(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】建造物の移動方法、建造物の移動システム
(51)【国際特許分類】
E04H 15/02 20060101AFI20231016BHJP
E04G 23/08 20060101ALI20231016BHJP
E04G 21/32 20060101ALI20231016BHJP
E04B 1/343 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
E04H15/02
E04G23/08 Z
E04G21/32 B
E04B1/343 101
(21)【出願番号】P 2019177972
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2022-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】504059544
【氏名又は名称】株式会社トータル環境
(74)【代理人】
【識別番号】100108604
【氏名又は名称】村松 義人
(72)【発明者】
【氏名】川添 栄一
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-002141(JP,A)
【文献】実開昭63-129049(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第111395798(CN,A)
【文献】特開2014-136956(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 15/00-15/64
E04G 23/08
E04G 21/14
E04G 21/32
E04B 1/00-1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺のレールであり、前記レールの長さ方向に沿う
、上側に向かって開放するものとされた断面矩形の溝
と、前記溝の両内側面の互いに対応する位置から前記溝の内側に向かって張り出す
所定間隔で多数設けられた一対のリブとを、備えたもの
、の上に
乗せられた建造物を、
本体と、前記本体に対して水平方向に移動させることが可能とされた
棒状部材と、を備えている動力装置を用いて、
前記レールに沿って移動させるための建造物の移動方法であって、
前記棒状部材の長さ方向が前記レールの長さ方向に沿うようにして、前記レールの溝の中に前記動力装置を配するとともに、前記棒状部材と前記建造物とを固定する第1過程と、
前記一対のリブのうち、前記動力装置の前記本体の直後に位置するものの前記本体側の面の前に位置するようにして、前記溝の中に挿入可能な大きさ、形状の板部を有する板材を、前記板部が前記溝の中に位置するようにして前記レールに配する、1回目は前記第1過程と前後して実施される第2過程と、
前記リブに前記板部の両端を係止された前記板材における前記板部の前面によってその後端を係止された前記本体が、前記棒状部材を前方に移動させることにより、前記棒状部材に固定された前記建造物を前記レール上で前方に移動させる第3過程と、
前記板材を前記レールから取外すとともに、前記棒状部材を前記本体に対して後方に移動させることにより、前記本体を前記溝の中で前方に移動させる第4過程と、
を含んでおり、
前記第2過程から前記第4過程を繰り返すことにより、前方に向けて前記建造物を移動させる建造物の移動方法。
【請求項2】
前記レールは平行な2本である、
請求項1記載の建造物の移動方法。
【請求項3】
前記建造物は仮設テントである、
請求項1記載の建造物の移動方法。
【請求項4】
前記板材として、
前記レールに配されたときに、前記レールの溝の上端が挿入される幅方向で一対とされた板材溝を備えるものを用いる、
請求項1記載の建造物の移動方法。
【請求項5】
建造物が乗せられる長尺のレールであり、前記レールの長さ方向に沿う
、上側に向かって開放するものとされた断面矩形の溝
と、前記溝の両内側面の互いに対応する位置から前記溝の内側に向かって張り出す
所定間隔で多数設けられた一対のリブとを、備えたもの
と、
本体と、前記本体に対して水平方向に移動させることが可能とされた
棒状部材と、を備えている動力装置と、
前記一対のリブのうち、前記動力装置の前記本体の直後に位置するものの前記本体側の面の前に位置するようにして配置可能な、前記溝の中に挿入可能な大きさ、形状の板部を有する板材と、
を有してなる建造物の移動システム。
【請求項6】
前記板材は、前記レールに配されたときに、前記レールの溝の上端が挿入される幅方向で一対とされた板材溝を備える、
請求項5記載の建造物の移動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物を移動させるための技術、特にはレールの上に乗せられたレールに沿って移動可能な建造物を移動させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
レールの上に乗せられた、レールに沿って移動可能な建造物が存在する。建造物は、例えば、仮設テントである。
例えば、建築物などを解体するには、解体現場においてパワーショベルなどの重機を用いて建築物を破壊し、細分化し、それによって生じた廃棄物を適当な方法で分別して廃棄する。
このような解体作業を、例えば、住宅地、病院、或いは学校等の近辺で行う場合には、粉塵の飛散が生じ易い。解体の対象となる建築物は古い建築物であるのが通常であるのでアスベスト等の健康に好ましくない物質を含む粉塵が生じる場合があり、また、廃棄物処分場が解体の対象となる場合にはダイオキシン等のこれも健康に好ましくない物質を含む粉塵が生じる場合がある。健康に好ましくない粉塵が生じる場合は特に、粉塵の飛散は近隣の住民等から大きな問題と捉えられやすい。
また、建築物の解体には騒音がつきものであるが、それが近隣の住民との間で問題を生じる可能性がある。
建築物の解体作業を一例とする何らかの作業を行うときに、その作業によって生じる粉塵や騒音の外部への漏れ出しを防止するための技術の1つとして、仮設テントにより解体の対象となる建築物の全体を覆うという技術が採用されている。
そして、かかる仮設テントは、テントの構築或いはその解体をし易くしたり、さもなくばその期間を短縮するため、或いは建築物の解体作業を行う際における何らかの都合により、レールの上にレールに沿って移動可能として乗せられる場合がある。
【0003】
もっともレールの上に乗せられた仮設テントは、それがレールに沿って移動させることが可能とされているとはいえ、それを移動させるのはなかなかに難しい。
仮設テントは、金属製の柱、梁等の骨材と、それらを覆うことで壁と屋根とを構成するシートとによって構成されている。シートを用いるのは、仮設テントを構築するための費用や期間を短縮するためでもあるが、仮設テントの重量を軽くするためでもある。とはいえ、例えば、解体の対象となる建築物をすっぽりと覆うような仮設テントは、テントという名称を用いるのが憚られる程大きく、場合によりその長辺が100mに及ぶことがあり、その高さが50mに及ぶことがある。つまり、軽く作ってあるとはいえ、仮設テントは非常に重く、その重量は、数十トンを超える場合がある。
そのような仮設テントをレールに沿って動かすには、それ相応の工夫が必要となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、重機を用いて仮設テントを押す、或いは引く、ことによって仮設テントを移動させるという技術が存在する。しかしながら、重機を用いるには費用がかかる。
【0005】
また、本体と、本体に対して水平方向に移動させることが可能とされた棒状の棒状部材とを備えた動力装置によって、仮設テントを移動させるという技術も存在する。動力装置は例えば、油圧で駆動するジャッキスピンドルである。かかる方法を実行するには、棒状部材の長さ方向がレールの長さ方向に沿うようにして、レールの上に動力装置を配するとともに、動力装置の本体をレールに固定し、また棒状部材の一部を、仮設テントに固定する。その状態で、棒状部材を本体に対して移動させることにより、棒状部材の移動量に対応する距離だけ、レールの上で仮設テントを移動させる。そして、動力装置とレールとの固定と、棒状部材と仮設テントとの固定を解き、本体に対する棒状部材の位置を元に戻すとともに、動力装置全体の位置を仮設テントの移動量に対応した距離だけ移動させる。そして、動力装置の本体をレールに、棒状部材の一部を仮設テントにそれぞれ固定してから、再び棒状部材を本体に対して移動させることで、レールの上で仮設テントを移動させる。これを繰り返すことにより、仮設テントをレールの上で移動させることができる。
かかる方法は、重機を用いない分コスト的には有利であるが、しかしながら、かかる方法は、レールに対する動力装置の本体の固定とその解除、及び仮設テントに対する棒状部材の固定とその解除を繰返すことが必要であり、また動力装置をレールに沿って移動させることが必要であることから、その実施に時間がかかり、結局コスト低減の効果も限られる。特に、従来におけるレールに対する動力装置の本体の固定とその解除、及び仮設テントに対する棒状部材の固定は、ボルト、ナット等を用いて強固に行うものであるから、その固定も解除も手間である。
【0006】
そのような点を改良する技術として、特開2019-002141に開示の技術も提案されている。この技術によれば、動力装置の本体とレールとの固定はいわゆる係止により行われ、ボルト、ナット等を用いて強固に行われるものではないので、両者の固定と解除の手間が省かれる。
しかしながら、かかる技術を採用するには一般に、レールに対する工夫が必要となる。その工夫は例えば、レールに対する孔開け、溝や切り欠きの形成等のレールの一部を除去するものとされるが、そのような工夫を採用すると重い建造物を支えるレールの強度に問題が生じるという懸念を排除できない。
【0007】
本願発明は、レールの上にレールの長さ方向に移動可能に乗った構造物をレールの長さ方向に移動させるための、簡単で低コストな技術を、レールの強度に問題を生じないように改良することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するため、本願発明者は以下の発明を提案する。
本願発明は、上側に向かって開放するものとされ、その長さ方向に沿う断面矩形の溝であって、前記溝の両内側面の互いに対応する位置から前記溝の内側に向かって張り出す一対のリブを、所定間隔で多数備えたものを、その上方に備えた長尺のレールの上に設けられた建造物を、本体と、前記本体に対して水平方向に移動させることが可能とされた棒状の棒状部材と、を備えている動力装置を用いて、前記レールに沿って移動させるための建造物の移動方法である。
動力装置は、例えば、ジャッキスピンドルであり、例えば既存の、もっといえば市販のジャッキスピンドルを用いることができる。
そしてこの方法は、前記棒状部材の長さ方向が前記レールの長さ方向に沿うようにして、前記レールの溝の中に前記動力装置を配するとともに、前記棒状部材と前記建造物とを固定する第1過程と、前記一対のリブのうち、前記動力装置の前記本体の直後に位置するものの前記本体側の面の前に位置するようにして、前記溝の中に挿入可能な大きさ、形状(例えば、溝の断面形状よりも一回り小さい大きさ、形状)の板部を有する板材を、前記板部が前記溝の中に位置するようにして前記レールに配する、1回目は前記第1過程と前後して実施される第2過程と、前記リブに前記板部の両端を係止された前記板材における前記板部の前面によってその後端を係止された前記本体が、前記棒状部材を前方に移動させることにより、前記棒状部材に固定された前記建造物を前記レール上で前方に移動させる第3過程と、前記板材を前記レールから取外すとともに、前記棒状部材を前記本体に対して後方に移動させることにより、前記本体を前記溝の中で前方に移動させる第4過程と、を含んでいる。
第1過程と1回目の第2過程とは、先後は問わないが、略同時に行われる。1回目の第2過程が行われると、それに続けて、1回目の第3過程、第4過程が行われる。次に、2回目の第2過程、第3過程、第4過程が行われる。このようにして、前記第2過程から前記第4過程を繰り返すことにより、前方に向けて前記建造物を移動させる。
なお、本願発明における「前後」の概念は、建造物の移動方向に倣う。レールに沿って移動する建造物の移動していく先の方向が「前」、その逆方向が「後」である。
建造物は、仮設テントを含むがこれには限られない。
【0009】
上述するように、この方法を実施する場合に用いられる動力装置は、市販のごく一般的なもので良い。他方、レールには幾らかの工夫が施されている。
レールは、長尺である。長尺のレールは、従来における多くの場合、H鋼によって構成されている。より詳細には、凹み(溝)が上下に位置するようにして配置したH鋼を、レールとして用いている。本願発明で用いられるレールには、上側に向かって開放するものとされ、その長さ方向に沿う断面矩形の溝が存在するが、本願発明のレールには従来通りのH鋼を流用することができ、且つ本願発明における溝には、H鋼の上側の溝を流用することができる。
レールに施される工夫は、上述したリブである。リブは、溝の両内側面の互いに対応する位置から前記溝の内側に向かって張り出すようにされており、溝の長さ方向における同じ位置(対応する位置)にあるもの同士で一対とされる。リブは、所定間隔でレールの溝の中に多数設けられる。一対のリブの隣接するもの同士の間隔は、一定でもそうでなくてもよいが、動力装置における棒状部材の一回の移動距離と同じか、それよりも短い間隔とされる。リブは、例えば、溶接によってレールの溝の内面に固定される。これによれば、レールの一部を除去することがないから、レールの強度に問題を生じるおそれが小さい。
本願発明における建造物の移動方法では、棒状部材の長さ方向がレールの長さ方向に沿うようにして、レールの溝の中に動力装置を配するとともに、棒状部材と建造物とを固定する第1過程をまず実行する。
次いで、一対のリブのうち、動力装置の本体の直後に位置するものの本体側の面の前に位置するようにして、板材をレールに配する第2過程を実行する。板材は、レールの溝に挿入可能な大きさ、形状の板部を有し、第2過程で板材がレールに配されるときには、レールの溝の中に板材の板部が入り込むようにする。第2過程は、1回目に実施される場合には、第1過程と略同時(先後は不問である。)に実行される。
次いで、リブに板部の両端を係止された板材における板部の前面によってその後端を係止された本体が、棒状部材を前方に移動させることにより、棒状部材に固定された建造物をレール上で前方に移動させる第3過程を実行する。第3過程が実施される瞬間には、本体と板材の板部の前面とが当接している必要はないが、棒状部材が本体に対して相対的に前方へ移動し始めると、どこかの段階で、動力装置における本体の後端が、板材の板部の前面に係止される。板材における板部の幅方向の両端は、リブによって係止されているのであるから、板部の前面にその後端が当接した動力装置における本体は、レールに対して相対的に後退できなくなる。その状態で棒状部材を本体に対して相対的に前方に移動させると、棒状部材はレールに対して相対的に前方に移動し、それに伴い棒状部材の先端に固定された建造物が、レール上で前方に移動することになる。
なお、リブと板材の構成は、板材の板部がレールの溝の中に挿入可能なこと、レールの溝の中に挿入された板部の幅方向の両端をリブが係止可能なこと、リブに係止された板材の板部が動力装置の本体を係止可能なことという3つの条件が充足される範囲で適当に選択することができる。
次いで、板材をレールから取外すとともに、棒状部材を本体に対して後方に移動させることにより、本体を溝の中で前方に移動させる第4過程を実行する。板材のレールからの取外しと、棒状部材の本体に対する後方への移動とは、同時に行っても良いし、どちらかを先に行っても良い。棒状部材を本体に対して相対的に後退させると、もちろん建造物の方が動力装置の本体よりも遥かに重いのであるから、建造物は移動せず、本体が前方に移動して建造物に近づく。
そして、建造物に近づいた本体の直後に位置するリブの前に位置するようにして板材をレールに配する第2過程を再び行い、第3過程、第4過程を続けて実施する。以後、第2過程から第4過程を繰り返し実行することにより、本体に対する棒状部材の移動距離に応じた距離ずつ、建造物がレール上を前方に移動することになる。
この建造物の移動方法によれば、レールに対する動力装置の本体の一時的な固定は、板材を用いた係止によって実現できるし、また、板材のレールに対する一時的な固定も係止によって実現できるので、その実施が容易であり、また、手間、コストの面でも優れている。加えて、レールに対する工夫も、レールにリブを追加するものであり、レールの一部を除去するものではないので、レールの強度にも問題を生じにくい。
【0010】
前記レールは少なくとも1本であり、平行であれば3本以上でも良いが、平行な2本であってもよい。この場合、動力装置は、各レール、或いは複数のレールに配されても良いし、レールのうちの1本にのみ配されても良い。
もっとも、動力装置は、各レールに配置される方が、建造物の移動を安定させるには有効である。
本願発明の建造物の移動方法で用いることのできる板材は、リブとの組合せにおいて、上述の如き3つの条件を充足するようなものとされる必要があるが、それが充足される限りその構成は自由である。
前記板材として、前記レールに配されたときに、前記レールの溝の上端が挿入される幅方向で一対とされた板材溝を備えるものを用いてもよい。板材溝を備える板材をレールに取付けるときには、もちろん、板材溝に、レールの溝の上端が挿入される。これにより、レールのリブによって板部を係止された板材のレールに対する係止状態がより安定することになる。
【0011】
本願発明者は、建造物の移動システムをも本願発明の一態様として提案する。この建造物の移動システムを用いることにより、上述した建造物の移動方法を実施することが可能となる。建造物の移動システムの効果は、上述した建造物の移動方法の効果に等しい。
一例となる建造物の移動システムは、上側に向かって開放するものとされ、その長さ方向に沿う断面矩形の溝であって、前記溝の両内側面の互いに対応する位置に、所定間隔で前記溝の内側に向かって張り出す一対のリブを備えたものを、その上方に備えた長尺のレールであり、その上に前記レールに沿って移動可能な建造物が乗せられたものと、本体と、前記本体に対して水平方向に移動させることが可能とされた棒状の棒状部材と、を備えている動力装置と、前記一対のリブのうち、前記動力装置の前記本体の直後に位置するものの前記本体側の面の前に位置するようにして配置可能な、前記溝の中に挿入可能な大きさ、形状(例えば、溝の断面形状よりも一回り小さい大きさ、形状)の板部を有する板材と、を有してなる。
建造物の移動システムに含まれる前記板材は、前記レールに配されたときに、前記レールの溝の上端が挿入される幅方向で一対とされた板材溝を備えていてもよい。板材溝を備える板材をレールに取付けるときには、もちろん、板材溝に、レールの溝の上端が挿入される。これにより、レールのリブによって板部を係止された板材のレールに対する係止状態がより安定することになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態で移動される仮設テントの構成を示す斜視図。
【
図2】(A)は、
図1に示した仮設テントに含まれる骨部材の下端付近及びレールの横板の側面図、(B)は、レールの平面図、(C)は、レールの長さ方向に垂直な断面の断面図。
【
図4】(A)は板材の正面図、(B)は板材をレールに取付けた状態を示す図。
【
図5】仮設テントの移動方法が実行されている場合におけるある状態を示す、
図2(A)に対応する側面図。
【
図6】仮設テントの移動方法が実行されている場合における他の状態を示す、
図2(A)に対応する側面図。
【
図7】仮設テントの移動方法が実行されている場合における更に他の状態を示す、
図2(A)に対応する側面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい一実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
この実施形態では、後述するようにして、
図1に示したような仮設テント1を移動させる。
仮設テント1は、簡単に言うと巨大なテントのようなものである。これには限られないが、この実施形態における仮設テント1は、ビルディング、清掃工場等の既存の建築物を解体するために用いられるものであり、既存の建築物の全体をすっぽりと覆うようなものとされる。仮設テント1は、これには限られないがこの実施形態では平面視矩形であり、大きい場合にはその長辺が100mに及ぶことがあり、その高さは50mに及ぶことがある。
仮設テント1は、レール2の上に乗っている。レール2は1本でも良いが、平行な複数本でも良い。この実施形態では、レール2は2本で一組とされており、互いに平行である。レール2の構成は、後述するリブを除き、公知、周知技術に倣えば良い。後述するように、レール2は長尺であり、H鋼をその基本的な構成として採用している。
【0015】
この実施形態による仮設テント1は、
図1、
図2に示すようにして複数の骨部材10を備えている。
図2は、骨部材10のみを示した図である。骨部材10は、従来の仮設テント1におけるそれらと基本的に同じ構造で構わない。各骨部材10は、これには限られないがこの実施形態では等間隔で、且つ平面視した場合に平行になるようにして立てられている。
また、隣接する骨部材10は、後述する接続部材によって、それらの間隔が不変となるようにして互いに接続されている。これによって、仮設テント1は、全体として一体となっており、レール2上をレール2に沿って移動するときにおいても、前後方向で隣接する骨部材10同士の間隔が変化するような変形を生じないようになっている。
仮設テント1は、レール2に乗った状態で、レール2の上をレール2の長さ方向に沿って移動可能である。これには限られないが、この実施形態では、仮設テント1の移動方向は
図2における左方向であるとする。つまり、仮設テント1の移動方向によって定まる前後の概念は、
図2における左が「前」で、右が「後」である。
【0016】
これには限られないが、この実施形態における各骨部材10は同じものとされている。骨部材10は仮設テント1の骨材となるものであり、それに必要な剛性を有するものとなっている。骨部材10は、これには限られないがこの実施形態では金属製の角パイプで構成されている。
骨部材10は、いずれも棒状の2本の柱部11と、これもいずれも棒状の2本の梁部12とを備えて構成されている。柱部11は仮設テント1の柱となり壁の一部を構成するものであり、梁部12は仮設テント1の梁となり屋根の一部を構成するものである。柱部11と梁部12とは全体として一体となっていても構わないが、この実施形態における2つの柱部11と2つの梁部12とは別部材とされており、それらが組合せられ、後述の状態で固定されることにより、一体の骨部材10となるようにされている。もちろん、柱部11と梁部12との少なくとも一方が、更に複数の部材で構成されていることもあり得る。
柱部11は、所定の間隔を空けて、レール2の上に事実上鉛直に立てられるものである。柱部11の下端はレール2の上をレール2に沿って移動可能とされる。柱部11の下端がレール2の上をレール2から外れずに、或いはレール2に案内されて移動可能とするための技術は、公知或いは周知である。後述するように、レール2はH鋼であって、その溝が上下方向に位置するように配されている。上方向に開口する溝の中に、柱部11の下端(或いは柱部11の下端の一部)が挿入されることにより、柱部11はH鋼の溝によって(或いは、溝の内側面によって)案内され、レール2に沿って移動可能となっている。
2つの梁部12の一端は、2つの柱部11の上端にそれぞれ固定されている。また2つの梁部12の他端は互いに接続されるようになっている。平面視した場合における2つの梁部12は一直線上になるようにされている。梁部12の互いに接続される他端は、梁部12の一端よりもその高さが高くなるようになっている。かかる梁部12の構成により、この実施形態における仮設テント1の屋根は、これには限られないが、いわゆる切妻型となる。
【0017】
次に、仮設テント1を構成するシート20について説明する。
シート20は、従来のものとその構成は同じでよい。シート20は一般には樹脂製の膜材であり、骨部材10の間に張り渡すことができる程度の柔軟性を備えている。シート20は多層の複合素材により構成されていてもよい。シート20のうち、隣接する骨部材10の間に張り渡されているものは矩形の長尺材であり、隣接する骨部材10に対してその長辺をそれぞれ支持されている。骨部材10とシート20の固定の方法は、従来技術に倣えば良い。
また、仮設テント1の両端に位置する骨部材10で囲まれた空間にもシート20が張り渡されている。仮設テント1の両端に位置する骨部材10で囲まれた空間に張り渡されたシート20には、仮設テント1への出入口となる扉40が必要に応じて設けられる。
シート20は、二重に張り渡されていても良い。
以上で説明した仮設テント1及びレール2の内容はすべて従来技術に即したものとすることができ、この実施形態では実際にそうされている。
【0018】
この実施形態におけるレール2は、基本的には従来のレールと同様であるが、多少の工夫がされている。それについて、
図2を用いて説明する。なお、
図2(A)はテント1の下部とレール2の横板2Bの側面図、同(B)は、レール2の平面図、同(C)は、レール2の長さ方向に垂直な断面図である。
この実施形態においてレール2は、これには限られないが、
図2(C)に示したように、H鋼により構成されている。H鋼により構成されたレール2は、レール2の長さ方向の延長線上から見た場合において、事実上水平な横板2Bと、横板2Bの幅方向の両端から鉛直方向に上下に伸びる縦板2Aとからなる。都合、H鋼により構成されたレール2は、上下方向に溝を持つことになる。下側に開口した溝はこの実施形態では特段の機能を持たないので、以後レール2の溝と言う場合には、上方向に開口した、横板2Bの上側に位置する溝を意味するものとする。もちろん溝は、レール2の全長にわたるようにして水平に伸び、且つその幅は、後述するリブ2Cを無視すれば、溝の全長にわたって同じ幅となっている。
レール2は以上のような構成を取るが、もちろん、剛性確保の目的等で必要であれば、溝の中以外の適当な箇所に補強用その他の他の部材を備えていてもよい。
【0019】
図2(A)、(B)に示したように、レール2には、適宜の間隔でリブ2Cが設けられている。リブ2Cは、縦板2Aの対向する面、言い換えれば、溝の両内側面に設けられている。リブ2Cは、溝の両内側面から、溝の内側に向かって張り出すようにされている。リブ2Cは、溝の長さ方向における同じ位置(対応する位置)に、対となるようにして設けられている。リブ2Cは、後述する板材からの力に耐えられるだけの剛性があることが必要であり、金属、例えば、レール2を構成するH鋼と同じ金属で構成されている。リブ2Cは、例えば溶接によってレール2の内側面に固定されている。
この実施形態におけるリブ2Cは、これには限られないが縦長の直方体形状である。縦長の矩形の側面のうちの1面が、レール2の縦板2Aの対向する面に溶接されている。リブ2Cの上下方向の長さは、この実施形態では、その下端がレール2の溝の底に及び、その上端が溝の縁のやや下側まで及ぶようにされている。
一対のリブ2Cは、レール2の長さ方向において多数設けられている。一対のリブ2Cのレール2の長さ方向で隣接するもの同士の間隔は、一定でもそうでなくてもよいが、後述する動力装置におけるスピンドルの一回の移動距離(最大移動距離)と同じか、それよりも短い間隔とされる。この実施形態では、後述する動力装置におけるスピンドルの一回の移動距離と、隣り合う一対のリブ2C同士の間隔とが同じとされている。
【0020】
なお、
図2(A)に示したように、仮設テント1の骨部材10における柱部11の下端にはそれぞれ、レール2の上に柱部11を、レール2に沿って移動可能に接続するための基体11Aが設けられている。基体11Aは、レール2の溝の中に挿入できるような形状、大きさとされている。基体11Aは後述するようにしてレール2の溝の中をレール2の長さ方向に移動するが、そのときリブ2Cと基体11Aは互いに干渉しないようにともに設計されている。
また、隣接する骨部材10における柱部11は、接続部材13によって互いに接続され、隣接する骨部材10間の位置が不変となるようにされている。
【0021】
以上で説明した仮設テント1をレール2に沿ってレール2の上で移動させるには、動力装置100を用いる。
図3を用いて動力装置100の構成について説明する。
【0022】
動力装置100は、本体110と、本体110に対して移動可能な棒状部材であるスピンドル120とを備えて構成されている。スピンドル120は、本体110に対して取付けられており、且つその長さ方向に平行移動できるようにされている。
スピンドル120の移動できる範囲は、この実施形態では、
図3(A)と
図3(B)の側面図に示された間であり、その移動距離(最大移動距離)はLである。したがって、上述した一対のリブ2Cの隣り合うもの同士の間隔もLである。
本体110と、本体110に対してその長さ方向に平行移動できるようにされたスピンドル120とを備える装置としては、油圧によって駆動するジャッキスピンドルが公知、或いは周知であり、動力装置100の本体110とスピンドル120には、そのようなジャッキスピンドルを流用することができる。より具体的には、この実施形態で使用可能なジャッキスピンドルの例となるのは、株式会社大阪ジャッキ製作所が製造販売する油圧ジャッキ(例えば、品番E20H50)である。
動力装置100の本体110は上述のようなものであるが、動力装置100は、レール2の溝の中に入れることができることが要求される。もっとも、レール2の溝の中に動力装置100を入れた場合において、動力装置100の上方の一定の範囲が溝から食み出ることは許容される。
【0023】
仮設テント1をレール2に沿ってレール2の上で移動させる場合には、また、
図4(A)に示したような板材200が用いられる。板材200は、後述するようにしてレール2に取付けられる。板材200はレール2の数と同数以上準備される。
板材200は、板である。板材200は、後述するようにして動力装置100の本体110から受ける力に耐えられる程度の剛性が必要とされる。板材200は例えば、金属製であり、例えば鉄製である。
板材200は、板部210を備えている。板部210は、レール2の溝に挿入可能な大きさ、形状(例えば、溝の断面形状よりも一回り小さい大きさ、形状)とされている。板部210は、これには限られないが、この実施形態では、レール2の溝の断面より一回り小さい矩形とされている。
板材200は、また、板材溝220を備えている。板材溝220は、板材200における板部210の両外側の上方に設けられた下向きの溝乃至切り欠きである。
板材200は、板部210を、板部210がレール2の長さ方向に垂直になるようにしながらレール2の溝に挿入することによってレール2の長さ方向の任意の位置(ただし、リブ2Cが存在しない位置)に取付けることができる。板材200をレール2に取付けたとき、レール2の両縦板2Aの上端付近は、
図4(B)に示したように、板材溝220の中に挿入されるようになっている。
【0024】
以上で説明した仮設テント1をレール2に沿ってレール2の上で移動させる方法について説明する。
かかる移動方法を用いる場合、まず、スピンドル120の長さ方向がレール2の長さ方向に沿うようにして、レール2の上に動力装置100を配するとともに、スピンドル120と仮設テント1とを固定する第1過程を行う(
図5)。第1過程を行う場合、スピンドル120と仮設テント1を固定的に接続する必要があるが、スピンドル120のどの部分と仮設テント1のどの部分とを接続するかは、スピンドル120の本体110に対する移動が可能な限り、適当に決定することができる。この実施形態では、スピンドル120の先端と仮設テント1のうちの任意の柱部11の下端の基体11Aとを固定することとしている。スピンドル120と仮設テント1との、より詳細にはスピンドル120と仮設テント1の基体11Aとの固定的な接続の方法は、公知或いは周知技術により適当に行えば良い。例えば、適当な金具を用いてこれを行うことができる。このときのスピンドル120の位置は、
図3(A)に示したように、本体110から露出した部分がもっとも短くなっている。
かかる移動方法では、また、第1過程を行う場合、その前後或いは第1過程を実施するのと同時に、第2過程を実施する。第2過程は、一対のリブ2Cのうち、動力装置100の本体110の直後に位置するものの本体110側の面の前に位置するようにして、板材200をレール2に配する、或いは取付けるというものである。板材200のレールに対する取付けは、上述したように、
図4(B)に示したようにして行う。板材200の板部210は、レール2の長さ方向に垂直であり、また、板材200の板材溝220には、レール2の縦板2Aがそれぞれ挿入される。このとき、レール2と板材200とは互いに固定されない。板材200をレール2に取付けた状態を
図6に示す。
【0025】
次いで、本体110に対してスピンドル120を前方に移動させる第3過程を行う。このとき、リブ2Cに板部210の両端を係止された板材200における板部210の前面にその後端が当接することによって、動力装置100の本体110は後方への移動を規制される。なお、第3過程が実施される瞬間には、本体110と板材200の板部210の前面とが当接している必要はない。スピンドル120が本体110に対して相対的に前方へ移動し始めると、どこかの段階で、動力装置100における本体110の後端が板材200の板部210の前面に係止されるからである。
第3過程が実行されると、仮設テント1のスピンドル120と接続された基体11Aは、スピンドル120とともに前方に移動する。これにより、
図6で矢視したように、仮設テント1の全体が前方に移動する。
このとき、動力装置100の本体110は仮設テント1を前方に押すスピンドル120から、反作用として後向きの力を受ける。しかしながら、後向きの力が本体110にかかったとしても、上述のように、本体110は、板材200の板部210と係止され、板材200の板部210はリブ2Cに係止された状態となっている。したがって、板部210には本体100から後向きの力がかかり、リブ2Cには板部210から後向きの力がかかるが、リブ2Cがレール2に対して移動しないので、本体100はそれ以上後に下がらない。つまり、レール2に対して、板材200、リブ2Cを介して間接的に係止された状態とっている本体100は、スピンドル120から後向きの力を受けたとしても、板材200の前側に留まることになる。
スピンドル120を、
図3(B)の状態まで移動させきった状態を
図7に示す。
【0026】
次いで、板材200をレール2から取外すとともに、スピンドル120を動力装置100の本体110に対して後方に移動させることにより、本体110をレール2の溝の中で前方に移動させる第4過程を実行する。板材200のレール2からの取外しと、スピンドル120の本体110に対する後方への移動とは、同時に行っても良いし、どちらかを先に行っても良い。スピンドル120を本体100に対して相対的に後退させると、もちろん仮設テント1の方が動力装置100の本体110よりも遥かに重いのであるから、仮設テント1は移動せず、スピンドル120の先端が仮設テント1のうちの任意の柱部11の下端の基体11Aと固定されていることもあり、動力装置100の本体110が前方に移動して仮設テント1に近づく。
この後の状態は、仮設テント1と動力装置100とが距離Lの分だけ前方に移動していることを除けば、第1過程が終了した時点の状態と変わらない。つまり、動力装置100と仮設テント1とは、
図5で示された状態に戻る。
【0027】
この実施形態における仮設テント1の移動方法では、以上で説明した第2過程から第4過程を、その順で繰り返す。それにより、仮設テント1を、スピンドル120の本体110に対する移動量の分ずつ、前方に徐々に移動させることができる。
【0028】
なお、以上の過程は、レール2の双方で2つの動力装置100を用いて行われてもよく、レール2の一方のみで行われても良い。この実施形態では、2本のレール2の双方で以上の過程が例えば、同時に実行される。特に、第3過程に関しては、2本のレール2で同時に実行するのが好ましい。
【符号の説明】
【0029】
1 仮設テント
2 レール
2A 縦板
2B 横板
10 骨部材
11 柱部
11A 基体
12 梁部
13 接続部材
20 シート
100 動力装置
110 本体
120 スピンドル
200 板材
210 板部
220 板材溝