(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】立体編地の製造方法
(51)【国際特許分類】
D04B 21/14 20060101AFI20231016BHJP
D04B 21/16 20060101ALI20231016BHJP
D01F 8/14 20060101ALI20231016BHJP
D06C 7/02 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
D04B21/14 Z
D04B21/16
D01F8/14 B
D06C7/02
(21)【出願番号】P 2022058150
(22)【出願日】2022-03-31
【審査請求日】2022-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】393022632
【氏名又は名称】富士レース産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100173462
【氏名又は名称】宮本 一浩
(74)【代理人】
【識別番号】100180334
【氏名又は名称】山本 洋美
(74)【代理人】
【識別番号】100194179
【氏名又は名称】中澤 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】山口 秀樹
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-076181(JP,A)
【文献】国際公開第03/038173(WO,A1)
【文献】特開平07-292547(JP,A)
【文献】国際公開第96/037648(WO,A1)
【文献】特開2011-234647(JP,A)
【文献】特開2020-012221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B 1/00 - 1/28
D04B 21/00 - 21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表編地と、裏編地と、前記表編地と前記裏編地とを連結する連結糸とを備え、前記連結糸は、モノフィラメント糸と熱融着性を有する
マルチフィラメント糸とを備える、
立体編地を編成する編成工程と、
前記立体編地を加熱し、前記
マルチフィラメント糸
を融着させる熱工程と、
を備え
、
前記マルチフィラメント糸は、マルチフィラメントであるポリエステルフィラメント糸を複数用いて撚糸されており、
前記ポリエステルフィラメント糸のそれぞれのフィラメントは芯部と鞘部を有し、前記熱工程は、複数の前記フィラメントの鞘部を加熱した後で冷却し、互いに融着させる工程であり、前記熱工程は、前記フィラメントを互いに融着させ、熱融着モノフィラメント糸を形成する工程から構成される立体編地の製造方法。
【請求項2】
前記編成工程では、前記立体編地の巾方向で、位置に応じて異なる太さの前記
マルチフィラメント糸を編成
し、前記熱工程では、前記マルチフィラメント糸を加熱することにより、編成された部分の硬さを位置に応じて変える、
請求項
1に記載
の立体編地の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体編地の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダブルラッセル機で編成され、表編地と裏編地とを連結糸で連結した構成の立体編地が知られている(特許文献1)。立体編地は、連結糸及び編地によって、クッション性、通気性、体圧分散性、伸縮性、及び耐久性等を調整し、各種クッション材用途に使用することができる。
【0003】
厚み方向が硬い編地を編成するためには、太いモノフィラメントを連結糸に使用することが考えられる。しかし、フィラメントが太くなると、フィラメントが硬くなり、立体編地を編成する際に、編機、特に、ダブルラッセル機のニードルに大きな負担がかかるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、編機に大きな負担をかけることなく製造することが可能な、硬く編成された立体編地の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係る立体編地の製造方法は、
表編地と、裏編地と、前記表編地と前記裏編地とを連結する連結糸とを備え、前記連結糸は、モノフィラメント糸と熱融着性を有するマルチフィラメント糸とを備える、立体編地を編成する編成工程と、
前記立体編地を加熱し、前記マルチルフィラメント糸を融着させる熱工程と、を備え、
前記マルチフィラメント糸は、マルチフィラメントであるポリエステルフィラメント糸を複数用いて撚糸されており、
前記ポリエステルフィラメント糸のそれぞれのフィラメントは芯部と鞘部を有し、前記熱工程は、複数の前記フィラメントの鞘部を加熱した後で冷却し、互いに融着させる工程であり、前記熱工程は、前記フィラメントを互いに融着させ、熱融着モノフィラメント糸を形成する工程から構成される。
【0016】
例えば、前記編成工程は、前記立体編地の巾方向で、位置に応じて異なる太さの前記マルチフィラメント糸を編成し、前記熱工程では、前記マルチフィラメント糸を加熱することにより、編成された部分の硬さを位置に応じて変える。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る立体編地の製造方法によれば、連結糸は、ポリエステルフィラメント糸を含み、ポリエステルフィラメント糸は相互に融着している。相互に融着することにより、連結糸の強度・剛性が高まり、厚み方向に硬い編地を提供することが可能となる。一方、編成時には、柔軟なポリエステルフィラメント糸を用いて編成し、その後熱処理を施すことにより融着させるという製造工程を採用することが可能となり、編み機への負荷を抑えることができる。
【0018】
また、本発明に係る立体編地の製造方法では、柔軟なポリエステルフィラメント糸を用いて編成し、その後熱処理を施して、ポリエステルフィラメント糸を相互に融着させることにより、編み機への負荷を抑えつつ、厚さ方向に硬い立体編地を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施の形態に係る立体編地の断面図である。
【
図2】
図1に示すポリエステルフィラメント糸の芯鞘構造の斜視図である。
【
図3】2本のポリエステルフィラメント糸を撚糸した例を示す図である。
【
図5】(A)~(C)は、場所に応じて、ポリエステルフィラメント糸の太さ及び配置の有無などを調整する例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(実施の形態)
以下に、本発明の実施の形態に係る立体編地とその製造方法を、図面を参照しつつ説明する。
(立体編地)
図1に示すように、本実施の形態に係る立体編地11は、表編地12と、裏編地13と、表編地12と裏編地13とを繋ぐ連結糸14とを含む。
【0021】
表編地12と裏編地13の組織は、任意の構成、例えば、メッシュ編みの構成を有する。
【0022】
連結糸14は、モノフィラメント糸15とポリエステルフィラメント糸16とを含む。
【0023】
モノフィラメント糸15は、他のフィラメントと融着していない単一の繊維から構成される。
【0024】
ポリエステルフィラメント糸16は、
図2に示すように、芯部21と芯部21を覆う鞘部22を有する芯鞘構造23を有するマルチフィラメントである。複数のポリエステルフィラメント糸16は、
図3に例示するように、撚糸されている。なお、
図3では、2本のポリエステルフィラメント糸16が撚糸される例を示す、撚糸されるフィラメント糸の数は任意である。
【0025】
芯鞘構造23を有するポリエステルフィラメント糸16の鞘部22は硬化済の熱融着性樹脂から構成され、複数のポリエステルフィラメント糸16の鞘部22は互いに融着している。このため、複数のポリエステルフィラメント糸16が一体となって、あたかも、1つのモノフィラメント糸(熱融着モノフィラメント糸)として機能する。なお、鞘部22の硬化の程度は100%の硬化度に限定されない。
【0026】
ポリエステルフィラメント糸16の芯部21の素材は、例えば、レギュラーポリエステル、熱融着性を有する鞘部22の素材は芯部21より低融点の、熱融着性樹脂、例えば、ポリエステルである。
【0027】
(編成方法)
次に、
図1及び
図2に示す立体編地11の編成方法を説明する。
この編成方法は、表編地12、裏編地13及び連結糸14をダブルラッセル機により編成する編成工程と、編成された立体編地をヒートセッター等により、立体編地を熱処理する熱工程とから構成される。
【0028】
(編成工程)
まず、ダブルラッセル機により、表編地と裏編地と連結糸とを有する立体編地を編成する。具体的には、例えば、
図4に例示するように、ダブルラッセル機のニードルから、筬1、2に表編地12用のフィラメントを渡して表編地12を編成し、筬5、6に裏編地13用のフィラメントを渡して裏編地13を編成し、筬3、4に連結糸14用のフィラメントを渡して連結糸14を編成する。
【0029】
ここで、前述のように。連結糸14は、モノフィラメント糸15と
図2に示す芯鞘構造23を有するポリエステルフィラメント糸16との2種類を含む。ポリエステルフィラメント糸16は予め撚糸されている。ポリエステルフィラメント糸16の芯部21の素材は、例えば、レギュラーポリエステルであり、鞘部22の素材は芯部21より低融点の熱融着性を有する素材、例えば、ポリエステルである。ポリエステルフィラメント糸16は、マルチフィラメントである。
【0030】
例えば、筬3に連結糸14のモノフィラメント糸15を配し、筬4に連結糸14のポリエステルフィラメント糸16を配して、連結糸14を編成する。
【0031】
編成された立体編地では、連結糸14のポリエステルフィラメント糸16はマルチフィラメントのままであり、ポリエステルフィラメント糸16同士は融着していない。ただし、
図3に例示するように、予め撚糸されている。
【0032】
編成段階では、連結糸14を構成するモノフィラメント糸15とポリエステルフィラメント糸16は、いずれも柔軟であるため、編機、すなわち、ダブルラッセル機のニードルには過度な負荷はかからない。
【0033】
(熱工程)
編成された立体編地を加熱し、ポリエステルフィラメント糸16の鞘部22を溶融させ、相互に融着させた後、冷却する。
【0034】
具体的には、例えば、ヒートセッター等を用いて、乾熱セットを行い、立体編地全体を乾熱温度Tまで加熱し、乾熱温度Tを所定時間維持した後、自然冷却又は強制冷却する。乾熱温度Tは、ポリエステルフィラメント糸16の鞘部22の融点をT22、ポリエステルフィラメント糸16の芯部21の融点をT21、モノフィラメント糸15の融点をT15とすると、次の関係を満たす。
T15,T21>T>T22
すなわち、乾熱温度Tは、ポリエステルフィラメント糸16の相対低融点の鞘部22は溶融するが、ポリエステルフィラメント糸16の芯部21とモノフィラメント糸15は溶融しない温度である。
【0035】
この熱工程により、鞘部22を構成する融点T22のポリエステルは少なくとも部分的に溶融し、相互に融着する。これにより、複数のポリエステルフィラメント糸16が一体化して、あたかも太くて硬いモノフィラメントのように機能する熱融着モノフィラメント糸が形成される。
【0036】
以上で、本実施の形態に係る立体編地11が完成する。
【0037】
(立体編地11が有する効果)
本実施の形態の立体編地11では、熱処理により、芯鞘構造23を有するポリエステルフィラメント糸16のフィラメント同士が鞘部22で融着し、太い熱融着モノフィラメント糸となっている。このため、表編地と裏編地とが非熱融着性のモノフィラメント糸のみによって連結されている場合、及び、ポリエステルフィラメント糸16が熱処理されていない場合に比べ、連結糸14をより硬くできる。このため、本実施の形態の立体編地11は、従来の立体編地よりもより硬くすることができる。
【0038】
一方で、編成段階では、ポリエステルフィラメント糸16は融着も硬化もしておらず、柔軟である。このため、編機、特に、ダブルラッセル機のニードルにかかる負荷を小さく抑えることができる。
【0039】
連結糸14のポリエステルフィラメント糸16間に空隙がある場合、熱処理したとしても鞘部22が互いに融着せず、太い熱融着モノフィラメントが形成されない恐れがある。これに対し、本実施の形態では、
図3に例示するように、ポリエステルフィラメント糸16が予め撚糸され、フィラメント糸同士が接触しかつフィラメント間の空隙が小さい状態に調整されている。このため、熱処理によって、ポリエステルフィラメント糸16が相互に融着し、さらに、鞘部22が硬化することにより、太く硬い熱融着モノフィラメント糸を形成することができる。これにより、撚糸しなかった場合に比べ、立体編地11に硬さを与えることができる。
【0040】
(応用例)
なお、モノフィラメント糸15の太さは一定で、ポリエステルフィラメント糸16の太さはフィラメント間で異なってもよい。例えば、モノフィラメント糸15については全体を一定の太さの糸で編成し、ポリエステルフィラメント糸16については、部分毎に異なる太さの糸で編成しても良い。
【0041】
また、立体編地11の巾方向においてポリエステルフィラメント糸16を編み込む部分と編み込まない部分とを組み合わせてもよい。
【0042】
具体例を
図5を参照して説明する。
例えば、
図5(A)に例示するように、筬3に一定の太さのモノフィラメント糸15を渡し、筬4にポリエステルフィラメント糸16の太い糸と細い糸を部分ごとに配して編み込むことにより、部分により硬さが異なる編地が得られる。この場合、ポリエステルフィラメント糸16の太い糸が編み込まれている部分の硬さが、ポリエステルフィラメント糸16の細い糸が編み込まれている部分の硬さよりも、大きくなる。
【0043】
また、例えば、
図5(B)に例示するように、筬3に一定の太さのモノフィラメント糸15を渡し、筬4にポリエステルフィラメント糸16を部分的に配して、ポリエステルフィラメント糸16の太い糸を編み込む部分と編み込まない部分作ることにより、硬さが部分によって異なる編地が得られる。この場合、ポリエステルフィラメント糸16の太い糸が編み込まれている部分の硬さが、ポリエステルフィラメント糸16が編み込まれていない部分の硬さよりも、大きくなる。
【0044】
さらに、例えば、
図5(C)に例示するように、(A)と(B)を組みあわせて、筬3に一定の太さのモノフィラメント糸15を渡し、筬4にポリエステルフィラメント糸16の太い糸を配す部分と、細い糸を配す部分と、糸を配さない部分とを設け、さらに、配す糸の割合や位置のサイズを変化させることにより、部分別に様々な硬さを有する編地が得られる。
図5(C)の例では、i)モノフィラメント糸15とポリエステルフィラメント糸16の太い糸が編み込まれているA部の硬さが一番大きく、ii)ポリエステルフィラメント糸16が編み込まれていないD部の硬さが一番小さい。
B部、C部、E部については、ポリエステルフィラメント糸16の太い糸の割合が高いB部、E部、C部の順に硬さが小さくなる。ポリエステルフィラメント糸16の太い糸と細い有無、割合の組み合わせで、複数の編地の間で及び1つの編地の中で硬さを様々に表現できる。これにより、立体編地11の厚さを変えずに、場所によって硬さを調整することができる。
【0045】
なお、表編地、裏編地及び連結糸の編組織、熱融着性芯鞘構造ポリエステルフィラメント糸の撚糸形状及び厚さ等は上述したものに限られない。
【0046】
(実施例)
ダブルラッセル機(カールマイヤー製)にて、編巾145cm、長さ10mの立体編地を編成した。熱処理前の立体編地の厚さは約14mmで熱処理後の厚さは約11mmであった。表編地及び裏編地はメッシュ編みとした。
【0047】
図4に示すように、筬1、2で表編地を編成し、筬5、6で裏編地を編成し、筬3、4で連結糸により表裏の編地を連結する。
【0048】
(連結糸)
連結糸は、モノフィラメント糸と熱融着性芯鞘構造ポリエステルフィラメント糸との2種類を含む。筬3に330dt/1fのナイロンモノフィラメント糸(ユニプラステック製)を配し、筬4に167dt/48fの熱融着性芯鞘構造ポリエステルフィラメント糸(KBセーレン「ベルカップル」)を配した。
【0049】
熱融着性芯鞘構造ポリエステルフィラメント糸はマルチフィラメントで、予め撚糸した。具体的には、下撚された2本の熱融着性芯鞘構造ポリエステルフィラメント糸を引き揃えて上撚を行い、2本諸の糸とした。
【0050】
ダブルラッセル機による立体編地の編成後、この立体編地をヒートセッターにて乾熱セットにより、190度で2分間維持した。これにより、撚糸された熱融着性芯鞘構造ポリエステルフィラメント糸はその鞘部において互いに融着して1本の熱融着モノフィラメント糸となった。
【0051】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形(応用)が、この発明の範囲内とみなされる。
【符号の説明】
【0052】
11 立体編地
12 表編地
13 裏編地
14 連結糸
15 モノフィラメント糸
16 ポリエステルフィラメント糸
21 芯部
22 鞘部
23 芯鞘構造