(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】血管特定装置及び血管特定方法
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20231016BHJP
A61B 5/107 20060101ALI20231016BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20231016BHJP
【FI】
A61B10/00 E
A61B5/107 ZDM
G06T7/00 612
(21)【出願番号】P 2019091843
(22)【出願日】2019-05-15
【審査請求日】2022-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000153018
【氏名又は名称】株式会社日本マイクロニクス
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100070024
【氏名又は名称】松永 宣行
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】深見 美行
(72)【発明者】
【氏名】神谷 浩
(72)【発明者】
【氏名】新井 治
(72)【発明者】
【氏名】笹川 和彦
(72)【発明者】
【氏名】佐川 貢一
(72)【発明者】
【氏名】花田 修賢
(72)【発明者】
【氏名】小野 俊郎
【審査官】牧尾 尚能
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-102110(JP,A)
【文献】特開2017-164046(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0065916(US,A1)
【文献】特開2014-161672(JP,A)
【文献】特表2008-539932(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0126008(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 9/00-10/06
A61B 5/06- 5/22
G06T 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象部位の解析用画像を画像処理して、前記対象部位に含まれる
複数の血管の位置及び形状を含む血管情報を取得する画像処理装置と、
前記血管情報を用いて、前記解析用画像に含まれる
複数の血管
それぞれに関して
血管に針の穿刺しやすさという目的に対する適合性を示す
複数のパラメータについて、適合の程度に応じて点数化する評価装置と、
複数の前記パラメータの
合計点数に基づき、前記対象部位に含まれる
複数の血管の中から前記目的に適合する適合血管を特定する特定装置と
を備え
、
前記評価装置が、血管の延伸方向および前記解析用画像の特定地点からの距離の少なくともいずれかを前記パラメータの1つとして点数化することを特徴とする血管特定装置。
【請求項2】
前記評価装置が、血管の直進性、血管の長さ、
および血管の太さの少なくともいずれかを前記パラメータ
の他の1つとして点数化することを特徴とする請求項
1に記載の血管特定装置。
【請求項3】
前記評価装置が、前記対象部位に含まれる複数の血管に関して前記パラメータをそれぞれ点数化し、前記目的に適合する順に血管を順位付けし、
前記適合血管の前記目的に適合する適合箇所が、前記適合血管それぞれの順位又は前記パラメータの合計点のいずれか一方と共に表示されることを特徴とする請求項1
又は2に記載の血管特定装置。
【請求項4】
前記評価装置が、所定の許容範囲を超えた前記パラメータの点数をゼロ点に
し、
ゼロ点の前記パラメータが1つでもある前記血管を前記適合血管から排除することを特徴とする請求項
3に記載の血管特定装置。
【請求項5】
前記適合血管の前記適合箇所を、前記順位又は前記合計点のいずれかと共に、前記適合血管の形状に重ねて表示する表示装置を更に備えることを特徴とする請求項
3又は
4に記載の血管特定装置。
【請求項6】
前記適合血管の前記適合箇所を、前記順位又は前記合計点のいずれかと共に、前記適合血管の位置に対応させて前記対象部位に投影する投影装置を更に備えることを特徴とする請求項
3又は
4に記載の血管特定装置。
【請求項7】
前記投影装置が、前記適合血管の形状を近似した近似線に前記適合箇所を重ねて前記対象部位に投影することを特徴とする請求項
6に記載の血管特定装置。
【請求項8】
前記特定装置が、前記目的に応じて前記パラメータに重み付けすることを特徴とする請求項1乃至
7のいずれか1項に記載の血管特定装置。
【請求項9】
前記対象部位に特定の波長の照射光を照射する照明装置と、
前記対象部位を撮影して前記解析用画像を取得する撮像装置と
を更に備え、
前記特定の波長が、前記照射光が前記対象部位に照射されることにより、前記照射光が照射されない場合よりも血管と他の領域との境界が明確である前記解析用画像が前記撮像装置によって取得されるように選択されていることを特徴とする請求項1乃至
8のいずれか1項に記載の血管特定装置。
【請求項10】
前記照射光が近赤外線であることを特徴とする請求項
9に記載の血管特定装置。
【請求項11】
前記パラメータの点数が一定の基準を満たさない血管を前記適合血管から除外する、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の血管特定装置。
【請求項12】
対象部位の解析用画像を画像処理して、前記対象部位に含まれる
複数の血管の位置及び形状を含む血管情報を取得するステップと、
前記血管情報を用いて、前記解析用画像に含まれる
複数の血管
それぞれに関して
血管に針の穿刺しやすさという目的に対する適合性を示す
複数のパラメータについて、適合の程度に応じて点数化するステップと、
複数の前記パラメータの
合計点数に基づき、前記対象部位に含まれる
複数の血管の中から前記目的に適合する適合血管を特定するステップと
を含
み、
血管の延伸方向および前記解析用画像の特定地点からの距離の少なくともいずれかを前記パラメータの1つとして点数化することを特徴とする血管特定方法。
【請求項13】
血管の直進性、血管の長さ、
および血管の太さの少なくともいずれかを前記パラメータ
の他の1つとして点数化することを特徴とする請求項
12に記載の血管特定方法。
【請求項14】
前記対象部位に含まれる複数の血管に関して前記パラメータをそれぞれ点数化し、前記目的に適合する順に血管を順位付けし、
前記適合血管の前記目的に適合する適合箇所を、前記適合血管それぞれの順位又は前記パラメータの合計点のいずれか一方と共に表示する
ことを特徴とする請求項12
又は13に記載の血管特定方法。
【請求項15】
所定の許容範囲を超えた前記パラメータの点数をゼロ点に
し、
ゼロ点の前記パラメータが1つでもある前記血管を前記適合血管から排除することを特徴とする請求項
14に記載の血管特定方法。
【請求項16】
前記適合血管の前記適合箇所を、前記順位又は前記合計点のいずれかと共に、前記適合血管の形状に重ねて表示することを特徴とする請求項
14又は
15に記載の血管特定方法。
【請求項17】
前記適合血管の前記適合箇所を、前記順位又は前記合計点のいずれかと共に、前記適合血管の位置に対応させて前記対象部位に投影することを特徴とする請求項
14又は
15に記載の血管特定方法。
【請求項18】
前記適合血管の形状を近似した近似線に前記適合箇所を重ねて前記対象部位に投影することを特徴とする請求項
17に記載の血管特定方法。
【請求項19】
前記目的に応じて前記パラメータに重み付けすることを特徴とする請求項12乃至
18のいずれか1項に記載の血管特定方法。
【請求項20】
前記対象部位に特定の波長の照射光を照射しながら前記対象部位を撮影して前記解析用画像を取得するステップを更に含み、
前記特定の波長が、前記照射光が前記対象部位に照射されることにより、前記照射光が照射されない場合よりも血管と他の領域との境界が明確である前記解析用画像が取得されように選択されていることを特徴とする請求項12乃至
19のいずれか1項に記載の血管特定方法。
【請求項21】
前記照射光が近赤外線であることを特徴とする請求項
20に記載の血管特定方法。
【請求項22】
前記パラメータの点数が一定の基準を満たさない血管を前記適合血管から除外する、請求項12乃至21のいずれか1項に記載の血管特定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管を特定する血管特定装置及び血管特定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人体などの一部を撮影した画像から得られた血管の位置を表示するシステムが開発されている(特許文献1、2参照。)。例えば、近赤外線を吸収するヘモグロビンの性質を利用して、近赤外線を照射した部分を赤外線カメラで撮影して血管を可視化する方法が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4555534号公報
【文献】特許第6127207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、血管を可視化するだけでなく特定の目的に適合する血管を特定する有効な技術が開発されていない。例えば、採血するために針の穿刺に適した血管を表示する方法などが望まれている。
【0005】
上記問題点に鑑み、本発明は、特定の目的に適合する血管を特定することができる血管特定装置及び血管特定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、対象部位の解析用画像を画像処理して、対象部位に含まれる複数の血管の位置及び形状を含む血管情報を取得する画像処理装置と、血管情報を用いて、解析用画像に含まれる複数の血管それぞれに関して血管に針の穿刺しやすさという目的に対する適合性を示す複数のパラメータについて、適合の程度に応じて点数化する評価装置と、複数のパラメータの合計点数に基づき、対象部位に含まれる複数の血管の中から目的に適合する適合血管を特定する特定装置とを備え、評価装置が、血管の延伸方向および解析用画像の特定地点からの距離の少なくともいずれかをパラメータの1つとして点数化する血管特定装置が提供される。
【0007】
本発明の他の態様によれば、対象部位の解析用画像を画像処理して、対象部位に含まれる複数の血管の位置及び形状を含む血管情報を取得するステップと、血管情報を用いて、解析用画像に含まれる複数の血管それぞれに関して血管に針の穿刺しやすさという目的に対する適合性を示す複数のパラメータについて、適合の程度に応じて点数化するステップと、複数のパラメータの合計点数に基づき、対象部位に含まれる複数の血管の中から目的に適合する適合血管を特定するステップとを含み、血管の延伸方向および解析用画像の特定地点からの距離の少なくともいずれかをパラメータの1つとして点数化する血管特定方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、特定の目的に適合する血管を特定することができる血管特定装置及び血管特定方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る血管特定装置の構成を示す模式図である。
【
図2】対象部位に含まれる血管の例を示す模式図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る血管特定装置により作成される血管の近似線の例を示す模式図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係る血管特定装置が表示する血管の情報の例を示す模式図である。
【
図5】本発明の第1の実施形態に係る血管特定方法を説明するためのフローチャートである。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係る血管特定装置の構成を示す模式図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係る血管特定装置が対象部位に投影する血管の情報の例を示す模式図である。
【
図8】本発明の第2の実施形態に係る血管特定装置が対象部位に投影する血管の情報の他の例を示す模式図である。
【
図9】本発明の第2の実施形態に係る血管特定装置が対象部位に投影する血管の情報の他の例を示す模式図である。
【
図10】本発明の第2の実施形態に係る血管特定方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであることに留意すべきである。また、以下に示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の実施形態は、構成部品の構造、配置などを下記のものに特定するものでない。この発明の実施形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0011】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る血管特定装置は、被検体の対象部位に含まれる血管の中から、所定の目的に適合する血管を特定する。以下では、
図1に示すように、人体の前腕の一部が対象部位2である場合について例示的に説明する。
図1に示す血管特定装置1は、照明装置10、撮像装置20、演算装置30及び表示装置40を備える。演算装置30は、画像処理装置31、評価装置32及び特定装置33を有する。
【0012】
照明装置10は、対象部位2に特定の波長の照射光Lを照射する。撮像装置20は、血管周辺の領域を含む対象部位2を撮影して、対象部位2の解析用画像を取得する。演算装置30は、解析用画像に基づき、対象部位2に含まれる血管の中から目的に適合する血管を特定する。特定された血管の情報は、表示装置40に表示される。以下に、血管特定装置1の詳細について説明する。
【0013】
照明装置10から照射される照射光Lの波長は、照射光Lが対象部位2に照射されることにより、照射光Lが照射されない場合よりも血管と他の領域との境界が明確である解析用画像が撮像装置20によって取得されるように選択される。例えば、近赤外線を吸収するヘモグロビンの性質を利用して、照射光Lとして波長が800nm~900nm程度の近赤外線を使用してもよい。近赤外線を照射光Lに使用した場合、撮像装置20には赤外線カメラが好適に使用される。その結果、血管が黒く写り、皮膚などのその他の部分が白く写った解析用画像が得られる。
【0014】
ただし、照射光Lが照射されていない場合でも血管と他の領域との境界が明確である解析用画像を取得できる場合には、解析用画像を取得する際に対象部位2に照射光Lを照射することは必ずしも必要でない。
【0015】
撮像装置20によって取得された対象部位2の解析用画像は、画像処理装置31に送信される。画像処理装置31は、解析用画像を画像処理して、対象部位2に含まれる血管の位置及び形状を含む血管情報を取得する。
【0016】
図2に、対象部位2に含まれる血管の例を示す。
図2に示した例では、血管201~205の血管情報が取得される。なお、血管に分岐がある場合には、画像処理装置31は、分岐する位置から解析用画像で確認できる端部までを一つの血管として、血管情報を取得する。つまり、分岐する位置から個々の端部までを一つの血管とし、それぞれの血管の血管情報が取得される。
【0017】
画像処理装置31は、例えば、皮膚などの血管以外の部位と血管との輝度の差に基づいて解析用画像の二値化を行って血管をその他の領域と区別し、血管情報を取得する。このとき、解析用画像について、血管と血管以外の部位とでコントラストをつける画像処理をしてから、解析用画像の二値化を行ってもよい。
【0018】
評価装置32は、画像処理装置31により得られた血管情報を用いて、解析用画像に含まれる血管に関して特定の目的に対する適合性を示すパラメータについて、適合の程度に応じて点数化する。例えば、適合する程度が高いほどパラメータの点数を高くする。特定装置33は、パラメータの点数に基づき、対象部位2に含まれる血管の中から目的に適合する血管を特定する。
【0019】
点数化するパラメータは、血管を特定する目的に応じて選択される。例えば、針を穿刺しやすい血管を特定する目的の場合には、針の穿刺しやすさを示すパラメータが選択される。この場合に選択されるパラメータは、例えば、血管の直進性、血管の延伸方向、血管の長さ、血管の太さなどである。これは、以下の理由による。
【0020】
即ち、血管の直進性が低いほど、針を血管に穿刺することが難しい。したがって、血管の直進性が高いほど好ましい。また、血管の部位によっては、特定の方向からの方が、他の方向からよりも針を穿刺しやすい場合がある。例えば、前腕に穿刺する場合には、手首から肘に向けた方向が穿刺しやすい方向であることが多い。このように、血管の延伸方向について好ましい特定の方向(以下において「適合方向」という。)が存在する場合がある。また、血管が短いほど穿刺が難しい。一方、血管が太いほど穿刺することが容易である。
【0021】
また、対象部位2の特定地点から離れた箇所に針を穿刺したい場合に、解析用画像の特定地点からの距離を、点数化するパラメータの1つに使用してもよい。これにより、穿刺が困難な位置や穿刺を回避したい位置から離れた血管を特定することができる。
【0022】
評価装置32は、目的に適合しやすいと評価される血管ほど、パラメータの点数を高くする。例えば、針の穿刺しやすさを示すパラメータに関して、血管の直進性のパラメータの点数を高くする。また、血管の延伸方向が適合方向に近い血管ほど、血管の延伸方向のパラメータの点数を高くしてもよい。そして、血管が長いほど血管の長さのパラメータの点数を高くし、血管が太いほど血管の太さのパラメータの点数を高くする。更に、解析用画像の特定地点からの距離が遠い血管ほど、特定地点からの距離のパラメータの点数を高くする。
【0023】
なお、パラメータの点数化には種々の方法が採用可能である。例えば、それぞれのパラメータについて、最も目的に適合する血管の点数を最高点とし、その他の血管の点数を、その最高点よりも低くするようにしてもよい。例えば、血管の太さのパラメータの点数化において、最も太い血管の点数をN点とし、次に太い血管の点数をN-1点とする(N:2以上の整数)。
【0024】
また、他の点数化法としては、最も太い血管の点数をN点とし、他の血管の太さを最も太い血管の太さとの比r(0<r≦1)を用いて、Nr点とする方法を用いてもよい。例えば、血管の太さの比が1:0.98:0.97:0.95である場合に、それぞれの血管の太さのパラメータの点数を1点、0.98点、0.97点、0.95点とする。これにより、単に血管の太さの順序だけで点数化するのではなく、血管の相対的な差として点数化できる。
【0025】
血管の直進性の評価については、評価装置32は、
図3に示すように血管201~205のそれぞれについて近似線C1~C5を作成する。例えば、評価装置32は、二値化した解析用画像の血管201~205を細線化により幅を1ピクセルにして、最小二乗法などを用いて近似線C1~C5を作成する。そして、評価装置32は、近似線C1~C5のそれぞれについて得られる決定係数(R
2)が1に近い血管ほど直進性が高いと評価して、血管の直進性のパラメータの点数を高くする。
【0026】
血管の延伸方向は、上記の近似線を用いて特定することができる。評価装置32は、近似線の延伸方向と適合方向とのなす角度が小さい血管ほど、血管の延伸方向のパラメータの点数を高くする。なお、適合方向と解析用画像の水平方向が平行になるように解析用画像を撮像し、血管の延伸方向を特定してもよい。
【0027】
血管の長さは、血管の解析用画像に表れる一方の端部から他方の端部までの距離とする。例えば、血管について幅が1ピクセルの近似線を作成し、近似線のピクセル数を血管の長さとしてもよい。血管の太さは、例えば、血管について作成した近似線を利用して算出してもよい。即ち、近似線から周囲に垂線を引き、この垂線と血管の重なった部分の長さを血管の太さとする。血管の太さが変化する場合は、例えば、最も太い部分をその血管の太さとする。
【0028】
解析用画像の特定地点からの距離をパラメータに使用する場合には、
図3に示すように、解析用画像に特定地点Tを定義する。そして、特定地点Tから血管までの最短距離が長いほど、特定地点からの距離のパラメータの点数を高くする。
【0029】
以下に、
図2に示した血管201~205から針を穿刺しやすい血管を特定するために、評価装置32が血管に針の穿刺しやすさを示すパラメータについて点数化する例を説明する。ここで、血管の直進性を第1パラメータP1、血管の延伸方向を第2パラメータP2、血管の長さを第3パラメータP3、血管の太さを第4パラメータP4、解析用画像の特定地点からの距離を第5パラメータP5とする。
【0030】
特定装置33は、評価装置32により点数化されたパラメータを用いて、例えば以下の式(1)を用いて血管を点数化する:
S=P1+P2+P3+P4+P5 ・・・(1)
式(1)から、第1パラメータP1が3点、第2パラメータP2が5点、第3パラメータP3が4点、第4パラメータP4が1点、第5パラメータP5が2点の場合、その血管の合計点Sは15点である。
【0031】
なお、血管を特定する目的に応じて、パラメータに重み付けをおこなってもよい。つまり、特定装置33が、目的に適合する血管の特定において影響の大きいパラメータの点数を重要視した合計点Sを算出するようにしてもよい。例えば、以下の式(2)を用いて合計点Sが算出される:
S=a1×P1+a2×P2+a3×P3+a4×P4+a5×P5 ・・・(2)
式(2)で、第1重み付け値a1~第5重み付け値a5は、第1パラメータP1~第5パラメータP5のそれぞれの重要度に応じて設定される。
【0032】
例えば、血管の延伸方向の第2パラメータP2を重要視し、特定地点からの距離の第5パラメータP5を重要視しない場合には、式(2)において、他の重み付け値よりも第2重み付け値a2を大きくし、第5重み付け値a5を小さくする。例えば、以下の式(3)を用いて合計点Sが算出される:
S=P1+2×P2+P3+P4+0.5×P5 ・・・(3)
パラメータに重み付けすることにより、特定する血管の目的に応じて、適合する血管の条件を可変することができる。
【0033】
なお、上記のように第1パラメータP1~第5パラメータP5のすべてについて点数化してもよいし、第1パラメータP1~第5パラメータP5のいずれかを選択して点数化してもよい。血管に針の穿刺しやすさを示すパラメータについて点数化する場合は、血管の直進性、血管の長さ、血管の太さ、血管の延伸方向、及び特定地点からの距離の少なくともいずれかを点数化するパラメータとして選択することが好ましい。
【0034】
上記のように、評価装置32により点数化されたパラメータを用いて、特定装置33が、対象部位2に含まれる複数の血管のそれぞれの合計点Sを算出する。このとき、特定装置33が、対象部位に含まれる複数の血管に関して、合計点Sの比較により目的に適合する順に血管を順位付けてもよい。血管の近似線の位置や形状、パラメータの点数、合計点S、順位などの情報は、血管それぞれの血管情報の一部として管理される。
【0035】
特定装置33は、評価装置32により算出されたパラメータの点数に基づき算出した合計点Sを用いて、対象部位2に含まれる血管の中から目的に適合する血管(以下において、「適合血管」という。)を特定する。例えば、合計点Sが最も高い血管を、適合血管として特定する。或いは、合計点Sが所定の点数よりも高い血管のすべてを適合血管として特定してもよい。また、合計点Sの比較により順位付けされた血管について、一定の順位までの上位の血管を適合血管として特定してもよい。特定装置33は、適合血管の情報を表示装置40に送信する。
【0036】
表示装置40は、特定装置33から送信された適合血管の情報を表示する。例えば、
図4に示すように、対象部位2に含まれる血管の画像と共に、合計点Sの比較により順位付けされたそれぞれの血管の順位が、表示装置40に数字で表示される。順位に代えて、あるいは順位と共にそれぞれの血管の合計点を表示することも有効である。
図4では、1位から4位までに順位付けされた血管について順位を表示する例を示した。即ち、血管202が1位、血管201が2位、血管203が3位、血管204が4位である。一方、血管205は適合血管ではなく、順位が表示されていない。例えばパラメータの点数が一定の基準を満たさない血管は、適合血管から除外してもよい。
【0037】
表示装置40が、適合血管のそれぞれについて、血管全体の中でも特に目的に適合する適合箇所を表示するようにしてもよい。即ち、針を穿刺しやすい血管を特定する目的の場合に、適合血管で針を穿刺しやすい位置を適合箇所として表示してもよい。
図4では、血管201~204それぞれの適合箇所D1~D4を黒丸で示している。例えば、最も血管の太い部分などが適合血管の適合箇所として表示される。適合箇所を表示することにより、血管の穿刺しやすい位置を特定することが可能であり、容易に穿刺することができる。
【0038】
図4に示した例では、血管202が最も目的に適合する血管である。上記のように血管を順位付けすることにより、目的に適合する血管の絞り込みが可能であり、特定の目的に適合する血管を特定することができる。更に、表示装置40によって血管の順位を表示することにより、最も目的に適合する血管以外の他の候補の血管の位置を確認することが可能である。
【0039】
このように、表示装置40が、適合血管の適合箇所及び順位を適合血管の形状に重ねて表示することにより、適合血管の情報を視覚的に把握することができる。
【0040】
図5に、血管特定装置1を用いた血管特定方法における一連の処理を説明するフローチャートを示す。
【0041】
図5のフローチャートのステップS101において、撮像装置20によって対象部位2の解析用画像を取得する。このとき、照明装置10によって対象部位に特定の波長の照射光Lを照射してもよい。
【0042】
ステップS102において、画像処理装置31が解析用画像を画像処理して、対象部位2に含まれる血管の位置及び形状を含む血管情報を取得する。そして、ステップS103において、評価装置32が、血管情報を用いて、解析用画像に含まれる血管に関して特定の目的に対する適合性を示すパラメータについて点数化する。ステップS104において、対象部位2に含まれる複数の血管に関してパラメータをそれぞれ点数化し、パラメータの点数に応じて目的に適合する順に血管を順位付けしてもよい。その後、ステップS105において、特定装置33が、パラメータの点数に基づき、対象部位2に含まれる血管の中から目的に適合する適合血管を特定する。
【0043】
そして、ステップS106において、表示装置40が適合血管の情報を表示する。このとき、適合血管それぞれの適合箇所を、血管の順位と共に表示してもよい。
【0044】
以上に説明したように、第1の実施形態に係る血管特定装置1では、対象部位2の解析用画像から、特定の目的に対する適合性を示すパラメータを点数化し、パラメータの点数に基づいて適合血管を特定する。血管特定装置1によれば、血管を可視化するだけでなく特定の目的に適合する血管を特定することができる。また、血管を順位付けして表示することにより、目的に適合する血管についてより的確な判定を行える。例えば最もパラメータの点数が高い血管を使用できない場合でも、他の血管を選択することが容易である。
【0045】
なお、上記に説明したパラメータの点数化では、各パラメータの点数がゼロ点になることはない。しかし、採血などの目的において許容し得ないパラメータがある血管が、合計点方式では順位が高くなってしまうこともあり得る。このリスクを回避するため、各パラメータについて、所定の許容範囲を超えた場合の点数をゼロ点にするようにしてもよい。更に、ゼロ点のパラメータが1つでもあれば、その血管を適合血管から排除するようにしてもよい。このようにすることで、特定のパラメータについては許容できない血管が適合血管として選択されるリスクの低減あるいは排除が可能である。
【0046】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、適合血管の情報を表示装置40に表示する場合を説明した。一方、表示装置40に適合血管の情報を表示する代わりに、若しくは、表示装置40に適合血管の情報を表示すると共に、対象部位2に適合血管の情報を投影してもよい。
図6に、対象部位2に適合血管の情報を投影する第2の実施形態に係る血管特定装置1の構成を示す。
【0047】
図6に示す血管特定装置1は、表示装置40の代わりに、対象部位2に適合血管の情報を投影する投影装置50を備えることが
図1と異なる点である。その他の構成については、
図1に示す第1の実施形態と同様である。ただし、第2の実施形態に係る血管特定装置1が、表示装置40と共に投影装置50を備える構成であってもよい。
【0048】
投影装置50は、例えば
図7に示すように、解析用画像における適合血管の位置に対応させて、適合血管の適合箇所と順位を対象部位2に投影する。
図7は、血管201~204が適合血管として特定され、血管201~204の適合箇所D1~D4を、血管201~204の順位と共に対象部位2に投影した例である。これにより、例えば針の穿刺しやすい部分を明確にできる。
【0049】
また、
図8に示すように、投影装置50が、適合血管の形状を近似した近似線を、適合血管の適合箇所や順位と共に対象部位2に投影してもよい。近似線は、解析用画像における適合血管の位置に対応させて対象部位2に投影される。投影される近似線は、例えば、第1の実施形態で説明した血管の直進性の評価のために作成された近似線であってもよい。
図8は、血管201~204が適合血管として特定され、血管201~204の形状に近似した近似線C1~C4が表示された例である。これにより、適合血管の位置が明確に把握される。
図8に示した例では、投影装置50が、適合血管の近似線C1~C4に適合箇所D1~D4を重ねて表示している。
【0050】
なお、
図9に示すように、適合箇所と共に特定の目的に適した方向を矢印などで投影してもよい。これにより、例えば針の穿刺が容易になる。血管の穿刺しやすい方向は、例えば血管の延伸方向である。
【0051】
図10に、第2の実施形態に係る血管特定装置1を用いた血管特定方法における一連の処理を説明するフローチャートを示す。
【0052】
図10のフローチャートのステップS101~S105の処理は、
図5に示したフローチャートのステップS101~S105の処理と同様である。そして、
図10に示したフローチャートのステップS105の後、ステップS107において、投影装置50が適合血管の情報を対象部位2に投影する。即ち、適合血管の特定箇所や順位、近似線などが、適合血管の位置に対応させて対象部位2に投影される。
【0053】
第2の実施形態に係る血管特定装置1によれば、対象部位2を目視しながら、特定の目的に適合した血管を絞り込むことができる。例えば、針を穿刺しやすい血管及びその血管の適合箇所の確認が容易である。他は、第1の実施形態と実質的に同様であり、重複した記載を省略する。
【0054】
(その他の実施形態)
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0055】
例えば、血管特定装置1の演算装置30が、対象部位2の撮影場所から離れた場所に設置されていてもよい。
【0056】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態などを含むことはもちろんである。
【符号の説明】
【0057】
1…血管特定装置
2…対象部位
10…照明装置
20…撮像装置
30…演算装置
31…画像処理装置
32…評価装置
33…特定装置
40…表示装置
50…投影装置
201~205…血管