(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】地山補強用鋼管
(51)【国際特許分類】
E21D 9/04 20060101AFI20231016BHJP
E21D 20/00 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
E21D9/04 F
E21D20/00 G
(21)【出願番号】P 2022189311
(22)【出願日】2022-11-28
(62)【分割の表示】P 2018199721の分割
【原出願日】2018-10-24
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】591029921
【氏名又は名称】フジモリ産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503090186
【氏名又は名称】冨士興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003340
【氏名又は名称】弁理士法人湧泉特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂根 一聡
(72)【発明者】
【氏名】香山 昌和
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-110994(JP,A)
【文献】特開2014-181551(JP,A)
【文献】特開2003-164941(JP,A)
【文献】特開2012-255318(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/04
E21D 20/00
F16L 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネジ接合によって継ぎ足される地山補強用鋼管であって、
ネジ部を有さない管本体と、
内周面又は外周面にネジ部を有し、かつ前記管本体より短く、かつ前記管本体の端部に分離不能に接合された接続管部と、
を備え、前記管本体の厚さが前記接続管部の前記ネジ部より管本体側のストレート部の厚さより小さく、前記
接続管部が一般構造用炭素鋼鋼管にて構成され、前記管本体が、一般構造用炭素鋼鋼管よりも高引張強度の鋼管にて構成されていることを特徴とする地山補強用鋼管。
【請求項2】
前記管本体が、引張強度650N/mm
2~1200N/mm
2、耐力600N/mm
2~900N/mm
2の鋼材によって構成された請求項1に記載の地山補強用鋼管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばNATM(New Austrian Tunneling Method)工法によるトンネル施工の際の補助工法として地山に打ち込まれる地山補強鋼管に関し、特に、ネジ接合によって順次継ぎ足されて長尺化される先受け鋼管などに適した地山補強用鋼管に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル補助工法の1つであるAGF(All Ground Fasten)工法においては、長さ3m程度の鋼管を4本程度、順次継ぎ足しながら、切羽前方の地山に打ち込み、地山を先受け補強する。各鋼管の一端部には雄ネジが形成され、他端部には雌ネジが形成されている。先行して打ち込んだ鋼管と後続の鋼管とをネジ接合することで一直線に継ぎ足す。最先端の鋼管及び最後尾の鋼管においては片方の端部だけに雄ネジ又は雌ネジが形成されていればよい。
【0003】
通常、この種の地山補強用の各鋼管は、一体物の単体管であり、全体が単一の鋼材質によって構成されている。具体的には、一般構造用炭素鋼鋼管STK400(JIS G3444)を用いるのが一般的である。
【0004】
特許文献1における地山補強用鋼管は、管本体と、それとは別体の接続管部とを有している。管本体は、地山補強に必要な強度を発現するための所要の肉厚を有している。管本体の一端部の内周面には雌ネジが形成されている。管本体の他端部に接続管部が摩擦圧接によって接合されている。接続管部は、管本体よりも厚肉かつ短い管によって構成され、その外周面に雄ネジが形成されている。
特許文献2の地山補強用鋼管においては、管本体の一端部に雄ネジ付きの接続管部が接合され、他端部に雌ネジ付きの接続管部が接合されている。管本体には雄ネジも雌ネジも形成されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-053268号公報
【文献】実用新案登録第3182663号公報(請求項2、
図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的なAGF工法用の鋼管の標準スペックは、肉厚6mm程度、外直径114.3mm程度、長さ3m程度であり、重量は約50kgである。このため、人力で持ち運ぶのは容易でなく作業性が良好でない。
特許文献1の地山補強用鋼管においては、管本体の肉厚を、地山補強に必要な強度を確保可能、かつ一端部の内周面に雌ネジを形成可能な大きさにする必要がある。特許文献1には、管本体の肉厚を2.5mm~7mm程度とするとの記載があるが、所要のネジ接合強度を得るためのネジ山高さを考えると、管本体の肉厚は実際には4.5mm程度以上は必要と考えられる。このため、あまり軽量化できない。
特許文献2の地山補強用鋼管においては、管本体を、ネジ山を形成し得る肉厚にする必要はないが、一般構造用炭素鋼鋼管を用いる限り、地山補強に必要なある程度の肉厚を有していなければならず、作業性を十分改善し得るまで軽量化することは期待できない。
本発明は、かかる事情に鑑み、ネジ接合によって順次継ぎ足される地山補強用鋼管を、所要強度を確保しつつ軽量化して、作業性を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、ネジ接合によって継ぎ足される地山補強用鋼管であって、
ネジ部を有さない管本体と、
内周面又は外周面にネジ部を有し、かつ前記管本体より短く、かつ前記管本体の端部に分離不能に接合された接続管部と、
を備え、前記管本体と前記接続管部の鋼材質が互いに異なり、かつ前記管本体の引張強度が、前記接続管部の引張強度より大きいことを特徴とする。
管本体として接続管部より高引張強度の鋼材質を用いることによって、所要強度を確保しつつ管本体を確実に薄肉にできる。したがって、地山補強用鋼管を軽量化でき、人力で持ち運びしやすく、作業性を改善できる。
また、本発明は、ネジ接合によって継ぎ足される地山補強用鋼管であって、
ネジ部を有さない管本体と、
内周面又は外周面にネジ部を有し、かつ前記管本体より短く、かつ前記管本体の端部に分離不能に接合された接続管部と、
を備え、前記管本体の厚さが前記接続管部の前記ネジ部より管本体側のストレート部の厚さより小さく、前記接続管体が一般構造用炭素鋼鋼管にて構成され、前記管本体が、一般構造用炭素鋼鋼管よりも高引張強度の鋼管にて構成されていることを特徴とする。
【0008】
前記接続管部が、引張強度400N/mm2~550N/mm2、耐力235N/mm2~500N/mm2の鋼材によって構成されていることが好ましい。前記接続管部としては、一般構造用炭素鋼鋼管STK400(JIS G3444)を用いることができる。
前記管本体が、引張強度650N/mm2~1200N/mm2、耐力600N/mm2~900N/mm2の鋼材によって構成されていることが好ましい。前記管本体としては、一般構造用炭素鋼鋼管STK400よりも高引張強度の鋼管を用いる。これによって、所要強度を確保しながら管本体を確実に薄肉化でき、地山補強用鋼管を確実に軽量化でき、作業性を十分に改善できる。
【0009】
前記管本体の厚さが、2.5mm~4mmであることが好ましい。
管本体にはネジ部を形成する必要がなく、しかも接続管部より高引張強度の鋼材質を用いることによって、このような厚さを実現できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、地山補強用鋼管の所要強度を確保するとともに、軽量化でき、作業性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る地山補強用鋼管からなる長尺先受け鋼管を地山に打設する様子を示す、施工中のトンネルの断面図である。
【
図2】
図2(a)は、前記地山補強用鋼管の分解正面図である。
図2(b)は、前記地山補強用鋼管の断面図である。
【
図3】
図3は、
図2(b)の円部IIIを拡大して示す断面図である。
【
図4】
図4は、
図2(b)の円部IVを拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
図1は、NATM工法によって施工中のトンネル1を示したものである。地山2が掘削されてトンネル1が構築されている。トンネル1の軸方向の一定間隔置きに、H型断面の鋼材からなるアーチ状の支保工3が設置されている。支保工3間の掘削面2aには、吹付コンクリート4が吹付けられている。支保工3及び吹付コンクリート3の内周側には、二次覆工(図示省略)が構築される。
【0013】
トンネル1の施工においては、地山補強のための補助工法として例えばAGF工法が実施されている。AGF工法においては、ドリルジャンボ5を用いて、複数本(例えば4本程度)の地山補強用鋼管10を順次継ぎ足しながら、切羽1bの前方(
図1において右)の地山2に斜めに打ち込み、長尺の先受け鋼管9を形成する。各地山補強用鋼管10の長さは例えば3m程度である。隣接する地山補強用鋼管10どうしがネジ接合によって一直線に連なっている。先受け鋼管9の全長は、例えば12m程度である。
詳細な図示は省略するが、先受け鋼管9のまわりの地山2には、シリカレジンやモルタルなどの注入材が注入されている。
【0014】
図2(a)及び同図(b)に示すように、地山補強用鋼管10は、管本体11と、接続管部20,30を有している。
管本体11は真っ直ぐに延びる直管である。管本体11の管長は、地山補強用鋼管10の全長(例えば3m程度)とほぼ同程度であり、管本体11の外直径は例えば70mm~120mm程度である。管本体11の外周面及び内周面にはネジ部、テーパ部、段差などは形成されておらず、管本体11の厚みは、該管本体11の一端部から他端部まで一定である。管本体11の両端面は、平坦になっており、例えばインロウ型の接合用の段差は形成されていない。
【0015】
管本体11の一端部(
図2(b)において右端部)には、接続管部20が突き当てられて分離不能に接合されている。管本体11の他端部(
図2(b)において左端部)には、接続管部30が突き当てられて分離不能に接合されている。管本体11と接続管部20,30との接合手段としては、開先溶接(詳細な図示は省略)が適用されているが、これに限らず摩擦圧接などを適用してもよい。接続管部20,30の管長は、管本体11の管長に比べて十分に短い。
なお、先受け鋼管9の最先端の鋼管10Eにおいては、後端部(
図1において左下端部)だけに接続管部20又は30が設けられていればよい。最後尾の鋼管10Bにおいては、先端部(
図1において右上端部)だけに接続管部30又は20が設けられていればよい。
【0016】
図2(b)に示すように、接続管部20は、ネジ形成部21と、ストレート部22と、テーパ部23を有している。ネジ形成部21の外周面に雄ネジ24(ネジ部)が形成されている。ネジ形成部21とテーパ部23との間に、ストレート部22が設けられている。ネジ形成部21とストレート部22の内周面が面一に連続している。ネジ形成部21及びストレート部22の内径は、管本体11の内径より小径である。
【0017】
図3に示すように、テーパ部23の内周面は、ストレート部22の内周面と段差無く連なるとともに、管本体11に向かって拡径されている。テーパ部23における管本体11側の端部の内径は、管本体11の内径と等しい。
ストレート部22及びテーパ部23の外径は、管本体11の外径と等しい。ストレート部22とテーパ部23の外周面は面一に連続しており、更には管本体11の外風面と面一に連続している。
【0018】
図2(b)に示すように、接続管部30は、ネジ形成部31と、ストレート部32と、テーパ部33を有している。ネジ形成部31の内周面に雌ネジ34(ネジ部)が形成されている。
図2(b)において二点鎖線にて示すように、各地山補強用鋼管10の雌ネジ34は、隣接する別の地山補強用鋼管10の雄ネジ24と螺合可能である。
【0019】
ネジ形成部31とテーパ部33との間に、ストレート部32が設けられている。
図4に示すように、ストレート部32の内径は、管本体11の内径より小径である。テーパ部33の内周面は、ストレート部32の内周面と段差無く連なるとともに、管本体11に向かって拡径されている。テーパ部33における管本体11側の端部の内径は、管本体11の内径と等しい。
図2に示すように、接続管部30の外径は管本体11の外径と等しい。接続管部30の外周面が管本体11の外周面と面一に連続している。
【0020】
管本体11と接続管部20,30の鋼材質は互いに異なっている。かつ管本体11の引張強度が、接続管部20,30の引張強度より大きい。
好ましくは、接続管部20,30は、引張強度400N/mm2~550N/mm2、耐力235N/mm2~500N/mm2の鋼材によって構成されている。かかる接続管部20,30用の鋼管として、一般構造用炭素鋼鋼管STK400(JIS G3444)を用いることができる。
【0021】
これに対して、管本体11としては、一般構造用炭素鋼鋼管STK400よりも高引張強度の鋼管10が用いられている。好ましくは、管本体11は、引張強度650N/mm2~1200N/mm2、耐力600N/mm2~900N/mm2の鋼材によって構成されている。鋼材に含まれるC,Si,Mn,P,Sその他成分の配合比を調整することによって、前記引張強度及び耐力を得ることができる。
管本体11として、例えば特開2002-003941に開示された鋼管を用いてもよい。
【0022】
管本体11の厚さt11(外半径と内半径との差)は、接続管部20,30のストレート部22,32の厚さより小さく、好ましくはt11=2.5mm~4mm程度、より好ましくはt11=2.5mm~3.5mm程度である。
なお、接続管部20,30のストレート部22,32の厚さは、好ましくは5mm~7mm程度、より好ましくは6mm程度である。
【0023】
かかる地山補強用鋼管10によれば、管本体11として接続管部20,30より高引張強度及び高耐力の鋼材質を用いることによって、所要強度を確保しつつ管本体11を確実に薄肉にできる。しかも、管本体11には、ネジ24,34を形成する必要がなく、一層薄肉化できる。したがって、管本体11ひいては地山補強用鋼管10を軽量化でき、人力で持ち運びやすくなり作業性を改善できる。
【0024】
例えば、一般的なAGF工法における地山補強用鋼管の標準スペック(肉厚6mm、外直径114.3mm、長さ3m)の場合、重量が約50kgであるのに対し、本発明態様の地山補強用鋼管10においては、管本体11を引張強度800N/mm2、厚さ3.2mm、外直径114.3mm、長さ3mとした場合、重量が約30kgとなる。したがって、約40%の軽量化を実現できる。
【0025】
管本体11には、ネジ部、テーパ部、段差その他の形状変化部が設けられていないから、切削などの加工を施す必要がない。したがって、加工容易性を考慮することなく、管本体11の強度を設定できる。
【0026】
地山補強用鋼管10の管本体11の内周面と、接続管部20,30のネジ形成部21,31の内周面との間にテーパ部23,33を設けておくことによって、パイロットビット6(
図1)の抜き差し時における引っ掛かりを防止できる。また、長尺先受け鋼管9の内部に入り込んだ土砂をスムーズに排出できる。
【0027】
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変をなすことができる。
例えば、本発明の鋼管は、AGF工法用の先受け鋼管に限らず、鏡補強工用の鋼管、地中杭用の鋼管としても適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、例えばAGF工法用の先受け鋼管に適用できる。
【符号の説明】
【0029】
1 トンネル
2 地山
2a 掘削面
3 支保工
4 吹付コンクリート
5 ドリルジャンボ
6 パイロットビット
9 長尺先受け鋼管
10 地山補強用鋼管
11 管本体
20 雄ネジ管部(接続管部)
21 ネジ形成部
22 ストレート部
23 テーパ部
24 雄ネジ(ネジ部)
30 接続管部
31 ネジ形成部
32 ストレート部
33 テーパ部
34 雌ネジ(ネジ部)