(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】タイヤセンサモジュールおよびタイヤセンサ装置
(51)【国際特許分類】
G01B 7/16 20060101AFI20231013BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20231013BHJP
B60C 23/08 20060101ALI20231013BHJP
G01L 5/00 20060101ALI20231013BHJP
G01L 5/20 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
G01B7/16 Z
B60C19/00 H
B60C23/08 Z
G01L5/00 Z
G01L5/20
(21)【出願番号】P 2022116258
(22)【出願日】2022-07-21
(62)【分割の表示】P 2020561447の分割
【原出願日】2019-12-17
【審査請求日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2018235468
(32)【優先日】2018-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019039756
(32)【優先日】2019-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【氏名又は名称】大窪 克之
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【氏名又は名称】松下 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】不藤 平四郎
(72)【発明者】
【氏名】篠原 英司
(72)【発明者】
【氏名】山本 秋人
(72)【発明者】
【氏名】市瀬 真哉
(72)【発明者】
【氏名】大野 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】小松 寿
(72)【発明者】
【氏名】戸張 博之
【審査官】國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-248725(JP,A)
【文献】国際公開第2016/002262(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/059838(WO,A1)
【文献】特開2007-331293(JP,A)
【文献】国際公開第2010/005081(WO,A1)
【文献】韓国特許第10-1925775(KR,B1)
【文献】特開2003-262501(JP,A)
【文献】特開2014-234038(JP,A)
【文献】特開2012-501270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/16
G01L 5/00
G01L 5/20
B60C 19/00
B60C 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤの変形を計測可能なシート状の圧電センサと、
前記圧電センサの計測結果を演算処理可能な制御部と、
前記圧電センサおよび前記制御部を内包し、前記タイヤに追従して変形可能なコンテナと、
を備えたタイヤセンサモジュールにおいて、
前記圧電センサは、
可撓性を有し、
前記タイヤに追従して変形可能であり、
合成樹脂と圧電粒子との複合材であって前記タイヤの内側面の面内方向の変形を測定する圧電体層を備え、
前記制御部は
、前記コンテナよりもヤング率が大きい硬質樹脂により封止されてなり、
前記圧電センサは前記制御部よりも前記タイヤに近位であって、
前記圧電センサと前記制御部との間に緩衝部を備え、前記圧電センサは前記硬質樹脂により封止されていないことを特徴とするタイヤセンサモジュール。
【請求項2】
前記緩衝部は、前記制御部よりもヤング率が小さい柔軟部を備えており、
前記柔軟部が前記圧電センサおよび前記制御部と接触している、請求項1に記載のタイヤセンサモジュール。
【請求項3】
前記柔軟部のヤング率が10~1000MPaである、請求項2に記載のタイヤセンサモジュール。
【請求項4】
前記緩衝部は、前記柔軟部と空隙部とを備えている、請求項2に記載のタイヤセンサモジュール。
【請求項5】
前記柔軟部にスリットを備えている、請求項2に記載のタイヤセンサモジュール。
【請求項6】
前記制御部がアンカーを備えており、
前記アンカーが前記スリットに挿入されている、請求項5に記載のタイヤセンサモジュール。
【請求項7】
前記制御部が、通信部を備えている、請求項1に記載のタイヤセンサモジュール。
【請求項8】
前記制御部が、磁気センサ、加速度センサまたは磁石を備えている、請求項1に記載のタイヤセンサモジュール。
【請求項9】
請求項1に記載のタイヤセンサモジュールと、
前記タイヤセンサモジュールを内包可能であり、タイヤの内側に固定される弾性変形可能なコンテナと、を備えていることを特徴とするタイヤセンサ装置。
【請求項10】
前記コンテナは、前記タイヤセンサモジュールの前記圧電センサを所定の位置に保持するためのコンテナ側アンカーを備えている、請求項9に記載のタイヤセンサ装置。
【請求項11】
前記タイヤセンサモジュールは、
前記緩衝部が、前記制御部よりもヤング率が小さい柔軟部を備えており、
前記柔軟部が、前記圧電センサおよび前記制御部と接触している、請求項10に記載のタイヤセンサ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々のセンサ等に用いられる複合圧電素子、複合圧電素子を用いたタイヤ状態測定装置、タイヤの変形を検出するシート状の圧電センサを有するタイヤセンサモジュール、それを備えたタイヤセンサ装置、および圧電センサに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子は、電気エネルギーと機械エネルギーとを変換する機能を有しており、種々のアクチュエータやセンサとして用いられる。例えば、変形により生じる電気エネルギーを用いてタイヤの状態を測定するために、可撓性を備えたフィルム状の圧電素子が用いられることがある。特許文献1には、タイヤ内に圧電フィルムを配置して、タイヤの姿勢角や路面状態を推定する方法が記載されている。また、同文献には、タイヤの変形を検知することでタイヤの設置状態を推定する装置として、タイヤのトレッドの内側面に圧電センサが配置された路面状態推定装置が記載されている。
【0003】
路面状態やタイヤの状態を検知するためのタイヤセンサ装置として、タイヤのトレッドの内側面に設けられたコンテナと当該コンテナに取り付け可能なタイヤセンサモジュールとからなるものが提案されている。タイヤセンサ装置は、タイヤセンサモジュールに設けられた加速度センサを用いてタイヤに伝わる振動を検出し、その振動波形を解析することにより路面状態を検出する。例えば、特許文献2には、加速度センサ、回路基板およびアンテナを封止するモールド樹脂部に突起部を設けて、加速度検出方向の認識を容易にしたマウントセンサ(タイヤセンサモジュール)が記載されている。しかし、その一部にシート型の圧電センサ(圧電素子)が組み込まれたタイヤセンサモジュールは提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-234038号公報
【文献】特開2017-114438号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法では、異なる方向の変形を測定するために、長短のある形状の圧電フィルムを、方向を変えてタイヤ内に複数配置する。しかし、圧電フィルムを構成する圧電素子が一体として形成されているから、測定対象が変形した場合に圧電素子が全体として変形する。このため、圧電フィルムが特定方向の変形を測定するときに、特定方向以外の方向の変形の影響を受ける。したがって、特定方向に生じた変形を高感度で精度良く測定することが困難であった。
【0006】
また、タイヤセンサモジュールにおける加速度センサ等のように、シート状の圧電センサがモールド樹脂部に封止されると、硬いモールド樹脂部によって圧電センサの変形が阻害されて、タイヤの変形に対する圧電センサの検知感度が低下する。すなわち、タイヤセンサモジュールの一部にシート状の圧電センサを組み込む場合、加速度センサと同様にモールド樹脂部で封止すると、圧電センサの検知感度が低下するという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、特定方向に生じた変形を高感度で精度良く測定できる複合圧電素子、複合圧電素子を備えたタイヤ状態測定装置、タイヤ変形の検知感度が良好な圧電フィルムを備えたタイヤセンサモジュール、それを備えたタイヤセンサ装置、および圧電センサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の複合圧電素子は、第1電極層と、前記第1電極層に配された圧電体層と、前記圧電体層に配された第2電極層と、を備えた複合圧電素子において、平面視において、前記第1電極層、前記圧電体層および前記第2電極層が設けられた測定部と、前記圧電体層が設けられていない緩衝部と、を備えている。前記圧電体層が設けられていない緩衝部を設けることにより測定部の測定感度に異方性を付与し、特定方向に生じた変形を高感度で精度良く測定することができる。
【0009】
前記圧電体層が、平面視において、帯状部を複数有していることが好ましい。前記帯状部のアスペクト比は、例えば、1000:1~10:5とすればよい。複数の前記帯状部は、長手方向が略平行になるように配置されていることが好ましい。前記緩衝部が、隣接する前記帯状部の間に、前記帯状部の長手方向に沿って形成されていることが好ましい。また、前記緩衝部は、平面視において、前記測定部の長手方向に沿って設けられた切欠き部を備えていることが好ましい。前記切欠き部は、平面視において、前記帯状部の長手方向に沿って連続するスリットであることが好ましい。これらの構成により、複合圧電素子の測定感度の異方性を大きくすることができる。
【0010】
本発明の複合圧電素子は、ベースフィルムを備えており、前記第1電極層が前記ベースフィルムに配されていてもよい。ベースフィルムを用いることにより、複合圧電素子の形状を保持した状態で、タイヤなどの測定対象に配することが容易になる。この場合、前記ベースフィルムが、平面視において、前記測定部および前記緩衝部に形成されており、前記緩衝部のヤング率が前記測定部のヤング率よりも小さいことが好ましい。この構成により、複合圧電素子の測定感度の異方性を大きくすることができる。
【0011】
本発明のタイヤ状態測定装置は、本発明の複合圧電素子を備えている。
【0012】
本発明のタイヤセンサモジュールは、タイヤの変形を計測可能なシート状の圧電センサと、前記圧電センサの計測結果を演算処理可能な制御部と、を備えており、前記圧電センサと前記制御部との間に緩衝部を備えていることを特徴とする。
圧電センサと制御部との間に緩衝部を設けることで、タイヤに追従したシート状の圧電センサの変形が制御部によって妨げられることを抑制できる、すなわち、シート状の圧電センサは、タイヤの変形に追従して撓みやすい状態でタイヤセンサモジュールに組み込まれることが可能になる。
【0013】
前記緩衝部は、前記制御部よりもヤング率が小さい柔軟部を備えており、前記柔軟部が前記圧電センサおよび前記制御部と接触していてもよい。前記柔軟部のヤング率が10~1000MPaであってもよい。
圧電センサの変形を吸収する柔軟部が圧電センサと制御部との両方に接することにより、両者の位置関係を維持できる。これにより、測定条件が一定になり、圧電センサの測定精度が向上する。
【0014】
前記緩衝部は、前記柔軟部と空隙部とを備えていてもよく、前記柔軟部がスリットを備えていてもよい。
緩衝部に柔軟部が設けられていない空隙部を設けたり、柔軟部にスリットを設けたりすることで、緩衝部において柔軟部が変形しやすくなるから、圧電センサがより変形しやすくなる。
【0015】
前記柔軟部がスリットを備えているとともに、前記制御部がアンカーを備えており、前記アンカーが前記スリットに挿入されていてもよい。
スリットを設けることにより柔軟部が変形し易くなるとともに、アンカーによって柔軟部と制御部との位置関係を安定的に維持することができる。これにより、測定条件が一定になり、圧電センサの測定精度が向上する。
【0016】
前記制御部は、通信部を備えていてもよい。また、前記制御部は、磁気センサ、加速度センサまたは磁石を備えていてもよい。
【0017】
本発明のタイヤセンサ装置は、上記のタイヤセンサモジュールと、前記タイヤセンサモジュールを内包可能であり、タイヤの内側に固定される弾性変形可能なコンテナと、を備えていることを特徴とする。
前記コンテナは、前記タイヤセンサモジュールの前記圧電センサを所定の位置に保持するためのコンテナ側アンカーを備えていてもよい。
上記のタイヤセンサモジュールは、前記緩衝部が、前記制御部よりもヤング率が小さい柔軟部を備えており、前記柔軟部が、前記圧電センサおよび前記制御部と接触していてもよい。
【0018】
本発明の圧電センサは、シート状の圧電センサであり、シートの法線方向からの平面視で円形であることと特徴としており、タイヤの変形を検知するものである。
円形とすることにより、圧電センサを設置する方向によらず、同一条件で測定することができるから、圧電センサをタイヤに設置する作業が容易になる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の複合圧電素子は、特定方向以外に生じた測定対象の変形による圧電体層への影響を、緩衝部によって緩衝することができる。したがって、特定方向の変形を高感度で精度良く測定することが可能である。
【0020】
本発明のタイヤセンサモジュールは、シート状の圧電センサと制御部との間に緩衝部が設けられていることによって、シート状の圧電センサがタイヤの変形に追従して変形し易くなるから、高感度でタイヤの変形を検知することができる。したがって、検知感度が良好なタイヤセンサモジュール、およびタイヤセンサ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】(a)第1実施形態にかかる複合圧電素子の構成を模式的に示す平面図、(b)
図1(a)のA-A矢視断面図、(c)
図1(a)のB-B矢視断面図
【
図2】(a)第1実施形態の変形例にかかる複合圧電素子の構成を模式的に示す平面図、(b)
図2(a)のA-A矢視断面図、(c)
図2(a)のB-B矢視断面図
【
図3】(a)第2実施形態にかかる複合圧電素子の構成を模式的に示す平面図、(b)
図3(a)のA-A矢視断面図、(c)
図3(a)のB-B矢視断面図
【
図4】(a)第2実施形態の変形例にかかる複合圧電素子の構成を模式的に示す平面図、(b)
図4(a)のA-A矢視断面図、(c)
図4(a)のB-B矢視断面図
【
図5】第3実施形態にかかるタイヤ状態測定装置によるタイヤ状態の測定を模式的に示す、(a)駐停車中でタイヤが回転していない状態の平面図、(b)走行中でタイヤが回転している状態の平面図
【
図6】(a)第4実施形態のタイヤセンサモジュールおよびタイヤセンサ装置を示す断面図、(b)
図6(a)のB-B矢視断面図
【
図7】第4実施形態のタイヤセンサモジュールおよびタイヤセンサ装置の変形例を示す断面図
【
図8】第5実施形態のタイヤセンサモジュールおよびタイヤセンサ装置を示す断面図
【
図9】第5実施形態のタイヤセンサモジュールおよびタイヤセンサ装置の変形例を示す断面図
【
図10】(a)第5実施形態のタイヤセンサモジュールおよびタイヤセンサ装置の変形例を示す断面図、(b)
図10(a)のB-B矢視断面図
【
図11】(a)第5実施形態のタイヤセンサモジュールおよびタイヤセンサ装置の変形例を示す断面図、(b)
図11(a)のB-B矢視断面図
【
図12】第5実施形態のタイヤセンサモジュールおよびタイヤセンサ装置の変形例を示す断面図
【
図13】圧電センサを示す(a)平面図、(b)
図13(a)のC-C矢視断面図
【
図14】タイヤセンサ装置を構成する、タイヤセンサモジュールとコンテナとが分離された状態を示す斜視図
【
図15】タイヤセンサ装置がタイヤに取り付けられた状態を示す一部断面斜視図
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態について、以下、図を参照しつつ説明する。各図において、同一の部材には同じ番号を付して、適宜、説明を省略する。
【0023】
(第1実施形態)
図1(a)は、本実施形態の複合圧電素子10の構成を模式的に示す平面図であり、
図1(b)は
図1(a)のA-A矢視断面図であり、
図1(c)は
図1(a)のB-B矢視断面図である。これらの図に示すように、複合圧電素子10は、ベースフィルム11と、ベースフィルム11に配された第1電極層12と、前記第1電極層に配された圧電体層13と、圧電体層13に配された第2電極層14と、を備えている。
【0024】
まず、平面視における、複合圧電素子10の各部材の配置や形状について説明する。
図1(a)~
図1(c)に示すように、複合圧電素子10は、第1電極層12、圧電体層13および第2電極層14がこの順にZ方向に積層して設けられた測定部15と、圧電体層13が設けられていない緩衝部16とを備えている。複合圧電素子10の略全体を測定部15とするのではなく、その一部に緩衝部16を設けることで、測定部15の圧電体層13に加わる力を測定対象が変形する方向により変化させて、複合圧電素子10の測定感度に異方性を付与することができる。
【0025】
X方向には、測定部15が連続して設けられているから、測定対象がX方向に変形した場合、当該変形はそのまま測定部15の圧電体層13に伝わる。対して、Y方向には、測定部15と緩衝部16とが交互に設けられている。すなわち測定部15の間に緩衝部16が設けられているから、測定対象がY方向に変形した場合、測定部15間の緩衝部16が先に変形することによって、当該変形が緩衝されて測定部15の圧電体層13に伝わる。このため、X方向の変形に対する測定感度を高くし、Y方向の変形に対する測定感度を低くすることができる。したがって、複合圧電素子10に緩衝部16を設けることにより、XY平面における方向によって感度を異ならせて、特定方向に生じた測定対象の変形を高感度で精度良く測定することができる。
【0026】
複合圧電素子10の測定部15は、平面視において、略矩形状に形成された複数の帯状部13a・13b・13c(以下、適宜、帯状部13a~cと記す)を有する圧電体層13が、櫛歯状に形成された第1電極層12および第2電極層14に挟まれて構成されている。
図1(a)に示すように、複数の帯状部13a~cは、その長手方向が略平行になるように配されている。なお、帯状部13a~cは、直交する方向の幅が異なる形状すなわち異方性を備えた形状であればよい。
【0027】
圧電体層13は、平面視において、一体の形状ではなく、短手方向(Y方向)に所定の間隔を空けて離れて配置された3つの帯状部13a~cに分かれた形状としている。この構成によって、複合圧電素子10は、長手方向(X方向)の測定感度を向上させるとともに、短手方向(Y方向)の変形が長手方向(X方向)に及ぼす影響を緩衝して、長手方向(X方向)の変形を高感度で精度良く測定することが可能になる。なお、短手方向(Y方向)の変形の影響を緩衝部16によって緩衝できればよいから、圧電体層13は一部が連続した部分を有する形状であっても良い。
【0028】
隣接する帯状部13aと帯状部13bとの間、および隣接する帯状部13bと帯状部13cとの間のそれぞれに、帯状部13a~cの長手方向に沿って緩衝部16が形成されており、各緩衝部16には切欠き部17が形成されている。
【0029】
切欠き部17は、例えば、複合圧電素子10を形成した後、レーザを用いて帯状部13a~c間のベースフィルム11を取り除くことにより形成できる。切欠き部17は、ベースフィルム11、第1電極層12、圧電体層13および第2電極層14のいずれも形成されていない部分である。このため、タイヤなどの測定対象が帯状部13a~cの短手方向に変形した場合、帯状部13a~cよりも先に切欠き部17が変形する。先に切欠き部17が変形することで、圧電体層13への影響を緩衝し、圧電体層13の変形を抑えることができる。したがって、複合圧電素子10は、帯状部13a~cの短手方向の変形に対する測定感度が低くなる。
【0030】
各切欠き部17は、平面視において、帯状部13a~cの長手方向(X方向)に沿って連続するスリット状に設けられている。切欠き部17をそれぞれ連続するスリット状とすることにより、帯状部13a~cの短手方向に測定対象が変形した場合、圧電体層13への影響を切欠き部17によって効果的に緩衝することができる。すなわち、測定対象の変形は、帯状部13a~cの短手方向に生じた場合、スリット状の切欠き部17に吸収されて、圧電体層13に伝わる。対して、帯状部13a~cの長手方向に測定対象が変形した場合、切欠き部17は圧電体層13への影響を緩衝しない。すなわち、測定対象の変形は、帯状部13a~cの長手方向に生じた場合、スリット状の切欠き部17に吸収されることなく、圧電体層13に伝わる。したがって、複合圧電素子10は、帯状部13a~cの長手方向の変形の測定における短手方向の変形の影響を緩衝して、長手方向の変形を高感度で精度良く測定することができる。
【0031】
以上のように、帯状部13a~cの間に切欠き部17を有する緩衝部16を設けることにより、測定対象が変形する方向が帯状部13a~cの短手方向と長手方向のいずれであるかによって、測定感度を大きく異ならせることができる。したがって、複合圧電素子10は、特定方向に加えられた力を高感度で精度良く測定することが可能になる。いいかえると、特定方向以外の方向(例えば、特定方向に直交する方向)に加えられた力に対する検出感度を鈍くすることで、ノイズ(特定方向以外の成分)を拾い難くすることができる。
【0032】
ベースフィルム11は、第1電極層12を配するものであり、可撓性を有する合成樹脂のフィルムで形成される。合成樹脂としては、例えば、ポリイミド(PI、PolyImide)、ポリエチレンテレフタレート(PET、PolyEthylene Terephthalate)、ポリエチレンナフタレート(PEN、PolyEthylene Naphthalate)、ポリフェニレンサルファイド(PPS、Poly Phenylene Sulfide)、ポリエチレン(PE、PolyEthylene)、アラミド樹脂(芳香族ポリアミド、Aromatic polyamid)等が挙げられる。上述した合成樹脂は、硬化剤などの添加剤や、無機フィラー等を含むものであってもよく、絶縁性を備えた絶縁性フィルムであってもよい。ベースフィルム11の厚みは、例えば、25~125μm程度とすればよい。
【0033】
第1電極層12は、
図1(a)~
図1(c)に示すように、ベースフィルム11の片面側に積層して設けられ、合成樹脂のマトリックス中に導電性紛体が分散されたものが用いられる。合成樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂等、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。また、導電性紛体としては、例えば、銀、銅、ニッケル等の金属粉、黒鉛、ナノカーボン等のカーボン粉、等が挙げられる。導電性紛体は、例えば、5~70(体積%)程度で合成樹脂中に分散される。第1電極層12の厚みは、例えば、5~15μm程度である。
【0034】
第2電極層14は、
図1(a)~
図1(c)に示すように、ベースフィルム11の片面側に、第1電極層12と第2電極層14との間に圧電体層13を挟むようにして、圧電体層13に積層して形成される。また、第2電極層14は、第1電極層12同様、合成樹脂のマトリックス中に導電性紛体が分散されたものであり、その厚みは、例えば、5~20μm程度である。
【0035】
第1電極層12および第2電極層14は、例えば、フェノール樹脂等の合成樹脂に硬化剤を添加し、カルビトールアセテート等の溶剤と、導電性の紛体とを混合して導電性ペーストとし、スクリーン印刷等の手法を用いて形成することができる。第1電極層12は、この導電性ペーストをベースフィルム11に塗布し、加熱を行い、乾燥及び硬化させて形成することができる。また、第2電極層14は、この導電性ペーストを圧電体層13に塗布し、加熱を行い、乾燥及び硬化させて形成することができる。
【0036】
第1電極層12および第2電極層14はそれぞれ、端子部121および端子部141を備えている。これら端子部121および端子部141がベースフィルム11の端部まで引き出されるように形成されていることから、電圧の供給や測定結果の取り出しが容易である。
【0037】
圧電体層13は、
図1(a)~
図1(c)に示すように、ベースフィルム11の片面側に設けられ、第1電極層12に積層して形成されている。
図1(a)では、平面視における位置を示すために、太い破線を用いて圧電体層13(帯状部13a・13b・13c、測定部15)の位置を示している。なお、第1電極層12と第2電極層14との間の圧電体層13が無い部分には、第1電極層12と第2電極層14との導通を防ぐため、絶縁体層等が形成されてもよい。
【0038】
長手方向の感度を良くする観点から、帯状部13a~cのアスペクト比(長さL:幅W1)は、1000:1以上10:5以下が好ましく、100:1以上10:4以下がより好ましく、10:1以上10:3以下がさらに好ましい。
【0039】
平面視において、圧電体層13と緩衝部16とを一体とした輪郭形状(以下、適宜「圧電体層13の形状」という)のアスペクト比(長さL:幅W2)は、特定方向に加えられた力を高感度で精度良く測定するとともに、出力を大きくするために、10:1以上10:10以下が好ましく、10:3以上10:8以下がより好ましく、10:4以上10:6以下がさらに好ましい。
【0040】
複合圧電素子10をタイヤに取り付ける場合、圧電体層13の長手方向の長さLは10~20mm程度が好適である。このため、好ましい圧電体層13の形状(長さL×幅W2)として、例えば15mm×7mmや10mm×5mm等が挙げられる。
【0041】
本実施形態では、3つの帯状部13a~cと2つの緩衝部16とを備えた圧電体層13について説明したが、帯状部13a~cおよび緩衝部16の数はこれに限られない。ただし、製造効率の観点から、帯状部13a~cの幅W1を1mm以上とすることが好ましい。このため、通常、帯状部13a~cの数は2~4程度、緩衝部16の数は1~3程度になる。
【0042】
圧電体層13は、合成樹脂のマトリックス中に圧電粒子が分散されてなるものである。圧電体層13の圧電性能を向上させて、出力性能が優れた複合圧電素子10とする観点から、圧電粒子としては、ペロブスカイト構造の結晶構造である強誘電体粒子が好ましい。強誘電体粒子としては、ニオブ酸カリウム(KNbO3)、ニオブ酸ナトリウムカリウム、チタン酸バリウムが好適である。
【0043】
ニオブ酸カリウムは、例えば、平均粒子径(メジアン径、D50)が400~500nmで、斜方晶-正方晶の転移点温度が223℃以上228℃以下で、正方晶-立方晶の転移点温度が420℃以上430℃以下のものが好ましい。これにより、圧電体層13の圧電性能をより向上し、出力性能がより優れた複合圧電素子10を提供することができる。
【0044】
圧電体層13は、合成樹脂と圧電粒子との複合材であり、可撓性を有している。圧電体層13の変形によるクラック等の発生を抑える観点から、常温で、適度な柔軟性を有した合成樹脂が好ましい。このような合成樹脂としては、非晶性ポリエステル樹脂またはポリウレタン樹脂が好ましい。また、非晶性ポリエステル樹脂及びポリウレタン樹脂は、一般に広く使用され、容易にしかも安価に入手することができる点においても好ましい。
【0045】
図1(b)および
図1(c)には、圧電体層13を単層で構成した例を示したが、圧電体層13を複数層で構成してもよい。例えば、2つの第1圧電体層と、2つの第1圧電体層の間に配された第2圧電体層と、で圧電体層13を構成してもよい。この場合、2つの第1圧電体層における圧電粒子の体積パーセント濃度が、その間の第2圧電体層における圧電粒子の体積パーセント濃度よりも高いことが好ましい。例えば、圧電粒子としてニオブ酸カリウムを用いる場合、第1圧電体層における圧電粒子の体積パーセント濃度は50~65vol%が好ましい。第2圧電体層における圧電粒子の体積パーセント濃度は、0.01~60vol%が好ましく、10~50vol%がより好ましい。
【0046】
第2圧電体層の圧電粒子の体積パーセント濃度を低くすることにより、曲げに対する耐性すなわち曲げ耐性が向上する。この第2圧電体層の曲げ耐性の向上により、圧電粒子の体積パーセント濃度が高い圧電体の単層で構成した場合よりも、圧電体層13全体としての曲げ耐性が高くなる。しかも圧電粒子の体積パーセント濃度が高い第1圧電体層で第2圧電体層を挟んだ構造とすることで、第1圧電体層による性能が優先され、圧電体層13全体として圧電性能が大きく低下することがない。このことにより、圧電性能を維持しつつ、曲げに対する曲げ耐性が向上した複合圧電素子10を提供することができる。また、圧電粒子の体積パーセント濃度が低い第2圧電体層を挟むことで、高価な圧電粒子の使用量を低減しつつ、圧電性能を維持した圧電体層13を構成することができる。
【0047】
圧電体層13は例えば、以下のようにして製造することができる。
先ず、溶剤に可溶な非晶性ポリエステル樹脂またはポリウレタン樹脂を用い、このバインダー樹脂とカルビトールアセテート等の溶剤とニオブ酸カリウムの粒体とを所望の配合比で混合し、3本ロール等の混合機でそれぞれを均一に分散させ、誘電体ペーストを作製する。
【0048】
次に、スクリーン印刷等の手法を用いて、誘電体ペーストをベースフィルム11の片面側の第1電極層12を覆うように、平面視において重なるように塗布し、乾燥及び硬化させて圧電体層13を形成する。
図1(a)では、破線で示したように、平面視において、櫛歯状に形成された第1電極層12の3つの歯の部分に帯状部13a~cを形成した例を示したが、3つの歯の部分を連結する部分を含めて第1電極層12全体に重なるように、圧電体層13を形成してもよい。硬化後の圧電体層13の厚みは、5~100μmが好ましく、15~50μmがより好ましい。
【0049】
なお、上述した誘電体ペーストには、少量の硬化剤を適宜用いても良いし、消泡剤を添加しても良い。また、ニオブ酸カリウムの粒体の表面にシランカップリング剤を担時させる処理を行っても良い。特に、消泡剤の添加やシランカップリング剤処理を行うことで、圧電体層13に気泡等の欠陥が生じるのを防止することができ、圧電体層13の厚み方向の導通不良を低減することができる。
【0050】
最後に、形成された圧電体層13に分極処理を行う。分極処理は、形成された圧電体層13をキュリー点近傍の温度に加熱して、
図1(a)に示す第1電極層12の端子部121および第2電極層14の端子部141から、圧電体層13の厚みに応じた直流電圧を圧電体層13に1~10(V/μm)程度、印加する。そして、常温に戻した後、第1電極層12と第2電極層14との間を短絡させて余分な容量を除去して終了する。なお、直流電圧の印加は、4~6(V/μm)が好適である。このようにして、圧電体層13は、初期状態から分極された状態へと、簡単に処理を行うことができる。
【0051】
以上のように、ベースフィルム11表面に設けられた、第1電極層12、圧電体層13および第2電極層14が合成樹脂にフィラーが分散されたものであるから、複合圧電素子10は全体として可撓性を有するものとなる。
【0052】
なお、
図1の複合圧電素子10はオーバーコート部材を備えていないが、外部環境から保護するオーバーコート部材を設けても良い。オーバーコート部材は、例えば、顔料が含有された絶縁性のポリウレタン樹脂をベースとした絶縁性ペーストを用い、スクリーン印刷等の手法を用い、第2電極層14全体を覆うようにして絶縁性ペーストを塗布、積層し、加熱を行い、乾燥及び硬化させる。この硬化後のオーバーコート部材の厚みは、10~100μm程度である。なお、ポリウレタン樹脂以外に、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等を用いても良い。
【0053】
以上のように、複合圧電素子10は、安易で安価なスクリーン印刷法を用いて形成しているので、容易かつ安価に作製することができる。
【0054】
図2(a)は、本実施形態の変形例である複合圧電素子20の構成を模式的に示す平面図であり、
図2(b)は
図2(a)のA-A矢視断面図であり、
図2(c)は
図2(a)のB-B矢視断面図である。
図2(a)に示すように、複合圧電素子20の緩衝部16は、帯状部13a~cの長手方向に沿って複数の切欠き部17を有している。このように、緩衝部16に切欠き部17が断続的に複数設けられた構成により、測定部15の測定感度に異方性を付与することができる。したがって、複合圧電素子20は、複合圧電素子10同様、帯状部13a~cの長手方向の変形を高感度で精度良く測定することができる。
【0055】
(第2実施形態)
図3(a)は、本実施形態の複合圧電素子30の構成を模式的に示す平面図、
図3(b)は
図3(a)のA-A矢視断面図、
図3(c)は
図3(a)のB-B矢視断面図、である。これらの図に示すように、本実施形態の複合圧電素子30は、平面視において、緩衝部16を含む複合圧電素子30全体にベースフィルム11が形成されている構成において、第1実施形態の複合圧電素子10と異なっている。
【0056】
上述した第1実施形態の複合圧電素子10では、帯状部13a~cの短手方向と長手方向との測定感度の差を大きくするために、緩衝部16に切欠き部17が設けられている。対して、本実施形態の複合圧電素子30では、緩衝部16には切欠き部17が設けられていないものの、緩衝部16が測定部15よりも相対的にヤング率が小さく、帯状部13a~cの短手方向に変形しやすい構成となっている。このため、測定対象が短手方向に変形した場合、測定部15よりも先に緩衝部16が優先的に変形することで、測定部15に加わる短手方向の力を緩衝できる。したがって、複合圧電素子30は、帯状部13a~cの長手方向の変形を高感度で精度良く測定することができる。
【0057】
特定方向に生じた変形を高感度で精度良く測定する観点から、緩衝部16のヤング率は、測定部15のヤング率よりも小さいことが好ましく、測定部15のヤング率の1/2以下がより好ましく、測定部15のヤング率の1/10以下がさらに好ましい。測定部15および緩衝部16のヤング率は、
図3(a)におけるXY平面におけるヤング率をいう。また、測定部15のヤング率はベースフィルム11、第1電極層12、圧電体層13および第2電極層14からなる積層体としてのヤング率であり、緩衝部16のヤング率は、ベースフィルム11のヤング率である。
【0058】
図4(a)は本実施形態の変形例にかかる複合圧電素子40の構成を模式的に示す平面図であり、
図4(b)は
図4(a)のA-A矢視断面図であり、
図4(c)は
図4(a)のB-B矢視断面図である。これらの図に示すように、複合圧電素子40は、平面視において、緩衝部16を含む複合圧電素子40全体にベースフィルム11に加えて第1電極層12が形成されている。このため、緩衝部16はベースフィルム11と第1電極層12と積層体により構成されている。
【0059】
緩衝部16にベースフィルム11以外が形成されている場合も、緩衝部16のヤング率を測定部15のヤング率よりも低くすることで、緩衝部16が測定部15よりも先に優先的に変形する。このため、測定部15に加わる帯状部13a~cの短手方向の力を緩衝することができる。したがって、複合圧電素子40は、帯状部13a~cの長手方向の変形を高感度で精度良く測定することができる。
【0060】
(第3実施形態)
複合圧電素子を備えたタイヤ状態測定装置として本発明を実施する場合について、以下に説明する。
図5(a)および
図5(b)は、複合圧電素子10を備えた本実施形態のタイヤ状態測定装置50により測定されるタイヤ60の状態を模式的に示す平面図である。
図5(a)は、自動車などに取り付けられたタイヤ60が回転していない状態を示している。同図に示すように、タイヤ60が回転しない自動車の駐停車中には、自動車の重量によってタイヤ60の接地部61すなわち路面70と接触する部分がタイヤの周方向において伸びる。
【0061】
図5(b)は、自動車などに取り付けられたタイヤ60が矢印で示す方向に回転している状態を示している。同図に示すように、自動車の走行中における回転しているタイヤ60では、タイヤ60の周方向において、路面70と接触している接地部61に伸びが発生し、接地部61近傍の上流部62および下流部63に縮みが発生する。この回転に伴う周期的な伸び縮みに伴ってタイヤ60が変形する速度は、タイヤ60の状態に応じて変化する。
【0062】
そこで、タイヤ状態測定装置50は、複合圧電素子10を用いてこの変形速度を測定することによって、タイヤ60の状態を測定する。複合圧電素子10を用いて測定する対象となるタイヤ60の状態としては、例えば、摩耗、タイヤトレッドの硬さ、摩擦(グリップ状態)等が挙げられる。また、タイヤ60の状態を介して、路面70の状態を測定することもできる。複合圧電素子10を用いてタイヤ60の変形速度を直接求めることができるので、タイヤ60の状態を容易に評価することができる。
【0063】
また、本発明の複合圧電素子10は、特定方向に高感度で精度良く測定可能であるから、タイヤ60の回転方向(周方向)や回転方向に直交する方向等、特定方向の変形(伸縮)の測定に適している。例えば、圧電体層13の帯状部13a~cの長手方向(X方向、
図1参照)が、タイヤ60の周方向となるように複合圧電素子10を配すると、タイヤ60の回転方向の変形を高感度で精度良く測定することができる。
【0064】
タイヤ状態測定装置50の複合圧電素子10をタイヤ60の裏側(路面70との接地面の反対側)に取り付けることにより、タイヤ60の状態を測定できる。例えば、エポキシ等の接着剤を用いて、複合圧電素子10をタイヤ60に貼り付けて、タイヤ状態測定装置50を取り付けることができる。
【0065】
タイヤ状態測定装置50によって得られたタイヤ60の状態に関する情報は、単独で用いても、他の装置から得られた情報と組み合わせて用いてもよい。他の装置としては、自動車のタイヤ空気圧を監視するTPMS(Tire Pressure Monitoring System)等の装置が挙げられる。
【0066】
(第4実施形態)
複合圧電素子を備えたタイヤ状態測定装置を、タイヤセンサモジュールとコンテナとを備えたタイヤセンサ装置として実施する態様について、以下に説明する。
図14は、分離された状態のタイヤセンサ装置を示す斜視図であり、
図15は、タイヤセンサ装置がタイヤに取り付けられた状態を示す一部断面斜視図である。
図14に示すように、タイヤセンサ装置100は、タイヤセンサモジュール80と、タイヤセンサモジュール80を内包可能なコンテナ85とを備えている。
図15に示すように、タイヤセンサ装置100は、タイヤ60の内側面64に取り付けられたコンテナ85にタイヤセンサモジュール80が内包された状態で、タイヤ60の状態を測定する。
【0067】
コンテナ85は、タイヤ60の変形に応じて変形可能であり、例えば、ヤング率がタイヤ60と同じ10~1000MPa程度の樹脂を用いて構成される。コンテナ85をタイヤ60の内側面64に取り付ける方法は限定されないが、例えば、エポキシ接着剤やシアノアクリレート瞬間接着剤などの接着剤を用いて貼り付ける方法が挙げられる。
【0068】
図6(a)は、本実施形態のタイヤセンサモジュールの構造を示す断面図であり、
図14のタイヤセンサ装置100を一点鎖線で示す部分で切断してA-A矢視方向に見たA-A矢視断面の構造を模式的に示している。
図6(b)は、
図6(a)のB-B矢視断面図である。
【0069】
タイヤセンサモジュール80は、シート状の圧電センサ81と、制御部82と、緩衝部83とを備えている。圧電センサ81は、タイヤ60に生じる変形(変形速度)を電圧に変換することにより、タイヤ60(
図15参照)の変形を電気的に検出するものである。例えば、二枚の電極に圧電体が挟まれて構成されており、
図1~4に示す複合圧電素子と同様の構成を備えたものを圧電センサ81として用いることができる。圧電センサ81は、タイヤ60に追従して変形可能なコンテナ85を介してタイヤ60の変形を検知する。圧電センサ81は、タイヤセンサモジュール80の制御部82と電気的に接続されており、制御部82によって制御される。
【0070】
圧電センサ81は、タイヤ60に追従して変形することにより、タイヤ60の状態を直接的に検知することができる。圧電センサ81が検知(測定)する対象としては、例えば、タイヤ60の摩耗、タイヤトレッドの硬さ、摩擦(グリップ状態)等が挙げられる。また、圧電センサ81は、タイヤ60の状態を介して路面70(
図5参照)の状態を測定することもできる。
【0071】
制御部82は、基板821、通信部822および電源823が硬質樹脂824によって封止されている。制御部82のヤング率は、制御部82の外殻を構成する部分のヤング率をいうから、硬質樹脂824のヤング率が制御部82のヤング率である。なお、制御部82が硬質樹脂824により封止されていない場合、圧電センサ81に設けられた部材のうち、最もヤング率の大きな部材のヤング率を制御部82のヤング率とする。ただし、制御部82を構成する基板821、通信部822および電源823は、通常、硬質樹脂824と同等程度のヤング率となるように設計される。
【0072】
基板821は、演算処理部や記憶部等を備えており、圧電センサ81の計測結果の演算処理等の種々の演算およびタイヤセンサモジュール80の制御を行う。基板821には、磁気センサ、加速度センサ等のような、シート型の圧電センサ81以外のセンサや磁石等が設けられていてもよい。
【0073】
通信部822は、無線通信を介して、タイヤセンサモジュール80の測定結果を外部の装置に発信したり、外部の装置から基板821における演算処理部への入力を受信したりする。外部の装置としては、例えば、自動車に関する種々のシステムを制御する電子回路の装置(ユニット)であるECU(Electronic Control Unit)、自動車内にあるスマートフォンなどの携帯電子機器、無線通信回線を通じて接続されるサーバ装置等が挙げられる。
【0074】
電源823は、タイヤセンサモジュール80に電力を供給する電池等である。
【0075】
硬質樹脂824は、制御部82の基板821、通信部822および電源823などを保護するものであり、コンテナ85よりも硬い(ヤング率が大きい)、例えば、ヤング率が1~5GPa程度の樹脂が用いられる。このため、制御部82に圧電センサ81を設けて硬質樹脂824で封止すると、圧電センサ81の変形が硬質樹脂824によって阻害されることとなる。すなわち、シート状の圧電センサ81は、基板821、通信部822および電源823などとともに、硬質樹脂824で封止されると、タイヤ60に追従した変形が硬質樹脂824によって制約されるから、タイヤ60の変形を感度良く検知することが困難である。
【0076】
そこで、タイヤセンサモジュール80は、圧電センサ81と制御部82との間に緩衝部83を設けている。緩衝部83を設けることにより、圧電センサ81はタイヤ60の変形に追従して変形することが容易になる。
図6(a)および
図6(b)に示す実施態様では、制御部82がコンテナ85と接する外周面に沿って円環状に突出する保持部82Rを備えている。そして、保持部82Rの端部82Eが、円形の圧電センサ81における円周の近傍に接して、圧電センサ81を取り囲むようにシート状の圧電センサ81が設けられている。これにより、圧電センサ81と制御部82との間の大部分を占める空間が緩衝部83として機能するから、圧電センサ81はタイヤ60に追従して変形することが容易になる。また、保持部82Rが圧電センサ81を取り囲んでいるから、安定的に圧電センサ81を所定位置に保持することができる。ただし、保持部82Rは、圧電センサ81を保持可能な形状であればよく、例えば、保持部82Rを棒状とし、
図6(b)に示す保持部82Rが形成する円形に沿って複数本配置し、その各端部82Eが圧電センサ81と接する構成としてもよい。
【0077】
このように、圧電センサ81と制御部82との間に緩衝部83を設けることにより、
図6(a)に破線で示すように、圧電センサ81は、制御部82と干渉することなく、タイヤ60(
図15参照)の変形に追従して変形することが可能になる。すなわち、タイヤセンサモジュール80は、圧電センサ81と制御部82との間に緩衝部83が設けられた構成により、圧電センサ81の変形が容易になり、タイヤ60の変形を感度良く検知することができる。
【0078】
圧電センサ81は、タイヤ60の回転に伴う周期的は変形を測定対象としているが(
図5(a)、
図5(b)参照)、タイヤ60が異物を踏んだとき等に、タイヤ60から瞬間的に過大な力が加わる事態も生じ得る。このような場合、タイヤセンサモジュール80の制御部82に過大な力が加わると、故障の原因となるおそれがある。
【0079】
タイヤセンサモジュール80では、圧電センサ81と制御部82との間に設けられている緩衝部83が、制御部82に過大な力が加わることを抑制している。例えば、タイヤ60が異物を踏んだときのタイヤ60の変形が緩衝部83の範囲内に収まれば、制御部82に過大な力が加わることはない。また、タイヤ60の変形が緩衝部83の範囲を超える場合でも、緩衝部83によって制御部82に加わる力を弱めることができる。このように、緩衝部83は、圧電センサ81の変形を容易にするとともに、タイヤ60から過大な力が制御部82に加わることを抑制して、制御部82の故障を防ぐことにより、タイヤセンサモジュール80の信頼性を向上させる効果をも奏する。
【0080】
タイヤ60の変形を感度良く検知するとともにタイヤセンサモジュール80の信頼性を向上させる観点から、緩衝部83の高さhは、2mm以上が好ましく、5mm以上がより好ましい。また、タイヤセンサモジュール80を小型化する観点から、緩衝部83の高さhは、5mm以下が好ましく、3mm以下がより好ましい。したがって、信頼性と小型化とを両立するためには、緩衝部83の高さhを2~3mm程度とすることが好ましい。なお、緩衝部83の高さhとは、
図6(a)に示すように、圧電センサ81と制御部82との間の距離をいい、両者の距離が一定でない場合は最も近い部分の距離をいう。
【0081】
図7は、タイヤセンサモジュールおよびタイヤセンサ装置の変形例を示す断面図である。タイヤセンサ装置100は、同図に示すように、圧電センサ81と接するコンテナ85の底内側面86に、圧電センサ81を保持するコンテナ側アンカー87を備えていてもよい。コンテナ側アンカー87によって、圧電センサ81がコンテナ85の底内側面86に接した状態をより安定的に保持できる。したがって、圧電センサ81と底内側面86との位置関係を一定に維持して、圧電センサ81がタイヤ60の変形を精度良く検知することができる。
図7に示すように、コンテナ側アンカー87により圧電センサ81を保持する場合、圧電センサ81を保持するための円環状の保持部82R(
図6(a)、
図6(b)参照)は不要である。
【0082】
図13(a)および
図13(b)は、本発明の圧電センサを示しており、
図13(a)が平面図、
図13(b)が
図13(a)のC-C矢視断面図である。圧電センサ81は、シート状であり、
図13(a)に示すように、タイヤ60に対する面からの平面視すなわちシートの法線方向からの平面視で円形である。平面視の形状を円形とすることで、圧電センサ81を設置する方向によらず測定条件が同じになるから、圧電センサ81が変形する方向によらず、変形速度および大きさが同じなら出力が同じになる。したがって、タイヤ60への設置作業における取り付け方向の確認が容易になる(
図15参照)。すなわち、コンテナ85内へタイヤセンサモジュール80(圧電センサ81)を挿入・取り付けするときのタイヤ60に対する向きが多少ずれたとしても、出力に大きなバラツキが発生しにくい。仮に圧電センサ81が長方形状であった場合、長方形の短手方向の変形に対する感度よりも、長方形の長手方向の変形に対する感度の方が高い。そのため、タイヤセンサモジュール80(圧電センサ81)をタイヤ60に対して取り付ける向きがずれると、出力にも影響が出やすい。
【0083】
圧電センサ81のサイズは特に限定されないが、高い出力を得る観点から、直径は5mm以上が好ましく、8mm以上がより好ましい。小型化の観点から、直径は20mm以下が好ましく、15mm以下がより好ましい。
【0084】
本実施形態では、シートの法線方向からの平面視で円形である圧電センサを用いた場合について説明したが、圧電センサの形状はこれに限られない。例えば、上述した実施形態で用いた
図1~
図4に示す複合圧電素子を圧電センサとして用いることもできる。緩衝部を備えた複合圧電素子を用いることにより、所定方向の感度が良好なタイヤセンサモジュールとすることができる。
【0085】
(第5実施形態)
図8は、本実施形態のタイヤセンサモジュールおよびタイヤセンサ装置を示す断面図である。本実施形態のタイヤセンサ装置200のタイヤセンサモジュール90は、制御部82の硬質樹脂824よりもヤング率が小さい(柔らかい)柔軟部93が緩衝部83に設けられている構成において、第1実施形態のタイヤセンサ装置100のタイヤセンサモジュール80と異なっている。本発明において、素材の柔らかさはヤング率により評価し、ヤング率が小さいほど柔らかい(大きいほど硬い)という。
【0086】
緩衝部83に設けられた柔軟部93は、硬質樹脂824よりも柔らかい。このため、圧電センサ81は、硬質樹脂824に封止された場合よりも、タイヤ60の変形に伴って変形しやすい。また、緩衝部83に柔軟部93を設けることにより、制御部82を保護する効果も向上する。さらに、柔軟部93が圧電センサ81と制御部82の両方に接することにより、圧電センサ81と制御部82と相対的な位置関係を維持できるから、圧電センサ81の測定条件を所定の状態として測定精度を向上させることができる。
【0087】
柔軟部93に用いる素材は、制御部82より柔らかければよいが、コンテナ85より柔らかいものよりが好ましく、例えば、ウレタン樹脂、天然ゴム、合成ゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、ニトリルブタジエンゴム、シリコーンゴム、アクリルゴムなどが挙げられる。柔軟部93のヤング率は、10~1000MPaが好ましく、10~500MPaがより好ましく、10~100MPaがさらに好ましい。
【0088】
図9は、本実施形態のタイヤセンサモジュールおよびタイヤセンサ装置の変形例を示す断面図である。タイヤセンサ装置200は、同図に示すように、圧電センサ81と接するコンテナ85の底内側面86に、圧電センサ81を保持するコンテナ側アンカー88を備えていてもよい。コンテナ側アンカー88により、圧電センサ81がコンテナ85の底内側面86に接した状態を維持することができる。したがって、圧電センサ81は、コンテナ85の底内側面86を介して、タイヤ60の変形を感度良く検知することができる。なお、
図9に示すコンテナ側アンカー88は、
図7のコンテナ側アンカー87とは異なり、圧電センサ81を貫くものではなく、コンテナ側アンカー88の表面に沿って圧電センサ81を位置させて保持するものである。
【0089】
図10(a)および
図10(b)は、本実施形態のタイヤセンサモジュールの構造の変形例を示す断面図である。同図に示すように、タイヤセンサ装置200の緩衝部83は、柔軟部93が設けられていない空隙部94を備えていてもよい。空隙部94を備えることにより、柔軟部93が緩衝部83内においてより変形しやすくなるから、圧電センサ81がタイヤ60の変形に追従して変形しやすくなり、タイヤセンサモジュール90の検知感度が向上する。また、圧電センサ81に、柔軟部93により押圧される箇所と押圧されない箇所ができることでタイヤセンサモジュール90の検知感度が向上する。
【0090】
図10(b)に示すように、圧電センサ81は平面視で円形であり、方向を問わずにタイヤ60の変形を検知するのに適している。また、同図に示すように、空隙部94は、柔軟部93の外周面を取り囲むように均一な幅で設けられている。この構成によってすべての方向へのタイヤ60の変形に対して同様に圧電センサ81が追従しやすくなり、変形方向によらずタイヤセンサモジュール90の検知感度が良好になる。
【0091】
図11(a)は、本実施形態のタイヤセンサモジュールの構造の変形例を示す断面図である。同図に示すように、タイヤセンサモジュール90の柔軟部93はスリット95を備えていてもよい。スリット95は、柔軟部93を分断する細長い隙間をいう。スリット95を備えることにより、空隙部94(
図10(a)、
図10(b)参照)同様、柔軟部93が緩衝部83内で変形しやすくなるから、タイヤセンサ装置200の検知感度が向上する。
【0092】
図11(b)に示すように、複数のスリット95を一方向に沿って平行に設けることで、スリット95が設けられる方向との関係で、柔軟部93の変形しやすさを異ならせることができる。このため、平面視で円形の圧電センサ81であっても、タイヤ60が変形する方向により検知感度を調整することが可能である。例えば、タイヤ60の回転方向(
図5(b)参照)と、スリット95の長手方向とが直交するように、タイヤセンサ装置200を設置すれば、柔軟部93はタイヤ60の回転方向に伸縮しやすくなる。したがって、タイヤ60の回転方向の変形の検知感度が良好なタイヤセンサモジュール90とすることができる。
【0093】
図10(a)、
図10(b)、
図11(a)および
図11(b)に示すように、空隙部94やスリット95を設けることにより、緩衝部83内において柔軟部93がより変形しやすくなる。したがって、圧電センサ81がタイヤ60に追随してより変形しやすくなり、圧電センサ81の検知感度が向上する。また、空隙部94やスリット95の構成によって、圧電センサ81の検知感度を、タイヤ60が変形する方向によらず同じにしたり、変形する方向によって変えたりすることができる。なお、空隙部94や柔軟部93が備えるスリット95の形状や数は上述の例に限定されない。例えば、柔軟部93を平行な複数のスリット95が直交するように格子状に設けられた構成とすれば、圧電センサ81の検知感度はタイヤ60の変形方向によらず同じになる。
【0094】
図12は、本実施形態のタイヤセンサモジュールおよびタイヤセンサ装置の変形例を示す断面図である。同図に示すように、タイヤセンサモジュール90は、制御部82が緩衝部83側にアンカー84を備えている。アンカー84を柔軟部93のスリット95に挿入することにより、柔軟部93および圧電センサ81と制御部82との位置関係の変化を抑制することができる。したがって、圧電センサ81の測定条件を一定に維持して、タイヤ60の変形を精度良く検知することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、摩耗などのタイヤの状態や路面の状態を測定する装置、として有用である。
【符号の説明】
【0096】
10、20、30、40 :複合圧電素子
11 :ベースフィルム
12、14 :第1電極層
121、141 :端子部
13 :圧電体層
13a、13b、13c :帯状部
15 :測定部
16 :緩衝部
17 :切欠き部
50 :タイヤ状態測定装置
60 :タイヤ
61 :接地部
62 :上流部
63 :下流部
64 :内側面
70 :路面
80、90:タイヤセンサモジュール
81 :圧電センサ
82 :制御部
82R :保持部
82E :端部
821 :基板
822 :通信部
823 :電源
824 :硬質樹脂
83 :緩衝部
84 :アンカー
85 :コンテナ
86 :底内側面
87、88:コンテナ側アンカー
93 :柔軟部
94 :空隙部
95 :スリット
100、200 :タイヤセンサ装置(タイヤ状態測定装置)
h :高さ
L: 長さ
W1、W2: 幅