(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】鉄筋スペーサー及びその製造方法、並びにそれを用いた鉄筋保持工法
(51)【国際特許分類】
E04C 5/18 20060101AFI20231016BHJP
【FI】
E04C5/18 104
(21)【出願番号】P 2019167203
(22)【出願日】2019-09-13
【審査請求日】2022-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】592199102
【氏名又は名称】株式会社アストン
(73)【特許権者】
【識別番号】519334041
【氏名又は名称】株式会社サンエム工業
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 尚
(72)【発明者】
【氏名】守屋 茂樹
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-145774(JP,A)
【文献】実開昭57-123425(JP,U)
【文献】特開2016-130440(JP,A)
【文献】中国実用新案第207513027(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 5/18
E04C 5/20
E04G 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接金網を保持して鉄筋かぶり厚さを一定に保つ第1板部材と第2板部材とからなる鉄筋スペーサーであって、
第1板部材は、底部が略半円弧状の開口部を有し、前記底部と対向する位置から板部材の中心方向に向けて切り込み部を有し、
第1板部材の前記底部と前記切り込み部とを結ぶ線を第1板部材における仮想中心線とし、
第2板部材は、底部が略半円弧状の開口部を有し、前記底部から板部材の中心方向に向けて切り込み部を有し、
第2板部材の前記底部と前記切り込み部とを結ぶ線を第2板部材における仮想中心線とし、
第1板部材における前記切り込み部の側面、及び/又は第2板部材における前記切り込み部の側面に、少なくとも1つの突起を有し、
第1板部材における前記開口部の側面、及び第2板部材における前記開口部の側面に、開口部のスリット幅を狭くする突出領域を有し、
第1板部材の前記突出領域の長さは第1板部材における前記仮想中心線と並行な向きに0.05~3mm未満であり、かつ、第2板部材の前記突出領域の長さは第2部材における前記仮想中心線と並行な向きに0.05~3mm未満であり、
第1板部材における
前記仮想中心線上、及び第2板部材における
前記仮想中心線上に、少なくとも1つの凹凸部を有し、
第1板部材の前記凹凸部は、第1板部材の前記底部と前記切り込み部との間に設けられてなり、第2板部材の前記凹凸部は、第2板部材の前記底部及び前記切り込み部より下部に設けられてなり、
第1板部材と第2板部材とが互いに直交するように切り込み部で組み合わせることにより構成されることを特徴とする鉄筋スペーサー。
【請求項2】
第1板部材の開口部と第2板部材の開口部のそれぞれの側面において、開口部の凹部の先端を含む仮想平面と突出領域の表面との差が0.05mm以上5mm以下である請求項1記載の鉄筋スペーサー。
【請求項3】
第1板部材の開口部と第2板部材の開口部の角部が曲面状である請求項1又は2に記載の鉄筋スペーサー。
【請求項4】
第1板部材における前記切り込み部の側面、及び/又は第2板部材における前記切り込み部の側面に、少なくとも一対の突起を有する請求項1~3のいずれかに記載の鉄筋スペーサー。
【請求項5】
第1板部材における前記底部と前記切り込み部とを結ぶ仮想中心線上、及び/又は第2板部材における前記底部と前記切り込み部とを結ぶ仮想中心線上に、複数の凹凸部を有する請求項1~4のいずれかに記載の鉄筋スペーサー。
【請求項6】
複数の凹凸部を有する板部材において、隣り合う凹凸部における凸部の向きが板部材の表面垂直方向に対して相互逆向きとなるように前記凹凸部が配置されてなる請求項5に記載の鉄筋スペーサー。
【請求項7】
第1板部材における前記底部と前記切り込み部とを結ぶ仮想中心線と並行する位置、及び/又は第2板部材における前記底部と前記切り込み部とを結ぶ仮想中心線と並行する位置に、板部材の表面垂直方向に0.05~3mmの段差からなる補強領域を有する請求項1~6のいずれかに記載の鉄筋スペーサー。
【請求項8】
デッキプレート合成スラブ造用である請求項1~7のいずれかに記載の鉄筋スペーサー。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の鉄筋スペーサーを構成する第1板部材と第2板部材とからなる鉄筋スペーサー用板部材キット。
【請求項10】
金属板に対してプレス工程により凹凸部を形成してから、打ち抜き工程により開口部と切り込み部を形成することにより第1板部材と第2板部材を得て、得られた第1板部材と第2板部材とが互いに直交するように切り込み部で組み合わせる、請求項1~8のいずれかに記載の鉄筋スペーサーの製造方法。
【請求項11】
請求項1~8のいずれかに記載の鉄筋スペーサーを用いて溶接金網を保持して鉄筋かぶり厚さを一定に保つ鉄筋保持工法であって、
溶接金網において鉄筋が交差していない鉄筋部分に対し、鉄筋スペーサーの開口部に1本の鉄筋が嵌合するように鉄筋スペーサーを溶接金網の上方から押し込み、
溶接金網を上方に持ち上げることにより、鉄筋スペーサーが開口部を支点に回転して溶接金網の下方に設置されることを特徴とする鉄筋保持工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接金網を保持して鉄筋かぶり厚さを一定に保つ鉄筋スペーサー及びその製造方法、並びにそれを用いた鉄筋保持工法に関する。
【背景技術】
【0002】
駐車場などのコンクリート床を施工するにあたって、コンクリートを打設する場合には、鉄筋の位置を底面から一定高さに保持することが求められている。このように、鉄筋の位置を一定高さに保持するために、鉄筋スペーサーが用いられるが、鉄筋スペーサーを設置する数が少ない場合には、溶接金網等の格子状の鉄筋の上を作業者が歩いたり、コンクリートポンプ車の配管を載せたりすると、鉄筋の位置が下がってしまう。また十分な数の鉄筋スペーサーを設置しても施工時に外れてしまうと鉄筋位置が下がってしまう。そして、鉄筋の位置が下がると、床版のたわみに対する鉄筋の応力が大きくなるためコンクリートにひび割れが発生しやすくなるという問題があった。
【0003】
特許文献1には、凸条部と凹陥部とが交互に配置したデッキプレート上にコンクリートスラブを打設する際に、縦横一方向に平行配置する上位筋と他方向に平行配置する下位筋とが各交点で溶接された溶接金網を前記コンクリートスラブ中に埋入させるために、前記デッキプレート上に設置して前記溶接金網をデッキプレートから浮かせて支承するデッキプレート用スペーサーであって、前記溶接金網の異なる支承高さに対応した複数の金網支承部を具備すると共に、各金網支承部が前記溶接金網の上位筋と下位筋を各々嵌合可能な一対の上方に開いた嵌合部より構成されてなるデッキプレート用スペーサーが記載されている。これによれば、凸条部と凹陥部とが交互に配置したデッキプレート上にコンクリートスラブを打設する際に、縦横一方向に平行配置する上位筋と他方向に平行配置する下位筋とが各交点で溶接された溶接金網を前記コンクリートスラブ中に埋入させるために、前記デッキプレート上に設置して前記溶接金網をデッキプレートから浮かせて支承するデッキプレート用スペーサーとして、コンクリートスラブの設定厚さが異なる場合にも共用でき、且つ溶接金網の上位筋と下位筋の両方の支承に利用でき、もって単品種の量産による製作コストの低減が可能であると共に、溶接金網を簡単な操作によって安定した支承状態とでき、該溶接金網上を作業者が歩いても倒れたり当該金網から外れたりしにくいものを提供できるとされている。
【0004】
また、特許文献2には、鉄筋かぶり厚さを一定に保つ鉄筋スペーサー用板部材であって、前記板部材が、略スリット状の第1開口部及び第2開口部を有し、第1開口部と対向する位置に第2開口部が配置され、第1開口部及び第2開口部のそれぞれの側面に、開口部のスリット幅を狭くする第1突出領域と第2突出領域とを有し、第1開口部及び第2開口部の底部が略半円弧状であり、第1開口部及び第2開口部の少なくとも一方の前記底部から板部材の中心方向に向けて切り込み部を有し、2枚の板部材を互いに直交するように前記切り込み部で組み合わせて鉄筋スペーサーが構成されることを特徴とする鉄筋スペーサー用板部材が記載されている。これによれば、重ねることにより現場で多量に鉄筋スペーサー用板部材を持ち運ぶことができ、2枚の板部材を切り込み部で組み合わせると鉄筋スペーサーとなり、鉄筋スペーサーの上下に存在する開口部のいずれにおいても鉄筋を保持することが可能であるため、コストを抑えることができるとともに作業効率が良好になるとされている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の複雑な形状のスペーサーはコスト高となり、実際に施工する際に採用されない場合があった。これまで、施工現場で鉄筋スペーサーを設置するには、溶接金網の上に作業者が乗った状態で、溶接金網を持ち上げながら該溶接金網における鉄筋と鉄筋とが重なった交点に下方から鉄筋スペーサーを設置する必要があり、施工性の改善が望まれていた。また、デッキプレートとコンクリートを組み合わせた合成スラブ造の場合、溶接金網における鉄筋と鉄筋とが重なった交点が、デッキプレートの谷部分と非常に近い位置にあると、交点のみに設置する鉄筋スペーサーでは、設置場所を微調整することができず、改善が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-331331号公報
【文献】特開2018-145774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、第1板部材と第2板部材とが互いに直交するように切り込み部で組み合わせて構成される鉄筋スペーサーであって、簡単に組み付けできるとともに、第1板部材と第2板部材が外れるのを防止することができ、大量生産に好適な鉄筋スペーサーを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、溶接金網を保持して鉄筋かぶり厚さを一定に保つ第1板部材と第2板部材とからなる鉄筋スペーサーであって、
第1板部材は、底部が略半円弧状の開口部を有し、前記底部と対向する位置から板部材の中心方向に向けて切り込み部を有し、
第2板部材は、底部が略半円弧状の開口部を有し、前記底部から板部材の中心方向に向けて切り込み部を有し、
第1板部材における前記切り込み部の側面、及び/又は第2板部材における前記切り込み部の側面に、少なくとも1つの突起を有し、
第1板部材における前記開口部の側面、及び第2板部材における前記開口部の側面に、開口部のスリット幅を狭くする突出領域を有し、前記突出領域の長さが0.05~3mm未満であり、
第1板部材における前記底部と前記切り込み部とを結ぶ仮想中心線上、及び第2板部材における前記底部と前記切り込み部とを結ぶ仮想中心線上に、少なくとも1つの凹凸部を有し、
第1板部材と第2板部材とが互いに直交するように切り込み部で組み合わせることにより構成されることを特徴とする鉄筋スペーサーを提供することによって解決される。
【0009】
このとき、第1板部材の開口部と第2板部材の開口部のそれぞれの側面において、開口部の凹部の先端を含む仮想平面と突出領域の表面との差が0.05mm以上5mm以下であることが好適であり、第1板部材の開口部と第2板部材の開口部の角部が曲面状であることが好適である。第1板部材における前記切り込み部の側面、及び/又は第2板部材における前記切り込み部の側面に、少なくとも一対の突起を有することが好適であり、第1板部材における前記底部と前記切り込み部とを結ぶ仮想中心線上、及び/又は第2板部材における前記底部と前記切り込み部とを結ぶ仮想中心線上に、複数の凹凸部を有することが好適である。複数の凹凸部を有する板部材において、隣り合う凹凸部における凸部の向きが板部材の表面垂直方向に対して相互逆向きとなるように前記凹凸部が配置されてなることが好適であり、第1板部材における前記底部と前記切り込み部とを結ぶ仮想中心線と並行する位置、及び/又は第2板部材における前記底部と前記切り込み部とを結ぶ仮想中心線と並行する位置に、板部材の表面垂直方向に0.05~3mmの段差からなる補強領域を有することが好適である。また、デッキプレート合成スラブ造用である鉄筋スペーサーが好適な実施態様であり、前記鉄筋スペーサーを構成する第1板部材と第2板部材とからなる鉄筋スペーサー用板部材キットが好適な実施態様である。
【0010】
上記課題は、前記鉄筋スペーサーの製造方法であって、金属板に対してプレス工程により凹凸部を形成してから、打ち抜き工程により開口部と切り込み部を形成することにより第1板部材と第2板部材を得て、得られた第1板部材と第2板部材とが互いに直交するように切り込み部で組み合わせる方法を提供することによっても解決される。
【0011】
また、上記課題は、前記鉄筋スペーサーを用いて溶接金網を保持して鉄筋かぶり厚さを一定に保つ鉄筋保持工法であって、溶接金網において鉄筋が交差していない鉄筋部分に対し、鉄筋スペーサーの開口部に1本の鉄筋が嵌合するように前記鉄筋スペーサーを溶接金網の上方から押し込み、溶接金網を上方に持ち上げることにより、前記鉄筋スペーサーが開口部を支点に回転して溶接金網の下方に設置されることを特徴とする鉄筋保持工法を提供することによっても解決される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の鉄筋スペーサーは、第1板部材と第2板部材とが互いに直交するように切り込み部で組み合わせて構成されるものであり、簡単に組み付けできるとともに、第1板部材と第2板部材が外れるのを防止することができる。特に、第1板部材1及び第2板部材2の素材が金属である場合、打ち抜き工程で使用される打ち抜き刃の耐久性が良好であるため、鉄筋スペーサーの大量生産に好適である。そして、鉄筋スペーサーの開口部で保持された鉄筋は外れにくく、鉄筋かぶり厚さを一定に保持することができるため、打設後のコンクリートのひび割れを効果的に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の鉄筋スペーサーを構成する第1板部材の一例を示した図である。
【
図2】本発明の鉄筋スペーサーを構成する第1板部材と第2板部材の一例を示した図、並びにA-A、B-B、C-C、A’-A’、B’-B’及びC’-C’断面を示した図である。
【
図3】本発明の鉄筋スペーサーを構成する第1板部材と第2板部材とが互いに直交するように配置した一例を示した図である。
【
図4】本発明の鉄筋スペーサーの一例を示した図である。
【
図5】本発明における鉄筋保持工法の実施態様の一例を示した図である。
【
図6】本発明の鉄筋スペーサーを構成する第1板部材と第2板部材の他の一例を示した図、並びにD-D、E-E、F-F、D’-D’、E’-E’及びF’-F’断面を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明を具体的に説明する。
図1は、本発明の鉄筋スペーサー3を構成する第1板部材1の一例を示した図であり、
図2及び6は、本発明の鉄筋スペーサー3を構成する第1板部材1と第2板部材2の一例をそれぞれ示した図、並びに各断面を示した図である。また、
図3は、第1板部材1と第2板部材2とが互いに直交するように配置した一例を示した図であり、
図4は、本発明の鉄筋スペーサー3の一例を示した図である。
図5は、本発明の鉄筋保持工法の実施態様の一例を示した図である。
【0015】
図1に示されるように、第1板部材1は、底部10が略半円弧状の開口部4を有し、前記底部10と対向する位置から板部材の中心方向に向けて切り込み部6を有し、前記切り込み部6の側面に少なくとも1つの突起8を有し、第1板部材1における開口部4の側面に開口部4のスリット幅を狭くする突出領域5を有し、前記突出領域5の長さが0.05~3mm未満であり、第1板部材1における前記底部10と前記切り込み部6とを結ぶ仮想中心線上に、少なくとも1つの凹凸部12を有する。
【0016】
図2の下段に示されるように、第2板部材2は、底部10が略半円弧状の開口部4を有し、前記底部10から板部材の中心方向に向けて切り込み部7を有し、前記切り込み部7の側面に少なくとも1つの突起8を有し、第2板部材2の開口部4の側面に開口部4のスリット幅を狭くする突出領域5を有し、前記突出領域5の長さが0.05~3mm未満であり、第2板部材2における前記底部10と前記切り込み部7とを結ぶ仮想中心線上に、少なくとも1つの凹凸部12を有する。
【0017】
そして、
図3に示されるように、第1板部材1と第2板部材2とが互いに直交するように切り込み部6,7で組み合わせることにより鉄筋スペーサー3が構成される。こうして得られる鉄筋スペーサー3により、後述する鉄筋保持工法を提供することができる。なお、本発明において溶接金網は、格子状の鉄筋を意味する。
【0018】
本発明の鉄筋スペーサー3において、第1板部材1における前記切り込み部6の側面、及び/又は第2板部材2における前記切り込み部7の側面に、少なくとも1つの突起8を有する。そして、第1板部材1における前記底部10と前記切り込み部6とを結ぶ仮想中心線上、及び第2板部材2における前記底部10と前記切り込み部7とを結ぶ仮想中心線上に、少なくとも1つの凹凸部12を有する。このような構成を採用することにより、第1板部材1と第2板部材2とを切り込み部6,7で組み合わせた際に、第1板部材1における当該突起8と第2板部材2における凹凸部12とが噛み合うとともに、第2板部材2における当該突起8と第1板部材1における凹凸部12とが噛み合い、第1板部材1と第2板部材2が外れるのを防止することができる。本発明者らが検討したところ、金属板からなる第1板部材1と第2板部材2に対し、切り込み部6,7を打ち抜き工程により形成した場合、切り込み部6,7の幅の寸法が小さいと打ち抜き刃の耐久性に問題が生じることが明らかとなった。一方で、切り込み部6,7の幅の寸法を一定以上とすると、打ち抜き刃の耐久性の問題は解決されるが、第1板部材1と第2板部材2とを組み合わせた際に切り込み部6,7でのあそびが大きくなり、第1板部材1と第2板部材2とのずれが問題になることが明らかとなった。したがって、上記構成を採用する意義は大きい。
【0019】
第1板部材1における前記切り込み部6の側面、及び/又は第2板部材2における前記切り込み部7の側面に、少なくとも一対の突起8を有することが好適な実施態様である。前記突起8の大きさとしては特に限定されないが、0.1mm以上1.5mm以下であることが好ましい。突起8の大きさが0.1mm未満の場合、突起8の形成が困難となるおそれがあり、0.2mm以上であることがより好ましく、0.3mm以上であることが更に好ましい。一方、突起8の大きさが1.5mmを超える場合、第1板部材1と第2板部材2との組付けが困難になるおそれがあり、1.2mm以下であることがより好ましく、1mm以下であることが更に好ましく、0.8mm以下であることが特に好ましい。
【0020】
また、第1板部材1における前記底部10と前記切り込み部6とを結ぶ仮想中心線上、及び/又は第2板部材2における前記底部10と前記切り込み部7とを結ぶ仮想中心線上に、複数の凹凸部12を有することが好適な実施態様である。このように複数の凹凸部12を有することにより、第1板部材1と第2板部材2とを切り込み部6,7で組み合わせた際に、当該凹凸部12と当該突起8とがうまく噛み合って切り込み部6,7でのあそびが小さくなり、第1板部材1と第2板部材2とのずれを防止することが可能となる。このとき、複数の凹凸部12を有する板部材において、隣り合う凹凸部12における凸部の向きが板部材の表面垂直方向に対して相互逆向きとなるように前記凹凸部12が配置されてなることがより好適な実施態様である。このように、相互逆向きとなるように凹凸部12が配置されることにより、第1板部材1と第2板部材2との組付けが容易になるとともに、第1板部材1と第2板部材2とのずれをより防止することが可能となる。
【0021】
本発明において、第1板部材1と第2板部材2におけるそれぞれの凹凸部12の個数としては、1~5個であることが好ましく、2~4個であることがより好ましく、3個であることが更に好ましい。前記凹凸部12の幅としては特に限定されず、切り込み部6,7の幅以上であればよい。前記凹凸部12の幅は、6mm以上30mm以下であることが好ましく、7mm以上25mm以下であることがより好ましい。前記凹凸部12の高さとしても特に限定されず、0.5mm以上5mm以下であることが好ましく、1mm以上3mm以下であることがより好ましい。
【0022】
本発明の鉄筋スペーサー3は、第1板部材1と第2板部材2とが互いに直交するように切り込み部6,7で組み合わせることにより構成されるため、第1板部材1及び第2板部材2の大きさによって、鉄筋15の位置を調整することが可能である。鉄筋コンクリート構造物のコンクリート厚さと鉄筋15の位置は構造強度、腐食や耐火から鉄筋15を保護するかぶりコンクリート厚さから設計され、施工では設計通りに組み立て、コンクリートの打設時に鉄筋15の位置が移動しないように確保することが重要である。鉄筋かぶり厚さとしては、20mm以上100mm以下に保つことが好ましい。鉄筋かぶり厚さが20mm未満の場合、鉄筋腐食の危険性が大きくなるおそれがある。鉄筋かぶり厚さは25mm以上であることがより好ましく、30mm以上であることが更に好ましい。耐火を考慮すると30mm以上の鉄筋かぶり厚さが必要となる。一方、鉄筋かぶり厚さが100mmを超える場合、施工後のコンクリートにひび割れが生じるおそれがあり、鉄筋かぶり厚さは80mm以下であることがより好ましく、50mm以下であることが更に好ましい。
【0023】
第1板部材1及び第2板部材2の形や大きさとしては、鉄筋かぶり厚さを一定範囲に保つことが可能な形や大きさであれば特に限定されない。形としては、略正方形、略台形、略長方形等を好適に使用することができる。中でも、鉄筋スペーサー3の強度と重量のバランスが良好である観点から、略台形であることが好ましい。また、後述する鉄筋保持工法において、溶接金網を上方に持ち上げた際に、鉄筋スペーサー3が開口部4を支点に回転し易く、溶接金網の下方への設置が容易となる観点から、略台形であることが好ましい。第1板部材1及び第2板部材2において、底辺方向と斜辺方向とのなす角度14が30~90度であることが好ましく、40~80度であることがより好ましく、概ね45度であることが更に好ましい。特に、45度の角度14が加工時にロスが出ないので好ましい。第1板部材1及び第2板部材2の大きさとしては、高さが30mm以上100mm以下であることが好ましく、幅が30mm以上100mm以下であることが好ましい。
【0024】
第1板部材1及び第2板部材2の厚みとしては、鉄筋スペーサー3が鉄筋15を保持できるのであれば特に限定されない。前記厚みとしては、0.6mm以上3mm以下であることが好ましい。前記厚みが0.6mm未満の場合、鉄筋スペーサー3の強度が不足するおそれがあり、0.8mm以上であることがより好ましく、1mm以上であることが更に好ましく、1.2mm以上であることが特に好ましい。一方、前記厚みが3mmを超える場合、鉄筋スペーサー3の重量が増加し、現場で多量に持ち運ぶことが困難となるおそれがあるとともに、コスト高となるおそれがある。前記厚みは、2mm以下であることがより好ましく、1.8mm以下であることが更に好ましく、1.5mm以下であることが特に好ましい。
【0025】
第1板部材1及び第2板部材2の素材としては、鉄筋スペーサー3が鉄筋15を保持できるのであれば特に限定されない。鉄鋼、ステンレス、アルミニウム合金、チタン、チタン合金、マグネシウム、マグネシウム合金などの金属を用いてもよいし、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリスチレンなどの樹脂を用いてもよい。加工し易く強度が良好であり耐火性も良好である観点から、金属であることが好ましい。
【0026】
第1板部材1及び第2板部材2は、それぞれ底部10が略半円弧状の開口部4を有する。前記開口部4の大きさとしては、鉄筋15を保持することができる大きさであれば特に限定されない。鉄筋15の直径が6mmの場合、開口部4の表面から底部10までの高さが4mm以上12mm以下であることが好ましい。前記高さが4mm未満の場合、後述する鉄筋保持工法において、鉄筋スペーサー3の開口部4に鉄筋15を嵌合させることが困難となるおそれがあり、前記高さは5mm以上であることがより好ましい。一方、前記高さが12mmを超える場合、溶接金網を上方に持ち上げた際に開口部4から鉄筋15が外れてしまうおそれがあり、前記高さは10mm以下であることがより好ましく、8mm以下であることが更に好ましい。第1板部材1及び第2板部材2において、開口部4における底部10の形状は、略半円弧状である。略半円弧状には、円を半分にした場合の半円弧状だけでなく、楕円を半分にした場合の半楕円弧状であってもよい。鉄筋15に鉄筋スペーサー3が保持されやすくなる観点から、前記開口部4の底部10の形状が、略半楕円弧状であることが好ましい。
【0027】
また、鉄筋15の直径が6mmの場合、開口部4の幅が7mm以上18mm以下であることが好ましい。開口部4の幅が7mm未満の場合、開口部4に鉄筋15を嵌合させることが困難となるおそれがあり、開口部4の幅は8mm以上であることがより好ましい。一方、開口部4の幅が18mmを超える場合、溶接金網を上方に持ち上げた際に開口部4から鉄筋15が外れてしまうおそれがあり、開口部4の幅は15mm以下であることがより好ましく、12mm以下であることが更に好ましく、10mm以下であることが特に好ましい。
【0028】
本発明において、第1板部材1の開口部4と第2板部材2の開口部4のそれぞれの側面に、開口部4のスリット幅を狭くする突出領域5を有し、前記突出領域5の長さが0.05~3mm未満であることを特徴とする。このように、前記突出領域5の長さを0.05~3mm未満とすることで、鉄筋スペーサー3に保持された鉄筋15が外れにくく、鉄筋かぶり厚さを一定に保持することができるため、打設後のコンクリートのひび割れを効果的に抑制することが可能となる。また、後述する鉄筋保持工法において、鉄筋スペーサー3を溶接金網の上方から押し込んだ際に、鉄筋スペーサー3の開口部4に1本の鉄筋15が嵌合し、溶接金網を上方に持ち上げることにより、鉄筋スペーサー3が開口部4を支点に回転して溶接金網の下方に設置される工法を提供することが可能となる。前記突出領域5の長さが0.05mm未満の場合、加工が困難であるとともに、突出領域5が削れてなくなってしまい、溶接金網を上方に持ち上げた際に開口部4から鉄筋15が外れてしまうおそれがある。前記突出領域5の長さは0.1mm以上であることが好ましく、0.2mm以上であることがより好ましく、0.3mm以上であることが更に好ましい。一方、前記突出領域5の長さが3mm以上の場合、鉄筋スペーサー3の開口部4に1本の鉄筋15を嵌合させにくくなる。前記突出領域5の長さは2.5mm以下であることが好ましく、1.8mm以下であることがより好ましく、1.6mm以下であることが更に好ましく、1.4mm以下であることが特に好ましい。
【0029】
第1板部材1の開口部4と第2板部材2の開口部4のそれぞれの側面において、開口部4の凹部11の先端を含む仮想平面と突出領域5の表面との差tが0.05mm以上5mm以下であることが好ましい。前記差tがこのような範囲にあることにより、後述する鉄筋保持工法において、鉄筋スペーサー3を溶接金網の上方から押し込んだ際に、鉄筋スペーサー3の開口部4に1本の鉄筋15がスムーズに嵌合し、保持された鉄筋15が外れにくくなる利点を有する。前記差tは0.1mm以上であることがより好ましく、0.15mm以上であることが更に好ましく、0.3mm以上であることが特に好ましい。一方、前記差tは3mm以下であることがより好ましく、1.8mm以下であることが更に好ましく、1.2mm以下であることが特に好ましく、1mm以下であることが最も好ましい。
【0030】
第1板部材1の開口部4及び第2板部材2の開口部4において、開口部4の角部9が曲面状であることが好ましい。このことにより、後述する鉄筋保持工法において、鉄筋スペーサー3を溶接金網の上方から押し込んだ際に、鉄筋スペーサー3の開口部4に1本の鉄筋15がスムーズに嵌合し、作業効率が良好となる利点を有する。
【0031】
本発明において、第1板部材1は、底部10と対向する位置から板部材の中心方向に向けて切り込み部6を有し、第2板部材2は、底部10から板部材の中心方向に向けて切り込み部7を有する。切り込み部6,7の形や大きさとしては、第1板部材1と第2板部材2とが互いに直交するように切り込み部6,7で組み合わせて鉄筋スペーサー3を形成することが可能な形や大きさであれば特に限定されない。形としては、略長方形の切り込み部6,7であることが好ましい。切り込み部6,7の長さとしては特に限定されず、第1板部材1及び第2板部材2の大きさによって適宜調整することが好ましい。具体的には、4mm以上30mm以下であることが好ましく、6mm以上25mm以下であることがより好ましい。
【0032】
切り込み部6,7の幅としては特に限定されず、1.5mm以上6mm以下であることが好ましい。本発明者らが検討したところ、金属板からなる第1板部材1と第2板部材2に対し、切り込み部6,7を打ち抜き工程により形成した場合、切り込み部6,7の幅の寸法によって打ち抜き刃の耐久性に問題が生じることが明らかとなった。かかる観点から、切り込み部6,7の幅は、1.8mm以上であることがより好ましく、2mm以上であることが更に好ましく、2.5mm以上であることが特に好ましく、3mm以上であることが最も好ましい。一方、切り込み部6,7の幅は、5mm以下であることがより好ましく、4mm以下であることが更に好ましい。
【0033】
本発明において、第1板部材1における前記底部10と前記切り込み部6とを結ぶ仮想中心線と並行する位置、及び/又は第2板部材2における前記底部10と前記切り込み部7とを結ぶ仮想中心線と並行する位置に、板部材の表面垂直方向に0.05~3mmの段差からなる補強領域13を有することが好適な実施態様である。このような段差からなる補強領域13を有することで、第1板部材1と第2板部材2とを組み合わせて得られる鉄筋スペーサー3の強度を向上させることができる。鉄筋スペーサー3の強度が向上すれば、第1板部材1及び第2板部材2の厚みを小さくすることができ、現場で多量に鉄筋スペーサー3を持ち運ぶことやコスト削減が実現可能となる。前記段差としては、0.1~2.5mmであることがより好ましく、0.5~2mmであることが更に好ましい。
【0034】
本発明の鉄筋スペーサー3の製造方法としては特に限定されない。第1板部材1及び第2板部材2の素材が金属である場合、第1板部材1及び第2板部材2における開口部4と切り込み部6,7を打ち抜き工程により形成することが好ましい。また、第1板部材1及び第2板部材2における凹凸部12はプレス工程により形成することが好ましい。本発明者らの検討により、開口部4と切り込み部6,7を打ち抜き工程により形成してから、凹凸部12をプレス工程により形成すると、得られる第1板部材1と第2板部材2に歪みが生じることが明らかとなった。したがって、金属板に対してプレス工程により凹凸部12を形成してから、打ち抜き工程により開口部4と切り込み部6,7を形成することにより第1板部材1と第2板部材2を得ることが好適な実施態様である。そして、得られた第1板部材1と第2板部材2とが互いに直交するように切り込み部6,7で組み合わせる方法により、本発明の鉄筋スペーサー3を好適に製造することができる。
【0035】
本発明の鉄筋スペーサー3により、鉄筋かぶり厚さを一定に保つ鉄筋保持工法を提供することができる。すなわち、溶接金網において鉄筋15が交差していない鉄筋部分に対し、鉄筋スペーサー3の開口部4に1本の鉄筋15が嵌合するように鉄筋スペーサー3を溶接金網の上方から押し込み、溶接金網を上方に持ち上げることにより、鉄筋スペーサー3が開口部4を支点に回転して溶接金網の下方に設置されることを特徴とする鉄筋保持工法を提供することができる。本発明による鉄筋保持工法は、鉄筋15が交差していない鉄筋部分に対し、溶接金網の上方から鉄筋スペーサー3を押し込み、溶接金網を上方に持ち上げるだけで、鉄筋スペーサー3が開口部4を支点に回転して溶接金網の下方に設置されて鉄筋15を保持することができるため、鉄筋スペーサー3の設置場所の自由度が大きく、施工性に優れるものである。そして、鉄筋スペーサー3の開口部4で保持された鉄筋15は、溶接金網等の格子状の鉄筋15の上を作業者が歩いたりした場合であっても外れにくく、鉄筋かぶり厚さを一定に保持することができるため、打設後のコンクリートのひび割れを効果的に抑制することが可能となる。本発明の鉄筋スペーサー3は、鉄筋コンクリート造(RC造)、デッキプレート合成スラブ造などの用途に好適に用いることができる。中でも、デッキプレート合成スラブ造用としてより好適に用いることができる。また、本発明の鉄筋スペーサー3を構成する第1板部材1と第2板部材2とからなる鉄筋スペーサー3用板部材キットも好適な実施態様である。
【符号の説明】
【0036】
1 第1板部材
2 第2板部材
3 鉄筋スペーサー
4 開口部
5 突出領域
6 切り込み部
7 切り込み部
8 突起
9 角部
10 底部
11 凹部
12 凹凸部
13 補強領域
14 角度
15 鉄筋
t 開口部の凹部の先端を含む仮想平面と突出領域の表面との差