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特許7366393熱電変換材料、およびそれを用いた熱電変換素子、熱電発電モジュール及びペルチェ冷却器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】熱電変換材料、およびそれを用いた熱電変換素子、熱電発電モジュール及びペルチェ冷却器
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/852 20230101AFI20231016BHJP
【FI】
H10N10/852
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019100662
(22)【出願日】2019-05-29
(65)【公開番号】P2020194926
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-02-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)第15回 日本熱電学会学術講演会(TSJ2018)、予稿論文集、第119頁、一般社団法人 日本熱電学会、平成30年09月13日公開 (2)第15回 日本熱電学会学術講演会(TSJ2018)、東北大学 青葉山キャンパス (C)エリア 東北大学工学部 中央棟 サインスキャンパスホール、平成30年09月13日公開
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発/小規模研究開発/ナノ構造を利用したフォノンとキャリア輸送の同時制御による熱電性能指数の飛躍的向上」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】ジュド プリヤンカ
(72)【発明者】
【氏名】太田 道広
(72)【発明者】
【氏名】奥村 一郎
【審査官】宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-523294(JP,A)
【文献】J. B. Conn et al.,"Thermoelectric and Crystallographic Properties of Ag2Se",JOURNAL OF THE ELECTROCHEMICAL SOCIETY,1960年,Vol. 107, No. 12,p. 977 - 982
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/852
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
AgSeを含む基材と、前記基材中に添加された硫黄(S)およびテルル(Te)からなる群から選択された少なくとも一つの元素(M)とを有し、
前記基材中のセレン(Se)の原子数に対する前記Mの原子数の比率であるxが0超かつ0.06以下であり、
300~380Kにおける無次元熱電性能指数ZTが、0.8超であることを特徴とする熱電変換材料。
【請求項2】
AgSeMxの組成式で表され、セレン(Se)の原子数に対する前記Mの原子数である前記xが0超かつ0.02未満であることを特徴とする請求項1に記載の熱電変換材料。
【請求項3】
前記xが0超かつ0.01以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の熱電変換材料。
【請求項4】
AgSeSyの組成式で表され、セレン(Se)の原子数に対する硫黄(S)の原子数の比率であるyが0超かつ0.02未満であることを特徴とする請求項2に記載の熱電変換材料。
【請求項5】
前記yが0超かつ0.01以下であることを特徴とする請求項4に記載の熱電変換材料。
【請求項6】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の熱電変換材料を有する熱電変換素子。
【請求項7】
請求項に記載の熱電変換素子を有する熱電発電モジュール。
【請求項8】
請求項に記載の熱電変換素子を有するペルチェ冷却器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換材料、およびそれを用いた熱電変換素子、熱電発電モジュール及びペルチェ冷却器に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電変換とは、半導体である固体素子を用いて熱エネルギーと電気エネルギーとを直接変換することである。熱電変換を利用した熱電発電は、ゼーベック効果に基づく温度勾配により発電する。熱電発電モジュールは、自動車、火力発電所、データセンターなどで生じる廃熱などの未利用熱エネルギーを回収して電気を作り出すことができるので、エネルギー危機の克服や二酸化炭素の排出削減に多大なる貢献をもたらす。
【0003】
一方、熱電変換を利用した熱電冷却は、ペルチェ効果を用いて、電気エネルギーの消費に伴って熱の流れを作り出す。ペルチェ効果を利用したペルチェ冷却器は電源部と熱電変換素子とを備え、可動部がないので、長寿命で、小型化でき、持ち運びも容易である。
【0004】
熱電変換は熱エネルギーと電気エネルギーとを直接変換することができる熱電変換材料を必要とする。熱電変換材料の性能は、無次元熱電性能指数ZTで表され、具体的には、ZT=S2T/(ρκtotal)である。ここで、Zは熱電変換材料の熱電性能指数、Tは絶対温度、Sは熱電変換材料のゼーベック係数、ρは熱電変換材料の電気抵抗率、κtotalは熱電変換材料の熱伝導率である。熱電変換材料の熱伝導率κtotalは、κtotal=κlat+κelで表される。κlatは格子熱伝導率であり、κelは電子熱伝導率である。
【0005】
エネルギー危機の克服や二酸化炭素の排出削減のため、未利用熱エネルギーを回収することができる高い無次元熱電性能指数を有する熱電変換材料が一段と必要とされている。未利用熱エネルギーの中で最も大きいエネルギーの割合を占めるのは、温度が373K以下の未利用熱エネルギーである。現在、373K以下における熱電発電モジュールやペルチェ冷却器に使用されている唯一の商業化熱電変換材料はBiTe合金であり、その無次元熱電変換指数ZTはおよそ1である(非特許文献1)。しかしながら、Teの地球表層における埋蔵量は少なく、熱電発電モジュールやペルチェ冷却器を幅広い機器に適用するためにはTeを使用しない熱電変換材料を開発することが必要である。
【0006】
第16族元素を含むAgSeはN型半導体であり、AgSeのバンドギャップはBiTeのバンドギャップと似たバンドギャップを有する。そのため、AgSeはBiTeの代替材料となる可能性がある。また、AgSeは0.5Wm-1-1以下という低い格子熱伝導率を有するため(非特許文献2)、AgSeを使用した熱電変換材料は高い無次元熱電性能指数を有することが期待される。
【0007】
407K以下においてAgSeの結晶構造は正方晶であり、0.2eVという狭いバンドギャップを有する。そのため、AgSeは407K以下において半導体となる。一方、407K以上においてAgSeの結晶構造は立方晶であり、金属と同様の電気伝導性を有する(非特許文献3)。
【0008】
非特許文献2、4、5及び6は373K以下におけるAgSeの無次元熱電性能指数について報告している。特に、非特許文献5及び6はAgSe中のセレン(Se)含有量を大きくすることでAgSeの無次元熱電性能指数を0.84から0.99付近に向上させることができると報告している。
【0009】
しかしながら、セレン(Se)は有毒元素であるため、熱電変換材料においてセレン(Se)を多く含有することは好ましくない。そのため、セレン(Se)含有量を抑え、かつ、安定した高い無次元熱電性能指数を有する熱電変換材料の開発が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】H Julian Goldsmid,“Chapter 6 The improvement of a specific material bismuth telluride”, Introduction to thermoelectricity(Springer),pp79~97,2010.
【文献】Tristan Day,Fivos Drymiotis,Tiansong Zhang,Daniel Rhodes,Xun Shi,Lidong Chen and G. Jeffrey Snyder,“Evaluating the potential for high thermoelectricefficiency of silver selenide”,Journal of Material Chemistry C,Vol.1,pp7568~7573,2013.
【文献】Michisuke Kobayashi,“Review on structural and dynamic properties of silver chalcogenides”,Solid State Ionics,Vol.39,pp121~149,1990.
【文献】J.B.Conn and R.C.Taylor,“Thermoelectric and crystallographic properties of Ag2Se”,Journal of the Electrochemical Society,Vol.107,pp977~982,1960.
【文献】Wenlong Mi,Pengfei Qiu,Tiansong Zhang,Yanhong Lv,Xun Shi,and Lidong Chen,“Thermoelectric transport of Se-rich Ag2Se in normal phases and phase transition”,Applied Physics Letters,Vol.104,pp133903:1~5,2014.
【文献】F.F.Aliev,M.B.Jafarov,and V.I.Eminova,“Thrmoelectric Figure of Merit of Ag2Se with Ag and Se excess” Semiconductors,Vol.43,pp977~979,2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、テルル(Te)を含有しないあるいはテルル(Te)の含有量を減らし、かつ、セレン(Se)の含有量を減らした、373K以下において安定して高い無次元熱電性能指数を有する熱電変換材料、および熱電変換材料を用いた熱電変換素子、熱電発電モジュール及びペルチェ冷却器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提供している。
(1)本発明の一様態に係る熱電変換材料は、AgSeを含む基材と、前記基材中に添加された硫黄(S)およびテルル(Te)からなる群から選択された少なくとも一つの元素(M)とを有し、前記基材中のセレン(Se)の原子数に対する前記Mの原子数の比率であるxが0超かつ0.06以下であり、300~380Kにおける無次元熱電性能指数Z T が0.8超であることを特徴とする。
(2)(1)に記載の熱電変換材料は、AgSeMxの組成式で表され、セレン(Se)の原子数に対する前記Mの原子数である前記xが0超かつ0.02未満であってもよい。
(3)(1)又は(2)に記載の熱電変換材料は、前記xが0超かつ0.01以下であってもよい。
(4)(2)に記載の熱電変換材料は、AgSeSyの組成式で表され、セレン(Se)の原子数に対する硫黄(S)の原子数の比率であるyが0超かつ0.02未満であってもよい。
(5)(4)に記載の熱電変換材料は、前記yが0超かつ0.01以下であってもよい。

(6)本発明の一様態に係る熱電変換素子は、(1)から()のいずれか一項に記載の熱電変換材料を有する熱電変換素子であってもよい。
本発明の一様態に係る熱電発電モジュールは、)に記載の熱電変換素子を有する熱電発電モジュールであってもよい。
本発明の一様態に係るペルチェ冷却器は、)に記載の熱電変換素子を有するペルチェ冷却器であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
テルル(Te)を含有しないあるいはテルル(Te)の含有量を減らし、かつ、セレン(Se)の含有量を減らした、300~380Kにおいて0.8超の無次元電熱性能指数を有する熱電変換材料、および熱電変換材料を用いた熱電変換素子、熱電発電モジュール及びペルチェ冷却器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態に係る熱電変換材料および従来技術に係る粉末X線回折パターンを示す図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る熱電変換材料および従来技術に係るキャリア量及びキャリア移動度の成分依存性を示す図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る熱電変換材料および従来技術に係る電気抵抗率の温度依存性を示す図である。
図4】本発明の第1実施形態に係る熱電変換材料および従来技術に係るゼーベック係数の温度依存性を示す図である。
図5】本発明の第1実施形態に係る熱電変換材料および従来技術に係る出力因子の温度依存性を示す図である。
図6】本発明の第1実施形態に係る熱電変換材料および従来技術に係る熱伝導率の温度依存性を示す図である。
図7】本発明の第1実施形態に係る熱電変換材料および従来技術に係る無次元熱電性能指数の温度依存性を示す図である。
図8】本発明の第2の実施形態に係る熱電変換素子の概略図である。
図9】本発明の第3の実施形態に係る熱電発電モジュールの概略図である。
図10】本発明の第4の実施形態に係るペルチェ冷却器の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係る熱電変換材料は
AgSeを含む基材と、前記基材中に添加された硫黄(S)およびテルル(Te)からなる群から選択された少なくとも一つの元素(M)とを有し、
前記基材中のセレン(Se)の原子数に対する前記Mの原子数の比率であるxが0超かつ0.06以下であることを特徴とする。
【0016】
AgSeはN型半導体であり、407K以下において結晶構造は正方晶であることを特徴とする。407K以上においてAgSeの結晶構造は立方晶となり、金属と同様の電気伝導性を有する。AgSeを含む基材もAgSeと同様の特性を有する。また、基材を含む熱電変換材料もAgSeと同様の特性を有する。そのため、本発明の第1実施形態に係る熱電変換材料は407K未満で使用されることが好ましい。また、基材はAgSe以外の不純物をできる限り含まないことが好ましい。
【0017】
硫黄(S)は熱電変換材料においてP型のキャリアを与えるアクセプターとして作用する。また、硫黄(S)の熱電変換材料への少量の添加は熱電変換材料中のキャリア量を減少させ、キャリア移動度を増加させる効果がある。これにより、熱電変換材料の無次元熱電性能指数ZTを増加させる。テルル(Te)は硫黄(S)と同じ第16族元素であり、熱電変換材料においてテルル(Te)は硫黄(S)と同様の作用をする。
【0018】
基材中のセレン(Se)の原子数に対する、元素(M)の原子数の比率であるxは、0超かつ0.06以下であることが好ましい。xが0である場合、熱電変換材料の無次元性能指数ZTが高い熱電変換性能を有する熱電変換材料を得ることができない。xが0.06超である場合、熱電変換材料に占めるAgSe及びSe相の比率が大きくなり、熱電変換材料の無次元性能指数ZTが低下するため好ましくない。
【0019】
本発明の第1実施形態に係る熱電変換材料はAgSeMの組成式で表され、かつ、セレン(Se)に対する元素(M)の原子比を表すxが0超かつ0.02未満であることが好ましい。これにより、熱電変換材料中にAgSe及びSe相が析出せず、高い無次元性能指数ZTを有する熱電変換材料が得られる。xは0超かつ0.01以下であることがより好ましい。これにより、xが0超かつ0.02未満の場合よりも高い無次元性能指数ZTを有する熱電変換材料が得られる。
【0020】
本発明の第1実施形態に係る熱電変換材料はAgSeSの組成式で表され、かつ、セレン(Se)に対する硫黄(S)の原子比を表すyが0超かつ0.02未満であることが好ましい。これにより、地球表層における埋蔵量が少ないTeを含まない、かつ、高い無次元性能指数ZTを有する熱電変換材料が得られる。yが0超かつ0.01以下であることがより好ましい。これにより、yが0超かつ0.02未満の場合よりも高い無次元性能指数ZTを有する熱電変換材料が得られる。
【0021】
本実施形態に係る熱電変換材料によれば、テルル(Te)を含有しないあるいはテルル(Te)の含有量を減らし、かつ、セレン(Se)の含有量を減らした高い無次元熱電性能指数ZTを有する熱電変換材料が実現できる。
【0022】
(第2実施形態)
図8に示すように、本発明の第2実施形態に係る熱電変換素子10は、熱電変換材料11及び熱電変換材料11を挟持する一対の電極材料12を有する。熱電変換材料11が第1実施形態に記載の熱電変換材料を使用する。
【0023】
電極材料12としては電気抵抗率が低く、熱伝導率が高い材料を使用することが好ましい。電極材料12の電気抵抗率が高く、熱伝導率が低いと、熱電変換素子の変換効率が低下する。電極材料12は、熱電変換材料11よりも融点が高い材料を使用することが好ましい。電極材料12の融点が熱電変換材料11の融点よりも低いと、熱電変換時に電極材料12が溶融して熱電変換素子10が損傷する恐れがある。また、電極材料12は熱電変換材料11に対して化学的に安定であることが好ましい。電極材料12は熱電変換材料11に対して化学的に不安定であると、熱電変換時に電極材料12と熱電変換材料11とが反応して熱電変換素子の変換効率が低下するため好ましくない。
【0024】
本実施形態に係る熱電変換素子によれば、テルル(Te)を含有しないあるいはテルル(Te)の含有量を減らし、かつ、セレン(Se)の含有量を減らした高い無次元熱電性能指数ZTを有する熱電変換素子が実現できる。
【0025】
(第3の実施形態)
図9に示すように、本発明の第3実施形態に係る熱電発電モジュール30は、P型熱電変換素子10aと、N型熱電変換素子10bと、P型熱電変換素子10aおよびN型熱電変換素子10bのそれぞれ一方の側に接触する上部接合電極31と、P型熱電変換素子10aの他方の側に接触する下部接合電極32と、N型熱電変換素子10bの他方の側に接触する下部接合電極33とを有する。図9に示すように熱電発電モジュール30は全体がπ型の形状とされる。
【0026】
P型熱電変換素子10aは、公知のP型熱電変換材料を有してもよい。N型熱電変換素子10bは、第2実施形態に記載の熱電変換素子を使用する。上部接合電極31、下部接合電極32及び下部接合電極33には、電気的及び熱的な伝導性が良い材料を使用することができる。例えば銅(Cu)などが使われる。その厚さは、特に限定されないが、機械的な強度も考慮して、1mm程度であることが好ましい。
【0027】
熱電発電モジュール30は、上部接合電極31に高温体を接触させ、下部接合電極32及び下部接合電極33との間に温度差を生じさせることで、P型熱電変換素子10aおよびN型熱電変換素子10bの上部接合電極31に接触する部分のキャリア量が増大し、キャリアがそれぞれ下部接合電極32及び下部接合電極33側へ拡散する。これにより、電流が下部接合電極33からN型熱電変換素子10b、上部接合電極31およびP型熱電変換素子10aを介して下部接合電極32に流れることにより、下部接合電極33に対して下部接合電極32に正電圧が生じる。これにより発電が可能である。
【0028】
本実施形態に係る熱電発電モジュール30によれば、テルル(Te)を含有しないあるいはテルル(Te)の含有量を減らし、かつ、セレン(Se)の含有量を減らした高い発電性能を有する熱電発電モジュール30が実現できる。
【0029】
(第4の実施形態)
図10に示すように、本発明の第4実施形態に係るペルチェ冷却器50は、P型熱電変換素子10aと、N型熱電変換素子10bと、P型熱電変換素子10aおよびN型熱電変換素子10bのそれぞれ一方の側に接触する上部接合電極31と、P型熱電変換素子10aの他方の側に接触する下部接合電極32と、N型熱電変換素子10bの他方の側に接触する下部接合電極33と、下部接合電極32及び下部接合電極33に接続され、下部接合電極33に正電圧、下部接合電極32に負電圧を印加する電源部51とを有する。なお、この第4実施形態においては、第3実施形態における構成要素と同一の部分については同一の符号を付し、その説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
【0030】
電源部51は、直流電圧源で十分に電流を供給可能であれば特に限定されない。
【0031】
ペルチェ冷却器50は、電源部51により供給された電流が、下部接合電極33からN型熱電変換素子10b、上部接合電極31、P型熱電変換素子10a、下部接合電極32の順に流れることで、上部接合電極31側の冷却対象物から吸熱し、N型熱電変換素子10bでは上部接合電極31側で電子がエネルギーを吸収して下部接合電極33側でエネルギーを放出し、P型熱電変換素子10aでは上部接合電極31側でホールがエネルギーを吸収して下部接合電極32側で放出することで、冷却対象物を冷却できる。
【0032】
本実施形態に係るペルチェ冷却器50によれば、テルル(Te)を含有しないあるいはテルル(Te)の含有量を減らし、かつ、セレン(Se)の含有量を減らした高い冷却性能を有するペルチェ冷却器50が実現できる。
【0033】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【実施例
【0034】
(比較例1)
原料である銀(Ag)7.320g及びセレン(Se)2.680g(合計10.000g)を、石英管の中に真空封入し、1273Kで反応させて、理論密度99%以上のAgSe多結晶試料を得た。得られたAgSe多結晶試料の一部は粉末状に砕いた後、X線回折でAgSeの相を測定した。X線回折の測定結果を図1に示した。なお、図1において、y=0のときの結果が比較例1の結果である。
【0035】
次に、得られたAgSe多結晶試料を棒状及び円盤状に切り出し、300Kから370Kの温度範囲において、キャリア量n、キャリア移動度μ、電気抵抗率ρ、ゼーベック係数S、熱伝導率κtotalを測定した。また、出力因子S/ρはS/ρ=Sρ-1の式より求め、熱電変換の無次元性能指数ZTはZT=S2T/(ρκtotal)の式より求めた。
【0036】
熱電変換材料のホール定数を測定することで、熱電変換材料のキャリア量n及びキャリア移動度μを求めた。キャリア量n及びキャリア移動度μの測定結果を図2に示した。なお、図2において、y=0のときの結果が比較例1の結果である。
【0037】
熱電変換材料に電圧Vをかけた時に熱電変換材料に流れる電流Iを測定し、オームの法則により電圧Vと電流Iとを用いて電気抵抗を求め、さらに、電気抵抗に熱電変換材料の断面積及び電極間距離の逆数を掛けることで電気抵抗率ρを求めた。具体的にはρ=VI-1AL-1である。ここで、Aは熱電変換材料の断面積でLは電極間距離である。また、キャリア量nとキャリア移動度μと電気抵抗率ρとの関係はρ-1=neμの式で表わされる。ここで、eはキャリア電荷を表す。温度を変化させたときの電気抵抗率ρの測定結果を図3に示した。なお、図3において、y=0のときの結果が比較例1の結果である。
【0038】
ゼーベック係数Sは、熱電変換材料に温度勾配ΔTが存在するときに生じる起電力Vを測定し、S=(VΔT-1)-Swireの式より求めた。ここで、Swireは起電力の測定に用いた金属プローブの絶対ゼーベック係数である。また、ゼーベック係数Sとキャリア量nとの関係はS∝mT(π/3n)2/3の式で表される。ここで、mはキャリアの有効質量である。温度を変化させたときのゼーベック係数Sの測定結果を図4に示した。なお、図4において、y=0のときの結果が比較例1の結果である。
【0039】
出力因子S2/ρは、電気抵抗率ρ及びゼーベック係数Sを用いて計算した。温度を変化させたときの出力因子S2/ρの計算結果を図5に示した。なお、図5において、y=0のときの結果が比較例1の結果である。
【0040】
熱伝導率κtotalは、レーザーフラッシュ法によって測定した。温度を変化させたときの熱伝導率κtotalの測定結果を図6に示した。なお、図6において、y=0のときの結果が比較例1の結果である。
【0041】
無次元熱電性能指数ZTは、ZT=S2T/(ρκtotal)の式で計算した。温度を変化させたときの無次元熱電性能指数ZTの計算結果を図7に示した。なお、図7において、y=0のときの結果が比較例1の結果である。
【0042】
(実施例1)
原料である銀(Ag)5.907g、硫黄(S)0.004g及びセレン(Se)2.162g(合計8.073g)を、石英管の中に真空封入し、1273Kで反応させて、理論密度99%以上のAgSe0.005多結晶試料を得た。得られたAgSeS0.005多結晶試料は比較例1と同様の手法でAgSeS0.005の相を測定した。また、キャリア量n、キャリア移動度μ、電気抵抗率ρ、ゼーベック係数S、熱伝導率κtotal及び無次元性能指数ZTも比較例1と同様の手法で測定した。
なお、図1~7において、y=0.005のときの結果が実施例1の結果である。
【0043】
(実施例2)
原料である銀(Ag)5.785g、硫黄(S)0.009g及びセレン(Se)2.117g(合計7.911g)を、石英管の中に真空封入し、1273Kで反応させて、理論密度99%以上のAgSeS0.01多結晶試料を得た。得られたAgSe0.01多結晶試料は比較例1と同様の手法でAgSeS0.01の相を測定した。また、キャリア量n、キャリア移動度μ、電気抵抗率ρ、ゼーベック係数S、熱伝導率κtotal、出力因子S/ρ及び無次元性能指数ZTも比較例1と同様の手法で測定した。
なお、図1~7において、y=0.01のときの結果が実施例2の結果である。
【0044】
(実施例3)
原料である銀(Ag)5.997g、硫黄(S)0.013g及びセレン(Se)2.195g(合計8.205g)を、石英管の中に真空封入し、1273Kで反応させて、理論密度99%以上のAgSe0.015多結晶試料を得た。得られたAgSeS0.015多結晶試料は比較例1と同様の手法でAgSeS0.015の相を測定した。また、キャリア量n、キャリア移動度μ、電気抵抗率ρ、ゼーベック係数S、熱伝導率κtotal、出力因子S/ρ及び無次元性能指数ZTも比較例1と同様の手法で測定した。
なお、図1~7において、y=0.015のときの結果が実施例3の結果である。
【0045】
(実施例4)
原料である銀(Ag)5.886g、硫黄(S)0.018g及びセレン(Se)2.155g(合計8.059g)を、石英管の中に真空封入し、1273Kで反応させて、理論密度99%以上のAgSe0.02多結晶試料を得た。得られたAgSeS0.02多結晶試料は比較例1と同様の手法でAgSeS0.02の相を測定した。また、キャリア量n、キャリア移動度μ、電気抵抗率ρ、ゼーベック係数S、熱伝導率κtotal、出力因子S/ρ及び無次元性能指数ZTも比較例1と同様の手法で測定した。
なお、図1~7において、y=0.02のときの結果が実施例4の結果である。
【0046】
図1に示すように、yが0.02以上だと、AgSeやSe相が析出する。AgSeやSe相が析出すると熱電変換材料の無次元熱電変換指数ZTが減少するため好ましくない。図1を鑑みるとxあるいはyは0超かつ0.02未満が好ましいことが分かる。
【0047】
図2に示すように、xあるいはyが0であると、キャリア量が大きく、かつキャリア移動度μが減少し、熱電変換材料の無次元熱電変換指数ZTが減少するため好ましくない。これは、おそらくxあるいはyが0のときの試料の結晶構造または結晶組織の影響で、キャリア量nが大きく、かつキャリア移動度μが減少していると思われる。また、xあるいはyが0.01超であると、硫黄(S)がキャリア量nを減少させる効果が飽和してキャリア量nが一定になることが分かる。図2を鑑みるとxあるいはyは0超かつ0.01以下が好ましいことが分かる。
【0048】
図3に示すように、yが大きくなることで電気抵抗率ρがどの温度においても大きくなることがわかる。ただし、熱電変換材用の実用化上電気抵抗率ρは20μΩm以下であるのがよいので、xあるいはyが0~0.02であれば実用的な範囲であると言える。
【0049】
図4に示すように、yが大きくなることでゼーベック係数Sが0から離れる(絶対値が大きくなる)。ゼーベック係数Sの絶対値は大きいほど好ましいため、図4を鑑みるとxあるいはyは0超が好ましいことが分かる。
【0050】
図5に示すように、yが0超かつ0.01以下であると出力因子S/ρが大きいことが分かる。出力因子S/ρは大きいほど好ましいため、図5を鑑みるとxあるいはyは0超かつ0.01以下が好ましいことが分かる。
【0051】
図6に示すように、yが0であると、熱伝導率κtotalが大きくなる。熱伝導率κtotalが小さいほど好ましいため、図6を鑑みるとxあるいはyは0超が好ましいことが分かる。
【0052】
図7に示すように、yが0超かつ0.01以下であると無次元性能指数ZTが大きくなることが分かる。無次元性能指数ZTは大きいほど好ましいため、図7を鑑みるとxあるいはyは0超かつ0.01以下が好ましいことが分かる。
【0053】
図7に示すように、300K~370Kの温度域おける実施例1~4の無次元性能指数ZTは比較例1の無次元性能指数ZTよりも高い値を示した。このことから、本発明に係る熱電変換材料はBiTeの代替材料となることができる。
【符号の説明】
【0054】
10熱電変換素子
11熱電変換材料
12電極材料
10aP型熱電変換素子
10bN型熱電変換素子
30熱電発電モジュール
31上部接合電極
32下部接合電極
33下部接合電極
50ペルチェ冷却器
51電源部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10