(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】赤外線吸収性樹脂組成物及び赤外線吸収性繊維
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20231013BHJP
C08J 3/22 20060101ALI20231013BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20231013BHJP
C08L 33/14 20060101ALI20231013BHJP
D01F 6/92 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
C08L67/02
C08J3/22 CFD
C08K3/22
C08L33/14
D01F6/92 308F
(21)【出願番号】P 2022512162
(86)(22)【出願日】2021-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2021013112
(87)【国際公開番号】W WO2021200748
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2020064015
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020180495
(32)【優先日】2020-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000162113
【氏名又は名称】共同印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】吉住 渉
(72)【発明者】
【氏名】瀧川 遼
【審査官】越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-132042(JP,A)
【文献】国際公開第2019/160109(WO,A1)
【文献】特開平08-134730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/02
C08L 33/14
C08K 3/22
D01F 6/92
C08J 3/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステン系赤外線吸収性顔料、共重合ポリエチレンテレフタレート、及びポリエチレンテレフタレートホモポリマーを含む、赤外線吸収性樹脂組成物であって、
前記共重合ポリエチレンテレフタレートが、結晶性を有
し、
前記タングステン系赤外線吸収性顔料の含有割合が、前記赤外線吸収性樹脂組成物の全質量を基準として、0.01質量%以上2.00質量%以下であり、
前記共重合ポリエチレンテレフタレートの含有割合が、前記赤外線吸収性樹脂組成物の全質量を基準として、0.3質量%以上50質量%以下であり、
前記ポリエチレンテレフタレートホモポリマーの含有割合が、前記赤外線吸収性樹脂組成物の全質量を基準として、50質量%以上99.5質量%以下であり、かつ、
前記ポリエチレンテレフタレートホモポリマーの含有割合が、共重合ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンテレフタレートホモポリマーの合計質量を基準として、51.3質量%以上99.9質量%以下である、
赤外線吸収性樹脂組成物。
【請求項2】
前記共重合ポリエチレンテレフタレートが、210℃以上240℃以下の融点を有する、請求項1に記載の赤外線吸収性樹脂組成物。
【請求項3】
前記共重合ポリエチレンテレフタレートが、第三モノマーとしてイソフタル酸又はそのエステルに由来する構造を含む、請求項1又は2に記載の赤外線吸収性樹脂組成物。
【請求項4】
前記共重合ポリエチレンテレフタレートが、前記イソフタル酸又はそのエステルに由来する構造を、ジカルボン酸成分の全モル数を基準として、5.0モル%以上30モル%以下の範囲で含む、請求項3に記載の赤外線吸収性樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリエチレンテレフタレートホモポリマーにおける、第三モノマーに由来する共重合成分の量が、前記ポリエチレンテレフタレートホモポリマー中の、ジオール成分及びジカルボン酸成分の合計のモル数を基準として、2.0モル%未満である、請求項1~4のいずれか一項に記載の赤外線吸収性樹脂組成物。
【請求項6】
前記共重合ポリエチレンテレフタレートの含有割合が、赤外線吸収性樹脂組成物の全質量を基準として、0.5質量%以上45質量%以下である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の赤外線吸収性樹脂組成物。
【請求項7】
前記タングステン系赤外線吸収性顔料が、
一般式(1):M
xW
yO
z{式中、Mは、H、He、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、及びIから成る群から選択される1種類以上の元素であり、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、x、y及びzは、それぞれ正数であり、0<x/y≦1であり、かつ2.2≦z/y≦3.0である}で表される複合タングステン酸化物、及び
一般式(2):W
yO
z{式中、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、y及びzは、それぞれ正数であり、かつ2.45≦z/y≦2.999である}で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物
からなる群より選択される、請求項1~
6のいずれか一項に記載の赤外線吸収性樹脂組成物。
【請求項8】
アクリル系高分子である分散剤を更に含む、請求項1~
7のいずれか一項に記載の赤外線吸収性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか一項に記載の赤外線吸収性樹脂組成物を含む、赤外線吸収性繊維。
【請求項10】
請求項1~
8のいずれか一項に記載の赤外線吸収性樹脂組成物を準備すること;及び
前記赤外線吸収性樹脂組成物を溶融紡糸すること
を含む、赤外線吸収性繊維の製造方法。
【請求項11】
前記赤外線吸収性樹脂組成物を準備することが、以下の工程:
前記タングステン系赤外線吸収性顔料と、前記共重合ポリエチレンテレフタレートとを混錬して、赤外線吸収性顔料含有マスターバッチを製造すること;及び
前記赤外線吸収性顔料含有マスターバッチと、前記ポリエチレンテレフタレートホモポリマーとを混錬して、前記赤外線吸収性樹脂組成物を製造すること;
を含む方法によって行われる、請求項
10に記載の赤外線吸収性繊維の製造方法。
【請求項12】
請求項
9に記載の赤外線吸収性繊維を含む、赤外線吸収性生地。
【請求項13】
請求項
12に記載の赤外線吸収性生地を含む、赤外線吸収性衣類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線吸収性樹脂組成物及び赤外線吸収性繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
光を吸収して発熱する性質を有する繊維製品は、公知である。例えば、カーボンブラック等の赤外線吸収性顔料は、赤外線を吸収して発熱する性質を有するため、これを繊維に練り込み、又は塗布することにより、発熱性繊維が得られる。
【0003】
しかし、赤外線吸収性顔料としてカーボンブラックを含む繊維は、カーボンブラックの黒色のために色調が極端に暗くなって、明るい色調の意匠を適用できない問題がある。
【0004】
この点、特許文献1には、赤外線吸収性顔料として、Cs0.33WO3に代表される複合タングステン酸化物微粒子を含有する繊維であって、当該微粒子の含有量が当該繊維の固形分に対して、0.001~80質量%である赤外線吸収性繊維が記載されている。
【0005】
複合タングステン酸化物は、カーボンブラックの黒色と比較すると、色調が明るい。そのため、複合タングステン酸化物含有の繊維製品は、カーボンブラック含有の繊維製品に比べて、意匠面での自由度が大きい利点を有する。
【0006】
なお、特許文献2には、複合タングステン酸化物又はマグネリ相を有するタングステン酸化物の製造方法が記載されている。また、特許文献3には、複合タングステン酸化物を樹脂中に分散させる際に、好適に用いられる分散剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-132042号公報
【文献】特開2005-187323号公報
【文献】特開2008-024902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
繊維製品を構成する素材としては、ポリエステル繊維、特に、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維が多用されている。PETは、強度が高く、耐候性及び耐熱性が高く、染色性がよく、軽量であり、加工性に優れる等の利点を有する。
【0009】
そこで、赤外線吸収性顔料を含有する繊維の素材として、PETを用いることが望まれる。この点、特許文献1には、複合タングステン酸化物微粒子を含有するPET繊維が開示されている。
【0010】
特許文献1に記載された技術によると、複合タングステン酸化物微粒子を含有する繊維は、PET中に、複合タングステン酸化物微粒子を高濃度で含有するマスターバッチ(MB)を調製しておき、該MBと、複合タングステン酸化物微粒子を含有しないPETとの混合物を溶融紡糸することによって得られる。
【0011】
しかしながら、PETのホモポリマーは、Cs0.33WO3等のタングステン系赤外線吸収性顔料の分散性が不良である。したがって、PETホモポリマーとタングステン系赤外線吸収性顔料とを用いて製造された赤外線吸収性繊維は、透明性及び赤外線吸収性が不十分である。PETホモポリマーに代えて、共重合PETを用いることにより、赤外線吸収性顔料の分散性を向上することができるが、共重合PETは、紡糸性が不十分である。
【0012】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、タングステン系赤外線吸収性顔料の分散性、及び紡糸性の双方に優れる、赤外線吸収性樹脂組成物、並びに該赤外線吸収性樹脂組成物から得られ、透明性及び赤外線吸収性の双方に優れる、赤外線吸収性繊維の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下のとおりである。
【0014】
《態様1》タングステン系赤外線吸収性顔料、共重合ポリエチレンテレフタレート、及びポリエチレンテレフタレートホモポリマーを含む、赤外線吸収性樹脂組成物であって、
前記共重合ポリエチレンテレフタレートが、結晶性を有する、
赤外線吸収性樹脂組成物。
《態様2》前記共重合ポリエチレンテレフタレートが、210℃以上240℃以下の融点を有する、態様1に記載の赤外線吸収性樹脂組成物。
《態様3》前記共重合ポリエチレンテレフタレートが、第三モノマーとしてイソフタル酸又はそのエステルに由来する構造を含む、態様1又は2に記載の赤外線吸収性樹脂組成物。
《態様4》前記共重合ポリエチレンテレフタレートが、前記イソフタル酸又はそのエステルに由来する構造を、ジカルボン酸成分の全モル数を基準として、5.0モル%以上30モル%以下の範囲で含む、態様3に記載の赤外線吸収性樹脂組成物。
《態様5》前記ポリエチレンテレフタレートホモポリマーにおける、第三モノマーに由来する共重合成分の量が、前記ポリエチレンテレフタレートホモポリマー中の、ジオール成分及びジカルボン酸成分の合計のモル数を基準として、2.0モル%未満である、態様1~4のいずれか一項に記載の赤外線吸収性樹脂組成物。
《態様6》前記共重合ポリエチレンテレフタレートの含有割合が、前記赤外線吸収性樹脂組成物の全質量を基準として、0.1質量%以上50質量%以下である、態様1~5のいずれか一項に記載の赤外線吸収性樹脂組成物。
《態様7》前記共重合ポリエチレンテレフタレートの含有割合が、赤外線吸収性樹脂組成物の全質量を基準として、0.5質量%以上45質量%以下である、態様1~6のいずれか一項に記載の赤外線吸収性樹脂組成物。
《態様8》前記共重合ポリエチレンテレフタレートの含有割合が、前記共重合ポリエチレンテレフタレート及び前記ポリエチレンテレフタレートホモポリマーの合計質量を基準として、0.5質量%以上20質量%以下である、態様1~7のいずれか一項に記載の赤外線吸収性樹脂組成物。
《態様9》前記タングステン系赤外線吸収性顔料の含有割合が、赤外線吸収性樹脂組成物の全質量を基準として、0.01質量%以上である、態様1~8のいずれか一項に記載の赤外線吸収性樹脂組成物。
《態様10》前記タングステン系赤外線吸収性顔料が、
一般式(1):MxWyOz{式中、Mは、H、He、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、及びIから成る群から選択される1種類以上の元素であり、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、x、y及びzは、それぞれ正数であり、0<x/y≦1であり、かつ2.2≦z/y≦3.0である}で表される複合タングステン酸化物、及び
一般式(2):WyOz{式中、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、y及びzは、それぞれ正数であり、かつ2.45≦z/y≦2.999である}で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物
からなる群より選択される、態様1~9のいずれか一項に記載の赤外線吸収性樹脂組成物。
《態様11》アクリル系高分子である分散剤を更に含む、態様1~10のいずれか一項に記載の赤外線吸収性樹脂組成物。
《態様12》態様1~11のいずれか一項に記載の赤外線吸収性樹脂組成物を含む、赤外線吸収性繊維。
《態様13》態様1~11のいずれか一項に記載の赤外線吸収性樹脂組成物を準備すること;及び
前記赤外線吸収性樹脂組成物を溶融紡糸すること
を含む、赤外線吸収性繊維の製造方法。
《態様14》前記赤外線吸収性樹脂組成物を準備することが、以下の工程:
前記タングステン系赤外線吸収性顔料と、前記共重合ポリエチレンテレフタレートとを混錬して、赤外線吸収性顔料含有マスターバッチを製造すること;及び
前記赤外線吸収性顔料含有マスターバッチと、前記ポリエチレンテレフタレートホモポリマーとを混錬して、前記赤外線吸収性樹脂組成物を製造すること;
を含む方法によって行われる、態様13に記載の赤外線吸収性繊維の製造方法。
《態様15》態様12に記載の赤外線吸収性繊維を含む、赤外線吸収性生地。
《態様16》態様15に記載の赤外線吸収性生地を含む、赤外線吸収性衣類。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、タングステン系赤外線吸収性顔料の分散性、及び紡糸性の双方に優れる、赤外線吸収性樹脂組成物、並びにこの赤外赤外線吸収性樹脂組成物から得られ、透明性及び赤外線吸収性の双方に優れる、赤外線吸収性繊維が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、赤外分光分析及び蓄熱効果の評価の手順を示す、説明図である。
【
図2】
図2は、実施例1、4、及び6、並びに比較例2で得られた編物試料の赤外スペクトルである。
【
図3】
図3は、実施例3で得られた繊維を用いて作製された試験生地を水で濡らしたときの残留水分率の経時変化を、参照生地と対比して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
《赤外線吸収性樹脂組成物》
本発明の赤外線吸収性樹脂組成物は、
タングステン系赤外線吸収性顔料、共重合ポリエチレンテレフタレート、及びポリエチレンテレフタレートホモポリマーを含む、赤外線吸収性樹脂組成物であって、
前記共重合ポリエチレンテレフタレートが、結晶性を有する、
赤外線吸収性樹脂組成物である。
【0018】
〈タングステン系赤外線吸収性顔料〉
タングステン系赤外線吸収性顔料としては、赤外線吸収性用途で用いられるタングステン酸化物系化合物の粒子を挙げることができる。
【0019】
例えば、タングステン系赤外線吸収性顔料としては、一般式(1):MxWyOz{式中、Mは、H、He、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、及びIから成る群から選択される1種類以上の元素であり、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、x、y及びzは、それぞれ正数であり、0<x/y≦1であり、かつ2.2≦z/y≦3.0である}で表される複合タングステン酸化物、及び一般式(2):WyOz{式中、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、y及びzは、それぞれ正数であり、かつ2.45≦z/y≦2.999である}で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物からなら群より選択される1種以上の赤外線吸収性顔料を挙げることができる。
【0020】
タングステン系赤外線吸収性顔料は、例えば、特許文献2(特開2005-187323号公報)に記載されている方法によって、製造することができる。
【0021】
一般式(1)で表される複合タングステン酸化物には、元素Mが添加されている。この為、一般式(1)におけるz/y=3.0の場合も含めて、自由電子が生成され、近赤外光波長領域に自由電子由来の吸収特性が発現し、波長1,000nm付近の近赤外線を吸収する材料として有効である。
【0022】
特に、近赤外線吸収性材料としての光学特性及び耐候性を向上させる観点から、M元素としては、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe及びSnのうちの1種類以上とすることができる。
【0023】
元素Mの添加量を示すx/yの値が0超であれば、十分な量の自由電子が生成され近赤外線吸収効果を十分に得ることができる。元素Mの添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し近赤外線吸収効果も上昇するが、通常はx/yの値が1程度で飽和する。x/yの値が1以下として、顔料含有層中における不純物相の生成を防いでもよい。x/yの値は、0.001以上、0.005以上、0.10以上、0.20以上又は0.30以上であってもよく、0.85以下、0.50以下又は0.35以下であってもよい。x/yの値は、特に0.33とすることができる。
【0024】
一般式(1)及び(2)において、z/yの値は、酸素量の制御の水準を示す。一般式(1)で表される複合タングステン酸化物は、z/yの値が2.2≦z/y≦3.0の関係を満たすので、一般式(2)で表されるタングステン酸化物と同じ酸素制御機構が働くことに加えて、z/y=3.0の場合でさえも元素Mの添加による自由電子の供給がある。一般式(1)において、z/yの値が2.45≦z/y≦3.0の関係を満たすようにしてもよい。
【0025】
一般式(1)で表される複合タングステン酸化物は、六方晶の結晶構造を有するか、又は六方晶の結晶構造からなるとき、赤外線吸収性材料微粒子の可視光波長領域の透過が大きくなり、かつ近赤外光波長領域の吸収が大きくなる。六方晶の空隙に元素Mの陽イオンが添加されて存在するとき、可視光波長領域の透過が大きくなり、近赤外光波長領域の吸収が大きくなる。一般には、イオン半径の大きな元素Mを添加したときに、六方晶が形成される。具体的には、Cs、K、Rb、Tl、In、Ba、Sn、Li、Ca、Sr、Fe等のイオン半径の大きい元素を添加したときに、六方晶が形成され易い。しかしながら、これらの元素に限定されるものではなく、これらの元素以外の元素でも、WO6単位で形成される六角形の空隙に添加元素Mが存在すればよい。
【0026】
六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物が均一な結晶構造を有する場合には、添加元素Mの添加量は、x/yの値で0.2以上0.5以下とすることができ、0.30以上0.35以下とすることができ、特に0.33とすることができる。x/yの値が0.33となることで、添加元素Mが、六角形の空隙の実質的に全てに配置されると考えられる。
【0027】
また、六方晶以外では、正方晶又は立方晶のタングステンブロンズも近赤外線吸収効果がある。これらの結晶構造によって、近赤外光波長領域の吸収位置が変化する傾向があり、立方晶<正方晶<六方晶の順に、吸収位置が長波長側に移動する傾向がある。また、それに付随して可視光波長領域の吸収が少ないのは、六方晶<正方晶<立方晶の順である。このため、可視光波長領域の光をより透過して、近赤外光波長領域の光をより吸収する用途には、六方晶のタングステンブロンズを用いてもよい。
【0028】
一般式(2)で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物において、z/yの値が2.45≦z/y≦2.999の関係を満たす組成比を有する所謂「マグネリ相」は、安定性が高く、近赤外光波長領域の吸収特性も高いため、近赤外線吸収顔料として好適に用いられる。
【0029】
上記のような顔料は、近赤外光波長領域、特に波長1,000nm付近の光を大きく吸収するため、その透過色調が青色系から緑色系となる物が多い。また、そのタングステン系赤外線吸収性顔料の分散粒子径は、その使用目的によって、各々選定することができる。まず、透明性を保持して応用する場合には、体積平均で2,000nm以下の分散粒子径を有していることが好ましい。これは、分散粒子径が2,000nm以下であれば、可視光波長領域での透過率(反射率)のピークと近赤外光波長領域の吸収とのボトムの差が大きくなり、可視光波長領域の透明性を有する近赤外線吸収顔料としての効果を発揮できるからである。さらに分散粒子径が2,000nmよりも小さい粒子は、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光波長領域の視認性を保持し、同時に効率良く透明性を保持することができるからである。
【0030】
さらに可視光波長領域の透明性を重視する場合には、粒子による散乱を考慮することが好ましい。具体的には、タングステン系赤外線吸収性顔料の体積平均の分散粒子径は、200nm以下であることが好ましく、好ましくは100nm以下、50nm以下、又は30nm以下であることがより好ましい。赤外線吸収性材料微粒子の分散粒子径が200nm以下になると、幾何学散乱又はミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になる。レイリー散乱領域では、散乱光は分散粒子径の6乗に反比例して低減するため、分散粒子径の減少に伴い、散乱が低減し透明性が向上する。さらに分散粒子径が100nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。光の散乱を回避する観点からは、分散粒子径が小さい方が好ましい。一方、分散粒子径が1nm以上、3nm以上、5nm以上、又は10nm以上あれば工業的な製造は容易となる傾向にある。ここで、タングステン系赤外線吸収性顔料の体積平均の分散粒子径は、ブラウン運動中の微粒子にレーザー光を照射し、そこから得られる光散乱情報から粒子径を求める動的光散乱法のマイクロトラック粒度分布計(日機装株式会社製)を用いて測定した。
【0031】
本発明の赤外線吸収性樹脂組成物中における、タングステン系赤外線吸収性顔料の含有量は、0.01質量%以上、0.02質量%以上、0.03質量%以上、0.05質量%以上、0.07質量%以上、又は0.10質量%以上であってもよく、2.00質量%以下、1.00質量%以下、0.80質量%以下、0.50質量%以下、0.30質量%以下、又は0.20質量%以下であってもよい。例えば、その含有量は、0.01質量%以上2.00質量%以下、又は0.05質量%以上0.50質量%以下であってもよい。
【0032】
タングステン系赤外線吸収性顔料を、シランカップリング剤で処理することによって、近赤外線吸収性及び可視光波長領域における透明性を高めてもよい。
【0033】
また、タングステン系赤外線吸収性顔料を、分散剤で処理することによって、本発明の赤外線吸収性樹脂組成物中の分散性を高めてもよい。この分散剤は、例えば、アクリル系高分子であってよい。アクリル系高分子としては、例えば、アクリル主鎖と水酸基又はエポキシ基とを有する高分子分散剤を挙げることができる。このような分散剤は、例えば特許文献3(特開2008-024902号公報)に記載されている。
【0034】
分散剤の量は、タングステン系赤外線吸収性顔料100質量部に対して、例えば、10質量部以上、50質量部以上、100質量部以上、200質量部以上、又は300質量部以上であってよく、例えば、1,000質量部以下、800質量部以下、500質量部以下、又は400質量部以下であってよい。
【0035】
タングステン系赤外線吸収性顔料を、シランカップリング剤又は分散剤で処理した場合、当該シランカップリング剤又は分散剤は、本発明の赤外線吸収性樹脂組成物中に含有されることになる。したがって、本発明の赤外線吸収性樹脂組成物は、シランカップリング剤又は分散剤を更に含んでいてよい。
【0036】
〈共重合ポリエチレンテレフタレート〉
本発明の赤外線吸収性樹脂組成物に含まれる共重合ポリエチレンテレフタレートは、結晶性を有する共重合ポリエチレンテレフタレートである。
【0037】
本発明における共重合ポリエチレンテレフタレートは、結晶性を有する。そのため、共重合ポリエチレンテレフタレートを、示差走査熱量分析(DSC)によって測定した場合、融点の明確なピークが観測される。共重合ポリエチレンテレフタレートについて、JIS K7121:2012に準拠して、DSCによって測定した融点は、210℃以上、215℃以上、220℃以上、225℃以上、又は230℃以上であってよく、240℃以下、235℃以下、230℃以下、又は225℃以下であってもよい。共重合ポリエチレンテレフタレートがこのような融点を有することによって、赤外線吸収性樹脂組成物の溶融紡糸性を損なわずに、赤外線吸収性顔料の分散性が向上される。例えば、その融点は、210℃以上240℃以下、又は215℃以上235℃以下であってもよい。このような範囲であれば、揮発成分が発生し難い温度で赤外線吸収性樹脂組成物の加工を行うことができ、赤外線吸収性樹脂組成物の加工時の凹凸の発生、紡糸時の繊維切れ等を抑制し易くなる。
【0038】
本発明の赤外線吸収性樹脂組成物に含まれる共重合ポリエチレンテレフタレートは、0.60dL/g以上の固有粘度を有していてよい。固有粘度は、ポリマーの分子量、分岐度等に関連する物性値であり、本明細書において言及されている固有粘度は、JIS K 7367-5:2000に準拠して、毛細管粘度計によって測定される値である。
【0039】
共重合ポリエチレンテレフタレートの固有粘度は、0.60dL/g以上、0.62dL/g以上、0.65dL/g以上、0.70dL/g以上、0.75dL/g以上、0.80dL/g以上、0.85dL/g以上、0.90dL/g以上、0.95dL/g以上、1.00dL/g以上、又は1.10dL/g以上であってもよく、1.30dL/g以下、1.25dL/g以下、1.20dL/g以下、1.15dL/g以下、1.10dL/g以下、1.05dL/g以下、1.00dL/g以下、0.95dL/g以下、0.90dL/g以下、0.85dL/g以下、0.80dL/g以下、0.75dL/g以下、0.70dL/g以下であってもよい。共重合ポリエチレンテレフタレートがこのような固有粘度を有することによって、タングステン系赤外線吸収性顔料の分散性を高くすることができると考えられる。例えば、その固有粘度は、0.60dL/g以上1.30dL/g以下であってもよく、本発明の赤外線吸収性樹脂組成物を繊維にする場合には、0.60dL/g以上0.80dL/g以下であってよく、特に、0.62dL/g以上0.70dL/g以下であってよい。
【0040】
本発明の赤外線吸収性樹脂組成物において、共重合ポリエチレンテレフタレートを用いることにより、タングステン系赤外線吸収性顔料の分散性が向上する。その理由は定かではないが、本発明者らは、次のように推察している。
【0041】
共重合ポリエチレンテレフタレートは、固有粘度が同値のポリエチレンテレフタレートホモポリマーと比較して、溶融粘度が高い。そのため、赤外線吸収性樹脂組成物を調製するときの混錬において、タングステン系赤外線吸収性顔料に、より強いせん断がかかる。これによって、タングステン系赤外線吸収性顔料の凝集塊を、より細かく解砕することが可能となる。そして、その結果、共重合ポリエチレンテレフタレートを用いたときに、タングステン系赤外線吸収性顔料の分散性が向上すると推察される。なお、共重合ポリエチレンテレフタレートの溶融粘度が高いことは、共重合ポリエチレンテレフタレートが第三モノマーに由来する共重合成分を有していることにより、共重合ポリエチレンテレフタレートの分子骨格の形状が、ホモポリマーとは異なっていることに影響されていると考えられる。
【0042】
本明細書において、共重合ポリエチレンテレフタレートとは、ジオール成分であるエチレングリコールと、ジカルボン酸成分であるテレフタル酸又はそのエステルとだけではなく、第三モノマーを用いて共重合させて得られたポリエチレンテレフタレートをいう。共重合ポリエチレンテレフタレートは、第のモノマーを含むことにより、非晶性になり易いが、本発明で用いられる共重合ポリエチレンテレフタレートは、第のモノマーを含む共重合ポリエチレンテレフタレートの中でも結晶性のものであり、本発明者らは、このような結晶性の共重合ポリエチレンテレフタレートを用いた場合に、有利な効果を発現できることを見出した。
【0043】
ここで、第のモノマーとしては、ジオール成分として、得られるポリエチレンテレフタレートが結晶性でありそれにより本発明の有利な効果が得られる限り特に限定されないが、脂肪族ジオール、例えばプロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、ネオペンチルグリコール;脂環式ジオール、例えば1,4-シクロヘキサンジメタノール;芳香族ジオール、例えばビスフェノールA、ビスフェノールS等又はそれらのエチレンオキサイド付加物;又はこれらのトリオール、例えばトリメチロールプロパンを挙げることができる。これらのジオール成分を、ジオール成分の全モル数を基準として、30モル%以下、25モル%以下、20モル以下、又は15モル%以下、かつ、5.0モル%以上、6.0モル%以上、8.0モル%以上、又は10モル%以上の範囲で用いてもよい。
【0044】
また、第三モノマーとしては、ジカルボン酸成分として、得られるポリエチレンテレフタレートが結晶性でありそれにより本発明の有利な効果が得られる限り特に限定されないが、脂肪族ジカルボン酸、例えばマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、及びアゼライン酸;脂環式ジカルボン酸、例えば1,4-シクロヘキサンジカルボン酸;芳香族ジカルボン酸、例えばフタル酸、イソフタル酸、及び2,6-ナフタレンジカルボン酸;並びにこれらの塩、例えばスルホイソフタル酸ナトリウム、及びこれらのエステルを挙げることができる。これらの中でも特に、第三モノマーとしてイソフタル酸又はそのエステルを用いた共重合ポリエチレンテレフタレートが好ましいことがわかった。これらのジカルボン酸成分を、ジカルボン酸成分の全モル数を基準として、30モル%以下、25モル%以下、20モル以下、又は15モル%以下、かつ、5モル%以上、6モル%以上、8モル%以上、又は10モル%以上の範囲で用いてもよい。
【0045】
赤外線吸収性樹脂組成物中の共重合ポリエチレンテレフタレートの含有割合は、赤外線吸収性樹脂組成物の全質量を基準として、例えば、0.1質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、1.0質量%以上、3.0質量%以上、又は5.0質量%以上であってよく、例えば、50質量%以下、45質量%以下、40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、又は20質量%以下であってよい。例えば、その含有量は、0.1質量%以上50質量%以下、又は1.0質量%以上20質量%以下であってよい。
【0046】
前記共重合ポリエチレンテレフタレートの含有割合は、赤外線吸収性樹脂組成物の全質量を基準として、典型的には例えば、0.5質量%以上45質量%以下であってよい。
【0047】
前記共重合ポリエチレンテレフタレートの含有割合は、共重合ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンテレフタレートホモポリマーの合計質量を基準として、例えば、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1.0質量%以上、2.0質量%以下、3.0質量%以上、4.0質量%、又は5.0質量%以上であってよく、例えば、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、又は15質量%以下であってよい。
【0048】
前記共重合ポリエチレンテレフタレートの含有割合は、共重合ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンテレフタレートホモポリマーの合計質量を基準として、典型的には例えば、0.5質量%以上20質量%以下であってよい。
【0049】
上述したとおり、共重合ポリエチレンテレフタレート中の第三モノマーに由来する構造は、溶融粘度の増大効果を介して、赤外線吸収性樹脂組成物中のタングステン系赤外線吸収性顔料の分散性に関係する。一方で、赤外線吸収性樹脂組成物の溶融粘度が過度に上昇すると、組成物の紡糸特性が損なわれると考えられる。これらの観点から、共重合ポリエチレンテレフタレート中の第三モノマーに由来する共重合成分の含有割合は、赤外線吸収性樹脂組成物中の全質量を基準として、例えば、0.01質量%以上、0.03質量%以上、0.05質量%以上、0.1質量%以上、0.2質量%以上、0.3質量%以上、0.4質量%以上、0.5質量%以上、又は1.0質量%以上であってよく、例えば、10質量%以下、8質量%以下、6質量%以下、5質量%以下、4質量%以下、3質量%以下、又は2質量%以下であってよい。
【0050】
共重合ポリエチレンテレフタレート中の第三モノマーに由来する共重合成分の含有割合は、赤外線吸収性樹脂組成物中の全質量を基準として、典型的には例えば、0.1質量%以上5.0質量%以下であってよい。
【0051】
〈ポリエチレンテレフタレートホモポリマー〉
本発明の赤外線吸収性樹脂組成物に含まれるポリエチレンテレフタレートホモポリマーは、ジオール成分として、実質的にエチレングリコールのみを用い、ジカルボン酸成分として、実質的にテレフタル酸又はそのエステルのみを用いて得られたポリエチレンテレフタレートをいう。このポリエチレンテレフタレートホモポリマーは、第三モノマーに由来する共重合成分を実質的に有さない。
【0052】
すなわち、本発明の赤外線吸収性樹脂組成物に含まれるポリエチレンテレフタレートホモポリマーは、第三モノマーに由来する共重合成分の量が、ポリエチレンテレフタレートホモポリマー中の、ジオール成分及びジカルボン酸成分の合計のモル数を基準として、例えば、2.0モル%未満、1.5モル%以下、1.0モル%以下、0.5モル%以下、若しくは0.1モル%以下であるか、又は第三モノマーに由来する共重合成分を全く含まない。
【0053】
本発明の赤外線吸収性樹脂組成物に含まれるポリエチレンテレフタレートホモポリマーの固有粘度は、0.60dL/g以上0.70dL/g以下であってよい。特に0.62dL/g以上0.64dL/g以下であってよい。
【0054】
本発明の赤外線吸収性樹脂組成物に含まれるポリエチレンテレフタレートホモポリマーについて、JIS K7121:2012に準拠して、DSCによって測定した融点は、240℃超、245℃以上、250℃以上、又は255℃以上であってよく、例えば、270℃以下、265℃以下、260℃以下、255℃以下、又は250℃以下であってもよい。このような融点のポリエチレンテレフタレートホモポリマーを用いることにより、赤外線吸収性樹脂組成物における赤外線吸収性顔料の分散性を損なわずに、良好な溶融紡糸性を確保することができる。ポリエチレンテレフタレートホモポリマーの融点は、典型的には、例えば、250℃以上265℃以下であってよい。
【0055】
赤外線吸収性樹脂組成物中のポリエチレンテレフタレートホモポリマーの含有割合は、赤外線吸収性樹脂組成物の全質量を基準として、例えば、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、75質量%以上、80質量%、85質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上であってよく、例えば、99.9質量%以下、99.5質量%以下、99質量%以下、98質量%以下、95質量%以下、90質量%以下、88質量%以下、又は85質量%以下であってよい。例えば、その含有量は、50質量%以上99.5質量%以下、又は75質量%以上98質量%以下であってよい。
【0056】
前記ポリエチレンテレフタレートホモポリマーの含有割合は、共重合ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンテレフタレートホモポリマーの合計質量を基準として、例えば、55質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、又は85質量%以上であってよく、99.9質量%以下、99.5質量%以下、99.0質量%以下、98.0質量%以下、97.0質量%以下、96.0質量%以下、又は95.0質量%以下であってよい。
【0057】
前記共重合ポリエチレンテレフタレートの含有割合は、共重合ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンテレフタレートホモポリマーの合計質量を基準として、典型的には例えば、80質量%以上99.5質量%以下であってよい。
【0058】
〈他の成分〉
本発明の赤外線吸収性樹脂組成物は、本発明の有利な効果が得られる範囲において、共重合ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンテレフタレートホモポリマー以外に、他の熱可塑性樹脂を更に含有していてもよい。そのような熱可塑性樹脂としては、そのような樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂(ただし、本発明所定の共重合ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンテレフタレートホモポリマーを除く。)、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、及びこれらの誘導体、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0059】
本発明の赤外線吸収性樹脂組成物が、他の熱可塑性樹脂を含有する場合、共重合ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンテレフタレートホモポリマーの含有割合の合計は、共重合ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンテレフタレートホモポリマー、並びに他の熱可塑性樹脂の合計質量を基準として、例えば、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、又は99質量%以上であってよい。
【0060】
本発明の赤外線吸収性樹脂組成物は、本発明の有利な効果が得られる範囲において、更に酸化防止剤、可塑剤、着色剤、顔料、フィラー等の種々の添加剤を含んでいてもよい。
【0061】
《赤外線吸収性組成物の製造方法》
本発明の赤外線吸収性組成物は、任意の方法によって製造されてよい。しかしながら、共重合ポリエチレンテレフタレートの有する、タングステン系赤外線吸収性顔料に対する分散特性を効果的に発現させる観点から、本発明の赤外線吸収性組成物は、例えば、以下の工程:
タングステン系赤外線吸収性顔料と、共重合ポリエチレンテレフタレートとを混錬して、赤外線吸収性顔料含有マスターバッチを製造すること;及び
赤外線吸収性顔料含有マスターバッチと、ポリエチレンテレフタレートホモポリマーとを混錬して、赤外線吸収性樹脂組成物を製造すること;
を含む方法によって製造されてよい。
【0062】
上述の各工程における混錬は、例えば、ニーダー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、ミキシングロール等のバッチ式混練機;二軸押出機、単軸押出機等の連続混練機;等を用いて行われてよい。この混錬は、例えば、200℃以上又は230℃以上、かつ300℃以下又は260℃以下程度の温度で行われてよい。
【0063】
《赤外線吸収性繊維》
本発明の赤外線吸収性繊維は、上記に説明した本発明の赤外線吸収性樹脂組成物を含む。
【0064】
本発明の赤外線吸収性繊維は、本発明の赤外線吸収性樹脂組成物のみから成る繊維であってもよいし、本発明の赤外線吸収性樹脂組成物と、他の樹脂材料との混合物から成る繊維であってもよい。他の樹脂材料は、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂等、及びこれらの誘導体から選択される1種以上であってよい。
【0065】
本発明の赤外線吸収性繊維は、繊維中でタングステン系先外線吸収性顔料を高度に分散させる観点から、共重合ポリエチレンテレフタレート中の第三モノマーに由来する共重合成分を、繊維中の共重合ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンテレフタレートホモポリマーが有する全ジオール成分及び全ジカルボン酸成分の合計のモル数を基準として、0.005モル%以上、0.01モル%以上、0.02モル%以上、0.05モル%以上、又は0.10モル%の範囲で含んでいてよく、3.00モル%以下、2.00モル%以下、1.50モル%以下、1.20モル%以下、又は1.00モル%以下の範囲で含んでいてよい。
【0066】
本発明の赤外線吸収性繊維は、好ましくは、共重合ポリエチレンテレフタレート中のイソフタル酸に由来する共重合成分を、繊維中の共重合ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンテレフタレートホモポリマーが有する全ジカルボン酸成分のモル数を基準として、0.01モル%以上、0.05モル%以上、0.10モル%以上、0.15モル%以上、又は0.20モル%以上、かつ6.00モル%以下、5.00モル%以下、4.00モル%以下、3.50モル%以下、3.25モル%以下、3.00モル%以下、2.75モル%以下、2.50モル%以下、2.25モル%以下、又は2.00モル%以下の範囲で含んでいてよい。
【0067】
本発明の赤外線吸収性繊維は、本発明が所期する赤外線吸収効果を有効かつ効果的に発現する観点から、タングステン系先外線吸収性顔料を、繊維の全質量を基準として、0.01質量%以上、0.03質量%以上、0.05質量%以上、0.07質量%以上、又は0.10質量%以上の範囲で含んでいてよく、2.00質量%以下、1.00質量%以下、0.80質量%以下、0.50質量%以下、0.30質量%以下、又は0.20質量%以下の範囲で含んでいてよい。
【0068】
《赤外線吸収性繊維の製造方法》
本発明の赤外線吸収性繊維は、任意の方法によって製造されてよい。
【0069】
本発明の赤外線吸収性繊維は、例えば、以下の工程:
本発明の赤外線吸収性樹脂組成物を準備すること;及び
この赤外線吸収性樹脂組成物を溶融紡糸すること
を含む方法によって、製造されてよい。
【0070】
この製造方法の第1段階である、赤外線吸収性樹脂組成物を準備する段階は、任意の方法によって行われてよいが、例えば、以下の工程:
タングステン系赤外線吸収性顔料と、共重合ポリエチレンテレフタレートとを混錬して、赤外線吸収性顔料含有マスターバッチを製造すること;及び
得られた赤外線吸収性顔料含有マスターバッチと、ポリエチレンテレフタレートホモポリマーとを混錬して、赤外線吸収性樹脂組成物を製造すること;
を含む方法によって行われてよい。
【0071】
赤外線吸収性樹脂組成物を準備する段階の詳細については、赤外線吸収性組成物の製造方法について上述した説明を援用できる。
【0072】
この製造方法の第2段階である、赤外線吸収性樹脂組成物を溶融紡糸する段階は、赤外線吸収性樹脂組成物を溶融混練すること、及び溶融混練した樹脂組成物を溶融紡糸することを含んでよい。
【0073】
この混練は、例えば、ニーダー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、ミキシングロール等のバッチ式混練機;二軸押出機、短軸押出機等の連続混練機等を用いて行うことができる。混錬は、200℃以上又は230℃以上、かつ300℃以下、290℃以下、又は260℃以下の温度で行われてよい。赤外線吸収性樹脂組成物を溶融紡糸するための溶融混練は、上述の赤外線吸収性樹脂組成物を製造するための混錬と、別個の工程として行われてもよいし、1段階の工程として行われてもよい。
【0074】
《赤外線吸収性生地》
本発明の赤外線吸収性生地は、上記のような本発明の赤外線吸収性繊維を含む。したがって、本発明の赤外線吸収性生地は、タングステン系赤外線吸収性顔料を含む。本明細書における「生地」とは、布帛(織物)、編物、不織布、組物、レース、網等を含む概念である。
【0075】
タングステン系赤外線吸収性顔料は、高い光熱変換性を有しており、赤外線を吸収した場合に、温度が上昇することが知られている。したがって、タングステン系赤外線吸収性顔料を含む本発明の赤外線吸収性生地は、赤外線を吸収した場合に、生地温度が上昇する効果を有する。またその結果、本発明の生地は、濡れたときでも速乾性を有する。また、赤外線カメラを使用した透過撮影を防止する効果(盗撮防止性)も有する。
【0076】
このような特性を活かすために、本発明の赤外線吸収性生地では、使用時に露出する面に、本発明の赤外線吸収性繊維を多く配置させることが好ましい。例えば、緯糸のみに本発明の赤外線吸収性繊維を使用して、3/1綾織りで織った布帛(織物)の場合、本発明の赤外線吸収性繊維が、25%表面に表れている面よりも、75%表面に表れている面を露出面にした方が、温度上昇効果を高くすることができる。
【0077】
本発明の赤外線吸収性生地は、本発明の赤外線吸収性繊維のみから構成されてもよく、本発明の赤外線吸収性繊維を10質量%以上、30質量%以上、50重量%以上、60重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、90重量%以上、又は95重量%以上含んでいてもよく、また98重量%以下、95重量%以下、90重量%以下、80重量%以下、又は70重量%以下で含んでいてもよい。
【0078】
《赤外線吸収性衣類》
本発明によると、更に、上記のような赤外線吸収性生地を含む、赤外線吸収性衣類が提供される。
【0079】
本発明の赤外線吸収性衣類は、本発明の赤外線吸収性生地のみから構成されていてもよいし、本発明の赤外線吸収性生地と、これ以外の生地とから構成されていてもよい。
【実施例】
【0080】
《実施例1》
(1)赤外線吸収性マスターバッチの製造
共重合ポリエチレンテレフタレート(共重合PET)(ジカルボン酸成分の全モル数に対して12モル%のイソフタル酸成分を含む、固有粘度0.62dL/g、融点224℃)87.5質量部、及びタングステン系赤外線吸収性顔料として、分散剤で処理されたセシウム酸化タングステン(CWO(登録商標):YMDS-874、住友金属鉱山(株)製、Cs0.33WO3 23質量%、分散剤75質量%、及びその他(残留溶媒等)2質量%を含有する)12.5質量部(Cs0.33WO3 2.88質量部、及び分散剤9.34質量部に相当)を、二軸押出機((株)神戸製鋼所製、形式名「KTX46」)を用いて混合し、ペレット化して、赤外線吸収性マスターバッチ(MB)を得た。このMB中のCs0.33WO3含量は、2.9質量%である。
【0081】
(2)赤外線吸収性樹脂組成物の調製
上記で得られたMB4.0質量部、及びポリエチレンテレフタレートホモポリマー(ホモPET)として、RE530A(商品名、東洋紡(株)製、第三モノマー成分を含有しないホモPET、固有粘度0.62~0.64dL/g、融点255℃)96.0質量部をドライブレンドした後、マルチフィラメント溶融紡糸装置内で、温度290℃にて溶融混合して、赤外線吸収性樹脂組成物を調製した。この赤外線吸収性樹脂組成物において、MBペレットは、ホモPETによって25倍に希釈されている。また、この赤外線吸収性樹脂組成物中のCs0.33WO3含量は、0.115質量%である。
【0082】
(3)赤外線吸収性樹脂組成物の溶融紡糸
上記に引き続き、マルチフィラメント溶融紡糸装置内で、得られた赤外線吸収性樹脂組成物を、温度290℃、引取速度5,000m/分の条件にて繊維化して、50デニール24フィラメントの繊維(マルチフィラメント)を得た。
【0083】
赤外線吸収性樹脂組成物の紡糸適性を、以下の基準で評価したところ、本実施例で得られた赤外線吸収性樹脂組成物の紡糸適正は「良好」であった。
上記の条件によって、問題なく紡糸できた場合:紡糸適性「良好」
上記の条件によると、糸切れが生じる場合があったが、紡糸が可能であった場合:紡糸適性「可」
上記の条件による紡糸が、不可能であった場合:紡糸適性「不良」
【0084】
(4)繊維の評価
(4-1)引張強さ
得られた繊維の引張強さを、JIS L1015に準拠して、つかみ間隔20mm、引張速度20mm/分の条件にて測定した。その結果、実施例1で得られた繊維の引張強さは、4.78cN/dtexであった。この値が3.0cN/dtex以上であれば、繊維の引張強さは十分に高いと評価できる。
【0085】
(4-2)熱水収縮性
得られた繊維を500mmの長さにカットしたものを試料として、繊維の熱水収縮性を評価した。繊維の試料を沸騰水中に30分間浸漬し、浸漬前後の試料長さを比較して、熱水収縮率を測定した。その結果、実施例1で得られた繊維試料の熱水収縮性は、7.1%であった。この値が10%以下であれば、繊維の耐熱水性は十分に高いと評価できる。
【0086】
(4-3)赤外線吸収性顔料分散性
得られたマルチフィラメント繊維を単繊維にほぐし、そのうちの1本をUV樹脂で包埋した後、ダイアモンドナイフで切削して、薄膜を得た。得られた薄膜を、操作型透過電子顕微鏡(STEM)で観察した。得られたSTEM像からランダムに選択した粒子20個を観察し、粒径100nm以上の粒子の数をしらべて、以下の基準で評価した。
その結果、実施例1で得られた繊維中の赤外線吸収性顔料分散性は「良好」であった。
粒径100nm以上の粒子数が、3個以下であった場合:分散性「良好」
粒径100nm以上の粒子数が、4個以上であった場合:分散性「不良」
【0087】
《実施例2~7、並びに比較例1及び2》
MBの組成、並びにMB及びホモPETの使用量を、それぞれ、表1に記載のとおりに変更して、MBの希釈倍率を、表1に記載のとおりとした他は、実施例1と同様にして、50デニール24フィラメントの繊維(マルチフィラメント)を製造し、各種の評価を行った。
【0088】
比較例1では、ホモPETを使用せず、MBのみを用いて紡糸を行ったが、繊維径がばらつき、また、糸切れ等が起こって、安定的な紡糸を行えず、紡糸適性は「不良」であった。そのため、繊維及び生地の評価は、得られた繊維のうち、比較的良好に紡糸できた部分を選択して行った。
【0089】
比較例2は、MBペレットを使用せず、したがって赤外線吸収性顔料を含まない、ホモPETから成る繊維に関する比較例である。
【0090】
評価結果は、表1に示す。
【0091】
《比較例3》
(1)赤外線吸収性樹脂組成物ペレットの製造
ポリエチレンテレフタレートホモポリマー(ホモPET)である、RE530A(商品名、東洋紡(株)製)97.5質量部、及びタングステン系赤外線吸収性顔料として、分散剤で処理されたセシウム酸化タングステン(CWO(登録商標):YMDS-874、住友金属鉱山(株)製、Cs0.33WO3 23質量%、分散剤75質量%、及びその他(残留溶媒等)2質量%を含有する)2.5質量部(Cs0.33WO3 0.58質量部、及び分散剤1.87質量部に相当)を、バッチ式小型ミキサー((株)東洋精機製作所製、形式名「ラボプラストミル」)を用いて混合し、赤外線吸収性樹脂組成物を得た。この組成物中のCs0.33WO3含量は、0.575質量%である。
【0092】
(2)赤外線吸収性顔料分散性の評価
得られた樹脂組成物を、熱プレス機でシート化し、50μmの厚さを有する赤外線吸収性シートを得た。得られたシートをUV樹脂で包埋した後、ダイアモンドナイフで切削して、薄膜を得た。得られた薄膜を、走査型透過電子顕微鏡(STEM)で観察し、実施例1と同様の基準により、赤外線吸収性顔料の分散状態を評価した。その結果、比較例3で得られた組成物中の赤外線吸収性顔料分散性は「不良」であった。そのため、比較例3については、紡糸、並びに繊維及び生地の評価を行わなかった。
【0093】
表1中の実施例1~7は、赤外線吸収性樹脂組成物中の共重合ポリエチレンテレフタレート含有割合の昇順に記載されている。
【0094】
【0095】
【0096】
上記表1によると、樹脂が共重合PETのみを含み、ホモPETを含まない、比較例1の赤外線吸収性樹脂組成物は、得られる繊維中の赤外線吸収性顔料の分散性は良好であったが、紡糸適性に劣った。一方、樹脂がホモPETのみを含み、共重合PETを含まない、比較例3の赤外線吸収性樹脂組成物は、赤外線吸収性顔料の分散性に劣っていた。
【0097】
これらに対して、樹脂が共重合PET及びホモPET双方を含む、実施例1~7の赤外線吸収性樹脂組成物は、紡糸適性に優れ、かつ、得られる繊維中の赤外線吸収性顔料の分散性にも優れていた。
【0098】
《赤外線照射による蓄熱試験》
実施例1、及び4~7、並びに比較例2でそれぞれ得られた繊維を用いて生地を作製し、赤外線照射による蓄熱効果を調べた。
【0099】
各実施例及び比較例で得られた繊維を丸編み(筒編み)にして、直径70mm(円周の長さ220mm)、長さ100mmの筒状の生地を作製した。この筒状生地を、偏平な矩形につぶして、周壁を構成する生地が2重の試料を作製した。この試料を、試料台上に載せた温度センサ(熱電対)の上に載置した。このとき、温度センサの温度検知部が、試料の矩形の中心に位置するように、試料の載置位置を調整した。
【0100】
出力250Wのレフランプの下に試料台を置き、レフランプの直下に試料の矩形の中心が来るように、位置を調整した。レフランプと試料との距離は、30cmとした。
【0101】
この状態で、レフランプを点灯し、生地温度を経時的に測定した。照射前(レフランプ点灯時)及び点灯10分後の温度を調べた。
【0102】
この蓄熱効果の評価の手順を、
図1に示す。また、評価結果を表2に示す。表2中の実施例1及び4~7は、赤外線吸収性樹脂組成物中のタングステン系赤外線吸収性顔料の含有割合の昇順に記載されている。
【0103】
《赤外分光分析》
上記《赤外線照射による蓄熱試験》にて作製した、偏平矩形の筒状体を、筒状体長さ方向の中心部から2つ折りにして、周壁を構成する生地が4重の試料を用いて、近赤外を含む波長領域の分光分析を行った。この赤外分光分析の評価の手順を、
図1に示す。また、実施例1、4、及び6、並びに比較例2で得られたスペクトルを
図2に示す。
【0104】
【0105】
上記表2によると、タングステン系赤外線吸収性顔料の含有割合が0.014質量%である実施例4の赤外線吸収性樹脂組成物から得られた生地であっても、タングステン系赤外線吸収性顔料を含まない比較例2の生地と比べて、赤外線照射による蓄熱効果に差が見られた。また、実施例1及び4~7の結果から、タングステン系赤外線吸収性顔料の含有割合が多くなるにしたがって、赤外線照射による蓄熱効果は大きくなることが確認された。
【0106】
《乾燥性試験》
実施例3で得られた繊維80重量部、並びにウレタン繊維20重量部を用い、経編にて生地を作製し、灰色に染色した。その後、得られた生地を10cm角にカットしたものを、乾燥性試験用の試験生地試料とした。試験生地試料の目付は240g/m2であった。
【0107】
試験生地試料を水に浸漬して、十分に濡らした。十分に濡れた試験生地試料を、水から引き上げ、余分な水分を除去した後に、日向の室内に静置して試験生地試料の重量を追跡して、残留水分率の経時変化を調べた。
【0108】
ここで、残留水分率とは、静置直後の試験生地試料に含まれる水分量を100重量%としたときの相対値(百分率)である。この乾燥性試験は、温度29.6~34.8℃、湿度15~22%RH、及び照度15,500~21,100ルクスの環境下で行った。
【0109】
また、実施例3で得られた繊維の代わりに、ポリエチレンテレフタレート製の50デニール24フィラメントの繊維(マルチフィラメント)を用いた他は、上記と同様に作製した参照生地(目付240g/mで)の試料を用いて、上記と同様に残留水分率の経時変化を調べた。
【0110】
これらの生地試料の残留水分率の経時変化を
図3に示す。
図3を参照すると、水分率が10重量%になるまでに要した時間は、参照生地試料が160分であったのに対し、実施例3の繊維を用いた試験生地試料は145分であることが分かった。これにより、本発明の赤外線吸収性繊維を含む赤外線吸収性生地が、優れた速乾性を示すことが確認された。