(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】配線構造体及び半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3205 20060101AFI20231016BHJP
H01L 21/768 20060101ALI20231016BHJP
H01L 23/532 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
H01L21/88 M
H01L21/90 K
(21)【出願番号】P 2019016200
(22)【出願日】2019-01-31
【審査請求日】2021-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2018106833
(32)【優先日】2018-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)平成30年10月10日、Proceedings of Advanced Metallization Conference 2018,28th Asian Session、7-4頁にて発行 (2)平成30年10月12日、Advanced Metallization Conference 2018,28th Asian Sessionにて公開 (3)平成30年10月29日、APPLIED PHYSICS LETTERS、American Institute of Physics、第113巻、第183503頁にて発行
(73)【特許権者】
【識別番号】513114571
【氏名又は名称】株式会社マテリアル・コンセプト
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100182925
【氏名又は名称】北村 明弘
(72)【発明者】
【氏名】小池 淳一
【審査官】宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-299636(JP,A)
【文献】特表2010-536175(JP,A)
【文献】特開2010-065317(JP,A)
【文献】特開2009-008770(JP,A)
【文献】特開2008-270545(JP,A)
【文献】特開平01-102940(JP,A)
【文献】特開2000-252466(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3205
H01L 21/768
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属間化合物からなる導電体と、絶縁体層
(ただし、ガラスを除く)とを有する、配線構造体であって、
前記金属間化合物は、第1の金属元素及び第2の金属元素を含み、
前記第1の金属元素と前記第2の金属元素との原子比が、48.5:51.5~51.5:48.5の範囲、または30:70~37:63の範囲であり、
前記第1の金属元素は、Fe、Co、Ni、Cu及びZnからなる群から選択される1種以上であり、前記第2の金属元素は、Al及びSbからなる群から選択される1種以上であり、
前記導電体及び前記絶縁体層の間に、少なくとも前記第2の金属元素及び酸素が結合して構成される金属酸化物層が介在しており、
前記導電体の線幅が500nm以下である、配線構造体。
【請求項2】
前記絶縁体層が無機酸化物によって構成され、前記金属間化合物は、前記第1の金属元素及び前記第2の金属元素を含み、該絶縁体層の酸化物形成標準自由エネルギーの絶対値に対して、前記第1の金属元素の酸化物形成標準自由エネルギーの絶対値が小さく、且つ前記第2の金属元素の酸化物形成標準自由エネルギーの絶対値が大きい、請求項1に記載の配線構造体。
【請求項3】
前記金属間化合物は、Co及びAlからなる金属間化合物、Fe及びAlからなる金属間化合物、Ni及びAlからなる金属間化合物、Cu及びAlからなる金属間化合物、並びにNi及びSbからなる金属間化合物からなる群から選択される1種以上である、請求項
1または2に記載の配線構造体。
【請求項4】
半導体装置において、半導体素子と外部回路とを接続するための、請求項1~
3のいずれか1項に記載の配線構造体。
【請求項5】
半導体素子と、配線構造体とを含み、前記半導体素子と外部回路とを接続する、半導体装置であって、
前記配線構造体は、金属間化合物により構成される導電体と、絶縁体層
(ただし、ガラスを除く)とを有し、
前記金属間化合物は、第1の金属元素及び第2の金属元素を含み、
前記第1の金属元素と前記第2の金属元素との原子比が、48.5:51.5~51.5:48.5の範囲、または30:70~37:63の範囲であり、
前記第1の金属元素は、Fe、Co、Ni、Cu及びZnからなる群から選択される1種以上であり、前記第2の金属元素は、Al及びSbからなる群から選択される1種以上であり、
前記導電体及び前記絶縁体層の間に、少なくとも前記第2の金属元素及び酸素が結合して構成される金属酸化物層が介在しており、
前記導電体の線幅が500nm以下である、半導体装置。
【請求項6】
前記絶縁体層が無機酸化物によって構成され、前記金属間化合物は、前記第1の金属元素及び前記第2の金属元素を含み、該絶縁体層の酸化物形成標準自由エネルギーの絶対値に対して、前記第1の金属元素の酸化物形成標準自由エネルギーの絶対値が小さく、且つ前記第2の金属元素の酸化物形成標準自由エネルギーの絶対値が大きい、請求項
5に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記金属間化合物は、Co及びAlからなる金属間化合物、Fe及びAlからなる金属間化合物、Ni及びAlからなる金属間化合物、Cu及びAlからなる金属間化合物、並びにNi及びSbからなる金属間化合物からなる群から選択される1種以上である、請求項
5または6に記載の半導体装置。
【請求項8】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の配線構造体を製造する方法であって、
酸化物からなる絶縁体層を有する基板を、100℃以上500℃以下に加熱し、該基板上に2種の金属元素を蒸着して金属間化合物からなる導電体を形成する、配線構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランジスタと外部回路とを接続するための多層配線構造体がある配線構造体及び半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体装置は、トランジスタと外部回路とを接続するための多層配線構造体を有する。このうち、多層配線構造体は、銅からなる導電体配線と、絶縁体と、それらの界面に配置される拡散バリア層からなる。拡散バリア層は銅が絶縁体中に拡散することを防止するために用い、通常、TiN又はTaNと、Ti、Ta、Ru及びCoのいずれかとの積層体からなるものである(非特許文献1)。
【0003】
ここで、多層配線構造体を作製する場合は、まず絶縁体膜を形成し、次にフォトリソグラフィー法を用いて絶縁体膜の表面からエッチングすることで溝を形成し、溝内部に拡散バリア層を形成し、最後に銅を埋め込んで導電体配線を形成する。
【0004】
ところで近年では、半導体装置の高性能化を実現するために、半導体装置を構成する要素部品の微細化が行われている。多層配線構造体も微細化されて導電体配線の電気抵抗が増加する。現状利用されている銅からなる導電体配線は、銅の自由電子の平均自由行程が約40nmであるため、導電体配線の線幅又は線高が40nm以下に微細化されると、電気抵抗率が急激に増加する。
【0005】
線幅が40nm以下の導電体配線において、電気抵抗率が過度に高くなることを回避するために、平均自由行程とバルク電気抵抗率との積が、銅のそれより小さい値となる金属を選択して銅の代替にすることが報告されている。例えば非特許文献2では、そのような金属として、Rh、Ir、Ni、Mo、Co、Ruが提案されている。しかし、このような金属は、絶縁体表面で凝集する傾向があり、絶縁体に形成された配線用の溝に埋め込むことが困難である。
【0006】
現状の多層配線構造体が有しているもう一つの課題は、導電体配線が占有すべき溝の一部を拡散バリア層が占有していることにある。このため、拡散バリア層が無い場合と比較して、配線の実効抵抗率はより高い値になる。拡散バリア層の存在によって電気抵抗率が過度に高くなることを回避するには、拡散バリア層を必要としない導電体材料を用いることが考えられるが、現状でそのような材料は利用されていない。
【0007】
このように、半導体装置の多層配線構造体においては、微細化の進展に伴って銅配線の電気抵抗率が過度に上昇するという課題がある。また、成膜時に銅が凝集しやすく絶縁体に形成された配線用の溝に埋め込み難いという課題がある。さらに、拡散バリア層が配線溝の一部を占有することによって実効電気抵抗率が過度に上昇するという課題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】A.E.Kaloyeros and E.Eisenbraun,Annual Review of Materials Science,30,363-385(2000).
【文献】D.Gall,Journal of Applied Physics,119,085201(2016).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上のような実情に鑑みてなされたものであり、拡散バリア層を必要とせず、導電性、及び導電体と絶縁体との間の密着性に優れる配線材料及びそれを用いた半導体素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、金属間化合物を導電体として用いることにより、拡散バリア層を必要とせず、導電性、及び導電体と絶縁体との間の密着性に優れる配線材料を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は、以下のものを提供する。
【0011】
(1)金属間化合物からなる導電体と、絶縁体層とを有する、配線構造体。
【0012】
(2)前記金属間化合物は、Al、Fe、Co、Ni及びZnからなる群から選択される2種以上の金属元素を含む、(1)に記載の配線構造体。
【0013】
(3)前記金属間化合物は、Co及びAlからなる金属間化合物、Fe及びAlからなる金属間化合物、Ni及びAlからなる金属間化合物、Fe及びCoからなる金属間化合物、並びにNi及びZnからなる金属間化合物から選択される1種以上である、(1)又は(2)に記載の配線構造体。
【0014】
(4)前記絶縁体層が無機酸化物によって構成され、前記金属間化合物は、第1の金属元素及び第2の金属元素を含み、該絶縁体層の酸化物形成標準自由エネルギーの絶対値に対して、前記第1の金属元素の酸化物形成標準自由エネルギーの絶対値が小さく、且つ前記第2の金属元素の酸化物形成標準自由エネルギーの絶対値が大きい、(1)に記載の配線構造体。
【0015】
(5)前記金属間化合物は、第1の金属元素及び第2の金属元素を含み、前記第1の金属元素は、Fe、Co、Ni、Cu及びZnからなる群から選択される1種以上であり、前記第2の金属元素はAl及びSbからなる群から選択される1種以上である、(1)又は(4)に記載の配線構造体。
【0016】
(6)前記導電体及び前記絶縁体層の間に、少なくとも前記第2の金属元素及び酸素が結合して構成される金属酸化物層が介在する、(1)、(4)及び(5)のいずれかに記載の配線構造体。
【0017】
(7)前記金属間化合物は、Co及びAlからなる金属間化合物、Fe及びAlからなる金属間化合物、Ni及びAlからなる金属間化合物、Cu及びAlからなる金属間化合物、並びにNi及びSbからなる金属間化合物からなる群から選択される1種以上である、(1)及び(4)~(6)のいずれかに記載の配線構造体。
【0018】
(8)半導体装置において、半導体素子と外部回路とを接続するための、(1)~(7)のいずれか1項に記載の配線構造体。
【0019】
(9)半導体素子と、配線構造体とを含む半導体装置であって、前記配線構造体は、金属間化合物により構成される導電体と、絶縁体層とを有し、前記半導体素子と外部回路とを接続する、半導体装置。
【0020】
(10)前記絶縁体層が無機酸化物によって構成され、前記金属間化合物は、第1の金属元素及び第2の金属元素を含み、該絶縁体層の酸化物形成標準自由エネルギーの絶対値に対して、前記第1の金属元素の酸化物形成標準自由エネルギーの絶対値が小さく、且つ前記第2の金属元素の酸化物形成標準自由エネルギーの絶対値が大きい、(9)に記載の半導体装置。
【0021】
(11)前記金属間化合物は、第1の金属元素及び第2の金属元素を含み、前記第1の金属元素は、Fe、Co、Ni、Cu及びZnからなる群から選択される1種以上であり、
前記第2の金属元素はAl及びSbからなる群から選択される1種以上である、(9)または(10)に記載の半導体装置。
【0022】
(12)前記導電体及び前記絶縁体層の間に、少なくとも前記第2の金属元素及び酸素が結合して構成される金属酸化物層が介在する、(9)~(11)のいずれかに記載の半導体装置。
【0023】
(13)前記金属間化合物は、Co及びAlからなる金属間化合物、Fe及びAlからなる金属間化合物、Ni及びAlからなる金属間化合物、Cu及びAlからなる金属間化合物、並びにNi及びSbからなる金属間化合物からなる群から選択される1種以上である、(9)~(12)のいずれかに記載の半導体装置。
【0024】
(14)(1)~(8)のいずれかに記載の配線構造体を製造する方法であって、酸化物からなる絶縁体層を有する基板を、100℃以上500℃以下に加熱し、該基板上に2種の金属元素を蒸着して金属間化合物からなる導電体を形成する、配線構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、半導体素子の配線構造体において、拡散バリア層を必要とせず、例えば線幅40nm以下の微細な導電体を有する配線を構成しても、実効電気抵抗率が過度に高い値になることを回避できるので、これを用いて高性能の半導体装置を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施例1-1~1-4の試料及びシリコンウェハーのX線回折パターンである。
【
図2】(a)実施例1-1の試料の断面の透過型電子顕微鏡写真であり、(b)実施例1-4の試料の断面の透過型電子顕微鏡写真である。
【
図3】(a)実施例1-1の試料のSiO
2膜とAlNi薄膜とを含む領域で電子線を走査して得られたEDX分析結果であり、(b)実施例1-4の試料のSiO
2膜とAlNi薄膜とを含む領域で電子線を走査して得られたEDX分析結果である。
【
図4】実施例2-1~2-5の試料のC-V曲線である。
【
図5】実施例3-1~3-5の試料の電気抵抗率対Ni濃度のプロットである。
【
図6】実施例4-1、4-2及び4-4の試料の電気抵抗率対膜厚のプロットである。
【
図7】(a)実施例5の試料の実施例5において得られた試料の断面の走査型透過電子顕微鏡(STEM)写真図であり、(b)及び(c)実施例5において得られた試料のEDX分析結果である。
【
図8】NiAl、CuAl
2、NiSb及び銅を配線電極とする配線構造体における配線電極の線幅と電気抵抗率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0028】
なお、本明細書において、「M1M2」(M1、M2はそれぞれ異なる金属元素である)の表記は、M1とM2を含む金属間化合物を言うが、M1とM2の両論的関係について示すものではない。すなわち、「M1M2」の記載は、M1:M2がモル比で1:1のもののみを示すものではなく、各金属元素とも理論上の整数比から±10モル%程度の誤差が許容される。
【0029】
〔配線構造体〕
【0030】
本実施形態に係る配線構造体は、金属間化合物からなる導電体と、絶縁体層とを有する。このような配線構造体においては、線状の導電体の外周が、絶縁体層で被覆された構造を有している。
【0031】
導電体としての金属間化合物は、その配線の径が約10nm以下になると、銅よりも高い導電性を示す。上述したとおり、近年求められる半導体装置の高性能化を実現するため、半導体装置を構成する要素部品の微細化が進められているが、金属間化合物が有するこのような性質は半導体装置の高性能化の要求を満たすものである。
【0032】
一方、導電体としての金属間化合物は、規則的な結晶構造を有し、その化学結合がイオン結合的であるため、結合力が強く、容易に分離して隣接する絶縁体中に拡散することがない。また、このような金属間化合物は、融点が高いため、導電体の線幅が狭くなり電流密度が高くなっても、エレクトロマイグレーション不良に対する耐性に優れている。さらに、これら金属間化合物は耐酸化性に優れるため、長期使用においても酸化による配線抵抗上昇がない。
【0033】
すなわち、このような金属間化合物は、構成する金属元素が隣接する絶縁体中に拡散することによって引き起こされる絶縁不良に対する耐性に優れているから、これを用いた配線構造体においては、必ずしも拡散バリア層を設ける必要はない。言い換えれば、導電体と絶縁体層が接触していてもよい。このようにして、拡散バリア層を設けず、導電体及び絶縁体層が接触することにより、絶縁体に形成された配線用の溝の全体積を有効に利用できる。その結果、同じ幅の配線用の溝に拡散バリア層とCu配線を形成した場合と比較して実効抵抗率を低い値に維持できる。
【0034】
このような配線構造体においては、導電体及び絶縁体層の界面においては、金属間化合物の構成元素と絶縁体層の酸素が結合していることが好ましい。この金属元素と酸素の結合が及ぶ範囲は一原子間隔でも良いし、数原子層の金属酸化物層となっていてもよい。具体的に、酸素と結合する金属元素は、金属間化合物が第1の金属元素及び第2の金属元素の2種の金属元素を含む場合において、それら2種の金属元素の一方(第2の金属元素)であってよい。
【0035】
また、金属間化合物が、第1の金属元素及び第2の金属元素の2種の金属元素を含み、且つ絶縁体層が無機酸化物から構成される場合、このような配線構造においては、絶縁体層をなす酸化物の酸化物形成標準自由エネルギーの絶対値に対して、第1の金属元素の酸化物形成標準自由エネルギーの絶対値が小さく、且つ第2の金属元素の酸化物形成標準自由エネルギーの絶対値が大きいことが好ましい。このように第1の金属元素及び第2の金属元素を選択することにより、第2の金属元素が絶縁体層の酸素と強く結合する。このことによって配線と絶縁体層との密着性を高めることができる。さらに、配線と絶縁体層との濡れ性を高めることができ、絶縁体層に形成した配線形状をした溝内部に容易に埋め込むことが可能となる。また、このような組み合わせで第1の金属元素と第2の金属元素とを用いることにより、結合がイオン結合的になり、強固な結合を有する配線材料を得ることができる。
【0036】
なお、600Kにおける酸化物形成標準自由エネルギーはそれぞれ以下のとおりである。
【表1】
【0037】
具体的に、金属間化合物としては、特に限定されないが、Al、Fe、Co、Ni及びZnからなる群から選択される2種以上の金属元素を含むものであることが好ましい。
【0038】
このような金属間化合物としては、例えばCo及びAlからなる金属間化合物(CoAl)、Fe及びAlからなる金属間化合物(FeAl)、Ni及びAlからなる金属間化合物(NiAl)、Fe及びCoからなる金属間化合物(FeCo)、又はNi及びZnからなる金属間化合物(NiZn)であることが好ましい。これらの金属間化合物は、他の金属間化合物と比べて室温におけるバルク体の電気抵抗率が低いという利点がある。さらに、金属間化合物として安定して存在するための組成幅を有するため、作製が容易である。
【0039】
また、別の態様において、金属間化合物としては、例えばFe、Co、Ni、Cu、Zn、Al及びSbからなる群から選択される少なくとも2種以上の金属元素を含む金属間化合物を用いることが好ましく、第1の元素として、Fe、Co、Ni、Cu及びZnからなる群から選択される1種以上含み、且つ第2の元素としてAl及びSbからなる群から選択される1種以上を含んでなる金属間化合物を用いることがより好ましい。
【0040】
このような金属間化合物としては、例えば、Co及びAlからなる金属間化合物(CoAl)、Fe及びAlからなる金属間化合物(FeAl)、Ni及びAlからなる金属間化合物(NiAl)、Cu及びAlからなる金属間化合物(CuAl2)、又はNi及びSb(NiSb)からなる金属間化合物を用いることが好ましい。
【0041】
金属間化合物としては、特に限定されないが、体心立方晶規則構造を有するものを用いることがより好ましい。金属間化合物が、体心立方晶規則構造を有することにより、結晶方位の依存性がなく、どのような結晶配向性を有しても特性に変化がない導電体が得られる。
【0042】
また、別の態様において、金属間化合物としては、特に限定されないが、六方晶規則構造を有するものを用いることがより好ましい。金属間化合物が、六方晶則構造を有することにより、体心立方晶と同様に結晶方位の依存性がなく、どのような結晶配向性を有しても特性に変化がない導電体が得られる。なお、六方晶規則構造を有する金属間化合物の例としては、CuAl2が挙げられる。
【0043】
金属間化合物としては、特に限定されないが、2種の金属元素を含むものを用いることが好ましい。このような場合において、2種の金属元素の比(第1の金属元素:第2の金属元素)としては、当該金属間化合物が略1:1の比を有するもの(例えば、AlCo、AlFe、AlNi、NiSb等)である場合、原子比で48.5:51.5~51.5:48.5であるものを用いることが好ましく、49.0:51.0~51.0:49.0であるものを用いることがより好ましい。2種類の金属元素の比が50:50である場合に原子欠陥のない規則構造が得られるため電気抵抗値は最小値を示すが、2種類の金属元素の比が所要量の範囲内であれば、金属間化合物の規則構造は維持され、かつ導電体の抵抗の上昇を許容範囲内に抑制できる。
【0044】
金属間化合物としては、特に限定されないが、2種の金属元素を含むものを用いることが好ましい。このような場合において、2種の金属元素の比(第1の金属元素:第2の金属元素)としては、当該金属間化合物が略1:2の比を有するもの(例えば、CuAl2等)である場合、原子比で.30:70~37:63であるものを用いることが好ましく、32:68~35:65であるものを用いることがより好ましい。2種類の金属元素の比が33:67である場合に原子欠陥のない規則構造が得られるため電気抵抗値は最小値を示すが、2種類の金属元素の比が所要量の範囲内であれば、金属間化合物の規則構造は維持され、かつ導電体の抵抗の上昇を許容範囲内に抑制できる。
【0045】
導電体の線幅(直径)としては、特に限定されないが、例えば500nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましく、40nm以下であることが特に好ましい。導電体の線幅が所要量以下であることにより、半導体装置を構成する要素部品をより微細化することができる。
【0046】
(絶縁体層)
絶縁体層としては、絶縁性を有するものであれば特に限定されなく、広く無機酸化物、無機窒化物、無機酸窒化物等を用いることができる。例えばSiO2、SiOCH、SiNx、SiON、シリコンを含む樹脂等を用いることができる。その中でも、SiO2やSiOCH等のSi-O結合を有する絶縁体を用いることが好ましい。SiO2及びSiOCHを用いた場合、当該絶縁体層が、絶縁性、機械的強度、弾性率、及び耐熱性のいずれにも優れるものである。
【0047】
絶縁体層の形状としては、導電体の周囲を囲むものであれば特に限定されず、その用途に応じて適宜設計することができる。例えば、導電体の周囲を囲むような筒状であってもよいし、バルク状や膜状の絶縁体層に導電体の周囲を囲むような空洞が設けられたものであってもよい。具体的にそのような空洞としては、例えばビア穴や配線溝が挙げられる。またエアギャップ構造でもよい。
【0048】
このようにして形成される配線構造体は、例えば、後述するように、半導体素子と外部回路との接続に用いることができる。
【0049】
〔半導体装置〕
本実施形態に係る半導体装置は、半導体素子と、配線構造体とを含む半導体装置であって、配線構造体は、Al、Fe、Co、Ni及びZnからなる群から選択される2種以上の金属元素を含む金属間化合物により構成される導電体と、絶縁体層とを有し、半導体素子と外部回路とを接続する。なお、配線構造体の特徴は上述したとおりであるため、ここでの記載は省略する。
【0050】
半導体素子としては、特に限定されないが、例えばMOSFET、FinFET、GAAFETなどの電界効果トランジスタ、V-NAND、DRAM、RRAM(登録商標)、PRAM、MRAMなどのメモリが挙げられる。その中でも高速動作が必要とされるトランジスタを用いることが好ましい。
【0051】
外部回路としては、特に限定されないが、例えば電源回路、制御回路等が挙げられる。
【0052】
〔配線構造体・半導体装置の製造方法〕
以上のような半導体装置の製造方法の一例をより具体的に説明する。まず、シリコン基板の一部にリン(P)又はホウ素(B)を添加してキャリア濃度を調整し、チャネル領域を形成する。次に、チャネル領域の周辺にゲート電極、ソース電極、ドレイン電極を形成し、トランジスタ構造を作る。
【0053】
このようなトランジスタの上部には配線構造体があり、コンタクト、M0、M1、M2等の導電体配線を順次形成する。この配線構造体を形成するには、まずトランジスタの上部にプラズマ支援化学気相蒸着(PE-CVD)法やスピンコート法等を利用してSiO2、SiOCH等のSi-Oを基本構造骨格とした絶縁体層を形成する。このようにして得られた絶縁体層に対し、リソグラフィー法を用いて配線形状の溝及びビア形状の穴を形成する。その後、ビア穴及び配線溝に、スパッタ法、化学気相蒸着(CVD)法、PE-CVD法、原子層堆積(ALD)法、プラズマ支援原子層堆積(PE-ALD)法等を利用して、金属間化合物を形成する。金属間化合物が過剰量生成した場合、化学機械的研磨(CMP)法によって除去し平坦化する。これらの工程を繰り返して多層配線構造体を形成する。
【0054】
より具体的に、上述したような配線構造体は、酸化物からなる絶縁体層を有する基板を、100℃以上500℃以下に加熱し、その基板上に2種の金属元素を蒸着して金属間化合物からなる導電体を形成することにより製造することができる。
【0055】
なお、半導体装置においては、一つの装置内に複数の配線構造体が設けられることがある。このような半導体装置内において、特に多層配線構造体の線幅が太い配線(例えば線幅が50nm以上の配線)やビアは従来法のように拡散バリア層とCuで形成することもできる。この場合、金属間化合物配線とCuとの間には、Cu配線の拡散バリア層であるCo/TaNまたはTa/TaNの二層構造体を設けることができる。このような構造にすることで、金属間化合物配線とCuとが相互拡散して配線抵抗が上昇することを防止でき、あるいは相互に反応して高抵抗の界面層を形成することを防止できる。
【実施例】
【0056】
以下に実施例を挙げて、本発明についてさらに詳細に説明する。本発明は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0057】
〔AlNi薄膜試料の構造評価〕
(実施例1-1)未加熱処理AlNi薄膜試料
シリコンウェハー基板上に、絶縁体として厚さが100nmのSiO2膜を、プラズマ支援化学気相蒸着法(PE-CVD)を用いて成膜した。
【0058】
次に、SiO2膜上に、AlとNiの純金属を原材料(スパッタターゲット)として直流スパッタ法で同時成膜することでAl-Ni合金を得た。AlとNiの原子比は50:50とした。AlとNiが等濃度となるように成膜条件を調整してAlNi薄膜試料を作製した。
【0059】
(実施例1-2)250℃加熱処理AlNi薄膜試料
実施例1-1と同様にして得られたAlNi薄膜をさらに250℃で30分加熱してAlNi薄膜試料を作製した。
【0060】
(実施例1-3)400℃加熱処理AlNi薄膜試料
実施例1-1と同様にして得られたAlNi薄膜をさらに400℃で30分加熱してAlNi薄膜試料を作製した。
【0061】
(実施例1-4)500℃加熱処理AlNi薄膜試料
実施例1-1と同様にして得られたAlNi薄膜をさらに500℃で30分加熱してAlNi薄膜試料を作製した。
【0062】
実施例1-1~1-4の試料及びシリコンウェハーの構造を、X線回折法を用いて分析した。
図1は実施例1-1~1-4の試料及びシリコンウェハーのX線回折パターンである。
【0063】
図1から分かるように、いずれの試料においても、回折ピークが観測された角度は、31.0°、44.4°、55.1°であった。これらの回折ピークは、それぞれ体心立方晶規則構造の100、110、111反射に対応するものである。この結果から、AlNi薄膜の結晶構造は体心立方晶規則構造であることが分かった。
【0064】
実施例1-1及び実施例1-4の試料の断面を透過型電子顕微鏡で観察した。
図2(a)は、実施例1-1の試料の断面の透過型電子顕微鏡写真であり、
図2(b)は、実施例1-4の試料の断面の透過型電子顕微鏡写真である。いずれの試料においても、結晶粒が膜の厚さ方向に延伸した柱状晶を形成していた。柱状晶の膜厚方向の平均長さは、実施例1-1(未加熱処理)で約80nm、実施例1-4(500℃加熱処理)で150nmであった。柱状晶の面内方向の平均長さは、実施例1-1(未加熱処理)で約9nm、実施例1-4(500℃加熱処理)で約16nmであった。
【0065】
実施例1-1及び実施例1-4の試料の断面の元素組成を透過型電子顕微鏡に付属するEDX(X線エネルギー分散分光)装置を用いて分析した。
図3(a)は、実施例1-1の試料のSiO
2膜とAlNi薄膜とを含む領域で電子線を走査して得られたEDX分析結果であり、
図3(b)は、実施例1-4の試料のSiO
2膜とAlNi薄膜とを含む領域で電子線を走査して得られたEDX分析結果である。これら
図3(a)及び(b)において、縦軸は構成元素の特性X線強度である。いずれの試料においても、SiO
2膜中にはAlもNiも検出されなかった。また、いずれの試料においても、AlNi膜中にOとSiが検出された。実施例1-1(未加熱処理)の試料においても、AlNi膜中にOとSiが検出されており、熱処理後も相対強度に変化はない。したがって、AlNi膜中のOとSiは、断面サンプル作製時の酸化及びエッチングされたSiが、断面サンプル表面に再付着したことによるものである。また、AlNi膜とSiO
2膜の界面には、両膜の構成元素以外の元素は検出されなかった。これらの結果から、実施例1-1及び実施例1-4のいずれの試料においても、SiO
2膜とAlNi膜は界面に他の層を形成することなく、直接的に接触しており、500℃、30分の熱処理によっても相互に拡散することはないといえる。
【0066】
〔AlNi薄膜試料の電気的特性評価〕
AlNi薄膜がSiO2膜に対して拡散バリア層を不要とすることを示すために、MOS構造を有するC―V(電気容量―電圧)測定用の試料を作製し、高温かつ高電界下に保持した後のフラットバンド電圧の変化を測定した。測定用の試料は次の手順で作製した。
【0067】
(実施例2-1)未加熱処理AlNi薄膜試料
Si基板はp型シリコンウェハーを用いて、その片側の面上にSiO2膜を成膜した。ウェハーのSiO2膜が形成されていない裏面にAlを蒸着して250℃で10分の熱処理を行い、オーミック電極を形成した。その後、厚さが20nmのSiO2膜上にフォトレジスト膜を形成し、リフトオフ法によってAlNi膜の電極パターンを形成した。AlNi電極試料のサイズは一辺200μmの正方形とした。
【0068】
(実施例2-2)300℃加熱処理AlNi薄膜試料
実施例2-1と同様にして得られたAlNi薄膜をさらに300℃で30分加熱してAlNi薄膜試料を作製した。
【0069】
(実施例2-3~2-5)BTS試験AlNi薄膜試料
実施例2-1と同様にして得られたAlNi電極試料(MOSサンプル)においてBTS(バイアス・温度ストレス)試験を行った。具体的には、表裏の電極間に6Vの電圧(3MV/cmの電界強度)を印加し、250℃でそれぞれ10分(実施例2-3)、30分(実施例2-4)、60分(実施例2-5)保持した。
【0070】
実施例2-1~2-5の試料についてC-V測定を行った。
図4は、実施例2-1~2-5の試料のC-V曲線である。具体的に、この
図4は、電圧をスイープした際の電気容量の変化を示す。AlNiの構成元素がSiO
2中に拡散する場合は、C-V曲線が負電圧方向にシフトする。すなわち、フラットバンド電位が負にシフトする。しかし、
図4が示すように、フラットバンドの負方向へのシフトは見られず、SiO
2中にAl又はNiの拡散は生じなかったといえる。このようにAlNi薄膜は従来のCu薄膜のように拡散バリア層を必要としないことが分かった。この要因として、AlとNiがイオン結合に類似する強固な原子結合状態を保持しているため、AlとNiがそれぞれ独立した原子として分離しSiO
2中に拡散することが困難であるからと考える。
【0071】
〔AlNi薄膜試料のNi:Al比が電気抵抗率に及ぼす影響〕
(実施例3-1)未加熱処理AlNi薄膜試料
それぞれの金属をスパッタする際のスパッタ電圧を変化させることにより、Ni原子とAl原子の全量に対するNiの原子比、すなわちNi濃度を48.5原子%から53.0原子%となるように制御した以外、実施例1-1と同様にしてAlNi薄膜試料を作製した。なお、AlNi薄膜の厚さは260nmであった。
【0072】
(実施例3-2)250℃加熱処理AlNi薄膜試料
それぞれの金属をスパッタする際のスパッタ電圧を変化させることにより、Ni濃度が48.5原子%から53.0原子%となるように制御した以外、実施例1-2と同様にしてAlNi薄膜試料を作製した。なお、AlNi薄膜の厚さは260nmであった。
【0073】
(実施例3-3)400℃加熱処理AlNi薄膜試料
それぞれの金属をスパッタする際のスパッタ電圧を変化させることにより、Ni濃度が48.5原子%から53.0原子%となるように制御した以外、実施例1-3と同様にしてAlNi薄膜試料を作製した。なお、AlNi薄膜の厚さは260nmであった。
【0074】
(実施例3-4)500℃加熱処理AlNi薄膜試料
それぞれの金属をスパッタする際のスパッタ電圧を変化させることにより、Ni濃度が48.5原子%から53.0原子%となるように制御した以外、実施例1-4と同様にしてAlNi薄膜試料を作製した。なお、AlNi薄膜の厚さは260nmであった。
【0075】
実施例3-1~3-4の試料の電気抵抗率を測定した。
図5は、実施例3-1~3-5の試料の電気抵抗率対Ni濃度のプロットである。
図5から分かるように、実施例3-1~3-4の試料においてNi濃度が50原子%において電気抵抗率が最低となり、熱処理温度の上昇とともに電気抵抗率が減少した。
【0076】
〔AlNi薄膜試料の膜厚が電気抵抗率に及ぼす影響〕
(実施例4-1)未加熱処理AlNi薄膜試料
それぞれの金属をスパッタする際の時間を変化させることにより、薄膜の厚さを制御した以外、実施例1-1と同様にしてAlNi薄膜試料を作製した。なお、Ni濃度は50原子%とした。
【0077】
(実施例4-2)250℃加熱処理AlNi薄膜試料
それぞれの金属をスパッタする際の時間を変化させることにより、薄膜の厚さを制御した以外、実施例1-2と同様にしてAlNi薄膜試料を作製した。なお、Ni濃度は50原子%とした。
【0078】
(実施例4-3)400℃加熱処理AlNi薄膜試料
それぞれの金属をスパッタする際の時間を変化させることにより、薄膜の厚さを制御した以外、実施例1-3と同様にしてAlNi薄膜試料を作製した。なお、Ni濃度は50原子%とした。
【0079】
(実施例4-4)500℃加熱処理AlNi薄膜試料
それぞれの金属をスパッタする際の時間を変化させることにより、薄膜の厚さを制御した以外、実施例1-4と同様にしてAlNi薄膜試料を作製した。なお、Ni濃度は50原子%とした。
【0080】
実施例4-1、4-2及び4-4の試料の電気抵抗率を測定した。
図6は、実施例4-1、4-2及び4-4の試料の電気抵抗率対膜厚のプロットである。なお、この
図6において、比較のためにCu薄膜(未加熱処理)の結果も示す。Cu薄膜の電気抵抗率は、膜厚が8nm以下になると急激に増加し、AlNi薄膜の電気抵抗率を上回る。Cu薄膜の急激な抵抗率の上昇は、自由電子の散乱に加えて、CuのSiO
2に対する濡れ性が乏しいため、未加熱処理の状態で凝集する傾向にあり、薄膜の連続性が阻害されるからである。これらの結果から、電気抵抗の観点で、厚さが8nm以下の連続膜においてはAlNi薄膜がCu薄膜より有利であることが分かった。
【0081】
金属配線が絶縁体に形成された溝内部に形成される場合は、拡散バリア層を必要とするか否かが配線の実効電気抵抗率に多大な影響を及ぼす。従来のCu配線の場合では、配線溝内部の両側側壁と底部に高抵抗の拡散バリア層が形成される。その厚さは約5nmであり、配線幅(w)のうちCuが占めるのはw-10nmとなる。一方で、AlNi配線の場合は拡散バリア層が不要であるため、配線幅の全てをAlNiが占有できるという優位性がある。
【0082】
〔AlNi薄膜試料の密着強度評価〕
AlNi薄膜とSiO2膜との密着強度を評価した。具体的に、実施例4-1~4-4の試料のうち、それぞれ膜厚が150nm及び100nmのものを用い、ASTM D 3359-79にしたがってテープテストを行った。また、比較のためにSiO2上に150nmのCu薄膜を形成したサンプルも同様のテストを行った。その結果、実施例4-1~4-4の試料はいずれもテープテストによっても全く剥離が無かったが、Cu薄膜は全て剥離した。実施例4-1~4-4の試料についてX線光電子分光法によって界面近傍のAlの結合状態を調べた結果、いずれの試料においても、Alが酸化した状態になっており、酸化物形成傾向の強いAlがSiO2の酸素と結合して強固な密着性を保持しているものと考える。
【0083】
〔構造分析〕
(実施例5)
シリコン基板上に、テトラエチルオルソシラン(TEOS)を原料とするプラズマ支援化学気相成長法により、SiO2からなる絶縁体層を形成した。フォトリソグラフィー法によってSiO2膜に配線形状を有する溝を形成した。その後、基板を100~500℃の温度範囲に加熱した。ここでは250℃に加熱した例を示す。配線を形成する金属はCu及びAlを選択した。ここで、Cuの酸化物形成標準自由エネルギー(ΔG0)は-40~-59kJ/molであり、Siの酸化物形成標準自由エネルギー(ΔG0=-192kJ/mol)より絶対値が小さい。一方で、Alの酸化物形成標準自由エネルギーは-235kJ/molであり、Siの酸化物形成標準自由エネルギーより絶対値が大きい。基板を加熱した状態でCuとAlの純金属ターゲットを直流スパッタ法で蒸着した。このとき組成比がCu:Al=1:2となるようにスパッタパワーを調整した。
【0084】
図7(a)は、実施例5において得られた試料の断面のSTEM写真図である。
図7(b)及び(c)は、実施例5において得られた試料のEDX分析結果である。より具体的に、
図7(b)及び(c)は、
図7(b)の挿図における垂直方向(縦線上)及び水平方向(横線上)をそれぞれ走査して得られたEDX分析結果である。
【0085】
図7(a)より、SiO
2絶縁体層に形成した溝内部に緻密な充填物が観察された。
【0086】
図7(b)の挿図の垂直方向にEDX分析を行った
図7(b)から、この方向においては、いずれの点においてもCuとAlの組成比が約1:2となっており、CuAl
2金属間化合物が形成されたことがわかった。
【0087】
一方で、
図7(c)の水平方向にEDX分析を行った
図7(c)によれば、配線と絶縁体層との界面近傍でAlとOの濃度が高くなっており、Al-O結合を有する層が形成されていることがわかる。これは、Alの酸化物形成標準自由エネルギーがSiの酸化物形成標準自由エネルギーより大きいため、SiO
2がAlによって一部還元されてAlO
xが形成されたことを示している。この反応によって金属間化合物と絶縁体層は良好な密着を示すとともに、スパッタ蒸着時にAlが優先的に絶縁体層表面を覆うことによって配線の絶縁体層に対する濡れ性が向上し、結果的に配線溝に金属間化合物が緻密に埋め込まれることに貢献する。
【0088】
(配線抵抗の配線幅依存性) フォトリソグラフィー法を用いてSiO
2絶縁体層に種々の幅を有する配線溝を形成した。配線溝の高さと幅は等しくなるようにした。この配線溝内部を埋めるように、NiAl、CuAl
2及びNiSb金属間化合物をスパッタ法で形成した。それぞれの金属間化合物をスパッタ成膜する際には基板を350℃、250℃、300℃に加熱した。その後、絶縁体層の上部表面に余剰に形成された金属間化合物をCMP法で研磨して除去した。配線溝を等間隔のサーペンタイン形状として形成した。得られた配線構造体試料について、直流四探針法によって配線の電気抵抗率を測定した。また、比較試料として、配線溝に純Cuを埋め込んだ試料(
図7において、「Cu」と示す。)を作製した。さらに、Ta/TaNの二層構造膜を2nmの厚さに成膜し、その後純Cuを埋め込んだ試料(
図7において、「Cu w L/B」と示す。)も作製した。
【0089】
図8は、NiAl、CuAl
2、NiSb及び銅を配線電極とする配線構造体における配線電極の線幅と電気抵抗率の関係を示す図である。
図8において、横軸は配線電極の線幅(nm)であり、縦軸は電気抵抗率(μΩ cm)である。
図8から分かるように、NiAl,CuAl
2及びNiSb金属間化合物からなる配線は、純Cuを埋め込んだ試料(Cu)より抵抗が低くならないが、その一方で、Ta/TaNの二層構造膜を有するCu配線と比較すると、線幅が7~9nm以下の範囲において、低い抵抗値を示すことがわかる。
【0090】
〔AlFe、AlCo、CoFe、CuAl2、NiZn、NiSb薄膜の評価〕
p型シリコンウェハーを基板としてその片側の面上にSiO2膜を成膜した。その上に、等モル比(第1の元素:第2の元素)の2種類の元素からなるAlFe、AlCo、CoFe、CuAl2、NiZn及び、NiSbの薄膜をスパッタ法で作製した。これらの薄膜において、未加熱処理のもの、30分の250℃加熱処理、30分の400℃加熱処理、30分の500℃加熱処理を施したものをそれぞれ試料として、AlNi薄膜試料と同様の分析評価を行った。
【0091】
断面観察のEDXとMOS試料のC-V曲線の測定結果から、いずれの試料も拡散バリア層がなくとも、構成元素がSiO2膜中に拡散しないことが確認できた。また、各薄膜の電気抵抗率は、膜厚が8nm以下でCu薄膜の値を下回った。テープテストは全ての試料において剥離は確認されなかった。