(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】溶着装置
(51)【国際特許分類】
B29C 65/08 20060101AFI20231013BHJP
【FI】
B29C65/08
(21)【出願番号】P 2022130541
(22)【出願日】2022-08-18
(62)【分割の表示】P 2018107068の分割
【原出願日】2018-06-04
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100141645
【氏名又は名称】山田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100076048
【氏名又は名称】山本 喜幾
(72)【発明者】
【氏名】梶本 聡
(72)【発明者】
【氏名】田村 直樹
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-080948(JP,A)
【文献】特開平04-329117(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の端縁部を巻き込んだ表皮材の端末部分を該基材に対し引っ張った状態で、該基材の裏側に溶着する溶着装置であって、
多軸ロボットのハンドに固定したブラケットと、
前記ブラケットに固定され、進退自在に移動する移動体を有するアクチュエータと、
前記アクチュエータの移動体に取り付けられ、前記基材に宛がわれた前記表皮材の端末部分に向けて進退可能な溶着ヘッドと、
前記ブラケットに固定されている係合体と、
前記係合体の先端部に形成され、前記表皮材を引っ掛け可能な引っ掛け部と、を備え
、
前記引っ掛け部は、その先端が前記基材における前記表皮材が巻き込まれた面に向くように形成されている
ことを特徴とする溶着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば自動車用内装部材の基材に化粧用の表皮材をテンションが加わった状態で溶着をなし得る溶着方法と、その溶着装置とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
所要形状の基材と、この基材の表側に装着した化粧用の表皮材とからなる表皮装着部材が種々の分野で実用化されている。この表皮装着部材としては、例えば車両の乗員室内に配設される車両内装部材(インストルメントパネル、フロアコンソール、ドアトリム、ピラーガーニッシュ等)が挙げられる。これは、乗員室内の雰囲気や質感の良否に大きく関係する部材であるため、所要形状に成形された合成樹脂製の基材の表側に化粧用の表皮材を装着して質感等を向上させている。ここで表皮材としては、例えば織布製、編布製、合成樹脂製その他本革製等の各種材質が実用化されている。
【0003】
前記表皮装着部材を製造する際は、先ず、前記基材の表面の全体領域よりも適宜大きく裁断した表皮材を、該基材の表面に宛がう。そして、前記基材の端縁から食み出ている余剰の表皮材の端末部分を該基材の裏側に巻き込み、この端末部分を接着剤やタッカー等で基材の裏面に固定する所謂端末処理が行われる。前記基材の端縁が直線的になっている場合は、例えば特許文献1に示すように、表皮材の端末部分を専用の端末処理装置によって自動的に処理する機械化が可能である。しかし、前記基材の湾曲した端縁やコーナー端縁においては、該端縁を基準として表皮材の端末部分を単に巻き込むだけでは表皮材に不定形の皺が寄ってしまうことから、表皮材の端末処理を全て機械化することは一般に難しい。従って、基材のコーナー端縁における表皮材の端末処理は、現場で専ら人手作業によって行われているのが実情である。
【0004】
すなわち、端縁のエッジ部やコーナー部が曲線になっている基材に、表皮材を巻き込んで皺を寄らせることなく接着するには、該表皮材を基材に対し引っ張りテンションを与えた状態で接着を行う必要がある。しかし、基材に対する表皮材に皺が寄らないよう引っ張って緊張させる作業は人手に頼らないと難しく、また場合によっては多数の人手も要して人件費が嵩む難点がある。このように、手作業による基材におけるコーナー等の端縁に対する表皮材の端末処理は非常に手間が掛かり、また作業効率が悪い欠点がある。しかも、作業者の技量によるところが大きいので表皮材の仕上がりが安定せず、得られる表皮装着部材の表面品質にばらつきを生じ易いといった難点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-23841号公報
【文献】特開2017-80948号公報
【文献】実用新案登録第2577021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記基材に表皮材を宛がい、該基材の端縁部で表皮材を裏側へ引っ張りつつ巻き込んでテンションを与え、この状態で該表皮材を基材に溶着する一連の作業を機械化することは一部で実施されている。例えば、特許文献2に示すように、前記基材の端縁部に表皮材を巻き込んでテンションを与えるクランプ手段と、超音波や高周波等の溶着ヘッドからなる溶着手段とを併設した機械装置がこれである。しかし、前記クランプ手段は、基材の端縁部に沿って所要の間隔で多数配設する必要があり、また該端縁部の形状によっては、前記クランプ手段を微妙に進退移動や昇降移動、回転移動させる必要もある。すなわち、基材に対して表皮材を引っ張る方向は様々であるため、その多様な変化にクランプ手段や溶着手段が追従するようにすると機構全体が複雑化し、手間を要すると共に設備費が高騰する欠点がある。
【0007】
そこで出願人は、多軸ロボットのハンドに超音波溶着ホーンの如き溶着ヘッドを取り付け、基材に宛がった表皮材を引っ張ってテンションを与えた状態の下で、該表皮材を基材に超音波溶着することによる機械化を達成した。この溶着装置は、
図5に示すように、大きな自由度が得られる多軸(多関節)ロボットのハンド10に固定したブラケット12に、アクチュエータ16(例えば空気圧シリンダ)を介して溶着ヘッド18(例えば超音波溶着ホーン)を取り付けたものである。すなわち
図5において、前記アクチュエータとして複動式空気圧シリンダ16が倒立状態で前記ブラケット12に固定され、該空気圧シリンダ16から進退自在に延出するピストンロッド20は、その軸線を上方へ指向させている。そして、前記ピストンロッド20の上端に固定治具24を介して超音波発生部22が取り付けられ、この超音波発生部22に設けた前記超音波溶着ホーン18は下方を指向している。従って前記多軸ロボットのハンド10は、前記基材26の端縁部を巻き込んだ表皮材28の端末部分を制御された範囲で自由に移動可能であり、これに伴って該ハンド10に取り付けた超音波溶着ホーン18を前記表皮材28の溶着すべき部位の上方へ到来させることができる。そして、前記空気圧シリンダ16を一方に付勢して前記ピストンロッド20を下降させると、これに伴い超音波溶着ホーン18も下降して表皮材28における溶着部位に接触するので、所望の超音波溶着を行うことができる。
【0008】
また、前記基材26の端縁部を巻き込んだ表皮材28の端末部分を該基材26に対し引っ張ってテンションを与えるには、前記超音波溶着ホーン18により超音波振動を与えるに先立ち、該超音波溶着ホーン18を表皮材28に所要の垂直負荷をもって押し当てた状態で、前記多軸ロボットのハンド10を所要の方向(表皮材28に張力を与える方向)へ水平移動させる。前記超音波溶着ホーン18は表皮材28に垂直な負荷をもって当接しているので、該超音波溶着ホーン18の移動により該表皮材28は基材26に対し引っ張られてテンションが付与される。このテンションが表皮材28に与えられた状態の下に、前記超音波発生部22を電気的に駆動すれば、前記超音波溶着ホーン18によって表皮材28と基材26とを超音波溶着することができる。
【0009】
図5で説明した溶着装置は、基材に対し表皮材を引っ張り該表皮材にテンションを予め付与した状態で超音波溶着をなし得るものであり、人手を低減させると共に製造コストを節減し得る極めて有効な手段である。しかし、基材26の端縁部を巻き込んで該基材26の裏側に宛がわれた表皮材28の端末部分に超音波溶着ホーン18を当接させてから、該表皮材28を引っ張る際には以下の如き難点が浮上する。例えば
図6(a)に示すように、前記表皮材28が宛がわれた基材26の端縁部において、その裏側へ該表皮材28を折り返して巻き付け、この表皮材28の端末部分に超音波溶着ホーン18を当接させる際に、該超音波溶着ホーン18により表皮材28に加えるべき垂直負荷の強弱調節が一般に難しい。すなわち、
図6は超音波溶着ホーン18による垂直負荷が小さ過ぎる場合を示すもので、
図6(a)において前記垂直負荷が充分でないと、
図6(b)に示すように超音波溶着ホーン18を矢印方向へ移動させて表皮材28を引っ張っても、該超音波溶着ホーン18の先端が表皮材28に対し滑ってしまうときがある。このときは、
図6(b)に示すように、前記基材26の端縁部で巻き返した表皮材28の部分にダブ付きによる皺を生じ、得られる製品の品質低下を来たしてしまう。
【0010】
また、超音波溶着ホーン18により表皮材28に加えられる垂直負荷が大きすぎると、
図7(a)に示すように該表皮材28の押え過ぎになってしまう。このため超音波溶着ホーン18を、
図7(b)に示す如く、矢印方向へ移動させた後に超音波溶着を行うと、表皮材28を介して基材26にまで変形や溶着痕を生じたり、その変形個所に対応した表皮材28の表面(化粧面)に熱影響によるホワイトスポットを生じさせたりすることがある。
【0011】
更に、超音波溶着ホーン18の先端を表皮材28に当接させて水平な引っ張り動作を与えると、その引っ張り方向は該超音波溶着ホーン18を支持する前記空気圧シリンダ16に対して直角になる。すなわち微視的には、前記表皮材28に対する超音波溶着ホーン18の引っ張り動作により該超音波溶着ホーン18が傾斜したり、前記空気圧シリンダ16に無理な力が加わって故障し易くなったりする。また、このような無理な状態で行う超音波溶着は、溶着後の表皮装着部材の品質に好ましくない影響を与えることにもなる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決し、所期の目的を達成するため第1の発明は、
基材の端縁部を巻き込んだ表皮材の端末部分を該基材の裏側に溶着する方法であって、
多軸ロボットのハンドに固定した係合体を前記表皮材の溶着部付近に移動させ、該係合体を前記基材に向けて移動させることで該係合体の引っ掛け部を前記表皮材に係合させる工程と、
前記表皮材に係合させた係合体を前記ハンドの動作により移動させて、該表皮材を前記基材に対し引っ張ってテンションを与える工程と、
前記ハンドに固定したアクチュエータに取り付けられて前記係合体の近傍に位置する溶着ヘッドを、該アクチュエータの付勢により前記表皮材の溶着部に接触させ、該溶着ヘッドにより該表皮材を前記基材に溶着する工程とからなることを要旨とする。
この発明によれば、多軸ロボットのハンドに設けた係合体により表皮材を基材に対し引っ張る作業を溶着ヘッドとは独立した係合体で行うので、該溶着ヘッドに無理な力が加わることがない。また、前記係合体で表皮材を引っ張ってから、該係合体の近傍に位置する溶着ヘッドが動作して該表皮材を基材に溶着する一連の工程を機械的に行い得るので、人手作業を大幅に軽減させることができる。
【0013】
前記課題を解決し、所期の目的を達成するため第2の発明は、
基材の端縁部を巻き込んだ表皮材の端末部分を該基材に対し引っ張った状態で、該基材の裏側に溶着する溶着装置であって、
多軸ロボットのハンドに固定したブラケットと、
前記ブラケットに固定され、進退自在に移動する移動体を有するアクチュエータと、
前記アクチュエータの移動体に取り付けられ、前記基材に宛がわれた前記表皮材の端末部分に向けて進退可能な溶着ヘッドと、
前記ハンドのブラケットに固定され、前記溶着ヘッドの外周に位置している係合体と、
前記係合体の先端部に形成され、前記表皮材を係合可能な引っ掛け部とからなり、
前記溶着ヘッドの先端は、常には前記係合体の引っ掛け部より内側に後退して位置していることを要旨とする。
この発明によれば、基材に宛がわれた表皮材の端末部分を該基材に対し引っ張ってテンションを与える作業を溶着ヘッドとは独立してブラケットに固定した係合体で行うことができ、また該表皮材を基材に溶着する作業を簡単に実施することができるため、人手作業を大幅に軽減させることができる。更に、経験と勘とによる熟練作業に頼る程度を減らすことができる。
【0014】
第3の発明では、前記表皮材の端末部分を前記基材の裏側に溶着する際は、前記多軸ロボットの動作により前記係合体の引っ掛け部を前記表皮材の端末部分に係合させてから、該係合体を移動させて該表皮材を前記基材に対し引っ張った後に、前記溶着ヘッドの先端が前記係合体の引っ掛け部よりも前進して前記表皮材の端末部分を前記基材の裏側に溶着することを要旨とする。
【0015】
第4の発明では、前記溶着ヘッドは、超音波溶着ホーンであることを要旨とする。
【0016】
第5の発明では、前記係合体は、前記溶着ヘッドの外周を同軸的に取り囲む中空円筒体であることを要旨とする。
【0017】
第6の発明では、前記アクチュエータは空気圧シリンダであり、前記移動体は該空気圧シリンダに設けたピストンロッドであることを要旨とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、基材の端縁部を巻き込んだ表皮材の端末部分を溶着ヘッドで引っ張ることに代えて、該溶着ヘッドとは別構成で設けた係合体により該表皮材を引っ張るようにしたので、溶着ヘッドそのものや該溶着ヘッドに無理な負荷が加わることがない。また、専用の係合体により表皮材を引っ張るので該表皮材にダブ付きによる皺を生ずることがなく、更に係合体が表皮材に係合した状態で溶着ヘッドによる溶着がなされるから、該表皮材の化粧面にホワイトスポット等を生じさせて見映えを低下させることがない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係る溶着方法を実施するのに使用される溶着装置の実施例を示す概略構成図である。
【
図2】
図1に示す溶着装置において、超音波溶着ホーンと係合体との関係を示す部分断面図であって、(a)は係合体の先端が基材上の表皮材に当接して食い込んでいる状態を示し、(b)は(a)の状態の下で超音波溶着ホーンを前進させて、表皮材にホーンの先端を当接させてから超音波溶着を行っている状態を示している。
【
図3】(a)は
図2(a)の部分拡大図であり、(b)は
図2(b)の部分拡大図である。
【
図4】(a)は
図2に示す中空係合体の側部拡大図であり、(b)は中空係合体および超音波溶着ホーンを先端側からみた端部平面図である。
【
図5】基材の端縁部を巻き込んだ表皮材の端末部分に超音波溶着ホーンを当接させ、該表皮材を基材に対し引っ張ってテンションを付与した状態で超音波溶着を行う溶着装置の概略構成図である。
【
図6】
図5に示す溶着装置における超音波溶着ホーンの引っ張り動作を示す概略図であって、(a)は超音波溶着ホーンが基材上の表皮材に接触した状態を示し、(b)は該超音波溶着ホーンを矢印方向へ移動させた際に、ホーン先端が表皮材に対し滑ってしまい、結果として表皮材にダブつきを生じた状態を示している。
【
図7】
図5に示す溶着装置における超音波溶着ホーンの引っ張り動作を示す概略図であって、(a)は超音波溶着ホーンが基材上の表皮材を強く押え過ぎた状態を示し、(b)は該超音波溶着ホーンを矢印方向へ移動させて表皮材にテンションを付した下で超音波溶着した結果、ホーンの押え過ぎによる製品不良を生じた状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、基材の端縁部を巻き込んだ表皮材の端末部分をテンションの加わった状態で溶着し得る溶着方法と、該溶着方法を好適に実施し得る溶着装置とについて、その実施例を以下に説明する。なお、本発明の実施例では、表皮材の端末部分を基材の裏側に溶着する手段として超音波溶着を採用するものとし、また溶着装置における溶着ヘッドとして超音波溶着ホーンを使用することにしている。しかし、表皮材の端末部分を該基材に溶着する手段としては、超音波溶着以外に高周波溶着や熱プレスによる溶着等を採用してもよい。
【0021】
本発明の実施例に係る溶着装置は超音波溶着装置であって、その基本構造は
図5で説明したところと同じである。従って、同一の構成部材については、同一の符号で指示するものとして、その詳細な説明は省略する。また、前記基材の端縁部を巻き込んだ表皮材の端末部分にテンションを付与して超音波溶着することで得られる表皮装着部材は、ピラーガーニッシュの如き車両内装部材を想定しているが、これに限定されるものでないことは勿論である。ここで表皮内装部材に使用される基材は、例えばポリプロピレン(PP)等の合成樹脂材料からインジェクション成形等によって所定形状になした剛性を有する板状部材である。また表皮材は、車両内装部材の車室側に化粧面として露出するシート材であって、その表層部は例えば合成繊維からなる織布や、ポリウレタンや塩化ビニル系の合成皮革とすることができる。また、裏層部をなす発泡体としては、ポリウレタンフォーム、ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系材料からなるフォーム、或いはスチレンフォーム等を用いることができる。なお、前記裏層部として不織布や織物なども用いることができる。この表皮材は、前記表層部の裏側に裏層部をなす発泡体を発泡成形することで接合したり、接着剤やフレームラミネーション等で接合したりすること等によって、表層部と裏層部とが一体化されている。更に表皮材としては、ポリエステル繊維からなる織布の表層部に、ポリウレタンフォームからなる裏層部を積層したものが、伸縮性および弾力性に優れていて好ましい。
【0022】
図1は、本発明の実施例に係る超音波溶着装置の概略構成を示すものである。前述したように、多軸ロボットのハンド10と、該ハンド10に固定したブラケット12と、該ブラケット12に固定したアクチュエータとしての空気圧シリンダ16と、該空気圧シリンダ16における移動体としてのピストンロッド20と、該ピストンロッド20に固定治具24を介して取り付けた超音波発生部22と、該超音波発生部22に設けた超音波溶着ホーン18とについては、
図5に示した対応の構成部材と同一である。
図1において、前記ハンド10に固定したブラケット12には、前記空気圧シリンダ16が固定されているが、更に該ブラケット12には、係合体30(後述)を支持する第2ブラケット32が固定されて水平に延出している。前記係合体30は、例えば
図2に示すように、先細の中空円筒体からなり、その先端に、
図4に示すように、例えば鋸歯状の切込み(セレーション)からなる引っ掛け部30aが形成されている。この引っ掛け部30aは、前記係合体30を前記表皮材28に当接させた際に該表皮材28へ食い込み、前記ハンド10の動きに伴って該表皮材28を基材26に対し引っ張ってテンションを付与するべく機能する。なお、前記係合体30は前述の如く中空円筒体として構成されているが、これに限定されるものでなく、前記表皮材28に係合した際にスリップし難いものであれば、円筒体以外に多角形筒体や半円筒体など任意の形状が選択される。
【0023】
前記第2ブラケット32に固定した前記係合体(中空体)30は、
図2および
図4(b)から判明する如く、前記超音波溶着ホーン18の外周を取り囲むと共に、該超音波溶着ホーン18と非接触で同軸的に位置している。このように、前記超音波溶着ホーン18と係合体30とは非接触になっているから、該超音波溶着ホーン18は前記空気圧シリンダ16の制御動作の下に、該係合体30とは独立して垂直に前進・後退が可能である。また、
図2(a)および
図3(a)から判明する如く、前記超音波溶着ホーン18の先端は、常には前記係合体30の先端(引っ掛け部30a)より内側に後退した位置で動作を待機している。そして、前記基材26の端縁部を巻き込んだ表皮材28の端末部分に超音波溶着を行う場合は、
図2(b)および
図3(b)に示すように、超音波溶着ホーン18の先端が係合体30の先端である引っ掛け部30aから前進し得るようになっている。
【0024】
次に、本発明の実施例に係る溶着方法の工程を説明する。
図1の実施例に係る溶着装置において前記ハンド10は、多軸ロボットに与えられるプログラム制御の指令により、前記基材26の端縁部を巻き込んだ表皮材28の端末部分に沿って任意に移動可能になっている。このハンド10には、前記ブラケット12(および第2ブラケット32)を介して前記係合体30が取り付けられているから、該ハンド10の動きにより該係合体30も表皮材28の上方を制御された移動が可能である。また、前記ブラケット12に固定した空気圧シリンダ16が空気圧付勢されることで、該空気圧シリンダ16のピストンロッド20は上下に進退移動するので、該ピストンロッド20に取り付けた超音波溶着ホーン18も前記係合体30に対し非接触で昇降移動する。
【0025】
基材26の端縁部を巻き込んだ表皮材28の端末部分における該基材26の裏面上方に前記ハンド10を移動させて、該表皮材28の溶着すべき部位の上方へ前記係合体30を到来させる。このとき、
図2(a)に示すように、前記超音波溶着ホーン18の先端は前記係合体30の先端(引っ掛け部30a)よりも内側に後退している。そして前記ハンド10の動作により前記係合体30を該基材26の裏面に向けて移動させ、該係合体30の前記引っ掛け部30aを、表皮材28における溶着必要部位の周りに所要の圧力で食い込ませる。このように引っ掛け部30aを表皮材28に食い込み係合させてから、
図2(a)の矢印方向(右側)へ前記ハンド10を移動させると、前記係合体30も矢印方向へ移動して前記基材26に対し表皮材28を引っ張ってテンションを付与する。このように基材26に対して表皮材28を引っ張った状態の下で、
図2(b)に示すように、前記空気圧シリンダ16を付勢すると、超音波溶着ホーン18が前記係合体30の内側で表皮材28へ向けて移動して、前記表皮材28に当接する。このタイミングで前記超音波発生部22を電気的に駆動することで、超音波溶着ホーン18による表皮材28の超音波溶着を行う。
【0026】
このように本発明によれば、基材26の端縁部を巻き込んだ表皮材28の端末部分を該基材26に対し引っ張ってテンションを付与する場合に、専ら引っ張り作業にのみ使用される係合体30により表皮材28を引っ張るようにしたので、超音波溶着トーチに代表される溶着ヘッド18には全く負荷を掛けることがない。従って溶着ヘッド18やそのアクチュエータ16に無理な力が加わることがなく、基材26に対する表皮材28の溶着も円滑にできて、得られる表皮装着部材の信頼性が向上する。
【符号の説明】
【0027】
10 ハンド,12 ブラケット,16 空気圧シリンダ(アクチュエータ),
18 超音波溶着ホーン(溶着ヘッド),20 ピストンロッド(移動体),26 基材,
28 表皮材,30 係合体,30a 引っ掛け部