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特許7366331臓器特異的自己免疫疾患を予防および/または改善するのための組成物および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】臓器特異的自己免疫疾患を予防および/または改善するのための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/00 20060101AFI20231016BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20231016BHJP
   A61P 21/02 20060101ALI20231016BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20231016BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20231016BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20231016BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20231016BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20231016BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
A61K33/00
A61P37/02
A61P21/02
A61P1/00
A61P7/06
A61P17/00
A61P3/10
A61K9/72
A61P43/00 121
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023017175
(22)【出願日】2023-01-20
(65)【公開番号】P2023143735
(43)【公開日】2023-10-06
【審査請求日】2023-03-06
(31)【優先権主張番号】P 2022064782
(32)【優先日】2022-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】394021270
【氏名又は名称】MiZ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】市川 祐介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文武
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文平
(72)【発明者】
【氏名】銀城 康子
【審査官】内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-116290(JP,A)
【文献】特開2022-021279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を有効成分として含む、被験体において、臓器特異的自己免疫疾患を原因とする症状の予防、改善、および/または、症状の悪化の抑制ならびに、臓器特異的自己免疫疾患の治療薬の副作用予防または改善するための組成物であって、
前記臓器特異的自己免疫疾患を原因とする症状が重症筋無力症または橋本病の症状であり、
前記臓器特異的自己免疫疾患を原因とする症状が、
前記重症筋無力症では、全身の筋力低下、四肢筋力低下、易疲労性、眼瞼下垂、複視などの眼の症状、嚥下障害、呼吸困難、および、これらの症状に伴う生活の質(Quality of Life)の低下であり、
前記橋本病では、疲労、冷え、身体のむくみ、体重増加、眠気、記憶力低下、息切れ、脈拍低下、筋力低下、動作緩慢、無排卵、無月経、便秘、甲状腺の腫れ、まぶたの腫れ、うつ状態、便秘、高コレステロール血症、および、これらの症状に伴う生活の質(Quality of Life)の低下であり、
前記臓器特異的自己免疫疾患の治療薬が重症筋無力症またはバセドウ氏病の治療薬であることを特徴とする組成物
【請求項2】
前記組成物が、吸入によって前記被験体に投与される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記水素の濃度が、0より大きく18.5体積%以下である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項5】
前記請求項に記載の組成物を作製する方法であって、前記組成物が水素ガス生成装置を用いて作製されることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臓器特異的自己免疫疾患を予防および/または改善するための組成物に関する。
本発明はまた、臓器特異的自己免疫疾患を予防および/または改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
臓器特異的自己免疫疾患は、自己免疫疾患のうち、病態が特定の臓器に限局する疾患であり、自己免疫性溶血性貧血、血小板減少性紫斑病、橋本病、ギランバレー症候群、バセドウ病、I型糖尿病、重症筋無力症、自己免疫性胃炎、天疱瘡などがある。
近年、水素分子が細胞内および細胞のミトコンドリア内部で発生するヒドロキシルラジカルを消去することにより慢性炎症を抑制し、慢性炎症に起因する多くの疾病に対し効果を奏する可能性があることを提唱されている(非特許文献1)。しかしながら、臓器特異的自己免疫疾患患者が水素ガス含有気体を吸入、吸引、飲用等した場合に、臓器特異的自己免疫疾患を予防および/または改善したことについては報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Shin-ichi Hirano,Yusuke Ichikawa,Bunpei Sato,Haru Yamamoto,Yoshiyasu Takefuji,Fumitake Satoh ″Potential Therapeutic Applications of Hydrogen in Chronic Inflammatory Diseases:Possible Inhibiting Role on Mitochondrial Stress″ International Journal of Molecular Science,2021,22,2549
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、副作用の少ないかつ簡便に製造し得る新しい臓器特異的自己免疫疾患を予防および/または改善するのための組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意研究の結果、意外にも、水素ガス含有気体が、臓器特異的自己免疫疾患を予防および/または改善することを見出した。
従って、本発明は、以下の特徴を包含する。
(1)水素を有効成分として含む、被験体において、臓器特異的自己免疫疾患を原因とする症状を改善および/または症状の悪化を抑制するための組成物である。
(2)前記臓器特異的自己免疫疾患が、重症筋無力症、橋本病、バセドウ病、潰瘍性大腸炎、自己免疫性溶血性貧血、血小板減少性紫斑病、ギランバレー症候群、I型糖尿病、自己免疫性胃炎、および、天疱瘡からなる1以上の疾病から選択されることを特徴とする(1)に記載の組成物である。
(3)前記臓器特異的自己免疫疾患を原因とする症状が、
重症筋無力症では、全身の筋力低下、四肢筋力低下、易疲労性、眼瞼下垂、複視などの眼の症状、嚥下障害、呼吸困難、および、これらの症状に伴う生活の質(Quality of Life)の低下、ならびに、重症筋無力症治療薬の副作用、
橋本病では、疲労、冷え、身体のむくみ、体重増加、眠気、記憶力低下、息切れ、脈拍低下、筋力低下、動作緩慢、無排卵、無月経、便秘、甲状腺の腫れ、まぶたの腫れ、うつ状態、便秘、高コレステロール血症、および、これらの症状に伴う生活の質(Quality of Life)の低下、ならびに、橋本病治療薬の副作用、
バセドウ病では、疲労、大量発汗、ほてり、体重減少、不整脈、手の震戦、神経過敏、不安感、焦燥感、睡眠障害、閉弁解数増加、コリンエステラーゼの低下、希発月経、無月経、軟便、甲状腺の腫れ、眼球突出、および、これらの症状に伴う生活の質(Quality of Life)の低下、ならびに、バセドウ病治療薬の副作用、
潰瘍性大腸炎では、血便、粘血便、下痢、血性下痢、腹痛、発熱、食欲不振、体重減少、貧血、関節炎、虹彩炎、膵炎、結節性紅斑、壊疽性膿皮症、および、これらの症状に伴う生活の質(Quality of Life)の低下、ならびに、潰瘍性大腸炎治療薬の副作用、
自己免疫性溶血性貧血では、貧血によるだるさ、貧血による動悸、貧血による息切れ、貧血によるめまい、貧血による頭痛、黄疽、脾臓の腫れ、および、これらの症状に伴う生活の質(Quality of Life)の低下、ならびに、自己免疫性溶血性貧血治療薬の副作用、
血小板減少性紫斑病では、歯肉出血、鼻出血、皮下出血、性器出血、血便、および、これらの症状に伴う生活の質(Quality of Life)の低下、ならびに、血小板減少性紫斑病治療薬の副作用、
ギランバレー症候群では、筋力低下、異常感覚、感覚脱失、疼痛、運動失調、自律神経障害、および、これらの症状に伴う生活の質(Quality of Life)の低下、ならびに、ギランバレー症候群治療薬の副作用、
臓器特異的自己免疫疾患に関連とする症状としては、I型糖尿病では、のどの渇き、頻尿、急激な体重減少、疲労感、および、これらの症状に伴う生活の質(Quality of Life)の低下、ならびに、I型糖尿病治療薬の副作用、
自己免疫性胃炎では、胃の委縮、悪性貧血、指先のしびれ、歩行障害、および、これらの症状に伴う生活の質(Quality of Life)の低下、ならびに、自己免疫性胃炎治療薬の副作用、
天疱瘡では口腔粘膜のびらん、口腔粘膜の潰瘍、皮膚の落葉状天疱瘡、および、これらの症状に伴う生活の質(Quality of Life)の低下、ならびに、天疱瘡治療薬の副作用、
であることを特徴とする(1)または(2)に記載の組成物である。
(4)前記水素の濃度が、0より大きく18.5体積%以下である、(1)から(3)のいずれか1つに記載の組成物である。
(5)前記組成物が、吸入によって前記被験体に投与される、(1)から(4)のいずれか1つに記載の組成物である。
(6)前記被験体がヒトを含む哺乳類である、(1)から(5)のいずれか1つに記載の組成物である。
(7)前記(1)~(6)のいずれか1項に記載の組成物を作製する方法であって、前記組成物が水素ガス生成装置を用いて作製されることを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、水素ガスによって臓器特異的自己免疫疾患を予防および/または改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明をさらに詳細に説明する。
1.臓器特異的自己免疫疾患
本発明における臓器特異的自己免疫疾患には、重症筋無力症、橋本病、バセドウ病、潰瘍性大腸炎、自己免疫性溶血性貧血、血小板減少性紫斑病、ギランバレー症候群、I型糖尿病、自己免疫性胃炎、天疱瘡などが含まれる。
【0008】
2.水素ガス含有気体を含む臓器特異的自己免疫疾患を予防および/または改善するための組成物
本発明は、水素ガス含有気体を有効成分として含む、臓器特異的自己免疫疾患を原因とする症状を改善および/または症状の悪化を抑制するための組成物を提供する。
【0009】
臓器特異的自己免疫疾患に関連とする症状としては、重症筋無力症では、全身の筋力低下、四肢筋力低下、易疲労性、眼瞼下垂、複視などの眼の症状、嚥下障害、呼吸困難、および、これらの症状に伴う生活の質(Quality of Life)の低下、ならびに、重症筋無力症治療薬の副作用が挙げられる。
【0010】
近年、とりわけ高齢者の重症筋無筋力症発症が増加しており、高齢者は若年者と異なり、多くが胸腺腫無いので免疫力が弱いことからステロイド剤が治療に用いられる。しかしながら、高齢者にはステロイド剤による治療は負担が大きい。また、ステロイド剤の副作用として白内障や骨粗鬆症などがある。そこで免疫抑制剤を使用されるが、感染症やがんの危険が伴う。高齢者重症筋無筋力症の予後は、がんによる10年内死亡が多い。そこで、水素による重症筋無筋力症の薬によるがん発症の予防効果が期待される。
【0011】
臓器特異的自己免疫疾患に関連とする症状としては、橋本病では、疲労、冷え、身体のむくみ、体重増加、眠気、記憶力低下、息切れ、脈拍低下、筋力低下、動作緩慢、無排卵、無月経、便秘、甲状腺の腫れ、まぶたの腫れ、うつ状態、便秘、高コレステロール血症、および、これらの症状に伴う生活の質(Quality of Life)の低下、ならびに、橋本病治療薬の副作用が挙げられる。
【0012】
臓器特異的自己免疫疾患に関連とする症状としては、バセドウ病では、疲労、大量発汗、ほてり、体重減少、不整脈、手の震戦、神経過敏、不安感、焦燥感、睡眠障害、閉弁解数増加、コリンエステラーゼの低下、希発月経、無月経、軟便、甲状腺の腫れ、眼球突出、および、これらの症状に伴う生活の質(Quality of Life)の低下、ならびに、バセドウ病治療薬の副作用が挙げられる。
【0013】
臓器特異的自己免疫疾患に関連とする症状としては、潰瘍性大腸炎では、血便、粘血便、下痢、血性下痢、腹痛、発熱、食欲不振、体重減少、貧血、関節炎、虹彩炎、膵炎、結節性紅斑、壊疽性膿皮症、および、これらの症状に伴う生活の質(Quality of Life)の低下、ならびに、潰瘍性大腸炎治療薬の副作用が挙げられる。
【0014】
臓器特異的自己免疫疾患に関連とする症状としては、自己免疫性溶血性貧血では、貧血によるだるさ、貧血による動悸、貧血による息切れ、貧血によるめまい、貧血による頭痛、黄疽、脾臓の腫れ、および、これらの症状に伴う生活の質(Quality of Life)の低下、ならびに、自己免疫性溶血性貧血治療薬の副作用が挙げられる。
【0015】
臓器特異的自己免疫疾患に関連とする症状としては、血小板減少性紫斑病では、歯肉出血、鼻出血、皮下出血、性器出血、血便、および、これらの症状に伴う生活の質(Quality of Life)の低下、ならびに、血小板減少性紫斑病治療薬の副作用が挙げられる。
【0016】
臓器特異的自己免疫疾患に関連とする症状としては、ギランバレー症候群では、筋力低下、異常感覚、感覚脱失、疼痛、運動失調、自律神経障害、および、これらの症状に伴う生活の質(Quality of Life)の低下、ならびに、ギランバレー症候群治療薬の副作用が挙げられる。
【0017】
臓器特異的自己免疫疾患に関連とする症状としては、I型糖尿病では、のどの渇き、頻尿、急激な体重減少、疲労感、および、これらの症状に伴う生活の質(Quality of Life)の低下、ならびに、I型糖尿病治療薬の副作用が挙げられる。
【0018】
臓器特異的自己免疫疾患に関連とする症状としては、自己免疫性胃炎では、胃の委縮、悪性貧血、指先のしびれ、歩行障害、および、これらの症状に伴う生活の質(Quality of Life)の低下、ならびに、自己免疫性胃炎治療薬の副作用が挙げられる。
【0019】
臓器特異的自己免疫疾患に関連とする症状としては、天疱瘡では口腔粘膜のびらん、口腔粘膜の潰瘍、皮膚の落葉状天疱瘡、および、これらの症状に伴う生活の質(Quality of Life)の低下、ならびに、天疱瘡治療薬の副作用が挙げられる。
【0020】
本明細書中、本発明の組成物の有効成分である「水素」は分子状水素(すなわち、気体状水素)であり、特に断らない限り、単に「水素」又は「水素ガス」と称する。また、本明細書中で使用する用語「水素」は、分子式でH、D(重水素)、HD(重水素化水素)、又はそれらの混合ガスを指す。Dは、高価であるが、Hよりスーパーオキシド消去作用が強いことが知られている。本発明で使用可能な水素は、H、D(重水素)、HD(重水素化水素)、又はそれらの混合ガスであり、好ましくはHであり、或いはHに代えて、又はHと混合して、D及び/又はHDを使用してもよい。
【0021】
水素ガス含有気体は、好ましくは、水素ガスを含む空気又は、水素ガスと酸素ガスを含む混合ガスである。水素ガス含有気体の水素ガスの濃度は、ゼロ(0)より大きく、かつ18.5体積%以下であり、ゼロ(0)より大きく、かつ10.0体積%以下がより好ましい。本発明では、爆発限界以下で水素ガス濃度が高いほど臓器特異的自己免疫疾の症状の改善効果および/または症状の悪化を抑制する効果が大きい傾向がある。
水素は、可燃性かつ爆発性ガスであるため、臓器特異的自己免疫疾の症状の改善および/または症状の悪化の抑制においては、安全な条件で本発明の組成物に含有させて臓器特異的自己免疫疾患者に投与することが好ましい。
【0022】
水素ガス以外の気体が空気であるときには、空気の濃度は、例えば81.5~99.5体積%の範囲である。水素ガス以外の気体が酸素ガスを含む気体であるときには、酸素ガスの濃度は、例えば21~99.5体積%の範囲である。
その他の主気体として窒素ガスを含有させることができる。空気中に含有する気体である二酸化炭素などのガスを、空気中の存在量程度の量で含有させてもよい。
本発明では、必要に応じて、水素ガス含有気体の投与と併用して水素溶存液体を臓器特異的自己免疫疾患患者に投与する、もしくは摂取させることができる。
【0023】
水素溶存液体と併用投与する場合には、本発明の組成物は、水素溶存液体の投与の前に、水素溶存液体の投与と同時に、又は水素溶存液体の投与の後に投与されうる。
水素溶存液体は、具体的には、水素ガスを溶存させた水性液体であり、ここで、水性液体は、非限定的に、例えば水(例えば滅菌水、精製水)、生理食塩水、緩衝液(例えばpH4~7.4の緩衝液)、エタノール含有水(例えばエタノール含有量0.1~2体積%)、点滴液、輸液、注射溶液、飲料などである。水素溶存液体の水素濃度は、例えば1~10ppm、例えば2~8体積%、3~7体積%、3~6体積%、4~6体積%、4~5体積%、5~10体積%、5~8体積%、6~8体積%、6~7体積%など、より好ましくは5~8体積%、例えば6~8体積%、6~7体積%などである。本発明では、爆発限界以下で水素ガス濃度が高いほど臓器特異的自己免疫疾患の症状の改善および/または症状の悪化を抑制する効果が大きい傾向がある。
【0024】
水素溶存液体には、臓器特異的自己免疫疾患を治療するための医薬品を添加してもよい。或いは、当該医薬品は、水素溶存液体又は水素ガス含有気体の投与と別に投与してもよい。
水素ガス含有気体又は水素溶存液体は、所定の水素ガス濃度になるように配合されたのち、例えば耐圧性の容器(例えば、ステンレスボンベ、アルミ缶、好ましくは内側をアルミフィルムでラミネーションした、耐圧性プラスチックボトル(例えば耐圧性ペットボトル)及びプラスチックバッグ、アルミバッグ、等)に充填される。アルミは水素分子を透過させ難いという性質を有している。或いは、水素ガス含有気体又は水素溶存液体は、投与時に、水素ガス生成装置、水素水生成装置、又は水素ガス添加装置、例えば、公知のもしくは市販の水素ガス供給装置(水素ガス含有気体の生成用装置)、水素添加器具(水素水生成用装置)、非破壊的水素含有器(例えば点滴液などの生体適用液バッグ内部へ非破壊的に水素ガスを添加するための装置)などの装置を用いてその場で作製されてもよい。
【0025】
水素ガス供給装置は、水素発生剤(例えば金属アルミニウム、水素化マグネシウム、等)と水の反応により発生する水素ガスを、希釈用ガス(例えば空気、酸素、等)と所定の比率で混合することを可能にする(日本国特許第5228142号公報、等)。あるいは、水の電気分解を利用して発生した水素ガスを、酸素、空気などの希釈用ガスと混合する(日本国特許第5502973号公報、日本国特許第5900688号公報、等)。これによって0.5~18.5体積%の範囲内の水素濃度の水素ガス含有気体を調製することができる。
【0026】
水素添加器具は、水素発生剤とpH調整剤を用いて水素を発生し、水などの生体適用液に溶存させる装置である(日本国特許第4756102号公報、日本国特許第4652479号公報、日本国特許第4950352号公報、日本国特許第6159462号公報、日本国特許第6170605号公報、特開2017-104842号公報、日本国特許第6159462号公報、等)。水素発生剤とpH調整剤の組み合わせは、例えば、金属マグネシウムと強酸性イオン交換樹脂もしくは有機酸(例えばリンゴ酸、クエン酸、等)、金属アルミニウム末と水酸化カルシウム粉末、などである。これによって1~10ppm程度の溶存水素濃度の水素溶存液体を調製できる(例えば、商品名「セブンウォーター」(MiZ株式会社)、等)。
【0027】
非破壊的水素含有器は、点滴液などの市販の生体適用液(例えば、ポリエチレン製バッグなどの水素透過性プラスチックバッグに封入されている。)に水素分子をパッケージの外側から添加する装置又は器具であり、例えばMiZ株式会社から市販されている(http://www.e-miz.co.jp/technology.html)。この装置は、生体適用液を含むバッグを飽和水素水に浸漬することによってバッグ内に水素を透過し濃度平衡に達するまで無菌的に水素を生体適用液に溶解させることができる。当該装置は、例えば電解槽と水槽から構成され、水槽内の水が電解槽と水槽を循環し電解により水素を生成することができる。或いは、簡易型の使い捨て器具は同様の目的で使用することができる(特開2016-112562号公報、等)。この器具は、アルミバッグの中に生体適用液含有プラスチックバッグ(水素透過性バッグ、例えばポリエチレン製バッグ)と水素発生剤(例えば、金属カルシウム、金属マグネシウム/陽イオン交換樹脂、等)を内蔵しており、水素発生剤は例えば不織布(例えば水蒸気透過性不織布)に包まれている。不織布に包まれた水素発生剤を水蒸気などの少量の水で濡らすことによって発生した水素がプラスチックバッグを透過し生体適用液に非破壊的かつ無菌的に溶解される。
【0028】
上記の装置又は器具を用いて調製された、水素ガス含有気体や水素飽和生体適用液(例えば滅菌水、生理食塩水、点滴液、等)は、臓器特異的自己免疫疾患患者に経口的に又は非経口的に投与されうる。
本発明の組成物の別の形態には、臓器特異的自己免疫疾患患者に経口投与(もしくは摂取)するように調製された、消化管内で水素の発生を可能にする水素発生剤を含有する剤型(例えば、錠剤、カプセル剤、等)が含まれる。水素発生剤は、例えば食品もしくは食品添加物として承認されている成分によって構成されることが好ましい。
【0029】
3.臓器特異的自己免疫疾患の症状の改善および/または症状の悪化の抑制
本発明は、第2の態様により、臓器特異的自己免疫疾患患者に、本発明の組成物を投与することを含む、該患者において臓器特異的自己免疫疾患を原因とする症状に伴う活動レベルの低下を含む症状を改善および/または症状の悪化を抑制する方法を提供する。
【0030】
本発明の組成物は、患者のQOL(生活の質)の改善を可能にする。
本発明の組成物を臓器特異的自己免疫疾患の患者に投与する方法としては、水素ガスを有効成分とするとき、例えば吸入、吸引等による経肺投与が好ましい。ガスを吸入するときには、鼻カニューラや、口と鼻を覆うマスク型の器具を介して口又は鼻からガスを吸入して肺に送り、血液を介して全身に送達することができる。
【0031】
また、水素溶存液体を患者に投与とするときには、経口投与又は静脈内投与もしくは動脈内投与(点滴を含む)が好ましい。経口投与する水素溶存液体については、好ましくは低温下に保存し、冷却した液体、又は常温で保存した液体を臓器特異的自己免疫疾患の患者に投与してもよい。水素は常温常圧下で約1.6ppm(1.6mg/L)の濃度で水に溶解し、温度による溶解度差が比較的小さいことが知られている。或いは、水素溶存液体は、例えば上記の非破壊的水素含有器を用いて調製された水素ガスを含有させた点滴液又は注射液の形態であるときには、静脈内投与、動脈内投与などの非経口投与経路によって臓器特異的自己免疫疾患患者に投与してもよい。
上記水素濃度の水素ガス含有気体又は上記溶存水素濃度の水素溶存液体を1日あたり1回又は複数回(例えば2~3回)、1週間~3か月又はそれ以上の期間、例えば1週間~6か月又はそれ以上にわたり臓器特異的自己免疫疾患の患者体に投与することができる。水素ガス含有気体が投与されるときには、1回あたり例えば10分~2時間もしくはそれ以上、好ましくは20分~40分もしくはそれ以上、さらに好ましくは30分~2時間かけて投与することができる。また、水素ガス含有気体を吸入、吸引等によって経肺投与するときには、大気圧環境下で、或いは、例えば標準大気圧(約1.013気圧をいう。)を超える且つ7.0気圧以下の範囲内の高気圧、例えば1.02~7.0気圧、好ましくは1.02~5.0気圧、より好ましくは1.02~4.0気圧、さらに好ましくは1.02~1.35気圧の範囲内の高気圧環境下で臓器特異的自己免疫疾患患者に当該気体を投与することができる。高気圧環境下での投与によって臓器特異的自己免疫疾患患者での水素の体内吸収が促進されうる。
【0032】
上記高気圧環境は、内部に、例えば上記水素ガス含有気体(例えば、水素含有酸素又は空気)を圧入して標準大気圧を超える且つ7.0気圧以下の高気圧を内部に形成することが可能である、十分な強度をもつように設計された高気圧筐体(例えば、カプセル状筐体)の使用によって作ることができる。高気圧筐体の形状は、耐圧性であるため、全体的に角がない丸みを帯びていることが好ましい。また高気圧筐体の材質は、軽量、高強度であることが好ましく、例えば強化プラスチック、炭素繊維複合材、チタン合金、アルミ合金などを挙げることができる。臓器特異的自己免疫疾患患者は、上記高気圧筐体内で酸素ガスもしくは空気とともに水素ガスを含む、臓器特異的自己免疫疾患の症状を改善および/または症状の悪化を抑制するのための組成物の投与を受けることができる。
【0033】
本発明の組成物による臓器特異的自己免疫疾患の処置の際には、十分な治療効果と安全性が確認された水素ガス生成装置、水素水生成装置、又は水素ガス添加装置(例えば、上記の水素ガス供給装置(もしくは気体状水素吸入装置)、水素添加器具(もしくは水素水生成装置)、非破壊的水素含有器(水素透過性バッグに封入された点滴液などの生体適用液に非破壊的に水素ガスを溶解する装置)などの装置)を使用することが望ましい。
【実施例
【0034】
以下の実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
水素ガス吸入による重症筋無筋力症の症状の改善および/または症状の悪化の抑制
(水素ガス吸入前の経過)
患者:発症時64歳日本人女性。以下は発症からの経過である。
2021年8月22日:突然複視の症状が出現した。
2021年8月24日:眼瞼下垂の症状が出現した。
2021年8月26日:上唇まひが出現。順天堂大学附属病院 脳神経内科を受診。アイスパックテスト、テンシロンテストが陽性で重症筋無力症の診断を受けた。CT検査は異常なし。採血の結果、抗アセチルコリン抗体擬陽性。免疫抑制剤(タクロリムス3mg/日)の処方があり服用開始するも症状は進行した。新聞の文字を判読できず、フライパンを持ち上げることができず、文字は書けず、咀嚼力も低下。
2021年9月9日:症状の悪化のため受診。抗コリンエステラーゼ剤(メスチノン60mgx3/日)が処方される。症状はさらに悪化。午後3時以降になると、腕の重さが耐え難く、自分の腕を取り外すことはできないため、テーブルの上に腕を乗せて過ごす。
2021年9月25日:症状の改善は見られず悪化するのみであるため、主治医を神経免疫の専門医に変更。入院の検討も行った。
2021年9月29日:神経免疫専門医の処方により、免疫抑制剤を1mg増量した。免疫抑制剤(タクロリムス3mg/日、プログラフ1mg/日)が処方された。入院はせず、通院により経過観察を行った。後日、血液検査の結果、抗マスク抗体の陽性が判明した。これにより、抗Musk抗体陽性タイプの重症筋無力症と確定した。
2022年11月10日:患者はもともと酒が飲める体質であったが、薬の副作用のためか、ビールを少し飲んだだけで顔が真っ赤になった。
2022年1月5日:薬により症状の進行が止まったものの、筋力低下の症状はまったく改善することはなく残ったままであった。11月10日の血液検査の結果、服用薬の副作用により赤血球数、ヘマトクリットが基準値以下に低下していた。9月29日から11月10日における赤血球数、ヘマトクリットの変化は次のとおりである。赤血球数:4.64(1012/L)→3.75(1012/L)、ヘマトクリット:44.0(%)→35.3(%)。赤血球数、ヘマトクリットの正常値はそれぞれ、3.8~5.04(1012/L)、35.6~45.4(%)である。
【0035】
(水素ガス吸入後の経過)
2022年1月23日:重症筋無力症の薬の使用はガンや骨粗しょう症などの副作用を生じる危険性があるので、患者は症状の改善と減薬を試みるために水素ガスの吸入を開始した。使用した水素ガスの吸入機はMiZ株式会社(日本国神奈川県鎌倉市)の商品名Jobs-α(Jobsとして商標登録)で、Jobs-αの水素濃度は約4%~5%、100%水素発生量として水素量は200ml/minである。
2022年1月28日:吸入開始5日目で腕の気だるさがまったくなくなった。
2022年2月1日:免疫抑制剤の副作用であった便秘が解消して気分が良い。3月9日に通院予定であり、減薬をお願いしたいと思うようになった。水素の吸入後、酒を飲んでも顔が赤くなることがなくなった。患者は薬の副作用が抑制されてものであると確信した。
2022年2月16日:顔のシミが薄くなっていることに気が付いた。水素の吸入により明らかに体調が回復していることを感じた。
2022年3月9日:血液検査の結果、赤血球数、ヘマトクリットの値がそれぞれ、4.22(1012/L)、40.7(%)であった。水素の吸入による重症筋無力症の薬の副作用が軽減したので、免疫抑制剤の使用を様子をみながら思い切って中止した。
2022年3月20日:水素ガスの吸入で重症筋無力症の症状が見られなくなった。
2022年3月22日:水素ガスの吸入を行うと身体がより軽くなり散歩も楽しめるようになった。
2022年3月30日:通常、免疫抑制剤の使用を中止すると、再燃が高い確率で起こるけれども、水素ガスの吸入の効果が目根来抑制剤よりも大きいことを確信した患者は、免疫抑制剤の使用を中止し、水素ガスの吸入のみ継続した。
2022年6月30日:免疫抑制剤を中止してから再燃は起きておらず、医師も驚いている。患者は水素による重症筋無力症の予防と改善の効果を確信している。補助的に2~4日に1度、水素水の飲用を行う(MiZ株式会社製 セブンウォーター:水素濃度7ppm、500ml)。
2022年8月24日:順天堂大学附属病院 脳神経内科で検査を行った。抗マスク抗体は陰性のままで再燃も起きていない。
2022年10月19日:順天堂大学附属病院 脳神経内科の医師より、重症無筋力症は寛解ではなく治癒したと言われた。それ以来、通院の必要はなくなった。
【実施例2】
【0036】
水素ガス吸入による橋本病の症状の改善および/または症状の悪化の抑制
50歳日本人男性。医師にバセドウ病と診断され抗甲状腺剤を服用したところ、薬の副作用で甲状腺ホルモンの分泌が低下し橋本病に罹患した。橋本病の症状としては疲労と視野が暗くなる症状が現れた。MiZ株式会社(日本国神奈川県鎌倉市)の商品名MHG-2000α(水素濃度は約5%~7%、100%水素発生量として水素量は120ml/min)を用いて水素ガスの吸入を開始したところ、疲労感が軽減し、暗かった視野が回復して明るくなった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、臓器特異的自己免疫疾患に対し水素を投与するだけで臓器特異的自己免疫疾患の諸症状、および/または、これらの症状に伴う活動レベルの低下などの症状を改善および/または症状の悪化を抑制することを可能にする。水素自体に、副作用が知られていないため、患者のQOLを高めることができる。