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特許7366189全有機体炭素の測定方法および全有機体炭素の測定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】全有機体炭素の測定方法および全有機体炭素の測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 31/00 20060101AFI20231013BHJP
   G01N 33/18 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
G01N31/00 D
G01N33/18 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022075443
(22)【出願日】2022-04-28
【審査請求日】2022-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】591081321
【氏名又は名称】紀本電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】紀本 岳志
(72)【発明者】
【氏名】鈴江 崇彦
(72)【発明者】
【氏名】村田 周司
(72)【発明者】
【氏名】中村 稜雅
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/163024(WO,A1)
【文献】特開2017-020889(JP,A)
【文献】特開平06-265538(JP,A)
【文献】特開昭58-108456(JP,A)
【文献】SHIN, Donghun et al.,Simultaneous oxidation and analysis of TOC-TN-TP in one pot reactor,Chemosphere,2021年12月08日,Vol.292 (2022), No.133336,https://doi.org/10.1016/j.chemosphere.2021.133336
【文献】CHOI, Jeong-Hwan et al.,Dual radicals-enhanced wet chemical oxidation of non-biodegradable chemicals,Journal of Hazardous Materials,2020年08月22日,Vol.401(2021), No.123746,https://doi.org/10.1016/j.jhazmat.2020.123746
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/00
G01N 33/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料とアルカリと酸化剤とを混合した第1混合液を加熱し、試料中に含まれる有機体炭素(TOC)加熱分解させ炭酸イオンまたは炭酸水素イオンまたは二酸化炭素にし、冷却した後、さらに酸を添加して、前記加熱分解により生成した炭酸イオンまたは炭酸水素イオンと、試料中に含まれる無機体炭素(IC)とを、二酸化炭素にした後、第1混合液から二酸化炭素を分離し、窒素または二酸化炭素が除去された気体中に移動させ、その二酸化炭素濃度を試料中の全炭素(TC)として測定する第1測定工程と、
第1混合液とは別に、試料と酸とを混合し第2混合液とすることにより、試料中の無機体炭素を二酸化炭素とした後、第2混合液から二酸化炭素を分離し、窒素または二酸化炭素が除去された気体中に移動させ、その二酸化炭素濃度を試料中の無機炭素(IC)として測定する第2測定工程と、
第1測定工程で得られた第1測定値と第2測定工程で得られた第2測定値との差分を算出(TOC=TC-IC)し、全有機体炭素を得る算出工程と、を含むことを特徴とする全有機体炭素測定方法。
【請求項2】
第1混合液は、酸化剤に対してアルカリを等モルないし過剰に含有することを特徴とする請求項1記載の全有機体炭素測定方法。
【請求項3】
第1混合液中の酸化剤とアルカリとの含有量比は、モル比で1:1~1:3であることを特徴とする請求項2記載の全有機体炭素測定方法。
【請求項4】
試料に含有する塩化物イオンによる妨害を受けないことを特徴とする請求項1記載の全有機体炭素測定方法。
【請求項5】
試料に含有する揮発性の有機体炭素成分を飛散させずに測定できることを特徴とする請求項1記載の全有機体炭素測定方法。
【請求項6】
キャリア、アルカリ、酸化剤、酸をそれぞれ貯留する貯留部と、
供給された試料中の全有機体炭素(TOC)を、アルカリの存在下に酸化剤を加えた第1混合液を、加熱分解して炭酸イオンまたは炭酸水素イオンまたは二酸化炭素に変換するための加熱分解処理部と、加熱処理後に第1混合液を冷却する冷却部と
第1混合液とは別に、供給された試料を、非加熱で保持するための非加熱部と、
前記加熱分解した第1混合液もしくは非加熱で保持された第2混合液に酸を加え、液中の炭酸イオンまたは炭酸水素イオンを二酸化炭素に変換するための変換部と、
変換された二酸化炭素を分離するガス分離部と、
分離された二酸化炭素を測定する測定部と、
加熱分解および変換により生成した全炭素と、変換により生成した無機体炭素(IC)との差分を算出して、全有機体炭素(TOC)を算出する算出部と、
キャリア液、試料、アルカリ、酸化剤を、流路を介して、試料とアルカリと酸化剤とを混合した第1混合液または第2混合液を、それぞれ前記加熱分解部または非加熱部に導入する流路切換えバルブと、
流路切換えバルブに接続される流路と、
前記流路に接続されるキャリア液流路、試料流路、アルカリ流路、酸化剤流路、酸流路と、加熱分解部および非加熱部から前記ガス分離部および測定部につながる測定流路および排水される排水流路を備えることを特徴とする全有機体炭素測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全有機体炭素の測定方法および全有機体炭素の測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、環境問題への意識の向上に伴い、河川水、海水などの有機汚濁に対する関心が高まっている。
【0003】
排水や河川水、海水などの有機汚濁の程度を表す指標として、湿式酸化法のBOD(生物化学的酸素要求量)やCOD(化学的酸素要求量)、過マンガン酸カリ消費試験、乾式法のTOC(全有機体炭素:Total Organic Carbon)がある。
【0004】
BODやCOD、過マンガン酸カリ消費試験は、酸素を基準とした指標であり、水中の汚濁物質(主に有機物)を分解・燃焼するときに必要とされる酸素量から間接的に有機体炭素を評価するものであり、TOCに比べ低く出るという問題がある。TOCは炭素を基準とした指標で、水中の有機体炭素を高温で酸化触媒にて直接二酸化炭素に変換し、測定できるが、共存物質による触媒の劣化、ガソリンなどの揮発性有機物の測定ができないといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-265538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
河川水や海水などの汚染源である有機物量を炭素として把握する方法として、水中の有機物を酸化剤で酸化し、有機物を二酸化炭素に変換して、二酸化炭素から有機体炭素を測定する方法、いわゆる湿式酸化法、が知られている。
【0007】
しかし、これまでの湿式酸化法では、海洋水や産業排水などにおいて塩化物イオンが含まれていると有機物の酸化が阻害されるため、正確な有機物量が把握できないという問題がある。
【0008】
本発明者らは鋭意研究の結果、水中の有機物を酸化剤で酸化する際に、アルカリを添加して、OHラジカルを存在させて、加熱分解をアルカリ性域で行うと、塩化物イオンによる有機物の酸化阻害を解消することができ、比較的低い加熱温度でも、有機物を加熱分解できるので、海洋水や産業排水などにおいて塩化物イオンが含まれていても、正確な有機物量が把握できることを見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、試料とアルカリと酸化剤とを混合した第1混合液を加熱し、試料中に含まれる有機体炭素(TOC)加熱分解させ炭酸イオンまたは炭酸水素イオンまたは二酸化炭素にし、冷却した後、さらに酸を添加して、前記加熱分解により生成した炭酸イオンまたは炭酸水素イオンと、試料中に含まれる無機体炭素(IC)とを、二酸化炭素にした後、第1混合液から二酸化炭素を分離し、窒素または二酸化炭素が除去された気体中に移動させ、その二酸化炭素濃度を試料中の全炭素(TC)として測定する第1測定工程と、
第1混合液とは別に、試料と酸とを混合し第2混合液とすることにより、試料中の無機体炭素を二酸化炭素とした後、第2混合液から二酸化炭素を分離し、窒素または二酸化炭素が除去された気体中に移動させ、その二酸化炭素濃度を試料中の無機炭素(IC)として測定する第2測定工程と、
第1測定工程で得られた第1測定値と第2測定工程で得られた第2測定値との差分を算出(TOC=TC-IC)し、全有機体炭素を得る算出工程と、を含むことを特徴とする全有機体炭素測定方法である。
【0010】
また、本発明は、第1混合液は、酸化剤に対してアルカリを等モルないし過剰に含有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、第1混合液中の酸化剤とアルカリとの含有量比は、モル比で1:1~1:3であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、試料に含有する塩化物イオンによる妨害を受けないことを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、試料に含有する揮発性の有機体炭素成分を飛散させずに測定できることを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明は、キャリア、アルカリ、酸化剤、酸をそれぞれ貯留する貯留部と、
供給された試料中の全有機体炭素(TOC)を、アルカリの存在下に酸化剤を加えた第1混合液を、加熱分解して炭酸イオンまたは炭酸水素イオンまたは二酸化炭素に変換するための加熱分解処理部と、加熱処理後に第1混合液を冷却する冷却部と
第1混合液とは別に、供給された試料を、非加熱で保持するための非加熱部と、
前記加熱分解した第1混合液もしくは非加熱で保持された第2混合液に酸を加え、液中の炭酸イオンまたは炭酸水素イオンを二酸化炭素に変換するための変換部と、
変換された二酸化炭素を分離するガス分離部と、
分離された二酸化炭素を測定する測定部と、
加熱分解および変換により生成した全炭素と、変換により生成した無機体炭素(IC)との差分を算出(TOC=TC-IC)して、全有機体炭素(TOC)を算出する算出部と、
キャリア液、試料、アルカリ、酸化剤を、流路を介して、試料とアルカリと酸化剤とを混合した第1混合液または第2混合液を、それぞれ前記加熱分解部または非加熱部に導入する流路切換えバルブと、
流路切換えバルブに接続される流路と、
前記流路に接続されるキャリア液流路、試料流路、アルカリ流路、酸化剤流路、酸流路と、加熱分解部および非加熱部から前記ガス分離部および測定部につながる測定流路および排水される排水流路を備えることを特徴とする全有機体炭素測定装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、試料に塩化物イオンが含有されていても、それによる妨害を受けず、正確な全有機体炭素を測定できるという利点がある。
また、本発明によれば、酸性域における有機物の分解阻害をアルカリ性域で行うという改良によって、正確な全有機体炭素の測定ができる。
【0016】
さらに、全有機体炭素の加熱分解を、比較的低い加熱温度、たとえば150℃程度で、行うことができるので、加熱装置への影響を低く抑えることができる。
【0017】
また、装置面では、マイクロフローシステムにより、試薬消費量や廃液量を飛躍的に低減し、低ランニングコスト、省メンテナンス、省スペースを実現した装置で、環境水の水質管理や、排水処理・排水処理プロセス工程を管理することができるという利点がある。
【0018】
さらに、第1測定工程の熱処理を密閉して行うので、試料に含有する揮発性の有機体炭素成分を飛散させずに測定でき、有機物量を正確に測定できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明のTOC測定装置の概略図である。
図2】塩化物イオンがTOC測定に及ぼすアルカリ性域と酸性域との差異を示すグラフである。
図3】アルカリ性域と酸性域とでフミン酸の分解効率が異なることを示すグラフである。
図4】酸性域でガソリンの主成分であるn-ペンタンが、窒素ガスでバブリングすることにより、TOCが減少することを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、試料とアルカリと酸化剤とを混合した第1混合液を加熱し、試料中に含まれる全有機体炭素を分解させ炭酸イオンまたは炭酸水素イオンまたは二酸化炭素にし、酸を添加して、二酸化炭素にした後、第1混合液から二酸化炭素を分離し、分離した気体中の二酸化炭素を測定する第1測定工程と、
試料と酸とを混合した第2混合液から二酸化炭素を分離し、分離した二酸化炭素を測定する第2測定工程と、
第1測定工程で得られた第1測定値と第2測定工程で得られた第2測定値との差分を算出し、全有機体炭素を得る算出工程と、を含むことを特徴とする全有機体炭素測定方法
である。
【0021】
すなわち、本発明は、第1測定工程では試料中の全炭素(TC)を測定し、第2測定工程では試料中の無機体炭素(IC)を測定して、測定量の差分を、試料中の全有機体炭素(TOC)として測定する方法である。
【0022】
第1測定工程では、試料中のTCを測定する。
第1測定工程は、試料とアルカリと酸化剤と混合した第1混合液を加熱して、試料中のTOCを炭酸イオン、炭酸水素イオンまたは二酸化炭素に変換する処理(加熱分解処理)、加熱分解処理後の第1混合液に酸を加えて、前記TOCから生じた炭酸イオン、炭酸水素イオンを二酸化炭素とする処理(変換処理)、前記加熱分解処理および変換処理によって生成した二酸化炭素を窒素または二酸化炭素が除去された気体で分離し、窒素または二酸化炭素が除去された気体中に移動させる処理(ガス分離処理)、分離、移動された二酸化炭素を測定する処理(測定処理)からなる。
【0023】
加熱分解処理において、酸化剤としては、ペルオキソ二硫酸カリウムが使用できる。
【0024】
酸化剤の使用量は、試料中のTCの含有量によっても変化するが、概ね試料に対して、体積比で3分の1から4分の1となる量をもちいればよい。
【0025】
アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化アルカリ金属を用いることができる。アルカリは、酸化剤に対して、等モルないし過剰モル使用することができる。酸化剤とアルカリとは、好ましくはモル比で1:1~1:3である。
【0026】
加熱温度は概ね150℃で実施できる。加熱分解処理により、試料中のTOCは炭酸イオン、炭酸水素イオンまたは二酸化炭素に変換される。
【0027】
このとき、加熱部を密閉状態とすれば、試料中の揮発性有機物を揮散させずに分解することができ、TOCの測定がより正確に行えるので好ましい。
【0028】
変換処理は、前記加熱処理後に第1混合液を冷却し、酸を加えることにより実施することができ、これによりTOC由来の炭酸イオン、炭酸水素イオンおよび試料中に含まれるICを二酸化炭素に変換することができる。
【0029】
変換処理は、特に限定されないが、概ね70℃以下で実施できる。
【0030】
酸としては、硫酸、塩酸などの酸があげられる。
【0031】
酸は加熱分解後の第1混合液および第2混合液のpHが1~2となるまで加えるのが好ましい。
【0032】
ガス分離処理は、公知の気液分離手段を用いて、変換処理後の第1混合液から二酸化炭素を窒素または二酸化炭素が除去された気体を用いて分離し、分離された二酸化炭素を前記窒素または二酸化炭素が除去された気体中に移動することにより実施できる。かかる気液分離手段としては、特に限定されないが、たとえば変換処理後の第1混合液を前記窒素または二酸化炭素が除去された気体でバブリングするか、または変換処理後の第1混合液と前記窒素または二酸化炭素が除去された気体とを、ガス透過分離管を用いて接触させるなどの効率的に気液接触可能な装置を用いることがあげられる。
【0033】
二酸化炭素が除去された気体としては、特に限定されず、常温において気体であり、不活性で、二酸化炭素を含まないものがあげられる。かかる気体としては、たとえば二酸化炭素が除去された空気があげられる。
【0034】
ガス分離処理を、ガス透過分離管を用い、二酸化炭素が除去された空気(二酸化炭素が1ppm以下)を用いる場合を例として、より具体的に説明すれば、前記二酸化炭素が除去された空気が一定流量で導入されるガス透過分離管に、二酸化炭素を含む変換処理後の第1混合液を一定速度で導入することによって、前記二酸化炭素が除去された空気と前記変換処理の第1混合液とが、ガス透過分離管内で接触することで、前記空気中に二酸化炭素が分離されるので、空気中の二酸化炭素濃度に基づいて試料中のTCおよびICの濃度を計算することができる。
【0035】
測定処理は、分離した二酸化炭素を含む気体を分散型赤外吸収装置(NDIR)に導入することによって、実施することができ、二酸化炭素濃度から試料中のTCを測定することができる。
【0036】
第2測定工程では、試料中のICを測定する。
第2測定工程は、第2混合液中のICを二酸化炭素とする処理(変換処理)、前記変換処理によって生成した第2混合液中の二酸化炭素を窒素または二酸化炭素が除去された気体で分離し、窒素または二酸化炭素が除去された気体中に移動する処理(ガス分離処理)、分離、移動された二酸化炭素を測定する処理(測定処理)を含む。
【0037】
第2測定工程における変換処理は、試料に酸を加えた第2混合液を、非加熱下に保持することにより実施することができる。酸としては、前記第1測定工程であげたものを好適に使用することができ、ガス分離処理、測定処理は第1測定工程と同様にして実施することができる。
【0038】
算出工程では、第1測定工程で測定されたTCと第2測定工程で測定されたICの差分を算出することにより、試料中のTOCを算出する。
【0039】
また、本発明は、全有機体炭素測定装置である。図1は、前記本発明のTOC測定方法をもとにしたTOC測定装置の一実施例の概略図である。これに基づいて、本発明の装置の一例を説明する。
【0040】
本発明の装置は、
試料、酸化剤、アルカリ溶液、キャリア液、酸をそれぞれ貯留する貯留部T1~T5と、
供給された試料中のTOCを、アルカリおよび酸化剤の存在下に加熱分解処理して炭酸イオンまたは炭酸水素イオンまたは二酸化炭素に変換するための加熱分解処理部1と、
供給された試料を非加熱で保持するための非加熱部2と、
前記加熱分解された第1混合液中もしくは非加熱部の第2混合液中の炭酸イオンまたは炭酸水素イオンを二酸化炭素に変換するための変換部4と、
窒素または二酸化炭素が除去された気体を取り入れる気体取り入れ部6と、
前記気体取り入れ部6から窒素または二酸化炭素が除去された気体を吸引し、流路L12へ圧送するエアポンプP6と、
前記流路L12に圧送した前記窒素または二酸化炭素が除去された気体の流量を流量センサ10で測定し、流量制御弁を任意の流量に応じて制御する流量制御部9と、
前記変換部4で変換された二酸化炭素を窒素または二酸化炭素が除去された気体で分離、移動するガス分離部5と、
分離、移動された二酸化炭素を含有する気体中の二酸化炭素を測定する測定部7と、
加熱分解処理および変換により生成したTCと、変換により生成したICとの差分を算出して、TOC量を算出する算出部8と、
内部の流路を切替えて、キャリア液、試料、アルカリ、酸化剤を、流路L6を介して、前記加熱分解部1または非加熱部2に導入するとともに、加熱分解部1または非加熱部2から、流路L7、三方バルブV2、流路L9を介して変換部4に、第1混合液または第2混合液を移送させる流路切換えバルブ3と、
前記流路切換えバルブ3に接続される流路L6と、
前記流路L6に接続されるキャリア液の流路L10、試料の流路L1、酸化剤の流路L2、アルカリの流路L3、変換部4に接続される酸の流路L5、キャリア液の流路L11、窒素または二酸化炭素が除去された気体をガス分離部5に導入する流路L12、ガス分離部5から測定部7につながる流路L13、および二酸化炭素分離後の第1および第2混合液が廃液される流路L14を備える。
【0041】
図1において、TOC測定装置は、液体の貯留部T1~T5を備える。たとえば貯留部T1は試料、貯留部T2は酸化剤、貯留部T3はアルカリ溶液、貯留部T4はキャリア液、貯留部T5は酸を貯留する。流路L1~L5は貯留部T1~T5の液体を移送する流路である。流路L1~L3は送液ポンプP1~P3を介して、流路L6に接続され、流路L6は流路切換えバルブ3に接続される。また、キャリア液を貯留する貯留部T4は三方バルブV1、流路L10を介して、流路L6に接続される。
【0042】
流路切換えバルブ3は、内部に複数の流路を備え、加熱分解処理部1および非加熱部2に接続されて、流路切換えバルブ3の切替えにより、流路L6から加熱分解処理部1へ、または流路L6から非加熱部2へ、貯留部T1~T4から供給される各液を、それぞれ導入することができる。また、加熱分解部1と非加熱部2とは、一方が密閉される構造である。かかる流路切換えバルブ3としては、たとえば六方バルブが好ましい。
【0043】
第1測定工程では、貯留部T1~T3から、送液ポンプP1~P3を駆動し、流路L1~L3を介して、流路切換えバルブ3の切換えにより、流路L6を通って、試料、アルカリ、酸化剤が加熱分解部1に導入され、混合されて、第1混合液とされる。ついで、流路切換えバルブ3を切換えて、加熱分解処理部1を密閉して第1混合液の加熱分解処理を行う。加熱分解処理により、第1混合液中のTOCは炭酸イオン、炭酸水素イオンまたは二酸化炭素となる。
【0044】
加熱分解処理後、密閉したままで加熱分解部1を図示しない冷却手段によって冷却する。
冷却手段としては送風、水冷、冷媒による冷却などを適宜用いることができる。加熱分解部1は、TOCを加熱により炭酸イオン、炭酸水素イオンまたは二酸化炭素にできるものであればどのような構造のものであってもよく、たとえば第1混合液を導入し、加熱処理する反応槽やループ管と、これを加熱する加熱手段、温度センサ、温度調節手段、さらに加熱後に冷却する冷却手段を備えるものがあげられる。
【0045】
加熱分解部1の冷却が完了すれば、三方バルブV1を開け、貯留部T4から流路L10を介して、流路切換えバルブ3の切換えにより、流路L6を通って、キャリア液が加熱分解処理部1に導入され、冷却された加熱処理後の第1混合液が流路L7、L9を通って変換部4に送液される。同時に貯留部T5から、流路L5、送液ポンプP5を介して酸が変換部4に送液される。変換部4において冷却された加熱処理後の第1混合液と酸とが混合して、前記加熱処理により生じた炭酸イオン、炭酸水素イオンが二酸化炭素に変換される。また、この酸の添加により、試料に含まれるICも二酸化炭素に変換される。キャリア液としては、測定される二酸化炭素に影響を与えない液体であれば特に限定されないが、たとえば硫酸酸性の水溶液があげられる。
【0046】
ついで、三方バルブV1を開け、貯留部T4からL11を介して、キャリア液を変換部4に送液して、二酸化炭素への変換が終了した第1混合液を、ガス分離部5に移送する。
【0047】
同時に、エアポンプP6により、窒素または二酸化炭素が除去された気体を取り入れ部6から吸引し、流路L12を介して、ガス分離部5に圧送する。窒素または二酸化炭素が除去された気体として、二酸化炭素を除去した空気を用いるときは、取り入れ部に二酸化炭素除去手段を設けることにより、前記空気を二酸化炭素が除去された気体として用いることができる。
【0048】
ガス分離部5では、前記キャリア液により移送される第1混合液と、圧送される前記窒素または二酸化炭素が除去された気体とを、流速を一定に保ちつつ、たとえばガス透過分離管中で、対向接触させて、第1混合液中の二酸化炭素を前記気体で分離、移動する。
【0049】
分離した二酸化炭素を含む気体は、流路L13を介して、測定部7に移送し、測定部7では、CO測定部(NDIR)の電気出力とTC濃度の直線化などを行い、算出部8では二酸化炭素濃度を記録する。
このとき、分離した二酸化炭素を含む気体を測定部7に移送する前に、必要に応じて除湿部を設け、除湿部で気体中に含まれる水分を除湿してもよい。
以上の処理によって、第1測定工程は終了する。
【0050】
第2測定工程では、送液ポンプP1を駆動させ、貯留部T1から流路L1を介して、流路切換えバルブ3の切換えにより、流路L6を通って、試料が非加熱部2に導入される。ついで、三方バルブV1を開け、貯留部T4から流路L10を介して、流路切換えバルブ3の切換えにより、流路L6を通って、キャリア液が非加熱部2に導入されることにより、非加熱部2にあった試料が流路L7、L9を通って変換部4に送液される。一方、貯留部T5から、流路L5、送液ポンプP5を介して、酸が変換部4に送液され、変換部4において試料と酸とが混合して、第2混合液とされ、試料に含まれるICが二酸化炭素に変換される。
【0051】
ついで、三方バルブV1を開け、貯留部T4から流路L11を介して、キャリア液を変換部4に送液して、二酸化炭素への変換が終了した第2混合液を、ガス分離部5に移送する。
【0052】
同時に、エアポンプにより、窒素または二酸化炭素が除去された気体を、流路L12を介して、ガス分離部5に圧送する。
【0053】
ガス分離部5では、前記キャリア液により移送される第2混合液と、圧送される窒素または二酸化炭素が除去された気体とを、流速を一定に保ちつつ、たとえばガス透過分離管中で、対向接触させて、溶液中の二酸化炭素を気体中に分離、移動する。または圧送される窒素または二酸化炭素が除去された気体で前記キャリア液により移送される第2混合液をバブリングすることによって分離、移動することもできる。
【0054】
分離した二酸化炭素を含む気体は、流路L13を介して、測定部7に移送し、測定部7では、CO測定部(NDIR)の電気出力とIC濃度の直線化などを行い、算出部8では二酸化炭素濃度を記録する。
以上の処理によって、第2測定工程は終了する。
【0055】
算出部8では、記録された第1混合液のTC値(第1測定値)と第2混合液のIC値(第2測定値)の差分を算出して、TOCを算出する。
【0056】
以下実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0057】
実験例1
0~800mmol/Lの範囲で濃度を変えた塩化ナトリウム溶液にTOCとしてフタル酸水素カリウムを100mgC/Lとなるように加えて試料を調製した。
【0058】
試料に74mmol/Lペルオキソ二硫酸カリウムと500mmol/L水酸化ナトリウムを加えて試料のpHを12~13としたのち、150℃で、6分5秒間加熱した。
【0059】
ついで70℃まで冷却して、200mmol/L硫酸を加えた。この溶液中の二酸化炭素をガス透過分離管で気相中に分離した。
【0060】
気相中の二酸化炭素を、NDIRを用いて測定し、得られた二酸化炭素濃度から試料中のTCを測定した。
試料に200mmol/L硫酸を加え、この溶液から二酸化炭素をガス透過分離管で分離し、気相中の二酸化炭素を、NDIRを用いて測定し、得られた二酸化炭素濃度から試料中のICを測定した。測定されたTCとICの差分を算出することにより、試料中のTOCを算出した。
【0061】
対照として、試料に74mmol/Lペルオキソ二硫酸カリウムと200mmol/L硫酸を加えて試料のpHを1~2としたのち、上記と同様にして、試料中のTOCを測定した。
【0062】
<結果>
結果は、図2に示すとおりである。図2において1はアルカリ性域における試料中のTOC(mgC/L)を表し、2は酸性域における試料中のTOC(mgC/L)を表す。
【0063】
図2から明らかなように、アルカリ性域においては、試料中の塩化ナトリウム濃度に関係なく、TOCは一定であるが、酸性域においては、試料中の塩化ナトリウム濃度が増加するとTOCが低下している。
【0064】
このことは、アルカリ性域では、フタル酸水素カリウムの酸化剤による分解は塩化物イオン濃度の影響を受けないが、酸性域では、フタル酸水素カリウムの酸化剤による分解は塩化物イオン濃度に影響され、フタル酸水素カリウムの分解が阻害されることを示すものである。
【0065】
実験例2
フミン酸 0.1818gを10mmol/L水酸化ナトリウム溶液に溶かして全量フラスコ1Lに移し、10mmol/L水酸化ナトリウム溶液を標線まで加えて、試料を調製した。
【0066】
ついで、試料31.7mLを用いて、実験例1と同様に実施して、試料中に残存するフミン酸の分解効率を測定した。
【0067】
対照として、試料に74mmol/Lペルオキソ二硫酸カリウムと200mmol/L硫酸を加えて試料のpHを1~2としたのち、上記と同様にして、試料中のTOCを測定した。
【0068】
結果は、図3に示すとおりである。図3において1はアルカリ性域におけるフミン酸のTOC(mgC/L)を表し、2は、酸性域におけるフミン酸のTOC(mgC/L)を表す。
【0069】
図3より、アルカリ性域におけるフミン酸の分解効率は、酸性域におけるフミン酸の分解効率より、格段に高いことがわかる。このことは酸性域では、フミン酸の分解が阻害され、TOCを正確に測定できないことを示すものである。
【0070】
実験例3
分液漏斗に30mgC/L炭酸水素ナトリウム100mLl、n-ペンタン640μLを入れてよく振り混ぜた。前記炭酸水素ナトリウムとn-ペンタンとが溶解した水相を分取した。
【0071】
この操作を3回繰り返して、30mgC/L炭酸水素ナトリウムとn-ペンタン混合溶液とを300mL(試験液1)調製した。前記混合溶液を31.7mL採取し、これに400mmol/Lの水酸化ナトリウムを0.65mL、74mmol/Lのペルオキソ二硫酸カリウムを2.27mL、を加えて液のpHを12~13とした。
この混合液を150℃で6分5秒加熱し、炭酸水素ナトリウムおよびn-ペンタンを加熱分解した。
【0072】
ついで70℃まで冷却して、200mmol/L硫酸を加えた。この溶液から二酸化炭素をガス透過分離管で分離し、気相中の二酸化炭素を、NDIRを用いて測定し、得られた二酸化炭素から試料中のTCを測定した。
【0073】
試料に200mmol/L硫酸を加え、この溶液中の二酸化炭素をガス透過分離管で気相中に抽出した。気相中の二酸化炭素を、NDIRを用いて測定し、得られた二酸化炭素から試料中のICを測定した。
測定されたTCとICの差分を算出することにより、試料中のTOCを算出した。
【0074】
試験液1に濃硫酸0.3mLを加えてよく振り混ぜて、試験液2を調製した。前記混合溶液を31.7mL採取し、上記と同様にして試料中のTOCを測定した。
【0075】
先端に円筒ガス噴射管を取り付けたガラス管を試験液2に入れ、窒素ガスを200mL/分の流量で5分間吹き込んでバブリングして、試験液3を調製した。前記混合溶液を31.7mL採取し、上記と同様にして試料中のTOCを測定した。
【0076】
試験液3に、窒素ガスを200mL/分の流量でさらに5分間(計10分間)バブリングして、試験液4を調製した。前記混合溶液を31.7mL採取し、上記と同様にして試料中のTOCを測定した。
【0077】
試験液4に、窒素ガスを200mL/分の流量で5分間(計15分間)バブリングして、試験液5を調製した。前記混合溶液を31.7mL採取し、上記と同様にして試料中のTOCを測定した。
【0078】
結果は、図4に示すとおりである。図4において1は試験液1~5におけるTC(mgC/L)を表し、2は、試験液1~5におけるIC(mgC/L)を表し、3は、試験液1~5におけるTOC(mgC/L)を表す。
【0079】
図4より、窒素のバブリング時間に対応して、溶液中のIC、TOCが減少することがわかる。このことは、酸性域ではガソリンなどの揮発性の有機体炭素成分が含まれる試料中のTOCを正確に測定できないことを示すものである。
【符号の説明】
【0080】
1 加熱分解処理部
2 非加熱部
3 流路切換えバルブ
4 変換部
5 ガス分離部
6 二酸化炭素を分離、移動させる窒素または二酸化炭素が除去された気体取り入れ部
7 測定部
8 算出部
L1~L14 流路
P1~P5 送液ポンプ
P6 エアポンブ
T1~T5 貯留部
V1、V2 バルブ
【要約】      (修正有)
【課題】海洋水や産業排水などにおいて、塩化物イオンが含まれていても、正確な有機物量が把握できる全有機体炭素測定方法および測定装置を提供する。
【解決手段】試料とアルカリと酸化剤とを混合した第1混合液を加熱し、試料中に含まれる全有機体炭素を分解させ炭酸イオンまたは炭酸水素イオンまたは二酸化炭素にし、酸を添加して、二酸化炭素にした後、第1混合液から二酸化炭素を分離し、窒素または二酸化炭素が除去された気体中に移動させ、その二酸化炭素を測定する第1測定工程と、試料と酸とを混合した第2混合液から二酸化炭素を分離し、窒素または二酸化炭素が除去された気体中に移動させ、その二酸化炭素を測定する第2測定工程と、第1測定工程で得られた第1測定値と第2測定工程で得られた第2測定値との差分を算出し、全有機体炭素を得る算出工程と、を含むことを特徴とする全有機体炭素測定方法および装置。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4