(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】シールド掘進機取扱方法
(51)【国際特許分類】
E21D 11/00 20060101AFI20231016BHJP
【FI】
E21D11/00 B
(21)【出願番号】P 2019238627
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】521478094
【氏名又は名称】地中空間開発株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小田 誠
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 浩靖
(72)【発明者】
【氏名】原 昌広
(72)【発明者】
【氏名】松原 剛
(72)【発明者】
【氏名】竹内 和彦
(72)【発明者】
【氏名】市川 政美
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-232195(JP,A)
【文献】特開平09-125881(JP,A)
【文献】特開平08-177391(JP,A)
【文献】実開平02-015694(JP,U)
【文献】特開2000-064774(JP,A)
【文献】特開平09-004381(JP,A)
【文献】特開平04-272396(JP,A)
【文献】米国特許第04209268(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
後胴のシールプレートに3つ以上のテールシールが取り付けられるシールド掘進機の取扱方法であって、
前記シールド掘進機が急曲進区間を掘進するときは、前記3つ以上のテールシールとして、第1長さの最前段テールシールと、前記第1長さよりも短い第2長さの少なくとも1つの中段テールシールと、前記第2長さよりも長い第3長さの最後段テールシールを用い、
前記シールド掘進機が高水圧区間を掘進するときは、前記3つ以上のテールシールとして、前記第2長さの最前段テールシールおよび少なくとも2つの
前記第2長さの中段テールシールと、前記第3長さの最後段テールシールを用いる、シールド掘進機取扱方法。
【請求項2】
前記シールプレートは、前後方向に並ぶ少なくとも4つのシール取付部と、それらの間に位置する少なくとも3つの給脂ポートを有し、
前記シールド掘進機が前記急曲進区間を掘進するときは、前記少なくとも4つのシール取付部のうちの前から2番目のシール取付部にテールシールを取り付けず、前記少なくとも3つの給脂ポートのうち前記テールシールが取り付けられない前記シール取付部に隣接する1つの給脂ポートを閉塞し、残りの給脂ポートからテールシールの間のシール室にグリスを供給し、
前記シールド掘進機が前記高水圧区間を掘進するときは、前記少なくとも3つの給脂ポートの全てからテールシールの間のシール室にグリスを供給する、請求項1に記載のシールド掘進機取扱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド掘進機の取扱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、トンネルを掘削するシールド掘進機は、前胴と後胴との間で中折れ可能となっており、後胴のシールプレートには、後胴の内側で組み立てられるセグメントとシールプレートとの間をシールする複数のテールシールが取り付けられる。例えば、特許文献1には、シールプレートに3つのテールシールが取り付けられたシールド掘進機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したテールシールは、一般的に、ワイヤブラシである。シールド掘進機のシールプレートに3つ以上のテールシールが取り付けられる場合、通常は、最前段および中段のテールシールに短いテールシールが用いられ、最後段のテールシールに長いテールシールが用いられる。
【0005】
ところで、トンネルには、急曲進区間と高水圧区間とが混在するトンネルもある。ここで、「急曲進区間」とは、トンネルの曲率半径がシールド掘進機の水平方向の幅(円形断面の場合は直径)の30倍以下の区間であり、「高水圧区間」とは、水圧が0.4MPaG以上の区間をいう。
【0006】
このようなトンネルを掘削する場合、上述したように最前段テールシールおよび中段テールシールが短く、最後段テールシールが長い構成では、シールド掘進機が急曲進区間を掘進する際に、最前段テールシールの掛かり代(セグメントへ押し付けられる部分の長さ)が短くなり、止水性に問題がある。このような観点からは、最前段テールシールの長さを長くすることが考えられる。
【0007】
一方、シールド掘進機が高水圧区間を掘進する際には、テールシールの数が3つでは不十分であるため、テールシールの数を4つ以上とすることが望ましい。しかしながら、シールプレートの長さは急曲進区間の最小曲率半径により制約されるため、上述したように最前段のテールシールの長さを長くした場合には、テールシールの数を4つ以上とすることが困難である。
【0008】
そこで、本発明は、急曲進区間と高水圧区間とが混在するトンネルを掘削する際に好適なシールド掘進機の取扱方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明のシールド掘進機の取扱方法は、後胴のシールプレートに3つ以上のテールシールが取り付けられるシールド掘進機の取扱方法であって、
前記シールド掘進機が急曲進区間を掘進するときは、前記3つ以上のテールシールとして、第1長さの最前段テールシールと、前記第1長さよりも短い第2長さの少なくとも1つの中段テールシールと、前記第2長さよりも長い第3長さの最後段テールシールを用い、前記シールド掘進機が高水圧区間を掘進するときは、前記3つ以上のテールシールとして、前記第2長さの最前段テールシールおよび少なくとも2つの中段テールシールと、前記第3長さの最後段テールシールを用いる、ことを特徴とする。
【0010】
上記の構成によれば、シールド掘進機が急曲進区間を掘進するときは、最前段テールシールとして長いテールシールが用いられるので、最前段テールシールの掛かり代が長くなり、十分な止水性を確保することができる。一方、シールド掘進機が高水圧区間を掘進するときは、最前段テールシールが短いテールシールに交換されるとともに、テールシールの数も増やされる。従って、高水圧区間でも十分な止水性を確保することができる。すなわち、本発明のシールド掘進機の取扱方法は、急曲進区間と高水圧区間とが混在するトンネルを掘削する際に好適である。
【0011】
前記シールプレートは、前後方向に並ぶ少なくとも4つのシール取付部と、それらの間に位置する少なくとも3つの給脂ポートを有し、前記シールド掘進機が前記急曲進区間を掘進するときは、前記少なくとも4つのシール取付部のうちの前から2番目のシール取付部にテールシールを取り付けず、前記少なくとも3つの給脂ポートのうち前記テールシールが取り付けられない前記シール取付部に隣接する1つの給脂ポートを閉塞し、残りの給脂ポートからテールシールの間のシール室にグリスを供給し、前記シールド掘進機が前記高水圧区間を掘進するときは、前記少なくとも3つの給脂ポートの全てからテールシールの間のシール室にグリスを供給してもよい。この構成によれば、シールド掘進機が急曲進区間を掘進する際に全ての給脂ポートからグリスが供給される場合に比べて、グリスの消費量を抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、急曲進区間と高水圧区間とが混在するトンネルを掘削する際に好適なシールド掘進機の取扱方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る取扱方法の対象であるシールド掘進機が急曲進区間を掘進するときの断面図である。
【
図3】
図1に示すシールド掘進機が高水圧区間を掘進するときの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に、本発明の一実施形態に係る取扱方法の対象であるシールド掘進機1を示す。シールド掘進機1は、地山を掘削するカッターヘッド11と、カッターヘッド11を図略のバルクヘッドを介して回転可能に支持する筒状の前胴12と、中折れ機構を介して前胴12と接続された筒状の後胴13を含む。
【0015】
後胴13の前部には、後胴13の内側で組み立てられたセグメント5を押圧してシールド掘進機1を前進させるための複数のシールドジャッキ16が設けられている。後胴13は、前側のスキンプレート14と、後側のシールプレート15を含む。
【0016】
シールプレート15には、3つ以上のテールシール2が取り付けられる。テールシール2は、セグメント5とシールプレート15との間をシールする。これにより、後胴13の後方のテールボイド(地山とセグメント5の間の隙間)に注入される裏込材あるいは地下水や泥水などが後胴13内に侵入することが防止される。テールシール2は、環状であり、後胴13の軸方向(前後方向)に並んでいる。テールシール2は、例えばワイヤブラシである。
【0017】
本実施形態では、
図1に示すようにシールド掘進機1が急曲進区間を掘進するときはシールプレート15に3つのテールシール2が取り付けられ、
図3に示すようにシールド掘進機1が高水圧区間を掘進するときはシールプレート15に4つのテールシール2が取り付けられる。
【0018】
なお、急曲進区間は低水圧区間でもあり、高水圧区間は緩曲進区間(トンネルの曲率半径が比較的に大きい区間)でもある。シールド掘進機1が急曲進区間でも高水圧区間でもない区間(例えば、緩曲進で低水圧の区間)を掘進するときは、テールシール2の取付態様は
図1と
図3のどちらであってもよい。
【0019】
図2および
図4は、それぞれ
図1および
図3の要部拡大図である。ただし、
図2および
図4では、図面の簡略化のために、セグメント5を直線で描いている。
【0020】
本実施形態では、シールプレート15が、
図4に示すように、前後方向に並ぶ4つのシール取付部2a~2dを有する。これらのシール取付部2a~2dには、テールシール2が取り付け可能である。
【0021】
また、シールプレート15には、シール取付部2a~2dの間に位置する3つの給脂ポート41,43,45が設けられているとともに、これらの給脂ポート41,43,45とそれぞれ連通する3つの給脂路42,44,46が設けられている。
【0022】
シールド掘進機1が急曲進区間を掘進する場合、
図2に示すように、最も前方のシール取付部2aに、比較的に長い第1長さの最前段テールシール21が取り付けられ、後から2番目のシール取付部2cに、比較的に短い(第1長さよりも短い)第2長さの中段テールシール22が取り付けられ、最も後方のシール取付部2dに、比較的に長い(第2長さよりも長い)第3長さの最後段テールシール23が取り付けられる。つまり、前から2番目のシール取付部2bにはテールシールが取り付けられない。なお、第1長さと第3長さは同じであっても異なってもよい。
【0023】
上記のテールシール2の取付態様により、最前段テールシール21と中段テールシール22との間に比較的に大きなシール室31が形成され、中段テールシール22と最後段テールシール23との間に比較的に小さなシール室32が形成される。
【0024】
また、比較的に大きなシール室31と連通する、テールシール2が取り付けられないシール取付部2bに隣接する給脂ポート41,43の一方がプラグ40により閉塞される。図例では給脂ポート43が閉塞されているが、給脂ポート43の代わりに給脂ポート41が閉塞されてもよい。そして、給脂ポート41からシール室31にグリスが供給されるとともに、給脂ポート45からシール室32にグリスが供給される。
【0025】
一方、シールド掘進機1が高水圧区間を掘進する場合、
図4に示すように、最も前方のシール取付部2aには、比較的に長い第1長さの最前段テールシール21に代えて、比較的に短い第2長さの最前段テールシール24が取り付けられる。また、前から2番目のシール取付部2bには、比較的に短い第2長さの中段テールシール25が取り付けられる。後ろから2番目のシール取付部2cおよび最も後方のシール取付部2dに取り付けられるテールシール2は、シールド掘進機1が急曲進区間を掘進する場合と同じである。
【0026】
上記のテールシール2の取付態様により、最前段テールシール24と中段テールシール25との間に比較的に小さなシール室33が形成されるとともに、中段テールシール25,22同士の間に比較的に小さなシール室33が形成される。中段テールシール22と最後段テールシール23との間のシール室32は、シールド掘進機1が急曲進区間を掘進する場合と同じである。
【0027】
シールド掘進機1が高水圧区間を掘進する場合は、給脂ポート43からプラグ40が取り除かれて、全ての給脂ポート41,43,45が解放される。そして、全ての給脂ポート41,43,45からそれぞれシール室33,34,32にグリスが供給される。
【0028】
以上説明したように、本実施形態のシールド掘進機1の取扱方法では、シールド掘進機1が急曲進区間を掘進するときは、最前段テールシール21として長いテールシールが用いられるので、最前段テールシール21の掛かり代が長くなり、十分な止水性を確保することができる。一方、シールド掘進機1が高水圧区間を掘進するときは、最前段テールシール21が短いテールシール24に交換されるとともに、テールシール2の数も増やされる。従って、高水圧区間でも十分な止水性を確保することができる。すなわち、本実施形態のシールド掘進機1の取扱方法は、急曲進区間と高水圧区間とが混在するトンネルを掘削する際に好適である。
【0029】
また、本実施形態では、シールド掘進機1が急曲進区間を掘進する際に給脂ポート43が閉塞されるので、シールド掘進機1が急曲進区間を掘進する際に全ての給脂ポート41,43,45からグリスが供給される場合に比べて、グリスの消費量を抑制することができる。
【0030】
(変形例)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0031】
例えば、シールプレート15に取り付けられるシールプレート15の数は、シールド掘進機1が急曲進区間を掘進するときは4つ以上、シールド掘進機1が高水圧区間を掘進するときは5つ以上であってもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 シールド掘進機
13 後胴
15シールプレート
2 テールシール
21,24 最前段テールシール
22,25 中段テールシール
23 最後段テールシール
2a~2d シール取付部
31~34 シール室
41,43,45 給脂ポート