(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】リードフレーム材およびその製造方法、ならびにリードフレーム材を用いた半導体パッケージ
(51)【国際特許分類】
H01L 23/50 20060101AFI20231016BHJP
C25D 5/10 20060101ALI20231016BHJP
C25D 5/16 20060101ALI20231016BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20231016BHJP
C25D 5/12 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
H01L23/50 V
C25D5/10
C25D5/16
C25D7/00 G
C25D5/12
(21)【出願番号】P 2023534982
(86)(22)【出願日】2023-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2023007031
【審査請求日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2022062297
(32)【優先日】2022-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592181602
【氏名又は名称】古河精密金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】葛原 颯己
(72)【発明者】
【氏名】橋本 真
(72)【発明者】
【氏名】大内 一博
【審査官】井上 和俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-226435(JP,A)
【文献】国際公開第2015/029211(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/012297(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/044822(WO,A1)
【文献】特開2014-189856(JP,A)
【文献】特開2019-112707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/50
C25D 5/10
C25D 5/16
C25D 7/00
C25D 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基体と、前記導電性基体の表面の少なくとも一部に形成される表面被膜と、を有するリードフレーム材であって、
前記表面被膜は粗化層を含み、
前記表面被膜の表面について、前記導電性基体の圧延方向に対して直交する方向である圧延直角方向(x方向)に沿って第1最大高さ粗さRzxと第1粗さ曲線要素の平均長さRSmxをそれぞれ測定するとともに、
前記導電性基体の圧延方向と平行な方向である圧延平行方向(y方向)に沿って第2最大高さ粗さRzyと第2粗さ曲線要素の平均長さRSmyをそれぞれ測定し、
前記第1粗さ曲線要素の平均長さRSmxに対する第1最大高さ粗さRzxの比Rzx/RSmxをX、前記第2粗さ曲線要素の平均長さRSmyに対する第2最大高さ粗さRzyの比Rzy/RSmyをYとするとき、
前記Yに対する前記Xの比X/Yが1.20以上2.00以下の範囲である、リードフレーム材。
【請求項2】
前記Xが0.10以上0.50以下であり、かつ、前記Yが0.07以上0.40以下である、請求項1に記載のリードフレーム材。
【請求項3】
前記第1最大高さ粗さRzxおよび前記第2最大高さ粗さRzyは、いずれも2.0μm以上9.0μm以下の範囲である、請求項1に記載のリードフレーム材。
【請求項4】
前記導電性基体は、銅、鉄もしくはアルミニウム、または前記銅、鉄およびアルミニウムの群から選択される少なくとも1種の元素を含む合金からなる、請求項1に記載のリードフレーム材。
【請求項5】
前記粗化層は、銅もしくはニッケル、または前記銅およびニッケルの群から選択される少なくとも1種の元素を含む合金からなる、請求項1に記載のリードフレーム材。
【請求項6】
前記粗化層が、電気めっき層である、請求項1に記載のリードフレーム材。
【請求項7】
前記表面被膜は、前記粗化層の表面に形成される少なくとも1層の表面被覆層をさらに有する、請求項1に記載のリードフレーム材。
【請求項8】
前記表面被覆層は、前記粗化層とは異なる組成を有する、少なくとも1層以上の金属または合金からなる層であって、銅、ニッケル、コバルト、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、白金、イリジウム、金、銀、スズもしくはインジウム、または前記銅、ニッケル、コバルト、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、白金、イリジウム、金、銀、スズおよびインジウムの群から選択される少なくとも1種の元素を含む合金からなる、請求項7に記載のリードフレーム材。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のリードフレーム材の製造方法であって、
電気めっきにより前記粗化層を形成する粗化工程を有する、リードフレーム材の製造方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載のリードフレーム材を用いて形成したリードフレームを有する、半導体パッケージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リードフレーム材およびその製造方法、ならびにリードフレーム材を用いた半導体パッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂封止型半導体装置は、ワイヤなどによって互いに電気的に接続された半導体素子とリードフレームとがモールド樹脂で封止されてなるものである。このような樹脂封止型半導体装置において、リードフレームは接合性、耐熱性、封止性などの機能付与のため、Au、Ag、Snなどの外装めっきが施されることが主流である。
【0003】
近年では、組み付け工程の簡略化およびコストダウンのために、リードフレームをはんだなどでプリント基板に実装することを考慮して、はんだとの濡れ性を高めるような仕様のめっき(たとえば、Ni(下層)/Pd(中間層)/Au(上層))を施しているリードフレーム(Pre-Plated Leadframe、以下PPFと略記する)が採用され始めている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
それ以外には、樹脂封止型半導体装置におけるリードフレームとモールド樹脂との密着性を高めるために、リードフレームのめっき表面を粗化する技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
これらのめっき表面を粗化する技術は、リードフレームのめっき表面を粗化することによって、(1)リードフレームにおけるモールド樹脂との接着面積が大きくなる効果、および(2)モールド樹脂が粗化されためっき膜の凹凸に食いつきやすくなる効果(つまり、アンカー効果)などを期待するものである。
【0006】
これらの効果は、リードフレームのモールド樹脂への密着性を向上させ、リードフレームとモールド樹脂との間の剥離を防止することを可能とし、樹脂封止型半導体装置の信頼性向上に寄与している。
【0007】
また、特許文献3では、めっき表面の粗面化において粗化粒子の幅を制御することにより、近年要求されるより過酷な使用環境、高信頼性の水準においてもモールド樹脂との密着性に優れるリードフレーム材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第2543619号公報
【文献】特許第3228789号公報
【文献】特許第6479265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これらの形状による粗化めっきは、確かに樹脂密着性を向上させることができた。しかしながら、近年要求される小型低背化において、例えば、リードフレームの曲げ加工を伴うような半導体パッケージの組立て時に、リードフレームに形成した粗化層の一部が脱離する(所謂粉落ちと呼ばれる現象)が発生し、パッケージ内部に脱離した粉が残留したり、モールド樹脂との密着性が低下したりして不良の原因となるケースが散見されることが分かった。これは、より小型なQFN(Quad Flat Non-Leaded Package)タイプ及びSOP(Small Outline Package)タイプなどのパッケージが多く用いられるようになり、粗化層に対する曲げ加工性の要求レベルが高くなってきたためと考えられる。特に導電性基体の圧延方向(リードフレーム材の長手方向)に対し直角方向の曲げ加工において脱離が顕著になる。このように、未だに改善の余地があることが分かった。
【0010】
一方で、曲げ加工性を向上させるため、粗化めっきを省くと、高信頼性の水準、例えば温度85℃、湿度85%の環境下で168時間後において、モールド樹脂とリードフレームとの密着性が不十分となる。
【0011】
本発明は、高温及び高湿環境における樹脂密着性を改善でき、かつ、加工時に粉落ちを防止できる好適なリードフレーム材およびその製造方法、ならびにリードフレーム材を用いた半導体パッケージを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記従来の問題点に対して鋭意研究開発を進めた結果、本発明者らは、表面被膜の最大高さ粗さRzと粗さ曲線要素の平均長さRSmの比を、圧延直角方向(x方向)と圧延平行方向(y方向)とで制御すること、より具体的には、表面被膜の表面について、導電性基体の圧延方向に対して直交する方向である圧延直角方向(x方向)に沿って第1最大高さ粗さRzxと第1粗さ曲線要素の平均長さRSmxをそれぞれ測定するとともに、導電性基体の圧延方向と平行な方向である圧延平行方向(y方向)に沿って第2最大高さ粗さRzyと第2粗さ曲線要素の平均長さRSmyをそれぞれ測定し、第1粗さ曲線要素の平均長さRSmxに対する最大高さ粗さRzxの比Rzx/RSmxをX、第2粗さ曲線要素の平均長さRSmyに対する最大高さ粗さRzyの比Rzy/RSmyをYとするとき、Yに対するXの比X/Yを1.20以上2.00以下の範囲とすることによって、曲げ加工時における粗化層の脱離が抑制されることを確認し、その結果、樹脂密着性が高く、曲げ加工性に優れたリードフレーム材を得ることに成功した。本発明はこの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0013】
すなわち、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
(1)導電性基体と、前記導電性基体の表面の少なくとも一部に形成される表面被膜と、を有するリードフレーム材であって、前記表面被膜は粗化層を含み、前記表面被膜の表面について、前記導電性基体の圧延方向に対して直交する方向である圧延直角方向(x方向)に沿って第1最大高さ粗さRzxと第1粗さ曲線要素の平均長さRSmxをそれぞれ測定するとともに、前記導電性基体の圧延方向と平行な方向である圧延平行方向(y方向)に沿って第2最大高さ粗さRzyと第2粗さ曲線要素の平均長さRSmyをそれぞれ測定し、前記第1粗さ曲線要素の平均長さRSmxに対する第1最大高さ粗さRzxの比Rzx/RSmxをX、前記第2粗さ曲線要素の平均長さRSmyに対する第2最大高さ粗さRzyの比Rzy/RSmyをYとするとき、前記Yに対する前記Xの比X/Yが1.20以上2.00以下の範囲である、リードフレーム材。
【0014】
(2)前記Xが0.10以上0.50以下であり、かつ、前記Yが0.07以上0.40以下である、上記(1)に記載のリードフレーム材。
【0015】
(3)前記第1最大高さ粗さRzxおよび前記第2最大高さ粗さRzyは、いずれも2.0μm以上9.0μm以下の範囲である、上記(1)または(2)に記載のリードフレーム材。
【0016】
(4)前記導電性基体は、銅、鉄もしくはアルミニウム、または前記銅、鉄およびアルミニウムの群から選択される少なくとも1種の元素を含む合金からなる、上記(1)~(3)のいずれかに記載のリードフレーム材。
【0017】
(5)前記粗化層は、銅もしくはニッケル、または前記銅およびニッケルの群から選択される少なくとも1種の元素を含む合金からなる、上記(1)~(4)のいずれかに記載のリードフレーム材。
【0018】
(6)前記粗化層が、電気めっき層である、上記(1)~(5)のいずれか1項に記載のリードフレーム材。
【0019】
(7)前記表面被膜は、前記粗化層の表面に形成される少なくとも1層の表面被覆層をさらに有する、上記(1)~(6)のいずれかに記載のリードフレーム材。
【0020】
(8)前記表面被覆層は、前記粗化層とは異なる組成を有する、少なくとも1層以上の金属または合金からなる層であって、銅、ニッケル、コバルト、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、白金、イリジウム、金、銀、スズもしくはインジウム、または前記銅、ニッケル、コバルト、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、白金、イリジウム、金、銀、スズおよびインジウムの群から選択される少なくとも1種の元素を含む合金からなる、上記(7)に記載のリードフレーム材。
【0021】
(9)上記(1)~(8)のいずれか1項に記載のリードフレーム材の製造方法であって、電気めっきにより前記粗化層を形成する粗化工程を有する、リードフレーム材の製造方法。
【0022】
(10)上記(1)~(8)のいずれか1項に記載のリードフレーム材を用いて形成したリードフレームを有する、半導体パッケージ。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、高温及び高湿環境における樹脂密着性を改善でき、かつ、加工時に粉落ちを防止できる好適なリードフレーム材およびその製造方法、ならびにリードフレーム材を用いた半導体パッケージを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係るリードフレーム材を圧延直角方向(x方向)に沿って切断したときの切断面(横断面)を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態に係るリードフレーム材を圧延平行方向(y方向)に沿って切断したときの切断面(縦断面)を示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、第2の実施形態に係るリードフレーム材を圧延直角方向(x方向)に沿って切断したときの切断面(横断面)を示す概略断面図である。
【
図4】
図4は、第2の実施形態に係るリードフレーム材を圧延平行方向(y方向)に沿って切断したときの切断面(縦断面)を示す概略断面図である。
【
図5】
図5は、本発明に従うリードフレーム材の製造方法の粗化工程を行う際に用いる電気めっき装置の概略構成を示す図である。
【
図6】
図6は、シェア強度の測定試験を行うために作製した試験片(リードフレーム材の表面にモールド樹脂片を密着させたもの。)を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明のリードフレーム材の好ましい実施形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0026】
<第1の実施形態>
〔リードフレーム材〕
図1は、本発明に従う第1の実施形態に係るリードフレーム材を圧延直角方向(リードフレーム材の幅方向:x方向)で切断したときの切断面(横断面)を示す概略断面図であり、
図2は、第1の実施形態に係るリードフレーム材を圧延平行方向(y方向)に沿って切断したときの切断面(縦断面)を示す概略断面図である。第1の実施形態に係るリードフレーム材10は、
図1に示すように、導電性基体11と、導電性基体11の表面の少なくとも一部に形成される表面被膜14とを有する。
【0027】
導電性基体11の材料は、特に限定されず、用途または求められる特性に応じて、銅、鉄もしくはアルミニウム、または銅、鉄およびアルミニウムの群から選択される少なくとも1種の元素を含む合金からなる材料などを適宜選択することが可能である。導電性基体11の材料の例として、純銅(無酸素銅(OFC):C1020またはタフピッチ銅(TPC):C1100など)の他、Cooper Development Association(CDA)掲載合金である、C18045(Cu-0.3質量%Cr-0.25質量%Sn-0.52質量%Zn)、C14415(Cu-2.3質量%Fe-0.03質量%P-0.15質量%Zn)、またはFe-Ni系合金である42アロイなどが挙げられる。
【0028】
表面被膜14は、粗化層12を含む。粗化層12は、導電性基体11の表面に粗化粒子が付着することによって形成される。粗化層12は、銅もしくはニッケル、または前記銅およびニッケルの群から選択される少なくとも1種の元素を含む合金からなることが好ましい。また粗化層12は、例えば、電気めっき、Focused Ion Beam(FIB)、または機械研磨により形成することができる。この中でも特に、粗化層12は、電気めっきにより、電気めっき層として形成されることが好ましい。
【0029】
粗化層12の平均厚さは、0.5~10.0μmであることが好ましく、0.8~7.8μmであることがより好ましい。粗化層12の平均厚さを算出する方法の一例としては、例えば、リードフレーム材の断面をミクロトーム加工し、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて20000倍の倍率で観察した。粗化層の断面SEM画像の中から無作為に10個の粗化粒子を選択し、導電性基体11と粗化層12の境界線から、粗化粒子の頂点までの厚さの平均値を粗化層12の平均厚さとした。1つの断面SEM画像から10個の粗化粒子の頂点を観察することができない場合には、撮影箇所の異なる断面SEM画像を2~3枚用いて、粗化層12の平均厚さを求めた。
【0030】
本実施形態に係るリードフレーム材10は、表面被膜14の表面について、導電性基体11の圧延方向に対して直交する方向である圧延直角方向(
図1に示すx方向)に沿って第1最大高さ粗さRzxと第1粗さ曲線要素の平均長さRSmxとをそれぞれ測定するとともに、導電性基体11の圧延方向と平行な方向である圧延平行方向(
図1に示すy方向)に沿って第2最大高さ粗さRzyと第2粗さ曲線要素の平均長さRSmyとをそれぞれ測定し、第1粗さ曲線要素の平均長さRSmxに対する第1最大高さ粗さRzxの比Rzx/RSmxをX、第2粗さ曲線要素の平均長さRSmyに対する第2最大高さ粗さRzyの比Rzy/RSmyをYとするとき、Yに対するXの比X/Yが1.20以上2.00以下の範囲である。
【0031】
ここで導電性基体11の圧延方向は、圧延平行方向、またはRolling Direction(RD)とも言い、圧延ロールによって、圧延された導電性基体11の圧延(延伸)方向を指している。なお、導電性基体11の圧延方向は、材料となった金属の切り出し方向や切り出しサイズ等にも依るが、通常は材料となった金属の長手方向に相当する。一方、圧延直角方向とは、導電性基体11の幅方向、またはTransverse Direction(TD)とも言い、導電性基体11の圧延面内における、圧延平行方向に対して直角な方向を指す。なお、本発明でいう圧延直角方向は、導電性基体11の圧延面に対して垂直な方向、すなわち、導電性基体11の厚さ方向、圧延面垂直方向、またはNormal Direction(ND)、と区別されるものである。
【0032】
これまで、粗化粒子の幅と高さ、あるいはアスペクト比(高さと幅の比)を調整することによって、モールド樹脂との密着性を向上させることが提案されていたが、本発明者らは、曲げ時の粗化層12の脱離抑制には、粗化粒子と粗化粒子の間隔と粗化粒子の高さが重要であると考え、鋭意検討を行った。その結果、粗化粒子同士の配設間隔が狭く、また、粗化粒子の高さが高くなるほど、曲げた際に粗化粒子同士が接触しやすくなって、導電性基体11から粗化粒子が脱離する傾向があることが判明した。さらに、粗化粒子と粗化粒子の間隔と粗化粒子の高さは、粗化層12が形成される導電性基体の表面状態、即ち導電性基体の表面の凹凸の間隔と高さの影響を受ける。本発明では、圧延によって導電性基体の表面は、圧延平行方向には平滑になり、一方、圧延直角方向には細かい凹凸が形成される。その結果、圧延平行方向では、粗化粒子の間隔を広く設けられやすく、粗化粒子が脱離しにくくなることが判明した。
【0033】
粗さ曲線要素の平均長さRSmは、JIS B0601:2013で定義されたものであり、形状解析レーザ顕微鏡などを用いて測定することが可能である。表面の粗さの要素の平均長さRSmは、凹凸の一周期の長さを示すパラメータであり、粗化粒子の幅と、粗化粒子同士の間隔とを足し合わせたパラメータとなる。表面の粗さ曲線要素の平均長さRSmは、リードフレーム材10の表面の測定方向によって異なる数値となる。最大の第1粗さ曲線要素の平均長さRSmxとなるときの測定方向(x方向)では、
図1に示すように、粗化層12の粗化粒子の横断面積が小さくなり、粗化粒子の幅寸法が小さくなる。一方、最小の第2粗さ曲線要素の平均長さRSmyとなるときの測定方向(y方向)では、
図2に示すように、粗化層12の粗化粒子の縦断面積が大きくなり、粗化粒子の幅寸法が大きくなる。
【0034】
輪郭曲線の最大高さ粗さRzは、JIS B0601:2013に定義されたものであり、形状解析レーザ顕微鏡などを用いて測定することが可能である。最大高さ粗さRzは、輪郭曲線の山高さZpの最大値と輪郭曲線の谷深さZvの最大値との和でも表すことができる。
【0035】
本実施形態に係るリードフレーム材10は、圧延直角方向および圧延平行方向において、それぞれ測定した最大高さ粗さRzと粗さ曲線要素の平均長さRSmの比を取ることにより、樹脂密着性と曲げ加工性の双方への寄与を示すパラメータとしたものである。
【0036】
表面被膜14において、圧延直角方向に測定した、第1粗さ曲線要素の平均長さRSmxに対する第1最大高さ粗さRzxの比Rzx/RSmxをXとし、圧延平行方向に測定した、第2粗さ曲線要素の平均長さRSmyに対する第2最大高さ粗さRzyの比Rzy/RSmyをYとするとき、X/Y比を1.20以上2.00以下に制御することで、粗化粒子が圧延平行方向に扁平な形状かつ、圧延直角方向の粗化粒子同士の間隔が広い形状となり、圧延直角方向に曲げ加工をした際に粗化層の脱離が抑制される。一方で、X/Y比が1.20未満となると粗化粒子同士の間隔が広くなりすぎて、モールド樹脂との密着性が低下する虞があり、X/Y比が2.00を超えると粗化粒子同士の間隔が狭まり、曲げ加工を行った際に、粗化粒子同士が接触し、脱離が発生する虞がある。
【0037】
第1粗さ曲線要素の平均長さRSmxは、10.0~30.0μmであることが好ましく、12.0~20.0μmであることがより好ましい。第1粗さ曲線要素の平均長さRSmxを上記の数値範囲内とすることで、粗化粒子同士の間隔が広くなり、粗化層12の曲げ加工性を向上させることができる。
【0038】
第2粗さ曲線要素の平均長さRSmyは、15.0~35.0μmであることが好ましく、18.0~28.0μmであることがより好ましい。第2粗さ曲線要素の平均長さRSmyを上記の数値範囲内とすることで、粗化粒子が圧延平行方向に扁平な形状となり、粗化層12の曲げ加工性を向上することに加え、樹脂密着性を向上させることができる。
【0039】
表面被膜14の圧延直角方向に測定した第1最大高さ粗さRzxおよび、圧延平行方向に測定した第2最大高さ粗さRzyのいずれも2.0~9.0μmであることが好ましい。圧延直角方向に測定した第1最大高さ粗さRzxおよび圧延平行方向に測定した第2最大高さ粗さRzyをいずれも2.0~9.0μmとすることにより、樹脂密着性が良好となる。2.0μm以上とすることで、アンカー効果が十分に発揮され、樹脂密着性が向上する。一方、9.0μm以下とすることで、粗化粒子の根元の強度が向上し、樹脂形成時に粗化粒子が折れ難く、樹脂密着性の向上に寄与する。
【0040】
上記X(Rzx/RSmx)が0.10~0.50であり、かつ、上記Y(Rzy/RSmy)が0.07~0.40であることが好ましい。XおよびYを上記の数値範囲とすることで粗化粒子のアスペクト比と粗化粒子同士の間隔が良好となり、曲げ加工時、特に内曲げにおいて、粗化粒子同士の接触が抑制されることから、粗化層12の脱離が抑制される。
【0041】
<第2の実施形態>
図3は、本発明の第2の実施形態に係るリードフレーム材を圧延直角方向(リードフレーム材の幅方向)で切断したときの切断面(横断面)を示す概略断面図であり、
図4は、第2の実施形態に係るリードフレーム材を圧延平行方向(y方向)に沿って切断したときの切断面(縦断面)を示す概略断面図である。
【0042】
第2の実施形態のリードフレーム材は、
図3に示すように、表面被膜14は、粗化層12に加えて、粗化層12の表面に形成される少なくとも1層の表面被覆層13をさらに有する。表面被覆層13を有することにより、リードフレーム材10の耐食性を向上させることができる。表面被覆層13は、電気めっきにより、電気めっき層として形成されることが好ましい。
【0043】
表面被覆層13は、粗化層12とは異なる組成を有する、少なくとも1層以上の金属または合金からなる層であって、銅、ニッケル、コバルト、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、白金、イリジウム、金、銀、スズもしくはインジウム、または前記銅、ニッケル、コバルト、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、白金、イリジウム、金、銀、スズおよびインジウムの群から選択される少なくとも1種の元素を含む合金からなることが好ましい。
【0044】
なお、表面被膜14が、粗化層12と表面被覆層13とを有する場合であっても、第1粗さ曲線要素の平均長さRSmxとなるときの測定方向(x方向)では、
図3で示すように、粗化層12の粗化粒子の横断面積が小さくなり、粗化粒子の圧延直角方向の幅が狭くなる。一方で、第2粗さ曲線要素の平均長さRSmyとなるときの測定方向では、
図4に示すように、粗化層12の粗化粒子の縦断面積が大きくなり、粗化粒子の圧延平行方向の幅が比較的広くなる。その結果、表面被膜14の表面の粗さ曲線要素の平均長さRSmは、表面被覆層13の有無に関わらず、リードフレーム材10の表面の測定方向によって異なる数値となる。
【0045】
<リードフレーム材の用途>
本発明のリードフレーム材10は、リードフレーム材10の少なくとも一部をモールド樹脂20で封止することで樹脂封止型半導体装置とすることができる。特にリードフレーム材10は、半導体素子(半導体チップ)とリードフレームとをワイヤなどによって互いに電気的に接続した状態でモールド樹脂20によって封止して形成される樹脂封止型半導体装置である半導体パッケージに使用することができる。実装される半導体素子によって、リードフレーム材はトランジスタやキャパシタ、LEDなどに好適に用いられる。
【0046】
<リードフレーム材の製造方法>
次に、本発明のリードフレーム材10の製造方法を以下で説明する。なお、本発明は、以下の製造方法に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0047】
導電性基体用板材111を圧延加工によって準備し、この導電性基体用板材111に対し、カソード電解脱脂工程、酸洗工程、および粗化工程をこの順に施す。必要に応じて、粗化工程の後に表面被覆工程を施してもよい。
【0048】
カソード電解脱脂工程として、60g/Lの濃度の水酸化ナトリウム水溶液を脱脂液として電解槽に入れて加熱し、導電性基体用板材111を60℃に加熱した脱脂液に浸漬して電解槽の陽極に接続し、2.5A/dm2の電流密度で60秒にわたり通電することで処理を行う。
【0049】
酸洗工程として、室温の10質量%の硫酸に、カソード電解脱脂を行った後の導電性基体用板材111を、30秒にわたり浸漬することで行う。
【0050】
粗化工程として、電気めっきにより、少なくとも1層の粗化層12を含む表面被膜14を形成する。電気めっきは、
図5に示す電気めっき装置100を使用して施すことができる。
【0051】
電気めっき装置100は、めっき電解槽101と、電気めっき液を循環するための循環ポンプ102と、めっき電解槽101および循環ポンプ102の間を接続する流路を形成するための排出管103および流入管104とによって主に構成されている。
【0052】
めっき電解槽101に電気めっき液(a)を入れる。電気めっき液(a)としては、銅またはニッケルを含む水溶液を使用できる。導電性基体用板材111を、ワイヤなどの吊部材105によって、めっき電解槽101の内部に吊り下げる。循環ポンプ102を用いて電気めっき液(a)の流れFを調整し、導電性基体用板材111の圧延平行方向に向けて相対速度1~10m/minで電気めっき液(a)が流れるようにする。ここに粗化Cuめっきの場合は、例えば10A/dm2~60A/dm2、粗化Niめっきの場合は、例えば4A/dm2~10A/dm2の電流密度で通電することで、導電性基体用板材111の表面に、電気めっきにより粗化層12を形成する。
【0053】
電気めっき液(a)の流れFについては、相対速度が1m/min未満であると、均一に粗化層が形成されるため、圧延平行方向と圧延直角方向の粗化粒子と粗化粒子の間隔と粗化粒子の高さの差が小さくなり、X/Y比が1.20より小さくなり、一方で、相対速度が10m/minを超えると、異方性が強くなり過ぎるため、X/Y比が2.00より大きくなる。
【0054】
電流密度については、粗化Cuめっきの場合は、電流密度が10A/dm2未満であると圧延並行方向と圧延直角方向のRSmが共に大きくなりすぎ、一方、電流密度が60A/dm2を超えると圧延並行方向と圧延直角方向のRSmが共に小さくなりすぎる傾向がある。また、粗化Niめっきの場合は、電流密度が4A/dm2未満であると圧延並行方向と圧延直角方向のRSmが共に大きくなりすぎ、一方、電流密度が10A/dm2を超えると圧延並行方向と圧延直角方向のRSmが共に小さくなりすぎる傾向がある。
【0055】
粗化工程を複数回繰り返し施すことで、2層以上の粗化層12を形成することが可能である。なお、粗化工程を複数回繰り返しとき、電気めっき液(a)の種類は、連続して同じものを利用してもよく、異なるものを利用してもよい。
【0056】
粗化工程の後、さらに表面被覆工程を施して、表面被覆層13を形成する場合は、粗化工程で使用した電気めっき液(a)とは異なる組成を有する電気めっき液(b)を使用して電気めっきを施す。電気めっき液(b)として、銅、ニッケル、コバルト、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、白金、イリジウム、金、銀、スズ、インジウムを含む水溶液を使用できる。めっき電解槽101に電気めっき液(b)を入れて、通電することで、電気めっきにより表面被覆層13を形成する。
【0057】
なお、表面被覆工程では、粗化工程と同じ電気めっき装置100を使用することが可能である。しかし、表面被覆工程は、粗化工程と異なり電気めっき液(b)の流れの調整を必須としないため、循環ポンプ102などを備えていない電気めっき装置を使用することも可能である。
【0058】
表面被覆工程を複数回繰り返し施すことで、2層以上の表面被覆層13を形成することが可能である。なお、粗化工程を複数回繰り返しとき、電気めっき液(b)の種類は、連続して同じものを利用してもよく、異なるものを利用してもよい。
【0059】
上記したように、粗化層12および表面被覆層13を、電気めっき法のような湿式めっき法によって形成することが、生産性の観点から好ましいが、乾式めっき法または他の製造方法で製造してもよく、特に限定はされない。
【0060】
導電性基体用板材111に表面被膜14を形成した後に、所望の寸法に加工するなどして、リードフレーム材10を製造することができる。
【実施例】
【0061】
次に、本発明の効果をさらに明確にするために、実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0062】
<実施例1~13および比較例1~6>
表1に示す組成の導電性基体を予め試験片サイズ40mm×40mmに切断し、カソード電解脱脂工程、酸洗工程の前処理を施した。
【0063】
ここで、カソード電解脱脂工程は、60g/Lの濃度の水酸化ナトリウム水溶液を脱脂液として電解槽に入れて加熱し、導電性基体を60℃に加熱した脱脂液に浸漬して電解槽の陽極に接続し、2.5A/dm2の電流密度で60秒にわたり通電することで処理を行った。また、酸洗工程は、導電性基体を、室温の10質量%の硫酸に30秒にわたり浸漬することで行った。
【0064】
カソード電解脱脂工程および酸洗工程の後に、粗化工程として下記に詳述するめっき条件で表1に示す粗化層を形成した。実施例9~13については、粗化層を形成した後に、さらに表面被覆工程を行うことによって、下記に詳述するめっき条件で表1に示す表面被覆層を形成した。比較例1は、粗化層および表面被膜層を形成していない場合の例、比較例2は、粗化層を形成せずに表面被膜層を形成した場合の例、比較例3は、粗化工程において導電性基体の圧延直角方向に向けた相対速度で3.0m/minとして粗化層を形成し、表面被膜層を形成していない場合の例、比較例4では電気めっき液の流れを、導電性基体用板材の圧延平行方向に向けた相対速度で0.5m/minとして粗化層を形成し、表面被膜層を形成していない場合の例、そして、比較例5、6では相対速度でそれぞれ15.0m/minおよび12.0m/minより大きくなるようにして粗化層を形成し、表面被膜層を形成した場合の例である。
【0065】
〔粗化工程のめっき条件〕
以下のめっき条件により、粗化層を電気めっきにより形成した。
【0066】
[粗化Cuめっき(表1に記載される粗化層の種類がCuの場合)]
電気めっき液(a)として、銅(Cu)金属の濃度として、10g/L~50g/Lの範囲の金属濃度である硫酸銅と、60g/L~180g/Lの硫酸と、モリブデン(Mo)金属の濃度として0.1g/L~5.0g/Lの金属濃度であるモリブデン酸アンモニウムとを含む水溶液を調製した。次いで、内径80mmの筒状のめっき電解槽に、1Lの電気めっき液(a)を入れて、ポンプを用いて液の流れを調整し、導電性基体の圧延平行方向に向けて、相対速度1~10m/minで電気めっき液(a)が流れるようにした。ここに、20℃~60℃の温度(浴温)で、10A/dm2~60A/dm2の電流密度で通電することで、電気めっきにより粗化層を形成した。
【0067】
[粗化Niめっき(表1に記載される粗化層の種類がNiの場合)]
電気めっき液(a)として、ニッケル(Ni)金属の濃度として、10g/L~50g/Lの範囲の金属濃度である硫酸ニッケルと、10g/L~30g/Lのホウ酸と、30g/L~100g/Lの塩化ナトリウムと、10mL/L~30mL/Lの25質量%アンモニア水とを含む水溶液を調製した。次いで、内径80mmの筒状のめっき電解槽に、ポンプを用いて液の流れを調整し、導電性基体の圧延平行方向に向けて、相対速度1~10m/minで電気めっき液(a)が流れるようにした。ここに、50℃~70℃の温度(浴温)で、4A/dm2~10A/dm2の電流密度で通電することで、電気めっきにより粗化層を形成した。
【0068】
〔表面被覆工程のめっき条件〕
実施例9~13について、以下のめっき条件により、表面被覆層を電気めっきにより少なくとも1層形成した。なお、表1に示す表面被覆層の種類の欄に、複数の金属が記載されているものは、左に記載されている金属から順に、電気めっきを施した。
【0069】
[Niめっき(表1に記載される表面被覆層の種類がNiの場合)]
電気めっき液(b)として、ニッケル(Ni)金属の濃度として500g/Lの金属濃度であるスルファミン酸ニッケルと、30g/Lの塩化ニッケルと、30g/Lのホウ酸とを含む水溶液を調製した。内径80mmの筒状のめっき電解槽に1Lの電気めっき液を入れて、50℃の温度(浴温)で、10A/dm2の電流密度で通電することで、電気めっきにより表面被覆層を形成した。
【0070】
[Pdめっき(表1に記載される表面被覆層の種類がPdの場合)]
電気めっき液(b)として、パラジウム(Pd)金属の濃度として45g/Lの金属濃度であるジクロロテトラアンミンパラジウム([Pd(NH3)4]Cl2)と、90mL/Lの25質量%アンモニア水と、50g/Lの硫酸アンモニウムと、10g/LのパラシグマLN光沢剤(松田産業株式会社製)とを含む水溶液を調製した。内径80mmの筒状のめっき電解槽に1Lの電気めっき液(b)を入れて、60℃の温度(浴温)で、5A/dm2の電流密度で通電することで、電気めっきにより表面被覆層を形成した。
【0071】
[Auめっき(表1に記載される表面被覆層の種類がAuの場合)]
電気めっき液(b)として、金(Au)金属の濃度として14.6g/Lの金属濃度であるシアン化金カリウムと、150g/Lのクエン酸と、180g/Lのクエン酸カリウムとを含む水溶液を調製した。内径80mmの筒状のめっき電解槽に1Lの電気めっき液(b)を入れて、40℃の温度(浴温)で、1A/dm2の電流密度で通電することで、電気めっきにより表面被覆層を形成した。
【0072】
[AuCoめっき(表1に記載される表面被覆層の種類がAuCoの場合)]
電気めっき液(b)として、金(Au)金属の濃度として10g/Lの金属濃度であるシアン化金カリウムと、コバルト(Co)金属の濃度として0.1g/Lの金属濃度である炭酸コバルトと、100g/Lのクエン酸と20g/Lのリン酸水素二カリウムとを含む水溶液を調製した。内径80mmの筒状のめっき電解槽に1Lの電気めっき液(b)を入れて、40℃の温度(浴温)で、1A/dm2の電流密度で通電することで、電気めっきにより表面被覆層を形成した。
【0073】
[Agめっき(表1に記載される表面被覆層の種類がAgの場合)]
電気めっき液(b)として、銀(Ag)金属の濃度として93g/Lの金属濃度であるシアン化銀と、132g/Lのシアン化カリウムとを含む水溶液を調製した。内径80mmの筒状のめっき電解槽に1Lの電気めっき液(b)を入れて、20℃の温度(浴温)で、1A/dm2の電流密度で通電することで、電気めっきにより表面被覆層を形成した。
【0074】
[Snめっき(表1に記載される表面被覆層の種類がSnの場合)]
電気めっき液(b)として、スズ(Sn)金属の濃度として80g/Lの金属濃度である硫酸スズと、50mL/Lの硫酸と、5mL/LのUTB513Yと、を含む水溶液を調製した。内径80mmの筒状のめっき電解槽に1Lの電気めっき液(b)を入れて、20℃の温度(浴温)で、5A/dm2の電流密度で通電することで、電気めっきにより表面被覆層を形成した。
【0075】
【0076】
<最大高さ粗さ(Rz)と粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)の測定>
形状解析レーザ顕微鏡(KEYENCE社製;VK-X1000)を用い、得られたリードフレーム材の表面被膜について、測定倍率50倍、測定回数n=5(回)の測定条件により、圧延直角方向および圧延平行方向のJIS B0681-2:2018(ISO 25178)に規定される、圧延直角方向の第1最大高さ粗さRzxと第1粗さ曲線要素の平均長さRSmx、および圧延平行方向の第2最大高さ粗さRzyと第2粗さ曲線要素の平均長さRSmyを測定した。
【0077】
測定した第1最大高さ粗さRzxと第1粗さ曲線要素の平均長さRSmxの値から比X(Rzx/RSmx)を算出した。また、測定した第2高さ粗さRzyと第2粗さ曲線要素の平均長さRSmyの比Y(Rzy/RSmy)を算出した。さらに、算出したXおよびYからX/Y比を算出した。求めた各数値は、表2に示す。
【0078】
<粗化層の平均厚さの測定>
リードフレーム材の断面をミクロトーム加工し、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて20000倍の倍率で観察し、粗化層の平均厚さ(μm)を測定した。粗化層の断面SEM画像の中から無作為に10個の粗化粒子を選択し、導電性基体と粗化層の境界線から、粗化粒子の頂点までの厚さの平均値を粗化層の平均厚さとした。1つの断面SEM画像から10個の粗化粒子の頂点を観察することができない場合には、撮影箇所の異なる断面SEM画像を2~3枚用いて、粗化層の平均厚さを求めた。測定した値は、表2に示す。
【0079】
<表面被覆層の厚さの測定>
表面被覆層の厚さは、JIS H8501:1999に準拠した蛍光X線式試験方法によって測定した。具体的には、蛍光X線膜厚計(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製;SFT9400)を用い、コリメータ径0.5mmとして、各層の任意の10箇所を測定し、これらの測定値の平均値を算出することで、表面被覆層の厚さ(μm)を得た。測定した値は、表2に示す。
【0080】
【0081】
<テープ剥離試験>
リードフレーム材を50mm角に切り出し、JIS H 8504に規定されるテープ剥離試験を実施し、試験前後の重量減少分を脱離量(mg/dm2)として測定した。脱離量について、5mg/dm2未満であった場合を粉落ちが少なく、導電性基体に対する粗化層の密着性が優れているとして「◎(優)」と評価した。また、脱離量が5mg/dm2以上15mg/dm2未満であった場合を、粉落ちが多少認められるものの、導電性基体に対する粗化層の密着性が良好であるとして「〇(良)」と評価した。他方で、脱離量が15mg/dm2以上であった場合を、粉落ちが多く、導電性基体に対する粗化層の密着性が劣るとして「×(不可)」と評価した。
【0082】
<曲げ試験>
リードフレーム材を30mm×10mmに切り出し、圧延直角方向に曲げ加工を実施した。曲げ加工の条件は、曲げ幅10mm、曲げ角度90度で、(曲げ加工治具の)曲げ半径Rを0.00mm、0.05mm、0.10mm、または0.20mmとして、試作回数3回で外曲げと内曲げをそれぞれ実施した。なお、表面被膜が形成されている面を外側になるようにして90度曲げたときを外曲げとし、表面被膜が形成されている面を内側になるようにして90度曲げたときを内曲げとする。加工後の曲げ部の粗化層の脱離状態を目視にて確認を行い、外曲げと内曲げのいずれの場合も、脱離が生じていない最小の曲げ半径Rが0.00mm、または0.05mmであるものを曲げ加工性が優れているとして「◎(優)」、外曲げと内曲げの少なくとも一方が、脱離が生じていない最小の曲げ半径Rが0.05mmよりも大きかったものの、0.10mmであるものを曲げ加工性が良好であるとして「〇(良)」と評価した。他方で、脱離が生じていない最小の曲げ半径Rが0.20mmであるものを曲げ加工時に粗化層の脱離が生じやすい点で望ましくないとして「×(不可)」と評価した。
【0083】
<樹脂密着性試験>
リードフレーム材について、トランスファーモールド試験装置(コータキ精機社製;Model FTS)を用いて、半導体封止用のエポキシ樹脂(スミコンG630L;住友ベークライト社製)を表面被膜に射出成形して、
図6に示すように、直径2.6mmの接触面を有する円錐台状のモールド樹脂片20を、リードフレーム材の試験片11aの表面被膜に密着させた。試験片11aの表面被膜に密着させたモールド樹脂片20について、85℃、85%RHで168時間保持する高温高湿試験を行った後、シェア強度(せん断強度)を測定する試験を行い、リードフレーム材の試験片11aとモールド樹脂片20の密着性を評価した。ここで、シェア強度(せん断強度)の測定条件は、以下のとおりである。
【0084】
測定装置:ノードソン・アドバンスト・テクノロジー社製;4000Plus
ロードセル:50KG
測定レンジ:10kg
テストスピード:100μm/s
テスト高さ:10μm
評価試験回数:4回
【0085】
高温高湿試験後のシェア強度について、25MPa以上であった場合を、樹脂との密着性が優れているとして「◎(優)」と評価した。他方で、高温高湿試験後のシェア強度について、20MPa以上25MPa未満であった場合を、樹脂との密着強度が良好であるとして「〇(良)」と評価した。また、高温高湿試験後のシェア強度について、20MPa未満であった場合を、樹脂との密着強度が劣るとして「×(不可)」と評価した。シェア強度の測定結果と評価は、表3に示した。
【0086】
<総合評価>
上記のテープ剥離試験、曲げ試験、および樹脂密着性試験の結果から、総合評価を行なった。総合評価の評価基準は以下に示すとおりである。
【0087】
[総合評価の評価基準]
◎(優):テープ剥離試験、曲げ試験、および樹脂密着性試験の評価結果がいずれも◎(優)である場合
〇(良):テープ剥離試験、曲げ試験、および樹脂密着性試験の評価結果の少なくとも1つが〇(良)であり、×(不可)を含まない場合
×(不可):テープ剥離試験、曲げ試験、および樹脂密着性試験の評価結果の少なくとも1つが×(不可)である場合
【0088】
【0089】
表1~表3の結果から、表面被膜を有し、X/Y比が1.20以上2.00以下である実施例1~13に係るリードフレーム材は、テープ剥離試験、曲げ試験、およびシェア強度の測定のいずれにおいても「◎(優)」または「〇(良)」であり、総合評価も「◎(優)」または「〇(良)」であった。高温及び高湿環境における樹脂密着性を改善でき、かつ、加工時に粉落ちを防止できる好適なリードフレーム材であった。このことから実施例1~12は、半導体パッケージの材料として好適であると考えられる。
【0090】
他方で、比較例1および比較例2は、粗化層を有していないため、シェア強度が「×(不可)」であり、リードフレーム材として、樹脂との密着性に優れたものではなかった。また、比較例3~6は、X/Y比が本発明の範囲外であるため、曲げ試験の結果が外曲げおよび内曲げともに「×(不可)」であり、加工時に粗化層の脱離が起こりやすく加工性に優れたものではなかった。
【符号の説明】
【0091】
10 リードフレーム材
11 導電性基体
12 粗化層
13 表面被覆層
14 表面被膜
20 モールド樹脂片
100 電気めっき装置
101 めっき電解槽
102 循環ポンプ
103 流路(または排出管)
104 流路(または流入管)
105 吊部材
111 導電性基体用板材
【要約】
高温及び高湿環境における樹脂密着性を改善し、加工時の粉落ちを防止できるリードフレーム材等を提供する。
本発明のリードフレーム材は、導電性基体と表面被膜とを有し、表面被膜は粗化層を含み、表面被膜の表面について、導電性基体の圧延方向に対して直交する方向である圧延直角方向に沿って第1最大高さ粗さRzxと第1粗さ曲線要素の平均長さRSmxをそれぞれ測定するとともに、導電性基体の圧延方向と平行な方向である圧延平行方向に沿って第2最大高さ粗さRzyと第2粗さ曲線要素の平均長さRSmyをそれぞれ測定し、第1粗さ曲線要素の平均長さRSmxに対する第1最大高さ粗さRzxの比Rzx/RSmxをX、第2粗さ曲線要素の平均長さRSmyに対する第2最大高さ粗さRzyの比Rzy/RSmyをYとするとき、X/Y比が1.20以上2.00以下の範囲である。