(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】電動車両の下部車体構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20231016BHJP
B60K 1/04 20190101ALI20231016BHJP
【FI】
B62D25/20 G
B60K1/04 Z
(21)【出願番号】P 2019095912
(22)【出願日】2019-05-22
【審査請求日】2022-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089004
【氏名又は名称】岡村 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】山田 守英
(72)【発明者】
【氏名】松田 大和
(72)【発明者】
【氏名】中山 伸之
(72)【発明者】
【氏名】竹林 俊宏
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-149836(JP,A)
【文献】特開2010-153130(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107901992(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106314114(CN,A)
【文献】特開2018-193026(JP,A)
【文献】特開2008-174181(JP,A)
【文献】特開2014-124997(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0103714(US,A1)
【文献】特開2012-218538(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00- 25/08
B62D 25/14- 29/04
B60K 1/00- 6/12
B60K 7/00- 8/00
B60K 16/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前後方向に延びる左右1対のサイドシルと、これら1対のサイドシル間に掛け渡されたフロアパネルと、前記1対のサイドシル間で且つ前記フロアパネルの下側で車体前後方向に延びる左右1対のフロアフレームと、バッテリモジュールを支持するバッテリフレームを含むバッテリユニットとを備え、前記1対のフロアフレームの間に前記バッテリユニットが配設された電動車両の下部車体構造において、
前記バッテリフレームが、少なくとも、車幅方向に延びる前後1対の第1フレーム部材と、前記1対の第1フレーム部材を連結すると共に車体前後方向に延びる左右1対の第2フレーム部材とを有し、
前記サイドシルの車幅方向内側端部と第2フレーム部材の車幅方向外側端部とを連結するガセット部材を設け
、
前記バッテリフレームが、前記1対の第1フレーム部材の間において車幅方向に延びると共に前記1対の第2フレーム部材を連結する第3フレーム部材を有し、
前記ガセット部材が、前記第3フレーム部材の車幅方向外側端部に対応した車体前後方向位置を含む位置に配置され、
前記ガセット部材は
、車体前後方向に並ぶ複数の締結部において前記サイドシルに締結され、前記隣り合う締結部の間において外面側に突出した凸状ビード部が形成されたことを特徴とする電動車両の下部車体構造。
【請求項2】
車体前後方向に延びる左右1対のサイドシルと、これら1対のサイドシル間に掛け渡されたフロアパネルと、前記1対のサイドシル間で且つ前記フロアパネルの下側で車体前後方向に延びる左右1対のフロアフレームと、バッテリモジュールを支持するバッテリフレームを含むバッテリユニットとを備え、前記1対のフロアフレームの間に前記バッテリユニットが配設された電動車両の下部車体構造において、
前記バッテリフレームが、少なくとも、車幅方向に延びる前後1対の第1フレーム部材と、前記1対の第1フレーム部材を連結すると共に車体前後方向に延びる左右1対の第2フレーム部材とを有し、
前記サイドシルの車幅方向内側端部と第2フレーム部材の車幅方向外側端部とを連結するガセット部材を設け、
前記バッテリフレームが、前記1対の第1フレーム部材の間において車幅方向に延びると共に前記1対の第2フレーム部材を連結する第3フレーム部材を有し、
前記ガセット部材が、前記第3フレーム部材の車幅方向外側端部に対応した車体前後方向位置を含む位置に配置され、
前記フロアパネルの上面にフロアパネルと協働して車幅方向に延びる閉断面を形成すると共に前記1対のサイドシル間を連結する第1クロスメンバ部材と、
前記第1クロスメンバ部材の後方において前記フロアパネルの上面にフロアパネルと協働して車幅方向に延びる閉断面を形成すると共に前記1対のサイドシル間を連結する第2クロスメンバ部材とを有し、
前記ガセット部材は、前端部が前記第1クロスメンバ部材の車幅方向外側端部に対応した位置に配設されると共に、後端部が前記第2クロスメンバ部材の車幅方向外側端部に対応した位置に配設され、
前記1対のサイドシルは、車体前後方向に延びる閉断面を夫々構成すると共に前記ガセット部材の前後両端部の間の領域に対応した車体前後方向領域に前記閉断面を前後に仕切る節部材を夫々有することを特徴とする電動車両の下部車体構造。
【請求項3】
前記第3フレーム部材は、前記第1,第2クロスメンバ部材の間の車体前後方向位置に配設されたことを特徴とする
請求項2に記載の電動車両の下部車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1対のフロアフレームの間にバッテリユニットが配設された電動車両の下部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ハイブリッド車や電気自動車等の電気車両では、車輪を駆動する電動機(例えば、モータジェネレータ又はモータ)の動力源であるバッテリが大容量になるため、バッテリユニットを車体フロアの下方空間を利用して配置している。
通常、バッテリユニットは、リチウムイオン等のバッテリセルの集合体からなる複数のバッテリモジュールと、バッテリユニットの骨格を形成するバッテリフレームと、複数のバッテリモジュールを収容するアッパカバー及びロアカバーと、これらを車体に支持する支持部材等によって構成されている。
【0003】
特許文献1の自動車のフロア構造は、車体前後方向に延びる左右1対のサイドシルと、これら1対のサイドシル間に掛け渡されたフロアパネルと、1対のサイドシルの間で且つフロアパネルの下側において車体前後方向に延びる左右1対のフロアフレームと、これら1対のフロアフレームの間に配設されたバッテリユニットとを備え、フロアパネルの上側で1対のサイドシルの間を連結する上部クロスメンバと、フロアパネルの下側で上部クロスメンバの下方位置で1対のフロアフレームを連結すると共に上部クロスメンバと協働してバッテリユニットを挟み込む下部クロスメンバと、サイドシルとフロアフレームとの間に配設された断面略コ字状の第1アウトリガとを設けている。
【0004】
この第1アウトリガは、サイドシルの内側壁高さと一致すると共にフロアフレームの外側壁高さと一致するように形成されると共にサイドシルの内側壁とフロアフレームの外側壁とに接合され、側面衝突時、サイドシルに入力された衝撃エネルギによって圧潰可能なエネルギ吸収部材として機能している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の自動車のフロア構造は、側面衝突時、サイドシルとフロアフレームとの間に配設された第1アウトリガを積極的に塑性変形させることにより、1対のフロアフレームの間に配設されたバッテリユニットの安全性を確保している。
しかし、特許文献1の技術では、第1アウトリガの衝撃吸収(Energy Absorption:EA)性能以上の衝撃エネルギがサイドシルに入力した場合、第1アウトリガの許容量以上の衝撃エネルギによってフロアフレームの車幅内側方向への移動が懸念される。
【0007】
そして、第1アウトリガの変形により吸収できない衝撃エネルギがフロアフレームを車幅内側方向に移動させた場合、バッテリユニット(バッテリモジュール)とフロアフレームや他の車体部材との干渉を招き、バッテリユニットが損傷する虞がある。
即ち、側面衝突時の衝撃エネルギが大きい場合、バッテリユニットの安全性を確保することは容易ではない。
【0008】
本発明の目的は、衝撃エネルギの程度に拘らずバッテリユニットの安全性を確保可能な電動車両の下部車体構造等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の電動車両の下部車体構造は、車体前後方向に延びる左右1対のサイドシルと、これら1対のサイドシル間に掛け渡されたフロアパネルと、前記1対のサイドシル間で且つ前記フロアパネルの下側で車体前後方向に延びる左右1対のフロアフレームと、バッテリモジュールを支持するバッテリフレームを含むバッテリユニットとを備え、前記1対のフロアフレームの間に前記バッテリユニットが配設された電動車両の下部車体構造において、前記バッテリフレームが、少なくとも、車幅方向に延びる前後1対の第1フレーム部材と、前記1対の第1フレーム部材を連結すると共に車体前後方向に延びる左右1対の第2フレーム部材とを有し、前記サイドシルの車幅方向内側端部と第2フレーム部材の車幅方向外側端部とを連結するガセット部材を設け、前記バッテリフレームが、前記1対の第1フレーム部材の間において車幅方向に延びると共に前記1対の第2フレーム部材を連結する第3フレーム部材を有し、前記ガセット部材が、前記第3フレーム部材の車幅方向外側端部に対応した車体前後方向位置を含む位置に配置され、前記ガセット部材は、車体前後方向に並ぶ複数の締結部において前記サイドシルに締結され、前記隣り合う締結部の間において外面側に突出した凸状ビード部を有することを特徴としている。
【0010】
この電動車両の下部車体構造では、1対のフロアフレームの間に配設されたバッテリユニットのバッテリフレームが、少なくとも、車幅方向に延びる前後1対の第1フレーム部材と、前記1対の第1フレーム部材を連結すると共に車体前後方向に延びる左右1対の第2フレーム部材とを有するため、1対のフロアフレームの間にバッテリユニットを強固に配設することができる。前記サイドシルの車幅方向内側端部と第2フレーム部材の車幅方向外側端部とを連結するガセット部材を設けたため、ガセット部材のEA性能未満の衝撃エネルギが入力した場合、バッテリユニットに影響を与えることなくサイドシルとフロアフレームの間における塑性変形で衝撃エネルギを吸収することができる。また、サイドシルとバッテリフレームとがガセット部材を介して直接的に連結されているため、ガセット部材のEA性能以上の衝撃エネルギが入力した場合、ガセット部材によって吸収されない衝撃エネルギをバッテリフレームを介して分散することができ、フロアフレームの車幅内側方向への移動を抑制することによりバッテリユニットの損傷を回避することができる。
【0011】
【0012】
そして、前記バッテリフレームが、前記1対の第1フレーム部材の間において車幅方向に延びると共に前記1対の第2フレーム部材を連結する第3フレーム部材を有し、前記ガセット部材が、前記第3フレーム部材の車幅方向外側端部に対応した車体前後方向位置を含む位置に配置されているため、ガセット部材によって吸収されない衝撃エネルギの分散効率を増すことができる。
【0013】
更に、前記ガセット部材は、車体前後方向に並ぶ複数の締結部において前記サイドシルに締結され、前記隣り合う締結部の間において外面側に突出した凸状ビード部を有するため、ビード効果により、ガセット部材のEA性能を増加することができる。
【0014】
請求項2の電動車両の下部車体構造は、車体前後方向に延びる左右1対のサイドシルと、これら1対のサイドシル間に掛け渡されたフロアパネルと、前記1対のサイドシル間で且つ前記フロアパネルの下側で車体前後方向に延びる左右1対のフロアフレームと、バッテリモジュールを支持するバッテリフレームを含むバッテリユニットとを備え、前記1対のフロアフレームの間に前記バッテリユニットが配設された電動車両の下部車体構造において、前記バッテリフレームが、少なくとも、車幅方向に延びる前後1対の第1フレーム部材と、前記1対の第1フレーム部材を連結すると共に車体前後方向に延びる左右1対の第2フレーム部材とを有し、前記サイドシルの車幅方向内側端部と第2フレーム部材の車幅方向外側端部とを連結するガセット部材を設け、前記バッテリフレームが、前記1対の第1フレーム部材の間において車幅方向に延びると共に前記1対の第2フレーム部材を連結する第3フレーム部材を有し、前記ガセット部材が、前記第3フレーム部材の車幅方向外側端部に対応した車体前後方向位置を含む位置に配置され、前記フロアパネルの上面にフロアパネルと協働して車幅方向に延びる閉断面を形成すると共に前記1対のサイドシル間を連結する第1クロスメンバ部材と、前記第1クロスメンバ部材の後方において前記フロアパネルの上面にフロアパネルと協働して車幅方向に延びる閉断面を形成すると共に前記1対のサイドシル間を連結する第2クロスメンバ部材とを有し、前記ガセット部材は、前端部が前記第1クロスメンバ部材の車幅方向外側端部に対応した位置に配設されると共に、後端部が前記第2クロスメンバ部材の車幅方向外側端部に対応した位置に配設され、前記1対のサイドシルは、車体前後方向に延びる閉断面を夫々構成すると共に前記ガセット部材の前後両端部の間の領域に対応した車体前後方向領域に前記閉断面を前後に仕切る節部材を夫々有することを特徴としている。
この構成によれば、段落[0010]、段落[0012]と同様の作用、効果を奏する上、ガセット部材によって吸収されない衝撃エネルギを、バッテリフレームに加え、車体側の第1,第2クロスメンバ部材に分散することができる。
【0015】
そして、前記1対のサイドシルは、車体前後方向に延びる閉断面を夫々構成すると共に前記ガセット部材の前後両端部の間の領域に対応した車体前後方向領域に前記閉断面を前後に仕切る節部材を夫々有するため、側面衝突時、サイドシルに入力した衝撃エネルギをガセット部材と第1,第2クロスメンバ部材に確実に伝搬させることができる。
【0016】
請求項3の電動車両の下部車体構造は、請求項2の発明において、前記第3フレーム部材は、前記第1,第2クロスメンバ部材の間の車体前後方向位置に配設されたことを特徴としている。
この構成によれば、サイドシルに入力した衝撃エネルギを車幅方向に延びる複数のロードパスを用いて効率的に分散させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の電動車両の下部車体構造によれば、主に、サイドシルとバッテリフレームとを直接的に連結することにより、衝撃エネルギの程度に拘らずバッテリユニットの安全性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例1に係る電動車両の下部車体構造の平面図である。
【
図3】下部車体構造を前側下方から視た斜視図である。
【
図6】サイドシルからアウタパネルを省略した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【実施例1】
【0020】
以下、本発明の実施例1について
図1~
図8に基づいて説明する。
本実施例1に係る車両Vは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関(図示略)と車両駆動用の電動機(モータジェネレータ)(図示略)とを駆動源としたハイブリッド自動車である。
【0021】
図1~
図3に示すように、車両Vは、左右1対のサイドシル1と、フロアパネル2と、左右1対のフロアフレーム3と、第1,第2クロスメンバ4,5(第1,第2クロスメンバ部材)と、バッテリユニット6等を備えている。更に、この車両Vには、1対のサイドシル1とバッテリユニット6(バッテリフレーム30)とを直接的に連結するための左右1対のガセット7(ガセット部材)が設けられている。
以下、図において、矢印F方向を車体前後方向前方とし、矢印L方向を車幅方向左方とし、矢印U方向を車体上下方向上方として説明する。また、この車両Vは、左右対称の構造であるため、以下、特段の説明がない限り、主に右側部材及び右側部分について説明する。
【0022】
まず、1対のサイドシル1について説明する。
図4,
図5に示すように、右側のサイドシル1は、右側壁部を構成するアウタパネル11と、左側壁部を構成するインナパネル12とを備え、両パネル11,12が協働して前後に延びる略矩形状の閉断面を形成している。このサイドシル1の前端部分には、上下に延びるヒンジピラー8が連結され、後端部分には、上下に延びるリヤピラー9が連結されている(
図1,
図3,
図6参照)。尚、この車両Vは、フロントドアが前端部分に形成されたヒンジ中心に開閉され、リヤドアが後端部分に形成されたヒンジ中心に開閉される、所謂観音開きタイプのドア構造であり、センターピラーは省略されている。
【0023】
アウタパネル11は、車幅方向に直交する外側壁部11aと、この外側壁部11aの上端部から左方に延びる上壁部11bと、外側壁部11aの下端部から左方に延びる下壁部11cと、上壁部11bの左端部から上方に延びる上フランジ部と、下壁部11cの左端部から下方に延びる下フランジ部とを備え、断面略ハット状に構成されている。アウタパネル11には、アウタパネル11の右側に配置された外板部材13が設けられている。
【0024】
インナパネル12は、車幅方向に直交する内側壁部12aと、この内側壁部12aの上端部から右方に延びる上壁部12bと、内側壁部12aの下端部から右方に延びる下壁部12cと、上壁部12bの右端部から上方に延びる上フランジ部と、下壁部12cの右端部から下方に延びる下フランジ部とを備え、断面略ハット状に構成されている。インナパネル12の上下両フランジ部がアウタパネル11の上下両フランジ部にスポット溶接にて夫々接合されている。
【0025】
図4,
図6に示すように、インナパネル12には、インナパネル12の左側上部に配置された第1インナレイン14と、複数(例えば、3つ)の第2インナレイン15a~15cとが設けられている。
第1インナレイン14は、例えば、板厚2.0mmの超高張力鋼板により断面略L字状に構成され、インナパネル12の前端から中間部に亙って形成されている。
第2インナレイン15a~15cは、前後方向に直交するように夫々形成されている。
これらの第2インナレイン15a~15cは、内側壁部12aと上壁部12bと下壁部12cとに夫々接合され、サイドシル1の閉断面を前後に仕切る節部材を構成している。
【0026】
最も前側に位置する第2インナレイン15aは、第1クロスメンバ4の前端部(前壁部)に対応した前後方向位置に配置され、最も後側に位置する第2インナレイン15cは、第2クロスメンバ5の後端部(後壁部)に対応した前後方向位置に配置されている。第2インナレイン15a,15cの間に設置された第2インナレイン15bは、第2クロスメンバ5の前端部(前壁部)に対応した前後方向位置に配置されている。
【0027】
次に、フロアパネル2及び1対のフロアフレーム3について説明する。
フロアパネル2は、1対のサイドシル1の間に掛け渡されるように形成されている。
このフロアパネル2の左右両端部分は、1対のサイドシル1の内側壁部12aに夫々接合され、車両Vの車室床面を構成している。フロアパネル2の後端部には、後方上り傾斜状のキックアップ部を形成するリヤフロアパネルが連なっている。
【0028】
図2~
図5に示すように、1対のフロアフレーム3は、断面略ハット状に夫々形成されると共に、これら1対のフロアフレーム3の間隔が、後側程離隔している。それ故、サイドシル1と隣り合うフロアフレーム3との間隔は、後側程接近している。
フロアフレーム3は、フロアパネル2の下面と協働して前後に延びる断面矩形状の閉断面を形成している。
【0029】
次に、第1,第2クロスメンバ4,5について説明する。
図1,
図6に示すように、第1クロスメンバ4は、1対のサイドシル1の前側部分の間を連結すると共に、フロアパネル2の上面と協働して左右に延びる断面矩形状の閉断面を形成している。第1クロスメンバ4は、第1中間部4aと、この第1中間部4aの左右両端部から車幅方向外側に夫々延びる左右1対の第1側部4bとを備えている。
【0030】
第1中間部4aは、例えば、板厚1.8mmの超高張力鋼板により構成され、断面略ハット状に形成されている。この第1中間部4aの下端部に形成されたフランジ部は、フロアパネル2の上面に溶接にて接合されている。
1対の第1側部4bは、第1中間部4aよりも靭性が低い、例えば、板厚1.0mmの熱間圧延鋼板により構成され、断面略ハット状に夫々形成されている。これら第1側部4bの下端部に形成されたフランジ部は、フロアパネル2の上面に溶接にて接合され、車幅方向外側端部に形成されたフランジ部は、サイドシル1の内側壁部12aに溶接にて接合されている。
【0031】
図1,
図5,
図6に示すように、第2クロスメンバ5は、第1クロスメンバ4の後方にて1対のサイドシル1の中間部分を連結すると共に、フロアパネル2の上面と協働して左右に延びる断面矩形状の閉断面を形成している。第2クロスメンバ5は、第2中間部5aと、この第2中間部5aの左右両端部から車幅方向外側に夫々延びる左右1対の第2側部5bとを備えている。
【0032】
第2中間部5aは、例えば、板厚2.3mmの超高張力鋼板により構成され、断面略ハット状に形成されている。この第2中間部5aの下端部に形成されたフランジ部は、フロアパネル2の上面に溶接にて接合されている。
1対の第2側部5bは、第2中間部5aよりも靭性が低い、例えば、板厚2.3mmの熱間圧延鋼板により構成され、断面略ハット状に夫々形成されている。これら第2側部5bの下端部に形成されたフランジ部は、フロアパネル2の上面に溶接にて接合され、車幅方向外側端部に形成されたフランジ部は、サイドシル1の内側壁部12aに溶接にて接合されている。
【0033】
次に、バッテリユニット6について説明する。
バッテリユニット6は、複数のバッテリモジュール21を直列接続した高電圧バッテリを収容した状態でフロアパネル2の下方空間にレイアウトされている。それ故、バッテリユニット6は、耐振性及び耐水性を確保するように構成されている。
図5,
図7に示すように、車両駆動用電動機に電力を供給するバッテリモジュール21は、規格電圧を有する直方体形状の複数のバッテリセルを積層状に整列させた直方体形状のバッテリ集合体である。バッテリセルは、例えば、2次電池の一種であるリチウムイオンバッテリである。
【0034】
図2~
図7に示すように、バッテリユニット6は、金属製底板22と、合成樹脂製アッパカバー23と、複数のバッテリモジュール21を支持する略ロ字状のバッテリフレーム30とを主要な構成要素としている。バッテリフレーム30と金属製底板22とがバッテリユニット6のロアカバーに相当し、このロアカバーとアッパカバー23が協働して密封パック構造を形成している。
【0035】
バッテリフレーム30は、左右に延びる前後1対の第1フレーム部材31と、これら1対の第1フレーム部材31の左右両端部同士を夫々連結する左右1対の第2フレーム部材32と、これら1対の第2フレーム部材32の途中部を連結するように左右に延びる第3フレーム部材33と、この第3フレーム部材33の後方にて1対の第2フレーム部材32の途中部を連結するように左右に延びる第4フレーム部材34とを備えている。
これらフレーム部材31~34は、例えば、板厚2.0mmの超高張力鋼板により構成されている。
【0036】
1対の第2フレーム部材32は、1対のフロアフレーム3の鉛直下方において1対のフロアフレーム3に沿って後側程車幅方向外側に移行するように夫々配設されている。
図4,
図5に示すように、右側の第2フレーム部材32は、略L字状のロアパネル32aと、略W字状のアッパパネル32bとを有している。
ロアパネル32aとアッパパネル32bは、左方に向けて水平状に延びる左側(車幅方向内側)フランジ同士を接合すると共に上方に向けて鉛直状に延びる右側(車幅方向外側)フランジ同士を接合することにより前後に延びる略扁平形状の閉断面Cを構成している。閉断面Cは、上下寸法よりも左右寸法が大きい略扁平形状に形成され、閉断面Cの上端部とフロアフレーム3の下端部とは所定間隔離隔するように構成されている。
【0037】
図2~
図4,
図7に示すように、第2フレーム部材32は、4つのボルトb1を介してフロアフレーム3に対して締結固定されている。
前側に配置された3つのボルトb1は、第2フレーム部材32(閉断面C)を下側から挿通し、フロアフレーム3の閉断面内に固定されたナット部材n1に締結されている。
ロアパネル32aの下壁部に形成されたボルト穴の周辺部分には、部分的に上方に向けて凹入するボルトb1の着座面が形成されている。後端に配置されたボルトb1は、第2フレーム部材32の後側側壁部に接合されて上方に延びるブラケット24を下側から挿通し、フロアフレーム3の閉断面内に固定されたナット部材(図示略)に締結されている。
【0038】
1対の第1フレーム部材31は、第2フレーム部材32と基本的に同様に構成され、ロアパネルとアッパパネルとにより左右に延びる1対の閉断面を形成している。
前側第1フレーム部材31は、2つのボルトb2を介して車体前部に締結固定されている。これらのボルトb2は、前側第1フレーム部材31を下側から挿通し、車体前部に固定されたナット部材(図示略)に夫々締結されている。
【0039】
後側第1フレーム部材31は、左右2対のボルトb3を介して車体後部に締結固定されている。2対のボルトb3は、後側第1フレーム部材31の後壁部に接合されて上方に延びる左右1対のブラケット25を下側から夫々挿通し、キックアップ部の頂部に形成された左右に延びるクロスメンバ部材(図示略)の閉断面内に固定されたナット部材(図示略)に夫々締結されている。
【0040】
図4,
図5に示すように、金属製底板22は、その左右外縁部分が、1対の第2フレーム部材32(アッパパネル32b)の上壁部及び車幅方向内側フランジに夫々重なり合うように配設されている。また、金属製底板22の前側左右外縁部分は、前側第1フレーム部材31の上壁部及び後側フランジに重なり合い、後側前側左右外縁部分は、後側第1フレーム部材31の上壁部及び前側フランジに重なり合うように配設されている。
アッパカバー23は、その外縁部分が、金属製底板22の外縁部分に重なり合うように配設され、締結部材を用いて内部空間が密封されている。
【0041】
図2に示すように、第3フレーム部材33は、平面視にて第1クロスメンバ4と第2クロスメンバ5との間に配置されている。
この第3フレーム部材33は、下方に突出した断面略ハット状に形成され、金属製底板22の下面と協働して左右に延びる断面矩形状の閉断面を形成している。
図4に示すように、第3フレーム部材33の左右両端部分は、ロアパネル32aとアッパパネル32bの車幅方向内側フランジに夫々挟持され、前側から2番目のボルトb1が挿通されることにより固定されている。
【0042】
第4フレーム部材34は、底面視(下からの平面視)にて第2クロスメンバ5の後方に配置されている。この第4フレーム部材34は、下方に突出した断面略ハット状に形成され、金属製底板22の下面と協働して左右に延びる断面矩形状の閉断面を形成している。
第4フレーム部材34の左右両端部分は、第3フレーム部材33と同様に、ロアパネル32aとアッパパネル32bの車幅方向内側フランジに夫々挟持され、前側から3番目のボルトb1が挿通されることにより固定されている。
【0043】
次に、1対のガセット7について説明する。
1対のガセット7は、例えば、板厚2.0mmの高張力鋼板により夫々構成されている。
図2に示すように、1対のガセット7は、第3フレーム部材33の車幅方向外側端部に対応した前後方向位置を含む位置に夫々配置されている。
具体的には、ガセット7の前端部が、第1クロスメンバ4の前壁部の車幅方向外側端部近傍に対応した前後方向位置に配置され、後端部が、第2クロスメンバ5の後壁部の車幅方向外側端部近傍に対応した前後方向位置に配置されている。
ガセット7の前後両端の間の領域に対応した前後領域には、サイドシル1の閉断面を前後に仕切る第2インナレイン15a,15bが配設されている(
図6参照)。
【0044】
図2~
図5,
図8に示すように、右側のガセット7は、右側サイドシル1から右側第2フレーム部材32に亙って傾斜状に延びる本体部7aと、この本体部7aの右端(上端)から右方に延びるフランジ部7bと、本体部7aの左端(下端)から下方に延びるフランジ部7cを備えている。フランジ部7bには、前後に並ぶ4つのボルト穴が略等間隔に形成されている。
【0045】
図4,
図5に示すように、フランジ部7bの各ボルト穴に挿通されたボルトb4は、サイドシル1の左側(車幅方向内側)端部に相当するインナパネル12に固定される。
これらボルトb4は、サイドシル1の下端部に相当する下壁部12cに固着されたナット部材n4に締結されている。また、フランジ部7cは、第2フレーム部材32の右側(車幅方向外側)端部に相当するロアパネル32aの縦壁部に溶接にて接合されている。
【0046】
本体部7aは、右側に移行する程高さ位置が高くなるように水平に対して所定の交差角度を有するように配置されている。バッテリフレーム30に対する衝撃エネルギの分散効率上、交差角度は、45°以下に設定されている。
本体部7aには、複数(例えば、7つ)の凸状ビード部7dが形成されている。
図8に示すように、ビード部7dは、本体部7aとフランジ部7bとフランジ部7cに夫々連なり、本体部7aの基準面から右方(外面方向)に突出するように構成されている。
各ビード部7dは、フランジ部7bの隣り合うボルト穴、所謂隣り合う締結部の間に形成されている。
【0047】
以上の構成により、側面衝突時、ガセット7のEA(Energy Absorption)性能未満の比較的小さい衝撃エネルギがサイドシル1に入力した場合、第1クロスメンバ4の第1側部4b、第2クロスメンバ5の第2側部5b、及びガセット7を積極的に圧潰変形(塑性変形)させることにより、サイドシル1とフロアフレーム3との間の領域で衝撃エネルギを吸収し、1対のフロアフレーム3の間に配設されたバッテリユニット6への影響を回避している。
【0048】
一方、ガセット7のEA性能以上の大きい衝撃エネルギがサイドシル1に入力した場合、第1側部4b、第2側部5b、及びガセット7の圧潰変形で吸収できない衝撃エネルギは、第1,第2クロスメンバ4,5に分散して伝搬されると共に、ガセット7を介してバッテリフレーム30に伝搬され、フロアフレーム3に対して直接的に入力されない。
これにより、フロアフレーム3の車幅内側方向への移動を抑制し、1対のフロアフレーム3の間に配設されたバッテリユニット6の安全性を確保している。
【0049】
次に、上記下部車体構造の作用、効果について説明する。
実施例1に係る下部車体構造によれば、1対のフロアフレーム3の間に配設されたバッテリユニット6のバッテリフレーム30が、少なくとも、車幅方向に延びる前後1対の第1フレーム部材31と、1対の第1フレーム部材31を連結すると共に前後方向に延びる左右1対の第2フレーム部材32とを有するため、1対のフロアフレーム3の間にバッテリユニット6を強固に配設することができる。
サイドシル1の車幅方向内側端部に相当するインナパネル12と第2フレーム部材32の車幅方向外側端部に相当するロアパネル32aの縦壁部とを連結するガセット7を設けたため、ガセット7のEA性能未満の衝撃エネルギが入力した場合、バッテリユニット6に影響を与えることなくサイドシル1とフロアフレーム3の間における塑性変形で衝撃エネルギを吸収することができる。また、サイドシル1とバッテリフレーム30とがガセット7を介して他の部材を介することなく直接的に連結されているため、ガセット7のEA性能以上の衝撃エネルギが入力した場合、ガセット7によって吸収されない衝撃エネルギをバッテリフレーム30を介して分散することができ、フロアフレーム3の車幅内側方向への移動を抑制することによりバッテリユニット6の損傷を回避することができる。
【0050】
ガセット7が、サイドシル1の下端部に相当する下壁部12cに連結されたため、水平に対するガセット7の交差角度を小さくすることにより、ガセット7によって吸収されない衝撃エネルギを効率良くバッテリフレーム30に伝搬させることができる。
【0051】
バッテリフレーム30が、1対の第1フレーム部材31の間において左右に延びると共に1対の第2フレーム部材32を連結する第3フレーム部材33を有し、ガセット7が、第3フレーム部材33の車幅方向外側端部に対応した前後方向位置を含む位置に配置されているため、ガセット7によって吸収されない衝撃エネルギの分散効率を増すことができる。
【0052】
ガセット7は、前後方向に並ぶ複数の締結部においてボルトb4を介してサイドシル1に締結され、隣り合う締結部の間において外面側に突出した凸状ビード部7dが形成されたため、ビード効果により、ガセット7のEA性能を増加することができる。
【0053】
フロアパネル2の上面にフロアパネル2と協働して左右に延びる閉断面を形成すると共に1対のサイドシル1間を連結する第1クロスメンバ4と、第1クロスメンバ4の後方においてフロアパネル2の上面にフロアパネル2と協働して左右に延びる閉断面を形成すると共に1対のサイドシル1間を連結する第2クロスメンバ5とを有し、ガセット7は、前端部が第1クロスメンバ4の車幅方向外側端部に対応した位置に配設されると共に、後端部が第2クロスメンバ部材5の車幅方向外側端部に対応した位置に配設されている。
これにより、ガセット7によって吸収されない衝撃エネルギを、バッテリフレーム30に加え、車体側の第1,第2クロスメンバ4,5に分散することができる。
【0054】
1対のサイドシル1は、前後に延びる閉断面を夫々構成すると共にガセット7の前後両端部の間の領域に対応した前後方向領域に閉断面を前後に仕切る第2インナレイン15a,15bを夫々有するため、側面衝突時、サイドシル1に入力した衝撃エネルギをガセット7と第1,第2クロスメンバ4,5に確実に伝搬させることができる。
【0055】
第3フレーム部材33は、第1,第2クロスメンバ4,5の間の前後方向位置に配設されたため、サイドシル1に入力した衝撃エネルギを車幅方向に延びる複数のロードパスを用いて効率的に分散させることができる。
【0056】
次に、前記実施形態を部分的に変更した変形例について説明する。
1〕前記実施形態においては、バッテリユニット6を1対のフロアフレーム3の間に配置した例として、1対のフロアフレーム3の下方に1対の第2フレーム部材32を配置した例を説明したが、少なくとも、主要部であるバッテリモジュール21が平面視にて1対のフロアフレーム3の間に配置されれば良く、バッテリユニット6の大部分が1対のフロアフレーム3の間に配置された構造を含むものである。
【0057】
2〕前記実施形態においては、ガセット7がサイドシル1の下壁部12cとバッテリフレーム30のロアパネル32aとを直接的に連結した例を説明したが、少なくとも、ガセット7に入力された衝撃エネルギの大部分が第2フレーム部材32に伝搬されれば良い。
例えば、ガセット7を起点としたロードパスのうち第2フレーム部材32に向かうロードパスを伝搬する衝撃エネルギが他のロードパスを伝搬する衝撃エネルギよりも大きい場合、ガセット7が部分的にフロアパネル2やフロアフレーム3に接続される構造であっても良い。
【0058】
3〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施形態に種々の変更を付加した形態や各実施形態を組み合わせた形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【符号の説明】
【0059】
1 サイドシル
2 フロアパネル
3 フロアフレーム
4 第1クロスメンバ
5 第2クロスメンバ
6 バッテリユニット
7 ガセット
7d ビード部
15a,15b 第2インナレイン
21 バッテリモジュール
30 バッテリフレーム
31 第1フレーム部材
32 第2フレーム部材
V 車両