IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ イノピューティクス コーポレーションの特許一覧

特許7366249タウタンパク質の蓄積、凝集及びタングル形成抑制用組成物及びその抑制方法
<>
  • 特許-タウタンパク質の蓄積、凝集及びタングル形成抑制用組成物及びその抑制方法 図1
  • 特許-タウタンパク質の蓄積、凝集及びタングル形成抑制用組成物及びその抑制方法 図2
  • 特許-タウタンパク質の蓄積、凝集及びタングル形成抑制用組成物及びその抑制方法 図3
  • 特許-タウタンパク質の蓄積、凝集及びタングル形成抑制用組成物及びその抑制方法 図4
  • 特許-タウタンパク質の蓄積、凝集及びタングル形成抑制用組成物及びその抑制方法 図5
  • 特許-タウタンパク質の蓄積、凝集及びタングル形成抑制用組成物及びその抑制方法 図6
  • 特許-タウタンパク質の蓄積、凝集及びタングル形成抑制用組成物及びその抑制方法 図7
  • 特許-タウタンパク質の蓄積、凝集及びタングル形成抑制用組成物及びその抑制方法 図8
  • 特許-タウタンパク質の蓄積、凝集及びタングル形成抑制用組成物及びその抑制方法 図9
  • 特許-タウタンパク質の蓄積、凝集及びタングル形成抑制用組成物及びその抑制方法 図10
  • 特許-タウタンパク質の蓄積、凝集及びタングル形成抑制用組成物及びその抑制方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】タウタンパク質の蓄積、凝集及びタングル形成抑制用組成物及びその抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/713 20060101AFI20231013BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20231013BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231013BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20231013BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20231013BHJP
   A61K 35/30 20150101ALI20231013BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20231013BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20231013BHJP
   C12N 5/079 20100101ALI20231013BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
A61K31/713
C12N15/85 Z
C12N5/10
A61K48/00
A61K35/76
A61K35/30
A61P25/00
A61P25/28
C12N5/079
C12N15/12
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022517189
(86)(22)【出願日】2020-09-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-24
(86)【国際出願番号】 KR2020012429
(87)【国際公開番号】W WO2020242279
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-03-16
(31)【優先権主張番号】10-2019-0115466
(32)【優先日】2019-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0106368
(32)【優先日】2020-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521460387
【氏名又は名称】イノピューティクス コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】テギュン・キム
【審査官】井関 めぐみ
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0354688(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/85
C12N 5/10
A61K 48/00
A61K 35/76
A61K 35/30
A61P 25/00
A61P 25/28
A61K 31/7088
C12N 5/079
C12N 15/12
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nurr1及びFoxa2遺伝子が搭載されたベクターを含む、タウタンパク質のリン酸化により引き起こされるタウオパチーの予防又は治療用医薬組成物。
【請求項2】
前記ベクターが、ウイルスベクター又は非ウイルスベクターである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
Nurr1及びFoxa2遺伝子が導入された神経細胞(neurons)又は膠細胞(glia)を含む、タウタンパク質のリン酸化により引き起こされるタウオパチーの予防又は治療用医薬組成物。
【請求項4】
前記膠細胞(glia)が、星状細胞(astrocyte)又は小膠細胞(microglia)である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記タウオパチーが、タウ陽性アルツハイマー病(Tau-positive Alzheimer’s disease)、レビー小体型認知症(Dementia with Lewy Bodies)、前頭側頭型認知症(Frototemporal dementia,FTD)、多発梗塞性認知症(Multi-Infarct Dementia,MID)、前頭側頭葉変性症(frontotemporal lobar degeneration,FTLD)、進行性核上麻痺(Progressive cupranuclear palsy,PSP)、ピック病(Pick’s disease)、慢性外傷性脳症(Chronic traumatic encephalopathy,CTE)、大脳皮質基底核変性症(Corticobasal degeneration,CBD)、球状神経膠タウオパチー(Globular glial tauopathy)、ハンチントン病(Huntington’s disease)、神経節細胞膠腫(ganglioglioma)、神経節細胞腫(gangliocytoma)、原発性加齢性タウオパチー(primary age-related tauopathy:PART)、嗜銀顆粒病(argyrophilic grain disease)、鉛毒性脳症(lead encephalopathy)、リポフスチン沈着症(lipofuscinosis)、リティコ-ボディグ病(Lytico-Bodig disease)、髓膜血管腫症(meningioangiomatosis)からなる群から選ばれる疾患である、請求項1~4のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項6】
Nurr1及びFoxa2遺伝子が搭載されたベクターを含む、タウタンパク質の蓄積、凝集又はタングルにより引き起こされるタウオパチーの予防又は治療用医薬組成物。
【請求項7】
前記ベクターが、ウイルスベクター又は非ウイルスベクターである、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
Nurr1及びFoxa2遺伝子が導入された神経細胞(neurons)又は膠細胞(glia)を含む、タウタンパク質の蓄積、凝集又はタングルにより引き起こされるタウオパチーの予防又は治療用医薬組成物。
【請求項9】
前記膠細胞(glia)が、星状細胞(astrocyte)又は小膠細胞(microglia)である、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記タウオパチーが、タウ陽性アルツハイマー病(Tau-positive Alzheimer’s disease)、レビー小体型認知症(Dementia with Lewy Bodies)、前頭側頭型認知症(Frototemporal dementia,FTD)、多発梗塞性認知症(Multi-Infarct Dementia,MID)、前頭側頭葉変性症(frontotemporal lobar degeneration,FTLD)、進行性核上麻痺(Progressive cupranuclear palsy,PSP)、ピック病(Pick’s disease)、慢性外傷性脳症(Chronic traumatic encephalopathy,CTE)、大脳皮質基底核変性症(Corticobasal degeneration,CBD)、球状神経膠タウオパチー(Globular glial tauopathy)、ハンチントン病(Huntington’s disease)、神経節細胞膠腫(ganglioglioma)、神経節細胞腫(gangliocytoma)、原発性加齢性タウオパチー(primary age-related tauopathy:PART)、嗜銀顆粒病(argyrophilic grain disease)、鉛毒性脳症(lead encephalopathy)、リポフスチン沈着症(lipofuscinosis)、リティコ-ボディグ病(Lytico-Bodig disease)、髓膜血管腫症(meningioangiomatosis)からなる群から選ばれる疾患である、請求項6~9のいずれかに記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タウタンパク質の蓄積、凝集又はタングル形成抑制用組成物に関し、より詳細には、Nurr1及びFoxa2遺伝子を共に、又はNurr1遺伝子を単独で導入して発現を誘導することにより、タウタンパク質の蓄積、凝集又はタングル形成(Tau protein accumulation,aggregation,or tangle formation)を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(Alzheimer’s disease;AD)は、記憶力減退、言語及び認知障害、感情コントロール不足などを症状とする慢性神経退行性疾患である。
【0003】
アルツハイマー病は、神経病理学的に、脳細胞、神経組織及び血管内のプラーク(plaque)の存在、及びタウタンパク質凝集から形成された神経原線維タングル(neurofibrillary tangles,NFT)の存在を特徴とする。アルツハイマー病は、また、アミロイドベータ(amyloid β)凝集体(aggregations)又はプラーク(plaques)の形成及びシナプスの損傷などを特徴とする。アルツハイマー病の原因は完全に知られておらず、その治癒法も現在までは存在していない。アルツハイマー病は認知症の中で最も多く、心血管系疾患及び癌とともに主要な死亡原因となっている。人の平均寿命が増加するに伴って、アルツハイマー病の頻度も増加すると予想される。
【0004】
また、アルツハイマー病患者を管理し治療するのに莫大な費用が発生し、患者の精神的苦痛も相当である。このため、アルツハイマー病患者の効果的な予防及び治療方法が必要な状況である。
【0005】
近年、アルツハイマー病と関連してタウ(Tau)タンパク質への研究に多くフォーカスされている。実際に、脳脊髓液のタウは、アルツハイマー病の前駆期間(prodromal stage)に増加し始め、発病後の病気の進行中には、増加した量が安定して維持される。タウタンパク質が過剰にリン酸化された(hyperphosphorylated)NFTは、発病初期から認められ、その量が病気の進行につれて次第に増加する。すなわち、タウ媒介の神経細胞損傷と機能異常(Tau-mediated neuronal injury and dysfunction)は、アルツハイマー病の症状を示す大部分の患者に見られる病理的所見である。また、NFTは、ADの他にも、前頭側頭型認知症(Frototemporal dimentia FTD)、進行性核上麻痺(Progressive cupranuclear palsy,PSP)、ピック病(Pick’s disease)、慢性外傷性脳症(Chronic traumatic encephalopathy,CTE)などの別のタウオパチー(tauopathy)のバイオマーカーでもあり、それらの疾病に対する治療剤も開発されていない実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明者らは、転写因子Nurr1及びFoxa2を共に、又はNurr1を単独で導入して脳細胞に発現させる時に、タウタンパク質の蓄積、凝集又はタングル(tangle)を抑制することを実験的に究明し、本発明を完成するに至った。特に、Nurr1が活性化補助因子(coactivator)であるFoxa2と組み合わせて発現した時に、シナジー効果により、強力なタウタンパク質蓄積、凝集又はタングル抑制効果があることを確認した。他の具体例として、Nurr1が単独で発現した時にも、タウタンパク質を阻害する実質的な効果を有することが発見された。
【0007】
したがって、本発明の目的は、Nurr1及びFoxa2、又はNurr1遺伝子が搭載されたベクターを含む、タウタンパク質蓄積、凝集又はタングル形成抑制用組成物を提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、Nurr1及びFoxa2、又はNurr1遺伝子が単独で導入された神経細胞(neurons)又は膠細胞(glia)を含む、タウタンパク質蓄積、凝集又はタングル抑制用組成物を提供することである。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、Nurr1及びFoxa2、又はNurr1遺伝子が搭載されたベクターを含む、タウタンパク質リン酸化抑制用組成物を提供することである。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、Nurr1及びFoxa2遺伝子、又はNurr1遺伝子が導入された神経細胞(neurons)又は膠細胞(glia)を含む、タウタンパク質リン酸化抑制用組成物を提供することである。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、Nurr1及びFoxa2遺伝子、又はNurr1遺伝子が搭載されたベクターを含む、タウタンパク質蓄積、凝集又はタングル形成によって発病する疾患の予防又は治療用組成物を提供することである。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、Nurr1及びFoxa2、又はNurr1遺伝子が導入された神経細胞(neurons)又は膠細胞(glia)を含む、タウタンパク質蓄積、凝集又はタングル形成によって発病する疾患の予防又は治療用組成物を提供することである。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、Nurr1及びFoxa2遺伝子、又はNurr1遺伝子が搭載されたベクターを含む、タウオパチー予防又は治療用薬剤学的組成物を提供することである。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、Nurr1及びFoxa2遺伝子、又はNurr1遺伝子が導入された神経細胞(neurons)又は膠細胞(glia)を含む、タウオパチー予防又は治療用薬剤学的組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、タウオパチーの主要原因として知られたタウタンパク質の蓄積、凝集又はタングル抑制のための方法について鋭意研究努力した。その結果、Nurr1及びFoxa2遺伝子を共に、又はNurr1遺伝子を単独で導入して発現させた場合に、タウタンパク質蓄積、凝集又は神経原線維タングル形成抑制効果、タウタンパク質リン酸化抑制効果があることを究明した。
【0016】
本発明の一態様によれば、本発明は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が搭載されたベクターを含む、タウタンパク質凝集抑制用組成物を提供する。
【0017】
本発明の他の様態によれば、本発明は、Nurr1遺伝子が搭載されているが、Foxa2遺伝子は搭載されていないベクターを含む、タウタンパク質蓄積、凝集又はタングル形成抑制用組成物を提供する。
【0018】
本発明のさらに他の様態によれば、本発明は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が導入された神経細胞(neurons)又は膠細胞(glia)を含む、タウタンパク質蓄積、凝集又はタングル形成抑制用組成物を提供する。
【0019】
本発明のさらに他の様態によれば、本発明は、Nurr1遺伝子が導入された神経細胞(neurons)又は膠細胞(glia)を含む、タウタンパク質蓄積、凝集又はタングル形成抑制用組成物を提供する。
【0020】
本発明のさらに他の様態によれば、本発明は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が搭載されたベクターを含む、タウタンパク質リン酸化抑制用組成物を提供する。
【0021】
本発明のさらに他の様態によれば、本発明は、Nurr1遺伝子が搭載されたベクターを含む、タウタンパク質リン酸化抑制用組成物を提供する。
【0022】
本発明のさらに他の様態によれば、本発明は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が導入された神経細胞(neurons)又は膠細胞(glia)を含む、タウタンパク質リン酸化抑制用組成物を提供する。
【0023】
本発明のさらに他の様態によれば、本発明は、Nurr1遺伝子が導入された神経細胞(neurons)又は膠細胞(glia)を含む、タウタンパク質リン酸化抑制用組成物を提供する。
【0024】
本発明のさらに他の様態によれば、本発明は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が搭載されたベクターを含む、タウタンパク質蓄積、凝集又はタングル形成によって発病する疾患の予防又は治療用組成物を提供する。
【0025】
本発明のさらに他の様態によれば、本発明は、Nurr1遺伝子が搭載されたベクターを含む、タウタンパク質蓄積、凝集又はタングル形成によって発病する疾患の予防又は治療用組成物を提供する。
【0026】
本発明のさらに他の様態によれば、本発明は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が導入された神経細胞(neurons)又は膠細胞(glia)を含む、タウタンパク質蓄積、凝集又はタングル形成によって発病する疾患の予防又は治療用組成物を提供する。
【0027】
本発明のさらに他の様態によれば、本発明は、Nurr1遺伝子が導入された神経細胞(neurons)又は膠細胞(glia)を含む、タウタンパク質蓄積、凝集又はタングル形成によって発病する疾患の予防又は治療用組成物を提供する。
【0028】
本発明のさらに他の様態によれば、本発明は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が搭載されたベクターを含む、タウオパチー予防又は治療用薬剤学的組成物を提供する。
【0029】
本発明のさらに他の様態によれば、本発明は、Nurr1遺伝子が搭載されたベクターを含む、タウオパチー予防又は治療用薬剤学的組成物を提供する。
【0030】
本発明のさらに他の様態によれば、本発明は、Nurr1又はFoxa2遺伝子が導入された神経細胞(neurons)又は膠細胞(glia)を含む、タウオパチー予防又は治療用薬剤学的組成物を提供する。
【0031】
本発明のさらに他の様態によれば、本発明は、Nurr1遺伝子が導入された神経細胞(neurons)又は膠細胞(glia)を含む、タウオパチー予防又は治療用薬剤学的組成物を提供する。
【0032】
本発明の一具体例によれば、前記タウオパチーは、タウ陽性アルツハイマー病(Tau-positive Alzheimer’s disease)、レビー小体型認知症(Dementia with Lewy Bodies)、前頭側頭型認知症(Frototemporal dementia,FTD)、多発梗塞性認知症(Multi-Infarct Dementia,MID)、前頭側頭葉変性症(frontotemporal lobar degeneration,FTLD)、進行性核上麻痺(Progressive cupranuclear palsy,PSP)、ピック病(Pick’s disease)、慢性外傷性脳症(Chronic traumatic encephalopathy,CTE)、大脳皮質基底核変性症(Corticobasal degeneration,CBD)、球状神経膠タウオパチー(Globular glial tauopathy)、ハンチントン病(Huntington’s disease)、神経節細胞膠腫(ganglioglioma)、神経節細胞腫(gangliocytoma)、原発性加齢性タウオパチー(primary age-related tauopathy,PART)、嗜銀顆粒病(argyrophilic grain disease)、鉛毒性脳症(lead encephalopathy)、リポフスチン沈着症(lipofuscinosis)、リティコ-ボディグ病(Lytico-Bodig disease)、髓膜血管腫症(meningioangiomatosis)からなる群から選ばれる疾患であり、これに限定されない。
【0033】
本発明は、Nurr1遺伝子と共にFoxa2遺伝子を、タウオパチーの一種であるアルツハイマー病の予防及び治療に使用することができる。Nurr1及びFoxa2の導入、又はNurr1単独導入による発現は、アルツハイマー病の病理的症状を緩和させることが発見された。前記病理的症状は、(1)タウタンパク質蓄積、(2)ベータアミロイド蓄積、(3)脳細胞老化、(4)シナプス損失、(5)末梢免疫細胞蓄積、を含む。また、Nurr1及びFox2を共に、又はNurr1単独を発現させると、脳細胞を神経栄養化し、タウオパチーの一種であるアルツハイマー病の予防及び治療効果を奏する。
【0034】
一方、本発明の方法の一具体例において、「Nurr1及びFoxa2を導入(形質導入)する」ということは、これらの両遺伝子をコードする核酸を脳細胞に共に導入することを指す。両遺伝子はそれぞれ個別に又は同時に導入されてよい。
【0035】
本発明の方法において「Nurr1導入(形質導入)する」ということは、Nurr1遺伝子をコードする核酸を脳細胞に導入することを指す。
【0036】
脳細胞にNurr1及び/又はFoxa2をコードする遺伝子を導入するために、DNA-カルシウム沈殿法、リポソームを用いる方法、ポリアミン系列を使用する方法、エレクトロポレーション法(electroporation)、レトロウイルスを用いる方法、アデノウイルスを用いる方法、アデノ随伴ウイルス(AAV)などを用いる方法など、当分野に公知された遺伝子の細胞内導入技術方法が用いられてよい。
【0037】
Nurr1及び/又はFoxa2を搭載するとき、ウイルスベクター又は非ウイルスベクターを使用することができる。ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レトロウイルス、及び/又はレンチウイルスなどがある。非ウイルスベクターは、RNA分子、プラスミド、リポソーム複合体、分子結合体(molecular conjugates)、及び/又は遺伝子はさみ(scissor)タンパク質(CRISPR,例えばCas9)などがある。したがって、本発明に係るNurr1及び/又はFoxa2導入は、一具体例として、Nurr1及びFoxa2をコードする核酸を、個別の発現ベクター又は単一の発現ベクターに挿入させた後、それを脳細胞に導入することを含む。
【0038】
Nurr1及び/又はFoxa2を発現させる具体例において、遺伝子編集技術を用いることができ、遺伝子編集技術とは、生命体の遺伝情報を自由に矯正し、目的とする遺伝形質を示させるものであり、遺伝子編集技術に利用可能なシステムとして、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、及びクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(Clustered regularly interspaced short palindromic repeat)/CRISPR結合プロテイン9(CRISPR/Cas9)などがある。
【0039】
本発明において、用語「RNAガイドヌクレアーゼ」とは、目的とするゲノム上の特定位置を認識して切断できるヌクレアーゼで、特に、ガイドRNAによって標的特異性を有するヌクレアーゼのことを指す。前記RNAガイドヌクレアーゼは、これに制限されるものではないが、具体的に、微生物兔疫体系であるCRISPRに由来するCasタンパク質であり、より具体的に、Cas9(CRISPR-Associated Protein 9)ヌクレアーゼ(nuclease)及びその変異体であるCas9ニッカーゼ(nickase)を含むことができる。
【0040】
本発明において、用語「Casタンパク質」は、CRISPR/Casシステムの主要タンパク質構成要素であり、活性化されたエンドヌクレアーゼとして作用可能なタンパク質である。前記Casタンパク質は、CRISPR RNA(crRNA)及びトランス活性化型CRISPR RNA(tracrRNA)と複合体を形成してそれの活性を示すことができる
【0041】
前記Cas9ヌクレアーゼは、ヒト細胞をはじめとする動植物細胞のゲノムにおいて特定の塩基配列を認識して二重鎖切断(double strand break,DSB)を起こす。前記二重鎖切断は、DNAの二重鎖を切って平滑末端(blunt end)又は粘着末端(cohesive end)を作る全てのことを含む。DSBは、細胞内で相同組換え(homologous recombination)又は非相同再接合(non-homologous end-joining,NHEJ)機序により効率的に修繕されるが、この過程で、研究者が所望する変異を標的箇所に導入することができる。前記RNAガイドヌクレアーゼは、人工的な、或いは操作された非自然的に発生した(non-naturally occurring)ものであり得る。
【0042】
前記Cas9ニッカーゼは、その触媒的ドメインのうち1個に1個以上の突然変異を含むが、ここで、前記1個以上の突然変異は、RuvCドメイン内のD10A、E762A及びD986Aからなる群から選択されるか、又は前記1個以上の突然変異は、HNHドメイン内のH840A、N854A及びN863Aからなる群から選ばれる。前記Cas9ニッカーゼは、Cas9ヌクレアーゼとは違い、単鎖切断(single strand break)を起こす。したがって、Cas9ニッカーゼが作動するためには、2つのガイドRNAが用いられ、対(pair)として機能する。前記2つのガイドRNAは、それぞれの標的配列に対してCRISPR複合体の配列特異的結合を指示し、各標的配列近傍のDNAデュプレックスの一方の鎖の切断を指示し、異なるDNA鎖に2つのニック(nick)を誘導することができる。
【0043】
Casタンパク質又は遺伝子情報は、NCBI(National Center for Biotechnology Information)のGenBankのような公知のデータベースから得ることができる。具体的に、前記Casタンパク質は、Cas9タンパク質であってよい。また、前記Casタンパク質は、これに制限されるものではないが、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ネイセリア(Neisseria)属、パスツレラ(Pasteurella)属、フランシセラ(Francisella)属、カンピロバクター(Campylobacter)属由来のCasタンパク質でよく、より具体的に、スタフィロコッカス属Cas9タンパク質でよい。ただし、前述の例に本発明が制限されるものではない。本発明において、前記Casタンパク質は組換えタンパク質でよい。
【0044】
前記Nurr1及び/又はFoxa2をコードする各核酸は、当業界に公知の通り、Nurr1及びFoxa2をコードする塩基配列を有するものであればいずれも使用可能である。また、前記核酸は、Nurr1及び/又はFoxa2の各機能的同等物をコードする塩基配列を有することができる。機能的同等物とは、Nurr1及び/又はFoxa2のアミノ酸配列と少なくとも60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上の配列相同性(又は、同一性)を有するポリペプチドのことを指す。例えば、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、100%の配列相同性を有するポリペプチドを含む。前記機能的同等物は、アミノ酸配列の一部が付加、置換又は欠失して生成されたものでよい。アミノ酸の欠失又は置換は、好ましくは、本発明のポリペプチドの生理活性に直接関連していない領域に位置している。
【0045】
また、Nurr1及び/又はFoxa2タンパク質をコードする核酸は、当業界に公知の遺伝子組換え方法によって製造されてよい。例えば、ゲノムから核酸を増幅させるためのPCR増幅法、化学的合成法、又はcDNA配列を製造する技術がある。
【0046】
前記Nurr1及び/又はFoxa2をコードする核酸は、発現調節配列に作動可能に連結され、発現ベクター内に挿入されてよい。「作動可能に連結される(operably linked)」とは、一つの核酸断片が他の核酸断片と結合し、それの機能又は発現が、他の核酸断片から影響を受けることを指す。また、発現調節配列(expression control sequence)とは、特定の宿主細胞において作動可能に連結された核酸配列の発現を調節するDNA配列を意味する。このような調節配列は、転写を開始するためのプロモーター、転写を調節するための任意のオペレーター配列、適切なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、及び転写及び翻訳の終結を調節する配列を含む。これらを総じて「Nurr1及び/又はFoxa2をコードする核酸を含むDNA構築物(DNA construct)」と表現することもできる。
【0047】
「発現ベクター」とは、構造遺伝子をコードする核酸が挿入されてよく、宿主細胞内で前記核酸を発現可能な、当業界に公知のプラスミド、ウイルスベクター又はその他媒介体を意味する。一具体例において、ウイルスベクターであってよい。前記ウイルスベクターには、これに制限されないが、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、ヘルペスウイルスベクター、アビポックスウイルスベクター、レンチウイルスベクターなどがある。特に、アデノ随伴ウイルス(AAV)又はレンチウイルスを用いる方法が好ましい。
【0048】
前記アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、特定の細胞に、ウイルスを生産可能な材料を導入して作製されたものであり、レンチウイルスベクターも、特定の細胞株にウイルスが生産可能となるように様々な段階を経て作製されたものである。遺伝子療法のためのアデノ随伴ウイルス(AAV)又はレンチウイルスベクターの主要長所は、効率性と安全性である。
【0049】
本発明に係る核酸を含む発現ベクターは、当業界に公知の方法、例えば、これに限定されないが、一過性トランスフェクション(transient transfection)、微細注射、形質導入(transduction)、細胞融合、リン酸カルシウム沈殿法、リポソーム媒介されたトランスフェクション(liposome-mediated transfection)、DEAEデキストラン媒介されたトランスフェクション(DEAE Dextran- mediated transfection)、ポリブレン媒介されたトランスフェクション(polybrene-mediated transfection)、電気穿孔法(electroporation)、遺伝子銃(gene gun)、及び細胞内に核酸を流入させるための他の公知の方法により、脳細胞内に導入可能である。例えば、Nurr1及び/又はFoxa2をAAV又はレンチウイルスベクターに挿入して発現ベクターを作製した後、このベクターをパッケージング(packaging)細胞に形質導入し、形質導入されたパッケージング細胞を培養後に濾過してAAV又はレンチウイルス溶液を得、これを用いて脳細胞、神経細胞及び/又は神経前駆細胞を感染させることにより、脳細胞にNurr1及び/又はFoxa2遺伝子を導入することができる。次いで、前記AAV又はレンチウイルスベクターに含まれた選別マーカーを用いて、Nurr1及び/又はFoxa2を単独発現又は同時発現することを確認した後、所望の脳細胞を得ることができる。
【0050】
一具体例として、Nurr1及びFoxa2が導入されて発現する脳細胞は、下記の段階を含む製造方法によって製造することができる:
【0051】
(a)Nurr1及びFoxa2をコードする核酸を含むDNA構築物を含む組換えウイルスベクターを構築する段階;
【0052】
(b)前記組換えウイルスベクターをウイルス生産細胞株にトランスフェクションし、Nurr1及びFoxa2発現組換えウイルスを製造する段階;及び
【0053】
(c)前記Nurr1及びFoxa2発現組換えウイルスに脳細胞を感染させる段階。
【0054】
まず、Nurr1及びFoxa2をコードする核酸を含むDNA構築物は、上述の通りに製造される。
【0055】
一具体例として、本発明に係るNurr1が導入されて発現する脳細胞は、下記の段階を含む製造方法によって製造されてよい:
【0056】
(a)Nurr1をコードする核酸を含むDNA構築物を含む組換えウイルスベクターを構築する段階;
【0057】
(b)前記組換えウイルスベクターをウイルス生産細胞株にトランスフェクションし、Nurr1発現組換えウイルスを製造する段階;及び
【0058】
(c)前記Nurr1発現組換えウイルスで脳細胞を感染させる段階。
【0059】
Nurr1及び/又はFoxa2をコードする核酸を含むDNA構築物も、上述の通りに製造されてよい。
【0060】
前記DNA構築物を、発現調節配列、例えばプロモーターに作動可能に連結し、当業界に公知のウイルスベクターに挿入させて、組換えウイルスベクターを製造する。その後、Nurr1及び/又はFoxa2をコードする核酸を含む組換えウイルスベクターを、ウイルス生産細胞株に導入し、Nurr1及び/又はFoxa2を発現させる組換えウイルスを製造する。前記ウイルス生産細胞株は、使用したウイルスベクターに対応するウイルス生産細胞株を使用することができる。その後、Nurr1及びFoxa2、又はNurr1を発現させる組換えAAV又はレンチウイルスを脳細胞に感染させる。これは、当業界に公知の任意の方法によって行われてよい。
【0061】
本発明に係るNurr1及び/又はFoxa2タンパク質を発現する脳細胞は、当業界に公知の任意の方法によって増殖及び培養されてよい。
【0062】
本発明の脳細胞は、目的の脳細胞タイプの生存又は増殖を助ける培養液内で培養される。しばしば、血清の代わりに遊離アミノ酸により栄養を供給する培養液を使用することが好ましい。脳細胞の持続した培養のために開発された添加剤を培養液に補充することが好ましい。例えば、Gibco社から市販されるN2培地及びB27添加剤、ウシ血清などがある。培養の際、培地と細胞の状態を観察しながら培地を交換することが好ましい。このとき、脳細胞が増殖し続けて集合し、神経球(neurospheres)を形成すると、継代培養するものであり得る。継代培養は、特定の方法(protocol)及び観測された細胞成長特徴によって約7~8日ごとに実施可能である。
【0063】
一方、Nurr1及び/又はFoxa2が脳細胞に導入されて発現すると、(1)ベータアミロイド蓄積、(2)タウタンパク質蓄積、(3)脳細胞老化、(4)シナプス損失、(5)末梢免疫細胞蓄積のような、タウオパチーの一種であるアルツハイマー病の病理的症状を緩和させ、また、脳細胞を神経栄養化し、タウオパチーの一種であるアルツハイマー病の予防及び治療を助ける。Nurr1及びFoxa2、又はNurr1が発現する際、脳細胞においてタウオパチーの一種であるアルツハイマー病の病理的症状を緩和させ、タウオパチーの一種であるアルツハイマー病の予防及び治療に効果を示す。
【0064】
また、本発明は、別の態様において、Nurr1及びFoxa2が導入された脳細胞のタウオパチーの治療のための用途を提供する。
【0065】
また、本発明は、別の態様において、Nurr1が導入された脳細胞のタウオパチーの治療のための用途を提供する。
【0066】
例えば、これらの細胞は、治療しようとする疾患又は状態に応じて、黒質部位にFoxa2及びNurr1、又はNurr1が導入された脳細胞を直接導入することにより、治療に使用することができる。また、Foxa2及びNurr1、又はNurr1が導入された脳細胞を、治療学的有効量で含有する組成物の形態で投与又は移植することにより、治療に使用することができる。そして、本発明は、タウオパチーの治療方法も含む。
【0067】
本発明の一態様として、Foxa2及びNurr1、又はNurr1が導入された脳細胞を有効成分として含有する、タウタンパク質蓄積、凝集、又はNFLによって発病する疾患(例えば、アルツハイマー病など)の予防又は治療用組成物、遺伝子治療剤又は細胞治療剤に関する。
【0068】
本発明の遺伝子治療剤又は細胞治療剤は、タウタンパク質及び/又はベータアミロイド蓄積を防ぎ、神経細胞及び膠細胞を含む脳細胞を損傷から保護し、記憶関連神経細胞が補充(再生)又は再構築(復元)されるようにする。
【0069】
「再生(regeneration)」とは、形成された器官又は個体の一部が喪失されたとき、その部分が補充される現象であり、「復元」とは、「再構成(reconstitution)」とも呼ぶことができ、これは、組織の再構築を意味するもので、一旦解離した細胞又は組織から組織又は器官を再び構築することを指す。
【0070】
本発明の組成物又は細胞治療剤は、投与方式に応じて、許容可能な担体を含み、適切な製剤とすることができる。投与方式に適する製剤は公知であり、典型的には、膜を通過し、移動を容易にさせる製剤を含むことができる。
【0071】
また、本発明の組成物は、通常の医薬品製剤の形態で使用されてよい。非経口用製剤は、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤又は凍結乾燥製剤で調製することができる。経口投与の場合には、錠剤、トローチ、カプセル、エリキシル、懸濁液、シロップ又はウエハーなどの形態で調製できる。注射剤の場合には、単位投薬アンプル又は多回投薬の形態で調製できる。また、本発明の治療用組成物は、薬学的に許容される担体と共に投与されてよい。例えば、経口投与の場合には、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、賦形剤、可溶化剤、分散剤、安定化剤、懸濁剤、色素又は香料などを使用することができ、注射剤の場合には、緩衝剤、保存剤、無痛化剤、可溶化剤、等張剤、安定化剤などを混合して使用することができ、局所投与の場合には、基剤、賦形剤、潤滑剤、保存剤などを使用することができる。
【0072】
また、本発明の治療用組成物を用いてタウオパチーを治療する方法は、適切な方法で対象又は患者に所定の物質が導入される一般的な経路を通じて投与することを含むことができる。前記投与方法には、脳内投与、脳室内投与、脊椎腔投与、腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経口投与、局所投与、鼻腔内投与、肺内投与及び直腸内投与があるが、これに制限されない。ただし、経口投与時に、細胞が消化されることがあるため、経口用組成物は、活性薬剤をコーティングするか、或いは胃で分解されることから保護するために剤形化することが好ましい。
【0073】
また、製薬組成物は、活性物質が標的細胞に移動できる任意の装置によって投与されてよい。好ましい投与方式及び製剤は、定位システム(Stereotactic System)を用いた海馬注射剤、脳室注射剤、脳脊髄液注射剤、静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤又は点滴注射剤などである。注射剤は、生理食塩水又はリンゲル液などの水性溶剤、植物油、高級脂肪酸エステル(例えば、オレイン酸エチルなど)、アルコール類(例えば、エタノール、ベンジルアルコール、プロピレングリコール又はグリセリンなど)などの非水性溶剤などを用いて製造でき、変質防止のための安定化剤(例えば、アスコルビン酸、亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、BHA、トコフェロール、EDTAなど)、乳化剤、pH調整のための緩衝剤、微生物発育を阻止するための保存剤(例えば、硝酸フェニル水銀、チメロサール、塩化ベンザルコニウム、フェノール、クレゾール、ベンジルアルコールなど)などの薬剤学的担体を含むことができる。好ましくは、本発明の治療用組成物を用いてタウオパチーを治療する方法は、本発明の治療用組成物を薬学的有効量で投与することを含む。前記薬学的有効量は、疾患の種類、対象(患者)の年齢、体重、健康、性別、対象(患者)の薬物に対する敏感度、投与経路、投与方法、投与回数、治療期間、配合又は同時使用される薬物などの、医学分野によく知られた要素によって、当業者が容易に決定できる。
【0074】
また、本発明の他の態様として、前述したFoxa2及びNurr1、又はNurr1が導入された脳細胞を含有する組成物を治療学的有効量で病変部位に直接移植することを含む、タウタンパク質蓄積、凝集、及びタングルによって発病する疾患(例えば、アルツハイマー病など)の治療方法に関する。移植及び細胞培養の方法は、当業者に広く知られた公知の方法を用いることができる。
【0075】
前記細胞の「治療学的有効量」は、タウオパチーによって誘発される対象又は患者の生理学的効果を中止又は軽減させるのに十分な量である。使用された細胞の治療学的有効量は、対象(患者)の必要性、対象(患者)の年齢、生理学的状態及び健康、所定の治療効果、治療を必要とする組織の大きさ及び面積、病変の程度及び選択された導入経路に依存するであろう。また、細胞は、低用量の細胞を小さな複数の移植片の形で、所定の標的組織内の1以上の部位に投与できる。本発明の細胞は移植前に完全に分離され、例えば単一細胞の懸濁液を形成したり、又は移植前に略完全に分離され、例えば細胞の小型凝集塊を形成できる。細胞は、懸濁液や細胞の小型凝集塊を所定の組織部位に移植又は移動させ、機能的に欠乏している領域を再構成又は再生する方式で投与できる。
【0076】
治療学的に有効達成可能に投与できる細胞の適当な範囲は、当業者の通常の知識内で、対象又は患者に応じて適切に使用することができる。例えば、約1,000~1,000,000,000細胞、或いはそれ以上であってもよいが、低用量では効果がなく、高用量では副作用の発生可能性があることを排除できないことから、100,000~50,000,000個程度が好ましいだろう。
【0077】
ただし、投与量はそれに限定されず、剤形の種類、投与方法、対象(患者)の年齢や体重、患者の症状などを考慮し、最終には医師の判断によって適切に決定されてよい。
【0078】
本発明の組成物の適切な投与量は、製剤化方法、投与方式、対象(患者)の年齢、体重、性別、疾病症状の程度、食べ物、投与時間、投与経路、排泄速度及び反応感応性のような要因によって様々であり、熟練した通常の医師は、目的とする治療に効果的な投与量を容易に決定及び処方できる。一般に、本発明の薬剤学的組成物は、1×10~1×1013vg/μlのウイルスベクター、又はウイルス遺伝子を含み、通常、1×10~3×1015vg/doseのウイルスベクター、又はウイルス遺伝子を患者に1回~5回注射し、効果の持続のために、数ヶ月又は数年後に再び類似の方法で注射できる。
【0079】
本発明において、前記組成物は、上述の医薬品製剤の形態で使用できる。
【0080】
本発明において、「遺伝子治療剤」は、疾病治療などを目的に遺伝物質又は遺伝物質を移入した運搬体を人体に投与する医薬品を意味する。
【0081】
遺伝子治療剤として適用可能な本発明の組成物に対して薬学的に許容可能な担体は、滅菌及び生体に適合するものとして、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、アルブミン注射溶液、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール及びそれら成分の1成分以上を混合して使用することができ、必要によって、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤などの別の通常の添加剤を添加することができる。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤及び潤滑剤をさらに添加し、水溶液、懸濁液、乳濁液などのような注射用剤形、丸薬、カプセル、顆粒又は錠剤として製剤化でき、標的器官に特異的に作用できるように標的器官特異的抗体又はその他リガンドを前記担体と結合させて使用することができる。
【0082】
Nurr1及びFoxa2、又はNurr1を発現させる脳細胞ではなくNurr1及びFoxa2、又はNurr1を発現させるベクターを直接使用する以外は、前述した内容を、組成物に適用又は準用することができる。
【0083】
本発明は、また、Nurr1及びFoxa2の両方、又はNurr1だけで形質変換された脳細胞を含む組成物を治療学的有効量で対象に投与することを含むタウオパチー予防又は治療方法を提供する。
【発明の効果】
【0084】
本発明の特徴及び利点を要約すると、次の通りである。
【0085】
(a)本発明は、Nurr1及びFoxa2、又はNurr1遺伝子が搭載されたベクターを含む、タウタンパク質蓄積、凝集又はタングル形成抑制用組成物を提供する。
【0086】
(b)本発明は、Nurr1及びFoxa2、又はNurr1遺伝子が導入された神経細胞(nerous)又は膠細胞(glia)を含む、タウタンパク質蓄積、凝集又はタングル形成抑制用組成物を提供する。
【0087】
(c)本発明は、Nurr1及びFoxa2、又はNurr1遺伝子が搭載されたベクターを含む、タウタンパク質リン酸化抑制用組成物を提供する。
【0088】
(d)本発明は、Nurr1及びFoxa2、又はNurr1遺伝子が導入された神経細胞(neurons)又は膠細胞(glia)を含む、タウタンパク質リン酸化抑制用組成物を提供する。
【0089】
(e)本発明は、Nurr1及びFoxa2、又はNurr1遺伝子が搭載されたベクターを含む、タウタンパク質蓄積、凝集、及びタングルによって発病する疾患予防又は治療用組成物を提供する。
【0090】
(f)本発明は、Nurr1及びFoxa2、又はNurr1遺伝子が導入された神経細胞(nerous)又は膠細胞(glia)を含む、タウタンパク質蓄積、凝集、及びタングルによって発病する疾患予防又は治療用組成物を提供する。
【0091】
(g)本発明は、Nurr1及びFoxa2、又はNurr1遺伝子が搭載されたベクターを含む、タウオパチー予防又は治療用薬剤学的組成物を提供する。
【0092】
(h)本発明は、Nurr1及びFoxa2、又はNurr1遺伝子が導入された神経細胞(neurons)又は膠細胞(glia)を含む、タウオパチー予防又は治療用薬剤学的組成物を提供する。
【0093】
(i)本発明の抑制剤、組成物を用いる場合、アルツハイマー病のようなタウタンパク質の蓄積、凝集、及びタングルによって発病する脳神経疾患の予防又は治療に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
本開示における上記および他の態様、特徴および利点は、添付の図面と併せて以下の詳細な説明から、より明らかになるであろう。
【0095】
図1】AAV9ウイルスを用いた遺伝子導入システムテスト実験過程を示す。
【0096】
図2】AAV9ウイルスを用いた遺伝子導入テスト実験結果(海馬及び脳室におけるGFP発現程度)を示す。
【0097】
図3】脳細胞にNurr1及びFoxa2遺伝子を導入したマウスの海馬部位におけるベータアミロイド及びタウタンパク質の蛍光を、免疫染色方法を用いて確認した結果を示す。
【0098】
図4】脳細胞にNurr1及びFoxa2遺伝子を導入したマウスの海馬部位におけるタウタンパク質(Tau)及びリン酸化タウタンパク質(phosphor-tau,pTau)の蛍光を、免疫染色方法を用いて確認した結果を示す。
【0099】
図5】水迷路(Water Maze)実験により、Nurr1及びFoxa2-AAV9ウイルスを注入したマウスの行動指標とコントロール(Control)ウイルス(GFP-AAV9)を注入したマウスの行動指標とを比較した結果を示す。
【0100】
図6】Y Maze実験により、Nurr1及びFoxa2-AAV9ウイルスを注入したマウスの行動指標とコントロールウイルス(GFP-AAV9)を注入したマウスの行動指標とを比較した結果を示す。
【0101】
図7】水迷路実験により、Nurr1及びFoxa2-AAV9ウイルスを注入したマウスの行動指標とコントロールウイルス(GFP-AAV9)を注入したマウスの行動指標(移動様相記録)とを比較した結果を示す。
【0102】
図8】水迷路実験により、Nurr1及びFoxa2-AAV9ウイルスを注入したマウスの行動指標とコントロールウイルス(GFP-AAV9)を注入したマウスの行動指標(目標まにおける移動距離)とを比較した結果を示す。
【0103】
図9】水迷路実験により、Nurr1及びFoxa2-AAV9ウイルスを注入したマウスの行動指標とコントロールウイルス(GFP-AAV9)を注入したマウスの行動指標(平均速度)とを比較した結果を示す。
【0104】
図10】3xFAD形質転換(Transgenic,Tg)マウスにおいて、PBS投与対照群、Nurr1単独投与群、又はNurr1及びFoxa2同時投与群のリン酸化されたタウタンパク質(p-tau)及びTuj1で免疫染色方法を行った結果を示す写真である。
【0105】
図11】3xFAD Tgマウスにおいて、PBS投与対照群、Nurr1単独投与群、又はNurr1及びFoxa2同時投与群のリン酸化されたタウタンパク質(p-tau)及びTuj1で免疫染色方法を行った結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0106】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の要旨によって本発明の範囲がこれらの実施例に制限されないということは、当業界における通常の知識を有する者には明らかであろう。
【0107】
本明細書で使われる用語に対する定義は、次の通りである。
【0108】
「脳細胞(brain cells)」は、脳に位置している細胞を意味し、神経細胞(neurons,neuron cells)及び膠細胞(glia,glial cells)などで構成されている。
【0109】
「神経細胞」は、神経系の細胞であり、用語「ニューロン」又は「ニューロン細胞」と同じ意味で使わてよい。
【0110】
「膠細胞」は、脳に存在する細胞のうち最も多い部分を占める細胞であり、星状細胞(astrocyte)又は小膠(microglia)細胞を含む。
【0111】
前記星状細胞は、神経細胞の保護及び栄養供給、炎症に関与し、前記小膠細胞は、脳で炎症を担当する細胞であって、アルツハイマー病のような脳疾患において重要な役割を担う細胞群として知られている。
【0112】
「形質導入(transduction)」は、バクテリオファージを媒介にして遺伝形質が一つの細胞から他の細胞に移って遺伝形質が導入される現象である。バクテリオファージがいずれかのタイプの細菌に感染されるとファージDNAが宿主DNAと結合する。溶菌現象によってファージが出る時、自分のDNAを一部失う代わりに宿主DNAの一部を持ち出す場合がある。このようなファージが他の細菌に感染されると、前宿主の遺伝子を新しく導入することになり、新しい形質が現れる。生物学的研究において「形質導入」という用語は、一般に、ウイルスベクターを用いて標的細胞において特定の外因性遺伝子を導入して発現させることを意味する。
【0113】
「蓄積、凝集及びタングル抑制」は、タウタンパク質及び/又はアミロイドベータ(amyloid β)の生成を抑制して、その蓄積、凝集及びタングルを抑制する場合と、既に生成されたタウタンパク質及び/又はアミロイドベータを分解してタウタンパク質又はアミロイドベータの蓄積、凝集及びタングルを抑制する場合を含む概念である。
【0114】
「対象」は、治療、観察又は実験の対象である脊椎動物、好ましくは哺乳動物、例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ヤギ、イヌ、ネコ、ラット、マウス、ウサギ、ギニアピッグ、ヒトなどであってよい。
【0115】
「組織又は細胞サンプル」は、対象又は患者の組織から得た類似の細胞の集合体を意味する。組織又は細胞サンプルの供給源は、新鮮な、凍結した及び/又は保存された臓器又は組織サンプル若しくは生検又は吸引物からの固形組織;血液又は任意の血液構成分;対象の妊娠又は発生の任意の時点における細胞であってよい。組織サンプルは、また、1次又は培養細胞又は細胞株であってよい。
【0116】
「治療」は、有益な或いは好ましい臨床的結果を得るためのアプローチを意味する。本発明の目的のために、有益な或いは好ましい臨床的結果は、非制限的に、症状の緩和、疾病範囲の減少、疾病状態の安定化(すなわち、悪化しない)、疾病進行の遅延又は速度の減少、疾病状態の改善又は一時的緩和及び軽減(部分的に又は全体的に)、検出可能か又は検出されないことを含む。また、「治療」は、治療を受けない時に予想される生存率と比較して生存率を上げることを意味することもできる。「治療」は、治療学的治療及び予防的又は予防措置方法のいずれをも指す。前記治療は、予防される障害の他に既に発生した障害においても要求される治療を含む。疾病を「緩和(Palliating)」させることは、治療をしない場合と比較して、疾病状態の範囲及び/又は好ましくない臨床的徴候が減少し及び/又は進行の時間的推移(time course)が遅延されたり延びることを意味する。
【0117】
「遺伝子治療剤」は、疾病治療などを目的に遺伝物質又は遺伝物質を移入した運搬体を人体に投与する医薬品を意味する。
【0118】
「細胞治療剤」は、ヒトから分離、培養及び特殊な操作によって製造された細胞及び組織に治療、診断及び予防の目的で使用される医薬品(米国FDA規定に従う)であり、細胞或いは組織の機能を復元させるために、生きている自家、同種、又は異種細胞を体外で増殖、選別したり、他の方法で細胞の生物学的特性を変化させたりするなどの一連の行為によって治療、診断及び予防の目的で使用される医薬品のことを指す。細胞治療剤は、細胞の分化程度によって、概ね、体細胞治療剤、幹細胞治療剤に分類される。
【0119】
治療を必要とする「哺乳類」は、ヒト、家畜、農場家畜、及びイヌ、ウマ、ネコ、ウシ、サルのような動物園、スポーツ或いは愛玩用の動物を含め、哺乳類として分類されるいかなる動物も可能である。好ましくは、前記哺乳類はヒトである。
【0120】
「投与」は、いずれか適切な方法で対象又は患者に本発明の組成物を導入することを意味し、本発明の組成物の投与経路は、目的組織に到達できる限り、経口又は非経口の様々な経路を通じて投与されてよい。腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経口投与、局所投与、鼻腔内投与、肺内投与、直腸内投与されてよいが、それに制限されない。
【0121】
「有効量」は、目的とする治療すべき特定疾患の発病又は進行を遅延させ、又は完全に止めるために必要な量を意味する。本発明において、組成物は、薬学的有効量で投与されてよい。適度な1日使用量は、正確な医学的判断範囲内で処置医によって決定され得るということは、当業者にとって明らかである。
【0122】
本発明の目的上、特定対象又は患者に対する具体的な治療学的有効量は、達成しようとする反応の種類と程度、場合によって、他の製剤が使用されるか否かをはじめとする具体的な組成物、対象(患者)の年齢、体重、一般健康状態、性別及び食餌、投与時間、投与経路及び組成物の分泌率、治療期間、具体的な組成物と同時投与または同時に使用される薬物、ならびに、医薬分野によく知られた類似の要因を含む様々な要因によって異なるように適用することが好ましい。
【0123】
本発明で使われる技術用語はいずれも、特に断りのない限り、本発明の関連分野における通常の当業者が一般的に理解するのと同じ意味で使われる。また、本明細書には好ましい方法や試料が記載されるが、これと類似又は同等なものも本発明の範疇に含まれる。本明細書に参考文献として記載される全ての刊行物の内容は、本発明に組み込まれる。
【0124】
実施例1.Nurr1及びFoxa2遺伝子導入を用いたタウオパチー(tauopathy)治療効果及び認知欠損症(学習及び記憶力)改善確認
【0125】
材料及び方法
(1)動物管理及び実験
3xFAD動物モデル実験に関する全ての手続は、承認番号2018-0047A下にハンヤング医学専門大学院動物実験倫理議員会(Institutional Animal Care and Use Committee,IACUC)の承認を受けた。また、3xFAD動物モデル実験に関する全ての手続は、ハンヤング大学校実験動物使用に関するガイドラインに従ってなされた。動物を12時間 、明/暗サイクルを用いた特定の無菌障壁施設に収容し、標準食物(5053 PicoLab Rodent Diet 20)を提供した。本実験のための動物の大きさは、本実験の生体外分析及び予備試験によって、事前統計的演算無しで決定された。実験は、NIHガイドラインに従って実施された。偏向を最小化するために、挙動的分析は、概ね、2名の実験者によって盲検方式で行われた。18月齢及び15月齢アルツハイマー病遺伝子導入(transgenic)(3xTg-AD)マウス(Jackson Laboratory,Maine,USA)が実験に使用された。
【0126】
(2)アルツハイマー病モデルマウスに対する定位方法のAAV注射
18月齢(18m)及び15月齢(15m)アルツハイマー病遺伝子導入(3xTg-AD)マウス(Jackson Laboratory,Maine,USA)に、Nurr1-AAV9(1μl)+Foxa2-AAV9(1μl)(合計2μl、1012vg/μl、Nurr1+Foxa2群)又はNurr1-AAV9(1μl)+対照AAV9(1μl)(合計2μl、5×1011vg/μl、Nurr1単独群)、又はAAV9のみを有する対照群(2μl、1012vg/μl、対照群のみで構成)を含むウイルスベクターを、Rompum(93.28μg/kg)と混合されたZoletil 50(0.1mg/kg)によって誘導された麻酔状態で、10分にわたって、海馬(Hippocampus)(ブレグマから後方に1.5mm;ミッドラインから側面に±1mm;硬膜から腹側へ2mm(-2 mm ventral to the dura))及び脳室(Intracerebroventricle,ICV)(ブレグマから後方に0.9mm;ミッドラインから側面に±1.7mm;硬膜から腹側へ2.2mm(-2.2 mm ventral to the dura))に注射した。毎注射完了の後に、針(26ゲージ)は、前記注射部位に刺された状態で5~10分間置いた後、ゆっくり除去した。海馬(Hippocampus)及び脳室(Intracerebroventricle,ICV)部位における注射に誤りがあったと判明される場合、それらのマウスは分析から除外した。
【0127】
(3)ウイルス生成
CMVプロモーターの統制下に、Nurr1又はFoxa2を発現させるレンチウイルスベクターを、それぞれのcDNAをpCDH(System Biosciences社、Mountain View,CA)の多重クローニング部位に挿入することによって生成した。pGIPZ-shNurr1とpGIPZ-shFoxa2レンチウイルスベクターをOpen Biosystems社(Rockford,IL)から購入した。空(empty)のバックボーンベクター(pCDH又はpGIPZ)が陰性対照群として用いられた。レンチウイルスを、前述のように、生体外培養における形質導入のために製造して使用した(Yi SH,He XB,Rhee YH,Park CH,Takizawa T,Nakashima K,Lee SH(2014)Foxa2 acts as a co-activator potentiating expression of the Nurr1-induced DA phenotype via epigenetic regulation.Development 141:761-772)。レンチウイルスの力価は、QuickTiter(登録商標) HIVレンチウイルス定量キット(Cell Biolabs社、San Diego,CA)を用いて測定され、10個の形質導入ユニット(transducing unit,TU)/ml(60~70ng/ml)を含む200μl/ウェル(24ウェルプレート)又は2ml/6cm皿がそれぞれの形質導入反応に使用された。
【0128】
定位方法(stereotaxic)による注射によって生体内発現を誘導するために、CMVプロモーターの統制下に、Nurr1又はFoxa2(赤血球凝集素(hemagglutinin,HA)でタグ付け)を発現するAAVを、それぞれのcDNAをpAAV-MCSベクター(Addgene社、Cambridge,MA)にサブクローニングすることによって生成した。導入遺伝子の発現の効率を評価するために、GFPを発現するAAVも生成した。AAV(血清型9又は2)のパッケージング及び生成は、韓国科学技術研究院(大韓民国ソウル)で行った。AAV力価は、QuickTiter(登録商標) AAV定量キット(Cell Biolabs社)で測定された。共発現研究は、個別ウイルス製剤の混合物(1:1,v.v))で細胞を感染させて行った。
【0129】
(4)免疫染色
培養細胞及び凍結切片化された脳切片を、次のような一次抗体で染色した:Nurr1(1:500、ウサギ、胚20日目、Santa Cruz Biotechnology社、Dallas,TX、及び1:1,000、マウス、R&D Systems社);Foxa2(1:500、ヤギ、Santa Cruz Biotechnology社);GFP(1:2,000、ウサギ、Life Technologies社);GFAP(1:200、マウス、MP Biomedicals社、Santa Ana,CA);Iba-1(1:200、ウサギ、Wako社)、NeuN(1:100、マウス、EMD Milipore社);TAU(1:500、マウス、Santa Cruz Biotechnology社);pTAU(1:500、ウサギ、ABcam社)
【0130】
培養された細胞は、PBS溶液の4%パラホルムアルデヒド(PFA)によって固定され、0.3%トリプトンX-100及び1% BSAによって40分間ブロックされた。そして、4゜Cで一晩、一次抗体と共に培養された。視覚化のための2次抗体は、次の通りである。Cy3(1:200,Jackson Immunoresearch Laboratories社)又はAlexa Fluor488(1:200,Life Technologies社)。染色された細胞は、VECTASHIELDとDAPIマウント液(Vector Laboratories社)と共にマウントされ、写真は、落射蛍光顕微鏡(epifluorescence microscope,Leica社)及び共焦点顕微鏡(Leica PCS SP5)によって得られた。
【0131】
(5)挙動検査
(5)-1.水迷路(Water Maze)法
水迷路法は、モーリスウォーター迷路とも呼ばれ、空間記憶と学習を研究する上で広く用いられている。動物は、粉状の無脂肪牛乳や無毒性ペイントで不透明に染めた水溜まりに置かれるが、そこから彼らは、隠された脱出プラットホームまで泳いで行かなければならない。動物は不透明な水中にいるため、プラットホームを見ることができず、匂いを頼りに脱出路を探すこともできない。代わりに、動物は外部或いは迷路外の手がかりを頼りにしなければならない。動物がそのことに熟練するにつれ、彼らはそのプラットホームをより速く探すことができる。1984年にリチャードG.モーリスによって開発されたこのパラダイムは、行動神経科学の「ゴールドスタンダード」の一つとなった。
【0132】
(5)-2.Y迷路(Y-Maze)法
Y迷路(Y-Maze)法は、空間学習と記憶を研究するための事前臨床研究において行動を評価するために広く用いられている。動物は、Y迷路法において、Y状の迷路で3個の腕(arm)のいずれか一方の腕の端に置かれるが、ここで、彼らは、別れ道から左側又は右側のどこへ移動するかを決定する。このようなテストは同一動物に数回反復されてよい。観察者は、Y迷路内で動物の一連の選択(例えば、特定腕を訪問した回数、3個の腕を訪問した総回数、動物基準で左側の腕を選択した回数、動物基準で右側の腕を選択した回数)を記録する。Y迷路テストの使用は、自発的交替テスト(spontaneous alternation test)と認識記憶力テストを含む。自発的交替テストにおいて、観察者は、動物が最近に訪問しなかった腕に訪問する傾向を示すかを観察して記録する(例えば、自発的交替数字を測定)。これらの検査は、海馬損傷、遺伝子操作、そして記憶喪失薬物に敏感であることが明らかにされた。
【0133】
(6)細胞数集計及び統計分析
免疫染色及びDAPI-染色された細胞は、200倍又は400倍の倍率で接眼グリッド(eyepiece grid)を用いて、各培養カバースリップ内の無作為領域でカウントされた。全ての図に対してデータは平均±SEMで表示され、統計的検定は適切に立証される。統計学的比較は、スチューデントt検定(対応なし;unpaired)、又は、両側検定(2-tailed)又は一元配置分散分析(one-way ANOVA)、次いでSPSS(Statistics 21;IBM Inc.Bentonville,AR,USA)を用いたBonferroni post hoc分析で行われた。n、p-値及び統計分析方法は、図面凡例に表示されている。0.05未満のP値は有意なものと見なされた。
【0134】
結果
(1)Nurr1及びFoxa2遺伝子導入がタウオパチー(tauopathy)に及ぼす影響
アデノ随伴ウイルス(AAV)はヒトで免疫原性が非常に低いため、主に脳において神経細胞及び膠細胞に感染しやすいAAV9血清型を用いて膠細胞に特異的にターゲッティングするNurr1及びFoxa2遺伝子導入システムを構築した。Nurr1及びFoxa2遺伝子発現のためにCMV又はGFAPプロモーターが使用された。Nurr1+Foxa2-AAV9ウイルスの注入は、タウオパチーの一種であるアルツハイマー病の病変部位である海馬(Hippocampus)と脳室(Intracerebroventricle,ICV)に行われた。
【0135】
前記AAV9ウイルスを用いた遺伝子導入テストを行うために、星状細胞(astrocytes)に特異的なGFAPプロモーター下でGFP(green fluorescent protein)を発現させるAAV9ウイルスをマウスの海馬と脳室(ICV)に注入した。GFP-AAV9ウイルス注入3週後にGFP発現を測定した(図1)。GFP-AAV9を海馬と脳室に注入した結果、GFPが海馬の全領域に発現し、GFAP+星状細胞に特異的に発現した(図2)。GFAPは星状細胞マーカー、NeuNは成熟神経細胞(mature neuron)マーカー、Iba1は小膠細胞(microglia)マーカーとして使用された。GFAPとGFPは共発現し、NeuNとIba1はGFPと共発現しないことから、ウイルスが星状細胞において特異的に遺伝子を発現することがわかった。
【0136】
タウタンパク質は、正常な神経細胞のアクソン(axon)に存在する微小管結合タンパク質(MAP)の一つである。脳でタウタンパク質の凝集(aggregation)が発生すると、タウ媒介の神経細胞の損傷及び機能異常(Tau-mediated neuronal injury and dysfunction)が発生するが、これは、アルツハイマー病の代表的な病因及び症状として教科書及び諸文献に記述されている。
【0137】
ヒト患者と類似に、脳内にタウタンパク質が凝集されるアルツハイマー病疾患動物モデル3xFADマウスにおいて、15月齢および18月齢に、海馬及び脳室に存在する膠細胞に特異的にNurr1及びFoxa2遺伝子を導入した。遺伝子導入2ヶ月後に、海馬領域の、タウタンパク質を免疫染色により定量的に分析した。
【0138】
図3Aは、Nurr1及びFoxa2-AAV9が注入された3xFADマウスはControl-AAV9が注入された3xFADマウスと比較して、海馬領域に存在するタウ特異的(tau-specific)タングル(tangles)が顕著に減っていることを示す。図3Bは、Tau+タングルの定量データを示す。
【0139】
タウタンパク質は、正常状態でも存在するタンパク質であるが、異常タウタンパク質は神経退行性疾患の原因として知られており、タウタンパク質の過度なリン酸化は、異常タウの特徴である。
【0140】
15月齢、18月齢の3xFADマウスの海馬及び脳室に存在する膠細胞に特異的にNurr1及びFoxa2遺伝子を導入した。遺伝子導入2ヶ月後に、海馬領域の、リン酸化されたタウ(phosphor-tau,pTau)タンパク質を免疫染色により定量的に分析した。
【0141】
その結果、AAV9-pGFAP-Nurr1+Foxa2が注入された3xFADマウスは、コントロールAAV9が注入されたマウスに比べて、免疫組織化学的検査(immunohistochemistry,IHC)下のリン酸化された(phosphorylated)タウレベルが減少した(図4)。
【0142】
前記結果は、Nurr1及びFoxa2の発現により、タウタングルが生成される絶対量を低減させ、リン酸化されたタウタンパク質の量を減少させることができ、結果的に、タウオパチーの治療に、Nurr1及びFoxa2の発現が効果を奏することを示す。
【0143】
(2)水迷路とY迷路行動実験を用いたアルツハイマー病(AD)マウスモデルにおいてNurr1及びFoxa2遺伝子導入による認知欠損症(学習と記憶力)改善確認
タウオパチーの一種であるアルツハイマー病の治療に、膠細胞のNurr1及びFoxa2発現が与える効果を検討した。3種の遺伝子であるAPP、PS1、及びtauを変異させてアルツハイマー病を誘発した15~18月齢の3xFADマウスの海馬及び脳室の膠細胞に特異的にNurr1及びFoxa2発現を起こした。15~18月齢は、マウスの平均寿命が約24ヶ月であることからして、かなり高齢である。アルツハイマー病モデルマウスにNurr1及びFoxa2遺伝子を導入し、遺伝子導入3ヶ月後に、当該マウスの認知能力分析を行った。
【0144】
タウオパチーの一種であるアルツハイマー病は、患者の記憶力及び認知力の低下が徐々に進む退行性脳神経系疾患であり、これを代弁するための動物実験として水迷路とY迷路実験を行った。水迷路とY迷路実験は、記憶力及び認知力に対する効能実験の代表的な公認実験方法であり、タウオパチーの一種であるアルツハイマー病の進行及び治療効果を判断するための行動実験指標として用いられる。
【0145】
15~18月齢のマウスにNurr1+Foxa2-AAV9ウイルスを注入して約2週後から2週間隔で2ヶ月間、水迷路とY迷路行動実験を行い、Nurr1+Foxa2-AAV9ウイルスを注入したマウスの行動指標とコントロールウイルス(GFP-AAV9)を注入したモデルマウスの行動指標とを比較した。実験の結果、Nurr1及びFoxa2が発現したマウスは、コントロールマウスに比べてより良い行動指標及びより速い反応速度を示した。このことから、膠細胞のNurr1及びFoxa2の発現が学習及び記憶部分の認知活動の有意な改善をもたらし、これにより、タウオパチーの一種であるアルツハイマー病治療効果を奏することを、動物モデルから行動学的に確認した。すなわち、脳細胞におけるNurr1及びFoxa2の発現を用いたタウオパチーの一種であるアルツハイマー病の臨床遺伝子治療効果を確認した(図5図6図7図8および図9)。
【0146】
実施例2:Nurr1及びFoxa2遺伝子導入を用いたp-tauタンパク質(リン酸化されたタウタンパク質)形成抑制確認
Nurr1及びFoxa2遺伝子導入により、リン酸化されたタウタンパク質の形成を抑制できるかどうか、をさらに確認した。
【0147】
APP、PS1、tauに変異を誘導した18月齢及び15月齢のアルツハイマー病遺伝子導入(3xTg-AD)マウス(Jackson Laboratory,Maine,USA)において、Nurr1-AAV9(1μl)+Foxa2-AAV9(1μl)(合計2μl、1012vg/μl、Nurr1+Foxa2群)、Nurr1-AAV9(1μl)単独、又は食塩水(PBS)を、定位微細注入方法により、麻酔されたマウスの脳室及び海馬に投与した。投与2ヶ月後に、アルツハイマー病遺伝子導入マウスを犠牲させ、パラホルムアルデヒド(PFA)で固定した後、1% BSA/PBS溶液に0.6% Triton X-100を追加して1時間ブロッキングした。その後、同溶液に1次抗体(p-tau、Tuj1)を付け、4℃で一晩(overnight)組織染色を行った。そして、視覚化のための2次抗体としてCy3(1:200,Jackson Immunoresearch Laboratories社)、Alexa Fluor488(1:200,Life Technologies社)を用いて2次染色した。染色された細胞をVECTASHIELD、DAPIマウント液(Vector Laboratories社)と共にマウントし、共焦点顕微鏡(Leica PCS SP5)で内嗅内皮質領域(entorhinal cortex region)を撮影し、撮影された写真を図10に示し、これを定量化した結果を、図11及び表1に示した。
【0148】
【表1】
実験の結果、図10及び図11から確認できるように、3xFAD Tgマウスの脳ニューロンで発現するリン酸化されたタウタンパク質レベルが、Nurr1及びFoxa2を導入発現させた時に顕著に減少し、Nurr1単独導入発現した時も有意に減少する現象を確認した。
【0149】
前記実験結果は、アルツハイマー病モデルマウスである3xFAD Tgマウスに、転写因子Nurr1及びFoxa2を共に、又はNurr1単独で発現させた時に、対照群に比べて、ニューロンにおいてリン酸化されたタウタンパク質が減少することを示す。また、リン酸化されたタウタンパク質は、アルツハイマー病の主要特徴である神経原線維タングルを構成する物質で、ニューロンに蓄積されてニューロンの細胞死(cell death)を引き起こし、結局は記憶力減退につながるようにする点を考慮すれば、本発明に係るNurr1及びFoxa2共同で、又はNurr1単独で導入することは、タウオパチー及びアルツハイマー病の治療に利用可能であることが期待される。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11