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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】ライソゾーム病の予防及び治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/366 20060101AFI20231016BHJP
   A61K 31/4418 20060101ALI20231016BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20231016BHJP
   A61P 39/02 20060101ALI20231016BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
A61K31/366
A61K31/4418
A61P21/00
A61P39/02
A61P43/00 105
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019571189
(86)(22)【出願日】2019-02-05
(86)【国際出願番号】 JP2019004766
(87)【国際公開番号】W WO2019156252
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】P 2018019698
(32)【優先日】2018-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、難治性疾患実用化研究事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願;平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、再生医療実用化研究事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願;平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、再生医療実現拠点ネットワークプログラム 疾患特異的iPS細胞を活用した難病研究事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 英俊
(72)【発明者】
【氏名】西 洋平
(72)【発明者】
【氏名】太田 章
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/040816(WO,A1)
【文献】特表2017-536363(JP,A)
【文献】特開2006-117553(JP,A)
【文献】国際公開第2010/131712(WO,A1)
【文献】全陽,ライソゾーム酸性リパーゼ欠損症-コレステロールエステル蓄積症(CESD)を中心に-,肝胆膵,2014年,第69巻第3号,第445-453頁,第450頁右欄第3段落
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/366
A61K 31/4418
A61P 21/00
A61P 39/02
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロバスタチン、シンバスタチン、又はセリバスタチンを含有してなるポンペ病又は縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー(GNEミオパチー)の予防又は治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ライソゾーム病の予防又は治療剤に関する。より詳細には、本発明は、HMG-CoA還元酵素阻害薬を含有してなるライソゾーム病の予防又は治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ライソゾーム病(以下、「LSD」と略記する場合がある)はライソゾーム内の酸性分解酵素の遺伝的欠損又はライソゾームの機能障害を来たす遺伝子の異常により発症する。それらの欠損によりライソゾーム内に様々な基質や不要物質が蓄積し、その結果、肝臓、脾臓の腫大、骨変形、神経障害(痙攣、知能障害など)、眼障害、腎障害、心不全など種々の症状を呈する疾患であり、厚生労働省の指定難病に指定されている。
【0003】
LSDの原因は、ライソゾーム内の酸性分解酵素の遺伝的欠損が多数であり、蓄積する基質や欠損する酵素の種類により数多くの疾患に分類される(ゴーシェ病、ファブリー病、ニーマン・ピック病、GM1ガングリオシドーシス、ムコ多糖症I型など)。
【0004】
現在、LSDの治療薬としていくつかの酵素補充療法が施行されいる。例えば、ファブリー病なら、リプレガルTM(大日本住友製薬)やファブラザイムTM(JCRファーマ)が、ポンペ病ではマイオザイムTM(サノフィ)が上市され、施行されている。しかしながら、これらの酵素補充療法は臨床症状の改善や生存期間の延長など一定の効果を示すが、1)中枢神経症状や骨格筋症状に効果がない、2)自己抗体の出現、3)アレルギー反応、4)オートファジーの機能不全など問題点がある。特に、マイオザイムTMを用いた酵素補充療法において、生命予後が改善される一方で、骨格筋症状に対する効果は認められず運動機能は改善しない。また、中枢神経症状も改善しない。その原因として、オートファジービルドアップと呼ばれる過剰のオートファゴソームの蓄積を原因とするオートファジーの機能不全が報告されている(非特許文献1)。
【0005】
ところで、Yamanakaらが樹立した人工多能性幹細胞(以下、「iPS細胞」という)(特許文献1)は、各組織の細胞へと分化させることができるため、in vitroで病態の再現をすることが可能と考えられている。実際、上記の方法で、様々な難病患者由来のiPS細胞が作製され、目的の細胞へ分化させ治療薬のスクリーンングが行われている。本発明者らは以前、骨格筋細胞を特異的に誘導しない条件で培養した多能性幹細胞において外因性のMyoDやMyf5を発現させ、その発現期間を調節することにより、多能性幹細胞から骨格筋細胞を効率よく分化誘導させる方法を確立し(特許文献2)、当該方法を用いてポンペ病患者由来iPS細胞から同疾患のモデル細胞を樹立している(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO 2008/118820 A2
【文献】WO 2013/073246 A1
【非特許文献】
【0007】
【文献】Fukuda,T.,and H.Sugie.Brain and nerve=Shinkeikenkyu no shinpo 67.9(2015):1091-1098.
【文献】Yoshida,T.et al.,Sci.Rep.,7:13473(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、より有効かつ副作用の少ないLSDの新規な予防及び/又は治療薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく、ポンペ病患者由来の線維芽細胞からiPS細胞を樹立し、本発明者らが開発した分化誘導法(上記特許文献2)を用いて筋細胞へ分化誘導を行った。ここで、得られた筋細胞においてオートファゴソームが蓄積していることに着目し、当該筋細胞と試験化合物を接触させ、オートファゴソームの蓄積を低下させる化合物をスクリーニングした。その結果、HMG-CoA還元酵素(以下、「HMGCR」ともいう)阻害薬がオートファゴソームの蓄積を低下させることを見出した。さらに、別のLSDである縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー(GNEミオパチー)患者由来iPS細胞から分化させた筋細胞を用いた実験でも、HMGCR阻害薬によるオートファゴソームの蓄積減少を確認した。
本発明者らは、これらの知見に基づいて、HMGCR阻害薬がLSDの予防及び/又は治療に有効であると結論し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]HMG-CoA還元酵素阻害薬を含有してなるライソゾーム病の予防又は治療剤。
[2]HMG-CoA還元酵素阻害薬がロバスタチンである、[1]に記載の剤。
[3]ライソゾーム病がポンペ病又はGNEミオパチーである、[1]又は[2]に記載の剤。
[4]対象におけるライソゾーム病の予防又は治療方法であって、該対象に有効量のHMG-CoA還元酵素阻害薬を投与することを含む、方法。
[5]HMG-CoA還元酵素阻害薬がロバスタチンである、[4]に記載の方法。
[6]ライソゾーム病がポンペ病又はGNEミオパチーである、[4]又は[5]に記載の方法。
[7]ライソゾーム病の予防又は治療における使用のためのHMG-CoA還元酵素阻害薬。
[8]HMG-CoA還元酵素阻害薬がロバスタチンである、[7]に記載の阻害薬。
[9]ライソゾーム病がポンペ病又はGNEミオパチーである、[7]又は[8]に記載の剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、LSDに共通する病態でありながら、従来の酵素補充療法では介入できなかったオートファジーの機能不全を改善することができるので、LSDの有効な新規予防及び/又は治療手段として期待される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】LSD予防/治療薬のスクリーニング結果を示す図である。横軸に蛍光強度を、縦軸に細胞内のオートファジー小胞の面積を、それぞれ示す。
図2】ロバスタチンがポンペ病特異的筋細胞におけるオートファジーマーカーLS3の発現を抑制することを示す図である。
図3】ポンペ病特異的筋細胞におけるロバスタチンの治療効果を示す電子顕微鏡写真である。
図4】ポンペ病特異的筋細胞におけるロバスタチンの治療効果を示す電子顕微鏡写真である。
図5】ロバスタチンがGNEミオパチー特異的筋細胞におけるオートファジー空胞を消失させることを示す図である。
図6】GNEミオパチー特異的筋細胞におけるロバスタチンの治療効果を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、HMG-CoA還元酵素(HMGCR)阻害薬を含有してなるライソゾーム病(LSD)の予防及び/又は治療剤(以下、「本発明の予防/治療剤」ともいう)を提供する。
【0014】
本発明において治療対象となるLSDは、ライソゾームに関連する酵素の欠損により分解されるべき物質が老廃物として蓄積し、ライソゾームとオートファゴソームとの融合が阻害され、オートファゴソームが蓄積してオートファジーの機能不全の病態を呈する疾患であれば特に制限はなく、例えば、α-グルコシダーゼ(GAA)の欠損によりグリコーゲンが蓄積するポンペ病、UDP-N-アセチルグルコサミン 2-エピメラーゼ/N-アセチルマンノサミンキナーゼ(GNE)を欠損する縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー(GNEミオパチー)、GM1ガングリオシドーシス、GM2ガングリオシドーシス、異染性白質ジストロフィー(MLD)、ファブリー病(α-ガラクトシダーゼA欠損)、ファーバー病、ゴーシェ病(β-グルコセレブロシダーゼ欠損)、ニーマン・ピック病(A,B,C型)、クラッベ病等のスフィンゴ脂質が蓄積する疾患、ムコ多糖症(I-VII型)、ダノン病、α-マンノーシドーシスなどが挙げられるが、それらに限定されない、好ましくは、ポンペ病又はGNEミオパチーである。
【0015】
本発明の予防/治療剤の有効成分であるHMG-CoA還元酵素(HMGCR)阻害薬は、ヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼの酵素活性を阻害する活性を有する化合物であれば特に制限はなく、微生物由来の天然物質、それから誘導される半合成物質、及び全合成化合物のすべてが含まれ、例えば、(+)-(1S,3R,7S,8S,8aR)-1,2,3,7,8,8a-ヘキサヒドロ-3,7-ジメチル-8-[2-[(2R,4R)-テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-6-オキソ-2H-ピラン-2-イル]エチル]-1-ナフチル(S)-2-メチルブチレート(ロバスタチン、特開昭57-163374号公報(USP4231938)参照)、(+)-(1S,3R,7S,8S,8aR)-1,2,3,7,8,8a-ヘキサヒドロ-3,7-ジメチル-8-[2-[(2R,4R)-テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-6-オキソ-2H-ピラン-2-イル]エチル]-1-ナフチル 2,2-ジメチルブチレート(シンバスタチン、特開昭56-122375号公報(USP4444784)参照)、(±)(3R*,5S*,6E)-7-[3-(4-フルオロフェニル)-1-(1-メチルエチル)-1H-インド-ル-2-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸(フルバスタチン、特表昭60-500015号公報(USP4739073)参照)、(3R,5S)-7-[2-(4-フルオロフェニル)-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-フェニルアミノカルボニル-1H-ピロ-ル-1-イル]-3,5-ジヒドロキシヘプタン酸(アトルバスタチン、特開平3-58967号公報(USP5273995)参照)、(1S,7R,8S,8aR)-8-{2-[(2R,4R)-4-ヒドロキシ-6-オキソテトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル]エチル}-7-メチル-1,2,3,7,8,8a-ヘキサヒドロナフタレン-1-イル(2S)-2-メチルブタノエート(メバスタチン、Journal of Antibiotics(Tokyo)29(12):1346-8(1976))、(3R,5S,6E)-7-[4-(4-フルオロフェニル)-5-(メトキシメチル)-2,6-ビス(プロパン-2-イル)ピリジン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシヘプト-6-エノイン酸(セリバスタチン、Br J Pharmacol.1999 Feb;126(4):961-968.)、(+)-(3R,5R)-3,5-ジヒドロキシ-7-[(1S,2S,6S,8S,8aR)-6-ヒドロキシ-2-メチル-8-[(S)-2-メチルブチリルオキシ]-1,2,6,7,8,8a-ヘキサヒドロ-1-ナフチル]ヘプタン酸(プラバスタチン、特開昭57-2240号公報(USP4346227)参照)、(+)-(3R,5S)-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-メタンスルフォニルアミノ)ピリミジン-5-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸(ロスバスタチン、特開平5-178841号公報(USP5260440)参照)又は(E)-3,5-ジヒドロキシ-7-[4’-(4’’-フルオロフェニル)-2’-シクロプロピルキノリン-3’-イル]-6-ヘプテン酸(ピタバスタチン、特開平1-279866号公報(USP5854259及びUSP5856336)参照)のようなスタチン化合物である。好ましいHMGCR阻害薬としては、ロバスタチンである。
【0016】
上記のスタチン化合物は、そのラクトン閉環体又はその薬理上許容される塩(好適には、ナトリウム塩又はカルシウム塩等)を包含する。
【0017】
本発明の予防/治療剤は、有効成分であるHMGCR阻害薬をそのまま単独で、または薬理学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤等と混合し、適当な剤型の医薬組成物として経口的又は非経口的に投与することができる。
【0018】
経口投与のための組成物としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等が挙げられる。一方、非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤、坐剤等が用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤等の剤形を包含しても良い。これらの製剤は、賦形剤(例えば、乳糖、白糖、葡萄糖、マンニトール、ソルビトールのような糖誘導体;トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、α澱粉、デキストリンのような澱粉誘導体;結晶セルロースのようなセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルランのような有機系賦形剤;及び、軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウムのような珪酸塩誘導体;燐酸水素カルシウムのような燐酸塩;炭酸カルシウムのような炭酸塩;硫酸カルシウムのような硫酸塩等の無機系賦形剤である)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムのようなステアリン酸金属塩;タルク;コロイドシリカ;ビーズワックス、ゲイ蝋のようなワックス類;硼酸;アジピン酸;硫酸ナトリウムのような硫酸塩;グリコール;フマル酸;安息香酸ナトリウム;DLロイシン;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウムのようなラウリル硫酸塩;無水珪酸、珪酸水和物のような珪酸類;及び、上記澱粉誘導体である)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、及び、前記賦形剤と同様の化合物である)、崩壊剤(例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、内部架橋カルボキシメチルセルロースナトリウムのようなセルロース誘導体;カルボキシメチルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドンのような化学修飾されたデンプン・セルロース類である)、乳化剤(例えば、ベントナイト、ビーガムのようなコロイド性粘土;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムのような金属水酸化物;ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウムのような陰イオン界面活性剤;塩化ベンザルコニウムのような陽イオン界面活性剤;及び、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルのような非イオン界面活性剤である)、安定剤(メチルパラベン、プロピルパラベンのようなパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコールのようなアルコール類;塩化ベンザルコニウム;フェノール、クレゾールのようなフェノール類;チメロサール;デヒドロ酢酸;及び、ソルビン酸である)、矯味矯臭剤(例えば、通常使用される、甘味料、酸味料、香料等である)、希釈剤等の添加剤を用いて周知の方法で製造される。
【0019】
HMGCR阻害薬の投与量は、患者の症状、年齢、体重等の種々の条件により変化し得る。
その投与量は症状、年齢等により異なるが、経口投与の場合には、1回当たり下限0.1mg、上限1000mg(好適には500mg)を、非経口的投与の場合には、1回当たり下限0.01mg、上限100mg(好適には50mg)を、成人に対して1日当たり1乃至6回投与することができる。症状に応じて増量もしくは減量してもよい。
【0020】
本発明の予防/治療剤は、他の薬剤、例えば、ライソゾーム病の治療に従来使用されている薬剤、例えば、酵素補充療法剤(例、α-グルコシダーゼ(ポンペ病)、α-ガラクトシダーゼA(ファブリー病)、ゴーシェ病(β-グルコセレブロシダーゼ)等)、薬理学的シャペロン療法剤、基質低減療法剤などと併用してもよい。本発明の予防/治療剤及びこれらの他の薬剤は、同時に、順次又は別個に投与することができる。
【0021】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。
【実施例
【0022】
実施例1:ポンペ病患者から樹立したiPS細胞を用いた薬理評価
(1)ポンペ病患者由来の線維芽細胞
生検した4mmの皮膚を3週間の培養後、ポンペ病患者由来の線維芽細胞として用いた。
【0023】
(2)iPS細胞誘導
KLF4、Sox2、Oct3/4およびc-Mycに対するヒトcDNAを、Takahashi K,et al,Cell 131(5),861,2007に記載の方法に従って、レトロウィルスを用いて前記線維芽細胞へ導入した。導入後6日目に、線維芽細胞をSNLフィーダー細胞上に移し、翌日に4ng/mlのbFGF(Wako)を添加した霊長類ES細胞用培養液へ培地を交換した。培地は、1日おきに交換し、遺伝子導入後30日目に、コロニーをピックアップした。
【0024】
(3)骨格筋細胞分化誘導
上記のポンペ病患者由来iPS細胞に、テトラサイクリン応答性のMyoD発現ベクターを導入し(Tanaka et al.Plos One,2013)、筋分化良好なクローン(MyoD-hiPSC)を選別した。
MyoD-hiPSCを、フィーダー細胞の不在下、マトリゲル(BD)コートディッシュ又はi-matrix(ニッキ)に播種した。マトリゲルは、霊長類ES培地で1:50に希釈した。MyoD-hiPSCをトリプシン処理し、単一の細胞に解離した。96ウェル培養プレート1ウェルに対する細胞数は3.0×10~1.0×10の範囲であった。培養液を、bFGFを有さず、10μM Y-27632(wako)を有するヒトiPS培地に変更した。24時間後、1μg/mLのドキシサイクリン(LKT Laboratories)を含むAK02NもしくはAK03(Ajinomoto)ヒトiPS培養液に添加した。Knockout Serum Replacement(KSR)(Invitrogen)、50mU/Lペニシリン/50μg/Lストレプトマイシン(Invitrogen)、1μg/mLのドキシサイクリン(LKT Laboratories)および100μM 2-メルカプトエタノール(2-ME)(Invitrogen)を添加したものに変更した。さらに5日後まで細胞培養を継続し骨格筋細胞へ分化誘導させた。これらの培養は、すべて37℃、5% CO、加湿雰囲気下でインキュベートすることで行った。この方法により、MHC陽性の細胞が得られ、骨格筋細胞への分化誘導が確認された。
【0025】
(4)オートファジーを指標としたLSD予防/治療薬のスクリーニング方法及び薬理評価
上記(3)で得られた疾患iPS細胞由来の骨格筋細胞に、それぞれ基剤(0.3% dimethylsulfoxide(DMSO))、スクリーニングの場合は終濃度3μMの各種化合物、薬理評価の場合は終濃度10,3,1,0.3,0.1,0.03,0.01,0.003μMのどちらかを加えて48時間インキュベートした。その後、細胞を回収し、オートファジーを検出できるKit、Cyto-ID autophagy detection kit(Enzo Life Science,Inc.,)を用いて細胞染色した。また、染色の方法は、Kit添付の方法に従った。細胞染色したプレートをArrayScan(Thermo Scientific)を用いて測定・解析した。評価に用いた指標として、細胞内のオートファジーの蛍光値と領域の2つを用い、散布図にて化合物の評価を実施した(図1)。その中でオートファジーの領域を減少させる一群がHMGCoA阻害剤群であり、その一つが、ロバスタチンであった。
【0026】
(5)LC3を指標としたLSD予防/治療薬の薬理評価法
HTSスクリーニングにより見出されたスタチン類の中で、代表的な化合物としてロバスタチンを評価した。上記(3)で得られた疾患iPS細胞由来の骨格筋細胞に、それぞれ基剤(0.3% dimethylsulfoxide(DMSO))、終濃度10,3,1,0.3μMのロバスタチンを加えて48時間インキュベートした。分化した細胞を、4%パラフォルムアルデヒド(wako)/PBSを用いて室温で10分間固定し、PBSで洗浄した後、PBS(ナカライテスク)に0.5% Triton X-100(Sigma-aldrich)を加えたものでpermeabilizationを室温で10分間行った。その後、PBSで洗浄し、Blocking one(ナカライテスク)を用いて4℃、30分間ブロッキングを行った後、再度PBSで洗浄した。一次抗体は、上記10% blocking one液中に、ウサギモノクローナル抗体(mAb)抗LC3B(1:200;Cellsignaling)を希釈して使用した。4℃、5時間細胞を反応させ、PBSで洗浄した。次いで、上記10% blocking one液中に、二次抗体としてAlexa fluor488結合抗ウサギIgGヤギ抗体(1:500;Invitrogen)および核染色用のHoechst33342(1:10000;Dojindo)をそれぞれ希釈したものを、室温で1時間反応させた。PBSにて洗浄した後、ArrayScan(Thermo Scientific)にて測定・解析した。その結果、オートファジーの代表的なマーカータンパク質であるLC3が健常者由来の筋細胞より、疾患由来の筋細胞では多く発現されていたが、ロバスタチン処置群では濃度依存的に減少することが確認できた(図2)。
【0027】
(6)LSD予防/治療薬の電子顕微鏡を用いた薬理評価
ロバスタチンの効果を電子顕微鏡によっても評価した。上記(3)で得られた疾患iPS細胞由来の骨格筋細胞に、それぞれ基剤(0.3% dimethylsulfoxide(DMSO))、終濃度10μMのロバスタチンを加えて48時間インキュベートした。その後、細胞を回収し、2%パラフォルムアルデヒドと2%のグルタルアルデヒドで30分間、固定した。PBSで3回洗浄後、サンプルを、PBS中の2%のオスミウムで4℃、1時間固定化した。次いで60℃で48時間重合化後、切片を切り出し、透過型電子顕微鏡(日本電子)にて観察した。その結果、ロバスタチン無処置群では、ポンペ病の病態であるグリコーゲン顆粒が多数蓄積したオートファジー空胞(図3 黒矢印)が観察されたが、ロバスタチン処置群ではオートファジー空胞が消失しており、より健常者由来の筋分化細胞と近い電子顕微鏡像が得られた(図4)。以上より、オートファジー機能の制御不全による細胞への影響について数多くの知見(Galluzzi et al.Nature Reviews Drug Discovery 16:487-511,2017およびParenti et al.Annual review of medicine 66:471-486,2015)を考慮すると、ロバスタチンはLSDにおけるライソゾーム機能不全と、それに伴うオートファジーの過剰蓄積の予防及び治療に有用であることが示唆された。
【0028】
実施例2:縁取り空胞をともなう遠位型ミオパチー(GNEミオパチー)患者から樹立したiPS細胞を用いた薬理評価
(1)GNEミオパチー患者由来の線維芽細胞
生検した4mmの皮膚を3週間の培養後、GNEミオパチー患者由来の線維芽細胞として用いた。
【0029】
(2)iPS細胞誘導
OCT3/4,SOX2,KLF4,L-Myc,LIN28に対するヒトcDNAと,shRNA-p53を、Okita K,et al,Nature Methods,2011に記載の方法に従って、エピゾーマルベクターを用いて前記線維芽細胞へ導入した。導入後6日目に、線維芽細胞をSNLフィーダー細胞上に移し、翌日に4ng/mlのbFGF(Wako)を添加した霊長類ES細胞用培養液へ培地を交換した。培地は、1日おきに交換し、遺伝子導入後30日目に、コロニーをピックアップした。
【0030】
(3)骨格筋細胞分化誘導
上記のGNEミオパチー患者由来iPS細胞に、テトラサイクリン応答性のMyoD発現ベクターを導入し(Tanaka et al.Plos One,2013)、筋分化良好なクローン(MyoD-hiPSC)を選別した。
MyoD-hiPSCを、フィーダー細胞の不在下、マトリゲル(BD)コートディッシュ又はi-matrix(ニッキ)に播種した。マトリゲルは、霊長類ES培地で1:50に希釈した。MyoD-hiPSCをトリプシン処理し、単一の細胞に解離した。96ウェル培養プレート1ウェルに対する細胞数は3.0×10~1.0×10の範囲であった。培養液を、bFGFを有さず、10μM Y-27632(wako)を有するヒトiPS培地に変更した。24時間後、1μg/mLのドキシサイクリン(LKT Laboratories)を含むAK02NもしくはAK03(Ajinomoto)ヒトiPS培養液に添加した。さらに24時間後、培養液を、α最小必須培地(αMEM)(ナカライテスク)に5% Knockout Serum Replacement(KSR)(Invitrogen)、50mU/Lペニシリン/50μg/Lストレプトマイシン(Invitrogen)、1μg/mLのドキシサイクリン(LKT Laboratories)および100μM 2-メルカプトエタノール(2-ME)(Invitrogen)を添加したものに変更した。さらに5日後まで細胞培養を継続し骨格筋細胞へ分化誘導させた。これらの培養は、すべて37℃、5% CO、加湿雰囲気下でインキュベートすることで行った。この方法により、MHC陽性の細胞が得られ、骨格筋細胞への分化誘導が確認された。
【0031】
(4)オートファジーを指標とした薬理評価
GNEミオパチーに対するロバスタチンを評価した。筋分化させた細胞に終濃度、10μMのロバスタチンを加え、48時間インキュベート後、オートファジー検出KitであるCyto-ID autophagy detection kit 2.0(Enzo Life Science,Inc.,)により評価した。染色の方法は、Kit添付の方法に従った。細胞染色したプレートはArrayScan(ThermoScientific)を用いて測定・解析した。その結果、ロバスタチン処置群のオートファジー蓄積の消失が確認された(図5)。
【0032】
(5)電子顕微鏡を用いた薬理評価
ロバスタチンの効果を電子顕微鏡によっても評価した。上記(3)で得られた疾患iPS細胞由来の骨格筋細胞に、それぞれ基剤(0.3% dimethylsulfoxide(DMSO))、終濃度10μMのロバスタチンを加えて48時間インキュベートした。その後、細胞を回収し、2%パラフォルムアルデヒドと2%のグルタルアルデヒドで30分間、固定した。PBSで3回洗浄後、サンプルを、PBS中の2%のオスミウムで4℃、1時間固定化した。次いで、60℃で48時間重合化後、切片を切り出し、透過型電子顕微鏡(日本電子)にて観察した。その結果、ロバスタチン無処置群では、凝集体が多数蓄積した小胞(図6上パネル 黒矢印)が観察されたが、ロバスタチン処置群ではその小胞が消失した(図6下パネル)。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、LSDに共通する病態でありながら、従来の酵素補充療法では介入できなかったオートファジーの機能不全を改善することができるので、オートファジーの機能不全による毒性物質の蓄積による細胞の損傷/ストレスや、ミトコンドリアの機能不全等による細胞死が抑制され、生命予後の改善のみならず、骨格筋症状や中枢神経症状の改善も期待できる点で極めて有用である。
【0034】
本出願は、2018年2月6日付で日本国に出願された特願2018-019698を基礎としており、ここで言及することにより、その内容はすべて本明細書に包含されるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6