(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】複数分子の抗原に繰り返し結合する抗原結合分子
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20231013BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20231013BHJP
C07K 1/22 20060101ALN20231013BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20231013BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20231013BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20231013BHJP
G01N 33/15 20060101ALN20231013BHJP
G01N 33/50 20060101ALN20231013BHJP
【FI】
A61K39/395 V ZNA
A61K39/395 H
A61K39/395 N
A61K9/08
C07K1/22
C07K16/18
C12N15/13
C12P21/08
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
(21)【出願番号】P 2023105711
(22)【出願日】2023-06-28
(62)【分割の表示】P 2022027962の分割
【原出願日】2009-04-10
【審査請求日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2008104147
(32)【優先日】2008-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2008247713
(32)【優先日】2008-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2009068744
(32)【優先日】2009-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【氏名又は名称】寺地 拓己
(74)【代理人】
【識別番号】100188374
【氏名又は名称】一宮 維幸
(72)【発明者】
【氏名】井川 智之
(72)【発明者】
【氏名】石井 慎也
(72)【発明者】
【氏名】前田 敦彦
(72)【発明者】
【氏名】中井 貴士
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】EMBO J., (1995), 14, [12], p.2784-2794
【文献】Res. Immunol., (1994), 145, [1], p.33-36
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
C07K 16/00-16/46
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変領域においてヒスチジンで置換されたアミノ酸が1つのみであり、抗原に対するpH5.8でのKDとpH7.4でのKDの比であるKD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値が、当該ヒスチジン置換の前と比較して大きいIgG4抗体を含む医薬組成物。
【請求項2】
前記抗体の抗原に対するpH5.8でのKDとpH7.4でのKDの比であるKD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値が10以上、10000以下である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記抗体の抗原に対するpH5.8でのKDとpH7.4でのKDの比であるKD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値が40以上、10000以下である、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記抗体において、ヒスチジンで置換されている可変領域の1つのアミノ酸がCDRのアミノ酸である、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記抗体において、Kabatナンバリングに従った重鎖可変領域のアミノ酸位置であるH27、H31、H32、H33、H35、H50、H58、H59、H61、H62、H63、H64、H65、H99、H100b、及びH102、並びにKabatナンバリングに従った軽鎖可変領域のアミノ酸位置であるL24、L27、L28、L32、L53、L54、L56、L90、L92、及びL94から選択される1つのアミノ酸がヒスチジンで置換されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記抗体において、Kabatナンバリングに従った重鎖可変領域のアミノ酸位置であるH27、H31、H32、H33、H35、H50、H58、H59、H61、H62、H63、H64、H65、H99、H100b、及びH102から選択される1つのアミノ酸がヒスチジンで置換されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記抗体において、Kabatナンバリングに従った重鎖可変領域のアミノ酸位置であるH27がヒスチジンで置換されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記抗体のpH7.4におけるKDによる抗原結合活性がヒスチジン置換前の抗体が有する抗原結合活性の10%以上を維持している、請求項1~7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記抗体において、ヒスチジン置換が重鎖可変領域のアミノ酸にある、請求項1~8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記抗体が、ヒト化抗体である、請求項1~9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記ヒト化抗体が、ヒト抗体由来の定常領域を有する、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記ヒト化抗体が、ヒト以外の哺乳動物由来抗体のCDRと、ヒト抗体由来のフレームワーク領域及び定常領域とからなる、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記ヒト化抗体において、ヒト抗体由来の定常領域が、FcRn結合領域を含む、請求項10~12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記抗体が、アンタゴニスト活性を有することを特徴とする、請求項1~13のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記抗体が、膜抗原又は可溶型抗原に結合することを特徴とする、請求項1~14のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
医薬的に許容される担体を含む、請求項1~15のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
注射剤型の組成物である、請求項1~16のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項18】
静脈内注射用である、請求項1~17のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項19】
ヒスチジンで置換される前記1つのみのアミノ酸が、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、メチオニン、セリン、およびロイシンから選択される、請求項1~18のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
ヒスチジンで置換される前記1つのみのアミノ酸が、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、アスパラギン酸、グルタミン酸、およびセリンから選択される、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
ヒスチジンで置換される前記1つのみのアミノ酸が、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、およびセリンから選択される、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項22】
ヒスチジンで置換される前記1つのみのアミノ酸が、チロシンから選択される、請求項19に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原結合分子の薬物動態を向上する方法、抗原結合分子の抗原への結合回数を増やす方法、薬物動態が向上した抗原結合分子、抗原結合分子の抗原への結合回数が向上した抗原結合分子、および、それらの製造法等に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体は血漿中での安定性が高く、副作用も少ないことから医薬品として注目されている。中でもIgG型の抗体医薬は多数上市されており、現在も数多くの抗体医薬が開発されている(非特許文献1、非特許文献2)。一方、第2世代の抗体医薬に適用可能な技術として様々な技術が開発されており、エフェクター機能、抗原結合能、薬物動態、安定性を向上させる、あるいは、免疫原性リスクを低減させる技術等が報告されている(非特許文献3)。抗体医薬は一般に投与量が非常に高いため、皮下投与製剤の作製が困難であること、製造コストが高いこと等が課題として考えられる。抗体医薬の投与量を低減させる方法として、抗体の薬物動態を向上する方法と抗体と抗原の親和性(アフィニティー)を向上する方法が考えられる。
【0003】
抗体の薬物動態を向上させる方法として、定常領域の人工的なアミノ酸置換が報告されている(非特許文献4、5)。抗原結合能、抗原中和能を増強させる技術として、アフィニティーマチュレーション技術(非特許文献6)が報告されており、可変領域のCDR領域
などのアミノ酸に変異を導入することで抗原への結合活性を増強することが可能である。抗原結合能の増強によりin vitroの生物活性を向上させる、あるいは投与量を低減することが可能であり、さらにin vivoでの薬効を向上させることも可能である(非特許文献7
)。
【0004】
一方、抗体1分子あたりが中和できる抗原量はアフィニティーに依存し、アフィニティーを強くすることで少ない抗体量で抗原を中和することが可能であり、様々な方法で抗体のアフィニティーを強くすることが可能である。さらに抗原に共有結合的に結合し、アフィニティーを無限大にすることができれば1分子の抗体で1分子の抗原(2価の場合は2抗原)を中和することが可能である。しかし、これまでの方法では1分子の抗体で1分子の抗原(2価の場合は2抗原)の化学量論的な中和反応が限界であり、抗原量以下の抗体量で抗原を完全に中和することは不可能であった。つまり、アフィニティーを強くする効果には限界が存在していた(非特許文献9)。中和抗体の場合、その中和効果を一定期間持続させるためには、その期間に生体内で産生される抗原量以上の抗体量が投与される必要があり、上述の抗体の薬物動態向上、あるいは、アフィニティーマチュレーション技術だけでは、必要抗体投与量の低減には限界が存在していた。
【0005】
そのため、抗原量以下の抗体量で抗原の中和効果を目的期間持続するためには、一つの抗体で複数の抗原を中和する必要がある。1つの抗体で複数の抗原を中和する方法として、抗体に触媒機能を付与した触媒抗体による抗原の不活化が挙げられる。タンパク質抗原の場合、抗原のペプチド結合を加水分解することで不活化することが可能であり、この加水分解反応を抗体が触媒することで、繰り返し抗原を中和(不活化)することが可能であると考えられている(非特許文献8)。これまでに多くの触媒抗体および触媒抗体作製技術に関する報告がされているが、医薬品として十分な触媒活性を有する触媒抗体の報告はない。すなわち、ある抗原に対する抗体のin vivo試験において、通常の触媒機能を有さない中和抗体と比較して、低用量で同等以上の効果を発揮する、あるいは、同じ投与量でより持続的に効果を発揮することができる触媒抗体の報告はこれまでにない。
【0006】
このように、1分子の抗体で複数の抗原を中和し、通常の中和抗体より優れたin vivo
効果を発揮することができる抗体に関する報告はなく、投与量の低減および持続性の延長のためには1抗体で複数の抗原を中和し、in vivoで通常の中和抗体よりも効果を発揮す
る新規な抗体作製技術が望まれていた。
【0007】
なお、本発明の先行技術文献を以下に示す。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Monoclonal antibody successes in the clinic, Janice M Reichert, Clark J Rosensweig, Laura B Faden & Matthew C Dewitz, Nature Biotechnology 23, 1073 - 1078 (2005)
【文献】Pavlou AK, Belsey MJ., The therapeutic antibodies market to 2008., Eur J Pharm Biopharm. 2005 Apr;59(3):389-96.
【文献】Kim SJ, Park Y, Hong HJ., Antibody engineering for the development of therapeutic antibodies., Mol Cells. 2005 Aug 31;20(1):17-29. Review.
【文献】Hinton PR, Xiong JM, Johlfs MG, Tang MT, Keller S, Tsurushita N., An engineered human IgG1 antibody with longer serum half-life., J Immunol. 2006 Jan 1;176(1):346-56
【文献】Ghetie V, Popov S, Borvak J, Radu C, Matesoi D, Medesan C, Ober RJ, Ward ES., Increasing the serum persistence of an IgG fragment by random mutagenesis., Nat Biotechnol. 1997 Jul;15(7):637-40
【文献】Proc Natl Acad Sci U S A. 2005 Jun 14;102(24):8466-71. Epub 2005 Jun 6. A general method for greatly improving the affinity of antibodies by using combinatorial libraries.Rajpal A, Beyaz N, Haber L, Cappuccilli G, Yee H, Bhatt RR, Takeuchi T, Lerner RA, Crea R.
【文献】Wu H, Pfarr DS, Johnson S, Brewah YA, Woods RM, Patel NK, White WI, Young JF, Kiener PA. Development of Motavizumab, an Ultra-potent Antibody for the Prevention of Respiratory Syncytial Virus Infection in the Upper and Lower Respiratory Tract. J Mol Biol. 2007, 368, 652-665
【文献】Hanson CV, Nishiyama Y, Paul S. Catalytic antibodies and their applications.Curr Opin Biotechnol. 2005 Dec;16(6):631-6.
【文献】Rathanaswami P, Roalstad S, Roskos L, Su QJ, Lackie S, Babcook J. Demonstration of an in vivo generated sub-picomolar affinity fully human monoclonal antibody to interleukin-8. Biochem Biophys Res Commun. 2005 Sep 9;334(4):1004-13.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこのような状況に鑑みて為されたものであり、その目的は抗原結合分子が抗原に複数回結合する方法、抗原結合分子の薬物動態を向上させる方法、複数回抗原に結合できる抗原結合分子、薬物動態が改善された抗原結合分子、当該抗原結合分子を含む医薬組成物、およびそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、抗原結合分子などの抗原結合能を有するポリペプチドの抗原に複数回結合する方法、血漿中半減期(血中半減期)を改善(薬物動態を向上)する方法について、鋭意研究を行った。その結果、本発明者らは、血漿中(血中)でのpHにおける抗原結合活性と比較して早期エンドソーム内でのpHにおける抗原結合活性が弱い抗原結合分子は抗原に複数回結合し、血漿中半減期が長いことを見出した。
【0011】
本発明は、抗原結合分子が抗原に複数回結合する方法、抗原結合分子の薬物動態を向上する方法、複数回抗原に結合できる抗原結合分子、薬物動態が向上した抗原結合分子、薬物動態が向上した抗原結合分子の製造方法などに関し、より具体的には、
〔1〕抗原に対するpH5.8でのKDとpH7.4でのKDの比であるKD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値が2以上である抗原結合分子、
〔2〕KD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値が10以上である〔1〕に記載の抗原結合分子、
〔3〕KD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値が40以上である〔1〕に記載の抗原結合分子、
〔4〕少なくとも1つのアミノ酸がヒスチジンで置換され又は少なくとも1つのヒスチジンが挿入されていることを特徴とする〔1〕~〔3〕いずれかに記載の抗原結合分子、
〔5〕アンタゴニスト活性を有することを特徴とする〔1〕~〔4〕いずれかに記載の抗原結合分子、
〔6〕膜抗原又は可溶型抗原に結合することを特徴とする〔1〕~〔5〕いずれかに記載の抗原結合分子、
〔7〕抗原結合分子が抗体であることを特徴とする〔1〕~〔6〕いずれかに記載の抗原結合分子、
〔8〕〔1〕~〔7〕いずれかに記載の抗原結合分子を含む医薬組成物、
〔9〕抗原結合分子のpH5.8における抗原結合活性をpH7.4における抗原結合活性より弱くすることにより抗原結合分子の薬物動態を向上させる方法、
〔10〕抗原結合分子のpH5.8における抗原結合活性をpH7.4における抗原結合活性より弱くすることにより、抗原結合分子の抗原への結合回数を増やす方法、
〔11〕抗原結合分子のpH5.8における抗原結合活性をpH7.4における抗原結合活性より弱くすることにより、抗原結合分子が結合可能な抗原の数を増やす方法、
〔12〕抗原結合分子のpH5.8における抗原結合活性をpH7.4における抗原結合活性より弱くすることにより、細胞外で抗原結合分子に結合した抗原を細胞内で抗原結合分子から解離させる方法、
〔13〕抗原結合分子のpH5.8における抗原結合活性をpH7.4における抗原結合活性より弱くすることにより、抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれた抗原結合分子を、抗原と結合していない状態で細胞外に放出させる方法、
〔14〕抗原結合分子のpH5.8における抗原結合活性をpH7.4における抗原結合活性より弱くすることにより、抗原結合分子の血漿中抗原消失能を増加させる方法、
〔15〕抗原に対するpH5.8でのKDとpH7.4でのKDの比であるKD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値を2以上とすることを特徴とする〔9〕~〔14〕いずれかに記載の方法、
〔16〕KD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値を10以上とすることを特徴とする〔9〕~〔14〕いずれかに記載の方法、
〔17〕KD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値を40以上とすることを特徴とする〔9〕~〔14〕いずれかに記載の方法、
〔18〕抗原結合分子の少なくとも1つのアミノ酸をヒスチジンで置換する又は少なくとも1つのヒスチジンを挿入することにより薬物動態を向上させる方法、
〔19〕抗原結合分子の少なくとも1つのアミノ酸をヒスチジンで置換する又は少なくとも1つのヒスチジンを挿入することにより、抗原結合分子の抗原への結合回数を増やす方法、
〔20〕抗原結合分子の少なくとも1つのアミノ酸をヒスチジンで置換する又は少なくとも1つのヒスチジンを挿入することにより、抗原結合分子が結合可能な抗原の数を増やす方法、
〔21〕抗原結合分子の少なくとも1つのアミノ酸をヒスチジンで置換する又は少なくとも1つのヒスチジンを挿入することにより、細胞外で抗原結合分子に結合した抗原を細胞内で抗原結合分子から解離させる方法、
〔22〕抗原結合分子の少なくとも1つのアミノ酸をヒスチジンで置換する又は少なくとも1つのヒスチジンを挿入することにより、抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれた
抗原結合分子を、抗原と結合していない状態で細胞外に放出させる方法、
〔23〕抗原結合分子の少なくとも1つのアミノ酸をヒスチジンで置換する又は少なくとも1つのヒスチジンを挿入することにより、抗原結合分子の血漿中抗原消失能を増加させる方法、
〔24〕ヒスチジンへの置換又はヒスチジンの挿入により、pH5.8での抗原結合活性とpH7.4での抗原結合活性の比であるKD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値がヒスチジン置換又は挿入前と比較して大きくなることを特徴とする〔18〕~〔23〕いずれかに記載の方法、
〔25〕抗原結合分子がアンタゴニスト活性を有することを特徴とする〔9〕~〔24〕いずれかに記載の方法、
〔26〕抗原結合分子が膜抗原又は可溶型抗原に結合することを特徴とする〔9〕~〔25〕いずれかに記載の方法、
〔27〕抗原結合分子が抗体であることを特徴とする〔9〕~〔26〕いずれかに記載の方法、
〔28〕以下の工程を含む抗原結合分子のスクリーニング方法、
(a)pH6.7~pH10.0における抗原結合分子の抗原結合活性を得る工程、
(b)pH4.0~pH6.5における抗原結合分子の抗原結合活性を得る工程、
(c)pH6.7~pH10.0での抗原結合活性がpH4.0~pH6.5での抗原結合活性より高い抗原結合分子を選択する工程、
〔29〕pH6.7~pH10.0における抗原結合活性がpH4.0~pH6.5での抗原結合活性の2倍以上である抗体を選択することを特徴とする〔28〕に記載のスクリーニング方法、
〔30〕以下の工程を含む抗原結合分子のスクリーニング方法、
(a) pH6.7~pH10.0の条件下で抗原結合分子を抗原に結合させる工程、
(b) (a)の抗原に結合した抗原結合分子をpH4.0~pH6.5の条件下に置く工程、
(c) pH4.0~pH6.5の条件下で解離した抗原結合分子を取得する工程、
〔31〕以下の工程を含む第一のpHでの結合活性が第二のpHでの結合活性よりも高い抗原結合分子のスクリーニング方法、
(a) 抗原を固定したカラムに第一のpH条件下で抗原結合分子を結合させる工程、
(b) 第一のpH条件下でカラムに結合した抗原結合分子を、第二のpH条件下でカラムから溶出する工程、
(c) 溶出された抗原結合分子を取得する工程、
〔32〕以下の工程を含む第一のpHでの結合活性が第二のpHでの結合活性よりも高い抗原結合分子のスクリーニング方法、
(a) 抗原結合分子ライブラリーを、抗原を固定したカラムに第一のpH条件下で結合させる工程、
(b) カラムから第二のpH条件下で抗原結合分子を溶出する工程、
(c) 溶出された抗原結合分子をコードする遺伝子を増幅する工程、
(d) 溶出された抗原結合分子を取得する工程、
〔33〕第一のpHがpH6.7.~pH10.0、第二のpHが4.0~pH6.5であることを特徴とする〔31〕または〔32〕に記載のスクリーニング方法、
〔34〕抗原結合分子が、抗原結合分子中の少なくとも1つ以上のアミノ酸がヒスチジンで置換された又は少なくとも1つのヒスチジンが挿入された抗原結合分子である〔28〕~〔33〕いずれかに記載のスクリーニング方法、
〔35〕血漿中滞留性が優れた抗原結合分子を得ることを目的とする〔28〕~〔33〕いずれかに記載のスクリーニング方法、
〔36〕抗原に2回以上結合することができる抗原結合分子を得ることを目的とする〔28〕~〔33〕いずれかに記載のスクリーニング方法、
〔37〕結合可能な抗原の数が抗原結合部位より多い抗原結合分子を得ることを目的とする〔28〕~〔33〕いずれかに記載のスクリーニング方法、
〔38〕細胞外で結合した抗原を細胞内で解離する抗原結合分子を得ることを目的とする〔28〕~〔33〕いずれかに記載のスクリーニング方法、
〔39〕抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれ、抗原と結合していない状態で細胞外に放出される抗原結合分子を得ることを目的とする〔28〕~〔33〕いずれかに記載のスクリーニング方法、
〔40〕血漿中抗原消失能が増加した抗原結合分子を得ることを目的とする〔28〕~〔33〕いずれかに記載のスクリーニング方法、
〔41〕抗原結合分子が医薬組成物として用いられる抗原結合分子である〔28〕~〔40〕いずれかに記載のスクリーニング方法、
〔42〕抗原結合分子が抗体であることを特徴とする〔28〕~〔41〕いずれかに記載のスクリーニング方法、
〔43〕以下の工程を含む抗原結合分子の製造方法、
(a) pH6.7~pH10.0における抗原結合分子の抗原結合活性を得る工程、
(b) pH4.0~pH6.5における抗原結合分子の抗原結合活性を得る工程、
(c) pH6.7~pH10.0での抗原結合活性がpH4.0~pH6.5での抗原結合活性より高い抗原結合
分子を選択する工程、
(d) (c)で選択された抗原結合分子をコードする遺伝子を得る工程、
(e) (d)で得られた遺伝子を用いて抗原結合分子を製造する工程、
〔44〕以下の工程を含む抗原結合分子の製造方法、
(a) pH6.7~pH10.0の条件下で抗原結合分子を抗原に結合させる工程、
(b) (a)の抗原に結合した抗原結合分子をpH4.0~pH6.5の条件下に置く工程、
(c) pH4.0~pH6.5の条件下で解離した抗原結合分子を取得する工程、
(d) (c)で取得された抗原結合分子をコードする遺伝子を得る工程、
(e) (d)で得られた遺伝子を用いて抗原結合分子を製造する工程、
〔45〕以下の工程を含む第一のpHでの結合活性が第二のpHでの結合活性よりも高い抗原結合分子の製造方法、
(a) 抗原を固定したカラムに第一のpH条件下で抗原結合分子を結合させる工程、
(b) 第一のpH条件下でカラムに結合した抗原結合分子を、第二のpH条件下でカラムから溶出する工程、
(c) 溶出された抗原結合分子を取得する工程、
(d) (c)で取得された抗原結合分子をコードする遺伝子を得る工程、
(e) (d)で得られた遺伝子を用いて抗原結合分子を製造する工程、
〔46〕以下の工程を含む第一のpHでの結合活性が第二のpHでの結合活性よりも高い抗原結合分子の製造方法、
(a) 抗原結合分子ライブラリーを、抗原を固定したカラムに第一のpH条件下で結合させる工程、
(b) カラムから第二のpH条件下で抗原結合分子を溶出する工程、
(c) 溶出された抗原結合分子をコードする遺伝子を増幅する工程、
(d) 溶出された抗原結合分子を取得する工程、
(e) (d)で取得された抗原結合分子をコードする遺伝子を得る工程、
(f) (e)で得られた遺伝子を用いて抗原結合分子を製造する工程、
〔47〕第一のpHがpH6.7.~pH10.0、第二のpHが4.0~pH6.5であることを特徴とする〔45〕または〔46〕に記載の製造方法、
〔48〕抗原結合分子中の少なくとも1つ以上のアミノ酸をヒスチジンで置換する又は少なくとも1つのヒスチジンを挿入する工程をさらに含む〔43〕~〔47〕いずれかに記載の製造方法、
〔49〕抗原結合分子が抗体であることを特徴とする〔43〕~〔48〕いずれかに記載の製造方法、
〔50〕〔43〕~〔49〕いずれかに記載の製造方法により製造された抗原結合分子を含む医薬組成物、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって、1分子の抗原結合分子を複数の抗原に繰り返し結合させる方法が提供された。1分子の抗原結合分子が複数の抗原に結合することで抗原結合分子の薬物動態を向上させ、in vivoにおいて通常の抗原結合分子よりも優れた効果を発揮させることがで
きる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】膜型抗原に結合した抗体の分解経路を示す図である。
【
図2】FcRnによるIgG分子のサルベージメカニズムを示す図である。
【
図3】IgG分子がエンドソーム内で膜型抗原から解離することで再度新たな抗原に結合することを示す模式図である。
【
図4】IgG分子がエンドソーム内で可溶型抗原から解離することで再度新たな抗原に結合することを示す模式図である。
【
図5】抗原を固定化したカラムパンニングを示す図である。
【
図6】カラムパンニングより取得したクローンのファージELISAの結果を示すグラフである。上段がWT、下段がCL5である。
【
図7】pH依存的結合抗IL-6レセプター抗体の生物学的中和活性を示すグラフである。
【
図8】pH依存的結合抗IL-6レセプター抗体のpH7.4での可溶型IL-6レセプターへの結合のBiacoreセンサーグラムの結果を示すグラフである。一番上がWT、上から2番目がH3pI/L73、上から3番目がH170/L82、一番下がCLH5/L73である。
【
図9】pH依存的結合抗IL-6レセプター抗体のpH5.8での可溶型IL-6レセプターへの結合のBiacoreセンサーグラムの結果を示すグラフである。一番上がWT、上から2番目がH3pI/L73、上から3番目がH170/L82、一番下がCLH5/L73である。
【
図10】pH依存的結合抗IL-6レセプター抗体の膜型IL-6レセプターへの結合(pH7.4)および解離(pH5.8)のBiacoreセンサーグラムの結果を示すグラフである。一番上がWT、上から2番目がH3pI/L73、上から3番目がH170/L82、一番下がCLH5/L73である。
【
図11】pH依存的結合抗IL-6レセプター抗体のSR344への繰り返し結合を示すBiacoreのセンサーグラムである。
【
図12】pH依存的結合抗IL-6レセプター抗体のSR344への繰り返し結合実験における総抗原結合量を示すグラフである。
【
図13】pH依存的結合抗IL-6レセプター抗体のヒトIL-6レセプタートランスジェニックマウスにおける抗体血漿中濃度推移を示すグラフである。
【
図14】pH依存的結合抗IL-6レセプター抗体のカニクイザルにおける抗体血漿中濃度推移を示すグラフである。
【
図15】pH依存的結合抗IL-6レセプター抗体のカニクイザルにおけるCRP濃度推移を示すグラフである。
【
図16】pH依存的結合抗IL-6レセプター抗体のカニクイザルにおける非結合型カニクイザルIL-6レセプター濃度推移を示すグラフである。
【
図17】pH依存的結合抗IL-6レセプター抗体の膜型IL-6レセプターへの結合(pH7.4)および解離(pH5.8)のBiacoreセンサーグラムの結果を示すグラフである。上からWT、H3pI/L73-IgG1、Fv2-IgG1、Fv4-IgG1である。
【
図18】pH依存的結合抗IL-6レセプター抗体のヒトIL-6レセプタートランスジェニックマウスにおけるWT、H3pI/L73-IgG1、Fv2-IgG1、Fv4-IgG1の抗体血漿中濃度推移を示すグラフである。
【
図19】pH依存的結合抗IL-6レセプター抗体の膜型IL-6レセプターへの結合(pH7.4)および解離(pH5.8)のBiacoreセンサーグラムの結果を示すグラフである。一番上からWT、Fv4-IgG1、Fv4-IgG2、Fv4-M58である。
【
図20】pH依存的結合抗IL-6レセプター抗体のヒトIL-6レセプタートランスジェニックマウスにおけるWT、Fv4-IgG1、Fv4-IgG2、Fv4-M58の抗体血漿中濃度推移を示すグラフである。
【
図21】pH依存的結合抗IL-6レセプター抗体の膜型IL-6レセプターへの結合(pH7.4)および解離(pH5.8)のBiacoreセンサーグラムの結果を示すグラフである。一番上からFv1-M71、Fv1-M73、Fv3-M71、Fv3-M73 である。
【
図22】pH依存的結合抗IL-6レセプター抗体のカニクイザルにおけるH3pI/L73-IgG1、Fv1-M71、Fv1-M73、Fv2-IgG1、Fv3-M73、Fv4-M73を0.5 mg/kg、high affinity Abを1.0 mg/kg投与した時の抗体血漿中濃度推移を示すグラフである。
【
図23】pH依存的結合抗IL-6レセプター抗体のカニクイザルにおけるH3pI/L73-IgG1、Fv1-M71、Fv1-M73、Fv2-IgG1、Fv3-M73、Fv4-M73、high affinity Ab投与群のCRP濃度推移を示すグラフである。
【
図24】pH依存的結合抗IL-6レセプター抗体のカニクイザルにおける H3pI/L73-IgG1、Fv1-M71、Fv1-M73、Fv2-IgG1、Fv3-M73、Fv4-M73、high affinity Ab投与群の非結合型カニクイザルIL-6レセプター濃度推移を示すグラフである。
【
図25】重鎖(VH1, VH2, VH3, VH4)および軽鎖(VL1, VL2, VL3)のFR1, FR2, FR3, FR4およびCDR1, CDR2, CDR3を示す図である。アスタリスクは、アライメントした配列におけるアミノ酸の変異がある部位を示す。
【
図26】pH依存的結合抗IL-6抗体であるAnti-IL6 clone2のpH7.4とpH5.5でのIL-6への結合のBiacoreセンサーグラムの結果を示すグラフである。pH7.4のグラフは、上から100、50、25、12.5、6.25 ng/mL IL-6を示す。
【
図27】pH依存的結合抗IL-31レセプター抗体であるAnti-IL31R clone1のpH7.4とpH5.5でのIL-31レセプターへの結合のBiacoreセンサーグラムの結果を示すグラフである。pH5.5のグラフは、上から100、50、25、12.5 ng/mL IL-31レセプターを示す。
【
図28】マウスにSR344および抗ヒトIL-6レセプター抗体の混合溶液を静脈内投与後の血漿中の抗体濃度推移を示した図である。
【
図29】マウスにSR344および抗ヒトIL-6レセプター抗体の混合溶液を静脈内投与後の血漿中のSR344濃度推移を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔発明を実施するための形態〕
本発明は、抗原結合分子の抗原への結合回数を増やす方法を提供する。より具体的には抗原結合分子の酸性pHにおける抗原結合能を中性pHにおける抗原結合能よりも弱くすることにより、抗原結合分子の抗原への結合回数を増やす方法を提供する。さらに、本発明は抗原結合分子の少なくとも1つのアミノ酸をヒスチジンに置換する又は少なくとも1つのヒスチジンを挿入することを特徴とする抗原結合分子の抗原への結合回数を増やす方法を提供する。さらに本発明は、抗原結合分子に含まれる抗体定常領域中のアミノ酸を置換、欠失、付加及び/又は挿入することを特徴とする抗原結合分子の抗原への結合回数を増やす方法を提供する。
【0015】
又、本発明は、抗原結合分子が結合可能な抗原の数を増やす方法を提供する。より具体的には抗原結合分子の酸性pHにおける抗原結合能を中性pHにおける抗原結合能よりも弱くすることにより、抗原結合分子が結合可能な抗原の数を増やす方法を提供する。さらに、本発明は抗原結合分子の少なくとも1つのアミノ酸をヒスチジンに置換する又は少なくとも1つのヒスチジンを挿入することを特徴とする、抗原結合分子が結合可能な抗原の数を増やす方法を提供する。さらに本発明は、抗原結合分子に含まれる抗体定常領域中のアミノ酸を置換、欠失、付加及び/又は挿入することを特徴とする抗原結合分子が結合可能な抗原の数を増やす方法を提供する。
【0016】
又、本発明は、細胞外で抗原結合分子に結合した抗原を細胞内で抗原結合分子から解離させる方法を提供する。より具体的には抗原結合分子の酸性pHにおける抗原結合能を中性pHにおける抗原結合能よりも弱くすることにより、細胞外で抗原結合分子に結合した抗原
を細胞内で抗原結合分子から解離させる方法を提供する。さらに、本発明は抗原結合分子の少なくとも1つのアミノ酸をヒスチジンに置換する又は少なくとも1つのヒスチジンを挿入することを特徴とする、細胞外で抗原結合分子に結合した抗原を細胞内で抗原結合分子から解離させる方法を提供する。さらに本発明は、抗原結合分子に含まれる抗体定常領域中のアミノ酸を置換、欠失、付加及び/又は挿入することを特徴とする細胞外で抗原結合分子に結合した抗原を細胞内で抗原結合分子から解離させる方法を提供する。
【0017】
又、本発明は、抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれた抗原結合分子を、抗原と結合していない状態で細胞外に放出させる方法を提供する。より具体的には抗原結合分子の酸性pHにおける抗原結合能を中性pHにおける抗原結合能よりも弱くすることにより、抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれた抗原結合分子を、抗原と結合していない状態で細胞外に放出させる方法を提供する。さらに、本発明は抗原結合分子の少なくとも1つのアミノ酸をヒスチジンに置換する又は少なくとも1つのヒスチジンを挿入することを特徴とする、抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれた抗原結合分子を、抗原と結合していない状態で細胞外に放出させる方法を提供する。さらに本発明は、抗原結合分子に含まれる抗体定常領域中のアミノ酸を置換、欠失、付加及び/又は挿入することを特徴とする抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれた抗原結合分子を、抗原と結合していない状態で細胞外に放出させる方法を提供する。
【0018】
又、本発明は、抗原結合分子の血漿中抗原消失能を増加させる方法を提供する。より具体的には抗原結合分子の酸性pHにおける抗原結合能を中性pHにおける抗原結合能よりも弱くすることにより、抗原結合分子の血漿中抗原消失能を増加させる方法を提供する。さらに、本発明は抗原結合分子の少なくとも1つのアミノ酸をヒスチジンに置換する又は少なくとも1つのヒスチジンを挿入することを特徴とする、抗原結合分子の血漿中抗原消失能を増加させる方法を提供する。さらに本発明は、抗原結合分子に含まれる抗体定常領域中のアミノ酸を置換、欠失、付加及び/又は挿入することを特徴とする抗原結合分子の血漿中抗原消失能を増加させる方法を提供する。
【0019】
さらに、本発明は、抗原結合分子の薬物動態を向上する方法を提供する。より具体的には、抗原結合分子の酸性pHにおける抗原結合能を中性pHにおける抗原結合能よりも弱くすることにより、抗原結合分子の薬物動態を向上する(血漿中滞留性を長くする)方法を提供する。さらに、本発明は抗原結合分子の少なくとも1つのアミノ酸をヒスチジンに置換する又は少なくとも1つのヒスチジンを挿入することを特徴とする薬物動態を向上する方法を提供する。さらに本発明は、抗原結合分子に含まれる抗体定常領域中のアミノ酸を置換、欠失、付加及び/又は挿入することを特徴とする薬物動態を向上する方法を提供する。
【0020】
さらに、本発明は、抗原結合分子の血漿中抗原消失能を増加させる方法を提供する。より具体的には、抗原結合分子の酸性pHにおける抗原結合能を中性pHにおける抗原結合能よりも弱くすることにより、抗原結合分子の血漿中抗原消失能を増加させる方法を提供する。さらに、本発明は抗原結合分子の少なくとも1つのアミノ酸をヒスチジンに置換する又は少なくとも1つのヒスチジンを挿入することを特徴とする抗原結合分子の血漿中抗原消失能を増加させる方法を提供する。さらに本発明は、抗原結合分子に含まれる抗体定常領域中のアミノ酸を置換、欠失、付加及び/又は挿入することを特徴とする抗原結合分子の血漿中抗原消失能を増加させる方法を提供する。
【0021】
本発明において、「薬物動態の向上」、「薬物動態の改善」または「優れた薬物動態」は、「血漿中(血中)滞留性の向上」、「血漿中(血中)滞留性の改善」、「優れた血漿中(血中)滞留性」と言い換えることが可能であり、これらの語句は同じ意味で使用される。
【0022】
本発明において、酸性pHにおける抗原結合能を中性pHにおける抗原結合能よりも弱くするとは、抗原結合分子のpH4.0~pH6.5での抗原結合活性をpH6.7~pH10.0での抗原結合活
性より弱くすることを意味する。好ましくは、抗原結合分子のpH5.5~pH6.5での抗原結合活性をpH7.0~pH8.0での抗原結合活性より弱くすることを意味し、特に好ましくは、抗原結合分子のpH5.8での抗原結合活性をpH7.4での抗原結合活性より弱くすることを意味する。従って、本発明において酸性pHとは通常、pH4.0~pH6.5であり、好ましくはpH5.5~pH6.5であり、特に好ましくはpH5.8である。又、本発明において中性pHとは通常、pH6.7~pH10.0であり、好ましくは、pH7.0~pH8.0であり、特に好ましくはpH7.4である。
【0023】
本発明において、「抗原結合分子の酸性pHにおける抗原結合能を中性pHにおける抗原結合能より弱くする」という表現は、抗原結合分子の中性での抗原結合能を酸性でのpHにおける抗原結合能よりも高くすると表現することもできる。つまり、本発明においては、抗原結合分子の酸性pHにおける抗原結合能と中性pHにおける抗原結合能の差を大きくすればよい(例えば、後述のようにKD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値を大きくすればよい)。抗原結合分子の酸性pHにおける抗原結合能と中性pHにおける抗原結合能の差を大きくするためには、例えば、酸性pHにおける抗原結合能を低くしてもよいし、中性pHにおける抗原結合能を高くしてもよいし、又は、その両方でもよい。
【0024】
抗原の結合活性を測定する際のpH以外の条件は当業者が適宜選択することが可能であり、特に限定されないが、例えば、実施例に記載のようにMESバッファー、37℃の条件において測定することが可能である。又、抗原結合分子の抗原結合活性の測定は当業者に公知の方法により行うことが可能であり、例えば、実施例に記載のようにBiacore(GE Healthcare)などを用いて測定することが可能である。抗原が可溶型抗原である場合は、抗原結合分子を固定化したチップへの抗原をアナライトとして流すことで可溶型抗原への結合能を評価することが可能であり、抗原が膜型抗原である場合は、抗原を固定化したチップへ抗原結合分子をアナライトとして流すことで膜型抗原への結合能を評価することが可能である。
【0025】
本発明において、酸性pHにおける抗原結合活性が中性pHにおける抗原結合活性よりも弱い限り、酸性pHにおける抗原結合活性と中性pHにおける抗原結合活性の差は特に限定されないが、好ましくは抗原に対するpH5.8でのKDとpH7.4でのKD(Dissociation constant:
解離定数)の比であるKD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値が2以上であり、さらに好ましくはKD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値が10以上であり、さらに好ましくはKD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値が40以上である。KD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値の上限は特に限定されず、当業者の技術において作製可能な限り、400、1000、10000等、いかなる値でもよい。抗原結合活性の値として抗原が可溶型抗原の場合はKD(解離定数)を用いることが可能であるが、抗原が膜型抗原の場合は見かけのKD(Apparent dissociation constant:見かけの解離定数)を用いることが可能である。KD(解離定数)、および、見かけのKD(見かけの解離定数)は、当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore(GE healthcare)、スキャッチャードプロット、FACS等を用いることが可能である。
【0026】
又、本発明においては、酸性pHにおける抗原結合活性と中性pHにおける抗原結合活性の差を示す他の指標として、例えば、解離速度定数であるkd(Dissociation rate constant:解離速度定数)を用いることも可能である。結合活性の差を示す指標としてKD(解離定数)の代わりにkd(解離速度定数)を用いる場合、抗原に対するpH5.8でのkd(解離速度
定数)とpH7.4でのkd(解離速度定数)の比であるkd(pH5.8)/kd(pH7.4)の値は、好ましくは2以上であり、さらに好ましくは5以上であり、さらに好ましくは10以上であり、より好ましくは30以上である。kd(pH5.8)/kd(pH7.4)の値の上限は特に限定されず、当業
者の技術常識において作製可能な限り、50、100、200等、如何なる値でもよい。
【0027】
抗原結合活性の値として抗原が可溶型抗原の場合はkd(解離速度定数)を用いることが可能であるが、抗原が膜型抗原の場合は見かけのkd(Apparent dissociation rate constant:見かけの解離速度定数)を用いることが可能である。kd(解離速度定数)、および、見かけのkd(見かけの解離速度定数)は、当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore(GE healthcare)、FACS等を用いることが可能である。
【0028】
なお本発明において異なるpHで抗原結合分子の抗原結合活性を測定する際は、pH以外の条件は同一とすることが好ましい。
【0029】
抗原結合分子のpH5.8における抗原結合活性をpH7.4における抗原結合活性より弱くする方法(pH依存的な結合能を付与する方法)は特に限定されず、如何なる方法により行われてもよい。例えば抗原結合分子中のアミノ酸をヒスチジンに置換する、又は抗原結合分子中にヒスチジンを挿入することによりpH5.8における抗原結合活性をpH7.4における抗原結合活性より弱くする方法を挙げることができる。抗体中のアミノ酸をヒスチジンで置換することによりpH依存性の抗原結合活性を抗体に付与できることは既に知られている(FEBS
Letter, 309(1), 85-88, (1992))。ヒスチジン変異(置換)又は挿入が導入される(行われる)位置は特に限定されず、変異又は挿入前と比較してpH5.8における抗原結合活性
がpH7.4における抗原結合活性より弱くなる(KD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値が大きくなる)
限り、如何なる部位でもよい。例えば、抗原結合分子が抗体の場合には、抗体の可変領域などを挙げることができる。ヒスチジン変異又は挿入が導入される(行われる)数は当業者が適宜決定することができ、1箇所のみをヒスチジンで置換してもよいし、又は1箇所のみにヒスチジンを挿入してもよいし、2箇所以上の複数箇所をヒスチジンで置換しても
よいし、又は2箇所以上の複数箇所にヒスチジンを挿入してもよい。又、ヒスチジン変異
以外の変異(ヒスチジン以外のアミノ酸への変異)を同時に導入してもよい。さらに、ヒスチジン変異とヒスチジン挿入を同時に行ってもよい。ヒスチジンへの置換又はヒスチジンの挿入は当業者に公知のアラニンscanningのアラニンをヒスチジンに置き換えたヒスチジンscanningなどの方法によりランダムに行ってもよく、ヒスチジン変異又は挿入がランダムに導入された抗原結合分子ライブラリーの中から、変異前と比較してKD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値が大きくなった抗原結合分子を選択してもよい。
【0030】
抗原結合分子のアミノ酸をヒスチジンに置換又は抗原結合分子のアミノ酸にヒスチジンを挿入する場合、特に限定されないが、ヒスチジン置換又は挿入後の抗原結合分子のpH7.4における抗原結合活性が、ヒスチジン置換又は挿入前の抗原結合分子のpH7.4における抗原結合活性と同等であることが好ましい。ここで、ヒスチジン置換又は挿入後の抗原結合分子のpH7.4における抗原結合活性が、ヒスチジン置換又は挿入前の抗原結合分子のpH7.4における抗原結合活性と同等であるとは、ヒスチジン置換又は挿入後の抗原結合分子が、ヒスチジン置換又は挿入前の抗原結合分子が有する抗原結合活性の10%以上、好ましくは50%以上、さらに好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上を維持していることを言う。ヒスチジン置換又は挿入により抗原結合分子の抗原結合活性が低くなった場合には、抗原結合分子中の1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、付加及び/又は挿入などにより抗原結合活性をヒスチジン置換又は挿入前の抗原結合活性と同等にしてもよい。本発明においては、そのようなヒスチジン置換又は挿入後に1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、付加及び/又は挿入を行うことにより結合活性が同等となった抗原結合分子も含まれる。
【0031】
又、抗原結合分子のpH5.8における抗原結合活性をpH7.4における抗原結合活性より弱くする他の方法として、抗原結合分子中のアミノ酸を非天然型アミノ酸に置換又は抗原結合分子中のアミノ酸に非天然型アミノ酸を挿入する方法を挙げることができる。非天然アミノ酸は人為的にpKaをコントロールすることができることが知られている(Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 34、Chem Soc Rev. 2004 Sep 10;33(7):422-30.、Amino Acids. 199
9;16(3-4):345-79.)。従って、本発明においては上述のヒスチジンの代わりに非天然型
アミノ酸を用いることが可能である。又、上述のヒスチジン置換及び/又は挿入と、非天然型アミノ酸の置換及び/又は挿入は、同時に行ってもよい。本発明で用いられる非天然型アミノ酸は如何なる非天然型アミノ酸でもよく、当業者に公知の非天然型アミノ酸等を用いることが可能である。
【0032】
さらに、抗原結合分子が抗体定常領域を含む物質である場合、抗原結合分子のpH5.8に
おける抗原結合活性をpH7.4における抗原結合活性より弱くする他の方法として、抗原結
合分子に含まれる抗体定常領域を改変する方法を挙げることができる。このような抗体定常領域の改変の具体例としては、例えば実施例に記載の定常領域に置換する方法を挙げることが出来る。
【0033】
また、抗体定常領域の改変方法としては、例えば、定常領域のアイソタイプ(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)を複数検討し、pH5.8における抗原結合活性が低下する(pH5.8における解離速度が速くなる)アイソタイプを選択する方法が挙げられる。さらに野生型アイソタイプのアミノ酸配列(野生型IgG1、IgG2、IgG3、IgG4アミノ酸配列)にアミノ酸置換を導入することで、pH5.8における抗原結合活性を低下させる(pH5.8における解離速度が速くする)方法が挙げられる。アイソタイプ(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)によって抗体定常領域のヒンジ領域の配列が大きく異なり、ヒンジ領域のアミノ酸配列の違いは抗原結合活性に大きく影響を与えるため、抗原やエピトープの種類によって適切なアイソタイプを選択することでpH5.8における抗原結合活性が低下する(pH5.8における解離速度が速くする)アイソタイプを選択することが可能である。また、ヒンジ領域のアミノ酸配列の違いは抗原結合活性に大きく影響を与えることから、野生型アイソタイプのアミノ酸配列のアミノ酸置換箇所としては、ヒンジ領域が望ましいと考えられる。
【0034】
上述の方法等により抗原結合物質のpH5.8における抗原結合活性をpH7.4における抗原結合活性より弱くする(KD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値を大きくする)場合、特に限定されないが、KD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値が基の抗体と比較して通常、2倍以上、好ましくは5倍以上、さらに好ましくは10倍以上となっていることが好ましい。
【0035】
本発明において「薬物動態が向上する」とは、抗原結合分子がヒト、マウス、ラット、サル、ウサギ、イヌなどの動物に投与されてから、血漿中から消失するまで(例えば、細胞内で分解される等して抗原結合分子が血漿中に戻ることが不可能な状態になるまで)の時間が長くなることのみならず、抗原結合分子が投与されてから血漿中から消失するまでの間に抗原に結合可能な状態(例えば、抗原結合分子が抗原に結合していない状態)で血漿中に滞留する時間が長くなることも含む。抗原結合分子が血漿中に存在していても、その抗原結合分子にすでに抗原が結合している場合は、その抗原結合分子は新たな抗原に結合できない。そのため抗原結合分子が抗原に結合していない時間が長くなれば、新たな抗原に結合できる時間が長くなり(新たな抗原に結合できる機会が多くなり)、生体内で抗原が抗原結合分子に結合していない時間を減少させることができる(言い換えれば、抗原に抗原結合分子が結合している時間を長くすることができる)。例えば血漿中などの生体内に存在する抗原(抗原結合分子に結合している分子と抗原結合分子に結合していない抗原の総量)に対する、抗原結合分子に結合している抗原の割合は、通常、抗原結合分子投与後、一定時間が経過すると減少していく。しかし、抗原結合分子が抗原に結合可能な状態で滞留する時間が長くなれば、その減少を抑制(例えば、減少の度合いを少なくする、等)することが可能となり、結果として抗体投与から一定期間経過した後の生体内に存在する抗原に対する、抗原結合分子に結合している抗原の割合が高くなる。
【0036】
つまり、本発明の「薬物動態の向上」は、必ずしも抗原結合分子が投与されてから抗原結合分子が消失するまでの時間が延長される(長くなる)必要はない。たとえ抗原結合分
子が投与されてから消失するまでの時間に変化がなくても、抗原結合分子が抗原に結合できる状態(例えば、抗原結合分子が抗原に結合していない状態)で血漿中に滞留している時間が長くなっている場合、生体内の抗原が抗原結合分子に結合していない時間が減少している(言い換えれば、抗原に抗原結合分子が結合している時間が長くなっている)場合、又は生体内に存在する抗原に対する抗原結合分子に結合している抗原の割合が高くなっている場合のいずれの場合も、本発明の「薬物動態の向上」に含まれる。従って、本発明の「薬物動態の向上」には少なくとも以下の(1)~(4)が含まれる。
(1)抗原結合分子が投与されてから、抗原結合分子が血漿中から消失するまでの時間の
延長。
(2)抗原結合分子が投与されてから、抗原結合分子が抗原に結合可能な状態で血漿中に
存在する時間の延長。
(3)抗原結合分子が投与されてから、生体内の抗原が抗原結合分子と結合していない時
間の減少(生体内の抗原に抗原結合分子が結合している時間の延長)。
(4)生体内に存在する抗原に対する抗原結合分子に結合した抗原の割合の上昇。
【0037】
又、抗原が血漿中に存在する可溶型抗原の場合、抗原結合分子の薬物動態(血漿中からの消失速度)が同等であっても、抗原結合分子が結合している抗原の消失が早くなることがある。これは抗原の薬物動態を低下させる(血漿中からの消失を早くする)ことで、抗原に対する相対的な抗原結合分子の薬物動態が向上していることにつながり、すなわち、抗原結合分子が抗原に結合可能な状態で血漿中に存在する時間の延長につながる。従って、本発明の抗原結合分子の「薬物動態の向上」の一態様として、抗原結合分子が投与されてから、可溶型抗原が血漿中から消失する速さ(抗原結合分子の血漿中抗原消失能)の上昇も含まれる。
【0038】
本発明において、1分子の抗原結合分子が複数の抗原に結合したかどうかは、抗原が膜型抗原の場合、抗原結合分子の薬物動態が向上したかどうかで判断することが可能である。「薬物動態が向上した」か否かは、以下のようにして判断することが可能である。例えば抗原結合分子が投与されてから抗原結合分子が消失するまでの時間が延長されたか否かは、抗原結合分子の血漿中半減期、平均血漿中滞留時間、血漿中クリアランス等のいずれかのパラメーター(ファーマコキネティクス 演習による理解(南山堂))を測定することにより判断することが可能である。例えば、抗原結合分子をマウス、ラット、サル、ウサギ、イヌ、ヒトなどに投与した場合、血漿中半減期が長くなった又は平均血漿中滞留時間が長くなった場合等には抗原結合分子の薬物動態が向上したと言える。これらのパラメーターは当業者に公知の方法により測定することが可能であり、例えば、薬物動態解析ソフトWinNonlin(Pharsight)を用いて、付属の手順書に従いNoncompartmental解析することによって適宜評価することができる。
【0039】
又、抗原結合分子が投与されてから消失するまでの間に抗原に結合可能な状態で血漿中に存在する時間が延長されたか否かは、抗原に結合していない抗原結合分子の血漿中濃度を測定し、抗原に結合していない抗原結合分子の血漿中半減期、平均血漿中滞留時間、血漿中クリアランス等のいずれかのパラメーターを測定することにより判断することが可能である。抗原に結合していない抗原結合分子の血漿中濃度の測定は当業者公知の方法で実施することが可能であり、例えば、Clin Pharmacol. 2008 Apr;48(4):406-17において測
定されている。
【0040】
又、抗原結合分子が投与されてから、生体内の抗原が抗原結合分子に結合していない時間が減少した(抗原に抗原結合分子が結合している時間が長くなった)か否かは、抗原結合分子が結合していない非結合型の抗原の血漿中濃度を測定し、非結合型の抗原の血漿中濃度、あるいは、総抗原量に対する非結合型の抗原量の割合が低く維持されている期間をもとに判断することが可能である。非結合型の抗原の血漿中濃度、あるいは、総抗原量に
対する非結合型の抗原の抗原量の割合の測定は当業者公知の方法で実施することが可能であり、例えば、Pharm Res. 2006 Jan;23(1):95-103において測定されている。また、抗原が何らかの機能を生体内で示す場合、抗原が抗原の機能を中和する抗原結合分子(アンタゴニスト分子)によって結合されているかどうかは、その抗原の機能が中和されているかどうかで評価することも可能である。抗原の機能が中和されているかどうかは、抗原の機能を反映する何らかの生体内のマーカーを測定することで評価することが可能である。抗原が抗原の機能を活性化する抗原結合分子(アゴニスト分子)によって結合されているかどうかは、抗原の機能を反映する何らかの生体内のマーカーを測定することで評価することが可能である。
【0041】
非結合型の抗原の血漿中濃度の測定、総抗原量に対する非結合型の抗原の抗原量の割合の測定、生体内マーカーの測定などの測定は特に限定されないが、抗原結合物質が投与されてから一定時間が経過した後に行われることが好ましい。本発明において抗原結合物質が投与されてから一定時間が経過した後とは、特に限定されず、投与された抗原結合物質の性質等により当業者が適時決定することが可能であるが、例えば抗原結合物質を投与してから1日経過後、抗原結合物質を投与してから3日経過後、抗原結合物質を投与してから7日経過後、抗原結合物質を投与してから14日経過後、抗原結合物質を投与してから28日
経過後などを挙げることができる。
【0042】
本発明においては、ヒトにおける薬物動態が向上することが好ましい。ヒトでの血漿中滞留性を測定することが困難である場合には、マウス(例えば、正常マウス、ヒト抗原発現トランスジェニックマウス、ヒトFcRn発現トランスジェニックマウス、等)やサル(例えば、カニクイザルなど)での血漿中滞留性を基に、ヒトでの血漿中滞留性を予測することができる。
【0043】
血漿中滞留性の測定方法は、特に限定されないが、例えば実施例に記載の方法に従って行うことができる。
【0044】
抗原結合分子が抗原に複数回結合可能であるかどうかは、血漿中と同じ中性条件下で抗原結合分子に結合した抗原がエンドソーム内と同じ酸性条件下で解離し、再び中性条件下でどれだけの抗原に結合できるかどうかを測定することによって評価することが可能である。具体的には、Biacoreのような抗原結合分子-抗原反応を評価する機器を用いて、中
性条件下で抗原結合分子-抗原複合体を作らせ、その後一定時間酸性条件下に曝らした後に、再び中性条件下において抗原結合分子が抗原に結合できるかどうかを測定することで評価可能である。改変前の抗原結合分子と比較してpH依存的結合能を付与した抗原結合分子の抗原結合量が2倍向上した場合、改変前の抗原結合分子と比較してpH依存的結合能を
付与した抗原結合分子は結合回数が2倍向上していると言える。また、抗原が膜型抗原であって抗原に結合した抗原結合分子が抗原を介して取り込まれライソソームで分解されることで血漿中から消失する場合、改変前の抗原結合分子と比較してpH依存的結合能を付与した抗原結合分子の薬物動態あるいは抗原への結合期間がどれだけ向上したかどうかを評価することによって、改変前の抗原結合分子と比較してpH依存的結合能を付与した抗原結合分子の結合回数が増大しているかどうかを評価することが可能である。例えば、改変前の抗原結合分子と比較してpH依存的結合能を付与した抗原結合分子の抗原への結合期間が2倍向上した場合、改変前の抗原結合分子と比較してpH依存的結合能を付与した抗原結合
分子は結合回数が2倍向上していると言える。また、抗原結合分子が結合していない非結
合型の抗原の血漿中濃度を測定し、非結合型の抗原の血漿中濃度、あるいは、総抗原量に対する非結合型の抗原の抗原量の割合、が低く維持されている時間が2倍延長した場合、
改変前の抗原結合分子と比較してpH依存的結合能を付与した抗原結合分子は結合回数が2倍向上していると言える。
【0045】
又、抗原が可溶型抗原の場合、血漿中の中性条件下で抗原結合分子に結合した抗原がエンドソーム内で解離して抗原結合分子が血漿中に戻れば、抗原結合分子は再び血漿中の中性条件下で抗原に結合できるため、エンドソーム内の酸性条件下で抗原を解離する性質を有する抗原結合分子は抗原に複数回結合可能である。抗原結合分子に結合した抗原がエンドソーム内で解離しない場合(抗原は抗原結合分子に結合したまま血漿中に戻る)と比較して、抗原結合分子に結合した抗原がエンドソーム内で解離する場合は、抗原はライソソームに運ばれ分解されるため抗原の血漿中からの消失速度は増加する。すなわち、血漿中から抗原が消失する速度を指標として抗原結合分子が抗原に複数回結合可能であるか否かを判断することも可能である。抗原の血漿中からの消失速度の測定は、例えば、抗原(例えば、膜抗原)と抗原結合分子を生体内に投与し、投与後の血漿中の抗原濃度を測定することにより行うことも可能である。また、抗原(例えば、膜抗原)が生体内で産生(分泌)される場合、抗原の血漿中からの消失速度が増加していれば血漿中抗原濃度は低下することから、血漿中抗原濃度を指標として抗原結合分子が抗原に複数回結合可能であるか否かを判断することも可能である。
【0046】
本発明において、「抗原結合分子の抗原への結合回数を増やす」とは、抗原結合分子がヒト、マウス、サルなどに投与された際に、抗原結合分子が抗原に結合し、細胞内に取り込まれる工程を1回とし、この工程が増えることを意味する。つまり本発明において、「抗原結合分子が抗原に2回結合する」とは、抗原結合分子が抗原に結合した状態で細胞内に取り込まれた後に、抗原を解離した状態で細胞外に放出され、放出された抗原結合分子が再度抗原に結合し、細胞内に取り込まれることを意味する。
【0047】
抗原結合分子が細胞に取り込まれる際には、抗原結合分子は1つの抗原を結合した状態で取り込まれてもよいし、2つ若しくはそれ以上の抗原を結合した状態で取り込まれてもよい。
【0048】
本発明において、「抗原結合分子の抗原への結合回数が増える」とは、全ての抗原結合分子の抗原結合回数が増える必要はなく、例えば、抗原結合分子組成物に含まれる抗原結合分子のうち、2回以上抗原に結合する抗原結合分子の割合が上昇することや、抗原結合
分子組成物に含まれる抗原結合分子の結合回数の平均が上昇すること等でもよい。
【0049】
本発明においては、抗原結合分子をヒトに投与した際の抗原結合分子の抗原への結合回数が増えることが好ましいが、ヒトでの抗原結合回数を測定することが困難である場合には、in vitroでの測定結果、マウス(例えば、抗原発現トランスジェニックマウス、ヒトFcRn発現トランスジェニックマウス、等)やサル(例えば、カニクイザルなど)などでの測定結果を基にヒトでの抗原結合回数を予想してもよい。
【0050】
本発明においては、抗原結合分子が2回以上抗原に結合することが好ましく、例えば、
抗原結合分子組成物に含まれる抗原結合分子の少なくとも10%以上、好ましくは30%以上
、さらに好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上(例えば、90%以上、95%以上など)の抗原結合分子が2回以上抗原に結合することが好ましい。
【0051】
本発明において、「抗原結合分子が結合可能な抗原の数を増やす」とは、抗原結合分子がヒト、マウス、サルなどの動物に投与されてから、細胞内のライソソームで分解されるまでの間に抗原結合分子が結合できる抗原の数を増やすことを意味する。
【0052】
通常、IgGなどの抗体は2つの結合部位を有するので、1つの抗体は最大で2つの抗原
に結合し、抗原に結合した抗体は細胞内に取り込まれ、ライソソームで抗原とともに分解される。従って、通常、IgGなどの抗体は最大で2つの抗原に結合することが可能である
。本発明の方法により抗体などの抗原結合分子のエンドソーム内でのpHにおける抗原結合
活性を血漿中でのpHにおける抗原結合活性よりも弱くすることにより、細胞内に取り込まれた抗体などの抗原結合分子は、細胞内で抗原を解離し、再び細胞外へと放出されて抗原に結合することが可能となる。つまり、本発明の方法により、抗原結合分子の抗原結合部位の数よりも多い数の抗原に結合することが可能となる。具体的には、例えば2つの結合部位を有するIgGの場合、本発明の方法を用いることにより、抗体が投与されてから抗体
が分解されるまでの間に3つ以上、好ましくは4つ以上の抗原に結合することが可能となる。例えば、抗体が中和抗体の場合、「抗原結合分子が結合可能な抗原の数を増やす」とは、抗原結合分子が中和可能な抗原の数を増やす、ということもできる。従って、抗体が中和抗体の場合には、「結合」を「中和」と置き換えることも可能である。
【0053】
本発明において、「抗原結合分子が結合可能な抗原の数を増やす」とは、全ての抗原結合分子において結合可能な抗原の数が増える必要はなく、例えば、抗原結合分子組成物に含まれる抗原結合分子の結合可能な抗原の数の平均が増えることでもよいし、抗原結合分子の抗原結合部位の数よりも多い抗原に結合することができる抗原結合分子の割合が上昇することなどでもよい。
【0054】
本発明においては、抗原結合分子をヒトに投与した際に抗原結合分子が結合可能な抗原の数が増えることが好ましいが、ヒトでの数を測定することが困難である場合には、in vitroでの測定結果、マウス(例えば、抗原発現トランスジェニックマウス、ヒトFcRn発現トランスジェニックマウス、等)やサル(例えば、カニクイザルなど)などでの測定結果を基にヒトでの結合可能な抗原の数を予想してもよい。一般的に、抗体が中和抗体の場合、上述の抗原結合分子の抗原への結合回数は、抗原結合分子が中和可能な抗原の数と相関すると考えられる為、抗原結合分子が中和可能な抗原の数の測定は、上述の抗原結合分子の抗原への結合回数の測定と同様にして行うことが可能である。
【0055】
又、本発明は、酸性pHにおける抗原結合活性が中性pHにおける抗原結合活性より低い抗原結合分子を投与することにより、体内で抗原結合分子を2回以上抗原に結合させる方法
を提供する。
【0056】
又、本発明は、中和活性を有する抗原結合分子において、酸性pHにおける抗原結合活性が中性pHにおける抗原結合活性より低い抗原結合分子を投与することにより、抗原結合分子の抗原結合部位の数よりも多い数の抗原を中和する方法に関する。好ましくは、酸性pHにおける抗原結合活性が中性pHにおける抗原結合活性より低いIgGを投与することにより
、3つ以上、好ましくは4つ以上の抗原を中和する方法に関する。
【0057】
さらに、本発明は抗原結合分子の酸性pHにおける抗原結合能を中性pHにおける抗原結合能よりも弱くすることにより細胞外で抗原結合分子に結合した抗原を細胞内で抗原結合分子から解離させる方法に関する。本発明において抗原が抗原結合分子から解離する箇所は細胞内であれば如何なる箇所でもよいが、好ましくは早期エンドソーム内である。本発明において、「細胞外で抗原結合分子に結合した抗原が細胞内で抗原結合分子から解離する」とは、抗原結合分子に結合して細胞内に取り込まれた抗原全てが細胞内で抗原結合分子から解離する必要はなく、細胞内で抗原結合分子から解離する抗原の割合が、抗原結合分子の酸性pHにおける抗原結合能を中性pHにおける抗原結合能を低くする前と比較して高くなっていればよい。
【0058】
さらに、本発明は抗原結合分子の酸性pHにおける抗原結合能を中性pHにおける抗原結合能よりも弱くすることにより、細胞内での抗原に結合していない抗原結合分子とFcRnの結合を促進する方法に関する。通常、FcRnはエンドソーム内で抗原結合分子と結合するが、抗原結合分子が膜型抗原に結合している場合はFcRnに結合することが出来ないと考えられるので、本発明の好ましい態様として、抗原が膜型抗原の場合、抗原結合分子のエンドソ
ーム内でのpH(酸性pH)における抗原結合能を血漿中でのpH(中性pH)における抗原結合能よりも弱くすることにより、エンドソーム内での抗原結合分子の抗原からの解離を促進し、抗原結合分子とFcRnの結合を促進する方法を挙げることができる。抗原が可溶型抗原の場合、抗原の結合の有無に関わらず抗原結合分子はFcRnに結合することができるが、抗原結合分子のエンドソーム内でのpH(酸性pH)における抗原結合能を血漿中でのpH(中性pH)における抗原結合能よりも弱くすることにより、エンドソーム内で抗原の抗原結合分子からの解離を促進することができれば、"抗原に結合していない"抗原結合分子とFcRnの結合を促進する方法を挙げることができる。
【0059】
抗原が膜型、可溶型どちらの場合であっても、抗原に結合していない抗原結合分子がFcRnにより血漿中に戻ることが出来れば、再び抗原に結合することが可能であるため、これを繰り返すことで抗原結合分子は抗原に複数回結合することが可能である。本発明において、「細胞内での抗原結合分子とFcRnの結合を促進する」とは、全ての抗原結合分子がFcRnと結合する必要はなく、細胞内でFcRnと結合する抗原に結合していない抗原結合分子の割合が、抗原結合分子のエンドソーム内でのpHにおける抗原結合能を血漿中でのpHにおける抗原結合能を低くする前と比較して高くなっていればよい。本発明の細胞内での抗原結合分子とFcRnとの結合を促進する方法において好ましい抗原結合分子の例としては、膜タンパク質などの膜型抗原(膜抗原)に結合する抗原結合分子を挙げることができる。又、他の好ましい抗原結合分子としては、可溶型タンパク質などの可溶型抗原に結合する抗原結合分子を挙げることができる。
【0060】
又、細胞内での抗原結合分子とFcRnの結合を促進する方法は、抗原結合分子の細胞内(例えばエンドソーム内)でのFcRnとの結合活性を増強する方法ともいえる。
【0061】
さらに本発明は、抗原結合分子の酸性pHにおける抗原結合能を中性pHにおける抗原結合能よりも弱くすることにより、抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれた抗原結合分子を、抗原と結合していない状態で細胞外に放出させる方法に関する。本発明において、「抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれた抗原結合分子を、抗原と結合していない状態で細胞外に放出させる」とは、抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれた抗原結合分子全てが抗原と結合していない状態で細胞外に放出される必要はなく、細胞外に放出される抗原結合分子の割合が抗原結合分子の酸性pHにおける抗原結合能を中性pHにおける抗原結合能より低くする前と比較して高くなっていればよい。好ましくは、細胞外に放出された抗原結合分子は抗原結合能を維持している。又、抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれた抗原結合分子を抗原と結合していない状態で細胞外に放出させる方法は、抗原と結合して細胞内に取り込まれた場合に抗原と結合していない状態で細胞外に放出されやすくなる性質を抗原結合分子に付与する方法ともいえる。
【0062】
さらに、本発明は抗原結合分子の酸性pHにおける抗原結合能を中性pHにおける抗原結合能よりも弱くすることにより、抗原結合分子の血漿中抗原消失能を増加させる方法に関する。本発明において、「血漿中抗原消失能」とは、抗原結合分子が生体内に投与されたあるいは生体が分泌した際に、血漿中に存在する抗原を血漿中から消失させる能力のことをいう。従って、本発明において、「抗原結合分子の血漿中抗原消失能が増加する」とは、抗原結合分子を生体内に投与した際に血漿中から抗原が消失する速さが、抗原結合分子の酸性pHにおける抗原結合能を中性pHにおける抗原結合能より低くする前と比較して速くなっていればよい。抗原結合分子の血漿中抗原消失能が増加したか否かは、例えば、可溶型抗原と抗原結合分子を生体内に投与し、投与後の可溶型抗原の血漿中濃度を測定することにより判断することが可能である。抗原結合分子の酸性pHにおける抗原結合能を中性pHにおける抗原結合能より低くすることにより、可溶型抗原および抗原結合分子投与後の血漿中の可溶型抗原の濃度が低下している場合には、抗原結合分子の血漿中抗原消失能が増加したと判断することができる。
【0063】
さらに、本発明は抗原結合分子の少なくとも1つのアミノ酸をヒスチジン又は非天然アミノ酸で置換する、又はヒスチジン又は非天然アミノ酸を挿入することにより、抗原結合分子の薬物動態を向上する方法に関する。
【0064】
又、本発明は抗原結合分子の少なくとも1つのアミノ酸をヒスチジン又は非天然アミノ酸で置換する、又はヒスチジン又は非天然アミノ酸を挿入することにより、抗原結合分子の抗原への結合回数を増やす方法を提供する。
【0065】
さらに、本発明は抗原結合分子の少なくとも1つのアミノ酸をヒスチジン又は非天然アミノ酸で置換する、又はヒスチジン又は非天然アミノ酸を挿入することにより、抗原結合分子が結合可能な抗原の数を増やす方法に関する。
【0066】
さらに、本発明は抗原結合分子の少なくとも1つのアミノ酸をヒスチジン又は非天然アミノ酸で置換する、又はヒスチジン又は非天然アミノ酸を挿入することにより、細胞外で抗原結合分子に結合した抗原を細胞内で抗原結合分子から解離させる方法を提供する。
【0067】
さらに、本発明は抗原結合分子の少なくとも1つのアミノ酸をヒスチジン又は非天然アミノ酸で置換する、又はヒスチジン又は非天然アミノ酸を挿入することにより、抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれた抗原結合分子を、抗原と結合していない状態で細胞外に放出させる方法を提供する。
【0068】
さらに、本発明は抗原結合分子の少なくとも1つのアミノ酸をヒスチジン又は非天然アミノ酸で置換する、又はヒスチジン又は非天然アミノ酸を挿入することにより、抗原結合分子の血漿中抗原消失能を増加させる方法を提供する。
【0069】
ヒスチジン又は非天然アミノ酸変異(置換、挿入等)が導入される位置は特に限定されず、如何なる部位がヒスチジン又は非天然アミノ酸に置換されてもよく、又は如何なる部位にヒスチジン又は非天然アミノ酸が挿入されてもよい。ヒスチジン又は非天然アミノ酸に置換又はヒスチジン又は非天然アミノ酸が挿入される部位の好ましい例として、抗原結合分子の抗原結合能に影響を与える領域を挙げることができる。例えば、抗原結合分子が抗体の場合には、抗体の可変領域やCDRなどを挙げることができる。ヒスチジン又は非天
然アミノ酸変異が導入される数は特に限定されず、1箇所のみをヒスチジン又は非天然アミノ酸で置換してもよく、又は1箇所のみにヒスチジン又は非天然アミノ酸を挿入してもよい。あるいは2箇所以上の複数箇所をヒスチジン又は非天然アミノ酸で置換してもよく
、又は複数箇所にヒスチジン又は非天然アミノ酸を挿入してもよい。又、ヒスチジン又は非天然アミノ酸への置換又は挿入以外に他のアミノ酸の欠失、付加、挿入および/または置換などを同時に行ってもよい。
【0070】
本発明においてヒスチジン又は非天然アミノ酸に置換される箇所の例として、抗原結合分子が抗体の場合には、抗体のCDR配列やCDRの構造を決定する配列が改変箇所として考えられ、例えば以下の箇所を挙げることができる。なお、アミノ酸位置はKabatナンバリン
グ(Kabat EA et al. 1991. Sequences of Proteins of Immunological Interest.NIH)で示している。
【0071】
重鎖:H27、H31、H32、H33、H35、H50、H58、H59、H61、H62、H63、H64、H65、H99、H100b、H102
軽鎖:L24、L27、L28、L32、L53、L54、L56、L90、L92、L94
【0072】
これらの改変箇所のうち、H32、H61、L53、L90、L94は普遍性の高い改変箇所と考えら
れる。
【0073】
又、特に限定されないが、抗原がIL-6受容体(例えば、ヒトIL-6受容体)の場合の好ましい改変箇所として以下の箇所を挙げることができる。
【0074】
重鎖:H27、H31、H32、H35、H50、H58、H61、H62、H63、H64、H65、H100b、H102
軽鎖:L24、L27、L28、L32、L53、L56、L90、L92、L94
【0075】
複数の箇所を組み合わせてヒスチジン又は非天然アミノ酸に置換する場合の好ましい組み合わせの具体例としては、例えば、H27、H31、H35の組み合わせ、H27、H31、H32、H35
、H58、H62、H102の組み合わせ、L32、L53の組み合わせ、L28、L32、L53の組み合わせ等
を挙げることができる。さらに、重鎖と軽鎖の置換箇所の好ましい組み合わせの例としては、H27、H31、L32、L53の組み合わせを挙げることができる。
【0076】
又、特に限定されないが、抗原がIL-6(例えば、ヒトIL-6)の場合の好ましい改変箇所として以下の箇所を挙げることができる。
【0077】
重鎖:H32、H59、H61、H99
軽鎖:L53、L54、L90、L94
【0078】
又、特に限定されないが、抗原がIL-31受容体(例えば、ヒトIL-31受容体)の場合の好ましい改変箇所としてH33を挙げることができる。
【0079】
これらの箇所は、1つの箇所のみヒスチジン又は非天然アミノ酸で置換してもよいし、複数の箇所をヒスチジン又は非天然アミノ酸で置換してもよい。
【0080】
本発明の方法は、標的抗原の種類によらない任意の抗原結合分子に適応可能である。
【0081】
本発明において抗原結合分子は、対象とする抗原への特異的な結合活性を有する物質であれば特に限定されないが、抗原結合分子の好ましい例として、抗体の抗原結合領域を有している物質を挙げることができる。抗体の抗原結合領域の例としては、CDRや可変領域
を挙げることができる。抗体の抗原結合領域がCDRである場合、全長抗体に含まれる6つ
のCDR全てを含んでいてもよいし、1つ若しくは2つ以上のCDRを含んでいてもよい。抗体の結合領域としてCDRを含む場合、含まれるCDRはアミノ酸の欠失、置換、付加及び/又は挿入などが行われていてもよく、又、CDRの一部分であってもよい。
【0082】
さらに、抗原結合分子に抗体定常領域が含まれる場合、本発明は抗原結合分子に含まれる抗体定常領域を改変(アミノ酸の置換、欠失、付加および/又は挿入など)することにより、抗原結合分子の薬物動態を向上する方法に関する。
【0083】
さらに、抗原結合分子に抗体定常領域が含まれる場合、本発明は抗原結合分子に含まれる抗体定常領域を改変(アミノ酸の置換、欠失、付加および/又は挿入など)することにより、抗原結合分子の抗原への結合回数を増やす方法を提供する。
【0084】
さらに、抗原結合分子に抗体定常領域が含まれる場合、本発明は抗原結合分子に含まれる抗体定常領域を改変(アミノ酸の置換、欠失、付加および/又は挿入など)することにより、抗原結合分子が結合可能な抗原の数を増やす方法に関する。
【0085】
さらに、抗原結合分子に抗体定常領域が含まれる場合、本発明は抗原結合分子に含まれる抗体定常領域を改変(アミノ酸の置換、欠失、付加および/又は挿入など)することに
より、細胞外で抗原結合分子に結合した抗原を細胞内で抗原結合分子から解離させる方法に関する。
【0086】
さらに、抗原結合分子に抗体定常領域が含まれる場合、本発明は抗原結合分子に含まれる抗体定常領域を改変(アミノ酸の置換、欠失、付加および/又は挿入など)することにより、抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれた抗原結合分子を、抗原と結合していない状態で細胞外に放出させる方法に関する。
【0087】
さらに、抗原結合分子に抗体定常領域が含まれる場合、本発明は抗原結合分子に含まれる抗体定常領域を改変(アミノ酸の置換、欠失、付加および/又は挿入など)することにより、抗原結合分子の血漿中抗原消失能を増加させる方法に関する。
【0088】
本発明の抗原結合物質の好ましい態様として、FcRn結合領域を含む抗原結合物質を挙げることができる。FcRn結合領域を含む抗原結合物質は、FcRnのサルベージ経路により細胞内に取り込まれた後に再び血漿中に戻ることが可能である。FcRn結合領域は、直接FcRnと結合する領域であることが好ましい。FcRn結合領域の好ましい例として、抗体のFc領域を挙げることができる。しかしながら、アルブミンやIgGなどのFcRnとの結合能を有するポ
リペプチドに結合可能な領域は、アルブミンやIgGなどを介して間接的にFcRnと結合する
ことが可能であるので、本発明におけるFcRn結合領域はそのようなFcRnとの結合能を有するポリペプチドに結合する領域であってもよい。
【0089】
本発明の方法が対象とする抗体等の抗原結合分子が認識する抗原は特に限定されず、如何なる抗原を認識する抗体が対象となってもよい。本発明の方法により薬物動態を向上させる抗体の例としては、例えば、受容体蛋白質(膜結合型受容体、可溶型受容体)や細胞表面マーカーなどの膜抗原を認識する抗体、サイトカインなどの可溶型抗原を認識する抗体などを挙げることができる。本発明において、膜抗原の好ましい例として膜タンパク質を挙げることができる。又、本発明において可溶型抗原の例として可溶型タンパク質を挙げることができる。本発明の方法により薬物動態を向上させる抗体が認識する抗原の具体的な例としては、例えばIL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-15、IL-31、IL-23、IL-2受容体、IL-6受容体、OSM受容体、gp130、IL-5受容体、CD40、CD4、Fas、オステオポンチン、CRTH2、CD26、PDGF-D、CD20、単球走化活性因子、CD23、TNF-α、HMGB-1、α4インテグリン、ICAM-1、CCR2、CD11a、CD3、IFNγ、BLyS、HLA-DR、TGF-β、CD52、IL-31受容体などを挙げることができる。特に好ましい抗原として、IL-6受容体を挙げることができる。
【0090】
又、本発明の方法が対象とする抗原結合分子としてはアンタゴニスト活性を有する抗原結合分子(アンタゴニスト抗原結合分子)、アゴニスト活性を有する抗原結合分子(アゴニスト抗原結合分子)などを挙げることができるが、好ましい態様として、アンタゴニスト抗原結合分子、特に受容体などの膜抗原やサイトカインなどの可溶型抗原を認識するアンタゴニスト抗原結合分子を挙げることができる。例えば、受容体を認識するアンタゴニスト抗原結合分子は、受容体に結合し、受容体とそのリガンドとの結合を阻害し、受容体を介したシグナル伝達を阻害する抗原結合分子である。
【0091】
本発明において対象となる抗原結合分子は特に限定されず、如何なる抗原結合分子でもよい。本発明で用いられる抗原結合分子は好ましくは、抗原結合活性(抗原結合領域)とFcRn結合領域を有する。本発明においては、特にヒトFcRnとの結合領域を含む抗原結合分子であることが好ましい。抗原結合活性とFcRn結合領域を有する抗原結合分子の例として、抗体を挙げることができる。本発明の抗体の好ましい例として、IgG抗体を挙げることができる。抗体としてIgG抗体を用いる場合、その種類は限定されず、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4などのアイソタイプ(サブクラス)のIgGを用いることが可能である。また、これらのアイソタイプのIgGの定常領域に対して、M73のように定常領域部分にアミノ酸変異を導入しても良い。導入するアミノ酸変異は、例えば、Fcγレセプターへの結合を増大あるいは低減させたもの(Proc Natl Acad Sci U S A. 2006 Mar 14;103(11):4005-10.)、FcRnへの結合を増大あるいは低減させたもの(J Biol Chem. 2001 Mar 2;276(9):6591-604)等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、IgG2などの適切な定常領域を選択することによって、pH依存的な結合を変化させることも可能である。
【0092】
本発明が対象とする抗原結合分子が抗体の場合、抗体はマウス抗体、ヒト抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヤギ抗体、ラクダ抗体など、どのような動物由来の抗体でもよい。さらに、例えば、キメラ抗体、中でもヒト化抗体などのアミノ酸配列を置換した改変抗体でもよい。また、二種特異性抗体、各種分子を結合させた抗体修飾物、抗体断片を含むポリペプチドなどであってもよい。
【0093】
「キメラ抗体」とは、異なる動物由来の配列を組合わせて作製される抗体である。キメラ抗体の具体的な例としては、例えば、マウス抗体の重鎖、軽鎖の可変(V)領域とヒト
抗体の重鎖、軽鎖の定常(C)領域からなる抗体を挙げることができる。
【0094】
「ヒト化抗体」とは、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される、ヒト以外の哺乳動物由来の抗体、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR;complementarity determining region)をヒト抗体のCDRへ移植したものである。CDRを同定するための方法は公知である(Kabat et al., Sequence of Proteins of Immunological Interest (1987), National Institute of Health, Bethesda, Md.; Chothia et al., Nature (1989) 342: 877)。また、その一般的な遺伝子組換え手法も公知である(欧州特許出願公開番号EP 125023号公報、WO 96/02576 号公報参照)。
【0095】
二重特異性抗体は、異なるエピトープを認識する可変領域を同一の抗体分子内に有する抗体をいう。二種特異性抗体は2つ以上の異なる抗原を認識する抗体であってもよいし、同一抗原上の異なる2つ以上のエピトープを認識する抗体であってもよい。
【0096】
又、抗体断片を含むポリペプチドとしては、例えば、Fab断片、F(ab')2断片、scFv(Nat Biotechnol. 2005 Sep;23(9):1126-36.)domain antibody(dAb)(WO2004/058821, WO2003/002609)、scFv-Fc(WO2005037989)、dAb-Fc、Fc融合タンパク質等が挙げられる。これらの分子のうち、特にFc領域を含んでいる分子はFcRnへの結合活性を有することから、本発明で見出された方法を用いるのに適している。
【0097】
さらに、本発明が適用できる抗原結合分子は、抗体様分子であってもよい。抗体様分子とは、ターゲット分子に結合することで機能を発揮するような分子であり(Current Opinion in Biotechnology 2006, 17:653-658、Current Opinion in Biotechnology 2007, 18:1-10、Current Opinion in Structural Biology 1997, 7:463-469、Protein Science 2006, 15:14-27)、例えば、DARPins(WO2002/020565)、Affibody(WO1995/001937)、Avimer(WO2004/044011, WO2005/040229)、Adnectin(WO2002/032925)等が挙げられる。これら抗体様分子であっても、標的分子に対してpH依存的に結合することが出来れば、1分子で複数の標的分子に結合することが可能である。
【0098】
また抗原結合分子は、標的に結合するレセプタータンパク質およびレセプターFc融合タンパク質であっても良く、例えば、TNFR-Fc融合タンパク、IL1R-Fc融合タンパク、VEGFR-Fc融合タンパク、CTLA4-Fc融合タンパク等(Nat Med. 2003 Jan;9(1):47-52、BioDrugs. 2006;20(3):151-60.)が挙げられる。これらレセプタータンパク質およびレセプターFc融合タンパク質であっても標的分子に対してpH依存的に結合することが出来れば、1分子で複数の標的分子に結合することが可能である。
【0099】
また抗原結合分子は、標的に結合するが中和効果を有する人工リガンドタンパク質および人工リガンド融合タンパク質であっても良く、例えば、変異IL-6(EMBO J. 1994 Dec 15;13(24):5863-70.)等が挙げられる。これら人工リガンドタンパク質および人工リガン
ド融合タンパク質であっても標的分子に対してpH依存的に結合することが出来れば、1分子で複数の標的分子に結合することが可能である。
【0100】
さらに、本発明の抗体は糖鎖が改変されていてもよい。糖鎖が改変された抗体の例としては、例えば、グリコシル化が修飾された抗体(WO99/54342など)、糖鎖に付加するフコースが欠損した抗体(WO00/61739、WO02/31140、WO2006/067847、WO2006/067913など)、バイセクティングGlcNAcを有する糖鎖を有する抗体(WO02/79255など)などを挙げることができる。
【0101】
本発明の方法は特定の理論により限定されるものではないが、例えば、酸性pHにおける抗原結合能を中性pHにおける抗原結合能よりも弱くすることと薬物動態の向上、および、複数回の抗原への結合との関連は以下のように説明することが可能である。
【0102】
例えば、抗体が膜抗原に結合する抗体の場合、生体内に投与した抗体は抗原に結合して、その後、抗体は抗原に結合したまま抗原と一緒にインターナライゼーションによって細胞内のエンドソームに取り込まれる。その後、抗体は抗原に結合したままライソソームへ移行し抗体は抗原と一緒にライソソームにより分解される。インターナライゼーションを介した血漿中からの消失は抗原依存的な消失と呼ばれており、多くの抗体分子で報告されている(Drug Discov Today. 2006 Jan;11(1-2):81-8)。1分子のIgG抗体が2価で抗原に結合した場合、1分子の抗体が2分子の抗原に結合した状態でインターナライズされ、そのままライソソームで分解される。従って、通常の抗体の場合、1分子のIgG抗体が3分子以上の抗原に結合することは出来ない。例えば、中和活性を有する1分子のIgG抗体の場合、3分子以上の抗原を中和することはできない。
【0103】
IgG分子の血漿中滞留性が比較的長い(消失が遅い)のは、IgG分子のサルベージレセプターとして知られているFcRnが機能しているためである。ピノサイトーシスによってエンドソームに取り込まれたIgG分子は、エンドソーム内の酸性条件下においてエンドソーム
内に発現しているFcRnに結合する。FcRnに結合できなかったIgG分子はライソソームへと
進みそこで分解されるが、FcRnへ結合したIgG分子は細胞表面へ移行し血漿中の中性条件
下においてFcRnから解離することで再び血漿中に戻る。
【0104】
又、抗体が可溶型抗原に結合する抗体の場合、生体内に投与した抗体は抗原に結合し、その後、抗体は抗原に結合したまま細胞内に取り込まれる。細胞内に取り込まれた抗体の多くはFcRnにより細胞外に放出されるが、抗原に結合したまま細胞外に放出される為、再度、抗原に結合することはできない。従って、膜抗原に結合する抗体と同様、通常の抗体の場合、1分子のIgG抗体が3分子以上の抗原に結合することはできない。
【0105】
本発明者らは、インターナライゼーションによって膜抗原などの抗原に結合した抗体が細胞内のエンドソームに取り込まれた際に、抗原に結合したままの抗体はライソソームに移行して分解されるのに対して、エンドソーム内において抗原が解離したIgG抗体はエン
ドソーム内に発現しているFcRnに結合することが出来ると考えた。つまり、血漿中では抗原に強く結合し、エンドソーム内では抗原に弱く結合する抗体は、血漿中で抗原に結合して抗原との複合体を形成したままインターナライゼーションによって細胞内のエンドソーム内に取り込まれ、エンドソーム内で抗原と解離した後に、FcRnに結合して細胞表面に移行し、抗原に結合していない状態で再び血漿中に戻り、複数個の膜型抗原を中和できることを見出した。さらに、血漿中では抗原に強く結合し、エンドソーム内では抗原に弱く結
合する性質を有する抗体は、可溶型抗原などの抗原に結合した場合でも、エンドソーム内で抗原と解離することから、抗原に結合していない状態で再び血漿中に放出され、複数個の可溶型抗原を中和できることを見出した。
【0106】
特に、本発明者らは血漿中のpHとエンドソーム内のpHが異なることに着目し、血漿中のpH条件では抗原に強く結合し、エンドソーム内のpH条件では抗原に弱く結合する抗体は1抗体分子が複数の抗原に結合することができ、血漿中滞留性が優れていることを見出した。
【0107】
エンドソームは膜小胞の一つであり、真核細胞から細胞質内にネットワークを形成して細胞膜からリソソームに至る過程で高分子の代謝をつかさどる。エンドソーム内のpHは一般的にpH5.5~pH6.0の酸性であることが報告されており(Nat Rev Mol Cell Biol. 2004 Feb;5(2):121-32.)、又、血漿中のpHはほぼ中性(通常、pH7.4)であることが知られて
いる。
【0108】
従って、酸性pHにおける抗原結合活性が中性pHにおける抗原結合活性よりも弱い抗原結合分子は、中性pHの血漿中において抗原に結合し、細胞内に取り込まれた後に、酸性pHのエンドソーム内で抗原と解離する。抗原と解離した抗原結合分子はFcRnに結合して細胞表面に移行し、抗原と結合していない状態で再び血漿中に戻り、結果として抗原と複数回結合することができ、薬物動態が向上する。
【0109】
<抗原結合分子物質>
さらに、本発明はpH4.0~pH6.5での抗原結合活性がpH6.7~pH10.0での抗原結合活性よ
りも低い抗原結合分子、好ましくはpH5.0~pH6.0での抗原結合活性がpH7.0~8.0での抗原結合活性よりも低い抗原結合分子を提供する。pH4.0~pH6.5での抗原結合活性がpH6.7~10.0での抗原結合活性よりも低い抗原結合分子の具体的な例としては、pH5.8での抗原結合活性がpH7.4での抗原結合活性よりも低い抗原結合分子を挙げることができる。又、pH5.8での抗原結合活性がpH7.4での抗原結合活性よりも低い抗原結合分子は、pH7.4での抗原結合活性がpH5.8での抗原結合活性よりも高い抗原結合分子ということもできる。
【0110】
本発明のpH5.8での抗原結合活性がpH7.4での抗原結合活性よりも低い抗原結合分子は、pH5.8での抗原結合活性がpH7.4での結合より低い限り、その結合活性の差は限定されず、僅かでもpH5.8における抗原結合活性が低ければよい。
【0111】
本発明のpH5.8での抗原結合活性がpH7.4での抗原結合活性よりも低い抗原結合分子の好ましい態様として、pH7.4における抗原結合活性がpH5.8における抗原結合活性の2倍以上
である抗原結合分子を挙げることができ、さらに好ましい態様としてはpH7.4における抗
原結合活性がpH5.8における抗原結合活性の10倍以上である抗原結合分子を挙げることが
でき、より好ましい態様としてはpH7.4における抗原結合活性がpH5.8における抗原結合活性の40倍以上である抗原結合分子を挙げることができる。
【0112】
具体的には、本発明のpH5.8での抗原結合活性がpH7.4での抗原結合活性よりも低い抗原結合分子の好ましい態様として、抗原に対するpH5.8でのKDとpH7.4でのKDの比であるKD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値が2以上であり、さらに好ましくはKD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値が10以上であり、さらに好ましくはKD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値が40以上である。KD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値の上限は特に限定されず、当業者の技術において作製可能な限り、400、1000、10000等、いかなる値でもよい。
【0113】
さらに本発明のpH5.8での抗原結合活性がpH7.4での抗原結合活性よりも低い抗原結合分子の好ましい他の態様として、抗原に対するpH5.8でのkdとpH7.4でのkdの比であるkd(pH5
.8)/kd(pH7.4)の値が2以上であり、さらに好ましくはkd(pH5.8)/kd(pH7.4)の値が5以上であり、さらに好ましくはkd(pH5.8)/kd(pH7.4)の値が10以上であり、さらに好ましくはkd(pH5.8)/kd(pH7.4)の値が30以上である。Kd(pH5.8)/kd(pH7.4)の値の上限は特に限定されず、当業者の技術において作製可能な限り、50、100、200等、いかなる値でもよい。
【0114】
抗原の結合活性を測定する際のpH以外の条件は当業者が適宜選択することが可能であり、特に限定されないが、例えば、実施例に記載のようにMESバッファー、37℃の条件において測定することが可能である。又、抗原結合分子の抗原結合活性の測定は当業者に公知の方法により行うことが可能であり、例えば、実施例に記載のようにBiacore T100(GE Healthcare)などを用いて測定することが可能である。
【0115】
このような酸性pHにおいて抗原に弱く結合する抗原結合分子は、エンドソーム内の酸性条件下において抗原から容易に解離すると考えられ、細胞内にインターナライズされた後にFcRnと結合して細胞外に放出されやすいと考えられる。細胞内で分解されることなく、細胞外に放出された抗原結合分子は再度、抗原に結合することが可能である。従って、例えば抗原結合分子が中和抗原結合分子である場合には、エンドソーム内の酸性条件下において抗原から解離しやすい抗原結合分子は、複数回、抗原に結合し、抗原を中和することが可能である。結果として、pH4.0~pH6.5での抗原結合活性がpH6.7~pH10.0での抗原結
合活性よりも低い抗原結合分子は血漿中滞留性において優れた抗原結合分子となる。
【0116】
pH5.8での抗原結合活性がpH7.4での抗原結合活性よりも低い抗原結合分子の好ましい態様として、抗原結合分子中のアミノ酸の少なくとも1つがヒスチジン又は非天然アミノ酸に置換されている又は少なくとも1つのヒスチジン又は非天然アミノ酸が挿入されている抗原結合分子を挙げることができる。ヒスチジン又は非天然アミノ酸変異が導入される位置は特に限定されず、置換前と比較してpH5.8における抗原結合活性がpH7.4における抗原結合活性より弱くなる(KD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値が大きくなる、又はkd(pH5.8)/kd(pH7.4)の値が大きくなる)限り、如何なる部位でもよい。例えば、抗原結合分子が抗体の場合には、抗体の可変領域やCDRなどを挙げることができる。ヒスチジン又は非天然アミノ酸に置換されるアミノ酸の数、又は挿入されるアミノ酸の数は当業者が適宜決定することができ、1つのアミノ酸をヒスチジン又は非天然アミノ酸で置換してもよいし、1つのアミノ酸を挿入してもよいし、2つ以上の複数のアミノ酸をヒスチジン又は非天然アミノ酸で置換してもよいし、2つ以上のアミノ酸を挿入してもよい。又、ヒスチジン又は非天然アミノ酸への置換又はヒスチジン又は非天然アミノ酸の挿入以外に、他のアミノ酸の欠失、付加、挿入および/または置換などを同時に行ってもよい。ヒスチジン又は非天然アミノ酸への置換又はヒスチジン又は非天然アミノ酸の挿入は、当業者の公知のアラニンscanningのアラニンをヒスチジンに置き換えたヒスチジンscanningなどの方法によりランダムに行ってもよく、ヒスチジン又は非天然アミノ酸変異がランダムに導入された抗原結合分子の中から、変異前と比較してKD(pH5.8)/KD(pH7.4)又はkd(pH5.8)/kd(pH7.4)の値が大きくなった抗原結合分子を選択してもよい。
【0117】
このようにヒスチジン又は非天然アミノ酸への変異が行われ、かつpH5.8での抗原結合
活性がpH7.4での抗原結合活性よりも低い抗原結合分子の好ましい例として、例えば、ヒ
スチジン又は非天然アミノ酸への変異後のpH7.4での抗原結合活性がヒスチジン又は非天
然アミノ酸への変異前のpH7.4での抗原結合活性と同等である抗原結合分子を挙げること
ができる。本発明において、ヒスチジン又は非天然アミノ酸変異後の抗原結合分子が、ヒスチジン又は非天然アミノ酸変異前の抗原結合分子と同等の抗原結合活性を有するとは、ヒスチジン又は非天然アミノ酸変異前の抗原結合分子の抗原結合活性を100%とした場合
に、ヒスチジン又は非天然アミノ酸変異後の抗原結合分子の抗原結合活性が少なくとも10%以上、好ましくは50%以上、さらに好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上であることを言う。ヒスチジン又は非天然アミノ酸変異後のpH7.4での抗原結合活性がヒスチジン又は非天然アミノ変異前のpH7.4での抗原結合活性より高くなってもよい。ヒスチ
ジン又は非天然アミノ酸への置換又は挿入により抗原結合分子の抗原結合活性が低くなった場合には、抗原結合分子中の1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、付加及び/又は挿入などにより抗原結合活性をヒスチジン置換又は挿入前の抗原結合活性と同等にしてもよい。本発明においては、そのようなヒスチジン置換又は挿入後に1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、付加及び/又は挿入を行うことにより結合活性が同等となった抗原結合分子も含まれる。
【0118】
さらに、抗原結合分子が抗体定常領域を含む物質である場合、pH5.8での抗原結合活性
がpH7.4での抗原結合活性よりも低い抗原結合分子の好ましい他の態様として、抗原結合
分子に含まれる抗体定常領域が改変された方法を挙げることができる。改変後の抗体定常領域の具体例としては、例えば実施例に記載の定常領域を挙げることができる。
【0119】
上述の方法等により抗原結合物質のpH5.8における抗原結合活性をpH7.4における抗原結合活性より弱くする(KD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値を大きくする)場合、特に限定されないが、KD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値が基の抗体と比較して通常、2倍以上、好ましくは5倍以上、さらに好ましくは10倍以上となっていることが好ましい。
【0120】
本発明の抗原結合分子はpH4.0~pH6.5での抗原結合活性がpH6.7~10.0での抗原結合活
性よりも低い限り、他にどのような性質を有していてもよく、例えばアゴニスト抗原結合分子やアンタゴニスト抗原結合分子などであってもよい。本発明の好ましい抗原結合分子の例としてアンタゴニスト抗原結合分子を挙げることができる。アンタゴニスト抗原結合分子は通常、リガンド(アゴニスト)と受容体の結合を阻害し、受容体を介した細胞内へのシグナル伝達を阻害する抗原結合分子である。
【0121】
さらに、本発明は以下の少なくとも1つの箇所のアミノ酸がヒスチジン又は非天然アミノ酸に置換された抗体を提供する。なお、アミノ酸位置はKabatナンバリング(Kabat EA et al. 1991. Sequences of Proteins of Immunological Interest.NIH)で示してい
る。
【0122】
重鎖:H27、H31、H32、H33、H35、H50、H58、H59、H61、H62、H63、H64、H65、H99、H100b、H102
軽鎖:L24、L27、L28、L32、L53、L54、L56、L90、L92、L94
【0123】
これらの改変箇所のうち、H32、H61、L53、L90、L94は普遍性の高い改変箇所と考えら
れる。
【0124】
又、特に限定されないが、抗原がIL-6受容体(例えば、ヒトIL-6受容体)の場合の好ましい改変箇所として以下の箇所を挙げることができる。
【0125】
重鎖:H27、H31、H32、H35、H50、H58、H61、H62、H63、H64、H65、H100b、H102
軽鎖:L24、L27、L28、L32、L53、L56、L90、L92、L94
【0126】
複数の箇所を組み合わせてヒスチジン又は非天然アミノ酸に置換する場合の好ましい組み合わせの具体例としては、例えば、H27、H31、H35の組み合わせ、H27、H31、H32、H35
、H58、H62、H102の組み合わせ、L32、L53の組み合わせ、L28、L32、L53の組み合わせ等
を挙げることができる。さらに、重鎖と軽鎖の置換箇所の好ましい組み合わせの例としては、H27、H31、L32、L53の組み合わせを挙げることができる。
【0127】
又、特に限定されないが、抗原がIL-6(例えば、ヒトIL-6)の場合の好ましい改変箇所
として以下の箇所を挙げることができる。
【0128】
重鎖:H32、H59、H61、H99
軽鎖:L53、L54、L90、L94
【0129】
又、特に限定されないが、抗原がIL-31受容体(例えば、ヒトIL-31受容体)の場合の好ましい改変箇所としてH33を挙げることができる。
【0130】
本発明の抗原結合分子が認識する抗原は如何なる抗原でもよい。本発明の抗体が認識する抗原の具体的な例としては上述の受容体蛋白質(膜結合型受容体、可溶型受容体)、細胞表面マーカーなどの膜抗原やサイトカインなどの可溶型抗原、例えば、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-15、IL-31、IL-23、IL-2受容体、IL-6受容体、OSM受容体、gp130、IL-5受容体、CD40、CD4、Fas、オステオポンチン、CRTH2、CD26、PDGF-D、CD20、単球走化活性因子、CD23、TNF-α、HMGB-1、α4インテグリン、ICAM-1、CCR2、CD11a、CD3、IFNγ、BLyS、HLA-DR、TGF-β、CD52、IL-31受容体などを挙げることができる。
【0131】
特に好ましい抗原としては、IL-6受容体を挙げることができる。
【0132】
本発明の抗原結合分子については上述の通りである。
【0133】
本発明において抗原結合分子の好ましい態様として、抗体を挙げることができる。抗原結合活性とFcRn結合領域を有する抗体の例として、IgG抗体を挙げることができる。抗体
としてIgG抗体を用いる場合、その種類は限定されず、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4などを用
いることが可能である。
【0134】
本発明の抗体の由来は特に限定されず、如何なる由来の抗体でもよく、例えば、マウス抗体、ヒト抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヤギ抗体、ラクダ抗体などを用いることができる。さらに、例えば、上述のキメラ抗体、中でもヒト化抗体などのアミノ酸配列を置換した改変抗体でもよい。また、上述の二種特異性抗体、各種分子を結合させた抗体修飾物、抗体断片を含むポリペプチド、糖鎖改変抗体などであってもよい。
【0135】
キメラ抗体の作製は公知であり、例えば、ヒト-マウスキメラ抗体の場合、抗体V領域
をコードするDNAとヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み
込んで宿主に導入し産生させることによりキメラ抗体を得ることができる。
【0136】
「ヒト化抗体」とは、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される、ヒト以外の哺乳動物由来の抗体、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR;complementarity determining region)をヒト抗体のCDRへ移植したものである。CDRを同定するための方法は公知である(Kabat et al., Sequence of Proteins of Immunological Interest (1987), National Institute of Health, Bethesda, Md.; Chothia et al., Nature (1989) 342: 877)。また、その一般的な遺伝子組換え手法も公知である(欧州特許出願公開番号EP 125023号公報、WO 96/02576 号公報参照)。ヒト化抗体は公知の方法により、例えば、マウス抗体のCDRを決定し、該CDRとヒト抗体のフレームワーク領域(framework region;FR)とが連結された抗体をコードするDNAを取得し、ヒト化抗体を通常の発現ベクターを用いた系により産生することができる。このようなDNAは、CDR及びFR両方の末端領域にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてPCR法により合成することができる(WO98/13388号公報に記載の方法を参照)。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、CDRが良好な抗原結合部位を形成するように選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体のCDRが適切な抗原結合部位を形成するように、抗体の可変領域におけるFRのアミノ酸を改変してもよい(Sato et al., Cancer Res. (1993) 53: 10.01-6)。改変できるFR中のアミノ酸残基には、抗原に直接、非共有結合により結合する部分(Amit et al., Science (1986) 233: 747-53)、CDR構造に影響または作用する部分(Chothia et al., J. Mol. Biol. (1987) 196: 901-17)及びVH-VL相互作用に関連する部分(EP239400号特許公報)が含まれる。
【0137】
本発明における抗体がキメラ抗体またはヒト化抗体である場合には、これらの抗体のC
領域は、好ましくはヒト抗体由来のものが使用される。例えばH鎖では、Cγ1、Cγ2、Cγ3、Cγ4などを、L鎖ではCκ、Cλなどを使用することができる。また、FcγレセプターやFcRnへの結合を増大あるいは低減させるために、抗体の安定性または抗体の産生を改善するために、ヒト抗体C領域を必要に応じアミノ酸変異を導入してもよい。本発明におけるキメラ抗体は、好ましくはヒト以外の哺乳動物由来抗体の可変領域とヒト抗体由来の定常領域とからなる。一方、ヒト化抗体は、好ましくはヒト以外の哺乳動物由来抗体のCDRと、ヒト抗体由来のFRおよびC領域とからなる。ヒト抗体由来の定常領域は、FcRn結合領域を含んでいることが好ましく、そのような抗体の例として、IgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)を挙げることができる。本発明におけるヒト化抗体に用いられる定常領域は、どのアイソタイプに属する抗体の定常領域であってもよい。好ましくは、ヒトIgGの定常領域が用いられるが、これに限定されるものではない。また、ヒト化抗体に利用されるヒト抗体由来のFRも特に限定されず、どのアイソタイプに属する抗体のものであってもよい。
【0138】
本発明におけるキメラ抗体及びヒト化抗体の可変領域及び定常領域は、元の抗体の結合特異性を示す限り、欠失、置換、挿入及び/または付加等により改変されていてもよい。
【0139】
ヒト由来の配列を利用したキメラ抗体及びヒト化抗体は、ヒト体内における免疫原性が低下しているため、治療目的などでヒトに投与する場合に有用と考えられる。
【0140】
本発明の抗体は如何なる方法により得られてもよく、例えば、本来はpH5.8での抗原結
合活性がpH7.4での抗原結合活性より高い抗体又は抗原結合活性が同程度である抗体を、
上述のヒスチジンへの置換等により、人為的にpH5.8での抗原結合活性をpH7.4での抗原結合活性より低くしてもよいし、又、以下に示す抗体ライブラリーやハイブリドーマから得られる複数の抗体の中からpH5.8での抗原結合活性がpH7.4での抗原結合活性より低い抗体をスクリーニングすることで選択してもよい。
【0141】
抗体中のアミノ酸をヒスチジンに置換する場合、ヒスチジン変異導入前の抗体のH鎖又
はL鎖のアミノ酸配列は既知の配列を用いることも可能であり、又、当業者に公知の方法
で新しく取得した抗体のアミノ酸配列を用いることも可能である。例えば、抗体は、抗体ライブラリーから取得することも可能であるし、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマから抗体をコードする遺伝子をクローニングして取得することも可能である。
【0142】
抗体ライブラリーについては既に多くの抗体ライブラリーが公知になっており、又、抗体ライブラリーの作製方法も公知であるので、当業者は適宜抗体ライブラリーを入手することが可能である。例えば、抗体ファージライブラリーについては、Clackson et al., Nature 1991, 352: 624-8、Marks et al., J. Mol. Biol. 1991, 222: 581-97、Waterhouses et al., Nucleic Acids Res. 1993, 21: 2265-6、Griffiths et al., EMBO J. 1994, 13: 324.0-60、Vaughan et al., Nature Biotechnology 1996, 14: 309-14、及び特表平20-504970号公報等の文献を参照することができる。その他、真核細胞をライブラリーとする方法(WO95/15393号パンフレット)やリボソーム提示法等の公知の方法を用いることが可能である。さらに、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することができる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を元に適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。これらの方法は既に周知であり、WO92/01047、WO92/20791、WO93/06213、WO93/11236、WO93/19172、WO95/01438、WO95/15388を参考にすることができる。
【0143】
ハイブリドーマから抗体をコードする遺伝子を取得する方法は、基本的には公知技術を使用し、所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞(ハイブリドーマ)をスクリーニングし、得られたハイブリドーマのmRNAから逆転写酵素を用いて抗体の可変領域(V領域)のcDNAを合成し、これを所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAと連結することにより得ることができる。
【0144】
より具体的には、特に以下の例示に限定されないが、上記のH鎖及びL鎖をコードする抗体遺伝子を得るための感作抗原は、免疫原性を有する完全抗原と、免疫原性を示さないハプテン等を含む不完全抗原の両方を含む。例えば、目的タンパク質の全長タンパク質、又は部分ペプチドなどを用いることができる。その他、多糖類、核酸、脂質等から構成される物質が抗原となり得ることが知られており、本発明の抗体の抗原は特に限定されるものではない。抗原の調製は、当業者に公知の方法により行うことができ、例えば、バキュロウィルスを用いた方法(例えば、WO98/46777など)などに準じて行うことができる。ハイブリドーマの作製は、たとえば、ミルステインらの方法(G. Kohler and C. Milstein, Methods Enzymol. 1981, 73: 3-46)等に準じて行うことができる。抗原の免疫原性が低い場合には、アルブミン等の免疫原性を有する巨大分子と結合させ、免疫を行えばよい。また、必要に応じ抗原を他の分子と結合させることにより可溶性抗原とすることもできる。膜抗原(例えば、受容体など)のような膜貫通分子を抗原として用いる場合、膜抗原の細胞外領域部分を断片として用いたり、膜貫通分子を細胞表面上に発現する細胞を免疫原として使用することも可能である。
【0145】
抗体産生細胞は、上述の適当な感作抗原を用いて動物を免疫化することにより得ることができる。または、抗体を産生し得るリンパ球をin vitroで免疫化して抗体産生細胞とすることもできる。免疫化する動物としては、各種哺乳動物を使用できるが、ゲッ歯目、ウサギ目、霊長目の動物が一般的に用いられる。マウス、ラット、ハムスター等のゲッ歯目、ウサギ等のウサギ目、カニクイザル、アカゲザル、マントヒヒ、チンパンジー等のサル等の霊長目の動物を例示することができる。その他、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物も知られており、このような動物を使用することによりヒト抗体を得ることもできる(WO96/34096; Mendez et al., Nat. Genet. 1997, 15: 146-56参照)。このようなトランスジェニック動物の使用に代えて、例えば、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞で感作し、感作リンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させることにより、抗原への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1-59878号公報参照)。また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を所望の抗原で免疫することで所望のヒト抗体を取得することができる(WO93/12227、WO92/03918、WO94/02602、WO96/34096、WO96/33735参照)。
【0146】
動物の免疫化は、例えば、感作抗原をPhosphate-Buffered Saline(PBS)または生理食塩水等で適宜希釈、懸濁し、必要に応じてアジュバントを混合して乳化した後、動物の腹腔内または皮下に注射することにより行われる。その後、好ましくは、フロイント不完全アジュバントに混合した感作抗原を4~21日毎に数回投与する。抗体の産生の確認は、動
物の血清中の目的とする抗体力価を慣用の方法により測定することにより行われ得る。
【0147】
ハイブリドーマは、所望の抗原で免疫化した動物またはリンパ球より得られた抗体産生細胞を、慣用の融合剤(例えば、ポリエチレングリコール)を使用してミエローマ細胞と融合して作成することができる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, Academic Press, 1986, 59-103)。必要に応じハイブリドーマ細胞を培養・増殖し、免疫沈降、放射免疫分析(RIA)、酵素結合免疫吸着分析(ELISA)等の公知の分析法により該ハイブリドーマより産生される抗体の結合特異性を測定する。その後、必要に応じ、目的とする特異性、親和性または活性が測定された抗体を産生するハイブリドーマを限界希釈法等の手法によりサブクローニングすることもできる。
【0148】
続いて、選択された抗体をコードする遺伝子をハイブリドーマまたは抗体産生細胞(感作リンパ球等)から、抗体に特異的に結合し得るプローブ(例えば、抗体定常領域をコードする配列に相補的なオリゴヌクレオチド等)を用いてクローニングすることができる。また、mRNAからRT-PCRによりクローニングすることも可能である。免疫グロブリンは、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMの5つの異なるクラスに分類される。さらに、これらのクラスは幾つかのサブクラス(アイソタイプ)(例えば、IgG-1、IgG-2、IgG-3、及びIgG-4;IgA-1及びIgA-2等)に分けられる。本発明において抗体の製造に使用するH鎖及びL鎖は、これらいずれのクラス及びサブクラスに属する抗体に由来するものであってもよく、特に限定されないが、IgGは特に好ましいものである。
【0149】
ここで、H鎖及びL鎖をコードする遺伝子を遺伝子工学的手法により改変することも可能である。例えば、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ハムスター抗体、ヒツジ抗体、ラクダ抗体等の抗体について、ヒトに対する異種免疫原性を低下させること等を目的として、人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体等を適宜作製することができる。キメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物、例えば、マウス抗体のH鎖、L鎖の可変領域とヒト抗体のH鎖、L鎖の定常領域からなる抗体であり、マウス抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得ることができる。ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、たとえばマウス抗体の相補性決定領域(CDR; complementary determining region)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、
次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(EP239400; WO96/02576参照)。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(K. Sato et al., Cancer Res. 1993, 53: 10.01-10.06)。
【0150】
上述のヒト化以外に、例えば、抗原との結合性等の抗体の生物学的特性を改善するために改変を行うことも考えられる。本発明における改変は、部位特異的突然変異(例えば、Kunkel (1910.0) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 488参照)、PCR変異、カセット変異
等の方法により行うことができる。一般に、生物学的特性の改善された抗体変異体は70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%以上、97%、98%、99%等)のアミノ酸配列相同性及び/または類似性を、元となった抗体の可変領域
のアミノ酸配列に対して有する。本明細書において、配列の相同性及び/または類似性は
、配列相同性が最大の値を取るように必要に応じ配列を整列化、及びギャップ導入した後、元となった抗体残基と相同(同じ残基)または類似(一般的なアミノ酸の側鎖の特性に基き同じグループに分類されるアミノ酸残基)するアミノ酸残基の割合として定義される。通常、天然のアミノ酸残基は、その側鎖の性質に基づいて
(1)疎水性:アラニン、イソロイシン、バリン、メチオニン及びロイシン;
(2)中性親水性:アスパラギン、グルタミン、システイン、スレオニン及びセリン;
(3)酸性:アスパラギン酸及びグルタミン酸;
(4)塩基性:アルギニン、ヒスチジン及びリジン;
(5)鎖の配向に影響する残基:グリシンおよびプロリン;ならびに
(6)芳香族性:チロシン、トリプトファン及びフェニルアラニン
のグループに分類される。
【0151】
通常、H鎖及びL鎖の可変領域中に存在する全部で6つの相補性決定領域(超可変部;CDR
)が相互作用し、抗体の抗原結合部位を形成している。このうち1つの可変領域であって
も全結合部位を含むものよりは低い親和性となるものの、抗原を認識し、結合する能力があることが知られている。従って、本発明のH鎖及びL鎖をコードする抗体遺伝子は、該遺伝子によりコードされるポリペプチドが所望の抗原との結合性を維持していればよく、H
鎖及びL鎖の各々の抗原結合部位を含む断片部分をコードしていればよい。
【0152】
重鎖可変領域は、上述のように、通常3つのCDR領域と4つのFR領域によって構成されて
いる。本発明の好ましい態様において「改変」に供するアミノ酸残基としては、例えば、CDR領域あるいはFR領域に位置するアミノ酸残基の中から適宜選択することができる。一
般的にCDR領域のアミノ酸残基の改変は、抗原に対する結合能を低下させる場合がある。
従って、本発明において「改変」に供するアミノ酸残基としては、特に限定されるものではないが、FR領域に位置するアミノ酸残基の中から適宜選択することが好ましい。CDRで
あっても改変によって結合能が低下しないことが確認された場合は、その箇所を選択することが可能である。また、ヒトもしくはマウス等の生物において、抗体の可変領域のFRとして利用可能な配列を、当業者であれば、公共のデータベース等を利用して適宜取得することができる。
【0153】
さらに、本発明は本発明の抗体をコードする遺伝子を提供する。本発明の抗体をコードする遺伝子は如何なる遺伝子でもよく、DNA、RNA、その他核酸類似体などでもよい。
【0154】
さらに本発明は、上記遺伝子を有する宿主細胞を提供する。該宿主細胞は、特に制限されず、例えば、大腸菌や種々の動物細胞などを挙げることができる。宿主細胞は、例えば、本発明の抗体の製造や発現のための産生系として使用することができる。ポリペプチド製造のための産生系には、in vitroおよびin vivoの産生系がある。in vitroの産生系としては、真核細胞を使用する産生系及び原核細胞を使用する産生系が挙げられる。
【0155】
宿主細胞として使用できる真核細胞として、例えば、動物細胞、植物細胞、真菌細胞が挙げられる。動物細胞としては、哺乳類細胞、例えば、CHO(J. Exp. Med. (1995) 108: 94.0)、COS、HEK293、3T3、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、HeLa、Vero等、両生類細胞、例えばアフリカツメガエル卵母細胞(Valle et al., Nature (1981) 291: 338-340)、及び昆虫細胞、例えば、Sf9、Sf21、Tn5が例示される。本発明の抗体の発現においては、CHO-DG44、CHO-DX11B、COS7細胞、HEK293細胞、BHK細胞が好適に用いられる。動物細胞において、大量発現を目的とする場合には特にCHO細胞が好ましい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、カチオニックリボソームDOTAP(Boehringer Mannheim製)を用いた方法、エレクトロポレーション法、リポフェクションなどの方法で行うことが可能である。
【0156】
植物細胞としては、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)由来の細胞
およびウキクサ(Lemna minor)が蛋白質生産系として知られており、この細胞をカルス
培養する方法により本発明の抗体を産生させることができる。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属の細胞(サッカロミセス・セレビシエ(Sac
charomyces cerevisiae)、サッカロミセス・ポンベ(Saccharomyces pombe)等)、及び糸状菌、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属の細胞(アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)等)を用いた蛋白質発現系が公知であり、本発明の抗体産生の宿主として利用できる。
【0157】
原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、上述の大腸菌(E. coli)に加えて、枯草菌を用いた産生系が知られており、本発明の抗体産生
に利用できる。
【0158】
<スクリーニング方法>
本発明は抗原結合分子の酸性pHにおける抗原結合活性が中性pHにおける抗原結合活性よりも低い抗原結合分子をスクリーニングする方法を提供する。又、本発明は1分子で複数の抗原に結合することが可能な抗原結合分子のスクリーニング方法を提供する。又、本発明は血漿中滞留性に優れた抗原結合分子のスクリーニング方法を提供する。又、本発明は細胞外で抗原結合分子に結合した抗原を細胞内で解離する抗原結合分子のスクリーニング方法を提供する。又、本発明は抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれ、抗原と結合していない状態で細胞外に放出される抗原結合分子のスクリーニング方法を提供する。又、本発明は血漿中抗原消失能が増加した抗原結合分子のスクリーニング方法を提供する。さらに、本発明は医薬組成物として用いる際に特に有用である抗原結合分子のスクリーニング方法を提供する。
【0159】
具体的には、本発明は以下の工程を含む抗原結合分子のスクリーニング方法を提供する。
(a) pH6.7~pH10.0における抗原結合分子の抗原結合活性を得る工程、
(b) pH4.0~pH6.5における抗原結合分子の抗原結合活性を得る工程、
(c) pH6.7~pH10.0での抗原結合活性がpH4.0~pH6.5での抗原結合活性より高い抗原結合
分子を選択する工程。
【0160】
本発明のスクリーニング方法において、pH6.7~pH10.0における抗原結合分子の抗原結
合活性はpH6.7~pH10.0の間の抗原結合活性であれば特に限定されないが、好ましい抗原
結合活性として、pH7.0~pH8.0の間の抗原結合活性を挙げることができ、より好ましい抗原結合活性としてpH7.4における抗原結合活性を挙げることができる。又、pH4.0~pH6.5
における抗原結合分子の抗原結合活性はpH4.0~pH6.5の間の抗原結合活性であれば特に限定されないが、好ましい抗原結合活性としてpH5.5~pH6.5の間の抗原結合活性を挙げることができ、より好ましい抗原結合活性としてpH5.8またはpH5.5における抗原結合活性を挙げることができる。
【0161】
抗原結合分子の抗原結合活性は当業者に公知の方法により測定することが可能であり、pH以外の条件については当業者が適宜決定することが可能である。抗原結合分子の抗原結合活性は、KD(Dissociation constant:解離定数)、見かけのKD(Apparent dissociation constant:見かけの解離定数)、解離速度であるkd(Dissociation rate:解離速度)、又は見かけのkd(Apparent dissociation:見かけの解離速度)等として評価することが可能である。これらは当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore (GE healthcare)、スキャッチャードプロット、FACS等を用いることが可能である。
【0162】
本発明において、pH6.7~pH10.0での抗原結合活性がpH4.0~pH6.5での抗原結合活性よ
り高い抗原結合分子を選択する工程は、pH4.0~pH6.5での抗原結合活性がpH6.7~pH10.0
での抗原結合活性より低い抗原結合分子を選択する工程と同じ意味である。
【0163】
pH6.7~pH10.0での抗原結合活性がpH4.0~pH6.5での抗原結合活性より高い限り、pH6.7
~pH10.0での抗原結合活性とpH4.0~pH6.5での抗原結合活性の差は特に限定されないが、好ましくはpH6.7~pH10.0における抗原結合活性がpH4.0~pH6.5での抗原結合活性の2倍以上であり、さらに好ましくは10倍以上であり、より好ましくは40倍以上である。
【0164】
さらに本発明は以下の工程を含む抗原結合分子のスクリーニング方法を提供する。
(a) pH6.7~pH10.0の条件下で抗原結合分子を抗原に結合させる工程、
(b) (a)の抗原に結合した抗原結合分子をpH4.0~pH6.5の条件下に置く工程、
(c) pH4.0~pH6.5の条件下で解離した抗原結合分子を取得する工程。
【0165】
さらに本発明は以下の工程を含む抗原結合分子のスクリーニング方法を提供する。
(a) pH4.0~pH6.5の条件下で抗原に結合しない抗原結合分子を選択する工程、
(b) (a)で選択された抗原結合分子をpH6.7~pH10.0の条件下で抗原に結合させる工程、
(c) pH6.7~pH10.0の条件下で抗原に結合した抗原結合分子を取得する工程。
【0166】
さらに本発明は以下の工程を含む抗原結合分子のスクリーニング方法を提供する。
(a) pH6.7~pH10.0の条件下で抗原結合分子を抗原に結合させる工程、
(b) (a)の抗原に結合した抗原結合分子をpH4.0~pH6.5の条件下に置く工程、
(c) pH4.0~pH6.5の条件下で解離した抗原結合分子を取得する工程、
(d) 解離した抗原結合分子をコードする遺伝子を増幅する工程、
(e) 溶出された抗原結合分子を取得する工程。
【0167】
なお、(a)~(d)の工程は2回以上繰り返されてもよい。従って、本発明は上述の方法に
おいて、(a)~(d)の工程を2回以上繰り返す工程をさらに含む方法を提供する。(a)~(d)
の工程が繰り返される回数は特に限定されないが、通常10回以内である。
【0168】
さらに本発明は以下の工程を含む抗原結合分子のスクリーニング方法を提供する。
(a) pH4.0~pH6.5の条件下で抗原に結合しない抗原結合分子を選択する工程、
(b) (a)で選択された抗原結合分子をpH6.7~pH10.0の条件下で抗原に結合させる工程、
(c) pH6.7~pH10.0の条件下で抗原に結合した抗原結合分子を取得する工程、
(d) 解離した抗原結合分子をコードする遺伝子を増幅する工程、
(e) 溶出された抗原結合分子を取得する工程。
【0169】
なお、(a)~(d)の工程は2回以上繰り返されてもよい。従って、本発明は上述の方法に
おいて、(a)~(d)の工程を2回以上繰り返す工程をさらに含む方法を提供する。(a)~(d)
の工程が繰り返される回数は特に限定されないが、通常10回以内である。
【0170】
本発明のスクリーニング方法において、ファージライブラリーなどが用いられる場合には、抗原結合分子をコードする遺伝子を増幅する工程は、ファージを増幅する工程とすることも可能である。
【0171】
本発明の方法において抗原と抗原結合分子の結合は如何なる状態で行われてもよく、特に限定されない。例えば、固定化された抗原結合分子に抗原を接触させることにより抗原結合分子と抗原を結合させてもよいし、固定化された抗原に抗原結合分子を接触させることにより抗原結合分子と抗原を結合させてもよい。又、溶液中で抗原結合分子と抗原を接触させることにより抗原結合分子と抗原を結合させてもよい。
【0172】
さらに本発明は以下の工程を含む抗原結合分子の第一のpHでの結合活性が第二のpHでの結合活性よりも高い抗原結合分子のスクリーニング方法を提供する。
(a) 抗原を固定したカラムに第一のpH条件下で抗原結合分子を結合させる工程、
(b) 第一のpH条件下でカラムに結合した抗原結合分子を、第二のpH条件下でカラムから溶
出する工程、
(c) 溶出された抗原結合分子を取得する工程。
【0173】
さらに本発明は以下の工程を含む抗原結合分子の第一のpHでの結合活性が第二のpHでの結合活性よりも低い抗原結合分子のスクリーニング方法を提供する。
(a) 抗原を固定したカラムに第一のpH条件下で抗原結合分子を通過させる工程、
(b) (a)の工程でカラムに結合せずに溶出した抗原結合分子を回収する工程、
(c) (b)で回収された抗原結合分子を第二のpH条件下でカラムに結合させる工程、
(d) (c)の工程においてカラムに結合した抗原結合分子を取得する工程。
【0174】
さらに本発明は以下の工程を含む第一のpHでの結合活性が第二のpHでの結合活性よりも高い抗原結合分子のスクリーニング方法を提供する。
(a) 抗原結合分子ライブラリーを、抗原を固定したカラムに第一のpH条件下で結合させる工程、
(b) カラムから第二のpH条件下で抗原結合分子を溶出する工程、
(c) 溶出された抗原結合分子をコードする遺伝子を増幅する工程、
(d) 溶出された抗原結合分子を取得する工程。
【0175】
なお、(a)~(c)の工程は2回以上繰り返されてもよい。従って、本発明は上述の方法に
おいて、(a)~(c)の工程を2回以上繰り返す工程をさらに含む方法を提供する。(a)~(c)
の工程が繰り返される回数は特に限定されないが、通常10回以内である。
【0176】
本発明において、第一のpHと第二のpHはそれぞれが同一のpHでない限り、如何なるpHでもよい。好ましい第一のpHと第二のpHの組み合わせの例として、第一のpHがpH6.7~10.0
の間のpHであり、第二のpHがpH4.0~pH6.5の間のpHである組み合わせを挙げることができ、より好ましい組み合わせの例としては、第一のpHがpH7.0~pH8.0の間のpHであり、第二のpHがpH5.5~pH6.5の間のpHである組み合わせを挙げることができ、さらに好ましい組み合わせの例としては、第一のpHがpH7.4であり、第二のpHがpH5.8またはpH5.5である組み合わせを挙げることができる。
【0177】
他の好ましい第一のpHと第二のpHの組み合わせの例として、第一のpHがpH4.0~6.5の間のpHであり、第二のpHがpH6.7~pH10.0の間のpHである組み合わせを挙げることができ、
より好ましい組み合わせの例としては、第一のpHがpH5.5~pH6.5の間のpHであり、第二のpHがpH7.0~pH8.0の間のpHである組み合わせを挙げることができ、さらに好ましい組み合わせの例としては、第一のpHがpH5.8またはpH5.5であり、第二のpHがpH7.4である組み合
わせを挙げることができる。
【0178】
本発明の方法によりスクリーニングされる抗原結合分子は如何なる抗原結合分子でもよく、例えば上述の抗原結合分子を本発明のスクリーニングに用いることが可能である。例えば、天然の配列を有する抗原結合分子をスクリーニングしてもよいし、アミノ酸配列が置換された抗原結合分子をスクリーニングしてもよい。本発明においてスクリーニングされる抗原結合分子の好ましい例として、例えば、抗原結合分子の少なくとも1つのアミノ酸がヒスチジンで置換された又は少なくとも1つのヒスチジンが挿入された抗原結合分子を挙げることができる。ヒスチジン置換又は挿入が導入される箇所は特に限定されず、如何なる箇所に導入されていてもよい。又、ヒスチジン置換又は挿入は1箇所に導入されて
もよいし、2箇所以上の複数の箇所に導入されてもよい。又、本発明においてスクリーニングされる抗原結合分子の好ましい例として、例えば、改変された抗体定常領域を含む抗原結合分子を挙げることができる。
【0179】
本発明の方法によりスクリーニングされる抗原結合分子は、例えば、ヒスチジンスキャ
ンなどの方法により、異なる箇所にヒスチジン置換又は挿入が導入された複数の異なる抗原結合分子であってもよい。
【0180】
従って、本発明のスクリーニング方法は、抗原結合分子の少なくとも1つのアミノ酸を
ヒスチジンに置換する又は少なくとも1つのヒスチジンを挿入する工程をさらに含んでもよい。
【0181】
なお、本発明のスクリーニング方法はヒスチジンの代わりに非天然アミノ酸を用いてもよい。従って、上述のヒスチジンを非天然アミノ酸と置き換えて本発明を理解することも可能である。
【0182】
又、本発明のスクリーニング方法は、抗体定常領域のアミノ酸を改変する工程をさらに含んでもよい。
【0183】
本発明のスクリーニング方法でスクリーニングされる抗原結合物質はどのように調製されてもよく、例えば、あらかじめ存在している抗体、あらかじめ存在しているライブラリー(ファージライブラリー等)、動物への免疫から得られたハイブリドーマや免疫動物からのB細胞から作製された抗体又はライブラリー、これらの抗体やライブラリーにヒスチジンや非天然アミノ酸変異を導入した抗体又はライブラリー(ヒスチジン又は非天然アミノ酸の含有率を高くしたライブラリーや特定箇所にヒスチジン又は非天然アミノ酸変異を導入したライブラリー等)などを用いることが可能である。
【0184】
本発明のスクリーニング方法により複数回抗原に結合し血漿中滞留性が優れた抗原結合分子を得ることが可能である。従って、本発明のスクリーニング方法は、血漿中滞留性に優れた抗原結合分子を得る為のスクリーニング方法として利用することができる。
【0185】
又、本発明のスクリーニング方法により、ヒト、マウス、サルなどの動物に投与した際に、抗原に2回以上結合することが可能である抗原結合分子を得ることが可能である。従って、本発明のスクリーニング方法は、抗原に2回以上結合することができる抗原結合分子を得る為のスクリーニング方法として利用することができる。
【0186】
さらに、本発明のスクリーニング方法により、ヒト、マウス、サルなどの動物に投与した際に、抗原結合分子の抗原結合部位の数より多い数の抗原に結合することが可能である抗原結合分子を得ることが可能である。従って、本発明のスクリーニング方法は、抗原結合分子の抗原結合部位の数よりも多い数の抗原に結合することが可能である抗原結合分子を得る為のスクリーニング方法として利用することができる。例えば、抗体が中和抗体の場合には、抗原結合分子の抗原結合部位の数よりも多い数の抗原を中和することが可能である抗原結合分子を得る為のスクリーニング方法として利用することができる。
【0187】
さらに、本発明のスクリーニング方法により、ヒト、マウス、サルなどの動物に投与した際に、細胞外で結合した抗原を細胞内で解離することが可能である抗原結合分子を得ることが可能である。従って、本発明のスクリーニング方法は、細胞外で結合した抗原を細胞内で解離する抗原結合分子を得る為のスクリーニング方法として利用することができる。
【0188】
さらに本発明のスクリーニング方法により、ヒト、マウス、サルなどの動物に投与した際に、抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれ、抗原と結合していない状態で細胞外に放出される抗原結合分子を得ることが可能である。従って、本発明のスクリーニング方法は、抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれ、抗原と結合していない状態で細胞外に放出される抗原結合分子を得る為のスクリーニング方法として利用することができる。
【0189】
さらに、本発明のスクリーニング方法により、ヒト、マウス、サルなどの動物に投与した際に、抗原を血漿中から速く消失させることができる抗原結合分子を得ることが可能である。従って、本発明のスクリーニング方法は、血漿中抗原消失能が増加した(高い)抗原結合分子を得る為のスクリーニング方法として利用することができる。
【0190】
又、これらの抗原結合分子は、患者への投与量や投与頻度を減らすことが可能であり、結果として総投与量を減らすことが可能となる為、医薬品として特に優れていると考えられる。従って、本発明のスクリーニング方法は、医薬組成物として用いる為の抗原結合分子のスクリーニング方法として利用することが可能である。
【0191】
さらに、本発明は元のライブラリーと比較してヒスチジンを含む割合を上昇させたライブラリーを提供する。ライブラリー中に含まれる抗原結合分子が有するヒスチジンの割合が高くなっているライブラリーは上述のスクリーニング方法や後述の製造方法に用いることが可能である。
【0192】
ヒスチジンを含む割合を高めたライブラリーの作製方法は、当業者に公知の方法を用いることにより作製することが可能であり、例えば以下の方法が挙げられる。ライブラリー作製のための核酸を合成する際に、トリヌクレオチド法(J Mol Biol. 2008 Feb 29;376(4):1182-200.)により、20種類のアミノ酸をコードする20種類の3塩基コドン(トリヌクレオチド)を等しい確率で含有させることによって、ライブラリー化した部位に20種類のアミノ酸が等しい確率で含有させることが可能である。このとき20種類のうちヒスチジンをコードするトリヌクレオチドの割合を他のアミノ酸よりも高くすることによって、ライブラリー化した部位にヒスチジンが出現する可能性を高めることが可能である。
【0193】
<抗原結合分子製造方法>
本発明は抗原結合分子のエンドソーム内でのpHにおける抗原結合活性が血漿中でのpHにおける抗原結合活性よりも低い抗原結合分子の製造方法を提供する。又、本発明は血漿中滞留性に優れた抗原結合分子の製造方法を提供する。さらに、本発明は医薬組成物として用いる際に特に有用である抗原結合分子の製造方法を提供する。
【0194】
具体的には、本発明は以下の工程を含む抗原結合分子の製造方法を提供する。
(a) pH6.7~pH10.0における抗原結合分子の抗原結合活性を得る工程、
(b) pH4.0~pH6.5における抗原結合分子の抗原結合活性を得る工程、
(c) pH6.7~pH10.0での抗原結合活性がpH4.0~pH6.5での抗原結合活性より高い抗原結合
分子を選択する工程、
(d) (c)で選択された抗原結合分子をコードする遺伝子を得る工程、
(e) (d)で得られた遺伝子を用いて抗原結合分子を製造する工程。
【0195】
さらに本発明は以下の工程を含む抗原結合分子の製造方法を提供する。
(a) pH6.7~pH10.0の条件下で抗原結合分子を抗原に結合させる工程、
(b) (a)の抗原に結合した抗原結合分子をpH4.0~pH6.5の条件下に置く工程、
(c) pH4.0~pH6.5の条件下で解離した抗原結合分子を取得する工程、
(d) (c)で取得された抗原結合分子をコードする遺伝子を得る工程、
(e) (d)で得られた遺伝子を用いて抗原結合分子を製造する工程。
【0196】
さらに本発明は以下の工程を含む抗原結合分子の製造方法を提供する。
(a) pH4.0~pH6.5の条件下で抗原に結合しない抗原結合分子を選択する工程、
(b) (a)で選択された抗原結合分子をpH6.7~pH10.0の条件下で抗原に結合させる工程、
(c) pH6.7~pH10.0の条件下で抗原に結合した抗原結合分子を取得する工程、
(d) (c)で取得された抗原結合分子をコードする遺伝子を得る工程、
(e) (d)で得られた遺伝子を用いて抗原結合分子を製造する工程。
【0197】
さらに本発明は以下の工程を含む抗原結合分子の製造方法を提供する。
(a) pH6.7~10.0の条件下で抗原結合分子を抗原に結合させる工程、
(b) (a)の抗原に結合した抗原結合分子をpH4.0~pH6.5の条件下に置く工程、
(c) pH4.0~pH6.5の条件下で解離した抗原結合分子を取得する工程、
(d) 解離した抗原結合分子をコードする遺伝子を増幅する工程、
(e) 溶出された抗原結合分子を取得する工程、
(f) (e)で取得された抗原結合分子をコードする遺伝子を得る工程、
(g) (f)で得られた遺伝子を用いて抗原結合分子を製造する工程。
【0198】
なお、(a)~(d)の工程は2回以上繰り返されてもよい。従って、本発明は上述の方法に
おいて、(a)~(d)の工程を2回以上繰り返す工程をさらに含む方法を提供する。(a)~(d)
の工程が繰り返される回数は特に限定されないが、通常10回以内である。
【0199】
さらに本発明は以下の工程を含む、抗原結合分子のスクリーニング方法を提供する。
(a) pH4.0~pH6.5の条件下で抗原に結合しない抗原結合分子を選択する工程、
(b) (a)で選択された抗原結合分子をpH6.7~pH10.0の条件下で抗原に結合させる工程、
(c) pH6.7~pH10.0の条件下で抗原に結合した抗原結合分子を取得する工程、
(d) 解離した抗原結合分子をコードする遺伝子を増幅する工程、
(e) 溶出された抗原結合分子を取得する工程、
(f) (e)で取得された抗原結合分子をコードする遺伝子を得る工程、
(g) (f)で得られた遺伝子を用いて抗原結合分子を製造する工程。
【0200】
なお、(a)~(d)の工程は2回以上繰り返されてもよい。従って、本発明は上述の方法に
おいて、(a)~(d)の工程を2回以上繰り返す工程をさらに含む方法を提供する。(a)~(d)
の工程が繰り返される回数は特に限定されないが、通常10回以内である。
【0201】
さらに、本発明は以下の工程を含む第一のpHでの結合活性が第二のpHでの結合活性よりも高い抗原結合分子の製造方法を提供する。
(a) 抗原を固定したカラムに第一のpH条件下で抗原結合分子を結合させる工程、
(b) 第一のpH条件下でカラムに結合した抗原結合分子を、第二のpH条件下でカラムから溶出する工程、
(c) 溶出された抗原結合分子を取得する工程、
(d) (c)で取得された抗原結合分子をコードする遺伝子を得る工程、
(e) (d)で得られた遺伝子を用いて抗原結合分子を製造する工程。
【0202】
さらに、本発明は以下の工程を含む第一のpHでの結合活性が第二のpHでの結合活性よりも高い抗原結合分子の製造方法を提供する。
(a) 抗原結合分子ライブラリーを、抗原を固定したカラムに第一のpH条件下で結合させる工程、
(b) カラムから第二のpH条件下で抗原結合分子を溶出する工程、
(c) 溶出された抗原結合分子をコードする遺伝子を増幅する工程、
(d) 溶出された抗原結合分子を取得する工程、
(e) (d)で取得された抗原結合分子をコードする遺伝子を得る工程、
(f) (e)で得られた遺伝子を用いて抗原結合分子を製造する工程。
【0203】
なお、(a)~(c)の工程は2回以上繰り返されてもよい。従って、本発明は上述の方法に
おいて、(a)~(c)の工程を2回以上繰り返す工程をさらに含む方法を提供する。(a)~(c)
の工程が繰り返される回数は特に限定されないが、通常10回以内である。
【0204】
本発明の製造方法において、ファージライブラリーなどが用いられる場合には、抗原結合分子をコードする遺伝子を増幅する工程は、ファージを増幅する工程とすることも可能である。
【0205】
本発明の製造方法で用いられる抗原結合物質はどのように調製されてもよく、例えば、あらかじめ存在している抗体、あらかじめ存在しているライブラリー(ファージライブラリー等)、動物への免疫から得られたハイブリドーマや免疫動物からのB細胞から作製さ
れた抗体又はライブラリー、これらの抗体やライブラリーにヒスチジンや非天然アミノ酸変異を導入した抗体又はライブラリー(ヒスチジン又は非天然アミノ酸の含有率を高くしたライブラリーや特定箇所にヒスチジン又は非天然アミノ酸変異を導入したライブラリー等)などを用いることが可能である。
【0206】
上述の製造方法において、pH6.7~pH10.0における抗原結合分子の抗原結合活性はpH6.7~pH10.0の間の抗原結合活性であれば特に限定されないが、好ましい抗原結合活性として、pH7.0~pH8.0の間の抗原結合活性を挙げることができ、さらに好ましい抗原結合活性としてpH7.4における抗原結合活性を挙げることができる。又、pH4.0~pH6.5における抗原7結合分子の抗原結合活性はpH4.0~pH6.5の間の抗原結合活性であれば特に限定されないが、好ましい抗原結合活性としてpH5.5~pH6.5の間の抗原結合活性を挙げることができ、さらに好ましい抗原結合活性としてpH5.8またはpH5.5における抗原結合活性を挙げることができる。
【0207】
抗原結合分子の抗原結合活性は当業者に公知の方法により測定することが可能であり、pH以外の条件については当業者が適宜決定することが可能である。
【0208】
pH6.7~pH10.0での抗原結合活性がpH4.0~pH6.5での抗原結合活性より高い抗原結合分
子を選択する工程は、pH4.0~pH6.5での抗原結合活性がpH6.7~pH10.0での抗原結合活性
より低い抗原結合分子を選択する工程と同じ意味である。
【0209】
pH6.7~pH10.0での抗原結合活性がpH4.0~pH6.5での抗原結合活性より高い限り、pH6.7~pH10.0での抗原結合活性とpH4.0~pH6.5での抗原結合活性の差は特に限定されないが、好ましくはpH6.7~pH10.0における抗原結合活性がpH4.0~pH6.5での抗原結合活性の2倍以上であり、さらに好ましくは10倍以上であり、より好ましくは40倍以上である。
【0210】
上述の製造方法において抗原と抗原結合分子の結合は如何なる状態で行われてもよく、特に限定されない。例えば、固定化された抗原結合分子に抗原を接触させることにより抗原結合分子と抗原を結合させてもよいし、固定化された抗原に抗原結合分子を接触させることにより抗原結合分子と抗原を結合させてもよい。又、溶液中で抗原結合分子と抗原を接触させることにより抗原結合分子と抗原を結合させてもよい。
【0211】
上述の製造方法において、第一のpHと第二のpHはそれぞれが同一のpHでない限り、如何なるpHでもよい。好ましい第一のpHと第二のpHの組み合わせの例として、第一のpHがpH6.7~10.0の間のpHであり、第二のpHがpH4.0~pH6.5の間のpHである組み合わせを挙げることができ、より好ましい組み合わせの例としては、第一のpHがpH7.0~pH8.0の間のpHであり、第二のpHがpH5.5~pH6.5の間のpHである組み合わせを挙げることができ、さらに好ましい組み合わせの例として第一のpHがpH7.4であり、第二のpHがpH5.8またはpH5.5である組み合わせを挙げることができる。
【0212】
他の好ましい第一のpHと第二のpHの組み合わせの例として、第一のpHがpH4.0~pH6.5の
間のpHであり、第二のpHがpH6.7~pH10.0の間のpHである組み合わせを挙げることができ
、より好ましい組み合わせの例としては、第一のpHがpH5.5~pH6.5の間のpHであり、第二のpHがpH7.0~pH8.0の間のpHである組み合わせを挙げることができ、さらに好ましい組み合わせの例として第一のpHがpH5.8またはpH5.5であり、第二のpHがpH7.4である組み合わ
せを挙げることができる。
【0213】
上述の製造方法により製造される抗原結合分子は如何なる抗原結合分子でもよいが、例えば、抗原結合分子の少なくとも1つのアミノ酸がヒスチジンで置換された又は少なくとも1つのヒスチジンが挿入された抗原結合分子を好ましい例として挙げることができる。そのようなヒスチジン変異が導入される箇所は特に限定されず、如何なる箇所に導入されていてもよい。又、ヒスチジン変異は1箇所に導入されてもよいし、2箇所以上の複数の
箇所に導入されてもよい。
【0214】
従って、本発明の製造方法においては、抗原結合分子の少なくとも1つのアミノ酸をヒスチジンに置換又は挿入する工程をさらに含んでもよい。
【0215】
なお、本発明の製造方法においてはヒスチジンの代わりに非天然アミノ酸を用いてもよい。従って、上述のヒスチジンを非天然アミノ酸と置き換えて本発明を理解することも可能である。
【0216】
又、上述の製造方法により製造される抗原結合分子の他の態様として、例えば、改変された抗体定常領域を含む抗原結合分子を挙げることができる、従って、本発明の製造方法においては、抗体定常領域中のアミノ酸を改変する工程をさらに含んでもよい。
【0217】
本発明の製造方法により製造される抗原結合分子は血漿中滞留性が優れた抗原結合分子である。従って、本発明の製造方法は、血漿中滞留性に優れた抗原結合分子の製造方法として利用することができる。
【0218】
又、製造方法により製造される抗原結合分子は、ヒト、マウス、サルなどの動物に投与した際に、抗原に2回以上結合することが可能であると考えられる。従って、本発明の製造方法は、抗原に2回以上結合することができる抗原結合分子の製造方法として利用することができる。
【0219】
さらに、本発明の製造方法により製造される抗原結合分子は、ヒト、マウス、サルなどの動物に投与した際に、抗原結合分子の抗原結合部位の数より多い数の抗原に結合することが可能であると考えられる。従って、本発明の製造方法は、抗原結合分子の抗原結合部位の数よりも多い数の抗原に結合することが可能である抗原結合分子の製造方法として利用することができる。
【0220】
さらに、本発明の製造方法により製造される抗原結合分子は、ヒト、マウス、サルなどの動物に投与した際に、細胞外で抗原結合分子に結合した抗原を細胞内で抗原結合分子から解離させることが可能であると考えられる。従って、本発明の製造方法は、細胞外で結合した抗原を細胞内で解離することが可能である抗原結合分子の製造方法として利用することができる。
【0221】
さらに、本発明の製造方法により製造される抗原結合分子は、ヒト、マウス、サルなどの動物に投与した際に、抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれた抗原結合分子を、抗原と結合していない状態で細胞外に放出させることが可能であると考えられる。従って、本発明の製造方法は、抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれ、抗原と結合していない状態で細胞外に放出される抗原結合分子の製造方法として利用することができる。
【0222】
さらに、本発明の製造方法により製造される抗原結合分子は、ヒト、マウス、サルなどの動物に投与した際に、抗原を血漿中から速く消失させることができると考えられる。従って、本発明の製造方法は、血漿中抗原消失能が増加した(高い)抗原結合分子の製造方法として利用することができる。
【0223】
又、これらの抗原結合分子は、患者への投与回数を減らすことが可能であり、医薬品として特に優れていると考えられる。従って、本発明の製造方法は、医薬組成物として用いる為の抗原結合分子の製造方法として利用することが可能である。
【0224】
本発明の製造方法において得られた遺伝子は、通常、適当なベクターへ担持(挿入)され、宿主細胞へ導入される。該ベクターとしては、挿入した核酸を安定に保持するものであれば特に制限されず、例えば宿主に大腸菌を用いるのであれば、クローニング用ベクターとしてはpBluescriptベクター(Stratagene社製)などが好ましいが、市販の種々のベクターを利用することができる。本発明の抗原結合分子を生産する目的においてベクターを用いる場合には、特に発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、試験管内、大腸菌内、培養細胞内、生物個体内で抗原結合分子を発現するベクターであれば特に制限されないが、例えば、試験管内発現であればpBESTベクター(プロメガ社製)、大腸菌であればpETベクター(Invitrogen社製)、培養細胞であればpME18S-FL3ベクター(GenBank Accession No. AB009864)、生物個体であればpME18Sベクター(Mol Cell Biol. 8:466-472(1988))などが好ましい。ベクターへの本発明のDNAの挿入は、常法により、例えば、制限酵素サイトを用いたリガーゼ反応により行うことができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 11.4-11.11)。
【0225】
上記宿主細胞としては特に制限はなく、目的に応じて種々の宿主細胞が用いられる。抗原結合分子を発現させるための細胞としては、例えば、細菌細胞(例:ストレプトコッカス、スタフィロコッカス、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌)、真菌細胞(例:酵母、アスペルギルス)、昆虫細胞(例:ドロソフィラS2、スポドプテラSF9)、動物細胞(例
:CHO、COS、HeLa、C127、3T3、BHK、HEK293、Bowes メラノーマ細胞)および植物細胞を例示することができる。宿主細胞へのベクター導入は、例えば、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 9.1-9.9)、リポフェクション法、マイクロインジェクション法などの公知の方法で行うことが可能である。
【0226】
宿主細胞の培養は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、動物細胞を宿主とした場合、培養液として、例えば、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができる
。その際、FBS、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用しても、無血清培養により細胞を培養してもよい。培養時のpHは、約6~8とするのが好ましい。培養は、通常、約30~40℃で約15~200時間行い、必要に応じて培地の交換、通気、攪拌を加える。
【0227】
宿主細胞において発現した抗原結合分子を小胞体の内腔に、細胞周辺腔に、または細胞外の環境に分泌させるために、適当な分泌シグナルを目的のポリペプチドに組み込むことができる。これらのシグナルは目的の抗原結合分子に対して内因性であっても、異種シグナルであってもよい。
【0228】
一方、in vivoでポリペプチドを産生させる系としては、例えば、動物を使用する産生
系や植物を使用する産生系が挙げられる。これらの動物又は植物に目的とするポリヌクレオチドを導入し、動物又は植物の体内でポリペプチドを産生させ、回収する。本発明における「宿主」とは、これらの動物、植物を包含する。
【0229】
動物を使用する場合、哺乳類動物、昆虫を用いる産生系がある。哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシ等を用いることができる(Vicki Glaser, SPECTRUM Biotechnology Applications (1993))。また、哺乳類動物を用いる場合、トランスジェニック動物を用いることができる。
【0230】
例えば、本発明の抗原結合分子をコードするポリヌクレオチドを、ヤギβカゼインのような乳汁中に固有に産生されるポリペプチドをコードする遺伝子との融合遺伝子として調製する。次いで、この融合遺伝子を含むポリヌクレオチド断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ移植する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から、目的の抗原結合分子を得ることができる。トランスジェニックヤギから産生される抗原結合分子を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに投与してもよい(Ebert et al., Bio/Technology (1994) 12: 699-702)。
【0231】
また、本発明の抗原結合分子を産生させる昆虫としては、例えばカイコを用いることができる。カイコを用いる場合、目的の抗原結合分子をコードするポリヌクレオチドを挿入したバキュロウィルスをカイコに感染させることにより、このカイコの体液から目的の抗原結合分子を得ることができる。
【0232】
さらに、植物を本発明の抗原結合分子産生に使用する場合、例えばタバコを用いることができる。タバコを用いる場合、目的とする抗原結合分子をコードするポリヌクレオチドを植物発現用ベクター、例えばpMON 530に挿入し、このベクターをアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)のようなバクテリアに導入する。この
バクテリアをタバコ、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)に感染させ
、本タバコの葉より所望の抗原結合分子を得ることができる(Ma et al., Eur. J. Immunol. (1994) 24: 131-8)。また、同様のバクテリアをウキクサ(Lemna minor)に感染させ、クローン化した後にウキクサの細胞より所望の抗原結合分子を得ることができる(Cox KM et al. Nat. Biotechnol. 2006 Dec;24(12):1591-1597)。
【0233】
このようにして得られた抗原結合分子は、宿主細胞内または細胞外(培地、乳汁など)から単離し、実質的に純粋で均一な抗原結合分子として精製することができる。抗原結合分子の分離、精製は、通常のポリペプチドの精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせて抗原結合分子を分離、精製することができる。
【0234】
クロマトグラフィーとしては、例えばアフィニティクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる(Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al.(1996) Cold Spring Harbor Laboratory Press)。これらのクロマトグラフィーは、液相クロマトグラフィー、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。アフィニティクロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。例えば、プロテインAを用いたカラムとして、Hyper D, POROS, Sepharose F. F. (Pharmacia製)等が挙げられる。
【0235】
必要に応じ、抗原結合分子の精製前又は精製後に適当なタンパク質修飾酵素を作用させることにより、任意に修飾を加えたり、部分的にペプチドを除去することもできる。タン
パク質修飾酵素としては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、プロテインキナーゼ、グルコシダーゼなどが用いられる。
【0236】
<抗IL-6受容体抗体>
さらに、本発明は以下の(a)~(m)のいずれかに記載の抗IL-6受容体抗体を提供する。
(a) 配列番号:1(H53可変領域)のアミノ酸配列において27番目のTyr、31番目のAsp、32番目のAsp、35番目のTrp、51番目のTyr、59番目のAsn、63番目のSer、106番目のMet、108番目のTyrの少なくとも1つがHisに置換されたアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(b) 配列番号:1(H53可変領域)のアミノ酸配列において27番目のTyr、31番目のAspおよび35番目のTrpがHisに置換されたアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む抗体(H3pI)、
(c) 配列番号:1(H53可変領域)のアミノ酸配列において27番目のTyr、31番目のAsp、32番目のAsp、35番目のTrp、59番目のAsn、63番目およびSer、108番目のTyrがHisに置換
されたアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(d) 配列番号:1(H53可変領域)のアミノ酸配列において27番目のTyr、31番目のAsp、32番目のAsp、35番目のTrp、59番目のAsn、63番目およびSer、108番目のTyrがHisに置換
され、かつ99番目のSerがValに、103番目のThrがIleに置換されたアミノ酸配列を有する
重鎖可変領域を含む抗体(H170)、
(e) 配列番号:1(H53可変領域)のアミノ酸配列において31番目のAsp、51番目のTyr、63番目のSer、106番目のMetおよび108番目のTyrがHisに置換されたアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む抗体、
(f) 配列番号:1(H53可変領域)のアミノ酸配列において31番目のAsp、51番目のTyr、63番目のSer、106番目のMetおよび108番目のTyrがHisに置換され、かつ99番目のSerがPheに、103番目のThrがIleに置換されたアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む抗体(CLH5)、
(g) 配列番号:2(PF1L可変領域)のアミノ酸配列において、28番目のAsp、32番目のTyr、53番目のGlu、56番目のSer、92番目のAsnの少なくとも1つがHisに置換されたアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む抗体、
(h) 配列番号:2(PF1L可変領域)のアミノ酸配列において、28番目のAsp、32番目のTyrおよび53番目のGluがHisに置換されたアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む抗体(L73)、
(i) 配列番号:1(H53可変領域)のアミノ酸配列において、32番目のTyrおよび53番目
のGluがHisに置換されたアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む抗体(L82)、
(j) 配列番号:2(PF1L可変領域)のアミノ酸配列において、32番目のTyr、53番目のGlu、56番目のSerおよび92番目のAsnがHisに置換されたアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む抗体(CLL5)、
(k) (b)の重鎖可変領域および(h)の軽鎖可変領域を含む抗体、
(l) (d)の重鎖可変領域および(i)の軽鎖可変領域を含む抗体、
(m) (f)の重鎖可変領域および(h)の軽鎖可変領域を含む抗体。
【0237】
配列番号:1(H53可変領域)のアミノ酸配列において27番目のTyr、31番目のAsp、32
番目のAsp、35番目のTrp、51番目のTyr、59番目のAsn、63番目のSer、106番目のMet、108番目のTyrの少なくとも1つがHisに置換されたアミノ酸配列を有する重鎖可変領域の具体的な例としては、例えば、以下の重鎖可変領域を挙げることができる。
配列番号:3(H3pI)のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域
配列番号:4(H170)のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域
配列番号:5(CLH5)のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域
【0238】
配列番号:2(PF1L可変領域)のアミノ酸配列において、28番目のAsp、32番目のTyr、
53番目のGlu、56番目のSer、92番目のAsnの少なくとも1つがHisに置換されたアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域の具体的な例としては、例えば、以下の軽鎖可変領域を挙げることができる。
配列番号:6(L73)のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域
配列番号:7(L82)のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域
配列番号:8(CLL5)のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域
【0239】
上述のH3pI、H170、CLH5、L73、L82、およびCLL5の各抗体におけるアミノ酸位置とアミノ酸置換について、以下の表1に示す。アミノ酸位置はKabatナンバリングに基づいて示
している。
【0240】
【0241】
*H鎖の33番目、および、L鎖の55番目はWTにおいてヒスチジンの配列を有する。
【0242】
本発明は少なくとも上述の(a)~(j)のいずれかに記載のアミノ酸置換を含む抗体及び該抗体の製造方法を提供する。従って本発明の抗体には、上述の(a)~(j)のいずれかに記載のアミノ酸置換に加え、上述の(a)~(j)に記載のアミノ酸置換以外のアミノ酸置換を含む抗体も含まれる。上述の(a)~(j)に記載のアミノ酸置換以外のアミノ酸置換としては、例えば、CDR部分のアミノ酸配列の置換、欠失、付加および/または挿入等や、FRのアミノ
酸配列の置換、欠失、付加および/または挿入等が挙げられる。
【0243】
さらに本発明は以下の(1)から(28)のいずれかに記載の抗IL-6受容体抗体を提供する。
(1) 配列番号:21(VH1-IgG1)の1番目から119番目までのアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(VH1-IgG1可変領域)を含む抗体、
(2) 配列番号:22(VH2-IgG1)の1番目から119番目までのアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(VH2-IgG1可変領域)を含む抗体、
(3) 配列番号:23(VH3-IgG1)の1番目から119番目までのアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(VH3-IgG1可変領域)を含む抗体、
(4) 配列番号:24(VH4-IgG1)の1番目から119番目までのアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(VH4-IgG1可変領域)を含む抗体、
(5) 配列番号:25(VL1-CK)の1番目から107番目までのアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL1-CK可変領域)を含む抗体、
(6) 配列番号:26(VL2-CK)の1番目から107番目までのアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL2-CK可変領域)を含む抗体、
(7) 配列番号:27(VL3-CK)の1番目から107番目までのアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL3-CK可変領域)を含む抗体、
(8) (2)の重鎖可変領域と(6)の軽鎖可変領域を含む抗体(Fv1-IgG1)、
(9) (1)の重鎖可変領域と配列番号:7(L82)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変
領域を含む抗体(Fv2-IgG1)、
(10) (4)の重鎖可変領域と(5)の軽鎖可変領域を含む抗体(Fv3-IgG1)、
(11) (3)の重鎖可変領域と(7)の軽鎖可変領域を含む抗体(Fv4-IgG1)、
(12) 配列番号:33に記載のアミノ酸配列を有する重鎖を含む抗体(VH3-IgG2ΔGK)、(13) 配列番号:34に記載のアミノ酸配列を有する重鎖を含む抗体(VH3-M58)、
(14) 配列番号:35に記載のアミノ酸配列を有する重鎖を含む抗体(VH3-M73)、
(15) (12)の重鎖と配列番号:27(VL3-CK)のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体(Fv4-IgG2ΔGK)、
(16) (13)の重鎖と配列番号:27(VL3-CK)のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体(Fv4-M58)、
(17) (14)の重鎖と配列番号:27(VL3-CK)のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体(Fv4-M73)、
(18) 配列番号:36(VH2-M71)のアミノ酸配列を有する重鎖を含む抗体(VH2-M71)、
(19) 配列番号:37(VH2-M73)のアミノ酸配列を有する重鎖を含む抗体(VH2-M73)、
(20) 配列番号:38(VH4-M71)のアミノ酸配列を有する重鎖を含む抗体(VH4-M71)、
(21) 配列番号:39(VH4-M73)のアミノ酸配列を有する重鎖を含む抗体(VH4-M73)、
(22) (18)の重鎖と配列番号:26(VL2-CK)のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体(Fv1-M71)、
(23) (19)の重鎖と配列番号:26(VL2-CK)のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体(Fv1-M73)、
(24) (20)の重鎖と配列番号:25(VL1-CK)のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体(Fv3-M71)、
(25) (21)の重鎖と配列番号:25(VL1-CK)のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体(Fv3-M73)、
(26) 配列番号:25(VL1-CK)のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体、
(27) 配列番号:26(VL2-CK)のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体、
(28) 配列番号:27(VL3-CK)のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体。
【0244】
さらに本発明は以下の(a)~(v)いずれかのFRまたはCDRを提供する。
(a) 配列番号:40に記載の重鎖CDR1(VH1,2,3,4)、
(b) 配列番号:41に記載の重鎖CDR2(VH1,2)、
(c) 配列番号:42に記載の重鎖CDR2(VH3)、
(d) 配列番号:43に記載の重鎖CDR2(VH4)、
(e) 配列番号:44に記載の重鎖CDR3(VH1,2)、
(f) 配列番号:45に記載の重鎖CDR3(VH3,4)、
(g) 配列番号:46に記載の重鎖FR1(VH1,2)、
(h) 配列番号:47に記載の重鎖FR1(VH3,4)、
(i) 配列番号:48に記載の重鎖FR2(VH1,2,3,4)
(j) 配列番号:49に記載の重鎖FR3(VH1)、
(k) 配列番号:50に記載の重鎖FR3(VH2)、
(l) 配列番号:51に記載の重鎖FR3(VH3,4)、
(m) 配列番号:52に記載の重鎖FR4(VH1,2,3,4)
(n) 配列番号:53に記載の軽鎖CDR1(VL1,2)、
(o) 配列番号:54に記載の軽鎖CDR1(VL3)、
(p) 配列番号:55に記載の軽鎖CDR2(VL1,VL3)、
(q) 配列番号:56に記載の軽鎖CDR2(VL2)、
(r) 配列番号:57に記載の軽鎖CDR3(VL1,2,3)、
(s) 配列番号:58に記載の軽鎖FR1(VL1,2,3)、
(t) 配列番号:59に記載の軽鎖FR2(VL1,2,3)、
(u) 配列番号:60に記載の軽鎖FR3(VL1,2,3)、
(v) 配列番号:61に記載の軽鎖FR4(VL1,2,3)。
【0245】
上記(a)~(v)の各配列を、
図25にまとめて示す。また本発明は、上記(a)~(v)のいずれかのFRまたはCDRを含むポリペプチドを提供する。
【0246】
本発明の抗IL-6受容体抗体には、上述のいずれかに記載のアミノ酸置換を含む抗体の断片やその修飾物も含まれる。例えば、抗体の断片としては、Fab、F(ab')2、Fv又はH鎖とL鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv)、H鎖単独ドメインやL鎖単独ドメイン(例えば、Nat Biotechnol. 2005 Sep;23(9):1126-36.)、Unibody(WO2007059782 A1)、SMIP(WO2007014278 A2)が挙げられる。また抗体の由来としては、特に限定されないが、ヒト抗体、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体などを挙げることができる。又、本発明の抗体はキメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト化抗体等であってもよい。
【0247】
具体的には、抗体を酵素、例えば、パパイン、ペプシンで処理し抗体断片を生成させるか、又は、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させる(例えば、Co, M.S. et al., J. Immunol. (1994) 152,
2968-2976、Better, M. & Horwitz, A. H. Methods in Enzymology (1989) 178, 476-496 、Plueckthun, A. & Skerra, A. Methods in Enzymology (1989) 178, 497-515 、Lamoyi, E., Methods in Enzymology (1989) 121, 652-663 、Rousseaux, J. et al., Methods in Enzymology (1989) 121, 663-66、Bird, R. E. et al., TIBTECH (1991) 9, 132-137参照)。
【0248】
従って、本発明は、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが導入されたベクターを含む宿主細胞を培養する工程を含む、本発明のポリペプチド又は本発明のポリペプチドをコードする遺伝子によりコードされるポリペプチドを製造する方法を提供する。
【0249】
より具体的には、以下の工程を含む本発明のポリペプチドの製造方法を提供する。
(a)本発明のポリペプチドをコードする遺伝子が導入されたベクターを含む宿主細胞を培
養する工程、
(b)当該遺伝子によりコードされるポリペプチドを取得する工程。
【0250】
scFvは、抗体のH鎖V領域とL鎖V領域を連結することにより得られる。このscFvにおいて、H鎖V領域とL鎖V領域はリンカー、好ましくは、ペプチドリンカーを介して連結される(Huston, J. S. et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 10.0, 5879-5883)。scFvにおけるH鎖V領域およびL鎖V領域は、上記抗体として記載されたもののいずれの由来であってもよい。V領域を連結するペプチドリンカーとしては、例えばアミノ酸12-19残基からなる任意の一本鎖ペプチドが用いられる。
【0251】
本発明の抗IL-6受容体抗体が定常領域を含む場合、定常領域は如何なるタイプの定常領域でもよく、例えばIgG1、IgG2、IgG4などの定常領域を用いることができる。定常領域はヒト抗体の定常領域であることが好ましい。又、ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG4などの定常領域に対してアミノ酸配列の置換、欠失、付加および/または挿入等を行った改変体であってもよい。
【0252】
本発明の抗IL-6受容体抗体が結合するIL-6受容体はヒトIL-6受容体であることが好ましい。
【0253】
本発明の抗IL-6受容体抗体は、血漿中滞留性に優れている抗体であり、抗IL-6受容体抗体が抗原である可溶型IL-6受容体および膜型IL-6受容体に結合可能な状態で血漿中に存在する時間が延長し、生体内の可溶型IL-6受容体および膜型IL-6受容体が抗IL-6受容体抗体によって結合されている時間が延長した抗体である。又、当該抗IL-6受容体抗体は、IL-6
受容体に2回以上結合することが可能であり、3つ以上のIL-6受容体を中和することが可能であると考えられる。
【0254】
<医薬組成物>
また本発明は、本発明の抗原結合分子、本発明のスクリーニング方法により単離された抗原結合分子、または本発明の製造方法により製造された抗原結合分子を含む医薬組成物に関する。本発明の抗原結合分子または本発明の製造方法により製造された抗原結合分子は血漿中滞留性に優れており、抗原結合分子の投与頻度を減らせることが期待されるので医薬組成物として有用である。本発明の医薬組成物は医薬的に許容される担体を含むことができる。
【0255】
本発明において医薬組成物とは、通常、疾患の治療もしくは予防、あるいは検査・診断のための薬剤を言う。
【0256】
本発明の医薬組成物は、当業者に公知の方法で製剤化することが可能である。例えば、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することが考えられる。これら製剤における有効成分量は、指示された範囲の適当な容量が得られるように設定する。
【0257】
注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
【0258】
注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬(例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム)を含む等張液が挙げられる。適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80(TM)、HCO-50等)を併用してもよい。
【0259】
油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル及び/またはベンジルアルコールを併用してもよい。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液及び酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩酸プロカイン)、安定剤(例えば、ベンジルアルコール及びフェノール)、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填する。
【0260】
本発明の医薬組成物は、好ましくは非経口投与により投与される。例えば、注射剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、経皮投与型の組成物とすることができる。例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身または局部的に投与することができる。
【0261】
投与方法は、患者の年齢、症状により適宜選択することができる。抗原結合分子含有する医薬組成物の投与量は、例えば、一回につき体重1 kgあたり0.0001 mgから1000 mgの範囲に設定することが可能である。または、例えば、患者あたり0.001~100000 mgの投与量とすることもできるが、本発明はこれらの数値に必ずしも制限されるものではない。投与量及び投与方法は、患者の体重、年齢、症状などにより変動するが、当業者であればそれらの条件を考慮し適当な投与量及び投与方法を設定することが可能である。
【0262】
なお、本発明で記載されているアミノ酸配列に含まれるアミノ酸は翻訳後に修飾(例え
ば、N末端のグルタミンのピログルタミル化によるピログルタミン酸への修飾は当業者に
よく知られた修飾である)を受ける場合もあるが、そのようにアミノ酸が翻訳後修飾された場合であっても当然のことながら本発明で記載されているアミノ酸配列に含まれる。
【0263】
なお本明細書において引用されたすべての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0264】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0265】
〔実施例1〕改変ヒト化PM1抗体の作製
組み換え可溶型ヒトIL-6レセプター(SR344)の調製
抗原であるヒトIL-6レセプターの組み換えヒトIL-6レセプターは以下のように調製した。J.Biochem. 108, 673-676 (1990)で報告されているN末端側1番目から344番目のアミノ酸配列からなる可溶型ヒトIL-6レセプター(以下、SR344)(Yamasakiら、Science 1988;241:825-828 (GenBank # X12830))のCHO細胞定常発現株を作製した。
【0266】
SR344発現CHO細胞から得られた培養上清から、Blue Sepharose 6 FFカラムクロマトグ
ラフィー、SR344に対する特異抗体を固定したカラムによるアフィニティクロマトグラフ
ィー、ゲルろ過カラムクロマトグラフィーの3つのカラムクロマトグラフィーにより、SR344を精製した。メインピークとして溶出した画分を最終精製品とした。
【0267】
組み換えカニクイザル可溶型IL-6レセプター(cIL-6R)の調製
公開されているアカゲザルIL-6レセプター遺伝子配列(Birney et al, Ensembl 2006, Nucleic Acids Res. 2006 Jan 1;34(Database issue):D556-61.)を元にオリゴDNAプライマー Rhe6Rf1(配列番号:16)、Rhe6Rr2(配列番号:17)を作製した。カニクイザ
ル膵臓から調製されたcDNAを鋳型とし、プライマーRhe6Rf1およびRhe6Rr2を用いて、PCR
法によりカニクイザルIL-6レセプター遺伝子全長をコードするDNA断片を調製した。得ら
れたDNA断片を鋳型に、オリゴDNAプライマーCynoIL6R N-EcoRI(配列番号:18)およびCynoIL6R C-NotI-His(配列番号:19)を用いて、PCR法によりカニクイザルIL-6レセプター遺伝子のシグナル領域を含む可溶型領域(Met1-Pro363)のC末端に6xHisが付加された
タンパク質をコードする1131 bpのDNA断片(配列番号:20)を増幅した。得られたDNA
断片をEcoRI-NotIで消化し、動物細胞発現ベクターへ挿入し、これを用いてCHO定常発現
株(cyno.sIL-6R産生CHO細胞)を作製した。
【0268】
cyno.sIL-6R産生CHO細胞の培養液をHisTrapカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス)
で精製後、Amicon Ultra-15 Ultracel-10k(Millipore)を用いて濃縮し、Superdex200pg16/60ゲルろ過カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス)でさらに精製を行い、可溶型カニクイザルIL-6レセプター(以下、cIL-6R)の最終精製品とした。
【0269】
組み換えカニクイザルIL-6(cIL-6)の調製
カニクイザルIL-6は以下のように調製した。SWISSPROT Accession No.P79341に登録さ
れている212アミノ酸をコードする塩基配列を作成し、動物細胞発現ベクターにクローニ
ングし、CHO細胞に導入することで定常発現細胞株を作製した(cyno.IL-6産生CHO細胞)
。cyno.IL-6産生CHO細胞の培養液をSP-Sepharose/FFカラム(GEヘルスケアバイオサイエ
ンス)で精製後、Amicon Ultra-15 Ultracel-5k(Millipore)を用いて濃縮し、Superdex75pg26/60ゲルろ過カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス)でさらに精製を行い、Amicon Ultra-15 Ultracel-5k(Millipore)を用いて濃縮し、カニクイザルIL-6(以下、cIL-6)の最終精製品とした。
【0270】
ヒトgp130発現BaF3細胞株の樹立
IL-6依存増殖性を示す細胞株を得るために、以下に示すとおり、ヒトgp130を発現したBaF3細胞株の樹立を行った。
【0271】
全長ヒトgp130 cDNA(Hibiら、Cell 1990;63:1149-1157 (GenBank # NM_002184))をPCR法により増幅し、pCHOI(Hirataら、FEBS Letter 1994;356:244-248)のDHFR遺伝子発現部位を除去し、Zeocin耐性遺伝子発現部位を挿入した発現ベクターpCOS2Zeoにクローニングし、pCOS2Zeo/gp130を構築した。全長ヒトIL-6R cDNAをPCR法により増幅し、pcDNA3.1(+)(Invitrogen)にクローニングし、hIL-6R/pcDNA3.1(+)を構築した。10μgのpCOS2Zeo/gp130をPBSに懸濁したBaF3細胞(0.8x107 cells)に混合し、Gene Pulser(Bio-Rad)を用いて0.33 kV, 950μFDの容量でパルスを加えた。エレクトロポーレーション処理により遺伝子導入したBaF3細胞を0.2 ng/mLのmouse interleukin-3(Peprotech)、10% Fetal Bovine Serum(以下FBS、HyClone)を含むRPMI1640培地(Invitrogen)で一昼夜培養し、100 ng/mLのhuman interleukin-6(R&D systems)、100 ng/mL のhuman interleukin-6 soluble receptor(R&D systems)および10% FBSを含むRPMI1640培地を加えて選抜し、ヒトgp130発現BaF3細胞株(以下、BaF3/gp130)を樹立した。このBaF/gp130は、human interleukin-6(R&D systems)およびSR344存在下で増殖することから、抗IL-6レセプター抗体の増殖阻害活性(すなわちIL-6レセプター中和活性)の評価に使用することが可能である。
【0272】
ヒト化抗IL-6レセプター抗体の作製
Cancer Res. 1993 Feb 15;53(4):851-6においてヒト化されたマウスPM1抗体(以降Wild
type、WTと略、H鎖WTをH(WT)(アミノ酸配列 配列番号:9)とし、L鎖WTをL(WT)(アミノ酸配列 配列番号:10)とする)のフレームワーク配列とCDR配列に変異を導入し、改変H鎖としてH53(アミノ酸配列 配列番号:1)、PF1H(アミノ酸配列 配列番号:11)、改変L鎖としてL28(アミノ酸配列 配列番号:12)、PF1L(アミノ酸配列 配列番号:2)を作製した。具体的には、QuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)を用いて、添付説明書記載の方法で変異体を作製し、得られたプラスミド断片を動物細胞発現ベクターに挿入し、目的のH鎖発現ベクターおよびL鎖発現ベクターを作製した。得られた発現ベクターの塩基配列は当業者公知の方法で決定した。
【0273】
ヒト化抗IL-6レセプター抗体の発現と精製
抗体の発現は以下の方法を用いて行った。ヒト胎児腎癌細胞由来HEK293H株(Invitrogen)を10 % Fetal Bovine Serum(Invitrogen)を含むDMEM培地(Invitrogen)へ懸濁し、5~6 × 105個 /mLの細胞密度で接着細胞用ディッシュ(直径10 cm, CORNING)の各ディッシュへ10 mLずつ蒔きこみCO2インキュベーター(37℃、5 % CO2)内で一昼夜培養した後に、培地を吸引除去し、CHO-S-SFM-II(Invitrogen)培地6.9 mLを添加した。調製したプラスミドをlipofection法により細胞へ導入した。得られた培養上清を回収した後、遠心分離(約2000 g、5分間、室温)して細胞を除去し、さらに0.22μmフィルターMILLEX(R)-GV(Millipore)を通して滅菌して培養上清を得た。得られた培養上清にrProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当業者公知の方法で精製した。精製抗体濃度は、分光光度計を用いて280 nmでの吸光度を測定した。得られた値からPACE法により算出された吸光係数を用いて抗体濃度を算出した(Protein Science 1995 ; 4 :
2411-2423)。
【0274】
〔実施例2〕pH依存的結合抗体H3pI/L73の作製
複数回抗原を中和できる抗体の創製方法
IgG分子は2価であるため2ヶ所で抗原に結合した場合、1分子のIgG分子で最大2分子の抗原を中和することが可能であるが、3分子以上の抗原を中和することは出来ない。そ
のため中和抗体の場合、その中和効果を一定期間持続させるためには、その一定期間に産生される抗原量以上の抗体量が投与される必要があり、抗体の薬物動態向上やアフィニティー向上技術だけでは、必要抗体投与量の低減には限界が存在する。そこで1分子のIgG分子で2分子以上の抗原を中和することができれば、同じ投与量であれば中和効果の持続性が向上し、また、同じ持続性を達成するために必要な投与量を低減することが可能である。
【0275】
中和抗体の場合、ターゲットとなる抗原の種類として、抗原が血漿中に存在する可溶型抗原場合と抗原が細胞表面に発現している膜型抗原の場合の2種類が存在する。
【0276】
抗原が膜型抗原の場合、投与した抗体は細胞表面上の膜抗原に結合して、その後、抗体は膜抗原に結合したまま抗原と一緒にインターナライゼーションによって細胞内のエンドソームに取り込まれ、その後、抗原に結合したままライソソームへ移行し抗体は抗原と一緒にライソソームにより分解される。膜抗原によるインターナライゼーションを介した血漿中から消失は抗原依存的な消失と呼ばれており、多くの抗体分子で報告されている(Drug Discov Today. 2006 Jan;11(1-2):81-8)。1分子のIgG抗体は2価で抗原に結合した場合2分子の抗原に結合し、インターナライズされそのままライソソームで分解されることから、通常の抗体の場合、1分子のIgG抗体が2分子以上の抗原を中和することは出来ない(
図1)。
【0277】
IgG分子の血漿中滞留性が長い(消失が遅い)のは、IgG分子のサルベージレセプターとして知られているFcRnが機能しているためである(Nat Rev Immunol. 2007 Sep;7(9):715-25)。ピノサイトーシスによってエンドソームに取り込まれたIgG分子は、エンドソーム内の酸性条件下においてエンドソーム内に発現しているFcRnに結合する。FcRnに結合できなかったIgG分子はライソソームへと進みそこで分解されるが、FcRnへ結合したIgG分子は細胞表面へ移行し血漿中の中性条件下においてFcRnから解離することで再び血漿中に戻る(
図2)。
【0278】
膜抗原に結合したIgG分子はインターナライゼーションによって細胞内のエンドソーム
に取り込まれ、抗原に結合したままライソソームに移行し分解され、IgG抗体が2価で抗
原に結合した場合は2分子の抗原を中和して抗原と共に分解される。インターナライゼーションによって細胞内のエンドソームに取り込まれた際に、エンドソーム内の酸性条件下においてIgG抗体が抗原から解離することが出来れば、解離した抗体はエンドソーム内に
発現しているFcRnに結合することが出来ると考えられる。抗原から解離しFcRnへ結合したIgG分子は細胞表面へ移行し血漿中の中性条件下においてFcRnから解離することで再び血
漿中に戻り、血漿中に戻ったIgG分子は再度新たな膜抗原へ結合することが可能である。
これを繰り返すことによって、1分子のIgG分子が繰り返し膜型抗原に結合することが可
能になるため、1分子のIgG分子が複数個の抗原を中和することが可能となる(
図3)。
【0279】
抗原が可溶型抗原の場合、投与した抗体は血漿中で抗原に結合し、抗原と抗体の複合体の形で血漿中を滞留する。通常、抗体の血漿中滞留性は上述のとおりFcRnの機能により非常に長い(消失速度が非常に遅い)のに対して、抗原の血漿中滞留性は短い(消失速度が速い)ため、抗体に結合した抗原は抗体と同程度の血漿中滞留性を有する(消失が非常に遅い)ことになる。抗原は生体内で常に一定の速度で産生されており、抗体非存在下では抗原の産生速度と抗原の消失速度が釣り合った状態の濃度で抗原が血漿中に存在する。抗体存在下では、ほとんどの抗原が抗体に結合し、抗原の消失は非常に遅くなるため血漿中の抗原濃度は抗体非存在下に比べて上昇する(Kidney Int. 2003, 64, 697-703、J. National Cancer Institute 2002, 94(19), 1484-1493、J. Allergy and Clinical Immunology 1997, 100(1), 110-121、Eur. J. Immunol. 1993, 23; 2026-2029 )。仮に抗体の抗原へのアフィニティーが無限大であったとしても、抗原の濃度が上昇し、抗体が血漿中から徐々に消失し、抗体と抗原の濃度が一致した時間以降、抗体の抗原中和効果が切れてしまう。可溶型抗原に対する中和効果は、解離定数(KD)が強いほど少ない抗体濃度で中和することが可能であるが、アフィニティーをどれだけ強くしても存在する抗原濃度の1/2以下の抗体濃度では抗原を中和することができない(Biochem Biophys Res Commun. 2005 Sep 9;334(4):1004-13)。抗原が結合していないIgG分子同様、抗原が結合したIgG分子も血漿中においてピノサイトーシスによってエンドソームに取り込まれ、エンドソーム内の酸性条件下においてエンドソーム内に発現しているFcRnに結合する。FcRnへ結合したIgG分子は抗原に結合したまま、細胞表面へ移行し血漿中の中性条件下においてFcRnから解離することでIgG分子は抗原に結合したまま再び血漿中に戻るため、血漿中で新たな抗原に結合することは出来ない。この際、エンドソーム内の酸性条件下においてIgG分子が抗原から解離することが出来れば、解離した抗原はFcRnに結合することが出来ないため、その抗原はライソソームによって分解されると考えられる。一方、IgG分子はFcRnに結合することにより再び血漿中に戻ることが可能である。血漿中に戻ったIgG分子は、すでにエンドソーム内で抗原を解離していることから、血漿中において再度新しい抗原に結合することが可能になる。これを繰り返すことによって、1分子のIgG分子が繰り返し可溶型抗原に結合することが可能になるため、1分子のIgG分子が複数個の抗原を中和することが可能となる(
図4)。
【0280】
このように抗原が膜型抗原、可溶型抗原であるに関わらず、エンドソーム内の酸性条件下においてIgG抗体が抗原から解離することが出来れば、1分子のIgG分子が繰り返し抗原
を中和することが達成できると考えられた。エンドソーム内の酸性条件下においてIgG抗
体が抗原から解離するためには、酸性条件下において抗原と抗体の結合が中性条件下と比較して大幅に弱くなる必要がある。細胞表面では膜抗原を中和する必要があるため、細胞表面のpHであるpH7.4においては抗原に強く結合する必要がある。エンドソーム内のpHは
一般的にpH5.5~pH6.0であることが報告されている(Nat Rev Mol Cell Biol. 2004 Feb;5(2):121-32.)ことから、pH5.5~pH6.0において抗原に弱く結合する抗体であれば、エンドソーム内の酸性条件下において抗原から抗体は解離すると考えられる。すなわち、細胞表面のpHであるpH7.4においては抗原に強く結合し、エンドソーム内のpHであるpH5.5~pH6.0において抗原に弱く結合する抗体であれば、1分子のIgG分子が複数個の抗原を中和し、薬物動態を向上することが可能であると考えられた。
【0281】
一般的にタンパク質-タンパク質相互作用は疎水相互作用、静電相互作用、水素結合からなり、その結合の強さは一般的に結合定数(affinity)、あるいは見かけの結合定数(avidity)で表現される。中性条件下(pH7.4)と酸性条件下(pH5.5~pH6.0)とで結合の強さが変化するpH依存的な結合は、天然に存在するタンパク質-タンパク質相互作用に存在する。例えば上述したIgG分子とIgG分子のサルベージレセプターとして知られているFcRnの結合は、酸性条件下(pH5.5~pH6.0)で強く結合し中性条件下(pH7.4)で極めて結合が弱い。これら多くのpH依存的に結合が変化するタンパク質-タンパク質相互作用においては、その相互作用にヒスチジン残基が関与している。ヒスチジン残基のpKaは6.0~6.5付近に存在するため、中性条件下(pH7.4)と酸性条件下(pH5.5~pH6.0)との間でヒスチジン残基のプロトンの解離状態が変化する。すなわち、ヒスチジン残基は中性条件下(pH7.4)においては電荷を帯びず中性で水素原子アクセプターとして機能し、酸性条件下(pH5.5~pH6.0)においては正電荷を帯び水素原子ドナーとして機能する。上述のIgG-FcRn相互作用においても、IgG側に存在するヒスチジン残基がpH依存的結合に関与していることが報告されている(Mol Cell. 2001 Apr;7(4):867-77.)。
【0282】
そのためタンパク質-タンパク質相互作用に関与するアミノ酸残基をヒスチジン残基に置換する、あるいは、相互作用する箇所にヒスチジンを導入することによってタンパク質-タンパク質相互作用にpH依存性を付与することは可能である。抗体-抗原間のタンパク質-タンパク質相互作用においてもそのような試みがされており、抗卵白リゾチウム抗体
のCDR配列にヒスチジンを導入することによって、酸性条件下で抗原に対する結合性が低
下した抗体変異体を取得することに成功している(FEBS Letter (vol.309, No.1, 85-88,
1992))。また、CDR配列にヒスチジンを導入することによって、ガン組織の低いpHで特
異的に抗原に結合し中性条件下では弱く結合する抗体が報告されている(WO2003105757)。
【0283】
このように抗原抗体反応にpH依存性を導入する方法は報告されているが、これまでに体液中のpHであるpH7.4においては抗原に強く結合し、エンドソーム内のpHであるpH5.5~pH6.0において抗原に弱く結合することで、1分子のIgG分子が複数個の抗原を中和する抗体は報告されていない。すなわち、中性条件下での結合を維持しつつ酸性条件下での結合のみを大きく低下させる改変を導入することで、改変前の抗体と比較して改変後の抗体が、in vivoにおいて抗原に複数回結合することで薬物動態が向上し、同じ投与量で中和効果の持続性が向上した抗体の改変に関する報告は無い。
【0284】
IL-6レセプターは生体内に可溶型IL-6レセプターおよび膜型IL-6レセプターの両方の形で存在する(Nat Clin Pract Rheumatol. 2006 Nov;2(11):619-26.)。抗IL-6レセプター抗体は可溶型IL-6レセプターおよび膜型IL-6レセプター両方に結合してそれらの生物学的な作用を中和する。抗IL-6レセプター抗体は膜型IL-6レセプターに結合後、膜型IL-6レセプターに結合したままインターナライゼーションによって細胞内のエンドソームに取り込まれ、その後、抗IL-6レセプター抗体は膜型IL-6レセプターに結合したままライソソームへ移行し一緒にライソソームにより分解されると考えられている。実際、ヒト化抗IL-6レセプター抗体は、非線形なクリアランスを示し、抗原依存的な消失がヒト化抗IL-6レセプター抗体の消失に大きく寄与していることが報告されている(The Journal of Rheumatology, 2003, 30;71426-1435)。すなわち、1分子のヒト化抗IL-6レセプター抗体は1分子ないしは2分子の膜型IL-6レセプターに(1価ないしは2価で)結合し、インターナライズ後、ライソソームで分解されると考えられる。そこで、天然型のヒト化抗IL-6レセプター抗体の中性条件下での結合を維持しつつ酸性条件下での結合のみを大きく低下させる改変抗体(pH依存的結合抗IL-6レセプター抗体)を作製することが出来れば、1分子のヒト化抗IL-6レセプター抗体で複数分子のIL-6レセプターを中和できると考えられ、これにより天然型のヒト化抗IL-6レセプター抗体と比較して、pH依存的結合抗IL-6レセプター抗体はin vivoにおいて同じ投与量で中和効果の持続性が向上できると考えた。
【0285】
pH依存的結合ヒト化IL-6レセプター抗体H3pI/L73の作製
pH依存的な結合を抗原抗体反応に導入する方法として、CDRにヒスチジンを導入する方
法が報告されている(FEBS Letter (vol.309, No.1, 85-88, 1992))。実施例1で作製したH53/PF1Lの可変領域表面に露出するアミノ酸残基および抗原と相互作用していると考えられる残基を確認するために、MOEソフトウェア(Chemical Computing Group Inc.)を
用いて、ホモロジーモデリングによりH53/PF1LのFv領域モデルを作製した。H53/PF1Lの配列情報を元に作成した立体構造モデルより、ヒスチジン導入により抗原とのpH依存的結合を導入できると考えられる変異箇所をH27、H31、H35、L28、L32、L53(Kabatナンバリン
グ、Kabat EA et al. 1991. Sequences of Proteins of Immunological Interest.NIH)に選定した。H27、H31、H35の残基をヒスチジンに置換する変異を実施例1で作成したH53に対して導入したものをH3pI(アミノ酸配列 配列番号:3)とし、L28、L32、L53の残基をヒスチジンに置換する変異を実施例1で作成したPF1Lに対して導入したものをL73(アミノ酸配列 配列番号:6)とした。
【0286】
H3pI/L73の発現ベクターの作製・発現・精製
選定された箇所について改変抗体を作製するためのアミノ酸改変を行った。実施例1において作製したH53(塩基配列 配列番号:13)およびPF1L(塩基配列 配列番号:14
)に変異を導入して、H3pI(アミノ酸配列 配列番号:3)とL73(アミノ酸配列 配列番
号:6)を作製した。具体的には、QuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)を用いて、添付説明書記載の方法で作製し、得られたプラスミド断片を動物細胞発現ベクターに挿入し、目的のH鎖発現ベクターおよびL鎖発現ベクターを作製した。得られた発現ベクターの塩基配列は当業者公知の方法で決定した。H鎖としてH3pI、L鎖としてL73を用いたH3pI/L73の発現・精製は実施例1に記載した方法で行った。
【0287】
〔実施例3〕ファージディスプレイ技術を用いたCDR His改変によるpH依存的抗原結合能
の付与
ヒト化PM1抗体のscFv分子の作製
ヒト化抗IL-6R抗体であるヒト化PM1抗体(Cancer Res. 1993 Feb 15;53(4):851-6)のscFv化を行った。VH、VL領域をPCRによって増幅し、リンカー配列GGGGSGGGGSGGGGS(配列
番号:15)をVH、VLの間に持つヒト化PM1 HL scFvを作製した。
【0288】
ヒスチジンscanningによるヒスチジン導入可能箇所の選定
作製したヒト化PM1 HL scFv DNAを鋳型にしたPCRにより、各CDRアミノ酸のうちの一つ
のアミノ酸がヒスチジンとなるヒスチジンライブラリーを作製した。ライブラリー化したいアミノ酸のコドンをヒスチジンに相当するコドンであるCATとしたプライマーを用いたPCR反応によってライブラリー部分を構築、それ以外の部分を通常のPCRによって作製し、assemble PCR法により連結して構築した。構築したライブラリーをSfi Iで消化し、同様にSfi Iで消化したphagemideベクターpELBG lacIベクターに挿入し、XL1-Blue(stratagene)にtransformした。得られたコロニーを用い、phage ELISAによる抗原結合性評価とHL scFv配列解析を行った。J.Mol.Biol 1992 ; 227 : 381-388に習い、SR344を1μg/mLでcoatingしたプレートを用いたphage-ELISAを行った。SR344への結合性が認められたクローンについて、特異的プライマーを用い、配列解析を行った。
【0289】
anti-Etag抗体(GE Healthcare)とanti-M13抗体(GE Healthcare)によるELISA法により、phage titerを求めた。この値を用い、SR344に対するphage ELISAの結果から、ヒト
化PM1 HL scFvと比べ、CDRの残基をヒスチジンに置換しても結合能に大きな変化がない箇所を選定した。これらの箇所を表2に示した。各残基のナンバリングはKabatナンバリン
グ(Kabat EA et al. 1991. Sequences of Proteins of Immunological Interest.NIH
)に従った。
【0290】
[表2]結合能に大きく影響のないヒスチジン置換箇所
H31, H50, H54, H56, H57, H58, H59, H60, H61, H62, H63, H64, H65, H100a, H100b, H102
L24, L26, L27, L28, L30, L31, L32, L52, L53, L54, L56, L90, L92, L93, L94
【0291】
CDRヒスチジン改変ライブラリーの構築
表2に示した、ヒスチジンに置換しても結合能に大きな変化がないCDR残基(ヒスチジ
ン導入可能箇所)のアミノ酸を、元の配列(天然型配列)もしくはヒスチジンとなるライブラリーの設計を行った。実施例1で作製したH鎖PF1H、L鎖PF1Lの配列を元にし、ライブラリー箇所において、元の配列あるいはヒスチジン(元の配列かヒスチジンのどちらか一方)、となるようにライブラリーを構築した。
【0292】
ライブラリー化したい箇所を、元のアミノ酸のコドン、もしくはヒスチジンのコドン、となるよう設計したプライマーを用いたPCR反応によってライブラリー部分を構築、それ
以外の場所を通常のPCR、もしくはライブラリー部分と同様に合成プライマーを用いたPCR反応によって作製し、assemble PCR法により連結して構築した(J.Mol.Biol 1996 ; 256 : 77-88)。
【0293】
このライブラリーを用い、J. Immunological Methods 1999 ;231:119-135に習い、ribosome display用ライブラリーを構築した。大腸菌無細胞系in vitro translationを行うために、SDA配列(ribosome binding site)、T7 promoterを5'側に付加し、ribosome display用のリンカーとして3'側にgene3部分配列をSfi Iを用いてligationした。
【0294】
ビーズパンニングによるライブラリーからのpH依存的結合scFvの取得
SR344への結合能をもつscFvのみを濃縮させるため、Nature Biotechnology 2000 Dec ;
18 : 1287-1292 に習い、ribosome display法によるパンニングを2回行った。調製され
たSR344を、NHS-PEO4-Biotin(Pierce)を用いてビオチン化し抗原とした。ビオチン化抗原量を40 nM使用し、パンニングを行った。
【0295】
得られたDNA poolを鋳型とし、特異的プライマーを用いてPCRすることによりHL scFvを復元した。Sfi Iで消化し、同様にSfi Iで消化したphagemideベクターpELBG lacIベクタ
ーに挿入し、XL1-Blue(stratagene)にtransformした。
【0296】
目的のプラスミドを有する大腸菌を、2YT/100μg/mLアンピシリン/2% glucose培地中で0.4-0.6 O.D./mLまで増殖させた。そこにHelper phage(M13KO7, 4.5x1011pfu)を加え、37℃で30分間静置培養、37℃で30分間震盪培養を行った後、50 mL Falconチューブに移し3000 rpmで10分間遠心分離し、2YT/100μg/mLアンピシリン/25μg/mLカナマイシン/0.5 mM IPTG中に再懸濁し、そして30℃で一晩増殖させた。
【0297】
ファージ液は、一晩培養した培養液を2.5 M NaCl/10%PEGにより沈殿させた後PBSにて希釈しファージライブラリー液とした。ファージライブラリー液に10% M-PBS(10%スキムミルクを含むPBS)、1 M Tris-HClを加え、終濃度2.5% M-PBS, pH7.4とした。パンニングは、一般的な方法である磁気ビーズに固定化した抗原を用いたパンニング方法を用いた(J Immunol Methods. 2008 Mar 20;332(1-2):2-9.、J Immunol Methods. 2001 Jan 1;247(1-2):191-203.、Biotechnol Prog. 2002 Mar-Apr;18(2):212-20.)。具体的には、調製したファージライブラリーに40 pmolのビオチン標識SR344を加え、37℃で60分間抗原と接触させた。5% M-PBS(5%スキムミルクを含むPBS)で洗浄したStreptavidin coated beads(Dynal M-280)を加え、37℃で15分間結合させた。ビーズを0.5 mLのPBST(0.1% Tween-20を含むPBS, pH7.4)とPBS(pH7.4)にて5回ずつ洗浄した。1 mLのPBS(pH5.5)中にビーズを37℃で懸濁し、即にファージを回収した。回収したファージ溶液に、対数増殖期(OD600 0.4-0.5)XL1-Blue 10 mLに添加、37℃, 30分間静置することで感染させた。感染させた大腸菌を、2YT/100μg/mLアンピシリン/2% glucoseの225 mm x 225 mmのプレートへプレーティングした。再度この大腸菌から培養を開始し、上記と同様にファージの培養を行いパンニングを8回繰り返した。
【0298】
ファージELISAによる評価
上記のシングルコロニーを100μL 2YT/100μg/mLアンピシリン/2% glucose/12.5μg/mLテトラサイクリンに植菌し、30℃で一晩培養した。この2μLを300μL 2YT/100μg/mLアンピシリン/2% glucoseに植菌、37℃、4時間培養後、ヘルパーファージ(M13KO7)9 x 108pfuを加え、37℃で30分間静置培養、37℃30分間攪拌培養をおこない感染させた。この後2YT/100μg/mLアンピシリン/25μg/mLカナマイシン/0.5 mM IPTG 300μLに培地交換を行った。続いて30℃にて一晩培養し、遠心上清を回収した。遠心上清40μLに50 mM PBS(pH7.4)360μL加え、ELISAに供した。StreptaWell 96マイクロタイタープレート(Roche)を62.5 ng/mLビオチン標識SR344を含むPBS 100μLにて一晩コートした。PBSTにて洗浄し抗原を除いた後、2% BSA-PBS 250μLにて1時間以上ブロッキングした。2% BSA-PBSを除き、ここに調製した培養上清を加え37℃で1時間静置し抗体を結合させた。洗浄後、50 mM PBS(pH7.4)もしくは50 mM PBS(pH5.5)を加え37℃で30分間静置しインキュベートした。洗浄後、2% BSA-PBSにて希釈したHRP結合抗M13抗体(Amersham Parmacia Biotech)とTMB single solution(ZYMED)で検出し、硫酸の添加により反応を停止した後、450 nmの吸光度を測定した。
【0299】
しかしながらこの磁気ビーズに固定化した抗原を用いたパンニングでは、強いpH依存的結合能を有するクローンは得られなかった。弱いながらpH依存的結合能が認められたクローンについて、特異的プライマーを用い、配列解析を行った。これらのクローンにおいて、高い確率でヒスチジンとなっていた箇所を表3に示した。
【0300】
[表3] ファージライブラリー(磁気ビーズパンニング)により見出されたヒスチジン置
換箇所
H50, H58, H61, H62, H63, H64, H65, H102
L24, L27, L28, L32, L53, L56, L90, L92, L94
【0301】
カラムパンニングによるライブラリーからのpH依存的結合scFvの取得
一般的な磁気ビーズに固定化した抗原を用いたパンニングでは強いpH依存的結合能を有するクローンは得られなかった。磁気ビーズに固定化した抗原を用いたパンニングやプレートに固定化した抗原を用いたパンニングの場合は、磁気ビーズあるいはプレートから酸性条件下で解離したファージを全て回収するため、pH依存性が弱いクローンのファージであっても回収されてしまい、最終的に濃縮されるクローンに強いpH依存性を有するクローンが含まれる可能性が低いことが原因と考えられる。
【0302】
そこで、より厳しい条件でのパンニング方法として抗原を固定化したカラムを用いたパンニングを検討した(
図5)。抗原を固定化したカラムを用いたパンニングを用いてpH依存的結合能を有するクローンを取得した報告はこれまでにない。抗原を固定化したカラムを用いたパンニングの場合、中性条件下で結合させたファージを酸性条件で溶出させる際、pH依存性が弱いクローンはカラム内で抗原に再結合することで溶出されにくく、pH依存性が強くカラム内の再結合が起こりにくいクローンが選択的にカラムから溶出されることが考えられる。また、磁気ビーズに固定化した抗原を用いたパンニングやプレートに固定化した抗原を用いたパンニングでは酸性条件下で解離したファージを"全て"回収することになるが、抗原を固定化したカラムを用いたパンニングではカラムに酸性条件の緩衝液を流すことで溶出を開始し"適切なフラクションのみ"を回収することで、強いpH依存的結合能を有するファージを選択的に回収することが可能と考えられる。
【0303】
まず、抗原であるSR344を固定化したカラムを作製した。200μL Streptavidin Sepharose(GE Healthcare)を1 mL PBSにてwashを行った後、500μL PBSに懸濁し、ビオチン標識SR344 400 pmolと室温で1時間接触させた。その後、空カラム(Amersham Pharmcia Biotech)へ上記のsepharoseを充填し、約3 mLのPBSによりカラムの洗浄を行った。0.5% BSA-PBS(pH7.4)により上記のPEG沈したlibrary phageを1/25に希釈し0.45 nm filterを通した後、カラムに添加した。約6 mLのPBS(pH7.4)にて洗浄した後、50 mM MES-NaCl(pH5.5)を流し、低いpHにすると解離する抗体を溶出した。適切な溶出フラクションを回収し、回収したファージ溶液に、対数増殖期(OD600 0.4-0.5)XL1-Blue 10 mLに添加、37℃, 30分間静置することで感染させた。
【0304】
感染させた大腸菌を、2YT/100μg/mLアンピシリン/2% glucoseの225 mm x 225 mmのプ
レートへプレーティングした。再度この大腸菌から培養を開始し、上記と同様にファージの培養を行い、パンニングを6回繰り返し行った。
【0305】
ファージELISAによる評価
ファージELISAにより、得られたphageの評価をおこなった。pH依存性が強く認められたクローンについて、特異的プライマーを用い、配列解析を行った。その結果、WTと比較し
てpH依存的な結合が強く見られたクローンが複数得られた。
図6に示すとおり、WTと比較してクローンCL5(H鎖CLH5、L鎖CLL5)(CLH5:アミノ酸配列 配列番号:5、CLL5:アミノ酸配列 配列番号:8)は特に強いpH依存的な結合が確認された。一般的な磁気ビーズ
に固定化した抗原を用いたパンニングでは取れなかった強いpH依存的結合を示す抗体が、抗原を固定化したカラムを用いたパンニングにより取得できることが分かり、pH依存的結合抗体をライブラリーから取得する方法としては抗原を固定化したカラムを用いたパンニングが非常に有効であることが分かった。pH依存的な結合が見られた複数のクローンのアミノ酸配列解析の結果、濃縮されたクローンにおいて高い確率でヒスチジンとなっていた箇所を表4に示した。
【0306】
[表4] ファージライブラリー(カラムパンニング)によるヒスチジン置換箇所
H31, H50, H58, H62, H63, H65, H100b, H102
L24, L27, L28, L32, L53, L56, L90, L92, L94
【0307】
〔実施例4〕ヒト化IL-6レセプター抗体のヒスチジン改変体の発現と精製
ヒト化IL-6レセプター抗体のヒスチジン改変抗体の発現ベクターの作製・発現・精製
ファージELISAにてpH依存性が強く認められたクローンについて、IgG化するために、VH、および、VLをそれぞれPCRによって増幅し、XhoI/NheI消化およびEcoRI消化により動物細胞発現用ベクターに挿入した。各DNA断片の塩基配列は、当業者公知の方法で決定した。H鎖としてCLH5、L鎖として実施例2で得られたL73を用いたCLH5/L73をIgGとして発現・精製した。発現・精製は実施例1に記載した方法で行った。
【0308】
変異箇所の組み合わせにより、さらに高いpH依存性をもつ抗体作製を行った。ファージライブラリーでHisが濃縮された箇所、構造情報、などから、H鎖として実施例2で得られたH3pIのH32、H58、H62、H102をヒスチジンに置換し、さらにH95をバリンに、H99をイソ
ロイシンに置換し、H170(配列番号:4)を作製した。改変体の作製は実施例1に記載した方法で行った。また、L鎖として実施例2で作成したL73の28番目のヒスチジンをアスパラギン酸に置換したL82(配列番号:7)を作製した。改変体の作製は実施例1に記載し
た方法で行った。実施例1に記載した方法で、H鎖としてH170、L鎖としてL82を用いたH170/L82をIgGとして発現・精製を行った。
【0309】
〔実施例5〕pH依存的結合抗体のIL-6R中和活性評価
IgG化したクローンのヒトIL-6レセプター中和活性評価
ヒト化PM1抗体(野生型:WT)、および、実施例2、4で作製したH3pI/L73、CLH5/L73
、H170/L82の4種類についてIL-6レセプター中和活性を評価した。
【0310】
具体的にはIL-6/IL-6レセプター依存性増殖を示すBaF3/gp130を用いて、IL-6レセプタ
ー中和活性を評価した。BaF3/gp130を10% FBSを含むRPMI1640培地で3回洗浄した後に、5 x 10
4 cells/mLとなるように60 ng/mLのhuman interleukin-6(TORAY)、60 ng/mLの組換え可溶型ヒトIL-6レセプター(SR344)および10% FBSを含むRPMI1640培地に懸濁し、96 well-plate(CORNING)の各wellに50μLずつ分注した。次に、精製した抗体を10% FBSを含むRPMI1640に希釈して、各wellに50μLずつ混合した。37℃、5% CO
2条件下で、3日間培養し、PBSで2倍に希釈したWST-8試薬(Cell Counting Kit-8、株式会社同仁化学研究所)を20μL/wellで加え、直後にSUNRISE CLASSIC(TECAN)を用いて450 nmの吸光度(参照波長620 nm)を測定した。2時間培養した後に、再度450 nmの吸光度(参照波長620 nm)を測定し、2時間の吸光度変化を指標にIL-6レセプター中和活性を評価した。その結果、
図7に示すように、ヒト化PM1抗体(野生型:WT)と比較して、H3pI/L73、CLH5/L73、H170/L82は同等の生物学的中和活性を有することが示された。
【0311】
〔実施例6〕pH依存的結合抗体のBiacore解析
pH依存的結合クローンの可溶型IL-6レセプターへの結合解析
ヒト化PM1抗体(野生型:WT)、および、実施例2、4で作製したH3pI/L73、CLH5/L73
、H170/L82の4種類について、Biacore T100(GE Healthcare)を用いてpH5.8とpH7.4に
おける抗原抗体反応の速度論的解析を実施した(バッファーは10 mM MES pH7.4あるいはpH5.8, 150 mM NaCl, 0.05% Tween20)。アミンカップリング法によりrecomb-proteinA/G
(Pierce)を固定化したセンサーチップ上に種々の抗体を結合させ、そこにアナライトとして9.8-400 nMの濃度に調製したSR344を注入した。pH依存的結合クローンのSR344への結合および解離をリアルタイムに観測した(
図8および
図9)。測定は全て37℃で実施した。Biacore T100 Evaluation Software(GE Healthcare)を用い、結合速度定数 k
a(1/Ms)、および解離速度定数 k
d(1/s)を算出し、その値をもとに解離定数 KD (M) を算出した(表5)。さらにそれぞれについてpH5.8とpH7.4のaffinity比を算出し、pH依存性結合を評価した。測定は全て37℃で実施した。
【0312】
それぞれについてpH5.8とpH7.4のaffinity比を算出した結果、SR344に対するH3pI/L73
,H170/L82,CLH5/L73のpH依存性結合(affinity)はそれぞれ41倍,394倍,66倍であり
、いずれのクローンもWTと比較して15倍以上の高いpH依存的結合を示した。
【0313】
これまでに血漿中のpHであるpH7.4においては抗原に強く結合し、エンドソーム内のpH
であるpH5.5~pH6.0において抗原に弱く結合する抗IL-6レセプター抗体は報告されていない。本検討において、WTのヒト化IL-6レセプター抗体と同等の生物学的中和活性およびpH7.4でのaffinityを維持したまま、pH5.8でのaffinityのみを特異的に10倍以上低下させた抗体が得られた。
【0314】
[表5] SR344に対するpH依存的結合クローンの可溶型IL-6レセプターへの結合比較
【0315】
pH依存的結合クローンの膜型IL-6レセプターへの結合解析
作製した上記pH依存的結合クローンについて、Biacore T100(GE Healthcare)を用い
てpH5.8, pH7.4における膜型IL-6レセプターへの抗原抗体反応を観測した。センサーチップ上に固定化したIL-6レセプターへの結合を評価することで、膜型IL-6レセプターへの結合を評価した。SR344を当業者公知の方法に従ってビオチン化し、ストレプトアビジンと
ビオチンの親和性を利用し、ストレプトアビジンを介してビオチン化SR344をセンサーチ
ップ上に固定化した。測定は全て37℃で実施し、移動相のバッファーは10 mM MES pH5.8,
150 mM NaCl, 0.05% Tween20とし、そこにpH依存的結合クローンをpH7.4の条件下で注入してSR344と結合させたのち(注入サンプルのバッファーは10 mM MES pH7.4, 150 mM NaCl, 0.05% Tween20)、移動相のpHである5.8で各クローンのpH依存的な解離を観測した(
図10)。
【0316】
サンプル濃度を0.5μg/mLとし、10 mM MES pH7.4, 150 mM NaCl, 0.05% Tween20で結合させ、10 mM MES pH5.8, 150 mM NaCl, 0.05% Tween20で解離させたときのpH5.8における解離相のみBiacore T100 Evaluation Software(GE Healthcare)を用いフィッティング
することにより、pH5.8における解離速度(kd(1/s))を算出した。同様にまた、サンプル濃度を0.5μg/mLとし、10 mM MES pH7.4, 150 mM NaCl, 0.05% Tween20で結合させ、10 mM MES pH7.4, 150 mM NaCl, 0.05% Tween20で解離させたときのpH7.4における解離相のみBiacore T100 Evaluation Software(GE Healthcare)を用いフィッティングすることにより、pH7.4における解離速度定数(kd(1/s))を算出した。各クローンのpH依存的な解離速度定数を表6に示した。
【0317】
[表6] SR344に対するpH依存的結合クローンの膜型IL-6レセプターからの解離速度定数
比較
【0318】
解離度のpH依存性が大きい順にH3pI/L73,CLH5/L73,H170/L82であり、いずれのクローンもWTよりも高いpH依存性的な膜型IL-6レセプターからの解離を示した。しかし、pH依存的結合・解離の順位は可溶型IL-6レセプターと膜型IL-6レセプターで異なった。可溶型IL-6レセプターへの結合解析において最も高いpH依存性結合を示したH170/L82は、膜型IL-6レセプターへの結合解析においては最も低いpH依存性結合を示すことが明らかとなった。一般に、可溶型の抗原に対してIgG分子は1価(affinity)で結合するのに対して、膜型の抗原に対しては2価(avidity)で結合することが知られている。このような可溶型抗原と膜型抗原では結合様式の違いがH170/L82のpH依存的結合に影響したと考えられた。
【0319】
〔実施例7〕pH依存的結合抗体による抗原への複数回結合の確認
実施例2で記したように、pH依存的結合抗体は抗原に複数回結合することが可能になると考えられる。すなわち、抗原が結合したpH依存的結合抗体は非特異的にエンドソーム内に取り込まれるが、エンドソーム内の酸性条件下において可溶型抗原から解離する。抗体はFcRnに結合することによって再び血漿中に戻り、血漿中に戻った抗体には抗原が結合していないことから、再び新たな抗原に結合することが可能である。これを繰り返すことによって、pH依存的結合抗体は抗原に複数回結合することが可能である。しかしながらpH依存的結合を有さないIgG抗体は、エンドソームの酸性条件下で全ての抗原が抗体から解離
することは無いため、FcRnにより血漿中に戻った抗体は抗原を結合したままであり、再び新たな抗原に結合することは出来ない。そのため、ほとんどの場合1分子のIgG抗体は2つの抗原しか中和することが出来ない(2価で結合した場合)。
【0320】
そこで、実施例2、4で作製したH3pI/L73、CLH5/L73、H170/L82の3種類のpH依存的結合抗体が、ヒト化PM1抗体(野生型:WT)と比較して、抗原であるSR344に複数回結合することが可能になっているかどうかの評価を行った。
【0321】
pH7.4で結合し、pH5.8で解離することで抗原に複数回結合可能であることをBiacore(GE Healthcare)によって評価した。アミンカップリング法によりrecomb-proteinA/G(Pierce)を固定化したセンサーチップに対して評価する抗体を結合させ、pH7.4の移動相を流した(工程1)。pH7.4に調整したSR344溶液をアナライトとして流し、pH7.4で抗体にSR344を結合させた(工程2)。このpH7.4での結合は血漿中での抗原への結合を模倣している。その後、pH5.8に調整したバッファーのみ(SR344を含有しない溶液)をアナライトとして流して抗体に結合した抗原を酸性条件下に暴露させた(工程3)。このpH5.8での解離はエンドソーム内での抗体抗原複合体の結合状態を模倣している。その後、再び工程2を行った。これはFcRnによって血漿中に戻った抗体が再び新しい抗原に結合することを模倣している。その後、再び工程2を行い、抗体抗原複合体を酸性条件下に暴露させた。このように"工程2→工程3"を37℃で複数回繰り返すことによって、抗体が血漿中からピノサイトーシスによってエンドソーム内に取り込まれFcRnによって血漿中に戻ることを繰り返している(Nat Rev Immunol. 2007 Sep;7(9):715-25)生体内の状態を模倣することが可能である。
【0322】
作製した上記pH依存的結合クローンについて、Biacore T100(GE Healthcare)を用い
てpH5.8, pH7.4における抗原であるSR344に対する複数回結合能を解析した。具体的には
以下の通り行った。測定は全て37℃で実施し、まずアミンカップリング法によりrecomb-proteinA/G(Pierce)を固定化したセンサーチップ上に、移動相のバッファーは10 mM MES pH5.8, 150 mM NaCl, 0.05% Tween20とし、上述のサンプルとなる抗体を結合させた(工程1)。そこにアナライトとして約40 nMの濃度に調製したSR344をpH7.4の条件下で3分間注入して(注入SR344のバッファーは10 mM MES pH7.4, 150 mM NaCl, 0.05% Tween20)結合させた(工程2)。その後、SR344の注入を停止しpH5.8の移動相を約70秒間流すことにより抗体/SR344複合体を酸性条件下に暴露した(工程3)。この結合(工程2)および酸性暴露(工程3)を1セットとし、これを連続的に10セット繰り返し行い、そのセンサーグラムをリアルタイムに観測し
図11に示した。WTは工程3の酸性暴露時のSR344の解離が少ないため、次の工程2で新たに抗原に結合可能な抗体の割合は非常に少ない。それに対して、pH依存的結合クローン、その中でも特にH170/L82とCLH5/L73は、工程3の酸性暴露時の解離が極めて大きく、結合しているSR344のほとんどが解離することから、次の工程2でほとんどの抗体が新たな抗原に結合可能であることが分かった。H170/L82とCLH5/L73は結合(工程2)と酸性暴露(工程3)を10セット繰り返しても、毎セットほとんどの抗体が新たな抗原に結合可能であることが分かった。
【0323】
得られたセンサーグラムを用いて、Biacore T100 Evaluation Software(Biacore)を
用い、各サンプルの1セットごとのSR344結合量を算出し、10セットの経時的な積算値を
図12に示した。10セット目で得られた積算RU値が10回のサイクルの中で結合した総抗原量に相当する。WTと比較して、pH依存的結合クローン、その中でも特にH170/L82とCLH5/L73は、結合した総抗原量が最も多く、WTと比較して4倍量程度の抗原に繰り返し結合することが可能であることが示された。これより、WTに対してpH依存的な結合を付与することによって、繰り返し抗原に結合し、複数の抗原を中和することが可能になることが明らかとなった。
【0324】
〔実施例8〕pH依存的結合抗体のヒトIL-6レセプタートランスジェニックマウスによるPK/PD試験
IL-6レセプターは生体内に可溶型IL-6レセプターおよび膜型IL-6レセプターの両方の形で存在する(Nat Clin Pract Rheumatol. 2006 Nov;2(11):619-26)。抗IL-6レセプター
抗体は可溶型IL-6レセプターおよび膜型IL-6レセプター両方に結合してそれらの生物学的な作用を中和する。抗IL-6レセプター抗体は膜型IL-6レセプターに結合後、膜型IL-6レセプターに結合したままインターナライゼーションによって細胞内のエンドソームに取り込まれ、その後、抗IL-6レセプター抗体は膜型IL-6レセプターに結合したままライソソームへ移行し一緒にライソソームにより分解されると考えられている。実施例6で評価したpH依存的結合抗IL-6レセプター抗体であるH3pI/L73、CLH5/L73、H170/L82が、エンドソーム内の酸性条件下で解離することでFcRnを介して血漿中へ戻ることが出来れば、血漿中に戻った抗体は再度抗原に結合することが可能になり、抗体1分子で複数の膜型IL-6レセプターを中和することが可能となる。エンドソーム内の酸性条件下で解離することでFcRnを介して血漿中へ戻ることが作製したpH依存的結合抗IL-6レセプター抗体で達成できているかどうかは、これらの抗体の薬物動態がWTと比較して改善しているかどうかを評価することで可能である。
【0325】
そこで、ヒト化PM1抗体(野生型:WT)、および、実施例2、4で作製したH3pI/L73、C
LH5/L73、H170/L82の4種類について、ヒトIL-6レセプタートランスジェニックマウス(hIL-6R tg マウス、Proc Natl Acad Sci U S A. 1995 May 23;92(11):4862-6)における薬物動態を評価した。WTおよびH3pI/L73、CLH5/L73、H170/L82をhIL-6R tgマウスに25 mg/kgで静脈内に単回投与し、投与前、および、経時的に採血した。採取した血液は直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存した。
【0326】
マウス血漿中濃度測定はELISA法にて測定した。血漿中濃度として6.4、3.2、1.6、0.8
、0.4、0.2、0.1μg/mLの検量線試料を調整した。検量線試料およびマウス血漿測定試料
をAnti-human IgG(γ-chain specific) F(ab')2(Sigma社製)で固相化したイムノプレート(Nunc-Immuno Plate,MaxiSorp(Nalge nunc International社製))に分注し、室温で1時間静置後、Goat Anti-Human IgG-BIOT(Southern Biotechnology Associates社製)およびStreptavidin-alkaline phosphatase conjugate(Roche Diagnostics社製)を順次反応させ、BluePhos Microwell Phosphatase Substrates System(Kirkegaard & Perry Laboratories社製)を基質として用い発色反応を行い、マイクロプレートリーダーにて650 nmの吸光度を測定した。マウス血漿中濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices社製)を用いて算出した。WTおよびH3pI/L73、CLH5/L73、H170/L82の血漿中濃度推移を
図13に示した。
【0327】
WTと比較してH3pI/L73、CLH5/L73、H170/L82いずれも薬物動態が改善した。中でもH3pI/L73およびCLH5/L73は薬物動態が大幅に改善した。膜型IL-6レセプターに結合した天然型抗IL-6レセプター抗体(WT)はインターナライゼーションによって細胞内のエンドソームに取り込まれ、抗原に結合したままライソソームに移行し分解されるため血漿中滞留性が短い。それに対してpH依存的結合抗IL-6レセプター抗体において薬物動態が大幅に改善したことから、pH依存的結合抗IL-6レセプター抗体はエンドソーム内の酸性条件下おいて抗原である膜型IL-6レセプターから解離することでFcRnを介して再び血漿中に戻っていると考えられた。
【0328】
WTと比較してH3pI/L73、CLH5/L73、H170/L82いずれも薬物動態が改善したが、H170/L82の血漿中滞留性延長効果がH3pI/L73、CLH5/L73と比較して小さかった。通常IgG分子は膜
型抗原には2価で結合すると考えられることから、抗IL-6レセプター抗体も膜型IL-6レセ
プターには2価(avidity)で結合してその後インターナライズされると考えられる。実施例6で示したように、Biacoreによる解析においてH170/L82は、可溶型IL-6レセプターへ
の結合の際はpH5.8において速やかにIL-6レセプターから解離する(
図9)が、膜型IL-6
レセプターへの結合の際はpH5.8においてIL-6レセプターからの解離速度が非常に遅い(
図10)ことが分かっている。これよりH170/L82の血漿中滞留性延長効果が小さかったのは、膜型IL-6レセプターへの結合の際のpH5.8での解離が遅かったため、インターナライ
ズされた後にエンドソーム内で十分に解離することが出来なかったためと考えられる。すなわち、膜型抗原に対して、1つのIgG分子が複数の膜型抗原を中和するためには、1価
での結合(affinity)でのpH依存性よりも、2価での結合(avidity)からの解離のpH依
存性のほうが重要であることが分かった。
【0329】
〔実施例9〕pH依存的結合抗体のカニクイザルによるPK/PD試験
実施例8において、pH依存的結合抗IL-6レセプター抗体において薬物動態が大幅に改善したことから、pH依存的結合抗IL-6レセプター抗体はエンドソーム内の酸性条件下において抗原である膜型IL-6レセプターから解離することでFcRnを介して再び血漿中に戻っていると考えられた。再び血漿中に戻った抗体が再度膜型IL-6レセプターに結合することができれば、天然型抗IL-6レセプター抗体と比較して、pH依存的結合抗IL-6レセプター抗体は同じ投与量でより長く抗原である膜型IL-6レセプターの中和が持続すると考えられる。また、IL-6レセプターには可溶型IL-6レセプターも存在することから、可溶型IL-6レセプタ
ーの中和に関しても、同じ投与量でより長く中和が持続することが考えられる。
【0330】
WTおよびH3pI/L73について、カニクイザルにおける薬物動態を評価した。WTおよびH3pI/L73をカニクイザルに1 mg/kgで静脈内に単回投与し、投与前および経時的に採血した。採取した血液は直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存した。
【0331】
カニクイザル血漿中濃度測定はELISA法にて測定した。まずAnti-Human IgG(γ-chain specific) F(ab')2 Fragment of Antibody(SIGMA社製)をNunc-Immuno Plate, MaxiSoup(Nalge nunc International社製)に分注し、4℃で1晩静置しAnti-Human IgG固相化プレートを作成した。血漿中濃度として3.2、1.6、0.8、0.4、0.2、0.1、0.05μg/mLの検量線試料と100倍以上希釈したカニクイザル血漿測定試料を調製し、これら検量線試料および血漿測定試料100μLに20 ng/mLのカニクイザルIL-6Rを200μL加え、室温で1時間静置した。その後Anti-Human IgG固相化プレートに分注しさらに室温で1時間静置した。その後Biotinylated Anti-human IL-6 R Antibody(R&D社製)を室温で1時間反応させ、さらにStreptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies 社製)を室温で1時間反応させ、TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories社製)を基質として用い発色反応を行い、1N-Sulfuric acid(Showa Chemical社製)で反応停止後、マイクロプレートリーダーにて450 nmの吸光度を測定した。カニクイザル血漿中濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices社製)を用いて算出した。WTおよびH3pI/L73の静脈内投与後の血漿中濃度推移を
図14に示した。その結果、カニクイザルにおいてもヒトIL-6レセプタートランスジェニックマウスと同様、WTと比較してH3pI/L73は大幅に薬物動態が改善した。pH依存的結合抗IL-6レセプター抗体であるH3pI/L73において薬物動態が大幅に改善したことから、H3pI/L73はエンドソーム内の酸性条件下において抗原である膜型IL-6レセプターから解離することでFcRnを介して再び血漿中に戻っていると考えられた。
【0332】
WTおよびH3pI/L73の静脈内投与によって、カニクイザル膜型IL-6レセプターがどの程度中和されているかを評価するために、カニクイザルIL-6で誘導した血漿C反応性蛋白(CRP)への検体の影響を検討した。IL-6が膜型IL-6レセプターに結合するとCRPが分泌されるため、CRPは膜型IL-6レセプターの中和の指標となる。WTおよびH3pI/L73投与後3日目(day3)から10日目(day10)まで、1% 非働化カニクイザル血漿含有カニクイザルIL-6(実施例1で作製したcyno.IL-6) 5μg/kgを腰背部に連日皮下投与した。カニクイザルIL-6投与開始直前(day3)から投与後24時間間隔(day4~day11)で伏在静脈より血液を採取して、血漿に分離した。各個体のCRP濃度はサイアスR CRP(関東化学株式会社)にて、自動分析装置(TBA-120FR、東芝メディカルシステムズ株式会社)を用いて測定した。WTおよびH3pI/L73のカニクイザルIL-6で誘導時のCRP濃度推移を
図15に示した。その結果、WTと比較してH3pI/L73は大幅にCRP抑制の期間が大幅に延長した。このことから、pH依存的結合抗IL-6レセプター抗体であるH3pI/L73はエンドソーム内の酸性条件下において抗原である膜型IL-6レセプターから解離することでFcRnを介して再び血漿中に戻り、再度膜型IL-6レセプターに結合して中和することでWTよりも長時間CRPの産生を抑制していると考えられた。すなわちH3pI/L73は抗体1分子で複数回、膜型IL-6レセプターに結合し中和することが可能であることが示された。H3pI/L73はWTと比較して、CRPの産生を抑制している時間が延長していることから、H3pI/L73はWTよりも抗原である膜型IL-6レセプターが抗体によって結合されている時間が延長していることが示された。
【0333】
WTおよびH3pI/L73の静脈内投与によって、カニクイザル可溶型IL-6レセプターがどの程度中和されているかを評価するために、カニクイザル血漿中の非結合型のカニクイザル可溶型IL-6レセプター濃度を測定した。カニクイザルの血漿30μLを0.22μmのフィルターカップ(Millipore)において乾燥させた適量のrProtein A Sepharose Fast Flow(GE Healthcare)樹脂に添加することで血漿中に存在する全てのIgG型抗体(カニクイザルIgG、抗ヒトIL-6レセプター抗体および抗ヒトIL-6レセプター抗体-カニクイザル可溶型IL-6レセプター複合体)をProteinAに吸着させた。その後、高速遠心機でスピンダウンし、通過した溶液(以下、「パス溶液」)を回収した。パス溶液にはproteinAに結合した抗ヒトIL-6レセプター抗体-カニクイザル可溶型IL-6レセプター複合体は含まれないため、proteinAパス溶液中のカニクイザル可溶型IL-6レセプター濃度を測定することによって、非結合型の可溶型IL-6レセプター濃度を測定可能である。4000、2000、1000、500、250、125、62.5 pg/mLに調製したカニクイザルIL-6レセプター検量線試料および上述のProtein A処理した血漿サンプルにSULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery社製)でルテニウム化したMonoclonal Anti-human IL-6R Antibody(R&D社製)とBiotinylated Anti-human IL-6 R Antibody(R&D社製)を混合し室温で1時間反応させた。その後SA coated standard MA2400 96well plate(Meso Scale Discovery社製)に分注した。さらに室温で1時間反応させ洗浄後、Read Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery社製)を分注し、ただちにSECTOR Imager 2400(Meso Scale Discovery社製)で測定を行った。カニクイザルIL-6レセプター濃度は検量線のレスポンスから解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices社製)を用いて算出した。WTおよびH3pI/L73の非結合型のカニクイザル可溶型IL-6レセプター濃度推移を
図16に示した。その結果、WTと比較してH3pI/L73は大幅にカニクイザル可溶型IL-6レセプターの中和期間が大幅に延長した。このことから、pH依存的結合抗IL-6レセプター抗体であるH3pI/L73はエンドソーム内の酸性条件下において抗原である可溶型IL-6レセプターから解離し、FcRnを介して再び血漿中に戻り、再度可溶型IL-6レセプターに結合して中和していると考えられた。H3pI/L73はWTと比較して、非結合型のカニクイザル可溶型IL-6レセプターを抑制している時間が延長していることから、H3pI/L73はWTよりも抗原である可溶型IL-6レセプターが抗体によって結合されている時間が延長していることが示された。
【0334】
これらのことから、野生型抗IL-6レセプター抗体に対して、血漿中のpHであるpH7.4に
おいて強く抗原に結合し、エンドソーム内のpHであるpH5.8において抗原への結合を弱く
したpH依存的結合抗IL-6レセプター抗体は、抗体が血漿中から消失するまでの時間、および、生体内の可溶型IL-6レセプターおよび膜型IL-6レセプターが抗体によって結合されている時間が大幅に延長することが見出された。これにより、患者への投与量や投与頻度を減らすことが可能であり、結果として総投与量を減らすことが可能となる為、pH依存的結合抗IL-6レセプター抗体は、IL-6アンタゴニストとしての医薬品として特に優れていると考えられる。
【0335】
〔実施例10〕可変領域の最適化による膜型IL-6レセプターへのpH依存的結合の向上
可変領域H3pI/L73およびCLH5/L82の最適化
実施例9において、pH依存的結合能を有する抗体が優れた効果を発揮することが示されたことから、さらにpH依存的結合能を向上させるため、実施例3で得られたCLH5のCDR配
列に変異を導入し、VH1-IgG1(配列番号:21)、VH2-IgG1(配列番号:22)を作製した。また、H3pIのフレームワーク配列とCDR配列に変異を導入し、改変H鎖としてVH3-IgG1(配列番号:23)、VH4-IgG1(配列番号:24)を作製した。L73、L82のCDR配列に変
異を導入し、改変L鎖としてVL1-CK(配列番号:25)、VL2-CK(配列番号:26)、VL3-CK(配列番号:27)を作製した。具体的には、QuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)を用いて、添付説明書記載の方法で変異体を作製し、得られたプラスミド断片を哺乳動物細胞発現ベクターに挿入し、目的のH鎖発現ベクターおよびL鎖発現ベクターを作製した。得られた発現ベクターの塩基配列は当業者公知の方法で決定した。
【0336】
H鎖としてVH2-IgG1(配列番号:22)、L鎖としてVL2-CK(配列番号:26)を用いたものをFv1-IgG1、H鎖としてVH1-IgG1(配列番号:21)、L鎖としてL82を用いたものをFv2-IgG1、H鎖としてVH4-IgG1(配列番号:24)、L鎖としてVL1-CK(配列番号:25)
を用いたものをFv3-IgG1、H鎖としてVH3-IgG1(配列番号:23)、L鎖としてVL3-CK(配列番号:27)を用いたものをFv4-IgG1とした。これらのうちFv2-IgG1とFv4-IgG1の発現・精製を行った。発現・精製は実施例1に記載した方法で行った。
【0337】
pH依存的結合クローンの可溶型IL-6レセプターへの結合解析
ヒト化PM1抗体(野生型:WT)、および、実施例2および10で作製したWT、H3pI/L73-IgG1、Fv2-IgG1、Fv4-IgG1の4種類について、Biacore T100(GE Healthcare)を用いてpH7.4における抗原抗体反応の速度論的解析を実施した(バッファーは10 mM MES pH7.4, 150 mM NaCl, 0.05% Tween20)。アミンカップリング法によりanti-IgG γchain specific F(ab)2(Pierce)を固定化したセンサーチップ上に種々の抗体を結合させ、そこにアナライトとして9.8-40 nMの濃度に調製したSR344を注入した。pH依存的結合クローンのSR344への結合および解離をリアルタイムに観測した。測定は全て37℃で実施した。Biacore T100 Evaluation Software(GE Healthcare)を用い、結合速度定数 ka (1/Ms)、および解離速度定数 kd (1/s) を算出し、その値をもとに 解離定数 KD (M) を算出した(表7)。
【0338】
[表7] SR344に対するpH依存的結合クローンの可溶型IL-6レセプターからの解離速度定
数比較
【0339】
それぞれについてpH7.4のaffinityを算出した結果、SR344に対するWT、H3pI/L73-IgG1
、Fv2-IgG1、Fv4-IgG1の解離定数(affinity、KD値)はそれぞれ2.7 nM,1.4 nM, 2.0 nM,
1.4 nMとほぼ同等の値であり、Fv2-IgG1、Fv4-IgG1は可溶型IL-6レセプターへの結合能
はWTと同等以上であることが示された。
【0340】
pH依存的結合クローンの膜型IL-6レセプターへの結合解析
作製したWT、H3pI/L73-IgG1、Fv2-IgG1、Fv4-IgG1の4種類について、Biacore T100(GE
Healthcare)を用いてpH5.8, pH7.4における膜型IL-6レセプターへの抗原抗体反応を観
測した。センサーチップ上に固定化したIL-6レセプターへの結合を評価することで、膜型IL-6レセプターへの結合を評価した。SR344を当業者公知の方法に従ってビオチン化し、
ストレプトアビジンとビオチンの親和性を利用し、ストレプトアビジンを介してビオチン化SR344をセンサーチップ上に固定化した。測定は全て37℃で実施し、移動相のバッファ
ーは10 mM MES pH5.8, 150 mM NaCl, 0.05% Tween20とし、そこにpH依存的結合クローン
をpH7.4の条件下で注入してSR344と結合させたのち(注入サンプルのバッファーは10 mM MES pH7.4, 150 mM NaCl, 0.05% Tween20)、移動相のpHである5.8で各クローンのpH依存的な解離を観測した(
図17)。
【0341】
サンプル濃度を0.25μg/mLとし、10 mM MES pH7.4, 150 mM NaCl, 0.05% Tween20で結
合させ、10 mM MES pH5.8, 150 mM NaCl, 0.05% Tween20で解離させたときのpH5.8における解離相のみBiacore T100 Evaluation Software(GE Healthcare)を用いフィッティン
グすることにより、pH5.8における解離速度定数(kd(1/s))を算出した。同様にまた、サンプル濃度を0.25μg/mLとし、10 mM MES pH7.4, 150 mM NaCl, 0.05% Tween20で結合さ
せ、10 mM MES pH7.4, 150 mM NaCl, 0.05% Tween20で解離させたときのpH7.4における解離相のみBiacore T100 Evaluation Software(GE Healthcare)を用いフィッティングす
ることにより、pH7.4における解離速度定数(kd(1/s))を算出した。各クローンのpH依存的な解離速度定数を表8に示した。
【0342】
[表8] SR344に対するpH依存的結合クローンの膜型IL-6レセプターからの解離速度定数
比較
【0343】
それぞれについてpH依存性を算出した結果SR344に対するWT、H3pI/L73-IgG1、Fv2-IgG1、Fv4-IgG1の4種類の膜型IL-6レセプターへの結合のpH依存性はそれぞれ1.0倍, 2.59倍, 7.18倍, 5.56倍であり、Fv2-IgG1、Fv4-IgG1は、H3pI/L73-IgG1より高いpH依存的な膜型IL-6レセプターからの解離を示した。
【0344】
以上より、Fv2-IgG1、Fv4-IgG1はWTと同等以上の可溶型IL-6レセプターへのaffinityを維持したままH3pI/L73-IgG1よりも強い膜型IL-6レセプターへのpH依存的結合を示すこと
が明らかとなった。
【0345】
〔実施例11〕可変領域を最適化したpH依存的結合抗体のヒトIL-6レセプタートランスジェニックマウスによるPK/PD試験
実施例8で使用したヒトIL-6レセプタートランスジェニックマウスを用いて、実施例10で作製・評価したFv2-IgG1とFv4-IgG1およびWTとH3pI/L73-IgG1の薬物動態を評価した。WTおよびH3pI/L73-IgG1、Fv2-IgG1、Fv4-IgG1をhIL-6R tgマウスに25 mg/kgで静脈内に単回投与し、実施例8と同様に各抗体の血漿中濃度の測定を行った。WTおよびH3pI/L73-IgG1、Fv2-IgG1、Fv4-IgG1の血漿中濃度推移を
図18に示した。
【0346】
実施例8と同様、WTと比較してH3pI/L73-IgG1の薬物動態は向上しており、さらにFv2-IgG1およびFv4-IgG1はH3pI/L73-IgG1よりもさらに薬物動態が向上した。実施例9においてカニクイザルで測定した非結合型IL-6レセプター濃度に関しても同様の方法で本試験のhIL-6R tgマウスにおいて測定したところ、Fv2-IgG1およびFv4-IgG1はH3pI/L73-IgG1よりも可溶型IL-6レセプターの中和期間の延長が確認された(data not shown)。実施例10で示したとおり、Fv2-IgG1およびFv4-IgG1はH3pI/L73-IgG1と比較して膜型IL-6レセプター
へのpH依存的結合が向上していることから、膜型IL-6レセプターへのpH依存的結合を向上させることにより、H3pI/L73-IgG1よりさらに薬物動態および可溶型IL-6レセプターの中
和期間を向上させることが可能であることが示された。
【0347】
〔実施例12〕定常領域の最適化による膜型IL-6レセプターへのpH依存的結合の向上
Fv4-IgG1の定常領域の最適化
一般的に膜型抗原に対する結合は抗体の定常領域によって変化することが報告されている(J Immunol Methods. 1997 Jun 23;205(1):67-72.)。これまで作製したpH依存的結合抗体の定常領域はIgG1アイソタイプであった。そこで膜型IL-6レセプターへのpH依存的結
合を向上させるために定常領域の最適化を検討した。
【0348】
天然型の定常領域として定常領域IgG2(配列番号:28)に変異を導入して、定常領域IgG2ΔGK(配列番号:29)を作製した。定常領域IgG2ΔGKに対してさらに変異を導入し、定常領域M58(配列番号:30)を作製した。定常領域IgG2および定常領域M58に対してさらに変異を導入し、定常領域M71(配列番号:31)およびM73(配列番号:32)を作製した。
【0349】
実施例10で作製したVH3-IgG1の定常領域をIgG2ΔGKに置換したVH3-IgG2ΔGK(配列番号:33)、定常領域をM58に置換したVH3-M58(配列番号:34)、定常領域をM73に置
換したVH3-M73(配列番号:35)を作製した。具体的には、実施例10で使用しているVH3の定常領域部分をNheI/NotI消化とligationにより目的の定常領域に置換した発現ベク
ターを構築した。得られた発現ベクターの塩基配列は当業者公知の方法で決定した。
【0350】
H鎖としてVH3-IgG2ΔGK(配列番号:33)、L鎖としてVL3-CK(配列番号:27)を用いたFv4-IgG2、H鎖としてVH3-M58(配列番号:34)、L鎖としてVL3-CK(配列番号:2
7)を用いたFv4-M58、H鎖としてVH3-M73(配列番号:35)、L鎖としてVL3-CK(配列番号:27)を用いたFv4-M73の発現・精製を行った。発現・精製は実施例1に記載した方
法で行った。
【0351】
定常領域を最適化したFv4の可溶型IL-6レセプターへの結合解析
作製したFv4-IgG1、Fv4-IgG2、Fv4-M58、Fv4-M73およびWTに関して、実施例10と同様の方法でSR344への結合および解離をリアルタイムに観測した。同様に解析を行い、結合
速度定数 ka (1/Ms)、および解離速度定数 kd (1/s) を算出し、その値をもとに解離定数
KD (M) を算出した(表9)。
【0352】
[表9] SR344に対するpH依存的結合クローンの可溶型IL-6レセプターからの解離速度定
数比較
【0353】
それぞれについてpH7.4のaffinityを算出した結果、SR344に対するFv4-IgG1、Fv4-IgG2、Fv4-M58、Fv4-M73の解離定数(affinity、KD値)はそれぞれ1.4 nM,1.3 nM, 1.4 nM, 1.4 nMとほぼ同等の値であり、SR344に対するpH依存的結合クローンの可溶型IL-6レセプターへの結合能は定常領域を改変しても変化しないことが示された。このことから、Fv1、Fv2、Fv3についても同様に定常領域を改変しても可溶型IL-6レセプターへの結合能は変化しないと考えられた。
【0354】
定常領域を最適化したFv4の膜型IL-6レセプターへの結合解析
作製したFv4-IgG1、Fv4-IgG2、Fv4-M58、Fv4-M73およびWTに関して、実施例10と同様の方法でBiacore T100(GE Healthcare)を用いてpH5.8, pH7.4における膜型IL-6レセプ
ターへの抗原抗体反応を観測した。pH依存的結合クローンをpH7.4の条件下で注入してSR344と結合させたのちに、pH5.8の移動相で各クローンのpH依存的な解離を観測した結果を
図19に示す。さらに実施例10と同様の方法で解析を行い、各クローンのpH依存的な解離速度を表10に示した。
【0355】
[表10] SR344に対するpH依存的結合クローンの膜型IL-6レセプターからの解離速度定
数比較
【0356】
それぞれについてpH依存性を算出した結果SR344に対するFv4-IgG1、Fv4-IgG2、Fv4-M58、Fv4-M73のpH依存性はそれぞれ5.6倍, 17.0倍, 17.6倍, 10.1倍であり、Fv4-IgG2、Fv4-M58、Fv4-M73のいずれもFv4-IgG1より高いpH依存性的な膜型IL-6レセプターからの解離を示した。
【0357】
Fv4の可変領域を用いた可溶型IL-6レセプターへの結合解析結果および膜型IL-6レセプ
ターへの結合解析結果より、定常領域をIgG1からIgG2、M58およびM73に置換することにより可溶型IL-6レセプターへのaffinityを変化させることなく、膜型IL-6レセプターへのpH依存的結合のみを改善可能であることが見出された。また、Fv1、Fv2、Fv3についても同
様であると考えられた。
【0358】
〔実施例13〕定常領域を最適化したpH依存的結合抗体のヒトIL-6レセプタートランスジェニックマウスによるPK/PD試験
実施例8で使用したヒトIL-6レセプタートランスジェニックマウス(hIL-6R tgマウス
)を用いて、実施例13で作成したFv4-IgG1、Fv4-IgG2、Fv4-M58の薬物動態を評価し、
定常領域の及ぼす薬物動態への影響を検討した。WTおよびFv4-IgG1、Fv4-IgG2、Fv4-M58
をhIL-6R tgマウスに25 mg/kgで静脈内に単回投与し、実施例8と同様に各抗体の血漿中
濃度の測定を行った。WTおよびFv4-IgG1、Fv4-IgG2、Fv4-M58の血漿中濃度推移を
図20
に示した。
【0359】
実施例11と同様、WTと比較してFv4-IgG1の薬物動態は向上しており、さらにFv4-IgG2、Fv4-M58はFv4-IgG1よりも薬物動態は向上した。実施例9においてカニクイザルで測定した非結合型IL-6レセプター濃度に関しても同様の方法で本試験のhIL-6R tgマウスにおいて測定したところ、Fv4-IgG2、Fv4-M58はFv4-IgG1よりも可溶型IL-6レセプターの中和期間の延長が確認された(data not shown)。実施例10で示したとおり、Fv4-IgG2、Fv4-M58はFv4-IgG1と比較して膜型IL-6レセプターへのpH依存的結合の向上していることから、定常領域をIgG1からIgG2あるいはM58に置換することにより膜型IL-6レセプターへのpH依存的結合を向上させ、薬物動態および可溶型IL-6レセプターの中和期間を向上させることが可能であることが示された。これより、Fv4のみならずFv1、Fv2、Fv3においても、定常領域をIgG1からIgG2あるいはM58に置換することにより、IgG1よりも薬物動態および可溶型IL-6レセプターの中和期間が向上すると考えられた。
【0360】
〔実施例14〕可変領域および定常領域を最適化したpH依存的結合抗体の作製
これまでと同様の方法を用い、VH2-IgG1の定常領域をM71, M73としたVH2-M71(配列番
号:36)、VH2-M73(配列番号:37)、VH4-IgG1の定常領域をM71, M73としたVH4-M71(配列番号:38)、VH4-M73(配列番号:39)を作製した。
【0361】
H鎖としてVH2-M71、L鎖としてVL2-CKを用いたFv1-M71、H鎖としてVH2-M73、L鎖としてV
L2-CKを用いたFv1-M73、H鎖としてVH4-M71、L鎖としてVL1-CKを用いたFv3-M71、H鎖とし
て VH4-M73、L鎖としてVL1-CKを用いたFv3-M73の発現・精製を行った。発現・精製は実施例1に記載した方法で行った。
【0362】
可変領域および定常領域を最適化したpH依存的結合抗体の可溶型IL-6レセプターへの結合解析
ヒト化PM1抗体(野生型:WT)、および、これまでに作製したH3pI/L73-IgG1、Fv1-M71
、Fv1-M73、Fv2-IgG1、Fv3-M71、Fv3-M73、Fv4-IgG1、Fv4-IgG2、Fv4-M58、Fv4-M73の11
種類について、実施例10と同様の方法でSR344への結合および解離をリアルタイムに観
測した。同様に解析を行い、結合速度定数 ka (1/Ms) 、および解離速度定数 kd (1/s)
を算出し、その値をもとに解離定数 KD (M) を算出した(表11)。
【0363】
[表11] SR344に対するpH依存的結合クローンの可溶型IL-6レセプターからの解離速度
定数比較
【0364】
得られた10種類のpH依存的結合クローンは全て可溶型IL-6レセプターに対して、WTと比較して同等以上の解離定数(affinity、KD値)を有していることが見出された。
【0365】
可変領域および定常領域を最適化したpH依存的結合抗体の膜型IL-6レセプターへの結合解析
ヒト化PM1抗体(野生型:WT)、および、これまでに作製したH3pI/L73-IgG1、Fv1-M71
、Fv1-M73、Fv2-IgG1、Fv3-M71、Fv3-M73、Fv4-IgG1、Fv4-IgG2、Fv4-M58、Fv4-M73の11
種類について、実施例10と同様の方法でBiacore T100(GE Healthcare)を用いてpH5.8, pH7.4における膜型IL-6レセプターへの抗原抗体反応を観測した。pH依存的結合クローンをpH7.4の条件下で注入してSR344と結合させたのちに、移動相のpHである5.8で各クローンのpH依存的な解離を観測した結果を
図21に示した(Fv1-M71、Fv1-M73、Fv3-M71、Fv3-M73については
図21、他は
図17および19に示した)。さらに実施例10と同様の方法で解析を行い、全11種類のクローンについて、解離速度定数のpH依存性を表12に示した。
【0366】
[表12] SR344に対するpH依存的結合クローンの膜型IL-6レセプターからの解離速度定
数のpH依存性
【0367】
得られた10種類のpH依存的結合クローンは膜型IL-6レセプターに対してpH依存的な結合能を示した。さらに実施例9においてカニクイザルにおいてWTと比較して抗体が血漿中から消失するまでの時間、および、生体内の可溶型IL-6レセプターおよび膜型IL-6レセプターが抗体によって結合されている時間が大幅に延長することが見出されたH3pI/L73-IgG1と比較して、Fv1-M71、Fv1-M73、Fv2-IgG1、Fv3-M71、Fv3-M73、Fv4-IgG1、Fv4-IgG2、Fv4-M58、Fv4-M73のいずれも膜型IL-6レセプターへのpH依存的結合が向上していることが見出された。
【0368】
〔実施例15〕可変領域と定常領域を最適化したpH依存的結合抗体のカニクイザルによるPK/PD試験
公知の高親和性抗IL-6レセプター抗体の作製
公知の高親和性抗IL-6レセプター抗体として、US 2007/0280945 A1に記載されている高親和性抗IL-6レセプター抗体であるVQ8F11-21 hIgG1(US 2007/0280945 A1, アミノ酸配
列19および27)を発現させるため、動物細胞発現用ベクターを構築した。抗体可変領域については、合成オリゴDNAを組み合わせたPCR法(assembly PCR)により作製した。定常領域については、実施例1で使用した発現ベクターからPCR法により増幅した。Assembly PCR法により抗体可変領域と定常領域を結合させ、哺乳動物発現用ベクターへ挿入した。得
られたH鎖およびL鎖DNA断片を哺乳動物細胞発現ベクターに挿入し、目的のH鎖発現ベクターおよびL鎖発現ベクターを作製した。得られた発現ベクターの塩基配列は当業者公知の
方法で決定した。作製した発現ベクターを用い、発現・精製を行った。発現・精製は実施例1に記載した方法で行い、高親和性高IL-6レセプター抗体(high affinity Ab)を得た
。
【0369】
カニクイザルによるPK/PD試験
pH依存的結合抗体であるH3pI/L73-IgG1およびFv1-M71、Fv1-M73、Fv2-IgG1、Fv3-M73、Fv4-M73および公知の高親和性抗IL-6レセプター抗体(high affinity Ab)のカニクイザ
ルにおける薬物動態および薬効を評価した。H3pI/L73-IgG1およびFv1-M71、Fv1-M73、Fv2-IgG1、Fv3-M73、Fv4-M73をカニクイザルに0.5 mg/kgで静脈内に単回投与し、またhigh affinity Abは1.0 mg/kgで静脈内に単回投与し、投与前および経時的に採血した。実施例
9と同様に各抗体の血漿中濃度の測定を行った。H3pI/L73-IgG1およびFv1-M71、Fv1-M73
、Fv2-IgG1、Fv3-M73、Fv4-M73、high affinity Abの血漿中濃度推移を
図21に示した。
カニクイザル膜型IL-6レセプターがどの程度中和されているかの薬効を評価するために、実施例9と同様に、抗体投与後3日目から10日目(high affinity Abに関しては6日目から10日目)までカニクイザルIL-6 5μg/kgを腰背部に連日皮下投与し、24時間後の各個体のCRP濃度を測定した。各抗体投与時のCRP濃度推移を
図22に示した。カニクイザル可溶型IL-6レセプターがどの程度中和されているかの薬効を評価するために、実施例9と同様に、カニクイザル血漿中の非結合型のカニクイザル可溶型IL-6レセプター濃度を測定した。各抗体投与時の非結合型のカニクイザル可溶型IL-6レセプター濃度推移を
図23に示した。
【0370】
これより、H3pI/L73-IgG1と比較して、Fv1-M71、Fv1-M73、Fv2-IgG1、Fv3-M73、Fv4-M73はいずれも抗体血漿中濃度が高く維持され、CRP濃度および非結合型のカニクイザル可溶型IL-6レセプター濃度が低く維持されていることが見出された。すなわち、これらはH3pI/L73-IgG1と比較して、膜型IL-6レセプターおよび可溶型IL-6レセプターが抗体によって結合されている時間(言い換えれば中和されている時間)が延長されていることが示された。
【0371】
また、これらのpH依存的結合抗IL-6レセプター抗体は、1.0 mg/kgで投与した公知の高
親和性抗IL-6レセプター抗体(high affinity Ab)と比較して、半分の投与量である0.5 mg/kgで同等以上の中和効果と持続性が確認されたことから、pH依存的結合抗体は公知の
高親和性高IL-6レセプター抗体と比較して優れた中和効果と持続性を有することが明らかとなった。
【0372】
表12に記した抗体のうち、本試験でカニクイザルによるPK/PD試験を実施しなかった
抗体についても、H3pI/L73-IgG1と比較して、膜型IL-6レセプターへのpH依存的結合が向
上していることが確認されていることから、これらについてもH3pI/L73-IgG1と比較して
膜型IL-6レセプターおよび可溶型IL-6レセプターが抗体によって結合されている時間(言い換えれば中和されている時間、中和効果の持続性)が延長されていると考えられる。
【0373】
実施例9において、H3pI/L73-IgG1はWTと比較して、抗体が血漿中から消失するまでの
時間、および、生体内の可溶型IL-6レセプターおよび膜型IL-6レセプターが抗体によって結合されている時間(中和効果の持続性)が大幅に延長することが見出されている。H3pI/L73-IgG1より中和効果の持続性に優れるFv1-M71、Fv1-M73、Fv2-IgG1、Fv3-M71、Fv3-M73、Fv4-IgG1、Fv4-IgG2、Fv4-M58、Fv4-M73はWTと比較した場合、著しく中和効果の持続
性が改善されたと考えられる。
【0374】
これらのことから、抗IL-6レセプター抗体に対して、血漿中のpHであるpH7.4において
強く抗原に結合し、エンドソーム内のpHであるpH5.8において抗原への結合を弱くしたpH
依存的結合抗IL-6レセプター抗体は、抗IL-6レセプター抗体の患者への投与量や投与頻度を減らすことが可能であり、結果として総投与量を大幅に減らすことが可能となり、IL-6アンタゴニストとしての医薬品として極めて優れていると考えられる。
【0375】
〔実施例16〕pH依存的に結合する抗IL-6抗体の作製
抗IL-6抗体の発現と精製
実施例1~15におけるヒト化抗IL-6レセプター抗体において、ヒト化抗IL-6レセプター抗体の可変領域に対して、そのCDR配列を中心にヒスチジン等への置換を導入することによって、ヒト化抗IL-6レセプター抗体とIL-6レセプターとの結合にpH依存性を付与した抗体を複数創製することに成功し、それらは全てIL-6レセプターへ繰り返し結合し、PK/PDが大きく改善することが見出された。
【0376】
そこで、抗IL-6レセプター抗体とは異なる抗原に結合する抗体において同様の方法によ
り、抗原と抗体との結合にpH依存性を付与できるかどうかを検討した。異なる抗原としてヒトIL-6を選択し、WO2004/039826に記載されたヒトIL-6に結合するH鎖(WT)(アミノ酸配列 配列番号:62)とL鎖(WT)(アミノ酸配列 配列番号:63)からなる抗IL-6抗体(anti-IL6 wild type)を作製した。当業者公知の方法で目的の抗体アミノ酸配列をコードする遺伝子断片を動物細胞発現ベクターに挿入し、目的のH鎖発現ベクターおよびL鎖発現ベクターを作製した。得られた発現ベクターの塩基配列は当業者公知の方法で決定した。Anti-IL6 wild typeの発現と精製は実施例1に記載した方法で行った。
【0377】
pH依存的抗IL-6抗体の作製
H鎖(WT)(アミノ酸配列 配列番号:62)とL鎖(WT)(アミノ酸配列 配列番号:63)からなる抗IL-6抗体(anti-IL6 wild type)に対して、CDRのアミノ酸に対してヒスチジ
ンへの置換を導入することで、抗体とIL-6の結合にpH依存性を付与する検討を行った。CDRのアミノ酸に対してヒスチジンへの置換を検討し、スクリーニングを行った結果、pH7.4における結合と比較して、pH5.5における結合が大幅に低下し、pH依存的な結合を示すクローンがいくつか得られた。pH依存的クローンにおけるヒスチジン置換箇所を表13に示した。そのうち、H鎖(c1)(アミノ酸配列 配列番号:64)とL鎖(c1)(アミノ酸配列 配列番号:65)からなるanti-IL6 clone1、および、H鎖(c1)(アミノ酸配列 配列番号:64)とL鎖(c2)(アミノ酸配列 配列番号:66)からなるanti-IL6 clone2、が挙げられた。Anti-IL6 clone1とanti-IL6 clone2の発現と精製は実施例1に記載した方法で行った。
【0378】
[表13] pH依存的クローンにおけるヒスチジン置換箇所
H32、H59、H61、H99
L53、L54、L90、L94
【0379】
pH依存的結合クローンのヒトIL-6への結合解析
上記で作製したanti-IL6 wild type、anti-IL6 clone1、および、anti-IL6 clone2の3種類について、Biacore T100 (GE Healthcare) を用いてpH5.5とpH7.4における抗原抗体
反応の速度論的解析を実施した(バッファーはDPBS(-) pH7.4あるいはpH5.5, 150 mM NaCl)。アミンカップリング法によりrecomb-proteinA/G (Pierce) を固定化したセンサーチップ上に種々の抗体を結合させ、そこにアナライトとして適切な濃度に調製したヒトIL-6(TORAY)を注入した。測定は全て37℃で実施した。Biacore T100 Evaluation Software (GE Healthcare)を用い、結合速度定数 ka (1/Ms) 、および解離速度定数 kd (1/s) を算出し、その値をもとに解離定数 KD (M) を算出した(表14)。さらにそれぞれについてpH5.5とpH7.4のaffinity比を算出し、pH依存性結合を評価した。
【0380】
[表14] IL-6に対するpH依存的結合クローンのIL-6への結合比較
【0381】
それぞれについてpH5.5とpH7.4のaffinity比(KD(pH5.5)/KD(pH7.4))を算出した結果
、ヒトIL-6に対するanti-IL6 wild type、anti-IL6 clone1、anti-IL6 clone2のpH依存性
結合はそれぞれ0.8倍、10.3倍、13.5倍であり、いずれのクローンもWTと比較して10倍以
上の高いpH依存的結合を示した。Anti-IL6 clone2のpH7.4とpH5.5でのセンサーグラムを
図26に示した。
【0382】
これより、抗IL-6レセプター抗体のみならず、抗IL-6抗体においても、CDR配列を中心
にヒスチジン等のアミノ酸への置換を導入することによって、血漿中の中性条件下では抗原に強く結合し、エンドソーム中の酸性条件下では抗原との結合が低下するpH依存的な結合を有する抗体を作製することが可能であることが示された。実施例1~15に示したとおり、pH依存的な結合を有する抗IL-6レセプター抗体がIL-6レセプターに繰り返し結合しPK/PDが大きく改善したことから、pH依存的な結合を有するanti-IL6 clone1、anti-IL6 clone2は、anti-IL6 wild typeと比較して、より多くの抗原に繰り返し結合しPK/PDが大きく改善すると考えられた。
【0383】
〔実施例17〕pH依存的に結合する抗IL-31レセプター抗体の作製
抗IL-31レセプター抗体の発現と精製
実施例1~15において、ヒト化抗IL-6レセプター抗体において、ヒト化抗IL-6レセプター抗体の可変領域に対して、そのCDR配列を中心にヒスチジン等への置換を導入するこ
とによって、ヒト化抗IL-6レセプター抗体とIL-6レセプターとの結合にpH依存性を付与した抗体を複数創製することに成功し、それらは全てIL-6レセプターへ繰り返し結合し、PK/PDが大きく改善することが見出された。
【0384】
そこで、抗IL-6レセプター抗体とは異なる抗原に結合する抗体において同様の方法により、抗原と抗体との結合にpH依存性を付与できるかどうかを検討した。異なる抗原としてマウスIL-31レセプターを選択し、WO2007/142325に記載されたマウスIL-31レセプターに
結合するH鎖(WT)(アミノ酸配列 配列番号:67)とL鎖(WT)(アミノ酸配列 配列番号:68)からなる抗IL-31レセプター抗体(anti-IL31R wild type)を作製した。当業者公
知の方法で目的の抗体アミノ酸配列をコードする遺伝子断片を動物細胞発現ベクターに挿入し、目的のH鎖発現ベクターおよびL鎖発現ベクターを作製した。得られた発現ベクターの塩基配列は当業者公知の方法で決定した。Anti-IL31R wild typeの発現と精製は実施例1に記載した方法で行った。
【0385】
pH依存的抗IL-31レセプター抗体の作製
H鎖(WT)(アミノ酸配列 配列番号:67)とL鎖(WT)(アミノ酸配列 配列番号:68)からなる抗IL-31レセプター抗体(anti-IL31R wild type)に対して、CDRのアミノ酸に対してヒスチジンへの置換を導入することで、抗体とIL-31レセプターの結合にpH依存性を
付与する検討を行った。CDRのアミノ酸に対してヒスチジンへの置換を検討し、スクリー
ニングを行った結果、pH7.4における結合と比較して、pH5.5における結合が大幅に低下し、pH依存的な結合を示すクローンがいくつか得られた。pH依存的クローンにおけるヒスチジン置換箇所を表15に示した。そのうちの一つとして、H鎖(c1)(アミノ酸配列 配列番号:69)とL鎖(WT)からなるanti-IL31R clone1が挙げられた。Anti-IL31R clone1の発現と精製は実施例1に記載した方法で行った。
【0386】
[表15] pH依存的クローンにおけるヒスチジン置換箇所
H33
【0387】
pH依存的結合クローンの可溶型IL-31レセプターへの結合解析
上記で作製したanti-IL31R wild type、anti-IL31R clone1の2種類について、Biacore
T100 (GE Healthcare) を用いてpH5.5とpH7.4における抗原抗体反応の速度論的解析を実施した(バッファーはDPBS(-) pH7.4あるいはpH5.5, 150 mM NaCl, 0.01% Tween20, 0.02% NaN3)。アミンカップリング法によりrecomb-proteinA/G (Pierce) を固定化したセンサーチップ上に種々の抗体を結合させ、そこにアナライトとして適切な濃度に調製した可溶型マウスIL-31レセプター(WO2007/142325に記載の方法で調製)を注入した。測定は全て25℃で実施した。Biacore T100 Evaluation Software (GE Healthcare)を用い、結合速度定数 ka (1/Ms) 、および解離速度定数 kd (1/s) を算出し、その値をもとに解離定数 KD (M) を算出した(表16)。さらにそれぞれについてpH5.5とpH7.4のaffinity比を算出し、pH依存性結合を評価した。
【0388】
[表16] マウスIL-31レセプターに対するpH依存的結合クローンのマウスIL-31レセプターへの結合比較
【0389】
それぞれについてpH5.5とpH7.4のaffinity比(KD(pH5.5)/KD(pH7.4))を算出した結果
、マウスIL-31レセプターに対するanti-IL31R wild type、anti-IL31R clone1のpH依存性結合はそれぞれ3.2倍、1000倍であり、clone1はWTと比較して300倍程度の高いpH依存的結合を示した。Anti-IL31R cloneのpH7.4とpH5.5でセンサーグラムを
図27に示した。
【0390】
これより、抗IL-6レセプター抗体と抗IL-6抗体のみならず、抗IL-31レセプター抗体に
おいても、CDR配列を中心にヒスチジン等のアミノ酸への置換を導入することによって、
血漿中の中性条件下では抗原に強く結合し、エンドソーム中の酸性条件下では抗原との結合が低下するpH依存的な結合を有する抗体を作製することが可能であることが示された。実施例1~15に示したとおり、pH依存的な結合を有する抗IL-6レセプター抗体がIL-6レセプターに繰り返し結合しPK/PDが大きく改善したことから、pH依存的な結合を有するanti-IL31R clone1は、anti-IL31R wild typeと比較して、より多くの抗原に繰り返し結合しPK/PDが大きく改善すると考えられた。
【0391】
〔実施例18〕pH依存的結合抗体による抗原への繰り返し結合
マウス投与抗体の発現と精製
ヒト化IL-6レセプター抗体として、以下の4種類を作製した。IL-6レセプターに対してpH依存的な結合を示さない通常の抗体としてH(WT)(アミノ酸配列 配列番号:9)とL(WT)(アミノ酸配列 配列番号:10)からなるWT-IgG1、H54(アミノ酸配列 配列番号:70)とL28(アミノ酸配列 配列番号:12)からなるH54/L28-IgG1を、IL-6レセプターに対してpH依存的な結合を示す抗体として実施例3で作製したH170(アミノ酸配列 配列番号:4)とL82(アミノ酸配列 配列番号:7)からなるH170/L82-IgG1、および、実施例10で作製したVH3-IgG1(配列番号:23)とVL3-CK(配列番号:27)からなるFv4-IgG1を実施例1に示した方法で発現と精製を行った。
【0392】
各種抗体の可溶型IL-6レセプターへの結合解析
調製したWT-IgG1、H54/L28-IgG1、H170/L82-IgG1、および、Fv4-IgG1の4種類について、Biacore T100 (GE Healthcare) を用いてpH7.4およびpH5.8における抗原抗体反応の速度論的解析を実施した(バッファーは10 mM MES pH7.4、またはpH5.8, 150 mM NaCl, 0.05% Surfactant-P20)。アミンカップリング法によりrecomb-proteinA/G (Pierce) を固定化したセンサーチップ上に種々の抗体を結合させ、そこにアナライトとして適切な濃度に調製したSR344を注入した。各種抗体のSR344への結合および解離をリアルタイムに観測した。測定は全て37℃で実施した。Biacore T100 Evaluation Software (GE Healthcare)を用い、結合速度定数 ka (1/Ms) 、および解離速度定数 kd (1/s) を算出し、その値をもとに 解離定数 KD (M) を算出した(表17)。
【0393】
[表17] SR344に対する各種抗体の可溶型IL-6レセプターからの結合速度(ka)・解離
速度(kd)、解離定数(KD)比較
【0394】
それぞれについてpH5.8とpH7.4のアフィニティー(KD値)比を算出した結果、SR344に
対するWT-IgG1、H54/L28-IgG1、H170/L82-IgG1、および、Fv4-IgG1のpH依存性結合(KD値の比)はそれぞれ1.6倍、0.7倍、61.9倍および27.3倍であった。また、それぞれについてpH5.8とpH7.4の解離速度(kd値)比を算出した結果、SR344に対するWT-IgG1、H54/L28-IgG1、H170/L82-IgG1、および、Fv4-IgG1のpH依存性解離速度(kd値の比)はそれぞれ2.9倍、2.0倍、11.4倍および38.8倍であった。これより、通常の抗体であるWT-IgG1とH54/L28-IgG1はpH依存的な結合をほとんど示さず、H170/L82-IgG1とFv4-IgG1はpH依存的な結合を示すことが確認された。また、これらの抗体のpH7.4におけるアフィニティー(KD値)はほぼ同等であったから、血漿中におけるSR344への結合は同程度であると考えられた。
【0395】
マウスを用いた体内動態試験
ヒトIl-6レセプターを発現していないマウス(C57BL/6J;これらの抗ヒトIL-6レセプター抗体はマウスのIL-6レセプターに結合しない)にSR344(ヒトIL-6レセプター:実施例1で作製)を単独投与、もしくはSR344および抗ヒトIL-6レセプター抗体を同時投与した後のSR344および抗ヒトIL-6レセプター抗体の体内動態を評価した。SR344溶液(5μg/mL)もしくはSR344および抗ヒトIL-6レセプター抗体の混合溶液(それぞれ5μg/mL、0.1 mg/mL)を尾静脈に10 mL/kgで単回投与した。このとき、SR344に対して抗ヒトIL-6レセプター抗体は十分量過剰に存在することから、SR344はほぼ全て抗体に結合していると考えられる。投与後15分間、2時間、8時間、1日間、2日間、3日間、4日間、7日間、14日間、21日
間、28日間で採血を行った。採取した血液は直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離し
、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保
存した。抗ヒトIL-6レセプター抗体としては、上述のWT-IgG1、H54/L28-IgG1、H170/L82-IgG1、および、Fv4-IgG1を使用した。
【0396】
ELISA法による血漿中抗ヒトIL-6レセプター抗体濃度測定
マウス血漿中の抗ヒトIL-6レセプター抗体濃度はELISA法にて測定した。まずAnti-Human IgG(γ-chain specific) F(ab')2 Fragment of Antibody (SIGMA) をNunc-Immuno Plate, MaxiSoup (Nalge nunc International)に分注し、4℃で1晩静置しAnti-Human IgG固相化プレートを作成した。血漿中濃度として0.8、0.4、0.2、0.1、0.05、0.025、0.0125μg/mLの検量線試料と100倍以上希釈したマウス血漿測定試料を調製し、これら検量線試料および血漿測定試料100μLに20 ng/mLのSR344を200μL加え、室温で1時間静置した。その後Anti-Human IgG固相化プレートに分注しさらに室温で1時間静置した。その後Biotinylated Anti-human IL-6 R Antibody(R&D)を室温で1時間反応させ、さらにStreptavidin-PolyHRP80 (Stereospecific Detection Technologies)を室温で1時間反応させ、TMB One Component HRP Microwell Substrate (BioFX Laboratories)を基質として用い発色反応を行い、1N-Sulfuric acid(Showa Chemical)で反応停止後、マイクロプレートリーダーにて450 nmの吸光度を測定した。マウス血漿中濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出した。この方法で測定した静脈内投与後の血漿中抗体濃度推移を
図28に示した。
【0397】
電気化学発光法による血漿中SR344濃度測定
マウスの血漿中SR344濃度は電気化学発光法にて測定した。2000、1000、500、250、125、62.5、31.25 pg/mLに調整したSR344検量線試料および50倍以上希釈したマウス血漿測定試料を調製し、SULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)でルテニウム化したMonoclonal Anti-human IL-6R Antibody(R&D)およびBiotinylated Anti-human IL-6 R Antibody (R&D)およびWT-IgG1溶液を混合し37℃で1晩反応させた。その際のWT-IgG1の終濃度はサンプルに含まれる抗ヒトIL-6レセプター抗体濃度より過剰の333μg/mLであり、サンプル中のほぼ全てのSR344をWT-IgG1と結合した状態にすることを目的とした。その後、MA400 PR Streptavidin Plate(Meso Scale Discovery)に分注した。さらに室温で1時間反応させ洗浄後、Read Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery)を分注し、ただちにSECTOR PR 400 reader(Meso Scale Discovery)で測定を行った。SR344濃度は検量線のレスポンスから解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出した。この方法で測定した静脈内投与後の血漿中SR344濃度推移を
図29に示した。
【0398】
pH依存的結合による効果
pH依存的な結合を示さない抗体であるWT-IgG1とH54/L28-IgG1、および、pH依存的な結
合を示す抗体であるH170/L82-IgG1とFv4-IgG1の抗体濃度推移に関しては、WT-IgG1、H54/L28-IgG1、および、Fv4-IgG1はほぼ同等であり、H170/L82-IgG1は若干早い消失を示した。血漿中濃度推移のデータを薬物動態解析ソフトWinNonlin(Pharsight)で解析した結果、WT-IgG1、H54/L28-IgG1、Fv4-IgG1、H170/L82-IgG1の血漿中半減期はそれぞれ21.0、28.8、26.2、7.5 dayであった。
【0399】
実施例2に記したとおり、抗原が可溶型抗原の場合、投与した抗体は血漿中で抗原に結合し、抗原と抗体の複合体の形で血漿中を滞留する。通常、抗体の血漿中滞留性はFcRnの機能により非常に長い(消失速度が非常に遅い)のに対して、抗原の血漿中滞留性は短い(消失速度が速い)ため、抗体に結合した抗原は抗体と同程度の長い血漿中滞留性を有する(消失が非常に遅い)ことになる。ヒト化IL-6レセプター抗体の抗原であるSR344(可
溶型ヒトIL-6レセプター)を単独で投与した場合も同様にSR344は極めて早い消失を示し
た(血漿中半減期0.2 day)。SR344とpH依存的な結合を示さない通常の抗体であるWT-IgG1あるいはH54/L28-IgG1を同時に投与した場合、SR344の消失速度は著しく低下し、長い血漿中滞留性を示した(血漿中半減期:WT-IgG1 5.3 day、H54/L28-IgG1 6.3 day)。これはSR344が同時に投与した抗体にほぼ全て結合していため、上述のとおり抗体に結合したSR344はFcRnの機能により抗体と同程度の長い血漿中滞留性を有するためである。
【0400】
SR344とpH依存的な結合を示す抗体であるH170/L82-IgG1あるいはFv4-IgG1を同時に投与した場合、SR344の消失はWT-IgG1あるいはH54/L28-IgG1を同時に投与した場合と比較して著しく速くなった(血漿中半減期:H170/L82-IgG1 1.3 day、Fv4-IgG1 0.6 day)。その
傾向は特にFv4-IgG1で顕著であった。Fv4-IgG1のpH7.4におけるアフィニティーはWT-IgG1およびH54/L28-IgG1と同等以上であることから、SR344はほぼ全てFv4-IgG1に結合してい
ると考えられる。Fv4-IgG1は、WT-IgG1とH54/L28-IgG1と比較して、同等あるいはやや長
い血漿中滞留性を示し消失が遅いにもかかわらず、Fv4-IgG1に結合したSR344の消失は著
しく速くなった。これは
図4に示した本技術のコンセプトにより説明可能である。pH依存的な結合を示さない通常の抗体は、抗体-可溶型抗原複合体が血漿中においてピノサイトーシスによってエンドソームに取り込まれ、エンドソーム内の酸性条件下においてエンドソーム内に発現しているFcRnに結合し、FcRnへ結合した抗体-可溶型抗原複合体はそのまま細胞表面へ移行し再び血漿中に戻るため、抗体に結合した抗原は抗体と同程度の長い血漿中滞留性を有する(消失が非常に遅い)。一方、pH依存的な結合を示す抗体は、エンドソーム内の酸性条件下において抗原を解離するため、抗体のみFcRnに結合し再び血漿中に戻り、抗体から解離した抗原は血漿中に戻ることなくライソソームで分解されるため、抗原の消失は、pH依存的な結合を示さない抗体の場合と比較して消失が著しく速くなる。すなわち、SR344をpH依存的な結合を示さない抗体であるWT-IgG1あるいはH54/L28-IgG1と同時に投与した場合は、血漿中とエンドソーム内においてSR344はWT-IgG1あるいはH54/L28-IgG1と結合しているためSR344の消失は抗体と同程度に遅くなるが、SR344をpH依存的な結合を示す抗体であるH170/L82-IgG1あるいはFv4-IgG1と同時に投与した場合は、エンドソーム内の低pH環境下においてSR344が抗体から解離するためSR344の消失は極めて早くなる。すなわち、pH依存的な結合を示す抗体であるH170/L82-IgG1あるいはFv4-IgG1は、エンドソーム内の低pH環境下においてSR344が解離することから、FcRnによって再び血漿中に戻ったH170/L82-IgG1あるいはFv4-IgG1の多くはSR344が結合していないと考えられる。これよりpH依存的な結合を示す抗体は、
図4に示すとおり、エンドソーム内の低pH環境下において抗原を解離し、抗原に結合していない状態でFcRnによって血漿中に戻ることで、血漿中で再度新しい抗原に結合することが可能となり、これを繰り返すことでpH依存的な結合を示す抗体は複数回抗原に繰り返し結合することが可能であることが示された。これは実施例7で示したようにBiacoreにおいて、pH依存的結合クローンが抗原へ繰り返し結合できることを反映しており、抗体の抗原へのpH依存的な結合を増強することで抗原へ繰り返し結合する回数を増大させることが可能である。
【0401】
抗原が可溶型抗原の場合、血漿中の中性条件下で抗体に結合した抗原がエンドソーム内で解離し抗体がFcRnにより血漿中に戻れば、抗体は再び血漿中の中性条件下で抗原に結合できるため、エンドソーム内の酸性条件下で抗原を解離する性質を有する抗体は抗原に複数回結合可能である。抗体に結合した抗原がエンドソーム内で解離しない場合(抗原は抗体に結合したまま血漿中に戻る)と比較して、抗体に結合した抗原がエンドソーム内で解離する場合は、抗原はライソソームに運ばれ分解されるため抗原の血漿中からの消失速度は増加する。すなわち、血漿中から抗原が消失する速度を指標として抗体が抗原に複数回結合可能であるか否かを判断することも可能である。抗原の血漿中からの消失速度の測定は、例えば、本実施例に示したように抗原と抗体を生体内に投与し、投与後の血漿中の抗原濃度を測定することにより行うことも可能である。
【0402】
pH依存的な結合を示さない通常の抗体と比較して、pH依存的な結合を示す抗体は、一つの抗体が複数回抗原に繰り返し結合することが可能であるため、抗体の投与量の大幅な低減と投与間隔の大幅な延長が可能になると考えられる。
【0403】
本メカニズムによる複数回の抗原への繰り返し結合は、pH依存的な抗原抗体反応に立脚していることから、如何なる抗原であっても血漿中のpH7.4で結合し、エンドソーム内の
酸性pHで抗原から解離するpH依存的な結合を示す抗体を作製することができれば、一つの抗体が複数回抗原に繰り返し結合することが可能である。すなわち、本技術はIL-6レセプター、IL-6、IL-31レセプターのみならず、抗原の種類に依らず、如何なる抗原に対する
抗体に対しても一般に適応可能な技術として有用である。
【配列表】