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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】水洗大便器装置
(51)【国際特許分類】
   E03D 5/01 20060101AFI20231016BHJP
【FI】
E03D5/01
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019157604
(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公開番号】P2021036099
(43)【公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100170634
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 航介
(72)【発明者】
【氏名】桃枝 理彰
(72)【発明者】
【氏名】頭島 周
【審査官】神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-132167(JP,A)
【文献】特開2017-066725(JP,A)
【文献】特開2018-100574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03D 5/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄水によって洗浄できる水洗大便器装置であって、
便器本体と、
前記便器本体を洗浄する洗浄水を貯水する洗浄水タンクと、
前記洗浄水タンク内の洗浄水を前記便器本体に供給するポンプ装置と、
前記ポンプ装置を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記ポンプ装置を所定の回転数で駆動し、前記便器本体に供給される洗浄水の流量を推定し、前記推定された洗浄水の流量に基づいて、予定された予定流量を供給するような前記ポンプ装置の調整回転数を推定する流量推定モードと、
前記流量推定モードで推定された前記調整回転数で前記ポンプ装置を駆動して、前記洗浄水を前記便器本体に供給する便器洗浄モードと、を実行可能である、ことを特徴とする水洗大便器装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記流量推定モードにおいて、
前記ポンプ装置を前記所定の回転数で駆動させ、前記洗浄水タンク内の水位が、所定の水位から、前記ポンプ装置に空気が入り込むような水位まで下降するまでの駆動時間を取得する駆動時間取得ステップと、
前記駆動時間と、前記洗浄水タンク内の前記所定の水位から、前記ポンプ装置に空気が入り込むような水位までの部分の容積とに基づき、前記ポンプ装置により前記便器本体に供給される洗浄水の流量を推定する流量推定ステップと、を少なくとも実行する、請求項1に記載の水洗大便器装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記ポンプ装置の電流値を検出可能であり、
前記駆動時間取得ステップにおいて、前記制御装置は、前記ポンプ装置の電流値に基づいて、前記洗浄水タンク内の水位が前記ポンプ装置に空気が入り込むような水位まで下降したことを検知する、請求項2に記載の水洗大便器装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記駆動時間取得ステップを複数回実行する、請求項2又は3に記載の水洗大便器装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記流量推定モード及び/又は前記便器洗浄モードの実行を報知装置により使用者に報知する、請求項1~4の何れか1項に記載の水洗大便器装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水栓大便器装置に関し、特に、洗浄水によって洗浄できる水洗大便器装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、特許文献1に記載されているように、貯水タンクに設けられたフロートスイッチによりタンク内の水位を検知し、フロートスイッチにより検知された水位に基づいて、貯水タンクから便器本体に吐水する洗浄水を加圧するためのポンプの駆動を制御する水洗大便器装置が知られている。
【0003】
この特許文献1に記載されている水洗大便器装置では、貯水タンク内に上方フロートスイッチと下方フロートスイッチとが設けられている。そして、大洗浄の洗浄動作時には下方フロートスイッチにより水位低下が検知されると加圧ポンプを停止し、小洗浄の洗浄動作時には上方フロートスイッチが水位低下を検知した後、タイマー制御により所定時間経過すると加圧ポンプの駆動を停止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-100574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1に記載された水洗大便器装置では、タイマー制御を行っているため、便器に製造誤差があると、洗浄水タンクから便器の流路の圧力損失が変わり、便器へ供給される洗浄水量にばらつきが生じてしまう。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、所定の洗浄水量を便器に供給することができる水洗大便器装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の水洗大便器装置は、洗浄水によって洗浄できる水洗大便器装置であって、便器本体と、便器本体を洗浄する洗浄水を貯水する洗浄水タンクと、洗浄水タンク内の洗浄水を便器本体に供給するポンプ装置と、ポンプ装置を制御する制御装置と、を備え、制御装置は、ポンプ装置を所定の回転数で駆動し、便器本体に供給される洗浄水の流量を推定し、推定された洗浄水の流量に基づいて、予定された予定流量を供給するようなポンプ装置の調整回転数を推定する流量推定モードと、流量推定モードで推定された調整回転数でポンプ装置を駆動して、洗浄水を便器本体に供給する便器洗浄モードと、を実行可能である、ことを特徴とする。
【0008】
上記構成の本発明によれば、流量推定モードにおいて予定された予定流量を供給するようなポンプ装置の調整回転数を推定し、便器洗浄モードでは調整回転数でポンプ装置を駆動するため、製造誤差等により流路の圧力損失が便器ごと異なっても、所定の洗浄水量を便器に供給することができる。
【0009】
上記構成の本発明において、好ましくは、制御装置は、流量推定モードにおいて、ポンプ装置を所定の回転数で駆動させ、洗浄水タンク内の水位が、所定の水位から、ポンプ装置に空気が入り込むような水位まで下降するまでの駆動時間を取得する駆動時間取得ステップと、駆動時間と、洗浄水タンク内の所定の水位から、ポンプ装置に空気が入り込むような水位までの部分の容積とに基づき、ポンプ装置により便器本体に供給される洗浄水の流量を推定する流量推定ステップと、を少なくとも実行する。
【0010】
上記構成の本発明によれば、ポンプ装置に空気が入り込むような水位まで下降するまでの駆動時間に基づき洗浄水の流量を推定しているため、下方水位を検出するためのフロートスイッチを設けることなく、洗浄水の流量を推定することができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、制御装置は、ポンプ装置の電流値を検出可能であり、駆動時間取得ステップにおいて、制御装置は、ポンプ装置の電流値に基づいて、洗浄水タンク内の水位がポンプ装置に空気が入り込むような水位まで下降したことを検知する。
【0012】
上記構成の本発明によれば、ポンプ装置に空気が入り込むとポンプ装置の電流値が変化するため、容易にかつ正確に洗浄水タンク内の水位がポンプ装置に空気が入り込むような水位まで下降したことを検知することができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、制御装置は、駆動時間取得ステップを複数回実行する。
【0014】
上記構成の本発明によれば、より正確な駆動時間を推定することができ、より正確に所定の洗浄水量を便器に供給することができる。
【0015】
本発明において、好ましくは、制御装置は、流量推定モード及び/又は便器洗浄モードの実行を報知装置により使用者に報知する。
【0016】
上記構成の本発明によれば、使用者が流量推定モードと便器洗浄モードの何れが実施されているのか認定することができ、流量推定モードを途中で中断してしまうようなことや、予期せず流量推定モードを実施してしまうことを防止できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、所定の洗浄水量を便器に供給することができる水洗大便器装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態による水洗大便器装置を示す全体構成図である。
図2図1の洗浄水タンクの上面図である。
図3図2のIII-III線に沿って見た断面図である。
図4】ポンプ装置の回転数ごとの性能曲線と、ポンプ装置からジェット吐水口までの想定さえる通水路の圧力損失を示す抵抗曲線を示すグラフである。
図5A】流量推定モードにおけるポンプ装置の駆動からの経過時間と、回転数(電流値)との関係を示すグラフであり、圧力損失が小さい(Cv1)場合を示す。
図5B】流量推定モードにおけるポンプ装置の駆動からの経過時間と、回転数(電流値)との関係を示すグラフであり、圧力損失が大きい(Cv2)場合を示す。
図6】ポンプ装置の駆動時間と、流量との関係を示すグラフである。
図7A】推定した流量に基づき、流通路を流れる洗浄水の流量が、所定の流量Q(L/min)になるようなポンプ装置の回転数を推定する方法を説明するためのグラフであり、推定した流量がQ1である場合を示す。
図7B】推定した流量に基づき、流通路を流れる洗浄水の流量が、所定の流量Q(L/min)になるようなポンプ装置の回転数を推定する方法を説明するためのグラフであり、推定した流量がQ2である場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態による水洗大便器装置について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明で使用する流量との用語は、所定の時間当たりに流れる水量をいう。
図1は、本発明の一実施形態による水洗大便器装置を示す全体構成図である。図1に示すように、本発明の一実施形態による水洗大便器装置1は、洗浄水により汚物を排出し、便器を洗浄する水洗大便器装置である。水洗大便器装置1は、便器本体2と、便器本体2の後方に配置された給水装置4と、便器本体2の後方に配置された洗浄水タンク6とを備えている。
【0020】
便器本体2は陶器製であり、便器本体2には、汚物を受けるボウル部12と、このボウル部12の底部から延びる排水トラップ管路14と、ジェット吐水を行うジェット吐水口16と、リム吐水を行うリム吐水口18とが形成されている。ジェット吐水口16は、ボウル部12の底部に、排水トラップ管路14の入口に水平に対向するように形成され、洗浄水を排水トラップ管路14に向けて吐出する。リム吐水口18は、ボウル部12の左側上部後方に形成されており、ボウル部12の上縁に沿って洗浄水を吐出する。
【0021】
排水トラップ管路14は、入口部14aと、入口部14aから上昇するトラップ上昇管14bと、トラップ上昇管14bから下降するトラップ下降管14cとからなり、トラップ上昇管14bとトラップ下降管14cとの間に頂部14dが形成されている。排水トラップ管路14のトラップ下降管14cの下端には、排水管8が接続されている。
【0022】
本実施形態による水洗大便器装置1は、洗浄水を供給する水道に直結されており、水道の給水圧力によりリム吐水口18から洗浄水が吐出される。また、水道から供給された洗浄水は洗浄水タンク20に貯水され、洗浄水タンク6の洗浄水タンク20に貯水された洗浄水をポンプ装置22によって送出して、大流量でジェット吐水口16から吐出させるようになっている。
【0023】
次に、水洗大便器装置1の給水装置4を説明する。
給水装置4は、洗浄水タンク6の洗浄水タンク20内に洗浄水を供給するとともに、リム吐水口18に洗浄水を供給するためのものである。給水装置4には、水道から洗浄水が供給される給水路24に設けられた電磁開閉弁34及び給水路切替弁36を有する。給水路切替弁36の下流側には、リム吐水口18に洗浄水を供給するためのリム側給水路38と、洗浄水タンク20に洗浄水を供給するためのタンク側給水路40とが接続されている。
【0024】
電磁開閉弁34を開閉することにより、給水路24から下流側への洗浄水の通過を切り替えることができる。また、給水路24を開放した状態で、給水路切替弁36を操作することにより、給水路24から供給された洗浄水をリム側給水路38を通じてリム吐水口18へ供給する状態と、タンク側給水路40を通じて洗浄水タンク20に供給する状態とを切り替えることができる。
【0025】
このように、水洗大便器装置1は、リム吐水に関しては水道の水圧(直圧)を利用して給水して便器を洗浄し、さらに、ジェット吐水に関しては洗浄水タンク20に貯水された洗浄水をポンプ装置22によって加圧してジェット吐水口16から吐出させるハイブリッド式(水道直圧式+タンク給水式)の給水装置を有するハイブリッド式水洗大便器装置である。
【0026】
次に、図1乃至図3を参照して、洗浄水タンク6を詳細に説明する。
図2は、図1の洗浄水タンクの上面図であり、図3は、図2のIII-III線に沿って見た断面図である。
【0027】
洗浄水タンク6は、便器本体2を洗浄する洗浄水を貯水する洗浄水タンク20と、洗浄水タンク20内に設けられた通水管45の取水口部45aから取り入れた洗浄水を便器本体2に供給するポンプ装置22と、洗浄水タンク20内に設けられたフロートスイッチ52と、使用者の操作を受ける操作部55と、ポンプ装置22の電流値を検出できると共にポンプ装置22を制御する制御装置54と、フロートスイッチ52の故障を報知する報知装置56を備えている。
【0028】
制御装置54は、例えば、CPUとメモリーと電流計とを備え、CPUがメモリーに記憶されたプログラムを実行することにより実現される。操作部55は、例えば、タッチパネル式やボタン式のリモコンスイッチなどのインターフェースにより構成される。また、報知装置56は、例えば、LEDライト、液晶ディスプレイやスピーカなどにより構成される。
【0029】
洗浄水タンク20は、少なくともその下部が便器本体2の後方上部に取付けられている。洗浄水タンク20は、便器本体2に取付けられた状態で、自身の高さが比較的低く形成されているいわゆるローシルエットタンクである。
【0030】
ポンプ装置22は、洗浄水タンク20内の洗浄水を便器本体2に供給するポンプである。洗浄水タンク20には側部から中に入り、その下部まで延びる通水管45が設けられており、ポンプ装置22の吸引側は通水管45に接続される。また、ポンプ装置22の吐出側は、ジェット吐水口16まで延びるジェット側給水路46に接続される。ポンプ装置22は、洗浄水タンク20に貯水された洗浄水を吸引すると共に加圧してジェット吐水口16まで供給する。通水管45は、本実施形態のように、洗浄水タンク20内を通るように設けられる構成に限られず、洗浄水タンク20の外部から洗浄水タンク20の下部に設けられる取水口部45aに接続する構成としてもよい。
【0031】
フロートスイッチ52は、洗浄水タンクの上部において満水水位の基準となる上部規定水位を検知する。フロートスイッチ52は、洗浄水タンク20内の水位が上昇して上部規定水位に到達したときに、上部規定水位に到達したことを示す検知信号を発信する。制御装置54はこの検知信号を受信すると洗浄水タンクがほぼ満水状態となったと判断できる。上部規定水位は、満水水位であり、通常の洗浄用に規定されている洗浄水タンク20の止水水位である。満水状態には、満水水位のみならず満水水位の近傍の水位も含まれる。
【0032】
図3に示すように、フロートスイッチ52は、棒状の軸部を形成するステム(軸部)64と、洗浄水タンク20内の水位の変動に応じて、水位に応じた浮力を受けながらステム64に沿って上下動するフロート部62と、を備えている。ステム64は、洗浄水タンク20の上部に取付けられた取付部から垂下するように鉛直方向下方に延びている。ステム64は、ステム64内部にリードスイッチ(図示せず)を備える。フロートスイッチ52のリードスイッチは、制御装置54と電気的に接続されている。水位に応じてフロート部62が上下し、フロート部62の位置に応じてリードスイッチすなわちフロートスイッチ52のON状態(オン状態)とOFF状態(オフ状態)とで切り替わる。フロートスイッチ52は、洗浄水タンク20内の水位が満水水位である止水水位WL0(待機水位)であるときはON状態であり、水位が下降しながら、上部規定水位WL1よりも下がるときにOFF状態となる。また、水位が上部規定水位WL1よりも低い水位であるときは、フロートスイッチ52は、OFF状態であり、水位が再び上昇して上部規定水位WL1に到達するとON状態となる。よって、フロートスイッチ52は、洗浄水タンク20内の水位が上部規定水位WL1に到達したときに上部規定水位WL1に到達したことを示す検知信号を発信する。
【0033】
制御装置54は、給水路切替弁36、ポンプ装置22、フロートスイッチ52、操作部55、及び、報知装置56等と電気的に接続され、電気信号を相互に送受信することができ、各機能部を電気的に操作できるようになっている。例えば、制御装置54は、給水路切替弁36の切替操作、及び、ポンプ装置22の回転数や作動時間等、報知装置56の報知状態等を制御する機能を有する。また、制御装置54は、ポンプ装置22の電流値(A)又は回転数(rpm)等の情報を取得する。制御装置54は、操作部55からの操作信号を受けて又は記憶されたプログラム等に従って各機器の制御を行う。制御装置54は、各機器の制御により例えば流量推定モード及び便器洗浄モードを実行する機能を有する。
【0034】
流量推定モードは、制御装置54がポンプ装置22の電流値を監視しながらポンプ装置22を所定の回転数Rで駆動し、ポンプ装置22の電流値に基づき、便器本体に供給される洗浄水の流量(L/min)を推定するモードである。便器洗浄モードは、便器本体2に洗浄水を供給するモードである。便器洗浄モードでは、制御装置54は、流量推定モードにおいて推定された洗浄水の流量(L/min)に基づいて、予定された予定流量(L/min)を供給するように調整された回転数Rでポンプ装置22を駆動する。
【0035】
以下、流量推定モードについて詳細に説明する。流量推定モードは、例えば、水洗大便器装置1の施工後の使用開始に伴う初期調整において実行される。
まず、図4は、ポンプ装置の回転数ごとの性能曲線と、ポンプ装置からジェット吐水口までの想定さえる通水路の圧力損失を示す抵抗曲線を示すグラフである。図4には、ポンプ回転数がR及びR’(>R)である場合の流量(L/min)と揚程(m)の関係を実線で示し、通水路の圧力損失が小さいCv1及び圧力損失が大きいCv2(>Cv2)の場合の流量(L/min)と揚程(m)の関係を一点鎖線で示している。回転数R及びR’におけるポンプ性能を示す性能曲線と、通水路の圧力損失Cv1、Cv2を示す抵抗曲線との交点に当たる点の流量が実際の流量となる。すなわち、例えば、ポンプの回転数がRであり、通水路の圧力損失がCv1である場合には、流量はQ1(L/min)となり、ポンプの回転数がRであり、通水路の圧力損失がCv2である場合には、流量はQ2(L/min)となる。また、ポンプの回転数がR´であり、通水路の圧力損失がCv1である場合には、流量はQ1´(L/min)となり、ポンプの回転数がR´であり、通水路の圧力損失がCv2である場合には、流量はQ2´(L/min)となる。制御装置54には、このようなポンプ装置の性能を示す性能曲線を示すデータが回転数ごとに記憶されている。また、制御装置54には、圧力損失を示す抵抗曲線を示すデータが圧力損失ごとに記憶されている。
【0036】
常時は、洗浄水タンク20内には止水水位WL0まで洗浄水が貯水されている。制御装置54の操作部55に流量推定モードを実行する旨の操作指令を受けると、制御装置54はポンプ装置22の駆動を開始させる。制御装置54は、ポンプ装置22が予め設定された所定の回転数Rで回転させる。また、制御装置54は、ポンプ装置22を駆動するとともにポンプ装置22に印加される電流値を測定する。ポンプ装置22が駆動されると、洗浄水タンク20内の洗浄水が通水管45から吸引されて便器本体2に供給される。このため、洗浄水タンク20内の水位が止水水位WL0(待機水位)から下降を開始する。なお、この際、電磁開閉弁34を開放するとともに給水路切替弁36を給水路24がリム吐水口18に連通する状態として、リム吐水を行ってもよいし、リム吐水は行わなくてもよい。ただし、洗浄水タンク6へは給水を行わない状態とする。
【0037】
図5A及び図5Bは、流量推定モードにおけるポンプ装置の駆動からの経過時間と、回転数(電流値)との関係を示すグラフであり、図5Aは圧力損失が小さい(Cv1)場合を示し、図5Bは圧力損失が大きい(Cv2)場合を示す。図5A及び図5Bに示すように、t0においてポンプ装置を駆動すると、洗浄水タンク20内に洗浄水が残っている場合には所定の回転数でポンプ装置22が駆動され、ポンプ装置22に印加される電流は所定の値Iとなる。そして、ポンプ装置22の駆動を継続すると、洗浄水タンク20内の水位が通水管45の取水口部45aの高さの水位WL2まで到達する。洗浄水タンク20内の水位がWL2まで到達すると、ポンプ装置22は洗浄水タンク20内の水を吸引することができなくなるため、ポンプ装置22内に空気が入り込み、空回り状態となる。このようにポンプ装置22が空回り状態となる、ポンプ装置22の回転数が上昇し、制御装置54により測定される電流値がI´(I´>I)となる。なお、図5A及び図5Bに示すように、通水路の圧力損失が小さい(Cv1)場合には、駆動時間t1においてポンプ装置22が空回りして電流値が増加するのに対して、通水路の圧力損失が大きい(Cv2)場合には、駆動時間t2(>t1)においてポンプ装置22が空回りして電流値が増加する。
【0038】
このように、制御装置54は、ポンプ装置22を所定の回転数で回転させ始めてから、ポンプ装置22の電流値が増加するまでの駆動時間t1、t2を取得する(駆動時間取得ステップ)。そして、制御装置54は、ポンプ装置22の回転数が上昇すると、制御装置54はポンプ装置22の駆動を停止する。なお、本実施形態では、ポンプ装置22の回転開始から、電流値が増加するまでの時間を駆動時間としているが、本発明はこれに限られず、フロートスイッチ52がONからOFF状態に変わった時間から、電流値が増加するまでの時間を駆動時間としてもよい。
【0039】
次に、制御装置54は、このようにして特定した電流値が増加するまでの時間t1、t2に基づき、ポンプ装置22により洗浄水タンク20から便器本体2に供給される洗浄水の流量(L/min)を推定する(流量推定ステップ)。図6は、ポンプ装置の駆動時間と、流量との関係を示すグラフである。洗浄水タンク20内の止水水位WL0からポンプ装置22が空回りする水位WL2までのタンク容積は予め設計情報に基づき算出することができる。このため、ポンプ装置22の駆動時間t1、t2に対応する、流量Q1、Q2(L/min)を算出することができる。なお、駆動時間の始点をフロートスイッチ52がONからOFF状態に変わった場合には、タンク容量としては上部規定水位WL1からポンプ装置22が空回りするまでの時間とすればよい。
【0040】
なお、本実施形態では、駆動時間取得ステップ及び流量推定ステップを一度行うこととしているが、駆動時間取得ステップ及び流量推定ステップを複数回行ってもよい。複数回、駆動時間取得ステップ及び流量推定ステップを実施する場合には、流量としては平均値を用いればよい。また、必ずしも駆動時間取得ステップ及び流量推定ステップの両方を複数回行う必要はなく、駆動時間取得ステップのみを複数回おこなってもよい。
【0041】
次に、このように推定した流量Q1、Q2に基づき、流通路を流れる洗浄水の流量が、所定の流量Q(L/min)になるようなポンプ装置22の回転数を推定する(回転数推定ステップ)。図7A及び図7Bは、推定した流量に基づき、流通路を流れる洗浄水の流量が、所定の流量Q(L/min)になるようなポンプ装置の回転数を推定する方法を説明するためのグラフである。なお、図7Aは、推定した流量がQ1である場合を示し、図7Bは推定した流量がQ2である場合を示す。
【0042】
制御装置54には、ポンプ回転数がRである場合の流量と揚程との関係を示すポンプ性能を示す性能曲線が記憶されている。上記の流量推定ステップにおいて推定した流量Q1である場合には、図7Aに示すように、流量Q1において、ポンプ回転数がRである場合の流量と揚程との関係を示す性能曲線と、圧力損失の流量と揚程との関係を示す抵抗曲線と交差することになる。このため、流通路の圧力損失がCv1であると推定することができる。そして、図7Aに示す場合において、推定された流量Q1は目的とする予定水量Qよりも大きい。このため、図7Aに示すように、流量Qにおいて圧力損失Cv1を示す抵抗曲線と交差するような、ポンプの回転数に対応する流量と揚程の関係を示す性能曲線を求める。そして、この性能曲線に対応するポンプの回転数R1を調整回転数として記憶する。
【0043】
上記の流量推定ステップにおいて推定した流量Q2である場合には、図7Bに示すように、流量Q2において、ポンプ回転数がRである場合の流量と揚程との関係を示す性能曲線と、圧力損失の流量と揚程との関係を示す抵抗曲線と交差することになる。このため、流通路の圧力損失がCv2であると推定することができる。そして、図7Bに示す場合において、推定された流量Q2は目的とする予定水量Qよりも小さい。このため、図7Bに示すように、流量Qにおいて圧力損失Cv2を示す抵抗曲線と交差するような、ポンプの回転数に対応する流量と揚程の関係を示す性能曲線を求める。そして、この性能曲線に対応するポンプの回転数R2を調整回転数として記憶する。
【0044】
以上のようにして、流量推定モードによりポンプの回転数を推定する。なお、制御装置54は、上記の流量推定モードを行っている間には、報知装置56により流量推定モードを実行している旨の表示を行う。
【0045】
次に、便器洗浄モードについて説明する。便器洗浄モードは、通常の大洗浄又は小洗浄を行うモードである。制御装置54は便器洗浄モードに設定された状態で、使用者による操作部55への大洗浄又は小洗浄の入力を受け付けると、制御装置54は、上記の予定水量Qとなるような調整回転数でポンプ装置22を駆動する。そして、制御装置54は大洗浄又は小洗浄に対して予め設定された時間だけ、ポンプ装置22を駆動する。なお、大洗浄又は小洗浄に対応する時間は、ポンプ装置22により予定流量Qで洗浄水タンク6から便器本体2へ洗浄水を供給した場合に、大洗浄又は小洗浄に適切な水量(L)が流れるような時間として設定されている。これにより、ポンプ装置22によりジェット吐水口16からジェット吐水を行う。また、制御装置54は、ジェット吐水と並行して、電磁開閉弁34を開放するとともに給水路切替弁36を給水路24がリム吐水口18に連通する状態に切り替え、リム吐水を行う。
【0046】
このようにして、便器本体2の洗浄を行った後、制御装置54は、給水路切替弁36を給水路24が洗浄水タンク6に連通する状態に切り替え、洗浄水タンク6への給水を行う。洗浄水タンク6への給水が進行し、洗浄水タンク6内の水位が上部規定水位WL1に到達すると、フロートスイッチ52がこれを検知し、フロートスイッチ52から制御装置54へ検知信号が送信される。制御装置54は検知信号を受信した後、所定の時間だけ給水を継続させ、その後、電磁開閉弁34を閉鎖する。これにより、洗浄水タンク6内の水位が止水水位WL0まで到達する。制御装置54は、便器洗浄モードにより便器本体2の洗浄が行われている間には、報知装置56により便器洗浄モードを実行している旨の表示を行う。なお、報知装置56による表示は、必ずしも、流量推定モード及び便器洗浄モードの両者において行う必要はないが、流量推定モードでは表示することが好ましい。
【0047】
本実施形態によれば、以下の効果が奏される。
本実施形態では、制御装置54は、ポンプ装置を所定の回転数で駆動し、便器本体2に供給される洗浄水の流量を推定し、推定された洗浄水の流量に基づいて、予定された予定流量を供給するようなポンプ装置22の調整回転数を推定する流量推定モードと、流量推定モードで推定された調整回転数でポンプ装置22を駆動して、洗浄水を便器本体に供給する便器洗浄モードと、を実行可能である。このような構成によれば、流量推定モードにより予定された予定流量を供給するようなポンプ装置22の調整回転数を推定し、便器洗浄モードでは調整回転数でポンプ装置22を駆動するため、製造誤差等により流路の圧力損失が便器ごと異なっても、所定の洗浄水量を便器に供給することができる。
【0048】
また、本実施形態では、制御装置54は、流量推定モードにおいて、ポンプ装置22を所定の回転数で駆動させ、洗浄水タンク内の水位が、止水水位WL0から、ポンプ装置22に空気が入り込むような水位まで下降するまでの駆動時間を取得する駆動時間取得ステップと、駆動時間と、洗浄水タンク6内の所定の水位から、ポンプ装置22に空気が入り込むような水位までの部分の容積とに基づき、ポンプ装置22により便器本体2に供給される洗浄水の流量を推定する流量推定ステップと、を実行する。このように、ポンプ装置22に空気が入り込むような水位まで下降するまでの駆動時間に基づき洗浄水の流量を推定しているため、下方水位を検出するためのフロートスイッチを設けることなく、洗浄水の流量を推定することができる。
【0049】
また、本実施形態では、制御装置54は、ポンプ装置22の電流値を検出可能であり、駆動時間取得ステップにおいて、制御装置54は、ポンプ装置22の電流値に基づいて、洗浄水タンク内の水位がポンプ装置22に空気が入り込むような水位まで下降したことを検知する。ポンプ装置に空気が入り込むとポンプ装置の電流値が変化するため、容易にかつ正確に洗浄水タンク内の水位がポンプ装置22に空気が入り込むような水位まで下降したことを検知することができる。
【0050】
また、本実施形態では、制御装置54は、駆動時間取得ステップを複数回実行するため、より正確な駆動時間を推定することができ、より正確に所定の洗浄水量を便器本体2に供給することができる。
【0051】
また、本実施形態では、制御装置54が、流量推定モード及び便器洗浄モードの実行を報知装置56により使用者に報知するため、使用者が流量推定モードと便器洗浄モードの何れが実施されているのか認定することができ、流量推定モードを途中で中断してしまうようなことや、予期せず流量推定モードを実施してしまうことを防止できる。
【符号の説明】
【0052】
1 水洗大便器装置
2 便器本体
4 給水装置
6 洗浄水タンク
8 排水管
12 ボウル部
14 排水トラップ管路
14a 入口部
14b トラップ上昇管
14c トラップ下降管
14d 頂部
16 ジェット吐水口
18 リム吐水口
20 洗浄水タンク
22 ポンプ装置
24 給水路
34 電磁開閉弁
36 給水路切替弁
38 リム側給水路
40 タンク側給水路
45 通水管
45a 取水口部
46 ジェット側給水路
52 フロートスイッチ
54 制御装置
55 操作部
56 報知装置
62 フロート部
64 ステム
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7A
図7B