(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】経口摂取用錠剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/32 20150101AFI20231016BHJP
A61K 9/30 20060101ALI20231016BHJP
A61K 31/715 20060101ALI20231016BHJP
A61K 38/14 20060101ALI20231016BHJP
A61K 47/46 20060101ALI20231016BHJP
A61K 47/36 20060101ALN20231016BHJP
A61K 47/38 20060101ALN20231016BHJP
【FI】
A61K35/32
A61K9/30
A61K31/715
A61K38/14
A61K47/46
A61K47/36
A61K47/38
(21)【出願番号】P 2019113420
(22)【出願日】2019-06-19
【審査請求日】2022-05-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブサイトの掲載日:平成31年4月12日、掲載アドレス:https://www.fld.caa.go.jp/caaks/cssc01/
(73)【特許権者】
【識別番号】500022683
【氏名又は名称】八幡物産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118393
【氏名又は名称】中西 康裕
(72)【発明者】
【氏名】石井 伊久哉
(72)【発明者】
【氏名】岡本 巧司
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-121070(JP,A)
【文献】特開2002-145794(JP,A)
【文献】特開平10-045628(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00 - 9/72
A61K 47/00 -47/69
A61K 35/00 -36/068
A61K 38/00 -38/58
A61K 31/33 -33/44
A23L 33/00 -33/29
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
20重量%以上のプロテオグリカンを含む凍結乾燥による鱗片状の軟骨抽出物を10~50重量%含み、湿式造粒により造粒したものを成形した錠剤をセラックコートし
て製造することを特徴とする経口摂取用錠剤の製造方法。
【請求項2】
前記セラックコートの時に錠剤1g当たり乾燥後のセラックコート被膜重量が6.4mg~32.0mgになるように溶剤を含むコート剤を含侵させてコートすることを特徴とする請求項1に記載の経口摂取用錠剤
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟骨抽出物を主な機能性成分とする崩壊性と安定性に優れた経口摂取用錠剤に関する。
【背景技術】
【0002】
魚類、軟体動物、鳥類又は哺乳類の軟骨組織、具体例としてサケの氷頭(鼻)、サメの頭部、イカ頭部、鶏冠等の軟骨から酵素、水やエタノール、酢酸等の溶剤、その他配糖体やエステル成分を使用して抽出し、噴霧乾燥(スプレードライ)方式や凍結乾燥(フリーズドライ)方式で乾燥粉末化した抽出物には、20~90重量%のプロテオグリカンが含まれている。
【0003】
このプロテオグリンカンは、糖と蛋白質の複合体でグリコサミノグリカン(GAG)側鎖が蛋白質に共有結合した分子群の総称である。プロテオグリカンの蛋白質部分とGAG鎖の本数も多様である。細胞種や加齢等様々な要因により糖鎖長や構成糖の割合も異なる。生体成分として各種臓器や皮膚等の組織中の細胞外マトリックスや細胞表面に存在するほか、関節軟骨の主成分としても存在している。
【0004】
また、プロテオグリカンは、鮭の軟骨組織から抽出精製する技術が開発され、あわせて皮膚や関節に関する機能が解明され、食品や医薬品として経口摂取されるようになってきた。そして、効率的に摂取するために錠剤として摂取することが多い。
【0005】
なお、錠剤は、エキス等の成分と賦形剤や添加物と共に一定の形状に成型したものである。これらの混合物を型に入れて乾燥させる湿製錠剤と、混合物を圧縮成形する圧縮錠剤がある。圧縮錠剤は、混合物を直接圧縮成形する直接法と撹拌や流動層を用いて顆粒にする造粒後に成型する間接法がある。
錠剤は、一定の錠剤強度(硬度、摩損度)と、体内で成分が利用されるようにするためには適度な崩壊性が必要であり、これらの品質の維持が不可欠である。
【0006】
錠剤の強度を確保するためには、流動層造粒等、湿式造粒により打錠前に整粒して原料の結着性を高めてから打錠する方法があるが、強度を高めると崩壊性が悪化してしまう。またプロテオグリカンは、保水性があるため、保水してプロテオグリカンが膨潤することにより、崩壊性を阻害する。
【0007】
これらを解決するために崩壊剤を用いる方法がある。澱粉等の崩壊剤を配合し、流動層造粒し、錠剤を成型したものでは硬度不足で成型できない。または硬度を保持し、成型できたとしても錠剤の剥がれ(摩損度の低下)があり、錠剤の強度が維持できなかった。
【0008】
また、特許文献1には、糖アルコール、発泡成分と酸成分及び崩壊剤を含有する易崩壊性錠剤により強度、成型性、経時での崩壊性の改良を図っている。しかしながら、湿度75%以上の環境では吸湿により錠剤が崩壊してしまい保存性に問題がある。
【0009】
また、特許文献1には、コーティングを行いコーティング錠(被服錠)とすることが記載されている。しかしながら、水溶性のコート剤でコーティングを行うと、発泡し、コーティングができない場合がある。
【0010】
また、特許文献2には錠剤用寒天を用いて吸湿膨潤させて再度脱水乾燥させた二次原料を成型する製造方法により崩壊性を向上させた錠剤について記載されているが、このような製造方法では表面の剥がれや硬度不足が生じるか、強度を維持したとしても、崩壊性が確保されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2018-154573号公報
【文献】特許第3845149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、上述の従来技術の問題点を解決することにあり、プロテオグリカンを含む軟骨抽出物を主な機能性成分とし、崩壊性と安定性に優れた経口摂取用錠剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の経口摂取用錠剤は、20重量%以上のプロテオグリカンを含む軟骨抽出物を10~50重量%含み、成形した錠剤をセラックコートしたことを特徴とする。
プロテオグリカンには保水性があり、水分を含むと膨潤又は粘調体に変化するため、錠剤が膨潤して崩壊性を阻害したり、強度が維持できなくなったりするが、本発明によると、プロテオグリカンを含む軟骨抽出物を主な機能性成分とし、崩壊性と安定性に優れた経口摂取用錠剤を提供することができる。つまり、錠剤としての硬度や摩損度等の強度を維持し、日本薬局方に基づいて試験する時60分以内に崩壊し、かつ経時での崩壊性変化がなく、吸湿により容易に崩壊することのない保存安定性に優れた経口摂取用錠剤を提供できる。
【0014】
なお、セラックコートはラックカイガラムシの樹脂状分泌液からなり、エタノール等の有機溶剤を溶媒として使用するものと有機溶媒を使用しない水性セラックがあるがいずれも使用することができる。また、コートは連続通気式コーティング装置(ハイコーター)等の機器を用いることも可能である。また、コート後はカルナウバロウやミツロウを用いて滑沢処理もできる。
【0015】
また、プロテオグリカン以外の添加剤は、一般に錠剤の賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動化剤、甘味剤、着色剤等であり、限定されず、自由に組み合わせることができる。例としてマンナン、マンノース、マンニトール、乳糖、ラクチトール、ブドウ糖、ソルビトール、蔗糖、パラチノース、パラチニット、エリスリトール、キシラン、キシロース、キシリトール、麦芽糖、還元麦芽糖、還元麦芽等水飴、トレハロース、その他還元糖や糖アルコール及びそれらの加工品、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、その他セルロース誘導体、無水ケイ酸、アルギン酸、寒天、カラギーナン、キタンサンガム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、シュガーエステル、デキストリン、オリゴ糖、澱粉、アルファー化澱粉、その他加工澱粉、塩類等がある。
【0016】
また、プロテオグリカン以外にはグルコサミン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ビタミン、ミネラル、蛋白質、コラーゲン、アミノ酸、抽出物等の栄養成分を自由に組み合わせることも可能である。
【0017】
また、本発明の経口摂取用錠剤は、5~50重量%の寒天又はその加工物、澱粉又はその加工物、セルロース又はその誘導体からなる崩壊用製剤を含むことが好ましい。
本発明によると、崩壊用製剤を含むことで崩壊がより容易になり、崩壊時間を短縮できる。
【0018】
また、本発明の経口摂取用錠剤は、前記セラックコートの時に錠剤1g当たり乾燥後のセラックコート被膜重量が6.4mg~32.0mgになるように溶剤を含むコート剤を含侵させてコートすることが好ましい。なお、32重量%のコート液に換算した場合には素錠バルク1kgあたり20~100mlで含侵することが好ましい。
【0019】
通常、32重量%セラックコート液では錠剤バルク1kgあたり10ml前後のコート液を使用してコートを行うが、この場合コート被膜が安定せず、摩損度等の強度不足や崩壊性が悪くなり、崩壊時間の経時変化やバラツキが大きくなってしまう。そこで、本発明のように通常の2倍以上のコート剤を用い、錠剤バルク1kgあたり20ml以上のコート液で含侵させてコートすることにより、コート被膜が安定し、崩壊時間のバラツキが少なく、日本薬局方に基づいて試験する時60分以内に崩壊し、かつ経時での崩壊性変化が少なくなる。
【0020】
なお、凍結乾燥した鱗片状の軟骨抽出物の場合には、エタノールを全粉体に対して30~45重量%での条件で湿式(撹拌)造粒し、乾燥粉砕して整粒後にステアリン酸カルシウム、微粒二酸化ケイ素、崩壊用寒天製剤を後末混合し、成型した錠剤に対して本発明のセラックコートを行うことにより、素錠での強度が確保され、プロテオグリカンの保水、膨潤が制御され、経時での崩壊性悪化を防ぐことができた。また吸湿による保存性の悪化もなかった。
【0021】
また、噴霧乾燥した球状の軟骨抽出物の場合には、流動層造粒後同様に後末混合し、本発明のセラックコートすることにより強度と崩壊性を満たす錠剤となった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る経口摂取用錠剤について実施例を用いて詳細に説明する。なお、
図1、2は実施例1~7の配合等を示した表である。
【0024】
まず、錠剤は直径φ8mm、重量200mg、打錠圧力は1000~2000kgfで成型した。造粒方法を変えて行い、流動層造粒は粉体重量に対して水を20~30重量%噴霧する形で行った。錠剤の成型性として成型直後の素錠の状態、素錠又はコート後40℃で5日間のエージング後の硬度、崩壊性を評価した。コート後はカルナウバロウを用いて滑沢処理した。
【0025】
実施例1ではバインダーに澱粉を使用して流動層造粒を行った。澱粉を5~6重量%濃度で溶解した水溶液を粉体重量に対して約25重量%噴霧し、ステアリン酸カルシウムと微粒二酸化ケイ素は後末混合とした。その際には打錠時に素錠の段階で表面の剥がれが生じ、コートは行えなかった。
【0026】
実施例2では崩壊用寒天製剤を加え、酸とサケ軟骨抽出物を反応させるため、クエン酸を水に溶解させたものをバインダーとして使用し、流動層造粒した。これも実施例1と同様に素錠の段階で表面の剥がれが生じ、コートは行えなかった。
【0027】
実施例3ではサケ軟骨抽出物とステアリン酸カルシウム3%のみを実施例2と同様にクエン酸/水で流動層造粒し、他の原料は後混合とした。素錠は表面剥がれが生じ、更に硬度不足でコートは行えなかった。
【0028】
実施例4では実施例1の配合量を変え、同様に造粒、成型した。素錠では若干表面の剥がれが見られたが、適正硬度はあり、コートすることができた。コートはトウモロコシ蛋白を用いた。摩損度は1%以上となり、表面の剥がれがみられた。崩壊性は膨潤した破片が残る傾向があり、日局方に定める60分では崩壊しなかった。経時エージングにより崩壊性が悪化する傾向があった。
【0029】
実施例5では実施例3、4からクエン酸を除き、流動層造粒から湿式(撹拌)造粒に変更した。ステアリン酸カルシウムと微粒二酸化ケイ素、崩壊用寒天製剤は後混合とした。湿式造粒は67%エタノールを全粉体重量に対して40重量%を練合して造粒後、60℃で約8時間乾燥後に2mmバスケットを通過するサイズで粉砕し、ステアリン酸カルシウム、微粒二酸化ケイ素、崩壊用寒天製剤を後末混合後成型した。素錠バルクの段階で状態、外観、硬度共問題なかった。素錠バルク1kgあたり8~10mlのセラックコート液(32重量%セラックエタノール溶液)でコートを行ったところ、コート後の摩損度は1%以上で、エージング後の崩壊時間はバラツキが大きく60分を超えるものもあった。このため素錠バルク1kgあたり70~80mlのコート液を用いて含侵コートしたところ外観、硬度は問題なく、摩損度は1%以下、エージング後の崩壊性もバラツキが少なく、全て60分以内で安定した。
【0030】
実施例6では実施例5の造粒は同様にして、崩壊用寒天製剤を使用せずに、崩壊用製剤として澱粉、結晶セルロースを用いて成型した。コートも実施例5と同様に素錠バルク1kgあたり70~80mlのコート液で含侵させ、セラックコートした。状態、外観、硬度、摩損度、崩壊性は問題なかった。
【0031】
実施例7では実施例1~6が凍結乾燥方式で乾燥した軟骨抽出物に対し、噴霧乾燥方式で乾燥した抽出物を用いた。造粒は粉体重量に対して25重量%の水に処方中のクエン酸を全て溶解して溶解液を噴霧する流動層造粒法を用い、ステアリン酸カルシウム、微粒二酸化ケイ素、崩壊用寒天製剤を後末として混合した。乾燥後水分値2.0%で打錠した。コートは素錠バルク1kgあたり20~40mlのコート液で含侵させ、セラックコートした。状態、外観、硬度、摩損度、崩壊性共に問題はなかった。