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特許7366374免疫チェックポイント阻害剤の効果予測方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】免疫チェックポイント阻害剤の効果予測方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20231016BHJP
【FI】
G01N33/53 Y
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020550446
(86)(22)【出願日】2019-10-01
(86)【国際出願番号】 JP2019038721
(87)【国際公開番号】W WO2020071354
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2018187856
(32)【優先日】2018-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(73)【特許権者】
【識別番号】300061835
【氏名又は名称】公益財団法人神戸医療産業都市推進機構
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】田中 義正
(72)【発明者】
【氏名】千住 博明
(72)【発明者】
【氏名】迎 寛
(72)【発明者】
【氏名】福島 雅典
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-128555(JP,A)
【文献】国際公開第2016/098904(WO,A1)
【文献】特開2010-017134(JP,A)
【文献】WISTUBA-HAMPRECHT, Kilian,Proportions of blood-borne Vδ1+ and Vδ2+ T-cells are associated with overall survival of melanoma,Eur J Cancer,2016年09月,64,116-126,https://doi.org/10.1016/j.ejca.2016.06.001,Abstract及び第9頁第26~40行
【文献】株式会社テクノ・スズタ,N-SPC(C) ヒトγδ型T細胞増殖キット,2018年,https://www.technosuzuta.co.jp/publics/index/192/,使用例
【文献】株式会社テクノ・スズタ,N-SPC(C) γδ型T細胞増殖キット 発売しました。,TOPIX,2018年10月01日,https://www.technosuzuta.co.jp/publics/index/1/block721_limit=20#block721
【文献】WISTUBA-HAMPRECHT, Kilian,OMIP-020: Phenotypic Characterization of Human γδ T-cells by Multicolor Flow Cytometry,Cytometry Part A,2014年06月,85A,522-524,https://doi.org/10.1002/cyto.a.22470,Purpose and Appropriate Sample Type及び図1
【文献】TANAKA, Yoshimasa,Anti-Tumor Activity and Immunotherapeutic Potential of a Bisphosphonate Prodrug,Sci Rep,2017年07月20日,7:5987,1-13,https://doi.org/10.1038/s41598-017-05553-0,γδ T cell activation assay及び図5
【文献】TANAKA, Yoshimasa,Expansion of human γδ T cells for adoptive immunotherapy using a bisphosphonate prodrug,Cancer Sci.,2018年03月,109,587-599,https://doi.org/10.1111/cas.13491,2.6 Flow cytometric analysis及び図2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48~33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫チェックポイント阻害剤による重症間質性肺炎の発症リスクを予測するための方法であって、
(a)被験者から単離された末梢血単核球におけるVδ2+γδT細胞の細胞数又は割合

(b)被験者から単離された末梢血単核球におけるVδ2+γδT細胞の抗原刺激後の細
胞数又は割合、
(c)被験者から単離された末梢血T細胞におけるVδ2+γδT細胞の細胞数又は割合
、及び
(d)被験者から単離された末梢血T細胞におけるVδ2+γδT細胞の抗原刺激後の細
胞数又は割合、から選ばれるいずれか1又は2以上を測定すること、を含む方法。
【請求項2】
前記細胞数又は割合がカットオフ値以上であることが、当該被験者は重症間質性肺炎の発症リスクが高いことを示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
抗原刺激後の細胞が凝集を生じることが、当該被験者は重症間質性肺炎の発症リスクが高いことを示す、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
免疫チェックポイント阻害剤による治療の適否の判定を補助するための方法であって、
(a)被験者から単離された末梢血単核球におけるVδ2 + γδT細胞の細胞数又は割合

(b)被験者から単離された末梢血単核球におけるVδ2 + γδT細胞の抗原刺激後の細
胞数又は割合、
(c)被験者から単離された末梢血T細胞におけるVδ2 + γδT細胞の細胞数又は割合
、及び
(d)被験者から単離された末梢血T細胞におけるVδ2 + γδT細胞の抗原刺激後の細
胞数又は割合、
から選ばれるいずれか1又は2以上を測定することを含み、
(1)前記細胞数又は割合がカットオフ値以上であること、及び/又は
(2)抗原刺激後の細胞が凝集を生じることが、
当該被験者は重症間質性肺炎の発症リスクが高いことを示し
前記発症リスクが高いことが、免疫チェックポイント阻害剤による治療が不適であることを示す、方法。
【請求項5】
前記γδT細胞の抗原刺激が、IL-2、リン酸モノエステル化合物、ピロリン酸モノエステル化合物、トリリン酸モノエステル化合物、テトラリン酸モノエステル化合物、トリリン酸ジエステル化合物、テトラリン酸ジエステル化合物、窒素含有型ビスホスホン酸化合物、アルキルアミン、アルキルアルコール、アルケニルアルコール、イソプレニルアルコール、及びヒト由来腫瘍細胞から選ばれるいずれか1又は2以上の抗原を用いて行われる、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記抗原刺激に加えて、IL-18、IL-2、IL-7、IL-12、IL-15、IL-21、IL-23、インターフェロンγ、及び末梢血コンディション培地から選ばれるいずれか1又は2以上を用いてγδT細胞を刺激する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
細胞数又は割合が、フローサイトメトリー又はイメージサイトメトリーを用いて測定される、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
(i)抗CD3抗体、及び(ii)抗Vδ2抗体を含む、免疫チェックポイント阻害剤による重症間質性肺炎の発症リスクを判定するためのキット。
【請求項9】
さらに、
(iii)ピロリン酸モノエステル誘導体、又は窒素含有ビスホスホン酸誘導体、及び
(iv)IL-18、
から選ばれる1又は2以上を含む、請求項8に記載のキット。
【請求項10】
免疫チェックポイント阻害剤による治療の適否を判定するために使用される、請求項8又は9に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願:
本明細書は、本願の優先権の基礎である特願2018-187856号(2018年10月3日出願)の明細書に記載された内容を包含する。
技術分野:
本発明は、免疫チェックポイント阻害剤によるがん免疫療法の適否を判定する方法、及び前記方法のためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
次世代のがん標準治療法として、免疫チェックポイント阻害剤を利用した“がん免疫療法”が期待されている。免疫チェックポイントとは、がん細胞を認識し排除する自然の免疫防御機構を制御する分子である。PD-1は、免疫エフェクター細胞上に発現し、抗原提示細胞に発現するPD-L1やPD-L2と結合して、免疫防御機構を負に制御する、免疫チェックポイントとして機能する。
【0003】
多くのがん細胞は、T細胞のシグナルを制御することで免疫防御機構を回避するシステムを有し、PD-1リガンドであるPD-L1の発現と予後不良の間には相関があることが知られている(非特許文献1)。抗PD-1抗体等を利用したPD-1免疫チェックポイント阻害による抗がん剤の開発も進められているが、その作用機序には不明な点が多く、また単独での奏効率は5~30%程度にすぎない。一方で、間質性肺炎など有害事象を発症する例もあり、投薬後の管理も重要である。
【0004】
免疫チェックポイント阻害剤の効果を予測するバイオマーカーの探索も行われており、免疫グロブリン、CD5Lおよびゲルソリンの血中濃度が抗PD-1抗体の効果判定マーカーとして使用できること(特許文献1)や、特定のmiRNAがPD-1阻害剤の感受性予測に利用できること(特許文献2)が報告されている。しかし、免疫チェックポイント阻害剤による治療の適否を判定する方法は未だ確立していない。
【0005】
免疫チェックポイント阻害剤による治療の適否を予測・評価することは、その奏効率を高め、適切な患者に適切な医療を届ける精密医療を実現させるという点で、患者の安全はもちろん、医療行政の面からも望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2010/001617
【文献】特開2016-64989号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Hamanishi J. et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2007 Feb 27; 104(9):3360-5. Epub 2007 Feb 21.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、免疫チェックポイント阻害剤による重症性間質性肺炎を発症するリスクを予測し、免疫チェックポイント阻害剤による治療の適否を診断することで、その奏効率を高め、より安全で効果の高いがん免疫療法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
免疫チェックポイントは、免疫システムの中で2段階で作用している。一つは、Th0細胞が抗原提示細胞の抗原を最初に認識し、Th1細胞、Th2細胞、Th17細胞などに分化する際にそれを負に制御するプライミングフェーズでの作用である。このプライミングフェーズでの、免疫チェックポイントとしてはCTLA-4/CD80/CD86が知られており、T細胞がある抗原を認識するかしないかを決定する。もう一つは、腫瘍細胞や感染細胞を免疫エフェクター細胞が障害するエフェクターフェーズでの作用である。このフェーズでの免疫チェックポイントとしては、PD-1/PD-L1/PD-L2が知られており、T細胞が腫瘍細胞や感染細胞を傷害するかしないかを決定する。細胞障害活性を有する免疫エフェクター細胞としては、CD8陽性T細胞(キラー細胞)、γδT細胞、NK細胞、などが知られている。NK細胞はγδT細胞とCD8陽性T細胞を増殖させ、γδT細胞とNK細胞は、標的細胞を傷害後、抗原提示分子(MHCクラスI及びII)と抗原ペプチド複合体を細胞表面に提示し、それに反応してαβT細胞が感作され、抗原特異性を獲得し、腫瘍細胞や感染細胞を傷害する。
【0010】
発明者らは、PD-1免疫チェックポイント阻害剤の効果は、患者のエフェクター細胞の数とその機能に関連すると考え、抗PD-1抗体(ニボルマブ)の治療を受けたがん患者の末梢血中のエフェクター細胞の数、増殖能、及び腫瘍細胞障害活性と有害事象及び奏効率との関係を調べた。そして、エフェクター細胞であるγδT細胞(Vδ2γδT細胞)の末梢血単核球中の細胞数又は割合を測定することで、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による重症性間質性肺炎などの有害事象の発症リスクを予測できることを見出した。エフェクター細胞であるγδT細胞は、刺激を受けた後、HLA-DR、HLA-DQ、CD80、CD86などの抗原提示細胞関連分子を発現し、αβT細胞に対して抗原提示を行うことが知られており、2次的なプライミングフェーズで作用することが示唆されている。このことから、本発明知見は、PD-1免疫チェックポイント阻害剤だけでなく、2次的なプライミングフェーズで作用するCTLA-4阻害剤による重症間質性肺炎などにも適用可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は以下の[1]~[13]を提供する。
[1]免疫チェックポイント阻害剤による重症間質性肺炎の発症リスクを予測する方法であって、
(a)被験者から単離された末梢血単核球におけるVδ2γδT細胞の細胞数又は割合、
(b)被験者から単離された末梢血単核球におけるVδ2γδT細胞の抗原刺激後の細胞数又は割合、
(c)被験者から単離された末梢血T細胞におけるVδ2γδT細胞の細胞数又は割合、及び
(d)被験者から単離された末梢血T細胞におけるVδ2γδT細胞の抗原刺激後の細胞数又は割合、から選ばれるいずれか1又は2以上を測定すること、及び
前記細胞数又は割合に基づいて重症間質性肺炎の発症リスクを判断すること、を含む方法。
前記方法では、比較的急性でびまん性肺胞傷害(diffuse alveolar damage:DAD)を伴う間質性肺炎(重症間質性肺炎)をそれ以外の(例えば器質化肺炎(organizing pneumonia:OP)を伴う)間質性肺炎と鑑別して、その発症を予測することができる。
[2]前記細胞数又は割合がカットオフ値以上である場合に、当該被験者は重症間質性肺炎の発症リスクが高いと予測することを特徴とする、[1]に記載の方法。
[3]抗原刺激後の細胞数又は割合が高く、抗原刺激後の細胞が凝集を生じる場合に、当該被験者は重症間質性肺炎の発症リスクが高いと予測することを特徴とする、[1]に記載の方法。
[4]免疫チェックポイント阻害剤による治療の適否を判定する方法であって、請求項1~3に記載の方法にしたがい重症間質性肺炎の発症リスクを予測し、前記予測に基づき免疫チェックポイント阻害剤による治療の適否を判定する方法。
[5]前記γδT細胞の抗原刺激が、IL-2、リン酸モノエステル化合物、ピロリン酸モノエステル化合物、トリリン酸モノエステル化合物、テトラリン酸モノエステル化合物、トリリン酸ジエステル化合物、テトラリン酸ジエステル化合物、窒素含有型ビスホスホン酸化合物、アルキルアミン、アルキルアルコール、アルケニルアルコール、イソプレニルアルコール、及びヒト由来腫瘍細胞から選ばれるいずれか1又は2以上の抗原を用いて行われる、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記抗原刺激に加えて、IL-18、IL-2、IL-7、IL-12、IL-15、IL-21、IL-23、インターフェロンγ、及び末梢血コンディション培地から選ばれるいずれか1又は2以上を用いてγδT細胞を刺激する、[5]に記載の方法。
[7]細胞数又は割合が、フローサイトメトリー又はイメージサイトメトリーを用いて測定される、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8](i)抗CD3抗体、及び(ii)抗Vδ2抗体を含む、免疫チェックポイント阻害剤による治療の適否を判定するためのキット。
[9]さらに、
(iii)ピロリン酸モノエステル誘導体、又は窒素含有ビスホスホン酸誘導体、及び
(iv)IL-18、
から選ばれる1又は2以上を含む、[8]に記載のキット。
[10]免疫チェックポイント阻害剤による重症間質性肺炎の発症リスクの診断を補助するための方法であって、
(a)被験者から単離された末梢血単核球におけるVδ2γδT細胞の細胞数又は割合、
(b)被験者から単離された末梢血単核球におけるVδ2γδT細胞の抗原刺激後の細胞数又は割合、
(c)被験者から単離された末梢血T細胞におけるVδ2γδT細胞の細胞数又は割合、及び
(d)被験者から単離された末梢血T細胞におけるVδ2γδT細胞の抗原刺激後の細胞数又は割合、から選ばれるいずれか1又は2以上を測定することを含み、
ここで、重症間質性肺炎の発症リスクは前記細胞数又は割合に基づいて決定される、方法。
[11]免疫チェックポイント阻害剤による重症間質性肺炎の発症リスクを予測し、免疫チェックポイント阻害剤により治療するための方法であって、
(a)被験者から単離された末梢血単核球におけるVδ2γδT細胞の細胞数又は割合、
(b)被験者から単離された末梢血単核球におけるVδ2γδT細胞の抗原刺激後の細胞数又は割合、
(c)被験者から単離された末梢血T細胞におけるVδ2γδT細胞の細胞数又は割合、及び
(d)被験者から単離された末梢血T細胞におけるVδ2γδT細胞の抗原刺激後の細胞数又は割合、から選ばれるいずれか1又は2以上を測定すること、
前記細胞数又は割合に基づいて重症間質性肺炎の発症リスクを予測すること、及び
前記予測にしたがい免疫チェックポイント阻害剤による治療を行う(例えば、発症リスクが高い被験者を除外して免疫チェックポイント阻害剤の投与を行う、あるいは発症リスクが高い患者には所定の措置を講じて免疫チェックポイント阻害剤の投与を行う)ことを含む、方法。
[12]被験者が、肺がん患者である、[1]~[7]、[10]、及び[11]のいずれかに記載の方法。
[13]免疫チェックポイント阻害剤を含有する医薬組成物であって、重症間質性肺炎の発症を抑制し、腫瘍を治療または予防するために使用され、[1]~[7]のいずれかに記載の方法により重症間質性肺炎の発症リスクが少ないと判断される被験者に用いることを特徴とする医薬組成物。
上記[1]~[13]において、免疫チェックポイント阻害剤は、好ましくはPD-1免疫チェックポイント阻害剤である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、免疫チェックポイント阻害剤による重症間質性肺炎の発症リスクを投与前に予測し、治療の適否を判定することで、適切な患者に適切な医薬を提供する精密医療が実現される。本発明の方法は、患者から採取したわずかな末梢血を用いて実施できるため患者の負担が少なく、しかもフローサイトメトリー等を用いることで迅速かつ簡便に診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、健常人末梢血単核球におけるγδT細胞の割合をフローサイトメトリーで解析した結果を示す。
図2図2は、PTA及びIL-2で増殖誘導したときの健常人末梢血単核球におけるγδT細胞の割合をフローサイトメトリーで解析した結果を示す(左:Day0、右Day11)。(A)Vδ2型γδT細胞のDay0における割合が5.57%であった健常人、(B)Vδ2型γδT細胞のDay0における割合が10.35%であった健常人。
図3図3は、肺がん患者におけるγδT細胞の割合をフローサイトメトリーで解析した結果を示す。
図4図4は、PTA及びIL-2で増殖誘導したときの肺がん患者の末梢血単核球におけるγδT細胞の割合をフローサイトメトリーで解析した結果を示す(左:Day0、右Day11)。(A)Vδ2型γδT細胞のDay0における割合が4.14%であった肺がん患者、(B)Vδ2型γδT細胞のDay0における割合が2.91%であった肺がん患者、(C)Vδ2型γδT細胞のDay0における割合が0.89%であった肺がん患者、(D)Vδ2型γδT細胞のDay0における割合が0.78%であった肺がん患者。
図5図5は、健常人末梢血単核球をZol/IL-2あるいはZol/IL-2/IL-18で刺激したときのγδT細胞の増殖を示す(図中、左:コントロール(培地)、中央:Zol/IL-2、右:Zol/IL-2/IL-18)。
図6図6は、健常人末梢血単核球のCD3陰性画分をIL-2あるいはIL-2/IL-18で刺激したときのNK細胞の増殖を示す(図中、上:IL-2、下:IL-2/IL-18)。
図7図7は、IL-2/IL-18によるNK細胞増殖誘導能とγδT細胞の増殖誘導との関係を混合培養により確認した結果を示す(図中、左:γδT細胞単独培養、中央:NK細胞単独培養、左:NK細胞とγδT細胞の混合培養。NK細胞(赤色)、γδT細胞(緑色)。
図8図8は、抗原刺激後のγδT細胞の増殖誘導メカニズムを示す。
図9図9は、PD1免疫チェックポイント阻害剤によるがん免疫療法と効果予測の概念を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.定義
「免疫チェックポイント阻害剤」
免疫チェックポイント阻害剤とは、CTLA-4/CD80/CD86シグナル伝達系や、PD-1/PD-L1/PD-L2シグナル伝達系などの免疫チェックポイントを阻害し、これにより抗腫瘍効果やウイルスなどの免疫逃避を抑制して抗感染症効果を示す物質を言う。
【0015】
「PD-1(Programmed Death-1)」は、エフェクターT細胞表面に発現し、腫瘍細胞表面に発現するPD-L1と相互作用することで免疫防御機構を負に制御する、いわゆる免疫チェックポイントである。PD-1は、細胞内領域に2つのITIM(Immunoreceptor tyrosine-based inhibition motif)構造を有し、そのC末端側にSHIP-2が結合することにより免疫抑制シグナルが伝達されると考えられている。
「PD-1免疫チェックポイント阻害剤」とは、PD-1が介在する免疫チェックポイント系を阻害する物質を意味する。これにより、「PD-1免疫チェックポイント阻害剤」は、腫瘍細胞による免疫逃避機構を抑制することで抗腫瘍効果を示し、またウイルスや病原微生物の免疫逃避を抑制することで抗感染症効果を示す。
【0016】
一般に、T細胞は、抗原提示細胞上に提示された抗原ペプチド/MHCクラスIあるいはMHCクラスII複合体をT細胞受容体(TCR)依存的に認識する。しかし、このTCR/抗原ペプチド/MHC複合体からのシグナルだけでは、完全な免疫応答は惹起されず、T細胞のプライミングには、TCR/抗原ペプチド/MHC複合体のシグナルに加えて、CD28/CD80/CD86シグナル系が必要である(正の副刺激シグナル)。これに対し、CTLA-4/CD80/CD86シグナル系が作動すると、T細胞の活性化が負に制御される(負の副刺激シグナル)。すなわち、CD28やCTLA-4の副刺激シグナルは、T細胞がある抗原に対して反応するかどうかの最初の段階を規定する。一方、エフェクターフェーズでは、ICOS/ICOSLシグナル系が正の副刺激シグナルとなり、PD-1/PD-L1/PD-L2シグナル系が負の副刺激シグナルとなる。すなわち、PD-1/PD-L1システムは、T細胞が標的細胞を殺すか殺さないかを決定するフェーズにおいて負のシグナル系として機能する。
【0017】
PD-1免疫チェックポイント阻害剤としては、3つの候補、すなわち、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗PD-L2抗体が考えられる。まず、抗PD-1抗体はPD-1とPD-L1との相互作用、そして、PD-1とPD-L2との相互作用の両者を遮断する。一方、抗PD-L1抗体はPD-1とPD-L1との相互作用のみを、抗PD-L2抗体はPD-1とPD-L2との相互作用のみを遮断する。
【0018】
PD-1は活性化した免疫エフェクターT細胞に発現することが知られている。PD-L1とPD-L2は、予後の悪い腫瘍細胞に発現することが知られているが、PD-L2は樹状細胞にも発現している。そのため、抗PD-L1抗体は、活性化T細胞上に発現するPD-1と腫瘍細胞上に発現するPD-L1との相互作用を阻害して、T細胞の免疫抑制を遮断することで、T細胞の抗腫瘍効果を特異的に亢進させることが期待できる。一方、抗PD-L2抗体は、活性化T細胞上に発現するPD-1と腫瘍細胞上に発現するPD-L2との相互作用を阻害するため、T細胞の免疫抑制を遮断するほかに、T細胞上に発現するPD-1と樹状細胞上に発現するPD-L2との相互作用を阻害し、T細胞のプライミングにも影響を与える可能性がある。すなわち、抗PD-L2抗体や抗PD-1抗体はがん特異的な作用に加えて、別の異なる作用を示す可能性がある。このように、理論的には、PD-1免疫チェックポイント阻害剤としては、抗PD-L1抗体が最もがん特異的であり、副作用も小さいと予想されるが、現実の作用については、臨床を踏まえたより詳細な解析が必要である。
【0019】
現在販売あるいは開発中の免役チェックポイント阻害剤のうち、エフェクターフェーズで作用するPD-1免疫チェックポイント阻害剤としては、抗PD-1抗体であるニボルマブ(オプジーボ)、ペムブロリズマブ(キイトルーダ)、ピディリズマブ(CT-011);抗PD-L1抗体であるアテゾリズマブ(MPDL3280A/RG-7446)、Durvalumab(MEDI4736)、アベルマブ(MSB0010718C)、MED10680/AMP-514が挙げられる。他のフェーズで作用する、現在販売あるいは開発中の免疫チェックポイント阻害剤としては、抗CTLA-4抗体であるイピリムマブ(MDX-010)、トレメリムマブ(CP675、206);抗キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KRI)抗体であるリリルマブ(IPH2102/BMS-986015)、抗CD137抗体であるウレルマブ(BMS-663513)、PF-05082566、抗LAG3抗体であるBMS-986016;抗OX40抗体であるMEDI6469等が挙げられる。
【0020】
「間質性肺炎」
間質性肺炎とは肺の間質を炎症や線維化病変の場とする疾患の総称であり、進行して肺が線維化を起こしたものは肺線維症と呼ばれる。間質性肺炎の原因は多岐にわたり、職業・環境性や薬剤などによるもの、膠原病・サルコイドーシスなどの全身性疾患に付随して発症するもの、原因が特定できないものがある。一般的傾向として、急性発症はびまん性肺胞傷害(diffuse alveolar damage:DAD)などの臨床像を取るのに対し、慢性発症では器質化肺炎(organizing pneumonia:OP)の臨床像を示す。OPなどは一般に良好で薬剤中止あるいは副腎皮質ステロイド(ステロイド)の使用で改善することが多いが、DADは治療反応性に乏しく予後不良で、回復しても線維化を残す。
【0021】
「重症間質性肺炎」
本明細書において、重症間質性肺炎とは、比較的急性のDADを伴う間質性肺炎を意味し、急性憎悪を起こし、死に至る危険がある間質性肺炎の症状を意味する。本発明の方法によれば、DADを伴う間質性肺炎と、それ以外の(例えばOPを伴う)間質性肺炎を鑑別して、その発症を予測することができる。
【0022】
「末梢血単核球(PBMC)」
単核球(Mononuclear Cells)とは全身の結合組織、血中、リンパ組織に広く分布する単核の間葉系細胞群の総称で、組織中のマクロファージ、その前駆細胞である単球、リンパ球が含まれる。本発明にかかる「末梢血単核球(Peripheral Blood Mononuclear Cells: PBMC)」とは、末梢血に存在する単核球であり、主として単球とリンパ球からなる。末梢血単核球は公知の方法により、あるいは市販のキット等を用いて、単離することができる。
【0023】
「腫瘍細胞障害活性」
「腫瘍細胞障害活性」とは、腫瘍細胞に対して、死、機能障害、増殖阻害を与える機能を意味する。NK細胞は、腫瘍細胞表面のリガンドとγδT細胞は、細胞内IPP濃度の高い腫瘍細胞に対して、高い細胞障害性を示し、IFN-γやTNF-αなどのサイトカインを産生し、抗腫瘍細胞活性を示す。腫瘍細胞傷害性を有する「エフェクターT細胞」としては、αβT細胞、γδT細胞、NK細胞が知られている。
【0024】
「αβT細胞」
「αβT細胞」は、α鎖とβ鎖の2つの糖タンパク質から構成されるT細胞受容体を有するT細胞で、末梢血リンパ球の大部分を占める。αβT細胞はTCR/CD3複合体により、抗原性ペプチド/MHC複合体を認識する。したがって、αβT細胞を解析するためには抗原性ペプチドに関する情報が必要になる。現在までにT細胞の認識する抗原性ペプチドが同定されているが、一つの腫瘍でもその種類は複数であることが推測され、その全体を把握し、解析するのは困難である。
【0025】
「γδT細胞」
「γδT細胞」は、細胞表面にγ鎖とδ鎖の2つの糖タンパク質から構成されるT細胞受容体を有するT細胞である。γδT細胞は、通常αβT細胞と比べると、はるかに少ない。末梢血単核球のCD3陽性T細胞中には約4%のγδT細胞が存在し、その50~75%が、TCR可変領域において、「Vγ2」(Vγ9と称されることもある)及び「Vδ2」を発現するVγ2Vδ2T細胞(Vδ2γδT細胞)である。
【0026】
γδT細胞を活性化する抗原分子はほとんど知られていないが、発明者らはモノエチルリン酸などの合成アルキルリン酸がγδT細胞の抗原になること(Tanaka Y et al., PNAS USA 91 :8175-8179,1994)、イソプレノイド生合成経路の起点となるイソメンテニル二リン酸(IPP)などのピロリン酸モノエステル系代謝物を抗原として認識し、IPPで活性化されたγδT細胞は強い抗腫瘍活性を有することを報告している(Tanaka et al., Nature, 375: 155-158, 1995)。また、窒素含有型ビスホスホン酸で抗原提示細胞(Miyagawa F et al., J. Immunol 166: 5508-5514,2001)や腫瘍細胞(Kato Y. et al., J. Immunol 167: 5092-5098, 2001)を処理するとγδT細胞が活性化されることも報告している。γδT細胞は、その抗原認識機構の詳細に関しては、未解明の部分が多いが、解析は可能である。
【0027】
「ナチュラルキラー(NK)細胞」
本発明にかかる「NK細胞」は、T細胞にも、B細胞にも属さないリンパ球で、腫瘍細胞、ある種のウイルス感染細胞、移植骨髄細胞などに対して、主要組織適合性(MHC)抗原に拘束されずに障害活性を示す。NK細胞の表面には、標的細胞表面のリガンドと結合して細胞障害活性を誘導する活性化受容体と、自己MHCクラスI分子を認識して活性化受容体からのシグナルを抑制する抑制受容体が存在する。このように、NK細胞は、通常はMHCによる負のシグナルを受け、腫瘍細胞上のMHCが欠落した際、腫瘍細胞障害性を発揮する。しかし、ヒトのNK細胞でPD-1の発現を検討すると、その発現の確認が困難であり、解析することは難しい。
【0028】
発明者らは、IL-2とIL-18を組み合わせることでNK細胞を効率的に増殖できることを見出している(WO2016/021720)。NK細胞はCD56の発現により同定できる。IL-2及びIL-18刺激後のNK細胞は、抗原提示細胞に関連したHLA-DR、HLA-DQ、CD80を発現しており、がん細胞の破壊に加えて、T細胞にがん抗原を提示することで、免疫防御を活性化させることが示唆される。
【0029】
「キラーT細胞(CTL)」
「キラーT細胞(CTL)」は、細胞障害性T細胞(CTL:Cytotoxic T Lymphocyte)と称され、宿主にとって異物である、アロ抗原やウイルス抗原を有する細胞を認識して障害する。CTLは、細胞表面にCD8抗原とα鎖、β鎖からなるT細胞受容体を有する。「CD8陽性T細胞」は、抗原提示細胞からMHC-クラスI抗原と抗原ペプチドの提示を受け、活性化されることで、細胞障害活性を有するようになる。活性化されたCTLは、パーフォリン、グランザイム、TNFを放出したり、標的細胞のFas抗原を刺激してアポトーシスを誘導することで、細胞を障害する。
【0030】
2.免疫チェックポイント阻害剤による重症間質性肺炎の発症リスク
免疫チェックポイント阻害剤は、腫瘍細胞によるエフェクターT細胞の機能抑制を解除することにより、その本来の機能を回復させる。しかし、エフェクターT細胞の数が極端に少ないがん患者に関しては、エフェクター細胞の機能を回復させても、その絶対数が足りないために効率的な抗腫瘍効果は期待できない。本発明は、エフェクター細胞であるγδT細胞の数(割合)と機能を測定することで、免疫チェックポイント阻害剤による重症間質性肺炎の発症リスクを予測することを特徴とする。
【0031】
2.1 検体(試料)
本発明で使用される検体(試料)は、被験者、すなわち免疫チェックポイント阻害剤の使用を検討している、あるいは既に使用している被験者から単離された末梢血単核球である。1回の測定に必要な末梢血は、少なくとも10ml、好ましくは10ml~20mlである。
【0032】
末梢血単核球は、被験者から採取した末梢血を、必要であれば適当量の抗凝固剤を加え、常法にしたがい、PBSなどの生理学的緩衝液で希釈後、密度勾配遠心、比重遠心等にかけることにより単離することができる。単離した単核球は、Yssel培地、Iscov培地、RPMI1640培地等のヒトT細胞用の培地で希釈して、一定の濃度、例えば1×10cells/ml~1×10cells/ml、好ましくは5×10cells/ml~3×10cells/mlに調整する。
【0033】
2.2 測定対象
(a)末梢血単核球におけるVδ2γδT細胞の細胞数又は割合
「末梢血単核球におけるVδ2γδT細胞の細胞数又は割合」は、特異的な表面マーカーを利用することで、測定することができる。
【0034】
例えば、T細胞はその表面にCD3抗原を有し、γδT細胞は、さらにγ鎖及びδ鎖の2つの糖タンパク質からなる受容体を表面に有している。よって、被験者から単離された末梢血単核球に対して、CD3に特異的に結合する抗体と、γ鎖及びδ鎖の一方又は両方に特異的に結合する抗体(例えば、抗Vγ2抗体、抗Vδ1抗体、抗Vδ2抗体)を使用することにより、末梢血単核球におけるγδT細胞の量を測定することができる。前述のとおり、γδT細胞の大部分はVγ2Vδ2T細胞(Vδ2γδT細胞)であるため、Vδ2を指標とすることで、実質的にVγ2Vδ2を検出することができる。すなわち、抗Vδ2抗体とT細胞抗原であるCD3抗原を用いて検出したCD3Vδ2細胞(Vδ2γδT細胞)を、γδT細胞の数や割合を示すものとして判定に用いることができる。測定は、後述するフローサイトメトリーあるいはイメージアナライザーを使用することで、簡便かつ迅速に、「末梢血単核球におけるVδ2γδT細胞の細胞数又は割合」を求めることができる。
【0035】
具体的には、末梢血採取後(Day0における)、一定数の末梢血単核球(以下のカットオフ値では、末梢血単核球1x10個)に関して、細胞数又は割合を測定する。被験者の免疫状態は変化しうるため、末梢血採取は治療直前に実施することが好ましい。
【0036】
(b)末梢血単核球におけるVδ2γδT細胞の抗原刺激後の細胞数又は割合
「末梢血単核球におけるVδ2γδT細胞の抗原刺激後の細胞数又は割合」は、Vδ2γδT細胞の増殖能を示す。
【0037】
使用される抗原は、γδT細胞によって認識され、これを活性化できるものであれば特に限定されない。例えば、IL-2、IL-7、IL-12、IL-15、IL-18、IL-21、IL-23、インターフェロンγなどのペプチド性抗原;マイコバクテリアやマラリア原虫などが産生する(E)-4-ヒドロキシ-3-メチル-2-ブテニル二リン酸(HMB-PP)、2-メチル-3-ブテニル二リン酸(2M3BPP)、モノエチルリン酸などの合成アルキルリン酸を含むリン酸モノエステル化合物、トリリン酸モノエステル化合物、テトラリン酸モノエステル化合物、トリリン酸ジエステル化合物、テトラリン酸ジエステル化合物;例えば、イソペンテニル二リン酸(IPP)、モノエチルピロリン酸二ナトリウム、モノメチルピロリン酸二ナトリウム、モノプロピルピロリン酸二ナトリウムなどのC1-5のアルキル基を有するピロリン酸モノエステル化合物又はその塩に代表されるピロリン酸誘導体(例えば、特開2003-128555号に記載の化合物など);窒素含有ビスホスフォネートのジェミナル炭素原子にアルキルアミンまたはアルケニルアミンを導入したビスホスホン酸化合物もしくはそのエステル又はそれらの塩に代表される窒素含有ビスホスホン酸化合物(例えば、WO2016/098904、WO2016/125757に記載された化合物(後掲PTAなど))、アルキルアミン、アルキルアルコール、アルケニルアルコール、イソプレニルアルコールなどの非ペプチド性抗原、ならびにヒト由来腫瘍細胞や末梢血コンディション培地等を使用することができる。前記抗原は、機能し得る限り、そのフラグメント(断片)であってもよい。
【0038】
抗原刺激後の細胞数や割合は、単離した末梢血単核球を含む培養液に上記した抗原を添加し、一定期間経過後に前項(a)と同様の方法で測定する。添加する抗原の量は、使用する抗原のγδT細胞活性化能に応じて適宜決定する。抗原添加後の測定までの時間も使用する抗原に応じて適宜決定されるが、通常は0.5時間以上、好ましくは12時間~14日程度である。
【0039】
例えば、IL-2の場合、例えば10~1000IU/ml、好ましくは20~200IU/mlとなるように添加し、37℃、5%CO雰囲気下でインキュベートし、3日~14日後、好ましくは7日~11日後にγδT細胞の細胞数又は割合を測定する。
【0040】
ピロリン酸モノエステル誘導体の場合であれば、例えば10pM~500μM、好ましくは100pM~100μMとなるように添加し、37℃、5%CO雰囲気下でインキュベートし、3日~14日後、好ましくは7日~11日後にγδT細胞の細胞数又は割合を測定する。
【0041】
PTAのような窒素含有型ビスホスホン酸誘導体であれば、例えば1nM~500μM、好ましくは10nM~5μM(例えば、1μMのPTA)となるように添加し、37℃、5%CO雰囲気下でインキュベートし、3日~14日後、好ましくは7日~11日後にγδT細胞の細胞数又は割合を測定する。
【0042】
(c)末梢血T細胞におけるVδ2γδT細胞の細胞数又は割合
「末梢血T細胞におけるVδ2γδT細胞の細胞数又は割合」は、T細胞に特異的な抗CD3抗体と抗Vδ2抗体を用いることにより求めることができる。測定は、後述するフローサイトメトリーあるいはイメージアナライザーを使用することで求めることができる。
【0043】
(d)抗原刺激後の末梢血T細胞におけるVδ2γδT細胞の細胞数又は割合
「末梢血T細胞における抗原刺激後のVδ2γδT細胞の細胞数又は割合」は、Vδ2γδT細胞の増殖能を示す。抗原刺激及び抗原刺激後のVδ2γδT細胞の細胞数又は割合の測定方法は、(b)に記載した方法に準じて実施することができる。
本発明においては、上記(a)~(d)のいずれを指標とすることも可能であるが、後述するように、CD3Vδ2細胞が多い被験者においては末梢血T細胞を試料とするほうが好ましい。
また、通常健常人ではγδT細胞の大部分はVδ2細胞であるが、がん患者では、Vδ1が多い場合がある。そのような患者由来の試料でも、抗原刺激をするとVδ2細胞が増殖し、Vδ1は検出感度以下になるため、Vδ2γδT細胞を、γδT細胞の数や割合を示すものとして評価することができる。したがって、Vδ1γδT細胞が多い被験者においては抗原刺激後の試料中のVδ2γδT細胞の細胞数や割合を指標とすることが好ましい。
【0044】
2.3 細胞数又は割合の測定
・フローサイトメトリー
末梢血単核球あるいは末梢血T細胞中におけるVδ2γδT細胞の細胞数又は割合の測定方法は、各細胞の表面抗原に特異的な抗体を使用して、フローサイトメトリーにより測定することができる。フローサイトメトリーは、流体に懸濁させた細胞を1個ずつセンシングゾーンに導き、その単一の流れにおいて、蛍光や散乱光を測定することで、多量の細胞を短時間に1個ずつ定量解析できる細胞測定法である。
【0045】
Vδ2γδT細胞の細胞数又は割合は、T細胞マーカーであるCD3と、γδT細胞マーカーであるVδ2等を用いた2色蛍光ヒストグラムにより簡便に測定することができる。具体的に言えば、末梢血単核球をCD3抗体と抗体Vδ2抗体を用いた2色蛍光ヒストグラムで解析すると、CD3Vδ2がαγT細胞(G1)に該当し、CD3Vδ2がγδT細胞(G2)に該当し、それ以外に、CD3Vδ2の細胞(G3)が検出できる。G2/G1+G2+G3が末梢血単核球におけるVδ2γδT細胞の割合に該当し、G2/G1+G2が末梢血T細胞におけるVδ2γδT細胞の細胞数と割合に該当する。
【0046】
・イメージサイトメトリー(イメージアナライザー)
末梢血単核球におけるVδ2γδT細胞の細胞数又は割合の測定方法は、各細胞の表面抗原に特異的な抗体を使用して、イメージサイトメトリーにより測定することもできる。イメージサイトメトリーは、マルチウェルプレートやスライドグラス上の細胞を、レーザー走査して、その蛍光イメージや散乱光・透過光イメージを取得し、画像処理することにより、多量の細胞を短時間に1個ずつ定量解析できる細胞測定法である。
【0047】
フローサイトメトリーと同様に、末梢血単核球あるいは末梢血T細胞におけるVδ2γδT細胞の細胞数と割合は、T細胞マーカーであるCD3と、Vδ2を用いた散乱光像や2色蛍光像により簡便に測定することができる。
【0048】
2.4 予測・判定方法
(1)末梢血単核球におけるVδ2γδT細胞の数・割合に基づく予測
(a)末梢血単核球におけるVδ2γδT細胞の細胞数又は割合、及び/又は(b)末梢血単核球におけるVδ2γδT細胞の抗原刺激後の細胞数又は割合が、所定のカットオフ値以上の場合、免疫チェックポイント阻害剤による重症間質性肺炎の発症リスクは高いと予測できる。そして、その発症リスクに基づき免疫チェックポイント阻害剤による治療の適否を判定することができる。
【0049】
カットオフ値は、使用する免疫チェックポイント阻害剤、ならびに末梢血単核球数及び細胞の培養期間に応じて、適宜決定される。
【0050】
(a)細胞数のカットオフ値は、末梢血単核球が1x10個とした場合、通常0.5x10~15x10の範囲、好ましくは0.5x10~14x10、0.5x10~13x10、0.5x10~12x10、0.5x10~11x10、0.5x10~10x10、0.5x10~9x10、0.5x10~8x10、0.5x10~7x10、0.5x10~6x10、0.5x10~5x10の範囲、より好ましくは1x10~15x10、1x10~14x10、1x10~13x10、1x10~12x10、1x10~11x10、1x10~10x10、1x10~9x10、1x10~8x10、1x10~7x10、1x10~6x10、1x10~5x10、1x10~4x10の範囲、とくに好ましくは1x10~3x10の範囲である。
細胞割合のカットオフ値は、通常0.5~15%の範囲、好ましくは0.5~14%、0.5~13%、0.5~12%、0.5~11%、0.5~10%、0.5~9%、0.5~8%、0.5~7%、0.5~6%、0.5~5%、0.6~5%、0.7~5%、0.8~5%、0.9~5%、1.0~5%、0.6~4%、0.7~4%、0.8~4%、0.9~4%、1.0~4%の範囲、より好ましくは0.6~3%、0.7~3%、0.8~3%の範囲、0.9~3%、とくに好ましくは1~3%の範囲である。
(b)抗原刺激を与える場合の細胞数のカットオフ値は、与える抗原刺激によって異なるが、上記した値の数十倍超、好ましくは100倍~2000倍になる。例えば、PTAとIL-2を用いた抗原刺激では、細胞数は200倍~3000倍に増加し、細胞割合は98%超となる。重症間質性肺炎の発症リスクが高い被験者では、Vδ2γδT細胞の反応性が高く、ピロリン酸誘導体やビスホスホン酸化合物による抗原刺激を与えると細胞が凝集を生じるため、目視判定することも可能である。例えば、末梢血単核球に1μMのPTAを作用させて、1日目の細胞凝集を目視判定する。
【0051】
(2)末梢血T細胞におけるVδ2T細胞の数・割合に基づく予測
(c)末梢血T細胞におけるVδ2γδT細胞の細胞数又は割合、及び/又は(d)末梢血T細胞におけるVδ2γδT細胞の抗原刺激後の細胞数又は割合が、所定のカットオフ値以上の場合、免疫チェックポイント阻害剤による重症間質性肺炎の発症リスクは高いと予測できる。そして、その発症リスクに基づき免疫チェックポイント阻害剤による治療の適否を判定することができる。
一般的には、前述した末梢血単核球におけるVδ2γδT細胞の細胞数又は割合によって被験者の応答を予測できるが、CD3Vδ2の細胞(G3)が多い被験者の場合には、これを除いた末梢血T細胞におけるVδ2γδT細胞の細胞数や割合を対象に診断するほうが好ましい。
【0052】
カットオフ値は、使用する免疫チェックポイント阻害剤、ならびに末梢血T細胞数及び培養期間に応じて、適宜決定される。
【0053】
(c)細胞数のカットオフ値は、T細胞が1x10個とした場合、通常1x10~20x10の範囲、好ましくは1x10~19x10、1x10~18x10、1x10~17x10、1x10~16x10、1x10~15x10、1x10~14x10、1x10~13x10、1x10~12x10、1x10~11x10、1x10~10x10、1x10~9x10、1x10~8x10、1x10~7x10、1x10~6x10、1x10~5x10の範囲、より好ましくは2x10~5x10、2x10~4x10の範囲、とくに好ましくは2x10~3x10の範囲である。
細胞割合のカットオフ値は、通常1~20%の範囲、好ましくは1~19%、1~18%、1~17%、1~16%、1~15%、1~14%、1~13%、1~12%、1~11%、1~10%、1~9%、1~8%、1~7%、1~6%、1~5%、1~4%、1~3%の範囲、より好ましくは2~5%、2~4%の範囲、とくに好ましくは2~3%の範囲である。
(b)抗原刺激を与える場合の細胞数のカットオフ値は、与える抗原刺激によって異なるが、上記した値の数十倍超、好ましくは100倍~2000倍になる。例えば、PTAとIL-2を用いた抗原刺激では、細胞数は200倍~3000倍に増加し、細胞割合は98%超となる。
重症間質性肺炎の発症リスクが高い被験者では、Vδ2γδT細胞の反応性が高く、ピロリン酸誘導体やビスホスホン酸化合物による抗原刺激を与えると細胞が凝集を生じるため、目視判定することも可能である。例えば、末梢血単核球に1μMのPTAを作用させて、1日目の細胞凝集を目視判定する。
【0054】
2.5 その他の方法
上記した方法に加えて、使用する免疫チェックポイント阻害剤や治療目的に応じて、下記(e)~(i)の指標を適宜組み合わせて、治療の適否を判定してもよい。
(e)抗原刺激後のγδT細胞のPD-1発現量、
(f)抗原刺激後のγδT細胞の腫瘍細胞障害活性、
(g)被験者から単離された末梢血単核球におけるNK細胞の細胞数又は割合、
(h)被験者から単離された末梢血単核球におけるNK細胞の増殖刺激後の細胞数又は割合、
(i)前記増殖刺激後のNK細胞の腫瘍細胞障害活性。
なお、前述のとおり、γδT細胞はVδ2γδT細胞として上記指標を求めても良い。
【0055】
(e)抗原刺激後のγδT細胞のPD-1発現量
「抗原刺激後のγδT細胞のPD-1発現量」は、免疫チェックポイント阻害剤に対する応答性の指標である。したがって、重症間質性肺炎の発症リスクと併せて、免疫チェックポイント阻害剤に対する応答性を評価することで、より精密な治療が可能になる。
【0056】
使用する抗原は、γδT細胞によって認識され、これを活性化できるものであれば特に限定されず、前記(b)に記載した抗原と同様のものを使用することができる。また、抗原の添加量や抗原添加後測定までの時間も前記(b)に記載したとおりである。PD-1の発現量は、上述したフローサイトメトリーやイメージサイトメトリーを使用することで、簡便に定量解析することができる。
【0057】
(f)抗原刺激後のγδT細胞の腫瘍細胞障害活性
「抗原刺激後のγδT細胞の腫瘍細胞障害活性」は、免疫チェックポイント阻害剤に応答して、現実にγδT細胞が腫瘍細胞障害活性を発揮するかどうかの指標である。したがって、重症間質性肺炎の発症リスクと併せて、免疫チェックポイント阻害剤に応答したγδT細胞の腫瘍細胞障害活性を評価することで、より精密な治療が可能になる。
【0058】
使用する抗原は、γδT細胞によって認識され、これを活性化できるものであれば特に限定されず、前記(b)に記載した抗原と同様のものを使用することができる。また、抗原の添加量や抗原添加後測定までの時間も前記(b)に記載したとおりである。
【0059】
通常の腫瘍細胞の場合、細胞傷害活性を測定するためには、γδT細胞の腫瘍細胞障害性をあげるために窒素含有ビスホスホン酸(N-BP)等による刺激を行うことが好ましい。例えば、まず、腫瘍細胞をN-BP処理し、処理終了15分前にテルピリジン誘導体をパルスする。がん細胞を洗浄後、γδT細胞を作用させ、細胞障害性を惹起する。40分後に、後述する方法により腫瘍細胞傷害活性を測定する。
【0060】
γδT細胞の細胞障害性を受けやすい腫瘍細胞を用いる方法もある。例えば、Daudiバーキットリンパ腫細胞はN-BPによる刺激を与えなくてもγδT細胞の細胞障害性を受ける。Daudi細胞にPD-L1を強制発現させると、抗PD-L1抗体の効果をより簡便に測定することができる。すなわち、Daudi/PD-L1細胞にγδT細胞を作用させると、PD-1/PD-L1相互作用により免疫抑制を受ける。しかし、ここに抗PD-L1抗体を添加すると、PD-1/PD-L1相互作用が遮断されるため、細胞障害性が上昇する。この系を用いることにより、免疫チェックポイント阻害剤の腫瘍細胞障害性活性をin vitroで容易に評価できる。
【0061】
腫瘍細胞障害活性は、β放射線放射活性測定法、γ放射線放射活性測定法、乳酸脱水素酵素(LDH)活性測定法、及び時間分解蛍光法、非RI系細胞障害測定法(WO2015/152111)など、培養がん細胞株を利用して公知の方法により実施することができる。
【0062】
・β放射線放射活性測定法
標的細胞(腫瘍細胞)をH-Prolineで標識し、エフェクター細胞(γδT細胞又はNK細胞)と混合培養し、エフェクター細胞による細胞障害によって標的細胞から放出されるH-Proline量(β放射線)を測定する。標的細胞とエフェクター細胞の混合比(E/T比)や培養時間は使用する細胞に応じて適宜設定され、例えばE/T比=0.5~2程度で調整する。
次式で示される細胞障害活性(%)を計算し、細胞障害活性を評価する。
細胞障害活性(%)=(E/T比)-標的細胞のみの放出量 / 標的細胞を全て障害したときの放出量-標的細胞のみの放出量
【0063】
・γ放射線放射活性測定法
標的細胞(腫瘍細胞)を51Crで標識し、エフェクター細胞(γδT細胞又はNK細胞)と混合培養し、エフェクター細胞による細胞障害によって標的細胞から放出されるH-Proline量(β放射線)を測定する。β放射線放射活性測定法と同様に、標的細胞とエフェクター細胞の混合比(E/T比)や培養時間は使用する細胞に応じて適宜設定され、細胞障害活性(%)を計算することで細胞障害活性を評価する。
【0064】
・時間分解蛍光法
標的細胞(腫瘍細胞)をユーロピウム(Eu)で標識し、エフェクター細胞(γδT細胞又はNK細胞)と混合培養し、エフェクター細胞による細胞障害によって標的細胞から放出されるEu量(蛍光)を測定する。β放射線放射活性測定法やγ放射線放射活性測定法と同様に、標的細胞とエフェクター細胞の混合比(E/T比)や培養時間は使用する細胞に応じて適宜設定され、細胞障害活性(%)を計算することで細胞障害活性を評価する。
【0065】
・乳酸脱水素酵素(LDH)活性測定法
乳酸脱水素酵素(LDH)は細胞質に存在する酵素で、細胞が障害を受けると培地中に放出される。この放出されたLDHを、LDHによって触媒される乳酸脱水素反応で生じるNADHをITN(テトラゾリウム塩)と反応させて生じるホルマザン色素(490nmの吸光度量)を通して定量する。RIを使用しないため、安全性が高い。他の方法と同様に、標的細胞とエフェクター細胞の混合比(E/T比)や培養時間は使用する細胞に応じて適宜設定され、細胞障害活性(%)を計算することで細胞障害活性を評価する。
【0066】
・キレート前駆体を利用した非RI測定法
発明者らが開発した非RI系による細胞障害能迅速測定法では、キレート剤前駆体で腫瘍細胞を処理する。具体的には、まず、ブタノイルオキシメチル基で保護したテルピリジン誘導体で腫瘍細胞を処理する。すると、その脂溶性のために細胞に取り込まれ、エステラーゼで加水分解を受け、細胞内にネガティブチャージを有するキレート剤が蓄積する。ここで、免疫エフェクター細胞を作用させると、腫瘍細胞が障害され、膜構造が少し破壊される。すると、キレート剤は速やかに培養上清に漏出する。ここで、培養上清を少し回収し、ランタノイド系金属であるユーロピウムを添加するとキレートが形成され、励起光を当てると時間分解蛍光が発せられる。この時間分解蛍光を測定すれば、細胞障害性が非RIで定量できる。
【0067】
時間分解蛍光の利点は、励起光を当てた後、通常の蛍光性化合物は2μ秒ほどの蛍光しか発しないのと比較し、100μ秒程度の長い時間蛍光を発するため、バックグラウンドとの差が大きくなり、測定の信頼性が上がる。本アッセイ法で用いるテルピリジンジカルボン酸のアルコキシメチル誘導体のうち下記化合物は、ほとんどの腫瘍細胞株で、高い最大標識量と20%以下の自然漏出量を得ることができる。
【0068】
【化1】
【0069】
腫瘍細胞障害活性の測定で使用する腫瘍細胞株は特に限定されない。腫瘍細胞としては、例えば、ヒト骨髄性腫瘍あるいは白血病細胞株であるK562、HL60、EB1、CCRF-CEM、HEL-92.1.7、HSB、Jurkat、HuT-78、KG-1A、HNT-34、MOLT-4、MV4-11、NB-4、REH、RPMI-1788、TF-1、THP-1、TK6、U937;ヒト肺がん細胞株であるA-427、A-549、Calu-1、Calu-6、CLS-54、DMS-79、GCT、HEL-299、H-Messo-1、H-Messo-1A、LCLC-97TM1、LX-1、LX-289、MRC-5、MSTO-211H、NCI-H146、NCI-H209、NCI-H69、NCI-H82、NCI-H128、SCLC-21H、SCLC-22H、SK-LU-1、SK-MES-1、SV-80;ヒト肝がん細胞株であるChang-Liver、Hep-G2、HuH-7、PLC-PRF-5、SK-HEP-1;ヒト乳がん細胞株であるBT-20、BT-474、BT-549、COLO-824、HBL-100、MA-CLS-2、MCF-7、MDA-MB-231、MX-1、SK-BR-3、T-47D、ZR-75-1;ヒト卵巣がん細胞株であるHEY;ヒト胃がん細胞株であるAGS、CLS-145、HGC-27、MKN1、MKN28、KATO-III;ヒト膵臓がん細胞株であるAsPC-1、Capan-1、Capan-2、DAN-G、FAMPAC、FAMPAC-A、PA-CLS52、Panc-1;ヒト腎臓がん細胞株である293(HEK-293)、769-P、786-0、A-498、A-704、ACHN、CaKi-2、RC-124、RC-131、RC-134、RC-138、RC-142、RCC-AB(KTCTL-21)、RCC-ER(KTCTL-13)、RCC-EK(KTCTL-135)、RCC-EW(KTCTL-2)、RCC-AL4、RCC-FG1(KTCTL-26)、RCC-FG2(KTCTL-26A)、RCC-GH、RCC-GS(KTCTL-185)、RCC-HB(KTCTL-48)、RCC-JW(KTCTL-195)、RCC-KL、RCC-KP(KTCTL-53)、RCC-LR(KTCTL-120)、RCC-MF(KTCTL-1M)、RCC-MH(KTCTL-129)、RCC-OF1(KTCTL-54)、RCC-GW、RCC-PR、RCC-WK(KTCTL-87)、SK-NEP-1、WT-CLS1;ヒト骨肉腫細胞株であるCADO-ES1、HOS(TE-85)、KHOS-240S、KHOS-312H、KHOS-NP、MG-63、MHH-ES1、MNNG-HOS、RD-ES、SaOS-2、SK-ES-1、SW-1353、TM-791、U-2OS;ヒト大腸がん細胞株であるCW2、DLD-1、Colo320;ヒト悪性黒色腫細胞株であるC32TG、G361;ヒト前立腺細胞株であるPC-3、DU-145、LNCaPを挙げることができるが、これらに限定されない。とくに、NK細胞の場合は、その腫瘍細胞障害活性試験の標準的細胞株として使用されるK562細胞、γδT細胞の場合はU937組織球由来白血病細胞が好ましい。
【0070】
免疫チェックポイント阻害剤の奏効率を高めるために、他の免疫療法との併用療法の開発も進められている。例えば、ニボルマブ(ヒト型抗PD-1モノクローナル抗体)とイピリムマブ(ヒト型抗CTLA-4モノクローナル抗体)の併用による奏効率は6割であると報告されている。また、発明者らはIL-18を、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CDLA-4抗体と併用することにより、抗腫瘍効果の相乗的向上が認められることを報告している(WO2010/001617)。そのような併用療法における免疫チェックポイント阻害剤の奏効率を予測する場合には、併用される抗体やサイトカインの存在下で腫瘍細胞傷害活性をみてもよい。
【0071】
(g)末梢血単核球におけるNK細胞の細胞数又は割合
「末梢血単核球におけるNK細胞の細胞数又は割合」は、末梢血単核球とNK細胞にそれぞれ特異的な表面マーカーを利用することで、測定することができる。前述のとおり、NK細胞は、腫瘍細胞障害活性を有する。したがって、重症間質性肺炎の発症リスクと併せて、NK細胞の数や割合を評価することで、より精密な治療が可能になる。
【0072】
NK細胞はその表面にCD56抗原を有している。よって、抗CD3抗体と抗CD56抗体を使用することにより、末梢血単核球中のNK細胞の量を測定することができる。測定は、後述するフローサイトメトリーあるいはイメージアナライザーを使用することで、簡便かつ迅速に、「末梢血単核球におけるNK細胞の細胞数又は割合」を求めることができる。
【0073】
(h)末梢血単核球におけるNK細胞の増殖刺激後の細胞数又は割合
「末梢血単核球におけるNK細胞の増殖刺激後の細胞数又は割合」は、NK細胞の増殖能を示す。したがって、重症間質性肺炎の発症リスクと併せて、腫瘍細胞障害活性を有するNK細胞の増殖能を評価することで、より精密な治療が可能になる。
【0074】
使用される増殖刺激因子は、NK細胞の増殖を刺激できるものであれば特に限定されない。例えば、IL-2、IL-7、IL-12、IL-15、IL-18、IL-21、IL-23、インターフェロンγ、及び末梢血コンディション培地などを挙げることができる。前記増殖刺激因子は、機能し得る限り、そのフラグメント(断片)であってもよい。
【0075】
増殖刺激後の細胞数や割合は、単離した末梢血単核球を含む培養液に上記した増殖刺激因子を添加し、一定期間経過後に前項(b)と同様の方法で測定する。添加する増殖刺激因子の量は、使用する増殖刺激因子のNK細胞増殖刺激能に応じて適宜決定される。増殖刺激因子添加後の測定までの時間も使用する増殖刺激因子に応じて適宜決定されるが、通常は0.5時間以上、好ましくは12時間~14日程度である。
【0076】
IL-2の場合であれば、例えば10~1000IU/ml、好ましくは20~200IU/mlとなるように添加し、37℃、5%CO雰囲気下でインキュベートし、3日~14日後、好ましくは7日~11日後にNK細胞の細胞数又は割合を測定する。
【0077】
インターフェロンγの場合であれば、例えば1~10000IU/ml、好ましくは10~1000IU/mlとなるように添加し、37℃、5%CO雰囲気下でインキュベートし、1日~14日後、好ましくは3日~10日後にNK細胞の細胞数又は割合を測定する。
【0078】
IL-18の場合であれば、例えば1~1000IU/ml、好ましくは20~300IU/mlとなるように添加し、37℃、5%CO雰囲気下でインキュベートし、1日~14日後、好ましくは3日~10日後にNK細胞の細胞数又は割合を測定する。
【0079】
(i)増殖刺激後のNK細胞の腫瘍細胞障害活性
「増殖刺激後のNK細胞の腫瘍細胞障害活性」は、免疫チェックポイント阻害剤に応答して、現実にNK細胞が腫瘍細胞障害活性を発揮するかどうかの指標である。したがって、重症間質性肺炎の発症リスクと併せて、NK細胞の腫瘍細胞障害活性を評価することで、より精密な治療が可能になる。
【0080】
使用する抗原は、NK細胞の増殖を刺激できるものであれば特に限定されず、前記(h)に記載した増殖刺激因子と同様のものを使用することができる。また、増殖刺激因子の添加量や増殖刺激因子添加後測定までの時間も前記(h)に記載したとおりである。
【0081】
腫瘍細胞障害活性は、β放射線放射活性測定法、γ放射線放射活性測定法、乳酸脱水素酵素(LDH)活性測定法、及び時間分解蛍光法、非RI系細胞障害測定法(WO2015/152111)など、培養がん細胞株を利用して公知の方法により実施することができる。腫瘍細胞障害活性の測定方法については、次項で詳述する。
【0082】
3.診断用試薬・キット
本発明は、上記した免疫チェックポイント阻害剤の効果予測用試薬及びキットも提供する。
【0083】
本発明のキットは、(i)抗CD3抗体、及び(ii)抗Vδ2抗体を必須の構成要素とし、判定(診断)のための指示書を含んでいてもよい。
【0084】
本発明のキットは、さらに(iii)ピロリン酸モノエステル誘導体、又は窒素含有ビスホスホン酸誘導体、及び/又は(iv)IL-18、を含んでいてもよい。
【0085】
本発明のキットにおいて、抗体は適宜標識あるいは固定化されていてもよい。また、目的とする抗原分子の検出に使用できる限り、抗体フラグメント(断片)であってもよい。抗体フラグメントとしては、たとえばF(ab')、Fab'、Fab、Fv、scFv、rIgG、Fcを挙げることができる。
【0086】
上記した構成要素のほか、本発明のキットは、前述したフローサイトメトリー又はイメージサイトメトリー、腫瘍細胞障害活性測定に必要な各種試薬(例えば抗CD4抗体、抗CD8抗体)、二次抗体、基質溶液、腫瘍細胞株(例えば、K562細胞株など)、培地(例えば、Yessel培地など)を含む。また上記(i)~(iv)や、その他の構成要素は、それぞれ個別に判定(診断)用試薬として提供されていてもよい。
【0087】
4.コンパニオン診断と治療戦略
本発明の免疫チェックポイント阻害剤による重症間質性肺炎の発症のリスクを予測する方法、前記方法にしたがい免疫チェックポイント阻害剤による治療の適否を判定する方法(診断方法)、試薬(診断薬)、及びキット(診断用キット)は、免疫チェックポイント阻害剤の効果や副作用を投薬前に予測する臨床検査、いわゆるコンパニオン診断に利用することができる。
【0088】
対象となる免疫チェックポイント阻害剤は、例えば、前述したような、抗PD-1抗体であるニボルマブ(オプジーボ)、ペムブロリズマブ(MK-3475);抗PD-L1抗体であるジピリズマブ(CT-011)、MPDL3280A/RG-7446、MEDI4736、MSB0010718C、MED10680/AMP-514;抗PD-L2抗体;抗CTLA-4抗体であるイピリムマブ(MDX-010)、トレメリムマブ(CP675、206);抗キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KRI)抗体であるリリルマブ(IPH2102/BMS-986015);抗CD137抗体であるウレルマブ(BMS-663513)、PF-05082566;抗LAG3抗体であるBMS-986016;抗OX40抗体であるMEDI6469等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0089】
本発明の予測方法(診断方法)、試薬(診断薬)、及びキット(診断用キット)を用いて免疫チェックポイント阻害剤による重症性間質性肺炎の発症リスクを予測することで、被験者(患者)に対する投薬の適否を決定する。そして、その結果に基づき、免疫チェックポイント阻害剤を投与するという、免疫チェックポイント阻害剤による一連の治療戦略が提供される。そのような、免疫チェックポイント阻害剤の治療方法も、本発明の対象である。
【0090】
上記治療方法の対象となる疾患としては、免疫チェックポイント阻害剤の対象となりうる疾患(癌、感染症等)である。癌としては、例えば、骨癌、膵癌、皮膚癌、頭頚部癌、メラノーマ、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門部癌、胃癌、精巣癌、子宮癌、卵管カルシノーマ、子宮内膜カルシノーマ、子宮頚部カルシノーマ、膣カルシノーマ、外陰部カルシノーマ、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、食道癌、小腸癌、内分泌系癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、柔組織肉腫、尿道癌、陰茎癌、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性白血病、急性白血病、小児固形癌、リンパ球性リンパ腫、膀胱癌、腎臓癌、尿管癌、腎盂カルシノーマ、中枢神経系(CNS)腫瘍、原発性CNSリンパ腫、腫瘍新脈管形成、脊椎腫瘍、脳幹グリオーム、下垂体アデノーマ、カポシ肉腫、扁平上皮癌、扁平細胞癌、T細胞リンパ腫、環境誘発腫瘍等が挙げられる。とくに、PD-L1を発現する転移性癌や肺癌に好適に適用することができる。
【0091】
感染症としては、例えば、HIV感染(AIDS)、肝炎、ヘルペス、マラリア、デング熱、リューシュマニア症、インフルエンザ、赤痢、肺炎、結核、敗血症、リステリア症等を挙げることができる。とくに、重篤な免疫不全を生じるHIV感染に好適に適用することができる。
【0092】
上記のほか、アルツハイマー型認知症(Kuti Baruch1, et al. Nature Medicine. 2016; 22(2): 135-7)、脳アミロイド血管症、ダウン症候群、加齢黄斑変性、レビー小体型認知症、パーキンソン病、多系統萎縮症、タウオパチー、前頭側頭葉変性症、嗜銀顆粒性認知症、筋萎縮性側索硬化症、糖尿病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)等における投薬の適否の診断にも利用することが可能である。
【0093】
5.重症間質性肺炎の発症リスクが少ない被験者を対象とした免疫チェックポイント阻害剤を含有する医薬組成物
本発明によれば、免疫チェックポイント阻害剤による重症間質性肺炎の発症リスクを予測し、当該リスクが少ないと判断される被験者を対象とした、免疫チェックポイント阻害剤の新たな用途を提供する。本発明は、そのような免疫チェックポイント阻害剤を含有する医薬組成物であって、重症間質性肺炎の発症を抑制し、腫瘍を治療または予防するために使用され、前述した方法により重症間質性肺炎の発症リスクが少ないと判断される被験者に用いることを特徴とする医薬組成物も提供する。
【0094】
6.その他
本発明の方法及び試薬・キットは、免疫チェックポイント阻害剤の使用前段階での投薬の適否の診断に加えて、治療開始後のリスク予測、さらには、HIV感染症などのウイルス感染症や、原虫感染症、細菌感染症などにおける免疫チェックポイント阻害剤治療における投薬の適否の診断にも利用することができる。
【実施例
【0095】
本発明を実施例により、具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0096】
実施例1:健常人及び肺がん患者における末梢血中のγδT細胞及びNK細胞の比較
免疫チェックポイント阻害剤を用いたがん免疫療法において、重要なことはエフェクター細胞であるT細胞の数とPD-1発現を含む免疫状態である。極論を言えば、がん患者で免疫系が疲弊し、腫瘍細胞障害性T細胞のほとんどない、あるいは、極端に少ない症例に対して免疫チェックポイント阻害剤を投与しても、腫瘍細胞障害性は期待できない。
【0097】
「腫瘍細胞が腫瘍特異的な免疫エフェクター細胞に免疫寛容を誘導する際、PD-1免疫チェックポイントを介在させているとすると、αβT細胞でもγδT細胞でも、その作用機構は同じである」と仮定すると、αβT細胞に対する免疫寛容誘導と、γδT細胞に対する免疫寛容誘導が同時に起こっていると考えられる。すなわち、γδT細胞の免疫寛容状態を判断できれば、αβT細胞の免疫寛容状態も推測することができる。そこで、本実施例では、上記仮説の検証として、健常人とがん患者における、Vγ2Vδ2のγδT細胞の数と抗原反応性を検討した(なお、健常成人では、γδT細胞の半数以上がVγ2Vδ2であり、Vδ2を指標とすれば、実質的にはVγ2Vδ2を検出することになる)。
【0098】
1.材料及び方法
(1)Vγ2Vδ2T細胞及びNK細胞の数又は割合
末梢血単核球(PBMC:Peripheral Blood Mononuclear Cell)中のγδT細胞の数又は割合は、以下の手順にしたがい、2色フローサイトメトリーで解析する。
肺がん患者より、末梢血(10ml)を採取し、常法にしたがいPBMC画分を調製し、50μlのPBS/2% FCSに懸濁させる。各3μlの抗体をウェルに加え、氷上で30分放置後、2% FCS/PBSで3回洗浄し、フローサイトメトリー(FACSCaliburTM、BDバイオサイエンス)で解析する。
PMBC中のγδT細胞(Vδ2陽性細胞)の数及び割合は、抗CD3抗体と抗Vδ2抗体を用いた2色フローサイトメトリーにより求めることができる。
PMBC中のNK細胞(CD56陽性細胞)の数及び割合は、抗CD3抗体と抗CD56抗体を用いた2色フローサイトメトリーにより求めることができる。
CD3はT細胞の表面マーカーであり、CD56はNK細胞の表面マーカーである。Vδ2は、ここではγδT細胞を検出するために使用される。健常人のγδT細胞の大部分はVδ2陽性細胞であり、Vδ1陽性細胞が多い試料でも、後述する抗原刺激後にはVδ2陽性細胞が増殖し、Vδ1陽性細胞は検出感度以下になるため、Vδ2陽性細胞をγδT細胞として評価することができるからである。
【0099】
(2)Vγ2Vδ2T細胞の抗原刺激(増殖誘導)
1mMのPTAストック溶液(DMSO中)3μlをPMBC(3ml)に加え、終濃度1μMにする。Vδ2陽性細胞懸濁液を24ウェルプレートの2ウェル(1.5 ml/ウェル, 2ウェル)に移す。IL-2、IL-18を2ウェルに加え、それぞれ終濃度100U/ml、100ng/mlになるように添加し、37℃、5%COでインキュベートする。Day 1からPBMCに、毎日IL-2又はIL-2/IL-18を培地に加える。
*PTAは、下記構造を有する窒素含有型ビスホスホン酸(WO2016/125757、及びMedicinal Chemistry, 2007, 85-99)で、FPPS合成を阻害することでγδT細胞を活性化する。
【化2】
Zol(ゾメタ)/IL-2/IL-18による刺激は、PTA(1μM)をZol(1μM)に代えて同様に行う。
【0100】
(3)抗原刺激後のVγ2Vδ2T細胞の数又は割合
Day11に細胞を回収し、(1)にしたがい、2色フローサイトメトリーでγδT細胞の数又は割合を解析する。
【0101】
(4)NK細胞のIL-2/IL-18による刺激
PMBCから、常法にしたがい、MACS(r)Beads標識抗CD3抗体を用いて、NK細胞を精製する。具体的には、PMBC(3ml)を15mlのコニカルチューブに移し、1700rpm、4℃で5分遠心する。次いで、上清を吸引除去し、細胞ペレットを分散させ、80μlのPBS/0.5%BSA/2mM EDTA に再懸濁させる。20μlのMACS(r)Beads標識抗CD3抗体(Mylteny Biotec)を細胞懸濁液に加え、4℃で15分間インキュベートする。15分後、2mlのPBS/0.5%BSA/2mM EDTAを加えて細胞を再懸濁させる。次いで、300xg、4℃で10分遠心して上清を吸引除去する。細胞ペレットを分散させ、1mlのPBS/0.5%BSA/2mM EDTA に再懸濁させる。細胞懸濁液を、PBS/0.5%BSA/2mM EDTAで平衡化したLDカラム(磁性球体で構成される)にかける。CD3陰性細胞を1mlのPBS/0.5%BSA/2mM EDTAで2回溶出する。1700rpm、4℃、5分間遠心し、上清を捨て、アスピレーターで吸引除去する。次いで、細胞ペレットを分散させ、CD3陰性細胞を1.5mlのYM-AB培地に再懸濁させる。
NK細胞懸濁液を24ウェルプレート(1.5 ml/ウェル, 1ウェル)に移し、IL-2及びIL-18をウェルに加え、それぞれ終濃度100IU/ml及び100ng/mlにし、37℃、5%COでインキュベートする。Day 0から10日間、毎日IL-2/IL-18を培地に加える。
【0102】
(5)増殖刺激後のNK細胞の数又は割合
Day11に細胞を回収し、(1)にしたがい、2色フローサイトメトリーでNK細胞の数又は割合を解析する。
【0103】
2.結果
(1)健常人のγδT細胞の割合
12人の健常人のγδT細胞の割合をフローサイトメトリーで解析すると、これまで報告されてきたとおり、平均すると末梢血単核球中の3%から4%程度であり、10%を超えているドナーも存在した。一方、2%を切るようなドナーは2例と少なく、1%を切るようなドナーはいなかった(図1)。
【0104】
(2)健常人のγδT細胞の反応性
次に、健常人のγδT細胞の反応性に関して検討を行った。Vδ2γδT細胞の割合が5.57%だった健常人の末梢血単核球にPTAを作用させ、IL-2とともに11日間培養すると、γδT細胞の割合は98.39%まで上昇した。また、この際、細胞数は1000倍以上になった(図2(A))。
【0105】
同じく、Vδ2γδT細胞の割合が10.35%だった健常人の末梢血単核球にPTAを作用させ、IL-2とともに11日間培養すると、γδT細胞の割合は98.99%まで上昇し、細胞数は1000倍以上になった。このように、健常人のγδT細胞はPTA/IL-2刺激により培養11日目に99%近くの純度と1000倍以上の増殖性を示す(図2(B))。
【0106】
(3)肺がん患者のγδT細胞の割合
肺がん患者のγδ型T細胞の割合を表1に示す。γδT細胞の少ない症例(LC02,LC05,LC09,LC10)と多い症例(LC03,LC04,LC07,LC08)にはっきりと分かれているのが分かる。
【0107】
【表1】
【0108】
肺がん患者の末梢血単核球中のγδT細胞の割合を検討すると、12症例中9症例でγδT細胞の割合が2%以下と著しく減少していた。また、減少した症例の内訳をみてみると、6症例で1%未満であった。これは、肺がんにより、γδT細胞が抑制され、免疫寛容になっている可能性を示している。また、このγδT細胞と同様に、肺がん特異的αβT細胞も免疫抑制がかかっているとすると、免疫エフェクター細胞自体の数が極端に少ないことになり、免疫チェックポイントで免疫抑制シグナルを遮断したとしても、十分な免疫エフェクター作用が回復しないのではないかと推測される(図3)。
【0109】
(4)肺がん患者のγδT細胞の反応性
次に、肺がん患者のうち、γδT細胞の割合が、健常人と同程度の症例を選択し、γδT細胞の増殖誘導能を検討した。Vδ2γδT細胞の割合が4.14%だった肺がん患者の末梢血単核球にPTAを作用させ、IL-2とともに11日間培養すると、γδT細胞の割合は98.59%まで上昇した。また、この際、細胞数は1000倍以上になった。すなわち、健常人に近い数値の肺がん患者は、健常人と同程度のγδT細胞増殖誘導能があることが明らかとなった(図4(A))。
【0110】
同様に、γδT細胞の割合が、2%以上の肺がん患者の末梢血γδT細胞の増殖誘導能を検討した。その結果、Vδ2γδT細胞の割合が2.91%だった肺がん患者の末梢血単核球にPTAを作用させ、IL-2とともに11日間培養すると、γδT細胞の割合は99.74%まで上昇し、細胞数は1000倍以上になった。この症例でも、健常人と同程度のγδT細胞増殖誘導能があることが明らかとなった(図4(B))。
【0111】
次に、γδT細胞の割合が、1%を下回る肺がん患者の末梢血γδT細胞の増殖誘導能を検討した。Vδ2γδT細胞の割合が0.89%だった肺がん患者の末梢血単核球にPTAを作用させ、IL-2とともに11日間培養すると、γδT細胞の割合は84.21%までしか上昇しなかった。すなわち、健常人と比較して明らかにγδT細胞の割合が低い肺がん患者は、健常人と比較して、γδT細胞増殖誘導能が低いことが明らかになった(図4(C))。
【0112】
同様に、γδT細胞の割合が、1%を下回る別の肺がん患者の末梢血γδT細胞の増殖誘導能を検討した。その結果、Vδ2γδT細胞の割合が0.78%だった肺がん患者の末梢血単核球にPTAを作用させ、IL-2とともに11日間培養すると、γδT細胞の割合は90.57%までしか上昇しなかった(図4(D))。
【0113】
このように、γδT細胞の割合が末梢血において低い(1%を下回る)患者は、γδT細胞の免疫寛容が起こっている可能性が高い。これが、腫瘍細胞によるなんらかの免疫エフェクターT細胞免疫寛容誘導システムによるものであれば、腫瘍抗原ペプチド特異的なαβT細胞の免疫寛容も同時に起こっている可能性が高い。すなわち、γδT細胞の末梢血中の割合を測定すれば、腫瘍抗原ペプチド特異的αβT細胞の免疫寛容状態を判断できる可能性がある。したがって、免疫チェックポイント阻害剤の感受性を判断する基準の一つとして、末梢血単核球中でのγδT細胞の割合を検討することが考えられ、γδT細胞の割合が、免疫チェックポイント阻害剤のサロゲートマーカーになる可能性がある。
【0114】
(5)γδT細胞とNK細胞との関係
γδT細胞とNK細胞との関係について検討を行った。まず、健常人の末梢血単核球を精製し、既報(Sigie T. et al., Cancer Immunol Immunother. 2013 Apr; 62(4):677-87. Epub 2012 Nov 15.)にしたがい、窒素含有ビスホスホン酸(N-BP)の1種であるZol(Zoledronic acid:ゾメタ)/IL-2あるいはZol/IL-2/IL-18で刺激し、γδT細胞の増殖誘導を検討した。
【0115】
その結果、γδT細胞の刺激因子であるZolと増殖因子であるIL-2との混合刺激よりも、細胞保護作用のあるIL-18を添加した刺激において明らかな増殖優位性が認められた(図5)。これがどのようにして起こるのか検討した結果、この実験系からNK細胞を除去するとγδT細胞の増殖誘導が抑制されることが明らかとなった。つまり、ヒトγδT細胞の増殖誘導の際、NK細胞が重要な役割をしていることが明らかとなった(図には示していない)。
【0116】
Zol/IL-2/IL-18での増殖誘導後の結果を表2に示す。増殖誘導前と同様に、γδT細胞の少ない症例(LC02,LC05,LC09,LC10)と多い症例(LC03,LC04,LC07,LC08)にはっきりと分かれているのが分かる。
【0117】
【表2】
【0118】
(6)NK細胞とIL-18との関係
次に、NK細胞とIL-18との関係について検討を行った。NK細胞はIL-2刺激により増殖誘導を受けるが、ここにIL-18を添加するとどうなるのか検討した。まず、ヒト末梢血単核球からCD3陽性細胞を除去し、CD3細胞画分をIL-2あるいはIL-2/IL-18で刺激した。
【0119】
その結果、IL-2/IL-18刺激群で明らかなNK細胞の増殖誘導優位性がみとめられた(図6)。つまり、IL-2/IL-18刺激により、NK細胞が強力な増殖誘導を受けることが明らかとなった。IL-2/IL-18刺激前の結果を表3に、刺激後の結果を表4に示す。
【0120】
【表3】
【0121】
【表4】
【0122】
次にこのIL-2/IL-18によるNK細胞増殖誘導能がどのようにγδT細胞の増殖誘導と結びついているのか検討を行った。まず、既報(Li et al., PLoS One. 2013 Dec 20;8(12), Fig.2参照)にしたがい、γδT細胞を緑色色素で標識し、IL-2/IL-18刺激で増殖誘導されたNK細胞を赤色色素で標識して、混合培養した。その結果、γδT細胞とNK細胞は相互作用し、細胞塊を形成していることが明らかとなった(図7)。
【0123】
3.考察
上記の結果から、ゾメタやPTAのようなN-BPによるγδT細胞の増殖誘導メカニズムはは、γδT細胞とNK細胞の相互作用に基づくものと予想された(図8)。すなわち、N-BPがCD14陽性であるマクロファージに取り込まれると、ブチロフィリン3A1(BTN3A1)の細胞外領域に変化が起こり、それをγδT細胞がγδT細胞受容体依存的に認識する。すると、γδT細胞受容体からγδT細胞内にシグナルが誘導され、IL-2のプロモーター領域に転写因子が動員されることにより、若干量のIL-2の産生がみられる。一方、N-BPストレスを受けたマクロファージではインフラマソーム依存的にカスパーゼIが活性化され、IL-18前駆体を加水分解し、成熟型IL-18を産生し、細胞外へ放出する。ここで、IL-2/IL-18によりNK細胞が増殖誘導を受ける。他方、γδT細胞にもIL-18が作用するとLFA-1やICAM-1が発現誘導される。これらの接着分子を介してNK細胞とγδT細胞との強い相互作用がおこり、γδT細胞の爆発的な増殖誘導がおこる。以上のことから、一次的にはγδT細胞の数(割合)と増殖誘導性を、二次的にはNK細胞の数(割合)と増殖誘導性を検討すれば、免疫チェックポイント阻害剤の感受性予測が可能であることが予想される。
【0124】
図9に示すとおり、がん細胞がPD-L1分子を発現すると、活性化されたγδT細胞はPD-1分子を発現しているため、PD-1とPD-L1の相互作用によりγδT細胞に負の副刺激シグナルが誘導され、腫瘍細胞傷害性が抑制される。ここで、抗PD-L1抗体を作用させるとPD-1とPD-L1との相互作用が遮断され、負の副刺激シグナルが解除されるため、γδT細胞はがん細胞を効率よく障害できるようになる。ところが、γδT細胞が疲弊現象(exhaustion)を起こしている場合には、γδT細胞の機能そのものが不可逆的に抑制されてしまっているため、PD-1免疫チェックポイント阻害剤によりPD-1とPD-L1との相互作用を遮断しても、γδT細胞の腫瘍細胞傷害性は回復しない。本実施例の結果は、γδT細胞の末梢血中の数(割合)と機能を評価することにより、免疫寛容状態を判断し、免疫チェックポイント阻害剤の効果を予測しうることを示す。
【0125】
実施例2:ニボルマブ(抗PD-1抗体)の奏功性
実施例1の結果、PD-1免疫チェックポイント阻害剤の抗腫瘍効果を予測する際、免疫エフェクターT細胞の機能と増殖性、そして、NK細胞の増殖性が鍵となる可能性が高いことが確認された。つまり、免疫エフェクターT細胞として、αβT細胞とγδT細胞があるが、これらの免疫寛容誘導システムが同一であるとすると、γδT細胞の状態を明らかにすれば、αβT細胞の免疫寛容状態も予想できることになる。
【0126】
そこで、本実施例では、ニボルマブ(抗PD-1抗体製剤)治療後の患者について、末梢血単核球中のγδT細胞の割合、γδT細胞の抗原刺激による増殖誘導性、増殖誘導後のPD-1を発現量と奏功性及び有害事象との相関関係について検討を行った。
【0127】
1.試験デザイン
[施設数]多施設共同試験(長崎大学病院、長崎原爆病院)
[対象]肺がん患者
[選択基準]
コンピュータ断層撮影で組織学的に肺がんと確認された患者(any T, any N, and M1, stage IV)、
パーフォーマンスステータス(PS)0、年齢20~75歳、主要組織は機能を維持しており、当機関の試験基準に合致し、試験の性質について説明を受けた後、本試験への参加に対する同意書面を自発的に提出したものを採用する。
【0128】
[排除基準]
以下のうち一つでも該当する患者は、対象として除外する。
1)本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
2)妊婦および妊娠している可能性のある患者、または授乳中の患者
3)その他、研究責任者が研究対象者として不適当と判断した患者
【0129】
[プライマリーエンドポイント]
第1のプライマリーエンドポイントは、ニボルマブを投与された肺がん患者における、奏効率(ORR)と末梢血リンパ球ゲート中及びCD3陽性細胞中のVδ2T細胞の割合との相関関係である。
第2のプライマリーエンドポイントは、肺がん患者における奏効率(ORR)と抗原刺激後のPD-1発現Vδ2T細胞の割合との相関関係である。
【0130】
[セカンダリーエンドポイント]
第1のセカンダリーエンドポイントは、ニボルマブを投与された肺がん患者における、奏効率(ORR)と末梢血単核球中のNK細胞の割合との相関関係である。
第2のプライマリーエンドポイントは、肺がん患者における奏効率(ORR)とIL-2/IL-18刺激後のNK細胞の増殖との割合の相関関係である。
【0131】
[検体収集]
同意の得られた抗PD-1抗体ニボルマブを投与予定の症例より、投与前および投与3ヶ月後に、末梢血10mlのヘパリン採血を行う。この際、入院中の通常採血に付随して採血を行い、この採血のための新たな穿刺は行わない。
【0132】
[研究評価項目]
(A)腫瘍容積の測定及び奏効率(RECIST)
腫瘍容積はMRIを用いて測定する。測定はガイドラインにしたがって実施し、奏効率(ORR:Objective Response Rate)は超音波検査と臨床評価を使用してRECISTガイドラインにしたがい個別に評価する。
【0133】
(B)抗PD-1抗体ニボルマブ投与前および投与後末梢血単核球中のVγ2Vδ2T細胞およびCD56陽性NK細胞の数と割合の検討
フィコール濃度勾配遠心法により、末梢血単核球(PBMC)を精製し(実施例1参照)、7 mlのYM-AB培地に懸濁する。YM-AB培地に懸濁したPBMCのうち1mlに関してフローサイトメトリー解析を行う。具体的には、細胞懸濁液0.1mlずつを96ウェル丸底プレート9ウェルに播種し、1700rpm、4℃、2分間遠心する。上清を除去し、細胞ペレットをボルテックス攪拌する。そこに46μlの2% FCS/PBSと、それぞれ以下を添加する。
(i)2% FCS/PBS(4μl)
(ii)PE標識抗CD3抗体(2μl)+2% FCS/PBS(2μl)
(iii)2% FCS/PBS(2μl)+FITC標識抗Vδ2抗体(2μl)
(iv)PE標識抗CD3抗体(2μl)+FITC標識抗CD4抗体(2μl)
(v)PE標識抗CD3抗体(2μl)+FITC標識抗CD8抗体(2μl)
(vi)PE標識抗CD3抗体(2μl)+FITC標識抗Vδ1抗体(2μl)
(vii)PE標識抗CD3抗体(2μl)+FITC標識抗Vδ2抗体(2μl)
(viii)PE標識抗CD25抗体(2μl)+FITC標識抗CD4抗体(2μl)
(ix)PE標識抗CD56抗体(2μl)+FITC標識抗CD3抗体(2μl)
抗体添加後、プレートを氷上で15分インキュベートし、100μlの2% FCS/PBSを添加する。その後、プレートを1700 rpm、4℃、2分間遠心し、上清を除去する。この操作を計3回行い、最後に、200μlの2% FCS/PBSを添加し、70μmのフィルター膜に通し、フローサイトメトリーで解析を行う。この解析結果を基に、Vγ2Vδ2T細胞の割合と数、および、細胞表面マーカーの検討を行う。
【0134】
(C)PTA刺激による抗PD-1抗体ニボルマブ投与前および投与後末梢血Vδ2T細胞の増殖誘導性の検討
YM-AB培地に懸濁したPBMCのうち3mlに関してγδT細胞の増殖試験を行う。3mlのPBMC懸濁液に1mMのPTAを加え、24ウェルプレートの2ウェル(1.5 ml/ウェル, 2ウェル)に播種し、37℃、5%COでインキュベートする(Day 0)。
一方のウェルにIL-2(100 U/ml)、他方のウェルにIL-2(100U/ml)+IL-18(100ng/ml)の最終濃度で添加する(Day 1)。IL-2あるいはIL-2+IL-18をさらに添加する(Day 2-Day 9)。Day 10において細胞数を測定し、Vγ2Vδ2T細胞の増殖誘導性を検討する。
【0135】
(D)抗PD-1抗体ニボルマブ投与前および投与後末梢血IL-2/IL-18誘導性NK細胞の増殖誘導性の検討
YM-AB培地に懸濁したPBMCのうち残り3mlに関してNK細胞の増殖試験を行う。細胞懸濁の入った15mlのコニカルチューブを1700rpm、4℃で5分遠心する。次いで、上清を吸引除去し、細胞ペレットを分散させ、80μlのPBS/0.5%BSA/2mM EDTA に再懸濁させる。そこに20μlのMACS(登録商標)Beads(Mylteny Biotec)標識抗CD3抗体を20μl加え、4℃で15分間インキュベートする。ここに2mlのPBS/0.5%BSA/2mM EDTAを加えて細胞を軽く懸濁させる。次いで、この細胞懸濁液を300xg、4℃で10分遠心して上清を除去する。細胞ペレットを分散させ、1mlのPBS/0.5%BSA/2mM EDTAを添加し、細胞をよく懸濁させる。細胞懸濁液を、PBS/0.5%BSA/2mM EDTAで平衡化したLDカラム(磁性球体で構成される)にかける。CD3陰性細胞を1mlのPBS/0.5%BSA/2mM EDTAで2回溶出する。1700rpm、4℃、5分間遠心し、上清を捨て、アスピレーターで吸引除去する。次いで、細胞ペレットを分散させ、CD3細胞を1.5mlのYM-AB培地に懸濁させる。 これを24ウェルプレートに播種し、IL-2及びIL-18をそれぞれ終濃度100U/ml及び100ng/mlとなるように添加し、37℃、5%COでインキュベートする(Day 0)。IL-2及びIL-18を毎日培地に加える(Day 2-Day 9)。Day 10において細胞数を測定し、NK細胞の増殖誘導性を検討する。
【0136】
(E)増殖誘導後のVδ2T細胞のPD-1を含む表面マーカー解析(方法:前記(F)参照)
PTAにより増殖誘導したVγ2Vδ2T細胞をDay 10において回収し、細胞表面マーカーのフローサイトメトリーによる検討を行う。具体的には、細胞懸濁液0.1mlずつを96ウェル丸底プレート7ウェルに播種し、1700rpm、4℃、2分間遠心する。上清を除去し、細胞ペレットをボルテックス攪拌する。そこに46μlの2% FCS/PBSと、それぞれ以下を添加する。
(i)2% FCS/PBS(4μl)
(ii)PE標識抗CD3抗体(2μl)+2% FCS/PBS(2μl)
(iii) 2% FCS/PBS(2μl)+FITC標識抗Vδ2抗体(2μl)
(iv)PE標識抗CD3抗体(2μl)+FITC標識抗Vδ2抗体(2μl)
(v)PE標識抗CD3抗体(2μl)+FITC標識抗CD4抗体(2μl)
(vi)PE標識抗CD3抗体(2μl)+FITC標識抗CD8抗体(2μl)
(vii)PE標識抗CD56抗体(2μl)+FITC標識抗Vδ2抗体(2μl)
(viii)2% PE標識抗NKG2D抗体(2μl)+FITC標識抗Vδ2抗体(2μl)
(ix)PE標識抗DNAM-1抗体(2μl)+FITC標識抗Vδ2抗体(2μl)
(x)PE標識抗FasL(2μl)+FITC標識抗Vδ2抗体(2μl)
(xi)PE標識抗TRAIL抗体(2μl)+FITC標識抗Vδ2抗体(2μl)
(xii)PE標識抗CD16抗体(2μl)+FITC標識抗Vδ2抗体(2μl)
(xiii)無標識抗PD-1抗体(2μl)+RPE標識抗マウスIgG抗体(2μl)+FITC標識抗Vδ2抗体(2μl)
抗体添加後、プレートを氷上で15分インキュベートし、100μlの2% FCS/PBSを添加する。その後、プレートを1700 rpm、4℃、2分間遠心し、上清を除去する。この操作を計3回行い、最後に、200μlの2% FCS/PBSを添加し、70μmのフィルター膜に通し、フローサイトメトリーで解析を行う。この解析結果を基に、Vγ2Vδ2T細胞の割合と個数、および、細胞表面マーカーの検討を行う。
【0137】
(F)増殖誘導後のNK細胞の表面マーカー解析
Day 10において細胞を回収し、細胞表面マーカーのフローサイトメトリーによる検討を行う。具体的には、細胞懸濁液0.1mlずつを96ウェル丸底プレート7ウェルに播種し、1700 rpm、4℃、2分間遠心する。上清を除去し、細胞ペレットをボルテックス攪拌する。そこに46μlの2% FCS/PBSと、それぞれ以下を添加する。
(i)2% FCS/PBS(4μl)
(ii)PE標識抗CD56抗体(2μl)+FITC標識抗CD3抗体(2μl)
(iii)PE標識抗NKG2D抗体(2μl)+FITC標識抗CD56抗体(2μl)
(iv)PE標識抗DNAM-1抗体(2μl)+FITC標識抗CD56抗体(2μl)
(v)PE標識抗FasL(2μl)+FITC標識抗CD56抗体(2μl)
(vi)PE標識抗TRAIL抗体(2μl)+FITC標識抗CD56抗体(2μl)
(vii)PE標識抗CD16抗体(2μl)+FITC標識抗CD56抗体(2μl)
抗体添加後、プレートを氷上で15分インキュベートし、100μlの2% FCS/PBSを添加する。その後、プレートを1700 rpm、4℃、2分間遠心し、上清を除去する。この操作を計3回行い、最後に、200μlの2% FCS/PBSを添加し、70μmのフィルター膜に通し、Vγ2Vδ2T細胞の細胞表面マーカーに関するフローサイトメトリーで解析する。この解析結果を基に、NK細胞の割合と個数、および、細胞表面マーカーの検討を行う。
【0138】
(G)増殖誘導後のVδ2T細胞に対するPD-1免疫チェックポイント阻害剤の有用性の検討
増殖誘導したVγ2Vδ2T細胞の細胞障害性アッセイを行う。標的細胞としてはヒトPD-L1を強制発現させたヒトDaudiバーキットリンパ腫由来細胞株Daudi/hPD-L1を用い、PD-1免疫チェックポイント阻害剤としてはマウス抗ヒトPD-L1抗体27A2を用いる。
まずDaudi/hPD-L1を30mlのRPMI1640培地に懸濁し、75cmフラスコで37℃、5%COで培養する。細胞数を測定し、1x10個の細胞を4本の15mlコニカルチューブに移す。細胞懸濁液を1700rpm、4℃で5分遠心し、上清を吸引除去し、細胞ペレットを分散させる。チューブ1及び2には、細胞を1mlのRPMI1640培地に懸濁し、1x10個の/mlの細胞懸濁液を調製する。チューブ3及び4には、100nMのPTA溶液を1ml添加し、よく懸濁する。37℃、5% CO雰囲気下で1時間45分インキュベートする。チューブ4に、1mg/mlのマウス抗ヒトPD-L1モノクローナル抗体27A2を2μl添加し、最終濃度が0.5μg/mlになるようにする。さらに、これらのチューブを37℃、5% CO雰囲気下で15分間インキュベートする。次に、チューブ1に、2.5μlのDMSO、チューブ2~4にテルピリジン誘導体Ch46(ビス(ブチリロキシメチル)4’-(ヒドロキシメチル)-2,2’:6’,2’’-テルピリジン-6,6’-ジカルボキシラート:WO2015/152111 実施例8参照)を2.5μl添加し、37℃、5% CO雰囲気下で15分インキュベートする。次にこれらのチューブを1700 rpm、4℃、5分間遠心し、上清を除去する。細胞ペレットをタッピングし、2mlのRPMI1640培地を添加し、細胞をよく懸濁後、この操作を3回繰り返し、細胞を洗浄する。5mlのRPMI1640培地で細胞を懸濁し、この細胞懸濁液2mlを新しい15mlコニカルチューブに移し、6mlのRPMI1640培地を添加し、細胞の最終濃度を5x10個/m = 5x10個/100μlとする。RPMI1640培地中1 x 10のVγ2Vδ2T細胞を15mlのコニカルチューブに移す。1700rpm、4℃で5分遠心し、上清を吸引除去し、5mlのRPMI1640培地に添加し、細胞をよく懸濁後、以下のように系列希釈を行い、細胞懸濁液を調製する。
5 ml (Vγ2Vδ2T細胞) : 2 x 106/ml: 40 : 1 (E/T ratio)
2 ml (2 x 106/ml) + 2 ml (RPMI) : 1 x 106/ml: 20 : 1 (E/T ratio)
2 ml (1 x 106/ml) + 2 ml (RPMI) : 5 x 105/ml : 10 : 1 (E/T ratio)
2 ml (5 x 105/ml) + 2 ml (RPMI) : 2.5 x 105/ml : 5 : 1 (E/T ratio)
2 ml (2.5 x 105/ml) + 2 ml (RPMI) : 1.25 x 105/ml: 2.5 : 1 (E/T ratio)
2 ml (1.25 x 105/ml) + 2 ml (RPMI) : 6.25 x 104/ml: 1.25 : 1 (E/T ratio)
2 ml (6.25 x 105/ml) +2 ml (RPMI) : 3.125 x 104/ml: 0.625 : 1 (E/T ratio)
2 ml (RPMI) : 0/ml: 0 : 1 (E/T ratio)
【0139】
次に丸底96ウェルプレートに、3ウェルずつに、100μlのVγ2Vδ2T細胞懸濁液(試験用)、100μlのRPMI1640培地(自然漏出測定用)、あるいは90μlのRPMI1640培地(最大漏出測定用)を添加する。ここに、100μlのDaudi/hPD-L1細胞を添加し、500rpmで、室温2分間遠心し、37℃、5% CO雰囲気下で15分インキュベート後、最大漏出測定用ウェルに10μlの0.125%ジギトニン(19%DMSO中(MiliQ溶液))を添加し、よくピペッティングする。プレートをさらに、37℃、5% CO雰囲気下で20分以上インキュベートし、1700rpm、4℃で2分間遠心する。次に、25μlの上清を新しい丸底96ウェルプレートに移し、250μlのEu溶液とよく混和する。これを200μl新しい蛍光測定用プレートに移し、時間分解蛍光を測定する。これらの結果を基に、増殖培養したVγ2Vδ2T細胞の示すPD-L1発現性腫瘍細胞株への抗腫瘍効果におけるPD-1免疫チェックポイント阻害剤の影響を検討する。
【0140】
(H)増殖誘導後のNK細胞とPD-1免疫チェックポイント阻害剤の有用性の検討
増殖誘導したNK細胞の細胞障害性アッセイを行う。標的細胞としてヒト骨髄腫由来細胞株K562細胞株を、Vγ2Vδ2T細胞の代わりにNK細胞用いる以外は、上記(G)と同じ手順で時間分解蛍光を測定し、その結果を基に増殖培養したNK細胞の示すK562細胞株への抗腫瘍効果を検討する。
【0141】
[統計解析]
ニボルマブ投与前および投与後について、上記評価項目記載のバイオマーカーについて要約統計量(例数、平均、標準偏差、最小値、四分位範囲、中央値、最大値等)を求める。ニボルマブ奏功の有無で2群に分け、各バイオマーカーの要約統計量を求める。これらの結果から、末梢血単核球中のγδT細胞の割合、γδT細胞の抗原刺激による増殖誘導性、増殖誘導後のPD-1を発現量と奏功性との相関関係について検討を行う。さらに、γNK細胞の割合及び増殖誘導能と奏功性との相関関係について検討を行う。次にニボルマブ奏功に対するカットオフ値を推定するために、各バイオマーカーによるROC曲線を作成する。また、ニボルマブ奏功に対して多因子による関与が考えられた場合には、各バイオマーカーによるLogisticモデルより多因子ROC曲線を求め、多因子でのカットオフ値を推定する。
【0142】
[結果]
下表に結果を示す。
【0143】
【表5】
【0144】
13名の被験者のうち、TR01、TR02、TR03、及びTR07において間質性肺炎の発症が確認された。そのうち、TR01とTR02はDAD(びまん性肺胞傷害)であり、他の2例(OP(器質性肺炎))とは異なり、急性憎悪を来たし、投薬を中止するも1例は死亡するに至った。TR01及びTR02は、TR03及びTR07とは異なり末梢血単核球に対するγδT細胞の割合(CD3Vδ2/All)及びT細胞に対するVδ2細胞の割合(Vδ2/CD3)が高く、統計解析の結果、データの完全分離が確認された。
【0145】
以上より、末梢血単核球に対するVδ2γδT細胞の細胞数又は割合を指標にすることで、DADを伴う間質性肺炎をそれ以外の間質性肺炎と鑑別して、その発症リスクを予測することが可能であると考えられた。これにより、投薬前に重大な有害事象を発生するリスクのある患者を見分け、投薬前に治療対象から除外したり、事前の手当てを行うなど、免疫チェックポイント阻害剤による安全な治療が可能になる。なお、ここでは末梢血単核球をベースとして評価したが、CD3Vδの細胞が多い試料の場合には、末梢血T細胞に対するVδ2細胞の細胞数又は割合を指標とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明は、免疫チェックポイント阻害剤による重症間質性肺炎の発症リスクを投与前に予測し、治療の適否を判定することで、精密医療の実現に有用である。
【0147】
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。

図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
図6
図7
図8
図9