大きい反応層が形成される現象の発生を抑制するためである。
【0029】
燃料極20と、固体電解質膜40と、空気極60とが積層されてなる積層体が、「発電素子部A」に対応する(図2を参照)。発電素子部Aは反応防止膜50を含んでもよい。支持基板10の上面には、複数(本形態では、4つ)の発電素子部Aが、長手方向において所定の間隔をおいて配置されている。
【0030】
隣り合う発電素子部Aについて、他方の(図2では、左側の)発電素子部Aの空気極60と、一方の(図2では、右側の)発電素子部Aとつながるインターコネクタ30とを跨ぐように、空気極60、固体電解質膜40、および、インターコネクタ30の上面に、空気極集電部70が位置する。空気極集電部70は、電子伝導性を有する多孔質の焼成体である。空気極集電部70を上方からみた形状は、長方形である。
【0031】
空気極集電部70は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)を含んでもよい。または、LSC=(La,Sr)CoO(ランタンストロンチウムコバルタイト)を含んでもよい。または、Ag(銀)、Ag-Pd(銀パラジウム合金)を含んでもよい。空気極集電部70の厚さは、50~500μmである。気孔率は20~60%である。
【0032】
各空気極集電部70により、隣り合う発電素子部Aが電子伝導性を有する「空気極集電部70およびインターコネクタ30」を介して電気的に接続される。支持基板10の上面に配置されている複数(本形態では、4つ)の発電素子部Aが電気的に直列に接続される。「発電素子部A」以外の、電子伝導性を有する「空気極集電部70およびインターコネクタ30」を含む部分を「電気的接続部B」とする。
【0033】
支持基板10のうちガス流路11側を「内」とし、支持基板10のうちの発電素子部が配置されている面側を「外」とする場合がある。
【0034】
図3に示すように、支持基板10のガス流路11内を、支持基板の長手方向における一端である第一端から他端である第二端へと燃料ガス(水素ガス等)を流し、支持基板10の上下面(特に、各空気極集電部70)を第一端から第二端へと「酸素を含むガス」(空気等)を流すことで固体電解質膜40の両側面間に生じる酸素分圧差により起電力が発生する。更に、この構造体を外部の負荷に接続すると、下記(1)、(2)式に示す化学反応が起こり、電流が流れる(発電状態)。
(1/2)・O+2e→O2-(於:空気極60)・・・(1)
+O2-→HO+2e
(於:燃料極20)・・・(2)
【0035】
なお、支持基板10の上下面を第一端から第二端へと酸素を含むガスが流れるとは、ガスの流れ方向が第一端から第二端へと(長手方向)流れていればよく、図3で示すように、長手方向と直交する方向からガスを吹き付けもよい。
【0036】
発電状態においては、図2に示すように、隣り合う発電素子部Aについて、電流が、矢印で示すように流れる。この結果、セル全体から(具体的には、図3において最も手前側の発電素子部Aとつながるインターコネクタ30と最も奥側の発電素子部Aの空気極60とを介して)電力が取り出される。各セル100について表側と裏側とを電気的に直列に接続するための集電部材(図示せず)が設けられていてもよい。
【0037】
ところで、従来、空気極集電部の構造は制御されておらず、第一端から第二端へと酸素を含むガスが外部を流れるセルにおいて、酸素を含むガスが空気極集電部から効率よくセルに取り込まれないおそれがあった。
【0038】
そこで、本実施形態においては、複数の空気極集電部70において、発電素子部Aに積層された領域であって第一端側(上流側)の第三端部701Uである第1部位と、発電素子部Aに積層された領域であって第三端部701U以外(図2において701Aと示す)である第2部位と、前記第二端側(下流側)の第四端部702Dである第3部位とに分類した場合に、1つの部位における形状または性状が、他の部位の形状または性状と異なっている、部位を有している。以下の説明においては、特に断りのない限りは、第1部位を第三端部701Uと表現し、第3部位を第四端部702Dと表現して説明する。
【0039】
これにより、第一端から第二端へと酸素を含むガスが外部を流れるセルにおいて、酸素を含むガスを空気極集電部から効率よくセルに取り込むことができる。
【0040】
例えば、図2で示す実施形態においては、空気極集電部70のうち任意の一つの第三端部701Uの外表面は、第三端部701Uに隣接する、第二空気極集電部702のうち第二端側(下流側)の第四端部702Dの外表面より、支持基板10から離れた方向に位置する。この場合、1つの空気集電部701の第1部位と、他の空気集電部701の第3部位の形状が異なっているといえる。
【0041】
これにより、長手方向において空間を介して対向する第三端部701Uと第四端部702Dのうち、下流側の第三端部701Uが上流側の第四端部702Dより外側に突出する構造となる。それにより、第一端から流れる酸素を含むガスが、第一空気極集電部701においては上流側に位置する第三端部701Uに積極的に衝突することとなる。すなわち、上流側から取り込まれた酸素を含むガスは、空気極集電部70又は空気極60の内部に滞留する時間が比較的長いため、上述する発電反応を促すことができる。ひいては、発電反応の効率を高めることができる。
【0042】
「第三端部701U」、すなわち「第1部位」とは、幅方向に延びる線により、第一空気極集電部701を長手方向(ガス流れ方向)に8等分した場合における最も上流側(第一端側)に位置する領域をいう。第2部位は、発電素子部Aにおける第1部位を除く部位をいう。「第四端部702D」、すなわち「第3部位」とは、幅方向に延びる線により、第二空気極集電部702を長手方向(ガス流れ方向)に8等分した場合における最も下流側(第二端側)に位置する領域をいう。
【0043】
「第三端部701Uの外表面は、第四端部702Dの外表面より、支持基板10から離れた方向に位置する」ことは次の方法により分析することができる。まず、第三端部701Uを、幅方向に4等分する、長手方向に延びる3つの線に沿った3つの断面写真(第四端部702Dを含む。)を得る。断面写真毎に、第三端部701Uの外表面の上下方向(z軸方向)における平均の位置である第一位置及び第四端部702Dの外表面の上下方向(z軸方向)における平均の位置である第二位置を其々算出する。3つの断面写真のすべてにおいて、第一位置が第二位置より外側(酸素を含むガスが流れる側)に位置していれば「第三端部701Uの外表面は、第四端部702Dの外表面より、支持基板10から離れた方向に位置する」といえる。
【0044】
図2で示すように、ガス流路11、発電素子部A及び電気的接続部Bを含む断面視において、第三端部701U(第1部位)の角部の曲率が、第四端部702D(第3部位)の角部の曲率より大きくてもよい。言い換えれば、第三端部701Uの角部の曲率半径は、第四端部702Dの角部の曲率半径より小さくてもよい。
【0045】
この構成により、第三端部701Uの角部がガスの流れの障害となり、積極的に上流側である第三端部701Uに酸素を含むガスを衝突させることができる。ひいては、発電反応の効率を高めることができる。
【0046】
上述する3つの断面写真毎に、第三端部701U及び第四端部702Dの角部の曲率を求める。3つの曲率の値の平均を各部の曲率として、両者を比較することができる。第三端部701Uの角部の曲率は、例えば次のように算出することができる。まず、第三端部701Uのうち、上流側の端と下流側の端とを繋いだ直線である第一線を引く。第三端部701Uの外表面のうち、第一線と直交する方向かつ外側方向に最も離れた位置である最外点を特定する。上流側の端と、下流側の端と、最外点と、を仮想曲線で結んだ場合における当該仮想曲線の曲率を第三端部の角部の曲率とすることができる。なお、最外点が存在しない場合、曲率は0とする。第四端部702Dの角部の曲率も当該方法で同様に算出できる。
【0047】
また、第一空気極集電部701における第三端部701Uの気孔率(第1部位)は、第一空気極集電部701における第三端部701U以外の部位(第2部位+第3部位)の気孔率より高くてもよい。また、第一空気極集電部701における第三端部701U(第1部位)の外表面の算術平均粗さの値は、第一空気極集電部701における第三端部701U以外の部位(第2部位+第3部位)の算術平均粗さの値より大きくてもよい。この場合、1つの空気集電部701において、第1部位と、第2部位および第3部位との性状が異なっているといえる。
【0048】
これらの構成により、上流側である第三端部701Uから効果的に酸素を含むガスを取り込むことができる。すなわち、空気極集電部70又は空気極60の内部に滞留する時間が比較的長いため、発電反応の効率を高めることができる。
【0049】
各部位の気孔率の値は次のように算出することができる。上述する3つの断面写真において、第三端部701U及び第三端部701U以外の部位を特定する。次いで、取得した画像のうち気孔部と気孔部以外の他の部位とを区別できるように二値化処理を行う。次いで、対象となる部位のうち気孔が占める割合を算出する。測定した其々3つの値の平均を各部位の気孔率の値とすることができる。
【0050】
各部位の算術平均粗さの値は次のように算出することができる。上述する3つの断面写真において、第三端部701U及び第三端部701U以外の部位における外表面の算術平均粗さを其々測定する。測定した其々3つの値の平均を各部位の外表面の算術平均粗さの値とすることができる。
【0051】
また、図2で示すように、少なくとも一つの空気極集電部70のうち発電素子部Aに積層された領域である素子部領域(第1部位+第2部位)の外表面は、素子部領域以外(電気的接続部B、言い換えれば第3部位)の領域の外表面より、支持基板10から離れた方向に位置してもよい。この場合、第1部位および第2部位と、第3部位との形状が異なっているといえる。
【0052】
これにより、空気極集電部70のうちの素子部領域に酸素を含むガスが衝突しやすい構造とすることができ、素子部領域において効果的に特に酸素を含むガスを取り込むことができる。ひいては、発電反応の効率を高めることができる。
【0053】
空気極集電部70のうち発電素子部Aに積層された領域とは、空気極集電部70のうち平面視において燃料極活性部Bが存在する領域をいう。
【0054】
「素子部領域の外表面は、素子部領域以外の領域の外表面より、支持基板10から離れた方向に位置する」ことは次の方法により分析することができる。上述する3つの断面写真を得る。断面写真毎に、任意の一つの空気極集電部70における、素子部領域の外表面の上下方向(z軸方向)における平均の位置である第三位置及び素子部領域以外の外表面の上下方向(z軸方向)における平均の位置である第四位置を其々算出する。3つの断面写真のすべてにおいて、第三位置が第四位置より外側(酸素を含むガスが流れる側)に位置していれば「素子部領域の外表面は、素子部領域以外の領域の外表面より、支持基板10から離れた方向に位置する」といえる。
【0055】
空気極集電部70のうち、素子部領域以外の領域の厚み(z軸方向)が、素子部領域の厚みより小さくてもよい。言い換えれば、素子部領域の厚みが、素子部領域以外の領域の厚みより大きくてもよい。
【0056】
空気極集電部70の第三端部701Uの外表面のうち最も外側に突出する最外位置が、幅方向(y軸方向)における中央部(三等分した場合における中央領域)に位置していてもよい。空気極集電部70の第四端部702Dの外表面のうち最も内側に陥没する最内位置が、幅方向(y軸方向)における中央部(三等分した場合における中央領域)に位置していてもよい。
【0057】
平板状の支持基板10の上下面のそれぞれに上下非対称で複数の第1凹部12が形成され且つ複数の発電素子部Aが設けられていてもよい。すなわち、上述する第一発電素子部A1と第二発電素子部A2とが上下対称の位置に設けられていなくてもよい。
【0058】
なお、すべての空気極集電部70が、上述する特徴を有する空気極集電部70である必要はなく、一部の空気極集電部70のみが上述する特徴を有していてもよい。
【0059】
(製造方法)
次に、図1に示した「横縞型」のセルの製造方法の一例について図4図5A図5Bを参照しながら簡単に説明する。図4図5A図5Bにおいて、各部材の符号の末尾の「g」は、その部材が「焼成前」であることを表す。
【0060】
先ず、図4に示す形状を有する支持基板の成形体10gを作製する。この支持基板の成形体10gは、例えば、支持基板10の材料(例えば、NiO+MgO)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、押し出し成形、切削等の手法を利用して作製できる。
【0061】
次に、図5Bに示すように、支持基板の成形体10gの上下面に形成された各第1凹部内に、燃料極集電部の成形体21gをそれぞれ配置する。次いで、各燃料極集電部の成形体21gの外側面に形成された各第2凹部に、燃料極活性部の成形体22gをそれぞれ配置する。また、各燃料極集電部の成形体21g、および各燃料極活性部22gは、例えば、燃料極20の材料(例えば、NiとYSZ)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して配置する。
【0062】
続いて、各燃料極集電部の成形体21gの外側面における「燃料極活性部の成形体22gが埋設された部分を除いた部分」に形成された各第3凹部に、インターコネクタの成形体30gをそれぞれ配置する。各インターコネクタの成形体30gは、例えば、インターコネクタ30の材料(例えば、LaCrO)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して配置する。
【0063】
次に、支持基板の成形体10gにおける長手方向に延びる外周面において複数のインターコネクタの成形体30gが配置されたそれぞれの部分の中央部を除いた全面に、固体電解質膜の成形膜を設ける。固体電解質膜の成形膜は、例えば、固体電解質膜40の材料(例えば、YSZ)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法、ディッピング法等を利用する。
【0064】
次に、固体電解質膜の成形体における各燃料極の成形体と接している箇所の外側面に、反応防止膜の成形膜を設ける。各反応防止膜の成形膜は、例えば、反応防止膜50の材料(例えば、GDC)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用する。
【0065】
そして、このように種々の成形膜が設けられて状態の支持基板の成形体10gを、例えば、空気中にて1500℃で3時間焼成する。これにより、図1に示したセルにおいて空気極60および空気極集電部70が設けられていない状態の構造体を得る。
【0066】
次に、各反応防止膜50の外側面に、空気極の成形膜を形成する。各空気極の成形膜は、例えば、空気極60の材料(例えば、LSCF)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して設ける。
【0067】
次に、各組の隣り合う発電素子部について、他方の発電素子部Aの空気極の成形膜と、一方の発電素子部Aにつながるインターコネクタ30とを跨ぐように、空気極の成形膜、固体電解質膜40、および、インターコネクタ30の外側面に、空気極集電部の成形膜を設ける。
【0068】
空気極集電部70の材料(例えば、LSCF)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、所望の形状(厚み)とした空気極集電部の成形膜を印刷法等により空気極の成形膜等の外側面に設けることができる。
【0069】
そして、このように成形膜が形成された状態の支持基板10を、例えば、空気中にて1050℃で3時間焼成する。これにより、図1に示したセルを得る。
【0070】
なお、本開示は上記実施形態に限定されることはなく、本開示の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、図4等に示すように、支持基板10に形成された凹部12の平面形状(支持基板10の主面に垂直の方向からみた場合の形状)が、長方形になっているが、例えば、正方形、円形、楕円形、長穴形状等であってもよい。
【0071】
また、上記実施形態においては、各第1凹部12にはインターコネクタ30の全体が埋設されているが、インターコネクタ30の一部のみが各第1凹部12に埋設され、インターコネクタ30の残りの部分が第1凹部12の外に突出(即ち、支持基板10の主面から突出)していてもよい。
【0072】
また、上記実施形態においては、平板状の支持基板10の上下面のそれぞれに複数の第1凹部12が形成され且つ複数の発電素子部Aが設けられているが、支持基板10の片側面のみに複数の第1凹部12が形成され且つ複数の発電素子部Aが設けられていてもよい。
【0073】
また、上記実施形態においては、燃料極20が燃料極集電部21と燃料極活性部22との2層で構成されているが、燃料極20が燃料極活性部22に相当する1層で構成されてもよい。
【符号の説明】
【0074】
A・・・・・発電素子部
B・・・・・電気的接続部
10・・・・支持基板
11・・・・ガス流路
20・・・・燃料極
40・・・・固体電解質
60・・・・空気極
70・・・・空気極集電部
701・・・第一空気極集電部
701U・・第三端部
702・・・第二空気極集電部
702D・・第四端部
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5A
図5B