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特許7366397積層フィルム及び該積層フィルムの製造方法
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  • 特許-積層フィルム及び該積層フィルムの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】積層フィルム及び該積層フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20231016BHJP
【FI】
B32B27/36
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019154957
(22)【出願日】2019-08-27
(65)【公開番号】P2021030631
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】591015784
【氏名又は名称】共同技研化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002398
【氏名又は名称】弁理士法人小倉特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浜野 尚吉
(72)【発明者】
【氏名】浜野 尚
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 達雄
(72)【発明者】
【氏名】大曲 翔太
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-307751(JP,A)
【文献】特開2015-074157(JP,A)
【文献】特開2004-096040(JP,A)
【文献】特開2011-167847(JP,A)
【文献】特開2010-238990(JP,A)
【文献】特開2016-117281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔と積層して使用される積層フィルムにおいて,フィラーが添加された合成樹脂(ただし,ポリイミドを除く。)からなるフィラー添加層の両面に,フィラーが添加されていない液晶ポリエステル層が積層された無配向である積層フィルムであって,
前記フィラーの添加により線膨張係数が低下した前記積層フィルムの線膨張係数と前記金属箔の線膨張係数の差が25%以下であることを特徴とする積層フィルム
【請求項2】
前記フィラーが,シリカ,タルク,窒化シリカ,窒化アルミ又はフッ素系粉体であることを特徴とする請求項1記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記合成樹脂が,液晶ポリエステルであることを特徴とする請求項1又は2記載の積層フィルム。
【請求項4】
厚みが,3~100μmであることを特徴とする請求項1~いずれか1項記載の積層フィルム。
【請求項5】
金属箔と積層して使用される積層フィルムであって,フィラーが添加された合成樹脂(ただし,ポリイミドを除く。)からなるフィラー添加層の両面に,フィラーが添加されていない液晶ポリエステル層が積層された積層構造を有する積層フィルムの製造方法であって
前記積層フィルムの製造工程が,
基材に,液晶ポリエステルの前駆体と溶媒からなる第1液状組成物と,フィラーを含み,かつ,前記合成樹脂の前駆体と溶媒から成る第2液状組成物と,液晶ポリエステルの前駆体と溶媒からなる第3液状組成物を順に流延して乾燥することにより,前記基材上に前記液晶ポリエステル層の前駆体層と前記フィラー添加層の前駆体層と前記液晶ポリエステル層の前駆体層からなる積層フィルム前駆体が積層された第1積層体を製造する第1積層体製造工程と,
前記第1積層体の前記基材から前記積層フィルム前駆体を剥離した後,表面に離型層を有する金属基材に前記積層フィルム前駆体を転写することにより,前記金属基材上に積層フィルム前駆体が積層された第2積層体を製造する第2積層体製造工程と,
前記第2積層体を熱処理することにより,前記金属基材上に積層フィルムが積層された第3積層体を製造する第3積層体製造工程と,
前記第3積層体から前記金属基材を剥離するフィルム剥離工程と
を含み,前記フィラーの添加により線膨張係数が低下した前記積層フィルムの線膨張係数と前記金属箔の線膨張係数の差を25%以下としたことを特徴とする積層フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記基材が,ガラス板,ステンレス箔,ポリエチレンテレフタレートフィルム,ポリエチレンフィルム,ポリプロピレンフィルム,ポリメチルペンテンフィルム又は,ポリテトラフルオロエチレンシートであることを特徴とする請求項記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記金属基材の材料が,アルミニウム,ステンレス,鉄または銅であることを特徴とする請求項又は記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記離型層が,ゴム状弾性層であることを特徴とする請求項いずれか1項記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記熱処理が,不活性ガス雰囲気下で行われることを特徴とする請求項いずれか1項記載の積層フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,液晶ポリエステル層を有する積層フィルム及び該積層フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステルフィルムは,優れた低吸湿性,高周波特性,可撓性,高ガスバリヤ性,薄肉形成性等を有していることから,フレキシブルプリント配線板やリジッドプリント配線板,モジュール基板などの電子基板用の絶縁フィルムとしてや,表面保護フィルムとして好適に使用することができるため,近年需要が高まっている。
【0003】
しかし,例えば,電子部品を搭載する配線板として,金属箔に絶縁フィルムとして前記液晶ポリエステルフィルムを貼り合わせた金属張積層板を使用する場合,前記液晶ポリエステルフィルムが電子部品から発生する駆動熱等により線膨張することで,前記金属張積層板にゆがみや反りが発生する問題があった。
【0004】
これは,液晶ポリエステルに限らず,合成樹脂製の絶縁フィルムの線膨張係数は,一般に金属箔の線膨張係数に比較して高く,その結果,金属箔と絶縁フィルムを単純に積層しただけの金属張積層板では,反りや歪みが生じるためである。
【0005】
この問題の対処法としては,液晶ポリエステルフィルムの線膨張係数(線膨張率)を調整する目的として,前記液晶ポリエステルフィルムに絶縁性無機フィラーを添加することが考えられる。
【0006】
なお,フィラーとしてシリカを含有した液晶ポリエステルフィルムが特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-201971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし,前記無機フィラーは吸水するため,無機フィラーの添加は,フィルムの吸水性(吸湿性)を高めることとなり,液晶ポリエステルが有する低吸湿性という特性がもたらすメリットが失われ,更にフィラーの表面凹凸又は表面析出により誘電損失が増加する問題があった。
【0009】
例えば,無機フィラーを含有する液晶ポリエステルフィルムと金属箔から成る金属張積層板より製造されたフレキシブルプリント配線板について,前記無機フィラーが吸水することで,伝送損失や挿入損失の増大による電気的特性の低下や,金属箔(導電パターン)の腐食の発生等の各種の問題が生じてしまう。
【0010】
さらに,導電パターンを形成するために金属箔を部分的にエッチングして,金属箔で覆われていた部分の絶縁フィルムが表面に露出すると,露出した部分の絶縁フィルムに添加されているフィラーが脱落し,FPCの表面に汚れや不純物として付着する場合があり,必要に応じて,これを除去するための洗浄等の作業が別途必要となる場合があった。
【0011】
また,ポリイミドや液晶ポリエステル等の合成樹脂製の絶縁フィルムは,銅箔等の金属箔との接着力に劣るところ,これに更に無機フィラーを添加すると,金属箔に対する絶縁フィルムの接着性はより一層低下してしまい,曲げ延ばしを繰り返す用途に使用すると,すぐに層間剥離が生じてしまう問題もあった。
【0012】
一方,液晶ポリエステルのフィルムへの製造方法について,通常,融点温度以上に加熱した状態でTダイ法により押出してフィルム状に成形するか,又はインフレーション法によりフィルム状に成形することにより行われる。
【0013】
この場合,液晶ポリエステルが溶融状態(液体の状態)で結晶性を有する『液晶』という特性を有すること,ガラス転移Tg状態(アモルファス)から瞬時に配向する性質を有することから,上記の方法でフィルムを成膜すると,溶融樹脂の流動方向(MD:Machine Direction)に分子配向が生じて異方性を持ったフィルムとなることで,MDに対し直交方向を成すTD(Transverse Direction)方向に弱い液晶ポリエステルフィルムとなり,該液晶ポリエステルフィルムを絶縁フィルムとして金属箔と貼り合わせて形成された金属張積層板は,TD方向に引っ張るとMD方向に裂け易くなる問題があった。
【0014】
特に,金属箔をエッチングして,MD方向を長手方向とする導体パターンが形成されると,導体パターン間の前記絶縁フィルム(液晶ポリエステルフィルム)は導体パターンに沿って,容易に裂けてしまう。
【0015】
また,液晶ポリエステルフィルムが有する異方性は,このような液晶ポリエステルフィルムを絶縁フィルムとして積層された金属張積層板に,反りや歪みを生じさせる原因となる。
【0016】
そのため,金属張積層板の絶縁フィルムを液晶ポリエステルによって形成する場合,MD,TD方向のいずれ,好ましくは更にZ(厚み)方向のいずれの方向にも配向性を持たないものであることが望ましい。
【0017】
本発明は,上述の課題を解決するためになされたものであり,液晶ポリエステル層を有する積層フィルムにおいて,フィルム全体の線膨張率を調整するためにフィラーを含有しつつも該フィラーが脱落することなく,かつ,低吸水性が損なわれなく,さらには,無配向の積層フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
以下に,課題を解決するための手段を,発明を実施するための形態で使用する符号と共に記載する。この符号は,特許請求の範囲の記載と発明を実施するための形態の記載との対応を明らかにするために記載したものであり,言うまでもなく,本発明の技術的範囲の解釈に制限的に用いられるものではない。
【0019】
上記目的を達成するために,本発明の積層フィルム1は,金属箔と積層して使用される積層フィルム1において,フィラーが添加された合成樹脂(ただし,ポリイミドを除く。)からなるフィラー添加層10の両面(表面及び裏面)に,フィラーが添加されていない液晶ポリエステル層11,12が積層された無配向である積層フィルム1であって,前記フィラーの添加により線膨張係数が低下した前記積層フィルム1の線膨張係数と前記金属箔の線膨張係数の差が25%以下であることを特徴とするものである(請求項1:図1)。
【0021】
なお,前記フィラーが,シリカ,タルク,窒化シリカ,窒化アルミ又は,フッ素系粉体であると好適である(請求項)。
【0022】
また,前記合成樹脂は,好適には液晶ポリエステルであ(請求項3)。
【0023】
また,前記積層フィルム1の厚みは,3~100μmであることが好ましい(請求項)。
【0024】
また,本発明の積層フィルム1の製造方法(図2図4)は,
金属箔と積層して使用される積層フィルム1であって,フィラーが添加された合成樹脂(ただし,ポリイミドを除く。)からなるフィラー添加層10の両面(表面及び裏面)に,フィラーが添加されていない液晶ポリエステル層11,12が積層された積層構造を有する積層フィルム1の製造方法であって
前記積層フィルム1の製造工程が,
工程紙である基材40に,液晶ポリエステルの前駆体と溶媒からなる第1液状組成物31と,フィラーを含み,かつ,前記合成樹脂の前駆体と溶媒から成る第2液状組成物32と,液晶ポリエステルの前駆体と溶媒からなる第3液状組成物33を順に流延して乾燥することにより,前記基材40上に前記液晶ポリエステル層11の前駆体層(第1前駆体層)21と前記フィラー添加層10の前駆体層(第2前駆体層)22と前記液晶ポリエステル層12の前駆体層(第3前駆体層)23からなる積層フィルム前駆体20が積層された第1積層体L1を製造する第1積層体製造工程(図2)と,
前記第1積層体L1の前記基材40から前記積層フィルム前駆体20を剥離した後,表面に離型層を有する金属基材50に前記積層フィルム前駆体20を転写することにより,前記金属基材50上に積層フィルム前駆体20が積層された第2積層体L2を製造する第2積層体製造工程(図3)と,
前記第2積層体L2を熱処理することにより,前記金属基材50上に積層フィルム1が積層された第3積層体L3を製造する第3積層体製造工程(図4)と,
前記第3積層体L3から前記金属基材50を剥離するフィルム剥離工程(図4)と,を含み,前記フィラーの添加により線膨張係数が低下した前記積層フィルムの線膨張係数と前記金属箔の線膨張係数の差を25%以下としたことを特徴とする(請求項)。
【0025】
前記基材40が,ガラス板,ステンレス箔,ポリエチレンテレフタレートフィルム,ポリエチレンフィルム,ポリプロピレンフィルム,ポリメチルペンテンフィルム又は,ポリテトラフルオロエチレンシートであることが好ましい(請求項)。
【0026】
前記金属基材50の材料が,アルミニウム,ステンレス,鉄または銅であることを特徴とする(請求項)。
【0027】
前記離型層がゴム状弾性層であることを特徴とする(請求項)。
【0028】
なお,前記熱処理は,不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい(請求項)。
【発明の効果】
【0029】
以上で説明した本発明の構成により,本発明の積層フィルム1では,以下の顕著な効果を得ることができた。
【0030】
本発明の積層フィルム1は,フィラーが添加された合成樹脂からなるフィラー添加層10の両面(表面及び裏面)が,フィラーが添加されていない液晶ポリエステル層11,12に覆われていることで,無機フィラーの吸湿性に拘わらず,本来の液晶ポリエステルフィルムが有する低吸水性を維持でき,また,フィラーの表面析出を防ぐと共にフィラーの表面凹凸による誘電損失を小さくでき,さらに,フィラー添加層10からのフィラーの脱落を防止することができた。
【0031】
なお,フィラー添加層10の表面は,フィラーの添加によってざらついた,艶のない表面となり得るが,フィラー添加層10の両面にフィラーが添加されていない前記液晶ポリエステル層11,12が積層された積層フィルム1は,その表面を,平滑で光沢のある美しい表面に仕上げることができた。
【0032】
さらに,例えば,本発明の積層フィルム1を絶縁フィルムとして金属箔を貼り合わせて金属張積層板を製造した場合,前記フィラー添加層10により積層フィルム1全体の線膨張係数を金属箔の線膨張係数に近付けることができ,前記金属張積層板の反りや歪みをより一層低減することができた。
【0033】
しかも,前記金属箔との積層面側に,フィラーが添加されていない液晶ポリエステル層11(又は12)が配されることで,フィラーの添加に伴う積層フィルム1と前記金属箔間の接着力が低下することを防止できた。
【0034】
また,本発明の積層フィルム1は無配向とすることができ,一般的な液晶ポリエステルフィルムが有する異方性を持たず,幅方向に対する引張力等の機械的な強度を向上させることができると共に,例えば,本発明の積層フィルム1を絶縁フィルムとして金属箔を貼り合わせて金属張積層板を製造した場合,異方性を有することに伴って生じる金属張積層板の反りや歪みの発生,絶縁フィルムと金属箔間での層間剥離の発生等をより効果的に防止することができた。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の積層フィルム1の断面模式図(単層の絶縁フィルム)。
図2】本発明の積層フィルム1の製造方法の工程図であって,第1積層体L1を製造する工程を示す図。
図3図2の第1積層体L1から第2積層体L2の製造工程を示す図。
図4図3の第2積層体L2から第3積層体L3を製造し積層フィルム1(工程紙)を剥離する工程を示す図。
図5】第1積層体L1の他の実施例の製造工程を示す図。
図6】フッ素系粉体の一例の化学式を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下,添付図面を参照しながら,本発明の積層フィルム1及びその製造方法について説明する。
【0037】
〔全体構成〕
本発明の積層フィルム1は,図1に示すように,フィラーを添加した合成樹脂の層であるフィラー添加層10の両面に,フィラーを含まない液晶ポリエステル層11,12(なお,便宜的に,本明細書において符号11を第1液晶ポリエステル層,符号12を第2液晶ポリエステル層ともいう。)を積層した構造を有している。
【0038】
また,前述の積層フィルム1は,一例として3~100μm厚さを有することが好適である。
【0039】
積層フィルム1はフィラー添加層10を備えているため,積層フィルム1を絶縁フィルムとして金属箔に貼り合わせて金属張積層板を製造する場合,積層フィルム1全体の線膨張係数を,金属箔の線膨張係数に近付けて,線膨張係数の差から生じる前記金属張積層板の反りや歪みの発生を防止することができる。
【0040】
〔液晶ポリエステル層〕
前述の液晶ポリエステル層11,12は,フィラーを含めない構造と成すと共に,後述する液晶ポリエステルによって構成されるもので,0.5g/m2・24h以下の透湿度を有する。
【0041】
前記液晶ポリエステル層11,12の厚みは,好ましくは,0.3~20μmである。
【0042】
なお,液晶ポリエステル層11,12の厚みを1μm以下にすると,例えば,金属張積層板に用いる場合に,貼り合わされる金属箔表面の凹凸のバラツキを吸収できなくなる可能性があり,その結果,誘電損失の増加が生じ得ることから,金属箔との結合性と誘電特性を維持する観点からは,好ましい液晶ポリエステル層11,12の厚みは,2~15μmである。
【0043】
また,液晶ポリエステル層11,12の厚みに関して,積層フィルム1全体の線膨張係数を低減する必要性から,後述するフィラー添加層10の厚みを超えないように形成し,好ましくは,フィラー添加層10の50%以下の厚み,より好ましくは,40%以下の厚みに形成する。
【0044】
また,前記第1液晶ポリエステル層11の厚みと前記第2液晶ポリエステル層12の厚みが一致していなくとも良い。
【0045】
次に,液晶ポリエステル層11,12を構成する液晶ポリエステルについて,説明する。
【0046】
この液晶ポリエステルは,溶融時に光学異方性を示し,450℃以下の温度で異方性溶融体を形成するという特性を有するポリエステルである。
【0047】
この液晶ポリエステルとしては,以下の式1で示される構造単位(以下,「式1構造単位」という。),以下の式2で示される構造単位(以下,「式2構造単位」という。)および以下の式3で示される構造単位(以下,「式3構造単位」という。)を有し,全構造単位の合計含有量に対して,式1で示される構造単位の含有量が30~80モル%,式2で示される構造単位の含有量が10~35モル%,式3で示される構造単位の含有量が10~35モル%の液晶ポリエステルであることが好ましい。
-O-Ar1 -CO- (式1)
-CO-Ar2 -CO- (式2)
-X-Ar3 -Y- (式3)
(式1~3中,Ar1 は,フェニレン基またはナフチレン基を表し,Ar2 は,フェニレン基,ナフチレン基または下記式4で示される基を表し,Ar3 はフェニレン基または下記式4で示される基を表し,XおよびYは,それぞれ独立に,OまたはNHを表す。なお,Ar1,Ar2およびAr3の芳香環に結合している水素原子は,ハロゲン原子,アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
-Ar11-Z-Ar12-(式4)
(式中,Ar11,Ar12は,それぞれ独立に,フェニレン基またはナフチレン基を表し,Zは,O,COまたはSO2 を表す。)
【0048】
式1構造単位は,芳香族ヒドロキシカルボン酸由来の構造単位であり,この芳香族ヒドロキシカルボン酸としては,例えば,p-ヒドロキシ安息香酸,m-ヒドロキシ安息香酸,6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸,3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸,4-ヒドロキシ-1-ナフトエ酸などが挙げられる。
【0049】
式2構造単位は,芳香族ジカルボン酸由来の構造単位であり,この芳香族ジカルボン酸としては,例えば,テレフタル酸,イソフタル酸,2,6-ナフタレンジカルボン酸,1,5-ナフタレンジカルボン酸,ジフェニルエーテル-4,4’-ジカルボン酸,ジフェニルスルホン-4,4’-ジカルボン酸,ジフェニルケトン-4,4’-ジカルボン酸などが挙げられる。
【0050】
式3構造単位は,芳香族ジオール,フェノール性ヒドロキシル基(フェノール性水酸基)を有する芳香族アミンまたは芳香族ジアミンに由来する構造単位である。この芳香族ジオールとしては,例えば,ハイドロキノン,レゾルシン,2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン,ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル,ビス-(4-ヒドロキシフェニル)ケトン,ビス-(4-ヒドロキシフェニル)スルホン等が挙げられる。
【0051】
また,このフェノール性ヒドロキシル基を有する芳香族アミンとしては,4-アミノフェノール(p-アミノフェノール),3-アミノフェノール(m-アミノフェノール)等が挙げられ,この芳香族ジアミンとしては,1,4-フェニレンジアミン,1,3-フェニレンジアミン等が挙げられる。
【0052】
本発明に用いる液晶ポリエステルは溶媒可溶性であり,かかる溶媒可溶性とは,温度50℃において,1質量%以上の濃度で溶媒(溶剤)に溶解することを意味する。この場合の溶媒とは,後述する液状組成物の製造に用いる好適な溶媒のいずれか1種である。
【0053】
このような溶媒可溶性を有する液晶ポリエステルとしては,前記式3構造単位として,フェノール性ヒドロキシル基を有する芳香族アミンに由来する構造単位および/または芳香族ジアミンに由来する構造単位を含むものが好ましい。すなわち,式3構造単位として,XおよびYの少なくとも一方がNHである構造単位(式3’)で示される構造単位,以下,「式3’構造単位」という。)を含むと,後述する好適な溶媒(非プロトン性極性溶媒)に対する溶媒可溶性が優れる傾向がある点で好ましい。特に,実質的に全ての式3構造単位が式3’構造単位であることが好ましい。また,この式3’構造単位は液晶ポリエステルの溶媒可溶性を十分にすることに加え,液晶ポリエステルがより低吸水性となる点でも有利である。
-X-Ar -NH-(式3’)
(式中,ArおよびXは前記と同義である。)
【0054】
式3構造単位は全構造単位の合計含有量に対して,25~33モル%の範囲で含むことがより好ましく,こうすることにより,溶媒可溶性は一層良好になる。このように,式3’構造単位を式3構造単位として有する液晶ポリエステルは,溶媒に対する溶解性がより良好になり,低吸水性の液晶ポリエステルフィルムが得られるという利点もある。
【0055】
式1構造単位は全構造単位の合計含有量に対して,30~80モル%の範囲で含むと好ましく,35~50モル%の範囲で含むとより好ましい。このようなモル分率で式1構造単位を含む液晶ポリエステルは,液晶性を十分維持しながらも,耐熱性がより優れる傾向にある。さらに,式1構造単位を誘導する芳香族ヒドロキシカルボン酸の入手性も併せて考慮すると,この芳香族ヒドロキシカルボン酸としては,p-ヒドロキシ安息香酸および/または6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸が好適である。
【0056】
式2構造単位は全構造単位の合計含有量に対して,10~35モル%の範囲で含むと好ましく,25~33モル%の範囲で含むとより好ましい。このようなモル分率で式2構造単位を含む液晶ポリエステルは,液晶性を十分維持しながらも,耐熱性がより優れる傾向にある。さらに,式2構造単位を誘導する芳香族ジカルボン酸の入手性も併せて考慮すると,この芳香族ジカルボン酸としては,テレフタル酸,イソフタル酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸からなる群より選ばれる少なくも1種であると好ましい。
【0057】
また,得られる液晶ポリエステルがより高度の液晶性を発現する点では,式2構造単位と式3構造単位とのモル分率は,[式2構造単位]/[式3構造単位]で表して,0.9/1~1/0.9の範囲が好適である。
【0058】
次に,液晶ポリエステルの製造方法について説明する。
【0059】
この液晶ポリエステルは,種々公知の方法により製造可能である。好適な液晶ポリエステル,すなわち,式1構造単位,式2構造単位および式3構造単位からなる液晶ポリエステルを製造する場合,これら構造単位を誘導するモノマーをエステル形成性・アミド形成性誘導体に転換した後,重合させて液晶ポリエステルを製造する方法が,操作が簡便である点で好ましい。
【0060】
前記エステル形成性・アミド形成性誘導体について,例を挙げて説明する。
【0061】
芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジカルボン酸のように,カルボキシル基を有するモノマーのエステル形成性・アミド形成性誘導体としては,当該カルボキシル基が,ポリエステルやポリアミドを生成する反応を促進するように,酸塩化物,酸無水物等の反応活性の高い基になっているものや,当該カルボキシル基が,エステル交換・アミド交換反応によりポリエステルやポリアミドを生成するようにアルコール類やエチレングリコールなどとエステルを形成しているもの等が挙げられる。
【0062】
芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジオール等のように,フェノール性ヒドロキシル基を有するモノマーのエステル形成性・アミド形成性誘導体としては,エステル交換反応によりポリエステルやポリアミドを生成するように,フェノール性ヒドロキシル基がカルボン酸類とエステルを形成しているもの等が挙げられる。
【0063】
また,芳香族ジアミンのように,アミノ基を有するモノマーのアミド形成性誘導体としては,例えば,アミド交換反応によりポリアミドを生成するように,アミノ基がカルボン酸類とアミドを形成しているもの等が挙げられる。
【0064】
これらの中でも液晶ポリエステルをより簡便に製造する上では,芳香族ヒドロキシカルボン酸と,芳香族ジオール,フェノール性ヒドロキシル基を有する芳香族アミン,芳香族ジアミンといったフェノール性ヒドロキシル基および/またはアミノ基を有するモノマーとを脂肪酸無水物でアシル化してエステル形成性・アミド形成性誘導体(アシル化物)とした後,このアシル化物のアシル基と,カルボキシル基を有するモノマーのカルボキシル基とがエステル交換・アミド交換を生じるようにして重合させ,液晶ポリエステルを製造する方法が特に好ましい。
【0065】
このような液晶ポリエステルの製造方法は,例えば,特開2002-220444号公報または特開2002-146003号公報に記載されている。
【0066】
アシル化においては,フェノール性ヒドロキシル基とアミノ基との合計に対して,脂肪酸無水物の添加量が1~1.2倍当量であることが好ましく,1.05~1.1倍当量であるとより好ましい。脂肪酸無水物の添加量が1倍当量未満では,重合時にアシル化物や原料モノマーが昇華して反応系が閉塞しやすい傾向があり,また,1.2倍当量を超える場合には,得られる液晶ポリエステルの着色が著しくなる傾向がある。
【0067】
アシル化は,130~180℃で5分~10時間反応させることが好ましく,140~160℃で10分~3時間反応させることがより好ましい。
【0068】
アシル化に使用される脂肪酸無水物は,価格と取扱性の観点から,無水酢酸,無水プロピオン酸,無水酪酸,無水イソ酪酸またはこれらから選ばれる2種以上の混合物が好ましく,特に好ましくは,無水酢酸である。
【0069】
アシル化に続く重合は,130~400℃で0.1~50℃/分の割合で昇温しながら行うことが好ましく,150~350℃で0.3~5℃/分の割合で昇温しながら行うことがより好ましい。
【0070】
また,重合においては,アシル化物のアシル基がカルボキシル基の0.8~1.2倍当量であることが好ましい。
【0071】
アシル化および/または重合の際には,ル・シャトリエ‐ブラウンの法則(平衡移動の原理)により,平衡を移動させるため,副生する脂肪酸や未反応の脂肪酸無水物は蒸発させる等して系外へ留去することが好ましい。
【0072】
なお,アシル化や重合においては触媒の存在下に行ってもよい。この触媒としては,従来からポリエステルの重合用触媒として公知のものを使用することができ,例えば,酢酸マグネシウム,酢酸第一錫,テトラブチルチタネート,酢酸鉛,酢酸ナトリウム,酢酸カリウム,三酸化アンチモン等の金属塩触媒,N,N-ジメチルアミノピリジン,N-メチルイミダゾール等の有機化合物触媒を挙げることができる。
【0073】
これらの触媒の中でも,N,N-ジメチルアミノピリジン,N-メチルイミダゾール等の窒素原子を2個以上含む複素環状化合物が好ましく使用される(特開2002-146003号公報参照)。
【0074】
この触媒は,通常モノマーの投入時に一緒に投入され,アシル化後も除去することは必ずしも必要ではなく,この触媒を除去しない場合には,アシル化からそのまま重合に移行することができる。
【0075】
このような重合で得られた液晶ポリエステルは,そのまま本発明に用いることができるが,耐熱性や液晶性という特性の更なる向上のためには,より高分子量化させることが好ましく,かかる高分子量化には固相重合を行うことが好ましい。この固相重合に係る一連の操作を説明する。前記の重合で得られた比較的低分子量の液晶ポリエステルを取り出し,粉砕してパウダー状またはフレーク状にする。続いて,この粉砕後の液晶ポリエステルを,例えば,窒素などの不活性ガスの雰囲気下,20~350℃で,1~30時間固相状態で熱処理するという操作により,固相重合は実施できる。この固相重合は,攪拌しながら行ってもよく,攪拌することなく静置した状態で行ってもよい。なお,後述する好適な流動開始温度の液晶ポリエステルを得るという観点から,この固相重合の好適条件を詳述すると,反応温度として210℃を越えることが好ましく,より一層好ましくは220℃~350℃の範囲である。反応時間は1~10時間から選択されることが好ましい。
【0076】
本発明に用いる液晶ポリエステルとしては,その流動開始温度が250℃以上であると好ましい。この液晶ポリエステルの流動開始温度がこの範囲であると,この液晶ポリエステルを含む層上に導電層(電極)を形成した場合に,この液晶ポリエステルを含む層とこの導電層との間に,より高度の密着性が得られる傾向がある。ここでいう流動開始温度とは,フローテスターによる溶融粘度の評価において,9.8MPaの圧力下で液晶ポリエステルの溶融粘度が4800Pa・s以下になる温度をいう。なお,この流動開始温度は,液晶ポリエステルの分子量の目安として当業者には周知のものである(例えば,小出直之編「液晶合成・成形・応用-」第95~105頁,シーエムシー,1987年6月5日発行を参照)。
【0077】
液晶ポリエステルの流動開始温度の上限は,この液晶ポリエステルが溶媒に可溶である範囲で決定されるが,350℃以下であることが好ましい。流動開始温度の上限がこの範囲であれば,液晶ポリエステルの溶媒に対する溶解性がより良好になることに加え,後述する液状組成物を得たとき,その粘度が著しく増加しないので,この液状組成物の取扱性が良好となる傾向がある。なお,液晶ポリエステルの流動開始温度をこのような好適な範囲に制御するには,前記固相重合の重合条件を適宜最適化すればよい。
【0078】
〔フィラー添加層〕
本発明の積層フィルム1は,フィラーが添加された合成樹脂によって構成されるフィラー添加層10を設け,これにより積層フィルム1の線膨張係数を低下させることができる。これにより,例えば,本発明の積層フィルム1を使用して金属張積層板を製造する場合,貼り合わされる金属箔の線膨張係数に近付けることができる。
【0079】
このフィラー添加層10を構成する合成樹脂としては,絶縁フィルムの材質として既知の各種の合成樹脂を使用可能であるが,耐熱性の点からポリイミド又は液晶ポリエステルの使用が好ましく,吸湿性の低さから,前述した液晶ポリエステル層11,12と同様の液晶ポリエステルの使用が好ましい。
【0080】
フィラー添加層10に添加するフィラーは,積層フィルム1全体の線膨張係数を調整するために(主に低下させる目的で)添加するもので,絶縁性の無機フィラーが好ましく,例えば,シリカ,タルク,窒化シリカ,窒化アルミ等が使用可能である。また,前記無機フィラーの他に,後述するフッ素系粉体を添加しても良い。以下,まず無機フィラーについて説明する。
【0081】
無機フィラーの配合比は,液晶ポリエステルの固形分100質量部に対し0.5~30質量部の範囲であり,仕上がりフィルムの靱性維持から好ましくは1~15質量部,より好ましくは低誘電率から0.5~7質量部である。
【0082】
使用する無機フィラーの平均粒径は,0.001~15μmで,フィラー添加層10の厚みから0.05~3μm,より好ましくは0.05~1μmで,粒形は球状のものの他,針状,その他の形状であっても良く,不定形のものであっても良い。
【0083】
このような無機フィラーは,得られた積層フィルム1を低誘電率とするために,水分を含まないヒームドシリカ等の燃焼法で得られたものを使用することが好ましい。
【0084】
なお,上記以外の方法,例えば湿式粉砕法,常態粉砕法で製造された絶縁性無機物の粉体をフィラーとして使用することも可能であるが,この場合,低水分量のフィラーを得るために,粉体を100℃~400℃以上の温度で,30min~12hの加熱乾燥を施すことが望ましい。
【0085】
また,本発明では,上述の無機フィラーの他にフッ素系粉体を線膨張改質剤又は増量剤として,前記フィラー添加層10に添加させてもよい。
【0086】
フッ素系粉体とは,組成中にフッ素を含む組成物の粉体であって,疎水性であることが好ましい。
【0087】
フッ素系粉体として,例えば,PTFE(ポリテトラフルオロエチレン),PFA(パーフルオロアルコキシアルカン),FEP(パーフルオロエチレンプロペンコポリマー)等の粉体を使用することができる。さらには,例えば,テトラフルオロエチレン(成分A)と,不飽和炭化水素を主成分とするモノマー(成分B)との共重合体(図6を参照。なお,図中のRは,水素原子,水酸基,水酸基を有する有機基,アルキル基であることが好ましい。)から成るフッ素系粉体を使用することもできる。
【0088】
なお,前記不飽和炭化水素を主成分とするモノマーには,水酸基を有するものを使用しても良い。なお,前記水酸基について,例えば,前記フィラー添加層10を形成する液晶ポリエステルのポリマー化に伴うエステル結合に前記水酸基が関与し,前記水酸基が脱落して疎水性になる。
【0089】
前記フッ素系粉体は,その粉体粒度が0.01~5ミクロン(μm)のものが好適であるがこれに限定されない。また,前記フッ素系粉体の平均粒径としては,特に0.2~0.25(μm)が好ましいが,これに限定されるものではない。
【0090】
また,前記フッ素系粉体の配合比は,前記フィラー添加層10を形成する液晶ポリマーの固形分100部に対し1~10質量部の範囲であり,好ましくは2~4質量部である。
【0091】
上述したように,フィラーを前述した添加量の範囲で調整して添加すると共に,液晶ポリエステル層11,12とフィラー添加層10の厚みを調整することで,積層フィルム1全体の線膨張係数を調整して,例えば,積層フィルム1に貼り合わされる金属箔の線膨張係数に近付くように調整する。そして,例えば,該金属箔の線膨張係数と積層フィルム1の線膨張係数の差について,積層フィルム1の線膨張係数の値が前記金属箔の線膨張係数の25%以下となるよう調整するものとしても良い。
【0092】
一例として,前記金属箔である銅箔の線膨張係数が19ppmである場合,その25%は4.75であり,この場合,本発明の積層フィルム1の線膨張係数が23.75ppm以下となるよう調整する。
【0093】
なお,図1では,フィラー添加層10を単相構造とした例について示したが,フィラー添加層10を更に多層構造として,各層毎にフィラーの添加量を変更して,厚み方向にフィラーの添加量に勾配を持たせるものとしても良い。
【0094】
この場合,図1に示す構成では,第1液晶ポリエステル層11側及び第2液晶ポリエステル層12側に向かって,フィラーの添加量を減少させる傾斜構造とすることが好ましい。
【0095】
また,本発明の積層フィルム1について,例えば,図1に示される三層構造の積層フィルム1の両面にさらに樹脂層や金属層等を積層しても構わない。
【0096】
〔積層フィルム1の製造方法〕
次に,図1に示される,フィラーが添加された合成樹脂からなるフィラー添加層10の両面(表面及び裏面)に,フィラーが添加されていない液晶ポリエステル層11,12が積層された積層構造を有する積層フィルム1の製造方法の一例を,図2~4を参照して説明する。
【0097】
積層フィルム1の製造方法は,基材40上に積層フィルム前駆体20が積層された第1積層体L1を製造する工程(第1工程)と,前記第1積層体L1の前記基材40から前記積層フィルム前駆体20を剥離した後,前記積層フィルム前駆体20を金属基材50の表面に転写して前記金属基材50上に前記積層フィルム前駆体20が積層された第2積層体L2を製造する工程(第2工程)と,前記第2積層体L2を熱処理して前記金属基材50上に積層フィルム1が積層された第3積層体L3を製造する工程(第3工程)と,前記第3積層体L3の前記金属基材50から前記積層フィルム1を剥離するフィルム剥離工程(第4工程)を含むものである。
【0098】
なお,上述の積層フィルム前駆体20とは,本発明の積層フィルム1の製造過程において,最終目的物である積層フィルム1よりも前の段階にあって,熱処理によって本発明の積層フィルム1に変わりうるフィルムを意味するもので,前記液晶ポリエステル層11の前駆体層(第1前駆体層)21と前記フィラー添加層10の前駆体層(第2前駆体層)22と前記液晶ポリエステル層の前駆体層(第3前駆体層)23からなる。
【0099】
以下,上述の第1~第4工程について説明する。
【0100】
〔第1積層体L1を製造する工程〕
第1積層体L1を製造する工程(第1工程)は,塗工機から工程紙である基材40上に,積層フィルム1の各層を形成する合成樹脂の前駆体と溶媒から成る液状組成物31~33を順に流延する。より具体的には,第1液晶ポリエステル層11の前駆体と溶媒からなる第1液状組成物31と,前記フィラーを含み,かつ,合成樹脂の前駆体と溶媒から成る第2液状組成物32と,第2液晶ポリエステル層12の前駆体と溶媒からなる第3液状組成物33を順に流延する流延工程と,所定の温度で所定の時間だけ前記液状組成物31~33を乾燥する乾燥工程を経て,上述した積層フィルム前駆体20が基材40上に形成された第1積層体L1を得るものである。
【0101】
まず,前記液状組成物31~33について,前記液状組成物は,上述したとおり,各層を形成する合成樹脂の前駆体及び溶媒の2成分からなるものであり,以下,前記合成樹脂が上述した液晶ポリエステルの場合の前記液状組成物について詳述する。
【0102】
前記液晶ポリエステル及び溶媒からなる液状組成物について,前記液晶ポリエステルの溶解に使用する溶媒としては,液晶ポリエステルを溶解できるものであれば特に限定されず,例えば,N,N-ジメチルアセトアミド,N-メチル-2-ピロリドン,N-メチルカプロラクタム,N,N-ジメチルホルムアミド,N,N-ジエチルホルムアミド,N,N-ジエチルアセトアミド,N-メチルプロピオンアミド,ジメチルスルホキシド,γ-ブチロラクトン,ジメチルイミダゾリジノン,テトラメチルホスホリックアミドおよびエチルセロソルブアセテート,並びにp-フルオロフェノール,p-クロロフェノール,ペルフルオロフェノールなどのハロゲン化フェノール類などが挙げられる。これらの溶媒は,単独で用いてもよく,2種以上を組み合わせて用いても構わない。
【0103】
かかる溶媒の中でも,取扱いの観点から,N,N-ジメチルアセトアミド,N-メチル-2-ピロリドン,N-メチルカプロラクタム,N,N-ジメチルホルムアミド,N,N-ジエチルホルムアミド,N,N-ジエチルアセトアミド,N-メチルプロピオンアミド,ジメチルスルホキシド,γ-ブチロラクトン,ジメチルイミダゾリジノン,テトラメチルホスホリックアミドおよびエチルセロソルブアセテートからなる群から選択される非プロトン性極性溶媒が好適である。
【0104】
この溶媒の使用量は,液晶ポリエステルを0.1質量%以上含有する液状組成物を製造するような量であれば,適用する溶媒の種類に応じて適宜選択することができるが,溶媒100質量部に対して液晶ポリエステル0.5~50質量部であることが好ましく,より好ましくは10~30質量部である。
【0105】
液晶ポリエステルが0.5質量部未満であると,液状組成物31の粘度が低すぎて均一に塗工できない傾向があり,50質量部を超えると,高粘度化する傾向がある。
【0106】
このようにして得られた液状組成物中において,液晶ポリエステルは前駆体の状態で存在しており,この液状組成物を前記有機溶媒で更に希釈して製造し,液晶ポリエステル0.5g/dl溶液としたときの25℃における固有粘度は,0.1~10である。
【0107】
次に,前記液状組成物31~33を基材40上に流延する流延工程について説明する。
【0108】
前記基材40としては,前記積層フィルム前駆体20を剥離可能なものであれば、特に制限されないが,ガラス板,ステンレス箔,ポリエチレンテレフタレートフィルム,ポリエチレンフィルム,ポリプロピレンフィルム,ポリメチルペンテンフィルム,ポリテトラフルオロエチレンシート等が好ましい。
【0109】
また,液状組成物を基材40に流延する方法としては,既知の各種の方法を使用可能であり,例えば,ローラーコート法,グラビアコート法,ナイフコート法,ブレードコート法,ロッドコート法,ディップコート法,スプレイコート法,カーテンコート法,スロットコート法,スクリーン印刷法などを挙げることができ,これらの中でも制御が容易であるとともに、膜厚を精度よく均一にできる観点から,ナイフコート法またはスロットコート法が好ましい。
【0110】
次に,前記流延工程で基材40上に流延された前記液状組成物31~33を乾燥させて積層フィルム前駆体20を形成する乾燥工程について説明する。
【0111】
この乾燥工程は,乾燥温度が高すぎると,後述する熱処理前に,前駆体が重合を開始する等してポリマー化してしまうと共に,塗膜面に欠陥が生じる可能性がある一方,乾燥温度が低すぎると,乾燥するまでに長時間を要し生産性が低下することから,60℃以上,160℃以下の温度で行い,好ましくは150℃以下,より好ましくは140℃以下の温度で行う。
【0112】
なお,この乾燥工程では,前述した液状組成物に含まれる溶媒が残存した状態で乾燥を終了させることが好ましいが,溶媒が完全に除去されても構わない。
【0113】
なお,溶媒の残存量については,積層フィルム前駆体20中の残存溶媒量は18~2質量%であることが好ましく,さらに好ましくは15~5質量%である。この残存溶媒量が18質量%以下であれば,積層フィルム前駆体20の表面に粘着性が生じる事態を抑制することができ,フィルム同士の互着を防止することができる。また,この残存溶媒量が2質量%以上であれば,積層フィルム前駆体20のフィルム強度を維持することが可能となり,次に述べる第2積層体L2の製造工程(第2工程)において積層フィルム前駆体20を基材40から剥離する際や,後述する第3積層体L3の製造工程における熱処理の際に,積層フィルム1の破れを防止することができる。
【0114】
次に,上述した流延工程及び乾燥工程により実際に第1積層体L1を製造する工程(第1工程)の一例を挙げると,図2に示すように,形成する層それぞれについて,以下に述べる,前記流延工程と前記乾燥工程から成る第1~第3前駆体層形成工程を3回繰り返して行うことで,基材40上に前記積層フィルム前駆体20が積層された第1積層体L1を得ることができる。
【0115】
前記第1前駆体層形成工程では,フィラーを含まない,液晶ポリエステル前駆体と溶媒から成る液状組成物31を前記基材40上に流延すると共に,これを乾燥させて,基材40上に,フィラーを含まない前記第1液晶ポリエステル層11の前駆体層(第1前駆体層)21を形成する。なお,使用する溶媒,流延方法,乾燥時における温度条件等は,上述の通りである。
【0116】
前記第2前駆体層形成工程では,基材40上に形成された前述の第1前駆体層21上に,更に,前記フィラー(例えば,絶縁性無機フィラー)を含む,合成樹脂の前駆体と溶媒から成る液状組成物32,本実施形態では,液晶ポリエステルの前駆体と溶媒から成る液状組成物32を流延すると共に乾燥させて,第1前駆体層21上に,前記フィラーを含んだ第2前駆体層22を形成する。なお,この第2流延,乾燥工程においても,使用する溶媒,流延方法,及び乾燥時の温度条件等は,上述の通りである。
【0117】
そして,前記第3前駆体層形成工程では,前記第2前駆体層形成工程で形成された前記第2前駆体層22上に,更にフィラーを含まない,液晶ポリエステル前駆体と溶媒から成る液状組成物33を流延すると共に乾燥させることにより,前記第2前駆体層22上に,更に第3前駆体層23を形成する工程である。なお,この第3前駆体層形成工程においても,使用する溶媒,流延方法,及び乾燥時の温度条件等は,上述の通りである。
【0118】
上述した第1~第3前駆体層形成工程を経て,前記基材40上に前記液晶ポリエステル層11の前駆体層(第1前駆体層)21と前記フィラー添加層10の前駆体層(第2前駆体層)22と前記液晶ポリエステル層の前駆体層(第3前駆体層)23からなる積層フィルム前駆体20が積層された第1積層体L1が得られる。なお,液晶ポリエステルの前駆体には,液晶ポリエステルのオリゴマー等の低分子量の液晶ポリエステルを含む。
【0119】
その後,図2に示すように,この第1積層体L1をロール状に巻き取る。
【0120】
また,第1積層体L1を製造する工程(第1工程)の他の例としては,図5に示すように,基材40上に,三層押出ダイス型や三層スロットコート法により,上述の3つの液状組成物31~33を同時に三層重ねて流延し,これらを三層同時に乾燥させることで前記第1積層体L1を製造するものとして良い。
【0121】
〔第2積層体L2を製造する工程〕
上述した第1積層体L1を製造する工程(第1工程)により基材40上に積層フィルム前駆体20が積層された第1積層体L1が製造されたところで,第2積層体L2の製造工程(第2工程)に移行し,一例として図3に示すように,ロール状の第1積層体L1を繰り出し,積層フィルム前駆体20を基材40から剥離した後,表面にゴム状弾性層を有する金属基材50の表面に前記積層フィルム前駆体20を転写する。すると,前記積層フィルム前駆体20の裏面に金属基材50が積層された第2積層体L2が得られる。その後,この第2積層体L2をロール状に巻き取る。
【0122】
このとき,積層フィルム前駆体20の裏面(つまり,前記基材40と接触していた面)に金属基材50が積層されるが,前記基材40の表面が平滑である限り,積層フィルム前駆体20の裏面も平滑になり,積層フィルム前駆体20と金属基材50との密着性を確保することができる。
【0123】
ここで,金属基材50の材質としては,アルミニウム,ステンレス,鉄,銅などを挙げることができる。これらの中でも,強度および耐蝕性の観点から、特にステンレスが好ましい。
【0124】
また,金属基材50の厚さは,20~200μmの範囲内であることが好ましい。金属基材50の厚さが20μm以上であれば,金属基材50の打痕に対する耐性が高く,リサイクル性に優れる。金属基材50の厚さが200μm以下であれば,ロール状に巻き取ることが容易になる。
【0125】
また、金属基材50の表面には,前記積層フィルム前駆体20との密着性と,後述するフィルム剥離工程(第4工程)における積層フィルム1の剥離性とを確保できる限り,任意の表面処理を施すことができる。例えば,金属基材50の表面上の前記ゴム状弾性層が金属基材50から剥離しにくくなるようにするため,金属基材50の表面にエンボス加工を施すこともできる。
【0126】
また,前記ゴム状弾性層としては,シリコーン系ゴム弾性層,フッ素系ゴム弾性層,アクリル系ゴム弾性層などを挙げることができる。これらの中でも,特にシリコーン系ゴム弾性層が好ましい。シリコーン系ゴム弾性層であれば,金属基材50との密着性が良好であると同時に,後述するフィルム剥離工程(第4工程)における積層フィルム1の剥離性も良好である。
【0127】
また,前記ゴム状弾性層の厚さは,5~100μmの範囲内であることが好ましい。ゴム状弾性層の厚さが5μm以上であれば,金属基材50の弾性率差を十分に緩和することができる。ゴム状弾性層の厚さが100μm以下であれば、金属基材50の取扱い時にゴム状弾性層のチッピングを防ぐことができる。
【0128】
また,前記積層フィルム前駆体20の転写方法としては,特に限定されないが,図3に示すように,積層フィルム前駆体20と金属基材50とを一対のローラー63,63で挟圧することが,生産性向上の観点から好ましい。
【0129】
また,積層フィルム前駆体20の転写温度としては,特に限定されないが,10~200℃の範囲内であることが好ましい。この転写温度が10℃以上であれば,金属基材50との密着性が良好である。この転写温度が200℃以下であれば,後述するフィルム剥離工程(第4工程)における積層フィルム1の剥離性が良好である。
【0130】
〔第3積層体L3を製造する工程〕
上述した第2積層体L2を製造する工程(第3工程)により金属基材50上に積層フィルム前駆体20が積層された第2積層体L2が製造されたところで,第3積層体L3の製造工程(第3工程)に移行し,一例として図4に示すように,ロール状の第2積層体L2を繰り出し,窒素雰囲気下において所定の温度で所定の時間だけ第2積層体L2を加熱炉65で連続的に熱処理する。すると,実質的に溶媒を含有しない積層フィルム1および金属基材50からなる第3積層体L3が得られる。
【0131】
このとき,第2積層体L2の熱処理が窒素雰囲気下で行われるため,液晶ポリエステルの酸化による積層フィルム1の劣化を未然に防止することができる。
【0132】
なお,第2積層体L2の熱処理温度は,200~350℃の範囲内であることが好ましい。この熱処理温度が200℃以上であれば,熱処理によって液晶ポリエステルの分子量が増大し,積層フィルム前駆体20から積層フィルム1としての特性を発現することができる。この熱処理温度が350℃以下であれば,積層フィルム1(液晶ポリエステルフィルム)の熱分解を抑制することができる。
【0133】
一方,第2積層体L2の熱処理時間は,特に限定されないが,通常,10℃/分以下の昇温速度で上記熱処理温度まで昇温した後,同温度で0~10時間保持する。
【0134】
また,第2積層体L2の熱処理の形態は,特に限定されないが,ロール・トゥー・ロール(原材料をロールで供給して製品をロールで巻き終わる方式)で連続的に加熱炉65を通過させる形態のほか,例えば,特開2008-207537号公報に記載された形態を採用することができる。
【0135】
〔フィルム剥離工程〕
上述のように,第3積層体L3が製造されたところで,フィルム剥離工程(第4工程)に移行し,図4に示すように,積層フィルム1を金属基材50から剥離する。このとき,金属基材50の表面,つまり積層フィルム1側の面にはゴム状弾性層が設けられているので,積層フィルム1が金属基材50から剥がれやすくなっている。
【0136】
ここで,積層フィルム1の剥離方法としては,特に限定されないが,図4に示すように,一対の剥離ローラー67,67を用いて,金属基材50と積層フィルム1を連続的に剥離する方法が好ましい。
【0137】
また,積層フィルム1を剥離した後,必要に応じて,溶剤洗浄,UV処理,コロナ処理,プラズマ処理,火炎処理その他の手法により,金属基材50から汚染物質(シリコーン,フッ素含有物質など)を除去してもよい。
【0138】
こうして積層フィルム1が金属基材50から剥離されたところで,積層フィルム1の製造工程が終了する。
【0139】
上述したように,液晶ポリエステルの前駆体と溶媒から成る液状組成物の流延及び乾燥によって形成した塗膜を,金属基材50上に転写した後加熱する構成を含む本発明の積層フィルム1の製造方法は,熱溶融流延法のように液晶ポリエステルを溶融状態で一定方向に流動させて成膜するものでないため,得られる積層フィルム1全体を無配向とすることができ,配向方向に裂け易いといった,一般的な液晶ポリエステルが有する問題を解消でき,更に,異方性が緩和されることで反りや歪み等も生じ難い積層フィルム1を得ることができる。
【0140】
なお,上記方法で製造された積層フィルム1は,フィラーが添加されていない液晶ポリエステル層11,12のみならず,フィラー添加層10についても無配向となり,いずれの方向においても機械的な強度に優れるものであることが確認された。
【0141】
また,積層フィルム1にフィラー添加層10を設けることで,フィルム全体の線膨張係数を,例えば金属箔の線膨張係数に近付けて,該積層フィルム1と前記金属箔を貼り合わせて金属張積層板を製造した場合,反りや歪みが生じることを防止できる一方,金属箔との積層面が,フィラーを含まない液晶ポリエステル層11(又は12)であることから,フィラーの添加によっても積層フィルム1と金属箔との接着性が損なわれることがなく,また,低吸湿性であることにより発揮される液晶ポリエステルの有利な特性により,当該金属張積層板を高機能なものとすることができる。
【符号の説明】
【0142】
1 積層フィルム
10 フィラー添加層
11 液晶ポリエステル層(第1液晶ポリエステル層)
12 液晶ポリエステル層(第2液晶ポリエステル層)
20 積層フィルム前駆体
21 第1前駆体層(液晶ポリエステル層の前駆体)
22 第2前駆体層(フィラー添加層の前駆体)
23 第3前駆体層(液晶ポリエステル層の前駆体)
31 第1液状組成物
32 第2液状組成物
33 第3液状組成物
40 基材
50 金属基材
63 ローラー
65 加熱炉
67 剥離ローラー
L1 第1積層体
L2 第2積層体
L3 第3積層体


図1
図2
図3
図4
図5
図6